(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-17
(45)【発行日】2025-04-25
(54)【発明の名称】レーダ装置、及びレーダ装置の運用方法
(51)【国際特許分類】
G01S 7/40 20060101AFI20250418BHJP
G01S 7/02 20060101ALI20250418BHJP
G01S 13/34 20060101ALI20250418BHJP
G01S 13/42 20060101ALI20250418BHJP
【FI】
G01S7/40 186
G01S7/02 210
G01S13/34
G01S13/42
(21)【出願番号】P 2024528246
(86)(22)【出願日】2022-06-24
(86)【国際出願番号】 JP2022025348
(87)【国際公開番号】W WO2023248469
(87)【国際公開日】2023-12-28
【審査請求日】2024-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】上村 龍也
(72)【発明者】
【氏名】萩原 達也
【審査官】九鬼 一慶
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2021/0080537(US,A1)
【文献】特開2017-219353(JP,A)
【文献】特開2008-224511(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - 7/42
G01S 13/00 -13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信チャープ信号を生成する複数の送信チャネルと、前記送信チャネルから放射される前記送信チャープ信号の目標物からの反射波を受信し、受信した信号を前記送信チャープ信号の基となる参照信号を用いてミキシングする複数の受信チャネルと、前記受信チャネルがミキシングしたビート信号に基づいて目標物の検出処理を行う信号処理部と、を備えたレーダ装置であって、
前記信号処理部は、
前記ビート信号に基づいて前記目標物の位置及び速度を検出する第1の処理部と、
前記ビート信号及び前記第1の処理部の処理結果に基づいて前記目標物の方位角を検出する第2の処理部と、
前記送信チャネル毎に異なる変調度で前記送信チャープ信号の送信位相を変調する送信位相制御部と、
受信位相情報である受信位相参照値を保持する記憶部と、
前記第1の処理部で得られたスペクトラムの受信位相と、前記記憶部に保持された前記受信位相参照値とに基づいて前記受信位相の変化量を算出し、算出した前記変化量を前記第2の処理部の処理に反映する受信位相補正部と、
を備えたことを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記レーダ装置の性能を補正する性能補正モードを有し、
前記性能補正モードにおいて、複数の前記受信チャネルは、前記送信チャネル毎に異なる変調度で送信位相が変調された送信チャープ信号の直接波を受信し、
前記信号処理部は、全ての前記受信チャネルで任意の1つの送信直接波成分の受信位相を検出すると共に、全ての前記受信チャネルの受信位相変化量を算出し、算出した前記受信位相変化量を前記第2の処理部の処理に反映する
ことを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
送信チャープ信号を生成する複数の送信チャネルと、前記送信チャネルから放射される前記送信チャープ信号の目標物からの反射波を受信し、受信した信号を前記送信チャープ信号の基となる参照信号を用いてミキシングする複数の受信チャネルと、前記受信チャネルがミキシングしたビート信号に基づいて目標物情報を検出する信号処理部と、を備えたレーダ装置であって、
前記信号処理部は、
前記ビート信号に基づいて前記目標物の位置及び速度を検出する第1の処理部と、
前記ビート信号及び前記第1の処理部の処理結果に基づいて前記目標物の方位角を検出する第2の処理部と、
前記送信チャネル毎に異なる変調度で前記送信チャープ信号の送信位相を変調する送信位相制御部と、
送信信号の振幅情報である送信振幅参照値を保持する記憶部と、
前記第1の処理部で得られたスペクトラムの
送信振幅と、前記記憶部に保持された前記送信振幅参照値とに基づいて送信振幅の変化量を算出する送信振幅補正部と、
前記送信振幅補正部が算出した送信振幅の変化量に基づいて前記送信チャープ信号の振幅を変化させる制御を行う送信振幅制御部と、
を備えたことを特徴とするレーダ装置。
【請求項4】
前記レーダ装置の性能を補正する性能補正モードを有し、
前記性能補正モードにおいて、複数の前記受信チャネルは、前記送信チャネル毎に異なる変調度で送信位相が変調された送信チャープ信号の直接波を受信し、
前記信号処理部は、任意の1つの前記受信チャネルで全ての前記送信チャネルの送信直接波成分の振幅を検出すると共に、全ての前記送信チャネルの送信振幅変化量を算出し、算出した前記送信振幅変化量を前記送信振幅制御部の処理に反映する
ことを特徴とする請求項3に記載のレーダ装置。
【請求項5】
送信チャープ信号を生成する複数の送信チャネルと、前記送信チャネルから放射される前記送信チャープ信号の目標物からの反射波を受信し、受信した信号を前記送信チャープ信号の基となる参照信号を用いてミキシングする複数の受信チャネルと、前記受信チャネルがミキシングしたビート信号に基づいて目標物情報を検出する信号処理部と、を備えたレーダ装置であって、
前記信号処理部は、
前記ビート信号に基づいて前記目標物の位置及び速度を検出する第1の処理部と、
前記ビート信号及び前記第1の処理部の処理結果に基づいて前記目標物の方位角を検出する第2の処理部と、
前記送信チャネル毎に異なる変調度で前記送信チャープ信号の送信位相を変調する送信位相制御部と、
送信信号の位相情報である送信位相参照値を保持する記憶部と、
前記第1の処理部で得られたスペクトラムの
送信位相と、前記記憶部に保持された前記送信位相参照値とに基づいて送信位相の変化量を算出する送信位相補正部と、を備え、
前記送信位相制御部は、前記送信位相補正部が算出した前記送信位相の変化量に基づいて送信チャープ信号の位相を変化させる制御を行う
ことを特徴とするレーダ装置。
【請求項6】
前記レーダ装置の性能を補正する性能補正モードを有し、
前記性能補正モードにおいて、複数の前記受信チャネルは、前記送信チャネル毎に異なる変調度で送信位相が変調された送信チャープ信号の直接波を受信し、
前記信号処理部は、
任意の1つの前記受信チャネルで
全ての前記送信チャネルの送信直接波成分の
送信位相を検出すると共に、全ての前記
送信チャネルの
送信位相変化量を算出し、算出した前記
送信位相変化量を前記第2の処理部の処理に反映する
ことを特徴とする請求項5に記載のレーダ装置。
【請求項7】
前記レーダ装置の故障を検出する故障検出モードを有し、
前記故障検出モードにおいて、複数の前記受信チャネルは、前記送信チャネル毎に異なる変調度で送信位相が変調された送信チャープ信号の直接波を受信し、
前記信号処理部は、全ての前記受信チャネルで全ての前記送信チャネルの送信直接波成分の振幅を検出し、
全ての前記送信チャネルの送信直接波成分の振幅のうちの少なくとも1つが閾値以下であれば装置故障と判定する
ことを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載のレーダ装置。
【請求項8】
送信チャープ信号を生成する複数の送信チャネルと、前記送信チャネルから放射される前記送信チャープ信号の目標物からの反射波を受信し、受信した信号を前記送信チャープ信号の基となる参照信号を用いてミキシングする複数の受信チャネルとを備え、前記受信チャネルがミキシングしたビート信号に基づいて目標物情報を検出するレーダ装置を用いて行うレーダ装置の運用方法であって、
前記送信チャネル毎に異なる変調度で前記送信チャープ信号の送信位相を変調する変調ステップと、
前記変調ステップで生成した送信チャープ信号を複数の前記送信チャネルから同時に空間に放射する放射ステップと、
前記放射ステップで放射された前記送信チャープ信号の直接波を受信し、全ての前記受信チャネルで全ての前記送信チャネルの送信直接波成分の振幅を検出する振幅検出ステップと、
前記振幅検出ステップで検出された前記送信直接波成分の振幅と、予め設定された閾値との比較結果に基づいて前記レーダ装置の故障を判定する判定ステップと、
を含むことを特徴とするレーダ装置の運用方法。
【請求項9】
前記放射ステップで放射された前記送信チャープ信号の直接波を受信し、全ての前記受信チャネルで任意の1つの送信直接波成分の受信位相を検出する位相検出ステップと、
前記位相検出ステップで検出された前記受信位相の検出値と、予め保持された受信位相参照値とに基づいて受信位相変化量を算出する算出ステップと、
前記算出ステップで算出された前記受信位相変化量を前記目標物の検出処理に反映する反映ステップと、
を含むことを特徴とする請求項8に記載のレーダ装置の運用方法。
【請求項10】
前記放射ステップで放射された前記送信チャープ信号の直接波を受信し、任意の1つの前記受信チャネルで全ての前記送信チャネルの送信直接波成分の送信振幅を検出する振幅検出ステップと、
前記振幅検出ステップで検出された前記送信振幅の検出値と、予め保持された送信振幅参照値とに基づいて送信振幅変化量を算出する算出ステップと、
前記算出ステップで算出された前記送信振幅変化量を前記放射ステップで放射する前記送信チャープ信号の振幅制御に反映する振幅制御ステップと、
を含むことを特徴とする請求項8に記載のレーダ装置の運用方法。
【請求項11】
前記放射ステップで放射された前記送信チャープ信号の直接波を受信し、任意の1つの前記受信チャネルで全ての前記送信チャネルの送信直接波成分の送信位相を検出する位相検出ステップと、
前記位相検出ステップで検出された前記送信位相の検出値と、予め保持された送信位相参照値とに基づいて送信位相変化量を算出する算出ステップと、
前記算出ステップで算出された前記送信位相変化量を前記放射ステップで放射する前記送信チャープ信号の位相制御に反映する位相制御ステップと、
を含むことを特徴とする請求項8に記載のレーダ装置の運用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、目標物の検出を行うレーダ装置、及びレーダ装置の運用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、送信回路から放射されて目標物を介さずに直接結合する直接波を受信することで、目標物からの反射波を利用することなく運用中に故障検出を行うことができるレーダ装置が開示されている。このようなレーダ装置は、既に、自動車センサ用のレーダ装置として利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自動車センサ用のレーダ装置においては、目標物の情報を検出する目標物検出モードの他に、故障検出モード、性能補正モードといった他の動作モードを有することが一般的である。このような複数の動作モードを有するレーダ装置においては、動作時間が増加することになり、レーダ装置の故障判定に要する時間が長くなるという課題がある。
【0005】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、複数の動作モードを有していても、レーダ装置の故障判定に要する時間の増加を抑制できるレーダ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本開示に係るレーダ装置は、送信チャープ信号を生成する複数の送信チャネルと、送信チャネルから放射される送信チャープ信号の目標物からの反射波を受信し、受信した信号を送信チャープ信号の基となる参照信号を用いてミキシングする複数の受信チャネルとを備える。また、レーダ装置は、受信チャネルがミキシングしたビート信号に基づいて目標物の検出処理を行う信号処理部を備える。信号処理部は、第1及び第2の処理部と、送信位相制御部と、記憶部と、受信位相補正部とを備える。第1の処理部は、ビート信号に基づいて目標物の位置及び速度を検出する。第2の処理部は、ビート信号及び第1の処理部の処理結果に基づいて目標物の方位角を検出する。送信位相制御部は、送信チャネル毎に異なる変調度で送信チャープ信号の送信位相を変調する。記憶部は、受信位相情報である受信位相参照値を保持する。受信位相補正部は、第1の処理部で得られたスペクトラムの受信位相と、記憶部に保持された受信位相参照値とに基づいて受信位相の変化量を算出し、算出した変化量を第2の処理部の処理に反映する。
【発明の効果】
【0007】
本開示に係るレーダ装置によれば、複数の動作モードを有していても、レーダ装置の故障判定に要する時間の増加を抑制できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態1に係るレーダ装置の構成例を示すブロック図
【
図2】実施の形態1の故障検出モードにおける送信周波数及び送信位相の時間波形の第1の例を示す図
【
図3】実施の形態1の故障検出モードにおける送信周波数及び送信位相の時間波形の第2の例を示す図
【
図4】
図2に示す波形に対応する任意の1つの受信チャネルにおける受信データのスペクトラム結果を示す図
【
図5】
図3に示す波形に対応する任意の1つの受信チャネルにおける受信データのスペクトラム結果を示す図
【
図6】実施の形態1の故障検出部による故障検出モード及び受信位相補正部による受信位相補正モードの動作説明に供するフローチャート
【
図7】実施の形態1の受信位相補正モードにおける受信位相変化量の算出方法の説明に供する図
【
図8】実施の形態1における信号処理部の機能を実現するハードウェア構成の一例を示すブロック図
【
図9】実施の形態1における信号処理部の機能を実現するハードウェア構成の他の例を示すブロック図
【
図10】実施の形態2に係るレーダ装置の構成を示すブロック図
【
図11】実施の形態2の故障検出部による故障検出モード及び送信振幅補正部による送信振幅補正モードの動作説明に供するフローチャート
【
図12】実施の形態2の送信振幅補正モードにおける送信振幅変化量の算出方法の説明に供する図
【
図13】実施の形態3に係るレーダ装置の構成を示すブロック図
【
図14】実施の形態3の故障検出部による故障検出モード及び送信位相補正部による送信位相補正モードの動作説明に供するフローチャート
【
図15】実施の形態3の送信位相補正モードにおける送信位相変化量の算出方法の説明に供する図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に添付図面を参照し、本開示の実施の形態に係るレーダ装置、及びレーダ装置の運用方法について詳細に説明する。なお、以下の実施の形態では、自動車に搭載される自動車センサ用のレーダ装置を例示して説明するが、他の用途への適用を除外する趣旨ではない。また、以下の記載において、同種の複数の構成要素については、添字を付した符号で示すが、各構成要素の個々を区別しない場合には、添字の表記を適宜省略する。また、以下では、物理的な接続と電気的な接続とを区別せずに、単に「接続」と称して説明する。即ち、「接続」という文言は、構成要素同士が直接的に接続される場合と、構成要素同士が他の構成要素を介して間接的に接続される場合との双方を含んでいる。
【0010】
実施の形態1.
レーダ装置の一例に、FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)レーダがある。FMCWレーダは、構成が容易であるという利点、及びベースバンド処理する送受信のビート信号の周波数帯域が比較的低周波数となるので取り扱いが容易であるという利点があり、自動車衝突防止用の自動車センサとして普及している。また、FMCWレーダは、将来的には自動運転用の自動車センサの1つとして利用されることが期待されている。このFMCWレーダにおいて、空間に放射される送信信号は、送信周波数を低周波から高周波へと変化させるアップチャープと、高周波から低周波へと変化させるダウンチャープとを含む信号である。FMCWレーダは、アップチャープ及びダウンチャープの各々から得られるビート信号のピーク周波数の和及び差の情報に基づいて目標物との距離、相対速度、方位角等を算出する。
【0011】
また、レーダ装置の他の例に、FCM(Fast Chirp Modulation)レーダがある。FCMレーダにおいて、空間に放射される送信信号は、変調周波数を低周波から高周波へと高速変調させるアップチャープ、及び高周波から低周波へと高速変調させるダウンチャープのうちの何れか一方を含む信号である。FCMレーダは、アップチャープ又はダウンチャープの何れかによる受信ビート信号の周波数及び受信位相の情報に基づいて目標物との距離、相対速度、方位角等を算出する。
【0012】
アップチャープとダウンチャープとのペアリングが必要なFMCWレーダに対して、FCMレーダは、ペアリングが不要である。このため、FCMレーダは、信号処理への負荷が少なく、高精度に目標物を検出できることから、自動車センサとして普及している。本稿における以降の記述では、FMCWレーダとFCMレーダとを区別しない場合は、単に「レーダ」又は「レーダ装置」と表現する。
【0013】
図1は、実施の形態1に係るレーダ装置100の構成例を示すブロック図である。実施の形態1に係るレーダ装置100は、
図1に示されるように、送信回路1、受信回路2、信号処理部3、及び周囲温度モニタ6を備える。
【0014】
送信回路1は、RF(Radio Frequency)信号源11、移相器12a,12b、増幅器13a,13b、及び送信アンテナ14a,14bを備える。送信回路1は、RF信号源11で生成された信号を、移相器12a,12b及び増幅器13a,13bを介して送信アンテナ14a,14bに伝送する。移相器12a,12bでは、入力される信号の位相が調整される。増幅器13a,13bは、それぞれが移相器12a,12bから出力される各信号を個別に増幅する。送信アンテナ14a,14bは、増幅器13a,13bから出力される信号を送信チャープ信号51として空間に放射する。RF信号源11で生成される信号は、送信チャープ信号51の基となる信号であり、本稿では「参照信号」と呼ぶ。
【0015】
送信回路1において、移相器12、増幅器13及び送信アンテナ14の各々の1つから構成される組は、送信チャネル10を構成する。実施の形態1において、送信チャネル10の最小数は2である。即ち、実施の形態1に係るレーダ装置100は、送信チャープ信号を生成する複数の送信チャネル10を備えている。
【0016】
受信回路2は、受信アンテナ21a,21b、ミクサ22a,22b、帯域通過フィルタ(Band Pass Filter:BPF)23a,23b、及びアナログデジタル変換器(Analog to Digital Converter:ADC)24a,24bを備える。受信回路2は、空間に放射された送信チャープ信号51の目標物41からの反射波52を受信アンテナ21a,21bで受信する。ミクサ22a,22bは、受信した信号をRF信号源11から出力される参照信号を用いてミキシングする。BPF23a,23bでは、ミクサ22a,22bがミキシングしたビート信号に対してバンドパスのフィルタ処理が施される。ADC24a,24bでは、AD変換処理が行われ、変換後の信号が信号処理部3に伝送される。また、
図1に示されるように、送信回路1から受信回路2に対しては、直接結合する直接波53が存在し、受信回路2は、当該直接波53も受信して、下述の処理を行う。
【0017】
受信回路2において、受信アンテナ21、ミクサ22、BPF23及びADC24の各々の1つから構成される組は、受信チャネル20を構成する。実施の形態1において、受信チャネル20の最小数は2である。即ち、実施の形態1に係るレーダ装置100は、送信チャネル10から放射される送信チャープ信号の目標物41からの反射波52、及び目標物41を介さない直接波53を受信し、受信した信号を送信チャープ信号の基となる参照信号を用いてミキシングする複数の受信チャネル20を備えている。
【0018】
信号処理部3は、受信チャネル20がミキシングしたビート信号に基づいて目標物41の情報を検出する検出処理を行う。この機能を実現するため、信号処理部3は、R-FFT(Range-Fast Fourier Transform)部32a,32b、V-FFT(Velocity-Fast Fourier Transform)部33a,33b、A-FFT(Azimuth-Fast Fourier Transform)部34、位置/速度検出部39、送信位相制御部15、振幅検出部36、故障検出部31、受信位相補正部35、及び受信位相参照値保存部40を備える。
【0019】
R-FFT部32a,32bは距離方向に高速フーリエ変換する処理部であり、V-FFT部33a,33bは速度方向に高速フーリエ変換する処理部であり、A-FFT部34は方位角方向、即ち水平角度方向に高速フーリエ変換する処理部である。位置/速度検出部39は、R-FFT部32a,32b、V-FFT部33a,33b及びA-FFT部34の演算結果に基づいて目標物41の位置、速度及び方位角を検出し、その検出結果を車両150に伝送する。R-FFT部32a,32b、V-FFT部33a,33b、及び位置/速度検出部39は、ビート信号に基づいて目標物41の位置及び速度を検出する処理部であり、これらの処理部を総称して、本稿では「第1の処理部」と呼ぶことがある。また、A-FFT部34及び位置/速度検出部39は、ビート信号及び第1の処理部の処理結果に基づいて目標物41の方位角を検出する処理部であり、これらの処理部を総称して、本稿では「第2の処理部」と呼ぶことがある。
【0020】
実施の形態1に係るレーダ装置100は、目標物情報を検出するための目標物検出モードの他に、レーダ装置100の故障を検出する故障検出モード、及びレーダ装置100の性能を補正する性能補正モードを有する。また、性能補正モードには、受信位相補正モード、送信振幅補正モード、及び送信位相補正モードなどがある。これらの各種の補正モードは、レーダ装置100の性能低下を抑制するために行う。なお、実施の形態1に係るレーダ装置100は、目標物検出モード及び故障検出モードに加え、少なくとも受信位相補正モードを有することを想定する。
【0021】
送信位相制御部15は、故障検出モード及び受信位相補正モードにおいて、移相器12a,12bの移相量を個別に制御する。具体的に、送信位相制御部15は、送信チャネル10毎に異なる変調度で送信チャープ信号の送信位相を変調する。即ち、送信位相制御部15は、送信チャネル10毎に独立の送信位相変調をかける。この処理は、送信チャネル10の各送信チャープ信号に対して、独立に送信位相変調をかけることで、直接波53による受信ビート信号のスペクトラムのピークが、互いに異なる距離ビン又は速度ビンに生じるという特性を利用している。距離ビンは、目標物との間の距離差を識別するための最小単位幅であり、速度ビンは、目標物との間の相対速度差を識別するための最小単位幅である。一般的なレーダ装置において、距離ビン及び速度ビンの幅は、距離及び速度の分解能によって決定される。また、一般的なレーダ装置では、距離ビン及び速度ビンには番号が振られ、番号によって距離ビン及び速度ビンを識別することが行われる。
【0022】
振幅検出部36は、R-FFT部32a,32b、及びV-FFT部33a,33bで得られたスペクトラムの振幅強度に基づいて直接波53の振幅を検出する。故障検出部31は、振幅検出部36で得られた振幅情報に基づいてレーダ装置100の故障の有無を判定し、その判定結果を車両150に伝送する。
【0023】
受信位相参照値保存部40は、受信位相情報である受信位相参照値を保持する記憶部である。受信位相参照値は、R-FFT及びV-FFT処理における、直接波53によるスペクトラムから得られる受信位相であり、全ての受信チャネル20において算出される。受信位相参照値の算出処理は、例えば出荷検査時において、目標物41からの反射波成分が存在しない環境下で実施される。
【0024】
受信位相補正部35は、R-FFT部32a,32b、及びV-FFT部33a,33bで得られたスペクトラムの受信位相と、受信位相参照値保存部40に保存された受信位相参照値とに基づいて受信位相の変化量を算出し、算出した変化量をA-FFT部34の処理に反映する。
【0025】
図2は、実施の形態1の故障検出モードにおける送信周波数及び送信位相の時間波形の第1の例を示す図であり、
図3は、実施の形態1の故障検出モードにおける送信周波数及び送信位相の時間波形の第2の例を示す図である。各上段部に示すように、送信周波数は、時間的に変化するチャープ波形を繰り返す。各中段部に示される「送信位相(a)」は、
図1の添字aの構成部、即ち添字aが付された送信チャネル10に付与する送信位相の変化を表している。また、「送信位相(b)」は、
図1の添字bの構成部、即ち添字bが付された送信チャネル10に付与する送信位相の変化を表している。なお、以下の記載では、便宜的に、添字aが付された送信チャネル10を「送信チャネルa」と呼び、添字bが付された送信チャネル10を「送信チャネルb」と呼ぶことがある。これらの呼称は、受信チャネル20においても同様とする。また、送信チャネル10と受信チャネル20とを特に区別しない場合には、単に「チャネルa」及び「チャネルb」と呼ぶことがある。
【0026】
送信位相制御部15は、出荷検査及び運用中の故障検出モードにおいて、送信チャネル10毎独立に異なる送信位相の変化幅を設定し、その設定値を移相器12a,12bに与えることで送信位相を変化させる。具体的に、送信チャネルaの変化幅をpとし、送信チャネルbの変化幅をqとするとき、
図2には、送信チャネルa,bの送信位相をチャープ周期毎に段階的に増加させる例が示され、
図3には、送信チャネルa,bの送信位相をチャープ周期内で段階的に増加させる例が示されている。なお、
図2及び
図3の例は一例であり、送信チャネルa,b毎に独立に異なる送信位相が付与されていれば、どのような与え方をしてもよい。
【0027】
図4は、
図2に示す波形に対応する任意の1つの受信チャネル20における受信データのスペクトラム結果を示す図であり、
図5は、
図3に示す波形に対応する任意の1つの受信チャネル20における受信データのスペクトラム結果を示す図である。ここで言う、任意の1つの受信チャネル20における受信データは、
図1の構成であれば、V-FFT部33a及びV-FFT部33bのうちの何れか1つから出力される、R-FFT処理及びV-FFT処理されたデータである。なお、
図4の横軸は速度、
図5の横軸は距離を表し、
図4及び
図5の縦軸は振幅を表している。
【0028】
送信位相制御部15が
図2に示す波形の送信位相変調を実施すると、
図4に示すように、速度軸方向において、2つの送信チャネルa,bからの直接波成分であるTX
a,TX
bがそれぞれの変調度に対応する位置に振幅のピークが表れる。
図5の例も同様である。従って、2つの送信チャネルa,bから同時に送信信号を送信しても、速度周波数領域において、2つの信号を分離することができる。3つ以上の送信チャネル10がある場合にも、それぞれ異なる変調度の送信位相変調を行えば、当該3以上の送信チャネル10から同時に送信信号を送信しても、それぞれの直接波成分を速度周波数領域において、分離して抽出することができる。
【0029】
実施の形態1では、振幅検出部36がそれぞれの送信チャネル10からの直接波成分の振幅を検出し、設定閾値と比較することで、レーダ装置100の故障の有無を判定する。
【0030】
図6は、実施の形態1の故障検出部31による故障検出モード及び受信位相補正部35による受信位相補正モードの動作説明に供するフローチャートである。
図6に示す故障検出モード及び受信位相補正モードは、レーダ装置100の運用中においても起動することができる。即ち、
図6に示す故障検出モード及び受信位相補正モードの動作フローは、レーダ装置100が送受信動作中であっても実施可能である。
【0031】
レーダ装置100は、送信チャネル10毎に異なる変調度で送信チャープ信号51の送信位相を変調し(ステップS101)、複数の送信チャネル10から同時に送信チャープ信号51を放射する(ステップS102)。ステップS101及びS102に関しては、故障検出モード及び受信位相補正モードで共通である。
【0032】
次に、故障検出モードの動作を説明する。故障検出モードの動作は、
図6の左側に示されている。まず、送信チャープ信号51の一部は、直接波53として、受信回路2で受信される。受信回路2から出力される受信データは信号処理部3に送られる。
【0033】
信号処理部3は、全ての受信チャネル20で全ての送信直接波成分の振幅、即ち全ての送信チャネル10から放射される直接波成分の振幅を検出する(ステップS103)。直接波成分の振幅が閾値よりも大きい場合(ステップS104、Yes)、故障検出部31は、レーダ装置100が正常であると判定して(ステップS105)、故障検出モードを終了する。一方、直接波成分の振幅が閾値以下である場合(ステップS104、No)、故障検出部31は、故障の判定を行い(ステップS106)、故障検出モードを終了する。
【0034】
次に、受信位相補正モードの動作を説明する。受信位相補正モードの動作は、
図6の右側に示されている。
【0035】
信号処理部3は、全ての受信チャネル20で、任意の1つの送信チャネル10から放射される送信直接波成分の受信位相を検出する(ステップS107)。そして、信号処理部3は、全ての受信チャネル20の受信位相変化量を算出する(ステップS108)。受信位相変化量の算出方法は、更に
図7を参照して説明する。
図7は、実施の形態1の受信位相補正モードにおける受信位相変化量の算出方法の説明に供する図である。なお、
図7の説明は、
図1に示す構成に従って、受信チャネル20の数は、受信チャネルa,bの2つとする。また、前述したように、受信位相参照値保存部40には、受信位相参照値が保存されているものとする。
【0036】
まず、
図7に示すように、受信位相参照値保存部40に保存されている受信チャネルa,bの受信位相参照値を、それぞれ「θref_a」及び「θref_b」とする。また、ステップS107で検出された、任意の1つの送信チャネル10から放射された直接波成分による受信チャネルa,bの受信位相検出値を「θdir_a」及び「θdir_b」とする。受信位相検出値は、直接波53によるスペクトラムのピークビンのデータを使用して求めることができる。ピークビンは、直接波53によるスペクトラムのピークが表れる速度ビン又は距離ビンである。また、受信チャネルa,bにおける受信位相変化量を、それぞれ「Δθ_a」及び「Δθ_b」とする。受信位相変化量Δθ_a,Δθ_bは、
図7に示すように、それぞれ「Δθ_a=θref_a-θdir_a」及び「Δθ_b=θref_b-θdir_b」の算出式で求めることができる。即ち、受信位相変化量は、受信位相参照値と受信位相検出値との差分を演算することで求めることができる。
【0037】
図6の動作フローに戻り、受信位相補正部35は、ステップS108で算出された受信位相変化量をA-FFT部34の処理に反映させて(ステップS109)、受信位相補正モードを終了する。
【0038】
図6のフローチャートに示される故障検出モードの閾値は、例えば出荷検査時において、目標物41からの反射波成分が存在しない環境下で、直接波成分の測定値を用いて決定する。このとき、周囲温度を変化させながら直接波成分を測定し、送信チャネル10毎に閾値の温度テーブルを作成してもよい。温度テーブル内の周囲温度は、周囲温度モニタ6の温度検出値を実際の周囲温度と対応させて、設定及び参照してもよい。
【0039】
次に、実施の形態1における信号処理部3の機能を実現するためのハードウェア構成について、
図8及び
図9の図面を参照して説明する。
図8は、実施の形態1における信号処理部3の機能を実現するハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図9は、実施の形態1における信号処理部3の機能を実現するハードウェア構成の他の例を示すブロック図である。
【0040】
実施の形態1における信号処理部3の機能をソフトウェアで実現する場合には、
図8に示されるように、演算を行うプロセッサ400、プロセッサ400によって読みとられるプログラムが保存される記憶部であるメモリ402、信号の入出力を行うインタフェース404、及び検出結果を表示する表示器406を含む構成とすることができる。
【0041】
プロセッサ400は、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、CPU(Central Processing Unit)、又はDSP(Digital Signal Processor)と称される演算手段であってもよい。また、メモリ402には、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable ROM)、EEPROM(登録商標)(Electrically EPROM)といった不揮発性又は揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、DVD(Digital Versatile Disc)を例示することができる。
【0042】
メモリ402には、信号処理部3の機能を実行するプログラムが保存される他、閾値、温度テーブル値、受信位相参照値などが保存されている。プロセッサ400は、インタフェース404を介して必要な情報を授受し、メモリ402に格納されたプログラムをプロセッサ400が実行する。また、プロセッサ400は、メモリ402に格納された閾値、温度テーブル値及び受信位相参照値を参照することにより、上述した目標物検出モード、故障検出モード、及び性能補正モードの各処理を実行することができる。プロセッサ400による演算結果は、メモリ402に記憶することができる。また、プロセッサ400の処理結果を表示器406に表示することもできる。なお、表示器406は、信号処理部3の外部に備えられていてもよい。
【0043】
また、
図8に示すプロセッサ400及びメモリ402は、
図9のように処理回路403に置き換えてもよい。処理回路403は、単一回路、複合回路、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、又は、これらを組み合わせたものが該当する。
【0044】
以上説明したように、実施の形態1に係るレーダ装置において、目標物の検出処理を行う信号処理部は、第1及び第2の処理部と、送信位相制御部と、記憶部と、受信位相補正部とを備える。第1の処理部は、ビート信号に基づいて目標物の位置及び速度を検出する処理を行い、第2の処理部は、ビート信号及び第1の処理部の処理結果に基づいて目標物の方位角を検出する処理を行う。送信位相制御部は、送信チャネル毎に異なる変調度で送信チャープ信号の送信位相を変調し、記憶部は、受信位相情報である受信位相参照値を保持する。受信位相補正部は、第1の処理部で得られたスペクトラムの受信位相と、記憶部に保持された受信位相参照値とに基づいて受信位相の変化量を算出し、算出した変化量を第2の処理部の処理に反映する。このように構成されたレーダ装置によれば、レーダ装置の運用中において、レーダ装置の故障判定に用いる送信チャープ信号は、複数の送信チャネルから同時に空間に放射される。これにより、レーダ装置の故障判定に要する時間の増加を抑制することが可能となる。また、実施の形態1に係るレーダ装置によれば、故障検出モードによる処理と、レーダ装置の性能低下を抑制するために行う受信位相補正モードによる処理とを同じ処理フローで同時並行的に実施することができる。これにより、レーダ装置の運用中において、故障検出モード及び受信位相補正モードによる処理を短時間で行うことができる。複数の動作モードによる処理を短時間で行うことができるので、レーダ装置の消費電力の低減が可能となる。
【0045】
また、実施の形態1に係るレーダ装置の運用方法は、上記のように構成されたレーダ装置を用いて行うレーダ装置の運用方法であって、以下に示す、変調ステップ、放射ステップ、振幅検出ステップ、及び判定ステップを含む処理とすることができる。変調ステップでは、送信チャネル毎に異なる変調度で送信チャープ信号の送信位相を変調する。放射ステップでは、変調ステップで生成した送信チャープ信号を複数の送信チャネルから同時に空間に放射する。振幅検出ステップでは、放射ステップで放射された送信チャープ信号の直接波を受信し、全ての受信チャネルで全ての送信チャネルの送信直接波成分の振幅を検出する。判定ステップでは、振幅検出ステップで検出された送信直接波成分の振幅と、予め設定された閾値との比較結果に基づいてレーダ装置の故障を判定する。このような、変調ステップ、放射ステップ、振幅検出ステップ、及び判定ステップを含むレーダ装置の運用方法によれば、レーダ装置の故障判定に要する時間の増加を抑制することが可能となる。
【0046】
なお、実施の形態1に係るレーダ装置の運用方法では、上記の変調ステップ、放射ステップ、振幅検出ステップ、及び判定ステップの処理に合わせ、以下に示す、位相検出ステップ、算出ステップ、及び反映ステップを含む処理とすることができる。位相検出ステップでは、上記の放射ステップで放射された送信チャープ信号の直接波を受信し、全ての受信チャネルで任意の1つの送信直接波成分の受信位相を検出する。算出ステップでは、位相検出ステップで検出された受信位相の検出値と、予め保持された受信位相参照値とに基づいて受信位相変化量を算出する。反映ステップでは、算出ステップで算出された受信位相変化量を目標物の検出処理に反映する。このような、位相検出ステップ、算出ステップ、及び反映ステップを更に含むレーダ装置の運用方法によれば、レーダ装置の故障検出処理と、レーダ装置の性能低下を抑制するために行う受信位相補正処理とを同じ処理フローで同時並行的に実施することができる。これにより、レーダ装置の運用中において、これらの複数の処理を短時間で行うことができる。また、複数の動作モードによる処理を短時間で行うことができるので、レーダ装置の消費電力の低減が可能となる。
【0047】
実施の形態2.
レーダ装置において、送信信号の振幅特性は、送信チャネルを構成する集積回路上の半導体素子の製造ばらつき、電源電圧の変動、周囲温度の変化などにより、大きく変化することが知られている。送信信号の振幅特性が変化すると、複数の送信チャネルの信号経路間に振幅差が生じ、目標物の距離、相対速度、方位角等の検出精度が低下する。実施の形態2では、複数の送信チャネルの信号経路間に生じ得る振幅差の影響を低減する構成及び方法を提案する。
【0048】
図10は、実施の形態2に係るレーダ装置200の構成を示すブロック図である。
図10に示す各構成要素のうち、
図1に示す実施の形態1のレーダ装置100と同一機能を達成する構成要素については、同一符号を付しており、重複する内容の説明は、適宜省略する。
【0049】
図10において、実施の形態2に係るレーダ装置200では、
図1に示す信号処理部3が信号処理部3Aに置き替えられている。また、
図10に示す信号処理部3Aでは、
図1に示す信号処理部3において、受信位相補正部35が送信振幅補正部43に置き替えられ、受信位相参照値保存部40が送信振幅参照値保存部44に置き替えられている。また、
図10に示す信号処理部3Aでは、送信振幅制御部42が追加されている。
【0050】
送信振幅参照値保存部44は、送信信号の振幅情報である送信振幅参照値を保持する記憶部である。送信振幅参照値は、R-FFT及びV-FFT処理における、直接波53によるスペクトラムから得られる送信信号の振幅情報であり、少なくとも1つの受信チャネル20において算出される。送信振幅参照値の算出処理は、例えば出荷検査時において、目標物41からの反射波成分が存在しない環境下で実施される。
【0051】
送信振幅補正部43は、R-FFT部32a,32b、及びV-FFT部33a,33bで得られたスペクトラムの振幅情報である送信振幅と、送信振幅参照値保存部44に保存された送信振幅参照値とに基づいて送信振幅の変化量を算出し、算出した変化量を送信振幅制御部42の処理に反映する。
【0052】
送信振幅制御部42は、送信振幅補正部43が算出した送信振幅の変化量に応じて、増幅器13a,13bの増幅率を制御して、運用中の送信チャープ信号の振幅を変化させる。
【0053】
次に、実施の形態2に係るレーダ装置200の動作について、
図10及び
図11の図面を参照して説明する。
図11は、実施の形態2の故障検出部31による故障検出モード及び送信振幅補正部43による送信振幅補正モードの動作説明に供するフローチャートである。
図11に示す故障検出モード及び送信振幅補正モードは、レーダ装置200の運用中においても起動することができる。即ち、
図11に示す故障検出モード及び送信振幅補正モードの動作フローは、レーダ装置200が送受信動作中であっても実施可能である。
【0054】
レーダ装置200は、送信チャネル10毎に異なる変調度で送信チャープ信号51の送信位相を変調し(ステップS101)、複数の送信チャネル10から同時に送信チャープ信号51を放射する(ステップS102)。ステップS101及びS102に関しては、故障検出モード及び送信振幅補正モードで共通である。また、
図11の左側には、故障検出モードの動作フローが示されているが、ステップS103~S106の処理は、
図6の左側と同じであり、ここでの説明は省略する。
【0055】
次に、送信振幅補正モードの動作を説明する。送信振幅補正モードの動作は、
図11の右側に示されている。
【0056】
信号処理部3Aは、任意の1つの受信チャネル20で、全ての送信チャネル10から放射される送信直接波成分の送信振幅を検出する(ステップS110)。そして、信号処理部3Aは、全ての送信チャネル10の送信振幅変化量を算出する(ステップS111)。送信振幅変化量の算出方法は、更に
図12を参照して説明する。
図12は、実施の形態2の送信振幅補正モードにおける送信振幅変化量の算出方法の説明に供する図である。なお、
図12の説明は、
図10に示す構成に従って、送信チャネル10の数は、送信チャネルa,bの2つとする。また、前述したように、送信振幅参照値保存部44には、送信振幅参照値が保存されているものとする。
【0057】
まず、
図12に示すように、送信振幅参照値保存部44に保存されている送信チャネルa,bの送信振幅参照値を、それぞれ「Aref_a」及び「Aref_b」とする。また、ステップS110で検出された、全ての送信チャネルa,bから放射された直接波成分による任意の1つの受信チャネル20である受信チャネルa又は受信チャネルbの検出値である送信振幅検出値を「Adir_a」及び「Adir_b」とする。送信振幅検出値は、直接波53によるスペクトラムのピークビンのデータを使用して求めることができる。ピークビンは、直接波53によるスペクトラムのピークが表れる速度ビン又は距離ビンである。また、送信チャネルa,bにおける送信振幅変化量を、それぞれ「ΔA_a」及び「ΔA_b」とする。送信振幅変化量ΔA_a,ΔA_bは、
図12に示すように、それぞれ「ΔA_a=Aref_a-Adir_a」及び「ΔA_b=Aref_b-Adir_b」の算出式で求めることができる。即ち、送信振幅変化量は、送信振幅参照値と送信振幅検出値との差分を演算することで求めることができる。
【0058】
図11の動作フローに戻り、送信振幅補正部43は、ステップS111で算出された送信振幅変化量を送信振幅制御部42の処理に反映させて(ステップS112)、送信振幅補正モードを終了する。
【0059】
以上説明したように、実施の形態2に係るレーダ装置において、目標物の検出処理を行う信号処理部は、第1及び第2の処理部と、送信位相制御部と、記憶部と、送信振幅補正部と、送信振幅制御部とを備える。第1の処理部は、ビート信号に基づいて目標物の位置及び速度を検出する処理を行い、第2の処理部は、ビート信号及び第1の処理部の処理結果に基づいて目標物の方位角を検出する処理を行う。送信位相制御部は、送信チャネル毎に異なる変調度で送信チャープ信号の送信位相を変調し、記憶部は、送信信号の振幅情報である送信振幅参照値を保持する。送信振幅補正部は、第1の処理部で得られたスペクトラムの送信振幅と、記憶部に保持された送信振幅参照値とに基づいて送信振幅の変化量を算出する。送信振幅制御部は、送信振幅補正部が算出した送信振幅の変化量に基づいて送信チャープ信号の振幅を変化させる制御を行う。このように構成されたレーダ装置によれば、レーダ装置の運用中において、レーダ装置の故障判定に用いる送信チャープ信号は、複数の送信チャネルから同時に空間に放射される。これにより、レーダ装置の故障判定に要する時間の増加を抑制することが可能となる。また、実施の形態2に係るレーダ装置によれば、故障検出モードによる処理と、レーダ装置の性能低下を抑制するために行う送信振幅補正モードによる処理とを同じ処理フローで同時並行的に実施することができる。これにより、レーダ装置の運用中において、故障検出モード及び送信振幅補正モードによる処理を短時間で行うことができる。複数の動作モードによる処理を短時間で行うことができるので、レーダ装置の消費電力の低減が可能となる。
【0060】
また、実施の形態2に係るレーダ装置の運用方法は、上記のように構成されたレーダ装置を用いて行うレーダ装置の運用方法であって、実施の形態1で説明した変調ステップ、放射ステップ、振幅検出ステップ、及び判定ステップの処理に合わせ、以下に示す、振幅検出ステップ、算出ステップ、及び振幅制御ステップを含む処理とすることができる。振幅検出ステップでは、上記の放射ステップで放射された送信チャープ信号の直接波を受信し、任意の1つの受信チャネルで全ての送信チャネルの送信直接波成分の送信振幅を検出する。算出ステップでは、振幅検出ステップで検出された送信振幅の検出値と、予め保持された送信振幅参照値とに基づいて送信振幅変化量を算出する。振幅制御ステップでは、算出ステップで算出された送信振幅変化量を放射ステップで放射する送信チャープ信号の振幅制御に反映する。このような、振幅検出ステップ、算出ステップ、及び振幅制御ステップを更に含むレーダ装置の運用方法によれば、レーダ装置の故障検出処理と、レーダ装置の性能低下を抑制するために行う送信振幅補正処理とを同じ処理フローで同時並行的に実施することができる。これにより、レーダ装置の運用中において、これらの複数の処理を短時間で行うことができる。また、複数の動作モードによる処理を短時間で行うことができるので、レーダ装置の消費電力の低減が可能となる。
【0061】
実施の形態3.
レーダ装置において、送信信号の位相特性は、送信チャネルを構成する集積回路上の半導体素子の製造ばらつき、電源電圧の変動、周囲温度の変化などにより、大きく変化することが知られている。送信信号の位相特性が変化すると、複数の送信チャネルの信号経路間に位相差が生じ、目標物の距離、相対速度、方位角等の検出精度が低下する。実施の形態3では、複数の送信チャネルの信号経路間に生じ得る位相差の影響を低減する構成及び方法を提案する。
【0062】
図13は、実施の形態3に係るレーダ装置300の構成を示すブロック図である。
図13に示す各構成要素のうち、
図1に示す実施の形態1のレーダ装置100と同一機能を達成する構成要素については、同一符号を付しており、重複する内容の説明は、適宜省略する。
【0063】
図13において、実施の形態3に係るレーダ装置300では、
図1に示す信号処理部3が信号処理部3Bに置き替えられている。また、
図13に示す信号処理部3Bでは、
図1に示す信号処理部3において、受信位相補正部35が送信位相補正部45に置き替えられ、受信位相参照値保存部40が送信位相参照値保存部46に置き替えられている。
【0064】
送信位相参照値保存部46は、送信位相情報である送信位相参照値を保持する記憶部である。送信位相参照値は、R-FFT及びV-FFT処理における、直接波53によるスペクトラムから得られる送信信号の位相情報であり、少なくとも1つの受信チャネル20において算出される。送信位相参照値の算出処理は、例えば出荷検査時において、目標物41からの反射波成分が存在しない環境下で実施される。
【0065】
送信位相補正部45は、R-FFT部32a,32b、及びV-FFT部33a,33bで得られたスペクトラムの位相情報である送信位相と、送信位相参照値保存部46に保存された送信位相参照値とに基づいて送信位相の変化量を算出し、算出した変化量を送信位相制御部15の処理に反映する。
【0066】
送信位相制御部15は、送信位相補正部45が算出した送信位相の変化量に応じて、移相器12a,12bの位相を制御して、運用中の送信チャープ信号の位相を変化させる。
【0067】
次に、実施の形態3に係るレーダ装置300の動作について、
図13及び
図14の図面を参照して説明する。
図14は、実施の形態3の故障検出部31による故障検出モード及び送信位相補正部45による送信位相補正モードの動作説明に供するフローチャートである。
図14に示す故障検出モード及び送信位相補正モードは、レーダ装置300の運用中においても起動することができる。即ち、
図14に示す故障検出モード及び送信位相補正モードの動作フローは、レーダ装置300が送受信動作中であっても実施可能である。
【0068】
レーダ装置300は、送信チャネル10毎に異なる変調度で送信チャープ信号51の送信位相を変調し(ステップS101)、複数の送信チャネル10から同時に送信チャープ信号51を放射する(ステップS102)。ステップS101及びS102に関しては、故障検出モード及び送信位相補正モードで共通である。また、
図14の左側には、故障検出モードの動作フローが示されているが、ステップS103~S106の処理は、
図6の左側と同じであり、ここでの説明は省略する。
【0069】
次に、送信位相補正モードの動作を説明する。送信位相補正モードの動作は、
図14の右側に示されている。
【0070】
信号処理部3Bは、任意の1つの受信チャネル20で、全ての送信チャネル10から放射される送信直接波成分の送信位相を検出する(ステップS113)。そして、信号処理部3Bは、全ての送信チャネル10の送信位相変化量を算出する(ステップS114)。送信位相変化量の算出方法は、更に
図15を参照して説明する。
図15は、実施の形態3の送信位相補正モードにおける送信位相変化量の算出方法の説明に供する図である。なお、
図15の説明は、
図13に示す構成に従って、送信チャネル10の数は、送信チャネルa,bの2つとする。また、前述したように、送信位相参照値保存部46には、送信位相参照値が保存されているものとする。
【0071】
まず、
図15に示すように、送信位相参照値保存部46に保存されている送信チャネルa,bの送信位相参照値を、それぞれ「θTXref_a」及び「θTXref_b」とする。また、ステップS113で検出された、全ての送信チャネルa,bから放射された直接波成分による任意の1つの受信チャネル20である受信チャネルa又は受信チャネルbの検出値である送信位相検出値を「θTXdir_a」及び「θTXdir_b」とする。送信位相検出値は、直接波53によるスペクトラムのピークビンのデータを使用して求めることができる。ピークビンは、直接波53によるスペクトラムのピークが表れる速度ビン又は距離ビンである。また、送信チャネルa,bにおける送信位相変化量を、それぞれ「θTX_a」及び「θTX_b」とする。送信位相変化量θTX_a,θTX_bは、
図15に示すように、それぞれ「θTX_a=θTXref_a-θTXdir_a」及び「θTX_b=θTXref_b-θTXdir_b」の算出式で求めることができる。即ち、送信位相変化量は、送信位相参照値と送信位相検出値との差分を演算することで求めることができる。
【0072】
図14の動作フローに戻り、送信位相補正部45は、ステップS114で算出された送信位相変化量を送信位相制御部15の処理に反映させて(ステップS115)、送信位相補正モードを終了する。
【0073】
以上説明したように、実施の形態3に係るレーダ装置において、目標物の検出処理を行う信号処理部は、第1及び第2の処理部と、送信位相制御部と、記憶部と、送信位相補正部とを備える。第1の処理部は、ビート信号に基づいて目標物の位置及び速度を検出する処理を行い、第2の処理部は、ビート信号及び第1の処理部の処理結果に基づいて目標物の方位角を検出する処理を行う。送信位相制御部は、送信チャネル毎に異なる変調度で送信チャープ信号の送信位相を変調し、記憶部は、送信信号の位相情報である送信位相参照値を保持する。送信位相補正部は、第1の処理部で得られたスペクトラムの送信位相と、記憶部に保持された送信位相参照値とに基づいて送信位相の変化量を算出する。送信位相制御部は、送信位相補正部が算出した送信位相の変化量に基づいて送信チャープ信号の位相を変化させる制御を行う。このように構成されたレーダ装置によれば、レーダ装置の運用中において、レーダ装置の故障判定に用いる送信チャープ信号は、複数の送信チャネルから同時に空間に放射される。これにより、レーダ装置の故障判定に要する時間の増加を抑制することが可能となる。また、実施の形態3に係るレーダ装置によれば、故障検出モードによる処理と、レーダ装置の性能低下を抑制するために行う送信位相補正モードによる処理とを同じ処理フローで同時並行的に実施することができる。これにより、レーダ装置の運用中において、故障検出モード及び送信位相補正モードによる処理を短時間で行うことができる。複数の動作モードによる処理を短時間で行うことができるので、レーダ装置の消費電力の低減が可能となる。
【0074】
また、実施の形態3に係るレーダ装置の運用方法は、上記のように構成されたレーダ装置を用いて行うレーダ装置の運用方法であって、実施の形態1で説明した変調ステップ、放射ステップ、振幅検出ステップ、及び判定ステップの処理に合わせ、以下に示す、位相検出ステップ、算出ステップ、及び位相制御ステップを含む処理とすることができる。位相検出ステップでは、上記の放射ステップで放射された送信チャープ信号の直接波を受信し、任意の1つの受信チャネルで全ての送信チャネルの送信直接波成分の送信位相を検出する。算出ステップでは、位相検出ステップで検出された送信位相の検出値と、予め保持された送信位相参照値とに基づいて送信位相変化量を算出する。位相制御ステップでは、算出ステップで算出された送信位相変化量を放射ステップで放射する送信チャープ信号の位相制御に反映する。このような、位相検出ステップ、算出ステップ、及び位相制御ステップを更に含むレーダ装置の運用方法によれば、レーダ装置の故障検出処理と、レーダ装置の性能低下を抑制するために行う送信位相補正処理とを同じ処理フローで同時並行的に実施することができる。これにより、レーダ装置の運用中において、これらの複数の処理を短時間で行うことができる。また、複数の動作モードによる処理を短時間で行うことができるので、レーダ装置の消費電力の低減が可能となる。
【0075】
以上の実施の形態に示した構成は、一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、実施の形態同士を組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【符号の説明】
【0076】
1 送信回路、2 受信回路、3,3A,3B 信号処理部、6 周囲温度モニタ、10 送信チャネル、11 RF信号源、12a,12b 移相器、13a,13b 増幅器、14a,14b 送信アンテナ、15 送信位相制御部、20 受信チャネル、21a,21b 受信アンテナ、22a,22b ミクサ、31 故障検出部、32a,32b R-FFT部、33a,33b V-FFT部、34 A-FFT部、35 受信位相補正部、36 振幅検出部、39 位置/速度検出部、40 受信位相参照値保存部、41 目標物、42 送信振幅制御部、43 送信振幅補正部、44 送信振幅参照値保存部、45 送信位相補正部、46 送信位相参照値保存部、51 送信チャープ信号、52 反射波、53 直接波、100,200,300 レーダ装置、150 車両、400 プロセッサ、402 メモリ、403 処理回路、404 インタフェース、406 表示器。