(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-17
(45)【発行日】2025-04-25
(54)【発明の名称】蛍光体塗料、塗膜、蛍光体基板および照明装置
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20250418BHJP
C09D 183/04 20060101ALI20250418BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20250418BHJP
C09D 5/22 20060101ALI20250418BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D183/04
C09D7/61
C09D5/22
(21)【出願番号】P 2022541509
(86)(22)【出願日】2021-07-30
(86)【国際出願番号】 JP2021028400
(87)【国際公開番号】W WO2022030397
(87)【国際公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-05-26
(31)【優先権主張番号】P 2020134392
(32)【優先日】2020-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】小西 正宏
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-265437(JP,A)
【文献】特開2014-209545(JP,A)
【文献】国際公開第2002/059982(WO,A1)
【文献】特開2006-105597(JP,A)
【文献】特開2014-192326(JP,A)
【文献】特開平11-167000(JP,A)
【文献】特開平11-61750(JP,A)
【文献】特開2015-217359(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00- 10/00
101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光体粒子と、硬化性樹脂成分と、を含む蛍光体塗料であって、
B型粘度計を用い、25℃、回転数20rpmで測定される粘度が60dPa・s以上450dPa・s以下であり、
前記蛍光体塗料の全不揮発成分中の前記蛍光体粒子の含有率が、25vol%以上
60vol%以下であ
り、
前記蛍光体粒子のメジアン径D
50
は1μm以上20μm以下である蛍光体塗料。
【請求項2】
請求項1に記載の蛍光体塗料であって、
前記硬化性樹脂成分は、熱硬化性樹脂成分を含む蛍光体塗料。
【請求項3】
請求項1または2に記載の蛍光体塗料であって、
前記硬化性樹脂成分は、シリコーン樹脂を含む蛍光体塗料。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の蛍光体塗料であって、
前記硬化性樹脂成分は、フェニル基およびメチル基を有するシリコーン樹脂を含む蛍光体塗料。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の蛍光体塗料であって、
前記硬化性樹脂成分は、シラノール基を含むシリコーン樹脂を含む蛍光体塗料。
【請求項6】
請求項1から
5のいずれか1項に記載の蛍光体塗料であって、
前記蛍光体粒子の粒径分布曲線において、2以上の極大が認められる蛍光体塗料。
【請求項7】
請求項
6に記載の蛍光体塗料であって、
前記蛍光体粒子の粒径分布曲線において、粒径1μm以上6μm以下の領域と、粒径10μm以上25μm以下の領域の両方に極大が認められる蛍光体塗料。
【請求項8】
請求項1から
7のいずれか1項に記載の蛍光体塗料であって、
前記蛍光体粒子が、CASN系蛍光体、SCASN系蛍光体、La
3Si
6N
11系蛍光体、Sr
2Si
5N
8系蛍光体、Ba
2Si
5N
8系蛍光体、α型サイアロン系蛍光体、β型サイアロン系蛍光体、LuAG系蛍光体およびYAG系蛍光体からなる群より選ばれる1または2以上を含む蛍光体塗料。
【請求項9】
請求項1から
8のいずれか1項に記載の蛍光体塗料であって、
流動性調整剤を含む蛍光体塗料。
【請求項10】
請求項1から
9のいずれか1項に記載の蛍光体塗料であって、
さらに溶剤を含む蛍光体塗料。
【請求項11】
請求項
10に記載の蛍光体塗料であって、
前記溶剤は、芳香族炭化水素溶剤を含む蛍光体塗料。
【請求項12】
請求項1~
11のいずれか1項に記載の蛍光体塗料により形成された塗膜。
【請求項13】
請求項
12に記載の塗膜であって、
厚みが150μm以下である塗膜。
【請求項14】
請求項
12または
13に記載の塗膜を備える蛍光体基板。
【請求項15】
絶縁基板と、請求項1~
11のいずれか1項に記載の蛍光体塗料により前記絶縁基板の片面側に設けられた塗膜と、前記塗膜における前記絶縁基板と反対側の面に設置された発光素子と、を備える照明装置。
【請求項16】
請求項
15に記載の照明装置であって、
複数の前記発光素子が設置された照明装置。
【請求項17】
請求項
15または
16に記載の照明装置であって、
前記発光素子はリフレクタを備えない照明装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体塗料、塗膜、蛍光体基板および照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
LED(Light Emitting Device)を用いた照明装置について、様々な開発が進められている。LEDそのものの開発だけでなく、LEDを備える実装基板に関する開発も知られている。
【0003】
例えば、特許文献1の実施例2には、(i)30vol%の蛍光体を含むガラスバインダー塗料を、ガラス基板の表面に塗布して、厚さ200μmの蛍光体層を形成したこと、(ii)そのガラス基板上に、複数のCSPを接合してLED照明用実装基板を得たこと、(iii)その実装基板に通電したところ、複数のCSPから発光しているにもかかわらず、グレアや多重影の問題が軽減されたこと、などが記載されている。
(CSPとは、Chip Scale PackageまたはChip Size Packageの略で、LEDチップを蛍光体樹脂で包み、LEDチップと蛍光体樹脂だけの構成でパッケージレスとしたものである。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の実施例2においては、蛍光体を含む「ガラスバインダー塗料」を用いて、ガラス基板上に厚さ200μmの蛍光体層を形成している。しかし、ガラスバインダー塗料を十二分に硬化させるには、通常、高温での焼結工程を要するため、蛍光体層を設ける簡便性などの点で改善の余地がある。また、ガラスバインダー塗料を塗布する筐体/基板にも、耐熱性や膨張係数最適化等の制限がかかる。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものである。本発明の目的の1つは、簡便に蛍光体層を形成可能な材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、以下に提供される発明を完成させ、上記課題を解決した。
【0008】
本発明によれば、
蛍光体粒子と、硬化性樹脂成分と、を含む蛍光体塗料であって、
B型粘度計を用い、25℃、回転数20rpmで測定される粘度が60dPa・s以上450dPa・s以下である蛍光体塗料が提供される。
【0009】
また、本発明によれば、
上記の蛍光体塗料により形成された塗膜
が提供される。
【0010】
また、本発明によれば、
上記の塗膜を備える蛍光体基板
が提供される。
【0011】
また、本発明によれば、
絶縁基板と、上記の蛍光体塗料により前記絶縁基板の片面側に設けられた塗膜と、前記塗膜における前記絶縁基板と反対側の面に設置された発光素子と、を備える照明装置
が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の蛍光体塗料を用いることで、蛍光体層を簡便に設けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】リフレクタを備えないLEDチップと、リフレクタを備えるLEDチップを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
すべての図面はあくまで説明用のものである。図面中の各部材の形状や寸法比などは、必ずしも現実の物品と対応しない。
【0015】
本明細書における「(メタ)アクリル」との表記は、アクリルとメタクリルの両方を包含する概念を表す。「(メタ)アクリレート」等の類似の表記についても同様である。
本明細書における「蛍光体粒子」の語は、文脈により、蛍光体粒子の集合体である「蛍光体粉末」を意味する場合がある。例えば、後述の「蛍光体粒子のメジアン径D50」は、蛍光体粒子の集合体である蛍光体粉末の粒径分布に基づき求められる値である。
【0016】
<蛍光体塗料>
本実施形態の蛍光体塗料は、蛍光体粒子と硬化性樹脂成分とを含む。
本実施形態の蛍光体塗料を、B型粘度計を用い、25℃、回転数20rpmの条件で測定したときの粘度は、60dPa・s以上450dPa・s以下である。
全不揮発成分中の蛍光体粒子の含有率は、25vol%以上60vol%以下である。
【0017】
本実施形態の蛍光体塗料は、ガラスバインダーではなく硬化性の「樹脂成分」を含む。このことにより、本実施形態の蛍光体塗料を用いれば、高温での焼結を要することなく、比較的簡便に蛍光体層を設けることができる。
【0018】
高温での焼結を要しないということは、使用可能な蛍光体が限定されないということにつながる。具体的には、ガラスバインダーで硬化膜を得ようとする場合、約600℃という高温での焼成が必要である。このような高温が必要な場合、高温に耐える蛍光体を選択する必要があり、使用可能な蛍光体が限定されかねない。また、高温からの冷却の際に剥がれが生じやすい。しかし、硬化性樹脂成分を用いて蛍光体塗料を調製することで、約600℃という高温を要せずに、剥がれが生じにくい蛍光体層を形成することができる。
高温での焼結を要しないということは、塗料を塗布または印刷する筐体/基板の、耐熱性や膨張係数最適化等の制限が少ないというメリットにもつながる。
【0019】
また、硬化性樹脂成分を用いることにより、塗布また印刷によって適度に薄い蛍光体層を形成しやすい。このことは、特に、蛍光体塗料中の蛍光体粒子の含有率が大きい場合に有効である。
とりわけ、本実施形態においては、粘度が60dPa・s以上450dPa・s以下であることにより、例えば大量生産に向くスクリーン印刷法によって、適度な厚みでムラが少ない蛍光体層(蛍光体粒子を含む塗膜)を基板上に形成することができる。
【0020】
本実施形態においては、適切な素材を適切な量用いることなどにより、粘度が60dPa・s以上450dPa・s以下である蛍光体塗料を得ることができる。具体的には、蛍光体粒子として適切な粒径分布を有するものを適量用いること、適切な流動性調整剤を適量用いること、適切な溶剤を適量用いることなどにより、本実施形態の蛍光体塗料を製造することができる。
【0021】
以下、本実施形態の蛍光体塗料の含有成分、物性などについて説明する。
【0022】
(蛍光体粒子)
本実施形態の蛍光体塗料は、蛍光体粒子を含む。蛍光体粒子は、発光素子から発せられる光により蛍光を発するものであればよい。所望の色目・色温度などに応じて、特定の蛍光体粒子を1種のみ用いてもよいし、2以上の蛍光体粒子を併用してもよい。
【0023】
蛍光体粒子としては、CASN系蛍光体、SCASN系蛍光体、La3Si6N11系蛍光体、Sr2Si5N8系蛍光体、Ba2Si5N8系蛍光体、α型サイアロン系蛍光体、β型サイアロン系蛍光体、LuAG系蛍光体およびYAG系蛍光体からなる群より選ばれる1または2以上を挙げることができる。これら蛍光体は、通常、Eu、Ce等の賦活元素を含む。
【0024】
CASN系蛍光体(窒化物蛍光体の一種)は、好ましくはEuを含む。CASN系蛍光体は、例えば、式CaAlSiN3:Eu2+で表され、Eu2+を付活剤とし、アルカリ土類ケイ窒化物からなる結晶を母体とする赤色蛍光体をいう
本明細書におけるEuを含有するCASN系蛍光体の定義では、Euを含有するSCASN系蛍光体は除かれる。
【0025】
SCASN系蛍光体(窒化物蛍光体の一種)は、好ましくはEuを含む。SCASN系蛍光体は、例えば、式(Sr,Ca)AlSiN3:Eu2+で表され、Eu2+を賦活剤とし、アルカリ土類ケイ窒化物からなる結晶を母体とする赤色蛍光体をいう。
【0026】
La3Si6N11系蛍光体は、具体的には、La3Si6N11:Ce蛍光体などである。これは、通常、青色LEDからの青色光を黄色光に波長変換する。
【0027】
Sr2Si5N8系蛍光体は、具体的には、Sr2Si5N8:Eu2+蛍光体や、Sr2Si5N8:Ce3+蛍光体などである。これらは、通常、青色LEDからの青色光を黄色~赤色の光に波長変換する。
【0028】
Ba2Si5N8系蛍光体は、具体的には、Ba2Si5N8:Euである。これは、通常、青色LEDからの青色光を橙色~赤色の光に波長変換する。
【0029】
α型サイアロン系蛍光体は、好ましくはEuを含む。Euを含むα型サイアロンは、例えば、一般式:MxEuySi12-(m+n)Al(m+n)OnN16-nで表される。一般式中、MはLi、Mg、Ca、Y及びランタニド元素(ただし、LaとCeを除く)からなる群から選ばれる、少なくともCaを含む1種以上の元素であり、Mの価数をaとしたとき、ax+2y=mであり、xが0<x≦1.5であり、0.3≦m<4.5、0<n<2.25である。
【0030】
β型サイアロン系蛍光体は、好ましくはEuを含む。Euを含むβ型サイアロンは、例えば、一般式Si6-zAlzOzN8-z:Eu2+(0<Z≦4.2)で示され、Eu2+が固溶したβ型サイアロンからなる蛍光体である。一般式において、Z値とユウロピウムの含有量は特に限定されない。Z値は、例えば0を超えて4.2以下であり、β型サイアロンの発光強度をより向上させる観点から、好ましくは0.005以上1.0以下である。また、ユウロピウムの含有量は0.1質量%以上2.0質量%以下であることが好ましい。
【0031】
LuAG系蛍光体は、通常、ルテチウムアルミニウムガーネット結晶を意味する。照明装置への適用を考慮すると、LuAGは、LuAG:Ce蛍光体であることが好ましい。より具体的には、LuAGは、Lu3Al5O12:Ceの組成式で表すことができるが、LuAGの組成は必ずしも化学量論に従っていなくてもよい。
【0032】
YAG系蛍光体は、通常、イットリウムアルミニウムガーネット結晶を意味する。照明装置への適用を考慮すると、YAG系蛍光体はCeで賦活されているものが好ましい。より具体的には、YAG系蛍光体は、Y3Al5O12:Ceの組成式で表すことができるが、YAG系蛍光体の組成は必ずしも化学量論に従っていなくてもよい。
【0033】
蛍光体粒子として市販品を使用してもよい。市販の蛍光体粒子としては、例えば、デンカ株式会社のアロンブライト(登録商標)などを挙げることができる。その他、三菱ケミカル社などからも市販されている。
【0034】
蛍光体粒子のメジアン径D50は、好ましくは1μm以上20μm以下、より好ましくは5μm以上15μm以下である。メジアン径D50が適切に調整されることにより、例えば蛍光体塗料としての流動性が調整されて、薄くて均一な塗膜を形成しやすくなる。
【0035】
蛍光体粒子の粒径分布曲線においては、2以上の極大が認められることが好ましい。具体的には、粒径1μm以上6μm以下の領域と、粒径10μm以上25μm以下の領域の両方に極大が認められることが好ましい。2以上の極大が認められることは、蛍光体粒子が、大粒子と小粒子の両方を含むことを意味する。小粒子が大粒子間の「すき間」に入り込むため、大粒子のみを使う場合に比べて蛍光体粒子の含有率を高めやすい。また、蛍光体粒子の含有率を高めたとしても、塗料としての諸物性を維持しやすい。さらに、塗膜としたときに、発光素子から発せられた光がより透過しにくくなる。
【0036】
蛍光体粒子のメジアン径D50や粒径分布曲線は、蛍光体粒子の調製方法の工夫、蛍光体粒子を適切に粉砕すること、粒径が異なる2以上の蛍光体粒子を適切に混合することなどにより調整することができる。
【0037】
蛍光体粒子の粒径分布曲線は、原料の蛍光体粒子を、超音波ホモジナイザで分散媒に分散させたうえで、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置により測定することができる。そして、得られた粒径分布曲線から、メジアン径D50を求めることができる。分散処理や測定装置の詳細については後述の実施例を参照されたい。
念のため述べておくと、本明細書において、メジアン径D50や粒径分布曲線は、体積基準で測定される。
【0038】
本実施形態の蛍光体塗料は、蛍光体粒子を1種のみ含んでもよいし、2種以上含んでもよい。
蛍光体塗料の全不揮発成分中の蛍光体粒子の含有率は、例えば25vol%以上60vol%以下である。この含有率は、好ましくは30vol%以上60vol%以下、より好ましくは35vol%以上60vol%以下、さらに好ましくは40vol%以上50vol%以下である。
【0039】
蛍光体塗料の全不揮発成分中の蛍光体粒子の含有率を25vol%以上とすることにより、例えば、発光素子から発せられた光を十分に蛍光に変換できる。
また、それ以外のメリットとして、塗布または印刷適性の一層の向上が挙げられる。蛍光体塗料中の蛍光体粒子の含有率が適度に大きいことにより、蛍光体塗料が適度に流動しにくくなり、その結果、適度な膜厚の蛍光体層を形成しやすくなる。
蛍光体塗料の全不揮発成分中の蛍光体粒子の含有率を25vol%以上とすることにより、蛍光体層にクラックが発生しにくくなるというメリットもある。一般的な知見に基づけば、クラック発生の原因の1つは、蛍光体層と、蛍光体層を設ける基板との熱膨張率の差と考えられる。蛍光体塗料の全不揮発成分中の蛍光体粒子の含有率を25vol%以上とすることにより、相対的に硬化性樹脂成分が減る。そして、蛍光体層の熱膨張率と、蛍光体層を設ける基板の熱膨張率の差が小さくなる。その結果、蛍光体層にクラックが発生しにくくなると考えられる。
【0040】
蛍光体塗料の全不揮発成分中の蛍光体粒子の含有率が大きいことで、例えば蛍光体層が薄い場合であっても発光素子から発せられた光を十分に蛍光に変換することができたり、発光素子から発せられた光の色温度を大きく変換できたりする。
【0041】
一方、形成された蛍光体層から蛍光体粒子が脱落することを抑える観点からは、蛍光体塗料の全不揮発成分中の蛍光体粒子の含有率は、好ましくは60vol%以下である。
【0042】
(硬化性樹脂成分)
本実施形態の蛍光体塗料は、硬化性樹脂成分を含む。
本明細書において、「硬化性樹脂成分」は、(1)熱、光などの作用により硬化する性質を有する樹脂(ポリマー)成分だけでなく、(2)塗膜形成前においてはモノマーまたはオリゴマーであるが、塗膜形成後に、熱、光などの作用により高分子量化して樹脂(ポリマー)を形成可能な成分も含む。
上記に関連して、本明細書においては、ポリマー、モノマーまたはオリゴマーに加え、重合開始剤や硬化剤なども「硬化性樹脂成分」に含まれるものとする。
【0043】
硬化性樹脂成分が樹脂、モノマーまたはオリゴマーを含む場合、これらは通常は有機物である。つまり、硬化性樹脂成分は、通常、有機樹脂、有機モノマーまたは有機オリゴマーを含む。
【0044】
硬化性樹脂成分は、好ましくは熱硬化性樹脂成分を含む。これにより、耐久性が高い照明装置を製造することができる。もちろん、目的や用途によっては、硬化性樹脂成分は熱可塑性樹脂を含んでもよい。
【0045】
硬化性樹脂成分は、好ましくは、シリコーン樹脂および(メタ)アクリレートモノマーからなる群より選ばれる1または2以上を含む。なかでも、シリコーン樹脂(シロキサン結合を主骨格に持つ樹脂)が、耐熱性や耐久性などの観点で好ましい。
【0046】
硬化性樹脂成分は、フェニル基および/またはメチル基を有するシリコーン樹脂を含むことが好ましい。このようなシリコーン樹脂は、他の成分との相溶性、溶剤溶解性、塗布性、耐熱性や耐久性などの点で好ましい。この樹脂中のフェニル基:メチル基の比率は、例えば0.3:1から1.5:1程度である。
【0047】
硬化性樹脂成分は、反応性基を含むことができる。これにより、硬化性樹脂成分はそれ自身で硬化することができる。
一例として、硬化性樹脂成分は、シラノール基(-Si-OH)を含むシリコーン樹脂を含むことが好ましい。これにより、塗膜形成時にシラノール基の縮合反応が起こり、硬化した塗膜が得られる。シラノール基(-Si-OH)を含むシリコーン樹脂の、シラノール含有量(OH重量%)は、例えば0.1質量%以上5質量%以下である。
別の例として、硬化性樹脂成分は、ビニル基含有ポリマーと、Si-H基含有シリコーンポリマとのヒドロシリル化反応により硬化するもの(付加反応タイプ)であってもよい。
【0048】
硬化性樹脂成分が含む樹脂の重量平均分子量は特に限定されない。塗料として塗膜形成可能な限り、任意の重量平均分子量の樹脂を含むことができる。
一例として、硬化性樹脂成分が含む樹脂の重量平均分子量は、通常1,000以上1,000,000以下、好ましくは1,000以上500,000以下である。
硬化性樹脂成分が含む樹脂として市販品を用いる場合には、樹脂の重量平均分子量として、カタログデータを採用することができる。カタログ等から重量平均分子量が不明な場合には、例えば、ポリエチレンを標準物質としたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定により求めることができる。
【0049】
硬化性樹脂成分が含む樹脂として市販品を用いてもよい。
シリコーン樹脂の市販品としては、例えば東レ・ダウコーニング社、信越化学工業社などから入手することができる。RSN-0409、RSN-0431、RSN-0804、RSN-0805、RSN-0806、RSN-0808、RSN-0840等(東レ・ダウコーニング社製)、KF-8010、X-22-161A、KF-105、X-22-163A、X-22-169AS、KF-6001、KF-2200、X-22-164A、X-22-162C、X-22-167C、X-22-173BX等(信越化学工業社製)を挙げることができる。
【0050】
前述のように、硬化性樹脂成分は、樹脂ではなく、モノマーやオリゴマーを含んでもよい。
例えば、硬化性樹脂成分は、(メタ)アクリレートモノマーを含むことが好ましい。(メタ)アクリレートモノマーは、単官能でも多官能でもよい。(メタ)アクリレートモノマーは、好ましくは一分子中に(メタ)アクリル構造を2以上6以下有する。
【0051】
硬化性樹脂成分は、モノマーやオリゴマーとともに、重合開始剤を含むことが好ましい。
例えば、硬化性樹脂成分が(メタ)アクリレートモノマーを含む場合、ラジカル重合開始剤と併用されることが好ましい。ラジカル重合開始剤は、熱または活性光線によりラジカルを発生するものである。
【0052】
硬化性樹脂成分としては、上記のようなシリコーン樹脂や、(メタ)アクリレートモノマーと重合開始剤との組み合わせのほか、塗料分野で公知の任意の成分であることができる。硬化性樹脂成分は、例えば、(i)ポリオールとポリイソシアネートとを含む、ウレタン系のもの、(ii)エポキシ系のもの、などであってもよい。
【0053】
(i)のポリオールとしては、(メタ)アクリルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、エポキシポリオール、ポリオレフィン系ポリオール、ふっ素含有ポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカプロラクタムポリオール、ポリカーボネートポリオールなどを挙げることができる。
【0054】
(i)のポリイソシアネートとしては、好ましくは2から6官能、より好ましくは2から4官能のものを挙げることができる。具体的には、脂肪族ジイソシアネート、環状脂肪族ジイソシアネート、イソシアネート化合物の多量体であるイソシアヌレート及びビウレット型付加物、イソシアネート化合物を多価アルコール又は低分子量ポリエステル樹脂に付加したものなどを挙げることができる。ポリイソシアネートとしては、ビウレット型、イソシアヌレート型、アダクト型、アロファネート型なども知られている。これらはいずれも用いることができる。
【0055】
(i)のポリイソシアネートは、いわゆるブロックイソシアネートであってもよい。換言すると、ポリイソシアネートのイソシアネート基の一部又は全部は、保護基によりブロックされた、ブロックイソシアネート基の形態であってもよい。例えば、アルコール系、フェノール系、ラクタム系、オキシム系、及び活性メチレン系などの活性水素化合物によってイソシアネート基がブロックされてブロックイソシアネート基が形成される。
【0056】
ポリイソシアネートの市販品としては、例えば、旭化成株式会社製のデュラネート(商品名)シリーズ、三井化学株式会社製のタケネート(商品名)シリーズ、住化バイエルウレタン株式会社製のデスモジュール(商品名)シリーズ等が挙げられる。
【0057】
(ii)のエポキシ系の硬化性樹脂成分は、通常、エポキシ樹脂と、その硬化剤とを含む。
エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ポリグリコール型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ化油、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル等が挙げられる。
硬化剤としては、通常、多価アミン、アミンアダクト、ポリアミドなどのポリアミン類及び酸無水物が挙げられる。
【0058】
本実施形態の蛍光体塗料は、硬化性樹脂成分を1種のみ含んでもよいし、2種以上含んでもよい。
本実施形態の蛍光体塗料中の硬化性樹脂成分の量は、全不揮発成分中、好ましくは40vol%以上65vol%以下、より好ましくは45vol%以上60vol%以下である。
【0059】
(流動性調整剤)
本実施形態の蛍光体塗料は、好ましくは流動性調整剤を含む。これにより、粘度の調整、塗料としての流動特性(例えばチキソトロピック性など)の調整、塗布性の調整などが可能となる場合がある。
【0060】
流動性調整剤としては、疎水性シリカ、親水性シリカなどのシリカ粒子、酸化アルミニウム等が適用できる。特に、フュームドシリカが好ましく用いられる。
市販の流動性調整剤として、例えば、AEROSIL 130、AEROSIL 200、AEROSIL 300、AEROSIL R-972、AEROSIL R-812、AEROSIL R-812S、AlminiumOxideC(日本アエロジル社製、AEROSILは登録商標)、カープレックスFPS-1(DSL社製、商品名)等が挙げられる。
【0061】
本実施形態の蛍光体塗料が流動性調整剤を含む場合、流動性調整剤を1種のみ含んでもよいし、流動性調整剤を2種以上含んでもよい。
本実施形態の蛍光体塗料が流動性調整剤を含む場合、その量は、全不揮発成分中、例えば10vol%以下、好ましくは1vol%以上5vol%以下である。体積基準ではなく質量基準では、流動性調整剤の量は、全不揮発成分中、例えば5mass%以下、好ましくは0.1mass%以上5mass%以下である。
【0062】
(溶剤)
本実施形態の蛍光体塗料は、好ましくは溶剤を含む。これにより、塗布性が良好な蛍光体塗料を得ることができる。溶剤は、水および/または有機溶剤を含む。
有機溶剤としては、炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、アルコール系溶剤、アミド系溶剤、エーテル系溶剤などを挙げることができる。
【0063】
好ましい有機溶剤としては、アルコール系溶剤が挙げられる。具体的には、メタノール、エタノール、n-プロパノール、2-プロパノール、n-ブタノール、2-ブタノール、t-ブタノール等が挙げられる。また、ブチルカルビトール(ジエチレングリコールモノブチルエーテル)やエチルカルビトール(ジエチレングリコールモノエチルエーテル)などのエーテル結合含有アルコール等も好ましく挙げられる。これらは、特に、樹脂としてシリコーン樹脂を用いる場合、シリコーン樹脂をよく溶解/分散して、塗布性良好な蛍光体塗料を調製できる点で好ましい。
【0064】
また、溶剤は、芳香族炭化水素溶剤を含むことが好ましい。特に、シリコーン樹脂が用いられる場合、芳香族炭化水素溶剤と併用することで、諸性能のバランスが良好な蛍光体塗料を調製しやすい。芳香族炭化水素溶剤をとしては、トルエン、キシレン等を挙げることができる。
【0065】
溶剤を用いる場合、1種のみの溶剤を用いてもよいし、2種以上の溶剤を併用してもよい。例えば、上述のアルコール系溶剤と芳香族炭化水素溶剤とを併用してもよい。溶剤を併用する場合、併用による効果を十分に得る点で、各溶剤は、溶剤全量中の少なくとも1質量%は存在することが好ましい。
本実施形態の蛍光体塗料が溶剤を含む場合、不揮発成分濃度が90質量%以下となるような量で溶剤を含むことが好ましい。ただし、不揮発成分濃度はこれに限られず、塗膜が形成可能な限りにおいて適宜量は調整すればよい。
【0066】
(その他成分)
本実施形態の蛍光体塗料は、上記以外の他成分を含んでもよい。他成分としては、防錆顔料、体質顔料、表面調整剤、ワックス、消泡剤、分散剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、レベリング剤、ベンワキ防止剤、可塑剤、帯電制御剤等が挙げられる。
【0067】
(粘度)
前述のとおり、本実施形態の蛍光体塗料について、B型粘度計を用い、25℃、回転数20rpmで測定される粘度は、60dPa・s以上450dPa・s以下である。粘度は、好ましくは80dPa・s以上350dPa・s以下、より好ましくは90dPa・s以上320dPa・s以下である。このような粘度とすることで、特に、スクリーン印刷法により、適度な厚みの蛍光体層を形成することができる。
【0068】
(塗料の形態)
本実施形態の蛍光体塗料は、1液型であっても、2液以上の多液型であってもよい。具体的には、本実施形態の膜形成用樹脂組成物は、必要な成分の全てが均一に混合または分散された1液型の組成物として供給されることができる。また、本実施形態の膜形成用樹脂組成物は、一部の成分を含むA液と、残りの成分を含むB液との2液型(2液のキット)として供給されてもよい。
塗装に供する前の保存安定性などの観点で、蛍光体塗料を多液型とすることが好ましい場合がある。
本実施形態の蛍光体塗料が多液型である場合、塗膜を形成する直前に、各液を均一に混合して塗装用の塗料を得る。この塗装用の塗料の粘度が60dPa・s以上450dPa・s以下であるようにする。
【0069】
<塗膜、蛍光体基板、照明装置>
上記の蛍光体塗料を用いて、蛍光体粒子を含む塗膜を形成することができる。
また、上記の蛍光体塗料を用いて、蛍光体粒子を含む塗膜を備える蛍光体基板を製造することができる。
さらに、上記の蛍光体塗料を用いて、絶縁基板と、上記の蛍光体塗料により絶縁基板の片面側に設けられた塗膜と、その塗膜における絶縁基板と反対側の面に設置された発光素子(LED素子等)と、を備える照明装置を製造することができる。
【0070】
以下、照明装置の構成例を図示しつつ、塗膜、蛍光体基板および照明装置について説明する。
【0071】
図1は、照明装置の模式的な断面図である。
図1の照明装置においては、絶縁基板20の一方の面に蛍光塗膜26が設けられている。絶縁基板20と蛍光塗膜26との間には、絶縁基板20の側から順に、第一銅箔22および白色層24が設けられている。第一銅箔22の一部はエッチングにより除去されており、銅回路(銅配線)として機能する。
【0072】
蛍光塗膜26における絶縁基板20と反対側の面には、表面実装型LED素子28(発光素子)が設置されている。表面実装型LED素子28は、白色層24および蛍光塗膜26を貫通するように設けられているはんだ30により、第一銅箔22と電気的に接続されている。第一銅箔22およびはんだ30により、表面実装型LED素子28に電気が供給されて、表面実装型LED素子28は発光する。
蛍光体塗料の発光効率を高める観点から、表面実装型LED素子28の下部には、白色層32(より具体的には白色樹脂層32)が設けられることが好ましい。これにより、光が抜ける(透過する)ことが抑えられる。また、白色層32と蛍光塗膜26の界面において、蛍光塗膜26からの入光の少なくとも一部は反射する。
図1の照明装置は、複数の表面実装型LED素子28を備えることができる。
【0073】
絶縁基板20の他方の面(蛍光塗膜26が設けられている側とは反対側の面)には、第二銅箔22Bを設けることができる。絶縁基板20の一方の面に第一銅箔22があり、他方の面に第二銅箔22Bがあることで、絶縁基板20の両面で力のバランスが取れ、例えば反りの発生が抑えられる。
【0074】
絶縁基板20の材質としては、PWB(プリント基板)に使用可能なものであれば特に制限されない。例えば、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、ガラス、金属(アルミニウム、銅、鉄、ステンレス鋼など)といったものを使用できる。好ましくは耐熱性の観点から、ポリイミド樹脂やシリコーン樹脂、ガラスや金属(ベースメタルとしてアルミニウムや銅を使い、絶縁層を設けたいわゆる「メタル基板」としてのものなど)を使用できる。「ボンディングシート」等の名称で市販されている材料を用いることも好ましい。
絶縁基板20の厚さは、照明器具に用いることができる範囲ならば特に制限されない。例えば50μm以上1000μm以下、具体的には50μm以上500μm以下である。
【0075】
白色層24や白色層32は、例えば白色塗料を用いて設けることができる。白色塗料の組成や性状は、白色層24が形成可能な限り特に限定されない。例えば、上述の塗料組成物において、蛍光体粒子の代わりに白色顔料を用いた塗料組成物などを挙げることができる。塗布方法については、以下に述べる蛍光塗膜26と同様とすることができる。
白色顔料としては、酸化チタンなどの公知の顔料を挙げることができる。安定性などの観点から無機顔料が好ましい。
白色層24の厚みは、例えば10μm以上500μm以下、具体的には20μm以上400μm以下である。
【0076】
蛍光塗膜26は、上記の塗料組成物を塗布することで設けることができる。蛍光塗膜26により、発光素子から発せられた光が別の波長/色温度の光に変換される。
塗布方法は特に限定されない。好ましい方法はスクリーン印刷法などの印刷法である。本実施形態においては、塗料組成物の粘度が60dPa・s以上450dPa・s以下であることにより、スクリーン印刷法を適用することで適度な厚みで均一な蛍光塗膜26を設けることができる。もちろん、塗布方法は他の方法であってもよく、例えば塗料分野で知られている各種コーターを用いて塗料組成物を塗布してもよい。
塗布後に、乾燥処理や、硬化処理を行うことが好ましい。乾燥処理の条件は、例えば60℃以上100℃以下で15分以上60分以下である。硬化処理の条件は、例えば100℃以上200℃以下で30分以上240分以下である。
【0077】
塗料組成物の塗布量は、完成品としての照明装置における蛍光塗膜26の厚みが、好ましくは150μm以下、より好ましくは30μm以上100μm以下、さらに好ましくは30μm以上80μm以下となるように調整される。
塗料組成物中の蛍光体粒子の含有率が25vol%以上、好ましくは30vol%以上、より好ましくは35vol%以上であることにより、蛍光塗膜26の厚みが150μm以下であっても、表面実装型LED素子28から発せられた光を十分に蛍光に変換することができ、また、表面実装型LED素子28から発せられた光が蛍光体層を素通りしにくい。
【0078】
ちなみに、硬化した白色層24および/または蛍光塗膜26に、機械的に穴あけ加工を施すことで、はんだ30が貫通する孔を設けることができる。その後の、はんだ30による表面実装型LED素子28(発光素子)と第一銅箔22との接続については、公知の方法を適宜適用することができる。
【0079】
表面実装型LED素子28(発光素子)としては、CSP、SMD(Surface Mount Device)、フリップチップ素子などを挙げることができる。本実施形態においては、発光素子はCSPが好ましい。また、発光素子は、通常、青色光を発する。
【0080】
本実施形態においては、特に、発光素子は、リフレクタを備えないことが好ましい。具体的に説明すると、公知の表面実装型LED素子(発光素子)の中には、
図2Aのように、リフレクタが備わっていることにより、LEDチップからの光が横方向や下方向に漏れ出ないものある。しかし、本実施形態においては、表面実装型LED素子28(発光素子)は、
図2Bのようにリフレクタを備えないことが好ましい。
リフレクタを備えない発光素子を用いることで、LEDチップからの光が横方向や下方向に漏れ出る。そして、その漏れ出た光が蛍光塗膜26のαで示した部分に当たり、αの部分が発光する。これにより、グレアや多重影の問題が一層軽減される。
【0081】
図2Aの発光素子では、基板102とリフレクタ(筐体)104により形成されるパッケージ状部108に、半導体発光素子100が配置され、パッケージ状部108には封止部材110(光透過性の樹脂)が充填されている。基板102は配線112を備えることができる。
図2Bにおいて、
図2Aと同一の要素には同一の符号が付されている。
図2Bの発光素子では、筐体(リフレクタ)は用いられない。図示されるように半導体発光素子100をマウントした後、所望の型を用いた型成形により封止部材110を形成することができる。または、予め所望の形状に成形した封止部材110を用意しておき、これを、半導体発光素子100を覆うように基板102に接着させてもよい。
【0082】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例】
【0083】
本発明の実施態様を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。念のため述べておくと、本発明は実施例のみに限定されない。
【0084】
<素材>
以下を準備した。
(蛍光体粒子)
・CASN-1:デンカ社製のCASN系蛍光体、品番RE-650YMDB、D50=15.7μm
・CASN-2:デンカ社製のCASN系蛍光体、品番RE-Sample 650SD4、D50=3.2μm
・YAG蛍光体(比較例2で使用):D50=8.5μm
【0085】
蛍光体粒子の粒径分布(D50)は、以下のようにして測定した。
(1)超音波による分散処理
蛍光体粒子30mgを、0.2%質量に調整したヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液100mLに均一に分散させた分散液を、底面が半径2.75cmの円柱状容器に入れた。そして、超音波ホモジナイザ(日本精機製作所社製、US-150E)の半径10mmの円柱状チップを、1.0cm以上分散液に浸し、周波数19.5kHz、出力150Wで3分間超音波を照射した。
(2)粒径分布の測定
上記(1)のように準備した分散液を、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラックベル社製、MT3300EXII)を用いて測定し、粒径分布を求めた。また、粒径分布のデータからD50を求めた。
【0086】
(硬化性樹脂成分)
東レ・ダウコーニング社のシリコーンレジン「RSN-0805」(シラノール基含有、シラノール含有量(OH重量)1%、二酸化珪素含有量48重量%、フェニル:メチル比=1.1:1、重量平均分子量200~300×103、キシレン含有、樹脂固形分50重量%)
【0087】
(流動性調整剤)
日本アエロジル社のフュームドシリカ AEROSIL 200
【0088】
(溶剤)
ブチルカルビトール
【0089】
<塗料組成物の調製>
後掲の表に記載の成分のうち、まず、硬化性樹脂成分(シリコーンレジン)と溶剤とを混合して均一な溶液を得た。
その後、その溶液に蛍光体粒子および流動性調整剤(実施例3のみ)を投入し、均一に混合・分散して塗料組成物を得た。
得られた塗料組成物については、B型粘度計の4号ローターを用い、25℃、回転数20rpmの条件で粘度を測定した。
【0090】
<塗膜(蛍光体層)の形成/照明装置の作製>
上記で調整した塗料組成物などを用い、
図1で説明した構造の照明装置(複数個のCSPが、一定間隔をあけて、蛍光体層の上に整列したもの)を作製した。製造手順を以下に簡単に示す。
(1)絶縁基板の材料として、両面銅箔を張り合わせた利昌工業社製のボンディングシートCS-3305Aを準備した。これの銅箔をエッチングして第一銅箔に銅回路を形成するなどした。
(2)第一銅箔の上に、白色塗料(シリコーンバインダーに酸化チタン/アルミナを50vol%で混錬したもの)を用いて、40μm厚の白色層を形成した。
(3)白色層の上に、上記の蛍光体塗料を、メッシュ数が86のスクリーンを用いたスクリーン印刷法により印刷(膜形成)し、80℃で30分プレキュアし、その後、180℃で60分ポストキュア(本硬化)した。これにより蛍光体層を形成した。この際の蛍光体層の厚みは50μm狙いとした。
(4)白色層および蛍光体層の一部を穴開け加工してはんだ用の孔を設けた。そして、表面実装型LED素子である市販のCSP(WICOP SZ8-Y15-WW-C8、ソウル半導体社製、リフレクタ無し品、色温度2200~2300K)と、第一銅箔(銅回路)とを、はんだにより電気的に接続した。
【0091】
<評価:印刷性>
上記(3)において、
・印刷した蛍光体塗料がプレキュアの前に流動することが無く、膜厚45~55μmの均一な蛍光体層が形成できた場合を印刷性良好(○)、
・印刷した蛍光体塗料がプレキュアの前にやや流動するものの、膜厚45~55μmの均一な蛍光体層が形成できた場合を印刷性普通(△)
・十分な膜厚の蛍光体層が形成できなかったり、膜にムラが発生したりした場合を印刷性不良(×)
と評価した。
【0092】
<評価:蛍光体層の外観>
上記(3)で形成された蛍光体層の外観を観察した。後掲の表2には、実用上問題となりうる異常が見られなかった場合を「異常なし」と記載し、実用上問題となりうる異常が見られた場合、その異常の内容を記載した。
【0093】
<評価:蛍光体層の耐久性など>
上記の蛍光体層の外観評価で「異常なし」であったものについて、以下表1の項目の試験を行った。表1のすべての項目で合格基準を満たしたものを、表2で「合格」と記載した。
【0094】
【0095】
<評価:色温度の変換>
上記で作製した照明装置に電流を流し、照明装置を発光させた。照明装置から発せられる光の色温度を、大塚電子株式会社製の全光束測定システム(積分球を備える装置)を用いて測定した。測定された色温度が2000~2100Kであり、CSPそのものの色温度(2200~2300K)から少なくとも100K以上色温度が変換された場合を、色温度変換性が良好(○)と評価した。一方、測定された色温度が2100~2200Kであり、色温度の変換が100K以内にとどまった場合を、色温度変換性が不十分(×)と評価した。
なお、蛍光体層の性状に異常があった比較例2においては、この評価は行わなかった。
【0096】
蛍光体塗料の組成や評価結果などを下表にまとめて示す。
【0097】
【0098】
蛍光体粒子と硬化性樹脂成分とを含み、B型粘度計を用い、25℃、回転数20rpmで測定される粘度が60dPa・s以上450dPa・s以下である蛍光体塗料を用いることで、ガラスバインダーのような高温での焼結を要することなく、180℃程度の比較的低温の処理で蛍光体層を形成することができた。また、形成された蛍光体層の外観や耐久性は良好であった。さらに、形成された蛍光体層により、CSPから発せられる光の色温度は大きく変換された。
【0099】
この出願は、2020年8月7日に出願された日本出願特願2020-134392号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0100】
20 絶縁基板
22 第一銅箔
22B 第二銅箔
24 白色層
26 蛍光塗膜
28 表面実装型LED素子
30 はんだ
32 白色層(白色樹脂層)
100 半導体発光素子
102 基板
104 リフレクタ(筐体)
108 パッケージ状部
110 封止部材
112 配線