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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-17
(45)【発行日】2025-04-25
(54)【発明の名称】結合剤
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/263 20060101AFI20250418BHJP
   C08L 33/14 20060101ALI20250418BHJP
   C08F 8/30 20060101ALI20250418BHJP
   D06M 13/35 20060101ALI20250418BHJP
   D06M 13/352 20060101ALI20250418BHJP
   D06M 13/11 20060101ALI20250418BHJP
   D06M 13/395 20060101ALI20250418BHJP
【FI】
D06M15/263
C08L33/14
C08F8/30
D06M13/35
D06M13/352
D06M13/11
D06M13/395
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021051895
(22)【出願日】2021-03-25
(65)【公開番号】P2022149647
(43)【公開日】2022-10-07
【審査請求日】2023-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(72)【発明者】
【氏名】松本 和明
(72)【発明者】
【氏名】柏原 宮人
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-006284(JP,A)
【文献】特開2006-057040(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 8/00 - 8/50
C08L 1/00 - 101/14
D06M 15/263
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)に由来する構造単位を有する重合体と、多官能アジリジン化合物、多官能オキサゾリン化合物、多官能エポキシ化合物及び多官能イソシアネート化合物からなる群から選択される1種以上の化合物を含む、繊維、繊維加工品または不織布を結合させるための結合剤。
【化1】

(一般式(1)中、R1は、炭素数1~4のアルキル基、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、またはアンモニウムを表す。)
【請求項2】
下記一般式(1)に由来する構造単位を有する重合体に、多官能アジリジン化合物、多官能オキサゾリン化合物、多官能エポキシ化合物及び多官能イソシアネート化合物からなる群から選択される1種以上の化合物に由来する構造単位を有する結合剤用重合体。
【化2】
(一般式(1)中、R1は、炭素数1~4のアルキル基、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、またはアンモニウムを表す。)
【請求項3】
請求項2に記載の結合剤用重合体に、多官能アジリジン化合物、多官能オキサゾリン化合物、多官能エポキシ化合物及び多官能イソシアネート化合物からなる群から選択される1種以上の化合物を含む結合剤。
【請求項4】
前記多官能エポキシ化合物が、多官能グリシジルエーテル化合物である請求項1または3に記載の結合剤。
【請求項5】
前記多官能イソシアネート化合物が、ブロックイソシアネート化合物である請求項1または3に記載の結合剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結合剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維に結合剤を付着させることによって、繊維に強度などの機能を高められることが知られており、ポリアクリル酸系ポリマーを無機塩と組み合わせた結合剤が利用されている(例えば、特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-158773号公報
【文献】特開平6-184285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のポリアクリル酸系ポリマーと無機塩を組み合わせた結合剤では、繊維強度を十分に高くすることができない課題があった。
【0005】
よって、本発明は、強度を有し、伸度が大きく、高い靭性を発現する結合剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成する為に種々検討を行ない、本発明に想到した。すなわち本開示は、下記一般式(1)に由来する構造単位を有する重合体と、多官能アジリジン化合物、多官能オキサゾリン化合物、多官能エポキシ化合物及び多官能イソシアネート化合物からなる群から選択される1種以上の化合物を含む結合剤である。
【0007】
【化1】
【0008】
(一般式(1)中、Rは、炭素数1~4のアルキル基、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、またはアンモニウムを表す。)
【発明の効果】
【0009】
本開示の結合剤は、高い強度を有し、さらに伸度をも両立させた機能を発揮させることができる。よって、繊維、繊維加工品、紙、フィルム、電子情報材料などの各種分野への応用が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0011】
[本開示の結合剤]
<一般式(1)で表される構造単位>
本開示の結合剤には重合体(以下、「本開示の重合体」とも言う。)を含み、前記重合体(以下RHMA系重合体という場合がある)は、下記一般式(1)に由来する構造単位を含む。
【0012】
【化2】
【0013】
(一般式(1)中、Rは、炭素数1~4のアルキル基、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、またはアンモニウムを表す。)
上記R1で表される炭素数1~4のアルキル基は、炭素数1~2のアルキル基であることが好ましく、炭素数1のアルキル基(メチル基)であることがより好ましい。
【0014】
で表されるアルカリ金属原子は、リチウム、ナトリウム、カリウムが好ましく、ナトリウム、カリウムがより好ましく、ナトリウムがより更に好ましい。
【0015】
で表されるアルカリ土類金属原子としては、カルシウム、マグネシウムなどが挙げられる。
【0016】
で表されるアンモニウムとは、NH4+に限られず、有機アンモニウムを含む意味であると定義される。有機アンモニウムとしては、テトラメチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウムなどのテトラアルキルアンモニウムなどの4級アンモニウム;アミンをプロトン化することによって形成されるアンモニウム(1~3級アンモニウム)などが挙げられる。Rとしては、アンモニア又はアミンのプロトン化によって形成されるアンモニウムが好ましい。前記アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミンなどのトリアルキルアミン(好ましくはトリC1-10アルキルアミン);ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのヒドロキシアルキルアミン(好ましくはジ又はトリ(ヒドロキシC1-10アルキル)アミンなど)などが挙げられ、ヒドロキシアルキルアミンが好ましい。
【0017】
上記一般式(1)で表される構造単位は、下記一般式(2)で表される単量体が重合反応を経由することにより形成されても良いが、他の方法で形成されても良い。例えば、一般式(2)において、Rが炭素数1~4のアルキル基である単量体を重合し、加水分解をすることにより、上記一般式(1)においてRがアルカリ金属の構造単位、アルカリ土類金属の構造単位、またはアンモニウムの構造単位を形成しても良い。
【0018】
【化3】
【0019】
(一般式(2)中、Rは、炭素数1~4のアルキル基、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、またはアンモニウムを表す。)
なお、上記一般式(2)において、Rは、1種であってもよく、2種以上であっても良い。Rが2種以上の場合、2種以上の上記一般式(2)で表される単量体を重合して形成してもよく、Rが炭素数1~4のアルキル基である上記一般式(2)で表される単量体を重合した後に、エステル基を部分加水分解したり、2種以上の塩基性物質で加水分解することにより形成しても良い。
【0020】
本開示の重合体には、上記一般式(1)で表される構造単位を30質量%以上含むことが好ましく、40質量%以上含むことがより好ましく、45質量%以上含むことがさらに好ましく、50質量%以上含むことがよりさらに好ましい。一方、本開示の重合体は、上記一般式(1)で表される構造単位を、99.9質量%以下含むことが好ましく、99質量%以下含むことがより好ましく、97質量%以下含むことがさらに好ましく、95質量%以下含むことが最も好ましい。上記範囲で含むことにより、pHや親水性などを調整することができるため、本開示の結合剤は、高強度で、伸度が大きい傾向にある。
【0021】
本開示の重合体には多層構造を有していてもよく、例えばコア部とその表面に設けられたシェル部で構成されるコアシェル構造であってもよい。
【0022】
<その他の単量体に由来する構造単位>
本開示の重合体には、上記一般式(1)で表される構造単位以外の単量体に由来する構造単位(以下、「その他の単量体に由来する構造単位」ともいう)を1種または2種以上含んでいても良い。すなわち、上記一般式(2)で表される単量体以外の単量体(以下、「その他の単量体」といもいう)に由来する構造単位を1種または2種以上含んでいても良い。
【0023】
その他単量体に由来する構造単位とは、例えば、その他単量体をラジカル重合することにより形成することができる。なお、その他単量体由来の構造単位は、その他単量体の炭素炭素二重結合が炭素炭素単結合に置き換わった構造と同じ構造であればよく、その他単量体が重合することにより形成された構造単位に限定されず、例えば重合後の反応により形成された構造単位であってもよい。
【0024】
その他単量体としては、特に限定されず、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル系モノマー;スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、tert-ブチルスチレン、クロロスチレン、ビニルトルエンなどのスチレン系単量体;(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、無水マレイン酸などのカルボキシル基含有単量体;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(メトキシエトキシ)シラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、2-スチリルエチルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルヒドロキシシラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルヒドロキシシランなどのシラン基含有単量体;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有単量体;(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N-ビニルピロリドン、(メタ)アクリロニトリル等の窒素原子含有単量体;エチレングリコールメトキシ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールメトキシ(メタ)アクリレートなどのオキソ基含有単量体;トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレートなどのフッ素原子含有単量体;2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-(メタ)アクリレート等の光安定化単量体;ベンゾトリアゾール系紫外線吸収性単量体、ベンゾフェノン系紫外線吸収性単量体などの紫外線吸収性単量体、多官能エチレン性不飽和単量体などが例示される。
【0025】
多官能エチレン性不飽和単量体としては、1種又は2種以上を使用でき、前記多官能エチレン性不飽和単量体が非加水分解性単量体であることが好ましい。また、後述のとおり、本発明で用いられる重合体に対して、水酸化ナトリウム水溶液、ジエタノールアミン水溶液、アンモニア水溶液、シクロヘキシルアミン水溶液等の塩基性水溶液を添加することで加水分解を行うことができるため、該非加水分解性単量体は耐塩基加水分解性を有することがより好ましい。該非加水分解性単量体は、炭素原子と水素原子のみから構成される多官能性単量体(炭化水素類)であることが好ましく、必要に応じてエーテル結合を有していてもよい。このエーテル結合を有していてもよい炭化水素類としての多官能性単量体を、本明細書では、エーテル結合を有していてもよい炭化水素系架橋剤と称する。該エーテル結合を有していてもよい炭化水素系架橋剤は、エチレン性不飽和結合を2以上有することが好ましく、エチレン性不飽和結合を2つ有することがさらに好ましい。エーテル結合を有していてもよい炭化水素系架橋剤としては、具体的には、ジビニルベンゼン;1,3-ブタジエン;トリビニルベンゼン;ジビニルナフタレン;トリビニルシクロヘキサン;ジビニルエーテル;ジアリルエーテル;多価メタクリル酸エステル等が挙げられる。好ましくは、ジビニルベンゼン;1,3-ブタジエン;ジアリルエーテル;多価メタクリル酸エステルであり、より好ましくは、ジビニルベンゼン;多価メタクリル酸エステルである。
【0026】
ジアリルエーテルとしては、例えば、ジエチレングリコールジアリルエーテル、ジプロピレングリコールジアリルエーテル、ジブチレングリコールジアリルエーテル等のジアルキレングリコールジアリルエーテル;ポリエチレングリコールジアリルエーテル、ポリプロピレングリコールジアリルエーテル、ポリブチレングリコールジアリルエーテル等のポリアルキレングリコールジアリルエーテルが挙げられる。また、多価メタクリル酸エステルとしては、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,3-ブタンジオールジメタクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、1,9-ノナンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリトリトールトリメタクリレート、ペンタエリトリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリトリトールヘキサメタクリレート、メタクリル変性ポリジメチルシロキサンなどが挙げられる。
【0027】
本開示の重合体には、多官能エチレン性不飽和単量体に由来する構造単位などの架橋性単位を含んでもよい。多官能エチレン性不飽和単量体に由来する構造単位は、全単量体単位100質量%中、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましく、0質量%であって(多官能エチレン性不飽和単量体由来の単量体単位を含まない)もよい。架橋されていると重合体は加水分解しても粒子形状を保ったままになるが、架橋度が高くなると柔軟性が失われ、繊維等への接着性が悪くなり、結合剤と繊維等との接触面積が小さくなるおそれがある。
【0028】
本開示の重合体は、粒子形状を有していても良い(以下、「本開示の重合体粒子」とも言う)。本開示の重合体粒子の好ましい粒子径は、体積平均粒子径が10nm~10μmであることが好ましく、50nm~5μmであることがより好ましく、100nm~1μmであることがさらに好ましく、150~850nmであることが特に好ましい。本開示の重合体の体積平均粒子径は、たとえば動的光散乱法により測定することができる。
本開示の重合体は、多層構造を有していてもよく、例えばコア部とその表面に設けられたシェル部で構成されるコアシェル構造であってもよい。
【0029】
本開示の重合体は、コア部とその表面に設けられたシェル部で構成されるコアシェル粒子であってもよく、コアシェル粒子である場合、シェル部が上記一般式(1)で表される構造単位を含む構成であることが好ましい。一方、コア部は単官能(メタ)アクリル系モノマーに由来する単量体単位が含まれていることが好ましい。単官能(メタ)アクリル系モノマーとしては、(メタ)アクリル酸の炭素数1~12のアルキルエステルが好ましく、(メタ)アクリル酸の炭素数1~4のアルキルエステルであることがより好ましい。単官能(メタ)アクリル系モノマーとして、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等が挙げられ、1種又は2種以上を使用できる。コア部は単官能(メタ)アクリル系モノマーに由来する単量体単位が50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、100質量%であることが特に好ましい。なお、コア部には上記一般式(1)で表される構造単位及び多官能エチレン性不飽和単量体に由来する構造単位が含まれていてもよく含まれていなくてもよい。
【0030】
コア部は単官能(メタ)アクリル系モノマー以外の単量体を含んでもよく、単官能(メタ)アクリル系モノマー以外の単量体としては、例えば、単官能スチレン系単量体が挙げられる。スチレン系単量体としては、例えば、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン、エチルビニルベンゼン、p-t-ブチルスチレン等のアルキルスチレン類;o-クロロスチレン、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン等のハロゲン基含有スチレン類等のスチレン系単官能単量体等が挙げられる。これらの単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
<多官能アジリジン化合物>
1分子中に1個以上のオキサゾリン基を有し、当該官能基と、さらに1個以上の反応性官能基を有する化合物をいう。反応性官能基としては、カルボキシ基、(メタ)アクリロイル基、アミノ基、ヒドロキシ基、芳香族ヒドロキシ基、チオール基、芳香族チオール基、アジリジン基、オキサゾリン基、エポキシ基、イソシアネート基、カルボジイミド基等が挙げられる。
【0032】
多官能アジリジン化合物としては、N,N’-ジフェニルメタン-4,4’-ビス(1-アジリジンカルボキサイト)、N,N’-トルエン-2,4-ビス(1-アジリジンカルボキサイト)、ビスイソフタロイル-1-(2-メチルアジリジン)、トリ-1-アジリジニルホスフィンオキサイド、N,N’-ヘキサメチレン-1,6-ビス(1-アジリジンカルボキサイト)、トリメチロールプロパン-トリ-β-アジリジニルプロピオネート、テトラメチロールメタン-トリ-β-アジリジニルプロピオネート、トリス-2,4,6-(1-アジリジニル)-1、3、5-トリアジン、トリメチロールプロパントリス[3-(1-アジリジニル)プロピオネート]、トリメチロールプロパントリス[3-(1-アジリジニル)ブチレート]、トリメチロールプロパントリス[3-(1-(2-メチル)アジリジニル)プロピオネート]、トリメチロールプロパントリス[3-(1-アジリジニル)-2-メチルプロピオネート]、2,2’-ビスヒドロキシメチルブタノールトリス[3-(1-アジリジニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトールテトラ[3-(1-アジリジニル)プロピオネート]、ジフェニルメタン-4,4-ビス-N,N’-エチレンウレア、1,6-ヘキサメチレンビス-N,N’-エチレンウレア、2,4,6-(トリエチレンイミノ)-Syn-トリアジン、ビス[1-(2-エチル)アジリジニル]ベンゼン-1,3-カルボン酸アミド、アジリジン基含有ポリマー等が挙げられる。
【0033】
<多官能オキサゾリン化合物>
1分子中に1個以上のオキサゾリン基を有し、当該官能基と、さらに1個以上の反応性官能基を有する化合物をいう。反応性官能基としては、カルボキシ基、(メタ)アクリロイル基、アミノ基、ヒドロキシ基、芳香族ヒドロキシ基、チオール基、芳香族チオール基、アジリジン基、オキサゾリン基、エポキシ基、イソシアネート基、カルボジイミド基等が挙げられる。
【0034】
多官能オキサゾリン化合物としては、2’-メチレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-エチレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-エチレンビス(4-メチル-2-オキサゾリン)、2,2’-プロピレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-テトラメチレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-ヘキサメチレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-オクタメチレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-p-フェニレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-p-フェニレンビス(4,4’-ジメチル-2-オキサゾリン)、2,2’-p-フェニレンビス(4-メチル-2-オキサゾリン)、2,2’-p-フェニレンビス(4-フェニル-2-オキサゾリン)、2,2’-m-フェニレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-m-フェニレンビス(4-メチル-2-オキサゾリン)、2,2’-m-フェニレンビス(4,4’-ジメチル-2-オキサゾリン)、2,2’-m-フェニレンビス(4-フェニレンビス-2-オキサゾリン)、2,2’-o-フェニレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-o-フェニレンビス(4-メチル-2-オキサゾリン)、2,2’-ビス(2-オキサゾリン)、2,2’-ビス(4-メチル-2-オキサゾリン)、2,2’-ビス(4-エチル-2-オキサゾリン)、2,2’-ビス(4-フェニル-2-オキサゾリン)、オキサゾリン基含有ポリマーが挙げられる。
【0035】
<多官能エポキシ化合物>
1分子中に1個以上のエポキシ基を有し、当該官能基と、さらに1個以上の反応性官能基を有する化合物をいう。反応性官能基としては、カルボキシ基、(メタ)アクリロイル基、アミノ基、ヒドロキシ基、芳香族ヒドロキシ基、チオール基、芳香族チオール基、アジリジン基、オキサゾリン基、エポキシ基、イソシアネート基、カルボジイミド基等が挙げられる。
【0036】
多官能エポキシ化合物としては、芳香族エポキシ化合物、脂肪族エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物、水添エポキシ化合物が挙げられる。好ましくは、脂環式エポキシ化合物と脂肪族エポキシ化合物であり、より好ましくは、脂環式グリシジルエーテル化合物と脂肪族グリシジルエーテル化合物である。
【0037】
脂環式グリシジルエーテル化合物としては、例えば、ジシクロペンタジエンジメタノールジグリシジルエーテル、アダマンタンジメタノールジグリシジルエーテル、1,2-ビス(グリシジルオキシ)シクロヘキサン、1,3-ビス(グリシジルオキシ)シクロヘキサン、1,4-ビス(グリシジルオキシ)シクロヘキサン、1,4-ビス(グリシジルオキシ)デカリン、1,6-ビス(グリシジルオキシ)デカリン、1,4-ビス(グリシジルオキシメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(グリシジルオキシブチル)シクロヘキサン、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジグリシジルエステル、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸ジグリシジルエステル、1,3,5-シクロヘキサントリカルボン酸トリグリシジルエステル等が挙げられる。
【0038】
脂肪族グリシジルエーテル化合物としては、例えば、エチレングルコールのジグリシジルエーテル、プロピレングリコールのジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールのジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールのジグリシジルエーテル、グリセリンのジあるいはトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンのジあるいはトリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールのテトラグリシジルエーテル、ドデカヒドロビスフェノールAのジグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0039】
市販品としては、例えば、ソルビトールポリグリシジルエーテル(例えば、「デナコールEX-612」、「デナコールEX-614」、「デナコールEX-622」、ナガセケムテックス(株)製)、グリセロールポリグリシジルエーテル(例えば、「デナコールEX-314」、ナガセケムテックス(株)製)、ジグリセロールポリグリシジルエーテル(例えば、「デナコールEX-421」、ナガセケムテックス(株)製)、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル(例えば、「デナコールEX-521」、ナガセケムテックス(株)製)、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル(例えば、「デナコールEX-411」、ナガセケムテックス(株)製)、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル(例えば、「デナコールEX-321」、ナガセケムテックス(株)製)、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル(例えば、「デナコールEX-211」、ナガセケムテックス(株)製)、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル(例えば、「デナコールEX-212」、ナガセケムテックス(株)製)、エチレングリコールジグリシジルエーテル(例えば、「デナコールEX-811」、ナガセケムテックス(株)製)、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル(例えば、「デナコールEX-851」、ナガセケムテックス(株)製)、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(例えば、「デナコールEX-821」、「デナコールEX-830」、「デナコールEX-832」、「デナコールEX-841」、「デナコールEX-861」、ナガセケムテックス(株)製)、プロピレングリコールジグリシジルエーテル(例えば、「デナコールEX-911」、ナガセケムテックス(株)製)、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル(例えば、「デナコールEX-941」、「デナコールルEX-920」、「デナコールEX-931」、ナガセケムテックス(株)製)等が挙げられる。
【0040】
<多官能イソシアネート化合物>
1分子中に1個以上のイソシアネート基を有し、当該官能基と、さらに1個以上の反応性官能基有する化合物をいう。反応性官能基としては、カルボキシ基、(メタ)アクリロイル基、アミノ基、ヒドロキシ基、芳香族ヒドロキシ基、チオール基、芳香族チオール基、アジリジン基、オキサゾリン基、エポキシ基、イソシアネート基、カルボジイミド基等が挙げられる。
【0041】
多官能イソシアネート化合物としては、芳香族ジイソシアネート化合物、脂環族ジイソシアネート化合物、脂肪族ジイソシアネート化合物等のジイソシアネート化合物;アダクトポリイソシアネート化合物;ビュレットポリイソシアネート化合物;イソシアヌレート環を有するポリイソシアネート化合物等が挙げられる。好ましくは、芳香族ジイソシアネート化合物、脂環族ジイソシアネート化合物、脂肪族ジイソシアネート化合物である。
【0042】
芳香族ジイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、2,2′-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4′-ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、4,4′-ジベンジルジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0043】
脂環族ジイソシアネート化合物としては、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、4,4′-シクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン等が挙げられる。
【0044】
脂肪族ジイソシアネート化合物としては、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、1,4-ブタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2-メチルペンタン-1,5-ジイソシアネート、3-メチルペンタン-1,5-ジイソシアネート等が挙げられる。
【0045】
多官能イソシアネート化合物としては、安定性の点から、イソシアネート基を、活性水素を有するマスク剤と反応させて不活性化した、いわゆるブロックイソシアネートが好ましい。例えば、市販品としては、DM-6400、メイカネートDM-3031CONC、メイカネートDM-35HC、メイカネートTP-10、メイカネートCX、SU-268A、NBP-8730、NBP-211[明成化学工業(株)製]、エラストロンBN-69、BN-77、BN-27、BN-11、BN-44、BN-04、BN-08、E-37、H-3-DF、H-15、BAP、NEW BAP、F-29、W-11P、MF-25K[第一工業製薬(株)製]、タケネートWB-700、WB-770、WB-920[三井化学ポリウレタン(株)製]、カレンズMOI-BM、MOI-BP[昭和電工(株)製]、デュラネートMF-K60B、SBN-70D、MF-B60B、MF-B90B、17B-60P、TPA-B80B、TPA-B80E、E402-B80B[旭化成ケミカルズ(株)製]、BI-7950、BI-7951、BI-7960、BI-7961、BI-7963、BI-7982、BI-7991、BI-7992[Baxenden(株)製]、IPDI-B1065、IPDI-B1530、IPDI-BF1540[ヒルス(HULS)(株)製]、バーノックB7-887-60、B3-867、DB980K[大日本インキ(株)製]、デスモジュールBL1100/1、スミジュールBL3175、デスモジュールBL3272MPA、デスモジュールBL3475BA/SN、デスモジュールBL3575/1MPA/SN[住友バイエルウレタン(株)製]及び3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチルウレア「DCMU」[保土谷化学(株)製]等が挙げられる。
【0046】
本開示の重合体には、上記一般式(1)で表される構造単位以外に多官能アジリジン化合物、多官能オキサゾリン化合物、多官能エポキシ化合物及び多官能イソシアネート化合物からなる群から選択される1種以上の化合物に由来する構造単位を(以下、「多官能化合物に由来する構造単位」ともいう)を1種または2種以上含んでいても良い。
【0047】
本開示の重合体には、多官能アジリジン化合物、多官能オキサゾリン化合物、多官能エポキシ化合物及び多官能イソシアネート化合物からなる群から選択される1種以上の化合物に由来する構造単位を1質量%以上含むことが好ましく、5%以上含むことがより好ましく、10質量%以上含むことがさらに好ましい。一方、本開示の重合体には、多官能アジリジン化合物、多官能オキサゾリン化合物、多官能エポキシ化合物及び多官能イソシアネート化合物からなる群から選択される1種以上の化合物に由来する構造単位を50質量%以下含むことが好ましく、40質量%以下含むことがより好ましく、30質量%以下含むことがさらに好ましい。上記範囲に含むことにより、高強度で、伸度が大きい傾向にある。
【0048】
本開示の結合剤は、多官能アジリジン化合物、多官能オキサゾリン化合物、多官能エポキシ化合物及び多官能イソシアネート化合物からなる群から選択される1種以上の化合物に由来する構造単位を0.5質量%以上含むことが好ましく、5質量%以上含むことがより好ましく、10質量%以上含むことがさらに好ましい。一方、本開示の重合体には、多官能アジリジン化合物、多官能オキサゾリン化合物、多官能エポキシ化合物及び多官能イソシアネート化合物からなる群から選択される1種以上の化合物に由来する構造単位を50質量%以下含むことが好ましく、40質量%以下含むことがより好ましく、30質量%以下含むことがさらに好ましい。上記範囲に含むことにより、高い靭性が発現する傾向にある。
【0049】
[本開示の結合剤の製造方法]
<重合方法>
RHMA系重合体は、上記式(2)で表される単量体のうち、R1が炭素数1~4のアルキル基であるもの(以下、ヒドロキシメチルアクリル酸エステルという)を少なくとも1種を水系溶媒中で重合し、必要に応じ、部分的に又は完全に加水分解してR1に該当する部分の一部又は全部を、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アンモニウムなどに変換することにより得られる。ヒドロキシメチルアクリル酸エステルにその他単量体(以下、これらをまとめて「原料単量体成分」という場合がある)を含めて重合してもよい。ヒドロキシメチルアクリル酸エステルを原料モノマーとして用いると、水系溶媒中で重合しても、生成物を粒子状にすることができる。
【0050】
重合方法としては、懸濁重合、乳化重合、分散重合等が挙げられる。中でも、乳化剤の存在下、上記原料単量体成分を反応溶媒に分散させて(ラジカル)重合反応を行う乳化重合が好ましく、具体的には、本発明の重合体の製造方法としては、乳化剤の存在下、上記式(2)で示される単量体の少なくとも1種を水系溶媒に分散させて重合反応を行う乳化重合を含むことが好ましい。乳化重合は、1段階のみで行ってもよく多段階で行ってもよい。
【0051】
前記乳化剤としては、1種又は2種以上を用いることができ、非反応型界面活性剤であっても、ラジカル重合可能な基を構造中に有する反応型界面活性剤であってもよい。
【0052】
非反応型界面活性剤には、アニオン性、ノニオン性の界面活性剤が包含される。アニオン性界面活性剤としては、脂肪酸塩、アルキル(アリル)スルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキル(フェニル)エーテル硫酸塩等が挙げられ、ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキル(フェニル)エーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー等が挙げられる。
【0053】
反応型界面活性剤には、アニオン性、ノニオン性の界面活性剤が包含される。アニオン性反応型界面活性剤としては、エーテルサルフェート型反応型界面活性剤、リン酸エステル系反応型界面活性剤が挙げられるが、これに限定されない。
【0054】
乳化剤は、原料単量体成分の合計100質量部に対して、0.05質量部以上であることが好ましく、より好ましくは0.1質量部以上、さらに好ましくは0.3質量部以上であり、20質量部以下であることが好ましく、より好ましくは10質量部以下、さらに好ましくは5質量部以下、特に好ましくは3質量部以下である。
【0055】
本開示において、水系溶媒とは、水単独、または水と水混和性有機溶媒との混合溶媒が挙げられるが、水単独であることが好ましい。水系溶媒とは、典型的には、水の含有量が50体積%を超える溶媒を指す。水としては、イオン交換水(脱イオン水)、蒸留水、純水等を用いることができる。水混和性有機溶媒としては、水と均一に混合し得る有機溶剤(低級アルコール等)を用いることができる。重合体中に有機溶媒が極力残存しないようにする観点から、水系溶媒の80体積%以上が水である水系溶媒が好ましく、水系溶媒の90体積%以上が水である水系溶媒がより好ましく、水系溶媒の95体積%以上が水である水系溶媒がさらに好ましく、実質的に水からなる水系溶媒(99.5体積%以上が水である水系溶媒)が特に好ましく、水単独であることが最も好ましい。
【0056】
原料単量体成分を重合する際には、例えば、重合開始剤、紫外線や放射線の照射、熱の印加等の手段が用いられ、重合開始剤を使用することが好ましく、原料単量体成分を効率よく反応させ、残存するモノマーを十分に低減させる観点から、酸化剤及び還元剤を組み合わせた重合開始剤(レドックス型重合開始剤)が好ましい。
【0057】
本開示の重合体の加水分解は、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、アンモニア水溶液、シクロヘキシルアミン水溶液等の塩基性水溶液を添加することで加水分解を行うことができる。さらに、加水分解液に適宜酸を添加することで、部分中和又は完全中和を行うことができる。加水分解及び中和を行うことで、上記一般式(1)のR1に該当する基を水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ金属原子またはアンモニウムにできる。重合時、加水分解時、及び中和時に用いる酸や塩基の量を調整したり、R1が水素原子である単量体単位の割合を調整することで、重合体のpHや親水性を調整することができ、結合剤としての操作性や、被結合剤へ均一に分散させ易くする傾向にある。
【0058】
<水分散体>
上述した水中に前記重合体を分散させた水分散体とすることにより、前記重合体を水に分散させた状態(水分散体)とした結合剤も本発明の範囲に包含される。前記水分散体は、前記重合体が、ヒドロキシメチル基を有しており、親水性に優れている。また水に対する分散性が良好であり、分散体としての高い貯蔵安定性を有し、さらに容易に加水分解を行うことが可能である。加水分解及びその後、必要に応じて中和を行う場合、水分散体に含まれている重合体に対して、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、アンモニア水溶液、ジエタノールアミン水溶液、シクロヘキシルアミン水溶液等の塩基性水溶液を添加することで加水分解を行うことができる。さらに、加水分解液に適宜酸を添加することで、部分中和又は完全中和を行うことができる。加水分解及び中和を行うことで、上記一般式(1)のR1に該当する基を水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、またはアンモニウムにできる。重合時、加水分解時、及び中和時に用いる酸や塩基の量を調整したり、R1が水素原子である単量体単位の割合を調整することで、前記重合体の体積平均粒子径を容易に調整することができるため、結合剤を幅広い用途で用いることができる。
【0059】
水分散体は、前記重合体を5質量%以上含むことが好ましく、10質量%以上含むことがより好ましく、100質量%以下含むことが好ましく、50質量%以下含むことがより好ましい。
【0060】
水分散体に含まれる前記重合体の体積平均粒子径は10nm~10μmであることが好ましく、50nm~5μmであることがより好ましく、100nm~1μmであることがさらに好ましく、150~850nmであることが特に好ましい。水分散体に含まれる重合体の体積平均粒子径は動的光散乱法により測定した。
【0061】
[本開示の結合剤の用途]
本発明で用いられる結合剤の用途は限定されない。引張強度と伸度とを両立させた機能から、繊維、繊維加工品、不織布、シート、紙、バインダー、塗料、接着剤、増粘剤、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、各種フィルム、電子情報材料、触媒担体、断熱材料、低反射材料などの各種分野への応用が可能となる。
【実施例
【0062】
[重合体の合成]
<製造例1>
攪拌機、温度計及び冷却管を備えたステンレス製の反応釜に、脱イオン水804.8質量部、及びエーテルサルフェート型アンモニウム塩を主成分とするアニオン性反応型界面活性剤アデカリアソープSR-20(有効成分100質量%、ADEKA社製)をイオン交換水で有効成分25.0質量%に希釈したもの(以下、「SR-20(有効成分25.0質量%)」という)0.72質量部を加え、内温を75℃まで昇温し、同温度に保った。滴下ロートAにメチルメタクリレート(以下「MMA」と称する)67.5質量部、n-ブチルアクリレート(以下「BA」と称する)67.5質量部、SR-20(有効成分25.0質量%)11.0質量部、及び脱イオン水124.0質量部とを投入して、滴下ロート内で滴下用プレエマルションAを調製した。滴下ロートBに2-ヒドロキシメチルアクリル酸メチル(以下「RHMA」と称する)135.0質量部、ジビニルベンゼン(日鉄ケミカル&マテリアル社製、ジビニルベンゼン純度81%、以下「DVB810」と称する)15.0質量部、SR-20(有効成分25.0質量%)12.3質量部、アンモニア水溶液(濃度28質量%)0.27質量部、及び脱イオン水137.5質量部を投入して、滴下ロート内で滴下用プレエマルションBを調製した。滴下ロートCに過酸化水素水(濃度0.61質量%)320質量部を投入した。滴下ロートDにL-アスコルビン酸水溶液(濃度0.92質量%)320質量部を投入した。
【0063】
次に、反応釜内を窒素ガスで置換した後、MMA7.5質量部とBA7.5質量部の混合単量体組成物15.0質量部、過酸化水素水(濃度0.25質量%)20質量部、及びL-アスコルビン酸水溶液(濃度0.38質量%)20質量部を反応釜内に添加して、初期重合反応を行った。続いて、滴下ロートAから滴下用プレエマルションAを60分間、滴下ロートBから滴下用プレエマルションBを180分間、滴下ロートCから過酸化水素水を240分間、滴下ロートDからL-アスコルビン酸水溶液を240分間滴下した。なお、滴下用プレエマルションBは、滴下用プレエマルションAの滴下が完了した直後に滴下を開始した。
【0064】
滴下終了後、反応釜の内温を75℃に保持し、同温度で2時間保持して熟成した後、反応溶液を冷却して、重合体粒子が分散した重合体粒子分散体を得た。
前記で得られた重合体粒子水分散体280.0質量部、及び塩基性水溶液として水酸化ナトリウム水溶液(濃度20.0質量%)23.6質量部を混合し、25℃で終夜撹拌することにより、部分的に加水分解された重合体粒子(1)が分散した重合体粒子水分散体(1a)を得た。この際、重合体粒子水分散体中のRHMAのモル数に対し、加えた水酸化ナトリウムのモル数の割合は75%であった。また、体積平均粒子径は339nmであった。
【0065】
<製造例2>
製造例1において加水分解時の塩基性水溶液をアンモニア水溶液(濃度25.0質量%)8.0質量部に変更したこと以外は、製造例1と同様にして重合体粒子(2)および重合体粒子(2)が分散した重合体粒子水分散体(2a)を得た。この際、重合体粒子水分散体中のRHMAのモル数に対し、加えたアンモニアのモル数の割合は75%であった。また、体積平均粒子径は391nmであった。
【0066】
<製造例3>
攪拌機、温度計及び冷却管を備えたステンレス製の反応釜に、脱イオン水836.8質量部、及びSR-20(有効成分25.0質量%)3.84質量部を加え、内温を75℃まで昇温し、同温度に保った。滴下ロートAにRHMA80.0質量部、BA48.0質量部、及び2-[(3,5-ジメチルピラゾリル)カルボニルアミノ]エチルメタクリレート(昭和電工社製、カレンズMOI-BM、以下「MOI-BM」と称する)32.0質量部を投入して、滴下ロート内で滴下用混合単量体組成物を調製した。滴下ロートBに過酸化水素水(濃度1.07質量%)100質量部を投入した。滴下ロートCにL-アスコルビン酸水溶液(濃度1.60質量%)100質量部を投入した。滴下ロートDにSR-20(有効成分25.0質量%)12.2質量部、アンモニア水溶液(濃度28質量%)0.36質量部、及び脱イオン水87.4質量部を投入して、滴下ロート内で乳化剤水溶液を調製した。
次に、反応釜内を窒素ガスで置換した後、RHMA20.0質量部、BA12.0質量部、及びMOI-BM8.0質量部の混合単量体組成物40.0質量部、過酸化水素水(濃度1.34質量%)20質量部、及びL-アスコルビン酸水溶液(濃度2.00質量%)20質量部を反応釜内に添加して、初期重合反応を行った。続いて、滴下ロートAから滴下用混合単量体を240分間、滴下ロートBから過酸化水素水を240分間、滴下ロートCからL-アスコルビン酸水溶液を240分間、滴下ロートDから乳化剤水溶液を240分間滴下した。
滴下終了後、反応釜の内温を75℃に保持し、同温度で2時間保持して熟成した後、反応溶液を冷却して、重合体粒子が分散した重合体粒子分散体を得た。
前記で得られた重合体粒子水分散体280.0質量部、及び塩基性水溶液として水酸化ナトリウム水溶液(濃度20.0質量%)26.2質量部を混合し、25℃で終夜撹拌することにより、部分的に加水分解された重合体粒子と部分的に加水分解されて水溶性となった重合体の混合物(3)が分散した重合体粒子水分散体(3a)を得た。この際、重合体粒子水分散体中のRHMAのモル数に対し、加えた水酸化ナトリウムのモル数の割合は75%であった。また、体積平均粒子径は665nmであった。
【0067】
<製造例4>
製造例3において加水分解時の塩基性水溶液をアンモニア水溶液(濃度25.0質量%)8.9質量部に変更したこと以外は、製造例3と同様にして部分的に加水分解された重合体粒子と部分的に加水分解されて水溶性となった重合体の混合物(4)および混合物(4)が分散した重合体粒子水分散体(4a)を得た。この際、重合体粒子水分散体中のRHMAのモル数に対し、加えたアンモニアのモル数の割合は75%であった。また、体積平均粒子径は130nmであった。
【0068】
<製造例5>
富士フィルム和光純薬社製ポリアクリル酸(平均分子量約5,000)に脱イオン水を加え、濃度が5質量%となるように溶解した。得られたポリアクリル酸水溶液に、ポリアクリル酸のカルボキシ基に対して水酸化ナトリウムが25モル%となるように濃度10質量%の水酸化ナトリウム水溶液を加え、25℃で終夜攪拌することにより、部分的に中和されたポリアクリル酸水溶液を得た。
【0069】
<製造例6>
還流冷却機、攪拌機、温度計を備えた容量0.5リットルのガラス製セパラブルフラスコに、脱イオン水200.3gを仕込み(初期仕込)、攪拌下、沸点まで昇温した。次いで、攪拌下、沸点還流状態の重合反応系中に、80%アクリル酸(以下「80%AA」と称する。)118.9g(1.32mol)を180分間、2-ヒドロキシエチルアクリレート(以下「HEA」と称する。)102.1g(0.88mol)を180分間、5%過硫酸ナトリウム(以下、「NaPS」と称する。)34.1gを195分間、15%次亜リン酸ナトリウム(以下、「SHP」と称する。)13.0gを18分間とさらに続いて52.0gを162分間と2段階の供給速度で、それぞれ別々の供給経路を通じて先端ノズルより滴下した。それぞれの成分の滴下は、15%SHP以外は一定の滴下速度で連続的に行った。80%AAの滴下終了後、さらに30分間に渡って反応溶液を沸点還流状態に保持(熟成)した。得られた重合体水溶液の固形分は40.9%、重量平均分子量(Mw)は4900であった。
前記で得られたアクリル酸系共重合体水溶液280.0質量部、及び塩基性水溶液として水酸化ナトリウム水溶液(濃度20質量%)47.7質量部を混合し、25℃で終夜撹拌することにより、部分的に中和されたポリアクリル酸系共重合体(X)を得た。この際、アクリル酸系共重合体水溶液中のアクリル酸のモル数に対し、加えた水酸化ナトリウムのモル数の割合は25%であった。
【0070】
<体積平均粒子径>
微粒子分散体をイオン交換水で希釈したものを光散乱粒度分布測定機(スペクトリス社製「Zetasizer Ultra」)を用いて測定して、動的光散乱法により微粒子の体積平均粒子径(nm)を求めた。
<重量平均分子量>
重量平均分子量(Mw)は、下記条件にて測定した。
装置:東ソー製 HLC-8320GPC
検出器:RI
カラム:東ソー製 TSK-GEL G3000PWXL
カラム温度:35℃
流速:0.5ml/min
検量線:創和科学社製 POLY SODIUM ACRYLATE STANDARD
溶離液:リン酸二水素ナトリウム12水和物/リン酸水素二ナトリウム2水和物(34.5g/46.2g)の混合物を純水にて5000gに希釈した溶液。
【0071】
<引張強度>
引張試験機(島津製作所社製「AUTOGRAPH AG-1kNXPlus」)を用い、試験長さが180mmとなるように試験片をつかみ具にはさみ、20mm/minの速度で引張試験を実施した。
【0072】
下記式に従い、試験片が破断した時点の最大試験力から引張強度を求めた。
【0073】
下記式に従い、試験片が破断した時点の変位から伸び率を求めた。
【0074】
<参考例1>
半紙(マルアイ社製 雪の子半紙 膜厚50μm)を、横幅15mm、長さ250mmに切り出し、試験片0を作製した。試験片0に対して上述の引張強度を測定した。測定結果を表1に示した。
<実施例1>
重合体粒子の濃度が1質量%となるように製造例1で得られた重合体粒子分散体(1a)をイオン交換水で希釈した。続いて、重合体粒子に対して20質量%となるように、水系ポリイソシアネート系架橋剤エラストロンBN-69(第一工業製薬社製)を加え、十分に攪拌した。得られた液をバットに展開し、そこへ目開き500μmのステンレスメッシュガイドに挟みこんだ半紙(マルアイ社製 雪の子半紙 膜厚50μm)を静かに浸した。1分間浸漬した後、ステンレスメッシュガイドごと濾紙を引き上げ、希釈した液が滴り落ちなくなるまで液を切った。ステンレスメッシュガイドごと送風定温恒温器(ヤマト科学社製「DNF400」)にて150℃で15分間乾燥した。その後、ステンレスメッシュガイドを外し、濾紙を横幅15mm、長さ250mmに切り出し、試験片1を作製した。
試験片1に対して上述の引張試験を行った。また、結合剤を付着させたことによる強度向上効果並びに伸び率向上効果を、以下の式に基づき算出した。算出結果を表1に示した。
【0075】
<実施例2~9、比較例1~9>
製造例1で得られた微粒子分散体(1a)に代えて、製造例2~4の微粒子分散体、製造例5・6の水溶性ポリマー水溶液、水系ポリイソシアネート系架橋剤エラストロンBN-69(第一工業製薬社製)、特殊エポキシ化合物デナコールEX-614B(ナガセケムテックス社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様に引張強度及び伸び率を測定した。測定結果を表1に示した。また、強度向上効果並びに伸び率向上効果も実施例1と同様に算出し、算出結果を表1に示した。
【0076】
【表1】
【0077】
表1の結果から、本開示の結合剤には、高い強度および伸度を両立させた機能を発現することが明らかとなった。