(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-21
(45)【発行日】2025-04-30
(54)【発明の名称】アクチュエータ、車体傾斜用アクチュエータおよび車体傾斜システム
(51)【国際特許分類】
F16H 25/22 20060101AFI20250422BHJP
F16D 41/10 20060101ALI20250422BHJP
B61F 5/22 20060101ALI20250422BHJP
B61F 5/24 20060101ALI20250422BHJP
【FI】
F16H25/22 Z
F16D41/10
B61F5/22 B
B61F5/24 A
(21)【出願番号】P 2021119157
(22)【出願日】2021-07-19
【審査請求日】2024-03-05
(31)【優先権主張番号】P 2021022242
(32)【優先日】2021-02-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【氏名又は名称】永岡 重幸
(72)【発明者】
【氏名】小林 英樹
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-029039(JP,A)
【文献】特開2019-190561(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/22
F16D 41/10
B61F 5/22
B61F 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の傾斜を変えるアクチュエータと、
前記アクチュエータを制御することで前記車体の傾斜を制御する制御部と、
を備えた車体傾斜システムであって、
前記アクチュエータが、
モータと、
前記モータからの回転力が入力される回転部と、
ボールねじを介して前記回転部と繋がり、当該回転部の回転に伴って当該ボールねじに沿って直線移動することで車体の傾斜を変える直動部と、
前記回転部に組み込まれ、前記モータ側からの回転力は前記ボールねじ側へと伝達し、当該ボールねじ側からの回転力は遮断して回転を止める遮断部と、
を備え、
前記制御部が、前記車体の傾斜を維持する場合に前記モータの駆動を止めることを特徴とする車体傾斜システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータ、車体傾斜用アクチュエータおよび車体傾斜システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、曲線部を高速走行する鉄道車両の乗り心地向上を目的として車体傾斜用電動アクチュエータおよび車体傾斜システムが提案されている(例えば特許文献1、特許文献2参照。)。車体傾斜システムは、振子式車体傾斜装置や空気ばね式車体傾斜装置のように台車と車体の間に設けたアクチュエータを制御することで車体を傾けたり戻したりしている。従来の車体傾斜システムにおけるアクチュエータは、液圧式アクチュエータが主流である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-29039号公報
【文献】特開2011-025751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、液圧式アクチュエータによる車体傾斜システムでは応答性や精度が低く、乗り心地に影響を与える虞がある。また、液圧式アクチュエータの場合、アクチュエータを駆動させるシステム(油圧・液圧システム)が大きく、設置のために広いスペースが必要となる。
【0005】
このため、車体傾斜システムに滑りねじ式の電動アクチュエータを採用することが考えられる。電動アクチュエータは設置スペースが小さい点で好ましいが、滑りねじ式アクチュエータによる車体傾斜システムでは動力伝達効率の低下によって乗り心地に影響を与える虞がある。また、電動アクチュエータによる車体傾斜システムでは、車体の傾斜を維持する際に電力を常時消費してエネルギーの浪費となることも懸念される。
そこで、本発明は、動力伝達効率・応答性・精度の向上を図ると共に、車体の傾斜維持に際しての省エネルギー化も図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係るアクチュエータの一態様は、モータと、上記モータからの回転力が入力される回転部と、ボールねじを介して上記回転部と繋がり、当該回転部の回転に伴って当該ボールねじに沿って直線移動する直動部と、上記回転部に組み込まれ、上記モータ側からの回転力は前記ボールねじ側へと伝達し、当該ボールねじ側からの回転力は遮断して回転を止める遮断部と、を備える。
【0007】
このようなアクチュエータによれば、ボールねじが採用されることで動力伝達効率・応答性・精度の向上が図られ、車体傾斜用として用いられることで車体の傾斜維持に際しての省エネルギー化が図られる。また、このようなアクチュエータは、外力の影響を遮断しながら応答性・精度の高い駆動が出来るアクチュエータとして車体傾斜用以外にも広範な分野に適用される。
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る車体傾斜用アクチュエータの一態様は、モータと、上記モータからの回転力が入力される回転部と、ボールねじを介して上記回転部と繋がり、当該回転部の回転に伴って当該ボールねじに沿って直線移動することで車体の傾斜を変える直動部と、上記回転部に組み込まれ、上記モータ側からの回転力は上記ボールねじ側へと伝達し、当該ボールねじ側からの回転力は遮断して回転を止める遮断部と、を備える。
【0009】
このような車体傾斜用アクチュエータによれば、ボールねじが採用されることで動力伝達効率・応答性・精度の向上が図られ、構成もコンパクトで設置スペースが小さい。また、傾斜維持の際にはモータの駆動力が無くても遮断部で回転部の回転を止めることができるので省エネルギー化も図られる。ボールねじの採用による動力伝達効率の向上にともなって直動部から回転部への外力伝達も増大するが、遮断部によって外力伝達が止められるためボールねじ採用の利点が顕著となる。
【0010】
また、上記の車体傾斜用アクチュエータにおいて上記遮断部が、機械機構のみで機能するものであることが好ましい。上記遮断部としては、例えば電磁式クラッチなども採用可能であるが、機械式であれば車体の傾斜維持に電力消費が不要となり、特に省エネルギーとなる。また、機械式の遮断部が用いられることで車体傾斜用アクチュエータの構成がより簡素となり一層の省スペース化も図られる。
【0011】
また、上記回転部に組み込まれ、回転速度を低下させる減速部を上記車体傾斜用アクチュエータが更に備える場合には、上記遮断部は、上記減速部と上記ボールねじとの間に設けられても良いし、上記モータと上記減速部との間に設けられても良い。例えば、車体傾斜用アクチュエータにおける負荷トルクが大きい場合や車体傾斜用アクチュエータの出力トルク(推力)が大きい場合には、上記遮断部が上記モータと上記減速部との間に設けられることが好ましい。また、例えば、上記遮断部による回転停止の応答性向上を図る場合や、騒音の軽減を図る場合には、上記遮断部が上記減速部と上記ボールねじとの間に設けられることが好ましい。
【0012】
上記課題を解決するために、本発明に係る車体傾斜用システムは、車体の傾斜を変えるアクチュエータと、上記アクチュエータを制御することで上記車体の傾斜を制御する制御部と、を備えた車体傾斜システムであって、上記アクチュエータが、上記モータと、上記回転部と、上記直動部と、上記遮断部とを備えたものである。
このような車体傾斜用システムによれば、動力伝達効率・応答性・精度の向上が図られると共に、車体の傾斜維持に際しての省エネルギー化も図られる。
【0013】
上記車体傾斜用システムにおいて、上記制御部が、上記車体の傾斜を維持する場合に上記モータの駆動を止めることが好ましい。モータの駆動を止めることで遮断部の機能が顕著に活用されて優れた省エネルギー化が実現される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、動力伝達効率・応答性・精度の向上を図ると共に、車体の傾斜維持に際しての省エネルギー化も図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の車体傾斜システムの一実施形態が組み込まれた鉄道車両を模式的に示す機能ブロック図である
【
図2】本発明の車体傾斜システムの一実施形態が組み込まれた鉄道車両を模式的に示す構造概念図である。
【
図3】電動アクチュエータの構造を示す断面図である。
【
図5】入力部材側から回転力(回転トルク)が入力された場合における逆入力遮断クラッチの動作を示す図である。
【
図6】出力部材側から回転力(回転トルク)が入力された場合における逆入力遮断クラッチの動作を示す図である。
【
図7】他の実施形態の電動アクチュエータを示す図である。
【
図8】変形例の車体傾斜システムが組み込まれた鉄道車両を模式的に示す図である。
【
図9】車体傾斜制御の第2の具体例を示す図である。
【
図10】車体傾斜制御の第3の具体例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。但し、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするため、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。また、先に説明した図に記載の要素については、後の図の説明において適宜に参照する場合がある。
【0017】
図1および
図2は、本発明の車体傾斜システムの一実施形態が組み込まれた鉄道車両を模式的に示す図である。
図1には機能ブロック図が示され、
図2には構造概念図が示されている。
【0018】
鉄道車両1は、車体100と台車200を有し、車体100と台車200の間に本実施形態の車体傾斜システム300が備えられている。車体傾斜システム300の方式としては、制御付き自然振子式や、強制車体傾斜式や、アクチュエータ付きの空気バネ式や、振子式と空気バネ式とが組み合わされたハイブリッド車体傾斜システムなど、いずれの方式が採用されても良い。この車体傾斜システム300が、本発明の車体傾斜システムの一実施形態に相当する。
【0019】
車体傾斜システム300は、車体傾斜機構310と、ECU(Electronic Control Unit)320と、車体傾斜制御装置330と、センサ340とを備えている。
【0020】
車体傾斜機構310は、台車200に対する車体100の傾斜を電動アクチュエータ350によって変更し維持する機構である。センサ340としては、例えば加速度センサとジャイロセンサと速度センサが主に用いられる。
【0021】
車体傾斜制御装置330は、センサ340によって得られる鉄道車両1の走行情報に基づいて車体100の望ましい傾斜を算出し、そのような車体傾斜となるようにECU(Electronic Control Unit)320に指令を出す。ECU320が電動アクチュエータ350のモータ(図示省略)を制御して車体傾斜機構310を駆動させることで所望の車体傾斜が実現される。車体傾斜制御装置330は、電動アクチュエータ350を制御することで車体の傾斜を制御する本発明にいう制御部の一例に相当する。
【0022】
電動アクチュエータ350には逆入力遮断クラッチ360が組み込まれており、後で詳述するように、車体100の傾斜の維持について省エネルギー化が図られている。電動アクチュエータ350が本発明の車体傾斜用アクチュエータの一実施形態に相当する。以下、電動アクチュエータ350の詳細構造について説明する。
【0023】
図3は、電動アクチュエータ350の構造を示す断面図である。
図3には、電動アクチュエータ350の出力軸中心に沿う面で切断された断面の図が示されている。また、一部の要素については、理解の便宜上、断面ではなく外観が示されている。
【0024】
本実施形態の電動アクチュエータ350は、回転運動を直線運動に変換するボールねじを利用することにより、モータから入力された回転力を軸力(軸に沿う方向の力)に変換して出力するボールねじ式直動型アクチュエータである。
【0025】
本実施形態の電動アクチュエータ350は、ボールねじ10と、伝達ギア20と、入力側回転軸22と、出力軸30と、ハウジング部材40と、玉軸受け51と、軸受ハウジング50と、逆入力遮断クラッチ360と、図示が省略されたモータおよび減速器を備えている。
【0026】
伝達ギア20は入力側回転軸22に、ギア固定ナット21で固定されている。伝達ギア20は減速器を介してモータから回転力を受けて入力側回転軸22に伝達する。
【0027】
逆入力遮断クラッチ360は、入力側回転軸22の回転力をボールねじ10のねじ軸11に伝達する。ボールねじ10は、逆入力遮断クラッチ360を介して伝達された回転力による回転運動を直線運動に変換する。
【0028】
出力軸30は、ボールねじ10のナット13に連結され、ボールねじ10により上記回転力から変換された軸力を出力する。出力軸30によって出力される軸力が、
図2に示す車体100に伝達されて車体100の傾きが変更される。
ハウジング部材40は、ボールねじ10及び出力軸30を内包する略筒状の部材であり、電動アクチュエータ350全体を保持している。
【0029】
玉軸受け51は、ボールねじ10のねじ軸11および入力側回転軸22を回転自在に保持している。軸受ハウジング50は、玉軸受け51をハウジング部材40に対して固定している。また、軸受ハウジング50内に逆入力遮断クラッチ360が組み込まれている。
【0030】
減速器からボールねじ10のねじ軸11に至る、モータによって回転駆動される部分が本発明にいう回転部の一例に相当し、出力軸30が本発明にいう直動部の一例に相当する。
【0031】
ボールねじ10は、螺旋状のねじ溝11aを外周面に有するねじ軸11と、ねじ軸11のねじ溝11aに対向する螺旋状のねじ溝13aを内周面に有するナット13と、両ねじ溝11a,13aにより形成される螺旋状のボール転動路内に転動自在に装填された複数のボール(図示せず)と、前記ボールを前記ボール転動路の終点から始点へ戻し循環させるボール循環路(図示せず)と、を備えている。
【0032】
前記ボールは、前記ボール転動路内を移動しつつねじ軸11の回りを回って前記ボール転動路の終点に至り、そこで前記ボール転動路から掬い上げられて前記ボール循環路の一方の端部に入る。前記ボール循環路に入った前記ボールは前記ボール循環路内を通って前記ボール循環路の他方の端部に達し、そこから前記ボール転動路の始点に戻されるようになっている。
【0033】
なお、ねじ軸11、ナット13、及び前記ボールの素材は特に限定されるものではなく、一般的な材料が使用可能であり、例えば鋼等の金属やセラミックがあげられる。また、ねじ溝11a、13aの断面形状は、円弧状でもよいしゴシックアーク状でもよい。
【0034】
ボールねじ10は、前記ボールを介して間接的に係合されたナット13とねじ軸1とが相対的に回転運動させられると、前記ボールの転動を介してねじ軸11とナット13とが軸方向に相対的に直線移動する。そして、前記ボール転動路と前記ボール循環路により無端状のボール通路が形成されており、前記ボール転動路内を転動する前記ボールが無端状の前記ボール通路内を無限に循環するようになっているため、ねじ軸11とナット13とは継続的に直線移動することができる。ねじ軸11の回転方向によって、ナット13の直線移動方向が決定する。
【0035】
ナット13は、連結要素53により、出力軸30に連結されている。本実施形態では一例として2つの連結要素53が備えられている。ナット13が直線移動すると、その軸力が連結要素53によって出力軸30に伝達され、出力軸30がナット3とともに直線移動するので、出力軸30から軸力が出力される。
【0036】
ボールねじ10は、動力伝達効率・応答性・精度に優れており、ねじ軸11に入力された回転力の90%以上が出力軸30の直線移動として出力される。逆に、出力軸30に外力が加えられた場合には、高い比率でねじ軸11に回転として伝達されることになる。車体の傾斜を維持するためには、このように外力から伝達されたねじ軸11の回転を止める必要があり、モータの駆動力で回転を止めるとエネルギーの浪費となる。
【0037】
そこで、電動アクチュエータ350には、減速器からねじ軸11に至る回転部内に、ねじ軸11側からモータ側へと伝達される回転力を遮断して回転を止める逆入力遮断クラッチ360が組み込まれている。
図3に示す例では、逆入力遮断クラッチ360がボールねじ10のねじ軸11と入力側回転軸22との間に組み込まれている。
【0038】
逆入力遮断クラッチ360は、入力側回転軸22側からの回転力については、左右どちらの回転についてもねじ軸11側に伝達し、ねじ軸11側からの回転力については、左右どちらの回転についても遮断して回転を止める。逆入力遮断クラッチ360により、車体傾斜の維持に際してモータの駆動が不要となり、省エネルギー化が図られている。また、逆入力遮断クラッチ360を備えた電動アクチュエータ350は構成がコンパクトであり、油圧式のアクチュエータなどに較べて設置スペースが少なくて済むので省スペース化が図られる。逆入力遮断クラッチ360が本発明にいう遮断部の一例に相当する。
図4は、逆入力遮断クラッチ360の分解斜視図である。
【0039】
逆入力遮断クラッチ360は、ロック式の逆入力遮断クラッチであり、入力部材362と、出力部材363と、被押圧部材364と、1対の係合子365a、365bと、付勢ばね366とを備えている。逆入力遮断クラッチ360は、入力部材362に入力される回転トルクはその全てを出力部材363に伝達するのに対し、出力部材363に逆入力される回転トルクは入力部材362に伝達しない逆入力遮断機能を有している。
【0040】
入力部材362は、入力側回転軸22と一体になっていて回転トルクが入力される。入力部材362は、1対の入力係合凸部362aを有している。1対の入力係合凸部362aは、各々が略楕円柱状で、入力部材362から軸方向に伸長している。1対の入力係合凸部362aは、入力部材362の直径方向に互いに離隔している。
なお、本明細書及び特許請求の範囲で、特に断らない限り、軸方向とは、入力部材2の軸方向をいい、径方向とは、入力部材2の径方向をいう。
【0041】
出力部材363は、ボールねじ10のねじ軸11と一体になっていて回転トルクを出力する。出力部材363は、入力部材362と同軸に配置されており、出力係合カム363aを有している。
【0042】
出力係合カム363aは、略長円柱状で、出力部材363の中央部から軸方向に伸長している。出力係合カム363aの回転中心から外周側面までの距離は、円周方向にわたり一定でなく、出力係合カム363aは、1対の入力係合凸部362aの間部分に配置される。また、出力係合カム363aには、出力係合カム363aの中心を通り短軸方向(直径方向)に貫通するように、断面円形状の案内孔363bが形成されている。
【0043】
付勢ばね366は、案内孔363bの内側に、がたつきなく配置されている。付勢ばね366は、コイルばねであり、その全長は、自由状態で、出力係合カム366の短軸方向の幅よりも大きくなっている。
【0044】
被押圧部材364は、軸受ハウジング50と一体に固定されて、その回転が拘束(阻止)されている。被押圧部材364は、入力部材362及び出力部材363と同軸に、かつ、入力部材362及び出力部材363よりも径方向外側に配置されている。具体的には、逆入力遮断クラッチ360の組立状態で、被押圧部材364の径方向内側に、1対の入力係合凸部362a及び出力係合カム363aが配置される。被押圧部材364の内周面には、円筒面状の凹面である被押圧面364aが全周にわたり設けられている。
【0045】
1対の係合子365a、365bは、略半円形板状(弓形板状)に構成されており、被押圧部材364の径方向内側に配置されている。具体的には、1対の係合子365a、365bは、出力係合カム363aを短軸方向両側から挟むように配設されている。
1対の係合子365a、365bは、外周側面が被押圧面364aに対向しており、径方向内側の底面が出力係合カム363aと係合可能となっている。
【0046】
1対の係合子365a、365bの径方向中間部には、係合子365a、365bを軸方向に貫通する貫通孔が設けられ、貫通孔には入力係合凸部362aが挿入される。
【0047】
係合子365a、365bの貫通孔に入力係合凸部362aが挿入された状態で、入力係合凸部362aと貫通孔との間には隙間が存在する。このため、入力係合凸部362aは係合子365a、365bに対し、入力部材362の回転方向への相対移動が可能である。1対の係合子365a、365bには付勢ばね366により、互いに離れるように付勢力が付与される。
次に、逆入力遮断クラッチ360の動作について説明する。
先ず、入力部材362側から回転トルクが入力された場合を説明する。
図5は、入力部材362側から回転力(回転トルク)が入力された場合における逆入力遮断クラッチ360の動作を示す図である。
【0048】
入力部材362に回転トルクが入力されると、
図5に示すように、係合子365a、365bの貫通孔内で、入力係合凸部362aが入力部材362の回転方向(
図5の例では時計方向)に回転する。すると、入力係合凸部362aの径方向内側面が、係合子365a、365bの内面を径方向内方に向けて押圧し、1対の係合子365a、365bを、付勢ばね366の力に抗して、被押圧面364aから離れる方向にそれぞれ移動させる。
【0049】
これにより、1対の係合子365a、365bが互いに近づく方向に移動して出力係合カム363aを径方向両側から挟持する。したがって、入力部材362に入力された回転トルクは、1対の係合子365a、365bを介して、出力部材363に伝達され、出力部材363から出力される。
【0050】
逆入力遮断クラッチ360は、入力部材362に回転トルクが入力されると、入力部材362の回転方向に関係なく、1対の係合子365a、365bを、被押圧面364aから離れる方向にそれぞれ移動させる。そして、入力部材362に入力された回転トルクを、1対の係合子364aを介して、出力部材363に伝達する。
次に、出力部材363側から回転トルクが逆入力された場合を説明する。
図6は、出力部材363側から回転力(回転トルク)が入力された場合における逆入力遮断クラッチ360の動作を示す図である。
【0051】
出力部材363に回転トルクが逆入力されると、
図6に示すように、出力係合カム363aが、1対の係合子365a、365b同士の間で、出力部材363の回転方向(
図6の例では時計方向)に回転する。すると、出力係合カム363aの両端部分が1対の係合子365a、365bを押圧して互いに離れるようにそれぞれ移動させる。これにより、1対の係合子365a、365bそれぞれの外側面が被押圧面364aに対して押し付けられる。そして、1対の係合子365a、365bが出力係合カム363aと被押圧部材364との間で突っ張ることで、被押圧部材364に対する回転が止められるので、回転トルクは入力部材362側に伝達されない。
【0052】
逆入力遮断クラッチ360は、出力部材363に回転トルクが逆入力されると、出力部材363の回転方向に関係なく、1対の係合子365a、365bを、被押圧面364aに近づく方向にそれぞれ移動させて回転を止める。
【0053】
以上説明したように動作する逆入力遮断クラッチ360が
図3に示すように組み込まれていることにより、電動アクチュエータ350は、モータから減速器および伝達ギア20を介して入力側回転軸22に伝達される回転力はボールねじ10のねじ軸11へと伝達する。一方で、電動アクチュエータ350は、出力軸30側から外力によってねじ軸11に逆入力された回転力については、逆入力遮断クラッチ360によって遮断して回転を止める。従って、逆入力された回転力は伝達ギア20や減速器やモータには伝達されないので、回転を止めるためにモータを駆動する必要も無い。つまり、電動アクチュエータ350は、車体100の傾斜を維持するためにモータの駆動を必要とせず、省エネルギー化が図られている。
【0054】
図1に示す車体傾斜システム300では、車体傾斜制御装置330が、車体100の傾斜維持に際してECU320を介してモータの駆動を止める。これにより、車体傾斜システム300の省エネルギー化が実現される。
【0055】
本発明にいう遮断部としては、例えば電磁クラッチが用いられても良いが、本実施形態では、上記説明したように機械式の逆入力遮断クラッチ360が用いられている。このため、回転を止めるための電力は全く不要で、より省エネルギー化が図られている。また、機械式の逆入力遮断クラッチ360が用いられることにより、電動アクチュエータ350の構成は、電磁クラッチが用いられる場合より簡素となり、一層の省スペース化が図られる。
【0056】
電動アクチュエータ350における逆入力遮断クラッチ360の位置としては、
図3に示す例では、減速器とボールねじ10との間に設けられている。逆入力遮断クラッチ360がこのように配置されていると、逆入力が生じた場合に回転力が減速器を経ずに逆入力遮断クラッチ360に伝達されるため、回転停止の応答性向上が図られる。また、逆入力遮断クラッチ360がこのように配置されていると、減速器によるバックラッシュなどの影響が抑制されて騒音が低減される。
次に、逆入力遮断クラッチ360の配置が異なる他の実施形態について説明する。
図7は、他の実施形態の電動アクチュエータを示す図である。
図7に示す電動アクチュエータ400は、
図1および
図2に示す車体傾斜システム300において、
図3に示す電動アクチュエータ350に替えて用いられる。
【0057】
図7には、
図3で図示が省略されていたモータ410および減速器420も図示されているが、
図3で図示されていたハウジング部材40については図示が省略されている。
モータ410は例えばサーボモータであり、本発明にいうモータの一例に相当する。
【0058】
減速器420は、複数のギア421、422、423を有し、歯数が異なるギアがかみ合って回転することにより、モータ410側の回転速度に対して伝達ギア20側の回転速度を低下させる。このように回転速度が低減されることにより、伝達ギア20側ではモータ410側での回転力(回転トルク)よりも大きな回転力(回転トルク)が生じる。減速器420は、本発明にいう減速部の一例に相当する。本発明にいう減速部としては、歯車式以外にベルト式のものが用いられも良い。
【0059】
電動アクチュエータ400における負荷トルクが大きい場合や出力トルク(推力)が大きい場合には、減速器420として減速比の大きいものが採用され、モータ410側での回転力(回転トルク)に対して伝達ギア20側での回転力(回転トルク)が特に大きくなる。このため、
図3に示す逆入力遮断クラッチ360の配置では、逆入力遮断クラッチ360にも大きな力がかかることになり、大型の逆入力遮断クラッチ360が必要となる。
【0060】
逆入力遮断クラッチ360の大型化は、電動アクチュエータ400の大型化に繋がるため、避けることが望ましい。そこで、
図7に示す電動アクチュエータ400では、モータ410と減速器420との間に逆入力遮断クラッチ360が配置されている。逆入力遮断クラッチ360のこのような配置により、外力による回転力が逆入力された場合には、減速器420を経ることで回転力が低減されることになる。従って、逆入力遮断クラッチ360に係る力が小さくなり、逆入力遮断クラッチ360の小型化が可能となり、延いては電動アクチュエータ400の小型化が図られる。
次に、車体傾斜システム300の変形例について説明する。
【0061】
図8は、変形例の車体傾斜システム300が組み込まれた鉄道車両2を模式的に示す図である。
図8には、非傾斜状態(A)と傾斜状態(B)の鉄道車両2が示されている。
【0062】
図8に示す鉄道車両2は、車体100と台車200との間に変形例の車体傾斜システム300および車体傾斜機構310が備えられている。
図8に示す変形例の車体傾斜システム300および車体傾斜機構310では、複数の電動アクチュエータ350が備えられ、各電動アクチュエータ350は重力方向に沿った方向を向いて配備されている。
【0063】
複数の電動アクチュエータ350は、それぞれ
図3に示す構造を有する。複数の電動アクチュエータ350において車体100の押し上げ量が互いに同じであると鉄道車両2は非傾斜状態(A)となり、複数の電動アクチュエータ350において車体100の押し上げ量が互いに異なると鉄道車両2は傾斜状態(B)となる。
【0064】
次に、変形例の車体傾斜システム300が組み込まれた鉄道車両2を例として、車体傾斜制御の具体例を説明する。但し、以下説明する車体傾斜制御の具体例は、
図1および
図2に示す鉄道車両1にも採用され得る。
【0065】
車体傾斜制御の第1の具体例では、
図8に示すように地面500の傾きに対して車体100を水平に保つ制御が行われる。車体傾斜システム300に備えられた
図1のセンサ340が車体100の傾きを検知し、検知された傾きを打ち消す向きに複数の電動アクチュエータ350が台車200に対して車体100を傾ける。この結果、電動アクチュエータ350が地面500の傾斜角だけ、地面500の傾斜とは逆向きに車体100を傾斜させることになり、結果として車体100が水平に保たれる。
【0066】
車体傾斜制御の第1の具体例により、車体100内の積載物や乗客などは、地面500の傾きにかかわらず水平に保たれるので乗り心地が向上し、荷崩れなどが抑制される。車体傾斜制御の第1の具体例は、鉄道以外にも、例えば自動車の車両などに適用することが出来る。
図9は、車体傾斜制御の第2の具体例を示す図である。
図9にも、非傾斜状態(A)と傾斜状態(B)の鉄道車両2が示されている。
図9に示す第2の具体例では、鉄道車両2がカーブなどの曲線を旋回して走行する際に生じる遠心力に対応した制御が行われる。
【0067】
車体傾斜システム300のセンサ340は、重力Fgと遠心力Fcとの合力Frの方向を検知し、合力Fr方向が重力Fg方向から傾いた向きと同じ向きに車体100を複数の電動アクチュエータ350が傾ける。この結果、電動アクチュエータ350が重力Fg方向と合力Fr方向との間の角度分だけ車体100を旋回の内側に向けて傾け、車体100内の乗客600は、車体100の床方向を真下と感じることになるので乗り心地が向上する。
図10は、車体傾斜制御の第3の具体例を示す図である。
【0068】
車体傾斜制御の第1および第2の具体例では走行中の車両における車体傾斜制御について説明したが、
図10に示す第3の具体例では、停止した貨物用の鉄道車両3における車体傾斜制御が行われる。貨物用の鉄道車両3は、車体100の側面110が上部の支点120で回転自在に支えられている。車体100内には土砂などの積載物700が積載され、運搬車両800などへの積み替えの際に、電動アクチュエータ350が車体100を運搬車両800側に傾ける。これにより、積載物700が車体100の床を滑って側面110を押し開け、積載物700が運搬車両800へと投入される。
上記説明した各具体例においても、電動アクチュエータ350は、車体100の傾斜を電力の供給無しで維持することができ、省エネルギー化が図られている。
【0069】
なお、上記説明では、車体傾斜用アクチュエータおよび車体傾斜システムの鉄道車両への応用例が示されているが、本発明の車体傾斜用アクチュエータや車体傾斜システムは、例えば自動車など他の車両に応用されても良い。
【0070】
また、上記説明では、アクチュエータの車体傾斜システムへの応用例が示されているが、本発明のアクチュエータは、例えば、歩行支援装置やロボットアームなど、外力に抗して姿勢などを維持する装置のアクチュエータとして広範な分野に応用可能である。
【符号の説明】
【0071】
1,2,3…鉄道車両、100…車体、200…台車、300…車体傾斜システム、
310…車体傾斜機構、320…ECU(Electronic Control Unit)、
330…車体傾斜制御装置、340…センサ、350…電動アクチュエータ、
10…ボールねじ、20…伝達ギア、22…入力側回転軸、30…出力軸、
40…ハウジング部材、51…玉軸受け、50…軸受ハウジング、11…ねじ軸、
13…ナット、360…逆入力遮断クラッチ、362…入力部材、363…出力部材、
364…被押圧部材、365a、365b…係合子、366…付勢ばね、
362a…入力係合凸部、363a…出力係合カム、410…モータ、420…減速器
500…地面、600…乗客、700…積載物、800…運搬車両