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特許7668685吸収量推定システム、吸収量推定方法、吸収量推定プログラムおよび算出システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-17
(45)【発行日】2025-04-25
(54)【発明の名称】吸収量推定システム、吸収量推定方法、吸収量推定プログラムおよび算出システム
(51)【国際特許分類】
   G01W 1/00 20060101AFI20250418BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20250418BHJP
【FI】
G01W1/00 Z
A01G7/00 603
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021102154
(22)【出願日】2021-06-21
(65)【公開番号】P2023001437
(43)【公開日】2023-01-06
【審査請求日】2024-03-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002491
【氏名又は名称】弁理士法人クロスボーダー特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀧口 純一
(72)【発明者】
【氏名】栗秋 俊祐
(72)【発明者】
【氏名】和田 健太郎
【審査官】嵯峨根 多美
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-085755(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0179078(US,A1)
【文献】小司 禎教 他,GPS 気象学:GPS 水蒸気情報システムの構築と気象学・測地学・水文学への応用に関する研究,測地学会誌,第55巻第1号,2009年03月23日,https://www.jstage.jst.go.jp/article/sokuchi/55/1/55_1_17/_pdf/-char/ja,[検索日2024年10月14日]
【文献】森 牧人 他,GPS可降水量を用いた月蒸発散位の推定,農業農村工学会論文集,第250巻,2007年08月,7-15頁,https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsidre2007/2007/250/2007_250_353/_pdf/-char/ja,[検索日2024年10月14日]
【文献】光田 靖 他,森林炭素動態シミュレーションシステムを用いた気候変動が森林炭素吸収量に及ぼす影響評価の試行,統計数理,2013年,第61巻 第2号,P.181-188
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 2/00-2/38
5/00-7/06
9/28
17/00-17/02
17/18
20/00-22/67
24/00-24/60
G01N 33/00-33/46
G01W 1/00- 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
観測領域の上方の三次元グリッドに対して各グリッド点のスラント方向遅延量を示す遅延量データと、前記観測領域の各地域の気象観測量を示す気象観測データと、に基づいて、前記三次元グリッドに対して各グリッドマスの可降水量を算出する可降水量算出部と、
各グリッドマスの可降水量に基づいて、前記観測領域の表面の二次元メッシュに対して、矩形領域である各メッシュマスの鉛直上方の蒸発散位を算出する蒸発散位算出部と、
前記観測領域が映った衛星画像に基づいて、前記観測領域の森林区域ごとに森林の特徴を特定する森林特徴特定部と、
森林区域ごとに、森林の特徴に基づいて、土壌からの蒸発量と樹木からの蒸散量の比である蒸発散比を算出する蒸発散比算出部と、
森林区域ごとに、対応するメッシュマスの蒸発散位と、前記蒸発散比と、に基づいて、二酸化炭素の吸収量を算出する吸収量算出部と、
を備える吸収量推定システム。
【請求項2】
前記吸収量推定システムは、さらに、
レンジング信号を発信する複数の測位衛星と、
前記観測領域の異なる地点に配置される複数の受信機と、を備え、
前記複数の受信機のそれぞれは、測位衛星ごとに、スラント方向遅延量を算出し、
前記可降水量算出部は、各スラント方向遅延量を各グリッド点に投影して各グリッド点のスラント方向遅延量を算出し、前記遅延量データを生成する
請求項1に記載の吸収量推定システム。
【請求項3】
前記森林特徴特定部は、前記衛星画像を2次元メッシュで区切り、前記衛星画像を解析することによって各森林区域に相当するメッシュマスを特定し、前記衛星画像を解析することによって各森林区域の森林の特徴を特定する
請求項1または請求項2に記載の吸収量推定システム。
【請求項4】
前記吸収量算出部は、前記蒸発散位に前記蒸発散比を掛けて蒸散量を算出し、算出された蒸散量に比例パラメータを掛けて前記吸収量を算出する
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の吸収量推定システム。
【請求項5】
観測領域の上方の三次元グリッドに対して各グリッド点のスラント方向遅延量を示す遅延量データと、前記観測領域の各地域の気象観測量を示す気象観測データと、に基づいて、前記三次元グリッドに対して各グリッドマスの可降水量を算出し、
各グリッドマスの可降水量に基づいて、前記観測領域の表面の二次元メッシュに対して、矩形領域である各メッシュマスの鉛直上方の蒸発散位を算出し、
前記観測領域が映った衛星画像に基づいて、前記観測領域の森林区域ごとに森林の特徴を特定し、
森林区域ごとに、森林の特徴に基づいて、土壌からの蒸発量と樹木からの蒸散量の比である蒸発散比を算出し、
森林区域ごとに、対応するメッシュマスの蒸発散位と、前記蒸発散比と、に基づいて、二酸化炭素の吸収量を算出する
吸収量推定方法。
【請求項6】
観測領域の上方の三次元グリッドに対して各グリッド点のスラント方向遅延量を示す遅延量データと、前記観測領域の各地域の気象観測量を示す気象観測データと、に基づいて、前記三次元グリッドに対して各グリッドマスの可降水量を算出する可降水量算出部と、
各グリッドマスの可降水量に基づいて、前記観測領域の表面の二次元メッシュに対して、矩形領域である各メッシュマスの鉛直上方の蒸発散位を算出する蒸発散位算出部と、
前記観測領域が映った衛星画像に基づいて、前記観測領域の森林区域ごとに森林の特徴を特定する森林特徴特定部と、
森林区域ごとに、森林の特徴に基づいて、土壌からの蒸発量と樹木からの蒸散量の比である蒸発散比を算出する蒸発散比算出部と、
森林区域ごとに、対応するメッシュマスの蒸発散位と、前記蒸発散比と、に基づいて、二酸化炭素の吸収量を算出する吸収量算出部として、
コンピュータを機能させるための吸収量推定プログラム。
【請求項7】
観測領域の上方の三次元グリッドに対して各グリッド点のスラント方向遅延量を示す遅延量データと、前記観測領域の各地域の気象観測量を示す気象観測データと、に基づいて、前記三次元グリッドに対して各グリッドマスの可降水量を算出する可降水量算出部と、
レンジング信号を発信する複数の測位衛星と、
前記観測領域の異なる地点に配置される複数の受信機と、を備え、
前記複数の受信機のそれぞれは、測位衛星ごとに、スラント方向遅延量を算出し、
前記可降水量算出部は、各スラント方向遅延量を各グリッド点に投影して各グリッド点のスラント方向遅延量を算出し、前記遅延量データを生成する
算出システム。
【請求項8】
観測領域の上方の三次元グリッドに対して各グリッド点のスラント方向遅延量を示す遅延量データと、前記観測領域の各地域の気象観測量を示す気象観測データと、に基づいて、前記三次元グリッドに対して各グリッドマスの可降水量を算出する可降水量算出部と、
各グリッドマスの可降水量に基づいて、前記観測領域の表面の二次元メッシュに対して、矩形領域である各メッシュマスの鉛直上方の蒸発散位を算出する蒸発散位算出部と、
レンジング信号を発信する複数の測位衛星と、
前記観測領域の異なる地点に配置される複数の受信機と、を備え、
前記複数の受信機のそれぞれは、測位衛星ごとに、スラント方向遅延量を算出し、
前記可降水量算出部は、各スラント方向遅延量を各グリッド点に投影して各グリッド点のスラント方向遅延量を算出し、前記遅延量データを生成する
算出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、森林の蒸発散量に基づいて二酸化炭素(CO2)の吸収量を推定する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
日本の国土40万キロ平米の85パーセントが森林で覆われ、日本において森林は地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)の貴重な吸収源である。
【0003】
森林によるCO2吸収量は、実際に観測されるのではなく、森林簿に基づいて算出されている。
森林簿は、森林に関する各種情報が記載された台帳である。具体的には、森林簿には、所在地、所有者、面積、種類、材積および成長量などの情報が記載される。
【0004】
森林簿は、公共測量で作成された国土地理院地図に航空写真と地権者らの伝聞情報が付加されることによって作成される。
そして、森林簿の情報は踏査されず、森林の境界があいまいであり、情報の更新がされていない。
このような事情は、森林の売買、小規模な森林の地権者の統合および営林の集約化などに対して効率化を阻害する要因となっている。
【0005】
特許文献1は、森林簿データを用いてCO2吸収量を算出することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-58772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示は、森林の蒸発散量に基づいてCO2吸収量を推定できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の吸収量推定システムは、
観測領域の上方の三次元グリッドに対して各グリッド点のスラント方向遅延量を示す遅延量データと、前記観測領域の各地域の気象観測量を示す気象観測データと、に基づいて、前記三次元グリッドに対して各グリッドマスの可降水量を算出する可降水量算出部と、
各グリッドマスの可降水量に基づいて、前記観測領域の表面の二次元メッシュに対して、矩形領域である各メッシュマスの鉛直上方の蒸発散位を算出する蒸発散位算出部と、
前記観測領域が映った衛星画像に基づいて、前記観測領域の森林区域ごとに森林の特徴を特定する森林特徴特定部と、
森林区域ごとに、森林の特徴に基づいて、土壌からの蒸発量と樹木からの蒸散量の比である蒸発散比を算出する蒸発散比算出部と、
森林区域ごとに、対応するメッシュマスの蒸発散位と、前記蒸発散比と、に基づいて、二酸化炭素の吸収量を算出する吸収量算出部と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、森林の蒸発散量に基づいてCO2吸収量を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態1における吸収量推定システム200の構成図。
図2】実施の形態1における吸収量推定装置100の構成図。
図3】実施の形態1における測位補強システム210の構成図。
図4】実施の形態1における吸収量推定方法のフローチャート。
図5】実施の形態1におけるステップS110のフローチャート。
図6】実施の形態1におけるステップS110の説明図。
図7】実施の形態1における大気水収支法の概念図。
図8】実施の形態1における衛星画像231を示す図。
図9】実施の形態1における森林区域232を示す図。
図10】実施の形態1におけるモーションステレオの概念図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態および図面において、同じ要素または対応する要素には同じ符号を付している。説明した要素と同じ符号が付された要素の説明は適宜に省略または簡略化する。図中の矢印はデータの流れ又は処理の流れを主に示している。
【0012】
実施の形態1.
吸収量推定システム200について、図1から図10に基づいて説明する。
【0013】
***構成の説明***
図1に基づいて、吸収量推定システム200の構成を説明する。
吸収量推定システム200は、測位補強システム210と、受信機網220と、観測衛星230と、吸収量推定装置100と、を備える。
測位補強システム210は、測位補強サービス用のシステムである。測位補強サービスの具体例は、センチメータ級測位補強サービス(CLAS)である。
受信機網220は、衛星測位システム用および測位補強システム210用の複数の受信機221である。衛星測位システムは、Global Navigation Satellite System(GNSS)と呼ばれる。衛星測位システムの具体例は、Global Positioning System(GPS)である。
観測衛星230は、観測用の人工衛星である。観測衛星230の具体例はSAR衛星である。SAR衛星は、合成開口レーダ(SAR)が搭載された人工衛星である。
吸収量推定装置100は、各森林地域における二酸化炭素の吸収量を推定する。
【0014】
図2に基づいて、吸収量推定装置100の構成を説明する。
吸収量推定装置100は、プロセッサ101とメモリ102と補助記憶装置103と通信装置104と入出力インタフェース105といったハードウェアを備えるコンピュータである。これらのハードウェアは、信号線を介して互いに接続されている。
【0015】
プロセッサ101は、演算処理を行うICであり、他のハードウェアを制御する。例えば、プロセッサ101は、CPUである。
ICは、Integrated Circuitの略称である。
CPUは、Central Processing Unitの略称である。
【0016】
メモリ102は揮発性または不揮発性の記憶装置である。メモリ102は、主記憶装置またはメインメモリとも呼ばれる。例えば、メモリ102はRAMである。メモリ102に記憶されたデータは必要に応じて補助記憶装置103に保存される。
RAMは、Random Access Memoryの略称である。
【0017】
補助記憶装置103は不揮発性の記憶装置である。例えば、補助記憶装置103は、ROM、HDD、フラッシュメモリまたはこれらの組み合わせである。補助記憶装置103に記憶されたデータは必要に応じてメモリ102にロードされる。
ROMは、Read Only Memoryの略称である。
HDDは、Hard Disk Driveの略称である。
【0018】
通信装置104はレシーバ及びトランスミッタである。例えば、通信装置104は通信チップまたはNICである。吸収量推定装置100の通信は通信装置104を用いて行われる。
NICは、Network Interface Cardの略称である。
【0019】
入出力インタフェース105は、入力装置および出力装置が接続されるポートである。例えば、入出力インタフェース105はUSB端子であり、入力装置はキーボードおよびマウスであり、出力装置はディスプレイである。吸収量推定装置100の入出力は入出力インタフェース105を用いて行われる。
USBは、Universal Serial Busの略称である。
【0020】
吸収量推定装置100は、可降水量算出部110と蒸発散位算出部120と森林特徴特定部130と蒸発散比算出部140と吸収量算出部150といった要素を備える。これらの要素はソフトウェアで実現される。
【0021】
補助記憶装置103には、可降水量算出部110と蒸発散位算出部120と森林特徴特定部130と蒸発散比算出部140と吸収量算出部150としてコンピュータを機能させるための吸収量推定プログラムが記憶されている。吸収量推定プログラムは、メモリ102にロードされて、プロセッサ101によって実行される。
補助記憶装置103には、さらに、OSが記憶されている。OSの少なくとも一部は、メモリ102にロードされて、プロセッサ101によって実行される。
プロセッサ101は、OSを実行しながら、吸収量推定プログラムを実行する。
OSは、Operating Systemの略称である。
【0022】
吸収量推定プログラムの入出力データは記憶部190に記憶される。
メモリ102は記憶部190として機能する。但し、補助記憶装置103、プロセッサ101内のレジスタおよびプロセッサ101内のキャッシュメモリなどの記憶装置が、メモリ102の代わりに、又は、メモリ102と共に、記憶部190として機能してもよい。
【0023】
吸収量推定装置100は、プロセッサ101を代替する複数のプロセッサを備えてもよい。
【0024】
吸収量推定プログラムは、光ディスクまたはフラッシュメモリ等の不揮発性の記録媒体にコンピュータ読み取り可能に記録(格納)することができる。
【0025】
図3に基づいて、測位補強システム210の構成を説明する。
測位補強システム210は、複数の測位衛星211と、複数の電子基準点212と、情報生成設備213と、準天頂衛星214と、を備える。
各測位衛星211は、レンジング信号を発信する。レンジング信号を受信して得られる情報を「測位情報」と称する。
(1)レンジング信号は電離層と対流圏を通過するため、電離層遅延および対流圏遅延によって測位情報の誤差が発生する。
受信機から各衛星への方向を「スラント方向」と呼ぶ。
スラント方向における電離層遅延および対流圏遅延を「スラント方向遅延量(Slant Wet Delay)」と呼ぶ。スラント方向遅延量の略称はSWDである。
スラント方向遅延量は「視線方向対流圏遅延量」ともいう。
(2)情報生成設備213は、複数の電子基準点212で得られる複数の測位情報に基づいて測位情報の誤差量を算出し、測位情報の誤差量に基づいて測位補強情報を生成する。測位補強情報は、測位信号の誤差を補正するための情報である。なお、電子基準点212は日本国内の約1300ヶ所に設置されており、測位補強情報は約250ヶ所の電子基準点212で得られる情報を用いて生成される。
(3)測位補強情報は、準天頂衛星214を経由して各地のユーザ端末215に配信される。なお、測位補強情報は、圧縮されL6信号を使って配信される。
(4)ユーザ端末215は、各測位衛星211からレンジング信号を受信して測位情報を得て、測位補強情報を使って測位情報を補正する。そして、ユーザ端末215は、補正した測位情報を使って測位を行う。
【0026】
***動作の説明***
吸収量推定システム200の動作の手順は吸収量推定方法に相当する。また、吸収量推定装置100の動作の手順は吸収量推定プログラムによる処理の手順に相当する。
【0027】
図4に基づいて、吸収量推定方法を説明する。
ステップS110において、可降水量算出部110は、遅延量データと気象観測データとに基づいて、観測領域の上方の三次元グリッド222に対して各グリッドマスの可降水量を算出する。観測領域の具体例は日本である。
【0028】
三次元グリッド222は予め定義される。例えば、各グリッドマスは、250メートルを一辺とする立方体である。また、地表面からの三次元グリッド222の高さは11キロメートルである。
【0029】
三次元グリッド222の各マスを「グリッドマス」と称する。
三次元グリッド222の各交点を「グリッド点」と称する。
【0030】
遅延量データは、各グリッド点のスラント方向遅延量を示すデータである。
気象観測データは、観測領域の各地域の気象観測量を示すデータである。気象観測量は、気象に関して観測された各種の値である。具体的な気象観測量は、気温および気圧などである。
【0031】
各グリッドマスの可降水量を示すデータを「可降水量データ」と称する。
【0032】
図5および図6に基づいて、ステップS110の手順を説明する。
図6において、矢印付き点線はスラント方向を表す。矢印付き点線上の各丸印は可降水量を表す。受信機221は、観測領域(日本)の各地点に配置されている。受信機221の符号は一つのみに付し、他の受信機221の符号は省略している。
【0033】
ステップS111において、各受信機221は、測位衛星211ごとに、スラント方向遅延量を算出する。
【0034】
具体的には、各受信機221は、各測位衛星211からレンジング信号を受信して測位情報を得て、準天頂衛星214から測位補強情報を受信する。そして、各受信機221は、測位衛星211ごとに、測位補強情報と測位情報とに基づいて測位演算を行い、測位補強情報と測位残差とに基づいてスラント方向遅延量を算出する。
【0035】
ステップS112において、可降水量算出部110は、各受信機221によって測位衛星211ごとに算出されたスラント方向遅延量を取得する。
例えば、可降水量算出部110は、各受信機221から測位衛星211ごとのスラント方向遅延量を受信する。
【0036】
次に、可降水量算出部110は、取得した複数のスラント方向遅延量を用いたトモグラフィ解析処理により、可降水量分布を3次元に表現する。
具体的には、可降水量算出部110は、文献(A)などの手法に組み込んだトモグラフィ解析処理を実行する。
文献(A):Ding et al. (2018, AMT) “A new approach for GNSS tomography from a few GNSS stations”
【0037】
ステップS113において、可降水量算出部110は気象観測データを取得する。
例えば、可降水量算出部110は、気象観測データを管理するサーバから気象観測データを受信する。
【0038】
そして、可降水量算出部110は、各グリッド点のスラント方向遅延量と各地域の気象観測量(地表気圧、温度)とに基づいて、各グリッドマスの可降水量を算出する。
【0039】
図4に戻り、ステップS120から説明を続ける。
ステップS120において、蒸発散位算出部120は、各グリッドマスの可降水量に基づいて、観測領域の表面の二次元メッシュに対して、矩形領域である各メッシュマスの鉛直上方の蒸発散位を算出する。蒸発散位は、土壌からの蒸発量と植生からの蒸散量の合計である。
二次元メッシュは、三次元グリッド222の底面に相当する。
二次元メッシュの各マスを「メッシュマス」と称する。
二次元メッシュの各交点を「メッシュ点」と称する。
【0040】
各メッシュマスの蒸発散位は方法(1)または方法(2)によって算出される。
【0041】
各メッシュマスの蒸発散位ETを算出するための方法(1)を説明する。
方法(1)は、文献(1)に開示された方法である。
文献(1):森 牧人、外2名、「GPS可降水量と地上気温の関係を利用した日蒸発散位の推定」、2007年、農業農村工学会論文 九州大学大学院 農学研究院
【0042】
各メッシュマスの蒸発散位ETは以下のように算出される。
まず、可降水量算出部110は、鉛直方向に並んだグリッドマスの可降水量PWVを合計して可降水量PWVを算出する。
可降水量PWVは、天頂方向の平均の可降水量であり、メッシュマスの蒸発散位ETに相当する。
次に、可降水量算出部110は、可降水量PWVに係数を掛けて地上水蒸気圧eを算出する。係数は、気象観測値を用いて対比分析と回帰分析とを行うことによってチューニングされる。月平均の可降水量PWVに対する式の具体例を以下に示す。
【0043】
【数1】
【0044】
そして、可降水量算出部110は、地上水蒸気圧eを「e」として代入したペルマン式を計算することによって、蒸発散位ETを算出する。ぺルマン式は以下のように表される。
【0045】
【数2】
【0046】
f(u)は、風速関数であり、次のように表される。
f(u)=0.26(1+0.537u
【0047】
「R」、正味放射量である。
「G」は、地中熱流量である。
「T」は、地上気温である。
sat(T)は、Tに対する飽和水蒸気圧である。
「e」は、地上水蒸気圧である。
「u」は、高度2メートルの風速である。
「Δ」は、飽和水蒸気圧曲線の勾配である。
「γ」は、乾湿計定数である。
「l」は、蒸発の潜熱である。
【0048】
上記の気象データは、当該グリッドマスの近傍の気象台で観測される気象要素を用いて算出される。具体的な気象要素は気圧、風速、気温、地上水蒸気圧および日照時間であり、各気象要素は日平均の値で示される。
GPS可降水量は、GNSS大気遅延量、気象台の気圧および気象台の気温を基に算出される。
【0049】
正味放射量Rは、日常的に測定されることは稀であるので、以下の式を計算することによって算出される。
【0050】
【数3】
【0051】
「S」は、大気外水平面日射量である。
「n」は、日照時間である。
「N」は、可照時間である。
「α」は、アルベドである。
「σ」は、ステファン・ボルツマン定数である。
「a」「b」は、日照計の定数である。
【0052】
各メッシュマスの蒸発散位に相当する蒸発散量Eを算出するための方法(2)を説明する。
方法(2)は、文献(2)に開示された方法である。文献(2)には、1か月未満という短い間隔での蒸発散位の推定方法を開示している。
文献(2):萬 和明、「大気水収支法にGPS可降水量を適用した蒸発散量推定手法の確立」、2012年、科研費研究 京都大学研究院
図7に、大気水収支法の概念を示す。
【0053】
各メッシュマスの蒸発散量Eは以下のように算出される。
まず、可降水量算出部110は、高さ方向に並んだグリッドマスのスラント方向遅延量を合計して水分量Wを算出する。水分量Wは、大気柱の水分量を意味する。
また、可降水量算出部110は、高さ方向に並んだグリッドマスのスラント方向遅延量をパラメータとして移流モデルを演算することによって、移流量∇Qを算出する。移流量∇Qは、大気柱の側面全体からの移流量を意味する。
移流モデルは、移流ベクトルと乱れの項で表現される。移流ベクトルは、移流成分を位置情報の一次式で近似する。移流ベクトルを求めるために適切な空間間隔(格子・メッシュの大きさ)が必要である。三次元グリッド222が移流モデルの代替となる。
また、可降水量算出部110は、降水量Pを取得する。降水量Pは、スラント方向遅延量に対応する時刻に観測された降水量である。例えば、降水量Pは気象観測データに含まれる。
そして、可降水量算出部110は、降水量Pと水分量Wと移流量∇Qを合計して蒸発散量Eを算出する。
【0054】
メッシュマス毎の蒸発散量Eは以下の式で表すことができる。
E = P + W +∇
【0055】
図4に戻り、ステップS130から説明を続ける。
ステップS130において、森林特徴特定部130は、衛星画像231に基づいて、観測領域の森林区域ごとに森林の特徴を特定する。
衛星画像231は、観測領域が映った画像であり、観測衛星230によって得られる。
森林区域は、森林が存在する区域である。区域はメッシュマスに相当する。
具体的な森林の特徴は、樹木の高さ、樹木の種類および森林の境界などである。森林の特徴は「土地分類」ともいう。
【0056】
ステップS130の手順を以下に説明する。
図8に、2次元メッシュで区切られた衛星画像231を示す。濃い網掛けは森林を表し、薄い網掛けは非森林を表す。非森林には伐採地が含まれる。
まず、森林特徴特定部130は、衛星画像231を取得する。例えば、森林特徴特定部130は、観測衛星230から衛星画像231を受信する。または、森林特徴特定部130は、観測衛星230から観測データを受信し、観測データを用いて衛星画像231を生成する。
次に、森林特徴特定部130は、衛星画像231を2次元メッシュで区切る。
【0057】
図9に、複数の森林区域232を示す。各網掛けのマスが森林区域である。
次に、森林特徴特定部130は、衛星画像231を解析することによって、各森林区域に相当するメッシュマスを特定する。
【0058】
図10に、モーションステレオの概念を示す。
そして、森林特徴特定部130は、衛星画像231を解析することによって、各森林区域の森林の特徴を特定する。
例えば、森林特徴特定部130は、樹木の高さを次のように特定する。まず、森林特徴特定部130は、衛星画像231のベースライン情報を使って樹冠の高さを計測する。また、森林特徴特定部130は、樹木を除いた地表面の高さを、整備済の数値標高モデル(DEM:Digital Elevation Model)から取得する。DEMは、記憶部190に記憶されてもよいし、外部サーバで管理されてもよい。そして、森林特徴特定部130は、樹冠の高さから地表面の高さを引いて樹木の高さを算出する。樹冠の高さを計測することで、樹木の最新の成長分の反映が可能である。
森林の特徴は、人工知能(AI)またはディープラーニング技術を使って特定されてもよい。
【0059】
図4に戻り、ステップS140から説明を続ける。
ステップS140において、蒸発散比算出部140は、森林区域ごとに、森林の特徴に基づいて、蒸発散比を算出する。
蒸発散比は、土壌からの蒸発量と樹木からの蒸散量の比である。
なお、日本国土の85パーセントは森林である。そして、例えば直径30~60キロメートルの範囲で、森林のみの地域はたくさん存在する。この範囲は、1つの受信機による可降水量の測定範囲に相当する。
そのため、蒸散量は蒸発散位と近似することができ、蒸発散比算出部140の出力は1と近似してもよい。
以下、間伐の行われた人工林、村落および道路を含めて説明を行う。
【0060】
例えば、蒸発散比算出部140は、森林特徴特定部130によって得られた森林の特徴(樹木の高さ、樹木の種類および森林の境界)に基づいて、メッシュマス毎に森林区域と非森林区域の面積比を算出する。算出される面積比が蒸発散比となる。
非森林区域には、伐採地、村落および道路などが含まれる。
【0061】
ステップS150において、吸収量算出部150は、森林区域ごとに、対応するメッシュマスの蒸発散位と、蒸発散比と、に基づいて、二酸化炭素(CO2)の吸収量を算出する。
【0062】
各森林区域のCO2吸収量は、各種情報と以下のような関係を有する。
蒸散量 ∝ 光合成量 ∝ CO2吸収量
【0063】
したがって、各森林区域のCO2吸収量は、以下のように算出される。
まず、吸収量算出部150は、ステップS120で算出された蒸発散位から、森林区域に対応するメッシュマスの蒸発散位を選択する。
また、吸収量算出部150は、ステップS140で算出された蒸発散比から、森林区域の蒸発散比を選択する。
次に、吸収量算出部150は、選択した蒸発散位に選択した蒸発散比を掛けて蒸散量を算出する。
そして、吸収量算出部150は、算出した蒸散量に比例パラメータ(係数)を掛けてCO2吸収量を算出する。
【0064】
比例パラメータ(係数)は、次のようにチューニングされる。
光合成の原理などにより、蒸散量とCO2吸収量が比例することが一般的に知られている。
比例パラメータ(係数)は、樹木の種類(広葉樹または針葉樹など)、樹木の高さおよび葉量などに基づいて、テーブルから取得される。そのテーブルは、一般的に知られる算出方法に基づいてチューニングされる。
【0065】
以下のウェブページ(a~c)には、CO2吸収量に関する情報が開示されている。
(a)https://kids.gakken.co.jp/kagaku/eco110/ecology0070/
(b)https://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/032000/gakusyu/program/tyugakko_d/fil/tyupro1-5.pdf
(c)http://www.nilim.go.jp/lab/ddg/naiyo/co2/co2.html
【0066】
そして、吸収量算出部150は、各森林区域の二酸化炭素の吸収量を出力する。例えば、吸収量算出部150は、各森林区域の二酸化炭素の吸収量をディスプレイに表示する。
例えば、1か月の観測が行われた場合、森林が1か月間に吸収した二酸化炭素の量がディスプレイに表示される。
【0067】
***実施の形態1の効果***
実施の形態1により、森林の蒸散量に基づいてCO2吸収量を推定することができる。そのため、CO2吸収量の「見える化」および「定量化」が可能である。
【0068】
実施の形態1は、全天候性および広域での均一性を有するデータを観測できる多種の人工衛星を活用して、CO2吸収量を高い精度で効率的に推定する。そして、実施の形態1は、地域および広さに寄らず同じ基準で算定が可能(スケーラブル)なため、将来、世界的に、森林のCO2吸収量のクレジット化(対価の算出)に寄与するものである。
【0069】
***実施の形態1の補足***
吸収量推定システム200は、可降水量および蒸発散位を算出するための算出システムとして利用することができる。
【0070】
実施の形態1は、好ましい形態の例示であり、本開示の技術的範囲を制限することを意図するものではない。実施の形態1は、部分的に実施してもよいし、他の形態と組み合わせて実施してもよい。フローチャート等を用いて説明した手順は、適宜に変更してもよい。
【0071】
吸収量推定装置100は、2台以上の装置で実現されてもよい。
吸収量推定装置100の要素である「部」は、ソフトウェア、ハードウェア、ファームウェアまたはこれらの組み合わせのいずれで実現されてもよい。
吸収量推定装置100の要素である「部」は、「処理」、「工程」、「回路」または「サーキットリ」と読み替えてもよい。
【符号の説明】
【0072】
100 吸収量推定装置、101 プロセッサ、102 メモリ、103 補助記憶装置、104 通信装置、105 入出力インタフェース、110 可降水量算出部、120 蒸発散位算出部、130 森林特徴特定部、140 蒸発散比算出部、150 吸収量算出部、190 記憶部、200 吸収量推定システム、210 測位補強システム、211 測位衛星、212 電子基準点、213 情報生成設備、214 準天頂衛星、215 ユーザ端末、220 受信機網、221 受信機、222 三次元グリッド、230 観測衛星、231 衛星画像、232 森林区域。
図1
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図5
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図10