(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-17
(45)【発行日】2025-04-25
(54)【発明の名称】1,3-ブタジエン用合成触媒及びその製造方法、並びに1,3-ブタジエンの製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 29/035 20060101AFI20250418BHJP
B01J 35/60 20240101ALI20250418BHJP
B01J 37/10 20060101ALI20250418BHJP
C07C 11/167 20060101ALI20250418BHJP
C07C 1/20 20060101ALI20250418BHJP
B01J 35/63 20240101ALI20250418BHJP
B01J 35/64 20240101ALI20250418BHJP
B01J 35/69 20240101ALI20250418BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20250418BHJP
【FI】
B01J29/035 Z
B01J35/60 G
B01J37/10
C07C11/167
C07C1/20
B01J35/63
B01J35/64
B01J35/69
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2023537867
(86)(22)【出願日】2021-07-29
(86)【国際出願番号】 JP2021028201
(87)【国際公開番号】W WO2023007677
(87)【国際公開日】2023-02-02
【審査請求日】2023-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 典彦
(72)【発明者】
【氏名】椿 範立
(72)【発明者】
【氏名】楊 国輝
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第111217656(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109894144(CN,A)
【文献】国際公開第2014/199348(WO,A2)
【文献】欧州特許出願公開第03604260(EP,A1)
【文献】YANG, Guochao,et al.,Preparation of β zeolite with intracrystalline mesoporosity via surfactant-templating strategy and its application in ethanol-acetaldehyde to butadiene,Microporous and Mesoporous Materials,2021年02月06日,vol.316,p.110949 - 1~9,DOI:10.1016/j.micromeso.2021.110949
【文献】今井裕之,多様な炭素資源からブタジエン直接合成のための遷移金属類含有ゼオライト触媒の活性サイト解明,ペテロテック,2019年08月01日,vol.42,no.8,p.597-601
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/14
C07C 1/00-409/44
C07B 61/00
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エタノールから1,3-ブタジエンを合成するための触媒であって、
結晶性シリカからなる多孔性のシリカ担体と、Znと、Zrと、を含み、
細孔径2nm以下のミクロ孔、細孔径2nm超50nm未満のメソ孔及び細孔径50nm以上のマクロ孔を有し、
2nm以下の第1ピーク細孔径(D
micro)と2nmより大きい第2ピーク細孔径(D
meso+macro)を含む多峰性の細孔径分布を持
ち、
t-plot法により算出したミクロ孔容積(V
micro
)が0.03~0.30cm
3
/gであり、BJH法により算出したメソ孔容積(V
meso
)が0.30~2.0cm
3
/gであり、
前記触媒は、ジルコニウムアルコキシドとオルトケイ酸エステルとメソ孔形成用の第1テンプレート剤を水とともに混合してジルコニウムケイ酸塩前駆体を調製し、前記ジルコニウムケイ酸塩前駆体と亜鉛塩とオルトケイ酸エステルとミクロ孔形成用の第2テンプレート剤を水とともに混合し、更にマクロ孔形成用の第3テンプレート剤の存在下に水熱合成し、焼成して得られる、
1,3-ブタジエン合成用触媒。
【請求項2】
前記Znとして前記シリカ担体に担持されたZnOを含み、前記Zrとして前記シリカ担体のシラノール基と相互作用したZrを含む、請求項1に記載の1,3-ブタジエン合成用触媒。
【請求項3】
前記シリカ担体がMFI型の骨格構造を有する、請求項1
または2に記載の1,3-ブタジエン合成用触媒。
【請求項4】
ZnとSiのモル比Zn/Siが0.001~0.1であり、ZrとSiのモル比Zr/Siが0.05~0.5である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の1,3-ブタジエン合成用触媒。
【請求項5】
前記第1テンプレート剤がセチルトリメチルアンモニウムブロミドであり、前記第2テンプレート剤がテトラプロピルアンモニウムヒドロキシドである、請求項
1~4のいずれか1項に記載の1,3-ブタジエン合成用触媒。
【請求項6】
前記第3テンプレート剤がグリセロールである、請求項
1~5のいずれか1項に記載の1,3-ブタジエン合成用触媒。
【請求項7】
結晶性シリカからなる多孔性のシリカ担体とZnとZrとを含む触媒であって2nm以下の第1ピーク細孔径(D
micro)と2nmより大きい第2ピーク細孔径(D
meso+macro)を含む多峰性の細孔径分布を持つ前記触媒の存在下で、エタノールから1,3-ブタジエンを得ることを含む、1,3-ブタジエンの製造方法
であって、
前記触媒は、
細孔径2nm以下のミクロ孔、細孔径2nm超50nm未満のメソ孔及び細孔径50nm以上のマクロ孔を有し、
t-plot法により算出したミクロ孔容積(V
micro
)が0.03~0.30cm
3
/gであり、BJH法により算出したメソ孔容積(V
meso
)が0.30~2.0cm
3
/gであり、
ジルコニウムアルコキシドとオルトケイ酸エステルとメソ孔形成用の第1テンプレート剤を水とともに混合してジルコニウムケイ酸塩前駆体を調製し、前記ジルコニウムケイ酸塩前駆体と亜鉛塩とオルトケイ酸エステルとミクロ孔形成用の第2テンプレート剤を水とともに混合し、更にマクロ孔形成用の第3テンプレート剤の存在下に水熱合成し、焼成して得られる触媒である、
1,3-ブタジエンの製造方法。
【請求項8】
前記触媒は、前記Znとして前記シリカ担体に担持されたZnOを含み、前記Zrとして前記シリカ担体のシラノール基と相互作用したZrを含む、請求項
7に記載の1,3-ブタジエンの製造方法。
【請求項9】
前記触媒は、前記シリカ担体がMFI型の骨格構造を有する、請求項
7または8に記載の1,3-ブタジエンの製造方法。
【請求項10】
エタノールから1,3-ブタジエンを合成するための1,3-ブタジエン合成用触媒の製造方法であって、
ジルコニウムアルコキシドとオルトケイ酸エステルと
細孔径2nm超50nm未満のメソ孔形成用の第1テンプレート剤を水とともに混合してジルコニウムケイ酸塩前駆体を調製すること、
前記ジルコニウムケイ酸塩前駆体と亜鉛塩とオルトケイ酸エステルと
細孔径2nm以下のミクロ孔形成用の第2テンプレート剤を水とともに混合すること、
得られた混合物
に細孔径50nm以上のマクロ孔形成用の第3テンプレート剤を添加混合し、前記第3テンプレート剤を含む前記混合物を用いて水熱合成すること、及び、
前記水熱合成により得られた反応生成物を焼成すること
を含
み、
前記オルトケイ酸エステルの総使用量100質量部に対して、前記第1テンプレート剤の使用量が10~80質量部であり、前記第2テンプレート剤の使用量が50~130質量部であり、前記第3テンプレート剤の使用量が10~80質量部である、
1,3-ブタジエン合成用触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、エタノールから1,3-ブタジエンを合成するための触媒、及びその製造方法、並びに該触媒を用いた1,3-ブタジエンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1,3-ブタジエンは、ブタジエンゴム(BR)やスチレンブタジエンゴム(SBR)を製造する際の原料として広く用いられている。現在、1,3-ブタジエンは、主として、ナフサのスチームクラッキングによるエチレンの製造時におけるC4留分から分離することで製造されている。近年、石油以外の原料からの1,3-ブタジエンの合成が求められている。そのような代替方法として、エタノールから1,3-ブタジエンを直接変換により合成する方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、エタノールに接触させてブタジエンを得るための触媒として、YO2を含む骨格構造を有するゼオライト材料を含み、該骨格構造中に含まれるYの少なくとも一部が元素Xによって同形置換された触媒が開示されている。ここで、Yは好ましくはSi、Sn、Ti、Zr又はGeであり、Xは好ましくはZr、Ti、Sn又はTaである。特許文献1にはまた、YがSiでありかつXがTiであるゼオライト材料が非骨格元素としてZnをさらに含んでもよいことが開示されている。
【0004】
特許文献2には、エタノールから1,3-ブタジエンを得るための触媒として、水酸化マグネシウムとコロイダルシリカと硝酸亜鉛とオキシ硝酸ジルニウムを水とともに混練し焼成して得られた触媒(ZnO/ZrO2/MgO/SiO2)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO2014/198901A1
【文献】WO2013/125389A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
エタノールから1,3-ブタジエンへの直接変換は有望なルートである。しかしながら、当該直接変換は複雑な反応であり、脱水素部位、ルイス酸部位、穏やかなブレンステッド部位を持つ多機能触媒が必要である。しかるに従来の触媒では、1,3-ブタジエンの収率が必ずしも高いとはいえず、収率の向上が求められる。
【0007】
本発明の実施形態は、エタノールから1,3-ブタジエンを効率的に合成することができる1,3-ブタジエン合成用触媒、及びその製造方法、並びに該触媒を用いたエタノールの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下に示される実施形態を含む。
[1] エタノールから1,3-ブタジエンを合成するための触媒であって、結晶性シリカからなる多孔性のシリカ担体と、Znと、Zrと、を含み、2nm以下の第1ピーク細孔径(Dmicro)と2nmより大きい第2ピーク細孔径(Dmeso+macro)を含む多峰性の細孔径分布を持つ、1,3-ブタジエン合成用触媒。
【0009】
[2] 結晶性シリカからなる多孔性のシリカ担体とZnとZrとを含む触媒であって2nm以下の第1ピーク細孔径(Dmicro)と2nmより大きい第2ピーク細孔径(Dmeso+macro)を含む多峰性の細孔径分布を持つ前記触媒の存在下で、エタノールから1,3-ブタジエンを得ることを含む、1,3-ブタジエンの製造方法。
【0010】
[3] 上記[1]又は[2]において、前記触媒は、前記Znとして前記シリカ担体に担持されたZnOを含み、前記Zrとして前記シリカ担体のシラノール基と相互作用したZrを含む。
【0011】
[4] 上記[1]~[3]のいずれかにおいて、前記触媒は、t-plot法により算出したミクロ孔容積(Vmicro)が0.03~0.30cm3/gであり、BJH法により算出したメソ孔容積(Vmeso)が0.30~2.0cm3/gである。
【0012】
[5] 上記[1]~[4]のいずれかにおいて、前記触媒は、前記シリカ担体がMFI型の骨格構造を有する。
【0013】
[6] 上記[1]~[5]のいずれかにおいて、前記触媒は、ZnとSiのモル比Zn/Siが0.001~0.1であり、ZrとSiのモル比Zr/Siが0.05~0.5である。
【0014】
[7] 上記[1]~[6]のいずれかにおいて、前記触媒は、ジルコニウムアルコキシドとオルトケイ酸エステルと第1テンプレート剤を水とともに混合してジルコニウムケイ酸塩前駆体を調製し、前記ジルコニウムケイ酸塩前駆体と亜鉛塩とオルトケイ酸エステルと第2テンプレート剤を水とともに混合し、更に水熱合成し、焼成して得られる触媒である。
【0015】
[8] 上記[7]において、前記第1テンプレート剤がセチルトリメチルアンモニウムブロミドであり、前記第2テンプレート剤がテトラプロピルアンモニウムヒドロキシドである。
【0016】
[9] 上記[7]又は[8]において、前記触媒は、第3テンプレート剤の存在下に前記水熱合成し焼成して得られるものである。
【0017】
[10] 上記[9]において、前記第3テンプレート剤がグリセロールである。
【0018】
[11] エタノールから1,3-ブタジエンを合成するための1,3-ブタジエン合成用触媒の製造方法であって、(i) ジルコニウムアルコキシドとオルトケイ酸エステルとメソ孔形成用の第1テンプレート剤を水とともに混合してジルコニウムケイ酸塩前駆体を調製すること、(ii) 前記ジルコニウムケイ酸塩前駆体と亜鉛塩とオルトケイ酸エステルとミクロ孔形成用の第2テンプレート剤を水とともに混合すること、(iii) 得られた混合物を用いて水熱合成すること、及び、(iv) 前記水熱合成により得られた反応生成物を焼成すること、を含む1,3-ブタジエン合成用触媒の製造方法。
【0019】
[12] 上記[11]において、前記第1テンプレート剤がセチルトリメチルアンモニウムブロミドであり、前記第2テンプレート剤がテトラプロピルアンモニウムヒドロキシドである。
【0020】
[13] 上記[11]又は[12]において、前記混合物にマクロ孔形成用の第3テンプレート剤を添加混合し、前記第3テンプレート剤を含む前記混合液を用いて前記水熱合成する。
【0021】
[14] 上記[13]において、前記第3テンプレート剤がグリセロールである。
【発明の効果】
【0022】
本発明の実施形態によれば、エタノールから1,3-ブタジエンを効率的に合成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】実施例1のZnZrMFI触媒及び純粋なZnOのZn 2pスペクトル
【
図2】実施例1のZnZrMFI触媒及び純粋なZrO
2のZr 3dスペクトル
【
図3】実施例1のZnZrMFI触媒のXRD測定結果を示すグラフ
【
図6】比較例3の触媒及び純粋なZrO
2のZr 3dスペクトル
【
図8】実施例1の触媒の安定性試験結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本実施形態に係る1,3-ブタジエン合成用触媒(以下、単に触媒ということがある。)、及びそれを用いた1,3-ブタジエンの製造方法について説明する。
【0025】
[1,3-ブタジエン合成用触媒]
実施形態に係る触媒は、エタノールから1,3-ブタジエンを合成するための触媒であり、多孔性のシリカ担体、Zn、及びZrを含む。
【0026】
シリカ担体は、結晶性シリカからなり、3次元の細孔構造を持つ多孔質結晶である。そのため、アモルファスシリカからなる構造に比べて、比表面積が大きく、様々な活性中心の分散に有利であり、触媒性能を向上することができる。細孔としては、ミクロ孔、メソ孔、及びマクロ孔が挙げられる。一実施形態において、シリカ担体は、ミクロ孔と、メソ孔及び/又はマクロ孔とを有する。本明細書において、ミクロ孔とは、細孔径2nm以下の孔をいう。メソ孔とは、細孔径2nm超50nm未満の孔をいう。マクロ孔とは、細孔径50nm以上の孔をいう。
【0027】
シリカ担体は、SiO2を含む骨格構造を有する。該骨格構造は、基本的にSiO2からなるが、骨格構造中に含まれるSiの一部がアルミニウム元素などの3価、4価及び/又は5価の元素によって置換されていてもよい。好ましくは、シリカ担体は、そのような置換がされていないSiO2の骨格構造を有することである。一実施形態として、シリカ担体は、アルミニウム元素を含まないゼオライト(即ち、脱アルミニウムゼオライト)でもよい。
【0028】
シリカ担体の骨格構造は、特に限定されず、例えば、MFI型、BEA型、FER型、MWW型、MOR型、FAU型、LTA型、LTL型などが挙げられ、これらのいずれか1種又は2種以上組み合わせた骨格構造を有してもよい。これらの中でも、一実施形態におけるシリカ担体はMFI型の骨格構造を有することが好ましい。
【0029】
上記触媒において、亜鉛(Zn)は、酸化物の形、即ちZnOでシリカ担体に担持される。Znの原子半径はSiよりも大きいため、Znは触媒の合成過程でシリカ担体の骨格構造中に入り込まず、酸化物の形でシリカ担体に担持される。上記シリカ担体に担持されたZnOは、主としてエタノールの脱水素化を促進すると考えられる。
【0030】
上記触媒において、ジルコニウム(Zr)は、主としてシリカ担体のシラノール基(Si-OH)と相互作用した状態で含まれる。Zrの原子半径はSiよりも大きいため、Zrは触媒の合成過程でシリカ担体の骨格構造中に入り込まず、シリカ担体の細孔内でZrとSiO
2表面のシラノール基とが相互作用してルイス活性中心を形成する。ここで、シラノール基とZrとの相互作用とは、シラノール基とZrとの間で何らかの結合が形成されることをいう。具体的には、シラノール基に対してZrが配位して、Zrがシラノール基のSiとともにSi-O-Zr結合を形成していることが好ましく、例えば下記式(1)で示される形態、即ちZr(OH)(OSi)
3をとってもよい。
【化1】
【0031】
上記触媒において、Zrは、このようにシラノール基と相互作用したもののみでもよいが、一部のZrが酸化物の形、即ちZrO2でシリカ担体に担持されてもよい。一実施形態に係る触媒において、Zrは、Zr(OH)(OSi)3及びZrO2の形態で含まれてもよい。
【0032】
本実施形態に係る触媒は、2nm以下の第1ピーク細孔径(Dmicro)と2nmより大きい第2ピーク細孔径(Dmeso+macro)を含む多峰性の細孔径分布を持つ。ピーク細孔径とは、細孔径分布において分布曲線が極大値をとる細孔径をいい、分布曲線における山の頂点での細孔径をいう。本実施形態に係る触媒では、2nmを境界としてその両側にそれぞれピーク細孔径を持ち、2nm以下のピーク細孔径を第1ピーク細孔径(Dmicro)といい、2nmより大きいピーク細孔径を第2ピーク細孔径(Dmeso+macro)という。かかる多峰性の細孔径分布は、触媒がミクロ孔とともにメソ孔及び/又はマクロ孔を含む構造(以下、階層構造ともいう。)を持つことによるものであり、より好ましくは、触媒はミクロ孔、メソ孔及びマクロ孔を含む階層構造を持つことである。階層構造を持つことにより、物質移動効率や炭素析出に対する耐性が向上し、触媒の安定性が高まる。
【0033】
Dmicroは、上記のように2nm以下であれば特に限定されないが、好ましくは0.2nm以上1.5nm以下であり、より好ましくは0.3nm以上1.0nm以下であり、さらに好ましくは0.4nm以上0.8nm以下である。
【0034】
Dmeso+macroは、上記のように2nm超であれば特に限定されないが、好ましくは5nm以上1000nm以下であり、より好ましくは10nm以上500nm以下であり、さらに好ましくは20nm以上300nm以下であり、さらに好ましくは30nm以上100nm以下である。
【0035】
上記触媒においては、t-plot法により算出したミクロ孔容積(Vmicro)が0.03~0.30cm3/gであり、かつ、BJH法により算出したメソ孔容積(Vmeso)が0.30~2.0cm3/gであることが好ましい。このようなミクロ孔容積(Vmicro)及びメソ孔容積(Vmeso)を持つことにより、上記階層構造を持つことによって奏される効果をより高めることができる。
【0036】
Vmicroは、より好ましくは0.04~0.20cm3/gであり、さらに好ましくは0.05~0.10cm3/gである。Vmesoは、より好ましくは0.40~1.0cm3/gであり、さらに好ましくは0.50~0.80cm3/gである。
【0037】
上記触媒において、亜鉛元素とシリカ元素のモル比Zn/Siは、特に限定されないが、0.001~0.1であることが好ましい。該モル比Zn/Siが0.001以上であることにより、エタノールの脱水素化の促進効果を高めることができる。該モル比Zn/Siが0.1以下であることにより、他の活性種の働きを阻害することなくエタノールの脱水素化を促進することができる。該モル比Zn/Siは、0.005以上であることが好ましく、より好ましくは0.008以上である。また、該モル比Zn/Siは、0.05以下であることが好ましく、より好ましくは0.03以下である。
【0038】
上記触媒において、ジルコニウム元素とシリカ元素のモル比Zr/Siは、特に限定されないが、0.05~0.5であることが好ましい。該モル比Zr/Siが0.05以上であることにより、アルドール縮合、MPV還元の促進効果を高めることができる。該モル比Zr/Siが0.5以下であることにより、副生成物の発生を抑制することができる。該モル比Zr/Siは、0.08以上であることが好ましく、より好ましくは0.1以上である。また、該モル比Zr/Siは、0.4以下であることが好ましく、より好ましくは0.3以下である。
【0039】
[1,3-ブタジエン合成用触媒の製造方法]
上記触媒の製造方法は、特に限定されないが、水熱合成法により調製することが好ましく、より好ましくはワンポッドの水熱合成法により調製することである。
【0040】
水熱合成法を用いた好ましい一実施形態に係る製造方法は、以下の工程を含む。
(i) ジルコニウムアルコキシド、オルトケイ酸エステル及びメソ孔形成用の第1テンプレート剤を、水とともに混合して、ジルコニウムケイ酸塩前駆体を調製する工程、
(ii) 該ジルコニウムケイ酸塩前駆体、亜鉛塩、オルトケイ酸エステル及びミクロ孔形成用の第2テンプレート剤を、水とともに混合する工程、
(iii) 得られた混合物を用いて水熱合成する工程、及び、
(iv) 該水熱合成により得られた反応生成物を焼成する工程。
【0041】
上記工程(i)~(iv)を含む製造方法であれば、脱水素部位、ルイス酸部位、及び穏やかなブレンステッド部位といった様々な活性中心を持つ多機能触媒をワンポッドで合成することができる。また、活性中心を均一に分散させることができ、そのため、活性中心間の相互作用を促進させることができる。また、階層構造を持つ触媒を合成することができ、特にZrを階層的な細孔の中でシリカ表面のシラノール基と相互作用させ、ルイス活性中心を形成させることができる。
【0042】
工程(i)及び(ii)においてシリカ源として用いるオルトケイ酸エステルとしては、例えば、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトラメトキシシラン(TEMOS)、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシランなどが挙げられ、これらはいずれか1種又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0043】
ジルコニウムアルコキシドとしては、特に限定されず、例えば、ジルコニウムメトキシド、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムプロポキシド、ジルコニウムブトキシドなどが挙げられ、これらはいずれか1種又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0044】
第1テンプレート剤としては、メソ孔を形成することができるテンプレート剤であれば特に限定されないが、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)を用いることが好ましい。
【0045】
亜鉛塩としては、特に限定されず、例えば、酢酸亜鉛、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、臭化亜鉛などの水溶性亜鉛塩が挙げられ、これらはいずれか1種又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0046】
第2テンプレート剤としては、ミクロ孔を形成することができるテンプレート剤であれば特に限定されないが、例えば、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAOH)を用いることが好ましい。
【0047】
工程(i)は、ジルコニウムケイ酸塩前駆体を合成する工程であり、メソ孔形成用の第1テンプレート剤の存在下、オルトケイ酸エステルとジルコニウムアルコキシドが加水分解することにより、メソポーラスな前駆体を合成することができる。なお、工程(i)において、ジルコニウムアルコキシドとオルトケイ酸エステルと第1テンプレート剤と水を混合する際、低級アルコール等のその他の成分が含まれてもよい。また、工程(i)ではジルコニウムケイ酸塩前駆体は焼成しない。
【0048】
詳細には、工程(i)では、エタノール等の低級アルコールにジルコニウムアルコキシドとオルトケイ酸エステルを溶解させ、得られた溶液を第1テンプレート剤及び水とともに混合し、得られた第1混合物を熟成させてもよい。熟成により、第1テンプレートの存在下、オルトケイ酸エステルが加水分解し脱水縮合するとともに、ジルコニウムアルコキシドが加水分解しZrがシラノール基と相互作用して、メソポーラスな前駆体が生成する。その後、遠心分離し、乾燥することにより、ジルコニウムケイ酸塩前駆体の粉末が得られる。
【0049】
工程(i)で使用するオルトケイ酸エステルの量は、特に限定されないが、工程(i)及び(ii)で使用するオルトケイ酸エステルの総使用量に対して、30~70質量%であることが好ましく、より好ましくは40~60質量%である。
【0050】
ジルコニウムアルコキシドの使用量は、特に限定されないが、工程(i)及び(ii)で使用するオルトケイ酸エステルの総使用量に対し、ジルコニウム元素とケイ素元素のモル比Zr/Siが、0.05~0.5であることが好ましく、より好ましくは0.08~0.4であり、さらに好ましくは0.1~0.3である。
【0051】
第1テンプレート剤の使用量は、特に限定されないが、工程(i)及び(ii)で使用するオルトケイ酸エステルの総使用量100質量部に対して、10~80質量部でもよく、20~40質量部でもよい。
【0052】
工程(ii)では、工程(i)で得られたジルコニウムケイ酸塩前駆体を用いて、第2テンプレート剤とともに追加のシリカ源を加えて第2の前駆体を合成する。
【0053】
詳細には、工程(ii)では、エタノール等の低級アルコールに亜鉛塩とオルトケイ酸エステルを溶解させるとともにジルコニウムケイ酸塩前駆体を加えて混合し、得られた混合液に第2テンプレート剤と水を加えて混合してもよい。これにより、亜鉛塩とジルコニウムケイ酸塩前駆体と第2テンプレート剤の存在下に、オルトケイ酸エステルが加水分解し脱水縮合して、ZnZrケイ酸塩前駆体が生成する。
【0054】
亜鉛塩の使用量は、特に限定されないが、工程(i)及び(ii)で使用するオルトケイ酸エステルの総使用量に対し、亜鉛元素とケイ素元素のモル比Zn/Siが、0.001~0.1であることが好ましく、より好ましくは0.005~0.05であり、さらに好ましくは0.008~0.03である。
【0055】
第2テンプレート剤の使用量は、特に限定されないが、工程(i)及び(ii)で使用するオルトケイ酸エステルの総使用量100質量部に対して、50~130質量部でもよく、80~100質量部でもよい。
【0056】
工程(ii)では、このようにして得られたZnZrケイ酸塩前駆体を含む混合物から低級アルコールを留去してもよい。
【0057】
その後、直ちに工程(iii)の水熱合成を実施してもよいが、水熱合成する前に第3テンプレート剤を添加してもよい。すなわち、一実施形態において、ZnZrケイ酸塩前駆体を含む混合物に、マクロ孔形成用の第3テンプレート剤を添加混合し、該第3テンプレート剤を含む混合液を用いて、工程(iii)の水熱合成を行ってもよい。第3テンプレート剤を添加することによって、より大きなマクロ孔を形成することができる。
【0058】
第3テンプレート剤としては、マクロ孔を形成することができるテンプレート剤であれば特に限定されないが、例えば、グリセロールを用いることが好ましい。グリセロール存在下での水熱合成では、触媒の粒子径を大幅に減少させることができ、物質移動効率の向上に有利である。
【0059】
第3テンプレート剤の使用量は、特に限定されないが、工程(i)及び(ii)で使用するオルトケイ酸エステルの総使用量100質量部に対して、10~80質量部でもよく、30~50質量部でもよい。
【0060】
工程(iii)では、上記工程(ii)により得られた混合物を用いて水熱合成を行う。水熱合成は、高温高圧の熱水の存在下に行われる反応であり、更なる脱水縮合がなされてシリカが生成する。その際、第1テンプレート剤及び第2テンプレート剤(好ましくは更に第3テンプレート剤)が存在することで、それぞれに対応した細孔径を持つ細孔が形成され、階層構造が形成される。また、ワンポッドの水熱合成を行うため、活性中心であるZnとZrをシリカ担体に均一に分散させることができ、活性中心間の相互作用を促進することができる。
【0061】
水熱合成は、例えばオートクレーブを用いて行うことができる。処理条件は特に限定されないが、例えば、150~180℃、体積膨張に伴い自発的に発生する圧力で、24~96時間でもよい。
【0062】
水熱合成した後、得られた反応生成物を乾燥し、次いで、工程(iv)において、反応生成物を焼成する。これにより、一実施形態に係る触媒が得られる。焼成温度としては、特に限定されず、例えば、300~700℃でもよく、400~600℃でもよい。焼成後、必要に応じて、粉砕し、更に整粒などの成型を施してもよい。
【0063】
[1,3-ブタジエンの製造方法]
本実施形態に係る1,3-ブタジエンの製造方法は、上述した本実施形態に係る触媒の存在下で、エタノールから1,3-ブタジエンを得ることを含む。そのためには、エタノールを含む原料を上記触媒に接触させればよい。
【0064】
該触媒によるエタノールから1,3-ブタジエンへの合成経路は特に限定されないが、一般的には次のように考えられている。すなわち、(1)エタノールが脱水素化によりアセトアルデヒドとなり、(2)アセトアルデヒドがアルドール縮合によりアセトアルドールとなり、(3)アセトアルドールが脱水反応によりクロトンアルデヒドとなり、(4)クロトンアルデヒドがエタノールとともにMPV還元されてクロチルアルコールとなり、(5)クロチルアルコールが脱水により1,3-ブタジエンとなる。
【0065】
製造に用いるエタノールとしては、特に限定されず、例えば、バイオマスから生成されるバイオエタノールでもよく、化石燃料由来のエチレンの水和反応等から合成されるエタノールでもよい。上記原料には、エタノールとともにアセトアルデヒドなどの他の成分が含まれてもよい。
【0066】
上記触媒にエタノールを含む原料を接触させる方法は、上記触媒の存在下でエタノールを1,3-ブタジエンに変換できる方法であれば、特に限定されず、気相で行ってもよく、液相で行ってもよい。好ましくは、エタノールを含む原料をガスとして、上記触媒を含む触媒床にガスを流通させて、気相にて反応させることである。
【0067】
気相で反応を行う場合、原料ガスは希釈せずに反応系に供給してもよいが、窒素やアルゴンなどの不活性ガスにより希釈して供給してもよい。
【0068】
反応温度(触媒床の温度)は、エタノールを1,3-ブタジエンに変換できる温度であれば特に限定されず、例えば250~500℃でもよく、300~400℃でもよい。反応圧力も特に限定されず、例えば大気圧~1MPaでもよい。
【0069】
反応方式としては、連続流通式でも、回分式でもよい。連続流通式の場合、原料供給速度(重量/時間)の触媒重量に対する比である重量時間空間速度(WHSV)は特に限定されず、例えば0.1~10h-1でもよく、0.3~2h-1でもよい。
【0070】
反応形式としては、特に制限はなく、固定床式、移動床式、流動床式のいずれでもよい。反応器の形式としても特に制限はなく、例えば管型反応器等を用いることができる。
【0071】
反応後に得られた生成物は、必要に応じて、蒸留などの精製を行ってもよて。これにより、未反応のエタノールや、副生物であるエチレン、エーテル、アセトアルデヒドなどを除去することができる。
【実施例】
【0072】
以下、実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0073】
[実施例1:ZnZrMFI触媒の調製]
10mLのエタノールに2.60gのテトラエトキシシラン(TEOS)と、2.40gのジルコニウムブトキシド(Zr(OBu)4)を添加し攪拌して溶解させた。得られた溶液を、300mLの水に1.91gのセチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)を溶解させた水溶液に添加し、一晩熟成させた。その後、遠心分離し、100℃、12時間で乾燥させることにより、ジルコニウムケイ酸塩前駆体を得た。
【0074】
10mLのエタノールに、0.05gの酢酸亜鉛(Zn(CH3COO)2・2H2O)と2.61gのTEOSを添加して1時間攪拌して溶解させた。これに1.00gのジルコニウムケイ酸塩前駆体を添加して1時間攪拌した後、5.08gのテトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAOH)と18.69gの水を添加して4時間攪拌混合した。得られた混合物を90℃で4時間加熱してエタノールを留去させた後、2.30gのグリセロールを添加し混合した。次いで、混合物をフッ素樹脂で裏打ちされたステンレス鋼オートクレーブに移して、130℃、体積膨張に伴い自発的に発生する圧力、48時間にて水熱合成反応を行った。得られた反応生成物を100℃で12時間乾燥させた後、550℃で5時間、空気中で焼成することにより、ZnZrMFI触媒(モル比Zn/Si=0.01、モル比Zr/Si=0.2)を得た。
【0075】
得られたZnZrMFI触媒について、Thermo Fisher Scientific社製「ESCALAB 250クロッシィ」という装置で、Al Ka X線源を用いて、X線光電子分光(XPS)分析を実施した。これにより、
図1に示すZn 2pスペクトルと、
図2に示すZr 3dスペクトルを得た。また、ZnZrMFI触媒について、X線回折(XRD)法(CuKα 40kV,20mA,6°~60°)を用いて結晶構造の解析を行い、
図3に示す測定結果を得た。
【0076】
図2に示すZr 3dピークの結合エネルギーについて、純粋なZrO
2では2つのピークが観察された。一方、ZnZrMFI触媒(Zn
0.01Zr
0.2MFI)では、Zr 3dピークの結合エネルギーが、純粋なZrO
2よりも高エネルギー側にシフトしており、Zrとシラノール基とが相互作用してSi-O-Zr結合していることが示されていた。
図6は、後述する比較例3の触媒(Zn
0.01Zr
0.2MFI(mi))についてのZr 3dスペクトルを純粋なZrO
2のZr 3dスペクトルとともに示したものである。比較例3の触媒では、2つのピークが、Si-O-Zrに相当する2つのメインピークと、ZrO
2に相当する2つの弱いピークに分けられる。このことから、実施例1に係るジルコニウムケイ酸塩前駆体を経る合成方法では、Zrとシラノール基との相互作用をより強化でき、ZrO
2の生成をより抑制できることが分かる。
【0077】
図1に示すZn 2pピークの結合エネルギーについては、ZnZrMFI触媒(Zn
0.01Zr
0.2MFI)は純粋なZnOと比べてピークに明らかな変化はなく、ZnOの形で存在することが示されていた。
【0078】
また、
図3に示すように、ZnZrMFI触媒(Zn
0.01Zr
0.2MFI)は、「×」で示されるMFIに特有のピークを有している。
【0079】
以上より、調製したZnZrMFI触媒は、MFI型の骨格構造を有するシリカ担体を含み、ZnがZnOの形でシリカ担体に担持され、ZrがZr(OH)(OSi)3の形態で含まれていることが分かる。
【0080】
[比較例1:ZnCe/beta触媒の調製]
5.0gのH-beta(東ソー製「941HOA」)に13mol/L硝酸100mLを加え、100℃で12時間攪拌した後、濾過し洗浄してSi-betaを得た。5gのSi-betaと0.96gのZn(NO3)2・6H2Oと0.66gのCe(NO3)3・6H2Oを混合し微粉砕した後、500℃で6時間、空気中で焼成した。これにより、ZnCe/beta触媒(Zn含有量=5.0質量%、Ce含有量=5.0質量%)を得た。
【0081】
[比較例2:ZrMFI触媒の調製]
1.91gのCTABを撹拌しながら300mLの脱イオン水に溶解して溶液Aを得た。2.60gのTEOSおよび2.40gのZr(OBu)4を撹拌下で10mLのエタノールに混合して溶液Bを得た。溶液Bを撹拌しながら溶液Aにゆっくりと加え、一晩熟成させた。固体生成物を2500rpmで遠心分離し、60℃で一晩乾燥させて、ケイ酸ジルコニウム前駆体を得た。
【0082】
2.60gのTEOSを10mLのエタノールに添加して混合溶液を調製した。ケイ酸ジルコニウム前駆体を混合溶液に加え、1時間撹拌した。次に、5.08gのTPAOHおよび18.69gのH2Oを、撹拌しながら混合溶液に滴下して加えた。混合溶液を700rpmで4時間連続的に撹拌し、次に90℃で4時間加熱して、混合物からほとんどの水およびエタノールを除去した。ゲルを形成した後、2.30gのグリセロールと混合し、次にフッ素樹脂で裏打ちされたステンレス製オートクレーブに移して、130℃で48時間水熱合成した。生成物を100℃で12時間乾燥した後、550℃の空気中で5時間焼成して、Zr0.2MFI触媒を得た。
【0083】
[比較例3:ZnZrMFI(mi)触媒の調製]
10mLのエタノールに、0.05gのZn(CH3COO)2・2H2Oと5.21gのTEOSを添加して1時間攪拌して溶解させた。これに2.40gのZr(OBu)4を加えて1時間攪拌した後、5.08gのTPAOHと18.69gの水を添加して4時間攪拌混合した。得られた混合物を90℃で4時間加熱してエタノールを留去させた後、フッ素樹脂で裏打ちされたステンレス鋼オートクレーブに移して、130℃、体積膨張に伴い自発的に発生する圧力、48時間にて水熱合成反応を行った。得られた反応生成物を100℃で12時間乾燥させた後、550℃で5時間、空気中で焼成することにより、ZnZrMFI(mi)触媒(モル比Zn/Si=0.01、モル比Zr/Si=0.2)を得た。
【0084】
[細孔径及び細孔容積の測定]
実施例1のZnZrMFI触媒、及び比較例3のZnZrMFI(mi)触媒について、細孔径を測定し、細孔径分布からピーク細孔径(Dmicro、Dmeso+macro)を求めた。また、細孔容積として、ミクロ孔容積(Vmicro)及びメソ孔容積(Vmeso)を求めた。測定方法は以下のとおりである。
【0085】
触媒をサンプルとし、測定装置としてMicromeritics社製「3Flex 2MP」を用いて、窒素(N2)吸着・脱着の測定を行った。なお、測定の前に、サンプルを350℃で5時間、真空状態で脱気した。
【0086】
本測定装置は、ミクロ孔の細孔径分布解析をHK法により、またメソ孔とマクロ孔の細孔径分布解析をBJH法により行うものである。測定によりLog微分細孔容積分布(dV/dlogD)の細孔径分布を求めた。この細孔径分布は、
図4に示すように、横軸を細孔径とし、縦軸をdV/dlogDとしたものである。dV/dlogDは差分細孔容積dVを細孔径の対数扱いの差分値d(logD)で割った値であり、これを各区間の平均細孔径に対してプロットしたものである。得られた細孔径分布から、ミクロ孔のピーク細孔径(D
micro)と、メソ孔及びマクロ孔のピーク細孔径(D
meso+macro)を求めた。
【0087】
また、t-plot法によりミクロ孔容積(Vmicro)を算出し、BJH法によりメソ孔容積(Vmeso)を算出した。
【0088】
実施例1及び比較例3の各触媒の細孔径分布をそれぞれ
図4及び
図5に示す。
図5に示すように、比較例3の触媒では、D
micro=0.54nmの単一のピーク細孔径を有していた。これに対し、実施例1の触媒では、
図4に示すように、D
micro=0.55nmとD
meso+macro=50.18nmの2つのピーク細孔径を有し、多峰性の細孔径分布を有していた。また、実施例1の触媒は、細孔径2nm以下のミクロ孔と、細孔径2nm超50nm未満のメソ孔と、細孔径50nm以上のマクロ孔を有しており、階層的ナノサイズの細孔を有していた。
【0089】
また、下記表1に示すように、実施例1の触媒は、比較例3の触媒よりも、メソ孔容積Vmesoが大きく、ミクロ孔容積Vmicroとあわせたトータルの細孔容積Vtotalも大きかった。
【0090】
[触媒性能評価試験]
上記で調製した各触媒について、エタノールから1,3-ブタジエンの合成反応による触媒性能評価試験を行った。該合成反応は、大気圧下で内径4mmの石英製の固定床流通反応器を用いて実施した。
【0091】
反応装置の概念図は
図7に示すとおりである。
図7中、符号12はキャリアガスとしての窒素を供給する窒素ボンベを、符号14はエタノールを供給するシリンジポンプを、符号16はマスフローコントローラ(MFC)を、符号18はエバポレータを、符号20はガスが流通する配管の外周を加熱するラインヒーティングとしてのリボンヒータを、それぞれ示す。
【0092】
符号22は固定床流通型の反応器を、符号24は反応器22内の触媒床を、符号26は反応器22を加熱する電気炉を、符号28は触媒床24の温度を検知する熱電対温度計(TC)を、それぞれ示す。
【0093】
符号30は反応器22を通過したガスが流れる配管を、符号32は反応器22を迂回するバイパス経路を、符号34はガス生成物を分析するためのガスクロマトグラフ(GC)を、符号36は排ガス出口を、符号38は上記の配管30、バイパス経路32、GC34及び排ガス出口36に対する流路切替を行うための六方弁を、それぞれ示す。
【0094】
反応器22内に0.5gの触媒を充填して触媒床24を形成し、触媒床24の両側に石英ウール40を詰めて固定した。窒素ボンベ12からMFC16を介して反応器22に窒素を流速20mL/minで流し、400℃で1時間前処理した。350℃に冷却した後、シリンジポンプ14を使用して、エタノールを0.24mL/h(キャリアガスとして窒素を20mL/minで流し希釈)の速度で反応系に導入した(WHSV=0.38h-1)。触媒の評価は6時間行った。
【0095】
オンラインでは反応器22から出たガス生成物をガスクロマトグラフ(GC)34に導き、ガスクロマトグラフ(島津製作所製「Shimadzu GC-14B」とジーエルサイエンス製「DB-1カラム(30m×0.25mm×0.25μm)」)および炎イオン化検出器(FID)を使用して、ガス生成物を分析した。
【0096】
以下に、転化率(エタノール転化率)と各生成物の選択率と収率(1,3-ブタジエンの収率)の計算式を示す。
【数1】
【0097】
【0098】
結果は表1に示すとおりであり、1,3-ブタジエン、エチレン、アセトアルデヒド、ジエチルエーテル、その他のカップリング生成物が検出された。実施例1の触媒であると、比較例1のZnCe/beta触媒及び比較例2のZnMFI触媒に比べて、エタノールの転化率が顕著に高く、1,3-ブタジエンの収率が顕著に向上していた。また、階層構造を持たないZnZrMFI(mi)触媒である比較例3と比べて、1,3-ブタジエンの選択率が顕著に高く、1,3-ブタジエンの収率も顕著に向上していた。そのため、実施例1によれば、1,3-ブタジエンの効率的な合成が可能であった。
【0099】
[触媒安定性試験]
触媒安定性試験は、実施例1の触媒について、上記触媒性能評価試験を80時間にわたって行い、昼間の1時間毎に転化率(Ethanol conv.)と1,3-ブタジエン選択率(Butadiene sel.)を測定した。
【0100】
結果は
図8に示すとおりであり、実施例1の触媒は安定性に優れていた。
【0101】
なお、明細書に記載の種々の数値範囲は、それぞれそれらの上限値と下限値を任意に組み合わせることができ、それら全ての組み合わせが好ましい数値範囲として本明細書に記載されているものとする。また、「X~Y」との数値範囲の記載は、X以上Y以下を意味する。
【0102】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその省略、置き換え、変更などは、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。