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特許7669647電動アクチュエータ、及び、該電動アクチュエータを用いた車両の電動制動装置
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  • 特許-電動アクチュエータ、及び、該電動アクチュエータを用いた車両の電動制動装置 図1
  • 特許-電動アクチュエータ、及び、該電動アクチュエータを用いた車両の電動制動装置 図2
  • 特許-電動アクチュエータ、及び、該電動アクチュエータを用いた車両の電動制動装置 図3
  • 特許-電動アクチュエータ、及び、該電動アクチュエータを用いた車両の電動制動装置 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-21
(45)【発行日】2025-04-30
(54)【発明の名称】電動アクチュエータ、及び、該電動アクチュエータを用いた車両の電動制動装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 13/74 20060101AFI20250422BHJP
   F16H 25/20 20060101ALI20250422BHJP
【FI】
B60T13/74 G
F16H25/20 E
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020110412
(22)【出願日】2020-06-26
(65)【公開番号】P2022007434
(43)【公開日】2022-01-13
【審査請求日】2023-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】和▲崎▼ 考幸
(72)【発明者】
【氏名】平田 聡
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-247866(JP,A)
【文献】特開2008-032064(JP,A)
【文献】国際公開第2020/038759(WO,A1)
【文献】特開2005-188574(JP,A)
【文献】特開2006-199054(JP,A)
【文献】特表2018-527236(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 13/00-13/74
F16H 19/00-37/16
F16H 49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気モータによって回転駆動され、内周部に第1回り止め部を有する入力部材と、
外周部に、前記第1回り止め部にかみ合い可能な第2回り止め部、及び、外周部に第1ねじ部を有する出力部材と、
前記第1ねじ部にかみ合い可能な第2ねじ部を有し、前記入力部材の軸線に沿う方向に前記電気モータに対して相対的に直線移動可能な直動部材と、を備える電動アクチュエータ。
【請求項2】
請求項1に記載の電動アクチュエータにおいて、
前記第1ねじ部はおねじであり、前記第2ねじ部はめねじである、電動アクチュエータ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の電動アクチュエータにおいて、
前記第1、第2回り止め部はスプライン機構である、電動アクチュエータ。
【請求項4】
電気モータの回転動力を直線動力に変換し、該直線動力によってブレーキシューに設けられるブレーキライニングをブレーキドラムに押圧して車輪に制動力を発生する車両の電動制動装置において、
前記回転動力を前記直線動力に変換する動力変換機構は、
内周部に第1回り止め部を有する入力部材と、
外周部に、前記第1回り止め部にかみ合い可能な第2回り止め部、及び、第1ねじ部を有する出力部材と、
前記第1ねじ部にかみ合い可能な第2ねじ部を有する直動部材と、
にて構成される、車両の電動制動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電動アクチュエータ、及び、該電動アクチュエータを用いた車両の電動制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、「ドラムブレーキの改良を図る」ことを目的に、「ドラムブレーキの作用作動時に、押圧部材44a,bに加えられる力が設定値より小さい間は、電動モータの回転に伴って、回転入力部材52,回転スライド部材53が回転させられ、ねじ機構84を介して駆動部材54が軸方向に移動させられ、押圧部材44aが前進させられる。また、回転スライド部材53の軸方向の移動により、押圧部材44bが前進させられる。一対の押圧部材44a,bがブレーキシュー30a,bに当接して、加えられる力が設定値以上になると、ねじ機構84がロックするため、駆動部材54が回転スライド部材53とともに回転させられ、ボールランプ機構90が作用作動させられ、押圧部材44a,bが前進させられる。それにより、ブレーキシュー20a,bがドラムに押し付けられて、ドラムブレーキが作用させられる。」ことが記載されている。
【0003】
具体的には、特許文献1には、以下の構成が記載されている。
「回転スライド部材53は、軸方向に延びた中空の筒部66と一端部に設けられた頭部68とを有し、筒部66において、回転入力部材52に、相対回転不能かつ軸方向に相対移動可能に保持される。回転スライド部材53の軸部66はスプライン軸とされており、回転入力部材52にはスプライン穴72が形成され、それらスプライン軸とスプライン穴72との嵌合により、回転スライド部材53が回転入力部材52に保持されている。これらスプライン軸とスプライン穴72とにより回転スライド機構74が構成される。
駆動部材54は、軸方向に延びた中実の軸部78と、一端部に設けられた頭部80とを有し、軸部78において回転スライド部材53の筒部66の内周側に、軸方向に相対移動可能に保持される。回転スライド部材53の筒部66の内周面には、雌ねじ部81が形成されるとともに、駆動部材54の軸部78の外周面には雄ねじ部82が形成され、これらが螺合されて、回転を直線移動に変換する運動変換機構84が構成されている。」
【0004】
特許文献1の構成では、回転スライド機構(「回り止め機構」ともいう)の中心部に、運動変換機構(「動力変換機構」であり、「ねじ機構」ともいう)が設けられる。つまり、回り止め機構(例えば、スプライン機構)、及び、ねじ機構(例えば、台形ねじ)が、同心円上に配置される。換言すれば、回り止め機構とねじ機構とは個別の機構であり、ねじ機構の外側に、回り止め機構が設けられている。このため、機構全体として、その寸法(サイズ)が径方向に大きくなる(太くなる)。
【0005】
また、上記機構の径方向の寸法を小さくするために、回り止め機構の回転軸線(「中心軸線」でもある)において、回り止め機構とねじ機構とを別々に並べる構成が考えられ得る。しかしながら、該構成では、径方向の寸法は短縮され得るが、上記の中心軸線に沿った方向の寸法が拡大される。このため、電気モータの回転動力を直線動力に変換して伝達する電動アクチュエータにおいては、径方向、及び、軸方向の寸法が、共に短縮され得るものが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-249314号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、車両の電動制動装置に用いられる電動アクチュエータにおいて、径方向、及び、軸方向の寸法が短縮され、装置が小型化され得るものを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る電動アクチュエータ(DN)は、「電気モータ(MT)によって回転駆動され、内周部(Mn)に第1回り止め部(Ma)を有する入力部材(BI)」と、「外周部(Mg)に、前記第1回り止め部(Ma)にかみ合い可能な第2回り止め部(Mb)、及び、第1ねじ部(Na)を有する出力部材(BO)」と、「前記第1ねじ部(Na)にかみ合い可能な第2ねじ部(Nb)を有する直動部材(BH)」と、を備える。
【0009】
上記構成によれば、ねじ機構NJ(Na+Nb)と回り止め機構MD(Ma+Mb)とが別々に設けられるのではなく、出力部材BOの外周部Mgに、ねじ機構NJと回り止め機構MDとの両方が形成される。このため、電動アクチュエータDNにおいて、径方向、及び、軸方向の寸法が短縮され、装置全体が小型化され得る。
【0010】
本発明に係る車両の電動制動装置(DS)は、電気モータ(MT)の回転動力を直線動力に変換し、該直線動力によってブレーキシュー(BSa、BSb)に設けられるブレーキライニング(MS)をブレーキドラム(BD)に押圧して車輪に制動力(Fx、Fp)を発生する。そして、前記回転動力を前記直線動力に変換する動力変換機構(HN)は、「内周部(Mn)に第1回り止め部(Ma)を有する入力部材(BI)」と、「外周部(Mg)に、前記第1回り止め部(Ma)にかみ合い可能な第2回り止め部(Mb)、及び、第1ねじ部(Na)を有する出力部材(BO)」と、「前記第1ねじ部(Na)にかみ合い可能な第2ねじ部(Nb)を有する直動部材(BH)」と、にて構成される。
【0011】
車両の車輪周りの空間は、狭小であり、非常に限られている。上記構成によれば、動力変換機構HNが小型化されるため、電動制動装置DSにおいて、狭小空間への搭載性が向上され得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】電動制動装置DSを説明するための概略図である。
図2】電動アクチュエータDNを説明するための概略図(断面図を含む)である。
図3】電動アクチュエータDNの動力変換機構HNの第1例を説明するための断面図である。
図4】電動アクチュエータDNの動力変換機構HNの第2例を説明するための断面図である。
【0013】
<電動制動装置DS>
図1の概略図を参照して、車両の車輪(例えば、後輪)に制動力を発生させる電動制動装置DSについて説明する。電動制動装置DSは、車輪に制動トルクを付与することによって、車輪に制動力を発生させる。電動制動装置DSは、制動装置DB、及び、電動アクチュエータDNにて構成される。なお、以下の説明において、「MT」等の如く、同一記号を付された構成部材、要素、信号、特性等は同一機能のものである。
【0014】
≪制動装置DB≫
制動装置DBは、車輪(後輪)に設けられる。制動装置DBとして、公知のドラム型ブレーキ(例えば、リーディング・トレーリング式のもの)が採用される。制動装置DBによって、車両を減速する制動力(「減速制動力Fx」という)、及び、車両の停車状態を維持する制動力(「駐車制動力Fp」という)が発生される。減速制動力Fx、及び、駐車制動力Fpは、後述する電動アクチュエータ(単に、「アクチュエータ」ともいう)DNを動力源にして発生される。なお、減速制動力Fxはサービスブレーキに、駐車制動力Fpは駐車ブレーキに、夫々、利用される。
【0015】
制動装置DBは、車輪の側に固定される。制動装置DBは、バッキングプレートPL、ブレーキドラムBD、及び、ブレーキシューBSa、BSbを含んで構成される。
【0016】
制動装置DBは、非回転部材であるバッキングプレートPLと、内周側に摩擦面Mdを備え、車輪の回転軸Jkを中心として、車輪と一体となって回転するブレーキドラムBDとを含んでいる。バッキングプレートPLの直径方向に隔たった部位には、夫々、アンカ部材ANと電動アクチュエータDNとが固定されている。アンカ部材ANと電動アクチュエータDN(特に、部位Pa、Pb)との間には、各々が円弧形状を有する一対のブレーキシューBSa、BSbが、ブレーキドラムBDの摩擦面(内周面)Mdと対面する状態で設けられている。換言すれば、2つのブレーキシューBSa、BSbは、円筒状のブレーキドラムBDの内周面Mdに沿って円弧状に伸ばされている。ブレーキシューBSa、BSbは、シューホールドダウンHDによって、バッキングプレートPLの面に沿って移動可能に取り付けられている。
【0017】
ブレーキシューBSa、BSbの外周面には、ブレーキライニングMS(摩擦材)が焼き付けられている。一対のブレーキシューBSa、BSbは、夫々、一方の端部Qa、Qbが電動アクチュエータDNに係合され、他方の端部がアンカ部材ANと当接して、拡開可能に支持される。
【0018】
一対のブレーキシューBSa、BSbの間には、戻し部材(例えば、戻しばね)RSが設けられる。戻し部材RSによって、ブレーキシューBSa、BSbの押圧が解除された場合には、ブレーキシューBSa、BSbが、ブレーキドラムBDの内周面Mdから離れるように移動される。
【0019】
また、一対のブレーキシューBSa、BSbの間には、図示しないアジャスタ付きストラットが設けられる。アジャスタ付きストラットによって、ブレーキライニングMSの摩耗に応じて、ブレーキライニングMSとドラム摩擦面Mdとの隙間が調整される。
【0020】
ブレーキシューBSa、BSbの下端部は、アンカ部材ANを中心にして回転可能に、バッキングプレートPLの下方に支持される。電動アクチュエータDNは、バッキングプレートPLの上方に支持されている。電動アクチュエータDNは、押圧軸線Ja(後述)の方向(車両前後方向に一致)に突出可能な2つの可動部Pa、Pb(「第1、第2押圧部」という)を有している。第1、第2押圧部Pa、Pbは、電気モータMTの動力によって、突出される。
【0021】
例えば、電気モータMTが正転方向に駆動されると、第1、第2押圧部Pa、Pbの突出(押圧軸線Jaに沿っての拡張)される。これにより、ブレーキシューBSa、BSbの上端部(一方端部)Qa、Qbに押圧力Fsが付与され、ブレーキライニングMSが、ブレーキドラムBDの内周面(摩擦面)Mdに押圧される。ブレーキライニングMSと内周面Mdとの摩擦によって、ブレーキドラムBDに制動トルクが付与され、車輪が制動される。つまり、電動アクチュエータDNを介して、ブレーキライニングMSが、ブレーキドラムBDの摩擦面Mdに押圧され、摺接されることによって、ブレーキライニングMSとブレーキドラムBDとの間に摩擦力が生じる。この摩擦力によって、車輪に制動力が発生され、増加される。
【0022】
車輪の制動力が減少される際には、電気モータMTが逆転方向に駆動され、第1、第2押圧部Pa、Pbの突出が収縮される。これにより、ブレーキシューBSa、BSbの上端部Qa、Qbに作用する押圧力Fsが減少され、ブレーキライニングMSとブレーキドラムBDとの間の摩擦力が減少される。なお、非制動時には、戻し部材RSによって、ブレーキシューBSa、BSbが引き戻されるため、ブレーキライニングMSは、摩擦面Mdから離間されている。
【0023】
<電動アクチュエータDN>
図2の概略図(部分断面図を含む)を参照して、電動アクチュエータDNについて説明する。アクチュエータDNは、ハウジングHG、電気モータMT、減速機GS、動力変換機構HN、駐車ブレーキ機構PK、及び、コントローラECUを備えている。
【0024】
ハウジングHGは、電気モータMT、減速機GS、及び、動力変換機構HNを支持するとともに、これら構成部材を覆っている。ハウジングHGを介して、電動アクチュエータDNは、バッキングプレートPLに固定される。電動アクチュエータDNの一部(特に、入力部材BI、出力部材BO、第1、第2直動部材BH、BJを含む、押圧軸線Ja周りの部材)は、バッキングプレートPLに対してブレーキシューBSa、BSbと同じ側に設けられる。一方、電動アクチュエータDNの他の部材(例えば、電気モータMT、車輪側コントローラECW)は、バッキングプレートPLに対してブレーキシューBSa、BSbとは反対側に設けられる。即ち、アクチュエータDNは、バッキングプレートPLを貫通するように配置されている。
【0025】
電気モータMTは、制動力Fx、及び、駐車制動力Fpを発生すために動力源である。電気モータMTは、コントローラ(「電子制御ユニット」ともいう)ECUによって駆動される。電気モータMTとして、ブラシ付モータ、或いは、ブラシレスモータが採用される。電気モータMTが正転方向に駆動されると、押圧力Fsが増加され、制動力Fx、Fpが増加される。一方、電気モータMTが逆転方向に駆動されると、押圧力Fsが減少され、制動力Fx、Fpが減少される。電気モータMTには、電気モータMTのロータ(回転子)の位置(回転角)Kaを検出するよう、回転角センサKAが設けられる。
【0026】
減速機GSによって、電気モータMTの回転動力(モータ軸線Jm回りの電気モータMTの出力トルク)が減速される。減速機GSは、複数のギヤ(例えば、2段のギヤ列)にて構成される。電気モータMTの出力シャフトSMに、第1小径ギヤSK1が固定される。中間シャフトSCが設けられ、第1小径ギヤSK1にかみ合うように、中間シャフトSCに第1大径ギヤDK1が固定される。更に、中間シャフトSCには、第2小径ギヤSK2が固定される。第2小径ギヤSK2は、第2大径ギヤDK2にかみ合うように配置される。つまり、電気モータMTの回転動力は、「SK1→DK1→SK2→DK2」の動力伝達経路によって減速され、減速機GS(特に、第2大径ギヤDK2)を介して、動力変換機構HNに入力される。
【0027】
≪動力変換機構HN≫
動力変換機構HNによって、第2大径ギヤDK2の回転動力(即ち、電気モータMTの回転動力)が、直線動力に変換されて、ブレーキシューBSa、BSbに、押圧力Fsとして出力される。つまり、動力変換機構HNによって、電気モータMTの回転運動が、直線運動に変換される。動力変換機構HNは、入力部材BI、出力部材BO、及び、第1、第2直動部材BH、BJにて構成される。
【0028】
入力部材BIは、円筒形状を有する回転部材(ハウジングHGに対して回転可能な部材)であり、その外周部(円筒外周部)に第2大径ギヤDK2が固定される。つまり、入力部材BIは、電気モータMTによって回転駆動され、第2大径ギヤDK2と入力部材BIとは同軸である。入力部材BIの回転軸線Jaが「押圧軸線」と称呼される。入力部材BIの内周部(円筒内周部)Mnには、第1回り止め部Maが設けられる。例えば、第1回り止め部Maは、スプライン内歯として形成(加工)される。この場合、第1回り止め部Maは、「第1スプライン部Sa」とも称呼される。なお、入力部材BIは、回転軸線Jaの方向には移動(スライド)されない。
【0029】
出力部材BO(特に、一方の端部)は、外周部(円筒外周部)Mgに、第1ねじ部Naを有する回転部材(ハウジングHGに対して回転可能な部材)である。また、出力部材BOの一方端部の外周部Mgには、第1ねじ部Naに加え、第1回り止め部Maとかみ合い可能な第2回り止め部Mbが設けられている。即ち、第1、第2回り止め部Ma、Mbによって、回り止め機構MDが構成される。出力部材BOは、第1回り止め部Maと第2回り止め部Mbとのかみ合いによって、その動きが拘束される。即ち、出力部材BOは、ハウジングHGに対して、押圧軸線Ja回りで回転可能であるとともに、押圧軸線Jaに沿って直線移動することができる。
【0030】
出力部材BOは、吹き出し部(A)に示されるように、第1回り止め部Maがスプライン内歯として形成される場合には、第2回り止め部Mbは、スプライン外歯として形成(加工)される。この場合、第2回り止め部Mbは、「第2スプライン部Sb」とも称呼される。更に、第1ねじ部Naとして、(台形ねじでの)おねじOjが形成(加工)される。なお、第2回り止め部Mb(第2スプライン部Sb)は、入力部材BIに対する出力部材BOの相対的な移動が可能な範囲(「可動範囲」という)に限って形成されればよい。しかしながら、吹き出し部(A)に示された例では、おねじOjの部分の全域に亘って、第2スプライン部Sbが加工されている。このように構成することにより、第2スプライン部Sbの加工が容易化され得る。
【0031】
第1直動部材BHは、押圧軸線Ja回りの回転方向の動きが拘束された非回転部材であり、押圧軸線Jaに沿ってのみ移動が可能とされる直動部材である。ここで、回転運動の拘束は、第1直動部材BHの外周部の平面と、ハウジングHGの内周部の平面との摺動接触(例えば、2つの平面での摺接である2面取り)によって達成される。或いは、回転運動の拘束は、スプライン機構、キー機構によって行われてもよい。
【0032】
第1直動部材BHは、円筒形の内周部Mhを有している。第1直動部材BHの円筒内周部Mhには、第1ねじ部Naにかみ合い可能な第2ねじ部Nbが形成(加工)されている。即ち、第1、第2ねじ部Na、Nbにて、ねじ機構NJが構成される。例えば、第1ねじ部Naとして、おねじOjが形成される場合には、第2ねじ部Nbとして、(台形ねじでの)めねじMjが形成(加工)される。第1直動部材BHの円筒形の内周部(第2ねじ部Nbが設けられた部分)Mhとは反対側に、第1押圧部Paが設けられる。第1押圧部Paは、リーディング側のブレーキシュー(「リーディングシュー」という)BSaに係合し、リーディングシューBSaを押圧する(即ち、押圧力Fsを付与する)ためのものである。第1直動部材BHには、押圧力Fsを検出するよう、押圧力センサFSが設けられる。
【0033】
第2直動部材BJは、押圧軸線Jaにおいて、出力部材BOに対して、第1直動部材BHとは反対側に設けられる。第2直動部材BJは、第1直動部材BHと同様に、平面摺接(2面取り等)によって回転方向の動きが拘束された非回転部材である。第2直動部材BJも、押圧軸線Jaに沿った方向に限って移動可能である。例えば、第2直動部材BJには、窪み部が設けられ、この窪み部に出力部材BOの他方の端部がはめ込まれる。出力部材BOの端面Moは、回転しながら、第2直動部材BJの底面Mcを押圧する。第2直動部材BJの窪み部とは反対側に、第2押圧部Pbが設けられる。第2押圧部Pbは、トレーリング側のブレーキシュー(「トレーリングシュー」という)BSbに係合し、トレーリングシューBSbを押圧する(即ち、押圧力Fsを付与する)ためのものである。ここで、第1、第2押圧部Pa、Pbに作用する押圧力Fsは、作用・反作用の関係にある。従って、押圧力センサFSは、第2直動部材BJに設けられてもよい。
【0034】
第1、第2ねじ部Na、Nbで形成されるねじ機構NJは、逆効率を有する。ねじ機構NJによって、電気モータMTの動力が第1、第2直動部材BH、BJに対して伝達されるだけでなく、第1、第2直動部材BH、BJから電気モータMTに向けて動力が伝達される。つまり、ねじ機構NJを介して、双方向の動力伝達が行われ得る。
【0035】
≪駐車ブレーキ機構PK≫
駐車ブレーキ機構PKによって、電気モータMTへの通電が停止されても、駐車制動力Fpが維持される。駐車ブレーキ機構PKは、ラチェット歯車RC、つめ部材TS、及び、ソレノイドSLにて構成される。電気モータMTの出力シャフトSMに、ラチェット歯車RCが固定される。ラチェット歯車RCにかみ合うように、つめ部材TSが設けられる。つめ部材TSは、ソレノイドSLによって駆動される。ソレノイドSLは、電気モータMTと同様に、コントローラECUによって制御される。
【0036】
≪コントローラECU≫
コントローラECU(電子制御ユニット)によって、電気モータMTが制御され、アクチュエータDNが駆動される。コントローラECUは、車体側コントローラECB、車輪側コントローラECW、及び、通信バスBSにて構成される。車体側コントローラECBは、車体の側に設けられたコントローラであり、車輪側コントローラECWは、車輪の側に設けられた(例えば、電動アクチュエータDNに内蔵された)コントローラである。車体側コントローラECB、及び、車輪側コントローラECWは、通信バスBSを介して、信号(検出値、演算値等)が、相互に、送受信可能なように接続されている。
【0037】
コントローラECU(車体側、車輪側コントローラECB、ECW)には、マイクロプロセッサMP等が実装された電気回路基板と、マイクロプロセッサMPにプログラムされた制御アルゴリズムとが含まれている。マイクロプロセッサMP内の制御アルゴリズムに基づいて、電気モータMTが制御される。更に、車輪側コントローラECWには、電気モータMTを駆動するよう、駆動回路DRが備えられる。駆動回路DRでは、スイッチング素子(MOS-FET、IGBT等のパワー半導体デバイス)によってブリッジ回路が形成されている。ブリッジ回路を介して、電気モータMTへの通電量が制御されることによって、電気モータMTが駆動される。なお、駆動回路DRには、電気モータMTの実際の通電量Iaを検出する通電量センサIA(図示せず)が備えられる。例えば、通電量センサIAとして、電流センサが採用され、電気モータMTへの供給電流Iaが検出される。
【0038】
車体側コントローラECBには、制動操作量センサBA(例えば、制動操作部材BPの変位センサ)によって検出された制動操作量Ba(制動操作部材BPの操作量)、及び、駐車ブレーキ用スイッチSWの出力信号である駐車信号Sw(駐車ブレーキ用スイッチSWの操作状態を表す信号)が入力される。制動操作量Baに基づいて、サービスブレーキ(「通常制動」ともいう)の作動が行われ、駐車信号Swに基づいて駐車ブレーキの作動が行われる。
【0039】
[サービスブレーキの作動]
図2の動力変換機構HNにおいて、押圧軸線Jaの上部に示す状態(a)は、「非制動時の状態」に対応し、押圧軸線Jaの下部に示す状態(b)は、「制動時の状態」に対応している。非制動時の状態(a)では、ブレーキシューBSa(リーディングシュー)、BSb(トレーリングシュー)は、戻し部材(戻しばね)RSによって、互いに引っ張られているため、ブレーキライニングMSは、ブレーキドラムBDの摩擦面Mdから離れている。制動時の状態(b)では、第1、第2押圧部Pa、Pbによって、リーディング側、トレーリング側のブレーキシューBSa、BSbが押されているため、ブレーキライニングMSは、摩擦面Mdを押圧し、摩擦力が生じている。ここで、第1直動部材BHの第1押圧部Paと、第2直動部材BJの第2押圧部Pbとが、押圧軸線Jaに沿って離れていく方向が、「拡張方向Ha」と称呼され、制動力Fx、Fpが増加する方向に対応する。逆に、第1押圧部Paと第2押圧部Pbとが近づく方向が、「縮小方向Hb」と称呼され、制動力Fx、Fpが減少する方向に対応する。
【0040】
制動操作部材(例えば、ブレーキペダル)BPの操作が開始されると、制動操作量Baが「0」から増加される。車体側コントローラECBでは、予め設定された演算マップ、及び、制動操作量Baに基づいて、目標押圧力Ftが、制動操作量Baの増加に従って、増加するように演算される。ここで、目標押圧力Ftは、実際の押圧力Fsの目標値である。目標押圧力Ftは、通信バスBSを介して、車体側コントローラECBから、車輪側コントローラECWに送信される。
【0041】
車輪側コントローラECWでは、目標押圧力Ftに基づいて、実際の押圧力Fs(押圧力センサFSの検出値)が、目標押圧力Ftに一致するように、電気モータMTが制御される。具体的には、予め設定された演算マップ、及び、目標押圧力Ftに基づいて、目標通電量Itが、目標押圧力Ftの増加に従って、増加するように演算される。また、目標押圧力Ftと実際の押圧力Fsとの偏差hFが演算され、この押圧力偏差hFに応じて、目標通電量Itが調整される。ここで、目標通電量Itは、電気モータMTに対する通電量Iaの目標値である。目標通電量Itに基づいて、実際の通電量Ia(通電量センサIAの検出値)が目標通電量Itに一致するように駆動回路DRが制御され、電気モータMTが駆動される。
【0042】
電気モータMTが駆動されると、電気モータMTによって、回転動力(電気モータMTの出力トルク)が発生される。回転動力は、減速機GSを介して、動力変換機構HNに伝達される。詳細には、電気モータMTの回転動力は、減速機GSの第2大径ギヤDK2が固定されている入力部材BIに伝達される。入力部材BIの内周部Mnには第1回り止め部Maが設けられている。入力部材BIの内周部Mnには、出力部材BOが挿入されている。出力部材BOの外周部Mgには、第1回り止め部Maにかみ合うように、第2回り止め部Mbが形成されている。従って、入力部材BIと出力部材BOとは、電気モータMTの回転動力によって、一体となって回転される。
【0043】
出力部材BOの一方の端部は、第1直動部材BHの内周部Mhに挿入されている。出力部材BOの一方端部の外周部Mgには、第1ねじ部Naが形成される。また、第1直動部材BHの内周部Mhには、第1ねじ部Naとかみ合うように、第2ねじ部Nbが形成されている。第1直動部材BHは、ハウジングHGに対して、押圧軸線Jaの方向には移動可能であるが、押圧軸線Jaの回りには回転しないように、運動が制限(拘束)されている。例えば、第1直動部材BHの運動制限は、平面摺動(2面取り等)、スプライン機構、キー機構等によって達成される。第1直動部材BHは、押圧軸線Jaの方向に限って移動可能であるため、第1ねじ部Naが回転されると、第1直動部材BHは相対的に、拡張方向Ha(図中の左方向であり、入力部材BIから離れる方向)に移動される(状態(b)を参照)。
【0044】
出力部材BOの他方の端部は、第2直動部材BJの窪み部に挿入されている。出力部材BOの他方端部の端面Moは、第2直動部材BJの窪み部の底面Mcに当接している。第2直動部材BJも、押圧軸線Jaの方向に限って移動可能であるため、第1ねじ部Naが回転されると、第2直動部材BJは相対的に、拡張方向Ha(図中の右方向であり、入力部材BIから離れる方向)に移動される(状態(b)を参照)。
【0045】
以上で説明したように、制動操作量Baが増加され、電気モータMTが正転方向に駆動されると、電気モータMTの回転動力によって、第1押圧部Paと第2押圧部Pbとが離れるように、拡張方向Haに移動される。これにより、リーディングシューBSaとトレーリングシューBSbとが、押圧力Fsにて押圧され、ブレーキライニングMSが、摩擦面Mdに押し付けられる。このとき、ブレーキドラムBDの摩擦面Mdは、車両の直進方向に相当する方向Daに回転しているため、ブレーキライニングMSと摩擦面Mdとの間に摩擦力が生じ、結果、制動力Fxが発生される。
【0046】
制動操作量Baが減少されると、電気モータMTは逆転方向に駆動される。これにより、第1直動部材BH(即ち、第1押圧部Pa)と、第2直動部材BJ(即ち、第2押圧部Pb)とが近づく方向(即ち、縮小方向Hb)に移動される。結果、押圧力Fsは減少され、ブレーキライニングMSと摩擦面Mdとの間の摩擦力は減少され、制動力Fxが減少される。なお、リーディングシューBSaとトレーリングシューBSbとの間には、戻し部材(戻しばね)RSによって、押圧力Fsに対抗する力が作用している。従って、制動操作量Baが減少される際には、第1、第2押圧部Pa、Pbと、ブレーキシューBSa、BSb(特に、部位Qa、Qb)との係合状態は維持されつつ、上記の摩擦力が減少される。
【0047】
[駐車ブレーキの作動]
車両が停止している状態(即ち、ブレーキドラムBDは回転していない状態)で、運転者によって駐車ブレーキ用スイッチSWが操作され、駐車信号Swが、オフからオンに切り替えられる。電気モータMTに通電が開始され、電気モータMTは正転方向に回転駆動される。回転動力は、減速機GSを介して、動力変換機構HNに伝達され、ブレーキライニングMSが摩擦面Mdに押圧される。押圧力Fsが所定押圧力fpに到達すると、電気モータMTへの通電量は保持され、押圧力Fsが一定に保たれる。ここで、所定押圧力fpは、予め設定された定数であり、制御しきい値である。押圧力Fsが保持された状態が所定時間tpに亘って継続されると、ソレノイドSLに通電が行われ、つめ部材TSがラチェット歯車RCにかみ合わされる。ラチェット歯車RCは、作動方向を一方に制限するための方向性を有する歯を有している。このため、つめ部材TSとラチェット歯車RCとが一旦かみ合わされると、電気モータMTへの通電が停止されても、「Fs=fp」の状態が維持される。即ち、電動アクチュエータDNによって、駐車ブレーキ機能が発揮される。
【0048】
駐車信号Swが、オンからオフに切り替えられると、駐車ブレーキ制御の解除作動が行われる。解除作動では、電気モータMTが正転駆動される。これにより、つめ部材TSが、ラチェット歯車RCの歯先を乗り越え、つめ部材TSとラチェット歯車RCとのかみ合いが解除される。そして、駐車ブレーキが効いている状態から効いていない状態に遷移される。
【0049】
[動力変換機構HNの小型化についての効果]
ねじ機構NJを利用して、電気モータMTの回転運動を直線運動に変換する動力変換機構HNには、ねじ機構NJと回り止め機構MDとの2つの機構が必要となる。特許文献1に記載されるように、ねじ機構NJと回り止め機構MDとが別々に形成されるとともに、回り止め機構MDの内周側にねじ機構NJが設けられる構成では、回転軸線(中心軸線)に垂直な方向(即ち、径方向)の寸法が増大される。これに対して、ねじ機構NJと回り止め機構MDとが別々に形成されるとともに、ねじ機構NJと回り止め機構MDとが回転軸線上に並べて設けられる構成では、回転軸線の方向(即ち、軸方向)の寸法が大きくなる。
【0050】
本発明に係る電動アクチュエータDNでは、ねじ機構NJ(Na+Nb)と回り止め機構MD(Ma+Mb)とが別々に設けられるのではなく、出力部材BOの外周部Mgに、これら機構が一体となって設けられる。このため、電動アクチュエータDNの動力変換機構HNにおいて、径方向、及び、軸方向の寸法が短縮され、結果、装置全体が小型化され得る。
【0051】
<動力変換機構HNの第1例>
本発明に係る電動アクチュエータDNでは、出力部材BOの外周部Mgに、第1ねじ部Na(ねじ機構NJの一部)と第1回り止め部Ma(回り止め機構MDの一部)とが設けられる。出力部材BOは、ねじ機構NJ、及び、回り止め機構MDの2つの機能を有するため、電動アクチュエータDN(特に、動力変換機構HN)は、径方向にも、軸方向にも、小型化される。しかしながら、2つの機能を兼ねるために、ねじ機構NJ、及び、回り止め機構MDには、強度、及び、機能についての配慮が必要となる。以下、このことについて説明する。
【0052】
図3の部分断面図を参照して、電動アクチュエータDNの動力変換機構HNの第1例について説明する。第1例では、ねじ機構NJとして、台形ねじ(おねじOj、めねじMj)が採用され、回り止め機構MDとして、スプライン機構(第1、第2スプライン部Sa、Sb)が採用される。
【0053】
外周部に第2大径ギヤDK2が設けられる入力部材BIにおいて、その内周部Mnには、第1回り止め部Maとして、第1スプライン部Saが形成される。入力部材BIの内周部Mnには、スプライン内歯が加工され、第1スプライン部Sa(即ち、第1回り止め部Ma)が形成される。即ち、入力部材BIの内周部Mnは、スプライン孔である。出力部材BOの一方端部の外周部Mgに、第1スプライン部Saとかみ合うことができる第2スプライン部Sbが、第2回り止め部Mbとして設けられる。つまり、出力部材BOの一方端部の外周部Mgには、スプライン外歯が加工され、第2スプライン部Sb(即ち、第2回り止め部Mb)が形成される。即ち、出力部材BOの一方端部は、スプラインシャフトである。第1、第スプライン部Sa、Sbによって、回り止め機構MDが構成され、出力部材BOの動きが制限される。具体的には、出力部材BOは、ハウジングHGに対して、押圧軸線Ja回りに回転可能であって、押圧軸線Jaの方向に直線移動することができる。
【0054】
出力部材BOの一方端部の外周部Mgには、おねじOjが、第1ねじ部Naとして形成される。出力部材BOのおねじOjは、第1直動部材BHの内周部Mhに形成されためねじMjにかみ合わされる。第1直動部材BHのめねじMjは、第2ねじ部Nbとして形成される。おねじOj、及び、めねじMjにて、台形ねじを利用したねじ機構NJが構成される。台形ねじ機構NJによって、電気モータMTの回転動力が、ブレーキシューBSq、BSbに伝達される。具体的には、おねじOjのフランクFaが、めねじMjのフランクFbを、拡張方向Haに押圧することによって、押圧力Fsが伝達される(所謂、滑りによる動力伝達)。
【0055】
スプライン機構では、外周部に複数(多数)の外歯を有するスプラインシャフト(出力部材BOに相当)が、内歯を有するスプライン孔(入力部材BIに相当)にかみ合わされる。スプライン機構では、複数の歯で動力が伝達されるため、その歯高は相対的に小さく設定され得る。動力変換機構HNにおいて、台形ねじ(おねじOj、めねじMj)の歯高と、スプライン機構(外歯、内歯)の歯高は、基本的には任意であるが、スプラインの歯高(内歯において、山頂部Tsaと谷底部Bsaとの高低差)が、台形ねじの歯高(おねじOjにおいて、山頂部と谷底部との高低差)よりも小さくなるように設定されることが望ましい。更に、動力変換機構HNが組み付けられた状態において、スプライン内歯の山頂部Tsaが、押圧軸線Jaに対して、おねじOjのピッチ円線Pjの外側に位置するように設定されてもよい。
【0056】
<動力変換機構HNの第2例>
図4の部分断面図を参照して、電動アクチュエータDNの動力変換機構HNの第2例について説明する。第2例では、ねじ機構NJとして、ボールねじ(Zo+Zh+BL)が採用され、回り止め機構MDとして、キー機構(Za+Zb+KY)が採用される。なお、台形ねじの場合と同様に、ボールねじにおいても逆効率を有するものが、ねじ機構NJとして採用される。
【0057】
入力部材BIの内周部Mn(中心孔)には、第1回り止め部Maとして、第1キー溝部Zaが形成される。出力部材BOの外周部Mgには、第2回り止め部Mbとして、第2キー溝部Zbが形成される。第1、第2キー溝部Za、Zbには、キー部材KYがはめ込まれ、回り止め機構MDが構成される。第1例と同様に、出力部材BOは、ハウジングHGに対して、押圧軸線Ja回りに回転することができ、押圧軸線Jaに沿って直線移動することができる。
【0058】
出力部材BOの一方端部の円筒外周部Mgには、ボールねじ溝(おねじ溝)Zoが、第1ねじ部Naとして形成される。第1直動部材BHの円筒内周部Mhには、ボールねじ溝(めねじ溝)Zhが、第2ねじ部Nbとして形成される。ボールねじ溝Zo、Zhには、複数のボールBLがはめ込まれている。おねじ溝Zo、めねじ溝Zh、及び、ボールBLにて、ボールねじを利用したねじ機構NJが構成される。ボールねじ機構NJでは、電気モータMTの回転動力が、ボールBLを介して、ブレーキシューBSq、BSbに伝達される(所謂、転がりによる動力伝達)。
【0059】
ボールねじ機構NJでは、ボールBLが、ボールねじ溝Zo、Zh内を移動(循環)されることによって動力が伝達されるため、ボールBLが、ボールねじ溝Zo、Zh内を円滑に転がることが必要となる。このため、キー溝(第1、第2キー溝)の深さは、ボールねじ溝の深さよりも浅く(小さく)なるように設定されることが望ましい。この場合、回転軸線Jaに対する径方向のキー部材KYの寸法(キー部材KYがキー溝に組み付けられた状態において、キー部材KYの押圧軸線Jaに対する垂直方向の寸法)は、ボールBLの直径よりも小さい。キー部材KYとキー溝との寸法関係が、このように設定されることにより、ボールBLがキー溝Za、Zbを横断して通過する際においても、円滑に転がることができる。
【0060】
<電動アクチュエータDNの作用・効果>
電動アクチュエータDNは、「電気モータMTによって回転駆動され、内周部Mnに第1回り止め部Maを有する入力部材BI」と、「外周部Mgに、第1回り止め部Maにかみ合い可能な第2回り止め部Mb、及び、第1ねじ部Naを有する出力部材BO」と、「第1ねじ部Naにかみ合い可能な第2ねじ部Nbを有する直動部材BH」と、を含んで構成される。
【0061】
ねじ機構NJ(Na+Nb)と回り止め機構MD(Ma+Mb)とが別々に設けられるのではなく、出力部材BOの外周部Mgが、ねじ機構NJと回り止め機構MDとを兼ねている。このため、電動アクチュエータDNの動力変換機構HNにおいて、径方向、及び、軸方向の寸法が短縮され、装置全体が小型化され得る。
【0062】
電動アクチュエータDNでは、第1ねじ部Naとして、(台形ねじにおける)おねじOjが採用され、第2ねじ部Nbとして、(台形ねじにおける)めねじMjが採用される。即ち、ねじ機構NJとして、台形ねじが採用される。これは、台形ねじは構造が簡単であり、動力伝達容量が大きいことに基づく。台形ねじの採用により、装置が小型化されるとともに、コスト低減が図られる。
【0063】
電動アクチュエータDNでは、第1、第2回り止め部Ma、Mbにスプライン機構Sa、Sbが採用される。スプライン機構Sa、Sb(第1、第2スプライン部)では、複数のスプライン歯によって動力伝達が行われるため、動力伝達容量が大である。スプライン機構Sa、Sbの採用によって、装置が小型化され得る。
【0064】
電動アクチュエータDNは、電気モータMTの回転動力を直線動力に変換し、該直線動力によってブレーキシューBSa、BSbに設けられるブレーキライニングMSをブレーキドラムBDに押圧して車輪に制動力Fx(又は、Fp)を発生する電動制動装置DSに適用される。車両の車輪周りの空間は、狭小であり、非常に限られている。小型化された電動アクチュエータDNの採用によって、電動制動装置DSにおいて、狭小空間への搭載性が向上され得る。
【0065】
<他の実施形態>
上述したように、電動アクチュエータDNにおいて、第1例では、「台形ねじ+スプライン機構」の構成が、第2例では、「ボールねじ+キー機構」の組み合わせ構成が示された。これらの組み合わせに代えて、「ねじ機構NJとしての台形ねじ」と「回り止め機構MDとしてのキー機構」との組み合わせが採用されてもよい。この組み合わせにおいても、上記同様の効果(装置の小型化)を奏する。
【符号の説明】
【0066】
DS…電動制動装置、BS…通信バス、ECU(ECB+ECW)…電子制御ユニット(コントローラ)、DB…制動装置、BD…ブレーキドラム、BSa、BSb…ブレーキシュー(リーディングシュー、トレーリングシュー)、MS…ブレーキライニング、RS…戻し部材(戻しばね)、PL…バッキングプレート、DN…電動アクチュエータ、MT…電気モータ、GS…減速機、HN…動力変換機構、NJ…ねじ機構、Na、Nb…第1、第2ねじ部、MD…回り止め機構、Ma、Mb…第1、第2回り止め部、BI…入力部材、BO…出力部材、BH、BJ…第1、第2直動部材、Oj…おねじ、Mj…めねじ、Sa、Sb…第1、第2スプライン部。


図1
図2
図3
図4