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7669007有機無機複合フィラー及びその製造方法並びに該有機無機複合フィラーを含有する歯科用硬化性組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-18
(45)【発行日】2025-04-28
(54)【発明の名称】有機無機複合フィラー及びその製造方法並びに該有機無機複合フィラーを含有する歯科用硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/44 20060101AFI20250421BHJP
   C08F 292/00 20060101ALI20250421BHJP
   A61C 13/08 20060101ALI20250421BHJP
   A61C 5/70 20170101ALN20250421BHJP
【FI】
C08F2/44 A
C08F292/00
A61C13/08 Z
A61C5/70
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021069526
(22)【出願日】2021-04-16
(65)【公開番号】P2022097349
(43)【公開日】2022-06-30
【審査請求日】2024-01-09
(31)【優先権主張番号】P 2020210301
(32)【優先日】2020-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】391003576
【氏名又は名称】株式会社トクヤマデンタル
(72)【発明者】
【氏名】森▲崎▼ 宏
(72)【発明者】
【氏名】花田 隆
(72)【発明者】
【氏名】秋積 宏伸
【審査官】前田 直樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-090574(JP,A)
【文献】特開2014-091688(JP,A)
【文献】特開2019-183111(JP,A)
【文献】特開2015-105254(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/44
C08F 292/00
A61C 13/08
A61C 5/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性単量体(a)の硬化体からなる有機樹脂成分(A)と平均一次粒子径が10~1000nmである無機粒子(B)との複合体からなる多孔質有機無機複合粒子の集合体からなり、窒素吸着法で測定したときの1~500nmの細孔の積算細孔容積が0.01~0.30cm/gである有機無機複合フィラーであって、
前記多孔質有機無機複合粒子における前記無機粒子(B)の含有率は、80~95質量%であり、
前記有機無機複合フィラーを構成する個々の前記多孔質有機無機複合粒子は、不定形状を有し、
レーザー回折-散乱法によって測定した、前記有機無機複合フィラーを構成する前記多孔質有機無機複合粒子の体積基準の粒度分布におけるメディアン径である平均粒子径が、5~100μmであり、且つ
前記粒度分布において、5μm以下の微細粒子の存在割合が15%未満である、
ことを特徴とする有機無機複合フィラー。
【請求項2】
前記多孔質有機無機複合粒子における前記無機粒子(B)の含有率は、82~93質量%であり、前記多孔質有機無機複合粒子の前記平均粒子径が、10~100μmであり、且つ5μm以下の微細粒子の存在割合が、体積基準で10%未満である、請求項1に記載の有機無機複合フィラー。
【請求項3】
前記有機無機複合フィラーを構成する個々の前記多孔質有機無機複合粒子はエッジ部を有する不定形状を有し、前記積算細孔容積が0.03~0.25cm/gである、請求項1又は2に記載の有機無機複合フィラー。
【請求項4】
前記無機粒子(B)が、X線造影性を有する無機粒子を含む、請求項1乃至3の何れか一項に記載の有機無機複合フィラー。
【請求項5】
請求項1に記載の有機無機複フィラーを製造する方法であって、
平均一次粒子径10~1000nmの無機粒子(B)と重合性単量体成分(a)とを、両者の合計質量に占める前記無機粒子の質量の割合が80~95質量%となるようにして、有機溶媒の共存下に混合して、前記有機溶媒に不溶成分が均一に分散したスラリーを得るスラリー化工程;
前記スラリーから有機溶媒を除去して、前記重合性単量体成分(a)と前記無機粒子(B)の混合物からなる凝集塊状物を得る乾燥工程;
前記凝集塊状物に含まれる前記重合性単量体成分(a)を重合硬化させて、前記重合性単量体(a)の硬化体からなる有機樹脂成分(A)と前記無機粒子(B)との複合体からなる塊状微多孔体を得る硬化工程;
前記塊状微多孔体を粉砕して紛体化する粉砕工程;及び
前記粉砕工程後に、体積基準の粒度分布におけるメディアン径である平均粒子径が10~100μmで、且つ前記粒度分布において5μm以下の微細粒子の存在割合が15%未満となるように分級を行う、分級工程;
を有することを特徴とする方法。
【請求項6】
前記スラリー化工程で混合される前記無機粒子(B)が、表面処理された、一次粒子の凝集粒子であり、前記有機溶媒の共存下における混合によって前記凝集粒子の解砕が行われる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記スラリー化工程が、
平均一次粒子径10~1000nmの無機粒子(B)と重合性単量体成分(a)とを、両者の合計質量に占める前記無機粒子の質量の割合が80~95質量%となるようにして混合し、前記無機粒子(B)の表面に前記重合性単量体成分(a)が付着した湿紛体からなる混合粉体を得る第一工程;および
前記混合粉体と有機溶媒とを混合して、該有機溶媒に不溶成分が均一に分散したスラリーを得る第二工程
からなる、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
請求項1乃至4の何れか一項に記載の有機無機複合フィラー、重合性単量体及び重合開始剤を含むことを特徴とする歯科用硬化性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な有機無機複合フィラー及びその製造方法、並びに該有機無機複合フィラーを含有する歯科用硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科用硬化性組成物は、一般に、重合性単量体(モノマー)、フィラー、及び重合開始剤を主成分とするペースト状組成物であり、使用するフィラーの種類、形状、粒子径、及び充填量(率)等は、歯科用硬化性組成物の操作性や、硬化させて得られる硬化体の審美性及び機械的強度等に影響を与える。
【0003】
例えば、歯科用硬化性組成物に、粒子径が大きな無機フィラーを配合した場合には、硬化体の機械的強度が高くなる反面、硬化体の表面滑沢性や耐摩耗性が低下し、天然歯と同様の艶のある硬化体の仕上がり面が得難くなる。他方、平均粒子径が1μm以下の微細な無機フィラーを配合した場合には、硬化体の表面滑沢性や耐摩耗性を優れたものとすることができるが、微細無機フィラーは、比表面積が大きいので、粘度を大きく増加させる。また、無機フィラーの配合量を少なくした場合には、歯科用硬化性組成物が硬化する際のモノマーの重合収縮により硬化体の収縮量が増加したりするばかりでなく、硬化体の機械的強度の低下等を招く。
【0004】
このような言わばトレードオフの関係を回避するために、有機無機複合フィラーの使用が提案されている(たとえば、特許文献1および2参照)。有機無機複合フィラーは、微細な無機フィラーを有機樹脂中に含有する複合フィラーであり、これを用いることにより、微細な無機フィラーを用いる場合の優れた表面滑沢性や耐摩耗性を維持することができ、更に重合収縮率を少なくすることも可能となる。なお、有機無機複合フィラーの配合量が多くなりすぎる場合にはペーストの状態においてバサツキが生じてペーストの操作性が悪化してしまうが、平均粒子径が0.1~1μmの無機フィラー(無機粒子)と併用することによって上記操作性の低下を防止し、優れた操作性のペースト状歯科用硬化性組成物とすることができる(特許文献2参照。)。
【0005】
上記有機無機複合フィラーの製造方法としては、微細無機フィラーと重合性単量体とを予め混練したペースト状の硬化性組成物を重合させて硬化体を得、次いで前記硬化体を破砕する方法が一般的である。この方法で製造した有機無機複合フィラーを配合した歯科用硬化性組成物はマトリックスと有機無機複合フィラーとの界面の結合が弱いため歯科用硬化性組成物としては強度が低いことが問題であった。
【0006】
前記問題点を改善する有機無機複合フィラーとして、水銀圧入法で測定した細孔容積(ここで、細孔とは細孔経が1~500nmの範囲の孔をいう)が0.01~0.30cm3/gの凝集間隙を有する有機無機複合フィラーが提案されている(特許文献3参照。)。そして、特許文献3には、このような多孔性有機無機複合フィラーと、重合性単量体と、重合開始剤とを含んでなる歯科用硬化性組成物は、凝集間隙を有する有機無機複合フィラーを用いることにより、硬化性組成物の重合性単量体が毛細管現象により滲入して硬化することにより、アンカー効果が生じ、有機無機複合フィラーが、該硬化性組成物の硬化体中に高い嵌合力で保持され、機械的強度が向上すると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2000-80013号公報
【文献】国際公開第2015/125470号パンフレット
【文献】国際公開第2011/115007号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らが検討したところ、特許文献3の方法で得られる凝集間隙を有する有機無機複合フィラーを配合する歯科用硬化性組成物の機械的強度は相当に高く、耐摩耗性、審美性に関しても優れた歯科用硬化性組成物を得ることができる。しかしながら、実施例に記載されている製造方法、具体的には、無機一次粒子が分散した水系懸濁液を噴霧乾燥により凝集させて無機一次粒子の凝集物を製造し、得られた無機凝集粒子に、重合開始剤を含有させた重合性単量体を含浸させて重合するという方法、によって得られた有機無機複合フィラーを含有する歯科用硬化性組成物のペースト性状や操作性について詳細に検討を行ったところ、硬化前のペースト状態においてベタツキが生じ操作性が良好でない場合があり、また、臼歯I級窩洞等に充填する際、形成した咬合面形態を保持する能力が低いことが判明した。すなわち、上記歯科用硬化性組成物には、ペーストの操作性および形態保持性に関して改善する余地があった。
【0009】
以上の背景にあって、本発明は、歯科用硬化性組成物に配合される有機無機複合フィラーであって、歯科用硬化性組成物の硬化体の機械的強度を高めることができ、硬化前のペースト状態における操作性および形態保持性が良好であり、かつ長期間にわたって良好な操作性を維持することのできる有機無機複合フィラーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するものであり、本発明の第一の形態は、重合性単量体(a)の硬化体からなる有機樹脂成分(A)と平均一次粒子径が10~1000nmである無機粒子(B)との複合体からなる多孔質有機無機複合粒子の集合体からなり、窒素吸着法で測定したときの1~500nmの細孔の積算細孔容積が0.01~0.30cm/gである有機無機複合フィラーであって、前記多孔質有機無機複合粒子における前記無機粒子(B)の含有率は、80~95質量%であり、前記有機無機複合フィラーを構成する個々の前記多孔質有機無機複合粒子は、不定形状を有し、レーザー回折-散乱法によって測定した、前記有機無機複合フィラーを構成する前記多孔質有機無機複合粒子の体積基準の粒度分布におけるメディアン径である平均粒子径が、5~100μmであり、且つ前記粒度分布において、5μm以下の微細粒子の存在割合(以下、「微細粒子存在割合」ともいう。)が15%未満である、ことを特徴とする有機無機複合フィラーである。

【0011】
上記形態の有機無機複合フィラー(以下、「本発明の有機無機複合フィラー」ともいう。)においては、前記多孔質有機無機複合粒子における前記無機粒子(B)の含有率は、82~93質量%であり、前記均粒子径が10~100μmであ、ことが特に好ましい。また、前有機無機複合フィラーを構成する個々の前記多孔質有機無機複合粒子はエッジ部を有する不定形形状を有し、前記積算細孔容積が0.03~0.25cm/gであることが好ましい。更に、前記無機粒子(B)が、X線造影性を有する無機粒子を含むことが好ましい。

【0012】
本発明の第二の形態は、本発明の有機無機複フィラーを製造する方法であって、平均一次粒子径10~1000nmの無機粒子(B)と重合性単量体成分(a)とを、両者の合計質量に占める前記無機粒子の質量の割合が80~95質量%となるようにして、有機溶媒の共存下に混合して、前記有機溶媒に不溶成分が均一に分散したスラリーを得るスラリー化工程;前記スラリーから有機溶媒を除去して、前記重合性単量体成分(a)と前記無機粒子(B)の混合物からなる凝集塊状物を得る乾燥工程;前記凝集塊状物に含まれる前記重合性単量体成分(a)を重合硬化させて、前記重合性単量体(a)の硬化体からなる有機樹脂成分(A)と前記無機粒子(B)との複合体からなる塊状微多孔体を得る硬化工程;及び前記塊状微多孔体を粉砕して紛体化する粉砕工程;及び前記粉砕工程後に、体積基準の粒度分布におけるメディアン径である平均粒子径が10~100μmで、且つ前記粒度分布において5μm以下の微細粒子の存在割合(微細粒子存在割合)が15%未満となるように分級を行う、分級工程;を有することを特徴とする方法である。
【0013】
上記形態の方法(以下、「本発明の製造方法」ともいう。)においては、前記スラリー化工程で混合される前記無機粒子(B)が、表面処理された、一次粒子の凝集粒子であり、前記有機溶媒の共存下における混合によって前記凝集粒子の解砕が行われる、ことが好ましい。また、前記スラリー化工程が、平均一次粒子径10~1000nmの無機粒子(B)と重合性単量体成分(a)とを、両者の合計質量に占める前記無機粒子の質量の割合が80~95質量%となるようにして混合し、前記無機粒子(B)の表面に前記重合性単量体成分(a)が付着した湿紛体からなる混合粉体を得る第一工程;および前記混合粉体と有機溶媒とを混合して、該有機溶媒に不溶成分が均一に分散したスラリーを得る第二工程からなることが好ましい

【0014】
本発明の第三の形態は、本発明の有機無機複合フィラー、重合性単量体及び重合開始剤を含むことを特徴とする歯科用硬化性組成物(以下、「本発明の歯科用硬化性組成物」ともいう。)である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の有機無機複合フィラーは、歯科用硬化性組成物の充填材として使用した場合に、特許文献3に記載された多孔性有機無機複合フィラーと配合した歯科用硬化性組成物と同様に、無機フィラーを直接配合した場合と比較して重合収縮を小さく抑えることができるばかりでなく、硬化体の表面滑沢性や耐摩耗性を良好なものとし、更に、有機無機複合フィラーの細孔内に滲入した重合性単量体が硬化することによって硬化体の機械的強度を向上させることができる。
【0016】
さらに、本発明の有機無機複合フィラーを用いた場合には、歯科用硬化性組成物のペースト性状を悪化させることなく、長期保管後においてもベタツキ感が抑制された良好な操作性を呈するペースト性状を維持できるようになるばかりでなく、たとえば歯科用充填材として使用して咬合面形態等の所望の形態に賦形したときにおける形態保持性を良好にすることも可能となる。
【0017】
また、前記特許文献2に示されるように、有機無機複合フィラーの配合量が多い場合に生じるペーストのバサツキ感を改良するためには、特定の無機フィラーを配合する必要があったが、本発明の有機無機複合フィラーでは、μm以下の微細粒子の存在割合(微細粒子存在割合)がいのでペーストのバサツキを抑制することもできる。

【発明を実施するための形態】
【0018】
特許文献3に開示されている前記有機無機複合フィラーは、前記したような製造方法に由来して、有機無機複合フィラーを構成する個々の粒子の形状は基本的には略球状である。本発明者等は、前記有機無機複合フィラーの形状を略球状から不定形状に変更すれば、ペースト性状を変えることができるができるのではないかと考え、鋭意検討を行った。その結果、重合性単量体の硬化体からなる有機樹脂成分と前記無機一次粒子との複合体からなる塊状微多孔体を得てからこれを粉砕した場合には、特許文献3に記載された多孔性有機無機複合フィラーが有する優れた特徴を維持しつつ、その欠点を補い、これを配合した歯科用硬化性組成物(ペースト)の操作性や形態保持性を改善することができることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0019】
ペーストの操作性や形態保持性が良好となる理由は明らかではないが、多孔質有機無機複合粒子の形状が(略球状ではない)不定形、好ましくはエッジ部を有する不定形形状を有するためにベタツキが生じず、更に形態保持性が向上したものと推察される。さらに、ペーストのバサツキ感が抑制されることに関しては、有機無機複合フィラーを構成する多孔質有機無機複合粒子における無機成分の含有割合が高く、歯科用硬化性組成物中のマトリクスモノマーとの親和性が高い有機樹脂成分量が少ないこととに加えて、微細粒子の割合が非常に低い場合には上記モノマーとの接触面積が小さくなることから多孔質有機無機複合粒子による上記モノマーの経時的な吸収が抑制されたことによるものと考えられる。
【0020】
以下、本発明の有機無機複合フィラー、その製造方法(本発明の製造方法)及び本発明の歯科用硬化性組成物について詳しく説明する。なお、本明細書においては特に断らない限り、数値x及びyを用いた「x~y」という表記は「x以上y以下」を意味するものとする。かかる表記において数値yのみに単位を付した場合には、当該単位が数値xにも適用されるものとする。また、本明細書において、「(メタ)アクリル系」との用語は「アクリル系」及び「メタクリル系」の両者を意味する。同様に、「(メタ)アクリレート」との用語は「アクリレート」及び「メタクリレート」の両者を意味し、「(メタ)アクリロイル」との用語は「アクリロイル」及び「メタクリロイル」の両者を意味する。
【0021】
1.本発明の有機無機複合フィラー
本発明の有機無機複合フィラーは、重合性単量体(a)の硬化体からなる有機樹脂成分(A)と平均一次粒子径が10~1000nmである無機粒子(B)との複合体からなる多孔質有機無機複合粒子の集合体からなり、窒素吸着法で測定したときの1~500nmの細孔の積算細孔容積が0.01~0.30cm/gである有機無機複合フィラーであって、前記多孔質有機無機複合粒子における前記無機粒子(B)の含有率は、80~95%質量であり、前有機無機複合フィラーを構成する個々の前記多孔質有機無機複合粒子は、不定形状を有し、レーザー回折-散乱法によって測定した、前記有機無機複合フィラーを構成する前記多孔質有機無機複合粒子の体積基準の粒度分布におけるメディアン径である平均粒子径が、5~100μmであり、且つ前記粒度分布において、5μm以下の微細粒子の存在割合(微細粒子存在割合)が15%未満である、ことを特徴とする。

【0022】
本発明の有機無機複合フィラーは、前記特許文献3に記載された多孔性有機無機複合フィラーと同様に、歯科用硬化性組成物中に配合する場合、重合性単量体が細孔内に滲入し硬化することで硬化体の機械的強度向上効果が得られるように、上記したような細孔容積を有する。このような効果の観点から、上記1~500nmの細孔の積算細孔容積は、0.03~0.25cm/gであることが好ましい。
【0023】
なお、特許文献3では、細孔径1~500nmの細孔の総細孔容積を水銀圧入法で測定しているが、同範囲の細孔径の細孔容積は窒素吸着法でも測定可能であること、及び本発明者等の検討により細孔径1~500nmの細孔は、細孔径が50nm付近にピークを有する極めてシャープな細孔分布を有し、水銀圧入法では測定困難な細孔径が1nm未満の細孔や窒素吸着法では測定困難な500nmを越える細孔径の細孔は実質的に存在しないことが確認されたことから、取り扱いに注意を要する水銀を使用する必要のない、窒素吸着法により測定された、具体的には、窒素吸着による等温吸着曲線からBJH法により細孔径分布を計算することによって求めた細孔容積を採用することとしている。
【0024】
有機無機複合フィラーが有する細孔の平均細孔径は、特に制限されるものではないが、3~300nmが好ましく、10~200nmがより好ましい。この平均細孔径の範囲の場合、上記細孔容積を有する多孔性有機無機複合フィラーを容易に形成できる。なお、有機無機複合フィラーの細孔の平均細孔径は、窒素吸着による等温吸着曲線からBJH法により細孔径分布を計算することによって求めた細孔容積と、BET法により算出された比表面積とから算出した平均細孔径を採用することとしている。
【0025】
本発明の有機無機複合フィラーを構成する多孔性有機無機複合粒子における無機粒子(B)の含有率は、80~95質量%である。前記無機粒子の含有率が高すぎると、多孔性有機無機複合粒子が脆くなる虞がある。また前記無機粒子の含有率が低すぎると、前記細孔が形成されず、歯科用硬化性組成物に配合した場合のアンカー効果による機械的強度向上効果が得られないだけでなく、長期保管後においてペーストのバサツキが生じる可能性がある。このような観点から、前記多孔性有機無機複合粒子における無機粒子(B)の含有率は、82~93質量%であることが好ましい。
【0026】
本発明の有機無機複合フィラーを構成する多孔性有機無機複合粒子の形状は、不定形形状を有している。不定形形状とは、走査型電子顕微鏡を用いて有機無機複合フィラーを観察した際、主要該表面が曲面で構成される曲面形状(球状、略球状、又はドーナツ状或いは粒子の表面に窪みが形成されたディンプル状等の所謂トーラス状)でないことを意味しており、好ましくはエッジ部を有する不定形形状である。
【0027】
歯科用硬化性組成物に配合できるフィラーの充填率を低下させることがなく、更に良好なペースト性状をより確実に得ることができるという理由から、本発明の有機無機複合フィラーを構成する多孔性有機無機複合粒子の平均粒子径は、5~100μm、特に10~100μmであることが好ましく、10~70μmであることが最も好ましい。平均粒子径が5μm未満の場合は、歯科用硬化性組成物に配合できるフィラーの充填率が低下する傾向があり、その結果、硬化物の機械的強度の低下や、歯科用硬化性組成物の粘着性が高くなり、操作性が悪くなり易い。特に粒子径が5μm以下の微細粒子の存在割合が高い場合には、ペーストにバサツキが発生する傾向がある。このため、粒子径が5μm以下の微細粒子の存在割合(微細粒子存在割合)は、体積基準で特に10体積%未満であることが好ましい。一方、平均粒子径は100μmを超える場合は、歯科用硬化性組成物の流動性が低下し、ペースト状態での滑らかさが低下する傾向がある。破砕により平均粒子径が5μm未満の粒子が発生し難く、分級により粒子径が5μm以下の微細粒子を除去したときの除去率を低くでき、更に平均粒子径が10~100μm、特に10~70μmの範囲に制御し易いという理由から、有機無機複合フィラーを構成する多孔性有機無機複合粒子における無機粒子(B)の含有率は、80~90質量%、特に82~88質量%であることが好ましい。

【0028】
なお、有機無機複合フィラーの上記平均粒子径は、レーザー回折-散乱法による粒度分布を基にして求めたメディアン径を意味する。具体的には、0.1gの有機無機複合フィラーをエタノール10mLに均一に分散させて調製したサンプルについてレーザー回折-散乱法により求めた粒度分布を基にして求めたメディアン径を意味する。
【0029】
1-1.有機樹脂成分及びその原料となる重合性単量体(a)
本発明の有機無機複合フィラーを構成する有機樹脂成分(A)は、重合性単量体(a)を重合させて得られるものである。
【0030】
前記重合性単量体としては、従来の歯科用硬化性組成物において使用されるラジカル重合性単量体、カチオン重合性単量体などの重合性単量体が特に制限なく使用できる。中でも汎用されている(メタ)アクリレート系重合性単量体、具体的には酸性基含有(メタ)アクリレート系重合性単量体、水酸基含有(メタ)アクリレート系重合性単量体、これら置換基を有さない単官能及び多官能の(メタ)アクリレート系重合性単量体等を使用することが好ましい。
【0031】
好適に使用できる(メタ)アクリレート系重合性単量体を例示すれば次のようなものを挙げることができる。すなわち、酸性基含有(メタ)アクリレート系重合性単量体としては、(メタ)アクリル酸、N-(メタ)アクリロイル-p-アミノ安息香酸、2-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンフォスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホン酸等を挙げることができる。また、水酸基含有(メタ)アクリレート系重合性単量体としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、2,2-ビス[(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス〔4-(4-メタクリロイルオキシ)-3-ヒドロキシブトキシフェニル〕プロパン2,2-ビス〔4-(4-メタクリロイルオキシ)-3-ヒドロキシブトキシフェニル〕プロパン2,2-ビス〔4-(4-メタクリロイルオキシ)-3-ヒドロキシブトキシフェニル〕プロパン等をあげることができる。さらに、上記の置換基を有さない単官能及び多官能の(メタ)アクリレート系重合性単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、1,9-ノナンジオールジメタクリレート、1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)トリメチルヘキサン、等を挙げることができる。
【0032】
これら重合性単量体の中でも、重合性の高さや硬化体の機械的強度が特に高くなる等の理由から、二官能以上、より好適には二官能~四官能の重合性単量体が好ましい。また、これら重合性単量体は、単独で使用しても、異種を混合して使用してもよい。
【0033】
なお、本発明の有機無機複合フィラーを歯科用硬化性組成物のフィラーとして用いる場合は、重合性単量体は、その重合体の屈折率と、無機一次粒子の屈折率との差が0.1以下になるように、選択することが好ましい。このような重合性単量体を選択することにより、得られる有機無機複合フィラーに十分な透明性を付与できる。更に、得られる有機無機複合フィラーを歯科用硬化性組成物に用いる際に、前記有機無機複合フィラーと、歯科用硬化性組成物を構成する重合性単量体の重合体との屈折率の差を0.1以下になるように選択することが好ましい。このように単量体を選択することにより、透明性のある歯科用硬化性組成物の硬化体が得られる。
【0034】
1-2.無機粒子(B)
有機無機複合フィラーを構成する無機粒子の平均一次粒子径は10~1000nmで、40~800nmが好ましく、50~600nmがより好ましい。無機粒子の平均一次粒子径が10nm未満の場合、前記有機無機複合粒子の細孔の形成が困難になる。
【0035】
一方、無機粒子の平均一次粒子径が1000nmを超える場合、これを歯科用硬化性組成物に用いると、得られる硬化体の研磨性が低下し、滑沢な表面の硬化体が得難くなる。
【0036】
また、無機粒子の形状は特に限定されず、球状、略球状あるいは不定形状粒子を用いることができる。耐摩耗性、表面滑沢性に優れ、且つ有機無機複合粒子に均一な細孔を付与できるという観点から、球状または略球状形が好ましい。なお、略球状とは、平均均斉度が0.6以上のものをいう。平均均斉度は0.7以上が好ましく、0.8以上であることが特に好ましい。
【0037】
なお、本発明において、無機粒子の平均一次粒子径は、走査型又は透過型の電子顕微鏡を用いて測定される。具体的には、無機粒子の撮影像を画像解析することにより、無機一次粒子の円相当径(対象粒子の面積と同じ面積を持つ円の直径)を求める。電子顕微鏡による撮影像としては、明暗が明瞭で、粒子の輪郭を判別できるものを使用する。
【0038】
画像解析は、少なくとも粒子の面積、粒子の最大長、最小幅の計測が可能な、画像解析ソフトウエアを用いて行う。無作為に選択した30個以上の無機一次粒子について上記の方法で一次粒子径(円相当径)、粒子の最大長、最小幅を求め、無機一次粒子の平均粒子径、平均均斉度を下記式によって算出する。
【0039】
【数1】
【0040】
【数2】
【0041】
上記式において、粒子の数を(n)、i番目の粒子の最大長を長径(Li)、この長径に直交す方向の径を最小幅(Bi)と定義する。
【0042】
無機粒子の材質は、特に制限が無く、従来の歯科用硬化性組成物にフィラーとして使用されているものが特に制限なく使用できる。具体的には、非晶質シリカ、シリカ-ジルコニア、シリカ-チタニア、シリカ-チタニア-酸化バリウム、シリカ-チタニア-ジルコニア、石英、アルミナ、チタニア、ジルコニア、ガラス等の無機酸化物が採用できる。また、これらの無機酸化物粒子は、緻密なものにするために高温で焼成されたものであることが好ましい。そして、高温焼結による緻密化効果を向上させるために、ナトリウム等の少量の周期律表第I族金属の酸化物を含有させても良い。また、必要に応じて、ケイ酸塩ガラス、フルオロアルミノシリケートガラス等の歯科用の無機充填材として公知のカチオン溶出性の無機充填材や三フッ化イッテルビウム等の金属フッ化物を配合してもよい。
【0043】
これらの無機酸化物粒子の内、シリカ系複合酸化物粒子は、屈折率の調整が容易である他、表面にシラノール基を多量に有するため、シランカップリング剤等による表面改質が行い易いために特に好ましい。また、強いX線造影性を有していることから、シリカ-ジルコニア、シリカ-チタニア、シリカ-チタニア-酸化バリウムが好適である。更には、より耐摩耗性に優れた硬化体が得られることから、シリカ-ジルコニアが最も好適である。
【0044】
これらの無機酸化物粒子は如何なる方法により製造されたものであっても良い。例えば、湿式法、乾式法、ゾルゲル法などが挙げられる。中でも、形状が球状で、単分散性に優れる微細粒子を工業的に製造する上で有利であり、さらには屈折率の調整や、X線造影性を付与することが容易であることから、ゾルゲル法によって製造するのが好適である。
【0045】
無機粒子の屈折率としても特に制限はなく、従来の歯科用硬化性組成物にフィラーとして使用されている無機充填材の屈折率である、1.4~1.7の範囲の屈折率を有する無機粒子を用いることができる。前記無機粒子は、前記重合性単量体(a)とのなじみを向上させ、また機械的強度や耐水性を向上させる観点から、シランカップリング剤に代表される表面処理剤で処理されることが好ましい。
【0046】
ゾルゲル法により球状複合酸化物無機粒子を製造する方法は、例えば特開昭58-110414号公報、特開昭58-151321号公報、特開昭58-156524号公報、特開昭58-156526号公報等により公知である。
【0047】
1-3.有機無機複合フィラーの製造方法
以下、本発明の有機無機複合フィラーの製造方法について説明する。前記したように微多孔性の有機無機不複合フィラーを製造する方法としては特許文献3に開示されている方法があるが、この方法で製造される微多孔性有機無機不複合フィラーの形状は略球状であり、該方法で本発明の有機無機複合フィラーを製造することは困難である。これに対し、本発明の製造方法によれば本発明の有機無機複合フィラーを効率的に製造することが可能である。
【0048】
本発明の製造方法は、下記(1)~(4)に示す工程を含むことを特徴とする。
【0049】
(1)平均一次粒子径10~1000nmの無機粒子(B)と重合性単量体成分(a)とを、両者の合計質量に占める前記無機粒子の質量の割合が80~95質量%となるようにして、有機溶媒の共存下に混合して、前記有機溶媒に不溶成分が均一に分散したスラリーを得るスラリー化工程;
(2)前記スラリーから有機溶媒を除去して、前記重合性単量体成分(a)と前記無機粒子(B)の混合物からなる凝集塊状物を得る乾燥工程;
(3)前記凝集塊状物に含まれる前記重合性単量体成分(a)を重合硬化させて、前記重合性単量体(a)の硬化体からなる有機樹脂成分(A)と前記無機粒子(B)との複合体からなる塊状微多孔体を得る硬化工程;及び
(4)前記塊状微多孔体を粉砕して紛体化する粉砕工程。
【0050】
なお、無機粒子(B)および重合性単量体成分(a)としては、1-1、および1-2で説明したものが使用される。また、前記硬化工程で重合性単量体成分(a)を重合硬化させるために、通常、前記スラリー化工程で有効量の重開始剤が配合される。重合開始剤としては、光重合開始剤、化学重合開始剤、熱重合開始剤の何れも使用できるが、光や熱などの外部から与えるエネルギーで重合のタイミングを任意に選択でき、製造操作が簡便である点から、光重合開始剤または熱重合開始剤を使用することが好ましい。遮光下や赤色光下などの作業環境を選ばない点から熱重合開始剤を使用することが好ましく、操作上の安全性が高く、有機無機複合フィラーへの着色の影響が少ないアゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等が好適に使用される。重合開始剤の配合量は、通常、重合性単量体(a)100質量部対して、0.1~5質量部である。また、有機無機複合フィラーに種々の機能を付与するため、前記スラリー化工程で紫外線吸収剤、顔料、染料、重合禁止剤、蛍光剤等の添加剤を配合してもよい。
【0051】
前記(1)のスラリー化工程においては、前記した理由から前記無機粒子(B)をシランカップリング剤で表面処理しておくことが好ましい。好適に使用されるシランカップリング剤としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等が好適に用いられる。
【0052】
表面処理方法は特に限定されるものではなく、公知の方法が制限なく使用できる。代表的な処理方法を例示すれば、無機粒子とシランカップリング剤とを、適当な溶媒中でボールミル等を用いて分散混合し、エバポレーターや風乾で乾燥する方法がある。また、無機粒子を水などの揮発性の液状媒体に均一に分散させスラリー状にしたものにシランカップリング剤を加えたものを、例えば高速気流などにより微細な霧状に調製し、この霧状物を高温の気体と接触させることで液状媒体を揮発させる噴霧乾燥による方法等も用いることができる。
【0053】
前記表面処理によって得られる乾燥物(表面処理された無機粒子)は、分散に用いられた水などの液状媒体を完全に除くため、通常、50℃~150℃で加熱乾燥される。本発明における有機無機複合フィラーの製造においては、均一な細孔を形成できるという点から、後述するスラリー化工程において無機フィラーが分散することが好ましい。前記表面処理された無機粒子が分散しやすくなるという理由から、加熱乾燥における温度は50℃~120℃が好ましく、50℃~100℃がさらに好ましい。
【0054】
前記(1)の工程においては、このように必要に応じて表面処理された無機粒子(B)と重合性単量体(a)とを、目的とする有機無機複合フィラーの無機充填粒子含有率に応じて、両者の合計量に占める前記無機粒子(B)の質量割合が80~95質量%、好ましくは82~93%となるような配合割合で、有機溶媒の共存下に混合して、該有機溶媒に不溶成分が均一に分散したスラリーを得る。無機粒子(B)として前記噴霧乾燥法によりシランカップリング剤で表面処理され、かつ120℃以上の温度で加熱乾燥されたものを使用した場合には、略球状の凝集粒子となるが、適切な条件で表面処理および加熱乾燥されたものを有機溶媒の共存下で均一なスラリーとすることで、凝集粒子を解砕して個の無機粒子(B)が重合性単量体(a)と満遍なく接触して濡れるような状態とし、乾燥工程後において均質な凝集塊状物が得られるようになる。スラリー化工程に用いられる有機溶媒は、特に限定されるものではないが、溶媒除去にかかる時間の短縮化を可能とする高い揮発性を有していること、入手がしやすく安価なこと、製造の際に人体への安全性が高いこと、などの観点から、メタノール、エタノール、アセトン、ジクロロメタン等が好適に使用できる。有機溶媒の使用量は、均一なスラリーが得られるような量であれば良いが、均一なるラリーが得られ且つ効率的に乾燥できるという理由から、無機粒子(B)と重合性単量体(a)の合計質量100質量に対し、20~500質量部、特に30~100質量部とすることが好ましい。
【0055】
スラリー化のための混合は1段階で行っても多段階に分けて行ってもよいが、均一なスラリーが得られ易いという理由から、平均一次粒子径10~1000nmの無機粒子(B)と重合性単量体成分(a)とを、両者の合計質量に占める前記無機粒子の質量の割合が80~95質量%となるようにして混合し、前記無機粒子(B)の表面に前記重合性単量体成分(a)が付着した湿紛体からなる混合粉体を得る第一工程;と、前記混合粉体と有機溶媒とを混合して、該有機溶媒に不溶成分が均一に分散したスラリーを得る第二工程;とに分けて行うことが好ましい。このとき、第一工程における混合は、均一性の観点から混合装置を用いることが好ましい。例えば、揺動ミキサーや攪拌羽根により混合するプラネタリミキサー等を用いることができる。また、第二工程における混合方法としては、振とう攪拌や超音波攪拌、または混練機を用いた攪拌混合が好適に採用できる。
【0056】
前記(2)の乾燥工程では、前記スラリーから有機溶媒を除去して、前記重合性単量体成分(a)と前記無機粒子(B)の混合物からなる凝集塊状物を得る。この乾燥工程において無機粒子(B)の個々の粒子が重合性単量体成分(a)をバインダーとして相互に連結して凝集塊状物を形成すると共に、粒子間に(外部に開口した)細孔が形成される。有機溶媒の除去は、有機溶媒の実質的全量(通常、95質量%以上)が除去され、視覚的には塊状の固体が得られるまで実施するのが好ましい。有機溶媒の除去操作は、このような除去が可能の方法であれば特に限定されないが、所期の細孔形成の観点から、0.01~50ヘクトパスカル、特に0.1~10ヘクトパスカルといった減圧下で乾燥させる減圧乾燥(又は真空乾燥が)により行うことが好ましい。
【0057】
前記(3)の硬化工程における重合硬化は、使用する重合開始剤の種類に応じて好適な方法を適宜選択して行えばよい。重合硬化に得られた重合硬化物(塊状微多孔体)を前記(4)の粉砕工程で粉砕することで、本発明の有機無機複合フィラーを製造することができる。粉砕は、振動ボールミル、ビーズミル、ジェットミル等を用いて行うことができる。なお、前記したように、歯科用硬化性組成物に配合できるフィラーの充填率を低下させることがなく、更に良好なペースト性状をより確実に得ることができるという理由から、本発明の有機無機複合フィラーを構成する多孔性有機無機複合粒子の平均粒子径は、5~100μm、より好ましくは該平均粒子径が10~100μm、更に好ましくは10~70μmであり、且つ粒子径が5μm以下の微細粒子の存在割合が、体積基準で15%未満、特に10体積%未満であることが好ましい。(4)粉砕工程の破砕により平均粒子径が5μm未満の粒子が発生し難く、平均粒子径が10~100μm、特に10~70μmの範囲に効率的に制御し易いという理由から、有機無機複合フィラーを構成する多孔性有機無機複合粒子における無機粒子(B)の含有率は、80~90質量%、特に82~88質量%であることが好ましい。
【0058】
本発明の製造方法においては、本発明の有機無機複合フィラーの粒度分布を上記したようなものに制御するために、前記(4)の粉砕工程後に、体積基準の粒度分布におけるメディアン径である平均粒子径が10~100μmで、且つ前記粒度分布において微細粒子存在割合が15%未満となるように分級を行う、分級工程を更に含む(4)の粉砕工程における粉砕条件を制御することによりこのような粒度分布のものを得ることも可能であるが、確実にこのような粒度分布のものを得るためには、粒子径が5μm以下の微細粒子を除去し、更に粒径が100μmを大きく越える粗大粒子を除去することが好ましい。分級は、篩、エアー分級機、あるいは水ひ分級機等を用いて行うことができる。

【0059】
本発明の有機無機複合フィラーは、表面処理が施されてもよい、表面処理が施されることで、この有機無機複合フィラーが配合された歯科用硬化性組成物の硬化体に、より高い機械的強度が与えられる。用いる表面処理剤や表面処理方法は、前述の無機粒子の表面処理と同様である。
【0060】
2.本発明の歯科用硬化性組成物
既に説明した通り、本発明の有機無機複合フィラーは、歯科用硬化性組成物に配合される歯科用フィラーとして、特に有用である。本発明の歯科用硬化性組成物には、有機無機複合フィラーに加えて、重合性単量体と重合開始剤とが配合される。
【0061】
重合性単量体としては、該用途に使用されるものが制限なく使用できる。通常は、前記した有機無機複合フィラーの製造用に例示した重合性単量体と同じ範疇から採択すれば良い。重合性単量体の配合量は、有機無機複合フィラー100質量部に対して10~100質量部で、20~80質量部が好ましい。
【0062】
重合開始剤としては、該用途に使用されるものが制限なく使用できる。例えば、前記有機複合フィラーに配合される重合性単量体を重合硬化させるために例示した熱重合開始剤等が使用できる。一般に、歯科用硬化性組成物の硬化(重合)手段としては、その使用時の操作の簡便さから、光重合法が採用されることが多い。上記の理由により、本発明の歯科用硬化性組成物においても、重合開始剤として光重合開始剤を用いることが好ましい。
【0063】
好ましい光重合開始剤としては、例えば、ベンゾインアルキルエーテル類、ベンジルケタール類、ベンゾフェノン類、α-ジケトン類、チオキサンソン化合物、ビスアシルホスフィンオキサイド類等が挙げられる。なお、光重合開始剤には、しばしば還元剤が添加される。還元剤としては、芳香族アミン、脂肪族アミン、アルデヒド類、含イオウ化合物などが例示される。さらに、必要に応じてトリハロメチルトリアジン化合物、アリールヨードニウム塩等を添加することも出来る。重合開始剤は、上記重合性単量体100質量部に対して0.01~10質量部の範囲で配合させるのが一般的である。
【0064】
歯科用硬化性組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で他の無機フィラー添加することもできる。他の無機フィラーは、該用途に使用される公知のフィラーが制限なく使用できる。例えば、他の無機フィラーとしては、前記無機粒子と同様の材質の無機粒子を挙げることができる。
【0065】
さらに、本発明の歯科用硬化性組成物においては、その効果を著しく阻害しない範囲で、公知の添加剤を配合することができる。かかる添加剤としては、重合禁止剤、顔料、紫外線吸収剤、蛍光剤等が挙げられる。
【0066】
本発明の歯科用硬化性組成物は、一般に、前記各必須成分及び必要に応じて添加する各任意成分の所定量を十分に混練してペーストを得、さらにこのペーストを減圧下脱泡して気泡を除去することによって製造できる。歯科用硬化性組成物の用途は特に限定されないが、特に好適な用途は、歯科用充填修復材料や歯科用間接修復材料などの、歯科用複合修復材料である。
【実施例
【0067】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0068】
1.原材料とその略称・略号
以下に、実施例及び比較例で使用した各種原材料とその略号を示す。
【0069】
(1)重合性単量体
・3G:トリエチレングリコールジメタクリレート
・GMA:2,2-ビス[(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]プロパン
・UDMA:1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)-2,2-4-トリメチルヘキサン
・HD:1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート。
【0070】
(2)無機粒子
・F-1:ゾルゲル法で製造した球状シリカ-ジルコニア粒子(一次粒子の平均粒子径:200nm、一次粒子の平均均斉度:0.95)
・F-2:ゾルゲル法で製造した球状シリカ-ジルコニア粒子(一次粒子の平均粒子径:400nm、一次粒子の平均均斉度:0.95)
・F-3:ゾルゲル法で製造したシリカ-チタニア粒子(一次粒子の平均粒子径:70nm、一次粒子の平均均斉度:0.95)
・F-4:ゾルゲル法で製造した不定形シリカ-ジルコニア粒子(一次粒子の平均粒子径:1000nm)
・F-5:球状三フッ化イッテルビウム粒子(一次粒子の平均粒子径:50nm)
なお、一次粒子の平均粒子径および平均均斉度は、後述の(4)に示す測定方法によって測定された値である。
【0071】
(3)重合開始剤
・AIBN:アゾビスイソブチロニトリル
・CQ:カンファーキノン
・DMBE:N,N-ジメチル-p-安息香酸エチル。
【0072】
(4)無機粒子の平均一次粒子径、および平均均斉度の測定方法
走査型電子顕微鏡(フィリップス社製、「XL-30S」)で粉体の写真を5000~100000倍の倍率で撮り、画像解析ソフト(「IP-1000PC」、商品名;旭化成エンジニアリング社製)を用いて、撮影した画像の処理を行い、その写真の単位視野内に観察される粒子の数(30個以上)および一次粒子径(最大径)を測定し、測定値に基づき下記式により数平均粒子径を算出した。
【0073】
【数3】
【0074】
また、単位視野内に観察される粒子について、その数(n:30以上)、粒子の最大径を長径(Li)、該長径に直交する方向の径を短径(Bi)を求め、下記式により無機フィラーの平均均斉度を算出した。
【0075】
【数4】
【0076】
2.有機無機複合フィラーおよびその製造方法に関する実施例及び比較例
(2.1)実施例1~12及び比較例1~5
これら実施例及び比較例では、微細粒子存在割合の測定は行っていない。したがって、実施例1~12は、参考例となる。
実施例1
スラリー化工程:
無機粒子の表面処理: 無機フィラーF-1の100gを200gの水に加え、循環型粉砕機SCミルを用いて無機フィラーを分散させた分散液を得た。次いで、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランと酢酸を水に加え撹拌し、pH4の均一な溶液を得た。この溶液を上記無機粒子分散液に添加し、均一に混合した。その後、分散液を混合しながら、高速で回転するディスク上に供給し、噴霧乾燥法により乾燥させた。なお、噴霧乾燥は、回転するディスクを備え、遠心力で噴霧化する噴霧乾燥機(スプレードライヤー「TSR-2W」、坂本技研(株)製)を使用し、ディスクの回転速度:10000rpm、噴霧乾燥温度:200℃で行った。その後、噴霧乾燥した無機粉体を80℃、18時間真空乾燥した。
第一工程: 得られた粉体(無機凝集粒子)90gに対し、重合性単量体としてGMAを6.0g、3Gを4.0g、重合開始剤としてAIBNを0.04gを予め混合して調製した重合性単量体混合物を加え、遊星運動型撹拌機プラネタリーミキサー(井上製作所製)を用いて撹拌羽の回転数7~10rpmで30分間混合し、混合粉体を得た。
第二工程: 上記の混合粉体に対し、有機溶媒としてエタノールを40g加え、さらに混合し流動性の高い均一なスラリーを得た。
乾燥工程、硬化工程および粉砕工程:
上記スラリーを、真空乾燥機を用いて25℃条件下で真空乾燥し、エタノールを留去した後に、真空乾燥機を用いて100℃の条件で2時間加熱し、重合性単量体を重合硬化させ、ケーキ状の白色固体を得た。次いで、この硬化物を振動ボールミル(ジルコニアボール径:5mm)で粉砕し、粉砕物を篩にかけることで100μm以上の粒子を除去した。

【0077】
このようにして得られた有機無機複合フィラーを構成する個々の粒子の形状を目視(走査型電子顕微鏡により)観察したところ、破砕物特有のエッジ部を有する不定形形状を有していた。また、以下に示す方法により、平均粒子径並びに1~500nmにおける積算細孔容積および平均細孔径を測定したところ、平均粒子径は37μmであり、積算細孔容積は0.15cm/gであり、平均細孔径は62nmであった。
【0078】
(1)有機無機複合フィラーの平均粒子径(粒度)の測定方法
0.1gの有機無機複合フィラーをエタノール10mlに分散させ、超音波を20分間照射した。レーザー回折-散乱法による粒度分布計(「LS230」、ベックマンコールター製)を用い、光学モデル「フラウンフォーファー」(Fraunhofer)を適用して、体積統計のメディアン径を求めた。
【0079】
(2)有機無機複合フィラーの細孔容積および平均細孔径の測定方法
試料セルに有機無機複合フィラーを0.1g入れ、前処理装置(「バッキュプレップ061」株式会社島津製作所製)を用いて、120℃で3時間、真空排気により前処理を行った。その後、吸着ガスとして窒素、冷媒として液体窒素を用いて、ガス吸着法細孔分布測定装置(「トライスターII3020」株式会社島津製作所製)により、窒素吸着等温線を求め、BJH法により、細孔径1~500nmの範囲における積算細孔容積を求めた。また、細孔容積とBET法により算出された比表面積とから平均細孔径を算出した。
【0080】
実施例2~9
有機無機複合フィラーに配合する無機フィラーの種類、重合性単量体成分の種類および無機フィラーと重合性単量体成分の配合量について、それぞれ表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして有機無機複合フィラーを得、それぞれについて実施例1と同様にして各物性を測定した。その結果を表1に併せて示した。
【0081】
実施例10
実施例1と同様にして得たγ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランで表面処理したF-1の無機凝集粒子を76gと、無機フィラーF-5の19gに対し、重合性単量体としてUDMAを4.0g、HDを1.0g、重合開始剤としてAIBNを0.02gを予め混合して調製した重合性単量体混合物を加え、遊星運動型撹拌機プラネタリーミキサー(井上製作所製)を用いて撹拌羽の回転数7~10rpmで30分間混合し、混合粉体を得た。上記の混合粉体に対し、有機溶媒としてエタノールを40g加え、さらに混合し流動性の高い均一なスラリーを得た。
上記スラリーを真空乾燥機を用いて25℃条件下で真空乾燥し、エタノールを留去した後に、真空乾燥機を用いて100℃の条件で2時間加熱し、重合性単量体を重合硬化させ、ケーキ状の白色固体を得た。
次いで、この硬化物を振動ボールミル(ジルコニアボール径:5mm)で粉砕し、粉砕物を篩にかけることで100μm以上の粒子を除去した。得られた破砕型有機無機複合フィラーの平均粒子径は35μmであり、窒素吸着法により求めた1~500nmにおける積算細孔容積は0.09cm/g、平均細孔径は35nmであった。
【0082】
実施例11および12
有機無機複合フィラーに配合する、無機フィラーの種類および無機フィラーと重合性単量体成分の配合量について、それぞれ表1に示すように変更した以外は、実施例10と同様にして有機無機複合フィラーを得、それぞれについて実施例1と同様にして各物性を測定した。その結果を表1に併せて示した。
【0083】
比較例1
実施例1と同じγ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランで表面処理したF-1の無機凝集粒子の75gに対し、重合性単量体としてGMAを15.0g、3Gを10.0g、重合開始剤としてAIBNを0.10gを予め混合して調製した重合性単量体混合物を加え、遊星運動型撹拌機プラネタリーミキサー(井上製作所製)を用いて撹拌羽の回転数7~10rpmで30分間混合して、ペースト状の混合物を調製した。このペースト状混合物を減圧下で脱泡した後、100℃で2時間重合硬化させた。硬化物を振動ボールミル(ジルコニアボール径:5mm)で粉砕し、粉砕物を篩にかけることで100μm以上の粒子を除去した。得られた有機無機複合フィラーは不定形であり、平均粒子径は45μm、窒素吸着法による測定において細孔は確認されなかった。
【0084】
比較例2
有機無機複合フィラーに配合する無機フィラーおよび重合性単量体成分の配合量について、表1に示すように変更した以外は比較例1と同様にして有機無機複合フィラーを得、実施例1と同様にして各物性を測定した。その結果を表1に併せて示した。
【0085】
比較例3
無機フィラーF-1の100gを200gの水に加え、循環型粉砕機SCミルを用いて無機フィラーを分散させた分散液を得た。次いで、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランと酢酸を水に加え撹拌し、pH4の均一な溶液を得た。この溶液を上記無機粒子分散液に添加し、均一に混合した。その後、分散液を混合しながら、ノズル先端で粒子化エアと衝突させることで微粒子とする噴霧乾燥機(スプレードライヤー「NL-5」、大川原化工機株式会社製)を用いて、噴霧圧力を0.08MPa、乾燥温度を230℃とし、噴霧乾燥法により乾燥した。その後、噴霧乾燥した無機粉体を120℃、18時間真空乾燥して無機凝集粒子を得た。
次いで、重合性単量体としてGMAを12.0g、3Gを8.0g、重合開始剤としてAIBNを0.08g、有機溶媒としてエタノールを80g混合した重合性単量体溶液に対し、上記無機凝集粒子80gを浸漬させた。十分攪拌し、この混合物がスラリー状になったことを確認してから1時間静置した。
上記の混合物をロータリーエバポレーターで攪拌しながら、減圧度10ヘクトパスカル、加熱条件40℃(温水バスを使用)の条件で1時間乾燥し、有機溶媒の除去を行った。有機溶媒の除去により、さらさらな粉体が得られた。
上記の粉体をロータリーエバポレーターで攪拌しながら、減圧度10ヘクトパスカル、加熱条件100℃(オイルバスを使用)の条件で、2時間の加熱を行い、上記粉体中の重合性単量体を重合硬化させた。得られた有機無機複合フィラーは略球状であり、平均粒子径は20μm、窒素吸着法により求めた1~500nmにおける積算細孔容積は0.04cm/g、平均細孔径は48nmであった。
【0086】
比較例4
有機無機複合フィラーに配合する無機フィラーおよび重合性単量体成分の配合量について、表1に示すように変更した以外は比較例3と同様にして有機無機複合フィラーを得た。得られた有機無機複合フィラーは略球状であり、平均粒子径は20μm、窒素吸着法により求めた1~500nmにおける積算細孔容積は0.09cm/g、平均細孔径は55nmであった。
【0087】
比較例5
無機フィラーF-1の100gを200gの水に加え、循環型粉砕機SCミルを用いて無機フィラーを分散させた分散液を得た。次いで、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランと酢酸を水に加え撹拌し、pH4の均一な溶液を得た。この溶液を上記無機粒子分散液に添加し、均一に混合した。その後、分散液を混合しながら、高速で回転するディスク上に供給し、噴霧乾燥法により乾燥させた。用いた噴霧乾燥機は、回転するディスクを備え、遠心力で噴霧化する噴霧乾燥機(スプレードライヤー「TSR-2W」、坂本技研(株)製)であった。ディスクの回転速度は10000rpm、噴霧乾燥温度は200℃であった。その後、噴霧乾燥した無機粉体を120℃、18時間真空乾燥して無機凝集粒子を得た。
次いで、重合性単量体としてGMAを12.0g、3Gを8.0g、重合開始剤としてAIBNを0.08g、有機溶媒としてエタノールを80g混合した重合性単量体溶液に対し、上記無機凝集粒子80gを浸漬させた。十分攪拌し、この混合物がスラリー状になったことを確認してから1時間静置した。
上記の混合物をロータリーエバポレーターで攪拌しながら、減圧度10ヘクトパスカル、加熱条件40℃(温水バスを使用)の条件で1時間乾燥し、有機溶媒の除去を行った。有機溶媒の除去により、さらさらな粉体が得られた。
上記の粉体をロータリーエバポレーターで攪拌しながら、減圧度10ヘクトパスカル、加熱条件100℃(オイルバスを使用)の条件で、2時間の加熱を行い、上記粉体中の重合性単量体を重合硬化させた。得られた有機無機複合フィラーは略球状であり、平均粒子径は50μm、窒素吸着法により求めた1~500nmにおける積算細孔容積は0.04cm/g、平均細孔径50nmであった。
【0088】
【表1】
【0089】
(2.2)実施例13~22及び比較例6~10
実施例13
有機無機複合フィラーに配合する無機フィラーの種類、重合性単量体成分の種類、無機フィラーと重合性単量体成分の配合量、および製造工程におけるスラリー化工程、乾燥工程、硬化工程について、前記実施例3と同様にしてケーキ状の白色固体を得た。次いで得られた硬化物を振動ボールミル(ジルコニアボール径:5mm)で30分間粉砕し、粉砕物を目開き100μmの篩にかけることで100μm以上の粒子を除去した。得られた破砕型有機無機複合フィラーの平均粒子径、窒素吸着法により求めた積算細孔容積及び平均細孔径を測定すると共に、平均粒子径(粒度)測定の際に、得られた粒度分布から、0.04μm~5.0μmの範囲について体積基準での存在割合(微細粒子存在割合)を求めた。その結果、平均粒子径は48μmであり、粒度分布における5μm以下の粒子の体積基準での存在割合は7.6%であり、積算細孔容積は0.09cm/gであり、平均細孔径は40nmであった。

【0090】
実施例14
有機無機複合フィラーに配合する無機フィラーの種類、重合性単量体成分の種類、無機フィラーと重合性単量体成分の配合量、および製造工程におけるスラリー化工程、乾燥工程、硬化工程について、前記実施例13と同様にしてケーキ状の白色固体を得た。次いで、この硬化物を振動ボールミル(ジルコニアボール径:5mm)で60分間粉砕し、粉砕物を目開き100μmの篩にかけることで100μm以上の粒子を除去した。得られた破砕型有機無機複合フィラーについて、実施例13と同様に各物性を測定した。その結果、平均粒子径は40μmであり、粒度分布における5μm以下の粒子の体積基準での存在割合は11.7%であり、積算細孔容積は0.10cm/gであり、平均細孔径は40nmであった。
【0091】
実施例15
実施例13で得られた有機無機複合フィラーについて、目開き10μmの篩にかけ、篩の上に残った成分を回収することで、微細粒子を除去した。得られた破砕型有機無機複合フィラーについて、実施例1と同様に各物性を測定した。その結果、平均粒子径は51μmであり、粒度分布における5μm以下の粒子の体積基準での存在割合は2.0%であり、積算細孔容積は0.08cm/gであり、平均細孔径は40nmであった。
【0092】
実施例16~20
有機無機複合フィラーに配合する無機フィラーの種類、重合性単量体成分の種類および無機フィラーと重合性単量体成分の配合量について、それぞれ表2に示すように変更した以外は、実施例13と同様にして有機無機複合フィラーを得、それぞれについて実施例213と同様にして各物性を測定した。その結果を表2に併せて示した。
【0093】
実施例21
実施例13と同様にして得たγ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランで表面処理したF-1の無機凝集粒子を72gと、無機フィラーF-5の18gに対し、重合性単量体としてUDMAを8.0g、HDを2.0g、重合開始剤としてAIBNを0.04gを予め混合して調製した重合性単量体混合物を加え、遊星運動型撹拌機プラネタリーミキサー(井上製作所製)を用いて撹拌羽の回転数7~10rpmで30分間混合し、混合粉体を得た。上記の混合粉体に対し、有機溶媒としてエタノールを40g加え、さらに混合し流動性の高い均一なスラリーを得た。
上記スラリーを真空乾燥機を用いて25℃条件下で真空乾燥し、エタノールを留去した後に、真空乾燥機を用いて100℃の条件で2時間加熱し、重合性単量体を重合硬化させ、ケーキ状の白色固体を得た。
次いで、この硬化物を振動ボールミル(ジルコニアボール径:5mm)で30分間粉砕し、粉砕物を目開き100μmの篩にかけることで100μm以上の粒子を除去した。得られた破砕型有機無機複合フィラーを実施例13と同様にして各物性を測定した。平均粒子径は42μmであり、粒度分布における5μm以下の粒子の体積基準での存在割合は2.0%であり、積算細孔容積は0.05cm/gであり、平均細孔径は30nmであった。
【0094】
実施例22
有機無機複合フィラーに配合する無機フィラーの種類、重合性単量体成分の種類および無機フィラーと重合性単量体成分の配合量、および製造工程におけるスラリー化工程、乾燥工程、硬化工程について、前記実施例13と同様にしてケーキ状の白色固体を得た。次いで、この硬化物を振動ボールミル(ジルコニアボール径:5mm)で120分間粉砕し、粉砕物を目開き100μmの篩にかけることで100μm以上の粒子を除去した。得られた破砕型有機無機複合フィラー:CF-27について、実施例13と同様に各物性を測定した。その結果、平均粒子径は37μmであり、粒度分布における5μm以下の粒子の体積基準での存在割合(微細粒子存在割合)は20.2%であり、積算細孔容積は0.09cm/gであり、平均細孔径は37nmであった。なお、本実施例は、微細粒子存在割合が15%以上であるため、比較例に該当する例である。

【0095】
比較例6
実施例13と同じγ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランで表面処理したF-1の無機凝集粒子の75gに対し、重合性単量体としてGMAを15.0g、3Gを10.0g、重合開始剤としてAIBNを0.10gを予め混合して調製した重合性単量体混合物を加え、遊星運動型撹拌機プラネタリーミキサー(井上製作所製)を用いて撹拌羽の回転数7~10rpmで30分間混合して、ペースト状の混合物を調製した。このペースト状混合物を減圧下で脱泡した後、100℃で2時間重合硬化させた。硬化物を振動ボールミル(ジルコニアボール径:5mm)で30時間粉砕し、粉砕物を篩にかけることで100μm以上の粒子を除去した。得られた有機無機複合フィラーは不定形であり、平均粒子径は45μm、粒度分布における5μm以下の粒子の体積基準での存在割合は7.5%であり、窒素吸着法による測定において細孔は確認されなかった。
【0096】
比較例7
有機無機複合フィラーに配合する無機フィラーおよび重合性単量体成分の配合量について、表3に示すように変更した以外は比較例6と同様にして有機無機複合フィラーを得、実施例13と同様にして各物性を測定した。その結果を表2に併せて示した。
【0097】
比較例8
無機フィラーF-1の100gを200gの水に加え、循環型粉砕機SCミルを用いて無機フィラーを分散させた分散液を得た。次いで、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランと酢酸を水に加え撹拌し、pH4の均一な溶液を得た。この溶液を上記無機粒子分散液に添加し、均一に混合した。その後、分散液を混合しながら、ノズル先端で粒子化エアと衝突させることで微粒子とする噴霧乾燥機(スプレードライヤー「NL-5」、大川原化工機株式会社製)を用いて、噴霧圧力を0.08MPa、乾燥温度を230℃とし、噴霧乾燥法により乾燥した。その後、噴霧乾燥した無機粉体を120℃、18時間真空乾燥して無機凝集粒子を得た。
次いで、重合性単量体としてGMAを12.0g、3Gを8.0g、重合開始剤としてAIBNを0.08g、有機溶媒としてエタノールを80g混合した重合性単量体溶液に対し、上記無機凝集粒子80gを浸漬させた。十分攪拌し、この混合物がスラリー状になったことを確認してから1時間静置した。
上記の混合物をロータリーエバポレーターで攪拌しながら、減圧度10ヘクトパスカル、加熱条件40℃(温水バスを使用)の条件で1時間乾燥し、有機溶媒の除去を行った。有機溶媒の除去により、さらさらな粉体が得られた。
上記の粉体をロータリーエバポレーターで攪拌しながら、減圧度10ヘクトパスカル、加熱条件100℃(オイルバスを使用)の条件で、2時間の加熱を行い、上記粉体中の重合性単量体を重合硬化させた。得られた有機無機複合フィラーは略球状であり、平均粒子径は20μm、粒度分布における5μm以下の粒子は確認されず、窒素吸着法により求めた1~500nmにおける積算細孔容積は0.04cm/g、平均細孔径は48nmであった。
【0098】
比較例9
有機無機複合フィラーに配合する無機フィラーおよび重合性単量体成分の配合量について、表2に示すように変更した以外は比較例19と同様にして有機無機複合フィラーを得た。得られた有機無機複合フィラーは略球状であり、平均粒子径は20μm、粒度分布における5μm以下の粒子は確認されず、窒素吸着法により求めた1~500nmにおける積算細孔容積は0.09cm/g、平均細孔径は55nmであった。
【0099】
比較例10
無機フィラーF-1の100gを200gの水に加え、循環型粉砕機SCミルを用いて無機フィラーを分散させた分散液を得た。次いで、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランと酢酸を水に加え撹拌し、pH4の均一な溶液を得た。この溶液を上記無機粒子分散液に添加し、均一に混合した。その後、分散液を混合しながら、高速で回転するディスク上に供給し、噴霧乾燥法により乾燥させた。用いた噴霧乾燥機は、回転するディスクを備え、遠心力で噴霧化する噴霧乾燥機(スプレードライヤー「TSR-2W」、坂本技研(株)製)であった。ディスクの回転速度は10000rpm、噴霧乾燥温度は200℃であった。その後、噴霧乾燥した無機粉体を120℃、18時間真空乾燥して無機凝集粒子を得た。
次いで、重合性単量体としてGMAを12.0g、3Gを8.0g、重合開始剤としてAIBNを0.08g、有機溶媒としてエタノールを80g混合した重合性単量体溶液に対し、上記無機凝集粒子80gを浸漬させた。十分攪拌し、この混合物がスラリー状になったことを確認してから1時間静置した。
上記の混合物をロータリーエバポレーターで攪拌しながら、減圧度10ヘクトパスカル、加熱条件40℃(温水バスを使用)の条件で1時間乾燥し、有機溶媒の除去を行った。有機溶媒の除去により、さらさらな粉体が得られた。
上記の粉体をロータリーエバポレーターで攪拌しながら、減圧度10ヘクトパスカル、加熱条件100℃(オイルバスを使用)の条件で、2時間の加熱を行い、上記粉体中の重合性単量体を重合硬化させた。得られた有機無機複合フィラーは略球状であり、平均粒子径は50μm、粒度分布における5μm以下の粒子は確認されず、窒素吸着法により求めた1~500nmにおける積算細孔容積は0.04cm/g、平均細孔径50nmであった。
【0100】
【表2】
【0101】
3.歯科用硬化性組成物に関する実施例及び比較例
(3.1)実施例23~34および比較例11~15
表3に示す有機無機複合フィラーを用いて次のようにして各例の歯科用硬化性組成物を調製した。すなわち、GMA:60質量部及び3G:40質量部からなる重合性単量体に重合開始剤としてCQ:0.20質量部、DMBE:0.35質量部を完全に溶解させた。その後、乳鉢内で、得られた溶液と無機フィラーF-1:200質量部、及び表2に示す各有機無機複合フィラー:200質量部とを均一になるまで混合、脱泡して、何れもフィラー充填率80質量%のペースト状の各例の歯科用硬化性組成物を調製した。なお、実施例23~34は、微細粒子存在割合の測定が行われていない有機無機複合フィラーを用いているため、参考例となる。

【0102】
得られた各歯科用硬化性組成物について、ペースト状態での操作性、形態保持性および硬化体における曲げ強さを以下に示す方法で評価した。その結果を表3に示した。
【0103】
(3.2)実施例35~44および比較例16~20
表4に示す有機無機複合フィラーを用いて次のようにして各例の歯科用硬化性組成物を調製した。すなわち、GMA:60質量部及び3G:40質量部からなる重合性単量体に重合開始剤としてCQ:0.20質量部、DMBE:0.35質量部を完全に溶解させた。その後、乳鉢内で、得られた溶液と無機フィラーF-1:200質量部、及び表2に示す各有機無機複合フィラー:260質量部とを均一になるまで混合、脱泡して、何れもフィラー充填率82質量%のペースト状の各例の歯科用硬化性組成物を調製した。なお、実施施例44は、有機無機複合フィラーとして実施例22で得られた微細粒子存在割合が15%以上であるCF-27を使用しているため、比較例に該当する例である。


【0104】
得られた各歯科用硬化性組成物について、ペースト状態での操作性、形態保持性および硬化体における曲げ強さを以下に示す方法で評価した。その結果を表4に示した。
【0105】
(1)歯科用硬化性組成物のペースト状態での操作性の評価
硬化前の歯科用硬化性組成物のペースト性状について、操作性の観点から以下の基準に基づいて評価を行った。ベタツキが少ないものには○、特に少ないものには◎、ベタツキが強く操作しにくいペースト性状のものは×とした。さらに、バサツキが少ないものには○、特に少ないものには◎、バサツキが強く操作しにくいペースト性状のものは×の判定とした。評価は歯科用硬化性組成物を調製した直後および37℃で6カ月間保管した後に実施した。
【0106】
(2)ペーストの形態保持性の評価
硬化前の歯科用硬化性組成物のペーストの形態保持性は以下の方法にて評価を行った。右下6番の咬合面中央部にI級窩洞(直径4mm、深さ2mm)を再現した硬質レジン歯に硬化性組成物を充填し、充填されたペーストに咬合面形態を付与した。その後前記歯科用硬化性組成物を充填した硬質レジン歯を50℃のインキュベータ内に20分間静置し、付与した形態が保持されているか評価した。付与した形態に僅かに変化が確認されたものは○、全く変化しないものは◎、形態を保持できていないものは×と判定した。評価は歯科用硬化性組成物を調製した直後および37℃で6カ月間保管した後に実施した。
【0107】
(3)曲げ強さの評価
歯科用硬化性組成物のペーストについて、充填器を用いてステンレス製型枠に充填し、ポリプロピレンで圧接した状態で、可視光線照射器パワーライト(トクヤマ社製)を用いて一方の面から30秒×3回、全体に光が当たるように場所を変えてポリプロピレンに密着させて光照射を行なった。次いで、反対の面からも同様にポリプロピレンに密着させて30秒×3回光照射を行い硬化体を得た。#1500の耐水研磨紙にて、硬化体を2×2×25mmの角柱状に整え、この試料片を試験機(島津製作所製、オートグラフAG5000D)に装着し、支点間距離20mm、クロスヘッドスピード1mm/分で3点曲げ破壊強度を測定した。試験片5個について評価し、その平均値を曲げ強さとした。荷重-たわみ曲線を得る。
【0108】
式:σ=(3PS)/(2WB) より、曲げ強度を求めた。
なお上記中の記号は、夫々、σ:曲げ強度(Pa),P:試験片破折時の荷重(N),S:支点間距離(m),W:試験片の幅(m),B:試験片の厚さ(m)を表す。
【0109】
【表3】
【0110】
【表4】
【0111】
実施例23~44の結果に示されるように、本発明の有機無機複合フィラーを配合する歯科用硬化性組成物は、硬化体において高い曲げ強さを示し、ペースト状態でベタツキが少なく、良好な形態保持性を示す。また長期保存による操作性および形態保持性の変化が極めて小さい。また、5μm以下の粒子の体積基準での存在割合を評価した実施例35~44の結果によれば、上記存在割合が15%以下と小さい場合には、ペースト状態でのバサツキも小さくなっている。
【0112】
比較例11、12、16及び17の結果に示されるように、無機フィラー充填率が75%以下の破砕型有機無機複合フィラーを配合した歯科用硬化性組成物は、ペースト状態でベタツキが少なく、比較的良好な形態保持性を有するものの、硬化体の曲げ強さは低くなっている。また、長期保存後にバサツキが大きく使用し難いペースト性状となっている。
【0113】
比較例13~15及び18~20の結果に示されるように、凝集粒子型多孔性有機無機複合フィラーを配合した歯科用硬化性組成物は、硬化体において高い曲げ強さを示すものの、ペースト状態でのベタツキが大きく、付与した形態を保持する能力が低い。