(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-17
(45)【発行日】2025-04-25
(54)【発明の名称】線形掃引光源における非線形性の推定および補償のための周波数変調連続波(FMCW)ベースのシステム
(51)【国際特許分類】
G01S 7/497 20060101AFI20250418BHJP
G01S 13/34 20060101ALI20250418BHJP
G01S 17/34 20200101ALI20250418BHJP
【FI】
G01S7/497
G01S13/34
G01S17/34
(21)【出願番号】P 2024527894
(86)(22)【出願日】2022-04-28
(86)【国際出願番号】 JP2022020750
(87)【国際公開番号】W WO2023017662
(87)【国際公開日】2023-02-16
【審査請求日】2024-01-23
(32)【優先日】2021-08-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ワン,プー
(72)【発明者】
【氏名】ミラー,デイビッド
(72)【発明者】
【氏名】パーソンズ,キーラン
(72)【発明者】
【氏名】オーリック,フィリップ
【審査官】山下 雅人
(56)【参考文献】
【文献】特表2021-515212(JP,A)
【文献】特表2023-511134(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0329031(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0057140(US,A1)
【文献】特開2021-004800(JP,A)
【文献】特開2013-124865(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00-G01S 7/51
G01S 13/00-G01S 13/95
G01S 17/00-G01S 17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数変調連続波(FMCW)ベースのシステムであって、
少なくとも1つの放射波をシーンに送信するように構成されたエミッタを備え、送信波は周波数ドメインにおいて線形変調され、前記線形変調は、前記周波数ドメインにおける前記送信波の非線形性を引き起こす障害を受け、前記システムはさらに、
前記シーン内の1つまたは複数の物体から前記送信波の反射を受信するように構成されたレシーバと、
前記エミッタおよび前記レシーバに動作可能に接続され、前記エミッタによって送信された前記波のコピーと前記レシーバによって受信された前記送信波の前記反射とを干渉させて、前記シーン内の前記1つまたは複数の物体からの反射に対応するスペクトルピークを有するビート信号を生成するように構成されたミキサとを備え、前記ビート信号は、前記障害によって引き起こされた前記変調の前記非線形性に起因して歪んでおり、前記システムはさらに、
前記ミキサに動作可能に接続され、歪んだ前記ビート信号のサンプルを生成するように構成されたアナログ-デジタル変換器(ADC)と、
所定の周波数の信号を通過させるように構成された周波数フィルタとを備え、前記周波数フィルタは、前記エミッタに動作可能に接続され、前記エミッタによって送信された線形変調波を前記所定の周波数で異なる瞬間に通過させて、時間ドメインにおける前記変調波の測定値を生成し、前記システムはさらに、
少なくとも1つのプロセッサを備え、前記プロセッサは、
前記時間ドメインからの前記線形変調波の前記測定値を周波数ドメインに変換して非線形周波数信号を生成するように構成され、前記非線形周波数信号は、望ましい線形変調を表す既知の線形成分と、前記変調の前記非線形性を表す未知の非線形成分とを含み、前記プロセッサはさらに、
前記周波数ドメインにおける前記非線形周波数信号と前記線形周波数成分との差を近似する基底関数の係数を求め、
求めた前記係数を用いて前記基底関数に従って歪みが補償された、歪んだ前記ビート信号の1つまたは複数のスペクトルピークを検出して、前記シーン内の前記1つまたは複数の物体までの1つまたは複数の距離を求めるように構成される、システム。
【請求項2】
前記周波数フィルタによって生成される前記線形変調波の前記測定値のサンプリング周波数は、前記ADCのサンプリング周波数の1000分の1である、請求項1に記載のFMCWベースのシステム。
【請求項3】
前記周波数フィルタは、エタロン信号を生成するエタロンを含み、前記時間ドメインにおける前記サンプルは前記異なる瞬間における前記エタロン信号のピークであるため、前記時間ドメインにおける前記サンプルはスパースになる、請求項1に記載のFMCWベースのシステム。
【請求項4】
前記プロセッサは、
前記エタロンピークの各々のインデックスの関数に基づいて、前記エタロンピークを波長に変換し、
前記エタロンのベース波長およびエタロンの次数に基づいて、前記波長を前記非線形周波数信号に変換するように構成される、請求項3に記載のFMCWベースのシステム。
【請求項5】
線形周波数信号は、すべての前記エタロンピークの中で最大の周波数変化を有するエタロンピークにおける中心周波数の定数項と、2つの隣接する瞬間に測定された2つの隣接するエタロンピーク間の時間間隔にわたる相対周波数変化の時間係数とを有する、時間の線形関数である、請求項4に記載のFMCWベースのシステム。
【請求項6】
歪んだ前記ビート信号の歪みを補償するために、前記プロセッサは、
求めた前記基底関数の前記係数と、前記中心周波数と、前記時間係数とを含む前記非線形周波数信号のパラメータを用いて、補償された歪んだビート信号の近似のコヒーレント和のコスト関数を最大化して、前記送信波の前記反射の時間遅延推定を生成し、
推定された前記時間遅延に基づいて、歪んだ前記ビート信号を補償するように構成される、請求項5に記載のFMCWベースのシステム。
【請求項7】
前記プロセッサは、前記差を最小化する最小二乗問題を解くことによって前記基底関数の前記係数を推定するように構成される、請求項1に記載のFMCWベースのシステム。
【請求項8】
推定された前記基底関数の前記係数は、多項式成分およびピーク瞬間の関数である、請求項7に記載のFMCWベースのシステム。
【請求項9】
歪んだ前記ビート信号の歪みを補償するために、前記プロセッサは、
前記障害によって引き起こされた前記変調の前記非線形性を、前記基底関数の前記係数および未知の位相の位相ドメイン非線形性関数として表し、
デスキューフィルタリングアプローチを使用して、位相ドメインにおける前記位相ドメイン非線形性関数によって引き起こされた前記歪みを補償するように構成される、請求項1に記載のFMCWベースのシステム。
【請求項10】
方法であって、
エミッタが、少なくとも1つの放射波をシーンに送信することを備え、送信波は周波数ドメインにおいて線形変調され、前記線形変調は、前記周波数ドメインにおける前記送信波の非線形性を引き起こす障害を受け、前記方法はさらに、
レシーバが、前記シーン内の1つまたは複数の物体から前記送信波の反射を受信することと、
ミキサが、前記送信波のコピーと受信した前記送信波の前記反射とを干渉させて、前記シーン内の前記1つまたは複数の物体からの反射に対応するスペクトルピークを有するビート信号を生成することとを備え、前記ビート信号は、前記障害によって引き起こされた前記変調の前記非線形性に起因して歪んでおり、前記方法はさらに、
アナログ-デジタル変換器(ADC)が、歪んだ前記ビート信号のサンプルを生成することと、
周波数フィルタが、所定の周波数の信号を通過させることとを備え、前記周波数フィルタは、前記エミッタに動作可能に接続され、前記エミッタによって送信された線形変調波を前記所定の周波数で異なる瞬間に通過させて、時間ドメインにおける前記変調波の測定値を生成し、前記方法はさらに、
前記時間ドメインからの前記線形変調波の前記測定値を周波数ドメインに変換して非線形周波数信号を生成することを備え、前記非線形周波数信号は、望ましい線形変調を表す既知の線形成分と、前記変調の前記非線形性を表す未知の非線形成分とを含み、前記方法はさらに、
前記周波数ドメインにおける前記非線形周波数信号と前記線形周波数成分との差を近似する基底関数の係数を求めることと、
求めた前記係数を用いて前記基底関数に従って歪みが補償された、歪んだ前記ビート信号の1つまたは複数のスペクトルピークを検出して、前記シーン内の前記1つまたは複数の物体までの1つまたは複数の距離を求めることとを備える、方法。
【請求項11】
前記周波数フィルタによって生成される前記線形変調波の前記測定値のサンプリング周波数は、前記ADCのサンプリング周波数の1000分の1である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記周波数フィルタは、エタロン信号を生成するエタロンを含み、前記時間ドメインにおける前記サンプルは前記異なる瞬間における前記エタロン信号のピークであるため、前記時間ドメインにおける前記サンプルはスパースになる、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記方法はさらに、
前記エタロンピークの各々のインデックスの関数に基づいて、前記エタロンピークを波長に変換することと、
前記エタロンのベース波長およびエタロンの次数に基づいて、前記波長を前記非線形周波数信号に変換することとを備える、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
線形周波数信号は、すべての前記エタロンピークの中で最大の周波数変化を有するエタロンピークにおける中心周波数の定数項と、2つの隣接する瞬間に測定された2つの隣接するエタロンピーク間の時間間隔にわたる相対周波数変化の時間係数とを有する、時間の線形関数である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
歪んだ前記ビート信号の歪みを補償するために、前記方法はさらに、
求めた前記基底関数の前記係数と、前記中心周波数と、前記時間係数とを含む前記非線形周波数信号のパラメータを用いて、補償された歪んだビート信号の近似のコヒーレント和のコスト関数を最大化して、前記送信波の前記反射の時間遅延推定を生成することと、
推定された前記時間遅延に基づいて、歪んだ前記ビート信号を補償することとを備える、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記方法はさらに、前記差を最小化する最小二乗問題を解くことによって前記基底関数の前記係数を推定することを備える、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
推定された前記基底関数の前記係数は、多項式成分およびピーク瞬間の関数である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
歪んだ前記ビート信号の歪みを補償するために、前記方法はさらに、
前記障害によって引き起こされた前記変調の前記非線形性を、前記基底関数の前記係数および未知の位相の位相ドメイン非線形性関数として表すことと、
デスキューフィルタリングアプローチを使用して、位相ドメインにおける前記位相ドメイン非線形性関数によって引き起こされた前記歪みを補償することとを備える、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して周波数変調連続波(FMCW)ベースのシステムに関し、特に線形掃引光源における非線形性の推定および補償のためFMCWベースのシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
可聴、無線、および光周波数範囲における線形掃引光源は、高分解能、低ハードウェアコスト、および軽量信号処理で反射体のレンジ(たとえば距離)を推定するために使用されている。周波数変調連続波(FMCW)レーダ、光周波数ドメイン反射測定(OFDR)、および波長掃引型光干渉断層撮影(SS-OCT)は、線形掃引光源の典型的なアプリケーションである。複数回の掃引と組み合わせることで、FMCWベースのセンシングシステムは、反射体のレンジおよび(視線)速度を同時に推定することができる。レンジおよび速度の推定に加えて、FMCWベースのセンサのアレイを使用すれば反射体の方位角方向を推定することができる。
【0003】
たとえば、FMCWレーダは、線形に周波数変調された連続波を送信し、その周波数パターンは、時間に対して鋸歯状または三角パターンに従う。さまざまな対象物からの反射信号が局部発振器信号と混合されて、送信信号の生成、アナログビート信号の生成、およびアナログ-デジタル変換器(ADC)を介したデジタルビート信号の出力のために使用される。ビート信号の周波数は物体の距離に比例するため、ビート信号の標準的な高速フーリエ変換(FFT)を使用してピークを特定し、距離を推定することができる。移動物体の場合、ビート信号の周波数はFMCWレーダと物体との間の視線速度にも依存する。この速度は、複数回の線形FM走査にわたる2回目のFFTによって推定することができる。
【0004】
OFDR干渉計も同様に、2つの光信号間の光干渉によって生成されるビート信号を提供する。一方の参照信号は線形チャープされた高コヒーレント光源から生じ、他方は被試験ファイバの光路からの反射または後方散乱光から得られる。結果として生じる干渉信号は、波長可変レーザ光源(TLS)の光周波数の関数として収集される。そしてFFTを使用して、この周波数ドメイン情報が空間情報に変換される。
【0005】
同様に、SS-OCTは、線形周波数掃引レーザを使用して、高精度レンジ分解能測定をイメージングアプリケーションに提供する。高速な掃引速度および狭い瞬時線幅で広い周波数範囲を走査する波長可変レーザ光源を用いて、SS-OCTは、反射光信号と定常参照信号との間の干渉信号の周波数スペクトルから、1回の軸方向走査ですべてのレンジ情報を取得する。
【0006】
3つのアプリケーションすべてに関連する1つの共通課題は、掃引光源が完全には線形変調されない場合、レンジ分解能が低下することである。光源の非線形性は、レーザ光源の非線形チューニングおよび位相ノイズ、低コストの電圧制御発振器(VCO)の障害、ならびにレーザ光源の温度感度に起因し得る。非線形性によってビート信号のスペクトルが広がり、したがって空間分解能および感度が悪くなる。また、非線形性効果はレンジに依存し、すなわち、測定距離が短いほど小さく、測定距離が長いほど大きい。
【0007】
現行技術の計算方法は、非線形性補正を達成するために既知の参照ブランチを使用する。具体的には、変調光源の未知の非線形性は、レンジ推定における未知のシフトを引き起こすため、推定システム全体が過小判定される。そのために、既知の距離の専用経路を使用して、レンジ推定から少なくとも1つの未知数を取り除き、変調の非線形性を推定するシステムもある。しかしながら、専用経路を使用するには追加のハードウェアリソースが必要であるため、アプリケーションによっては望ましくなく、システム全体のコストが増大する。
【発明の概要】
【0008】
したがって、本開示の目的は、線形掃引光源における非線形性を推定および克服するように構成された、コスト効率の良いFMCWベースのシステムを実現することである。
【0009】
いくつかの実施形態は、参照アームが必要な理由の1つは高周波信号のサンプリングに起因する、という認識に基づいている。FMCWベースのシステムは、高周波数で周波数変調およびスペクトル測定を探求する。しかしながら、このような高周波数での信号のサンプリングは非常に高コストである。
【0010】
そのために、さまざまなFMCWベースのシステムは、より低い周波数のビート信号を測定に使用している。たとえば、FMCWベースのシステムの測定アームは、送信信号と反射とを混合してビート信号を生成する。同様に、参照アームは、その遅延コピーと既知の遅延とを混合して非線形性補償のための別のビート信号を生成する。ビート信号を生成するためのハードウェアコンポーネントは精密な製造および組み立てが必要であるため、比較的高コストである。
【0011】
いくつかの実施形態は、光源変調信号の非線形性を補償するためには、変調信号と既知の遅延コピーとを混合した後のビート信号ではなく、変調信号自体を測定することが望ましい、という認識に基づいている。このような測定であれば、専用の参照アームを構築する必要がなく、変調信号の経路上にセンサを配置するだけで済む。しかしながら、既知の遅延を有する専用経路の構築、ミキサ、および高周波変調信号のサンプリングのコストは、このアプローチを非現実的にする。
【0012】
いくつかの実施形態は、FMCWベースのシステムにおける送信信号の変調に起因して、異なる瞬間において変調信号は異なる周波数を有する、という認識に基づいている。したがって、特定の周波数のみを通過させる周波数フィルタが変調信号の経路上に配置される場合、この周波数フィルタの出力はサンプリングに類似していると見なすことができる。しかしながら、これらの出力は非常にスパースであり、一般に非線形性補償に適していない。
【0013】
たとえば、エタロンは2つの反射ガラス板を有する装置であり、通常、エタロンが生成する干渉を利用して光のわずかな波長差を測定するために使用される。しかしながら、エタロンは周波数フィルタとして機能することができ、エタロンの屈折率および当該板の間の距離が通過波長を支配する。有利なことに、エタロンは低コストであり、すなわち参照アームよりも製造コストが安い。しかしながら、エタロンのような周波数フィルタのサンプリング特性はスパースである。本明細書において使用するスパースサンプリングとは、周波数ドメインにおける送信波の変調周波数の少なくとも1000分の1のサンプリング周波数でのサンプリングである。たとえば、参照アームのサンプリング周波数が900MHzである場合、通過波長のエタロンピークは12.5usごとに報告され、これはわずか80kHzのサンプリング周波数に相当する。
【0014】
そのために、スパースサンプリングされた線形変調信号を非線形性補償のために使用するシステムおよび方法が必要である。いくつかの実施形態は、時間ドメインにおいてスパースサンプリングされた信号が周波数ドメインに変換されると、その変換された非線形周波数信号は、望ましい線形変調を表す既知の線形成分と、望ましくない変調の非線形性を表す未知の非線形成分とを有する、という認識に基づいている。したがって、望ましくない変調の非線形性は、周波数ドメインにおける非線形周波数信号と線形変調に対応する線形周波数信号との差に基づいて回復することができる。
【0015】
このような回復は、計算コストが高い不良設定問題である。しかしながら、いくつかの実施形態は、未知の非線形周波数信号が既知の基底関数の未知の係数で近似される場合、回復を単純化することができる、という認識に基づいている。このような定式化において、変調の非線形性は、周波数ドメインにおける非線形周波数信号と線形変調に対応する線形周波数信号との差を近似する基底関数の係数によって定義される。たとえば、基底関数の係数は、この差を最小化する最小二乗問題を解くことによって求めることができる。
【0016】
さらに、いくつかの実施形態は、周波数ドメインにおける非線形性の推定が、時間ドメインにおけるサンプルから変換された周波数信号の計算推定として定式化される場合、時間ドメインにおけるサンプリングレートの低下は非線形性の推定精度にほとんど影響を及ぼさない、という実験によって証明された認識に基づいている。このような理解は、いくつかの実施形態が、FMCWベースのシステムに関するハードウェア要件をさらに簡略化することを可能にする。たとえば、いくつかの実施形態では、時間ドメインにおけるサンプリングはスパースであるため、たとえば、周波数ドメインにおける送信波の変調周波数の1000分の1であるため、時間ドメインセンサのコストが削減される。
【0017】
いくつかの実施形態は、変調信号の経路上に直接配置することができる光学フィルタを使用する。たとえば、一実施形態において、光学フィルタは、エタロン信号を生成するエタロンを含み、時間ドメインにおけるサンプルは異なる瞬間におけるエタロン信号のピークであるため、時間ドメインにおけるサンプルはスパースになる。具体的には、エタロンは、小さな固定距離を隔てた2つの屈折板またはミラーを含む光学干渉計と見なすことができる。エタロンの屈折率および当該板の間の距離が通過波長を支配する。
【0018】
エタロンでは、入射光場が強度を増すにつれて2つのミラー間の媒体の屈折率が増加し、その結果、エタロンの透過ピークが他の波長にシフトし、したがって周波数掃引が行われる。したがって、エタロン信号のピークを時間ドメインにおいてサンプリングすることで、異なる瞬間に対してスパースサンプリングされるスパース信号を得ることができる。しかしながら、このようなスパースサンプリングされた信号であっても、いくつかの実施形態の原理に従う変調の非線形性の補償には十分である。
【0019】
したがって、一実施形態は周波数変調連続波ベースのシステムを開示し、上記システムは、少なくとも1つの放射波をシーンに送信するように構成されたエミッタを含み、送信波は周波数ドメインにおいて線形変調され、上記線形変調は、上記周波数ドメインにおける上記送信波の非線形性を引き起こす障害を受ける。上記FMCWベースのシステムはさらに、上記シーン内の1つまたは複数の物体から上記送信波の反射を受信するように構成されたレシーバと、上記エミッタおよび上記レシーバに動作可能に接続され、上記エミッタによって送信された上記波のコピーと上記レシーバによって受信された上記送信波の上記反射とを干渉させて、上記シーン内の上記1つまたは複数の物体からの反射に対応するスペクトルピークを有するビート信号を生成するように構成されたミキサとを含み、上記ビート信号は、上記障害によって引き起こされた上記変調の上記非線形性に起因して歪んでおり、上記FMCWベースのシステムはさらに、上記ミキサに動作可能に接続され、歪んだ上記ビート信号のサンプルを生成するように構成されたアナログ-デジタル変換器(ADC)と、所定の周波数の信号を通過させるように構成された周波数フィルタとを含み、上記周波数フィルタは、上記エミッタに動作可能に接続され、上記エミッタによって送信された線形変調波を上記所定の周波数で異なる瞬間に通過させて、時間ドメインにおける上記変調波形の測定値を生成する。上記FMCWベースのシステムはさらに、少なくとも1つのプロセッサを含み、上記プロセッサは、上記時間ドメインからの上記線形変調波の上記測定値を周波数ドメインに変換して非線形周波数信号を生成するように構成され、上記非線形周波数信号は、望ましい線形変調を表す既知の線形成分と、上記変調の上記非線形性を表す未知の非線形成分とを含み、上記プロセッサはさらに、上記周波数ドメインにおける上記非線形周波数信号と上記線形周波数成分との差を近似する基底関数の係数を求め、求めた上記係数を用いて上記基底関数に従って歪みが補償された、歪んだ上記ビート信号の1つまたは複数のスペクトルピークを検出して、上記シーン内の上記1つまたは複数の物体までの1つまたは複数の距離を求めるように構成される。
【0020】
したがって、別の実施形態は方法を開示し、上記方法は、エミッタが、少なくとも1つの放射波をシーンに送信することを含み、送信波は周波数ドメインにおいて線形変調され、上記線形変調は、上記周波数ドメインにおける上記送信波の非線形性を引き起こす障害を受け、上記方法はさらに、レシーバが、上記シーン内の1つまたは複数の物体から上記送信波の反射を受信することと、ミキサが、上記送信波のコピーと受信した上記送信波の上記反射とを干渉させて、上記シーン内の上記1つまたは複数の物体からの反射に対応するスペクトルピークを有するビート信号を生成することとを含み、上記ビート信号は、上記障害によって引き起こされた上記変調の上記非線形性に起因して歪んでおり、上記方法はさらに、アナログ-デジタル変換器(ADC)が、歪んだ上記ビート信号のサンプルを生成することと、周波数フィルタが、所定の周波数の信号を通過させることとを含み、上記周波数フィルタは、上記エミッタに動作可能に接続され、上記エミッタによって送信された線形変調波を上記所定の周波数で異なる瞬間に通過させて、時間ドメインにおける上記変調波の測定値を生成する。上記方法はさらに、上記時間ドメインからの上記線形変調波の上記測定値を周波数ドメインに変換して非線形周波数信号を生成することを含み、上記非線形周波数信号は、望ましい線形変調を表す既知の線形成分と、上記変調の上記非線形性を表す未知の非線形成分とを含み、上記方法はさらに、上記周波数ドメインにおける上記非線形周波数信号と上記線形周波数成分との差を近似する基底関数の係数を求めることと、求めた上記係数を用いて上記基底関数に従って歪みが補償された、歪んだ上記ビート信号の1つまたは複数のスペクトルピークを検出して、上記シーン内の上記1つまたは複数の物体までの1つまたは複数の距離を求めることとを含む。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】例示的な実施形態に係る、周波数変調連続波(FMCW)ベースのシステムのブロック図である。
【
図2】例示的な実施形態に係る、FMCWベースのシステムの光学エタロンを示す図である。
【
図3A】例示的な実施形態に係る、FMCWベースのシステムの光学エタロンによって線形掃引光源における非線形性を補償する方法を示す図である。
【
図3B】例示的な実施形態に係る、FMCWベースのシステムの光学エタロンによって線形掃引光源における非線形性を補償する方法を示す図である。
【
図4】例示的な実施形態に係る、FMCWベースの波長掃引型光干渉センシング(SS-OCT)システムとして実現されたFMCWベースのシステムの概略図である。
【
図5】例示的な実施形態に係る、FMCWベースの測距システムとして実現されたFMCWベースのシステムの概略図である。
【
図6】例示的な実施形態に係る、FMCWベースの測距システムによって使用されるFMCW波形を示す概略図である。
【
図7A】例示的な実施形態に係る、FMCWベースのシステムのレシーバを示すブロック図である。
【
図7B】例示的な実施形態に係る、時間ドメインFMCW波形を示す概略図である。
【
図7C】例示的な実施形態に係る、FMCW波形の時間周波数パターンを示す概略図である。
【
図7D】例示的な実施形態に係る、ビート信号の時間ドメイン波形を示す概略図である。
【
図7E】例示的な実施形態に係る、ビート信号の時間周波数パターンを示す概略図である。
【
図8A】例示的な実施形態に係る、非線形性の光源の存在下における送信および反射FMCW波形の時間周波数パターンを示す概略図である。
【
図8B】例示的な実施形態に係る、非線形性の光源の存在下における2つの距離にある2つの反射体についてのビート信号の時間周波数パターンを示す概略図である。
【
図9A】例示的な実施形態に係る、光学エタロンによって生成されたエタロン信号から非線形性の光源を推定する方法を示す図である。
【
図9B】例示的な実施形態に係る、エタロン信号からの推定された非線形性関数を使用して補償されたビート信号をコヒーレントに蓄積することによって遅延および距離を求めるためのコスト関数を示す図である。
【
図10A】例示的な実施形態に係る、光学エタロンによって生成された例示的なエタロン信号を示す図である。
【
図10B】例示的な実施形態に係る、非線形周波数掃引を示す図である。
【
図10C】例示的な実施形態に係る、非線形掃引周波数の線形成分を示す図である。
【
図10D】例示的な実施形態に係る、非線形掃引周波数の非線形成分を示す図である。
【
図11A】例示的な実施形態に係る、参照アームなしのアプローチと参照アームを使用するkサンプリング法とを比較するために実現されたSS-OCTシステムの実験セットアップを示す図である。
【
図11B】例示的な実施形態に係る、測定アームからの時間ドメインビート信号を示す図である。
【
図11C】例示的な実施形態に係る、参照アームからの参照信号を示す図である。
【
図12A】例示的な実施形態に係る、非線形性補償前の測定アームからのビート信号のスペクトルを示す図である。
【
図12B】例示的な実施形態に係る、非線形性補償後の測定アームからのビート信号のスペクトルを示す図である。
【
図13】例示的な実施形態に係る、参照アームがないFMCWベースのシステムの測定プロファイルを示す図である。
【
図14】例示的な実施形態に係る、推定された非線形性関数でビート信号を補正するためのデスキューフィルタリングベースのステップを示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
上記図面はここで開示されている実施形態を示しているが、本明細書で述べるようにその他の実施形態も意図されている。本開示は、説明のための実施形態を、限定のためではなく代表として示す。当業者は、ここに開示されている実施形態の原理の範囲および精神に含まれるその他数多くの改良形および実施形態に想到することが可能である。
【0023】
以下の記載では、説明を目的として、本開示の十分な理解が得られるよう多数の具体的な詳細事項を述べる。しかしながら、本開示はこれらの具体的な詳細事項がなくても実施し得ることが当業者には明らかであろう。その他の場合では、装置および方法を、専ら本開示を曖昧にするのを避けるためにブロック図の形式で示す。
【0024】
本明細書および請求項で使用される「たとえば」、「例として」および「~のような」という用語ならびに「備える」、「有する」、「含む」という動詞およびこれらのその他の動詞形の各々は、1つ以上の構成要素またはその他のアイテムの列挙とともに使用される場合、その列挙がさらに他の構成要素またはアイテムを除外するとみなされてはならないことを意味する、オープンエンドと解釈されねばならない。「~に基づく」という用語は、少なくとも部分的に基づいていることを意味する。さらに、本明細書で使用される文体および術語は、説明のためのものであって限定とみなされてはならないことが理解されるはずである。本明細書で使用されているいかなる見出しも、便宜的なものにすぎず、法的または限定効果を持つものではない。
【0025】
図1は、例示的な実施形態に係る、周波数変調連続波(FMCW)ベースのシステム100のブロック図を示す。FMCWベースのシステム100(以下、「システム100」とも呼ばれる)は、少なくとも1つの放射の線形変調波115(以下、「変調信号115」とも呼ばれる)をシーンに送信するように構成された少なくとも1つのエミッタ110を含む。さまざまな実現例において、エミッタ110は、周波数ドメインにおける波形を線形変調する線形変調器を含む。たとえば、エミッタ110は、FMCW波形を生成する光源構成要素と、電力増幅器と、FMCW波形を媒体に送信するように構成されたアンテナとを含み得る。FMCW波形の変調は、周波数ドメインにおける送信FMCW波の変調の非線形性を引き起こす障害を受ける。たとえば、変調の非線形性は、ハードウェアの経年劣化および/または時間とともに変化する周囲温度によって引き起こされ得る。
【0026】
システム100はさらに、シーン内の異なる位置にある1つまたは複数の物体/反射体から送信波の反射を受信する少なくとも1つのレシーバ120を含む。システム100はまた、エミッタ110およびレシーバ120に動作可能に接続され、エミッタ110によって出力された線形変調波115のコピーとレシーバ120によって受信された送信波の反射125とを干渉(またはビート)させてビート信号135を生成するミキサ130を含む。たとえば、レシーバ120は、受信アンテナと、低雑音増幅器(LNA)と、受信波形(すなわち、送信波の反射125)に光源FMCW波形(すなわち、線形変調波115)を乗ずるミキサ130とを含み得る。
【0027】
ミキサ130によって行われるビートは、2つの周波数、すなわち変調波115のコピーの周波数と送信波の反射125の周波数との差を求めることを含む。このビートにより、ビート周波数で発振するビート信号135が生成され、ビート周波数はこれら2つの周波数の差に対応する。したがって、ビート信号135は、線形変調波115および送信波の反射125よりも周波数がかなり低い。線形変調波115のコピーと送信波の反射125とのビートによって、ビート信号135は、シーンにおける異なる位置からの反射に対応するスペクトルピークを含む。しかしながら、ビート信号135は、変調の非線形性に起因して歪んでいる。この歪みは、ビート信号135のスペクトルピークの広がりおよびシフトのうちの一方または組み合わせを含むまたは引き起こす可能性があり、これはレンジ推定の精度を低下させる。
【0028】
ビート信号135を解析するために、システム100はプロセッサ140を使用する。そのために、ビート信号135はアナログ-デジタル変換器(ADC)160によってサンプリングされる。ADC160はミキサ130に動作可能に接続される。ビート信号135は周波数が低いので、ADC160はビート信号135を容易にサンプリングすることができる。しかしながら、サンプリングされたビート信号135は非線形性に起因して歪んでいる。
【0029】
いくつかの実施形態は、ビート信号135の歪みは、非線形性のタイプだけでなく、線形変調信号115を反射する物体までの距離にも依存する、という認識に基づいている。このように、歪んだビート信号は、変調の非線形性、および反射物体までの距離などの、2種類の未知数に依存する。たとえば、異なる変調の非線形性は、ビート信号135のピークの異なる広がりおよびシフトを引き起こす可能性があり、ビート信号135のピークは、同一の物体からの線形変調信号115の反射によって引き起こされ得る。しかしながら、異なる変調の非線形性は、ビート信号135のピークの同一の広がりおよびシフトを引き起こす可能性があり、ビート信号135のピークは、非線形性の光源から異なる距離にある物体からの変調信号115の反射によって引き起こされ得る。したがって、非線形性の値と物体までの距離の値との異なる組み合わせは同一の歪んだビート信号135をもたらす可能性があるため、歪んだビート信号135の表現は不良設定であり、すなわち過小判定される。
【0030】
しかしながら、いくつかの実施形態は、特定のマルチピーク歪みを引き起こし得る非線形関数は1つしかないため、線形変調信号115の複数の反射に対応する複数のピークを有する歪んだビート信号135の表現は、不良設定問題を良設定問題に、すなわち判定される問題に変換する、という認識に基づいている。具体的には、この認識は、シーンにおけるある位置からの線形変調信号115の反射は、変調の非線形性と、その位置までの距離を示す反射体依存のレンジ/遅延パラメータとの両方に関する情報を持っている、という理解に基づいている。複数の反射Mがある場合、ビート信号135は、M個の遅延パラメータによって特徴付けられるM個の応答と、変調の非線形性の共通光源との和である。
【0031】
いくつかの実施形態は、特定の周波数でサンプリングされた線形変調信号115は、線形変調信号115の変調における非線形性を引き起こす光源を推定するために使用され得、線形変調信号115における非線形性によってミキサ130の出力におけるビート信号135の歪みが生じている、という認識に基づいている。しかしながら、線形変調信号115は(ギガヘルツGHzのオーダの)高周波信号である。このような高周波信号をたとえばADC160を使用してサンプリングすることは、アプリケーションによっては非常に高コストであり得る。
【0032】
いくつかの実施形態は、高周波の線形変調信号115をサンプリングするための周波数フィルタ117として、低コストの受動フィルタ(または光学フィルタ)が使用され得る、という認識に基づいている。さらに、サンプリングされた信号は、線形変調信号115の測定値119を得るために使用され得る。しかしながら、周波数フィルタ117は、非常に低い周波数で、およそADC160のサンプリング周波数の少なくとも1000分の1の周波数で、線形変調信号115をサンプリングし得る。したがって、サンプリングされた信号は時間ドメインにおけるサンプルを含み、これらのサンプルは異なる瞬間におけるサンプリングされた信号のピークであるため、時間ドメインにおけるサンプルはスパースになる。このように、周波数フィルタ117の出力におけるサンプリングされた信号は、サンプルをほとんど含まないか、またはスパースサンプリングされた信号である。
【0033】
いくつかの実施形態は、スパースサンプリングされた信号は光源の非線形性を推定するために使用され得る、という認識に基づいている。本開示では、光源の非線形性の推定は最適化問題として解かれ、周波数フィルタ117から得られるサンプリングされた変調信号と、理想的な線形変調信号と光源の非線形性関数との和との差が、光源の非線形性を正確に推定するために最小化される。さらに、推定された非線形性の光源に基づいて、対応する非線形性がビート信号135において補償され得る。そして、補償されたビート信号135は、シーン内の複数の物体までの距離を正しく求めるために使用され得る。
【0034】
そのために、プロセッサ140は、シーン内の複数の物体までの距離を求めるための非線形性の光源を解決し得る(150)。プロセッサ140はメモリ170に接続され、メモリ170は、シーン内の複数の反射体(または物体)のレンジ情報を推定するためのデータを記憶するように構成される。プロセッサ140は、データをデジタルサンプリングし、処理して、シーン内の複数の反射体のレンジ情報を推定し得る。さらに、複数の反射体の位置をレンダリングするために出力インターフェイスが使用され得る。いくつかの実施形態では、プロセッサ140はさらに、シーン内の複数の反射体の速度情報を推定し得る。
【0035】
具体的には、プロセッサ140は、時間ドメインからの線形変調信号115(またはスパースサンプリングされた信号)の測定値119を周波数ドメインに変換して非線形周波数信号を生成するように構成され得る(151)。変換(またはコンバート)された非線形周波数信号は、望ましい線形変調を表す既知の線形成分と、望ましくない変調の非線形性または非線形性の光源を表す未知の非線形成分とを含む。望ましくない変調の非線形性は、周波数ドメインにおける非線形周波数信号と線形変調に対応する線形周波数信号(または線形周波数成分)との差に基づいて回復され得る。
【0036】
非線形性の光源を計算する複雑さを減少させるために、プロセッサ140はさらに、周波数ドメインにおける非線形周波数信号と線形変調に対応する線形周波数信号との差を近似する基底関数の係数を求めるように構成され得る(152)。このようにして、非線形性の光源が推定され得る。さらに、推定された非線形性は、歪んだビート信号を補償するために使用され得る。プロセッサ140はさらに、求めた係数を用いて基底関数に従って歪みが補償された、歪んだビート信号の1つまたは複数のスペクトルピークを検出して、シーン内の1つまたは複数の物体までの1つまたは複数の距離を求めるように構成されてもよい(153)。
【0037】
いくつかの実施形態では、周波数フィルタ117は光学エタロンを含み得、この光学エタロンは、2つの平行な反射面を含むモノリシック干渉装置である。光学エタロン(ファブリペローエタロンとも呼ばれる)は、間にエアギャップを有する2つのミラーを含む(エアギャップ型エタロン)。光学エタロンをレーザビームに挿入すると、光学エタロンは光共振器(またはキャビティ)として機能する。光共振器において、透過率は光周波数によってほぼ周期的に変化する。共振時には、2つの面からの反射が相殺的干渉によって互いに打ち消し合う。反射損失が最も高く、したがって透過率が最も低くなるのは、反共振時である。光学エタロンの各面の反射率は、単に光学エタロンの材料と空気との間の屈折率の不連続性(フレネル反射)に起因する場合もあれば、誘電体コーティングを用いて変更される場合もある。反射率を高めることにより、自由スペクトル領域を減少させることなく共振を鋭くすることが可能である。このように、光学エタロンは、(共振時に)特定の周波数を通過させ、(反共振時に)他の周波数を反射(または除去)するようにチューニングされ得る、調整可能な光学フィルタである。FMCWベースのシステム100の光学エタロン(ファブリペローエタロン)の一例を、
図2に関して以下に説明する。
【0038】
図2は、例示的な実施形態に係る、FMCWベースのシステム100のファブリペローエタロン200を示す。ファブリペローエタロン200は、拡散光源210と、コリメートレンズ220と、キャビティ230とを含み、キャビティ230は、部分的に反射する、わずかにくさび形の一対のオプティカルフラット230aおよび230bを含む。ファブリペローエタロン200は、集束レンズ240およびスクリーン250をさらに含む。ファブリペローエタロン200の主な構成要素は、一対の部分反射ガラスオプティカルフラット230a,230b(一対のフラットとも呼ばれる)を含むキャビティ230であり、オプティカルフラット230a,230bはマイクロメートル~センチメートルの間隔を置いて配置され、その反射面は互いに対向している。あるいは、ファブリペローエタロン200は、2つの平行な反射面を有する単一のプレートを使用してもよい。一対のフラット230a,230bは反射キャビティを形成する。干渉計のフラット230a,230bは、裏面が干渉縞を生成しないように、くさび形に作られることが多い。また、裏面は反射防止コーティングを有することが多い。
【0039】
ファブリペローエタロン200は、拡散光源210からの光が2つの反射平行面(すなわち、一対のフラット230a,230b)によって囲まれたキャビティ230を通って放射されるときに起きる多重ビーム干渉の現象を利用する。光がこれらの面のうちのいずれかに当たるたびに、光の一部は透過し、残りの部分は反射する。正味の効果は、1つの光ビームが互いに干渉する複数の光ビームに分割されることである。(多重反射に起因する)反射ビームの付加的な光路長が光の波長の整数倍である場合、反射ビームは建設的に干渉する。言い換えれば、キャビティ230内部での反射回数が多いほど、干渉最大値が鋭くなる。
【0040】
さらに、拡散光源210は、コリメートレンズ220の焦点面に設定される。拡散光源210は、照明を提供するために使用される。光源上のある点(点A)から発せられた光は、結像面内の一点に集束される。
図2では、説明を簡単にするために、光源上の点Aから発せられた1本の光線のみをトレースしている。光線は、一対のフラット230a,230bを通過する際に、複数回反射して複数の透過光線を生成し、この透過光線は集束レンズ240によって集光されてスクリーン250上の点A′に到達し得る。一対のフラット230a,230bが存在しない場合、集束レンズ240は光源の反転像を生成し得る。完全な干渉パターンは、一組の同心円のように見える場合があり、これらの円の鋭さは一対のフラット230a,230bの反射率に依存する。
【0041】
ファブリペローエタロン200では、入射光場(すなわち光)が強度を増すにつれてフラット230a,230bの間の媒体(この場合は空気)の屈折率が増加する。その結果、エタロン信号の透過ピークに他の波長へのシフトが生じるようなエタロン信号が生成される。エタロン信号の透過ピークのシフトにより、周波数掃引が行われる。したがって、エタロン信号のピークを時間ドメインにおいてサンプリングすることで、異なる瞬間に対してスパースサンプリングされるスパース信号を得ることができる。上記のファブリペローエタロン200のような光学フィルタは、高周波変調信号115をサンプリングするための周波数フィルタ117として使用することができる。
【0042】
例示的な実施形態では、高周波変調信号115をサンプリングするために、周波数フィルタ117を、マイケルソン干渉計、トワイマン・グリーン干渉計、不等光路レーザ干渉計(LUPI)、またはステップ位相干渉計のうちの少なくとも1つに置き換えてもよい。
【0043】
さらに、非線形性の光源を推定し、推定された非線形性の光源に基づいてビート信号135を補償する方法を、以下に
図3を参照して説明する。
【0044】
図3Aおよび
図3Bは全体として、例示的な実施形態に係る、FMCWベースのシステム100の光学エタロン(ファブリペローエタロン200)によって線形掃引光源における非線形性を補償する方法300を示す。
図3Aおよび
図3Bを
図1および
図2と関連して説明する。
【0045】
ステップ310において、少なくとも1つの放射の線形変調波115(または変調波)がエミッタ110を使用することによってシーンに送信され得、線形変調は、周波数ドメインにおける送信波の非線形性を引き起こす障害を受ける。
【0046】
ステップ320において、シーン内の1つまたは複数の物体からの送信波の反射が、レシーバ120によって受信され得る。
【0047】
ステップ330において、ミキサ130によって、送信波のコピーが受信された送信波の反射で干渉(またはビート)されて、ビート信号135が生成され得る。ビート信号135のスペクトルは、シーン内の1つまたは複数の物体からの反射に対応するスペクトルピークを含む。さらに、ビート信号135は変調の非線形性に起因して歪んでいる。
【0048】
ステップ340において、歪んだビート信号135のサンプルがADC160を使用して生成され得る。
【0049】
ステップ350において、所定の周波数の信号が周波数フィルタ117によって通過され得る。周波数フィルタ117はエミッタ110に動作可能に接続され、エミッタ110によって送信された線形変調波115を所定の周波数で異なる瞬間に通過させて、時間ドメインにおける線形変調波115の測定値を生成する。特に、ファブリペローエタロン200は、エタロン信号の透過ピークに他の波長へのシフトが生じるようなエタロン信号を生成する。エタロン信号の透過ピークのシフトにより、周波数掃引が行われる。したがって、エタロン信号のピークを時間ドメインにおいてサンプリングすることで、異なる瞬間に対してスパースサンプリングされるスパース信号を得ることができる。
【0050】
ステップ360において、線形変調波115の測定値が時間ドメインから周波数ドメインに変換されて、非線形周波数信号が生成され得る。非線形周波数信号は、望ましい線形変調を表す既知の線形成分と、変調の非線形性を表す未知の非線形成分とを含む。
【0051】
ステップ370において、非線形周波数信号と線形周波数成分との差を近似する基底関数の係数が、周波数ドメインにおいて求められ得る。そのために、プロセッサ140は、この差を最小化する最小二乗問題を解くことによって基底関数の係数を推定するように構成され得る。推定された基底関数の係数は、多項式成分およびピーク瞬間の関数であってもよい。
【0052】
ステップ380において、歪んだビート信号135のスペクトルピークの歪みが、基底関数の係数に基づいて補償される。補償されたビート信号はさらに、エミッタ110からの1つまたは複数の物体の距離を求めるために使用され得る。1つまたは複数の物体の距離は、補償されたビート信号135で構成される位相情報に基づいて求められてもよい。
【0053】
FMCWベースのシステム100は、さまざまな実施形態で実現され得る。FMCWベースのシステム100のそのような実現例を、
図4および
図5を参照して以下に説明する。
【0054】
図4は、例示的な実施形態に係る、FMCWベースの波長掃引型光干渉センシング(SS-OCT)システム400として実現されたFMCWベースのシステム100の概略図を示す。いくつかの実現例において、波長掃引型OCTシステムは、参照アームと、サンプルアームと、光検出器とを含む。光は、パターン411のような時間周波数パターンを有する周波数掃引(または波長掃引)レーザ光源410から生成され、ビームスプリッタ420によって参照ミラー430および対象サンプル440(以下、「サンプル440」とも呼ばれる)の両方に分割される。サンプル440からの後方散乱および反射光は、パターン412のような時間周波数パターンを有する参照ミラー430からの反射で干渉(またはビート)される。さらに、ビート信号451が検出器450によって検出される。固定掃引率の場合、異なるビート周波数は、異なる遅延、またはサンプル440における異なる深さからの反射に対応する。したがって、フーリエ変換を適用することにより、ビート信号451は、スペクトルピーク周波数が距離に対応するビート周波数スペクトル460を生成することができる。いくつかの実施形態では、干渉信号460に基づいて、反射の大きさ対深さの軸方向プロファイルが得られる。x-y走査と併せて、複数の軸方向走査を使用して2Dおよび3Dの包括的な体積データセットが作成され得、このデータセットは、任意の断面画像、任意の軸に沿った投影、または磁気共鳴イメージング(MRI)もしくはコンピュータ断層撮影(CT)と同様のレンダリングを構成するために使用され得る。
【0055】
図5は、例示的な実施形態に係る、FMCWベースの測距システム500として実現されたFMCWベースのシステム100の概略図を示す。FMCWベースの測距システム500は、異なる実施形態に従って、少なくとも1つの反射体540に波形を出力し、反射波形を受信し、反射波形と送信波形とを混合し、ビート信号を生成する。ビート信号は、送信変調波よりも周波数が低い。したがって、ビート信号はアナログ-デジタル変換器を使用してサンプリングされる。さらに、推定に基づいて、サンプリングされたビート信号の非線形性が補償される。
【0056】
FMCWベースの測距システム500は、短期間にわたって周波数(たとえば、自動車レーダ用の[77,81]GHz)を掃引するFMCW光源510を含む。光源FMCW波形は、ベースバンドFMCW波形(たとえば[-2,2]GHz)と、ベースバンドFMCW波形を搬送波周波数(たとえば79GHz)に変調するアップコンバータとによって生成され得る。光源FMCW波形は、電力増幅器520によってさらに増幅されてから、送信アンテナ530に供給され得る。送信アンテナ530は、光源FMCW波形をシーンに向けて送信して、潜在的な少なくとも1つの反射体540を検出する。少なくとも1つの反射体540からの反射波形が受信アンテナ550によって捕捉される。受信波形はさらにLNA560を通過して、信号対雑音比(SNR)を高め得る。さらに、受信波形はミキサ570によって光源FMCW波形と混合される。その結果、ビート信号571が生成され、ビート信号571はさらに処理されて、ビート信号における非線形性が推定され、推定された非線形性が補償され得る。したがって、FMCWベースの電磁センシングシステム500の感度が改善される。
【0057】
図6は、例示的な実施形態に係る、FMCWベースの測距システム600によって使用されるFMCW波形を示す概略図である。走査の場合、FMCW(送信)波形は、期間Tにわたる線形周波数パターン610と、620と同様の時間ドメイン波形とを有する。さらに、FMCW波形の送信周波数fは、帯域幅Bにわたって掃引する。走査の場合、FMCWベースの測距600システムは複数の反射体の距離を検出することができ、これら複数の反射体は静止していてもよい。
【0058】
例示的な実施形態では、レシーバ120自体がミキサ130およびADC170を含む。したがって、レシーバ120は送信波125の反射を受信すると、ミキサ130を使用してビート信号135を生成し、さらにADC170を使用してビート信号135をサンプリングして、プロセッサ140によるさらなる解析のためにビート信号135をアナログドメインからデジタルドメインに変換し得る。ビート信号135を解析するように構成された例示的なレシーバを、
図7Aを参照して以下に説明する。
【0059】
図7Aは、例示的な実施形態に係る、FMCWベースのシステム100のレシーバ120を示すブロック図である。この実施形態では、アナログ-デジタル変換器(ADC)710は、アナログビート信号135をサンプリングしてデジタルビート信号にする。デジタルビート信号はさらに、フーリエ変換器(FFT)720によって周波数ドメインに変換される。その結果、レンジドメインにわたる反射エネルギー分布を記述する、周波数にわたるビート信号135のスペクトル730が得られる。いくつかの強反射体のレンジ情報を求めるために、それらに対応するピーク周波数が特定され得る。ピークは、ビート信号135における非線形性を引き起こす送信波(または変調波115)の障害に起因して歪んでいる場合がある。非線形性の光源が推定され、推定された非線形性の光源に基づいてビート信号135が補償される。さらに、補償されたビート信号は、反射体に関連付けられた距離情報740を求めるために使用される。
【0060】
さらに、線形変調波115(またはFMCW波)およびビート信号135の時間ドメイン波形および時間周波数パターンを、
図7B、
図7C、
図7D、および
図7Eを参照して以下に解析する。
【0061】
図7Bは、例示的な実施形態に係る、時間ドメインFMCW波形620を示す概略図である。
図7Cは、例示的な実施形態に係る、FMCW波形の時間周波数パターン610を示す概略図である。
図7Dは、例示的な実施形態に係る、ビート信号760の時間ドメイン波形を示す概略図である。ビート信号760の時間ドメイン波形は、送信波形と反射波形とを混合することによって得られる。
図7Dにおいて、送信波形は変調信号115に対応し、反射波形は送信波の反射125(すなわち変調信号115)に対応する。
図7Eは、例示的な実施形態に係る、ビート信号の時間周波数パターンを示す概略図である。送信機から1つの反射体までの往復遅延に起因して、反射FMCW波形の時間周波数パターン750は
図7Cに示すように右にシフトされる。ミキサ130は、
図7Dに示すようなビート信号760を生成する。1つの反射体の場合、ビート信号は、送信機までのこの反射体の距離に対応する1つの周波数において支配的である。言い換えれば、(
図7Eの)ビート信号の時間周波数パターン761は時間軸に平行である。
【0062】
図8Aは、例示的な実施形態に係る、非線形性の光源の存在下における送信および反射FMCW波形の時間周波数パターンを示す概略
図810である。
図8Bは、例示的な実施形態に係る、非線形性の光源の存在下における2つの距離にある2つの反射体についてのビート信号の時間周波数パターンを示す概略
図820である。FMCWベースのセンシングシステムは、ビート信号(たとえばビート信号135)から反射体の距離を求めるために、理想的な線形周波数パターンを必要とする。ハードウェア障害、低コストコンポーネント、および開ループVCOによって引き起こされる光源の非線形性がある場合、時間周波数パターン811は完全に線形ではなくなる。送信機までの距離が異なる2つの反射体の場合、反射信号の時間周波数パターンは次に、対応する往復遅延に従ってシフトされる。たとえば、近い方の反射体の時間周波数パターンは破線812で示されており、遠い方の反射体は破線813で示される時間周波数パターンを有する。2つの異なる反射体からの反射信号の両方が光源信号と混合されると、ビート信号は2つの成分を含み、これらの成分は光源の非線形性に起因して異なる歪みを示す。特に、近い方の反射体は時間周波数パターン821を有するビート信号を提供するのに対し、遠い方の反射体は時間周波数パターン822を有するビート信号を提供する。同一の光源の非線形性であっても、ビート信号のスペクトルに対する効果はレンジに依存する。光源の非線形性関数および反射体のレンジ情報の両方が未知である場合、ビート信号の歪みを軽減することは困難である。
【0063】
さらに、変調信号115における非線形性の光源を推定し、ビート信号115における非線形性を補償する、詳細な(数学的な)解析が行われる。そのために、参照アームがあるFMCWベースのシステム(非線形性を推定する従来の方法)と、参照アームがないFMCWベースのシステム(すなわち、周波数フィルタ117を使用して非線形性を推定する、提案されている方法)との比較解析が行われる。理解しやすくするために、FMCWベースのシステムの1つである(
図4を参照して説明した)SS-OCTシステムを解析に使用する。
例示的な定式化
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
エタロン信号は、粗くサンプリングされた瞬間において光源レーザ波長を追跡する。エタロンでは、入射光場が強度を増すにつれて2つのミラー間の媒体の屈折率が増加し、その結果、エタロンの透過ピークが他の波長にシフトする。エタロンの透過ピークが他の波長にシフトすると、周波数掃引が行われる。透過ピークは、
図10Aに示すように時間ドメイン出力エタロン信号によってトレースすることができる。特に、エタロン信号は、所定の波長で常に一定数のピークを出力する。
【0080】
図9Aは、例示的な実施形態に係る、光学エタロンによって生成されたエタロン信号から非線形性の光源を推定する方法900を示す。
図9Bおよび
図10Aを参照して
図9Aを以下に説明する。
図10Aは、エタロン信号およびエタロン信号からの非線形性関数推定を示す。
図9Bは、例示的な実施形態に係る、エタロン信号からの推定された非線形性関数を使用して補償されたビート信号をコヒーレントに蓄積することによって遅延および距離を求めるためのコスト関数を示す。
図10Aは、例示的な実施形態に係る、光学エタロン(ファブリペローエタロン200など)によって生成された例示的なエタロン信号を示す。
図10Bは、例示的な実施形態に係る、非線形周波数掃引を示す。
図10Cは、例示的な実施形態に係る、非線形掃引周波数の線形成分を示す。
図10Dは、例示的な実施形態に係る、非線形掃引周波数の非線形成分を示す。
【0081】
【0082】
【0083】
図10Aのエタロン信号について、ピークに対応する波長から変換された周波数が
図10Bの赤い点で示されている。
【0084】
【0085】
ステップ940において、中心周波数から2つのピーク間の時間間隔にわたる次の周波数点への相対周波数変化によって、チャープ率αが求められる。
図10Cに示すように、赤い点は求められた中心周波数を示し、青い線はチャープ率を示す。
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
このようにして、最適補償されたビート信号は、最初に測定されたビート信号(たとえばビート信号135)のスペクトル広がりを補正し、正しいビート周波数の周りに鋭いピークを形成することができる。これについては、数値結果を用いて以下にさらに説明する。そのために、提案されている参照アームなしのアプローチと、参照アームを使用するkサンプリング法との比較解析を、
図11Aを参照して以下に提供する。
【0091】
図11Aは、例示的な実施形態に係る、参照アームなしのアプローチと参照アームを使用するkサンプリング法とを比較するために実現されたSS-OCTシステム1100の実験セットアップを示す。
図11Aを
図11Bおよび
図11Cと関連して以下に説明する。
図11Bは、例示的な実施形態に係る、測定アーム950(ch1)からの時間ドメインビート信号を示す。
図11Cは、例示的な実施形態に係る、参照アーム940(ch2)からの参照信号を示す。
【0092】
図11Aにおいて、SS-OCTシステム1100(「システム1100」とも呼ばれる)は、掃引光源レーザ1110と周波数フィルタ1120とを含み、周波数フィルタ1120は周波数フィルタ117に対応する。SS-OCTシステム1100はさらに、参照アーム1140と、測定アーム1150と、カプラ1130と、ターゲット(すなわち、物体または反射体)1160とを含む。参照アーム1140は、第1のカプラ1141および第2のカプラ1143と、第1の光遅延線1142aおよび第2の光遅延線1142bと、バランス光検出器(BPD)1144とを含む。同様に、測定アーム1150は、カプラ1151と、光遅延線1152と、レンズ1153と、集積コヒーレントレシーバ(ICR)1154と、サーキュレータ1155とを含む。
【0093】
たとえば、掃引光源レーザ1110は、波長1.55μmのレーザ光をx kHzの繰り返し周波数で発する。次にレーザ光は、参照アーム1140(Ch2またはチャネル2と示す)と測定アーム1150(Ch1またはチャネル1と示す)とに分割される。参照アーム1140については、kサンプリングクロックが生成される。そのために、参照アーム1140はクロック発生器(
図11Aには図示せず)を含む。一方、測定アーム1150は、レーザ光を2つの経路にさらに分割する。一方の経路は、サーキュレータ1155およびレンズ1153を通ってターゲット1160に向かう。次にレーザ光はターゲット1160に反射し、反射したレーザ光はもう一方の経路で干渉されてビート信号を生成する。
【0094】
その一方で、エタロン信号は、周波数フィルタ1120によって生成され、トリガ信号1170とともにチャネル3(またはch3)から生成される。kサンプリングベースの方法の場合(すなわち、参照アーム1140を使用する間)、SS-OCTシステム1100は、ch1およびch2からの信号を非線形性補償のために使用する。一方、参照アームなしの方法では、SS-OCTシステム1100は、ch1において測定アーム1150を使用し、ch3においてエタロン信号を使用する。
図11Aおよび
図11Bから、両方の時間ドメイン信号が振幅変調されることが観察され得る。
【0095】
さらに、測定アーム1150からの非線形性補償の前後のビート信号のスペクトルを
図12Aおよび
図12Bにおいて比較する。
【0096】
図12Aは、例示的な実施形態に係る、非線形性補償前の測定アーム1150からのビート信号のスペクトルを示す。
図12Bは、例示的な実施形態に係る、非線形性補償後の測定アーム1150からのビート信号のスペクトルを示す。
図12Aでは、測定アーム1150からのビート信号のスペクトルは、ターゲット距離に対応するピークに広がっている。実際、光源の非線形性の影響は、ピークの広がりだけでなく、スペクトルピークのシフトも引き起こす。対照的に
図12Bでは、ピーク対サイドローブレベルが大幅に改善されていることが明確に示されており、
図12Bの広がりピークはビート周波数の周りにより集中しており、スペクトルパワーは60dBとさらに高い。
【0097】
さらに、提案されている参照アームなしのアプローチのレンジ推定パフォーマンスを評価し、その結果を
図13に示している。そのために、ステップサイズ100μmで11個の距離に対象物としてミラーを配置する。距離ごとに測定を10回繰り返して、レンジ推定統計値、たとえばバイアスおよび標準偏差を計算する。
図13は、例示的な実施形態に係る、参照アームがないFMCWベースのシステムの測定プロファイルを示す。この測定プロファイルは、横軸のグラウンドトゥルースに対する11個の距離のセットに対応する。結果は、比較のために45°の対角線と重なっている。距離ごとに、
図12Bの補償されたピーク周波数からのこれら10個の距離推定値の平均値と、平均値付近の標準偏差とがプロットされている。全体として、結果は、小さな推定バイアス(最大8μm)および最大4μmの標準偏差を示している。さらに、考慮されていない振幅変調が推定バイアスに寄与している可能性があることが観察される。
【0098】
いくつかの実施形態では、推定された非線形性の光源に基づいて、推定された非線形性の光源に基づいてビート信号を補償するためにデスキューフィルタリングアプローチが使用される。
【0099】
図14は、例示的な実施形態に係る、推定された非線形性関数でビート信号を補正するためのデスキューフィルタリングプロセスを示すブロック
図1400である。
図14は、未知の反射体(たとえば
図11Aのターゲット1160)からのビート信号と、参照ビート信号からの(式17に関して説明したような)推定された非線形性関数とに基づく、異なる非線形性補正アプローチを示している。
【0100】
ステップ1401において、推定された非線形性関数1407を使用して、ビート信号1408における送信機側に起因する非線形性がまず除去される。ステップ1402において、最初に補償されたビート信号にデスキューフィルタが適用される。デスキューフィルタは、レンジ依存/周波数依存の時間シフトを入力信号に適用する。言い換えれば、時間シフト量は周波数成分によって異なる。周波数はビート信号のレンジに直接関係するため、デスキューフィルタは、残りの歪みがレンジ非依存であるように、異なる反射体についてのレンジ依存の歪みを補償することを目的としている。ステップ1403において、推定された非線形性関数1407を利用して、すべての周波数/レンジについての残りのレンジ非依存の歪みが除去される。次に、完全に補償されたビート信号が、FFT1404の適用によって周波数ドメインに変換される。未知の反射体のレンジ情報1406は、ビート信号のスペクトル1405によって求められ得る。したがって、非線形成分の効果が抑制される。
実施形態
【0101】
説明は、具体例としての実施形態のみを提供し、開示の範囲、適用可能性、または構成を限定することを意図していない。むしろ、具体例としての実施形態の以下の説明は、具体例としての1つ以上の実施形態の実現を可能にする説明を当業者に提供するであろう。添付の請求項に記載されている開示された主題の精神および範囲から逸脱することなく要素の機能および構成に対してなされ得る各種変更が意図されている。具体的な詳細事項は、上記説明において、実施形態の十分な理解を得るために与えられている。しかしながら、これらの具体的な詳細事項がなくても実施形態を実行できることを、当業者は理解できる。たとえば、開示された主題におけるシステム、プロセス、および他の要素は、実施形態を不必要な詳細で不明瞭にしないために、ブロック図の形態で構成要素として示される場合もある。他の例では、実施形態を不明瞭にしないよう、周知のプロセス、構造、および技術は、不必要な詳細事項を伴わずに示されることがある。さらに、各種図面における同様の参照番号および名称は同様の要素を示す。
【0102】
また、個々の実施形態は、フローチャート、フロー図、データフロー図、構造図、またはブロック図として示されるプロセスとして説明される場合がある。フローチャートは動作を逐次プロセスとして説明する場合があるが、動作の多くは並列にまたは同時に実行することができる。加えて、動作の順序は並べ替えてもよい。プロセスは、その動作が完了したときに終了されてもよいが、論じられていないかまたは図に含まれていない追加のステップを有する場合がある。さらに、具体的に記載されている何らかのプロセスにおけるすべての動作がすべての実施形態に起こり得る訳ではない。プロセスは、方法、関数、手順、サブルーチン、サブプログラムなどに対応し得る。プロセスが関数に対応する場合、関数の終了は、呼び出し関数または主関数に関数を戻すことに対応し得る。
【0103】
さらに、開示されている主題の実施形態は、少なくとも一部が、手作業または自動のいずれかで実現されてもよい。手作業または自動の実現は、マシン、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、ミドルウェア、マイクロコード、ハードウェア記述言語、またはその任意の組み合わせの使用を通して、実行されてもよく、または、少なくとも支援されてもよい。ソフトウェア、ファームウェア、ミドルウェアまたはマイクロコードで実現される場合、必要なタスクを実行するためのプログラムコードまたはコードセグメントは、マシン読取可能媒体に格納されてもよい。プロセッサ(複数のプロセッサ)が必要なタスクを実行してもよい。
【0104】
さらに、本開示の実施形態および本明細書に記載の機能的動作は、デジタル電子回路、有形に具体化されたコンピュータソフトウェアまたはファームウェア、本明細書で開示されている構造およびそれらの構造的均等物を含むコンピュータハードウェア、または、それらの1つ以上の組合せにおいて、実現することができる。さらに、本開示のいくつかの実施形態は、1つ以上のコンピュータプログラムとして、すなわち、データ処理装置による実行のために、またはデータ処理装置の動作を制御するために、有形の非一時的なプログラムキャリア上で符号化されたコンピュータプログラム命令の1つ以上のモジュールとして、実現することができる。さらに、プログラム命令は、データ処理装置による実行のために適切な受信装置に送信される情報を符号化するために生成された、人工的に生成された伝搬信号、たとえば機械によって生成された電気、光学、もしくは電磁信号上で、符号化することができる。コンピュータ記憶媒体は、機械読取可能ストレージデバイス、機械読取可能ストレージ基板、ランダムもしくはシリアルアクセスメモリデバイス、またはそれらの1つ以上の組合せであってもよい。
【0105】
コンピュータプログラム(プログラム、ソフトウェア、ソフトウェアアプリケーション、モジュール、ソフトウェアモジュール、スクリプト、またはコードと呼ばれるまたはそういうものとして説明されることもある)は、コンパイルされたもしくは解釈された言語、または宣言型もしくは手続き型言語を含む任意の形態のプログラミング言語で記述することができ、スタンドアロンプログラムとして、またはモジュール、コンポーネント、サブルーチン、もしくはコンピューティング環境での使用に適した他のユニットとして、任意の形態でデプロイすることができる。コンピュータプログラムは、ファイルシステム内のファイルに対応し得るが、対応していなくてもよい。プログラムは、他のプログラムまたはデータを保持するファイルの一部に、たとえばマークアップ言語文書に格納された1つ以上のスクリプト、当該プログラム専用の単一ファイル、またはコーディネートした複数のファイル、たとえば1つ以上のモジュール、サブプログラム、またはコードの一部を格納するファイルに、格納することができる。コンピュータプログラムは、1つのコンピュータ上で、または1つの位置に位置するかもしくは複数の位置に分散され通信ネットワークで相互に接続された複数のコンピュータ上で実行されるようにデプロイすることができる。
【0106】
コンピュータプログラムの実行に適したコンピュータは、一例として、汎用マイクロプロセッサもしくは専用マイクロプロセッサもしくはその両方、または任意の他の種類の中央処理装置に基づいていてもよい。一般的に、中央処理装置は、読出専用メモリまたはランダムアクセスメモリまたはその両方から命令およびデータを受ける。コンピュータの必須要素は、命令を実施または実行するための中央処理装置と、命令およびデータを記憶するための1つ以上のメモリデバイスとである。一般的に、コンピュータはまた、データを記憶するための1つ以上の大容量記憶装置、たとえば、磁気、光磁気ディスク、もしくは光ディスクを含むか、または、それからデータを受けるかまたはそれにデータを転送するかまたはその両方を行うように、上記ディスクに作動的に結合される。しかしながら、コンピュータはこのようなデバイスを有していなくてもよい。さらに、コンピュータは、別のデバイスに埋め込むことができる、たとえば数例を挙げると、携帯電話、携帯情報端末(PDA)、モバイルオーディオもしくはビデオプレーヤ、ゲームコンソール、グローバルポジショニングシステム(GPS)受信機、または携帯型記憶装置、たとえばユニバーサルシリアルバス(USB)フラッシュドライブに、埋め込むことができる。
【0107】
ユーザとのやり取りを提供するために、本明細書に記載の主題の実施形態は、ユーザに情報を表示するためのディスプレイデバイス、たとえばCRT(陰極線管)またはLCD(液晶ディスプレイ)モニタと、ユーザがコンピュータに入力を提供できるようにするキーボードおよびポインティングデバイス、たとえばマウスまたはトラックボールとを有する、コンピュータ上で実現されてもよい。他の種類のデバイスを用いてユーザとのやり取りを提供してもよい。たとえば、ユーザに提供されるフィードバックは、任意の形態の感覚フィードバック、たとえば、視覚フィードバック、聴覚フィードバック、または触覚フィードバックであってもよく、ユーザからの入力は、音響入力、音声入力、または触覚入力を含む任意の形態で受けることができる。加えて、コンピュータは、ユーザとのやり取りを、ユーザが使用するデバイスに文書を送信し当該デバイスから文書を受信することによって、たとえばユーザのクライアントデバイス上のウェブブラウザに、ウェブブラウザから受信した要求に応じてウェブページを送信することによって、実現することができる。
【0108】
本明細書に記載の主題の実施形態は、たとえばデータサーバとしてバックエンドコンポーネントを含む、または、ミドルウェアコンポーネント、たとえばアプリケーションサーバを含む、または、フロントエンドコンポーネント、たとえば本明細書に記載の主題の実装形態とユーザがやり取りできるようにするグラフィカルユーザインターフェイスもしくはウェブブラウザを有するクライアントコンピュータを含む、または、このようなバックエンド、ミドルウェア、もしくはフロントエンドコンポーネントの1つ以上の任意の組合せを含む、コンピューティングシステムにおいて実現することができる。システムの構成要素は、デジタルデータ通信の任意の形態または媒体、たとえば通信ネットワークにより、相互に接続することができる。通信ネットワークの例は、ローカルエリアネットワーク(「LAN」)およびワイドエリアネットワーク(「WAN」)、たとえばインターネットを含む。
【0109】
コンピューティングシステムは、クライアントおよびサーバを含み得る。クライアントおよびサーバは、一般的には互いに離れており、典型的には通信ネットワークを通してやり取りする。クライアントとサーバの関係は、各コンピュータ上で実行されクライアントとサーバの相互の関係を有するコンピュータプログラムから発生する。
【0110】
本開示をいくつかの好ましい実施形態を用いて説明してきたが、その他さまざまな適合化および修正を本開示の精神および範囲の中で実施できることが理解されねばならない。したがって、本開示の真の精神および範囲に含まれるこのような変形および修正形をすべてカバーすることが以下の請求項の局面である。