IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東日本電信電話株式会社の特許一覧

特許7669558魚類養殖システム、養殖方法、及び養殖プログラム
<>
  • 特許-魚類養殖システム、養殖方法、及び養殖プログラム 図1
  • 特許-魚類養殖システム、養殖方法、及び養殖プログラム 図2
  • 特許-魚類養殖システム、養殖方法、及び養殖プログラム 図3
  • 特許-魚類養殖システム、養殖方法、及び養殖プログラム 図4
  • 特許-魚類養殖システム、養殖方法、及び養殖プログラム 図5
  • 特許-魚類養殖システム、養殖方法、及び養殖プログラム 図6
  • 特許-魚類養殖システム、養殖方法、及び養殖プログラム 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-18
(45)【発行日】2025-04-28
(54)【発明の名称】魚類養殖システム、養殖方法、及び養殖プログラム
(51)【国際特許分類】
   A01K 63/04 20060101AFI20250421BHJP
   A01K 63/06 20060101ALI20250421BHJP
   A01K 63/00 20170101ALI20250421BHJP
【FI】
A01K63/04 D
A01K63/04 A
A01K63/06 B
A01K63/00 C
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2024066150
(22)【出願日】2024-04-16
【審査請求日】2024-04-16
(73)【特許権者】
【識別番号】399040405
【氏名又は名称】東日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】大高 壽子
(72)【発明者】
【氏名】越智 鉄美
【審査官】家田 政明
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-225687(JP,A)
【文献】特開2017-148007(JP,A)
【文献】特許第5544512(JP,B2)
【文献】特許第7427222(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/00-63/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚類を飼育する飼育水槽と、前記飼育水槽内の飼育水を循環濾過する濾過槽と、前記飼育水槽内の前記飼育水を前記濾過槽へ循環させるポンプと、前記ポンプにより循環される前記飼育水の流量を制御する制御装置と、を備える魚類養殖システムにおいて、
前記制御装置は、
前記飼育水槽で飼育される前記魚類の飼育数と、前記魚類の種類と、前記魚類のサイズと、の関係に応じて前記飼育水槽で飼育される前記魚類により発生するアンモニアの発生量を推定し、
前記推定された前記アンモニアの発生量と、前記飼育水槽内の前記飼育水の水量に応じて算出される前記アンモニアの濃度に応じて、前記濾過槽へ循環させる前記ポンプによる前記飼育水の流量を制御する
ことを特徴とする魚類養殖システム。
【請求項2】
前記濾過槽は、微生物により前記アンモニアを分解する生物濾過槽である
ことを特徴とする請求項1に記載の魚類養殖システム。
【請求項3】
前記飼育水槽内の前記魚類の前記サイズを測定するサイズ測定装置を更に備え、
前記制御装置は、
前記飼育水槽で飼育される前記魚類の前記種類と、前記サイズ測定装置により測定された前記魚類の前記サイズと、の関係に応じて前記飼育水槽で飼育される前記魚類により許容される前記アンモニアの濃度の上限値を算出し、
前記推定された前記アンモニアの発生量と、前記飼育水槽内の前記飼育水の水量に応じて算出される前記アンモニアの濃度が前記算出された前記上限値以下となるように、前記濾過槽へ循環させる前記ポンプによる前記飼育水の流量を制御する
ことを特徴とする請求項2に記載の魚類養殖システム。
【請求項4】
前記生物濾過槽は、
前記アンモニアを亜硝酸へ分解する亜硝酸生物濾過槽と、
前記亜硝酸生物濾過槽により分解された前記亜硝酸を硝酸へ分解する硝酸生物濾過槽と、を備える
ことを特徴とする請求項3に記載の魚類養殖システム。
【請求項5】
前記生物濾過槽に残存する前記微生物の数を測定する微生物数測定装置を更に備え、
前記制御装置は、
前記算出された前記アンモニアの濃度の発生量と、前記微生物数測定装置で測定した前記微生物の数と、に応じて、前記濾過槽へ循環させる前記ポンプによる前記飼育水の流量を制御する
ことを特徴とする請求項4に記載の魚類養殖システム。
【請求項6】
前記制御装置は、
前記飼育水槽で飼育される前記魚類の前記飼育数と、前記魚類の前記種類と、前記魚類の前記サイズと、前記魚類への給餌のタイミングと、の関係に応じて前記飼育水槽で飼育される前記魚類により発生する前記アンモニアの発生量を推定する
ことを特徴とする請求項5に記載の魚類養殖システム。
【請求項7】
前記ポンプによる前記飼育水の流量の制御は、インバータによる駆動周波数可変によりポンプ駆動用モータの回転数を制御することにより行われる
ことを特徴とする請求項6に記載の魚類養殖システム。
【請求項8】
前記ポンプによる前記飼育水の流量の制御は、電磁弁のオンまたはオフにより行われる
ことを特徴とする請求項6に記載の魚類養殖システム。
【請求項9】
前記魚類の前記サイズは、前記魚類の体長である
ことを特徴とする請求項7または8に記載の魚類養殖システム。
【請求項10】
魚類を飼育する飼育水槽と、前記飼育水槽内の飼育水を循環濾過する濾過槽と、前記飼育水槽内の前記飼育水を前記濾過槽へ循環させるポンプと、前記ポンプにより循環される前記飼育水の流量を制御する制御装置と、を備える魚類養殖システムで実行する養殖方法において、
前記飼育水槽で飼育される前記魚類の飼育数と、前記魚類の種類と、前記魚類のサイズと、の関係に応じて前記飼育水槽で飼育される前記魚類により発生するアンモニアの発生量を推定し、
前記推定された前記アンモニアの発生量と、前記飼育水槽内の前記飼育水の水量に応じて算出される前記アンモニアの濃度に応じて、前記濾過槽へ循環させる前記ポンプによる前記飼育水の流量を制御する
処理を実行することを特徴とする養殖方法。
【請求項11】
魚類を飼育する飼育水槽と、前記飼育水槽内の飼育水を循環濾過する濾過槽と、前記飼育水槽内の前記飼育水を前記濾過槽へ循環させるポンプと、前記ポンプにより循環される前記飼育水の流量を制御する制御装置と、を備える魚類養殖システムが実行する養殖プログラムにおいて、
前記飼育水槽で飼育される前記魚類の飼育数と、前記魚類の種類と、前記魚類のサイズと、の関係に応じて前記飼育水槽で飼育される前記魚類により発生するアンモニアの発生量を推定し、
前記推定された前記アンモニアの発生量と、前記飼育水槽内の前記飼育水の水量に応じて算出される前記アンモニアの濃度に応じて、前記濾過槽へ循環させる前記ポンプによる前記飼育水の流量を制御する
処理を実行することを特徴とする養殖プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚類養殖システム、養殖方法、及び養殖プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
魚類養殖システムにおいては、飼育水槽内のアンモニア(NH)の存在は、魚類の成長の妨げとなる。そこで、養殖に用いる飼育水の浄化などのために、ポンプを用いて、飼育水槽と、ろ過槽と、の間で飼育水を循環させる。循環する飼育水の流量を多くすることで、飼育水中のアンモニアの濃度を低く保って、魚類の健康を維持して病気や死亡を抑止し、多くの魚類を高効率で成長させることができる。
【0003】
例えば、魚類の種類や飼育密度に応じて水槽内の基準アンモニア濃度が設定され、水槽内のアンモニアの濃度が、この設定範囲外や基準値以上にある場合は、制御装置はアンモニア除去装置に付随するポンプに指令を与え、アンモニアの濃度が適当な値になるように調節する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平06-078648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、魚類養殖システムにおけるポンプによる電気代は、魚類養殖システムにおける電気代のランニングコストの約20%を占めており、魚類養殖システムにおけるポンプの消費電力の低減が求められている。
【0006】
本発明は、上記の問題意識に基づいてなされたものであり、魚類の成長を妨げることなく、消費電力の低減を図ることができる魚類養殖システム、養殖方法、及び養殖プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態の魚類養殖システムは、魚類を飼育する飼育水槽と、前記飼育水槽内の飼育水を循環濾過する濾過槽と、前記飼育水槽内の前記飼育水を前記濾過槽へ循環させるポンプと、前記ポンプにより循環される前記飼育水の流量を制御する制御装置と、を備える魚類養殖システムにおいて、前記制御装置は、前記飼育水槽で飼育される前記魚類の飼育数と、前記魚類の種類と、前記魚類のサイズと、の関係に応じて前記飼育水槽で飼育される前記魚類により発生するアンモニアの発生量を推定し、前記推定された前記アンモニアの発生量と、前記飼育水槽内の前記飼育水の水量に応じて算出される前記アンモニアの濃度に応じて、前記濾過槽へ循環させる前記ポンプによる前記飼育水の流量を制御することを特徴とする。
【0008】
本実施形態の魚類の養殖方法は、魚類を飼育する飼育水槽と、前記飼育水槽内の飼育水を循環濾過する濾過槽と、前記飼育水槽内の前記飼育水を前記濾過槽へ循環させるポンプと、前記ポンプにより循環される前記飼育水の流量を制御する制御装置と、を備える魚類養殖システムで実行する養殖方法において、前記飼育水槽で飼育される前記魚類の飼育数と、前記魚類の種類と、前記魚類のサイズと、の関係に応じて前記飼育水槽で飼育される前記魚類により発生するアンモニアの発生量を推定し、前記推定された前記アンモニアの発生量と、前記飼育水槽内の前記飼育水の水量に応じて算出される前記アンモニアの濃度に応じて、前記濾過槽へ循環させる前記ポンプによる前記飼育水の流量を制御する処理を実行することを特徴とする。
【0009】
本実施形態の養殖プログラムは、魚類を飼育する飼育水槽と、前記飼育水槽内の飼育水を循環濾過する濾過槽と、前記飼育水槽内の前記飼育水を前記濾過槽へ循環させるポンプと、前記ポンプにより循環される前記飼育水の流量を制御する制御装置と、を備える魚類養殖システムが実行する養殖プログラムにおいて、前記飼育水槽で飼育される前記魚類の飼育数と、前記魚類の種類と、前記魚類のサイズと、の関係に応じて前記飼育水槽で飼育される前記魚類により発生するアンモニアの発生量を推定し、前記推定された前記アンモニアの発生量と、前記飼育水槽内の前記飼育水の水量に応じて算出される前記アンモニアの濃度に応じて、前記濾過槽へ循環させる前記ポンプによる前記飼育水の流量を制御する処理を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、魚類の成長を妨げることなく、消費電力の低減を図ることができる魚類養殖システム、養殖方法、及び養殖プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態の魚類養殖システム及び養殖方法の技術思想の一例を示す概念図である。
図2】本実施形態の生物濾過槽を構成の一例を示す図である。
図3】本実施形態の制御装置の構成図の一例を示す図である。
図4】本実施形態の発生量データベースのグラフの一例を示す図である。
図5】本実施形態の上限値データベースの一例を示す図である。
図6】本実施形態の濾過能力データベースのグラフの一例を示す図である。
図7】本実施形態の発生量推移データベースのグラフの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、魚類の養殖を「陸上養殖」と呼ぶことがある。この「陸上養殖」は、自然界の海や河川それ自体を利用せず、産卵から孵化、稚魚から成魚になるまで一貫して、本実施形態で説明する養殖プラント技術を利用して行う養殖を意味している。従って、本実施形態の魚類養殖システム及び養殖方法は、自然界の海や河川それ自体を利用した養殖技術とは一線を画しており、自然界の海や河川それ自体を利用した養殖技術の比較対象外となるものである。但し、自然界の海や河川又はその近傍に本実施形態の養殖プラントを設置する場合を除外しない。
【0013】
図1は、本実施形態の魚類養殖システム及び養殖方法の技術思想の一例を示す概念図である。図1に示すように、本実施形態の魚類養殖システム100は、飼育水槽10、水温調整機20、生物濾過槽30、流量計40、電磁弁50、ポンプP、インバータINV、第1アンモニアセンサ60、第2アンモニアセンサ70、微生物数測定装置80、サイズ測定装置90、制御装置200、循環配管300を備える。魚類養殖システム100は、図1に示す構成以外の構成要素を備えていてもよい。飼育水槽10、水温調整機20、生物濾過槽30、流量計40、電磁弁50、ポンプPは、循環配管300により循環して接続されている。なお、図1では、制御装置200は、飼育水槽10の近辺に配置されているがこの限りではない。例えば、制御装置200は、図示しないネットワークを通じたクラウドサーバにより構成されていてもよい。魚類養殖システム100は、図1に示す構成に限られるものではない。その他の構成を備えていてもよい。
【0014】
飼育水槽10は、魚類を飼育する水槽である。飼育水槽10は、ポンプPの下流に配置されるとともに、水温調整機20の上流に配置される。飼育水槽10は、円筒形状を有し、魚類を飼育するのに適した飼育水Wを内部に保有する。飼育水Wは、上流に配置されたポンプPから飼育水槽10内へ流入し、下流に配置された水温調整機20へ流出される。これにより、飼育水槽10内の飼育水Wは循環される。飼育水槽10内の飼育水Wを循環させることにより、自然に近い環境で魚類を飼育することができる。これにより、魚類にとって理想的な生活環境を提供することで、魚類の生育を効果的に促進することができる。飼育水槽10内で飼育される魚類の飼育数は、制御装置200によって予め把握される。例えば、制御装置200は、飼育水槽10内に投入された魚類の飼育数のうち、死亡した魚類の数は、飼育水槽10内で飼育される魚類の飼育数から除外する。これにより、アンモニアの発生量を正確に推定することができる。
【0015】
飼育水Wは、魚類に応じて淡水や海水などから構成される。飼育水Wの塩分濃度は、魚の種類に応じて異なる濃度に設定される。飼育水槽10の形状を円筒形状とすることにより、飼育水Wの存在による高い圧力に耐え得ることができ、その結果、魚類養殖システム100における耐久性を高めることができる。
【0016】
飼育水槽10の形状は、円筒形状に限られず、矩形状、多角形状、楕円形状であってもよい。飼育水槽10の形状を様々な形状とすることにより、魚類養殖システム100の設計の自由度を高めることができる。
【0017】
飼育水槽10内の飼育水Wの水量は、あらかじめ定められた水量となるように設定される。飼育水槽10内の飼育水Wの水量は、飼育水槽10の体積、飼育水槽10内で飼育する魚類の種類や、大きさによって適切な水量となるように設定することができる。飼育水槽10内の飼育水Wの水量が減少した場合には、図示せぬ供給口から飼育水Wが供給され、飼育水槽10内の飼育水Wの水量が増加した場合には、図示せぬ排出口から飼育水Wが排出される。なお、供給された飼育水Wの水量や、排出された飼育水Wの水量は制御装置200によって把握される。これにより、アンモニアの濃度の算出を正確に行うことができる。飼育水槽10には、サイズ測定装置90が配置されている。
【0018】
サイズ測定装置90は、飼育水槽10内の魚類の体長を測定する。魚類の体長は、魚類のサイズの一例である。サイズ測定装置90は、例えば、LiDAR(Light Detection and Ranging)装置を備える。サイズ測定装置90は、LiDAR装置により魚類の体長を測定する。LiDAR装置により魚類の体長を測定する場合には、測定対象である飼育水槽10に隣接してLiDAR装置を配置する。LiDAR装置は、飼育水槽10内の魚類に対しLiDAR装置によるレーザーを照射できる位置に配置されていればよく、飼育水槽10内の飼育水W内、飼育水Wの水面、又は飼育水槽10を構成する壁越しに配置されていてもよい。
【0019】
サイズ測定装置90は、LiDAR装置を用いて、魚類の周囲にレーザー光を照射し、魚類の体表から反射する光のデータを収集する。レーザー光を照射し、反射する光のデータの収集は、魚類が動いている間でも行うことができる。サイズ測定装置90は、収集したデータから、魚類の体形を2Dのモデルとして構築する。サイズ測定装置90は、構築した2Dのモデルを分析することで、魚類の体長を測定することができる。サイズ測定装置90は、収集したデータから、魚類の体形を3Dのモデルとして構築してもよい。サイズ測定装置90は、構築した3Dのモデルを分析することで、魚類の体長を測定することができる。サイズ測定装置90は、飼育水槽10内を回遊する魚類をLiDAR装置によるレーザーにより複数回測定し、測定した体長の平均値を飼育水槽10内の魚類の体長として算出してもよい。
【0020】
サイズ測定装置90は、LiDAR装置により魚類のサイズを測定しているがこれに限られるものではない。例えば、サイズ測定装置90は、超音波の反射や、撮像装置により撮像した画像に基づく画像処理により魚類のサイズを測定してもよい。また、サイズ測定装置90は、魚類のサイズとして、魚類の体長、魚類の厚み寸法、魚類の重量、魚類の体積、または魚類の表面積のうち少なくとも1つ以上を測定してもよい。飼育水槽10の下流には、水温調整機20が配置される。飼育水槽10から流出される飼育水Wは、循環配管300を通じて水温調整機20へ流入する。
【0021】
水温調整機20は、飼育水槽10から循環されて供給された飼育水Wの水温を調整する。水温調整機20は、飼育水槽10の下流に配置されるとともに、生物濾過槽30の上流に配置される。水温調整機20は、温度センサを有し、制御装置200の制御に基づき、飼育水槽10から流入された飼育水Wの水温が飼育水槽10内で飼育される魚類にとって適切な温度となるように調整される。例えば、飼育水槽10から流入された飼育水Wの水温が飼育水槽10内で飼育される魚類にとって低い場合には、制御装置200は、水温調整機20が有する加熱器によって飼育水Wが加熱される。加熱器は、例えば、ヒータや、ヒートポンプ式の加熱装置などである。また、飼育水槽10から流入された飼育水Wの水温が飼育水槽10内で飼育される魚類にとって高い場合には、制御装置200は、水温調整機20が有する冷却器によって飼育水Wが冷却される。冷却器は、例えば、水冷式又は空冷式のラジエータや、ヒートポンプ式の冷却装置などである。水温調整機20により飼育水Wの温度を適切に調整することができ、飼育水槽10内で飼育される魚類の飼育環境をストレスがない環境に保つことができ、魚類の養殖効率を高めることができる。水温調整機20の下流には、生物濾過槽30が配置される。水温調整機20から流出される飼育水Wは、循環配管300を通じて生物濾過槽30へ流入する。そして、水温調整機20と生物濾過槽30との間には、第1アンモニアセンサ60が配置される。
【0022】
第1アンモニアセンサ60は、生物濾過槽30においてアンモニアが濾過される前のアンモニアの濃度(ppm)を測定することができる。第1アンモニアセンサ60は、所定の間隔で飼育水W中のアンモニアの濃度を測定することができる。所定の間隔として秒、分、時間、日、週、月など任意のタイミングを設定することができる。これにより、リアルタイムや、定期的なタイミングでアンモニアの濃度の測定を行うことができる。第1アンモニアセンサ60は、既存の電気化学センサにより構成される。第1アンモニアセンサ60が電気化学センサにより構成される場合には、アンモニアに特有の電気化学反応を利用して、濃度を測定することができる。アンモニアに特有の電気化学反応としては、特定の電極上での反応により生じる電流の変化を測定して、アンモニアの濃度を推定する既存の方法を採用することができる。第1アンモニアセンサ60は、光学センサにより構成してもよい。第1アンモニアセンサ60が光学センサにより構成される場合には、特定の波長の光をアンモニアに照射し、吸収や蛍光の変化を検出することでアンモニアの濃度を測定することができる。
【0023】
生物濾過槽30は、飼育水槽10内の飼育水Wを循環濾過する。生物濾過槽30は、水温調整機20の下流に配置されるとともに、流量計40の上流に配置される。生物濾過槽30は、濾過槽の一例である。生物濾過槽30は、例えば多孔性のセラミック材料により形成されており、形成された孔が微生物の生息地として機能する。飼育水槽10内の飼育水Wは、ポンプPにより生物濾過槽30へ循環される。生物濾過槽30は、微生物により飼育水槽10内で飼育されている魚類から発生したアンモニアを分解する。
【0024】
図2は、本実施形態の生物濾過槽30を構成の一例を示す図である。図2に示すように、生物濾過槽30は、少なくとも亜硝酸生物濾過槽31、及び硝酸生物濾過槽32を備える。亜硝酸生物濾過槽31は、飼育水槽10内で飼育された魚類から発生したアンモニアを亜硝酸へ分解する。アンモニアは魚類の排泄物、未消化の餌、その他の有機物の分解から発生する。高濃度のアンモニアの存在は魚類の生育にとって有害である。そこで、亜硝酸生物濾過槽31においては、特定の亜硝酸化細菌(例えば、Nitrosomonas属など)は、アンモニアをエネルギー源として利用し、亜硝酸塩へと変換する。亜硝酸塩は、亜硝酸イオン(NO )を持つ塩である。この過程は一般的に亜硝酸化と呼ばれる。亜硝酸生物濾過槽31の下流には、硝酸生物濾過槽32が配置される。
【0025】
硝酸生物濾過槽32は、亜硝酸生物濾過槽31により分解された亜硝酸を硝酸へ分解する。亜硝酸化の過程で生成された亜硝酸塩もまた、高濃度で存在する場合には魚類にとって有害である。そこで、硝酸生物濾過槽32においては、硝酸化細菌(例えば、Nitrobacter属、Nitrospira属など)は、亜硝酸塩をエネルギー源として利用し、硝酸塩へと変換する。硝酸塩は、硝酸イオン(NO )を持つ塩である。この過程は一般的に硝酸化と呼ばれる。
【0026】
飼育水槽10から循環された飼育水W中のアンモニアは、生物濾過槽30を構成する亜硝酸生物濾過槽31と、硝酸生物濾過槽32と、を経て濾過されることにより、飼育水W中の有害なアンモニアを無害な物質へと硝化することができる。これにより、飼育水Wの水質が改善され、飼育水槽10中の飼育水Wで飼育される魚類の生育環境を健康的に保つことができる。生物濾過槽30には、微生物数測定装置80が配置されている。
【0027】
微生物数測定装置80は、生物濾過槽30に生息する微生物の数を測定するための装置であり、微生物の数の測定は蛍光法によるDNAの定量を利用して行われる。この方法では、微生物のDNAに特異的に結合し、蛍光を発する染料を用いてDNAの量を測定する。具体的には、生物濾過槽30から採取した微生物のサンプルに対して、蛍光性のDNA結合染料を加え、その後、蛍光量を測定することで、サンプル中のDNAの量、すなわち微生物の数を定量化する。この過程では、蛍光PCR(Polymerase Chain Reaction)技術が用いられ、特定の微生物DNA領域のコピー数を増幅し、増幅されたDNA片に結合する蛍光染料の蛍光強度の変化を時間経過で測定することで、微生物の数を正確に推定することができる。蛍光法によるDNAの定量を用いる場合には、生存している微生物だけでなく、死亡した微生物のDNAも検出できるため、生物濾過槽30内の微生物群全体の動態を詳細に把握するのに有効である。微生物数測定装置80は、蛍光PCRによるDNAの増幅と蛍光検出器を用いて、特定の波長の光をDNAに結合した蛍光染料に照射し、発生した蛍光の強さやパターンを分析することで、生物濾過槽30に存在する微生物の数を正確に測定することができる。上述の実施形態においては、微生物数測定装置80は、蛍光PCRによるDNAの増幅と蛍光検出器を用いて、生物濾過槽30に存在する微生物の数を測定しているがこの限りではない。例えば、微生物数測定装置80は、核染色を行いその蛍光をフローサイトメトリー(flow cytometry)と呼ばれる分析手法に用いられるフローサイトメーター(flow cytometers)等の装置を用いて、生物濾過槽30に存在する微生物の数を定量的に測定してもよい。生物濾過槽30の下流には、流量計40が配置される。生物濾過槽30から流出される飼育水Wは、循環配管300を通じて流量計40へ流入する。
【0028】
流量計40は、循環配管300を通じて、主として飼育水槽10、生物濾過槽30を循環する飼育水Wの流量を計測する。流量計40は、生物濾過槽30の下流に配置されるとともに、電磁弁50の上流に配置される。流量計40から流出される飼育水Wは、循環配管300を通じて電磁弁50へ流入する。流量計40により計測した流量は、制御装置200へ通知される。
【0029】
電磁弁50は、制御装置200からの信号に基づき、循環配管300を循環する飼育水Wの流量をオン/オフにより切り替える。電磁弁50は、流量計40の下流に配置されるとともに、ポンプPの上流に配置される。電磁弁50は、例えばノルマルオープンの電磁弁により構成され、制御装置200から電源が供給されていない場合には、開いた状態であり、制御装置200から電源が供給されている場合には、閉じる作用を奏する。電磁弁50は、ノルマルオープンに限られず、ノルマルクローズの電磁弁により構成されていてもよい。電磁弁50から流出される飼育水Wは、循環配管300を通じてポンプPへ流入する。
【0030】
ポンプPは、循環配管300を通じて飼育水槽10内の飼育水Wを生物濾過槽30へ循環させる。ポンプPは、電磁弁50の下流に配置されるとともに、飼育水槽10の上流に配置される。ポンプPから流出される飼育水Wは、循環配管300を通じて、飼育水槽10、水温調整機20、生物濾過槽30、流量計40、電磁弁50を経て、再び飼育水槽10へと循環する。ポンプPにより排出される流量は、インバータINVにより制御される。ポンプPは、ポンプ駆動用モータを備える。したがって、制御装置200は、インバータINVによる駆動周波数可変によりポンプPを駆動するポンプ駆動用モータの回転数を制御することにより、ポンプPによる飼育水Wの流量の制御を行う。これにより、制御装置200は、ポンプPにより循環する飼育水Wの流量を段階的に制御することができる。ポンプ駆動用モータは、ポンプP以外の構成要素であってもよい。ポンプPの下流には飼育水槽10が配置される。ポンプPによる流量の調整をインバータINVにより制御することができるため、アンモニアの濃度の調整を正確に行うことができる。そして、ポンプPと飼育水槽10との間には、第2アンモニアセンサ70が配置される。
【0031】
第2アンモニアセンサ70は、生物濾過槽30においてアンモニアが濾過される後のアンモニアの濃度(ppm)を測定することができる。第2アンモニアセンサ70は、所定の間隔で飼育水W中のアンモニアの濃度を測定することができる。所定の間隔として秒、分、時間、日、週、月など任意のタイミングを設定することができる。これにより、リアルタイムや、定期的なタイミングでアンモニアの濃度の測定を行うことができる。第1アンモニアセンサ60によるアンモニアの濃度の測定と、第2アンモニアセンサ70によるアンモニアの濃度の測定とを同時に行うこともできる。第2アンモニアセンサ70は、既存の電気化学センサにより構成される。第2アンモニアセンサ70が電気化学センサにより構成される場合には、アンモニアに特有の電気化学反応を利用して、濃度を測定することができる。アンモニアに特有の電気化学反応としては、特定の電極上での反応により生じる電流の変化を測定して、アンモニアの濃度を推定する既存の方法を採用することができる。第2アンモニアセンサ70は、光学センサにより構成してもよい。第2アンモニアセンサ70が光学センサにより構成される場合には、特定の波長の光をアンモニアに照射し、吸収や蛍光の変化を検出することでアンモニアの濃度を測定することができる。
【0032】
図3は、本実施形態の制御装置200の構成図の一例を示す図である。制御装置200は、図3に示すように、プロセッサ110と、記憶装置120と、通信装置130と、入力装置140と、出力装置150と、を備えている。プロセッサ110は、例えば、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)等である。プロセッサ110が記憶装置120に記憶されているプログラム121を実行することで、制御装置200はコンピュータとして動作して、各種処理を行う。プログラム121は、養殖プログラムの一例である。
【0033】
記憶装置120は、例えば、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)などの主記憶装置として動作する半導体メモリ、SSD(Solid State Drive)やHDD(Hard Disk Drive)などの補助記憶装置として動作するストレージを含む。記憶装置120は、記憶装置の一例である。記憶装置120は、プロセッサ110が実行するプログラム121、プログラム121を実行する際に利用する各種データベース(発生量データベース122、上限値データベース123、濾過能力データベース124、発生量推移データベース125)を記憶する。
【0034】
通信装置130は、ネットワーク経由で図示せぬサーバ装置と通信する通信モジュールである。入力装置140は、ユーザの操作を受け付ける。入力装置140は、キーボード、タッチパネル、マウスなどである。出力装置150は、ユーザに情報を表示する。出力装置150は、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイなどである。入力装置140と出力装置150とは一体に形成されていてもよい。
【0035】
上述のように、制御装置200は、ポンプPにより排出される流量を増加させることにより、生物濾過槽30により飼育水Wからアンモニアを濾過できる能力(以下、「濾過能力」とも呼ぶ)を向上させることができる一方で、ポンプPにより消費される消費電力が増加することとなる。これに対し、制御装置200は、ポンプPにより排出される流量を減少させることにより、ポンプPにより消費される消費電力を低減させることができる一方で、生物濾過槽30により飼育水Wからアンモニアの濾過能力が低下することとなる。そこで、本実施形態においては、制御装置200により、飼育水槽10で飼育される魚類の飼育数と、魚類の種類と、魚類のサイズと、の関係に応じて飼育水槽10で飼育される魚類により発生するアンモニアの発生量を推定し、推定されたアンモニアの発生量と、飼育水槽10内の飼育水Wの水量に応じて算出されるアンモニアの濃度に応じて、生物濾過槽30へ循環させるポンプPによる飼育水Wの流量を制御することとした。
【0036】
図4は、本実施形態の発生量データベース122のグラフの一例を示す図である。発生量データベース122のグラフには、魚類の種類と魚類の体長とに対応する飼育水槽10で飼育される魚類により発生するアンモニアの発生量が記憶されている。発生量データベース122のグラフには、魚類として、「サケ」により発生するアンモニアの発生量の線G1と、「マス」により発生するアンモニアの発生量の線G2が記憶されている。線G1は点線で表示され、線G2は一点鎖線で表示されている。
【0037】
発生量データベース122のグラフの縦軸は、飼育水槽10で飼育されている魚類一匹当たりから一分間に生成するアンモニアの発生量(mol/匹・min)を表し、横軸は、魚類の体長を表している。
【0038】
制御装置200は、飼育水槽10で飼育される魚類の飼育数と、魚類の種類と、魚類のサイズと、の関係に応じて飼育水槽10で飼育される魚類により発生するアンモニアの発生量を推定する。具体的には、制御装置200は、図4の発生量データベース122のグラフに含まれる線のうち、対象とする魚類の種類の線に基づいて、サイズ測定装置90により測定した魚類の体長に対応する魚類一匹当たりのアンモニア発生量(mol/匹・min)を算出する。そして、制御装置200は、算出した魚類一匹当たりのアンモニア発生量(mol/匹・min)に対し、飼育水槽10で飼育されている飼育数を乗算することにより、飼育水槽10で飼育される魚類により発生するアンモニアの発生量を推定する。
【0039】
図4の発生量データベース122のグラフの線G1、線G2に示すように、アンモニア発生量は、魚類の種類と体長とによりそれぞれ異なる。このため、制御装置200は、図4の発生量データベース122のグラフを参照して飼育水槽10で飼育される魚類のアンモニアの発生量を推定することにより、魚類の種類と、魚類のサイズとに応じて、飼育水槽10から発生するアンモニアの発生量を正確に推定することができる。例えば、飼育水槽10内で飼育されている魚類が「サケ」である場合には、図4の発生量データベース122のグラフの線G1に、サイズ測定装置90で測定した魚類の体長をプロットすることにより、「サケ」一匹当たりのアンモニア発生量(mol/匹・min)を算出することができる。そして、算出した「サケ」一匹当たりのアンモニア発生量に対し、飼育水槽10内で飼育されている「サケ」の飼育数を乗算することにより、「サケ」が飼育されている飼育水槽10から発生するアンモニアの発生量を正確に推定することができる。
【0040】
制御装置200は、推定されたアンモニアの発生量と、飼育水槽10内の飼育水Wの水量(L)と、に応じて算出されるアンモニアの濃度に応じて、生物濾過槽30へ循環させるポンプPによる飼育水Wの流量を制御する。
【0041】
まず、制御装置200は、推定された飼育水槽10で飼育される魚類のアンモニアの発生量に対し、飼育水槽10内の飼育水Wの水量(L)を除算することにより、飼育水槽10内のアンモニアの濃度(ppm)を算出する。飼育水槽10内の飼育水Wの水量(L)は、飼育水槽10のサイズから算出することが可能である。飼育水槽10のサイズは、魚類ごとに予め設定される飼育密度から逆算することが可能である。
【0042】
制御装置200は、算出されたアンモニアの濃度に応じて、生物濾過槽30へ循環させるポンプPによる飼育水Wの流量を制御する。始めに、制御装置200は、飼育水槽10で飼育される魚類の種類と、サイズ測定装置90により測定された魚類のサイズと、の関係に応じて飼育水槽10で飼育される魚類により許容されるアンモニアの濃度の上限値を算出する。
【0043】
図5は、本実施形態の上限値データベース123の一例を示す図である。上限値データベース123には、魚類の種類と魚類の体長とに対応するアンモニアの濃度の上限値が記憶されている。魚類の種類と魚類の体長とに対応するアンモニアの濃度の上限値は、各魚類の種類と体長との関係に基づき許容されるアンモニアの濃度である。魚類の種類と魚類の体長とに対応するアンモニアの濃度の上限値は、予め実験により取得されて記憶される。魚類の種類と魚類の体長とに対応するアンモニアの濃度の上限値は、ユーザの入力操作に基づき任意の値を設定してもよい。
【0044】
図4の上限値データベース123を参照する際に、制御装置200は、例えば、魚類の体長が1mm以上75mm未満である場合には、体長50mmの上限値を選択し、魚類の体長が75以上150mm未満である場合には、体長100mmの上限値を選択し、魚類の体長が150mm以上(または、150mm以上250mm未満)である場合には、体長200mmの上限値を選択する。魚類の種類の情報は、予め入力装置140を通じたユーザの入力操作に基づいて受け付けられている。例えば、魚類の種類が「サケ」であり、体長が100mmである場合には、制御装置200は、図4の上限値データベース123を参照して、飼育水槽10で飼育される魚類の種類「サケ」と魚類のサイズ「100mm」とに対応するアンモニアの濃度の上限値として「8ppm」を算出する。
【0045】
制御装置200は、ポンプPにより排出される流量を増加させることにより、飼育水槽10内のアンモニアの濃度を低下させることができる一方で、ポンプPにより消費される消費電力が増加することとなる。これに対し、制御装置200は、ポンプPにより排出される流量を減少させることにより、ポンプPにより消費される消費電力を低減させることができる一方で、飼育水槽10内のアンモニアの濃度が増加することとなる。そこで、本実施形態においては、制御装置200は、推定された飼育水槽10内のアンモニアの発生量と、飼育水槽10内の飼育水Wの水量に応じて算出されるアンモニアの濃度が上限値データベース123に基づき算出された上限値以下となるようにインバータINVを制御して、生物濾過槽30へ循環させるポンプPによる飼育水Wの流量となるようにする。これにより、飼育水中のアンモニアの濃度を低く保って、魚類の健康を維持して病気や死亡を抑止し、多くの魚類を高効率で成長させることができる。その結果、飼育水槽10内の魚類の成長を妨げることなく、魚類養殖システム100におけるポンプPの消費電力の低減を図ることができる。
【0046】
制御装置200は、測定した生物濾過槽30に存在する微生物の数に基づき、生物濾過槽30の濾過能力α(ppm/パス)を換算することが可能である。濾過能力αは、生物濾過槽30を飼育水Wが通過(パス)することにより減少するアンモニアの濃度として表すことができる。生物濾過槽30の濾過能力αは、生物濾過槽30の上流側に配置された第1アンモニアセンサ60により測定されたアンモニアの濃度Xと、生物濾過槽30の下流側に配置された第2アンモニアセンサ70により測定されたアンモニアの濃度X’との差分ΔXにより定量的に算出される。
【0047】
図6は、本実施形態の濾過能力データベース124のグラフの一例を示す図である。濾過能力データベース124のグラフには、生物濾過槽30の濾過能力αと微生物数測定装置80により測定された微生物の数との関係を示す線G3が記憶されている。線G3は実線で表示されている。図6の濾過能力データベース124のグラフに示すように、生物濾過槽30に生息する微生物の数が多くなるにつれて、生物濾過槽30による濾過能力αも大きくなっている。そこで、本実施形態においては、制御装置200は、インバータINVを制御して、算出されたアンモニアの濃度の発生量と、微生物数測定装置80で測定した微生物の数と、に応じて、生物濾過槽30へ循環させるポンプPによる飼育水Wの流量を制御する。具体的には、制御装置200は、図6に示す濾過能力データベース124を参照して、微生物数測定装置80で測定した微生物の数に対応する濾過能力αを算出する。そして、生物濾過槽30に生息している微生物の数が多い場合には、生物濾過槽30の濾過能力αが高いため、算出した濾過能力αに応じてインバータINVを制御して生物濾過槽30へ循環させるポンプPによる飼育水Wの流量を減少させる。一方で、生物濾過槽30に生息している微生物の数が少ない場合には、生物濾過槽30の濾過能力αが低いため、算出した濾過能力αに応じてインバータINVを制御して生物濾過槽30へ循環させるポンプPによる飼育水Wの流量を増加させる。これにより、飼育水中のアンモニアの濃度を低く保って、魚類の健康を維持して病気や死亡を抑止し、多くの魚類を高効率で成長させることができる。その結果、飼育水槽10内の魚類の成長を妨げることなく、魚類養殖システム100におけるポンプPの消費電力の低減を図ることができる。
【0048】
図7は、本実施形態の発生量推移データベース125のグラフの一例を示す図である。発生量推移データベース125のグラフには、アンモニアの発生量と時間推移との関係を示す線G4が記憶されている。線G4は実線で表示されている。図7の発生量推移データベース125のグラフに示すように、飼育水槽10内の魚類に対する給餌のタイミングT1、T2の直後にアンモニアの発生量が増加している。そこで、本実施形態においては、制御装置200は、図7に示す発生量推移データベース125を参照して、飼育水槽10で飼育される魚類の飼育数と、魚類の種類と、魚類のサイズに加えて、魚類への給餌のタイミングT1、T2と、の関係に応じて飼育水槽10で飼育される魚類により発生するアンモニアの発生量を推定する。そして、制御装置200は、推定されたアンモニアの発生量と、算出されたアンモニアの濃度に応じて、生物濾過槽30へ循環させるポンプPによる飼育水Wの流量をインバータINVにより制御することとした。したがって、給餌のタイミングT1、T2により増加するアンモニアの発生量を考慮して、飼育水Wの流量を制御することができるため、正確にアンモニアの濃度を算出して、アンモニアの濃度を制御することができる。これにより、飼育水中のアンモニアの濃度を低く保って、魚類の健康を維持して病気や死亡を抑止し、多くの魚類を高効率で成長させることができる。その結果、飼育水槽10内の魚類の成長を妨げることなく、魚類養殖システム100におけるポンプPの消費電力の低減を図ることができる。
【0049】
なお、本発明は、上述の実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階でその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。また、上述の実施の形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成することができる。例えば、上述の実施の形態に示される全構成要素を適宜組み合わせても良い。このような、発明の趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変形や応用が可能であることはもちろんである。
【0050】
上述の実施形態では、濾過槽の一例として生物濾過槽30が配置されているがこの限りではない。例えば、濾過槽の一例として無生物の濾過槽を配置してもよい。これにより、生物濾過槽30の維持コストの低減を図ることができる。
【0051】
上述の実施形態では、ポンプPにより循環配管300を循環する飼育水Wの流量を制御しているがこの限りではない。例えば、電磁弁50のオン/オフにより循環配管300を循環する飼育水Wの流量を制御してもよい。これにより、設備コストと消費電力の低減を図ることができる。
【0052】
上述の実施形態では、飼育水槽10で飼育される魚類の飼育数と、魚類の種類と、魚類のサイズと、の関係に応じて飼育水槽10で飼育される魚類により発生するアンモニアの発生量を推定しているがこの限りではない。更に、水温調整機20の温度センサにより測定した飼育水Wの温度に応じて、発生するアンモニアの発生量を推定してもよい。飼育水Wの温度が高い場合には、飼育水槽10内で飼育される魚類の活動が活発となるため、発生するアンモニアの量が増加する。飼育水Wの温度が低い場合には、飼育水槽10内で飼育される魚類の活動が緩慢となるため、発生するアンモニアの量が減少する。したがって、水温調整機20の温度センサにより測定した飼育水Wの変化により増減するアンモニアの発生量を考慮して、飼育水Wの流量を制御することができるため、正確にアンモニアの濃度を算出して、アンモニアの濃度を制御することができる。これにより、飼育水槽10内の魚類の成長を妨げることなく、魚類養殖システム100におけるポンプPの消費電力の低減を図ることができる。
【符号の説明】
【0053】
10 :飼育水槽
20 :水温調整機
30 :生物濾過槽
31 :亜硝酸生物濾過槽
32 :硝酸生物濾過槽
40 :流量計
50 :電磁弁
60 :第1アンモニアセンサ
70 :第2アンモニアセンサ
80 :微生物数測定装置
90 :サイズ測定装置
100 :魚類養殖システム
110 :プロセッサ
120 :記憶装置
121 :プログラム
122 :発生量データベース
123 :上限値データベース
124 :濾過能力データベース
125 :発生量推移データベース
130 :通信装置
140 :入力装置
150 :出力装置
200 :制御装置
300 :循環配管
INV :インバータ
P :ポンプ

【要約】
【課題】魚類の成長を妨げることなく、消費電力の低減を図ることができる魚類養殖システム、養殖方法、及び養殖プログラムを提供する。
【解決手段】魚類養殖システム100は、魚類を飼育する飼育水槽10と、飼育水槽10内の飼育水Wを循環濾過する生物濾過槽30と、飼育水槽10内の飼育水Wを生物濾過槽30へ循環させるポンプPと、ポンプPにより循環される飼育水Wの流量を制御する制御装置200と、を備える。制御装置200は、飼育水槽10で飼育される魚類の飼育数と、魚類の種類と、魚類のサイズと、の関係に応じて飼育水槽10で飼育される魚類により発生するアンモニアの発生量を推定し、推定されたアンモニアの発生量と、飼育水槽10内の飼育水Wの水量に応じて算出されるアンモニアの濃度に応じて、生物濾過槽30へ循環させるポンプPによる飼育水Wの流量を制御する。
【選択図】図1

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7