(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-17
(45)【発行日】2025-04-25
(54)【発明の名称】電池制御装置、電池制御方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/3828 20190101AFI20250418BHJP
G01R 31/374 20190101ALI20250418BHJP
G01R 31/378 20190101ALI20250418BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20250418BHJP
H01M 10/44 20060101ALI20250418BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20250418BHJP
【FI】
G01R31/3828
G01R31/374
G01R31/378
H01M10/48 P
H01M10/44 P
H02J7/00 Q
(21)【出願番号】P 2023575092
(86)(22)【出願日】2022-11-24
(86)【国際出願番号】 JP2022043363
(87)【国際公開番号】W WO2023139921
(87)【国際公開日】2023-07-27
【審査請求日】2024-07-16
(31)【優先権主張番号】P 2022008150
(32)【優先日】2022-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】尹 翔至
【審査官】島▲崎▼ 純一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-333447(JP,A)
【文献】特開2021-97447(JP,A)
【文献】特開2017-112754(JP,A)
【文献】特開2000-147075(JP,A)
【文献】特開2004-22322(JP,A)
【文献】特開2005-69889(JP,A)
【文献】特開2019-170010(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-2284355(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/3828
G01R 31/374
G01R 31/378
H01M 10/48
H01M 10/44
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池の充電後に放電が行われたときの前記二次電池の開回路電圧を検出する電圧検出部と、
前記二次電池の充放電履歴に基づいて、メモリー効果による前記開回路電圧の低下量を推定する制御部と、を備え
、
前記制御部は、前記充電による前記二次電池の充電量と、前記放電による前記二次電池の放電量と、の差分を算出し、前記差分が所定の閾値以下の場合は、前記二次電池の充放電回数に基づいて前記開回路電圧の低下量を推定する電池制御装置。
【請求項2】
請求項
1に記載の電池制御装置において、
前記制御部は、
前記差分が0以上かつ前記閾値以下の場合は、前記充放電回数に基づく基準電圧値と、前記閾値に対する前記差分の比と、に基づいて、前記開回路電圧の低下量を推定し、
前記差分が0未満の場合は、前記開回路電圧の低下量が前記基準電圧値であると推定する電池制御装置。
【請求項3】
請求項
2に記載の電池制御装置において、
前記制御部は、前記差分が0以上かつ前記閾値以下の場合に、以下の式に基づいて前記開回路電圧の低下量を推定し、
ΔOCV=a×{1-(c-d)/t}
ただし、ΔOCVは前記開回路電圧の低下量、aは前記基準電圧値、cは前記充電量、dは前記放電量、tは前記閾値をそれぞれ表す電池制御装置。
【請求項4】
請求項
2または
3に記載の電池制御装置において、
前記制御部は、
前記充放電回数が所定の基準回数以下の場合は、所定の係数に前記充放電回数を乗じた値を前記基準電圧値とし、
前記充放電回数が前記基準回数よりも大きい場合は、前記基準電圧値を一定とする電池制御装置。
【請求項5】
請求項
1から請求項
3のいずれか一項に記載の電池制御装置において、
前記制御部は、前記差分が前記閾値よりも大きい場合は、前記開回路電圧の低下量が0であると推定する電池制御装置。
【請求項6】
請求項
1から請求項
3のいずれか一項に記載の電池制御装置において、
前記閾値は、10~20[Ah]である電池制御装置。
【請求項7】
請求項
1から請求項
3のいずれか一項に記載の電池制御装置において、
前記制御部は、前記二次電池の電圧が所定の放電終止電圧となるまで前記二次電池が放電されると、前記充放電回数を0にリセットする電池制御装置。
【請求項8】
請求項1から請求項
3のいずれか一項に記載の電池制御装置において、
前記二次電池は、正極に水酸化ニッケル、負極に亜鉛をそれぞれ用いた亜鉛二次電池である電池制御装置。
【請求項9】
二次電池の充放電履歴を記憶し、
前記二次電池の充電後に放電が行われたときの前記二次電池の開回路電圧を検出し、
前記充電による前記二次電池の充電量と、前記放電による前記二次電池の放電量と、の差分を算出し、
前記差分が所定の閾値以下の場合は、前記二次電池の充放電回数に基づいて、メモリー効果による前記開回路電圧の低下量を推定し、
推定した前記開回路電圧の低下量に基づいて、前記二次電池を制御する電池制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池を制御する装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、安価で安全な二次電池として、ニッケル水素電池等が広く利用されている。また近年では、従来のリチウムイオン電池に替わる二次電池として、高エネルギー密度で高い安全性を有する亜鉛二次電池の開発も進められている。これらの二次電池では、リチウムイオン電池と比べてメモリー効果が大きく、そのため放電深度が0%よりも大きい状態で充放電を繰り返すと、メモリー効果によって電池電圧の低下が生じるという課題があることが知られている。
【0003】
メモリー効果の抑制に関して、例えば特許文献1の技術が知られている。特許文献1には、NiO6八面体とPO4四面体で構成される結晶構造を有するH2NiP2O7を正極活物質に用いることで、メモリー効果の発生を抑制するようにしたニッケル水素電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のニッケル水素電池では、メモリー効果の発生を抑制して電池電圧の低下を抑えることができるが、電池電圧の低下を完全に防ぐことができるわけではない。そのため、電池電圧から放電深度を正確に推定することが困難となり、二次電池の制御精度の低下を招くおそれがある。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みて、メモリー効果が発生した場合でも二次電池を高精度に制御可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による電池制御装置は、二次電池の充電後に放電が行われたときの前記二次電池の開回路電圧を検出する電圧検出部と、前記二次電池の充放電履歴に基づいて、メモリー効果による前記開回路電圧の低下量を推定する制御部と、を備え、前記制御部は、前記充電による前記二次電池の充電量と、前記放電による前記二次電池の放電量と、の差分を算出し、前記差分が所定の閾値以下の場合は、前記二次電池の充放電回数に基づいて前記開回路電圧の低下量を推定する。
本発明による電池制御方法は、二次電池の充放電履歴を記憶し、前記二次電池の充電後に放電が行われたときの前記二次電池の開回路電圧を検出し、前記充電による前記二次電池の充電量と、前記放電による前記二次電池の放電量と、の差分を算出し、前記差分が所定の閾値以下の場合は、前記二次電池の充放電回数に基づいて、メモリー効果による前記開回路電圧の低下量を推定し、推定した前記開回路電圧の低下量に基づいて、前記二次電池を制御する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、メモリー効果が発生した場合でも二次電池を高精度に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る電池制御装置の概略構成図。
【
図2】メモリー効果による電池電圧低下の概要を示す図。
【
図3】本発明の一実施形態に係る電池制御装置の処理の流れを示すフローチャート。
【
図4】OCV算出処理の詳細を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本発明の一実施形態に係る電池制御装置の概略構成図である。
図1に示す電池制御装置1は、電池2の制御を行うために、電池2と接続して用いられるものである。電池2は充放電可能な二次電池であり、例えば、正極に水酸化ニッケル、負極に亜鉛をそれぞれ用いた亜鉛二次電池や、ニッケル水素電池などを電池2として用いることができる。なお、電池2は単電池であってもよいし、複数の単電池を組み合わせた電池モジュールであってもよい。
【0011】
ここで、本実施形態では電池2として、メモリー効果を有する二次電池を用いた場合を説明する。メモリー効果とは、二次電池の放電深度が最大値と最小値の間の中間深度状態で充放電を繰り返す、いわゆる継ぎ足し充電を行ったときに、前回の放電終了時の電池電圧付近で放電中に電池電圧が急激に低下する現象のことである。こうしたメモリー効果は、正極にニッケルを用いた亜鉛二次電池やニッケル水素電池等の二次電池において、顕著に発生することが知られている。
【0012】
本実施形態の電池制御装置1は、電池2においてメモリー効果が発生した場合でも、以下で説明するような方法により、メモリー効果による電池電圧の低下量を推定し、その推定結果を用いて電池電圧を補正することにより、電池2を高精度に制御するようにしている。本実施形態の電池制御装置1は、
図1に示すように、制御部10、電圧検出部11、電流検出部12、電池温度検出部13、および記憶部14を備えて構成される。
【0013】
電圧検出部11は、電池2の正極と負極の間の電圧を電池電圧として検出し、その検出結果を制御部10へ出力する。電流検出部12は、電池2に流れる充放電電流を検出し、その検出結果を制御部10へ出力する。電池温度検出部13は、電池2の表面温度または電池2付近の部材や空間の温度を電池温度として検出し、その検出結果を制御部10へ出力する。
【0014】
制御部10は、充放電量算出部101、ΔOCV推定部102および電池管理部103の各機能ブロックを有する。制御部10は、例えばマイコンを用いて構成され、所定のプログラムを実行することにより、これらの機能ブロックを実現することができる。なお、マイコンの代わりに、例えばFPGA(Field Programmable Gate Array)等の論理回路を用いて制御部10を構成してもよい。
【0015】
充放電量算出部101は、電流検出部12から入力される充放電電流の検出結果に基づいて、電池2の充放電量を算出する。ΔOCV推定部102は、充放電量算出部101により算出された充放電量に基づいて、メモリー効果による電池2の開回路電圧(OCV)の低下量を表すΔOCVを推定する。なお、これらの処理の具体的な内容については後述する。
【0016】
電池管理部103は、電池2の制御と管理を行う部分であり、例えば、外部からの充放電指令に基づいて電池2の充放電制御を行うとともに、電池2の充電状態(SOC)を求める。具体的には、電池管理部103は、ΔOCV推定部102により推定されたΔOCVの値に基づいて、電池2が充放電状態でないときに電圧検出部11から入力されるOCVの検出結果を補正し、メモリー効果が発生していない場合の電池2本来のOCVの値を求める。そして、補正後のOCVの値と、電流検出部12および電池温度検出部13からそれぞれ入力される充放電電流および電池温度の検出結果とに基づいて、電池2の充電状態を0~100%の値で表したSOCを算出し、その算出結果を外部に通知する。さらにこのとき、算出したSOCの値に基づいて、電池2の充放電制御を必要に応じて行ってもよい。例えば、SOCの値が0%に近づいたときには、充放電指令に関わらず電池2を強制的に充電させるようにする。これ以外にも、任意の方法で電池2の制御と管理を行うことができる。
【0017】
記憶部14は、例えばRAMやフラッシュメモリ等の記憶媒体を用いて構成されており、制御部10の処理で用いられる各種情報を記憶する。例えば、充放電量算出部101により算出された電池2の充放電量や、ΔOCV推定部102により推定されたΔOCVなどが記憶部14に記憶される。制御部10は、これらの情報を記憶部14に読み書きすることで、前述の充放電量算出部101、ΔOCV推定部102および電池管理部103の各機能ブロックを実現することができる。
【0018】
次に、電池制御装置1におけるΔOCVの推定方法について、
図2を参照して説明する。
図2は、メモリー効果による電池電圧低下の概要を示す図である。
図2において、実線で示したグラフ21は、メモリー効果が発生していない場合の電池2のSOCと放電電圧の関係の一例を示している。また、破線で示したグラフ22は、メモリー効果が発生した場合の電池2のSOCと放電電圧の関係の一例を示している。これらのグラフ21,22において、横軸は電池2のSOCの値[%]を表し、縦軸は電池2の放電電圧[V]を表している。
【0019】
図2では、前回の放電終了時における電池2のSOCの値をXで示している。電池2の放電中にSOCの値がこのXに近づくと、メモリー効果の影響によりΔOCVが発生し、グラフ21と比べてグラフ22の放電電圧が次第に低下する。そして、SOCの値がXよりも低くなると、ΔOCVの値が一定値aとなり、さらに放電が進んでSOCの値が所定値Lよりも低くなると、放電電圧が放電終止電圧V
Lに向かって急激に低下することが分かる。
【0020】
ここで、メモリー効果の影響によりΔOCVが発生し始めるSOCの値をX+αとすると、放電電圧の変化の様子から、グラフ22をSOCの値に応じて以下の4つの領域に区分することができる。
・領域R0(X+α≦SOC≦100)
メモリー効果の影響がなく、ΔOCV=0である領域
・領域R1(X≦SOC≦X+α)
メモリー効果の影響により、ΔOCVの値が関数F(x)に従って徐々に拡大する領域
・領域R2(L≦SOC≦X)
放電電圧が略一定で、メモリー効果の影響によりΔOCVの値が一定値aとなる領域
・領域R3(0≦SOC≦L)
ΔOCVの値が一定値aを保った状態で、放電電圧が放電終止電圧VLに向けて急激に低下する領域
【0021】
なお、上記の関数F(x)およびaの値は、メモリー効果による結晶構造の変化を定量的に示した値である。これらの値は、電池2を中間深度状態で繰り返し充放電した回数に依存して変化する。また、領域R3において放電電圧が放電終止電圧VLになるときのグラフ21とグラフ22のSOCの差分bは、電池2が取りうるSOCの範囲に対して微小な値であるため、本実施形態では無視して考えることとする。
【0022】
本実施形態の電池制御装置1では、電池2のSOCの値から、電池2の現在の充放電状態が上記の領域R0~R3のいずれに属するかを判定し、その判定結果に応じてΔOCVの推定方法を切り替える。これにより、電池2の充放電状態が変化してもΔOCVの値を正確に推定できるようにしている。
【0023】
なお、上記の説明では、電池2のSOCの値に応じてΔOCVの推定方法を切り替えることとしたが、電池2の残存容量を用いても同様の処理が可能である。その場合、前回の放電終了時における電池2の残存容量の値を、Xの代わりに使用するとともに、メモリー効果の影響によりΔOCVが発生し始める残存容量の値を、X+αの代わりに使用すればよい。
【0024】
図3は、本発明の一実施形態に係る電池制御装置の処理の流れを示すフローチャートである。電池制御装置1は、制御部10により、
図3のフローチャートに示す処理を所定の処理周期ごとに実行することで、電池2の管理を行う。
【0025】
ステップS10において、制御部10は、電圧検出部11と電流検出部12から電池2の電圧値と電流値をそれぞれ取得する。
【0026】
ステップS20において、制御部10は、ステップS10で取得した電流値に基づいて、電池2が充電中または放電中であるか否かを判定する。電流値が0でない場合は、電池2が充電中または放電中であると判定してステップS30に進み、電流値が0である場合は、電池2が充電中、放電中のいずれでもないと判定してステップS130に進む。
【0027】
ステップS30において、制御部10は、充放電量算出部101により、前回の処理から今回の処理までの期間における電流積算値を算出する。ここでは、例えばステップS10で取得した電流値に所定の処理周期を乗算することで、電流積算値を算出することができる。あるいは、1回の処理期間中に電流値を所定のサンプリング周期ごとに複数回取得し、各電流値にサンプリング周期をそれぞれ乗算して合計することで、電流積算値を算出してもよい。なお、このとき放電側と充電側とで電流積算値を区別できるように、例えば放電側では電流積算値の符号をマイナスとし、充電側では電流積算値の符号をプラスとすることが好ましい。
【0028】
ステップS40において、制御部10は、ステップS30で算出した電流積算値に基づいて、電池2の残存容量を更新する。ここでは、前回の処理で求められた残存容量に対して、ステップS30で算出した電流積算値を加算または減算する。これにより、前回の処理から今回の処理までの期間における電流積算値を反映して、電池2の残存容量を最新の値に更新する。
【0029】
ステップS50において、制御部10は、電池2の充放電状態が放電から充電に切り替えられたか否かを判定する。ここでは、例えば前回の処理で取得した電流値の符号と、今回の処理で取得した電流値の符号とを比較する。その結果、前回の電流値の符号が放電を表すマイナスであり、かつ今回の電流値の符号が充電を表すプラスである場合は、電池2の充放電状態が放電から充電に切り替えられたと判定し、ステップS60に進む。なお、ここでいう放電から充電への切り替えとは、途中に充放電停止状態(電流値が0の状態)を経由して放電から充電に切り替えられた場合も含むものとする。一方、前回の電流値の符号がマイナスではないか、あるいは今回の電流値の符号がプラスではない場合は、電池2の充放電状態が放電から充電に切り替えられていないと判定し、ステップS90に進む。
【0030】
ステップS60において、制御部10は、直前のステップS40で更新された電池2の残存容量を、放電終了時の残存容量として記憶部14に記憶する。なお、ここで記憶される放電終了時の残存容量は、後述するステップS110の処理において利用される。
【0031】
ステップS70において、制御部10は、電池2が放電終止電圧まで放電されたか否かを判定する。ここでは、例えば前回の処理においてステップS10で取得した電圧値が、
図2で説明した前述の放電終止電圧V
Lと一致しているか否かを判定し、一致していれば電池2が放電終止電圧まで放電されたと判定して、ステップS80に進む。一方、一致していなければ電池2が放電終止電圧まで放電されていないと判定し、
図3のフローチャートに示す処理を終了する。
【0032】
ステップS80において、制御部10は、電池2の充放電回数Ncを初期値である0にリセットする。なお、電池2の充放電回数Ncは記憶部14に記憶されており、電池2の充放電状態が充電から放電に切り替えられるたびに1ずつカウントアップされる。ステップS80で電池2の充放電回数Ncを0にリセットしたら、制御部10は
図3のフローチャートに示す処理を終了する。
【0033】
ステップS90において、制御部10は、電池2の充放電状態が充電から放電に切り替えられたか否かを判定する。ここでは、前述のステップS50と同様に、例えば前回の処理で取得した電流値の符号と、今回の処理で取得した電流値の符号とを比較する。その結果、前回の電流値の符号が充電を表すプラスであり、かつ今回の電流値の符号が放電を表すマイナスである場合は、電池2の充放電状態が充電から放電に切り替えられたと判定し、ステップS100に進む。なお、ここでいう充電から放電への切り替えとは、途中に充放電停止状態(電流値が0の状態)を経由して充電から放電に切り替えられた場合も含むものとする。一方、前回の電流値の符号がプラスではないか、あるいは今回の電流値の符号がマイナスではない場合は、電池2の充放電状態が充電から放電に切り替えられていないと判定し、
図3のフローチャートに示す処理を終了する。この場合、電池2は前回の処理から引き続いて充電または放電が行われていることになる。
【0034】
ステップS100において、制御部10は、直前のステップS40で更新した電池2の残存容量を、充電終了時の残存容量として記憶部14に記憶する。
【0035】
ステップS110において、制御部10は、充放電量算出部101により、今回の充電による電池2の充電量cを算出する。ここでは、ステップS100で記憶部14に記憶された直近の充電終了時の残存容量と、ステップS60で記憶部14に記憶された直近の放電終了時の残存容量との差分を算出し、これを電池2の充電量cとする。そして、算出した充電量cを記憶部14に記憶する。
【0036】
ステップS120において、制御部10は、記憶部14に記憶されている電池2の充放電回数Ncを1つカウントアップする。これにより、電池2の充放電状態が充電から放電に切り替えられるたびに、電池2の充放電回数Ncが1つずつカウントアップされるようにする。カウントアップ後の充放電回数Ncを記憶部14に記憶して充放電回数Ncを更新したら、制御部10は
図3のフローチャートに示す処理を終了する。
【0037】
ステップS130において、制御部10は、充放電量算出部101、ΔOCV推定部102および電池管理部103により、OCV算出処理を行う。このOCV算出処理では、前述の
図2で説明した方法によりΔOCVの値を推定し、そのΔOCVの推定値に基づいて、電池2が充電中、放電中のいずれでもないときにステップS10で取得した電圧値、すなわち電池2のOCVの値を補正する。これにより、OCVの値からメモリー効果の影響を除外して、電池2の残存容量に応じたOCVの値を求めるようにする。なお、ステップS130で行われるOCV算出処理の詳細については、後で
図4のフローチャートを参照して説明する。
【0038】
ステップS140において、制御部10は、電池管理部103により、ステップS130のOCV算出処理によって求められた補正後のOCVに基づいて、電池2の残存容量を算出する。ここでは、例えば予め設定されたOCVと残存容量との関係式を用いて、補正後のOCVに対応する残存容量を求めることができる。なお、一般にOCVと残存容量との関係式は、電池2の温度や、OCVを検出する直前の電流の大きさなどの運転条件に応じて変化する。そのため、電池温度検出部13から取得される電池温度や、電流検出部12から取得される直前の電流値などに基づいて、ステップS140の処理で使用するOCVと残存容量との関係式を使い分けることが好ましい。こうして補正後のOCVに基づく残存容量を算出できたら、制御部10は
図3のフローチャートに示す処理を終了する。
【0039】
図4は、
図3のステップS130で実行されるOCV算出処理の詳細を示すフローチャートである。
【0040】
ステップS210において、充放電量算出部101は、電池2のOCVを検出する。ここでは、
図3のステップS10で電圧検出部11から取得した電圧値により、電池2のOCVを検出することができる。
【0041】
ステップS220において、充放電量算出部101は、今回の放電による電池2の放電量dを算出する。ここでは、
図3のステップS100で記憶部14に記憶された直近の充電終了時の残存容量と、ステップS40で更新した直近の残存容量との差分を算出し、これを電池2の放電量dとする。そして、算出した放電量dを記憶部14に記憶する。
【0042】
ステップS230において、ΔOCV推定部102は、
図3のステップS110で記憶部14に記憶された直前の充電量cと、ステップS220で算出した放電量dとの差分c-dを算出する。
【0043】
ステップS240において、ΔOCV推定部102は、ステップS230で算出した充電量cと放電量dの差分c-dが所定の閾値t以下であるか否かを判定する。差分c-dが閾値t以下である場合はステップS250に進み、閾値tより大きい場合は、電池2の現在の充放電状態が
図2で説明した領域R0~R3のうち領域R0に属するものと判定して、ステップS290に進む。このステップS240の判定処理で用いられる閾値tは、前回の放電終了時における電池2の残存容量を基準に、メモリー効果の影響によって放電中にΔOCVの値が徐々に拡大し始める領域の範囲を表している。これは、領域R0と領域R1の境界を定めるSOCの値αに対応するものである。
【0044】
なお、上記の閾値tは、電池2を用いて事前に取得された実測データやシミュレーション結果などに基づき、電池制御装置1において予め設定しておくことができる。具体的には、例えば10~20[Ah]、好ましくは15[Ah]程度の値を、閾値tとして設定可能であることが実験により判明した。
【0045】
ステップS250において、ΔOCV推定部102は、記憶部14に記憶されている充放電回数Ncの値に基づいて、基準電圧値aを算出する。基準電圧値aとは、
図2に示した領域R2において一定となるΔOCVの値に相当する。ここでは、例えば以下の式(1)により、基準電圧値aを演算する。
a=p×Nc ・・・(1)
【0046】
式(1)において、pは所定の係数を表し、これは充放電回数Ncと基準電圧値aの比に相当する。ただし、充放電回数Ncが所定の基準回数Nr(例えばNr=15)以上の場合は、Nc=Nrとして、基準電圧値aを一定とする。また、係数pは電池2の特性等に応じて予め設定することができ、例えばp=0.0033である。
【0047】
ステップS260において、ΔOCV推定部102は、ステップS230で算出した充電量cと放電量dの差分c-dが0以上であるか否かを判定する。差分c-dが0以上である場合は、電池2の現在の充放電状態が領域R1に属するものと判定し、ステップS270に進む。一方、差分c-dが0未満である場合は、電池2の現在の充放電状態が領域R2またはR3に属するものと判定し、ステップS280に進む。
【0048】
ステップS270において、ΔOCV推定部102は、ステップS230で算出した差分c-dと、ステップS240の判定処理に用いた閾値tと、ステップS250で算出した基準電圧値aと、に基づき、以下の式(2)により、ΔOCVを算出する。
ΔOCV=a×{1-(c-d)/t} ・・・(2)
【0049】
電池2の現在の充放電状態が領域R1に属する場合、メモリー効果の影響によるΔOCVの値は、上記式(2)により算出できる。なお、式(2)は前述の関数F(x)に相当するものである。
【0050】
ステップS280において、ΔOCV推定部102は、ステップS250で算出した基準電圧値aに基づき、以下の式(3)により、ΔOCVを算出する。
ΔOCV=a ・・・(3)
【0051】
電池2の現在の充放電状態が領域R2またはR3に属する場合、メモリー効果の影響によるΔOCVの値は、上記式(3)により算出できる。すなわち、これらの領域では、ΔOCVの値を充放電回数Ncに応じた一定値aとして算出することができる。
【0052】
ステップS290において、ΔOCV推定部102は、以下の式(4)により、ΔOCVを算出する。
ΔOCV=0 ・・・(4)
【0053】
電池2の現在の充放電状態が領域R0に属する場合、メモリー効果の影響が発生していないため、上記式(4)によりΔOCVの値を0として算出できる。
【0054】
ステップS270,S280またはS290でΔOCVの値を算出できたら、ステップS300に進む。ステップS300において、電池管理部103は、算出したΔOCVの値に基づき、以下の式(5)に従ってステップS210で検出したOCVの値を補正することにより、補正後のOCVの値を表すOCV*を算出する。
OCV*=OCV+ΔOCV ・・・(5)
【0055】
ステップS300で補正後のOCVとしてOCV*を算出できたら、制御部10は
図4のフローチャートに示すOCV算出処理を終了し、
図3のステップS140に進む。
【0056】
以上説明した本発明の実施形態によれば、以下のような作用効果を奏する。
【0057】
(1)電池制御装置1は、二次電池である電池2の充電後に放電が行われたときの電池2の開回路電圧(OCV)を検出する電圧検出部11と、電池2の充放電履歴に基づいて、メモリー効果によるOCVの低下量ΔOCVを推定する制御部10とを備える。このようにしたので、メモリー効果が発生した場合でも電池2を高精度に制御することができる。
【0058】
(2)制御部10は、充電による電池2の充電量cと、放電による電池2の放電量dと、に基づいて、ΔOCVを推定する。具体的には、制御部10は、充電量cと放電量dの差分c-dを算出し(ステップS230)、この差分c-dに基づいてΔOCVを推定する(ステップS240~S290)。このようにしたので、現在の電池2の充放電状態に応じてΔOCVを正確に推定することができる。
【0059】
(3)制御部10は、充電量cと放電量dの差分c-dが所定の閾値t以下の場合は(ステップS240:YES)、電池2の充放電回数Ncに基づいてΔOCVを推定する。具体的には、制御部10は、差分c-dが0以上かつ閾値t以下の場合は(ステップS260:YES)、充放電回数Ncに基づく基準電圧値aと、閾値tに対する差分c-dの比と、に基づいて、式(2)によりΔOCVを推定し(ステップS270)、差分c-dが0未満の場合は(ステップS260:NO)、式(3)によりΔOCVが基準電圧値aであると推定する(ステップS280)。このようにしたので、メモリー効果の影響により発生したΔOCVの値を正確に推定することができる。
【0060】
(4)制御部10は、充放電回数Ncが所定の基準回数Nr以下の場合は、式(1)により、所定の係数pに充放電回数Ncを乗じた値を基準電圧値aとし、充放電回数Ncが基準回数Nrよりも大きい場合は、基準電圧値aを一定とする(ステップS250)。このようにしたので、充放電回数Ncに応じて変化するメモリー効果の影響度合いを考慮して、ΔOCVの推定に必要な基準電圧値aを正確に求めることができる。
【0061】
(5)制御部10は、充電量cと放電量dの差分c-dが閾値tよりも大きい場合は(ステップS240:NO)、式(4)によりΔOCVが0であると推定する(ステップS290)。このようにしたので、メモリー効果の影響が生じていない場合には、ΔOCVの値を正しく0と推定することができる。
【0062】
(6)閾値tは、例えば10~20[Ah]である。このようにすれば、メモリー効果の影響によってΔOCVの値が徐々に拡大する領域の範囲を正確に表すことができる。
【0063】
(7)制御部10は、電池2の電圧が所定の放電終止電圧VLとなるまで電池2が放電されると(ステップS70:YES)、充放電回数Ncを0にリセットする(ステップS80)。このようにしたので、電池2のSOCが0%まで放電されるリフレッシュ放電が行われ、これによってメモリー効果によるOCVの低下が解消された場合に、そのことを以降の処理における基準電圧値aの算出に正しく反映して、ΔOCVの正確な推定結果が得られるようにすることができる。
【0064】
(8)電池2は、例えば正極に水酸化ニッケル、負極に亜鉛をそれぞれ用いた亜鉛二次電池である。このようにすれば、高エネルギー密度で高い安全性を有する亜鉛二次電池の使い勝手を向上することができる。
【0065】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で、任意の構成要素を用いて実施可能である。
【0066】
上記の実施形態や変形例はあくまで一例であり、発明の特徴が損なわれない限り、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。また、上記では種々の実施形態や変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0067】
1:電池制御装置
2:電池
10:制御部
11:電圧検出部
12:電流検出部
13:電池温度検出部
14:記憶部
101:充放電量算出部
102:ΔOCV推定部
103:電池管理部