(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-18
(45)【発行日】2025-04-28
(54)【発明の名称】熱電体、熱電発電素子、多層熱電体、多層熱電発電素子、熱電発電機、及び熱流センサ
(51)【国際特許分類】
H10N 15/20 20230101AFI20250421BHJP
H02N 11/00 20060101ALI20250421BHJP
【FI】
H10N15/20
H02N11/00 A
(21)【出願番号】P 2023551845
(86)(22)【出願日】2022-09-29
(86)【国際出願番号】 JP2022036432
(87)【国際公開番号】W WO2023054583
(87)【国際公開日】2023-04-06
【審査請求日】2024-03-21
(31)【優先権主張番号】P 2021160834
(32)【優先日】2021-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「スピントロニック・サーマルマネージメント」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内田 健一
(72)【発明者】
【氏名】モダック ラージクマール
(72)【発明者】
【氏名】桜庭 裕弥
(72)【発明者】
【氏名】周 偉男
(72)【発明者】
【氏名】セペリ アミン ホセイン
【審査官】脇水 佳弘
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/064972(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/218613(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/180800(WO,A1)
【文献】安藤亮 ほか,[9p-PB1-51]TbFeCo磁性薄膜における輸送特性の組成依存性,第66回応用物理学会春季学術講演会[講演予稿集],日本,公益社団法人応用物理学会,2019年,08-051
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 15/00
H10N 19/00
H02N 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
異常ネルンスト効果を利用した
外部磁場フリーで動作する熱電発電素子に用いられる、磁性体膜である熱電体であって、
面内方向に磁化容易軸を持ち、アモルファス構造を有
し、Sm
p
Co
100-p
(0<p≦4
0)又はSm
p
(Fe
q
Co
100-q
)
100-p
(0<p≦40、0≦q≦100)を含むことを特徴とする、熱電体。
【請求項2】
Sm
pCo
100-pにおいて
、15≦p≦35で
あることを特徴とする、請求項
1に記載の熱電体。
【請求項3】
Sm
p
Co
100-p
において、20≦p≦30であることを特徴とする、請求項2に記載の熱電体。
【請求項4】
Sm
p(Fe
qCo
100-q)
100-pにおいて
、15≦p≦35、5≦q≦45で
あることを特徴とする、請求項
1に記載の熱電体。
【請求項5】
Sm
p
(Fe
q
Co
100-q
)
100-p
において、20≦p≦30、10≦q≦35であることを特徴とする、請求項4に記載の熱電体。
【請求項6】
請求項1乃至5
のいずれかに記載の熱電体と、
前記熱電体を担持する基板と、を有することを特徴とする、熱電発電素子。
【請求項7】
面内方向において、大きな保磁力と飽和磁化に対する大きな残留磁化比率とを示す磁化容易軸を持ち、大きな異常ネルンスト効果を示す、
Sm
p
Co
100-p
(0<p≦40)又はSm
p
(Fe
q
Co
100-q
)
100-p
(0<p≦40、0≦q≦100)を含む希土類系金属間アモルファス磁性合金からなる第1の磁性材料層と、
巨大な異常ネルンスト効果を示す、前記希土類系金属間アモルファス磁性合金材料と異なる磁性材料からなる第2の磁性材料層と、の積層構造を有することを特徴とする、
多層熱電体。
【請求項8】
前記大きな保磁力は、保磁力10mT以上をいい、
前記飽和磁化に対する大きな残留磁化比率は、0.3以上をいい、
前記大きな異常ネルンスト効果は、熱電能1μV/K以上をいい、
前記巨大な異常ネルンスト効果は、熱電能5μV/K以上をいう、
請求項7に記載の多層熱電体。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の多層熱電体と、
前記
多層熱電体を担持する基板と、を有することを特徴とする、多層熱電発電素子。
【請求項10】
請求項6に記載の熱電発電素子を用いた曲げられる熱電発電機。
【請求項11】
請求項6に記載の熱電発電素子を用いた曲げられる熱流センサ。
【請求項12】
請求項9に記載の多層熱電発電素子を用いた曲げられる熱電発電機。
【請求項13】
請求項9に記載の多層熱電発電素子を用いた曲げられる熱流センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常ネルンスト効果を利用した熱電発電素子に用いられる、磁性体である熱電体及び多層熱電体に関する。
【背景技術】
【0002】
強磁性体において発現する異常ネルンスト効果は、熱流及び磁化に垂直な方向に電場が発生する現象である。熱電発電技術として従来から研究がなされてきたゼーベック効果は、熱流及び電場が同方向に現れる現象であるため、熱源からの熱エネルギーを電気エネルギーに変換する際には、p型半導体及びn型半導体を交互に直列接続してマトリックス状に配列させた複雑な構造を作る必要がある。
【0003】
一方、異常ネルンスト効果を熱電発電に利用すれば、面外に流れる熱流に対して電場は面内方向に発生するため、熱源の面内方向へ磁性線を延ばす極めて簡便な構造において、熱電変換が可能である。それゆえ、異常ネルンスト効果を利用した熱電発電によれば、例えば円筒状などの平坦性のない熱源への応用が容易、素子の低コスト化が可能、といった利点が得られる。
【0004】
このような熱電発電素子に関する技術として、非特許文献1では、異常ネルンスト効果を用いた熱流センサの技術的発展が述べられている。また、本発明者の一部は、特許文献1~3で新規な熱電変換材料を提案している。
非特許文献2では、希土類系磁石として、SmCo合金に関して、様々な組成比率に関して、詳細な結晶構造と磁気的物性の説明がある。しかし、異常ネルンスト効果に関しては、言及されていない。本発明者の一部が執筆している非特許文献3、4では、SmCo5系磁石における異常ネルンスト効果に関する研究を報告しているが、アモルファスに関する報告は含まれていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-103535号公報
【文献】特開2018-190780号公報
【文献】特開2021-040066号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】桜庭裕弥著、『異常ネルンスト効果を用いた熱流センサ研究の進展と展望』、金属第91巻第7号573頁-580頁(2021)
【文献】大橋 健著、『Sm2Co17系磁石の現状と将来展望』、日本金属学会誌第76巻第1号96頁-106頁(2012)
【文献】A. Miura, et al.: "Observation of anomalous Ettingshausen effect and large transverse thermoelectric conductivity in permanent magnets ": Applied Physics Letters 115, 222403 (2019).
【文献】A. Miura, et al.: "High-temperature dependence of anomalous Ettingshausen effect in SmCo5-type permanent magnets ": Applied Physics Letters 117, 082408 (2020).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の異常ネルンスト効果を用いた熱電変換材料では、高い異常ネルンスト係数は単結晶バルク材料やエピタキシャル成長させた薄膜、高温熱処理を必要とする結晶性の材料においてのみ得られてきたので、汎用性に劣るという課題がある。
また、従来の異常ネルンスト効果を用いた熱電変換材料では、バルク永久磁石を除き、保磁力や、飽和磁化に対する残留磁化の比率が小さいため異常ネルンスト効果の動作に外部磁場印加が必要であるという課題がある。
【0008】
よって、異常ネルンスト効果を用いた熱電応用実現のためには、単結晶バルク材料やエピタキシャル成長させた薄膜に限定されずに、どんな基板上にも成膜できる薄膜であり、高い異常ネルンスト係数と高い保磁力、および高い飽和磁化に対する残留磁化の比率を有するものが必要になる。
そこで、本発明の熱電体では、どんな基板上にも成膜できること、面内磁化に対して高い保磁力と飽和磁化に対する高い残留磁化の比率を示すことができる熱電体を提供することを目的とする。
また、本発明の多層熱電体では、大きな保磁力と残留磁化を持つ面内容易磁化方向を持つ希土類系金属間アモルファス磁性合金材料と、巨大な異常ネルンスト効果を持つ他の強磁性材料との積層構造を用いることで、従来の強磁性材料に外部磁場をかけずに大きな異常ネルンスト効果による電圧生成を実現できる、多層熱電体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
〔1〕本発明の熱電体は、異常ネルンスト効果を利用した熱電発電素子に用いられる、磁性体膜である熱電体であって、
面内方向に磁化容易軸を持ち、アモルファス構造を有することを特徴とする。
〔2〕本発明の熱電体〔1〕において、好ましくは、SmpCo100-p(0<p≦50)が含まれることを特徴とする。
〔3〕本発明の熱電体〔2〕において、好ましくは、15≦p≦35であり、さらに好ましくは20≦p≦30であるとよい。
〔4〕本発明の熱電体〔1〕において、好ましくは、Smp(FeqCo100-q)100-p(0<p≦50、0≦q≦100)が含まれることを特徴とする。
〔5〕本発明の熱電体〔4〕において、好ましくは、15≦p≦35、5≦q≦45であり、さらに好ましくは20≦p≦30、10≦q≦35であることを特徴とする。
〔6〕本発明の熱電発電素子は、本発明の熱電体〔1〕~〔5〕と、前記熱電体を担持する基板と、を有するとよい。
【0010】
〔7〕本発明の多層熱電体は、面内方向において、大きな保磁力と飽和磁化に対する大きな残留磁化比率とを示す磁化容易軸を持ち、大きな異常ネルンスト効果を示す、希土類系金属間アモルファス磁性合金からなる第1の磁性材料層と、巨大な異常ネルンスト効果を示し、前記希土類系金属間アモルファス磁性合金材料と異なる磁性材料からなる第2の磁性材料層との積層構造を有する。
〔8〕本発明の多層熱電体〔7〕において、好ましくは、前記大きな保磁力は、保磁力10mT以上の場合をいい、前記飽和磁化に対する大きな残留磁化比率は0.3以上をいい、前記大きな異常ネルンスト効果は、熱電能1μV/K以上をいい、前記巨大な異常ネルンスト効果は、熱電能5μV/K以上をいうとよい。
〔9〕本発明の多層熱電発電素子は、本発明の多層熱電体〔7〕又は〔8〕と、前記熱電体を担持する基板と、を有するとよい。
〔10〕本発明の熱電発電素子〔1〕~〔6〕、又は多層熱電発電素子〔7〕~〔9〕を用いた曲げられる熱電発電機であるとよい。
〔11〕本発明の熱電発電素子〔1〕~〔6〕、又は多層熱電発電素子〔7〕~〔9〕を用いた曲げられる熱流センサであるとよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の熱電発電素子は、希土類系金属間アモルファス磁性合金を外部磁場フリーで動作する横型熱電変換に応用することで、横型熱電効果の実生活への応用に役立つ。
本発明の多層熱電発電素子は、大きな保磁力・残留磁化を持つ面内容易磁化方向と、大きな異常ネルンスト効果を示す、希土類系金属間アモルファス磁性合金材料と、巨大な異常ネルンスト効果を持つ他の強磁性材料との積層構造を用いることで、従来の強磁性材料に外部磁場をかけずに大きな異常ネルンスト効果を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態を示す熱流方向に対して横方向に起電力を生成する熱電変換のための典型的な異常ネルンスト・サーモパイル構造を示す構成図である。
【
図2A】本発明の一実施形態を示す希土類系金属間アモルファス磁性合金の最適な組成比率を検討するための成膜例を示すものであって、アモルファスSm
pCo
100-p(0≦p≦100)組成傾斜膜の構造を模式的に示したもので、平面図を示している。
【
図2B】本発明の一実施形態を示す希土類系金属間アモルファス磁性合金の最適な組成比率を検討するための成膜例を示すものであって、アモルファスSm
pCo
100-p(0≦p≦100)組成傾斜膜の構造を模式的に示したもので、断面図を示している。
【
図2C】アモルファスSm
pCo
100-p(0≦p≦100)組成傾斜膜の異なるp値でのXRDパターンを示す図である。
【
図2D】
図2A中(A)で示す右側のSmの組成比率が高い領域の断面明視野(BF)-STEM像とマイクロビーム電子線回折パターンを示している。
【
図2E】
図2A中(B)で示す大略中央付近のCoとSmの組成比率が大略等しい領域の断面明視野(BF)-STEM像とマイクロビーム電子線回折パターンを示している。
【
図2F】
図2A中(C)で示す左側のCoの組成比率が高い領域の断面明視野(BF)-STEM像とマイクロビーム電子線回折パターンを示している。
【
図3】MgO基板上のアモルファスSm
pCo
100-p(0≦p≦100)組成傾斜膜における異常エッティングスハウゼン効果(異常ネルンスト効果の相反現象)による単位電流密度あたりの温度変化の組成依存性を示すグラフである。
【
図4】(a)はアモルファスSm
20Co
80膜を作製するための積層構造を示す断面模式図である。(b)は蒸着したアモルファスSm
20Co
80膜の面内磁化の磁場依存性カーブ(黒塗りの記号)を示している。(c)はヒーター出力を変えた場合のANE電場の外部磁場依存性を示している。(d)はANE電場の温度勾配依存性を示している。
【
図5】(a)はアモルファスSm
20Co
80薄膜を用いた熱流束検知用サーモパイルの概略構造を示す図である。(b)は熱流束センシングのための模式的な実験装置を示す図である。(c)はポリエチレンナフタレート(PEN)基板上に蒸着したアモルファスSm
20Co
80膜の上記実験構成によるANE電圧信号の観測結果を示す図で、横軸は磁場の強度Hを示している。(d)は(c)と同様で、横軸は試料面を貫く方向の熱流密度J
Qを示している。
【
図6】(a)はアモルファスSm
20(Fe
qCo
100-q)
80(0≦q≦100)組成傾斜膜の構造を模式的に示した断面図である。(b)は
図6(a)の異なるq値でのXRDパターンを示す図である。(c)はXRDで得られた結果を確認するための断面明視野(BF)-STEM像とマイクロビーム電子線回折パターンを示している。
【
図7】MgO基板上のアモルファスSm
20(Fe
qCo
100-q)
80(0≦q≦100)組成傾斜膜における異常エッティングスハウゼン効果による単位電流密度あたりの温度変化の組成依存性を示している。
【
図8】(a)は、アモルファスSm
20(Fe
23Co
77)
80膜製造プロセスの概略図を示している。(b)は蒸着したSm
20(Fe
23Co
77)
80膜の面内磁化の磁場依存性カーブ、(c)はヒーター出力を変えたときのANE電場の外部磁場依存性、(d)はANE電場の温度勾配依存性を示している。
【
図9】本発明の多層サーモパイル構造を示す、希土類系金属間アモルファス磁性合金と、これと異なる巨大な異常ネルンスト効果を持つ磁性材料とを用いた多層サーモパイル構造の概略を示している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書で用いる技術用語の定義は、以下のとおりである。
「熱電変換材料」は、熱を電気に変えることができる物質で、例えば発電用モジュールや温調素子に使用され、環境に優しいエネルギー、またエネルギー節約の更なる効率アップに役立つものである。
「ネルンスト効果」とは、1886年にE.Nernstらによって報告された現象であり、温度勾配∇Tをかけた伝導性物質に、外部磁場Hを印加すると、Hと∇Tの外積方向に電界を生じさせる現象である(非特許文献1参照)
「異常ネルンスト効果」は、磁性体特有の現象であり、外部磁場ではなく、磁性体の磁化Mと温度勾配∇Tの外積方向に電界を生じさせる現象である(非特許文献1参照)。以下、異常ネルンスト効果はANE(anomalous Nernst effect)と略して表記することがある。
「サーモパイル」は、複数の熱電変換材料を直列あるいは並列に接続したもので、熱起電力を昇圧するために用いる構造である。
【0014】
<第1実施形態>
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の一実施形態を示す、入力熱流と出力電流が直交する横型熱電変換のための典型的なネルンスト・サーモパイル構造を説明する図で、(a)は磁化Mの方向が基板に対して均一な場合、(b)は磁化Mの方向が隣接する熱電体の間で右向きと左向きが交互に現れる場合を示している。
本発明の熱電体は、異常ネルンスト効果を利用した熱電発電素子に用いられる、磁性体膜である。本発明の熱電体11は、面内方向に磁化容易軸を持ち、アモルファス構造を有することを特徴とする。これを用いることで、外部磁場フリーで面内方向に起電力が発生可能な横型熱電変換素子が得られる。
【0015】
[熱電発電素子10]
図1(a)は、本発明の熱電変換材料を用いた熱電発電素子10を説明する図である。
図1(a)に示した熱電発電素子10は、基板13と、この基板13の上に配置(担持)された熱電体11及び接続体12と、接続端子14とを有している。
図1(a)では、熱電体11の材料をMaterial Aと表記し、接続体12の材料をMaterial Bと表記している。
熱電体11は、典型的には、アモルファスSm
20Co
80薄膜等の希土類系金属間アモルファス磁性合金膜(磁性体膜)によって構成されている。希土類系金属間アモルファス磁性合金膜は、面内方向の磁気異方性が強く、面内方向に磁化容易軸を有する。このため、希土類系金属間アモルファス磁性合金膜は、大きな保磁力と、飽和磁化に対して大きな残留磁化を示し、外部磁場を印加後ゼロ磁場に戻しても磁化が維持される。希土類系金属間アモルファス磁性合金の磁化方向は、印加される外部磁場の方向を向き、任意の方向に制御可能であるため、異常ネルンスト効果の出力を制御するのに好適である。熱電体11を構成する材料(Material A)として、希土類系金属間アモルファス磁性合金は、Sm
pCo
100-p(0<p≦50)や、Sm
p(Fe
qCo
100-q)
100-p(0<p≦50、0≦q≦100)を含んでいることが好ましく、Sm
pCo
100-p(15≦p≦35)や、Sm
p(Fe
qCo
100-q)
100-p(15≦p≦50、5≦q≦45)を含んでいることがより好ましく、Sm
pCo
100-p(20≦p≦30)や、Sm
p(Fe
qCo
100-q)
100-p(20≦p≦30、10≦q≦35)を含んでいることがさらに好ましい。
また、熱電体11は、一様な合金膜であってもよいが、例えば、ナノスケールで、異種の単一金属層を交互に積層した多層構造等であってもよく、これらに限定されない。
尚、磁性体膜の厚さは、例えば、10nmから1μm程度とすることができるが、これに特に限定されない。
接続体12は、Material Bとして、異常ネルンスト効果を示さない非磁性体(例えば銅(Cu)、クロム(Cr)、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt))によって構成されている。あるいは接続体12は、Material Bとして、熱電体11と逆符号の異常ネルンスト係数を持つ強磁性体(例えばFe、NdFeB、MnGa)、熱電体11よりも低い異常ネルンスト係数を持つ強磁性体Sm
nFe
1-n(0≦n≦100)によって構成されていてもよい。
基板13は、MgO、Si-SiO
2、Al
2O
3、AlN、ガラス、ダイヤモンド、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミドフィルム(Kapton(DuPont社の登録商標))、ポリマー等によって構成されている。
接続端子14は、ここでは接続体12と同じ材料(Material B)が用いられたもので、熱電体11の両端に設けられている。なお、接続端子14は熱電体11と同じ材料(Material A)でも良く、
図1において熱電体11と接続体12の配置を入れ替えても良い。
【0016】
熱電体11は、基板13の上に成膜した、アモルファスSm
20Co
80薄膜等の希土類系金属間アモルファス磁性合金膜を細線化することによって形成されており、
図1(a)に示した方向Mに磁化している。熱電体11は、異常ネルンスト効果により、磁化の方向Mに対して垂直の方向(
図1(a)に示した熱流の方向J
Q)の温度差に対し、
図1(a)に示した電界の方向(熱電体11と接続体12の長手方向)に発電するように構成されている。
【0017】
接続体12は、基板13の表面に、各熱電体11、11、…に平行に配置されている。隣接する一対の熱電体11、11の間に1つの接続体12が配置されており、接続体12は、一方の熱電体11の一端側と他方の熱電体11の他端側とを電気的に接続している。これにより、熱電体11は、接続体12によって電気的に直列に接続されている。
【0018】
以上説明したように、熱電発電素子10は、アモルファスSm20Co80薄膜等の希土類系金属間アモルファス磁性合金膜によって構成される熱電体11を有している。アモルファスSm20Co80薄膜等の希土類系金属間アモルファス磁性合金膜によって構成される熱電体11によれば、電場方向の実効長さを長くして、熱起電力を昇圧することが可能である。したがって、本実施形態によれば、このような熱電体11を用いることにより、実用化しやすい形態の熱電発電素子10を提供することが可能になる。
【0019】
[熱電発電素子20]
図1(b)は、本発明の熱電変換材料を用いた熱電発電素子20を説明する図である。
図1(b)に示した熱電発電素子20は、基板23と、この基板23の上に配置(担持)された熱電体21及び逆方向磁化接続体22と、接続端子24とを有している。
図1(b)では、熱電体21と逆方向磁化接続体22の材料をいずれもMaterial Aと表記し、接続端子24の材料を、Material Bと表記している。
熱電体21及び逆方向磁化接続体22は、上記熱電体11と同様に、アモルファスSm
20Co
80薄膜等の希土類系金属間アモルファス磁性合金膜によって構成されている。
熱電体21と逆方向磁化接続体22とが同一の材料であっても、逆向きの磁化方向Mを有する熱電体21と逆方向磁化接続体22が交互に配置されることで、ANE電場が打ち消しあわず昇圧される。
基板23は、上述の基板13と同様に、シリコンや酸化マグネシウム等によって構成されている。
接続端子24は、Material Bとして、ここでは接続体12と同じ材料を用いたものであるとよく、例えば異常ネルンスト効果を示さない非磁性体(例えば銅(Cu)、クロム(Cr)、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)によって構成されている。接続端子24は、熱電体21の両端に設けられている。なお、接続端子24は、熱電体21および逆方向磁化接続体22と同一の材料(Material A)であってもよい。
【0020】
逆方向磁化接続体22は、基板23の表面に、各熱電体21、21、…に平行に配置されている。隣接する一対の熱電体21、21の間に1つの逆方向磁化接続体22が配置されており、逆方向磁化接続体22は、一方の熱電体1の一端側と他方の熱電体1の他端側とを電気的に接続している。これにより、熱電体21は、逆方向磁化接続体22によって電気的に直列に接続されている。
【0021】
以上説明したように、熱電発電素子20は、アモルファスSm20Co80薄膜等の希土類系金属間アモルファス磁性合金膜によって構成される熱電体21、逆方向磁化接続体22を有している。アモルファスSm20Co80薄膜によって構成される熱電体21、逆方向磁化接続体22によれば、電場方向の実効長さを長くして、熱起電力を昇圧することが可能である。したがって、本実施形態によれば、このような熱電体21と逆方向磁化接続体22を用いることにより、実用化しやすい形態の熱電発電素子20を提供することが可能になる。
【0022】
熱電体11、21、接続体12、逆方向磁化接続体22に用いられる希土類系金属間アモルファス磁性合金等の材料からなる磁性体膜は、面内方向に強い磁化容易軸を有し、厚膜化や細線化された形状においても高い保磁力と飽和磁化に対する残留磁化比率を示すため、ゼロ磁場でも大きな異常ネルンスト効果による電圧を示すと共に、各線(熱電体11、21、接続体12、逆方向磁化接続体22)の磁化方向を個別に制御することができ、単一材料によりサーモパイル素子を構築することができる。飽和磁化に対する大きな残留磁化比率を維持しつつ、厚膜化と細線化が可能であるため、サーモパイル構造全体の内部電気抵抗上昇を厚膜化で抑制しつつ、細線幅を細めることで、単位面積あたりの熱電出力を高めることができる。各層の磁化は、局所磁場や、Crなどのピンニング層を追加して交換バイアス効果を利用して制御することもできる。
ここで、希土類系金属間アモルファス磁性合金として、SmpCo100-pの最適な組成比率を検討するために、SmpCo100-pのpを0~100まで変化させたアモルファス組成傾斜材料を含む膜(以下、単に「アモルファスSmpCo100-p(0≦p≦100)組成傾斜膜」ともいう。)を作製し、その物性(構造及び熱電性能)の評価を行った。
【0023】
(アモルファスSm
pCo
100-p(0≦p≦100)組成傾斜膜とその構造評価)
図2Aは、アモルファスSm
pCo
100-p(0≦p≦100)組成傾斜膜の構造を模式的に示したもので、平面図を示している。
図2Bはその断面図を示している。MgO基板の上に、SmとCoの組成傾斜材料からなり、1層あたりのSmとCoの合計厚さが1nmの積層体が100層積層されており、その最上層に酸化防止用のアルミ薄膜が蒸着してある。厚さ1nmの積層体は、
図2A、
図2B中のx軸方向に向かってSmの組成比率が0at%から100at%へと増加している組成傾斜層であり、
図2A中(A)で示す右側がSmの組成比率が高い領域であり、
図2A中(B)で示す大略中央付近がCoとSmの組成比率が大略等しい領域であり、
図2A中(C)で示す左側がCoの組成比率が高い領域である。
【0024】
図2Cは、アモルファスSm
pCo
100-p(0≦p≦100)組成傾斜膜の異なるp値でのXRDパターンを示している。XRDパターンにより、純粋なSmとCoが豊富な領域を除くSm-Co二元合金相のほとんどがアモルファス相であることが確認された。
【0025】
図2Dは
図2A中(A)で示す右側のSmの組成比率が高い領域の断面明視野(BF)-STEM像とマイクロビーム電子線回折パターンを示している。TEM像は、XRDで得られた結果を裏付けるものである。Smが豊富な領域では、結晶構造を示す回折像が得られている。
図2Eは
図2A中(B)で示す大略中央付近のCoとSmの組成比率が大略等しい領域の断面明視野(BF)-STEM像とマイクロビーム電子線回折パターンを示している。Sm-Co二元合金相のほとんどがアモルファス相であることが確認された。
図2Fは
図2A中(C)で示す左側のCoの組成比率が高い領域の断面明視野(BF)-STEM像とマイクロビーム電子線回折パターンを示している。Coが豊富な領域では、結晶構造を示す回折像が得られている。
【0026】
(アモルファスSm
pCo
100-p(0≦p≦100)組成傾斜膜とその熱電効果)
図3は、MgO基板上のアモルファスSm
pCo
100-p(0≦p≦100)組成傾斜膜における、異常エッティングスハウゼン効果による単位電荷電流密度あたりの温度変化の組成依存性を示す図である。0at%<Sm≦40at%の領域では、電流を流した際に、電流と磁化の両方に垂直な方向に熱流が生成され、温度変化が見られ、特に、Sm=15~35at%の領域では大きな温度変化が見られ、20~30at%では温度変化が最大となる。熱電応用に適した合金組成範囲として、少なくとも大きな異常ネルンスト効果が示される0<p≦50であればよいが、上記結果より、異常エッティングスハウゼン効果と異常ネルンスト効果との相反関係から、十分に大きな異常ネルンスト効果が存在することが示唆される0<p≦40の範囲が好ましく、15≦p≦35の範囲がより好ましく、20≦p≦30の範囲がさらに好ましい。
次に、好ましい組成範囲のアモルファスSm
pCo
100-p(0<p≦50)膜として、アモルファスSm
20Co
80膜からなる熱電体を作製し、その熱電性能を評価した。
【0027】
(アモルファスSm
20Co
80膜の熱電性能評価)
図4(a)はアモルファスSm
20Co
80膜の積層状態を示す断面模式図である。MgO基板の上に、1層あたりSm層とCo層の合計厚さ1nmの積層体が100層積層されており、最上層にキャップ層としてアルミが蒸着してある。
図4(b)は蒸着したアモルファスSm
20Co
80膜の面内磁化の磁場依存性カーブ(黒塗りのデータ点)を示す図である。
図4(b)より、アモルファスSm
20Co
80膜は面内に磁場を印加した際に、大きな保磁力と飽和磁化に対する大きな残留磁化比率を示すことがわかる。また、同じ膜を大気圧で1時間100℃に加熱した後の面内磁化の磁場依存性カーブ(白塗りのデータ点)も示している。ほぼ重なり合った磁化過程は、これらの合金の安定性を裏付けている。
図4(c)はヒーター出力を変えた場合のANE電場の外部磁場依存性を示す図である。実際の使用形態のように面に垂直方向に熱流を与え、面内方向に磁化させる場合、膜の厚さ方向に温度勾配を付けるため、その定量は難しい。
図4(c),(d)では温度勾配を定量的に測定するため、膜面に垂直な方向に磁場を印加することでアモルファスSm
20Co
80膜を磁化させ、面内方向に温度勾配を付けた。面内温度勾配の定量は容易であり、アモルファスであるためSm
20Co
80膜の電子輸送特性は等方的な特性を示すことから、この配置で異常ネルンスト係数を見積もることができる。
図4(c)より、ANE電場は磁場に対して奇の依存性を示し、アモルファスSm
20Co
80膜の磁化が飽和すると電場も飽和していることがわかる。また、ヒーター出力を上げると電場が増加した(
図4(c)中、最も薄い色の線は、ヒーター出力が高い場合の結果を示し、最も濃い色の線は、ヒーター出力の低い場合の結果を示す。)。これらの振る舞いはANEと整合している。ただし、膜面に垂直な方向に磁場を印加しているため、保磁力や残留磁化は現れていない。
図4(d)はANE電場の温度勾配依存性を示す図である。アモルファスSm
20Co
80膜は、Sm
20Co
80組成で1.07μV/Kの異常ネルンスト係数を示している。このように、本発明のアモルファスSm
pCo
100-p(0<p≦50)膜から構成される熱電体では、比較的高い異常ネルンスト効果による熱電能が得られる。
次に、上記作製したアモルファスSm
20Co
80膜からなる熱電体を熱流束検知用サーモパイル(熱電発電素子10)に用いたときの熱電性能を評価した。
【0028】
(熱流束検知用サーモパイルの熱電性能評価)
図5(a)はアモルファスSm
20Co
80薄膜を用いた熱流束検知用サーモパイルの概略構造を示す図で、
図1(a)に示したものと同様である。
【0029】
図5(b)は熱流束センシングのための模式的な実験装置を示す図である。熱源とヒートシンクの間に、アモルファスSm
20Co
80薄膜と熱流センサが積層されている。
図5(c)はPEN基板上に蒸着したアモルファスSm
20Co
80膜の上記実験構成によるANE電圧信号の観測結果を示す図で、横軸は面内方向に印加される磁場の強度Hを示している。
図5(c)が示すように、ANE電場の特徴である磁場に対して奇の依存性を示す信号が得られており、面内方向に磁場を印加していることからアモルファスSm
20Co
80膜の大きな保磁力と残留磁化を反映した結果が得られている。すなわち、ゼロ磁場においても有限のANE電場が観測されている。
図5(d)はPEN基板上に蒸着したアモルファスSm
20Co
80膜の上記実験構成によるANE電圧信号の観測結果を示す図で、横軸は試料面を貫く方向の熱流密度J
Qを示している。各熱電体のワイヤーの幅と隣接するワイヤーの間隔を狭めることで、出力電圧を増加させることができる。
図5(d)は出力電圧V
ANEが熱流密度J
Qに比例して大きくなることを示しており、V
ANE/J
Qが熱流センサとしての感度を表す。これより、良好な感度を有し、ゼロ磁場で動作する熱流センサが得られることがわかった。
さらに、希土類系金属間アモルファス磁性合金として、Sm
p(Fe
qCo
100-q)
100-pの最適な組成比率を検討するために、Sm
p(Fe
qCo
100-q)
100-pのpを20とし、qを0~100まで変化させたアモルファス組成傾斜材料を含む膜(以下、単に「アモルファスSm
20(Fe
qCo
100-q)
80組成傾斜膜」ともいう)を作製し、その物性(構造及び熱電性能)評価を行った。
【0030】
(アモルファスSm
20(Fe
qCo
100-q)
80(0≦q≦100)組成傾斜膜とその構造)
図6(a)は、本発明の一実施例を示す、アモルファスSm
20(Fe
qCo
100-q)
80(0≦q≦100)組成傾斜膜の積層状態を示す断面模式図である。MgO基板の上に、1層あたり厚さ0.37nmのSm層と、FeとCoの組成傾斜材料からなる厚さが0.63nmの組成傾斜層と、が積層された合計厚さ1nmの積層体が、100層積層されており、その最上層に酸化防止用のアルミ薄膜が蒸着してある。尚、実際には製造誤差により、アモルファスSm
20(Fe
qCo
100-q)80(0≦q≦100)組成傾斜膜の組成比率は、Sm
20Co
80からSm
17Fe
83へと変化した。
【0031】
図6(b)はアモルファスSm
20(Fe
qCo
100-q)
80(0≦q≦100)組成傾斜膜の異なるq値でのXRDパターンを示している。この異なるq値でのXRDパターンにより、すべての組成でアモルファス相であることが確認された。
図6(c)は
図6(b)に示すXRDで得られた結果を確認するための断面明視野(BF)-STEM画像を示している。
図6(d)は
図6(b)に示すXRDで得られた結果を確認するためのマイクロビーム電子回折パターンを示している。
図6(c)及び
図6(d)からも、アモルファスSm
20(Fe
qCo
100-q)
80(0≦q≦100)組成傾斜膜のすべてがアモルファス相であることが確認された。
【0032】
(アモルファスSm
20(Fe
qCo
100-q)
80(0≦q≦100)組成傾斜膜とその熱電効果)
図7は、MgO基板上のアモルファスSm
20(Fe
qCo
100-q)
80(0≦q≦100)組成傾斜膜における異常エッティングスハウゼン効果による単位電荷電流密度あたりの温度変化の組成依存性を示している。0at%≦Fe≦90at%の領域では、電流を流した際に、電流と磁化の両方に垂直な方向に熱流が生成され、温度変化が見られ、特に、Fe=5~45at%の領域では大きな温度変化が見られ、10~35at%で最大となる。熱電応用に適した合金組成範囲としては、少なくとも大きな異常ネルンスト効果が示される0≦q≦100の範囲であればよいが、上記結果より、異常エッティングスハウゼン効果と異常ネルンスト効果との相反関係から、十分に大きな異常ネルンスト効果が存在することが示唆される0≦q≦90の範囲が好ましく、5≦q≦45の範囲がより好ましく、10≦q≦35の範囲がさらに好ましい。
次に、好ましい組成範囲に含まれるアモルファスSm
20(Fe
qCo
100-q)
80(0≦q≦100)膜として、アモルファスSm
20(Fe
23Co
77)
80膜(熱電体)を作製し、これを用いた熱電発電素子の熱電性能を評価した。
【0033】
(アモルファスSm
20(Fe
23Co
77)
80膜の熱電性能評価)
図8(a)は、アモルファスSm
20(Fe
23Co
77)
80膜製造プロセスの概略図を示している。
図8(b)は、蒸着したSm
20(Fe
23Co
77)
80膜の面内磁化の磁場依存性カーブを示している。
図8(b)より、Sm
20(Fe
23Co
77)
80膜も面内に磁場を印加した際に、大きな保磁力と飽和磁化に対する大きな残留磁化比率を示すことがわかる。
図8(c)はヒーター出力を変えたときのANE電圧の外部磁場依存性を示している。
図8(c)、(d)の実験において膜面の垂直方向に磁場を印加し、面内方向に温度勾配を付けた。その理由は、
図4(c)、(d)と同様である。
図5(c)より、ANE電場は磁場に対して奇の依存性を示し、アモルファスSm
20(Fe
23Co
77)
80膜の磁化が飽和すると電場も飽和していることがわかる。また、ヒーター出力を上げると電場が増加した(
図5(c)中、最も濃い色の線は、ヒーター出力が高い場合の結果を示し、最も薄い色の線は、ヒーター出力の低い場合の結果を示す。)。これらの振る舞いはANEと整合している。ただし、膜面に垂直な方向に磁場を印加しているため、保磁力や残留磁化は現れていない。
図8(d)はANE電圧の温度勾配依存性を示している。Sm
20(Fe
23Co
77)
80組成の薄膜の異常ネルンスト係数は1.55μV/Kである。以上のことから、本発明のアモルファスSm
p(Fe
qCo
100-q)
100-p(0<p≦50、0≦q≦100)膜から構成される熱電体では、高い熱電能が得られることがわかった。
【0034】
<第2実施形態>
図9は、本発明の第2の実施形態を示す、本材料と巨大な異常ネルンスト効果を持つ他の磁性材料を用いた多層サーモパイル構造の概略を示している。
図9(a)は、本発明の熱電変換材料を用いた多層熱電発電素子30を説明する図である。
図9(a)に示した多層熱電発電素子30は、基板33と、この基板33の上に配置された多層熱電体31及び接続体32と、接続端子34を有している。
【0035】
多層熱電体31は、熱電体11と同様の材料である希土類系金属間アモルファス磁性合金からなる第1の磁性材料層311と、熱電体11を構成する希土類系金属間アモルファス磁性合金とは異なり、異常ネルンスト効果を持つ磁性材料からなる第2の磁性材料層312とを含む積層構造を有する。
第1の磁性材料層311は、大きな異常ネルンスト効果を示す。第1の磁性材料層311の異常ネルンスト係数(熱電能)は、1μV/K以上であることが好ましく、異常ネルンスト係数は必ずしも巨大である必要はない。第1の磁性材料層311は、薄膜の面内方向に強い磁気異方性を有するため、面内磁場に対して大きな保磁力と残留磁化比率を示す磁化容易軸を持つ。このため、第1の磁性材料層311は、ゼロ磁場で熱起電力を生成できる。このような第1の磁性材料層311において、保磁力は10mT以上であるとよく、残留磁化比率は0.3以上であるとよい。
第2の磁性材料層312は、巨大な異常ネルンスト効果を示し、異常ネルンスト係数が巨大な磁性材料から構成される。第2の磁性材料層312の異常ネルンスト係数(熱電能)は、第1の磁性材料層311の異常ネルンスト係数(熱電能)よりも大きく、例えば、5μV/K以上であることが好ましい。第2の磁性材料層312は、面内方向の磁気異方性が弱いために、単独での厚膜化や細線化によって、残留磁化が著しく低下する。このため、第2の磁性材料層312は、ゼロ磁場で動作しなくなる。
そこで、希土類系金属間アモルファス磁性合金からなる第1の磁性材料層311と第2の磁性材料層312の両者を接合すると、交換結合により巨大な異常ネルンスト係数を示す第2の磁性材料層312をゼロ磁場でも一方向に磁化させることができるため、ゼロ磁場動作と大きな異常ネルンスト係数の両立が可能になる。第2の磁性材料層312の磁性材料としては、Fe-Ga合金、Fe-Al合金、Co
2MnGaなどのホイスラー合金、YbMnBi
2などの反強磁性体がある。
また、接続体32には、接続体12と同様の材料が用いられるが、Sm
pCo
100-p(0<p≦50)等の希土類系金属間アモルファス磁性合金を用いてもよい。接続体32の磁化方向を多層熱電体31の磁化方向と逆向きにできるならば、接続体32は多層熱電体31と同一の積層体で構成されていても良い。なお、多層熱電体31と接続体32の配置を入れ替えても良い。
一方、基板33には、基板13と同様の材料が用いられる。
接続端子34は、ここでは接続体32と同じ材料が用いられたもので、多層熱電体31の両端に設けられている。接続端子34は多層熱電体31と同一の積層体で構成されていても良い。
なお、
図9(a)では、第1の磁性材料層311の材料をMaterial Aと表記し、第2の磁性材料層312の材料をMaterial Cと表記し、接続体32の材料をMaterial Bと表記している。
【0036】
多層熱電体31は、基板33の上に成膜した、アモルファスSm
20Co
80等の希土類系金属間アモルファス磁性合金とこれと異なる磁性材料からなる膜を細線化することによって形成されている。そこで、
図9(a)に示す装置は、
図1(a)に示した方向と同様に磁化している。そこで、多層熱電体31は、異常ネルンスト効果により、磁化の方向に対して垂直の方向(
図1(a)に示した熱流の方向)の温度差に対し、
図1(a)に示した電界の方向(多層熱電体31と接続体32の長手方向)に発電するように構成されている。
【0037】
接続体32は、基板33の表面に、各多層熱電体31、31、…に平行に配置されている。隣接する一対の多層熱電体31、31の間に1つの接続体32が配置されており、接続体32は、一方の多層熱電体31の一端側と他方の多層熱電体31の他端側とを電気的に接続している。これにより、多層熱電体31は、接続体32によって電気的に直列に接続されている。
【0038】
以上説明したように、多層熱電発電素子30は、アモルファスSm20Co80等の希土類系金属間アモルファス磁性合金とこれと異なる磁性材料によって構成される多層熱電体31を有している。アモルファスSm20Co80等の希土類系金属間アモルファス磁性合金とこれと異なる磁性材料によって構成される多層熱電体31によれば、電場方向の実効長さを長くして、熱起電力を昇圧することが可能である。したがって、本実施形態によれば、このような多層熱電体31を用いることにより、実用化しやすい形態の多層熱電発電素子30を提供することが可能になる。
【0039】
図9(b)は、本発明の熱電変換材料を用いた多層熱電発電素子40を説明する図である。
図9(b)に示した多層熱電発電素子40は、基板43と、この基板43の上に配置された多層熱電体41及び接続体42と、接続端子44を有している。
多層熱電体41は、熱電体11と同様の材料が用いられた第1の磁性材料層412と、熱電体11とは異なる巨大な異常ネルンスト効果を持つ磁性材料が用いられた第2の磁性材料層411とよりなる。
図9(b)に示す実施例では、
図9(a)に示す実施例と比較すると、第1の磁性材料層412と第2の磁性材料層411の積層順序が逆になっている。
【0040】
接続体42には、接続体32と同様の材料が用いられる。基板43には、基板13と同様の材料が用いられる。接続端子44は、ここでは接続体42と同じ材料が用いられたもので、多層熱電体41の両端に設けられている。接続端子44は多層熱電体41と同一の積層体で構成されていても良い。
接続体42は、基板43の表面に、各多層熱電体41、41、…に平行に配置されている。隣接する一対の多層熱電体41、41の間に1つの接続体42が配置されており、接続体42は、一方の熱電体1の一端側と他方の熱電体1の他端側とを電気的に接続している。これにより、多層熱電体41は、接続体42によって電気的に直列に接続されている。
【0041】
以上説明したように、多層熱電発電素子40は、アモルファスSm20Co80等の希土類系金属間アモルファス磁性合金とこれと異なる磁性材料によって構成される多層熱電体42を有している。アモルファスSm20Co80とこれと異なる磁性材料によって構成される多層熱電体41によれば、電場方向の実効長さを長くして、熱起電力を昇圧することが可能である。したがって、本実施形態によれば、このような多層熱電体41を用いることにより、実用化しやすい形態の多層熱電発電素子40を提供することが可能になる。
【0042】
多層熱電体31、41、接続体32、42に用いられる希土類系金属間アモルファス磁性合金とこれと異なる磁性材料等の材料は、有限の保磁力と残留磁化を示すため、各線の磁化方向を個別に制御することができ、単一材料によるサーモパイル素子を実現することができる。各層の磁化は、局所磁場や、Crなどのピンニング層を追加して交換バイアス効果を利用して制御することができる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の熱電体によれば、異常ネルンスト効果を示す磁性材料と接続体をジグザク状に接続することで、電場方向の実効長さを長くして、熱起電力を昇圧することが可能であり、異常ネルンスト効果を利用した熱電発電素子に用いて好適である。
本発明の熱電体によれば、フレキシブル基板を含むあらゆる種類の基板上に、室温でマグネトロンスパッタリング法や蒸着法等を用いて製造することができる、希土類系金属間アモルファス磁性合金を用いている。そのため、様々な種類のサーモパイル構造に汎用的に使用することができる。本発明の熱電体は、曲げられる熱電発電機や曲げられる熱流センサの実現にも使用できる。
【0044】
本発明の多層熱電体は、異常ネルンスト効果を示す磁性材料と第2の磁性材料層とをジグザク状に接続することで、電場方向の実効長さを長くして、熱起電力を昇圧することが可能であり、異常ネルンスト効果を利用した熱電発電素子や熱流センサに用いて好適である。
【符号の説明】
【0045】
10、20 熱電発電素子
11、21 熱電体
12 接続体
13、23 基板
14、24 端子
22 逆方向磁化接続体
30、40 多層熱電発電素子
31、41、51 多層熱電体
311、412 第1の磁性材料層
312、411 第2の磁性材料層
32、42 接続体
33、43 基板
34、44 端子