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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-17
(45)【発行日】2025-04-25
(54)【発明の名称】駆動システム
(51)【国際特許分類】
   H02P 25/08 20160101AFI20250418BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20250418BHJP
   H02P 5/74 20060101ALI20250418BHJP
   B60L 9/18 20060101ALN20250418BHJP
【FI】
H02P25/08
H02M7/48 E
H02P5/74
B60L9/18 L
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022558748
(86)(22)【出願日】2020-10-30
(86)【国際出願番号】 JP2020040812
(87)【国際公開番号】W WO2022091339
(87)【国際公開日】2022-05-05
【審査請求日】2022-12-09
【審判番号】
【審判請求日】2024-03-05
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【氏名又は名称】八島 耕司
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【弁理士】
【氏名又は名称】美恵 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100148149
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 幸男
(74)【代理人】
【識別番号】100181618
【弁理士】
【氏名又は名称】宮脇 良平
(74)【代理人】
【識別番号】100174388
【弁理士】
【氏名又は名称】龍竹 史朗
(72)【発明者】
【氏名】寺本 晃大
(72)【発明者】
【氏名】金子 健太
(72)【発明者】
【氏名】濱田 優
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 俊毅
(72)【発明者】
【氏名】枦山 盛幸
(72)【発明者】
【氏名】小島 鉄也
(72)【発明者】
【氏名】山崎 尚徳
【合議体】
【審判長】吉田 美彦
【審判官】林 毅
【審判官】大塚 俊範
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-42321(JP,A)
【文献】特開2018-57077(JP,A)
【文献】特開2020-44949(JP,A)
【文献】特開2020-108232(JP,A)
【文献】国際公開第2020/067304(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/159694(WO,A1)
【文献】竹内活徳、外2名、高効率の同期リラクタンスモータ、東芝レビュー、東芝技術企画部、2015年、Vol.70、No.5、第20-23ページ
【文献】渡邉翔一郎、外4名、次世代半導体SiCいよいよ実用化~銀座線1000系車両,SiCインバータを搭載~、電気学会誌、一般社団法人電気学会、2015年10月1日、第135巻、第10号、第676-679ページ
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P25/08
H02P5/74
H02M7/48
B60L9/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の推進力を生じさせる駆動システムであって、
電力の供給を受けて回転することで前記鉄道車両の推進力を生じさせる同期リラクタンスモータと、
複数のスイッチング素子と前記スイッチング素子のそれぞれに並列に接続される還流ダイオードを有し、前記同期リラクタンスモータにスイッチ回路を介さずに直接接続されて、架線または第三軌条から供給される電力を前記同期リラクタンスモータに供給するための電力に変換し、変換した電力を前記同期リラクタンスモータに供給する電力変換部と、
前記電力変換部が有する前記複数のスイッチング素子を、パルス幅変調を行うPWM制御により制御する制御部と、
を備え、
前記スイッチング素子および前記還流ダイオードの少なくともいずれかはワイドギャップ半導体で形成され、
前記電力変換部は、前記鉄道車両の床下または屋根上に設けられ、前記鉄道車両の駆動システムにリラクタンスモータ以外のモータを適用した場合の電力変換部の容量よりも大きい容量を備える、
駆動システム。
【請求項2】
前記複数のスイッチング素子は、ワイドギャップ半導体で形成される、
請求項1に記載の駆動システム。
【請求項3】
前記制御部は、前記同期リラクタンスモータの目標トルクを得るための電圧指令値に応じた変調波、および前記同期リラクタンスモータの回転数の増大に応じて周波数が増大する搬送波を用い、前記変調波と前記搬送波との比較に基づいて前記複数のスイッチング素子に対するゲート信号を生成する、
請求項1または2に記載の駆動システム。
【請求項4】
前記制御部は、前記同期リラクタンスモータが有する回転子の磁極位置に応じて前記複数のスイッチング素子に対するゲート信号を生成する、
請求項1から3のいずれか1項に記載の駆動システム。
【請求項5】
複数の前記電力変換部と、
前記複数の電力変換部と同数の前記同期リラクタンスモータと、を備え、
前記電力変換部は一対一で対応する前記同期リラクタンスモータに直接接続される、
請求項1から4のいずれか1項に記載の駆動システム。
【請求項6】
前記架線または前記第三軌条から供給される電力で充電されるフィルタコンデンサをさらに備え、
前記複数の電力変換部は前記フィルタコンデンサに共通に接続される、
請求項5に記載の駆動システム。
【請求項7】
前記架線または前記第三軌条から供給される電力で充電される前記複数の電力変換部と同数のフィルタコンデンサをさらに備え、
前記電力変換部に一対一で対応する前記フィルタコンデンサが接続される、
請求項5に記載の駆動システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、駆動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電気鉄道車両に搭載される駆動システムには、架線を通して変電所から供給された直流電力を所望の交流電力に変換し、変換した交流電力を電動機に供給して電動機を駆動して電気鉄道車両の推進力を生じさせるものがある。鉄道車両の床下のスペースには限りがあるため、少ない数の電動機によって、鉄道車両が目標速度で走行するための推進力を生じさせることが好ましい。
【0003】
そこで、電動機として誘導電動機より効率の高い同期電動機が用いられることがある。この種の駆動システムの一例が特許文献1に開示されている。特許文献1に開示される電気車制御装置は、複数の永久磁石式同期電動機と、永久磁石式同期電動機に一対一で対応付けられる複数のインバータと、複数のインバータを制御するゲート制御装置と、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-075317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
永久磁石式同期電動機では、無負荷時、例えばインバータで短絡故障が生じてインバータが停止した場合に、永久磁石に起因して電動機回転数に比例した無負荷誘起電圧が発生する。この結果、特許文献1に開示される電気車制御装置では、インバータ停止時に、永久磁石式同期電動機からインバータに電流が流れる。無負荷誘起電圧に起因する電流が永久磁石式同期電動機からインバータに流れることによる故障を防止するため、特許文献1に開示される電気車制御装置は、インバータと永久磁石式同期電動機の間に設けられた接触器を備える。
【0006】
永久磁石式同期電動機と同数の接触器を設ける必要があるため、特許文献1に開示される電気車制御装置の構造は複雑になり、サイズも大きくなる。なお、この課題は、架線から電力の供給を受ける駆動システムに限られず、電源から供給される電力で永久磁石式同期電動機を駆動する駆動システムで起こり得る。
【0007】
本開示は上述の事情に鑑みてなされたものであり、構造が簡易な駆動システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本開示の駆動システムは、鉄道車両の推進力を生じさせる駆動システムであって、同期リラクタンスモータと、電力変換部と、制御部と、を備える。同期リラクタンスモータは、電力の供給を受けて回転することで鉄道車両の推進力を生じさせる。電力変換部は、複数のスイッチング素子とスイッチング素子のそれぞれに並列に接続される還流ダイオードを有し、同期リラクタンスモータにスイッチ回路を介さずに直接接続されて、架線または第三軌条から供給される電力を同期リラクタンスモータに供給するための電力に変換し、変換した電力を同期リラクタンスモータに供給する。制御部は、電力変換部が有する複数のスイッチング素子を、パルス幅変調を行うPWM制御により制御する。スイッチング素子および還流ダイオードの少なくともいずれかはワイドギャップ半導体で形成される。電力変換部は、鉄道車両の床下または屋根上に設けられ、鉄道車両の駆動システムにリラクタンスモータ以外のモータを適用した場合の電力変換部の容量よりも大きい容量を備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、電力変換部はリラクタンスモータに直接接続される。電力変換部とリラクタンスモータの間に接触器を設けることは不要であるため、駆動システムの構造を簡易化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態に係る駆動システムのブロック図
図2】実施の形態に係る制御部のブロック図
図3】実施の形態に係るゲート信号生成器のブロック図
図4】実施の形態に係る駆動システムの第1変形例のブロック図
図5】実施の形態に係る駆動システムの第2変形例のブロック図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の形態に係る駆動システムについて図面を参照して詳細に説明する。なお図中、同一または同等の部分には同一の符号を付す。
【0012】
鉄道車両の推進力を生じさせる駆動システムを例にして、実施の形態に係る駆動システム1について説明する。図1に示す駆動システム1は、例えば、鉄道車両の床下に設けられ、直流電力を三相交流電力に変換し、三相交流電力をモータに供給してモータを駆動することで鉄道車両の推進力を生じさせる。
【0013】
駆動システム1は、電源に接続される端子1aと、接地される端子1bと、電源から供給される直流電力で充電されるフィルタコンデンサFC1と、フィルタコンデンサFC1を介して電源から供給される直流電力を三相交流電力に変換する直流-三相変換装置である電力変換部11と、を備える。駆動システム1はさらに、電力変換部11から三相交流電力の供給を受けて回転するリラクタンスモータであるモータM1と、モータM1の相電流の値を測定する電流センサCT11,CT12,CT13と、電力変換部11が有する複数のスイッチング素子SW11,SW12,SW13,SW14,SW15,SW16を制御する制御部12と、を備える。
【0014】
電力変換部11は、モータM1に直接接続されている。直接接続とは、能動素子を介さずに接続されていることを意味する。具体的には、電力変換部11は、電力変換部11からモータM1を電気的に切り離すスイッチ回路を介さずにモータM1に接続されている。スイッチ回路は、例えば、電磁接触器、半導体スイッチ、手動で操作される機械式スイッチ等を含む。電力変換部11がモータM1に直接接続されているため、電力変換部と永久磁石式同期電動機の間に接触器が設けられる駆動システムと比べて、駆動システム1の構造は簡易である。
【0015】
駆動システム1の各部の詳細について以下に説明する。
端子1aは、図示しない電源に電気的に接続される。電源は、例えば、電力供給線から電力を取得する集電装置である。電力供給線は、例えば、架線または第三軌条である。集電装置は、例えば、パンタグラフまたは集電靴である。端子1aは、接触器、フィルタリアクトル等を介して、集電装置に電気的に接続されることが好ましい。端子1bは、車輪を介して接地される。
【0016】
フィルタコンデンサFC1の一端は端子1aに電気的に接続され、他端は端子1bに電気的に接続される。フィルタコンデンサFC1が、上述したように端子1aと集電装置との間に設けられるフィルタリアクトルと共にフィルタを形成することで、高調波成分が低減される。
【0017】
電力変換部11は、直流電力を三相交流電力に変換するインバータ、例えば、可変電圧可変周波数制御が可能なインバータである。実施の形態では、電力変換部11は、モータM1のU相コイルに接続されるスイッチング素子SW11,SW12と、モータM1のV相コイルに接続されるスイッチング素子SW13,SW14と、モータM1のW相コイルに接続されるスイッチング素子SW15,SW16と、を備える。電力変換部11はさらに、スイッチング素子SW11,SW12,SW13,SW14,SW15,SW16にそれぞれ並列に接続される還流ダイオードD11,D12,D13,D14,D15,D16を備える。
【0018】
スイッチング素子SW11,SW12は直列に接続され、スイッチング素子SW13,SW14は直列に接続され、スイッチング素子SW15,SW16は直列に接続される。スイッチング素子SW11,SW12の接続点は、モータM1のU相コイルに直接接続される。スイッチング素子SW13,SW14の接続点は、モータM1のV相コイルに直接接続される。スイッチング素子SW15,SW16の接続点は、モータM1のW相コイルに直接接続される。直列に接続されたスイッチング素子SW11,SW12、直列に接続されたスイッチング素子SW13,SW14、および直列に接続されたスイッチング素子SW15,SW16は、互いに並列に接続される。
【0019】
スイッチング素子SW11,SW12,SW13,SW14,SW15,SW16は、制御部12によってオンオフが切り替えられる。この結果、電力変換部11は、フィルタコンデンサFC1を介して電源から供給される直流電力をモータM1に供給するための三相交流電力に変換する。そして、電力変換部11は、三相交流電力をモータM1に供給する。例えば、スイッチング素子SW11,SW12,SW13,SW14,SW15,SW16は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)である。
【0020】
電力変換部11から三相交流電力の供給を受けるモータM1はリラクタンスモータであるため、力率が低く、無効電流を必要とする。そこで、電力変換部11の容量を増加させることが考えられるが、電力変換部11の容量を増加させると、電力変換部11が大型化してしまう。
モータM1の鉄損を低減するためには、電力変換部11における高周波スイッチングが必要となる。スイッチング素子SW11,SW12,SW13,SW14,SW15,SW16として、ケイ素で形成される半導体素子を用いた場合、高周波スイッチングによる発熱量が増大し、スイッチング素子SW11,SW12,SW13,SW14,SW15,SW16を冷却する冷却装置が大型化してしまう。
【0021】
スペースに制限がある鉄道車両の床下または屋根上に大型の電力変換部および大型の冷却装置を含む車両制御装置を設けることは困難であるため、これまで鉄道車両のモータにリラクタンスモータは採用されていなかった。そこで、実施の形態では、電力変換部11が有するスイッチング素子SW11,SW12,SW13,SW14,SW15,SW16としてワイドギャップ半導体が用いられる。この結果、電力変換部11の大型化を抑制しながら、電力変換部11の大容量化および高周波スイッチングが可能となり、モータM1としてリラクタンスモータを用いることが可能となる。ワイドギャップ半導体は、ケイ素よりもバンドギャップが大きい材質、例えば、炭化ケイ素、窒化ガリウム系材料、ダイヤモンド等を用いて形成される半導体である。
【0022】
還流ダイオードD11,D12,D13,D14,D15,D16のアノードは、スイッチング素子SW11,SW12,SW13,SW14,SW15,SW16のエミッタにそれぞれ接続され、カソードはスイッチング素子SW11,SW12,SW13,SW14,SW15,SW16のコレクタにそれぞれ接続される。これにより、スイッチング素子SW11,SW12,SW13,SW14,SW15,SW16に逆流電流が流れることが抑制される。
【0023】
モータM1は、電力変換部11から三相交流電力の供給を受けて回転するリラクタンスモータである。実施の形態では、モータM1は、永久磁石を有さない同期リラクタンスモータである。モータM1は、永久磁石を有さないため、無負荷誘起電圧が生じない。このため、電力変換部11とモータM1との間に、電力変換部11の停止時にモータM1から電力変換部11に電流が流れることを抑制するためにモータM1を電力変換部11から電気的に切り離す接触器を設ける必要がない。換言すれば、電力変換部11はモータM1に直接接続することが可能である。
【0024】
電流センサCT11,CT12,CT13は、モータM1に流れる相電流の値を測定し、電流測定値を制御部12に送る。例えば、電流センサCT11,CT12,CT13は、CT(Current Transformer:変流器)方式のセンサである。
詳細には、電流センサCT11は、スイッチング素子SW11,SW12の接続点とモータM1のU相コイルとを接続するブスバーに取り付けられ、電力変換部11からモータM1に流れるU相電流の値を測定する。電流センサCT12は、スイッチング素子SW13,SW14の接続点とモータM1のV相コイルとを接続するブスバーに取り付けられ、電力変換部11からモータM1に流れるV相電流の値を測定する。電流センサCT13は、スイッチング素子SW15,SW16の接続点とモータM1のW相コイルとを接続するブスバーに取り付けられ、電力変換部11からモータM1に流れるW相電流の値を測定する。
【0025】
制御部12は、図示しない鉄道車両の運転台に設けられる主幹制御器での操作に応じたトルク指令値τおよび電流センサCT11,CT12,CT13から取得した電流測定値に基づいて、スイッチング素子SW11,SW12,SW13,SW14,SW15,SW16を制御するゲート信号S1を生成し、出力する。
【0026】
図2に示すように、制御部12は、トルク指令値τから電流指令値を算出する電流指令演算器21と、電流指令値から電圧指令値を算出する電圧指令演算器22と、電圧指令値の座標変換を行う回転座標逆変換器23と、を備える。制御部12はさらに、モータM1が有する回転子の磁極位置を推定する位置推定器24と、電流測定値の座標変換を行う回転座標変換器25と、ゲート信号S1を生成するゲート信号生成器26と、を備える。
【0027】
電流指令演算器21は、トルク指令値τが示すモータM1の目標トルクを得るための回転座標上の電流指令値i ,i を算出する。例えば、電流指令値i ,i は、トルクに対する電流実効値、すなわちモータM1の銅損を最小とする値である。
電圧指令演算器22は、電流指令演算器21が算出した電流指令値i ,i と回転座標変換器25が生成した電流測定値i,iとの差分(i -i),(i -i)に対する比例積分を行って、回転座標上の電圧指令値v ,v を算出する。
【0028】
回転座標逆変換器23は、位置推定器24が推定したモータM1が備える回転子の磁極位置である推定位置θ^を用いた変換行列に基づいて、回転座標上の電圧指令値v ,v を二相座標上の電圧指令値v α,v βに変換する。そして、回転座標逆変換器23は、二相-三相変換行列を用いて二相座標上の電圧指令値v α,v βを三相座標上の電圧指令値v ,v ,v に変換する。
【0029】
位置推定器24は、電流センサCT11,CT12,CT13から取得した電流測定値i,i,iおよび回転座標逆変換器23が算出した三相座標上の電圧指令値v ,v ,v に基づいて、モータM1の回転子の磁極位置を推定する。位置推定器24が推定した回転子の磁極位置である推定位置θ^は、電気角で表される。
【0030】
回転座標変換器25は、三相-二相変換行列を用いて三相座標上の電流測定値i,i,iを、二相座標上の電流測定値iα,iβに変換する。そして、回転座標変換器25は、推定位置θ^を用いた変換行列に基づいて、二相座標上の電流測定値iα,iβを回転座標上の電流測定値i,iに変換する。
【0031】
ゲート信号生成器26は、PWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)制御を行って、ゲート信号S1を生成する。詳細には、図3に示すように、ゲート信号生成器26は、電圧指令値v ,v ,v に応じた変調波を生成する変調波生成器31と、推定位置θ^を微分して、モータM1の回転数ω^を算出する微分器32と、モータM1の回転数ω^に応じて搬送波を生成する搬送波生成器33と、変調波と搬送波との比較に基づいてゲート信号を生成する比較器34と、を備える。
【0032】
変調波生成器31は、回転座標逆変換器23から取得した三相座標上の電圧指令値v ,v ,v に基づいて変調波を生成する。変調波は、電圧指令値v ,v ,v をフィルタコンデンサFC1の端子間電圧の値で規格化して得られる信号である。
微分器32は、推定位置θ^を微分して、モータM1の回転数ω^を算出する。
【0033】
搬送波生成器33は、微分器32で算出されたモータM1の回転数ω^に応じて搬送波を生成する。搬送波の周波数は、モータM1の回転数が増大すると、増大する。換言すれば、搬送波の周波数はモータM1の回転数と正の相関関係を有する。実施の形態では、搬送波生成器33は、変調波を逓倍して得られる信号を搬送波として用いる。搬送波と変調波が同期していて、搬送波が変調波を逓倍して得られる信号である場合のゲート信号生成器26の動作モードを同期多パルスモードとする。例えば、ゲート信号生成器26が同期多パルスモードで動作する場合、搬送波生成器33は、周波数が変調波の周波数の15倍である搬送波を用いる。
【0034】
比較器34は、変調波生成器31で生成された変調波と搬送波生成器33で生成された搬送波との比較に基づいて、ゲート信号S1を生成し、スイッチング素子SW11,SW12,SW13,SW14,SW15,SW16に対して出力する。詳細には、スイッチング素子SW11,SW13,SW15に対するゲート信号S1は、変調波の値が搬送波の値以上である場合H(High)レベルであり、変調波の値が搬送波の値未満である場合L(Low)レベルである。スイッチング素子SW12,SW14,SW16に対するゲート信号S1は、変調波の値が搬送波の値以上である場合Lレベルであり、変調波の値が搬送波の値未満である場合Hレベルである。
【0035】
比較器34が出力するゲート信号S1に応じてスイッチング素子SW11,SW12,SW13,SW14,SW15,SW16のオンオフが切り替わる。ゲート信号生成器26が同期多パルスモードで動作することで、モータM1に流れる電流の歪が少なくなり、モータM1が高効率で動作することが可能となる。
【0036】
以上説明したとおり、実施の形態に係る駆動システム1が備えるモータM1は永久磁石を有さない同期リラクタンスモータであるため、無負荷誘起電圧が生じない。このため、例えばインバータで短絡故障が生じてインバータが停止した場合にモータM1を電力変換部11から切り離すための接触器を設ける必要がなく、電力変換部11はモータM1に直接接続される。接触器を設ける必要がないため、実施の形態に係る駆動システム1の構造は、電力変換部とモータとの間に接触器を備える駆動システムに比べて簡易である。
【0037】
本開示は、上述の例に限られない。駆動システム1は、複数の電力変換部11および複数のモータM1を備えてもよい。電力変換部11とモータM1は一対一で対応付けられる必要があるため、駆動システム1が備える電力変換部11の個数とモータM1の個数は同じである。
【0038】
一例として、図4に示す駆動システム2は、2個の電力変換部11,13と、2個のモータM1,M2と、図示しない電源から供給される電力で充電される2個のフィルタコンデンサFC1,FC2と、を備える。電力変換部11,13の構成は互いに同じである。モータM1,M2の構成は互いに同じである。フィルタコンデンサFC1,FC2の構成は互いに同じである。駆動システム2はさらに、モータM1の相電流の値を測定する電流センサCT11,CT12,CT13と、モータM2の相電流の値を測定する電流センサCT21,CT22,CT23と、電力変換部11,13のそれぞれが有する複数のスイッチング素子を制御する制御部12と、を備える。
【0039】
フィルタコンデンサFC1,FC2は互いに並列に電源に接続されている。詳細には、フィルタコンデンサFC1の一端は端子1aに接続され、他端は端子1bに接続される。フィルタコンデンサFC2の一端は端子1aに接続され、他端は端子1bに接続される。フィルタコンデンサFC1,FC2は、電源から供給される電力で充電される。
【0040】
実施の形態と同様に、電流センサCT11,CT12,CT13は、モータM1に流れる相電流の値を測定し、電流測定値を制御部12に送る。電流センサCT21,CT22,CT23は、モータM2に流れる相電流の値を測定し、電流測定値を制御部12に送る。電流センサCT21,CT22,CT23は、電流センサCT11,CT12,CT13と同様に、電力変換部13とモータM2とを接続するブスバーに取り付けられる。
【0041】
制御部12は、実施の形態と同様に、モータM1の目標トルクを示すトルク指令値τおよび電流センサCT11,CT12,CT13の電流測定値に基づいて、電力変換部11が有する複数のスイッチング素子を制御するゲート信号S1を生成し、出力する。制御部12はさらに、モータM2の目標トルクを示すトルク指令値τおよび電流センサCT21,CT22,CT23の測定値に基づいて、電力変換部13が有する複数のスイッチング素子を制御するゲート信号S2を生成し、出力する。ゲート信号S1,S2の生成方法は、実施の形態と同様である。
【0042】
複数のモータM1,M2を備える駆動システム2において、電力変換部11はモータM1に直接接続され、電力変換部13はモータM2に直接接続される。このため、駆動システム2の構造は、各電力変換部と各モータとの間に接触器を備える駆動システムに比べて簡易である。
【0043】
図4の例では、駆動システム2は、電力変換部11,13と同数のフィルタコンデンサFC1,FC2を備えているが、電力変換部11,13は1つのフィルタコンデンサに共通に接続されてもよい。図5に示す駆動システム3が備えるフィルタコンデンサは、フィルタコンデンサFC1のみである。駆動システム3は、電力変換部11,13がフィルタコンデンサFC1に共通に接続されている点において、駆動システム2と異なる。
【0044】
駆動システム1-3は、電流センサCT11,CT12,CT13の全てを備えずに、電流センサCT11,CT12,CT13の内、2つのみを備えてもよい。例えば、駆動システム1-3は、電流センサCT11,CT12によってモータM1に流れるU相電流およびV相電流を測定し、U相電流およびV相電流の電流測定値からW相電流を算出してもよい。この場合、制御部12は、U相電流測定値、V相電流測定値、および算出されたW相電流値に基づいてゲート信号S1を生成すればよい。
【0045】
駆動システム2,3が備える電力変換部11,13の数およびモータM1,M2の数は、電力変換部とモータの台数が同数であれば、任意である。
駆動システム2,3は、互いに独立した2つの制御部12を備えてもよい。この場合、一方の制御部12が電力変換部11を制御し、他方の制御部12が電力変換部13を制御すればよい。
【0046】
実施の形態では、直接接続は、能動素子を介さずに接続されていることを意味するとしたが、電力変換部11とモータM1とは、能動素子および受動素子のいずれも介さずに接続されてもよい。電力変換部13とモータM2との接続についても同様である。
【0047】
電力変換部11とモータM1との直接接続は、中継端子、中継ケーブル等を介した接続を含むものとする。例えば、電力変換部11とモータM1とが異なる車両に搭載される場合、電力変換部11とモータM1は、中継端子を介して接続される。電力変換部13とモータM2との直接接続についても同様である。
【0048】
搬送波と変調波とは同期していなくてもよい。搬送波と変調波が同期しておらず、搬送波の周波数が変調波の周波数よりも高い場合を非同期多パルスモードとする。ゲート信号生成器26が非同期多パルスモードで動作することで、同期多パルスモードの場合と同様に、モータM1に流れる電流の歪が少なくなり、モータM1が高効率で動作することが可能となる。
【0049】
モータM1の回転数が低い場合には、搬送波周波数は変調波周波数と同じ値に設定されてもよい。
【0050】
制御部12は、モータM1が有する回転子の磁極位置を測定する位置センサから測定値を取得し、位置センサの測定値に応じてゲート信号S1を生成してもよい。この場合、ゲート信号生成器26は、位置推定器24を備えずに、位置センサの測定値に応じてゲート信号S1を生成すればよい。
【0051】
モータM1は、永久磁石を備えない同期電動機であればよく、一例として、スイッチドリラクタンスモータでもよい。
【0052】
スイッチング素子SW11,SW12,SW13,SW14,SW15,SW16としてケイ素で形成される半導体素子が用いられて、還流ダイオードD11,D12,D13,D14,D15,D16として、ワイドギャップ半導体が用いられてもよい。
【0053】
駆動システム1-3は、鉄道車両の床下に限られず、任意の場所に設置可能である。一例として、駆動システム1-3は、鉄道車両の屋根上に設けられてもよい。
駆動システム1-3は、直流き電方式の鉄道車両だけでなく、交流き電方式の鉄道車両にも搭載可能である。駆動システム1-3が交流き電方式の鉄道車両に搭載される場合、変圧器で降圧され、コンバータで交流電力から直流電力に変換された電力が駆動システム1-3に供給される。
【0054】
駆動システム1-3が搭載される鉄道車両は電気鉄道車両に限られない。一例として、駆動システム1-3は、気動車に搭載され、内燃機関によって駆動されて発電する発電機から電力の供給を受けてもよい。他の一例として、駆動システム1-3は、蓄電池車に搭載され、蓄電池から電力の供給を受けてもよい。
駆動システム1-3は、鉄道車両に限られず、自動車、船舶、航空機等の任意の移動体に搭載されてもよい。
【0055】
本開示は、本開示の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この開示を説明するためのものであり、本開示の範囲を限定するものではない。すなわち、本開示の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の開示の意義の範囲内で施される様々な変形が、この開示の範囲内とみなされる。
【符号の説明】
【0056】
1,2,3 駆動システム、1a,1b 端子、11,13 電力変換部、12 制御部、21 電流指令演算器、22 電圧指令演算器、23 回転座標逆変換器、24 位置推定器、25 回転座標推定器、26 ゲート信号生成器、31 変調波生成器、32 微分器、33 搬送波生成器、34 比較器、CT11,CT12,CT13,CT21,CT22,CT23 電流センサ、D11,D12,D13,D14,D15,D16 還流ダイオード、FC1,FC2 フィルタコンデンサ、M1,M2 モータ、S1,S2 ゲート信号、SW11,SW12,SW13,SW14,SW15,SW16 スイッチング素子。
図1
図2
図3
図4
図5