(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-17
(45)【発行日】2025-04-25
(54)【発明の名称】ジフェニルカーボネートの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 68/08 20060101AFI20250418BHJP
C07C 68/06 20200101ALI20250418BHJP
C07C 69/96 20060101ALI20250418BHJP
【FI】
C07C68/08 ZAB
C07C68/06
C07C69/96 Z
(21)【出願番号】P 2023554717
(86)(22)【出願日】2022-10-19
(86)【国際出願番号】 JP2022038887
(87)【国際公開番号】W WO2023068288
(87)【国際公開日】2023-04-27
【審査請求日】2024-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2021172658
(32)【優先日】2021-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】赤塚 健司
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/105442(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/105439(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/069463(WO,A1)
【文献】特開2015-091897(JP,A)
【文献】国際公開第2007/072705(WO,A1)
【文献】特開平9-04616(JP,A)
【文献】国際公開第2006/025424(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/041075(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 23/24- 23/31
B01J 23/70- 23/89
C07C 68/08
C07C 68/06- 68/065
C07C 69/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジフェニルカーボネートを連続的に製造する方法であって、
ジアルキルカーボネートとフェノールとを触媒が存在する第1連続多段蒸留塔内に連続的に供給し、該第1連続多段蒸留塔内で反応と蒸留とを同時に行い、生成するアルコール類を含む第1塔低沸点反応混合物を該第1連続多段蒸留塔上部よりガス状で連続的に抜出し、生成するアルキルフェニルカーボネートを含む第1塔高沸点反応混合物を該第1連続多段蒸留塔下部より液状で連続的に抜出し、アルキルフェニルカーボネートを連続的に製造する工程と、
該第1塔高沸点反応混合物を触媒が存在する第2連続多段蒸留塔内に連続的に供給し、該第2連続多段蒸留塔内で反応と蒸留とを同時に行い、生成するジアルキルカーボネート類を含む第2塔低沸点反応混合物を該第2連続多段蒸留塔上部よりガス状で連続的に抜出し、生成するジフェニルカーボネートを含む第2塔高沸点反応混合物を該第2連続多段蒸留塔下部より液状で連続的に抜出し、ジフェニルカーボネートを連続的に製造する工程と、
該ジフェニルカーボネートを含む第2塔高沸点反応混合物を高沸点物質分離塔Aに連続的に導入し、ジフェニルカーボネートを含む塔頂成分(A
T)と、触媒を含む塔底成分(A
B)と、に連続的に蒸留分離する第1の精製工程と、
該塔頂成分(A
T)を、サイドカット抜き出し口を有するジフェニルカーボネート精製塔Bに連続的に導入し、塔頂成分(B
T)、サイドカット成分(B
S)及び塔底成分(B
B)の3つの成分に連続的に蒸留分離することによって、サイドカット成分(B
S)としてジフェニルカーボネートを得る第2の精製工程と、
前記第2塔低沸点反応混合物を第1連続多段蒸留塔内に連続的に供給する第1循環工程と、
前記塔底成分(A
B)の一部を前記第1連続多段蒸留塔内及び/又は第2連続多段蒸留塔内に連続的に供給する第2循環工程と、
を含み、
前記高沸点物質分離塔Aの塔底成分(A
B)がジフェニルカーボネート(DPC)及び高沸点物質(HB)を含み、該塔底成分(A
B)におけるジフェニルカーボネートと高沸点物質との質量濃度比(DPC/HB)が0.1~1.0であり、かつジフェニルカーボネートと触媒との質量濃度比(DPC/触媒)が1.0~10.0であ
り、
前記第2塔低沸点反応混合物中のアルキルアリールカーボネートの濃度が1質量%以下である、ジフェニルカーボネートの製造方法。
【請求項2】
前記塔底成分(A
B)におけるジフェニルカーボネートの濃度が9~38質量%である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記第2連続多段蒸留塔の下部の接液部に、Feを主成分とし、Moを2質量%以上、Crを18質量%以下含む材質が使用される、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
(a)該第1連続多段蒸留塔が、長さL
1(cm)、内径D
1(cm)の円筒形の胴部を有し、内部に段数n
1をもつインターナルを有する構造をしており、塔頂部又はそれに近い塔の上部に内径d
11(cm)のガス抜出し口、塔底部又はそれに近い塔の下部に内径d
12(cm)の液抜出し口、該ガス抜出し口より下部であって塔の上部及び/又は中間部に1つ以上の第3の導入口、該液抜出し口より上部であって塔の中間部及び/又は下部に1つ以上の第4の導入口を有する連続多段蒸留であり、L
1、D
1、L
1/D
1、n
1、D
1/d
11、D
1/d
12が、それぞれ下記式(7)~(12)を満足し、
1500 ≦ L
1 ≦ 8000 式(7)
100 ≦ D
1 ≦ 2000 式(8)
2 ≦ L
1/D
1 ≦ 40 式(9)
20 ≦ n
1 ≦ 120 式(10)
5 ≦ D
1/d
11 ≦ 30 式(11)
3 ≦ D
1/d
12 ≦ 20 式(12)
(b)該第2連続多段蒸留塔が、長さL
2(cm)、内径D
2(cm)の円筒形の胴部を有し、内部に段数n
2をもつインターナルを有する構造をしており、塔頂部又はそれに近い塔の上部に内径d
21(cm)のガス抜出し口、塔底部又はそれに近い塔の下部に内径d
22(cm)の液抜出し口、該ガス抜出し口より下部であって塔の上部及び/又は中間部に1つ以上の第5の導入口、該液抜出し口より上部であって塔の中間部及び/又は下部に1つ以上の第6の導入口を有する連続多段蒸留であり、L
2、D
2、L
2/D
2、n
2、D
2/d
21、D
2/d
22が、それぞれ下記式(13)~(18)を満足し、
1500 ≦ L
2 ≦ 8000 式(13)
100 ≦ D
2 ≦ 2000 式(14)
2 ≦ L
2/D
2 ≦ 40 式(15)
10 ≦ n
2 ≦ 80 式(16)
2 ≦ D
2/d
21 ≦ 15 式(17)
5 ≦ D
2/d
22 ≦ 30 式(18)
(c)該高沸点物質分離塔Aが、長さL
A(cm)、内径D
A(cm)の円筒形の胴部を有し、内部に段数n
Aのインターナルを有する連続多段蒸留塔であり、L
A、D
A、n
Aが、それぞれ下記式(19)~(21)を満足し、
800 ≦ L
A ≦ 3000 式(19)
100 ≦ D
A ≦ 1000 式(20)
20 ≦ n
A ≦ 100 式(21)
(d)該ジフェニルカーボネート精製塔Bが、長さL
B(cm)、内径D
B(cm)の円筒形の胴部を有し、内部にインターナルを有する構造をしており、塔の中間部に導入口B
1、該導入口B
1と塔底との間にサイドカット抜き出し口B
2を有し、導入口B
1から上部におけるインターナルの段数がn
B1、導入口B
1とサイドカット抜き出し口B
2との間におけるインターナルの段数がn
B2、サイドカット抜き出し口B
2から下部におけるインターナルの段数がn
B3であり、各段数の合計(n
B1+n
B2+n
B3)がn
Bである連続多段蒸留塔であり、L
B、D
B、n
B1、n
B2、n
B3、n
Bが、それぞれ下記式(22)~(27)を満足する、請求項1又は2に記載の製造方法。
1000 ≦ L
B ≦ 5000 式(22)
100 ≦ D
B ≦ 1000 式(23)
5 ≦ n
B1 ≦ 20 式(24)
12 ≦ n
B2 ≦ 40 式(25)
3 ≦ n
B3 ≦ 15 式(26)
20 ≦ n
B ≦ 70 式(27)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジフェニルカーボネートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
均一系触媒の存在下、ジアルキルカーボネートとフェノールとを原料とするエステル交換反応で得られる反応混合物中には、通常種々の反応副生物が含まれているが、特に目的とするジフェニルカーボネートよりも沸点の高い、サリチル酸フェニル、キサントン、メトキシ安息香酸フェニル、1-フェノキシカルボニル-2-フェノキシカルボキシ-フェニレン等の高沸点副生物を十分なレベル以下まで低減させていないジフェニルカーボネートをエステル交換法ポリカーボネートの原料として用いれば、着色や物性低下の原因となる。したがって、これらの不純物はできるだけ低減させることが好ましい。これらの課題を解決する方法として、例えば、特許文献1には、環状カーボネートとフェノールとから、高品質・高性能の芳香族ポリカーボネート製造のために必要な高純度ジフェニルカーボネートを製造するにあたり、特定の構造を有する反応蒸留塔を用いてジアルキルカーボネートとジオール類を製造する工程(I)、特定の構造を有する2基の反応蒸留塔を用いてジフェニルカーボネートを製造する工程(II)、これを高沸点物質分離塔Aとジフェニルカーボネート精製塔Bを用いて高純度ジフェニルカーボネートを取得する工程(III)を含む方法により、高純度ジフェニルカーボネートを、工業的に大量(例えば、1時間あたり1トン以上)に長期間(例えば、1000時間以上、好ましくは3000時間以上、より好ましくは5000時間以上)、安定的に製造する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の方法において、第1連続多段蒸留塔では、触媒の存在下、アルキルカーボネート(例えば、ジメチルカーボネート(DMC))とフェノール(PhOH)とを反応させて、アルキルアリールカーボネート(例えば、メチルフェニルカーボネート(MPC))と脂肪族アルコール(例えば、メタノール(MeOH))とを生成し、第2連続多段蒸留塔では、アルキルアリールカーボネート(例えば、メチルフェニルカーボネート(MPC))の不均化反応によりジアリールカーボネート(例えば、ジフェニルカーボネート(DPC))とジアルキルカーボネート(例えば、ジメチルカーボネート(DMC))とを生成している。例えば、以下の反応式で示される。
(第1連続多段蒸留塔)DMC + PhOH ⇔ MPC + MeOH
(第2連続多段蒸留塔)2MPC ⇔ DPC + DMC
不均化反応後、ジアリールカーボネート(例えば、ジフェニルカーボネート(DPC))を含む第2連続多段蒸留塔の高沸点反応混合物を、高沸点物質分離塔A及びジフェニルカーボネート精製塔Bにより蒸留する。ここで、高沸点物質分離塔Aの下部の塔底成分(AB)を、第1連続多段蒸留塔及び第2連続多段蒸留塔に供給することで、反応に必要な触媒をリサイクルしている。
塔底成分(AB)には、高沸点物質が多く含まれる。そのため、系内の高沸点物質の濃度上昇を抑制するため、通常、塔底成分(AB)の少なくとも一部はリサイクルせずに廃棄する。
特許文献1に記載の方法では、第1連続多段蒸留塔と第2連続多段蒸留塔とも反応成績が十分ではなく、目標とするジフェニルカーボネートを生産するには、原料であるジアルキルカーボネートとフェノールとを多量に循環することが必要である。そのため特許文献1に記載の方法において、循環エネルギーを低減するためにも第1連続多段蒸留塔と第2連続多段蒸留塔との反応成績を上げることが求められている。
一方、特許文献1に記載の方法において、反応成績を上げるために、高沸点物質分離塔Aの下部液の触媒濃度を上げることも考えられるが、触媒濃度を上げることで、触媒のロスが増えるため、触媒の補充が増加するという課題がある。
そこで、本発明では、熱使用量を削減し、且つ、触媒の補充量を抑制できるジフェニルカーボネートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記の課題を達成できる具体的な方法を見出すべき検討を重ねた結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は、以下のとおりである。
【0006】
[1]
ジフェニルカーボネートを連続的に製造する方法であって、
ジアルキルカーボネートとフェノールとを触媒が存在する第1連続多段蒸留塔内に連続的に供給し、該第1連続多段蒸留塔内で反応と蒸留とを同時に行い、生成するアルコール類を含む第1塔低沸点反応混合物を該第1連続多段蒸留塔上部よりガス状で連続的に抜出し、生成するアルキルフェニルカーボネートを含む第1塔高沸点反応混合物を該第1連続多段蒸留塔下部より液状で連続的に抜出し、アルキルフェニルカーボネートを連続的に製造する工程と、
該第1塔高沸点反応混合物を触媒が存在する第2連続多段蒸留塔内に連続的に供給し、該第2連続多段蒸留塔内で反応と蒸留とを同時に行い、生成するジアルキルカーボネート類を含む第2塔低沸点反応混合物を該第2連続多段蒸留塔上部よりガス状で連続的に抜出し、生成するジフェニルカーボネートを含む第2塔高沸点反応混合物を該第2連続多段蒸留塔下部より液状で連続的に抜出し、ジフェニルカーボネートを連続的に製造する工程と、
該ジフェニルカーボネートを含む第2塔高沸点反応混合物を高沸点物質分離塔Aに連続的に導入し、ジフェニルカーボネートを含む塔頂成分(AT)と、触媒を含む塔底成分(AB)と、に連続的に蒸留分離する第1の精製工程と、
該塔頂成分(AT)を、サイドカット抜き出し口を有するジフェニルカーボネート精製塔Bに連続的に導入し、塔頂成分(BT)、サイドカット成分(BS)及び塔底成分(BB)の3つの成分に連続的に蒸留分離することによって、サイドカット成分(BS)としてジフェニルカーボネートを得る第2の精製工程と、
前記第2塔低沸点反応混合物を第1連続多段蒸留塔内に連続的に供給する第1循環工程と、
前記塔底成分(AB)の一部を前記第1連続多段蒸留塔内及び/又は第2連続多段蒸留塔内に連続的に供給する第2循環工程と、
を含み、
前記高沸点物質分離塔Aの塔底成分(AB)がジフェニルカーボネート(DPC)及び高沸点物質(HB)を含み、該塔底成分(AB)におけるジフェニルカーボネートと高沸点物質との質量濃度比(DPC/HB)が0.1~1.0であり、かつジフェニルカーボネートと触媒との質量濃度比(DPC/触媒)が1.0~10.0である、ジフェニルカーボネートの製造方法。
[2]
前記塔底成分(AB)におけるジフェニルカーボネートの濃度が9~38質量%である、[1]に記載の製造方法。
[3]
前記第2連続多段蒸留塔の下部の接液部に、Feを主成分とし、Moを2質量%以上、Crを18質量%以下含む材質が使用される、[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4]
前記第2塔低沸点反応混合物中のアルキルアリールカーボネートの濃度が1質量%以下である、[1]から[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]
(a)該第1連続多段蒸留塔が、長さL1(cm)、内径D1(cm)の円筒形の胴部を有し、内部に段数n1をもつインターナルを有する構造をしており、塔頂部又はそれに近い塔の上部に内径d11(cm)のガス抜出し口、塔底部又はそれに近い塔の下部に内径d12(cm)の液抜出し口、該ガス抜出し口より下部であって塔の上部及び/又は中間部に1つ以上の第3の導入口、該液抜出し口より上部であって塔の中間部及び/又は下部に1つ以上の第4の導入口を有する連続多段蒸留であり、L1、D1、L1/D1、n1、D1/d11、D1/d12が、それぞれ下記式(7)~(12)を満足し、
1500 ≦ L1 ≦ 8000 式(7)
100 ≦ D1 ≦ 2000 式(8)
2 ≦ L1/D1 ≦ 40 式(9)
20 ≦ n1 ≦ 120 式(10)
5 ≦ D1/d11 ≦ 30 式(11)
3 ≦ D1/d12 ≦ 20 式(12)
(b)該第2連続多段蒸留塔が、長さL2(cm)、内径D2(cm)の円筒形の胴部を有し、内部に段数n2をもつインターナルを有する構造をしており、塔頂部又はそれに近い塔の上部に内径d21(cm)のガス抜出し口、塔底部又はそれに近い塔の下部に内径d22(cm)の液抜出し口、該ガス抜出し口より下部であって塔の上部及び/又は中間部に1つ以上の第5の導入口、該液抜出し口より上部であって塔の中間部及び/又は下部に1つ以上の第6の導入口を有する連続多段蒸留であり、L2、D2、L2/D2、n2、D2/d21、D2/d22が、それぞれ下記式(13)~(18)を満足し、
1500 ≦ L2 ≦ 8000 式(13)
100 ≦ D2 ≦ 2000 式(14)
2 ≦ L2/D2 ≦ 40 式(15)
10 ≦ n2 ≦ 80 式(16)
2 ≦ D2/d21 ≦ 15 式(17)
5 ≦ D2/d22 ≦ 30 式(18)
(c)該高沸点物質分離塔Aが、長さLA(cm)、内径DA(cm)の円筒形の胴部を有し、内部に段数nAのインターナルを有する連続多段蒸留塔であり、LA、DA、nAが、それぞれ下記式(19)~(21)を満足し、
800 ≦ LA ≦ 3000 式(19)
100 ≦ DA ≦ 1000 式(20)
20 ≦ nA ≦ 100 式(21)
(d)該ジフェニルカーボネート精製塔Bが、長さLB(cm)、内径DB(cm)の円筒形の胴部を有し、内部にインターナルを有する構造をしており、塔の中間部に導入口B1、該導入口B1と塔底との間にサイドカット抜き出し口B2を有し、導入口B1から上部におけるインターナルの段数がnB1、導入口B1とサイドカット抜き出し口B2との間におけるインターナルの段数がnB2、サイドカット抜き出し口B2から下部におけるインターナルの段数がnB3であり、各段数の合計(nB1+nB2+nB3)がnBである連続多段蒸留塔であり、LB、DB、nB1、nB2、nB3、nBが、それぞれ下記式(22)~(27)を満足する、[1]から[4]のいずれかに記載の製造方法。
1000 ≦ LB ≦ 5000 式(22)
100 ≦ DB ≦ 1000 式(23)
5 ≦ nB1 ≦ 20 式(24)
12 ≦ nB2 ≦ 40 式(25)
3 ≦ nB3 ≦ 15 式(26)
20 ≦ nB ≦ 70 式(27)
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、熱使用量を削減し、且つ、触媒の補充量を抑制できるジフェニルカーボネートの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】連続多段蒸留塔T
0の一例を示す概略図である。胴部内部には多孔板トレイからなるインターナルが設置されている。
【
図2】第1連続多段蒸留塔の一例を示す概略図である。胴部内部にはインターナルが設置されている。
【
図3】第2連続多段蒸留塔の一例を示す概略図である。胴部内部には上部に規則充填物、下部に多孔板トレイからなるインターナルが設置されている。
【
図4】第1連続多段蒸留塔と第2連続多段蒸留塔とを連結した装置の一例を示す概略図である。
【
図5】高沸点物質分離塔Aとジフェニルカーボネート精製塔Bとを連結した装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。なお、図面中、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0010】
本実施形態のジフェニルカーボネートの製造方法は、ジフェニルカーボネートを連続的に製造する方法であって、
ジアルキルカーボネートとフェノールとを触媒が存在する第1連続多段蒸留塔内に連続的に供給し、該第1連続多段蒸留塔内で反応と蒸留とを同時に行い、生成するアルコール類を含む第1塔低沸点反応混合物を該第1連続多段蒸留塔上部よりガス状で連続的に抜出し、生成するアルキルフェニルカーボネートを含む第1塔高沸点反応混合物を該第1連続多段蒸留塔下部より液状で連続的に抜出し、アルキルフェニルカーボネートを連続的に製造する工程と、
該第1塔高沸点反応混合物を触媒が存在する第2連続多段蒸留塔内に連続的に供給し、該第2連続多段蒸留塔内で反応と蒸留とを同時に行い、生成するジアルキルカーボネート類を含む第2塔低沸点反応混合物を該第2連続多段蒸留塔上部よりガス状で連続的に抜出し、生成するジフェニルカーボネートを含む第2塔高沸点反応混合物を該第2連続多段蒸留塔下部より液状で連続的に抜出し、ジフェニルカーボネートを連続的に製造する工程と、
該ジフェニルカーボネートを含む第2塔高沸点反応混合物を高沸点物質分離塔Aに連続的に導入し、ジフェニルカーボネートを含む塔頂成分(AT)と、触媒を含む塔底成分(AB)と、に連続的に蒸留分離する第1の精製工程と、
該塔頂成分(AT)を、サイドカット抜き出し口を有するジフェニルカーボネート精製塔Bに連続的に導入し、塔頂成分(BT)、サイドカット成分(BS)及び塔底成分(BB)の3つの成分に連続的に蒸留分離することによって、サイドカット成分(BS)としてジフェニルカーボネートを得る第2の精製工程と、
前記第2塔低沸点反応混合物を第1連続多段蒸留塔内に連続的に供給する第1循環工程と、
前記塔底成分(AB)の一部を前記第1連続多段蒸留塔内及び第2連続多段蒸留塔内に連続的に供給する第2循環工程と、
を含み、
前記高沸点物質分離塔Aの塔底成分(AB)がジフェニルカーボネート(以下「DPC」とも記す)及び高沸点物質(以下「HB」とも記す)を含み、該塔底成分(AB)におけるジフェニルカーボネートと高沸点物質との質量濃度比(DPC/HB)が0.1~1.0であり、かつジフェニルカーボネートと触媒との質量濃度比(DPC/触媒)が1.0~10.0である。
【0011】
本実施形態のジフェニルカーボネートの製造方法は、上記のような特徴により、熱使用量を削減し、且つ、触媒の補充量を抑制できるという効果を奏する。このような効果を奏するメカニズムは明らかではないが、本発明者は以下のとおり推定している。
【0012】
高沸点物質分離塔Aの塔底成分(AB)は、第1連続多段蒸留塔と第2連続多段蒸留塔にリサイクルされるが、通常、触媒だけでなくジフェニルカーボネートや高沸点物質などが含まれる。本実施形態のジフェニルカーボネートの製造方法は、塔底成分(AB)中の高沸点物質濃度を上げることで、リサイクル液中に含まれるジフェニルカーボネートの濃度を下げ、上記のとおり塔底成分(AB)におけるジフェニルカーボネートと高沸点物質との質量濃度比(DPC/HB)を所定の範囲に制御している。
このことにより、特に第2連続多段蒸留塔での反応平衡上ジフェニルカーボネートの生成が有利になり、本実施形態のジフェニルカーボネートの製造方法は、反応成績を向上させることができると考えられる。一方、塔底成分(AB)におけるジフェニルカーボネートと高沸点物質との質量濃度比(DPC/HB)を下げすぎると高沸分離塔塔底の温度が高くなりすぎるため、リボイラーでの蒸発ができなくなる。このような観点から、塔底成分(AB)におけるジフェニルカーボネートと高沸点物質との質量濃度比(DPC/HB)は、0.2~0.8であることが好ましく、0.3~0.6であることがより好ましい。
【0013】
さらに、上記のとおり塔底成分(AB)におけるジフェニルカーボネートと触媒との質量濃度比(DPC/触媒)を所定の範囲に制御することで、触媒の補充量を抑制しながら、上述の反応成績を向上させることができると考えられる。このような観点から、塔底成分(AB)におけるジフェニルカーボネートと触媒との質量濃度比(DPC/触媒)は、7.0~9.5であることが好ましく、8.0~9.0であることがより好ましい。
また、塔底成分(AB)におけるジフェニルカーボネートの濃度が9~38質量%であることが好ましく、19~36質量%であることがより好ましく、28~34質量%であることがさらに好ましい。塔底成分(AB)におけるジフェニルカーボネートの濃度が前記範囲であると、熱使用量をより削減し、且つ、触媒の補充量をより抑制することができる傾向にある。
【0014】
本実施形態のジフェニルカーボネートの製造方法によれば、反応成績を向上させることで、例えば、ジアルキルカーボネートとフェノールとの循環量を下げることも可能となる。これに伴い、第1の循環工程におけるエネルギー使用量を抑制することもできる。
【0015】
第1の循環工程においては、例えば、第1連続多段蒸留塔及び第2連続多段蒸留塔で蒸気を使用して、ジアルキルカーボネートとフェノールとを塔頂に焚き上げることで循環を形成するため、該循環量が少なくできることで、第1連続多段蒸留塔及び第2連続多段蒸留塔のエネルギー使用量を削減できる。
【0016】
高沸点物質分離塔Aの塔底成分(AB)におけるジフェニルカーボネートと高沸点物質との質量濃度比(DPC/HB)を0.1~1.0とするためには、従来法に比べ塔底にあるDPCを塔頂に焚き上げることが必要になるため、例えば、高沸点物質分離塔の圧力を従来法よりも下げることで、該質量濃度比(DPC/HB)を上述の範囲内に調整することができる。
【0017】
また、高沸点物質分離塔の塔底成分(AB)におけるジフェニルカーボネートと触媒との質量濃度比(DPC/触媒)を1.0~10.0とするためには、通常、触媒の存在量を減らせばよい。触媒の存在量を減らすと、上述の質量濃度比(DPC/HB)が高くなる傾向にあるが、第1連続多段蒸留塔及び第2連続多段蒸留塔での反応が低くなるため、触媒の存在量を減らすことではなく、例えば、DPC濃度を下げることで該質量濃度比(DPC/触媒)を上述の範囲内に調整することができる。
なお、本実施形態において、塔底成分(AB)におけるジフェニルカーボネート(DPC)、高沸点物質(HB)及び触媒の濃度は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0018】
なお、本実施形態において、高沸点物質とは、ジフェニルカーボネートよりも沸点の高い物質で、触媒を除くものをいう。
【0019】
本実施形態では、原料のジアルキルカーボネートを得る方法として、特に限定されないが、例えば、環状カーボネートと脂肪族1価アルコール類とから、ジアルキルカーボネートとジオール類を工業的規模で連続的に製造する工程(I)を行ってもよい。工程(I)の反応は、下記式で表わされる可逆的なエステル交換反応である。
【0020】
【0021】
(化1式中、R1は2価の基-(CH2)m-(mは2~6の整数)を表わし、その1個以上の水素は炭素数1~10のアルキル基やアリール基によって置換されていてもよい。また、R2は炭素数1~12の1価の脂肪族基を表わし、その1個以上の水素は炭素数1~10のアルキル基やアリール基で置換されていてもよい。)
【0022】
このような環状カーボネートとしては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のアルキレンカーボネート類や、1,3-ジオキサシクロヘキサ-2-オン、1,3-ジオキサシクロヘプタ-2-オンなどが好ましく用いられ、エチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートが入手の容易さなどの点から更に好ましく使用され、エチレンカーボネートが特に好ましく使用される。
【0023】
また、脂肪族1価アルコール類としては、生成するジオール類より沸点が低いものが用いられる。したがって、使用する環状カーボネートの種類によっても変わり得るが、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール(各異性体)、アリルアルコール、ブタノール(各異性体)、3-ブテン-1-オール、アミルアルコール(各異性体)、ヘキシルアルコール(各異性体)、ヘプチルアルコール(各異性体)、オクチルアルコール(各異性体)、ノニルアルコール(各異性体)、デシルアルコール(各異性体)、ウンデシルアルコール(各異性体)、ドデシルアルコール(各異性体)、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、シクロヘプタノール、シクロオクタノール、メチルシクロペンタノール(各異性体)、エチルシクロペンタノール(各異性体)、メチルシクロヘキサノール(各異性体)、エチルシクロヘキサノール(各異性体)、ジメチルシクロヘキサノール(各異性体)、ジエチルシクロヘキサノール(各異性体)、フェニルシクロヘキサノール(各異性体)、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール(各異性体)、フェニルプロパノール(各異性体)などが挙げられ、さらにこれらの脂肪族1価アルコール類において、ハロゲン、低級アルコキシ基、シアノ基、アルコキシカルボニル基、アリーロキシカルボニル基、アシロキシ基、ニトロ基等の置換基によって置換されていてもよい。
【0024】
このような脂肪族1価アルコール類の中で、好ましく用いられるのは炭素数1~6のアルコール類であり、さらに好ましいのはメタノール、エタノール、プロパノール(各異性体)、ブタノール(各異性体)の炭素数1~4のアルコール類である。環状カーボネートとしてエチレンカーボネートやプロピレンカーボネートを使用する場合に好ましいのはメタノール、エタノールであり、特に好ましいのはメタノールである。
【0025】
工程(I)の反応蒸留を行うにあたって、反応蒸留塔内に触媒を存在させる方法はどのような方法であってもよいが、例えば、反応条件下で反応液に溶解するような均一系触媒の場合、反応蒸留塔内に連続的に触媒を供給することにより、反応蒸留塔内の液相に触媒を存在させることもできるし、あるいは反応条件下で反応液に溶解しないような不均一系触媒の場合、反応蒸留塔内に固体触媒を配置することにより、反応系に触媒を存在させることもできるし、これらを併用した方法であってもよい。
【0026】
均一系触媒を反応蒸留塔内に連続的に供給する場合には、環状カーボネート及び/又は脂肪族1価アルコールと同時に供給してもよいし、原料とは異なる位置に供給してもよい。該蒸留塔内で実際に反応が進行するのは触媒供給位置から下の領域であることから、塔頂から原料供給位置の少し下部までの間の領域に該触媒を供給することが好ましい。そして該触媒が存在する段は5段以上あることが好ましく、より好ましくは7段以上であり、さらに好ましくは10段以上である。
【0027】
また、不均一系の固体触媒を用いる場合、該触媒の存在する段の段数が5段以上あることが好ましく、より好ましくは7段以上であり、さらに好ましくは10段以上である。蒸留塔の充填物としての効果をも併せ持つ固体触媒を用いることもできる。
【0028】
工程(I)において用いられる触媒としては、特に限定されないが、例えば、
リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等のアルカリ金属及びアルカリ土類金属類;
アルカリ金属及びアルカリ土類金属の水素化物、水酸化物、アルコキシド化物類、アリーロキシド化物類、アミド化物類等の塩基性化合物類;
アルカリ金属及びアルカリ土類金属の炭酸塩類、重炭酸塩類、有機酸塩類等の塩基性化合物類;
トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン、ベンジルジエチルアミン等の3級アミン類;
N-アルキルピロール、N-アルキルインドール、オキサゾール、N-アルキルイミダゾール、N-アルキルピラゾール、オキサジアゾール、ピリジン、アルキルピリジン、キノリン、アルキルキノリン、イソキノリン、アルキルイソキノリン、アクリジン、アルキルアクリジン、フェナントロリン、アルキルフェナントロリン、ピリミジン、アルキルピリミジン、ピラジン、アルキルピラジン、トリアジン、アルキルトリアジン等の含窒素複素芳香族化合物類;
ジアザビシクロウンデセン(DBU)、ジアザビシクロノネン(DBN)等の環状アミジン類;
酸化タリウム、ハロゲン化タリウム、水酸化タリウム、炭酸タリウム、硝酸タリウム、硫酸タリウム、タリウムの有機酸塩類等のタリウム化合物類;
トリブチルメトキシ錫、トリブチルエトキシ錫、ジブチルジメトキシ錫、ジエチルジエトキシ錫、ジブチルジエトキシ錫、ジブチルフェノキシ錫、ジフェニルメトキシ錫、酢酸ジブチル錫、塩化トリブチル錫、2-エチルヘキサン酸錫等の錫化合物類;
ジメトキシ亜鉛、ジエトキシ亜鉛、エチレンジオキシ亜鉛、ジブトキシ亜鉛等の亜鉛化合物類;
アルミニウムトリメトキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムトリブトキシド等のアルミニウム化合物類;
テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラブトキシチタン、ジクロロジメトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、酢酸チタン、チタンアセチルアセトナート等のチタン化合物類;
トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルメチルホスホニウムハライド、トリオクチルブチルホスホニウムハライド、トリフェニルメチルホスホニウムハライド等のリン化合物類;
ハロゲン化ジルコニウム、ジルコニウムアセチルアセトナート、ジルコニウムアルコキシド、酢酸ジルコニウム等のジルコニウム化合物類;
鉛及び鉛を含む化合物類、例えば、PbO、PbO2、Pb3O4などの酸化鉛類;
PbS、Pb2S3、PbS2などの硫化鉛類;
Pb(OH)2、Pb3O2(OH)2、Pb2[PbO2(OH)2]、Pb2O(OH)2などの水酸化鉛類;
Na2PbO2、K2PbO2、NaHPbO2、KHPbO2などの亜ナマリ酸塩類;
Na2PbO3、Na2H2PbO4、K2PbO3、K2[Pb(OH)6]、K4PbO4、Ca2PbO4、CaPbO3などの鉛酸塩類;
PbCO3、2PbCO3・Pb(OH)2などの鉛の炭酸塩及びその塩基性塩類;
Pb(OCH3)2、(CH3O)Pb(OPh)、Pb(OPh)2などのアルコキシ鉛類、アリールオキシ鉛類;
Pb(OCOCH3)2、Pb(OCOCH3)4、Pb(OCOCH3)2・PbO・3H2Oなどの有機酸の鉛塩及びその炭酸塩や塩基性塩類;
Bu4Pb、Ph4Pb、Bu3PbCl、Ph3PbBr、Ph3Pb(又はPh6Pb2)、Bu3PbOH、Ph2PbOなどの有機鉛化合物類(Buはブチル基、Phはフェニル基を示す);
Pb-Na、Pb-Ca、Pb-Ba、Pb-Sn、Pb-Sbなどの鉛の合金類;
ホウエン鉱、センアエン鉱などの鉛鉱物類、及びこれらの鉛化合物の水和物類;
を挙げられる。
【0029】
これらの化合物は、反応原料や、反応混合物、反応副生物などに溶解する場合には、均一系触媒として用いることができるし、溶解しない場合には固体触媒として用いることができる。さらには、これらの化合物を反応原料や、反応混合物、反応副生物などで事前に溶解させたり、あるいは反応させることによって溶解させた混合物を均一系触媒としてもちいることも好ましい方法である。
【0030】
さらに3級アミノ基を有する陰イオン交換樹脂、アミド基を有するイオン交換樹脂、スルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基のうちの少なくとも一つの交換基を有するイオン交換樹脂、第4級アンモニウム基を交換基として有する固体強塩基性アニオン交換体等のイオン交換体類;シリカ、シリカ-アルミナ、シリカーマグネシア、アルミノシリケート、ガリウムシリケート、各種ゼオライト類、各種金属交換ゼオライト類、アンモニウム交換ゼオライト類などの固体の無機化合物類等が触媒として用いられる。
【0031】
固体触媒として、特に好ましく用いられるのは第4級アンモニウム基を交換基として有する固体強塩基性アニオン交換体である。このような固体強塩基性アニオン交換体としては、特に限定されないが、例えば、第4級アンモニウム基を交換基として有する強塩基性アニオン交換樹脂、第4級アンモニウム基を交換基として有するセルロース強塩基性アニオン交換体、第4級アンモニウム基を交換基として有する無機質担体担持型強塩基性アニオン交換体などが挙げられる。第4級アンモニウム基を交換基として有する強塩基性アニオン交換樹脂としては、特に限定されないが、例えば、スチレン系強塩基性アニオン交換樹脂などが好ましく用いられる。スチレン系強塩基性アニオン交換樹脂は、スチレンとジビニルベンゼンの共重合体を母体として、交換基に第4級アンモニウム(I型あるいはII型)を有する強塩基性アニオン交換樹脂であり、例えば、次式で模式的に示される。
【0032】
【0033】
式中、Xはアニオンを示し、通常、Xとしては、F-、Cl-、Br-、I-、HCO3
-、CO3
2-、CH3CO2
-、HCO2
-、IO3
-、BrO3
-、ClO3
-の中から選ばれた少なくとも1種のアニオンが使用され、好ましくはCl-、Br-、HCO3
-、CO3
2-の中から選ばれた少なくとも1種のアニオンが使用される。また、樹脂母体の構造としては、ゲル型、マクロレティキュラー型(MR型)いずれも使用できるが、耐有機溶媒性が高い点からMR型が特に好ましい。
【0034】
第4級アンモニウム基を交換基として有するセルロース強塩基性アニオン交換体としては、特に限定されないが、例えば、セルロースの-OH基の一部又は全部をトリアルキルアミノエチル化して得られる、-OCH2CH2NR3Xなる交換基を有するセルロースが挙げられる。ただし、Rはアルキル基を示し、通常、メチル、エチル、プロピル、ブチルなどが用いられ、好ましくはメチル、エチルが使用される。また、Xは前述のとおりのアニオンを示す。
【0035】
第4級アンモニウム基を交換基として有する無機質担体担持型強塩基性アニオン交換体とは、無機質担体の表面水酸基-OHの一部又は全部を修飾することにより、4級アンモニウム基-O(CH2)nNR3Xを導入したものを意味する。ただし、R、Xは前述のとおりである。nは通常1~6の整数であり、好ましくはn=2である。無機質担体としては、特に限定されないが、例えば、シリカ、アルミナ、シリカアルミナ、チタニア、ゼオライトなどを使用することができ、好ましくはシリカ、アルミナ、シリカアルミナが用いられ、特に好ましくはシリカが使用される。無機質担体の表面水酸基の修飾方法としては、任意の方法を用いることができる。
【0036】
第4級アンモニウム基を交換基として有する固体強塩基性アニオン交換体は、市販のものを使用することもできる。その場合には、前処理として予め所望のアニオン種でイオン交換を行なった後に、エステル交換触媒として使用することもできる。
【0037】
また、少なくとも1個の窒素原子を含む複素環基が結合している巨大網状及びゲルタイプの有機ポリマー、又は少くとも1個の窒素原子を含む複素環基が結合している無機質担体から成る固体触媒もエステル交換触媒として好ましく用いられる。また、さらにはこれらの含窒素複素環基の一部又は全部が4級塩化された固体触媒も同様に用いられる。なお、イオン交換体などの固体触媒は、充填物としての機能も果たすことができる。
【0038】
工程(I)で用いられる触媒の量は、使用する触媒の種類によっても異なるが、反応条件下で反応液に溶解するような均一系触媒を連続的に供給する場合には、供給原料である環状カーボネートと脂肪族1価アルコールの合計質量に対する割合で表わして、通常0.0001~50質量%、好ましくは0.005~20質量%、さらに好ましくは0.01~10質量%で使用される。また、固体触媒を該蒸留塔内に設置して使用する場合には、該蒸留塔の空塔容積に対して、0.01~75容積%、好ましくは0.05~60容積%、さらに好ましくは0.1~60容積%の触媒量が好ましく用いられる。
【0039】
工程(I)において反応蒸留塔である連続多段蒸留塔T0に、原料である環状カーボネート及び脂肪族1価アルコールを連続的に供給する方法については、特別な限定はなく、例えば、それらが該蒸留塔の少なくとも5段以上、好ましくは7段以上、より好ましくは10段以上の領域において触媒と接触させることができるような供給方法であれば如何なる方法であってもよい。すなわち、該環状カーボネートと該脂肪族1価アルコールは、連続多段蒸留塔の上記の条件を満たす段に必要な数の導入口から連続的に供給することができる。また、該環状カーボネートと該脂肪族1価アルコールは該蒸留塔の同じ段に導入されてもよいし、それぞれ別の段に導入してもよい。
【0040】
原料である環状カーボネート及び脂肪族1価アルコールは液状、ガス状又は液とガスとの混合物として該連続多段蒸留塔T0に連続的に供給される。このようにして原料を該蒸留塔に供給する以外に、付加的にガス状の原料を該蒸留塔の下部から断続的又は連続的に供給することも好ましい方法である。また、環状カーボネートを触媒の存在する段よりも上部の段に液状又は気液混合状態で該蒸留塔に連続的に供給し、該蒸留塔の下部に該脂肪族1価アルコールをガス状及び/又は液状で連続的に供給する方法も好ましい方法である。この場合、環状カーボネート中に、脂肪族1価アルコールが含まれていても、もちろん構わない。
【0041】
工程(I)において、供給原料中に、生成物であるジアルキルカーボネート及び/又はジオール類が含まれていてもよい。その含有量は、ジアルキルカーボネートが、脂肪族1価アルコール/ジアルキルカーボネート混合物中のジアルキルカーボネートの質量%で表わして、通常、0~40質量%、好ましくは0~30質量%、さらに好ましくは0~20質量%であり、ジオール類が環状カーボネート/ジオール混合物中の質量%で表わして、通常、0~10質量%、好ましくは0~7質量%、さらに好ましくは0~5質量%である。
【0042】
工程(I)の反応を工業的に実施する場合、新規に反応系に導入される環状カーボネート及び/又は脂肪族1価アルコールに加え、この工程及び/又は他の工程で回収された、環状カーボネート及び/又は脂肪族1価アルコールを主成分とする物質が、これらの原料として使用できることは好ましいことである。他の工程とは、例えば、ジアルキルカーボネートとフェノールとからジフェニルカーボネートを製造する工程(II)があり、この工程(II)では、脂肪族1価アルコールが副生し、回収される。この回収副生脂肪族1価アルコールには、通常ジアルキルカーボネート、フェノール、アルキルアリールエーテルなどが含まれる場合が多く、さらには少量のアルキルアリールカーボネート、ジフェニルカーボネートなどが含まれる場合がある。副生脂肪族1価アルコールはそのままで工程(I)の原料とすることもできるし、蒸留等により該脂肪族1価アルコールよりも沸点の高い含有物質量を減少させた後に工程(I)の原料とすることもできる。
【0043】
また、工程(I)で用いられる好ましい環状カーボネートは、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、スチレンオキシドなどのアルキレンオキシドと二酸化炭素との反応によって製造されたものであるので、これらの化合物などを少量含む環状カーボネートを、工程(I)の原料として用いることもできる。
【0044】
工程(I)において、反応蒸留塔に供給する環状カーボネートと脂肪族1価アルコール類との量比は、エステル交換触媒の種類や量及び反応条件によっても異なるが、通常、供給される環状カーボネートに対して、脂肪族1価アルコール類はモル比で0.01~1000倍の範囲で供給することができる。環状カーボネートの反応率を上げるためには脂肪族1価アルコール類を2倍モル以上の過剰量供給することが好ましいが、あまり大過剰に用いると装置を大きくする必要がある。このような意味において、環状カーボネートに対する脂肪族1価アルコール類のモル比は、2~20が好ましく、さらに好ましくは3~15、さらにより好ましくは5~12である。なお、未反応環状カーボネートが多く残存していると、生成物であるジオール類と反応して2量体、3量体などの多量体を副生するので、工業的に実施する場合、未反応環状カーボネートの残存量をできるだけ減少させることが好ましい。
【0045】
工程(I)においては、例えば、1時間あたり約0.4トン以上のジアルキルカーボネートを連続的に製造する場合、連続的に供給される環状カーボネートの最低量は、製造すべきジアルキルカーボネートの量(Pトン/hr)に対して、通常0.44Pトン/hr、好ましくは、0.42Pトン/hr、より好ましくは0.4Pトン/hrである。さらに好ましい場合は、0.39Pトン/hrよりも少なくできる。
【0046】
工程(I)において用いられる連続多段蒸留塔T
0は、特に限定されないが、例えば、
図1に示すとおり、長さL
0(cm)、内径D
0(cm)の円筒形の胴部を有し、内部に段数n
0をもつインターナルを有する構造をしており、塔頂部又はそれに近い塔の上部に内径d
01(cm)のガス抜出し口、塔底部又はそれに近い塔の下部に内径d
02(cm)の液抜出し口、該ガス抜出し口より下部であって塔の上部及び/又は中間部に1つ以上の第1の導入口、該液抜出し口より上部であって塔の中間部及び/又は下部に1つ以上の第2の導入口を有するものであって、L
0、D
0、L
0/D
0、n
0、D
0/d
01、D
0/d
02 が、それぞれ式(1)~(6)を満足する連続多段蒸留塔が挙げられる。
2100 ≦ L
0 ≦ 8000 式(1)
180 ≦ D
0 ≦ 2000 式(2)
4 ≦ L
0/D
0 ≦ 40 式(3)
10 ≦ n
0 ≦ 120 式(4)
3 ≦ D
0/d
01 ≦ 20 式(5)
5 ≦ D
0/d
02 ≦ 30 式(6)。
【0047】
なお、本実施形態で用いる用語「塔頂部又はそれに近い塔の上部」とは、塔頂部から下方に約0.25L0までの部分を意味し、用語「塔底部又はそれに近い塔の下部」とは、塔底部から上方に約0.25L0までの部分を意味する。(第1及び第2連続多段蒸留塔においては、それぞれ0.25L1及び0.25L2であり、高沸点物質分離塔A及びジフェニルカーボネート精製塔Bにおいては、それぞれ0.25LA及び0.25LBである。)
【0048】
式(1)、(2)、(3)、(4)、(5)及び(6)を同時に満足する連続多段蒸留塔T0を用いることによって、環状カーボネートと脂肪族1価アルコール類とから、ジアルキルカーボネートを1時間あたり好ましくは0.4トン以上、及び/又はジオール類を1時間あたり好ましくは0.26トン以上の工業的規模で、高反応率・高選択率・高生産性で、例えば1000時間以上、好ましくは3000時間以上、さらに好ましくは5000時間以上の長期間、安定的に製造できる。工程(I)を実施することによって、このような優れた効果を有する工業的規模でのジアルキルカーボネートとジオール類の製造が可能になる理由は明らかではないが、式(1)~(6)の条件が組み合わさった時にもたらされる複合効果のためであると推定される。なお、各々の要因の好ましい範囲は下記に示される。
【0049】
L0(cm)が2100以上であると、反応率が良好となり所望の生産量を達成できる。また、所望の生産量を達成できる反応率を確保しつつ設備費を低下させるには、L0を8000以下にすることが好ましい。より好ましいL0(cm)の範囲は、2300≦L0≦6000 であり、さらに好ましくは、2500≦L0≦5000 である。
【0050】
D0(cm)が180以上であると、所望の生産量を達成できる。また、所望の生産量を達成しつつ設備費を低下させるには、D0を2000以下にすることが好ましい。より好ましいD0(cm)の範囲は、200≦D0≦1000 であり、さらに好ましくは、210≦D0≦800 である。
【0051】
L0/D0が4以上であるときや40以下である時は安定運転が容易となり、特にL0/D0が40以下であると塔の上下における圧力差が大きくなりすぎることを抑制できるため、長期安定運転が容易となるだけでなく、塔下部での温度を低くすることができ、副反応を抑制でき、選択率が向上する傾向にある。より好ましいL0/D0の範囲は、5≦L0/D0≦30 であり、さらに好ましくは、7≦L0/D0≦20 である。
【0052】
n0が10以上であると反応率が向上するため所望の生産量を達成できる。所望の生産量を達成できる反応率を確保しつつ設備費を低下させるには、n0を120以下にすることが好ましい。さらに、n0が120以下であると塔の上下における圧力差が大きくなりすぎることを抑制できるため、長期安定運転が容易となるだけでなく、塔下部での温度を低くすることができ、副反応を抑制でき、選択率が向上する傾向にある。より好ましいn0の範囲は、30≦n0≦100 であり、さらに好ましくは、40≦n0≦90 である。
【0053】
D0/d01が3以上であると設備費を抑えることができるだけでなくガス成分が系外に出ることを抑制でき、安定運転が容易になり、20以下であるとガス成分の抜出し量が相対的に大きくなり、安定運転が容易になるだけでなく、反応率が向上する傾向にある。より好ましいD0/d01の範囲は、4≦D0/d01≦15 であり、さらに好ましくは、5≦D0/d01≦13 である。
【0054】
D0/d02が5以上であると設備費を抑えることができるだけでなく液抜出し量が相対的に少なくなり、安定運転が容易になり、30以下であると液抜出し口や配管での流速が急激に速くなることを抑制でき、エロージョンを起こし難くなり装置の腐食を抑制できる。より好ましいD0/d02の範囲は、7≦D0/d02≦25 であり、さらに好ましくは、9≦D0/d02≦20 である。
【0055】
さらに、工程(I)で用いられる連続多段蒸留塔T0の該d01と該d02とが式(28)を満足する場合、さらに好ましい。
1 ≦ d01/d02 ≦ 5 式(28)。
【0056】
工程(I)でいう長期安定運転とは、1000時間以上、好ましくは3000時間以上、さらに好ましくは5000時間以上、フラッディングや、配管のつまりやエロージョンがなく、運転条件に基づいた定常状態で運転が継続でき、高反応率・高選択率・高生産性を維持しながら、所定量のジアルキルカーボネートとジオール類が製造されていることを意味する。
【0057】
工程(I)でいうジアルキルカーボネート及びジオール類の選択率とは、反応した環状カーボネートに対するものであって、本実施形態では通常95%以上の高選択率であり、好ましくは97%以上、さらに好ましくは99%以上の高選択率を達成することができる。また、工程(I)でいう反応率とは、通常、環状カーボネートの反応率を表し、本実施形態では環状カーボネートの反応率を95%以上、好ましくは97%以上、より好ましくは99%以上、さらに好ましくは99.5以上、さらにより好ましくは99.9%以上にすることが可能である。このように高選択率を維持しながら、高反応率を達成できることも工程(I)の優れた特徴のひとつである。
【0058】
工程(I)で用いられる連続多段蒸留塔T0は、インターナルとしてトレイ及び/又は充填物を有する蒸留塔であることが好ましい。なお、本実施形態でいうインターナルとは、蒸留塔において実際に気液の接触を行わせる部分のことを意味する。このようなトレイとしては、特に限定されないが、例えば、泡鍾トレイ、多孔板トレイ、バルブトレイ、向流トレイ、スーパーフラックトレイ、マックスフラックトレイ等が好ましく、充填物としては、ラシヒリング、レッシングリング、ポールリング、ベルルサドル、インタロックスサドル、ディクソンパッキング、マクマホンパッキング、ヘリパック等の不規則充填物やメラパック、ジェムパック、テクノパック、フレキシパック、スルザーパッキング、グッドロールパッキング、グリッチグリッド等の規則充填物が好ましい。トレイ部と充填物の充填された部分とを合わせ持つ多段蒸留塔も用いることができる。また、本実施形態でいう用語「インターナルの段数」とは、トレイの場合は、トレイの数を意味し、充填物の場合は、理論段数を意味する。したがって、トレイ部と充填物の充填された部分とを合わせて持つ多段蒸留塔の場合、段数はトレイの数と理論段数の合計である。
【0059】
環状カーボネートと脂肪族1価アルコール類とを反応させる工程(I)において、インターナルが所定の段数を有するトレイ及び/又は充填物からなる棚段式連続多段蒸留塔及び/又は充填塔式連続多段蒸留塔のいずれを用いても、高反応率・高選択率・高生産性を達成することができる傾向にある。インターナルがトレイである棚段式蒸留塔がより好ましい。さらに、該トレイが多孔板部とダウンカマー部を有する多孔板トレイが機能と設備費との関係で特に優れている。そして、該多孔板トレイが該多孔板部の面積1m2あたり100~1000個の孔を有していることが好ましい。より好ましい孔数は該面積1m2あたり120~900個であり、さらに好ましくは、150~800個である。また、該多孔板トレイの孔1個あたりの断面積が0.5~5cm2であることが好ましい。より好ましい孔1個あたりの断面積は、0.7~4cm2であり、さらに好ましくは0.9~3cm2である。さらには、該多孔板トレイが該多孔板部の面積1m2あたり100~1000個の孔を有しており、かつ、孔1個あたりの断面積が0.5~5cm2である場合、特に好ましい。
【0060】
さらに、該多孔板トレイの開口率が1.5~15%であることが好ましい。より好ましい該開口率は、1.7~13%であり、さらに好ましくは1.9~11%である。ここで、多孔板トレイの開口率とは、該多孔板部の面積(全孔断面積を含む)に対する該多孔板に存在する孔全部の断面積(全孔断面積)の割合を表す。各多孔板トレイにおいて、多孔板部の面積及び/又は全孔断面積が異なる場合があるが、この場合においても各多孔板トレイの開口率が上記の範囲であることが好ましい。なお、該多孔板部の孔数は、全ての多孔板において同じであってもよいし、異なるものであってもよい。
【0061】
工程(I)を実施する場合、例えば、原料である環状カーボネートと脂肪族1価アルコール類とを触媒が存在する連続多段蒸留塔内に連続的に供給し、該塔内で反応と蒸留を同時に行い、生成するジアルキルカーボネートを含む低沸点反応混合物を塔上部よりガス状で連続的に抜出し、ジオール類を含む高沸点反応混合物を塔下部より液状で連続的に抜出すことによりジアルキルカーボネートとジオール類が連続的に製造される。
【0062】
また、工程(I)において、原料である環状カーボネートと脂肪族1価アルコール類を連続多段蒸留塔T0内に連続的に供給するには、蒸留塔の上部のガス抜出し口よりも下部であるが塔の上部又は中間部に設置された1箇所又は数箇所の導入口から、原料混合物として、又はそれぞれ別々に、液状及び/又はガス状で供給してもよいし、環状カーボネート又はそれを多く含む原料を蒸留塔の上部又は中間部の導入口から液状で供給し、脂肪族1価アルコール類又はそれを多く含む原料を蒸留塔の下部の液抜出し口よりも上部であって塔の中間部又は下部に設置された導入口からガス状で供給することも好ましい方法である。
【0063】
工程(I)で行われるエステル交換反応の反応時間は連続多段蒸留塔T0内での反応液の平均滞留時間に相当すると考えられるが、これは蒸留塔のインターナルの形状や段数、原料供給量、触媒の種類や量、反応条件などによって異なるが、通常0.1~20時間、好ましくは0.5~15時間、より好ましくは1~10時間である。
【0064】
工程(I)の反応温度は、用いる原料化合物の種類や触媒の種類や量によって異なるが、通常、30~300℃である。反応速度を高めるためには反応温度を高くすることが好ましいが、反応温度が高いと副反応も起こりやすくなる。好ましい反応温度は40~250℃、より好ましくは50~200℃、さらに好ましくは、60~150℃の範囲である。本実施形態においては、塔底温度として150℃以下、好ましくは130℃以下、より好ましくは110℃以下、さらにより好ましくは100℃以下にして反応蒸留を実施することが可能である。このような低い塔底温度であっても高反応率・高選択率・高生産性を達成できることは、工程(I)の優れた特徴のひとつである。また、反応圧力は、用いる原料化合物の種類や組成、反応温度などにより異なるが、減圧、常圧、加圧のいずれであってもよく、通常1Pa~2×107Pa、好ましくは、103Pa~107Pa、より好ましくは104Pa~5×106Paの範囲で行われる。
【0065】
また、工程(I)の連続多段蒸留塔T0の還流比は、通常0~10が用いられ、好ましくは0.01~5が、さらに好ましくは0.05~3が用いられる。
【0066】
工程(I)で用いられる連続多段蒸留塔T0を構成する材料は、主に炭素鋼、ステンレススチールなどの金属材料であるが、製造するジアルキルカーボネートとジオール類の品質の面からは、ステンレススチールが好ましい。
【0067】
本実施形態の製造方法は、ジアルキルカーボネートとフェノールとを触媒が存在する第1連続多段蒸留塔内に連続的に供給し、該第1連続多段蒸留塔内で反応と蒸留とを同時に行い、生成するアルコール類を含む第1塔低沸点反応混合物を該第1連続多段蒸留塔上部よりガス状で連続的に抜出し、生成するアルキルフェニルカーボネートを含む第1塔高沸点反応混合物を該第1連続多段蒸留塔下部より液状で連続的に抜出し、アルキルフェニルカーボネートを連続的に製造し、該第1塔高沸点反応混合物を触媒が存在する第2連続多段蒸留塔内に連続的に供給し、該第2連続多段蒸留塔内で反応と蒸留とを同時に行い、生成するジアルキルカーボネート類を含む第2塔低沸点反応混合物を該第2連続多段蒸留塔上部よりガス状で連続的に抜出し、生成するジフェニルカーボネートを含む第2塔高沸点反応混合物を該第2連続多段蒸留塔下部より液状で連続的に抜出し、ジフェニルカーボネートを連続的に製造する工程(以下「工程(II)」とも記す)を含む。
工程(II)で用いられるジアルキルカーボネートとしては、特に限定されないが、例えば、上記の化1に記載の下式で表されるものが挙げられる。
【化3】
ここで、R
2は前記のとおりである。
【0068】
このようなR2を有するジアルキルカーボネートとしては、特に限定されないが、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート(各異性体)、ジアリルカーボネート、ジブテニルカーボネート(各異性体)、ジブチルカーボネート(各異性体)、ジペンチルカーボネート(各異性体)、ジヘキシルカーボネート(各異性体)、ジヘプチルカーボネート(各異性体)、ジオクチルカーボネート(各異性体)、ジノニルカーボネート(各異性体)、ジデシルカーボネート(各異性体)、ジシクロペンチルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネート、ジシクロヘプチルカーボネート、ジベンジルカーボネート、ジフェネチルカーボネート(各異性体)、ジ(フェニルプロピル)カーボネート(各異性体)、ジ(フェニルブチル)カーボネート(各異性体)ジ(クロロベンジル)カーボネート(各異性体)、ジ(メトキシベンジル)カーボネート(各異性体)、ジ(メトキシメチル)カーボネート、ジ(メトキシエチル)カーボネート(各異性体)、ジ(クロロエチル)カーボネート(各異性体)、ジ(シアノエチル)カーボネート(各異性体)等が挙げられる。
【0069】
これらの中で、本実施形態において好ましく用いられるのは、R2がハロゲンを含まない炭素数4以下のアルキル基からなるジアルキルカーボネートであり、特に好ましいのはジメチルカーボネートである。また、好ましいジアルキルカーボネートのなかで、さらに好ましいのは、ハロゲンを実質的に含まない状態で製造されたジアルキルカーボネートであって、例えばハロゲンを実質的に含まないアルキレンカーボネートとハロゲンを実質的に含まないアルコールから製造されたものである。
【0070】
工程(II)で用いられるフェノールとは、下記一般式で表されるものであり、フェニル基(Ph)に直接ヒドロキシル基が結合している化合物であるが、場合によっては、フェニル基が低級アルキル基又は低級アルコキシ基で置換された置換フェノールを用いることもできる:
PhOH
【0071】
本実施形態において好ましく用いられるのは、ハロゲンを実質的に含まないフェノールである。したがって、本実施形態でいうジフェニルカーボネートとは、下記一般式で表されるものである:
PhOCOOPh
【0072】
工程(II)で原料として用いられるジアルキルカーボネートのフェノールに対するモル比は、0.1~10であることが好ましい。この範囲内であると、所望のジフェニルカーボネートの所定生産量に対して、残存する未反応の原料が少なくなり、効率的であり、またそれらを回収するためのエネルギーを抑制できる。この意味で、このモル比は、0.5~5がより好ましく、より好ましくは0.8~3であり、さらに好ましくは、1~2である。
【0073】
本実施形態においては、1時間あたり1トン以上の高純度ジフェニルカーボネートを連続的に製造することが好ましい。
【0074】
したがって、工程(II)において、連続的に供給されるフェノールの最低量は、製造すべき高純度ジフェニルカーボネートの量(Qトン/hr)に対して、通常15Qトン/hrであり、好ましくは、13Qトン/hr、より好ましくは10Qトン/hrである。さらに好ましい場合は、8Qトン/hrよりも少なくできる。
【0075】
なお、工程(II)において原料として用いられるジアルキルカーボネートとフェノールとはそれぞれ純度の高いものであってもいいが、他の化合物を含むものであってもよく、例えば、第1連続多段蒸留塔及び/又は第2連続多段蒸留塔で生成する化合物や反応副生物を含むものであってもよい。工業的に実施する場合、これらの原料として、新規に反応系に導入されるジアルキルカーボネートとフェノールとに加え、第1連続多段蒸留塔及び/又は第2連続多段蒸留塔から回収されたものをも使用することが好ましい。本実施形態の方法では、第2連続多段蒸留塔での第2塔低沸点反応混合物である塔頂成分が第1連続多段蒸留塔内に連続的に供給する第1循環工程が行われる。この場合、第2塔低沸点反応混合物はそのままで第1連続多段蒸留塔に供給してもよいし、成分の一部を分離した後に供給してもよい。
【0076】
第2塔低沸点反応混合物中のアルキルアリールカーボネートの濃度が1質量%以下であることが好ましい。第2塔低沸点反応混合物中のアルキルアリールカーボネートの濃度が1質量%以下であると、第1連続多段蒸留塔のジメチルカーボネートの転化率は向上する傾向にあり、結果として第2連続多段蒸留塔の低沸点混合物を第1連続多段蒸留塔内に連続供給する循環量が低減するため、第1連続多段蒸留塔及び第2連続多段蒸留塔の蒸気使用量も低減できる傾向ある。同様の観点から、第2塔低沸点反応混合物中のアルキルアリールカーボネートの濃度は0.01~0.5質量%であることが好ましく、0.01~0.3質量%であることがより好ましい。
なお、本実施形態において、第2塔低沸点反応混合物中のアルキルアリールカーボネートの濃度は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0077】
工業的に実施する本実施形態においては、第1連続多段蒸留塔に供給される原料中には、アルコール類、アルキルフェニルカーボネート、ジフェニルカーボネート、アルキルフェニルエーテルなどが含まれているものが好ましく、さらには生成物であるフェニルカーボネートやジフェニルカーボネートのフリース転移生成物やその誘導体などの高沸点副生物を少量含むものであっても好ましく用いられる。本実施形態において、例えば、ジアルキルカーボネートとしてジメチルカーボネートを、フェノールとして非置換フェノールを原料にして、メチルフェニルカーボネート及びジフェニルカーボネートを製造する場合、その原料中に反応生成物であるメチルアルコールや、メチルフェニルカーボネート及びジフェニルカーボネートを含んでいることが好ましく、さらには反応副生物であるアニソールやサリチル酸フェニル、サリチル酸メチルやこれらから誘導される高沸点副生物を少量含んでいてもよい。
【0078】
なお、本実施形態の製造方法で得られるジフェニルカーボネートは、芳香族ジヒドロキシ化合物との重合反応によって芳香族ポリカーボネートを製造するのに好ましく使用されるが、この重合工程ではフェノールが大量に副生し回収される。この副生フェノールは、本実施形態の工程(II)の原料として用いることは好ましい方法である。
【0079】
工程(II)において製造されるジフェニルカーボネートは、ジアルキルカーボネートとフェノールとのエステル交換反応によって得られるが、このエステル交換反応には、ジアルキルカーボネートの1つ又は2つのアルコキシ基がフェノールのフェノキシ基と交換されアルコール類を離脱する反応と、生成したアルキルフェニルカーボネート2分子間のエステル交換反応である不均化反応によってジフェニルカーボネートとジアルキルカーボネートとに変換される反応が含まれている。工程(II)の第1連続多段蒸留塔においては主としてアルキルフェニルカーボネートが得られ、第2連続多段蒸留塔においては主としてこのアルキルフェニルカーボネートの不均化反応よって、ジフェニルカーボネートとジアルキルカーボネートとが得られる。工程(II)で得られたジフェニルカーボネートは、ハロゲンを全く含まないことが好ましい。このようなジフェニルカーボネートは、例えば、芳香族ポリカーボネートを工業的に製造するときの原料として有用である。なぜならば、重合原料中にハロゲンがたとえば1ppmよりも少ない量であっても存在しておれば、重合反応を阻害するし、芳香族ポリカーボネートの安定製造を阻害するし、しかも生成した芳香族ポリカーボネートの物性低下や、着色の原因となるからである。
【0080】
工程(II)の第1連続多段蒸留塔及び/又は第2連続多段蒸留塔で使用される触媒としては、特に限定されないが、例えば下記の化合物から選択される:
<鉛化合物>
PbO、PbO2、Pb3O4等の酸化鉛類;
PbS、Pb2S等の硫化鉛類;
Pb(OH)2、Pb2O2(OH)2等の水酸化鉛類;
Na2PbO2、K2PbO2、NaHPbO2、KHPbO2等の亜ナマリ酸塩類;
Na2PbO3、Na2H2PbO4、K2PbO3、K2[Pb(OH)6]、K4PbO4、Ca2PbO4、CaPbO3等の鉛酸塩類;
PbCO3、2PbCO3・Pb(OH)2等の鉛の炭酸塩及びその塩基性塩類;
Pb(OCOCH3)2、Pb(OCOCH3)4、Pb(OCOCH3)2・PbO・3H2O等の有機酸の鉛塩及びその炭酸塩や塩基性塩類;
Bu4Pb、Ph4Pb、Bu3PbCl、Ph3PbBr、Ph3Pb(又はPh6Pb2)、Bu3PbOH、Ph3PbO等の有機鉛化合物類(Buはブチル基、Phはフェニル基を示す。);
Pb(OCH3)2、(CH3O)Pb(OPh)、Pb(OPh)2等のアルコキシ鉛類、アリールオキシ鉛類;
Pb-Na、Pb-Ca、Pb-Ba、Pb-Sn、Pb-Sb等の鉛の合金類;
ホウエン鉱、センアエン鉱等の鉛鉱物類、及びこれらの鉛化合物の水和物;
<銅族金属の化合物>
CuCl、CuCl2、CuBr、CuBr2、CuI、CuI2、Cu(OAc)2、Cu(acac)2、オレイン酸銅、Bu2Cu、(CH3O)2Cu、AgNO3、AgBr、ピクリン酸銀、AgC6H6ClO4、[AuC≡C-C(CH3)3]n、[Cu(C7H8)Cl]4等の銅族金属の塩及び錯体(acacはアセチルアセトンキレート配位子を表す。);
<アルカリ金属の錯体>
Li(acac)、LiN(C4H9)2等のアルカリ金属の錯体;
<亜鉛の錯体>
Zn(acac)2等の亜鉛の錯体;
<カドミウムの錯体>
Cd(acac)2等のカドミウムの錯体;
<鉄族金属の化合物>
Fe(C10H8)(CO)5、Fe(CO)5、Fe(C4H6)(CO)3、Co(メシチレン)2(PEt2Ph)2、CoC5F5(CO)7、Ni-π-C5H5NO、フェロセン等の鉄族金属の錯体;
<ジルコニウム錯体>
Zr(acac)4,ジルコノセン等のジルコニウムの錯体;
<ルイス酸類化合物>
AlX3、TiX3,TiX4、VOX3、VX5、ZnX2、FeX3、SnX4 (ここで、Xはハロゲン、アセトキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基である。)等のルイス酸及びルイス酸を発生する遷移金属化合物;
<有機スズ化合物>
(CH3)3SnOCOCH3、(C2H5)3SnOCOC6H5、Bu3SnOCOCH3、Ph3SnOCOCH3、Bu2Sn(OCOCH3)2、Bu2Sn(OCOC11H23)2、Ph3SnOCH3、(C2H5)3SnOPh、Bu2Sn(OCH3)2、Bu2Sn(OC2H5)2、Bu2Sn(OPh)2、Ph2Sn(OCH3)2、(C2H5)3SnOH、Ph3SnOH、Bu2SnO、(C8H17)2SnO、Bu2SnCl2、BuSnO(OH)等の有機スズ化合物;
等の金属含有化合物が触媒として用いられる。
【0081】
本実施形態において用いられる触媒は、Pb、Cu、Zn、Fe、Co、Ni、Al、Ti、V、Sn等の金属を含有するものが好ましく、反応系に溶解する均一系触媒である。したがって、これらの金属成分が有機基と結合した触媒種が好ましく用いられる。もちろん、これらの触媒成分が反応系中に存在する有機化合物、例えば、脂肪族アルコール類、フェノール類、アルキルフェニルカーボネート類、ジフェニルカーボネート類、ジアルキルカーボネート類等と反応したものであってもよいし、反応に先立って原料や生成物で加熱処理されたものであってもよい。本実施形態で用いられる触媒は、反応条件において反応液への溶解度の高いものであることが好ましい。この意味で好ましい触媒としては、例えば、PbO、Pb(OH)2、Pb(OPh)2;TiCl4、Ti(OMe)4、(MeO)Ti(OPh)3、(MeO)2Ti(OPh)2、(MeO)3Ti(OPh)、Ti(OPh)4;SnCl4、Sn(OPh)4、Bu2SnO、Bu2Sn(OPh)2;FeCl3、Fe(OH)3、Fe(OPh)3等、又はこれらをフェノール又は反応液等で処理したもの等が挙げられる。第1連続多段蒸留塔で用いられる触媒と第2連続多段蒸留塔で用いられる触媒は同じ種類であっても、異なる種類のものであってもよい。
【0082】
本実施形態では、ハロゲンを含まない原料と触媒を使用することが特に好ましく、この場合、製造されるジフェニルカーボネートは、ハロゲンを全く含まないため、エステル交換法でポリカーボネートを工業的に製造するときの原料として有用である。なぜならば、重合原料中にハロゲンがたとえば1ppmよりも少ない量であっても存在しておれば、重合反応を阻害したり、生成したポリカーボネートの物性を低下させたり着色の原因となるからである。
【0083】
工程(II)において用いられる該第1連続多段蒸留塔は、例えば、
図2に示すとおり、長さL
1(cm)、内径D
1(cm)の円筒形の胴部を有し、内部に段数n
1をもつインターナルを有する構造をしており、塔頂部又はそれに近い塔の上部に内径d
11(cm)のガス抜出し口、塔底部又はそれに近い塔の下部に内径d
12(cm)の液抜出し口、該ガス抜出し口より下部であって塔の上部及び/又は中間部に1つ以上の第3の導入口、該液抜出し口より上部であって塔の中間部及び/又は下部に1つ以上の第4の導入口を有する連続多段蒸留であり、L
1、D
1、L
1/D
1、n
1、D
1/d
11、D
1/d
12が、それぞれ下記式(7)~(12)を満足する連続多段蒸留塔であることが好ましい。
1500 ≦ L
1 ≦ 8000 式(7)
100 ≦ D
1 ≦ 2000 式(8)
2 ≦ L
1/D
1 ≦ 40 式(9)
20 ≦ n
1 ≦ 120 式(10)
5 ≦ D
1/d
11 ≦ 30 式(11)
3 ≦ D
1/d
12 ≦ 20 式(12)
【0084】
また、工程(II)において用いられる第2連続多段蒸留塔は、例えば、
図3に示すとおり、長さL
2(cm)、内径D
2(cm)の円筒形の胴部を有し、内部に段数n
2をもつインターナルを有する構造をしており、塔頂部又はそれに近い塔の上部に内径d
21(cm)のガス抜出し口、塔底部又はそれに近い塔の下部に内径d
22(cm)の液抜出し口、該ガス抜出し口より下部であって塔の上部及び/又は中間部に1つ以上の第5の導入口、該液抜出し口より上部であって塔の中間部及び/又は下部に1つ以上の第6の導入口を有する連続多段蒸留であり、L
2、D
2、L
2/D
2、n
2、D
2/d
21、D
2/d
22が、それぞれ下記式(13)~(18)を満足する連続多段蒸留塔であることが好ましい。
1500 ≦ L
2 ≦ 8000 式(13)
100 ≦ D
2 ≦ 2000 式(14)
2 ≦ L
2/D
2 ≦ 40 式(15)
10 ≦ n
2 ≦ 80 式(16)
2 ≦ D
2/d
21 ≦ 15 式(17)
5 ≦ D
2/d
22 ≦ 30 式(18)
【0085】
式(7)~(18)の全てを同時に満足する第1連続多段蒸留塔及び第2連続多段蒸留塔を用いることによって、ジアルキルカーボネートとフェノールとから、ジフェニルカーボネートを1時間あたり約0.85トン以上、好ましくは1トン以上の工業的規模で、高選択率・高生産性で、例えば2000時間以上、好ましくは3000時間以上、さらに好ましくは5000時間以上の長期間、安定的に製造できる。本実施形態の方法を実施することによって、このような優れた効果を有する工業的規模での芳香族カーボネートの製造が可能になる理由は明らかではないが、式(7)~(18)の条件が組み合わさった時にもたらされる複合効果のためであると推定される。なお、工程(II)で用いる連続多段蒸留塔を構成する各々の要因の好ましい範囲は下記に示される。
【0086】
L1(cm)及びL2(cm)がそれぞれ1500以上であると、反応率が向上するため所望の生産量を達成できる。また、所望の生産量を達成できる反応率を確保しつつ設備費を低下させるには、L1及びL2をそれぞれ8000以下にすることが好ましい。より好ましいL1(cm)及びL2(cm)の範囲は、それぞれ、2000≦L1 ≦6000 及び2000≦L2≦6000 であり、さらに好ましくは、2500≦L1≦5000 及び2500≦L2≦5000 である。
【0087】
D1(cm)及びD2(cm)が、それぞれ100以上であると、所望の生産量を達成できる。また、所望の生産量を達成しつつ設備費を低下させるには、D1及びD2をそれぞれ2000以下にすることが好ましい。より好ましいD1(cm)及びD2(cm)の範囲は、それぞれ150≦D1≦1000 及び150≦D2≦1000 であり、さらに好ましくは、それぞれ200≦D1≦800 及び200≦D2≦800である。
【0088】
なお、第1連続多段蒸留塔及び第2連続多段蒸留塔において、D1及びD2が上記の範囲にある限り、塔の上部から下部までそれぞれ同じ内径であってもよいし、部分的に内径が異なっていてもよい。例えば、これらの連続多段蒸留塔において、塔上部の内径が塔下部の内径よりも小さくてもよいし、大きくてもよい。
【0089】
L1/D1及びL2/D2がそれぞれ2以上であるときや40以下であるときは安定運転が容易となり、特に40以下であると塔の上下における圧力差が大きくなりすぎることを抑制できるため、長期安定運転が容易となるだけでなく、塔下部での温度を低くできるので、副反応が抑制でき、選択率が向上する傾向にある。より好ましいL1/D1及びL2/D2の範囲は、それぞれ、3≦L1/D1≦30 及び3≦L2/D2≦30 であり、さらに好ましくは、5≦L1/D1≦15 及び5≦L2/D2≦15である。
【0090】
n1が20以上であると反応率が向上するため第1連続多段蒸留塔での所望の生産量を達成できる。また、所望の生産量を達成できる反応率を確保しつつ設備費を低下させるには、n1を120以下にすることが好ましい。さらにn1が120以下であると塔の上下における圧力差が大きくなりすぎることを抑制できるため、第1連続多段蒸留塔の長期安定運転が容易となるだけでなく、塔下部での温度を低くすることができるので、副反応が抑制でき、選択率が向上する傾向にある。より好ましいn1の範囲は、30≦n1≦100 であり、さらに好ましくは、40≦n1≦90 である。
【0091】
また、n2が10以上であると反応率が向上するため第2連続多段蒸留塔での所望の生産量を達成できる。また、所望の生産量を達成できる反応率を確保しつつ設備費を低下させるには、n2を80以下にすることが好ましい。さらにn2が80以下であると塔の上下における圧力差が大きくなりすぎることを抑制できるため、第2連続多段蒸留塔の長期安定運転が容易となるだけでなく、塔下部での温度を低くできるので、副反応が抑制され選択率が向上する傾向にある。より好ましいn2の範囲は、15≦n2≦60 であり、さらに好ましくは、20≦n2≦50 である。
【0092】
D1/d11が5以上であると第1連続多段蒸留塔の設備費を抑えることができ、ガス成分が系外に出ることを抑制できるため、第1連続多段蒸留塔の安定運転が容易になり、30以下であるとガス成分の抜出し量が相対的に大きくなり、安定運転が容易になるだけでなく、反応率が向上する傾向にある。より好ましい D1/d11の範囲は、8≦D1/d11≦25 であり、さらに好ましくは、10≦D1/d11≦20 である。また、D2/d21が2以上であると第2連続多段蒸留塔の設備費を抑えることができ、ガス成分が系外に出ることを抑制できるため、第2連続多段蒸留塔の安定運転が容易になり、15以下であるとガス成分の抜出し量が相対的に大きくなり、安定運転が容易になるだけでなく、反応率が向上する傾向にある。より好ましい D2/d21の範囲は、5≦D2/d21≦12 であり、さらに好ましくは、3≦D2/d21≦10 である。
【0093】
D1/d12が3以上であると第1連続多段蒸留塔の設備費を抑えることができ、液抜出し量が相対的に少なくなり、第1連続多段蒸留塔の安定運転が容易になり、20以下であると液抜出し口や配管での流速が急激に速くなることを抑制でき、エロ-ジョンを起こし難くなり装置の腐食を抑制できる。より好ましいD1/d12の範囲は、5≦D1/d12≦18 であり、さらに好ましくは、7≦D1/d12≦15 である。また、D2/d22が5以上であると第2連続多段蒸留塔の設備費を抑えることができ、液抜出し量が相対的に少なくなり、第2連続多段蒸留塔の安定運転が容易になり、30以下であると液抜出し口や配管での流速が急激に速くなることを抑制でき、エロ-ジョンを起こし難くなり装置の腐食を抑制できる。より好ましいD2/d22の範囲は、7≦D2/d22≦25 であり、さらに好ましくは、9≦D2/d22≦20 である。
【0094】
さらに、工程(II)では、該d11と該d12とが式(29)を満足し、且つ該d21と該d22が式(30)を満足する場合、さらに好ましい。
1≦d12/d11≦5 式(29)
1≦d21/d22≦6 式(30)
【0095】
工程(II)でいう長期安定運転とは、1000時間以上、好ましくは3000時間以上、さらに好ましくは5000時間以上、フラッディングやウィーピングや、配管のつまりやエロージョンなどがなく、運転条件に基づいた定常状態で運転が継続でき、高選択率を維持しながら、所定量のジフェニルカーボネートが製造されていることを意味する。
【0096】
工程(II)では、1時間あたり好ましくは1トン以上の高生産性でジフェニルカーボネートを高選択率で長期間安定的に生産することであるが、より好ましくは1時間あたり2トン以上、さらに好ましくは1時間あたり3トン以上のジフェニルカーボネートを生産することである。また、工程(II)では、第1連続多段蒸留塔のL1、D1、L1/D1、n1、D1/d11、D1/d12 がそれぞれ、2000≦L1≦6000、 150≦D1≦1000、 3≦L1/D1≦30、 30≦n1≦100、 8≦D1/d11≦25、 5≦D1/d12≦18であって、第2連続多段蒸留塔のL2、D2、L2/D2、n2、D2/d21、D2/d22 がそれぞれ、2000≦L2≦6000、 150≦D2≦1000、 3≦L2/D2≦30、 15≦n2≦60、 2.5≦D2/d21≦12、 7≦D2/d22≦25の場合は、1時間あたり2トン以上、好ましくは1時間あたり2.5トン以上、さらに好ましくは1時間あたり3トン以上のジフェニルカーボネートを製造することである。
【0097】
さらに、工程(II)では、第1連続多段蒸留塔のL1、D1、L1/D1、n1、D1/d11、D1/d12 がそれぞれ、2500≦L1≦5000、 200≦D1≦800、 5≦L1/D1≦15、 40≦n1≦90、 10≦D1/d11≦25、 7≦D1/d12≦15であって、第2連続多段蒸留塔のL2、D2、L2/D2、n2、D2/d21、D2/d22 がそれぞれ、2500≦L2≦5000、 200≦D2≦800、 5≦L2/D2≦10、 20≦n2≦50、 3≦D2/d21≦10、 9≦D2/d22≦20の場合は、1時間あたり3トン以上、好ましくは1時間あたり3.5トン以上、さらに好ましくは1時間あたり4トン以上のジフェニルカーボネートを製造することである。
【0098】
工程(II)でいうジフェニルカーボネートの選択率とは、反応したフェノールに対するものであって、工程(II)では通常95%以上の高選択率であり、好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上の高選択率を達成することができる。
【0099】
工程(II)で用いられる第1連続多段蒸留塔及び第2連続多段蒸留塔は、インターナルとしてトレイ及び/又は充填物を有する蒸留塔であることが好ましい。本実施形態でいうインターナルとは、蒸留塔において実際に気液の接触を行わせる部分のことを意味する。このようなトレイとしては、工程(I)の項に記載のものが好ましい。また、「インターナルの段数」とは、前記のとおりである。
【0100】
工程(II)の第1連続多段蒸留塔においては、主としてジアルキルカーボネートとフェノールとからアルキルフェニルカーボネートを生成させる反応が行われる。この反応は平衡定数が極端に小さく、しかも反応速度が遅いので、反応蒸留に用いる第1連続多段蒸留塔としては、インターナルがトレイである棚段式蒸留塔がより好ましい。また、第2連続多段蒸留塔においては主として、該アルキルフェニルカーボネートを不均化させる反応が行われる。この反応も平衡定数が小さく、しかも反応速度が遅い。しかしながら、反応蒸留に用いる第2連続多段蒸留塔としては、インターナルが充填物及びトレイの両方を有する蒸留塔がより好ましい。さらに第2連続多段蒸留塔としては、上部に充填物、下部にトレイを設置したものが好ましい。第2連続多段蒸留塔の該充填物は規則充填物が好ましく、規則充填物のなかでもメラパックが特に好ましい。
【0101】
さらに、第1連続多段蒸留塔及び第2連続多段蒸留塔にそれぞれ設置される該トレイが多孔板部とダウンカマー部とを有する多孔板トレイが機能と設備費との関係で特に優れている。そして、該多孔板トレイが該多孔板部の面積1m2あたり100~1000個の孔を有していることが好ましい。より好ましい孔数は該面積1m2あたり120~900個であり、さらに好ましくは、150~800個である。
【0102】
また、該多孔板トレイの孔1個あたりの断面積が0.5~5cm2であることが好ましい。より好ましい孔1個あたりの断面積は、0.7~4cm2であり、さらに好ましくは0.9~3cm2である。さらには、該多孔板トレイが該多孔板部の面積1m2あたり100~1000個の孔を有しており、且つ、孔1個あたりの断面積が0.5~5cm2である場合、特に好ましい。
【0103】
工程(II)を実施する場合、原料であるジアルキルカーボネートとフェノールとを触媒が存在する第1連続多段蒸留塔内に連続的に供給し、該第1連続多段蒸留塔内で反応と蒸留とを同時に行い、生成するアルコール類を含む第1塔低沸点反応混合物を該第1連続多段蒸留塔上部よりガス状で連続的に抜出し、生成するアルキルフェニルカーボネートを含む第1塔高沸点反応混合物を該第1連続多段蒸留塔下部より液状で連続的に抜出し、該第1塔高沸点反応混合物を触媒が存在する第2連続多段蒸留塔内に連続的に供給し、該第2連続多段蒸留塔内で反応と蒸留とを同時に行い、生成するジアルキルカーボネート類を含む第2塔低沸点反応混合物を該第2連続多段蒸留塔上部よりガス状で連続的に抜出し、生成するジフェニルカーボネートを含む第2塔高沸点反応混合物を該第2連続多段蒸留塔下部より液状で連続的に抜出し、ジフェニルカーボネートが連続的に製造される。
【0104】
この原料中には、反応生成物であるアルコール類、アルキルフェニルカーボネート、ジフェニルカーボネートやアルキルフェニルエーテルや高沸点化合物などの反応副生物が含まれていてもいいことは前述のとおりである。他の工程での分離・精製にかかる設備、費用のことを考慮すれば、実際に工業的に実施する本実施形態の場合は、これらの化合物を少量含んでいることが好ましい。
【0105】
工程(II)の第1連続多段蒸留塔の塔頂成分は、反応で生成するアルコール類に加え、通常、ジアルキルカーボネート、フェノール、アルキルアリールエーテルなどが含まれる場合が多く、さらには少量のアルキルアリールカーボネート、ジフェニルカーボネートなどが含まれる場合がある。この第1連続多段蒸留塔の塔頂成分は、そのままで工程(I)の脂肪族1価アルコールとして使用することもできるが、蒸留等により生成したアルコールよりも沸点の高い含有物質量を減少させた後に工程(I)の原料とすることが好ましい。該アルコールとジアルキルカーボネートの混合物が、工程(I)の脂肪族1価アルコールとして使用されることが特に好ましい。
【0106】
工程(II)において、原料であるジアルキルカーボネートとフェノールとを第1連続多段蒸留塔内に連続的に供給するには、該第1蒸留塔の上部のガス抜出し口よりも下部であるが塔の上部又は中間部に設置された1箇所又は数箇所の導入口から、液状及び/又はガス状で供給してもよいし、フェノールを多く含む原料を該第1蒸留塔の上部の導入口から液状で供給し、ジアルキルカーボネートを多く含む原料を該第1蒸留塔の下部の液抜出し口よりも上部であって塔の下部に設置された導入口からガス状で供給することも好ましい方法である。
【0107】
また、工程(II)においては、第1連続多段蒸留塔下部より連続的に抜き出されるアルキルフェニルカーボネートを含む第1塔高沸点反応混合物が第2連続多段蒸留塔に連続的に供給されるが、その供給位置は第2連続多段蒸留塔の上部のガス抜出し口よりも下部であるが塔の上部又は中間部に設置された1箇所又は数箇所の導入口から、液状及び/又はガス状で供給することが好ましい。また、本実施形態の好ましい実施態様である上部に充填物部、下部にトレイ部を有する蒸留塔を第2連続多段蒸留塔として用いる場合、導入口の少なくとも1箇所は充填物部とトレイ部との間に設置されることが好ましい。また、充填物が2基以上の複数の規則充填物からなっている場合は、これらの複数の規則充填物を構成する間隔に導入口を設置することも好ましい方法である。
【0108】
また、工程(II)において第1連続多段蒸留塔及び第2連続多段蒸留塔の塔頂ガス抜き出し成分をそれぞれ凝縮した後、その一部をそれぞれの蒸留塔上部にもどす還流操作を実施することも好ましい方法である。この場合、第1連続多段蒸留塔の還流比は0~10、であり、第2連続多段蒸留塔の還流比は0.01~10の範囲、好ましくは0.08~5、さらに好ましくは、0.1から2の範囲である。第1連続多段蒸留塔では還流操作をしない還流比0も好ましい実施態様である。
【0109】
工程(II)において、第1連続多段蒸留塔内に均一系触媒を存在させる方法はどのようなものであってもよいが、該第1連続多段蒸留塔の中間部より上部の位置から蒸留塔内に供給することが好ましい。また、該第1連続多段蒸留塔の少なくとも7段以上、好ましくは10段以上、より好ましくは15段以上の領域において反応液が触媒と接触するように触媒を供給することが好ましい。この場合、原料又は反応液に溶解させた触媒液を原料と一緒に導入してもよいし、原料とは別の導入口からこの触媒液を導入してもよい。本実施形態において、第1連続多段蒸留塔で用いる触媒の量は、使用する触媒の種類、原料の種類やその量比、反応温度並びに反応圧力などの反応条件の違いによっても異なるが、原料の合計質量に対する割合で表して、通常0.0001~30質量%、好ましくは0.0005~10質量%、より好ましくは0.001~1質量%で使用される。
【0110】
また、工程(II)において、第2連続多段蒸留塔内に均一系触媒を存在させる方法はどのようなものであってもよいが、該第2連続多段蒸留塔の中間部より上部の位置から蒸留塔内に供給することが好ましい。この場合、原料又は反応液に溶解させた触媒液を原料と一緒に導入してもよいし、原料とは別の導入口からこの触媒液を導入してもよい。本実施形態において、第2連続多段蒸留塔で用いる触媒の量は、使用する触媒の種類、原料の種類やその量比、反応温度並びに反応圧力などの反応条件の違いによっても異なるが、原料の合計質量に対する割合で表して、通常0.0001~30質量%、好ましくは0.0005~10質量%、より好ましくは0.001~1質量%で使用される。
【0111】
工程(II)においては、第1連続多段蒸留塔で用いる触媒と第2連続多段蒸留塔で用いる触媒とは、同じ種類のものであってもよいし、異なる種類のものであってもよいが、好ましくは、同じ種類の触媒を用いることである。さらに好ましいのは、同じ種類であって、両方の反応液に溶解することのできる触媒である。この場合、触媒は通常第1連続多段蒸留塔の高沸点反応混合物中に溶解した状態で、アルキルフェニルカーボネート等とともに該第1蒸留塔の下部から抜き出され、そのまま第2連続多段蒸留塔に供給されるので、好ましい実施態様である。なお、必要に応じて第2連続多段蒸留塔に新たに触媒を追加することも可能である。
【0112】
工程(II)で行われるエステル交換反応の反応時間は第1連続多段蒸留塔内及び第2連続多段蒸留塔内でのそれぞれの反応液の平均滞留時間に相当すると考えられる。この反応時間はそれぞれの該蒸留塔のインターナルの形状や段数、原料供給量、触媒の種類や量、反応条件などによって異なるが、第1連続多段蒸留塔内及び第2連続多段蒸留塔内のそれぞれにおいて、通常0.01~10時間、好ましくは0.05~5時間、より好ましくは0.1~3時間である。
【0113】
第1連続多段蒸留塔の反応温度は、用いる原料化合物の種類や触媒の種類や量によって異なるが、通常100~350℃の範囲である。反応速度を高めるためには反応温度を高くすることが好ましいが、反応温度が高いと副反応も起こりやすくなり、例えば、アルキルフェニルエーテルなどの副生が増えるので好ましくない。このような意味で、第1連続多段蒸留塔での好ましい反応温度は130~280℃、より好ましくは150~260℃、さらに好ましくは、180~250℃の範囲である。
【0114】
第2連続多段蒸留塔の反応温度は、用いる原料化合物の種類や触媒の種類や量によって異なるが、通常100~350℃の範囲である。反応速度を高めるためには反応温度を高くすることが好ましいが、反応温度が高いと副反応も起こりやすくなり、例えば、アルキルフェニルエーテルや、原料や生成物であるアルキルフェニルカーボネートやジフェニルカーボネートのフリース転移反応生成物やその誘導体などの副生が増えるので好ましくない。このような意味で、第2連続多段蒸留塔での好ましい反応温度は130~280℃、より好ましくは150~260℃、さらに好ましくは、180~250℃の範囲である。
【0115】
また、第1連続多段蒸留塔の反応圧力は、用いる原料化合物の種類や組成、反応温度などにより異なるが、第1連続多段蒸留塔では減圧、常圧、加圧のいずれであってもよい。通常塔頂圧力は、0.1Pa~2×107Pa、好ましくは、105Pa~107Pa、より好ましくは2×105Pa~5×106Paの範囲である。
【0116】
第2連続多段蒸留塔の反応圧力は、用いる原料化合物の種類や組成、反応温度などにより異なるが、減圧、常圧、加圧のいずれであってもよい。通常塔頂圧力は、0.1Pa~2×107Pa、好ましくは、103Pa~106Pa、より好ましくは5×103Pa~105Paの範囲である。
【0117】
なお、工程(II)における第1連続多段蒸留塔として、2基以上の蒸留塔を用いることもできる。この場合、2基以上の蒸留塔を直列に連結することも、並列に連結することも、さらに直列と並列を組み合わせて連結することも可能である。また、工程(II)における第2連続多段蒸留塔として、2基以上の蒸留塔を用いることもできる。この場合、2基以上の蒸留塔を直列に連結することも、並列に連結することも、さらに直列と並列を組み合わせて連結することも可能である。
【0118】
工程(II)で用いられる第1連続多段蒸留塔及び第2連続多段蒸留塔を構成する材料は、主に炭素鋼、ステンレススチールなどの金属材料であるが、製造する芳香族カーボネートの品質の面からは、ステンレススチールが好ましい。
また、第2連続多段蒸留塔の下部の接液部に、Feを主成分とし、Moを2質量%以上、Crを18質量%以下含む材質が使用されることが好ましい。第2連続多段蒸留塔の下部の接液部にこのような材質を使用すると、第2連続多段蒸留塔の下部における成分中の高沸点物質濃度を上げても、蒸留塔の腐食を抑制できる傾向にある。第2連続多段蒸留塔の下部の接液部における材質の組成としては、Feが60~72質量%、Moが2~3質量%、Crが16~18質量%であることがより好ましい。
なお、本実施形態において、主成分とは、40質量%以上であることを意味し、50質量%以上であることが好ましく、60質量%であることがより好ましい。
【0119】
本実施形態の製造方法において、ジフェニルカーボネートを含む第2塔高沸点反応混合物を高沸点物質分離塔Aに連続的に導入し、ジフェニルカーボネートを含む塔頂成分(AT)と、触媒を含む塔底成分(AB)と、に連続的に蒸留分離する第1の精製工程と、該塔頂成分(AT)を、サイドカット抜き出し口を有するジフェニルカーボネート精製塔Bに連続的に導入し、塔頂成分(BT)、サイドカット成分(BS)及び塔底成分(BB)の3つの成分に連続的に蒸留分離することによって、サイドカット成分(BS)としてジフェニルカーボネートを得る第2の精製工程(以下、第1及び第2の精製工程をあわせて「工程(III)」とも記す)。と、を含む。
【0120】
工程(II)の第2連続多段蒸留塔の塔下部より液状で連続的に抜出された第2塔高沸点反応混合物は、ジフェニルカーボネートが主成分であるが、通常、未反応アルキルフェニルカーボネート、少量の未反応原料、少量の高沸点副生物及び触媒成分も含まれている。したがって、第2塔高沸点反応混合物から、高純度ジフェニルカーボネートを取得する観点から精製工程(III)を実施する。工程(III)では、2基の蒸留塔(高沸点物質分離塔A、サイドカット抜き出し口を有するジフェニルカーボネート精製塔B)を用い、該高沸点物質分離塔Aにおいて、未反応アルキルフェニルカーボネート、少量の未反応原料、ジフェニルカーボネートを主成分とする塔頂成分(AT)と、少量の高沸点副生物等及び/又は触媒成分を主成分とする塔底成分(AB)とに連続的に分離するとともに、該高沸点物質分離塔の塔頂成分(AT)をジフェニルカーボネート精製塔Bに連続的に供給し、該ジフェニルカーボネート精製塔Bにおいて、塔頂成分(BT)、サイドカット成分(BS)、及び塔底成分(BB)の3つの成分に連続的に分離し、サイドカット成分(BS)として高純度のジフェニルカーボネートを取得することができる。
【0121】
工程(III)において、該高沸点物質分離塔Aは、例えば、長さLA(cm)、内径DA(cm)の円筒形の胴部を有し、内部に段数nAのインターナルを有する連続多段蒸留塔であり、LA、DA、nAが、それぞれ下記式(19)~(21)を満足する連続多段蒸留塔であることが好ましい。
800 ≦ LA ≦ 3000 式(19)
100 ≦ DA ≦ 1000 式(20)
20 ≦ nA ≦ 100 式(21)
【0122】
該ジフェニルカーボネート精製塔Bは、例えば、長さLB(cm)、内径DB(cm)の円筒形の胴部を有し、内部にインターナルを有する構造をしており、塔の中間部に導入口B1、該導入口B1と塔底との間にサイドカット抜き出し口B2を有し、導入口B1から上部におけるインターナルの段数がnB1、導入口B1とサイドカット抜き出し口B2との間におけるインターナルの段数がnB2、サイドカット抜き出し口B2から下部におけるインターナルの段数がnB3であり、各段数の合計(nB1+nB2+nB3)がnBである連続多段蒸留塔であり、LB、DB、nB1、nB2、nB3、nBが、それぞれ下記式(22)~(27)を満足するする連続多段蒸留塔であることが好ましい。
1000 ≦ LB ≦ 5000 式(22)
100 ≦ DB ≦ 1000 式(23)
5 ≦ nB1 ≦ 20 式(24)
12 ≦ nB2 ≦ 40 式(25)
3 ≦ nB3 ≦ 15 式(26)
20 ≦ nB ≦ 70 式(27)
【0123】
これらの条件の全てを同時に満足させることによって、工程(II)で得られたジフェニルカーボネートを含む第2塔高沸点反応混合物から高純度ジフェニルカーボネートを、1時間あたり1トン以上の工業的規模で、例えば2000時間以上、好ましくは3000時間以上、さらに好ましくは5000時間以上の長期間、安定的に製造できる傾向にある。本実施形態の方法を実施することによって、このような優れた効果を有する工業的規模での高純度ジフェニルカーボネートの製造が可能になった理由は明らかではないが、式(19)~(27)の条件を満足する高沸点物質分離塔Aと該ジフェニルカーボネート精製塔Bとが組み合わさった時にもたらされる効果であると推定される。なお、各々の要因の好ましい範囲は下記に示される。
【0124】
LA(cm)が800以上であると、高沸点物質分離塔Aの内部に設置できるインターナルの高さに余裕ができるため分離効率が向上する傾向にある。また、所望の分離効率を達成しつつ設備費を低下させるには、LAを3000以下にすることが好ましい。より好ましいLA(cm)の範囲は、1000≦LA≦2500 であり、さらに好ましくは、1200≦LA≦2000 である。
【0125】
DA(cm)が100以上であると、所望の生産量を達成できる。また、所望の生産量を達成しつつ設備費を低下させるには、DAを1000以下にすることが好ましい。より好ましいDA(cm)の範囲は、200≦DA≦600 であり、さらに好ましくは、250≦DA≦450 である。
【0126】
nAが20以上であると分離効率が向上するため所望の高純度を達成できる。また、所望の分離効率を達成しつつ設備費を低下させるには、nAを100以下にすることが好ましい。さらに、nAが100以下であると塔の上下における圧力差が大きくなりすぎることを抑制できるため、高沸点物質分離塔Aの長期安定運転が容易となるだけでなく、塔下部での温度を低くできるので、副反応が抑制される傾向にある。より好ましいnAの範囲は、30≦nA≦70 であり、さらに好ましくは、35≦nA≦60 である。
【0127】
LB(cm)が1000以上であると、ジフェニルカーボネート精製塔Bの内部に設置できるインターナルの高さに余裕ができるため分離効率が向上する傾向にある。また、所望の分離効率を達成しつつ設備費を低下させるには、LBを5000以下にすることが好ましい。より好ましいLB(cm)の範囲は、1500≦LB≦3000 であり、さらに好ましくは、1700≦LB≦2500 である。
【0128】
DB(cm)が100以上であると、所望の生産量を達成できる。また、所望の生産量を達成しつつ設備費を低下させるには、DBを1000以下にすることが好ましい。より好ましいDB(cm)の範囲は、150≦DB≦500 であり、さらに好ましくは、200≦DB≦400 である。
【0129】
nBが20以上であると塔全体としての分離効率が向上するため所望の高純度を達成できる。また、所望の分離効率を達成しつつ設備費を低下させるには、nBを70以下にすることが好ましい。さらにnBが70以下であると塔の上下における圧力差が大きくなることを抑制でき、ジフェニルカーボネート精製塔Bの長期安定運転が容易となるだけでなく、塔下部での温度を低くできるので、副反応が抑制される傾向にある。より好ましいnBの範囲は、25≦nB≦55 であり、さらに好ましくは、30≦nB≦50 である。さらに、所望の高純度のジフェニルカーボネートを長時間安定的に得るためには、nB1、nB2、nB3 がそれぞれ、5≦nB1≦20、 12≦nB2≦40、 3≦nB3≦15 の範囲にあることが好ましい。より好ましい範囲は、 7≦nB1≦15、 12≦nB2≦30、 3≦nB3≦10 である。
【0130】
なお、本実施形態を実施する際、該高沸点物質分離塔Aが、塔底温度(TA)185~280℃、塔頂圧力(PA)1000~20000Paで操作され、該ジフェニルカーボネート精製塔Bが、塔底温度(TB)185~280℃、塔頂圧力(PB)1000~20000Paで操作されることが好ましい。
【0131】
TAが185℃以上であると塔頂圧力をより低くする必要がないため高真空を保持する設備にする必要もないし、また設備を小さくすることができる。TAが280℃以下であると蒸留時に高沸点副生物が生成するのを抑制できる傾向にある。より好ましいTAは190~240℃、であり、さらに好ましくは195~230℃の範囲である。
【0132】
PAが1000Pa以上であると高真空を保持するための大きな設備とする必要もなく、PAが20000Pa以下であると蒸留温度が低くなり副生成物を抑制できる傾向にある。より好ましいPAは2000~15000Paであり、さらに好ましくは3000~13000Paの範囲である。
【0133】
TBが185℃以上であると塔頂圧力をより低くする必要がないため高真空を保持する設備にする必要もないし、また設備が小さくすることができる。TBが280℃以下であると蒸留時に高沸点副生物が生成するのを抑制できる傾向にある。より好ましいTBは190~240℃、であり、さらに好ましくは195~230℃の範囲である。
【0134】
PBが1000Pa以上であると高真空を保持するための大きな設備とする必要もなく、PBが20000Pa以下であると蒸留温度が低くなり副生成物を抑制できる傾向にある。より好ましいPBは2000~15000Paであり、さらに好ましくは3000~13000Paの範囲である。
【0135】
なお、高沸点物質分離塔A及びジフェニルカーボネート精製塔Bにおいて、DA及びDBが上記の範囲にある限り、塔の上部から下部までそれぞれ同じ内径であってもよいし、部分的に内径が異なっていてもよい。例えば、これらの連続多段蒸留塔において、塔上部の内径が塔下部の内径よりも小さくてもよいし、大きくてもよい。
【0136】
工程(III)で用いる高沸点物質分離塔A及びジフェニルカーボネート精製塔Bは、それぞれインターナルとしてトレイ及び/又は充填物を有する蒸留塔であることが好ましい。本実施形態でいうインターナルとは、蒸留塔において実際に気液の接触を行わせる部分のことを意味する。このようなトレイとしては、工程(I)の項に記載のものが好ましい。また、「インターナルの段数」とは、前記のとおりである。
【0137】
工程(III)の高沸点物質分離塔Aはインターナルとして充填物を有するものが好ましく、さらに充填物として規則充填物が好ましい。また、ジフェニルカーボネート精製塔Bはインターナルとして充填物であることが好ましく、さらに1基又は2基以上の規則充填物が好ましい。
【0138】
工程(II)の第2連続多段蒸留塔の塔底から連続的に抜出される高沸点反応混合物には、通常、ジアルキルカーボネートが、0.05~2質量%、フェノールが1~20質量%、アルキルフェニルエーテルが0.05~2質量%、アルキルフェニルカーボネートが10~45質量%、ジフェニルカーボネートが50~80質量%、高沸点副生物が0.1~5質量%、触媒が0.001~5質量%含まれているので、この連続的に抜出された塔底液を、そのまま工程(III)の高沸点分離塔Aに連続的に供給することが好ましい。
【0139】
該反応混合物の組成は、ジアルキルカーボネートとフェノールとのエステル交換反応の条件、触媒の種類と量等によって変化するが、一定の条件下でエステル交換反応が行われる限り、ほぼ一定の組成の反応混合物が製造できるので、高沸点物質分離塔Aに供給される反応混合物の組成はほぼ一定である。しかしながら、工程(III)においては、反応混合物の組成が上記の範囲内であれば、それが変動しても、ほぼ同様の分離効率で分離できる。このことは本実施形態に用いる工程(III)の特徴の1つである。
【0140】
工程(III)において、工程(II)の第2連続多段蒸留塔の塔底液を高沸点物質分離塔A内に連続的に供給するには、該分離塔Aの中間部より下部に設置された1箇所又は数箇所の導入口から、液状で供給してもよいし、該分離塔Aのリボイラーの下部に設けた配管からリボイラーを経て塔内に供給することも好ましい方法である。高沸点物質分離塔Aに供給される第2連続多段蒸留塔の塔底液の量は、製造すべき高純度ジフェニルカーボネートの生産量、該反応混合物中のジフェニルカーボネートの濃度、該分離塔Aの分離条件等によって変化するが、通常約2トン/hr以上、好ましくは約6トン/hr以上、さらに好ましくは約10トン/hr以上である。
【0141】
高沸点物質分離塔Aに連続的に供給された第2連続多段蒸留塔の高沸点反応混合物は、ジフェニルカーボネートの大部分と未反応原料、アルキルフェニルエーテル、アルキルフェニルカーボネート等のジフェニルカーボネートよりも沸点の低い化合物の大部分からなる塔頂成分(AT)と、少量のジフェニルカーボネートと触媒と高沸点副生物とを含む塔底成分(AB)に分離される。塔底成分(AB)中には少量のアルキルフェニルカーボネートが含まれていてもよい。塔底成分中のこれらの有機物は触媒成分を溶解させ液状に保つのに役立っている。この塔底成分(AB)の、全量又は一部はエステル交換反応の触媒成分として、通常そのままで工程(II)の第1連続多段蒸留塔内及び/又は第2連続多段蒸留塔内に連続的に供給し、循環再使用されるが、場合によっては触媒回収工程で有機物と分離した後、触媒として再生され、循環再使用される。
【0142】
工程(III)においては、サリチル酸フェニル、キサントン、メトキシ安息香酸フェニル、1-フェノキシカルボニル-2-フェノキシカルボキシ-フェニレン等のジフェニルカーボネートより高沸点の副生成物及び触媒成分は、この高沸点物質分離塔Aで、ほぼ完全に塔底成分(AB)として分離され、塔頂成分(AT)中の含有量を通常200ppm以下、好ましくは100ppm以下、より好ましくは50ppm以下にすることが容易にできるのが工程(III)の特徴の1つである。塔頂成分(AT)中にこれらの高沸点副生物を殆ど含ませないで、しかも、導入された反応混合物中のジフェニルカーボネートの大部分を塔頂から抜き出すことができることも工程(III)の特徴の1つである。工程(III)においては、高沸点物質分離塔Aに連続的に供給された反応混合物中のジフェニルカーボネートの95%以上、好ましくは96%以上、さらに好ましくは98%以上を塔頂から抜出すことができる。また、工程(III)においては、該分離塔Aに供給される第2連続多段蒸留塔の高沸点反応混合物の組成に依存することではあるが、連続的に供給された液の通常、90~97質量%が塔頂成分(AT)として塔頂から連続的に抜出され、10~3質量%が塔底成分(AB)として塔底から連続的に抜出される。塔頂成分(AT)の組成は、通常、ジアルキルカーボネートが、0.05~1質量%、フェノールが1~10質量%、アルキルフェニルエーテルが0.05~0.5質量%、アルキルフェニルカーボネートが20~40質量%、ジフェニルカーボネートが50~80質量%であり、高沸点副生物の含有量は通常200ppm以下、好ましくは100ppm以下、より好ましくは50ppmである。
【0143】
工程(III)においては、高沸点物質分離塔Aの還流比は0.01~10の範囲であり、好ましくは0.08~5、さらに好ましくは、0.1から3の範囲である。
【0144】
高沸点物質分離塔Aの塔頂から連続的に抜出される塔頂成分(AT)の量は、前記のとおり該分離塔Aに供給された第2連続多段蒸留塔の高沸点反応混合物の通常約90~97%であるが、これがそのままジフェニルカーボネート精製塔Bの中間部に設けられた導入口B1から該精製塔Bに連続的に供給され、塔頂成分(BT)、サイドカット成分(BS)、塔底成分(BB)の3成分に連続的に分離される。該精製塔Bに供給された該分離塔Aの塔頂成分(AT)に含まれていたジフェニルカーボネートよりも低沸点の成分は全て塔頂成分(BT)として塔頂から連続的に抜出され、塔底からは、少量の液体が連続的に抜出される。塔頂成分(BT)中には、少量のジフェニルカーボネートが含まれ、その量は供給されたジフェニルカーボネートに対して、通常、1~9%、好ましくは3~8%である。この塔頂成分(BT)中のジフェニルカーボネートは、塔頂成分(BT)を分離する別の蒸留塔で分離され、回収されるが、この別の蒸留塔の塔底成分として分離し、それを高沸点物質分離塔A及び/又はジフェニルカーボネート精製塔Bに戻すことによって回収することも好ましい方法である。
【0145】
塔底成分(BB)はジフェニルカーボネートと、数%程度に濃縮された少量の高沸点副生物からなっている。塔底から抜出される塔底成分(BB)の中のジフェニルカーボネートの量が非常に少なくてすむことも本実施形態の特徴の1つであり、その量は供給されたジフェニルカーボネートに対して、通常、0.05~0.5%である。
【0146】
サイドカット抜き出し口B2からは、高純度ジフェニルカーボネートが通常通常1トン/hr以上、好ましくは3トン/hr以上、さらに好ましくは5トン/以上の流量で連続的に抜出され、この量は該精製塔Bに供給されたジフェニルカーボネートの通常、約90~96%に相当する。
【0147】
工程(III)でサイドカット成分(BS)として得られるジフェニルカーボネートの純度は、通常99.9%以上であり、好ましくは99.99%以上で、より好ましくは99.999%以上である。なお、本実施形態において、高純度とは、99.9%以上であることを意味し、好ましくは99.99%以上であり、より好ましくは99.999%以上である。ジメチルカーボネートとフェノールを原料として工程(II)及び工程(III)を実施した時に得られる高純度ジフェニルカーボネート中の高沸点不純物の含有量は、サリチル酸フェニルが、30ppm以下、好ましくは10ppm以下、さらに好ましくは1ppm以下であり、キサントンが30ppm以下、好ましくは10ppm以下、さらに好ましくは1ppm以下であり、メトキシ安息香酸フェニルが30ppm以下、好ましくは10ppm以下、さらに好ましくは1ppm以下であり、1-フェノキシカルボニル-2-フェノキシカルボキシ-フェニレンが30ppm以下、好ましくは10ppm以下、さらに好ましくは5ppm以下である。そして、これら高沸点副生物の合計含有量は100ppm以下、好ましくは50ppm以下、さらに好ましくは10ppm以下である。
なお、本実施形態において、ジフェニルカーボネートの純度や不純物含有量は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0148】
また、本実施形態では通常ハロゲンを含まない原料と触媒を使用するので、得られるジフェニルカーボネートのハロゲン含有量は0.1ppm以下であり、好ましくは10ppb以下であり、さらに好ましくは1ppb以下(イオンクロマトグラフ法での検出限界外)である。
【0149】
工程(III)においては、ジフェニルカーボネート精製塔Bの還流比は0.01~10の範囲であり、好ましくは0.1~8、さらに好ましくは、0.5から5の範囲である。
【0150】
本実施形態で用いられる高沸点物質分離塔Aとジフェニルカーボネート精製塔B及び接液部とを構成する材料は、主に炭素鋼、ステンレススチールなどの金属材料であるが、製造するジフェニルカーボネートの品質の面からは、ステンレススチールが好ましい。
【0151】
本実施形態の方法を実施することによって、環状カーボネートとフェノールとから、高品質・高性能の芳香族ポリカーボネートを製造するために必要な高純度ジフェニルカーボネートが、好ましくは1時間当り1トン以上、より好ましくは2トン以上、さらに好ましくは3トン以上の工業的規模で製造できる。なお、本実施形態において、工業的規模とは、1時間当り1トン以上であることを意味し、好ましくは2トン以上であり、より好ましくは3トン以上である。しかも本実施形態の方法を実施することによって得られるジフェニルカーボネートにおいて、ハロゲン含有量が好ましくは0.1ppm以下であり、より好ましくは10ppb以下であり、さらに好ましくは1ppb以下であり、またジフェニルカーボネートより高沸点の不純物が好ましくは100ppm以下であり、より好ましくは50ppm以下であり、さらに好ましくは10ppm以下である。
本実施形態の方法を実施することによって、このような高純度ジフェニルカーボーネートが、長期間、例えば好ましくは2000時間以上、より好ましくは3000時間以上、さらに好ましくは5000時間以上、安定的に製造できる。したがって、本実施形態は高純度ジフェニルカーボネートの工業的製造方法として極めて優れた効果のある方法である。
【実施例】
【0152】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0153】
〔分析方法〕
塔底成分(AB)におけるジフェニルカーボネート(DPC)、高沸点物質(HB)及び触媒の濃度、第2塔低沸点反応混合物中のアルキルアリールカーボネートの濃度、並びにジフェニルカーボネートの純度や不純物成分含有量等、各組成の分析は、ガスクロマトグラフィーにより行った。ガスクロマトグラフィーでの分析は、内部標準法で行い、内部標準物質はトルエンを用いた。
装置:Agilent社製7890A
カラム:Agilent J&W社製 DB-1 (Length 30m×I.D.0.25mm×Film 0.25μm)
キャリアーガス:He 流速2.0mL/分
注入口温度:250℃
注入量:1.0μL
オーブン温度:50℃で2分間保持した後、昇温速度10℃/分で300℃に昇温し8分間保持
注入方法:スプリット法、スプリット比20
検出器:FID 温度300℃
サンプリングした塔底成分(AB)を0.1g計量し、0.04g(いずれも0.1mg精度で秤量)5mLのアセトニトリルを加えてガスクロマトグラフィー用試料溶液を調製した。調製液は、0.45~0.50μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)メンブレンフィルターでろ過した。DPCと内部標準(トルエン)とのピーク面積比と濃度比との関係は、あらかじめ濃度が既知のDPCとトルエンをそれぞれ測定して求め、塔底成分のガスクロマトグラフィー測定値を補正した。100[質量%]から、ガスクロマトグラフィー測定で得られたDPC濃度[重量%]を引いた残りの量[質量%]が、高沸点物質(HB)と触媒との量である。
触媒濃度の測定は、塔底成分(AB)の有機物をマイクロ波で分解した後、ICP発光分光分析装置(ICP)で触媒の金属濃度[質量%]を測定し、触媒の分子量から触媒量[質量%]を計算して求めた。
また、ジフェニルカーボネート精製塔Bのサイドカット成分中のハロゲンの含有量はイオンクロマト法で測定された。
【0154】
<実施例1>
<第1連続多段蒸留塔101>
第1連続多段蒸留塔として、
図2に示されるようなL
1=3300cm、D
1=500cm、L
1/D
1=6.6、n
1=80、D
1/d
11=17、D
1/d
12=9 である連続多段蒸留塔を用いた。なお、この実施例では、インターナルとして、孔1個あたりの断面積=約1.5cm
2、孔数=約250個/m
2を有する多孔板トレイを用いた。
<第2連続多段蒸留塔201>
第2連続多段蒸留塔として、
図3に示されるようなL
2=3100cm、D
2=500cm、L
2/D
2=6.2、n
2=30、D
2/d
21=3.85、D
2/d2
2=11.1 である連続多段蒸留塔を用いた。なお、この実施例では、インターナルとして、上部にメラパック2基(合計理論段数11段)を設置し、下部に孔1個あたりの断面積=約1.3cm
2、孔数=約250個/m
2を有する多孔板トレイを用いた。下部の接液部には、Mo成分を2.5質量%、Cr成分を17質量%含む材質を使用した。また、下部の接液部に、テストピースとして、Mo成分を含まず、Cr成分を19質量%含むテストピース1、Mo成分を0.15質量%、Cr成分を0.4質量%含むテストピース2を入れた。
<高沸点物質分離塔A>
高沸点物質分離塔Aとして、
図5に示されるようなL
A=1700cm、D
A=340cmで、インターナルとして、n
A=30のメラパックを設置した連続多段蒸留塔を用いた。
<ジフェニルカーボネート精製塔B>
ジフェニルカーボネート精製塔Bとして、
図5に示されるようなL
B=2200cm、D
B=280cm、インターナルとして、n
B1=12、n
B2=18、n
B3=5である3基のメラパックを設置した連続多段蒸留塔を用いた。
<ジフェニルカーボネートの製造>
図4に示されるような第1連続多段蒸留塔101及び第2連続多段蒸留塔201が接続された装置、並びに
図5に示される高沸点物質分離塔A及びジフェニルカーボネート精製塔Bからなる装置を用いて、ジフェニルカーボネートを製造した。
フェノール/ジメチルカーボネート=1.9(質量比)からなる原料1を第1連続多段蒸留塔101の上部導入口11から液状で57トン/hrの流量で連続的に導入した。一方、ジメチルカーボネート/フェノール=3.6(質量比)からなる原料2を第1連続多段蒸留塔101の下部導入口12からガス状で58トン/hrの流量で連続的に導入した。第1連続多段蒸留塔101に導入された原料のモル比は、ジメチルカーボネート/フェノール=1.35であった。触媒はPb(OPh)
2として、第1連続多段蒸留塔101の液中に約100ppmとなるように、高沸点物質分離塔Aの底部11から 188kg/hrの流量で連続的に第1連続多段蒸留塔101の上部導入口11に導入された。第1連続多段101では塔底部の温度が225℃で、塔頂部の圧力が7×10
5Pa、還流比が0の条件下で連続的に反応蒸留が行われた。メチルアルコール、ジメチルカーボネート、フェノール等を含む第1連続多段蒸留塔101の第1塔低沸点反応混合物を塔頂部13よりガス状で連続的に抜き出し、熱交換器14を経て、抜出し口16から39トン/hrの流量で抜出した。一方、メチルフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、フェノール、ジフェニルカーボネート、触媒等を含む第1連続多段蒸留塔101の第1塔高沸点反応混合物を塔底部17を経て導入口21より液状で連続的に抜き出した。
24時間後には安定した定常状態に達したので、第1連続多段蒸留塔101の塔底部17からの第1塔高沸点反応混合物をそのまま第2連続多段蒸留塔201のメラパックと多孔板トレイとの間に設置されている原料導入口21から75トン/hrの流量で連続的に供給した。第2連続多段蒸留塔201では、触媒としてPb(OPh)
2を存在させて、塔底部の温度が210℃で、塔頂部の圧力が3×10
4Pa、還流比が0.3の条件下で連続的に反応蒸留が行われた。24時間後には安定的な定常運転が達成できた。第2連続多段蒸留塔201の塔頂部23からジメチルカーボネート35質量%、フェノール56質量%、メチルフェニルカーボネート0.5質量%を含む第2塔低沸点反応混合物が連続的に抜き出され、抜出し口26での流量は62トン/hrで、塔底部27からはメチルフェニルカーボネート38質量%、ジフェニルカーボネート56質量%を含む第2塔高沸点反応混合物が連続的に抜出された。第2連続多段蒸留塔201の第2塔低沸点反応混合物は、導入口11から第1連続多段蒸留塔101に連続的に供給された(第1循環工程)。この際、新規に供給されるジメチルカーボネート及びフェノールの量は、第2塔低沸点反応混合物の組成、量を勘案した上で、上記原料1及び原料2の組成、量を維持するように調整した。
24時間後には安定した定常状態に達したので、第2連続多段蒸留塔201の塔底部27からの第2塔高沸点反応混合物をそのまま高沸点物質分離塔Aの導入口A1に13.1トン/hrで連続的に導入した。高沸点物質分離塔Aにおいて塔底部の温度(T
A)を206℃、塔頂部の圧力(P
A)を1700Paとし、還流比0.6で連続的に蒸留を行った。このとき、高沸点物質分離塔Aの塔底部の組成は、ジフェニルカーボネート33質量%、高沸点物質63質量%、触媒4質量%とした。つまり、高沸点物質分離塔Aの塔底成分(A
B)において、ジフェニルカーボネート(DPC)と高沸点物質(HB)との質量濃度比(DPC/HB)が0.5で、ジフェニルカーボネート(DPC)と触媒との質量濃度比(DPC/触媒)が8.3であった。
高沸点物質分離塔Aの塔頂部13からは、導管16を通して塔頂成分(A
T)を12.9トン/hrで連続的に抜き出した。塔頂成分(A
T)は、そのまま導入口B1からジフェニルカーボネート精製塔Bに連続的に導入された。高沸点物質分離塔Aの塔底部からは導管11を通して塔底成分(A
B)を200kg/hrで連続的に抜き出した。その内、12kg/hrは生成した高沸点物質の濃度を63質量%に維持するため系外に排出した。残りの188kg/hrは第1連続多段蒸留塔101の上部導入口11に導入された(第2循環工程)。
ジフェニルカーボネート精製塔Bにおいて塔底部の温度(T
B)を213℃、塔頂部の圧力(P
B)を5000Paとし、還流比1.5で連続的に蒸留を行い、導管26を通して塔頂成分(B
T)を5.7トン/hrで連続的に抜き出し、導管31を通して塔底成分(B
B)を30kg/hrで連続的に抜き出し、導管33を通してサイドカット成分(B
S)を7.2トン/hrで連続的に抜き出した。
系が完全に安定した24時間後の各成分の組成は次のとおりであった。第1連続多段蒸留塔101の塔底成分:メチルフェニルカーボネート18.2質量%、ジフェニルカーボネート2.4質量%。高沸点物質分離塔Aの塔頂成分:メチルフェニルカーボネートより低沸点物質8質量%、メチルフェニルカーボネート34質量%、ジフェニルカーボネート58質量%。ジフェニルカーボネート精製塔Bの塔頂成分:メチルフェニルカーボネートより低沸点物質18質量%、メチルフェニルカーボネート78質量%、ジフェニルカーボネート4質量%。ジフェニルカーボネート精製塔Bの塔底成分:ジフェニルカーボネート95質量%、高沸点物質5質量%。ジフェニルカーボネート精製塔Bのサイドカット成分中のサリチル酸フェニル、キサントン、メトキシ安息香酸フェニルの含有量はいずれも1ppm以下であり、1-フェノキシカルボニル-2-フェノキシカルボキシ-フェニレンは4ppmであった。また、ジフェニルカーボネート精製塔Bのサイドカット成分中のハロゲンの含有量は1ppb以下であった。このことから、ジフェニルカーボネート精製塔Bのサイドカットから得られたジフェニルカーボネートの純度は99.999%以上であることがわかった。また、この高純度のジフェニルカーボネート(DPC)の生産量は、1時間あたり7.2トンであった。このとき、第1連続多段蒸留塔101のジメチルカーボネート(DMC)の転化率及び第2連続多段蒸留塔201のメチルフェニルカーボネート(MPC)の転化率はそれぞれ順に10%及び74%となり、第1連続多段蒸留塔101及び第2連続多段蒸留塔201の蒸気使用量はそれぞれ順に15.1トン/hr及び12.4トン/hrとなった。また、高沸点物質分離塔Aの塔底部から系外に排出された触媒を補給量するためのメイクアップ触媒補給量は2kg/hrとなった。
この条件で長期間の連続運転を行った。500時間後、2000時間後、4000時間後、5000時間後、6000時間後のジフェニルカーボネートの生産量及び純度、また第1連続多段蒸留塔101及び第2連続多段蒸留塔201の蒸気使用量、並びにメイクアップ触媒補給量は実質的に全く変わっていなかった。さらに、第2連続多段蒸留塔201の下部の接液部に腐食は全く見られなかった。一方、テストピース1、テストピース2には腐食が見られ、特にテストピース2には激しい腐食が見られた。
【0155】
<実施例2>
実施例1と同じ装置を用いて、ジフェニルカーボネートを製造した。
このとき、第2連続多段蒸留塔201の塔頂部の第2塔低沸点反応混合物中のメチルフェニルカーボネートの濃度を2.0質量%とした。
その結果、第1連続多段蒸留塔101の塔底部でメチルフェニルカーボネートの濃度は18.2質量%だったが、ジフェニルカーボネートの濃度が2.2質量%になった。このことにより、ジフェニルカーボネートの生産量を1時間あたり7.2トンにするためには、フェノール/ジメチルカーボネート=1.9(質量比)からなる原料1を第1連続多段蒸留塔101の上部導入口11から液状で58トン/hrの流量で、ジメチルカーボネート/フェノール=3.6(質量比)からなる原料2を第1連続多段蒸留塔101の下部導入口12からガス状で60トン/hrの流量で連続的に導入することが必要になった。
その結果、第1連続多段蒸留塔101のジメチルカーボネート(DMC)の転化率及び第2連続多段蒸留塔201のメチルフェニルカーボネート(MPC)の転化率はそれぞれ順に9.8%及び72%であり、第1連続多段蒸留塔101及び第2連続多段蒸留塔201の蒸気使用量はそれぞれ順に15.4トン/hr及び12.7トン/hrであった。
【0156】
<比較例1>
実施例1と同じ装置を用いて、ジフェニルカーボネートを製造した。
このとき、高沸点物質分離塔Aの塔底部の組成を、ジフェニルカーボネート58質量%、高沸点物質38質量%、触媒成分4質量%とした。つまり、高沸点物質分離塔Aの塔底成分(AB)において、ジフェニルカーボネート(DPC)と高沸点物質(HB)との質量濃度比(DPC/HB)が1.5で、ジフェニルカーボネート(DPC)と触媒との質量濃度比(DPC/触媒)が14.5であった。
その結果、第1連続多段蒸留塔101の塔底部でメチルフェニルカーボネートの濃度は18.2質量%だったが、ジフェニルカーボネートの濃度が0.8質量%になった。このことにより、ジフェニルカーボネートの生産量を1時間あたり7.2トンにするためには、フェノール/ジメチルカーボネート=1.9(質量比)からなる原料1を第1連続多段蒸留塔101の上部導入口11から液状で63トン/hrの流量で、ジメチルカーボネート/フェノール=3.6(質量比)からなる原料2を第1連続多段蒸留塔101の下部導入口12からガス状で64トン/hrの流量で連続的に導入することが必要になった。また、高沸点物質分離塔Aの塔底部からは高沸点物質の濃度を38質量%に維持するため系外に、20kg/hrの流量で排出することが必要になった。
その結果、第1連続多段蒸留塔101のジメチルカーボネート(DMC)の転化率及び第2連続多段蒸留塔201のメチルフェニルカーボネート(MPC)の転化率は実施例1の場合に比べていずれも10%悪化し、第1連続多段蒸留塔101及び第2連続多段蒸留塔201の蒸気使用量も実施例1の場合に比べてそれぞれ順に9%及び10%増加することとなった。また、高沸点物質分離塔Aの塔底部から系外に排出された触媒を補給量するためのメイクアップ触媒補給量も実施例1の場合に比べて1.5倍になった。
【0157】
<比較例2>
実施例1と同じ装置を用いて、ジフェニルカーボネートを製造した。
このとき、高沸点物質分離塔Aの塔底部の組成を、ジフェニルカーボネート56質量%、高沸点物質37質量%、触媒成分7質量%とした。つまり、高沸点物質分離塔Aの塔底成分(AB)において、ジフェニルカーボネート(DPC)と高沸点物質(HB)との質量濃度比(DPC/HB)が1.5で、ジフェニルカーボネート(DPC)と触媒との質量濃度比(DPC/触媒)が8.3であった。
その結果、高沸点物質分離塔Aの塔底部からは高沸点物質の濃度を37質量%に維持するため系外に、塔底成分(AB)を20kg/hrの流量で排出することが必要になった。その結果、高沸点物質分離塔Aの塔底部から系外に排出された触媒を補給量するためのメイクアップ触媒補給量が実施例1の場合に比べて3.5倍になった。
【0158】
<比較例3>
実施例1と同じ装置を用いて、ジフェニルカーボネートを製造した。
このとき、高沸点物質分離塔Aの塔底部の組成を、ジフェニルカーボネート35質量%、高沸点物質63質量%、触媒成分2質量%とした。つまり、高沸点物質分離塔Aの塔底成分(AB)において、ジフェニルカーボネート(DPC)と高沸点物質(HB)との質量濃度比(DPC/HB)が0.5で、ジフェニルカーボネート(DPC)と触媒との質量濃度比(DPC/触媒)が14.5であった。
その結果、第1連続多段蒸留塔101の塔底部でメチルフェニルカーボネートの濃度は18.2質量%だったが、ジフェニルカーボネートの濃度が0.8質量%になった。このことにより、ジフェニルカーボネートの生産量を1時間あたり7.2トンにするためには、フェノール/ジメチルカーボネート=1.9(質量比)からなる原料1を第1連続多段蒸留塔101の上部導入口11から液状で63トン/hrの流量で、ジメチルカーボネート/フェノール=3.6(質量比)からなる原料2を第1連続多段蒸留塔101の下部導入口12からガス状で64トン/hrの流量で連続的に導入することが必要になった。
その結果、第1連続多段蒸留塔101のジメチルカーボネート(DMC)の転化率及び第2連続多段蒸留塔201のメチルフェニルカーボネート(MPC)の転化率は実施例1の場合に比べていずれも10%悪化し、第1連続多段蒸留塔101及び第2連続多段蒸留塔201の蒸気使用量も実施例1の場合に比べてそれぞれ順に9%及び10%増加することとなった。
【0159】
<実施例3>
触媒を国際公開第2011/105442号公報の実施例1記載の触媒に換えた以外は、実施例1と同様の装置及び製造方法でジフェニルカーボネートを製造した。
(チタン含有組成物の調製)
攪拌機、ヒーターおよび蒸留塔を具備した容積60Lのバッチ型反応器に、テトラブトキシチタン(DuPont社製、製品名:Tyzor TnBT)を窒素雰囲気下で7kg仕込み、次いで予め蒸留精製したフェノールを14kg仕込んだ。
次に、常圧において、前記バッチ型反応器中の混合物をヒーターによって180℃に加熱し、反応させた。当該反応によって発生したn-ブタノールを蒸留塔の塔頂から回収した。さらに前記バッチ型反応器を約53kPaに減圧し、n-ブタノールを回収した。
その後、前記バッチ型反応器を常圧に戻し、ジフェニルカーボネートを約18kg仕込み、該反応器中の混合物を約190℃に加熱した。次に前記バッチ型反応器を約1.3kPaに減圧し、低沸点成分を含むジフェニルカーボネートを留去して、チタン含有組成物を得た。得られたチタン含有組成物のチタン濃度が5質量%になるようにジフェニルカーボネートを加えた。該チタン含有組成物を200℃、約48hr加熱しジフェニルカーボネートの製造に反応触媒とした。
チタン含有組成物触媒は、第1連続多段蒸留塔101の液中に約100ppmとなるように、高沸点物質分離塔Aの底部11から 188kg/hrの流量で連続的に第1連続多段蒸留塔101の上部導入口11に導入された。
【0160】
<実施例4>
触媒を実施例3と同じ触媒に換えた以外は実施例2と同様の装置及び製造方法でジフェニルカーボネートを製造した。
【0161】
実施例1~4及び比較例1~3の各条件及び結果を表1に示す。
【表1】
【0162】
本出願は、2021年10月21日出願の日本特許出願(特願2021-172658号)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0163】
本発明の方法を実施することによって、例えば、高品質・高性能の芳香族ポリカーボネートを製造するために必要な高純度ジフェニルカーボネートが、熱使用量を削減し、且つ、触媒の補充量を抑制できる状態で、1時間当り1トン以上、好ましくは2トン以上、さらに好ましくは3トン以上の工業的規模で製造できる。しかもハロゲン含有量が0.1ppm以下であり、好ましくは10ppb以下であり、さらに好ましくは1ppb以下であり、またジフェニルカーボネートより高沸点の不純物が100ppm以下であり、好ましくは50ppm以下であり、より好ましくは10ppm以下である高純度ジフェニルカーボーネートが、長期間、例えば2000時間以上、好ましくは3000時間以上、さらに好ましくは5000時間以上、安定的に製造できる。したがって、本発明は高純度ジフェニルカーボネートの工業的製造方法として極めて優れた効果のある方法である。
【符号の説明】
【0164】
(
図1)1:ガス抜出し口、2:液抜出し口、3-aから3-e:導入口、4-aから4-b:導入口、5:鏡板部、6:インターナル、7:胴体部分、10:連続多段蒸留塔、L
0:胴部長さ(cm)、D
0:胴部内径(cm)、d
01:ガス抜出し口の内径(cm)、d
02:液抜出し口の内径(cm)
(
図2、
図3及び
図4)1:ガス抜出し口、2:液抜出し口、3:導入口、4:導入口、5:鏡板部、L
1及びL
2:胴部長さ(cm)、D
1及びD
1:胴部内径(cm)、d
11及びd
21:ガス抜出し口内径(cm)、d
12及びd
22:液抜出し口内径(cm)、101:第1連続多段蒸留塔、201:第2連続多段蒸留塔、11、12、21:導入口、13、23:塔頂ガス抜出し口、14、24、18,28:熱交換器、17、27:塔底液抜出し口、16、26:塔頂成分抜出し口、31:第2連続多段蒸留塔塔底成分抜出し口
(
図5)A1、B1:導入口、B2:抜出し口、11:高沸点物質分離塔Aの塔底成分抜出し口、13、23:塔頂ガス抜出し口、14、24、18、28、:熱交換器、15、25:還流液導入口、16:高沸点物質分離塔Aの塔頂成分抜出し口、17、27:塔底液抜出し口、26:ジフェニルカーボネート精製塔Bの塔頂成分抜出し口、31:ジフェニルカーボネート精製塔Bの塔底成分抜出し口、33:ジフェニルカーボネート精製塔Bのサイドカット成分抜出し口