(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-17
(45)【発行日】2025-04-25
(54)【発明の名称】体重支援型歩行補助装置およびその作動方法
(51)【国際特許分類】
A61H 3/00 20060101AFI20250418BHJP
【FI】
A61H3/00 B
(21)【出願番号】P 2021153401
(22)【出願日】2021-09-21
【審査請求日】2024-07-09
(73)【特許権者】
【識別番号】506310865
【氏名又は名称】CYBERDYNE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山海 嘉之
(72)【発明者】
【氏名】玉井 航太
【審査官】今関 雅子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-090849(JP,A)
【文献】特開2021-029266(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0053498(US,A1)
【文献】特開2013-135804(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0105190(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 3/00
B25J 3/00
B25J 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
装着者の臀部を支える座部と、
前記装着者の脚部の内側に沿って配置された大腿フレームおよび下腿フレームと、
前記座部の下側と前記大腿フレームの一端とを連結し、前記装着者の股関節部の動作に伴い回動可能な股関節連結部と、
前記股関節連結部に設けられ、前記座部に対して前記大腿フレームを前記股関節部の回動方向に駆動する回転駆動部と、
前記大腿フレームの他端と前記下腿フレームの一端とを連結し、前記装着者の膝関節部の動作に伴い回動可能な膝関節連結部と、
前記膝関節連結部の回動状態を固定または解放するためのロック機構部と、
前記装着者の左右の足部に装着され、いずれか一方が前記下腿フレームの他端に接合される靴部と、
左右の前記靴部にそれぞれ取り付けられ、前記装着者の各足裏面への圧力分布を検出する床反力センサと、
前記大腿フレーム配置側の前記装着者の大腿部に取り付けられ、当該装着者の歩行動作に起因する生体信号を検出する生体信号検出部と、
前記床反力センサの検出結果に基づいて、前記装着者の歩行周期を算出する歩行同期算出部と、
前記歩行同期算出部の算出結果に基づいて、歩行動作の遊脚期から支持脚期への移行時に、前記装着者の膝関節部の屈曲を所定範囲に制限するように前記ロック機構部の当該屈曲方向への回動状態を固定する一方、前記支持脚期から前記遊脚期の移行時に、前記装着者の膝関節部が屈曲または伸展可能なように前記ロック機構部を解放する制御部と
を備え、前記制御部は、前記生体信号検出部の検出結果に基づいて、前記支持脚期から前記遊脚期への移行時に、前記装着者の意思に従った動力を前記回転駆動部に発生させる
ことを特徴とする体重支援型歩行補助装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記装着者の膝関節部の症状改善に向けた矯正方向への遷移状態に合わせて、前記装着者の膝関節部に対する荷重量が増加するように、前記ロック機構部の回動状態の固定範囲を調節する
ことを特徴とする請求項1に記載の体重支援型歩行補助装置。
【請求項3】
前記座部に搭載され、前記装着者の臀部への圧力分布を検出する座面反力センサをさらに備え、
前記制御部は、前記生体信号検出部の検出結果および前記座面反力センサの検出結果に基づいて、歩行動作の遊脚期に前記靴部が歩行面に接触しないように、前記回動駆動部を制御する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の体重支援型歩行補助装置。
【請求項4】
装着者の臀部を座部で支えつつ、当該装着者の脚部の内側に沿って大腿フレームおよび下腿フレームを配置し、いずれか一方が前記下腿フレームの他端に接合された靴部を前記装着者の左右の足部に装着しておき、さらに前記装着者の股関節部の動作に伴い前記座部の下側と前記大腿フレームの一端とを連結する股関節連結部を回動可能にするとともに、前記装着者の膝関節部の動作に伴い前記大腿フレームの他端と前記下腿フレームの一端とを連結する膝関節連結部を回動可能にする体重支援型補講補助装置の作動方法において、
左右の前記靴部
に取り付けられた床反力センサを用いて前記装着者の各足裏部への圧力分布を検出する第1ステップと、
前記靴部に設けられた床反力制御部が、前記第1ステップの検出結果に基づいて、前記装着者の歩行周期を算出する第2ステップと、
装置本体に設けられた制御手段が、前記第2ステップの算出結果に基づいて、歩行動作の遊脚期から支持脚期への移行時に、前記装着者の膝関節部の屈曲を所定範囲に制限するように、前記膝関節連結部の回動状態を固定または解放するためのロック機構部の当該屈曲方向への回動状態を固定する一方、前記支持脚期から前記遊脚期の移行時に、前記装着者の膝関節部が屈曲または伸展可能なように前記ロック機構部を解放する第3ステップと、
前記大腿フレーム配置側の前記装着者の大腿部
に取り付けられた生体信号検出部を用いて、前記装着者の歩行動作に起因する生体信号を検出する第4ステップと、
前記制御手段が、前記第4ステップの検出結果に基づいて、前記第3ステップにおける前記支持脚期から前記遊脚期への移行時に、前記装着者の意思に従った動力を、前記股関節連結部に前記座部に対して前記大腿フレームを前記股関節部の回動方向に駆動するための回転駆動部に発生させる第5ステップと
を備えることを特徴とする体重支援型歩行補助装置の作動方法。
【請求項5】
前記第3ステップでは、前記制御手段が、前記装着者の膝関節部の症状改善に向けた矯正方向への遷移状態に合わせて、前記装着者の膝関節部に対する荷重量が増加するように、前記ロック機構部の回動状態の固定範囲を調節する
ことを特徴とする請求項4に記載の体重支援型歩行補助装置の作動方法。
【請求項6】
前記座部
に搭載された座面反力センサを用いて前記装着者の臀部への圧力分布を検出する第6ステップをさらに備え、
前記第5ステップでは、前記制御手段が、前記第4ステップの検出結果および前記第6ステップの検出結果に基づいて、歩行動作の遊脚期に前記靴部が歩行面に接触しないように、前記回動駆動部を制御する
ことを特徴とする請求項4または5に記載の体重支援型歩行補助装置の作動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体重支援型歩行補助装置およびその作動方法に関し、特に膝変形性関節症患者のための体重支援型歩行補助装置およびその作動方法に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
近年、わが国は、高齢化社会を迎えて加齢変化を基盤とした変性疾患が確実に増加しており、整形外科疾患において変形性関節症は最も多い疾患の一つとなっている。このうち変形性膝関節症は、主に老化に伴う膝軟骨の磨耗により引き起こされ、膝関節の疼痛や炎症、拘縮などの症状が生じ、徐々に膝関節の変形が進行して歩行障害に発展することになるため、QOL(Quality of Life)を大きく下げてしまう。
【0003】
変形性膝関節症の進行を抑制したり改善するためには、変形に対する矯正を行うことが効果的であると言われているが、十分な自己治癒には至らないことが多く、最終的には外科手術が施される。一方、高位脛骨骨切り術や人工関節置換などの外科手術では、合併症に起因するリスクや精神的及び身体的負担が大きいため、身体への侵襲を伴わない新たな手法の開発が求められている。
【0004】
近年、ヒト細胞を培養した培養組織を病変部に移植する再生医療が進展している。変形性膝関節症を患う患者に対して、膝関節部の内部空間に幹細胞等を外部から注入して軟骨細胞を再生させながら治療することが可能である。
【0005】
このような再生医療による治療を膝関節部に施した後、日常生活において非侵襲に自然治療又は再生細胞治療の促進を行うことができる膝関節矯正具製造装置及び膝関節矯正具製造方法が本発明から提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、膝関節部への軟骨細胞を移植した後、損傷した膝関節部の軟骨が移植軟骨と一体化するまでの期間は、膝関節への負荷を減らす必要がある。特に膝関節部には患者自身の体重がかかるため、治療後に患者が歩行する際にも膝関節部にはなるべく体重がかからないことが望ましい。
【0008】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、装着者が歩行動作の際に膝関節部にかかる重量負担を格段と軽減させながら動作アシストを行うことが可能な体重支援型歩行補助装置およびその作動方法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決するため本発明の体重支援型歩行補助装置においては、装着者の臀部を支える座部と、装着者の脚部の内側に沿って配置された大腿フレームおよび下腿フレームと、座部の下側と大腿フレームの一端とを連結し、装着者の股関節部の動作に伴い回動可能な股関節連結部と、股関節連結部に設けられ、座部に対して大腿フレームを股関節部の回動方向に駆動する回転駆動部と、大腿フレームの他端と下腿フレームの一端とを連結し、装着者の膝関節部の動作に伴い回動可能な膝関節連結部と、膝関節連結部の回動状態を固定または解放するためのロック機構部と、装着者の左右の足部に装着され、いずれか一方が下腿フレームの他端に接合される靴部と、左右の靴部にそれぞれ取り付けられ、装着者の各足裏面への圧力分布を検出する床反力センサと、大腿フレーム配置側の装着者の大腿部に取り付けられ、当該装着者の歩行動作に起因する生体信号を検出する生体信号検出部と、床反力センサの検出結果に基づいて、装着者の歩行周期を算出する歩行同期算出部と、歩行同期算出部の算出結果に基づいて、歩行動作の遊脚期から支持脚期への移行時に、装着者の膝関節部の屈曲を所定範囲に制限するようにロック機構部の当該屈曲方向への回動状態を固定する一方、支持脚期から遊脚期の移行時に、装着者の膝関節部が屈曲または伸展可能なようにロック機構部を解放する制御部とを備え、制御部は、生体信号検出部の検出結果に基づいて、支持脚期から遊脚期への移行時に、装着者の意思に従った動力を回転駆動部に発生させるようにした。
【0010】
このように、体重支援型歩行補助装置を装着する装着者は、座部に臀部を支持した状態で歩行動作をする際、歩行動作の遊脚期から支持脚期への移行時に、装着者の膝関節部の屈曲が所定範囲に制限される一方、支持脚期から遊脚期の移行時に、装着者の膝関節部が屈曲または伸展可能になると同時に、装着者の意思に従った動力が付与されることにより、歩行動作の支持脚期に床反力を軽減させて装着者の自重による膝関節部への荷重を低減させながら動作アシストを行うことができる。
【0011】
また本発明においては、制御部は、装着者の膝関節部の症状改善に向けた矯正方向への遷移状態に合わせて、装着者の膝関節部に対する荷重量が増加するように、ロック機構部の回動状態の固定範囲を調節するようにした。
【0012】
この結果、装着者は、歩行動作の支持脚期において、体重を支持するための膝関節部の軽度な屈曲状態を調節することができるため、膝関節部への重量負担を最適な状態に合わせながら低減させることができる。
【0013】
さらに本発明においては、座部に搭載され、装着者の臀部への圧力分布を検出する座面反力センサをさらに備え、制御部は、生体信号検出部の検出結果および座面反力センサの検出結果に基づいて、歩行動作の遊脚期に靴部が歩行面に接触しないように、回動駆動部を制御するようにした。
【0014】
この結果、体重支援型歩行補助装置では、装着者の足裏部への圧力分布のみならず、装着者の臀部への圧力分布に基づいて、歩行動作の支持脚期に床反力を軽減させて装着者の自重による膝関節部への重量負担を最適な状態に高い精度で合わせながら動作アシストを行うことができる。
【0015】
さらに本発明においては、装着者の臀部を座部で支えつつ、当該装着者の脚部の内側に沿って大腿フレームおよび下腿フレームを配置し、いずれか一方が下腿フレームの他端に接合された靴部を装着者の左右の足部に装着しておき、さらに装着者の股関節部の動作に伴い座部の下側と大腿フレームの一端とを連結する股関節連結部を回動可能にするとともに、装着者の膝関節部の動作に伴い大腿フレームの他端と下腿フレームの一端とを連結する膝関節連結部を回動可能にする体重支援型補講補助装置の作動方法において、左右の靴部に取り付けられた床反力センサを用いて装着者の各足裏部への圧力分布を検出する第1ステップと、靴部に設けられた床反力制御部が、第1ステップの検出結果に基づいて、装着者の歩行周期を算出する第2ステップと、装置本体に設けられた制御手段が、第2ステップの算出結果に基づいて、歩行動作の遊脚期から支持脚期への移行時に、装着者の膝関節部の屈曲を所定範囲に制限するように、膝関節連結部の回動状態を固定または解放するためのロック機構部の当該屈曲方向への回動状態を固定する一方、支持脚期から遊脚期の移行時に、装着者の膝関節部が屈曲または伸展可能なようにロック機構部を解放する第3ステップと、大腿フレーム配置側の装着者の大腿部に取り付けられた生体信号検出部を用いて、装着者の歩行動作に起因する生体信号を検出する第4ステップと、制御手段が、第4ステップの検出結果に基づいて、第3ステップにおける支持脚期から遊脚期への移行時に、装着者の意思に従った動力を、股関節連結部に座部に対して大腿フレームを股関節部の回動方向に駆動するための回転駆動部に発生させる第5ステップとを備えるようにした。
【0016】
このように、体重支援型歩行補助装置を装着する装着者は、座部に臀部を支持した状態で歩行動作をする際、歩行動作の遊脚期から支持脚期への移行時に、装着者の膝関節部の屈曲が所定範囲に制限される一方、支持脚期から遊脚期の移行時に、装着者の膝関節部が屈曲または伸展可能になると同時に、装着者の意思に従った動力が付与されることにより、歩行動作の支持脚期に床反力を軽減させて装着者の自重による膝関節部への荷重を低減させながら動作アシストを行うことができる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように本発明によれば、装着者が歩行動作の際に膝関節部にかかる重量負担を格段と低減させながら動作アシストを行うことが可能な体重支援型歩行補助装置およびその作動方法を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施の形態による体重支援型歩行補助装置の構成を示す概念図である。
【
図2】
図1に示す体重支援型歩行補助装置の駆動ユニットの構成を示す分解図である。
【
図3】
図1に示す膝関節連結部の外観構成を示す斜視図である。
【
図4】
図1に示す体重支援型歩行補助装置の制御系システムの構成を示すブロック図である。
【
図5】
図3に示す膝関節連結部の動作状態の説明に供する略線図である。
【
図6】体重支援型歩行補助装置を装着した装着者による歩行動作の説明に供する略線図である。
【
図7】体重支援型歩行補助装置を装着した装着者による歩行動作の説明に供する略線図である。
【
図8】体重支援型歩行補助装置を装着した装着者による歩行動作の説明に供する略線図である。
【
図9】体重免荷支援機能の説明に供するグラフおよび表である。
【
図10】体重免荷支援機能の説明に供するグラフおよび表である。
【
図11】体重免荷支援機能の説明に供するグラフおよび表である。
【
図12】他の実施の形態による体重支援型歩行補助装置の構成を示す概念図である。
【
図13】
図12に示す膝関節連結部の外観構成および内部構造を示す概念図である。
【
図14】
図12に示す膝関節連結部の内部構造を示す概念図である。
【
図15】
図12に示す膝関節連結部の内部構造を示す概念図である。
【
図16】体重免荷支援機能の説明に供するグラフおよび表である。
【
図17】体重免荷支援機能の説明に供するグラフおよび表である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面について、本発明の一実施の形態を詳細する。
【0020】
(1)本発明による体重支援型歩行補助装置の構成
図1は本実施の形態における体重支援型歩行補助装置1を示し、装着者の臀部を支える座部2と、装着者の脚部の内側に沿って配置された大腿フレーム3および下腿フレーム4と、装着者の左右の足部に装着され、いずれか一方が下腿フレーム4の他端4Bに接合される靴部5とを有する。
【0021】
大腿フレーム3及び下腿フレーム4は、例えばステンレス等の金属またはカーボンファイバ(炭素繊維)等により細長い板状に形成されたフレーム本体を有し、軽量かつ高い剛性をもつようになされている。
【0022】
座部2の下側に固定されたシートクランプ2Aと大腿フレーム3の一端3Aとの間には、装着者の股関節部の動作に伴い回動可能な股関節連結部10が連結されている。この股関節連結部10は、座部2に対して大腿フレーム3を股関節部の回動方向に駆動する駆動ユニット(回転駆動部)20を有する。
【0023】
図2に示すように、駆動ユニット20は、例えばブラシレスDCモータからなる扁平形のアクチュエータ21と、当該アクチュエータ21を駆動制御するアクチュエータ制御部22と、当該アクチュエータ21の回転子の回転速度を所定の減速比に変換して出力する減速機23とを有する。アクチュエータ制御部22は、CPU(Central Processing Unit)やメモリ等が搭載されたMCM(Multi-Chip Module)が内蔵されている。
【0024】
操作部25は、筐体表面を構成するタッチパネル25Aと筐体中央の電源ボタン25Bとからなり、装着者の指先接触によるタッチパネル25Aへの操作内容がタッチセンサ24の検出結果としてアクチュエータ制御部22に反映されるとともに、電源ボタン25Bの押下に応じて電源のオンまたはオフが実行される。
【0025】
駆動ユニット20は、座部2の下側に固定されたシートクランプ2Aに減速機23の本体およびアクチュエータ制御部22が略同一平面状に収納され、大腿フレーム3の一端3Aに減速機23の出力軸が固定されている。
【0026】
また大腿フレーム3の他端3Bと下腿フレーム4の一端4Aとの間には、装着者の膝関節部の動作に伴い回動可能な膝関節連結部30が連結されている。
【0027】
この膝関節連結部30は、固定節、原動節、従動節および中間節の4節リンク機構からなるクローズドループ構造を有し、固定節を基準に原動節の回転に応じて中間節を介して従動節が回転するようになされている。
【0028】
図3(A)および(B)に示すように、大腿フレーム3の他端3Bに連結される大腿側リンク部31は、中央および後側にそれぞれ回転軸R1、R2が設けられて固定節を形成しており、後側の回転軸R1には原動節となる屈曲用リンク部32の一端32Aが連結されるとともに、中央の回転軸R2には従動節となる膝蓋リンク部33の一端33Aが連結されている。
【0029】
下腿フレーム4の一端4Aに連結される下腿側リンク部34は、前側および後側にそれぞれ回転軸R3、R4が設けられて中間節を形成しており、前側の回転軸R3には膝蓋リンク部33の他端33Bが連結されるとともに、後側の回転軸R4に屈曲用リンク部32の他端32Bが連結されている。
【0030】
膝関節連結部30において、下腿フレーム4の一端4Aと屈曲用リンク部32の他端32Bとの連結部位に、対応する回転軸R5を中心とするロック機構部35が設けられ、電磁ソレノイドの作動に応じて、下腿フレーム4および屈曲用リンク部32の回転状態を固定または解放するようになされている。
【0031】
なお、大腿フレーム3および下腿フレーム4には、それぞれフレーム長を伸縮自在に調整する調節機構部(図示せず)が内蔵されている。
【0032】
図1において、下腿フレーム4の他端4Bには、装着者の治療対象となる足部に装着される靴部5が接合されている。靴部5は、装着者の足部を包み込む短靴と、当該短靴の内側面に接合された比較的剛性の高い金属部材からなる固定締結部(図示せず)とを有する。
【0033】
大腿フレーム3および下腿フレーム4には、それぞれカフ7および8が取り付けられ(
図1)、装着者の大腿部および下腿部をそれぞれ周囲から巻き付けて強固に締結し得るようになされている。
【0034】
このように体重支援型歩行補助装置1において、装着者は座部2に臀部を支持した状態で歩行動作をする際、歩行動作の支持脚期に装着者の自重による膝関節部への荷重を低減させることが可能となる。
【0035】
(2)体重支援型歩行補助装置の内部システム構成
図4に本実施の形態による体重支援型歩行補助装置1の制御系システムの構成を示す。制御系システムは、システム全体の統括制御を司る制御部40と、データ格納部41とを有する。
【0036】
左右の靴部5の足底には、インソール型の床反力センサ42が設けられ、装着者の足裏面にかかる荷重に対する反力(足裏部への圧力分布)を検出する。この床反力センサ42は、足裏面にかかる荷重を前足部(つま先部)と後足部(踵部)とに分割して独立して測定可能である。
【0037】
この床反力センサ42は、例えば、印加された荷重に応じた電圧を出力する圧電素子、または、荷重に応じて静電容量が変化するセンサなどからなり、体重移動に伴う荷重変化、および装着者の脚と地面との接地の有無をそれぞれ検出することができる。
【0038】
靴部5は、靴構造以外に、床反力センサ42とMCU(Micro Control Unit)からなる床反力制御部43を有する。床反力センサ42の出力を変換器44を介して電圧変換した後、LPF(Low Pass Filter)45を介して高域周波数帯を遮断してから床反力制御部43に入力される。
【0039】
この床反力制御部43は、床反力センサ42の検知結果に基づいて、装着者の体重移動に伴う荷重変化や接地の有無を求め、これを床反力データとして制御部40に送出する。制御部40は、受信した床反力データをデータ格納部41の基準パラメータデータベースに格納する。
【0040】
歩行同期算出部としての制御部40は、床反力センサ42の検出結果に基づいて、装着者の歩行周期を算出する。具体的に、制御部40は、床反力データに基づく足裏に係る荷重遷移状態と、データ格納部41の基準パラメータデータベースに格納された基準パラメータの荷重遷移状態とを比較することにより、装着者の歩行動作のフェーズを特定する。
【0041】
制御部40は、特定した歩行動作のフェーズについて、歩行の状態を遊脚期と支持脚期とにフェーズ分割して捉える。遊脚期は足が地面から離れ下腿を振り出す動作の期間である。支持脚期は足が地面に接地し自重を支えている期間である。
【0042】
装着者の歩行中は足部の後足部(踵部)から着地するため、後足部側の床反力が前足部(つま先部)側の床反力に先行して上昇する。離床時は足部の後足部が先に離れてから、追って前足部が離れるため、前足部側の床反力が後足部側の床反力より後に減少する。
【0043】
これらを利用して、制御部40は、靴底部における前足部側の床反力と後足部側の床反力の情報(荷重を表す床反力データ)に基づいてフェーズを判定する。後足部側の床反力が上昇した際に、遊脚期から支持脚期に切り替わり、前足部側の床反力が減少した際に支持脚期から遊脚期に切り替わると判定する。
【0044】
さらに制御部40は、歩行同期の算出結果に基づいて、ロック機構部35の電磁ソレノイドを制御することにより、下腿側リンク部34および屈曲用リンク部32の回転状態を固定または解放する。
【0045】
実際に制御部40は、膝関節連結部30において、装着者の膝関節部の屈曲を所定範囲に制限するように、ロック機構部35を制御して、下腿側リンク部34に対する屈曲用リンク部32の当該屈曲方向への回動状態を固定する(
図5(A))。
【0046】
そして制御部40は、ロック機構部35を制御して、下腿側リンク部34に対する屈曲用リンク部32の当該屈曲方向への回動状態を解除する(
図5(B))。膝関節連結部30において、ロック機構部35が解放されている状態では、装着者の膝関節部が屈曲または伸展可能なように、屈曲用リンク部32、膝蓋リンク部33および下腿側リンク部34が大腿側リンク部31に対して回動自在な状態になる(
図5(C))。
【0047】
体重支援型歩行補助装置1において、大腿フレーム3配置側の装着者の大腿部には、生体信号検出部50(
図4)が取り付けられ、当該装着者の歩行動作に起因する生体信号を検出するようになされている。
【0048】
また制御部40は、生体信号検出部50の検出結果に基づいて、支持脚期から遊脚期への移行時に、装着者の意思に従った動力を駆動ユニット(回転駆動部)20に発生させる。駆動ユニット20のアクチュエータ制御部22は、制御部40から送出される生体信号検出部50の検出結果に基づいてアクチュエータ21を駆動制御することにより、装着者の股関節の動きに応じたアクチュエータ21の駆動トルクをアシスト力として股関節に伝達させることができる。
【0049】
(3)体重支援型歩行補助装置を装着した装着者による歩行動作
以上の構成において、本実施の形態による体重支援型歩行補助装置1では、装着者が座部2に臀部を支持した状態で歩行動作をする際、制御部40は、歩行動作の支持脚期の前期(初期接地から荷重応答期まで)に膝関節連結部30のロック機構部35を固定する(
図6)。
【0050】
この
図6に示すように、装着者の靴部の足裏面から得られる床反力の作用線F1が、大腿側リンク部(固定節)31と下腿側リンク部(中間節)34との間の瞬間中心(任意の曲線上を運動している質点が、ある瞬間にある点遠中心に回転運動を行う場合の中心点)P1よりも前方に位置するように、膝関節連結部30のロック機構部35が固定される。
【0051】
続いて
図7に示すように、装着者の歩行動作が進み、膝関節連結部30の4節リンク機構のリンクが後方に移動するに連れて、支持脚期の中期(立脚中期から立脚終期の途中まで)には、制御部40は、膝関節連結部30のロック機構部35を解放する。そのとき、装着者の靴部5の足裏面から得られる床反力の作用線F1が、鉛直方向からやや後方に傾斜していくと同時に、大腿側リンク部31と下腿側リンク部34との間の瞬間中心P1の位置が後方かつ上方に移動していくことにより、装着者の体重支持の安定性が増加する。
【0052】
そして
図8に示すように、装着者の歩行動作が進み、膝関節連結部30の4節リンク機構のリンクが前方に移動するに連れて、支持脚期の後期(立脚終期から前遊期まで)には、下腿側リンク部34に対して大腿側リンク部31が屈曲し始める。そのとき、装着者の靴部の足裏面から得られる床反力の作用線F1が、大腿側リンク部31と下腿側リンク部34との間の瞬間中心P1の位置よりも後方に移動する。
【0053】
その後、制御部40は、歩行動作の遊脚期から支持脚期への移行時に、装着者の膝関節部の屈曲を所定範囲に制限するようにロック機構部35の当該屈曲方向への回動状態を固定した後、上述の
図6から
図8までに示したように、支持脚期から遊脚期の移行時に、装着者の膝関節部が屈曲または伸展可能なようにロック機構部35を解放する。
【0054】
さらに、体重支援型歩行補助装置1では、制御部40は、生体信号検出部50の検出結果に基づいて、支持脚期から遊脚期への移行時に、装着者の意思に従った動力を駆動ユニット(回転駆動部)20に発生させる。
【0055】
このように体重支援型歩行補助装置1では、歩行動作の支持脚期に床反力を軽減させて装着者の自重による膝関節部への荷重を低減させながら動作アシストを行うことができる。
【0056】
(4)体重支援型歩行補助装置を装着した装着者による歩行動作実験
実際に、装着者(体重60〔kg〕の健常な成人男性)が左脚に本実施の形態における体重支援型歩行補助装置を装着しない場合と当該装置を装着した場合とで、10〔m〕の距離を前後3〔m〕の余裕を持たせて5回ずつ歩行させた際の実験結果について説明する。
【0057】
再生医療による治療後のリハビリテーションでは、まず装着者の全体重の3分の1の荷重を装着側の下肢にかけて歩行訓練を行い、細胞の定着状態に合わせて荷重量を増加させる。そこで装着者の装着側の下肢にかかる荷重を当該装着者の全体重の3分の1(
図9)、2分の1(
図10)、3分の2(
図11)においてそれぞれ歩行動作を確認した。
【0058】
図9に示すように、体重支援型歩行補助装置1を装着していない右脚(w/o device)に対して、当該装置を装着している左脚(with device)にかかる荷重を全体重の3分の1に調整した場合、実際に装着者が歩行動作を行って、左右の床反力センサ42の検出結果(装着者の足裏部への圧力分布)を計測した結果、5回の試行結果から体重支援型歩行補助装置を装着した下肢の荷重がほぼ許容最大荷重値(全体重の3分の1)以下になることが確認できた。
【0059】
図10も同様に、体重支援型歩行補助装置1を装着していない右脚(w/o device)に対して、当該装置を装着している左脚(with device)にかかる荷重を全体重の2分の1に調整した場合、実際に装着者が歩行動作を行って、左右の床反力センサ42の検出結果(装着者の足裏部への圧力分布)を計測した結果、5回の試行結果から体重支援型歩行補助装置を装着した下肢の荷重がほぼ許容最大荷重値(全体重の2分の1)以下になることが確認できた。
【0060】
図11も同様に、体重支援型歩行補助装置1を装着していない右脚(w/o device)に対して、当該装置を装着している左脚(with device)にかかる荷重を全体重の3分の2に調整した場合、実際に装着者が歩行動作を行って、左右の床反力センサ42の検出結果(装着者の足裏部への圧力分布)を計測した結果、5回の試行結果から体重支援型歩行補助装置1を装着した下肢の荷重がほぼ許容最大荷重値(全体重の3分の2)以下になることが確認できた。
【0061】
このように上述した
図9から
図11までの3種類の部分荷重の試行結果によれば、全試行のうち96〔%〕において、体重支援型歩行補助装置1を装着した下肢の荷重が許容最大荷重値以下になることが確認できた。
【0062】
(5)他の実施の形態
なお上述のように本実施の形態においては、体重支援型歩行補助装置1では、膝関節連結部を4節リンク機構からなるクローズドループ構造からなるものを適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、
図1との対応部分に同一符号を付した
図12に示すようなロック機構付きの継手構造の膝関節連結部60を有する体重支援型歩行補助装置61を適用するようにしてもよい。
【0063】
図13(A)に示すように、膝関節連結部60は、下腿フレーム4の端部に接続される下腿側パート部70と、大腿フレーム3の端部に接続される大腿側パート部71とが、所定範囲内で回動および可動し得るように係合されている。
【0064】
図13(B)に膝関節連結部60の内部構造を示す。この
図13(B)に示すように、下腿側パート部70の凹部70Xに対して、大腿側パート部71の凸部71Yが可動自在に嵌り込み、当該凸部71Yに形成されたピンPNが当該凹部70Xに形成されたスライド穴SH(
図13(A))に沿ってスライド移動し得るように係合されている。
【0065】
図14(A)に示すように、下腿側パート部70の凹部70Xの端部には係止突起70XZが形成され、大腿側パート部71の凸部71Yの根元部が当該係止突起70XZに当接することにより、その当接方向への可動が不可となり制限される。その際、
図14(B)に示すように、大腿側パート部71のピンPNが下腿側パート部70のスライド穴SHの下端に当接するように設計されている。
【0066】
下腿側パート部70の凹部70Xには、電磁ソレノイドの作動に応じて、上下方向(矢印Aで示す直線方向)に略直方体形状のストッパSTがスライド移動可能なロック機構部72が設けられている。このロック機構部72では、
図15(A)に示すように、ストッパSTが下端に位置するときは、
図15(B)に示すように、大腿側パート部71が下腿側パート部70に対して屈曲方向(矢印Bで示す回転方向)に回転し得る一方、ストッパSTが上端に位置するときは、大腿側パート部71が下腿側パート部70に対して所定の角度状態で位置固定される(上述した
図13(A)および(B))。
【0067】
この体重支援型歩行補助装置61では、装着者が座部2に臀部を支持した状態で歩行動作をする際、制御部40(
図4と同一構成を適用)は、歩行動作の支持脚期の前期(初期接地から荷重応答期まで)にロック機構部72のストッパSTを上端に位置させることにより、膝関節連結部60の屈曲状態が制限されて装着者の膝折れを防止することが可能となる。
【0068】
続いて装着者の歩行動作が進み、支持脚期の中期(立脚中期から立脚終期の途中まで)には、大腿側パート部71の凸部71Yの根本部が下腿側パート部70の凹部70Xの係止突起70XZに当接することにより、膝関節連結部60が伸展状態となり装着者の体重を安定して支持することが可能となる。
【0069】
そして装着者の歩行動作が進み、支持脚期の後期(立脚終期から前遊期まで)には、制御部は、ロック機構部72のストッパSTを下端に位置させることにより、下腿フレーム4に対して大腿フレーム3が屈曲し始める。
【0070】
その後、制御部40は、歩行動作の遊脚期から支持脚期への移行時に、装着者の膝関節部の屈曲を所定範囲に制限するようにロック機構部72のストッパSTを上端に位置させて回動状態を固定した後、支持脚期から遊脚期の移行時に、装着者の膝関節部が屈曲または伸展可能なようにロック機構部72のストッパSTを下端に位置させる。
【0071】
この体重支援型歩行補助装置61においても、上述した歩行動作実験と同様の実験を行なった。
図16に装着者による1歩行周期における荷重値とロック機構部72のストッパSTの移動制御との関係を示す。この結果、ロック機構部72のストッパSTが装着者の装置未装着側の脚の接地時に作動(上端に位置移動)し、歩行が可能であることが確認できた。
【0072】
そして
図17(A)に示す10〔m〕歩行試験における左右下肢の荷重値と、
図17(B)に示す体重支援型歩行補助装置61を装着した下肢の荷重値のピーク値とによれば、体重支援型歩行補助装置61を装着した下肢の荷重が196〔N〕であり、許容最大荷重値を超えないことも確認できた。なお各試行のピーク値の平均と標準誤差は、181±12.8〔N〕であった。
【0073】
また本実施の形態においては、左右の靴部5の足底にインソール型の床反力センサ42を設けて、装着者の足裏面にかかる荷重に対する反力(足裏部への圧力分布)を検出するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、床反力センサ42に加えて、座部においても座面反力センサ(図示せず)を設けるようにしてもよい。
【0074】
すなわち、座部に搭載され、装着者の臀部への圧力分布を検出する座面反力センサをさらに備え、制御部40は、生体信号検出部50の検出結果および座面反力センサの検出結果に基づいて、歩行動作の遊脚期に靴部が歩行面に接触しないように、駆動ユニット(回動駆動部)20を制御する。
【0075】
この結果、体重支援型歩行補助装置1では、装着者の足裏部への圧力分布のみならず、装着者の臀部への圧力分布に基づいて、歩行動作の支持脚期に床反力を軽減させて装着者の自重による膝関節部への重量負担を最適な状態に高い精度で合わせながら動作アシストを行うことができる。
【符号の説明】
【0076】
1、61…体重支援型歩行補助装置、2…座部、3…大腿フレーム、4…下腿フレーム、5…靴部、7、8…カフ、10…股関節連結部、20…駆動ユニット(回転駆動部)、21…アクチュエータ、22…アクチュエータ制御部、23…減速機、30、60…膝関節連結部、31…大腿側リンク部(固定節)、32…屈曲用リンク部(原動節)、33…膝蓋リンク部(従動節)、34…下腿側リンク部(中間節)、35、72…ロック機構部、40…制御部、41…データ格納部、42…床反力センサ、43…床反力制御部、44…変換器、45…LPF、50…生体信号検出部、70…下腿側パート部、71…大腿側パート部。