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特許76691124-ヒドロキシブチレート単位を含むポリエステル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-18
(45)【発行日】2025-04-28
(54)【発明の名称】4-ヒドロキシブチレート単位を含むポリエステル
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20250421BHJP
   C08G 63/06 20060101ALI20250421BHJP
   C08L 67/04 20060101ALI20250421BHJP
   C12P 7/62 20220101ALI20250421BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20250421BHJP
【FI】
C08J5/18 CFD
C08G63/06
C08L67/04
C12P7/62
C08L101/16 ZBP
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019539534
(86)(22)【出願日】2018-08-28
(86)【国際出願番号】 JP2018031775
(87)【国際公開番号】W WO2019044836
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2021-07-01
【審判番号】
【審判請求日】2023-07-24
(31)【優先権主張番号】P 2017164468
(32)【優先日】2017-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、医療分野研究成果展開事業、研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)、「高伸張性不織布、高靭性骨ペースト、骨ステントを組み合わせた脆弱性骨折に対する新規治療技術開発と実用的な製品製造技術の確立」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】前原 晃
【合議体】
【審判長】植前 充司
【審判官】天野 宏樹
【審判官】柴田 昌弘
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/184836(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/065253(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0051787(US,A1)
【文献】岩田忠久, 生分解性バイオポリエステルの高性能化, SPring-8利用者情報, 財団法人高輝度光科学研究センター, 2010年08月, Vol. 15, No. 3, p. 150-156
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P,C08G,C08L,C08J
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリスチレン換算ゲル浸透クロマトグラフィー測定による重量平均分子量が260万以上であり、重合単位として3-ヒドロキシブチレート単位及び4-ヒドロキシブチレート単位を少なくとも含み、全モノマー単位に対する4-ヒドロキシブチレート単位の割合が14モル%~25モル%である、ポリエステルを含むフィルムであって、
23.0N/mm から31.6N/mm の破壊強度、
410%~637%の破壊伸び、および
297N/mm から977N/mm の弾性率、
を有するフィルム。
【請求項2】
ポリエステルのポリスチレン換算ゲル浸透クロマトグラフィー測定による数平均分子量が30万以上である、請求項1に記載のフィルム
【請求項3】
ポリエステルの重合単位が、3-ヒドロキシブチレート単位と4-ヒドロキシブチレート単位のみからなる、請求項1又は2に記載のフィルム
【請求項4】
ポリエステルがランダムポリマーである、請求項1から3の何れか一項に記載のフィルム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3-ヒドロキシブチレート単位及び4-ヒドロキシブチレート単位を含み、かつ高分子量を有するポリエステルに関する。
【背景技術】
【0002】
多くの微生物はその生体内にエネルギー源・炭素源貯蔵物質としてポリヒドロキシアルカノエート(PHA)を蓄積する。炭素源が十分にあり、窒素、リン、硫黄、酸素、マグネシウム等の栄養素が制限されるとPHAの蓄積が起きることがよく知られている。PHAは熱可塑性のポリエステルであり、生分解性・生体適合性のプラスチックとして注目され、多くの研究がなされてきた(非特許文献1)。PHAを構成するモノマーユニットは100種類以上知られており、もっとも代表的なものは(R)-3-ヒドロキシブチレート(以下、3HBと略す)からなるポリ-3-ヒドロキシブチレート(以下、P(3HB)と略す)である(非特許文献1)。
【0003】
P(3HB)はポリプロピレン(以下、PPと略す)と同程度の高い融点を持ち、破壊強度もPPと同程度であるが破壊伸びが5%以下であり、結晶性が高く、固くて脆い材料である。工業的にPHAを利用しようとする場合、その物性を向上させる方法として、第二成分モノマーユニットを導入し共重合体化する方法や、分子量を増大させる方法がある。
第二成分モノマーユニットを導入し共重合体化する方法としては、4-ヒドロキシブチレート(以下、4HB)を導入した共重合体(以下、P(3HB-co-4HB)と略す)(非特許文献2)が一例としてあげられる。
【0004】
また、分子量を増大させる方法としては、PHA合成系・分解系を持たない大腸菌 Escherichia coli XL1-BlueへP(3HB)合成細菌Cupriavidus necatorから取り出したP(3HB)生合成遺伝子(phaCAB)を導入し、その遺伝子組換え菌をpH6で培養し超高分子量P(3HB)を製造する方法がある(非特許文献3)。
【0005】
P(3HB)を生産する野生株のP(3HB)の重量平均分子量Mwは一般的には50万~150万程度とも20万~200万程度、さらには1万~300万程度ともいわれ、野生型の微生物では菌体内に多数の分解酵素を有するためMw300万以上になる超高分子量体P(3HB)の合成が難しいとされる。また、P(3HB)は微生物がエネルギー源・炭素源貯蔵物質として蓄積しているため、炭素源が枯渇した場合に分解して使用されることは多くの微生物で調べられている。しかし、PHAの合成と分解が同時に起きていることを示す例も示されている。PHAの合成と分解が同時に起きていることの生理学的意義はまだ解明されていない。またPHA生産野生株ではPHAの合成と分解がこのように同時に起こってしまうため、超高分子量体PHA合成が難しい要因の一つである。
【0006】
P(3HB-co-4HB)の製造研究も多数行われており、P(3HB)生産野生株であるCupriavidus necatorに4-ヒドロキシ酪酸(4HB)、γ-ブチロラクトン、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオールなどの炭素源を与えて培養することでP(3HB-co-4HB)が生産される。
【0007】
P(3HB)生産野生株ではなく、P(3HB)非生産菌である大腸菌を遺伝子組換えしてP(3HB-co-4HB)やP(4HB)を生産する方法も報告されている。当初はアセチルCoAからP(3HB)を生産するのに必要なCupriavidus necator由来のβ-ケトチオラーゼ(PhaA)、アセトアセチルCoAレダクターゼ(PhaB)、PHA重合酵素(PhaC)の各遺伝子phaA,phaB,phaCに加えて、Clostridium kluyveri由来のコハク酸分解経路の遺伝子(sucD、4hbD、orfZ)を導入することで、コハク酸から4HB-CoAを供給し、大腸菌にてグルコースを炭素源として分子量Mwが約180万のP(3HB-co-4HB)が生産されたが、PHA中の4HB比率は1.3~1.5%と低いものであった(非特許文献4)。
【0008】
また、P(3HB-co-4HB)の生産にε-カプロラクトンまたはそのけん化物である6-ヒドロキシヘキサノエート(またはその塩)を利用した報告もある。ε-カプロラクトンを炭素源としてCupriavidus necatorを培養した場合、PHA含量26から38%、4HB比率30%から36%のP(3HB-co-4HB)を蓄積したという報告があるが(非特許文献5)、分子量や力学的試験の記載はない。
さらに、高分子量かつ高弾性のP(3HB-co-4HB)の製造が報告されているが(非特許文献6)、破壊強度は十分なものではなかった。
【0009】
また特許文献1には、 ポリヒドロキシアルカノエート(A)、酢酸ビニルを含む共重合体(B)およびペンタエリスリトール(C)を含有する脂肪族ポリエステル樹脂組成物であり、ポリヒドロキシアルカノエート(A)と酢酸ビニルを含む共重合体(B)が非相溶である脂肪族ポリエステル樹脂組成物が記載されている。特許文献1に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物は、ポリヒドロキシアルカノエートの欠点である結晶化の遅さを改善して、射出成形などの成形加工における加工性を改善し、加工速度を向上するとともに、得られる成形体からのブルームを抑制することを目的とするものである。特許文献1においては、酢酸ビニルを含む共重合体(B)およびペンタエリスリトール(C)を配合し、さらにポリヒドロキシアルカノエート(A)と酢酸ビニルを含む共重合体(B)を非相溶とすることにより上記の目的を達成している。特許文献1では、破壊強度が高く、かつ破壊伸びが高いフィルムを製造できる4HB含有PHAを提供するための条件については検討されていない。
【0010】
特許文献2においては、繊維集合体および3-ヒドロキシブチレート単位と4-ヒドロキシブチレート単位とを有するポリエステル共重合体からなる軟組織用医療用材料が記載されている。特許文献2では、3HB・4HBポリエステル共重合体の4HB単位含有量は、通常30~99モル%、好ましくは40~98モル%、特に好ましくは60~95モル%であることが記載されている。また、特許文献3には、3-ヒドロキシブチレート単位97~80モル%および4-ヒドロキシブチレート単位3~20モル%からなるポリエステル共重合体を、アルカリゲネス属菌の存在下に製造する方法が記載されている。特許文献2および3においても、破壊強度が高く、かつ破壊伸びが高いフィルムを製造できる4HB含有PHAを提供するための条件については検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】国際公開WO2015/098001号
【文献】特開平7-275344号公報
【文献】特開平6-181784号公報
【非特許文献】
【0012】
【文献】Alistair J. Anderson et al.,Microbiological Reviews,Vol.54,No.4,450-472,1990
【文献】Masao Kunioka et al.,Macromolecules,Vol.22,694-697,1989
【文献】S.Kusaka et al.,Applied Microbiology and Biotechnology,Vol.47,140-143,1997
【文献】Henry E. Valentin et al.,Journal of Biotechnology Vol.58,33-38,1997
【文献】Sung Chul Yoon et al.,Korean Journal of Applied Microbiology and Biotechnology,Vol.28,No.2,71-79,2000
【文献】Kai-Hee Huong et al.,Journal of Bioscience and Bioengineering,Vol.124,No.1,76-83,2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
PHAの共重合体化と高分子量化はPHAの物性を改善することが期待される。P(3HB)は硬くてもろい物性であるが、3-ヒドロキシバレレート(3HV)ユニットを共重合体化しても共結晶化してしまうために、あまり物性の改善は見込めない。しかし、4HBユニットや3-ヒドロキシヘキサノエート(3HH)ユニットなど、3HBユニットとは共結晶化しない第二成分ユニットからなる共重合PHAはその第二ユニット成分の比率を変化させることで大幅な物性の改善が見込める。特に、側鎖を持つ3HBユニットや他の3-ヒドロキシアルカノエートからなるPHAがリパーゼ分解性を示さないのに対して、3HBと比較して側鎖を持たない4HBユニットを共重合体化させたP(3HB-co-4HB)は、PHA分解酵素だけでなくリパーゼによる酵素分解も受けることが知られており、生体内での分解性の向上が見込まれ、医療材料として期待されている。しかし、従来からよく用いられてきた4HBユニット前駆体である1,4-ブタンジオールやγ-ブチロラクトンや4HBを使用したPHA生産野生株を使用した製造法では、4HB比率が14モル%~40モル%であり、かつ重量平均分子量Mwが125万以上のP(3HB-co-4HB)共重合体を得る方法は知られていない。遺伝子組換え菌(Delftia acidovorans)を使用した場合には、重量平均分子量Mw247万、数平均分子量Mn48万のP(4HB)の生産の報告はある。遺伝子組換え大腸菌にて分子量180万のP(3HB-co-4HB)の生産の報告もあるが、4HB比率は僅か1.3~1.5%である。
【0014】
上記の通り、大幅に物性の改善が見込める例えば4HB比率が14モル%~40モル%であり、かつ重量平均分子量Mwが125万以上のP(3HB-co-4HB)共重合体の製造方法は知られていない。
【0015】
PHA生産野生株は必要に応じて蓄積したPHAを分解利用し細胞内にPHA分解酵素を持っているため、超高分子量PHAを合成することは難しいとされ、また培養期間を通してPHAの分子量が次第に減少していくことは一般的な現象だと理解されている。
【0016】
PHAを医療材料として用いる場合にはエンドトキシン除去を始めとする高度な精製技術が用いられるが、一般的に精製を高度に行うほどPHAは分解し分子量は低下していく傾向がある。また加熱溶融など熱処理を加えることでも分子量低下は進行するため、精製後や製品化後PHAの分子量が高分子量体の必要が有る場合には、精製前の培養段階において十分に高分子量体であることが求められる。医療材料でなく一般工業品向けであっても、ある程度の精製工程は必ず必要であり、精製後PHAの物性向上にはより高分子量体であることが求められている。よって培養段階で従来よりも高分子量体PHAが得られる方法が求められてきた。
【0017】
本発明は、破壊強度が高く、破壊伸びが高い高分子量体の4HB含有PHAを提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、遺伝子組換えを用いないPHA生産野生株であっても様々な分子量のP(3HB-co-4HB)が得られ、特に重量平均分子量125万以上であり、全モノマー単位に対する4-ヒドロキシブチレート単位の割合が14モル%~40モル%であるP(3HB-co-4HB)が優れた物性を示すことを見出した。本発明は、上記の知見に基づいて完成したものである。
【0019】
すなわち、本発明によれば以下の発明が提供される。
(1) ポリスチレン換算ゲル浸透クロマトグラフィー測定による重量平均分子量が125万以上であり、重合単位として3-ヒドロキシブチレート単位及び4-ヒドロキシブチレート単位を少なくとも含み、全モノマー単位に対する4-ヒドロキシブチレート単位の割合が14モル%~40モル%である、ポリエステル。
(2) ポリスチレン換算ゲル浸透クロマトグラフィー測定による重量平均分子量が138万以上である、(1)に記載のポリエステル。
(3) ポリスチレン換算ゲル浸透クロマトグラフィー測定による重量平均分子量が180万以上である、(1)または(2)に記載のポリエステル。
(4) ポリスチレン換算ゲル浸透クロマトグラフィー測定による数平均分子量が30万以上である、(1)から(3)の何れか一に記載のポリエステル。
(5) 重合単位が、3-ヒドロキシブチレート単位と4-ヒドロキシブチレート単位のみからなる、(1)から(4)の何れか一に記載のポリエステル。
(6) ランダムポリマーである、(1)から(5)の何れか一に記載のポリエステル。
(7) (1)から(6)の何れか一に記載のポリエステルを含むフィルム。
【発明の効果】
【0020】
本発明により提供される重量平均分子量125万以上であり、全モノマー単位に対する4-ヒドロキシブチレート単位の割合が14モル%~40モル%であるP(3HB-co-4HB)は、優れた物性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、実施例8のPHAの1H-NMRスペクトルを示す。
図2図2は、実施例8のPHAの13C-NMRスペクトルを示す。
図3図3は、実施例9のPHAの1H-NMRスペクトルを示す。
図4図4は、実施例9のPHAの13C-NMRスペクトルを示す。
図5図5は、実施例8のPHA含有菌体のPHA組成分析(GC-FIDクロマトグラム)を示す。
図6図6は、図5のクロマトグラムで示した各ピークの同定結果(GC-MSスペクトル)を示す。
図7図7は、図5のクロマトグラムで示した各ピークの同定結果(GC-MSスペクトル)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
[ポリエステル]
本発明のポリエステルは、ポリスチレン換算ゲル浸透クロマトグラフィー測定による重量平均分子量が125万以上であり、重合単位として3-ヒドロキシブチレート単位及び4-ヒドロキシブチレート単位を少なくとも含み、全モノマー単位に対する4-ヒドロキシブチレート単位の割合が14モル%~40モル%である。
【0023】
上記の通り、本発明のポリエステルの特徴の一つは、ポリスチレン換算ゲル浸透クロマトグラフィー測定による重量平均分子量(Mw)が125万以上であるという高分子量であることである。ポリスチレン換算ゲル浸透クロマトグラフィー測定による重量平均分子量は好ましくは138万以上であり、より好ましくは180万以上であり、さらに好ましくは190万以上である。ポリスチレン換算ゲル浸透クロマトグラフィー測定による重量平均分子量は、200万以上、210万以上、220万以上、230万以上、240万以上、250万以上、260万以上、270万以上、280万以上、290万以上、300万以上、310万以上、320万以上、330万以上、340万以上、350万以上、360万以上、370万以上、380万以上、390万以上、または400万以上でもよい。ポリスチレン換算ゲル浸透クロマトグラフィー測定による重量平均分子量の上限は特に限定されないが、一般的には、2000万以下であり、1000万以下、800万以下、700万以下、600万以下、または500万以下でもよい。ポリエステルの重量平均分子量を125万以上とすることにより、高い破壊強度を有するフィルムを製造することが可能になる。
【0024】
P(3HB-co-4HB)は伸展性がありしなやかであることが知られるが、重量平均分子量が125万以上の場合、望ましくは重量平均分子量が300万を超える超高分子量体の場合には、伸展性があると同時に破壊強度が向上することが本発明において見出された。
【0025】
本発明のポリエステルは、好ましくは、ポリスチレン換算ゲル浸透クロマトグラフィー測定による数平均分子量(Mn)が30万以上である。ポリスチレン換算ゲル浸透クロマトグラフィー測定による数平均分子量は、35万以上、40万以上、45万以上、50万以上、55万以上、60万以上、65万以上、70万以上、75万以上、80万以上、85万以上、90万以上、95万以上、または100万以上でもよい。ポリスチレン換算ゲル浸透クロマトグラフィー測定による数平均分子量の上限は特に限定されないが、一般的には、1000万以下であり、500万以下、400以下、300万以下、または200万以下でもよい。
【0026】
Mnに対するMwの比率(Mw/Mn)は特に限定されないが、好ましくは1.0~10.0であり、より好ましくは1.0~8.0であり、さらに好ましくは1.0~7.0であり、1.0~6.0、1.0~5.0さらには1.0~4.0が好ましい。
【0027】
ポリスチレン換算ゲル浸透クロマトグラフィー測定による重量平均分子量の測定は、後記する実施例に記載した方法と同様に行うことができる。
【0028】
本発明のポリエステルは、重合単位として3-ヒドロキシブチレート単位及び4-ヒドロキシブチレート単位を少なくとも含む。即ち、本発明のポリエステルは、重合単位として3-ヒドロキシブチレート単位及び4-ヒドロキシブチレート単位のみを含むポリエステルでもよいし(即ち、重合単位は、3-ヒドロキシブチレート単位と4-ヒドロキシブチレート単位のみからなる)、あるいは、重合単位として3-ヒドロキシブチレート単位及び4-ヒドロキシブチレート単位を含み、さらに上記以外の別の重合単位を含んでいてもよい。上記した別の重合単位としては、ラクテート(LA)、グリコレート(GA)、3-ヒドロキシプロピオネート(3HP)、3-ヒドロキシバレレート(3HV)、5-ヒドロキシバレレート(5HV)、5-ヒドロキシヘキサノエート(5HH)、6-ヒドロキシヘキサノエート(6HH)、又は3-ヒドロキシヘキサノエート(3HH)、あるいは炭素数7以上のヒドロキシアルカノエート等を挙げることができる。
【0029】
本発明において、3-ヒドロキシブチレート単位と4-ヒドロキシブチレート単位はそれぞれ次式で表される。
3-ヒドロキシブチレート単位:-OCH(CH3)CH2C(=O)-
4-ヒドロキシブチレート単位:-OCH2CH2CH2C(=O)-
【0030】
本発明のポリエステルの特徴の一つは、全モノマー単位に対する4-ヒドロキシブチレート単位の割合が14モル%~40モル%であることである。
全モノマー単位に対する4-ヒドロキシブチレート単位の割合は、15モル%以上、16モル%以上、17モル%以上、18モル%以上、19モル%以上、または20モル%以上でもよく、20.2モル%以上、20.6モル%上、21モル%以上、22モル%以上、23モル%以上、24モル%以上、25モル%以上、26モル%以上、27モル%以上、又は28モル%以上でもよい。
全モノマー単位に対する4-ヒドロキシブチレート単位の割合は、35モル%以下、34モル%以下、33モル%以下、32モル%以下、31モル%以下、30モル%以下、29.9モル%以下、29.8モル%以下、29モル%以下、28モル%以下、27モル%以下、26モル%以下、または25モル%以下でもよい。
【0031】
全モノマー単位に対する4-ヒドロキシブチレート単位の割合は、好ましくは20.2モル%以上、20.6モル%上、21モル%以上、22モル%以上、23モル%以上、24モル%以上、又は25モル%以上であり、かつ29.9モル%以下、29.8モル%以下、29モル%以下、28モル%以下、又は27モル%以下である。全モノマー単位に対する4-ヒドロキシブチレート単位の割合の一例としては、21モル%以上29モル%以下である。
【0032】
ポリエステルの重量平均分子量を125万以上である場合、全モノマー単位に対する4-ヒドロキシブチレート単位の割合が14モル%~40モル%という範囲においては、全モノマー単位に対する4-ヒドロキシブチレート単位の割合が増加するに伴って、製造されるフィルムの破壊伸びも増大する傾向が認められる。本発明においては、ポリエステルの重量平均分子量を125万以上である特徴と、全モノマー単位に対する4-ヒドロキシブチレート単位の割合が14モル%~40モル%であるという特徴とを組み合わせることにより、高い破壊強度と、高い破壊伸びとの両立を図ることができる。
【0033】
全モノマー単位に対する4-ヒドロキシブチレート単位の割合は、後記する実施例に記載した方法に準じて測定することができる。
【0034】
本発明のポリエステルは、ランダムポリマー、ブロックポリマー、交互ポリマー、またはグラフトポリマーの何れでもよいが、好ましくはランダムポリマーである。
【0035】
[ポリエステルの製造方法]
本発明のポリエステルは、P(3HB)生産能を有する微生物を、炭素源としてε-カプロラクトン(別名6-ヘキサノラクトン)、またはそのけん化物である6-ヒドロキシヘキサノエートまたはその塩の存在下に培養を行うことにより、製造することができる。
【0036】
P(3HB)生産能を有する微生物としては、Cupriavidus属、Alcaligenes属、Ralstonia属、Delftia属、Comamonas属、Hydrogenophaga属、 Burkholderia属、Escherichia属、Azotobacter属、Methylobacterium属、またはParacoccos属、Acinetobacter属、Aeromonas属、Allochromatium属、Azorhizobium属、Bacillus属、Caulobacter属、Chromobacterium属、Ectothiorhodospira属、Klebsiella属、Nocardia属、Pseudomonas属、Rhodobacter属、Rhodococcus属、Rhodospirillum属、Rickettsia属、Sinorhizobium属、Sphingomonas属、Synechocystis属、Thiococcus属、Thiocystis属、Vibrio属、Wautersia属に属する微生物を使用することができる。上記の中でも、Cupriavidus属は好ましく、Cupriavidus necatorがより好ましい。一例としては、Cupriavidus necator H16株(ATCC17699)を使用することができる。
【0037】
なお、Cupriavidus necator H16株野生株では3HB、3HV、4HB、5HVなどは十分PHAに取り込み可能であるが、基質特異性の異なるPHA重合酵素遺伝子を導入した遺伝子組換え菌を用いれば他のヒドロキシ酸もPHAに重合可能である。従って、Cupriavidus necator H16株だけではなく、その遺伝子組換株や、上記した通り、他のCupriavidus属、Alcaligenes属、Ralstonia属、Delftia属、Comamonas属、Hydrogenophaga属、 Burkholderia属、Escherichia属、Azotobacter属、Methylobacterium属、Paracoccos属、Acinetobacter属、Aeromonas属、Allochromatium属、Azorhizobium属、Bacillus属、Caulobacter属、Chromobacterium属、Ectothiorhodospira属、Klebsiella属、Nocardia属、Pseudomonas属、Rhodobacter属、Rhodococcus属、Rhodospirillum属、Rickettsia属、Sinorhizobium属、Sphingomonas属、Synechocystis属、Thiococcus属、Thiocystis属、Vibrio属、Wautersia属などPHAを重合する能力を有する、あるいは付与した微生物を使用することも可能である。
【0038】
培養液のpHは、一般的には約4~約10であり、好ましくは約5~約8であり、より好ましくは約5.8~約7.5である。
培養温度は、一般的には15℃~45℃であり、好ましくは20℃~40℃であり、より好ましくは25℃~38℃である。
培養方式は、回分培養、流加培養または連続培養のいずれでもよい。
【0039】
培地成分は、使用する微生物を資化し得る物質であれば特に制限はない。
炭素源としては、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール、酢酸または酪酸などの有機炭素源、二酸化炭素などの無機炭素源、酵母エキス、糖蜜、ペプトンおよび肉エキスなどの天然物、アラビノース、グルコース、マンノース、フラクトースおよびガラクトースなどの糖類、またはソルビトール、マンニトールおよびイソシトールなどを使用することができる。
【0040】
窒素源としては、例えば、アンモニア、アンモニウム塩(塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム)、硝酸塩などの無機窒素化合物および/または、たとえば、尿素、コーン・スティープ・リカー、カゼイン、ペプトン、酵母エキス、肉エキスなどの有機窒素含有物を使用することができる。
【0041】
無機成分としては、例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、リン酸塩、マンガン塩、亜鉛塩、鉄塩、銅塩、モリブデン塩、コバルト塩、ニッケル塩、クロム塩、ホウ素化合物およびヨウ素化合物等からそれぞれ選択され、より具体的には、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム等が挙げられる。
【0042】
そのほかの有機栄養源としては、例えばグリシン、アラニン、セリン、スレオニン、プロリン等のアミノ酸;ビタミンB1、ビタミンB12、ビタミンC等のビタミン等が挙げられる。
【0043】
4HB含有PHAを製造する方法としては、PHA生産野生株に4HB-CoAになりうる前駆体を入れて培養する方法と、遺伝子組換えによって4HB-CoAの供給経路を導入する方法とがある。本発明において、PHA生産野生株に4HB-CoAになりうる前駆体を入れて培養する方法を採用する場合には、従来からよく知られた4HB、γ-ブチロラクトン、炭素数4以上の偶数ジオールではなくε-カプロラクトンまたは6-ヒドロキシヘキサノエートまたはその塩(例えば、6-ヒドロキシヘキサノエートNa、6-ヒドロキシヘキサノエートK)を使用することが好ましい。
【0044】
3HB-CoAは2つのアセチルCoAからβケトチオラーゼ(PhaA)によってアセトアセチルCoAに変換され、さらにアセトアセチルCoAレダクターゼ(PhaB)によって3HB-CoAに変換され、3HB-CoAはPHA重合酵素(PhaC)によってP(3HB)へ重合される。短鎖長ユニット(炭素数3~5)からなるPHAを合成する細菌の多くはこの3種類の酵素に対する遺伝子phaA,phaB,phaCを持っており、糖や油脂類、アルコールなどの炭素源の代謝により生じるアセチルCoAからP(3HB)を合成する能力を持っている。このような菌ではプロピオン酸が存在すると、アセチルCoAとプロピオニルCoAから縮合還元されて3HV-CoAが供給され、3HB-CoAと3HV-CoAがともに存在することになり、P(3HB-co-3HV)が蓄積されることになる。バレレート(吉草酸)やペンタノールからも3HV-CoAが供給され、3HVユニットとしてPHAに取り込まれる。
【0045】
また4HB-CoAの前駆体になる4HBそのものやγ-ブチロラクトン、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,10-デカンジオール等が存在すると、4HB-CoAが供給され、3HB-CoAと4HB-CoAがともに存在することになり、P(3HB-co-4HB)が蓄積されることになる。
炭素数6以上の偶数ジオールではβ酸化系によってアセチルCoAが生成すると同時に4HB-CoAも生成する。
【0046】
4HB、γ-ブチロラクトン、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,10-デカンジオールなどを使用した従来のP(3HB-co-4HB)の合成(Appl.Microbiol.Biotechnol.(1989), 30,569-573、やPolymer International Volume 39,Issue 3,pages169-174,March 1996)では、あまり高分子量体が得られておらず、よい物性を確保したまま工業化するのには問題があった。
【0047】
ε-カプロラクトンを培養に添加すると、ε-カプロラクトンは開環され、6-ヒドロキシヘキサノエート(6HH)になり、CoAが付加されて6HH-CoAとなり、β酸化系でアセチルCoAが抜けて4HB-CoAが残り、PHAに取り込まれると4HBユニットになる。PHA重合酵素の基質特異性から6HH-CoAはPHAには取り込まれにくく、P(3HB-co-4HB)が蓄積される。
4HB-CoAもβ酸化を受ければ、アセチルCoAも生成する。
【0048】
伸長中のPHA重合酵素の酵素-S-PHA複合体にヒドロキシ基を有する化合物が入り込み、酵素とPHAポリマー鎖間のチオエステルを切断し、PHAポリマー鎖は酵素から連鎖移動剤に移動しPHA重合が停止する反応は、ラジカル重合に倣い連鎖移動反応と言われている。4HBやジオール類はヒドロキシ基を持つ化合物であり、γ-ブチロラクトンも開環して4HBになるため、これらヒドロキシ基を持つ化合物はPHA重合時の連鎖移動剤として働き、PHAの重合を停止させてしまう可能性がある。特にジオール類は末端の2つのヒドロキシ基のどちらでも連鎖移動に関与することが可能なため、特にPHA重合の停止を引き起こしやすく、高分子量体PHAが得られにくいと考えられる。
【0049】
ε-カプロラクトンが開環すると6HHが生成し、やはりヒドロキシ基をもつ化合物になる。PHA重合酵素の基質に4HB-CoAはなりえるが6HH-CoAは基質になりにくいのと同様に、6HHの方が4HBよりもおそらく連鎖移動剤としても働きにくいために、ε-カプロラクトンを使用した場合により高分子量体PHAが得られるものと考えられる。
【0050】
微生物による物質生産には、増殖連動的生産と増殖非連動的生産とがある。
増殖連動的なPHA生産では、PHA以外の菌体成分が増殖していると同時にPHAも蓄積する。増殖連動的PHA生産では、アセチルCoAはPHA合成と菌体増殖の両方で取り合いになり、アセチルCoAは余剰になりにくい。増殖連動的PHA生産の間は、PHAの分解による遊離のヒドロキシ酸の発生も抑えられ、連鎖移動反応も起きにくいと推測され、分子量が相対的に高くなるものと推測される。
【0051】
増殖非連動的なPHA生産では、菌体成分の増殖が停止した後に、PHAの蓄積が起き、PHA含量が増加していく。菌体増殖が停止しているため、過剰のアセチルCoAはPHA生産に使用される。増殖非連動的なPHA生産の間では、一旦PHAの形に取り込まれた成分を再度分化して遊離ヒドロキシ酸を菌体内外に排出しているようである。培養の後半において窒素源が枯渇した場合、増殖連動的生産から増殖非連動的生産に移行し、連鎖移動反応も頻繁に起き、合成と分解が同時に起こりやすい状態(分子量が低下しやすい状態)になるものと推測される。
【0052】
本発明においては、増殖連動的にPHAを蓄積させた場合に、栄養制限状態で増殖非連動的にPHAを蓄積させる場合よりも優位に高分子量のPHAを蓄積することが発見された。即ち、本発明のポリエステルの製造においては、菌体の増殖とPHAの蓄積を分けた栄養制限による増殖非連動的なPHA生産ではなく、菌体の増殖とPHAの蓄積が同時に起きる増殖連動的なPHA生産であることが望ましい。
【0053】
本発明の方法に従って培養することにより得られた培養液から、ろ過及び遠心分離などの通常の固液分離手段によって菌体を分離回収し、この菌体を洗浄、乾燥して乾燥菌体を得ることができる。この乾燥菌体から、常法により、たとえば、クロロホルムのような有機溶剤で、生成されたポリエステルを抽出し、この抽出液に、例えば、ヘキサンのような貧溶媒を加えることによって本発明のポリエステルを沈澱させ、回収することができる。
【0054】
[フィルム]
本発明によればさらに、上記した本発明のポリエステルを含むフィルムが提供される。
本発明のフィルムの製造方法は特に限定されず、ソルベントキャスト法、溶融押出成型法などの常法により製膜してフィルムを製造することができる。
【0055】
本発明のフィルムの破壊強度は、好ましくは18N/mm2以上であり、19N/mm2以上、20N/mm2以上、21N/mm2以上、22N/mm2以上、23N/mm2以上、24N/mm2以上、25N/mm2以上、26N/mm2以上、27N/mm2以上、28N/mm2以上、29N/mm2以上、又は30N/mm2以上でもよい。破壊強度の上限は特に限定されないが、一般的には、100N/mm2以下であり、50N/mm2以下でもよい。
破壊強度は、ISO 527-1、JIS K7161に準拠して測定されたものである。
【0056】
本発明のフィルムの破壊伸びは、好ましくは300%以上であり、400%以上、460%以上、470%以上であり、480%以上、490%以上、又は500%以上でもよい。破壊伸びの上限は特に限定されないが、一般的には1000%以下であり、900%以下、800%以下、又は700%以下でもよい。
破壊伸びは、ISO 527-1、JIS K7161に準拠して測定されたものである。
【0057】
本発明のフィルムの弾性率は、好ましくは240N/mm2以上であり、250N/mm2以上、270N/mm2以上、300N/mm2以上、350N/mm2以上、400N/mm2以上、450N/mm2以上、又は500N/mm2以上でもよい。弾性率の上限は特に限定されないが、一般的には、1000N/mm2以下であり、900N/mm2以下、又は800N/mm2以下でもよい。
弾性率は、ISO 527-1、JIS K7161に準拠して測定されたものである。
【0058】
ポリエステルの重量平均分子量を125万以上である場合、弾性率は、全モノマー単位に対する4-ヒドロキシブチレート単位の割合の影響を受け易い傾向がある。即ち、全モノマー単位に対する4-ヒドロキシブチレート単位の割合が14モル%~40モル%という範囲においては、全モノマー単位に対する4-ヒドロキシブチレート単位の割合が増加するに伴って、製造されるフィルムの弾性率は低下する傾向が認められる。
【0059】
上記した物性を有するフィルムは、本発明により提供される「ポリスチレン換算ゲル浸透クロマトグラフィー測定による重量平均分子量が125万以上であり、重合単位として3-ヒドロキシブチレート単位及び4-ヒドロキシブチレート単位を少なくとも含み、全モノマー単位に対する4-ヒドロキシブチレート単位の割合が14モル%~40モル%である、ポリエステル」を製膜することにより得られる。
【0060】
本発明のフィルムを製造する際には、本発明により提供されるポリエステルを製膜すればよく、酢酸ビニルを含む共重合体及び/またはペンタエリスリトールを配合する必要はない。即ち、本発明のフィルムの一実施形態としては、本発明により提供されるポリエステルを含み、酢酸ビニルを含む共重合体を含まず、かつペンタエリスリトールを含まないフィルムを挙げることができる。
【0061】
本発明のフィルムは、上記した優れた物性を有し、且つ生分解性及び生体適合性に優れたP(3HB-co-4HB)からなるものであり、医療用器具、食品その他の包装材料、農業用ビニールシート、苗用の鉢、建設土木用シート等に有用である。
【0062】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により特に限定されるものではない。
【実施例
【0063】
[ポリマーの製造(ジャー培養)]
<実施例1>
Cupriavidus necator H16株(ATCC17699)を使用してPHAを製造した。
KH2PO4 2.72g/L、Na2HPO4 4.26g/L、NaHCO3 0.3g/L、(NH42SO4 2g/L、MgSO4・7H2O 0.2g/L、酵母エキス 0.2g/L、下記ミネラル溶液3.5mLからなる滅菌された培地1に、フルクトースを14.24g/Lにて加えた培地にて試験管振とう培養を30℃24時間行い、前前培養液を得た。
【0064】
ミネラル溶液:FeC657・xH2O 6g/L、ZnSO4・7H2O 2g/L、CuSO4・5H2O 0.1g/L、MnCl2・4H2O 1g/L、KI 0.1g/L、(NH46Mo724・4H2O 0.1g/L、CoCl2・6H2O 0.1g/L、H3BO3 0.2g/L、NaCl 5g/L、CaCl2・2H2O 4g/Lを水に溶解させたもの。
【0065】
上記培地1にフルクトースを14.24g/Lにて加えた培地、あるいはフルクトース8.86g/Lとε-カプロラクトン5.38g/Lにて加えた培地100mLが入った500mL容積の三角フラスコに上記前前培養液1mLを植菌し、30℃、150rpmにて48時間から96時間培養し、培養主母(前培養液)とした。
【0066】
上記培地1の(NH42SO4を12.5g/Lに変更した培地を3L容ジャーファーメンターに2L用意、滅菌し、培養主母100mLを植菌し、42質量%フルクトースとε-カプロラクトンを滅菌フィルター(PTFE0.2μmポア)を介して無菌的に流加開始した。炭素源の流加速度や流加比率は任意に設定することができるが、炭素源を菌体が消費しきれず培養槽内に過剰に残存し菌体増殖が停止するのを避けるために、42質量%フルクトースの流加速度は1~2g/h程度(0.5~1g/h・L)、ε-カプロラクトンの流加速度は0.2~0.5g/h(0.1~0.25g/h・L)程度と低流速で培養開始し、菌体の増殖に合わせて段階的あるいは連続的に流加速度を増加させた。通気量は0.2~0.3L/min、攪拌速度は500~700rpm、培養温度は36℃、培養pH下限は6.0にて制御し、12.5%アンモニア水をpH調整用アルカリに使用した。ε-カプロラクトン:フルクトースの比率は約0.5とした。培養開始後100時間で培養終了した。
【0067】
培養後、菌体を遠心分離により回収し、-20℃にて凍結後、凍結乾燥に供した。
菌体からPHAを抽出精製する方法は以下のように行った。スクリューキャップ付きガラス製三角フラスコにて、凍結乾燥菌体4~10g程度を400mLのクロロホルムに懸濁し、30℃にて24~48時間抽出した。得られた粘調の溶液をろ紙にてろ過し、菌体残渣をとり除いた。得られた清澄液をエバポレーターにて100~200mL程度に濃縮し、5倍量の貧溶媒であるヘキサンにてPHAを析出させた。得られた白色沈殿物をエタノールにて洗浄後、真空乾燥させ、精製PHAを得た。
【0068】
<実施例2>
ジャー培養での培養温度を34℃とし、培養時間を112.5時間とした以外は実施例1と同様に行った。
【0069】
<実施例3>
ジャー培養での培養温度を30℃、(NH42SO4を15g/Lに変更した培地を使用し、培養時間を149時間とした以外は実施例1と同様に行った。
【0070】
<実施例4>
ジャー培養での(NH42SO4を10g/Lに変更した培地を使用した以外は実施例1と同様に行った。
【0071】
<実施例5>
ジャー培養での(NH42SO4を15g/Lに変更した培地を使用し、培養時間を184.8時間とした以外は実施例1と同様に行った。
【0072】
<実施例6>
ジャー培養でのε-カプロラクトン:フルクトースの比率は0.7とし、培養時間を113.5時間とした以外は実施例1と同様に行った。
【0073】
<実施例7>
ジャー培養での培養時間を112時間とした以外は実施例1と同様に行った。
【0074】
<実施例8>
ジャー培養での(NH42SO4を7.5g/Lに変更した培地を使用し、pH調整用アルカリとして4N NaOH溶液を使用し、培養時間を122.5時間とした以外は実施例1と同様に行った。
【0075】
<実施例9>
ジャー培養での培養温度を37℃、(NH42SO4を7.5g/Lに変更した培地を使用し、pH調整用アルカリとして4N NaOH溶液を使用し、培養時間を102.5時間とした以外は実施例1と同様に行った。
【0076】
<実施例10>
ジャー培養でのε-カプロラクトン:フルクトースの比率は0.4とし、培養時間を94.5時間とした以外は実施例1と同様に行った。
【0077】
<実施例11>
ジャー培養での培養温度を37℃とした以外は実施例1と同様に行った。
【0078】
<実施例12>
ジャー培養での培養温度を38℃とした以外は実施例1と同様に行った。
【0079】
<実施例13>
ジャー培養での培養温度を38℃、(NH42SO4を7.5g/Lに変更した培地を使用し、培養時間を114.3時間とした以外は実施例1と同様に行った。
【0080】
<実施例14>
ジャー培養での培養温度を38℃、(NH42SO4を7.5g/Lに変更した培地を使用し、pH調整用アルカリとして4N NaOH溶液を使用し、培養時間を114.3時間とした以外は実施例1と同様に行った。
【0081】
<実施例15>
ジャー培養での(NH42SO4を7.5g/Lに変更した培地を使用し、42質量%フルクトース溶液に対して25g/Lの酢酸ナトリウムを添加し、培養時間を122.5時間とした以外は実施例1と同様に行った。
【0082】
<実施例16>
ジャー培養での(NH42SO4を17.5g/Lに変更した培地を使用し、ε-カプロラクトンのかわりにγ-ブチロラクトンを使用し、培養時間を185.8時間とした以外は実施例1と同様に行った。
【0083】
<実施例17>
培地1の(NH42SO4を2.5g/Lに変更し、NaClを3g/Lで添加した培地にフルクトース8.86g/Lとε-カプロラクトン5.38g/Lにて加えた培地125mLが入った500mL容積の三角フラスコに試験管培養前培養液1mLを植菌し、30℃、150rpmにて96時間培養した。菌体の回収、PHAの抽出精製は実施例1と同様に行った。
【0084】
<比較例1>
ジャー培養での培養温度を30℃とし、(NH42SO4を7.5g/Lに変更した培地を使用し、培養時間を136.5時間とした以外は実施例1と同様に行った。
【0085】
<比較例2>
ジャー培養での培養温度を36℃とし、(NH42SO4を7.5g/Lに変更した培地を使用し、ε-カプロラクトンのかわりにγ-ブチロラクトンを使用し、pH調整用アルカリとして2N NaOH溶液を使用し、培養時間を108時間とした以外は実施例1と同様に行い、抽出したPHAを脱湿脱酸素状態(三菱ガス化学製RPパック)で25℃、6ヶ月保存した。
【0086】
<比較例3>
比較例2で培養抽出し作成したPHAサンプルを湿度100%、40℃、1ヶ月保存した。
【0087】
<比較例4>
比較例2で培養抽出し作成したPHAサンプルを湿度100%、25℃、6ヶ月保存した。
【0088】
<比較例5>
比較例2で培養抽出し作成したPHAサンプルを脱湿脱酸素状態(三菱ガス化学製RPパック)で60℃、3ヶ月保存した。
【0089】
<比較例6>
比較例2で培養抽出し作成したPHAサンプルを脱湿脱酸素状態(三菱ガス化学製RPパック)で60℃、6ヶ月保存した。
【0090】
<比較例7>
比較例2で培養抽出し作成したPHAサンプルを湿度100%、40℃、6ヶ月保存した。
【0091】
<比較例8>
比較例2で培養抽出し作成したPHAサンプルを湿度100%、60℃、1ヶ月保存した。
【0092】
[ポリマーの分析]
<1H-NMR及び13C-NMR>
各実施例及び比較例で製造した精製PHAの組成分析と連鎖分析は核磁気共鳴分光装置(日本分光ECA500)を使用し決定した。精製したPHAを1.5質量%濃度でCDCl3に溶解し、測定サンプルとした。1H-NMRスペクトルは500MHz、13C-NMRスペクトルは125MHzにて室温で計測した。
【0093】
各実施例及び比較例のPHAについてNMRにより測定した4HB比率を下記表3に示す。
【0094】
実施例8のPHAの1H-NMR及び13C-NMRを図1及び図2に示す。
実施例9のPHAの1H-NMR及び13C-NMRを図3及び図4に示す。
【0095】
1H-NMR分析結果によるPHAの組成分析の結果を下記表1に示す。
13C-NMR分析結果による連鎖分析結果を下記表2に示す。
実施例で製造したポリマーは、ランダムポリマーであった。
【0096】
【表1】
【0097】
【表2】
【0098】
<PHA組成分析(GC法)>
菌体に含まれるPHAのGC法による組成分析は以下のように行った。得られた乾燥菌体約10mgをスクリューキャップ付き試験管に量りとり、クロロホルム2mLと内部標準入りメタノール硫酸混液(内部標準:安息香酸0.5g/L、硫酸3.7質量%)2mLを混合し、121℃、90分加熱処理をして室温まで冷却し、PHAをメチルエステル化した。反応終了後純水を1ml加え、激しく撹拌した後、遠心分離を行い有機溶媒層を得た。この有機溶媒層を硫酸ナトリウムにて脱水後ガスクロマトグラフィーで分析することにより、PHA成分含量を算出した。GC条件は以下の通りである。
【0099】
ガスクロマトグラフィー分析条件
装置:島津GC-2025
キャピラリーカラム:DB-1 (0.25mm(id)×60m、Film厚1μm)
キャリアガス:He(3.23ml/min)
カラム温度: 125℃ 6.5min - rate25℃/min-260℃
メイクアップ流量:30mL/min
H2流量:40ml/min
Air流量:400ml/min
インジェクション:250℃
検出器:FID(260℃)
スプリット:1:20
注入量:1μL
分析時間:21.5分
【0100】
GC-FIDにおける典型的なクロマトグラム(実施例8で製造したPHA)を図5に示す。
4HBを含むPHAあるいはそのPHAを含む乾燥菌体をメチルエステル化し、高分解能のキャピラリーカラムを使用したGC-FID分析の場合、3HBと4HBに由来するピークは複数発生する。よってGC-MS(島津製作所製GCMS-QP2010 Plus)を使用して各ピークの同定を行った。GC条件は先のGC-FIDと同様である。各ピークの同定結果を図6図7に示す。
【0101】
<PHA分子量測定(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法)>
PHA分子量の測定は以下のようにゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により行った。各実施例及び比較例のPHAについて分子量の測定結果を下記表3に示す。
精製したPHAを約0.5mg/mlとなるようにクロロホルムを加え、60℃で4時間溶解させた後、室温に戻し、孔径0.2μmのPTFEフィルターでろ過して不溶物を除き、測定サンプルとした。GPC条件は以下の通りである。
装置:島津製作所製 HPLC Prominenceシステム
カラム:昭和電工製 Shodex K-806L(2本直列)
カラム温度: 40℃
移動相: クロロホルム(1ml/min)
検出器: RI(40℃)
スタンダード:Shodexポリスチレン分子量スタンダード(687万~1270)
注入量:60μl
分析時間:30分
【0102】
[PHAフィルムの作製(ソルベントキャスト法)]
200mlのクロロホルムに5gのPHA(各実施例及び各比較例のPHA)を溶解させ、18cm角ガラス底の平坦な容器に流し込み、クロロホルムをゆっくりと蒸発させ、ソルベントキャストフィルムを作製した。厚み約0.1~0.2mmのフィルムが作製できた。クロロホルムの蒸発後、フィルムを容器から剥がし、2週間以上真空乾燥後に引張試験に用いた。
【0103】
[引張試験方法]
ソルベントキャストフィルムはJISK7127タイプ5の形状に試験用ダンベルを打ち抜き、オートグラフAGS-X((株)島津製作所製)を使用して、温度23℃、試験速度100mm/分の条件でフィルムの破壊強度、破断伸び、及び弾性率を測定した。測定結果を下記表3に示す。
【0104】
【表3】
【0105】
[ポリマーの製造(フラスコ培養)]
<実施例18~31>
Cupriavidus necator H16株(ATCC17699)を使用してPHAを製造した。
KH2PO4 2.72g/L、Na2HPO4 4.26g/L、NaHCO3 0.3g/L、(NH42SO4 2g/L、MgSO4・7H2O 0.2g/L、酵母エキス0.2g/L、実施例1と同様のミネラル溶液3.5mLからなる滅菌された培地1に、フルクトースを14.24g/Lにて加えた培地にて試験管培養を30℃24時間行い、前培養液を得た。
【0106】
上記培地1にフルクトース8.86g/Lとε-カプロラクトン5.38g/Lにて加えた培地(実施例21~33、ただし硫酸アンモニウム濃度は表に記載の量)、又はフルクトース8.86g/Lとε-カプロラクトン6.46g/Lにて加えた培地(実施例34、ただし硫酸アンモニウム濃度は表に記載の量)、それぞれ100mLが入った500mL容積の三角フラスコに上記前培養培地1mLを植菌し、30℃、150rpmにて表に記載の時間で培養した。培養開始前のpHは6.8~7.5程度である。培養終了後、遠心分離にて菌体を回収し、凍結乾燥し、乾燥菌体重量を測定した。また、メチルエステル化後のGC分析によるPHA含量や組成、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC法)による分子量測定の結果も合わせて下記表4に示す。GC法によるPHA組成分析は実施例1~17及び比較例1~8の場合と同様にして行なった。
【0107】
<PHA分子量測定(GPC法)>
精製したPHAを使用する代わりに凍結乾燥菌体を使用すること以外は、実施例1~17及び比較例1~8の場合と同様にして、PHA分子量の測定をゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により行った。
【0108】
【表4】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7