(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-17
(45)【発行日】2025-04-25
(54)【発明の名称】がん免疫療法におけるASCスペック
(51)【国際特許分類】
A61K 38/02 20060101AFI20250418BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20250418BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20250418BHJP
A61K 39/39 20060101ALI20250418BHJP
【FI】
A61K38/02
A61P35/00
A61K39/00 H
A61K39/39
(21)【出願番号】P 2022527996
(86)(22)【出願日】2019-11-14
(86)【国際出願番号】 TR2019050952
(87)【国際公開番号】W WO2021096446
(87)【国際公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】522039474
【氏名又は名称】ボアズィチ ウニヴェルシテシ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】オゾレン、ネスリン
【審査官】六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第01/029235(WO,A2)
【文献】特表2015-515489(JP,A)
【文献】国際公開第2018/081459(WO,A1)
【文献】Cancer Research,2000年,Vol.60, No.22,pp.6236-6242
【文献】Neuro-Oncology,2019年04月,Vol.21, No.7 ,pp.854-866
【文献】Japanese Journal of Thoracic and Cardiovascular Surgery,2002年,Vol.50, 増刊(9月),Page.269, LF1-2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
A61K 39/00-39/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍抗原
と、
C末端カスパーゼ動員ドメイン(CARD)を含むアポトーシス関連スペック様タンパク質(ASCタンパク質)によって形成された
C末端カスパーゼ動員ドメイン(CARD)を含むアポトーシス関連スペック様タンパク質スペック(ASC speck)
とを含む、
がん治療の方法に使用するための組成物。
【請求項2】
前記方法が、哺乳動物のがん疾患に対して免疫応答を誘導及び/又は刺激することを含み、該誘導又は刺激が、がん進行の抑制又はがん細胞の増殖停止を引き起こす、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項3】
前記がんが胸腺がんである、請求項1又は2に記載の使用のための組成物。
【請求項4】
腫瘍抗原が、ASCスペックを形成するASCタンパク質と疎水性相互作用を形成することによって、ASCスペックによって担持される、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項5】
腫瘍抗原が、該腫瘍抗原とASCスペックを形成する少なくとも1つのASCタンパク質
とが融合して形成される融合タンパク質
を含むASCスペックによって担持される、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項6】
腫瘍抗原が、
ASCタンパク質のN末端又はC末端でASCタンパク質と融合している、請求項5に記載の使用のための組成物。
【請求項7】
前記がんが腫瘍を形成するがんであり、
かつ前記方法が、腫瘍進行の抑制又は腫瘍サイズの減少を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項8】
ASCタンパク質によって形成されるASCスペック
と、
腫瘍抗原
と
を含む、哺乳動物においてがんに対する免疫応答を生成するための組成物。
【請求項9】
腫瘍抗原が、該腫瘍抗原とASCスペックを形成する少なくとも1つのASCタンパク質と
が融合して形成される融合タンパク質
を含むASCスペッ
クによって担持される、請求項8に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がん治療におけるASCスペック(ASC speck)の使用、ならびにASCスペック担体を含む組成物、特にASCスペック及び腫瘍抗原の組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
世界保健機関(WHO)によれば、がんは世界中の主要な死因であり、2018年には960万人が死亡したと推定されている。同年に新規症例数は1800万例に増加しており、肺がんが最も頻繁に診断されるがん型であり、次いで乳がんであった。
【0003】
今日、がん治療の選択肢には、手術、放射線療法、化学療法、標的薬物療法、骨髄移植、ホルモン療法及び免疫療法が含まれる。当技術分野でよく知られているように、これらの治療方法のほとんどは、重篤な副作用があり、死亡率から明らかなように、今もなお全てのがん型を効率的に治癒させることはできない。免疫療法は、身体特有の防御機構を使用してがんと戦うため、比較的安全である。
【0004】
伝統的ながん治療方法は、化学物質(化学療法)、放射線又は腫瘍の外科的切除によってがんを攻撃するという原理に基づいている。化学療法は、一次治療又は二次治療のいずれかとして使用される非常に一般的な方法である。これは急速に増殖する細胞を攻撃し、該細胞には、がん細胞、及び骨髄細胞などの正常細胞も含まれる。したがって、主な副作用として、化学療法は患者の免疫系を抑制する。一方、免疫療法は、身体特有の免疫系ががん細胞を攻撃するのを助け、複数のがん型を効果的に治療することを可能にする。化学療法とは異なり、免疫療法は全体的な免疫系機能を改善する。
【0005】
免疫系は、器官、組織、細胞及びタンパク質のネットワークである。免疫系の主な機能は、細菌、ウイルス、真菌又は任意の他の異物などの侵入物から身体を保護することである。がんの機構に関する研究により、がん細胞も免疫系によって認識されることが長年知られている。しかしながら、それらは身体自身の細胞に由来するため、防御機構ががん細胞を異物として同定することは容易ではない。
【0006】
別の重要な態様は、免疫系が侵入物又は異常細胞から身体を首尾よく保護するためには、そのような身体を認識し、必要な防御機構を産生し、それらを破壊するのに十分な時間を要することである。がん細胞が急速に増殖し、また非常に複雑であることを考慮すると、身体の防御細胞は通常、がん細胞に対してそれらの機能を完了する前に停止する。したがって、免疫系は、急速に増殖するがん細胞から身体を保護することができるための援助を必要とすることが認められている。
【0007】
免疫療法は、多くの未知数を有する比較的新しい治療方法である。第一に、がんにおける免疫系の役割は完全には解明されていない。第2に、この自然防御機構に関与するタンパク質は、環境変化に対する感度が高く、その機能を失いやすい。これは、新しい治療選択肢の開発及び患者に対するこれらの治療の使用の両方において課題である。
【0008】
免疫学及び腫瘍生物学における最近の研究は、免疫系と腫瘍細胞との相互作用の理解に新しい洞察を提供する。多くの研究により、抗腫瘍免疫を媒介するためのT細胞の重要性が確立されている。発がんの過程は、宿主T細胞によって認識され得る腫瘍細胞に対する抗原の発現変化をもたらす(Dermime,S.,A.Armstrong,R.E.Hawkins and P.L.Stern,’’Cancer vaccines and immunotherapy’’,British medical bulletin,Vol.62,No.1,pp.149-162,2002)。
【0009】
現在、免疫チェックポイント阻害剤、改変T細胞、モノクローナル抗体及びがんワクチンは、多くのがん型に対する免疫療法として一般的に使用されている(Kamta,J.,M.Chaar,A.Ande,D.A.Altomare and S.Ait-Oudhia,’’Advancing cancer therapy with present and emerging immuno-oncology approaches’’,Frontiers in oncology,Vol.7,p.64,2017)。
【0010】
がんワクチンは、予防ワクチン又は治療ワクチンという2つの主な群に分けることができる。理論的には、がん予防ワクチンは腫瘍の発生を予防し、持続する免疫を提供すべきである。予防ワクチンの最初の例は、HBV及びHPVの感染に対するものである(Chang,M.-H.,’’Hepatitis B Virus and Cancer Prevention’’,Recent results in cancer research.Fortschritte der Krebsforschung.Progres dans les recherches sur le cancer,Vol.188,pp.75-84,2010)。
【0011】
治療ワクチンは、その組成に従って4つの主な下位群に分けることができ、全菌体(whole-cell)腫瘍、樹状細胞、DNA及びサブユニットのワクチンである。全菌体(whole-cell)腫瘍ワクチンは、ほとんどが同種異系であり、患者間で観察された腫瘍不均一性の規模が大きいため、ある程度有効である(Srivatsan,S.,J.M.Patel,E.N.Bozeman,I.E.Imasuen,S.He,D.Daniels and P.Selvaraj,’’Allogeneic tumor cell vaccines’’,Human Vaccines&Immunotherapeutics,Vol.10,No.1,pp.52-63,1 2014)。樹状細胞ワクチンは、患者から細胞を抽出し、特異的抗原及び/又はアジュバントで細胞を刺激することによって産生される(Kamta,J.,M.Chaar,A.Ande,D.A.Altomare and S.Ait-Oudhia,’’Advancing Cancer Therapy with Present and Emerging Immuno-Oncology Approaches.「、Frontiers in oncology、Vol.7,p.64,2017)。前立腺がんに対する、FDAに認可された1つの樹状細胞ワクチンのシプロイセルがある(Guo,C.,M.H.Manjili,J.R.Subjeck,D.Sarkar,P.B.Fisher and X.-Y.Wang,’’Therapeutic Cancer Vaccines’’,Advances in cancer research,Vol.119,pp.421-475,2013)。がん免疫療法においてDNAワクチンが新たに登場し、基本的に腫瘍関連抗原の配列を必要とする。
【0012】
がん免疫療法のためのサブユニットワクチンには、典型的ワクチンにおけるような抗原又は抗原のエピトープが含まれる。黒色腫、前立腺がん、精巣がん及び乳がんを治癒するためにサブユニットワクチンが適用される。サブユニットワクチンの免疫ブースター効果は、全腫瘍ワクチンよりも穏やかであるが、アジュバントでそれらの効果を高めることが可能である(Temizoz,B.,E.Kuroda and K.J.Ishii,’’Vaccine adjuvants as potential cancer immunotherapeutics’’,International immunology,Vol.28,No.7,pp.329-38,2016)。
【0013】
ワクチンは、特定のワクチン製剤のアジュバントを使用することによって増強され得る適応免疫を誘導することを目的とする。無機塩、サイトカイン、乳濁液、微生物粒子及びリポソームをアジュバントとして使用することができる(Guy,B.,’’The perfect mix:recent progress in adjuvant research.Nature Reviews Microbiology,Vol.5,No.7,pp.505-17,6 2007)。アジュバントの作用機序は、80年超使用されているにもかかわらず、明らかになり始めている(Awate,S.,L.A.Babiuk and G.Mutwiri,’’Mechanisms of action of adjuvants.「、Frontiers in immunology、Vol.4,p.114,2013)。
【0014】
アルミニウム塩(ミョウバン)は、ヒトワクチンで最も頻繁に使用されるワクチンアジュバントである。ジフテリアに対する水酸化アルミニウムの誘導効果は、1926年にモルモットで最初に示され、1931年以来、様々なミョウバン製剤がヒトワクチンに使用されている(Marrack,P.,A.S.McKee and M.W.Munks,’’Towards an understanding of the adjuvant action of aluminium.’’,Nature reviews.Immunology,Vol.9,No.4,pp.287-93,2009)。
【0015】
しかし、ミョウバンアジュバントの作用機序は、これまで完全には理解できなかった。最近のいくつかの刊行物により、ミョウバンは、IL-1サイトカイン、及びインフラマソーム複合体の産物であるカスパーゼ1よりも免疫系を誘導することが示されている(Franchi,L.,T.Eigenbrod,R.Munoz-Planillo and G.Nunez,’’The inflammasome:a caspase-1-activation platform that regulates immune responses and disease pathogenesis.’’,Nature immunology,Vol.10,No.3,pp.241-7,3 2009、10,Eisenbarth,S.C.,O.R.Colegio,W.O’Connor,F.S.Sutterwala and R.A.Flavell,’’Crucial role for the Nalp3 inflammasome in the immunostimulatory properties of aluminium adjuvants’’,Nature,Vol.453,No.7198,pp.1122-1126,6 2008、Grun,J.L.and P.H.Maurer,Different T helper cell subsets elicited in mice utilizing two different adjuvant vehicles:the role of endogenous interleukin 1 in proliferative responses.’’,Cellular immunology,Vol.121,No.1,pp.134-45,6 1989)。
【0016】
ミョウバンから70年超後、新しいアジュバントであるAS04が、HPVに関してFDAによって認可された。AS04は、ミョウバンとモノホスホリルリピドAとの組み合わせから形成される。最後に、FDAは、流行性H5N1インフルエンザに対するAS03の使用を承認したが、それはもはや市販されていない。インフルエンザワクチンに使用されるMF59の製剤は、AS03と非常に類似しているが、FDAによって認可されていない(Awate,S.,L.A.Babiuk and G.Mutwiri,’’Mechanisms of action of adjuvants.「,Frontiers in immunology,Vol.4,p.114,2013)。
【0017】
免疫活性化におけるアジュバントのブースター効果については、基本的に抗原取り込みの増強、注射部位への免疫細胞動員、PRR及びインフラマソームの活性化に続くTh1及びTh2などの特定の免疫応答による提唱されたいくつかの機構がある(Reed,S.G.,M.T.Orr and C.B.Fox,’’Key roles of adjuvants in modern vaccines’’,Nature Medicine,Vol.19,No.12,pp.1597-1608,12 2013)。
【0018】
TLRのような自然免疫系の受容体は、アジュバントの標的である。アジュバントがTLRを活性化すると、特定のケモカイン及びサイトカインが細胞外マトリックスに分泌される。次いで、これらの小分子は、細胞性免疫及び液性免疫の配向を助ける。例えば、IL-12及びIFN-は、より多くの細胞性免疫応答を引き起こすため、APC及びナイーブCD4細胞からのIL-4の分泌は免疫にIgGの産生を誘導させる(Reed,S.G.,M.T.Orr and C.B.Fox,’’Key roles of adjuvants in modern vaccines’’,Nature Medicine,Vol.19,No.12,pp.1597-1608,12 2013)。
【0019】
ヒト腫瘍細胞の特定のシグネチャー抗原を同定した後、革新的なアプローチが開発され、抗原特異的ワクチン接種の開発をもたらした。特定の腫瘍抗原と、これらの抗原を免疫系に送達するための適切な経路との組み合わせは、ヒトに基づくワクチン接種を最適化することを目的とする(Dermime,S.,A.Armstrong,R.E.Hawkins and P.L.Stern,’’Cancer vaccines and immunotherapy’’,British medical bulletin,Vol.62,No.1,pp.149-162,2002)。
【0020】
腫瘍細胞をワクチンとして使用することもできる。これらの細胞自体は十分な免疫応答を引き起こすことができないため、研究者らは、共刺激分子又はサイトカイン遺伝子を腫瘍細胞のゲノムに導入することによって、この不応答性を克服することに注力し、腫瘍細胞はその後ワクチンとして使用され、同じ患者に戻される。しかしながら、この種のワクチン産生は、かなり遅く、労働集約的であり、事業計画的に困難である。
【0021】
或いは、腫瘍抗原を身体に送達するために組換えウイルスベクターを使用することができる。ウイルス感染の結果としての免疫応答の開始及び炎症反応の形成に対するウイルスベクターの固有能力は、これらのワクチンの利点である。しかしながら、ウイルスベクターは完璧に安全であるべきであり、抗腫瘍特異的免疫応答のブーストを可能にするために抗ベクター免疫応答を促進すべきではない(Dermime,S.,A.Armstrong,R.E.Hawkins and P.L.Stern,’’Cancer vaccines and immunotherapy’’,British medical bulletin,Vol.62,No.1,pp.149-162,2002)。
【0022】
当技術分野で知られるがん治療方法にもかかわらず、がんの発生率及びこれと並行して、死亡率は毎年増加している。したがって、当技術分野では、新しいがん治療方法が依然として非常に必要とされている。
【0023】
ASC(CARDを含むアポトーシス関連スペック様タンパク質)は、特にNLRP3、NLRC4及びAIM2インフラマソームにおいて、インフラマソーム複合体の形成で機能する、N末端にPYDドメインを有し、C末端にCARDドメインを有する22kDaアダプタータンパク質である。ASCタンパク質は、炎症及びパイロトーシスのシグナル伝達経路におけるカスパーゼ-1タンパク質の活性化に役割を有する(Franchi et al.,2009)。これは、インフラマソームの活性化時にスペック様構造を形成する細胞質タンパク質である(Miao et al.,2011)。
【0024】
ASCタンパク質は重合してフィラメントになり、ASCスペックと呼ばれる大きな超分子の足場形成を形成する(Sahillioglu,A.C.,F.Sumbul,N.Ozoren and T.Haliloglu,’’Structural and dynamics aspects of ASC speck assembly’’,Structure,Vol.22,No.12,pp.1722-1734,2014)。これらのASCスペックは、細胞内部に存在し得るか、又は外部に放出され得る(Sahillioglu,A.C.and N.Ozoren,’’Artificial loading of ASC speck with cytosolic antigens’’,PloS one,Vol.10,No.8,p.e 0134912,2015)。
【0025】
ASCタンパク質も含有するNLRP3インフラマソームは、細胞外ATP、膜損傷毒素(ニゲリシン)、リソソーム損傷、尿素一ナトリウム(MSU)及び紫外線などの刺激によって誘発され得る。NLRP3インフラマソーム活性化はASCスペックの合成を伴う。精製された組換えASCタンパク質を低張溶液(Fernandes-Alnemri et al.,2007)でインキュベーションすることによって、ASCスペックをインビトロで合成できることが示されている。
【0026】
国際特許出願WO2009/014863は、ASCタンパク質及びピロトソーム(pyroptosome)を自己免疫疾患の治療及び診断に使用できることを開示した。本出願によれば、ASC二量体及びプロカスパーゼ-1を含有するアポトソーム及びピロトソームの構造は、マクロファージ細胞における初期炎症応答の間に生じる。カスパーゼ-1活性化は、ピロトソーム形成に依存する。炎症の状態は、マクロファージ細胞からピロトソームを単離することによって診断される。
【0027】
MF59アジュバント添加インフルエンザワクチン接種後、ASCタンパク質は抗原特異的液性応答の誘発に役割を果たすと仮定された(Ellebedy et al.,2011)。
【0028】
さらに、特許出願WO2013/160807号に開示されている発明では、ワクチン接種に使用するために、ASCスペック担体に抗原及び/又は生物活性分子を装填できることが分かっている。該発明は、本発明の発明者によって開発されたものである。そこでは、生物活性分子の安定性は、担体としてのASCスペックによって少なくとも30日間増強することができ、分解することなく少なくとも8回の凍結解凍サイクルに耐え得ることが見出された。換言すれば、言及された出願は、ワクチン一般に有用な組成物を開示する。しかしながら、がん細胞又は腫瘍の治療のためのASCスペック自体又はASCスペックを含む組成物の治療効果は開示されていない。
【0029】
したがって、先行技術文献のいずれも、がんの治療におけるASCスペックの役割について言及していない。
【発明の概要】
【0030】
本発明の目的は、新規ながん治療方法を提供することである。
【0031】
本発明は、がん免疫療法におけるASC(CARDを含むアポトーシス関連スペック様タンパク質)スペックの使用に関する。
【0032】
本発明の一実施形態では、ASCスペック担体及び腫瘍抗原を含む組成物が、がん細胞又は腫瘍の治療的処置のために提供される。
【0033】
本発明の別の実施形態では、ASCスペック担体を含む組成物が提供され、ASCスペックは、ASCタンパク質と腫瘍抗原との融合タンパク質によって形成される。
【0034】
本発明の別の実施形態では、ASCスペックは、がんの治療に使用され、腫瘍細胞に対して免疫系を増強する能力を有する。
【0035】
さらに、本発明の別の実施形態では、ASCスペックを含む組成物、好ましくはASCスペックと腫瘍抗原との組み合わせを含む組成物が、がんの治療に使用するために提供され、該方法は、哺乳動物、特にヒト対象において、がん疾患に対して免疫応答を誘導及び/又は刺激することを含み、該誘導又は刺激は、がん進行の抑制又はがん細胞の増殖停止を引き起こす。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】HEK293FT細胞株からのtOVA-ASCスペックの産生及び精製。a)p-C3-d(1-238)OVA-ASCプラスミドをコードするtOVA-ASC。クマシーブルー染色(b)、抗hASCブロット(c)及び精製されたtOVA-ASCスペックの明視野画像(d)。e)精製されたmCherry-ASCスペックの蛍光画像。
【
図2】PMAで分化させたTHP-1マクロファージによるmCherry-ASCスペックの貪食。a)処理の12時間後にTHP-1マクロファージの明視野及び蛍光画像を撮影した。b)PBS、mCherry及びmCherry-ASCで処理したTHP-1マクロファージの抗hASCブロット。c)貪食されたmCherry-ASCスペックのフローサイトメトリー分析。
【
図3】THP-1マクロファージにより貪食されたmCherry-ASCスペックの分解。mCherry-ASC処理の12時間後に、貪食され分解したmCherry-ASCスペックの蛍光画像を撮影した。
【
図4】mCherry-ASCスペックの完全な分解により、宿主細胞におけるインフラマソーム複合体が形成された。THP-1マクロファージにより貪食されたmCherry-ASCスペックの抗hASC染色の蛍光画像(a~b)及びマージ画像(c)。d)マージ画像における青色フレームの3倍の拡大像。
【
図5】mCherry-ASC処置による炎症促進性サイトカインの分泌。a)NLRP3、プロ-カスパーゼ-1及びASCのmRNA発現レベルを、RT-qPCR、IL-1β(b)及びTNF-α(c)分泌レベルと共に、THP-1マクロファージのmCherry-ASC処理後に測定した。(エラーバーは、2つの生物学的反復実験間のSD値を示す。)
【
図6】PMAで分化させたTHP-1マクロファージによるtOVA-ASCスペックの貪食。a)tOVA-ASC、PBS、OVAと抗hASC抗体との12時間後のTHP-1マクロファージの免疫細胞化学。PBS、OVA及びtOVA-ASC処理後のTHP-1マクロファージのb)抗OVA及びc)抗hASCブロット。
【
図7】tOVA-ASC処置時のPMAで分化させたTHP-1マクロファージからの炎症促進性サイトカインの分泌。PBS、10μgのOVA、2μg、5μg及び10μgのtOVA-ASCスペックで処理したTHP-1マクロファージのIL-1β(a)、TNF-α(b)及びIL-6(c)分泌レベルをELISAによって測定した。
【
図8】OVAパルス後、tOVA-ASCを注射した動物の脾細胞からのサイトカイン分泌レベル。OVAをパルスされたか、又はパルスされない脾細胞。脾細胞の上清から脾細胞のサイトカインレベルをELISAによって測定した(OVA群についてはn=4、tOVA-ASC群についてはn=6。)
【
図9】腫瘍モデルに使用したEG7-OVA細胞株を産生するニワトリ卵白アルブミン。a)EG7-OVA細胞株の抗OVAブロット。b)EG7-OVA腫瘍モデル実験のスケジュール。(OVA:43kDa)
【
図10】tOVA-ASC注射後のEG7-OVA腫瘍の進行。a)注射後の全注射の平均腫瘍体積。(各ドットは1つの腫瘍を表す。)b)別々の異なる群における各腫瘍の進行。c)切除された腫瘍の平均重量。(PBSについてはn=3、OVAについてはn=5、tOVA-ASC注入についてはn=8。)
【
図11】tOVA-ASCスペックの二回腹腔内注射後の皮下接種されたEG7-OVA腫瘍の根絶。PBS、OVA及びtOVA-ASCを注射した動物から切除した腫瘍の写真を撮影した。tOVA-ASCを注射した動物における8つの腫瘍のうち6つの腫瘍が完全に根絶された。
【
図12】EG7-OVA腫瘍を有し100μgのtOVA-ASCを注射したC57BL/6マウスのOVA特異的IgG応答。動物を屠殺する直前に採取した血漿から抗OVA IgG応答をELISAによって測定した(PBSの場合はn=1、OVAの場合はn=4、tOVA-ASC注射の場合はn=6。)
【
図13】腹腔内注射されたtOVA-ASCスペックが皮下接種されたEG7-OVA腫瘍で検出された。tOVA-ASC、OVA及びPBSを注射した動物の腫瘍試料の抗TMS1ブロット。
【
図14】tOVA-ASCを注射した動物のEG7-OVA腫瘍へのCD11C+樹状細胞の浸潤。PBS、OVA及びtOVA-ASCを注射した動物の腫瘍の50um切片をクライオスタットで採取し、抗CD11c抗体で染色した。(CD11C:樹状細胞マーカー。白い矢印はCD11c+細胞を示し、赤い矢印は腫瘍組織の間隙における非特異的抗体の残存物を示す。)
【
図15】tOVA-ASCを注射した動物の脾臓におけるT細胞増殖。PBS及びtOVA-ASCを注射した動物の摘出脾臓からの脾細胞を抗CD4、抗CD8及び抗B220抗体で染色し、細胞のパーセンテージをowサイトメーターで分析した。(CD4:Tヘルパー細胞、CD8:細胞傷害性T細胞、B220:B細胞マーカー、エラーバーは、tOVA-ASC群の動物間のSD値を示す。)
【
図16】腹腔内注射したmCherry-ASCが1頭の動物の腸間膜リンパ節に位置していた。PBS、mCherry及びmCherry-ASCを注射した動物を麻酔し、1日目(a)及び2日目(b)にIVIS装置下で580nmで退出させた。
【
図17】腹腔内注射されたmCherry-ASCスペックの二次リンパ器官へのドレナージ。PBS、mCherry及びmCherry-ASCを注射した動物のリンパ節(A)及び脾臓(B)を超音波処理によって溶解し、抗TMS-1抗体でブロットした。
【
図18】EG7-OVA腫瘍を有するマウスの免疫化のワクチン接種スケジュール。
【
図19】免疫化後の腫瘍の体積。免疫化後、tOVA-ASC群は、他の群と比較して最も高い抗腫瘍活性を有した。mCh-ASC+OVA群は、それらのうちの1つが免疫化後に腫瘍を完全に根絶したため、議論の余地のある結果を与えた。各ドットは各マウスを表す(n=4)。
【
図20】EG7-OVAモデルの実験群についてのOVA特異的IgG応答。OVA特異的IgG応答は、tOVA-ASC免疫マウスで最も高かった。OVA群と比較して、mCh-ASC+OVA群は、より高いOVA特異的IgGレベルであった。OVA、mCh-ASC+OVA及びtOVA-ASC群とPBS群との比較でIgGレベルの有意な増加があった。(各群n=4)
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の主な目的は、新規ながん免疫療法を開発することである。これは、炎症シグナル伝達経路において重要な機能を有するASCタンパク質の使用によって達成される。
【0038】
PYCARDとも呼ばれるASCタンパク質は、PYCARD遺伝子によってコードされるアダプタータンパク質である。これは、N末端PYRINドメイン、C末端カスパーゼ動員ドメイン(CARD)及びそれらの間のリンカー領域を有する。ASCタンパク質は、CARD-CARD相互作用を介するプロカスパーゼ-1と、PYRIN-PYRIN相互作用を介するヌクレオチド結合オリゴマー化ドメイン様受容体(NLR)タンパク質との間に架橋を形成する。
【0039】
細胞質ゾル(サイトゾル)センス病原体関連分子パターン(PAMP)及び危険関連分子パターン(DAMP)におけるタンパク質のNLRファミリー。NLRP3及びAIM2などの特定のNLRは、インフラマソーム複合体の形成を誘導する。カスパーゼ-1は、ASCタンパク質との相互作用を介して、インフラマソーム多タンパク質複合体内で活性化される。活性化されたカスパーゼ-1は、プロIL-1ベータ及びプロIL-18をそれらの成熟型に切断し、これらのサイトカインは、細胞外空間に放出され炎症を誘導する。
【0040】
未刺激細胞では、ASCは細胞質ゾル(サイトゾル)で可溶性である。刺激されると、ASCタンパク質は、一体となり、ASCスペックと呼ばれる球状構造を形成する。ASCスペックは、免疫細胞の動員を促進するために細胞の外側に分泌され得る。
【0041】
本発明の目的のために、ニワトリ卵白アルブミンタンパク質(OVA)をモデル抗原として使用する。
【0042】
現在のアジュバントの分子作用機序の1つは、APCによる抗原取り込みの増強であるため、THP-1単球細胞株を細胞培養実験に使用した。ASCスペックがAPCによって貪食されたか否かを理解するために、PMAで分化させたTHP-1マクロファージをtOVA-ASCスペック及びmCherry-ASCスペックに別々に供した。この実験では、tOVA-ASCスペック及びmCherry-ASCスペックの両方が、濃度依存的にマクロファージによって貪食されることが示された(
図2)。さらに、貪食されたmCherry-ASCスペックは、THP-1マクロファージによって分解され、蛍光顕微鏡及び共焦点顕微鏡で細胞の異なる位置に見られることが示された(
図3)。
【0043】
インフラマソームは、一般的に使用されるアジュバントであるミョウバン、並びに現在製造されているアジュバントのAS03及びMF59の標的の1つである。提唱されるアジュバントであるASCスペックが、本発明によれば、THP-1マクロファージで炎症応答を引き起こし得るか否かを理解するために、炎症促進性タンパク質であるNLRP3、ASC及びプロカスパーゼ-1のmRNA発現レベルの変化をRT-qPCRで測定した。これに関して、炎症促進性タンパク質の発現レベルは、mCherryタンパク質処理のみと比較した場合、mCherry-ASCスペック処理後に少なくとも1.5倍増加することが示されている(
図5)。
【0044】
RT-qPCRデータを裏付けるために、IL-1β、TNF-α及びIL-6サイトカインの分泌レベルを、mCherry-ASCスペック又はtOVA-ASCスペックのいずれかによる処理後にELISAによって測定した。IL-1βの分泌は、時間及び濃度依存的に増加した。TNF-αの分泌レベルの増加は、初期(処置後12時間)では濃度依存的であったが、後期(処置後24時間)ではTNF-αの分泌レベルに差は観察されなかった(
図6)。tOVA-ASC処理により、濃度依存的にIL-1βの分泌が増加した。各濃度でのtOVA-ASCスペック処理は、10ugのOVA処理よりも多くのIL-1βを生じる。TNF-α及びIL-6のレベルはtOVA-ASC処置後に濃度依存的に増加し、サイトカインの分泌レベルは10ug OVA処置より高い。その結果、抗原とASCとの融合によって形成されるASCスペックは、THP-1マクロファージからの炎症性サイトカイン分泌を引き起こす(
図6)。これらのRT-qPCR及びELISAデータを用いて、ASCスペック処理はマクロファージにおける炎症応答の増加を引き起こすと結論付けられる。
【0045】
抗体力価は、良好なワクチンの唯一の判断基準ではなく、CD4+細胞によるサイトカイン産生は、良好な免疫化とより強力な相関関係があり得る(Plotkin,2010)。免疫細胞でtOVA-ASCスペックによって引き起こされるTヘルパー細胞のサイトカイン産生を理解するために、生体外リコールアッセイを実施し、OVAパルスの有り無し両方でTNF-α、IFN-ガンマ及びIL-4のレベルを測定した。IFN-ガンマは、主にTリンパ球及びナチュラルキラー細胞によって産生されるサイトカインであり、腫瘍の進行及び転移の阻害に重要な役割を果たす(Farrar,M.A.and R.D.Schreiber,’’The Molecular Cell Biology of Interferongamma and its Receptor’’,Annual Review of Immunology,Vol.11,No.1,pp.571-611,4 1993)。これは、直接抗ウイルス剤としても使用されてきた。これは、ワクチン接種後に1型Tヘルパー細胞によって特異的に産生され、遅延型過敏反応を引き起こし、結果として細胞媒介性免疫を引き起こす(Romagnani,S.,’’Type 1 T helper and type 2 T helper cells:functions,regulation and role in protection and disease.’’,International journal of clinical&laboratory research,Vol.21,No.2,pp.152-8,1991;Godfroid,J.,G.Czaplicki,P.Kerkhofs,V.Weynants,G.Wellemans,E.Thiry and J.J.Letesson,’’Assessment of the cell-mediated immunity in cattle infection after bovine herpesvirus 4 infection,using an in vitro antigen-specific interferon-gamma assay.’’,Veterinary microbiology,Vol.53,No.1-2,pp.133-41,11 1996.)。生体外リコールアッセイを用いて、本発明の発明者らは、tOVA-ASCスペックを注射した動物のOVAパルス脾細胞及び非パルス脾細胞の両方が、IFN-ガンマを分泌し、OVAパルス後に分泌レベルが低下するのに対して、他の群は、OVAパルス後にのみIFN-ガンマを分泌することを示した。これに関して、tOVA-ASCスペックは、抗原特異性なしに細胞性免疫応答の形成を引き起こし得ると考えられる。
【0046】
TNF-αは炎症促進性サイトカインであり、液性及び細胞性の両免疫応答の形成に必要とされ得る。しかしながら、TNF-αはまた、NK細胞で機能喪失を引き起こし、それによってIFN-ガンマの分泌及びある種のがんに対する細胞傷害活性の低下を引き起こす(Romero-Reyes,M.,C.Head,N.A.Cacalano and A.Jewett,’’Potent induction of TNF-α during interaction of immune effectors with oral tumors as a potential mechanism for loss of NK cell viability and function’’,Apoptosis,Vol.12,No.11,pp.2063-2075,9 2007.)。
【0047】
本発明の実験では、各動物の脾細胞は、OVAパルス後にTNF-αを分泌するが、tOVA-ASCを注射した動物及びミョウバン+OVAを注射した動物の両脾細胞からの分泌は、OVAを注射した動物の分泌よりも少なかった。
【0048】
IL-4サイトカインは、主に2型Tヘルパー細胞によって産生され、IFN-ガンマの相互アンタゴニストとして知られている。これは、インビボでB細胞の増殖及び好酸球の動員を調節する(Smiley,S.T.and M.J.Grusby,’’Interleukin 4’’,Encyclopedia of Immunology,pp.1451-1453,Elsevier,1998.)各動物の脾細胞からのIL-4の分泌は、OVAパルス後に減少するが、tOVA-ASCを注射した動物の脾細胞は、OVAパルスの有り無し両方で最高量のサイトカインを分泌する。
【0049】
その結果、本発明の発明者らは、tOVA-ASCを注射した動物の脾細胞からのTNF-α及びIL-4の分泌レベルが、一般的に使用されるアジュバントであるミョウバン+OVAを注射したものと非常に類似していることを示した(
図8)。提唱されたアジュバント、ASCスペック、及びミョウバンアジュバントの違いは、OVAパルス前のIFN-ガンマの分泌である。IFN-ガンマはより多くの細胞媒介性免疫応答を引き起こすため、ASCスペックを使用して細胞性免疫を増強することができる。
【0050】
上述のように、免疫療法は、主に研究されているがんに対する研究領域の1つである。ワクチンアジュバントは、がんに対する患者の細胞性免疫応答を増強するために開発が試みられており、IFN-ガンマは、主に細胞性免疫部分に免疫系を向かわせる主要なサイトカインの1つである。tOVA-ASCスペックは、脾細胞からのIFN-ガンマ分泌を引き起こすため、C57BL/6でEG7-OVA腫瘍モデルを実施することによって、腫瘍形成に及ぼすtOVA-ASCスペックのインビボ効果を確認した。この目的のために、2.5 106個のEG7-OVA細胞をマウスの背側わき腹に皮下接種し、腫瘍が触知可能なサイズに達すると、腹腔内tOVA-ASCスペック注射を開始した。腫瘍サイズは不均一性を示し、動物の数は限られていたため、各群が少なくとも1つの小さい腫瘍、1つの中間サイズ及び1つの大きい腫瘍を有するように、マウスを実験群と対照群に分けた。PBS及びOVAの注射を陰性対照として行った。
【0051】
tOVA-ASCを注射した動物の4つの腫瘍は、初回注射の7日後に完全に根絶されたが、OVAを注射した動物では同じ期間中にもう1つの腫瘍が形成された。その後、7日目にブースター注射を行った。ブースター注射の2日後、tOVA-ASC群ではさらに2つの腫瘍が完全に根絶された。PBS群では1頭の動物が死亡した。tOVA-ASCを注射した動物における腫瘍の進行は、tOVA-ASCスペックが何らかの理由でEG7-OVA腫瘍に治療効果を及ぼし、tOVA-ASC群には2つの腫瘍のみが残存することを示したため、ASCスペックのこの治療効果の細胞機構及び分子機構を理解するために実験を終了した。動物の剖検中、腫瘍が剖検前に完全に根絶された動物の腫瘍接種部位では、結合組織のみに遭遇し、いかなる残存腫瘍組織にも遭遇しなかった。PBS及びOVA群における腫瘍の平均重量は、約2gであったが、tOVA-ASC群では0.03gであった(
図9)。
【0052】
動物の血清を用いたさらなる実験は、OVA特異的IgG応答がPBS群及びOVA群ではそれぞれ5ug/ml及び8ug/mlであったため、tOVA-ASCを注射した動物では、OVA特異的IgG応答が首尾よく約18ug/mlに増加したことを示した(
図12)。tOVA-ASC群におけるIgG応答の増加は、主に2つの理由によって引き起こされ得る。第1に、EG7-OVA腫瘍は連続的にOVAタンパク質を産生するため、tOVA-ASCスペックがマウスで般的な免疫バーストを引き起こす場合、それはOVAに対する抗体産生を引き起こす可能性がある。第2に、これは、腹腔内注射されたtOVA-ASCスペックの量が2倍になることによって引き起こされる可能性がある。
【0053】
さらに、本発明の発明者らは、腹腔内注射されたtOVA-ASCスペックが、該動物のうちの一頭において皮下接種されたEG7-OVA腫瘍部位に移動し、少なくともtOVA-ASCタンパク質形態で無傷のままであったことを認識した(
図13)。基本的には、腫瘍微小環境の周囲の血管新生強化及びこれらの血管の漏出のために、tOVA-ASCスペックが腹腔内部位から循環に入り、腫瘍に漏出することによって引き起こされる可能性がある。他の理由は、tOVA-ASCスペックがAPCによって貪食され、これらのAPCが何らかの理由で腫瘍に蓄積することであり得る。腫瘍に浸潤する成熟DCは、免疫活性化の増加及び免疫エフェクター細胞の動員をもたらすため、DCsが腫瘍に浸潤するか否かをIHC染色で確認した。従来の/古典的なDCサブタイプを染色するCD11C+抗体を使用した。
【0054】
このサブタイプは、MHCクラスII発現を有する定義された特徴的な形態を有する(Collin,M.,N.McGovern and M.Haniffa,’’Human dendritic cell subsets.’’,Immunology,Vol.140,No.1,pp.22-30,9 2013.)。本発明者らは、CD11C+DCが、tOVA-ASCを注射した動物のうちの一頭の腫瘍クライオスタットに局在していることを示した(
図14)。興味深いことに、tOVA-ASCは、CD11C+DC浸潤腫瘍で見出された。IHC及びウェスタンブロットのデータは、tOVA-ASCスペックがDCによって腫瘍微小環境に運ばれた可能性を高める。
【0055】
tOVA-ASCスペックの治療効果の分子機構及び細胞機構を理解するために、EG7-OVA腫瘍モデルを繰り返した。EG7-OVA細胞を24頭のマウスの各背側わき腹に接種したが、4つの腫瘍のみが形成された。免疫細胞の増殖及び腫瘍浸潤に及ぼすtOVA-ASCスペックの効果を理解するために、これら4つの腫瘍を有する動物にPBS及びtOVA-ASCを注射した。初回注射の7日後、tOVA-ASCを注射した動物の1つの腫瘍は縮小し始め、10日目にはもはや触知できなかった。次いで、実験を終了して、フローサイトメトリー分析を用いて、脾臓におけるヘルパーT細胞、細胞傷害性T細胞及びB細胞のパーセンテージを測定した。tOVA-ASCを注射した動物の脾臓におけるCD4+及びCD8+細胞の割合は、PBSを注射した動物の割合と比較すると増加した(
図15)。脾細胞からのサイトカイン分泌及びフローサイトメトリー分析の両方により、tOVA-ASC注射がC57BL/6マウスでヘルパーT細胞活性化の形成を引き起こすと結論付けることができる。
【0056】
ワクチンは、一般に、免疫を刺激するために皮下、筋肉内又は腹腔内に注射される。ワクチンの成功は、APCがリンパ球と相互作用するリンパ節への抗原の流入によって増加する(Johansen,P.and T.M.Kundig,’’Intralymphatic immunotherapy and vaccination in mice.’’,Journal of visualized experiments:JoVE,No.84,p.e51031,2 2014;Tozuka,M.,T.Oka,N.Jounai,G.Egawa,K.J.Ishii,K.Kabashima and F.Takeshita,’’Efficient antigen delivery to the draining lymph nodes is a key component in the immunogenic pathway of the intradermal vaccine’’,Journal of Dermatological Science,Vol.82,No.1,pp.38-45,4 2016.)。さらに、遊走性DCによる注射部位からリンパ器官への抗原の送達は、CTLプライミングの効率を高める(Allan,R.S.,J.Waithman,S.Bedoui,C.M.Jones,J.A.Villadangos,Y.Zhan,A.M.Lew,K.Shortman,W.R.Heath and F.R.Carbone,’’Migratory Dendritic Cells Transfer Antigen to a LymphNode-Resident Dendritic Cell Population for Efficient CTL Priming’’,Immunity,Vol.25,No.1,pp.153-162,7 2006.)。ASCスペックが二次リンパ節への抗原流入を誘発するか否かを理解するために、mCherry-ASCスペックをC57BL/6マウスに腹腔内注射し、IVIS技術で可視化した。興味深いことに、mCherry-ASCを注射した動物の脾臓及び腸間膜リンパ節からの赤色蛍光シグナルは、免疫化の1日後に認識されたが、580nmで励起した場合、蛍光シグナルは、PBSではなく、mCherryを注射した動物のみにあった(
図16)。さらに、本発明者らは、注射の2日後に動物を屠殺した後、腸間膜リンパ節及び脾臓組織から抗hASCブロットを行うことによってIVIS結果を検証した(
図17)。
【0057】
試験の詳細は、本明細書の実験部分で説明する。これらの実験及びその結果に関する簡潔な情報を以下に説明する。
【0058】
最初に、tOVA-ASCタンパク質(239~386のアミノ酸配列を含むOVAの切断型の融合タンパク質、及びヒトASCタンパク質)がp-C3-d(1~238)OVA-ASCプラスミドによって産生される。
【0059】
OVAの切断型には、OVAの両T細胞エピトープが含まれ、257~268アミノ酸のOVAペプチド及び323~339アミノ酸のOVAペプチドは、それぞれ、MHCクラスI及びMHCクラスIIエピトープである(Lipford,G.B.,M.Hoffman,H.Wagner and K.Heeg,’’Primary in vivo responses to ovalbumin.Probing the predictive value of the Kb binding motif.’’,Journal of immunology(Baltimore,Md.:1950),Vol.150,No.4,pp.1212-22,2 1993;McFarland,B.J.,A.J.Sant,T.P.Lybrand and C.Beeson,’’Ovalbumin(323-339)peptide binds to the major histocompatibility complex class II I-A(d)protein using two functionally distinct registers.’’,Biochemistry,Vol.38,No.50,pp.16663-70,12 1999)。tOVA-ASCタンパク質を使用して、tOVA-ASCスペックを産生する。
【0060】
さらに、tOVA+ASCスペックは、tOVAタンパク質をASCスペックに装填することによって産生され、次いで、これはがん免疫療法におけるASCスペックのアジュバント効果の調査に使用される。
【0061】
本明細書では、腫瘍抗原をASCスペックに装填する様々な方法があることに留意することが重要である。一般に生物活性分子、本発明に従って具体的には腫瘍抗原を、ASCスペックに装填する方法のいくつかについては、公開された特許出願WO2013/160807(抗原送達方法)を参照されたい。
【0062】
例えば、腫瘍抗原は、疎水性相互作用を介して、又はASCスペック担体を形成するASCタンパク質と少なくとも1つの抗原との融合タンパク質を形成することによって、ASCスペック担体に装填され得る。
【0063】
親水性を有する抗原は、疎水性相互作用のみによってASCスペック担体で担持できない。したがって、一実施形態では、少なくとも13アミノ酸長及び疎水性配列を含むペプチドと抗原との融合タンパク質を作製することによって、親水性を有する抗原を疎水性相互作用を介してASCスペック担体に装填することができる。
【0064】
第2に、国際公開第2013/160807号に記載されている方法に従って、mCherry-ASCスペックを産生及び精製する。mCherryは、イメージングシステム用のトラッカーとして使用される赤色蛍光タンパク質である。
【0065】
上記のASCスペックを用いて行われた実験は、精製されたASCスペックがマクロファージに貪食され、分解されることを示した。さらに、精製されたASCスペックによるTHP-1マクロファージの刺激が、炎症性サイトカインであるIL-1β、IL-6及びTNF-αの分泌を誘導することが実証されている。さらに、tOVA-ASCスペック注射は、免疫化された野生型C57BL/6マウスの脾細胞からI型及びII型のサイトカインの分泌を引き起こすことが示されている。最後に、本発明者らは、tOVA-ASC注射が、C57BL/6マウスでEG7-OVA腫瘍の完全な根絶又はサイズの縮小を引き起こすことを証明した。
【0066】
上述のように、ニワトリ卵白アルブミンタンパク質(OVA)は、本発明の目的のためのモデル抗原として使用される。tOVA-ASC(239~386のアミノ酸配列を含むニワトリ卵アルブミンタンパク質であるOVAの切断型と、ヒトASCタンパク質との融合タンパク質)を産生するために、p-C3-d(1~238)OVA-ASCプラスミドをクローニングする。
【0067】
インビボ及びTHP-1細胞株に及ぼすASCスペックの免疫刺激効果を試験するために、HEK293FT細胞株でmCherry-ASCスペック及びtOVA-ASCスペックを産生した。tOVA-ASCスペックの純度及び濃度を測定するために、精製されたスペック及び所定濃度のBSAをSDS-PAGEにローディングし、
図1に見られるようにクマシーブルーで染色した。精製タンパク質がtOVA-ASCであるか否かを理解するために、単離タンパク質の抗hASCブロットを行った。
【0068】
抗原取り込みに及ぼすASCスペックの効果を調べるために、PMAで分化させたTHP-1マクロファージを10ug/ml、25ug/ml、50ug/ml及び100ug/mlのmCherry-ASCスペックで処理した。PBS及び50ug/mlの市販mCherryタンパク質を陰性対照として使用した。処理の12時間後、PBS及びmCherryタンパク質で処理したウェルではmCherryシグナルは観察されなかったが、mCherry-ASCスペックで処理した細胞は、
図2に見られるようにmCherry-ASCスペックを貪食した。処理細胞のhASCブロットはまた、貪食され、分解されたmCherry-ASCタンパク質を示す。
【0069】
蛍光データを確認し、それを定量するために、同じ実験を繰り返し、処理の12時間後にmCherry陽性細胞をフローサイトメトリーで計数した。mCherry陽性細胞の数は、処理におけるmCherry-ASCスペック濃度の増加と共に増加する。これらの実験では、ASCスペックがTHP-1マクロファージによるmCherryタンパク質の貪食を促進することが示されている。
【0070】
THP-1マクロファージによる貪食されたmCherry-ASCスペックの分解が、蛍光顕微鏡下で検出された(
図3)。mCherry-ASC処理の4時間後、蛍光顕微鏡の40倍対物レンズを使用した場合、赤色蛍光シグナルは細胞の細胞質から生じ、スペック様構造ではなく細胞の細胞質を介して広がっていた。
【0071】
NLRP3ASC及びプロカスパーゼ-1(炎症促進性タンパク質)の発現レベルを、10μgのmCherry-ASCスペック、10μgのmCherry及び10μgのPBSによる処理後にRT-qPCRによって測定した。ハウスキーピング遺伝子であるHPRTをqPCRの対照として使用し、全ての遺伝子発現をHPRT発現に従って正規化した。
図5に見られるように、NLRP3、プロカスパーゼ-1及びASCの発現レベルは、mCherry処置と比較して、mCherry-ASC処置後に有意に増加した。
【0072】
ASCスペックが貪食後に炎症促進性応答を引き起こすか否かを理解するために、mCherry-ASC処置の12時間後及び24時間後に、PMAで分化させたTHP-1マクロファージの培地から分泌サイトカインを測定した。PBS、モック精製試料及び市販のmCherryタンパク質を陰性対照として使用した。mCherry-ASCスペック処理は、時間及び濃度依存的にIL-1β及びTNF-αレベルの分泌を増加させたが、mCherry及びモック精製試料で処理した細胞は、
図5に見られるように基底レベルのサイトカインを分泌した。
【0073】
その結果、使用されるペプチドがTHP-1マクロファージのASCスペックによって抗原性でなくても、ペプチドの貪食が増強され、炎症応答が形成され得ると推測されている。
【0074】
さらに、tOVA-ASCスペックもAPCによって貪食されるか否かを調べるために、PMAで分化させたTHP-1マクロファージを10ug/mlのtOVA-ASCスペックで処理し、処理の12時間後に抗hASC抗体を用いて免疫細胞化学アッセイを行った。10ug/mlのOVA及びPBSを陰性対照として使用した。Alexa-488に結合した抗マウスIgGを二次抗体として使用した。
図6の不十分な緑色蛍光シグナルは、内因性ASCを示し、これは、通常、細胞質を介して分布するように細胞で見られるが、炎症の活性化後にスペック様構造を形成するためである。
図6の斑状の強い緑色蛍光シグナルは、THP-1マクロファージによるtOVA-ASCスペックの貪食を示す。
【0075】
全てのスペックが内因的に形成されないことを確実にするために、抗TMS1(ウサギで産生されるhASC抗体)を用いたウェスタンブロット分析を行った。ウェスタンブロット分析用に、THP-1マクロファージを2.5ug/ml、5ug/ml及び10ug/mlのtOVA-ASCで処理した。10ug/mlのOVA及びPBSを陰性対照として再び使用した。処理の12時間後、ウェルをPBSで3回洗浄して、まだ貪食されていないtOVA-ASCスペックを除去し、抗TMS1及び抗OVAを用いてウェスタンブロット分析を行った。
【0076】
図6に見られるように、バンドのサイズは約39kDaであり、これはtOVA-ASCスペックから発せられる斑状緑色蛍光シグナルを示す。また、OVAは、アジュバント又はワクチン担体を必要とせずにマクロファージによって貪食され得る(
図6の第3レーン)。
【0077】
細胞の培地も回収して、分泌されたIL-1β、IL-6及びTNF-αレベルをELISAによって測定した。tOVA-ASCスペック処理は、IL-1β及びIL-6の分泌を有意に増加させた(
図7)。THP-1マクロファージからのIL-1βの分泌は、tOVA-ASC処理の各濃度で10μgのOVA処理よりも高く、濃度依存的に増加した。tOVA-ASC処置後のIL-6分泌レベルは、用量依存的に増加し、10μg/mlのOVA処置単独よりも10μg/mlのtOVA-ASC処置で高い。TNF-αレベルはまた、tOVA-ASC量の濃度増加と共に増加する。しかしながら、10μg/mlのOVA処理と10μg/mlのtOVA-ASC処理との間にTNF-α分泌の有意差はない。
【0078】
ニワトリ卵白アルブミンを合成するC57BL/6マウス胸腺腫細胞株であるEG7-OVAは、抗原に特異的な腫瘍ワクチン研究のために主に使用される腫瘍モデルの1つである。G418で処理すると、OVAを発現する。マウスへの接種前に、
図9に示すように、抗OVAブロットを用いて、EG7-OVA細胞株のOVA発現が示された。
【0079】
8~10週齢のC57BL/6マウスに腫瘍を形成させるために、250万個のEG7-OVA細胞をマウスの各背側のわき腹に接種した。接種の12日後、18個の腫瘍が触知可能なサイズに達し、
図9に示すように、100μgのtOVA-ASCを含む300μlのPBSの腹腔内注射を開始した。50μgのOVA及びPBSを陰性対照として使用した。初回免疫化後に2つのデジタルノギスを用いて2日毎に腫瘍の2つのサイズを測定した。
【0080】
tOVA-ASCを注射した動物の1つの腫瘍は、初回注射後4日目に完全に根絶された。tOVA-ASCを注射した動物のさらに3つの腫瘍は、初回注射後7日目に完全に根絶され、OVAを注射した動物のうちの1頭でもう1つの腫瘍が形成された。初回免疫化の1週間後、初回と同様にブースター注射を繰り返した。2回目の免疫化の1日後、PBSを注射した動物のうちの1頭は、おそらく動物が有する腫瘍のサイズのために死亡した。
図10に見られるように、tOVA-ASCを注射した動物のさらに2つの腫瘍は、2回目の注射後2日目に完全に根絶された。
【0081】
2回目の免疫化後4日目に2回目の注射後に2つの腫瘍のみが残存したため、tOVA-ASCを注射した動物の腫瘍を用いてさらなる分析を行うために実験を終了した。各群における各腫瘍の進行を示した。全ての動物を屠殺した。腫瘍が既に根絶されているtOVA-ASCを注射した動物では、腫瘍組織は認められなかった。OVAを注射した動物のうちの1頭には、同じ背側わき腹に2つの別個の腫瘍組織があった。
図11に示すように、注射されたPBS、OVA及びtOVA-ASCの切除腫瘍の平均体積は、それぞれ、1935mm
3、1690mm
3及び62mm
3である。
図11に示すように、PBS、OVA及びtOVA-ASCを注射した腫瘍の平均腫瘍重量は、それぞれ、2.5g、2.11g及び0.07gであった。
【0082】
その結果、
図10に示すように、PBS及びOVAを注射した動物の腫瘍がC57BL/6マウスの背側わき腹で増殖し続けるため、tOVA-ASCスペックの2回のショットは、各腫瘍サイズの縮小及び8個のうち6個のEG7-OVA腫瘍の完全な根絶を生じる。
【0083】
tOVA-ASCスペックの抗腫瘍効果は、OVAに対する抗体応答によって引き起こされ得るため、動物のOVA特異的IgGレベルをELISAによって測定する。PBS群の1頭は屠殺前に既に死亡しているため、動物の血液を採取することはできず、PBS群については1頭の動物のみでさらなる実験を行う。その結果、
図12から分かるように、tOVA-ASCを注射した動物では、PBS及びOVAを注射した動物よりも多くのOVA IgG応答があった。
【0084】
ASCスペックのアジュバント効果を調べるために、さらなる試験を行った。
【0085】
PBS、OVA、tOVA-ASC及びmCh-ASC+OVA実験群を含む4つの群が存在した。PBSのみ、100μgのOVAのみ、100μgのtOVA-ASCのみ、並びに100μgのmCh-ASCと100μgのOVAをマウスの各群に腹腔内注射した。OVA及びASCの両方のスペックをPBSに懸濁したため、PBSは陰性対照群であった。ASCスペックのアジュバント効果を調べるために、OVA注射を実施して、OVA単独の免疫化が腫瘍サイズの減少に十分であるか否かを調べた。また、mCh-ASC及びOVA群は、OVA群と比較してASCスペックのアジュバント特性を確認するためのモデルであった。この実験では、tOVA-ASC群を、抗原特異的抗腫瘍ワクチンとしてのASCスペックの担体能力を確認するためのモデル群とした。EG7-OVA腫瘍を有するマウスの免疫化用のワクチン接種スケジュールを
図18に見ることができる。
【0086】
EG7-OVA細胞の接種の14日後、腫瘍形成が触知可能なサイズに達して免疫化を開始した。
図19に見られるように、初回免疫化の7日後、PBS、OVA及びmCh-ASC+OVA群は腫瘍サイズが増加したが、tOVA-ASCスペックで免疫化したマウスは腫瘍サイズの進行がほとんどなかった。次いで、2回目の用量を各群に注射した。
【0087】
2回目の免疫化の7日後、mCh-ASC+OVA免疫マウスの1頭及びtOVA-ASC免疫マウスの3頭は腫瘍を完全に根絶した。OVAのみを免疫したマウス由来の腫瘍の1つは、2回の注射後も同じサイズのままであった。mCh-ASC+OVA免疫マウスの1頭は、2回の注射後、安定した腫瘍サイズのままであった。最終の免疫化後、全ての動物を屠殺した。最後に、tOVA-ASC免疫マウスの1頭は、注射後に腫瘍増殖パターンを示した。
【0088】
抗体は、腫瘍細胞を標的とするために臨床試験中である。これらの抗体は、腫瘍細胞の抗原に結合し、直接的な細胞溶解又は抗体が促進する食作用を誘導し、抗原のプロセシング及びAPC上のMHCクラスI又はII分子を介した提示をもたらす。この状況は、宿主において、腫瘍に対する抗体及び/又は細胞傷害性T細胞の産生のいずれかによって宿主の抗腫瘍免疫を誘導する。tOVA-ASCスペックの抗腫瘍効果が観察されたため、この抗腫瘍活性は、抗体が促進する抗腫瘍免疫によって引き起こされ得る。宿主での抗原に特異的な抗体産生を示すために、ELISAを実施して、EG7-OVA腫瘍に対するOVA特異的IgG応答を調べる。
【0089】
図20に見られるように、PBSは陰性対照群であり、PBSを含む他の群と比較して、OVA、mCh-ASC+OVA及びtOVA-ASC群についてOVA特異的IgGレベルの増加が得られた。OVAを含む群を互いに比較すると、mCh-ASC+OVA群では、OVA群と比較して有意に高いIgG応答があった。また、tOVA-ASC群では、OVA群と比較して有意に高いIgG応答があった。これは、免疫系をアジュバントとして増強し、抗原を保有して宿主で抗腫瘍免疫を誘導することによって、ASCスペックが抗腫瘍活性を有することができることを示した。
【0090】
最後に、腹腔内注射されたmCherry-ASCスペックは、適応免疫系の誘発に重要な二次リンパ節に向かうことが示されている。
【0091】
二次リンパ節がT細胞応答の主な位置であるため、本発明者は、腹腔内注射されたmCherry-ASCスペックが、IVIS及びウェスタンブロット分析によって腸間膜リンパ節及び脾臓に輸送され得るか否かを確認した。この目的のために、10ugのmCherry-ASCスペックを含む200ulのPBSを、8頭の16~18週齢のC57BL/6マウスに腹腔内注射した。陰性対照として、4頭及び8頭の動物にPBS及び市販のmCherryタンパク質をそれぞれ注射した。注射の1日後、2日後及び10日後、動物をIVIS装置で観測した。2日目に、動物の半分を屠殺し、それらの脾臓、腸間膜リンパ節、肝臓及び脳をウェスタンブロット分析用に回収した。残りの半分を10日目に屠殺し、同じ組織を回収した。
【0092】
図16に見られるように、黄色はIVISで高強度の赤色蛍光シグナルを示し、動物が56~580nmの波長で励起された場合に、C57BL/6動物の腹部及び生殖器領域はバックグラウンド蛍光を生じる。しかし、注射の1日後に、mCherry-ASCを注射した動物の腸間膜リンパ節領域の1つで強い蛍光が撮られた。10日目に、各動物で蛍光強度はほぼ同じであった。
【0093】
IVISデータを裏付けるために、採取した全ての組織をウサギで産生された抗hASCでブロットして、注射されたmCherry-ASCスペックを検出した。
図17に見られるように、mCherry-ASCタンパク質は、一方の動物の腸間膜リンパ節及び他方の動物の脾臓で検出された。さらに、mCherry-ASCタンパク質の分解は、脾臓の抗hASCブロッティングの下方バンドに見ることができる。
【0094】
したがって、本発明の一実施形態では、実験が腫瘍細胞に対する免疫系を増強する能力を実証したため、(ASCタンパク質によって形成される)ASCスペックががんの治療に使用される。
【0095】
別の実施形態では、がん治療の方法で使用するためのASCスペックを含む組成物が提供され、該方法は、哺乳動物のがん疾患に対する免疫応答を誘導及び/又は刺激することを含み、該誘導又は刺激は、がん進行の抑制又はがん細胞の増殖停止を引き起こす。
【0096】
別の実施形態では、腫瘍抗原と、ASCタンパク質によって形成されるASCスペック分子とを含む組成物が、がん治療に使用するために提供される。
【0097】
別の実施形態では、がん治療に使用するためのASCスペックの組成物が提供され、該組成物は、ASCスペックを形成するASCタンパク質と疎水性相互作用を形成することによって、ASCスペックによって担持される腫瘍抗原を含む。
【0098】
本発明の一実施形態によれば、組成物は、腫瘍抗原と少なくとも1つのASCタンパク質との融合タンパク質によって形成されるASCスペックを含む。該組成物は、がんの治療、特に腫瘍の治療に使用される。
【0099】
上記の融合タンパク質は、N末端又はC末端でASCタンパク質に融合される腫瘍抗原によって形成され得る。
【0100】
本発明の別の実施形態では、組成物は、好ましくはASCスペックを形成するASCタンパク質と疎水性相互作用を形成することによって、ASCスペックの内部に担持される腫瘍抗原を含む。
【0101】
本発明は、任意の種類のがん、好ましくは腫瘍形成がん、より好ましくは胸腺がんの治療に関する。
【0102】
一実施形態によれば、本発明の組成物は、がん免疫療法に使用され、それを必要とする哺乳動物への該組成物の投与は、腫瘍進行の抑制又は腫瘍サイズの減少又は腫瘍の完全な根絶を引き起こす。
【0103】
本発明の別の実施形態では、がんを治療する方法が提供され、該方法は、がんの治療を必要とする哺乳動物に、ASCスペックを含む治療有効量の組成物を投与する工程を含む。該組成物は、好ましくは腫瘍抗原をさらに含み、好ましくは、腫瘍抗原は、ASCスペックを形成するASCタンパク質との融合タンパク質を形成することによって、ASCスペックによって担持される。
【0104】
別の実施形態では、腫瘍抗原に結合したASCスペック担体を含む組成物が提供され、ASCスペック担体は、ASCタンパク質と腫瘍抗原との融合タンパク質のオリゴマー化によって形成される。
【0105】
本発明に使用できる腫瘍抗原の例は、乳がんのHER2+(膜結合タンパク質)、前立腺がんのPSA(34kDaのサイズの糖タンパク質)、黒色腫がんのMAGE(黒色腫関連抗原)、腺管糖タンパク質のMUC1(膜貫通糖タンパク質)又はネオ抗原である。これらは単に例として与えられるものであり、任意の他の腫瘍関連抗原を本発明の目的のために使用することができる。
【0106】
本発明のさらに別の実施形態では、腫瘍抗原に結合したASCスペック担体を含む組成物が胸腺腫瘍の治療に使用され、ASCスペックはASCと腫瘍抗原との融合タンパク質によって形成される。
【実施例】
【0107】
実験
材料:
実験で用いた材料の詳細を以下に示す。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【表7】
【表8】
【表9】
【0108】
方法:
1.tOVA-ASC及びmCherry-ASCスペックの精製
1.1.プラスミドDNAの増幅及び単離
p-C3-d(1-238)OVA-ASC及びp-C3-mCherry-ASCプラスミドをクローニングし、この研究に使用する。製造業者が示唆するように、MACHEREY-NEGEL(MN)キットを使用して、中間量調製及び大量調製を行った。細菌培養物を、中間量調製及び大量調製物用にカナマイシンを補充した200ml及び400mlのLBでそれぞれ増殖させた。
【0109】
1.2.HEK293FT細胞株の維持
HEK293FT細胞株を、10%FBS、MEM-NEA、100U/mlペニシリン及び100μg/mlストレプトマイシンを補充したDMEMで維持した。細胞が90%の集密度に達すると、プレートをPBSで洗浄し、37℃で2分間トリプシン処理して継代培養した。
【0110】
1.3.リン酸カルシウムトランスフェクション
プラスミドDNA及びリン酸カルシウムの不溶性沈殿物の形成を生じるリン酸カルシウムトランスフェクション法によって、HEK293FT細胞株を容易にトランスフェクションした。これらの沈殿物は、HEK293FT細胞に貪食される。1400万個の細胞を150mm細胞培養プレートに播種した。実験に従って、ddH2O中で希釈することによってプラスミド濃度を調整し、2M CaCl2を1滴ずつ添加した。5分後、2×HBSを添加し、気泡を形成した。5分後、プラスミド及びリン酸カルシウム混合物を継代培養中のHEK293FT細胞に1滴ずつ添加した。
【表10】
【0111】
1.4.ASCスペックの産生及び単離
1400万個のHEK293FT細胞を計数し、6つの150mm細胞培養プレートのそれぞれに播種した。(pC3-(d1-235)OVA-ASC)プラスミドDNAをリン酸カルシウムトランスフェクション法によってトランスフェクションした。トランスフェクションの48時間後、細胞の培地を吸引し、3mlのPBSを添加した。細胞を擦過によって表面から剥離し、50mlのファルコンに入れた。50%出力下で5秒間の30%超音波処理によって細胞を5回溶解した。溶解した細胞を、Beckman卓上遠心機を用いて4℃で2400gで遠心分離した。遠心分離後、フィラメントがボルテックスによって容易に検出可能になるまでペレットを溶解した。氷上で5分間重力沈降によって、細胞の大きな断片を沈殿させた。慎重に上清を新しい50mlのファルコンに移し、300gで5分間遠心分離した。上清を吸引し、ペレットを10mlのPBSに溶解させた。フィラメントが見えるまで、ボルテックスによって再びペレットを溶解させた。再び重力沈降によってフィラメントを5分間沈殿させた。
【0112】
上清を新しいファルコンに入れ、300gで遠心分離した。ボルテックス後にフィラメントがなくなるまで、最後のボルテックス、重力沈降及び遠心分離を繰り返した。最終試料を1.2又は5μmのシリンジフィルターで濾過した。背圧が感知されるまで、各フィルターについて3~4mlの試料を通過させた。2~3mlのPBSを200μlマイクロピペットで逆方向に濾過して、ASCスペックを15mlのファルコンに取り出した。逆濾液を3900gで1時間遠心分離した。ペレットを500μlのPBSに溶解した。PBS中のASCスペックを+4℃に保持した。ASCスペックの純度は、SDS-PAGE及びクマシーブルー染色によって確認した。超音波処理を除く全ての工程を細胞培養フードで行った。
【0113】
1.5.SDS-PAGE及びクマシーブルー染色を用いた単離ASCスペックの純度及び量の測定
1.5mlチューブで10μlの5×Leamli緩衝液と別々に混合された異なる濃度の単離された40μlのASCスペック及びBSA。それらを95℃で10分間煮沸し、12% SDS-PAGEゲルに染色済タンパク質ラダーと共にローディングした。タンパク質ゲル電気泳動の部に記載されているように試料を泳動した。ゲルをプラスチック容器中のクマシーブルーで1時間染色し、クマシー脱染溶液で脱染した。ゲルの写真を撮影し、ImageJソフトウェアを用いてBSA濃度から導出された標準曲線に従ってASCスペックの濃度を算出した。
【0114】
2.THP-1マクロファージに及ぼすASCスペックの効果
2.1.THP-1単球細胞株の維持
THP-1は、白血病患者に由来する単球細胞株である。THP-1細胞を提供し、構成的にeGFP-ASCを合成するTHP-1 eGFP-ASC安定細胞株は、pLenti-Ef1a-EGFP-ASCのレンチウイルス形質導入によりTHP-1単球から得た。細胞株を、10% FBS、MEM-NEA、100U/ml ペニシリン及び100μg/ml ストレプトマイシンを補充したRPMI1640で維持した。
【0115】
2.2.THP-1単球のTHP-1マクロファージへの分化
RPMI1640を含有する100nm/mlのPMAを含む6ウェルプレートの各ウェルで9時間、1.5×106個のTHP-1単球細胞をTHP-1マクロファージに分化させた。次いで、細胞の培地をPMAを含有しないRPMI1640と交換した。
【0116】
2.3.ASCスペックによるTHP-1マクロファージの処理
分化の48時間後、マクロファージに及ぼすASCスペックの効果を見るために、mCherry-ASC又はtOVA-ASCスペックを異なる濃度で1mlの細胞培地に与えた。細胞の培地を回収し、異なる時点でさらなるサイトカインELISAアッセイ用に-20℃で保持した。ASCスペック処理の12時間後にフローサイトメトリー分析用にTHP-1マクロファージを調製し、細胞を氷上でPBS-EDTAと30分間インキュベーションした。次いで、穏やかに擦過することによって細胞培養プレートから細胞を剥離し、15ml遠心管に入れた。細胞を300gで5分間遠心分離し、ヒト血清を含むFACS緩衝液で2回洗浄した。細胞表面染色及びフローサイトメトリー分析の部に記載されるように、それらの細胞表面タンパク質を染色し、分析した。
【0117】
2.4.THP-1マクロファージの免疫細胞化学
1.6×105個のTHP-1単球を48ウェルプレートでTHP-1マクロファージに分化させ、ASCスペックで処理した。ASC処理の12時間後、細胞の培地を吸引し、ウェルをPBSで3回洗浄した。次いで、細胞を室温で15分間、4% PFAで固定した。細胞をPBSで3回洗浄した後、0.25% Triton-X100界面活性剤を含むPBSで透過処理した。次いで、細胞をブロッキング緩衝液(5% BSA(重量/体積)を含むPBS-T)で室温にて30分間ブロッキングした。次いで、細胞を、1/50希釈された抗hASC抗体を含むブロッキング緩衝液と室温で2時間インキュベーションした。細胞をPBSで再度洗浄し、1/500希釈されたAlexa-488フルオロフォア結合抗マウスIgGと室温で1時間インキュベーションした。二次抗体のインキュベーション後、細胞を洗浄し、蛍光顕微鏡下で可視化した。
【0118】
2.5.サイトカインELISA
細胞培地におけるサイトカインレベルをサンドイッチELISAで測定した。簡潔には、ELISAプレートを、製造業者が示唆する濃度の捕捉抗体を含むPBSでコーティングし、室温で一晩インキュベーションした。96ウェルプレートの3つのウェルを各上清試料についてコーティングし、3つのウェルを陰性対照としてPBSのみでコーティングした。一晩のインキュベーション後、プレートを400μlのPBS-Tで3回洗浄し、非特異的結合を防止するために200μlの試薬希釈剤(1% BSAを含むPBS)で室温にて1時間ブロッキングした。プレートのブロッキング中、最終OD値が2.00未満であるように、細胞の上清を試薬希釈剤で希釈した。ブロッキング後、プレートをPBS-Tで3回洗浄し、100μlの希釈試料及びサイトカイン標準物質をウェルに添加し、室温で2時間インキュベーションした。次いで、プレートをPBS-Tで再び3回洗浄し、製造業者が示唆する濃度の検出抗体を含む試薬希釈剤100μlと室温で2時間インキュベーションした。
【0119】
プレートを洗浄した後、1:50希釈されたHRPを含む試薬希釈剤100μlをウェルに添加し、室温で1時間インキュベーションした。次いで、プレートを再度洗浄し、100μlの1:1混合ELISA基質A及びELISA基質Bをウェルに添加し、色が青に変わり始めた。基質添加の20分後、反応を1N硫酸で終了させ、色を青色から黄色に変化させた。マイクロプレートリーダーを用いて、ウェルのOD値を450nm及び540nmで算出し、吸光度450から540で吸光度を抽出した。SoftMaxProソフトウェアを用いて標準物質の吸光度値及び濃度に従って標準曲線を描き、標準曲線から上清中のサイトカインレベルを測定した。
【0120】
2.6.RT-qPCRによるASCスペック処理後のTHP-1マクロファージにおける炎症促進性タンパク質の発現パターンの決定
ASCスペック処理後のPMAで分化させたTHP-1細胞において、mRNAレベルでのタンパク質の発現パターンをリアルタイム定量PCRで測定した。THP-1マクロファージを10、25、50及び100μgのmCherry-ASCスペックで12時間処理した。PBS及び50μgのmCherryタンパク質のみを対照として使用した。
【0121】
2.6.1.RNA抽出。
細胞をPBSで3回洗浄し、擦過によって回収し、製造業者が示唆するようにRNAをMN RNA抽出キットで抽出した。簡潔には、細胞を溶解緩衝液で溶解し、70%エタノールと混合した後、溶解物をカラムに結合させた。数回の洗浄工程の後、カラムを室温で15分間、DNaseIを含むDNaseインキュベーション緩衝液で処理した。カラムを再び洗浄緩衝液で洗浄し、乾燥させた。次いで、全RNAを、RNaseを含まない60μlの水で単離した。RNAの純度及び濃度をNanodrop分光光度計で測定した。
【0122】
2.6.2.cDNA Synthesis.
製造業者が示唆するように、BIOLINE SensiFAST cDNA合成キットを使用して全RNAからcDNAを合成した。簡潔には、500 ngの全RNAを、4μlの5×TransAmp緩衝液及び1μlの逆転写酵素を含むDEPC処理H20(最終容量:20μl)と混合した。試料を、不活性化のために25℃で10分間、42℃で15℃及び85℃で5分間インキュベーションした。
【0123】
2.6.3.定量的PCR
各遺伝子に特異的なプライマー及び対照としてのHPR-Tを使用して、ASCスペック処理後に焦点となる遺伝子の相対的発現レベルを試験した。cDNA試料を、Exicycler 96 qPCR装置を使用してBIOLINE SensiFAST SYBR MasterMixで増幅した。PBS処理細胞における遺伝子の発現レベルを1に調整し、2-ddct法(Livak and Schmittgen 2001)を使用することによって、目的の遺伝子の相対的発現を測定した。
【0124】
3.EG7-OVA腫瘍モデル及びtOVA-ASCの免疫化
3.1.EG7-OVA細胞株の維持
EG7-OVA細胞株を提供した。EG7-OVAは、C57BL/6マウスリンパ腫細胞株EL-4に由来する。EL4細胞株を、ニワトリ卵白アルブミン(OVA)の完全形態及びネオマイシン耐性遺伝子を含むpAc-neo-OVAプラスミドで安定にトランスフェクションして、G418で処理した場合にモデル腫瘍抗原としてOVAタンパク質を構成的に合成するEG7-OVA細胞株を形成した。10%FBS、MEM-NEA、100U/mlペニシリン及び100μg/mlストレプトマイシン、2-メルカプトエタノール及び0.4mg/ml G418を補充したRPMI1640で細胞株を維持した。細胞の培地を2日毎に交換した。
【0125】
3.2.EG7-OVA腫瘍接種及びOVA、PBS及びtOVA-ASCによる免疫化
250万個のEG7-OVA細胞を含む100μlのPBSを、12頭のC57BL/6マウスの各背側わき腹に接種した。18個の腫瘍が12日間で触知可能なサイズ(<50mm3)に達した。腹腔内注射は以下のように行った。300μlのPBS中、100μgのtOVA-ASC(n=10)、50μgの市販OVA(n=5)及びPBSのみ(n=3)。2つのデジタルノギスを用いて腫瘍の2つのサイズを測定した。体積は、計算に基づいて算出した。1/2((短い長さ^2)長い長さ)。2回目の注射を1回目として繰り返した。PBSを注射した動物のうちの一頭は、おそらく20日目に死亡した。2回目の注射後に2つの腫瘍しか残存していなかったため、tOVA-ASCを注射した動物の腫瘍を用いてさらなる分析を行うために実験を終了した。全ての動物の血液を眼窩洞から採取した。全ての動物を屠殺し、動物の脾臓を回収した。動物の腫瘍を切除し、その体積及び重量を算出した。腫瘍が既に根絶されているtOVA-ASCを注射した動物では、腫瘍組織は認められなかった。各動物の血漿を-20℃で保持した。動物の脾細胞を採取し、さらなる生体外リコールアッセイ用に96ウェルプレートで培養した。動物の腫瘍を、さらなる免疫組織化学アッセイ用にOCTに包埋した。各群の腫瘍由来の小部分をウェスタンブロット分析用に分割し、-80℃で保持した。
【0126】
3.3.EG7-OVA腫瘍接種及びPBS、OVA、tOVA-ASC及びmCherry-ASCによる免疫化
上記の実験と同様に、追加のmCherry-ASC免疫化のために別の試験を行った。2.5×106個のEG7-OVA細胞を含む100μlの1×PBSを各マウスに接種した。接種前に、これらの細胞のOVA発現を、抗OVA抗体を使用したウェスタンブロット分析で確認した。細胞を滅菌条件下で調製した。これらの細胞の接種を各マウスの右背側わき腹に行った。12~14日後に腫瘍が触知可能なサイズ(≧50mm3)に達すると、腹腔内注射を以下のように行った。300μlの1×PBS中、1×PBSのみ、100μgのOVA、100μgのmCherry ASCを含む100μgのOVA及び100μgのtOVA ASC。腫瘍のサイズをノギスで測定した。式1/2[(短い長さ2)長い長さ]に従って、各腫瘍の体積を算出した。2回目の注射を初回注射と同じように繰り返した。
【0127】
tOVA ASCで免疫したマウスの腫瘍のほとんどが根絶されたため、2回目の注射の1週間後に実験を終了した。ノギスを用いて動物の腫瘍を算出した。その後、全ての動物を屠殺した。それらの心臓から血液を採取した。また、それらの脾臓及び肝臓をさらなる分析用に収集した。動物の腫瘍を切除し、OCTに包埋した。最後のマウスの実験が終了するまで、全ての組織を氷上に保持した。採取した血液試料を37℃で1時間インキュベーションし、次いで、11000rpmで1分間遠心分離した。血液の血清を新しいチューブに採取し、長期保存用に-80℃で保持した。
【0128】
3.4.腫瘍及び脾臓の免疫組織化学
3.4.1.OCT包埋。腫瘍試料をOCT化合物に加え、-20℃で一晩保持し、次いで、さらなる分析用に-80℃で維持した。
【0129】
3.4.2.凍結切片。OCTに包埋した腫瘍試料を凍結切片装置に右方向に置き、組織のない凍結OCTを刃で除去した。次いで、クライオスタットを適切に使用して、10ミクロンの腫瘍切片を正に帯電したスライド上に採取した。スライドを55℃で乾燥させ、さらなる分析用に-80℃に保持した。
【0130】
3.4.3.固定及び抗原回収。スライドを55℃で2時間乾燥させ、組織切片を疎水性バリアで囲んだ。次いで、組織を室温で15分間4% PFAで固定した。PFAを除去し、スライドをシェーカー上のジャーでPBS-Tを用いて3回洗浄した。スライドをシトラート緩衝液(pH:6.0)を充填した別のジャーに移し、70℃で30分間保持した。
【0131】
3.4.4.クライオスタット切片の抗体染色。スライドをPBS-Tで3回洗浄した後、それらをブロッキング緩衝液(3% BSAを含むPBS-T)で室温にて30分間シェーカー上でブロッキングした。次いで、1/400希釈された蛍光標識一次抗体を含むブロッキング緩衝液とスライドを4℃で一晩インキュベーションした。一晩のインキュベーション後、スライドをPBS-Tで5分間3回洗浄し、蛍光顕微鏡下で可視化した。
【0132】
3.5.EG7-OVA腫瘍からの単一細胞の調製
腫瘍を摘出し、全ての組織切片が1~2mmの切片に加工されるまでハサミを用いて切り刻んだ。使い捨ての10mlシリンジからプランジャーを使用して、切り刻まれた試料をセルストレーナーに対して脱凝集させた。セルストレーナー上の腫瘍組織を3~5mlの冷RPMI1640で洗浄した。フィルターの裏側の結合組織のごく小さな断片を観察するまで、洗浄工程を数回繰り返した。細胞をRPMI1640で3回洗浄し、室温、300gで5分間遠心分離した。
【0133】
3.6.OVAに特異的なIgG応答についてのELISA
OVAに特異的なIgG応答をELISAによって測定した。簡潔には、100μlのPBSに希釈した100ng/ウェルのOVAタンパク質で96ウェルELISAプレートをコーティングし、PBSのみを含む陰性対照用に3ウェルを使用した。プレートを密封し、4℃で一晩インキュベーションした。各ウェルを吸引し、300μlの洗浄緩衝液(PBS-T)で3回洗浄した。最後の洗浄後、プレートを清潔なペーパータオルに吸い取ることによって、残存する洗浄緩衝液及び気泡を除去した。200μlの試薬希釈剤(1% BSAを含むPBS)を各ウェルに添加し、プレートを室温で最小1時間、最大2時間インキュベーションした。洗浄工程を繰り返した。最後の洗浄後、プレートを清潔なペーパータオルに吸い取ることによって、残存する洗浄緩衝液及び気泡を除去した。100μlの標準物質(25pg/ml~5000pg/ml)又は試料(1:500希釈)を添加し、プレートをストレッチフィルムで被覆し、室温で1時間インキュベーションした。洗浄工程を繰り返し、最後の洗浄後、同じ洗浄プロトコルを実施した。100μlの1:2000抗マウスIgG HRP結合二次抗体を各ウェルに添加し、プレートをストレッチフィルムで被覆し、室温で1時間インキュベーションした。洗浄工程を繰り返し、最後の洗浄後、同じ洗浄プロトコルを実施した。プレートを直接光から避けながら、100μlの基質混合物(発色試薬A及びBの1:1混合物)を各ウェルに添加し、プレートを室温で20分間インキュベーションした。次いで、20μlの停止溶液(2N H2SO4)を各ウェルに添加した。プレートを穏やかにタップして完全な混合を確実にした。各ウェルの吸光度を、プレートリーダーにより450nm及び540nmで測定した。
【0134】
4.インビボでのmCherry-ASCスペックの追跡
mCherry-ASCスペックを使用して、腹腔内注射後のASCスペックを追跡した。8頭のC57BL/6マウスに、10μgのmCherry-ASCを含む300μlのPBSを腹腔内注射した。対照として、10μgのmCherryを含む300μlのPBS及び300μlのPBSのみを対照群として注入した。8頭及び4頭のマウスをmCherry注射及びPBS注射にそれぞれ使用した。
【0135】
4.1.インビボイメージング
IVIS Spectrumインビボイメージングシステムを使用して、注射されたmCherry-ASCスペックをインビボで可視化し、1、2及び10日目に、動物をIVIS Spectrum装置で観察した。
【0136】
4.2.ウェスタンブロット及び免疫組織化学用の組織試料採取
2日目に、各群の動物の半数を屠殺し、10日目に残りの半数を屠殺した。動物の脾臓、腸間膜リンパ節、肝臓及び脳を切除した。脾臓をIVIS下で生体外で観察した。脾臓からの代表部位をウェスタンブロット分析用に採取し、他の部分をOCT化合物に包埋し、-80℃で保存した。動物の腸間膜リンパ節、肝臓及び脳を、さらなるウェスタンブロット分析用に-80℃で保持した。
【0137】
5.ウェスタンブロット分析
5.1.細胞培養物からの試料調製
タンパク質レベルでの遺伝子の発現パターン及び調節は、一般に、ウェスタンブロット分析によって検出される。細胞におけるタンパク質の発現を分析するために、6ウェルプレートの各ウェルを1mlのPBSで洗浄するか、又は細胞を遠心分離し、接着細胞培養及び懸濁細胞培養のためにそれぞれ1mlのPBSで洗浄した。PBSの吸引後、160μlのプロアターゼ阻害剤複合体を補充した0.2% NP40溶解緩衝液を細胞に添加した。接着細胞株の場合、細胞をスクレーパー及びマイクロピペットを用いて1.5mlチューブに収集した。回収した細胞を氷上で1時間保持し、細胞を完全に溶解させるために各15分間ボルテックスした。細胞のより大きな断片を、13000rpm、4℃で30分間遠心分離によってペレット化した。上清を別の1.5mlチューブに採取した。次いで、40μlの5×Laemmli緩衝液を試料に添加し、Laemmli緩衝液中、95℃で10分間タンパク質を変性させた。
【0138】
5.2.組織からの試料調製
2mlチューブで、切り刻まれ、凍結された大きな組織(脾臓、肝臓、脳及び腫瘍)の代表部位及び腸間膜リンパ節全体に、200μlの溶解緩衝液を添加した。70%出力下で1分間の50%の超音波処理によって組織を溶解し、15分間氷上に保持した。次いで、組織溶解物を13000rpmで30分間遠心分離して、より大きな断片及び結合組織部分を除去した。上清を新しい1.5mlチューブに取り、希釈した。次いで、5×Laemmli緩衝液を適切に添加し、タンパク質を95℃で15分間変性させた。
【0139】
5.3.SDS-PAGEゲルの調製
8mlの10%、%12又は15%分離ゲル溶液を80μlの10%APS及び8μlのTEMEDと混合した。溶液を混合した後、1.5mmスペーサーとショートプレートとの間にゲルをローディングした。次いで、イソプロパノールをゲル上に表面被覆した。分離ゲルの重合後、イソプロパノールを除去し、40μlの10%APS及び4μlのTEMEDを混合することによって4mlの4%濃縮ゲルを調製した。濃縮ゲルを分離ゲル上にローディングし、10ウェルコームを挿入した。濃縮ゲルの重合が完了したら、SDS-PAGEゲルをタンパク質ゲル電気泳動に用いた。
【0140】
5.4.タンパク質ゲル電気泳動
タンパク質をSDS-PAGEゲルにローディングして、タンパク質のkDaに従って分離した。SDS-PAGEキャストゲルを垂直タンパク質ゲル電気泳動槽に入れ、槽を泳動緩衝液で満たした。コームを慎重に取り出し、35μlの変性タンパク質試料を含むLeamli緩衝液及びタンパク質ラダーをウェルにローディングした。濃縮ゲルを通過するまで試料を70Vで泳動し、色素が分離ゲルの下部に達するまで120Vで泳動した。
【0141】
5.5.セミドライ転写
抗体ブロッティング用に、SDS-PAGEゲルのタンパク質をニトロセルロース膜に転写した。簡潔には、ニトロセルロース膜をメタノールで活性化し、膜及び2枚の濾紙を転写緩衝液で湿らせた。1枚の濾紙、膜、SDS-PAGEゲル及びもう1枚の濾紙をセミドライ転写装置にそれぞれ置いた。装置のカバーを閉じ、SDS-PAGEからニトロセルロース膜へのタンパク質の転写を10 Vで50分間完了させた。
【0142】
5.6.膜ブロッキング
タンパク質転写膜をプラスチック容器に入れ、検出抗体の非特異的結合を防止するために5%(重量/体積)スキムミルク粉末を含むTBS-Tで1時間ブロッキングした。
【0143】
5.7.抗体インキュベーション
5%(重量/体積)BSAを含むTBS-Tで一次抗体を希釈し、アジ化ナトリウムを抗体溶液に添加して4℃で微生物の増殖を阻害した。膜をブロッキングした後、膜をTBS-Tで5分間3回洗浄した。適切な希釈の一次抗体と膜を4℃で一晩インキュベーションした。調製した抗体希釈液を4℃で保持し、インキュベーション用に5~10回使用した。一次抗体とインキュベーションした膜をTBS-Tで5分間3回洗浄した。二次抗体溶液は、HRPコンジュゲート抗マウス又は抗ウサギ抗体1/2000(v/v)を、5%(重量/体積)スキムミルク粉末を含むTBS-Tで希釈することによって調製した。膜を二次抗体希釈物と室温で1時間インキュベーションした。
【0144】
5.8.タンパク質の可視化
二次抗体インキュベーション後、膜をTBS-Tで5分間3回洗浄し、膜は2mlの1:1混合ECLウェスタンブロッティング基質でoatであった。次いで、Syngene Gbox Chemi化学発光イメージングデバイスを使用して、膜上のタンパク質バンドを可視化した。
【0145】
6.細胞表面染色及びフローサイトメトリー分析
100万個の細胞をFACSチューブで3mlのFACS緩衝液で2回洗浄した。上清を捨て、5μlのFcブロッカー及び10μlの蛍光色素に結合した抗体を添加した。細胞を抗体と+4℃で30分間インキュベーションした。再度、細胞を3mlのFACS緩衝液で3回洗浄した。上清を捨て、細胞を1mlのFACS緩衝液に再懸濁した。細胞表面マーカーのアップレギュレーションをBD Acuri及びFlowJoソフトウェアで分析した。
本開示には以下の好ましい態様が含まれる。
(1)がん治療の方法に使用するための、ASCタンパク質によって形成されたASCスペック(ASC speck)を含む組成物。
(2)前記方法が、哺乳動物のがん疾患に対して免疫応答を誘導及び/又は刺激することを含み、該誘導又は刺激が、がん進行の抑制又はがん細胞の増殖停止を引き起こす、(1)に記載の使用のための組成物。
(3)前記がんが胸腺がんである、(1)又は(2)に記載の使用のための組成物。
(4)組成物が、腫瘍抗原をさらに含む、(1)~(3)のいずれかに記載の使用のための組成物。
(5)腫瘍抗原が、ASCスペックを形成するASCタンパク質と疎水性相互作用を形成することによって、ASCスペックによって担持される、(4)に記載の使用のための組成物。
(6)腫瘍抗原が、該腫瘍抗原とASCスペックを形成する少なくとも1つのASCタンパク質とによって形成される融合タンパク質の一部として、ASCスペックによって担持される、(4)に記載の使用のための組成物。
(7)腫瘍抗原が、N末端又はC末端でASCタンパク質と融合している、(6)に記載の使用のための組成物。
(8)腫瘍抗原が、ASCスペック内に担持される、(4)~(7)のいずれかに記載の使用のための組成物。
(9)がんが腫瘍を形成するがんであり、方法が、腫瘍進行の抑制又は腫瘍サイズの減少を含む、(1)~(8)のいずれかに記載の使用のための組成物。
(10)ASCスペック担体及び腫瘍抗原を含む、哺乳動物においてがんに対する免疫応答を生成するための組成物。
(11)腫瘍抗原が、該腫瘍抗原とASCスペックを形成する少なくとも1つのASCタンパク質とによって形成される融合タンパク質の一部としてASCスペック担体によって担持される、(10)に記載の組成物。
(12)がんの治療を必要とする哺乳動物に、ASCスペックを含む治療有効量の組成物を投与する工程を含む、がんを治療する方法。
(13)組成物が、週に一回投与される、(12)に記載の方法。
(14)組成物が、腫瘍抗原をさらに含む、(12)又は(13)に記載の方法。