(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-21
(45)【発行日】2025-04-30
(54)【発明の名称】半導体受光素子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H10F 30/22 20250101AFI20250422BHJP
H10F 77/20 20250101ALI20250422BHJP
【FI】
H10F30/22
H10F77/20
(21)【出願番号】P 2021108842
(22)【出願日】2021-06-30
【審査請求日】2024-04-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004370
【氏名又は名称】弁理士法人片山特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古谷 章
【審査官】桂城 厚
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-047639(JP,A)
【文献】特開2018-006415(JP,A)
【文献】特開2008-294027(JP,A)
【文献】特開平04-296066(JP,A)
【文献】特開2004-363398(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0214514(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第106653932(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10F 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に設けられ、第1の導電型を有する第1半導体層と、
前記第1半導体層の上に設けられた光吸収層と、
前記光吸収層の上に設けられ、前記第1の導電型を有する第2半導体層と、
前記第2半導体層の上に設けられ、第2の導電型を有する第3半導体層と、
前記第1半導体層と電気的に接続された第1電極と、
前記第3半導体層と電気的に接続された第2電極と、
第3電極と、
絶縁膜と、を具備し、
前記第2半導体層の一部および前記第3半導体層は、前記第2半導体層の上面よりも上側に突出するメサを形成し、
前記光吸収層、および前記第2半導体層のうち前記一部とは別の部分は、前記メサの外に広がり、
前記メサから離間した位置に、前記光吸収層および前記第2半導体層の前記別の部分より窪んだ凹部が設けられ、
前記絶縁膜は、前記第2半導体層の前記別の部分の上面を覆い、
前記第2電極は、前記メサの上面に設けられ、
前記第3電極は、前記絶縁膜の表面上であって、前記第2半導体層の前記別の部分の上に設けられ、かつ前記メサと前記凹部との間に位置
し、前記第2半導体層の上面、前記メサの側面、および前記メサの上面を覆い、前記第2電極と電気的に接続されている半導体受光素子。
【請求項2】
前記第3電極は、前記第3半導体層の平面内において前記メサを囲む
請求項1に記載の半導体受光素子。
【請求項3】
前記第3半導体層の平面内において、前記メサの形状は円形であり、
前記第3半導体層の平面内において、前記第3電極の形状は前記メサと同心円形状である請求項1
または請求項2に記載の半導体受光素子。
【請求項4】
前記第1半導体層、前記第2半導体層、および前記第3半導体層は、インジウムリンで形成されている請求項1から
請求項3のいずれか一項に記載の半導体受光素子。
【請求項5】
前記光吸収層は、インジウムガリウム砒素で形成されている請求項1から
請求項4のいずれか一項に記載の半導体受光素子。
【請求項6】
前記絶縁膜は窒化シリコン膜である請求項1から
請求項5のいずれか一項に記載の半導体受光素子。
【請求項7】
基板の上に、第1の導電型を有する第1半導体層、光吸収層、前記第1の導電型を有する第2半導体層、および第2の導電型を有する第3半導体層を、この順に積層する工程と、
前記第2半導体層および前記第3半導体層をエッチングすることで、前記第2半導体層の一部および前記第3半導体層を含み、前記第2半導体層の上面よりも上側に突出するメサを形成する工程と、
前記第2半導体層および前記光吸収層をエッチングすることで、前記メサから離間した位置に凹部を形成する工程と、
前記第2半導体層の上面を覆う絶縁膜を形成する工程と、
前記第1半導体層と電気的に接続される第1電極を形成する工程と、
前記第3半導体層と電気的に接続される第2電極を形成する工程と、
前記絶縁膜の表面に設けられ、前記第2半導体層の上に位置する第3電極を形成する工程と、を有し、
前記光吸収層、および前記第2半導体層のうち前記一部とは別の部分は、前記メサの外に広がり、
前記凹部は、前記光吸収層および前記第2半導体層の前記別の部分より窪んでおり、
前記絶縁膜は、前記第2半導体層の前記別の部分の上面を覆い、
前記第2電極は、前記メサの上面に設けられ、
前記第3電極は、前記絶縁膜の表面上であって、前記第2半導体層の前記別の部分の上に設けられ、かつ前記メサと前記凹部との間に位置
し、前記第2半導体層の上面、前記メサの側面、および前記メサの上面を覆い、前記第2電極と電気的に接続されている半導体受光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は半導体受光素子およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光を受光して電気信号を出力する半導体受光素子が知られている(例えば非特許文献1)。半導体受光素子は、光吸収層を含み、メサを有する。例えば光吸収層の下側にn型の半導体層を設け、当該n型層にn型電極を接続する。光吸収層の上側にn型の半導体層とp型の半導体層とを設け、p型層にp型電極を接続する。p型電極に負電圧を印加し、n型電極に正電圧を印加する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】“Leakage current in GaInAs/InP photodiodes grown by OMVPE” Journal of Crystal Growth, Volume 98, Issues 1-2(1989), p90-97
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
メサの一部に局所的に高い電界がかかることで、暗電流が増加する恐れがある。そこで、暗電流の増加を抑制することが可能な半導体受光素子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示に係る半導体受光素子は、基板の上に設けられ、第1の導電型を有する第1半導体層と、前記第1半導体層の上に設けられた光吸収層と、前記光吸収層の上に設けられ、前記第1の導電型を有する第2半導体層と、前記第2半導体層の上に設けられ、第2の導電型を有する第3半導体層と、前記第1半導体層と電気的に接続された第1電極と、前記第3半導体層と電気的に接続された第2電極と、第3電極と、絶縁膜と、を具備し、前記第2半導体層および前記第3半導体層は、前記第2半導体層の上面よりも上側に突出するメサを形成し、前記絶縁膜は、前記第2半導体層の上面を覆い、前記第3電極は、前記絶縁膜の表面上であって、前記第2半導体層の上に設けられている。
【0006】
本開示に係る半導体受光素子の製造方法は、基板の上に、第1の導電型を有する第1半導体層、光吸収層、前記第1の導電型を有する第2半導体層、および第2の導電型を有する第3半導体層を、この順に積層する工程と、前記第2半導体層および前記第3半導体層をエッチングすることで、前記第2半導体層および前記第3半導体層を含み、前記第2半導体層の上面よりも上側に突出するメサを形成する工程と、前記第2半導体層の上面を覆う絶縁膜を形成する工程と、前記第1半導体層と電気的に接続される第1電極を形成する工程と、前記第3半導体層と電気的に接続される第2電極を形成する工程と、前記絶縁膜の表面に設けられ、前記第2半導体層の上に位置する第3電極を形成する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば暗電流の増加を抑制することが可能な半導体受光素子およびその製造方法を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1A】
図1Aは、第1実施形態に係る半導体受光素子を例示する平面図である。
【
図2A】
図2Aは、半導体受光素子の製造方法を例示する平面図である。
【
図3A】
図3Aは、半導体受光素子の製造方法を例示する平面図である。
【
図4A】
図4Aは、半導体受光素子の製造方法を例示する平面図である。
【
図5A】
図5Aは、半導体受光素子の製造方法を例示する平面図である。
【
図6A】
図6Aは、半導体受光素子の製造方法を例示する平面図である。
【
図7A】
図7Aは、半導体受光素子の製造方法を例示する平面図である。
【
図8A】
図8Aは、比較例に係る半導体受光素子を例示する断面図である。
【
図9A】
図9Aは、第2実施形態に係る半導体受光素子を例示する平面図である。
【
図10A】
図10Aは、第3実施形態に係る半導体受光素子を例示する平面図である。
【
図11A】
図11Aは、第4実施形態に係る半導体受光素子を例示する平面図である。
【
図12A】
図12Aは、第5実施形態に係る半導体受光素子を例示する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態の内容を列記して説明する。
【0010】
本開示の一形態は、(1)基板の上に設けられ、第1の導電型を有する第1半導体層と、前記第1半導体層の上に設けられた光吸収層と、前記光吸収層の上に設けられ、前記第1の導電型を有する第2半導体層と、前記第2半導体層の上に設けられ、第2の導電型を有する第3半導体層と、前記第1半導体層と電気的に接続された第1電極と、前記第3半導体層と電気的に接続された第2電極と、第3電極と、絶縁膜と、を具備し、前記第2半導体層および前記第3半導体層は、前記第2半導体層の上面よりも上側に突出するメサを形成し、前記絶縁膜は、前記第2半導体層の上面を覆い、前記第3電極は、前記絶縁膜の表面上であって、前記第2半導体層の上に設けられている半導体受光素子である。第1電極および第2電極に逆バイアス電圧を印加すると、空乏層が広がる。空乏層で発生する電気力線の一部は第3電極に向かい、第3電極で終端する。メサの立ち上がる部分への電気力線の集中を抑制することで、界面準位の変化を抑制する。暗電流の増加を抑制することができる。
(2)前記第3電極は、前記メサのうち前記第2半導体層の上面と前記メサの側面との間の部分であるエッジから離間してもよい。エッジへの電気力線の集中を抑制することで、暗電流の増加を抑制することができる。
(3)前記第3電極は、前記第2半導体層の上面および前記メサの側面を覆ってもよい。エッジへの電気力線の集中を抑制することで、暗電流の増加を抑制することができる。
(4)前記第2電極は、前記メサの上面に設けられ、前記第3電極は、前記第2半導体層の上面、前記メサの側面、および前記メサの上面を覆い、前記第2電極と電気的に接続されてもよい。第3電極は、第2電極と同電位を有する。エッジへの電気力線の集中を抑制することで、暗電流の増加を抑制することができる。
(5)前記第3電極は、前記第3半導体層の平面内において前記メサを囲んでもよい。メサの周囲において電気力線の集中を抑制することで、暗電流の増加を効果的に抑制することができる。
(6)前記第3半導体層の平面内において、前記メサの形状は円形であり、前記第3半導体層の平面内において、前記第3電極の形状は前記メサと同心円形状でもよい。メサの周囲において電気力線の集中を抑制することで、暗電流の増加を効果的に抑制することができる。
(7)前記第1半導体層、前記第2半導体層、および前記第3半導体層は、インジウムリンで形成されてもよい。インジウムリンの比誘電率は、空気の比誘電率よりも高い。電気力線は、比誘電率の低い空気よりも、比誘電率の高いインジウムリンを通りやすいが、より比誘電率の高い第3電極に向かい、第3電極で終端する。暗電流の増加を抑制することができる。
(8)前記光吸収層は、インジウムガリウム砒素で形成されてもよい。光吸収層は、光を吸収することでキャリアを発生させる。半導体受光素子は光を検知することができる。
(9)前記絶縁膜は窒化シリコン膜でもよい。窒化シリコンの比誘電率は、空気の比誘電率よりも高い。電気力線は、比誘電率の低い空気よりも、比誘電率の高い窒化シリコンを通りやすいが、より比誘電率の高い第3電極に向かい、第3電極で終端する。暗電流の増加を抑制することができる。
(10)基板の上に、第1の導電型を有する第1半導体層、光吸収層、前記第1の導電型を有する第2半導体層、および第2の導電型を有する第3半導体層を、この順に積層する工程と、前記第2半導体層および前記第3半導体層をエッチングすることで、前記第2半導体層および前記第3半導体層を含み、前記第2半導体層の上面よりも上側に突出するメサを形成する工程と、前記第2半導体層の上面を覆う絶縁膜を形成する工程と、前記第1半導体層と電気的に接続される第1電極を形成する工程と、前記第3半導体層と電気的に接続される第2電極を形成する工程と、前記絶縁膜の表面に設けられ、前記第2半導体層の上に位置する第3電極を形成する工程と、を有する半導体受光素子の製造方法である。第1電極および第2電極に逆バイアス電圧を印加すると、空乏層が広がる。空乏層で発生する電気力線は第3電極で終端する。メサの立ち上がる部分への電気力線の集中を抑制することで、界面準位の変化を抑制する。暗電流の増加を抑制することができる。
【0011】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の実施形態に係る半導体受光素子およびその製造方法の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本開示はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0012】
<第1実施形態>
(半導体受光素子)
図1Aは、第1実施形態に係る半導体受光素子100を例示する平面図である。
図1Bは、
図1Aの線A-Aに沿った断面図である。
【0013】
図1Aに示すように、XY平面内における半導体受光素子100の形状は矩形である。半導体受光素子100の2つの辺は、X軸方向に延伸する。別の2つの辺は、Y軸方向に延伸する。Z軸方向は、半導体受光素子100の半導体層の積層方向である。X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向は、互いに直交する。
【0014】
図1Aに示すように、半導体受光素子100は、1つのメサ22および1つの凹部25を有する。XY平面におけるメサ22の形状は円形である。凹部25の形状は矩形である。凹部25の1辺の長さL1は例えば100μmである。メサ22と凹部25とは離間している。
【0015】
半導体受光素子100は、基板10、n型半導体層12(第1半導体層)、光吸収層14、n型半導体層16(第2半導体層)、p型半導体層18(第3半導体層)、およびコンタクト層20を有する。基板10の下面には反射防止膜21が設けられている。Z軸方向に沿って、基板10の上面に、n型半導体層12、光吸収層14およびn型半導体層16が、この順に積層されている。n型半導体層12は、基板10の上面の全体に設けられている。凹部25は、Z軸方向においてn型半導体層16の上面よりも窪んだ部分である。凹部25には光吸収層14、n型半導体層16、p型半導体層18およびコンタクト層20が設けられておらず、n型半導体層12が設けられている。
【0016】
凹部25以外の部分において、光吸収層14およびn型半導体層16が積層されている。n型半導体層16の一部には、p型半導体層18およびコンタクト層20が積層されている。より詳細には、n型半導体層16の一部はZ軸方向上側に突出し、当該突出した部分にp型半導体層18およびコンタクト層20が、順に積層されている。n型半導体層16、p型半導体層18、およびコンタクト層20は、メサ22を形成する。n型半導体層16とp型半導体層18との接合界面は、メサ22に含まれる。コンタクト層20の上面が、メサ22の上面になる。メサ22の外側にはn型半導体層16の上面が広がる。n型半導体層16の上面がメサ22の底面になる。メサ22の側面はZ軸方向に平行に延伸してもよいし、Z軸方向から傾斜してもよい。側面とX軸方向との間の角度θは、例えば60°以上、90°以下である。メサ22の側面と底面との間においてメサ22が立ち上がる部分を、エッジ23とする。具体的には、メサ22の側面とn型半導体層16の上面との境界をエッジ23とする。
【0017】
図1Bに示すメサ22の上面の直径D1は例えば100μmである。メサ22のエッジ23から凹部25の端部までの最短の距離D2は例えば200μmである。絶縁膜24の表面を基準とするメサ22の高さは、例えば0.6μmである。
【0018】
絶縁膜24は、n型半導体層12の上面、光吸収層14およびn型半導体層16の側面、n型半導体層16の上面(メサ22の底面)、およびメサ22の側面および上面に連続的に設けられ、これらの面を覆う。絶縁膜24は、n型半導体層12の上面およびメサ22の上面に開口部を有する。
【0019】
電極26(第1電極)は、凹部25の内側に位置し、n型半導体層12の上面に設けられ、n型半導体層12と電気的に接続される。電極28(第2電極)は、メサ22の上に位置し、コンタクト層20の上面に設けられ、コンタクト層20と電気的に接続される。電極26および28は、ボンディングワイヤなどを通じて、例えば読み出し回路などと電気的に接続される。
【0020】
電極30(第3電極)は、メサ22の底面の上に位置し、絶縁膜24の上面に接して設けられる。電極30は、メサ22の側面およびエッジ23から離間する。電極30のメサ22に近い側の端部と、絶縁膜24のエッジ23上に位置する部分との間の距離D3は、例えば1μmである。電極30の幅W1は、例えば5μmである。電極30は、n型半導体層12および16、光吸収層14、p型半導体層18およびコンタクト層20とは、絶縁膜24によって絶縁されており、これらの半導体層に電気的に接続されない。電極26、28および30は、互いに離間する。
【0021】
図1Aに示すように、XY平面内でのメサ22の形状および電極28の形状は円形である。XY平面内での電極30の形状は、メサ22と同心円状の円環である。電極30は、メサ22を完全に囲む。パッド32は、絶縁膜24の上面のうちメサ22から離間した位置に設けられ、電極30と電気的に接続される。パッド32には、外部の電源などが接続される。
【0022】
基板10、n型半導体層12および16は、例えばn型のインジウムリン(n-InP)で形成されている。n型半導体層12の厚さは例えば3μmである。n型半導体層12のキャリア濃度は例えば2×1018cm-3である。n型半導体層16の厚さは例えば0.5μmである。n型半導体層16のキャリア濃度は例えば1×1015cm-3である。n型のドーパントとしては例えばシリコン(Si)が用いられる。
【0023】
光吸収層14は、例えば厚さが3μmでアンドープのインジウムガリウム砒素(InGaAs)で形成されている。p型半導体層18は、例えばp-InPで形成されている。p型半導体層18の厚さは例えば0.3μmである。p型半導体層18のキャリア濃度は例えば1×1018cm-3である。コンタクト層20は、例えばp型インジウムガリウム砒素(p-InGaAs)で形成されている。コンタクト層20の厚さは例えば0.3μmである。コンタクト層20のキャリア濃度は例えば1×1019cm-3である。p型のドーパントとしては例えば亜鉛(Zn)が用いられる。半導体受光素子100の半導体層は、上記以外の化合物半導体で形成されてもよい。
【0024】
基板10のバッドギャップ、n型半導体層12および16のバンドギャップ、p型半導体層18のバンドギャップは、光吸収層14のバンドギャップよりも大きい。光吸収層14のバンドギャップは、例えば波長が1.6μmの光のエネルギーに対応する。半導体受光素子100は、波長が1.3μmの光に感受性を有する。
【0025】
絶縁膜24はパッシベーション膜であり、半導体層の表面を保護する。絶縁膜24は、例えば厚さ0.3μmの窒化シリコン(SiN)などの絶縁体で形成されている。電極26は、例えばn型半導体層12の上から順に金とゲルマニウムとの合金、ニッケルおよび金を積層した積層体(Au-Ge/Ni/Au)などの金属で形成されている。電極28は、例えばコンタクト層20の上から順に設けられた、チタン、白金および金を積層した積層体(Ti/Pt/Au)などの金属で形成されている。電極30およびパッド32は、例えばチタンと金との積層体(Ti/Au)などの金属で形成されている。
【0026】
半導体受光素子100には、例えば10V以上、20V以下の逆バイアス電圧が印加される。電極28に負電圧が印加される。電極26には正電圧が印加される。基板10の下面から入射する光は、バンドギャップの大きい基板10およびn型半導体層12を透過し、光吸収層14に吸収される。光吸収層14では、光の強度に応じた量のキャリア(正孔電子対)が生成する。光の強度に応じた電流が、半導体受光素子100から外部の機器に出力される。
【0027】
半導体受光素子100に逆バイアス電圧が印加されると、n型半導体層16およびp型半導体層18のpn接合界面に大きな電界がかかる。一般に、大きな電界がかかる部分でキャリアが生成すると、側面(絶縁膜との界面)に形成される界面準位を通じて、暗電流が発生する恐れがある。本実施形態では、n型半導体層16およびp型半導体層18のバンドギャップは、光吸収層14のバンドギャップよりも大きいため、pn接合界面ではキャリアが生成しにくい。したがってメサ22と絶縁膜24との界面におけるリーク電流が抑制される。光吸収層14は、n型半導体層16およびp型半導体層18より小さなバンドギャップを有するが、メサ22よりも広く延伸しており、絶縁膜24と光吸収層14との界面(光吸収層14の側面)はpn接合界面から遠く離れている。このため、光吸収層14の側面に形成される界面準位には、大きな電界がかかりにくい。光吸収層14と絶縁膜24との界面におけるリーク電流は抑制される。暗電流の増加を抑制することができる。
【0028】
半導体受光素子100が使用される際、電極26および28に逆バイアス電圧が印加されるとともに、電極30にも電圧が印加される。電極30の電位は、例えば電極28の電位に対して±1Vの範囲でもよいし、逆バイアス電圧の印加時におけるメサ22の底面の電位と同程度の電位でもよい。後述のように、電気力線が電極30で終端するため、エッジ23付近に集中しにくくなる。エッジ23付近に形成される界面準位を介した暗電流が抑制されるため、半導体受光素子100の暗電流の界面準位に起因する増加を、抑制することができる。
【0029】
【0030】
図2Aおよび
図2Bに示すように、例えば有機金属気相成長法(MOVPE:Metal-organic Vapor Phase Epitaxy)などにより、基板10の上面に、n型半導体層12、光吸収層14、n型半導体層16、p型半導体層18、およびコンタクト層20を、この順にエピタキシャル成長する。
【0031】
図3Aおよび
図3Bに示すように、コンタクト層20の上に円形のマスク33を設ける。例えばプラズマCVD(Chemical Vapor Depositin)法などで厚さ0.3μmのSiO
2層を設け、フォトリソグラフィおよびバッファードフッ酸によるエッチングを行うことで、マスク33を形成する。マスク33の直径は例えば100μmである。コンタクト層20の上面のうちマスク33で覆われない部分は、露出する。
【0032】
図4Aおよび
図4Bに示すように、例えばドライエッチングやケミカルエッチング液を用いたウェットエッチングを行い、メサ22を形成する。コンタクト層20、p型半導体層18およびn型半導体層16のうち、マスク33で覆われた部分はエッチングされず、メサ22が残存する。コンタクト層20およびp型半導体層18のうちマスク33から露出する部分は、取り除かれる。ウェットエッチングの深さは、例えば厚さ方向にn型半導体層16の途中まででもよいし、n型半導体層16とp型半導体層18との界面まででもよい。n型半導体層16の表面は、マスク33から露出し、メサ22の底面となる。メサ22を形成した後、バッファードフッ酸によるエッチングでマスク33を取り除く。
【0033】
図5Aおよび
図5Bに示すように、例えばSiO
2などの絶縁膜を形成し、フォトリソグラフィおよびバッファードフッ酸によるエッチングなどで、マスク34を形成する。マスク34は、例えば厚さ0.3μmのSiO
2などの絶縁体で形成されている。マスク34は、メサ22から離間した位置に開口部35を有する。開口部35のXY平面内での形状は、例えば1辺が100μmの矩形である。開口部35からn型半導体層16が露出する。
【0034】
図6Aおよび
図6Bに示すように、ドライエッチングやケミカルエッチング液を用いたウェットエッチングを行い、開口部35内のn型半導体層16および光吸収層14を取り除き、凹部25を形成する。凹部25からはn型半導体層12の上面が露出する。マスク34で覆われる部分は、エッチングされない。ウェットエッチング後、バッファードフッ酸によるエッチングでマスク34は取り除く。
【0035】
図7Aおよび
図7Bに示すように、例えばプラズマCVD法などで、SiNの絶縁膜24を形成する。バッファードフッ酸によるエッチングで、絶縁膜24のうち、メサ22の上および凹部25の内側に開口部を設ける。
【0036】
図1Aおよび
図1Bに示したように、真空蒸着およびリフトオフにより、凹部25内のn型半導体層12の上面に電極26を設け、メサ22の上面に電極28を設ける。絶縁膜24の上面のうち、メサ22のエッジ23から離間した位置に電極30を設ける。電極30に接続されるパッド32を絶縁膜24の上面に形成する。基板10の裏面を研磨した後に反射防止膜21を設ける。以上の工程で半導体受光素子100が形成される。
【0037】
図8Aは、比較例に係る半導体受光素子100Rを例示する断面図であり、ハッチングの一部を省略している。
図8Aに示すように、半導体受光素子100Rは電極30を有さない。他の構成は、半導体受光素子100と同じである。
【0038】
半導体受光素子100Rに逆バイアス電圧が印加されると、例えばn型半導体層16とp型半導体層18とのpn接合界面から、メサ22の外側に位置するn型半導体層16および光吸収層14まで、空乏層40が広がる。空乏層40のうち、p型半導体層18の近傍にはマイナス(-)の電荷が発生する。空乏層40のうち、n型半導体層16および光吸収層14の中で正電圧が印加されるn型半導体層12により近い領域に、プラス(+)の電荷が発生する。プラスの電荷から電気力線が発生し、マイナスの電荷で終端する。
【0039】
電気力線は、比誘電率の高い物質中を通りやすく、比誘電率の低い物質中を通りにくい。空気の比誘電率はおよそ1である。SiNの比誘電率は、およそ6から7である。InPの比誘電率は、およそ12から14である。電気力線は、半導体受光素子100Rの外側の空気に比べて、InPで形成されたn型半導体層16、およびSiNで形成された絶縁膜24を通りやすい。電気力線は、メサ22の形状の影響を受け、メサ22の底面から側面に沿って延伸する。このため、メサ22のエッジ23付近に電気力線が集中する。エッジ23の近傍における、n型半導体層16の表層部分および絶縁膜24における電界強度が局所的に大きくなる。
【0040】
局所的に高い電界がかかることで、n型半導体層16と絶縁膜24との界面における界面準位の様態が変化する。例えば高温・高電圧などのストレス環境下で、再結合準位密度および再結合速度が増加する。界面にキャリアが多く生成され、暗電流が増加する。
【0041】
図8Bは、半導体受光素子100を例示する断面図であり、
図8Aと同様にハッチングの一部を省略している。半導体受光素子100に逆バイアス電圧が印加されると、半導体受光素子100においても空乏層40が広がる。
【0042】
第1実施形態によれば、電極30は絶縁膜24の表面に設けられており、メサ22のエッジ23から離間している。半導体受光素子100では、pn接合界面に逆バイアス電圧が印加されるとともに、電極30にも電圧が印加される。
図8Bに矢印で示すように、電気力線の分布が比較例から変化し、電気力線の一部はプラスの電荷から電極30に向けて延び、電極30で終端する。言い換えれば、電気力線の一部は、n型半導体層16および絶縁膜24のうちエッジ23の近傍を通らずに、電極30に向けて延伸する。エッジ23の近傍における電気力線の集中の密度が減少するため、エッジ23付近での電界を低下させることができる。高温および高電圧下においても界面準位の変化を抑制し、暗電流の増加を抑制することができる。
【0043】
電極30がエッジ23から離間するため、電極30に終端する電気力線は、エッジ23の近傍を通らない。電気力線の集中を抑制することで、半導体受光素子100の暗電流が、高電圧下において増加することを避けることができる。空乏層40の広がる範囲、およびメサ22の角度θに応じて、電気力線の分布が定まる。空乏層40の広がる範囲は、逆バイアス電圧の大きさ、半導体層のキャリア濃度などに依存し、変化しうる。例えば角度θが90°に近いほど、電気力線はエッジ23付近に集中しやすい。電極30の位置は、逆バイアス電圧の大きさ、半導体層のキャリア濃度、角度θなどに応じて定める。逆バイアス電圧が10Vから20V、かつキャリア濃度を上記の値とし、角度θを例えば60°以上、90°以下とする場合、電極30はエッジ23から1μmだけ離す。電極30の幅W1は5μmとする。
【0044】
図1Aに示すように、XY平面内で、電極30はメサ22と同心円状の円環形状であり、メサ22を囲む。電極30がメサ22の周囲全体を囲むことで、メサ22の周囲全体において、メサ22のエッジ23から離れた位置で電気力線を終端させる。暗電流を効果的に抑制することができる。電極30は、例えば円環以外のリング形状でもよい。電極30はメサ22の周囲のうち一部(例えば周囲の50%以上、80%以上、90%以上など)を囲み、残りの部分を囲まなくてもよい。
【0045】
電極30に付与する電位は、例えば逆バイアス電圧を印加した際のメサ22の底面と同電位である。電極28と電極26との間に印加される逆バイアス電圧の大きさに応じて、電極30への印加電圧の大きさも変化させる。
【0046】
n型半導体層12および16は、n-InPで形成されている。p型半導体層18は、p-InPで形成されている。絶縁膜24はSiN膜である。InPおよびSiNの比誘電率は、空気よりも高い。電気力線は空気中に飛び出しにくく、n型半導体層16および絶縁膜24を通りやすい。電極30は金属で形成され、金属の比誘電率は半導体層および絶縁膜よりも高い。電気力線は、比誘電率のより高い電極30に向かいやすく、電極30で終端する。第1実施形態によれば、電極30で電気力線を終端させるため、エッジ23への電気力線の集中を抑制することができる。
【0047】
n型半導体層12および16、p型半導体層18は、InPなど光吸収層14よりもバンドギャップの大きな半導体で形成される。光吸収層14はInGaAsで形成されている。基板10の下面から入射する光は、n型半導体層12を透過し、光吸収層14に吸収される。半導体受光素子100が光を検知することができる。
【0048】
バンドギャップの大きいn型半導体層16とp型半導体層18とがメサ22を形成し、光吸収層14はメサ22に含まれない。バンドギャップの小さい光吸収層14に大きな電界がかかりにくいため、光吸収層14と絶縁膜24との界面準位に起因する暗電流の増加を抑制することができる。基板10、n型半導体層12および16、p型半導体層18はInP以外の半導体で形成されてもよく、光吸収層14よりも大きなバンドギャップを有していればよい。基板10上に積層する半導体層のn型とp型とは入れ替えてもよい。つまり、光吸収層14と基板10との間にp型半導体層を設け、光吸収層14の上にp型半導体層とn型半導体層とを順に積層してもよい。
【0049】
<第2実施形態>
第2実施形態は、アレイセンサの例である。
図9Aは、第2実施形態に係る半導体受光素子200を例示する平面図である。
図9Bは、
図9Aの線B-Bに沿った断面図である。第1実施形態と同じ構成については説明を省略する。
【0050】
図9Aおよび
図9Bに示すように、半導体受光素子200は例えば4つのメサ22、4つの電極30、および4つのパッド32を有する。1つの電極30は、1つのメサ22の周囲に設けられ、1つのパッド32と電気的に接続されている。4つのメサ22は互いに離間する。4つの電極30は互いに離間する。4つのパッド32は互いに離間する。電極26は、4つのメサ22に共通の電極である。
【0051】
半導体受光素子200を動作させる際には、4つのメサ22の上の電極28、電極26から逆バイアス電圧を印加する。4つのパッド32を通じて、4つの電極30に電圧を印加する。
【0052】
第2実施形態によれば、4つのメサ22のエッジ23から離間した位置に電極30が設けられている。エッジ23近傍での電気力線の集中を抑制することで、暗電流の増加を抑制することができる。メサ22の数および電極30の数は、4つ以下でもよいし、4つ以上でもよい。電極30の数はメサ22の数に等しい。言い換えれば、1つのメサ22に対して1つの電極30を設ける。
【0053】
<第3実施形態>
図10Aは、第3実施形態に係る半導体受光素子300を例示する平面図である。
図10Bは、
図10Aの線C-Cに沿った断面図である。第1実施形態と同じ構成については説明を省略する。
図10Aおよび
図10Bに示すように、第1実施形態に比べて電極30の幅が大きい。
図10Bに示すように、電極30は、メサ22の底面の一部、メサ22のエッジ23および側面を覆う。
【0054】
絶縁膜24のエッジ23を覆う部分から、電極30のメサ22とは反対側の端部までの距離は例えば6μmである。絶縁膜24の表面を基準とするメサ22の高さは例えば6μmである。電極30の高さは例えば0.3μmである。電極30の上端は、メサ22の側面に位置してもよいし、メサ22の上面に位置してもよい。
【0055】
第3実施形態によれば、電極30は、絶縁膜24の表面上に接して設けられ、絶縁膜24を介してメサ22の底面の一部、エッジ23、およびメサ22の側面の一部を覆う。電気力線は電極30で終端するため、エッジ23の近傍における電気力線の集中が抑制される。暗電流の増加を抑制することができる。
【0056】
<第4実施形態>
図11Aは、第4実施形態に係る半導体受光素子400を例示する平面図である。
図11Bは、
図11Aの線D-Dに沿った断面図である。第1実施形態と同じ構成については説明を省略する。
図11Aおよび
図11Bに示すように、電極30は、メサ22の底面の一部、メサ22のエッジ23、メサ22の側面および上面まで延伸し、電極28に電気的に接続される。パッド32は設けなくてよい。半導体受光素子400に逆バイアス電圧を印加すると、電極30には電極28と同じ電位が付与される。
【0057】
第4実施形態によれば、電極30は、絶縁膜24の表面上に接して設けられ、絶縁膜24を介してメサ22の底面の一部、エッジ23、メサ22の側面、および上面の一部を覆い、電極28と電気的に接続される。電気力線は電極30で終端するため、エッジ23の近傍における電気力線の集中が抑制される。暗電流の増加を抑制することができる。
【0058】
<第5実施形態>
図12Aは、第5実施形態に係る半導体受光素子500を例示する平面図である。
図12Bは、
図12Aの線E-Eに沿った断面図である。第1実施形態と同じ構成については説明を省略する。
図12Aおよび
図12Bに示すように、メサ22の上面のうち中央部において、電極28およびコンタクト層20は開口部29を有する。XY平面において開口部29は例えば円形であり、メサ22と同心円状である。開口部29の直径は、メサ22の上面の直径より小さく、例えば70μmである。開口部29からp型半導体層18が露出する。電極30は、絶縁膜24の表面上に設けられ、メサ22の底面の一部、エッジ23、メサ22の側面、および上面の一部を覆い、電極28と電気的に接続される。反射防止膜21は設けられていない。
【0059】
Z軸方向上側から照射される光は、開口部29から入射する。半導体受光素子500は、光を受光し電気信号を出力する、表面入射型の受光素子である。
【0060】
第5実施形態によれば、電気力線は電極30で終端するため、エッジ23の近傍における電気力線の集中が抑制される。暗電流の増加を抑制することができる。
【0061】
第5実施形態の電極30は、例えば第1実施形態と同様に、メサ22の底面に設けられ、メサ22のエッジ23から離間してもよい。電極30は、第2実施形態と同様に、メサ22の底面および側面に設けられてもよい。
【0062】
第3実施形態から第5実施形態において、メサ22および電極30を複数配置し、第2実施形態と同様にアレイセンサとしてもよい。
【0063】
以上、本開示の実施形態について詳述したが、本開示は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本開示の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0064】
10 基板
12、16 n型半導体層
14 光吸収層
18 p型半導体層
20 コンタクト層
21 反射防止膜
24 絶縁膜
26、28、30 電極
22 メサ
25 凹部
29、35 開口部
32 パッド
33、34 マスク
40 空乏層
100、100R、200、300、400、500 半導体受光素子