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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-17
(45)【発行日】2025-04-25
(54)【発明の名称】コーティング装置
(51)【国際特許分類】
   B41F 27/12 20060101AFI20250418BHJP
【FI】
B41F27/12 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021174429
(22)【出願日】2021-10-26
(65)【公開番号】P2023064261
(43)【公開日】2023-05-11
【審査請求日】2024-05-14
(73)【特許権者】
【識別番号】714000460
【氏名又は名称】リョービMHIグラフィックテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】藤本 泰之
(72)【発明者】
【氏名】甲賀 達也
(72)【発明者】
【氏名】平原 孝行
(72)【発明者】
【氏名】仁井谷 英治
【審査官】加藤 昌伸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/202798(WO,A1)
【文献】実開平05-056434(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2009/0255429(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102011004517(DE,A1)
【文献】中国実用新案第201415519(CN,Y)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41F 21/00 - 30/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被コーティング材にコーティングするニスが供給されるニス版が巻き付けられるニス胴と、前記被コーティング材に前記ニス版のニスを転写すべく前記ニス胴に対向配置されるニス圧胴と、を備え、
前記ニス胴は、前記ニス版を周面に巻き付けるために該ニス版の咥え側端部を挿入して挟持する咥え側万力と、巻き付けられた該ニス版の尻側端部を挿入して挟持する尻側万力と、を備え、
前記咥え側端部を前記咥え側万力に挿入した状態の該ニス版を押圧可能な押圧位置と押圧しない非押圧位置とに切り替え可能な版ガイドを備え
前記版ガイドは、前記ニス胴を覆う開閉式のカバーの内面側に設けられ、
前記カバーは、回動により開閉可能に構成され、前記カバーを開放状態から閉じ状態側へ所定角度回動することにより前記版ガイドが前記非押圧位置から前記押圧位置に切り替えられることを特徴とするコーティング装置。
【請求項2】
前記版ガイドは、前記カバーを開放した状態において前記ニス胴に接近した作動位置と、該作動位置に対して相対的に前記ニス胴から離間した退避位置とに位置変更可能に構成されていることを特徴とする請求項に記載のコーティング装置。
【請求項3】
前記カバーの閉じ状態において前記版ガイドの前記ニス胴側への移動を規制するための規制部材を備えていることを特徴とする請求項に記載のコーティング装置。
【請求項4】
前記版ガイドは、前記退避位置において前記カバーの内面に沿って配置されていることを特徴とする請求項に記載のコーティング装置。
【請求項5】
前記カバーの外面側には前記ニス胴に巻き付けられる前記ニス版を案内するための案内部材が設けられていることを特徴とする請求項のうちのいずれか1項に記載のコーティング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被コーティング材にニスをコーティングするためのコーティング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
かかるコーティング装置は、被コーティング材、例えば印刷物の印刷面にコーティングするニスが供給されるニス胴と、印刷物を搬送し該搬送する印刷物に前記ニス胴のニスを押し付けるためのニス圧胴と、を備えている。
【0003】
前記ニス胴には、ニスをコーティングするためのニス版が人手により装着されることになる。そのニス胴へのニス版の装着においては、ニス版の咥え側端部を開状態の咥え側万力に手で挿入して咥え側万力を閉じる。しかし、前記ニス版の挿入後、咥え側万力を閉じるまでの間にニス版の姿勢が変化すると、ニス版が浮いた状態になる。この状態のまま咥え側万力を閉じてニス版を装着すると、ニス版に皺が入った状態でニス胴に装着されてしまう。そのため、通常、ニス版の装着を行う際には、ニス版をニス胴側に沿わせるように手でニス版を押し付ける必要がある。
【0004】
特に、特許文献1のように、手動開閉式の咥え側万力の場合は、工具を使って万力台に対して咥え板を閉じる際に手でニス版を押さえつけることが出来ないため、ニス版の姿勢が変化してニス版に皺が入る可能性が高くなる。更に、咥え板が左右方向で分割されており、それぞれを個別に工具を使って閉じる構成の場合は、左右の咥え板のうちの一方の咥え板を閉じた後に他方の咥え板を閉じることになるため、前記のようにニス版に皺が入る可能性が更に高まることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】実公平7-42732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記のような問題を解決するためになされたもので、咥え側万力に咥え側端部が挿入されたニス版の姿勢が変化することを抑制することができるコーティング装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係るコーティング装置は、被コーティング材にコーティングするニスが供給されるニス版が巻き付けられるニス胴と、前記被コーティング材に前記ニス版のニスを転写すべく前記ニス胴に対向配置されるニス圧胴と、を備え、前記ニス胴は、前記ニス版を周面に巻き付けるために該ニス版の咥え側端部を挿入して挟持する咥え側万力と、巻き付けられた該ニス版の尻側端部を挿入して挟持する尻側万力と、を備え、前記咥え側端部を前記咥え側万力に挿入した状態の該ニス版を押圧可能な押圧位置と押圧しない非押圧位置とに切り替え可能な版ガイドを備えていることを特徴としている。
【0008】
上記構成によれば、版ガイドが非押圧位置において、ニス版の咥え側端部を咥え側万力に挿入し、挿入した状態のニス版を、非押圧位置から押圧位置に切り替えた版ガイドで押圧することによって、ニス版を張った状態で咥え側万力に保持させることができる。これにより、咥え側万力を閉じるまでの間に咥え側万力に挿入されたニス版の姿勢が変化してニス版が浮いた状態になることを抑制できる。よって、ニス版に皺が入った状態でニス胴に装着されることを抑制できる。
【0009】
また、本発明に係るコーティング装置は、前記版ガイドが、前記ニス胴を覆う開閉式のカバーの内面側に設けられていてもよい。
【0010】
上記構成によれば、ニス胴を覆う開閉式のカバーの内面側に版ガイドを設けることによって、版ガイドを設けるための特別な部材が不要になり、部品点数の削減化を図れる。
【0011】
また、本発明に係るコーティング装置は、前記カバーが、回動により開閉可能に構成され、前記カバーを開放状態から閉じ状態側へ所定角度回動することにより前記版ガイドが前記非押圧位置から前記押圧位置に切り替えられてもよい。
【0012】
上記構成によれば、カバーを開放状態から閉じ状態側へ所定角度回動することにより版ガイドが非押圧位置から押圧位置に切り替えられて、ニス版を版ガイドで確実に押圧することができる。
【0013】
また、本発明に係るコーティング装置は、前記版ガイドが、前記カバーを開放した状態において前記ニス胴に接近した作動位置と、該作動位置に対して相対的に前記ニス胴から離間した退避位置とに位置変更可能に構成されていてもよい。
【0014】
上記構成によれば、カバーを開放した状態において版ガイドを、ニス胴に接近した作動位置と、作動位置に対して相対的にニス胴から離間した退避位置とに位置変更することができる。
【0015】
また、本発明に係るコーティング装置は、前記カバーの閉じ状態において前記版ガイドの前記ニス胴側への移動を規制するための規制部材を備えていてもよい。
【0016】
上記構成によれば、カバーの閉じ状態において版ガイドのニス胴側への移動を規制するので、版ガイドがニス胴に不測に移動して当接することを回避することができる。
【0017】
また、本発明に係るコーティング装置は、前記版ガイドが、前記退避位置において前記カバーの内面に沿って配置されていてもよい。
【0018】
上記構成によれば、版ガイドが、退避位置においてカバーの内面に沿って配置されていれば、カバーの厚み方向での版ガイドの配置スペースを小さくすることができ、コーティング装置の大型化を抑制できる。
【0019】
また、本発明に係るコーティング装置は、前記カバーの外面側には前記ニス胴に巻き付けられる前記ニス版を案内するための案内部材が設けられていてもよい。
【0020】
上記構成によれば、ニス版を巻き付ける際に、カバーの外面側に備えた案内部材でニス版を案内することによって、ニス版が周辺の部材に接触して損傷することを抑制できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、咥え側万力に咥え側端部が挿入されたニス版を、非押圧位置から押圧位置に切り替えた版ガイドで押圧することによって、該ニス版の姿勢が変化することを抑制することができるコーティング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明のコーティング装置が組み込まれた印刷機の全体側面図である。
図2】本発明のコーティング装置の上部を示す斜視図で、カバーを閉じた図である。
図3】同コーティング装置の上部を示す縦断側面図で、カバーを閉じた図である。
図4】同コーティング装置の上部を示す縦断側面図で、カバーを開放した図である。
図5】同コーティング装置の上部を示す正面図で、カバーを開放した図である。
図6】同コーティング装置の上部を示す斜視図で、カバーを開放した図である。
図7】同コーティング装置の上部を示す縦側断面図で、ニス版を咥え側万力に挿入した状態の図である。
図8】同コーティング装置の上部を示す縦側断面図で、図7の状態から版ガイドを退避位置から作動位置に位置させた状態の図である。
図9】同コーティング装置の上部を示す縦側断面図で、図8の状態からカバーを開放状態から閉じ状態側へ所定角度回動することにより版ガイドを非押圧位置から押圧位置に切り替えられた状態の図である。
図10】同コーティング装置の上部を示す斜視図で、図9の状態から工具で咥え側万力を閉じ状態にしている図である。
図11】同コーティング装置の上部を示す縦側断面図で、ニス胴へのニス版の巻き付けが完了してカバーを閉じた状態を示している図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明のコーティング装置を、図面を参照しながら説明する。
【0024】
図1に、印刷された印刷用紙(被コーティング材)の印刷面に光沢を出すためのニス(樹脂ワニスとも言う)をコーティング(塗布)して表面処理を行うためのコーティング装置1が組み込まれた印刷機の一例を示している。
【0025】
この印刷機は、紙積み台2と、紙積み台2からフィーダ装置3により一枚ずつ印刷用紙P(枚葉紙)を送り出すための給紙部4と、この給紙部4から送り出された印刷用紙Pに印刷を行うための印刷部5と、該印刷部5により印刷された印刷用紙にニス(紫外線硬化型樹脂ワニス)をコーティングするコーティング装置1と、該コーティング装置1によりニスがコーティングされた印刷用紙を搬送して排紙するための排紙部6と、排紙部6内に設けられ、排紙部6により搬送されてくる印刷用紙のニスを硬化させるための紫外線乾燥装置7と、を備えている。前記紫外線乾燥装置7の印刷用紙搬送方向前後には、赤外線乾燥装置8A,8Bを備えており、これら赤外線乾燥装置8A,8Bは、印刷用紙にコーティングされた水性ワニス(水性ニス)を乾燥させる際に使用する。図1において、紙積み台2側を前側とし、排紙部6側を後側とし、紙面を貫通する方向を左右方向(又は幅方向)として、以下説明する。
【0026】
前記印刷部5は、複数(5色)の印刷ユニット5A~5Eを備えている。これら印刷ユニット5A~5Eは、印刷用圧胴5a~5eを備え、これら印刷用圧胴5a~5eの搬送方向上流側のそれぞれには、各印刷用圧胴5a~5eへ印刷用紙Pを渡すための渡し胴9a~9eを備えている。尚、前記渡し胴9a~9eのうちの搬送方向始端側(前側)に位置する径の小さな渡し胴9aを給紙胴とも言い、この渡し胴9aと前記フィーダ装置3とから前記給紙部4を構成している。そして、図示していないが、前記胴5a~5e及び渡し胴9a~9eのそれぞれには、送り出されてきた印刷用紙Pを爪台と爪とで把持するグリッパを円周方向の複数箇所(1箇所でもよい)に備えている。尚、前記径の小さな渡し胴9aにも、図示していないが、印刷用紙を爪台と爪とで把持するグリッパを円周方向の1箇所に備えている。
【0027】
前記コーティング装置1は、ニスが供給されるニス版11(図2図3にニス胴1Aに巻き付けられる前のニス版11を示している)が装着されるニス胴1Aと、ニス胴1Aのニス版11にニスを供給するためのニス供給ローラ10と、前記ニス胴1Aの下方に対向配置され、印刷された印刷用紙を搬送し該搬送する印刷用紙にニス版11のニスを転写するためのニス圧胴1Bと、を備えている。
【0028】
また、前記コーティング装置1は、ニス胴1Aを、ニス圧胴1B及びニス供給ローラ10に接近させてニスを転写する接近位置とニス圧胴1B及びニス供給ローラ10から離間させた離間位置とに切り替えることができる移動手段(図示せず)を備えている。前記離間位置において、後述するニス版11の装着作業を行う他、機器のメンテナンスを行うことになる。尚、前記ニス圧胴1Bの搬送方向上流側(前側)に、印刷用紙をニス圧胴1Bに渡すための渡し胴1G(図1参照)を備えている。この渡し胴1Gは、送り出されてきた印刷用紙を爪台と爪とで把持するグリッパを円周方向の複数箇所(1箇所でもよい)に備えている。ニス版11は、柔軟性を有する合成樹脂で構成され、版胴に装着する刷版よりも柔軟性を有している。そのため、ニス胴1Aへのニス版11の装着時にニス版11に皺が発生しやすい。
【0029】
また、図2及び図3に示すように、コーティング装置1は、ニス胴1Aの上側において上方に延びる前側部18A、前側部18Aの上端から後方へ延びる天側部18Bを有する保護カバー18と、ニス胴1Aを上方から覆う開閉可能な金属製のカバー12を備えている。カバー12は、後端部の左右方向の軸芯X1回りで回動させることにより開閉可能に構成されている。また、カバー12は、多数の左右方向に長い長方形状の孔12Kが形成され、前端側に向かって下方に傾斜した傾斜板部12Aと、傾斜板部12Aの前端から下方に折り曲げられた縦板部12Bと、縦板部12Bの下端から後方へ折り曲げてから上方へ折り曲げた折り曲げ部12Cと、を備えている。カバー12の閉じ状態において、折り曲げ部12Cの後端がコーティング装置本体側に備えたゴム31(図3参照)に当接することによりカバー12の閉じ状態が規制される。そして、傾斜板部12Aの左右両端部のそれぞれに前後方向に延びて外面側に突出して折り曲げられた突出部13,13(図2では一方(右側)のみ図示されている)が形成され、これら突出部13,13の内面に固定された前後方向に延びるアーム部14,14(図2では一方(右側)のみ図示されている)の後端がコーティング装置1の機体側に軸支されている。この軸支によりカバー12が左右方向の軸芯X1回りで回動して、ニス版11の装着時の他、メンテナンス時において、カバー12を軸芯X1回りで回動させて上方に持ち上げて上下姿勢となる開放状態(図4図6参照)とニス胴1Aを覆う閉じ状態(図2及び図3参照)と開放状態から閉じ状態側へ所定角度回動した中間状態(図9参照)とに変更可能に構成されている。
【0030】
カバー12の開放状態では、カバー12の後方に位置する保護カバー18の前側部18Aにカバー12が接近した状態になり、前側部18Aに設置された第1マグネットM1,M1(図2では一方(右側)のみ図示している)にカバー12が吸着することでカバー12の開放状態が保持される。また、カバー12の中間状態では、図10に示すように、左右の側壁部23,23のうちの左側の側壁部23に形成された孔23Aにカバー12の内面の前後方向前側の左端部(一端部)に取り付けたプッシュボルト24が係合及び係合解除可能に係合することで、カバー12の中間状態が保持される。尚、プッシュボルト24は、カバー12の開放状態においても左側の側壁部23に形成された孔23Bに係合させておくことで、カバー12が第1マグネットM1,M1から離脱して閉じ側へ移動することを阻止することができる。尚、前記プッシュボルト24はカバー12の左右両側のそれぞれに備えていてもよい。
【0031】
前記ニス胴1Aについて詳述すれば、図3に示すように、ニス胴1Aに形成の凹部1K内には、ニス版11を周面に巻き付けるために該ニス版11の咥え側端部を挿入して挟持する咥え側万力15と、巻き付けられたニス版11の尻側端部を挿入して挟持する尻側万力16と、を備えている。
【0032】
咥え側万力15は、凹部1K内のうちのニス胴1Aの回転方向(図1参照)上流側に固定される万力台15Aと、万力台15Aに対向して配置され万力台15Aとでニス版11の咥え端部を挟持する閉じ位置と該ニス版11の咥え端部の挿入を可能にする開放位置とに位置変更可能な咥え板15Bと、を備えている。この咥え側万力15でニス版11の咥え端部を挟持した状態でニス胴1Aを所定角度回動させることにより、ニス版11がニス胴1Aに巻き付けられる。尚、万力台15Aと咥え板15B(図5図6では咥え板15Bのみ見えている)とが、左右に振り分けられて2個ずつ配置されている。
【0033】
カバー12の内面側には、開放位置の咥え側万力15に咥え端部が挿入されたニス版11の表面をニス胴1Aから上方へ離間した位置において後方へ押圧することができる版ガイド17が設置されている。また、図3に示すように、版ガイド17は、カバー12の内面に沿うように位置させることができる。これにより、カバー12からニス胴1A側(下方)への版ガイド17の突出量を抑制することができる。従って、カバー12の厚み方向における版ガイド17の配置スペースを小さくすることができ、コーティング装置1の大型化を抑制できる。版ガイド17は、図5に示すように、左右方向に延びる略同一直径でかつニス版11の幅寸法よりも長い寸法を有する回転可能なコロ19と、長手方向一端部(先端部)でコロ19の左右端を回転可能に支持し、長手方向他端部(基端部)を回動支点X2として左右方向軸回りに回動可能に構成され、前後方向(図5においては上下方向)に延びる左右一対のブラケット20,20と、コロ19の左右端位置において、ブラケット20,20よりも左右方向外側に突設されたガイドピン21,21と、を備えている。したがって、版ガイド17は、カバー12を開放した状態において、回動支点X2回りに回動させることで、コロ19がニス胴1Aから離間した退避位置(図4図7参照)と、ニス胴1Aに接近した作動位置(図8参照)とに位置変更できる。また、コロ19は、退避位置においては、カバー12の回動中心である軸芯X1よりもニス胴1Aから離れており、作動位置においては、軸芯X1よりもニス胴1Aに接近している。前記コロ19は、咥え側万力15に挿入されたニス版11を押圧する押圧部材を構成している。
【0034】
版ガイド17は、退避位置と作動位置のいずれの位置においてもカバー12に位置保持できるようにしている。つまり、図5及び図7に示すように、版ガイド17のブラケット20,20間には、側面視において略Z型に構成された金属製の板材22が取り付けられている。版ガイド17の退避位置において、前記板材22のコロ19側の第1部分22Aに磁気により吸着保持するための左右一対の第2マグネットM2,M2(図7では一方のみ図示している)をカバー12の内面の反軸芯X1側の左右両端部に設けるとともに、版ガイド17の作動位置において、前記板材22のコロ19から離間する側の第2部分22Bに磁気により吸着保持するための左右一対の第3マグネットM3,M3(図7では一方のみ図示している)をカバー12の内面の軸芯X1側の左右両端部に設けている。前記カバー12に対する前記回動支点X2の設置位置は、カバー12の内面の前後方向中央よりも後端部寄りに設定されている。前記カバー12の内面側に版ガイド17を設けることによって、版ガイド17を設けるための特別な部材が不要になり、部品点数の削減化を図れる。
【0035】
また、カバー12の外面側には、図9に示すように、ニス版11をニス胴1Aに巻き付ける際に、ニス版11を案内するための案内部材25が3個設けられている。案内部材25は、回転可能なガイドローラから構成されている。ガイドローラ25(案内部材25)は、図2に示すように、左右方向に長いローラであって、カバー12の左右両端部に形成された突出部13,13の間に前後方向に間隔を置いて設けられている。尚、ガイドローラ25の数は3個以外でもよい。
【0036】
版ガイド17に備えるガイドピン21,21は、カバー12の閉じ状態において、後述する被係合部材27と協働して版ガイド17のニス胴1A側への移動を規制するための規制部材(第1の規制部材)を構成している。
【0037】
ガイドピン21,21は、図11に示すように、カバー12の閉じ状態においてコーティング装置本体の左右の側壁部23,23(図5参照)に取り付けられた被係合部材27,27に係合することにより版ガイド17のニス胴1A側への移動を規制するためのものである。
【0038】
各被係合部材27は、図3に示すように、ニス胴1Aの上方に配置された板状の本体27Aと、この本体27Aの左右方向内側に前後方向に延びて略同一幅に形成された直線状の溝27Mと、を備えている。溝27Mの前側端部には、ガイドピン21を溝27Mに確実に係合させるように案内するための案内面27Sを備えている。この案内面27Sは、係合始端側(前側)ほど下方に位置する傾斜面として構成されている。各被係合部材27の下面には、前側へ延びる左右一対のガイドカバー28,28を取り付けている。これらガイドカバー28,28は、図3に示すカバー12の閉じ状態において、第2マグネットM2,M2の磁力により退避位置に保持されている版ガイド17が何らかの原因で第2マグネットM2,M2から離脱した場合に、ガイドピン21,21が当接することで版ガイド17がニス胴1A側へ移動して干渉することを防止するための第2の規制部材として機能する。ガイドカバー28,28は、前後方向視において略逆L字形状に構成され、側面方向視においてニス胴1Aの上方に位置するように形成された当接部28A,28Aを備えている。
【0039】
前記ニス版11には、厚みが異なる複数種類のものがあり、ニス版11をニス胴1Aに装着する際に、ニス版11とニス胴1Aとの間に厚み調整用のシート部材(図示せず)を介在させてもよい。
【0040】
尻側万力16は、凹部1K内のうちのニス胴1Aの回転方向(図1参照)下流側に固定される万力台16Aと、万力台16Aに対向して配置され万力台16Aとでニス版11の尻側端部を挟持する閉じ位置と該ニス版11の尻側端部の挿入を可能にする開放位置とに位置変更可能な尻側の咥え板16Bと、を備えている。また、咥え尻側万力16は、図示していない自転機構により左右方向軸線回りに自転可能に構成されている。この自転により咥え側端部が咥え側万力15に、尻側端部が尻側万力16にそれぞれ挟み込まれてニス胴1Aに巻き付けられたニス版11に張力を与えることができる。尚、万力台16Aと咥え板16B(図5図6では咥え板16Bのみ見えている)とが、左右に振り分けられて2個ずつ配置されており、咥え板16Bは左右別個に開閉できる。
【0041】
図2図3に示すように、前側部18Aの上端部の左右方向両端部には、左右の軸心回りで回動可能な左右一対の案内ローラ29,29(図2では右側のみ見えている)を備えるとともにこれら案内ローラ29,29とでニス版11を挟持する挟持位置(図7参照)と案内ローラ29,29から離間して挟持を解除する解除位置(図3参照)とに左右方向の軸心回りで揺動可能に構成された回動可能な挟持ローラ30を備えている。挟持ローラ30は、ニス版11の全幅よりも長い寸法を有している。前側部18Aの前面には、ニス版11との接触抵抗の少ない素材で構成された複数の帯状シート18K(図10参照)が左右方向に所定間隔を置いて取り付けられている。また、前側部18Aの下部は、図3に示すように、下方側ほど後方に位置するように斜め後方へ折り曲げられた傾斜部18aと、傾斜部18aの下端から下方に延びる縦部18bと、縦部18bの下端から前方へ折り曲げられた底部18cと、底部18cの前端から上方へ立ち上がるように折り曲げられた立ち上げ部18dと、を備えている。前記縦部18bと前記底部18cと立ち上げ部18dとでニス版11の下端部を受容する受容部を構成している。
【0042】
上記構成を用いて、ニス胴1Aにニス版11を装着する手順について説明する。
【0043】
まず、装着するニス版11を保護カバー18の天側部18Bから前側部18Aに沿って仮置きする(図2図3参照)。このとき、ニス版11の下端部(咥え側端部)を前側部18Aの下端部の前記受容部に受容した状態とする。続いて、カバー12を開放状態まで回動させて第1マグネットM1,M1(図2参照)で位置保持させる(図4図6参照)。次に、挟持ローラ30を揺動させて挟持位置(図7参照)に切り替えて案内ローラ29と挟持ローラ30とでニス版11を挟持した後、ニス版11の咥え側端部を持って咥え側万力15の万力台15Aと咥え板15Bとの間に挿入する(図7参照)。続いて、退避位置の版ガイド17を回動支点X2回りで略180度回動させてカバー12から下方に突出した作動位置に位置させる(図8参照)。こののち、カバー12を開放状態から中間状態になるまで回動させてからプッシュボルト24を孔23Aに係合してその中間状態にカバー12を保持させる(図9参照)。このとき、非押圧位置の版ガイド17がニス版11を押圧する押圧位置に切り替えられるとともに、尻側端が挟持ローラ30から外れたニス版11がカバー12側へ倒れ込んでカバー12に備えるガイドローラ25,25,25に支持される。この押圧位置では、版ガイド17のコロ19が咥え側万力15に咥え側端部が挿入されているニス版11の表面をニス胴1Aの上方位置において略後方へ押圧することによって、ニス版11を張った状態で咥え側万力15に保持することができる。また、ニス版11を咥え側万力15近傍のニス胴1Aの外面に押し付けることができる。これにより、咥え側万力15を閉じるまでの間に咥え側万力15に挿入されたニス版11の姿勢が変化してニス版11が浮いた状態やずれた状態になることを抑制できる。よって、ニス版11に皺が入った状態でニス胴1Aに装着されることを抑制できる。尚、前記カバー12の中間状態では、版ガイド17が、図9に示すように、先端のコロ19側ほど下方に位置する傾斜姿勢になっているが、水平姿勢になるように構成してもよい。
【0044】
次に、図9及び図10に示す工具32を用いて左右方向一方側のカム33を手動で時計回りに回すことにより左右方向一方側の咥え板16Bを閉じてニス版11の咥え側端部の左右方向一方側を咥える(挟持する)。続いて左右方向他方側のカム33も同様に手動で時計回りに回すことにより左右方向他方側の咥え板16Bを閉じてニス版11の咥え側端部の左右方向他方側を咥える(挟持する)。ニス版11の咥え側を挟持した後は、ニス胴1Aを所定角度時計回りに回転させることによりニス版11がニス胴1Aに巻き付けられる。この巻き付け時には、ガイドローラ25,25,25及びコロ19が回転しながらニス版11を案内することによって、ニス版11に傷が発生することを抑制できる。巻き付け後は、ニス版11の尻側端部を持って尻側万力16の万力台16Aと咥え板16Bとの間に挿入し、左右の尻側万力16,16を咥え側万力15,15と同様に工具32を用いて閉じてから、前述したようにニス版11に張力を付与してニス版11の装着が完了する。完了後は、プッシュボルト24を係合解除してから中間状態のカバー12を下方へ回動させることにより閉じ状態にする(図11参照)。このとき、カバー12の下方への回動に伴ってガイドピン21,21が被係合部材27,27の溝27M,27Mの奥側(後側)へ更に移動して係合が継続される。これにより、版ガイド17のニス胴1A側への移動が規制された状態でカバー12が閉じ状態になる。
【0045】
この実施形態では、版ガイド17を作動位置にしたまま、カバー12を閉じるようにしたが、カバー12を中間状態から上方の開放状態に回動させて版ガイド17を作動位置から退避位置に位置変更させてからカバー12を閉じ状態まで回動させるようにしてもよい(図3の状態)。このカバー12の閉じ状態では、版ガイド17が第2マグネットM2,M2でカバー12に吸着保持されているが、何らかの原因で第2マグネットM2,M2から版ガイド17が離脱した場合に、ガイドピン21,21がガイドカバー28,28の当接部28A,28Aに当接することで版ガイド17がニス胴1Aへ移動(落下)して干渉することを防止することができる。
【0046】
尚、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0047】
前記実施形態では、5台の印刷ユニット5A~5Eを備えた印刷部5を示しているが、印刷ユニットの数は5台に限定されない。又、印刷ユニットが無くてもよい。又、前記排紙部6は、グリッパを備えるチェーン搬送装置にて構成しているが、この排紙部6のない印刷機であってもよいし、又、印刷機を構成する各部の具体的な構成は図に示されるものに限定されるものではない。又、印刷用紙として枚葉紙を用いているが、フィルムや連続する長尺な用紙であってもよい。また、被コーティング材としては、印刷を行っていない用紙やフィルムであってもよい。
【0048】
また、前記実施形態では、カバー12に対して版ガイド17を回動させて退避位置と作動位置とに位置変更させたが、カバー12に対して版ガイド17をスライドさせて退避位置と作動位置とに位置変更させてもよい。
【0049】
また、前記実施形態では、版ガイド17をカバー12に設け、版ガイド17を作動位置に位置させるとともに、カバー12を中間状態とすることで、ニス版11を押圧しない非押圧位置からニス版11を押圧する押圧位置に版ガイド17を切り替える構成としたが、カバー以外の固定部材に版ガイドを設けて、版ガイドを退避位置から作動位置に位置させるだけでニス版11を押圧しない非押圧位置からニス版11を押圧する押圧位置に切り替えることができる構成であってもよい。
【0050】
また、前記実施形態では、コロ19及びガイドローラ25を左右方向に同一直径で延びる1本の回転体から構成したが、複数の大径部を備える1本の回転体でもよいし、複数の独立した回転体(ローラや球体)を左右方向に間隔を置いて備えた構成であってもよい。
【0051】
また、前記実施形態では、押圧部材を回転可能なコロ19から構成し、案内部材を回転可能なガイドローラ25から構成したが、押圧部材及び案内部材を回転しない部材から構成してもよい。この場合、例えばニス版11に接触する部材を柔らかい材料(例えば、ゴム、合成樹脂、不織布等)やブラシで構成することが好ましい。
【0052】
また、前記実施形態では、万力台15A,16Aと咥え板15B,16Bをそれぞれ、左右に2個ずつ設けたが、3個ずつ以上の任意の個数設けてもよいし、1個のみ設けてもよい。
【符号の説明】
【0053】
1…コーティング装置、1A…ニス胴、1B…ニス圧胴、1G…渡し胴、1K…凹部、2…紙積み台、3…フィーダ装置、4…給紙部、5…印刷部、5A~5E…印刷ユニット、5a~5e…印刷用圧胴、6…排紙部、7…紫外線乾燥装置、8A,8B…赤外線乾燥装置、9a~9e…渡し胴、10…ニス供給ローラ、11…ニス版、12…カバー、12A…傾斜板部、12B…縦板部、12C…折り曲げ部、12K…孔、13…突出部、14…アーム部、15…咥え側万力、15A…万力台、15B…咥え板、16…尻側万力、16A…万力台、16B…咥え板、17…版ガイド、18…保護カバー、18A…前側部、18B…天側部、18K…帯状シート、18a…傾斜部、18b…縦部、18c…底部、18d…立ち上げ部、19…コロ(押圧部材)、20…ブラケット、21…ガイドピン、22…板材、23…側壁部、23A,23B…孔、24…プッシュボルト、25…ガイドローラ(案内部材)、27…被係合部材、27A…本体、27M…溝、27S…案内面、28…ガイドカバー、28A…当接部、29…案内ローラ、30…挟持ローラ、31…ゴム、32…工具、33…カム、P…印刷用紙、X1…軸芯、X2…回動支点
図1
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図11