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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-21
(45)【発行日】2025-04-30
(54)【発明の名称】生体情報検出装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/11 20060101AFI20250422BHJP
   A61B 5/0245 20060101ALI20250422BHJP
【FI】
A61B5/11 110
A61B5/0245 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021121133
(22)【出願日】2021-07-23
(65)【公開番号】P2023016642
(43)【公開日】2023-02-02
【審査請求日】2024-04-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 領
(72)【発明者】
【氏名】柴田 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 里穂
【審査官】▲高▼ 芳徳
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/159315(WO,A1)
【文献】特開2021-079025(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/06 - 5/22
A61B 5/02 - 5/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者の生体情報を検出する生体情報検出装置であって、
第1電波を前記対象者に向けて放射する送信アンテナ(12、12A)と、
前記送信アンテナから放射されて前記対象者を透過した電波を、前記対象者に向けて反射する反射部材(13、13A、13B)と、
前記反射部材で反射された電波を第2電波として受信する受信アンテナ(14、14A)と、
前記送信アンテナから前記第1電波が放射されている際に、前記受信アンテナが受ける前記第2電波に応じた受信信号を取得する信号取得部(21)と、
前記信号取得部が取得した前記受信信号に基づいて、前記生体情報を算出する演算部(24)と、を備え、
前記第1電波および前記第2電波は、互いに異なる方向の偏波を持つ電波であり、
前記受信アンテナは、前記第2電波の偏波の受信感度が前記第1電波の偏波に比べて高くなっており、
前記送信アンテナ(12A)は、前記第1電波として所定旋回方向の円偏波または楕円偏波の電波を前記対象者に向けて放射し、
前記反射部材(13B)は、前記第2電波の旋回方向が前記所定旋回方向と逆向きとなるように、前記送信アンテナから放射される前記第1電波を反射する際に前記第1電波の偏波方向を回転させる、生体情報検出装置。
【請求項2】
前記送信アンテナおよび前記受信アンテナは、前記対象者に対して前記反射部材とは反対側に配置されている、請求項1に記載の生体情報検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、対象者の生体情報を検出する生体情報検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電波透過式の生体情報検出装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1には、送信アンテナから対象者に向けて放射された電波を受信アンテナで受信する構成になっている。受信アンテナ側で受信される電波は、対象者の心拍の変動に合わせて変動する。このため、受信アンテナ側で受信される電波の変動を観測することで対象者の心拍数を算出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-153783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の生体情報検出装置は、受信アンテナで受信する成分に、対象者の身体を透過した透過波の他に、送信アンテナから直接受信する直接波や対象者の身体の表面で回折して受信する体表面反射波が含まれる。透過波には、対象者の心拍の変動に対応する心拍成分が含まれるが、直接波と体表面反射波には、心拍成分が含まれない。すなわち、直接波と体表面反射波は、透過波と異なり、生体情報の検出精度を低下させるノイズ成分となってしまう。これらは本発明者らの鋭意検討の末に見出された。
【0005】
本開示は、生体情報の検出精度の向上を図ることが可能な生体情報検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、
対象者の生体情報を検出する生体情報検出装置であって、
第1電波を前記対象者に向けて放射する送信アンテナ(12、12A)と、
送信アンテナから放射されて対象者を透過した電波を、対象者に向けて反射する反射部材(13、13A、13B)と、
反射部材で反射された電波を第2電波として受信する受信アンテナ(14、14A)と、
送信アンテナから前記第1電波が放射されている際に、受信アンテナが受ける第2電波に応じた受信信号を取得する信号取得部(21)と、
信号取得部が取得した受信信号に基づいて、生体情報を算出する演算部(24)と、を備え、
第1電波および第2電波は、互いに異なる方向の偏波を持つ電波であり、
受信アンテナは、第2電波の偏波の受信感度が第1電波の偏波に比べて高くなっており、
送信アンテナ(12A)は、第1電波として所定旋回方向の円偏波または楕円偏波の電波を対象者に向けて放射し、
反射部材(13B)は、第2電波の旋回方向が所定旋回方向と逆向きとなるように、送信アンテナから放射される第1電波を反射する際に第1電波の偏波方向を回転させる
【0007】
これによれば、第2電波の偏波に対する受信アンテナの受信感度が高いので、対象者を透過して対象者の生体情報に対応する成分が含まれる第2電波を受信アンテナで適切に受信することができる。加えて、第1電波の偏波に対する受信アンテナの受信感度が低いので、ノイズ成分となる第1電波の受信アンテナでの受信が抑制される。
【0008】
したがって、本開示の生体情報検出装置によれば、受信アンテナが第1電波および第2電波それぞれを区別せずに受信するものに比べて、生体情報の検出精度の向上を図ることができる。
【0009】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態に係る生体情報検出装置の概略構成図である。
図2】シートベルト等を説明するための説明図である。
図3】送信アンテナを説明するための説明図である。
図4】反射部材を説明するための説明図である。
図5】反射部材による電波の変化を説明するための説明図である。
図6】受信アンテナの特性を説明するための説明図である。
図7】第1実施形態に係る生体情報検出装置の情報制御部が実行する処理の流れを示すフローチャートである。
図8】受信信号の処理の流れを説明するための説明図である。
図9】受信信号の周波数特性を説明するための説明図である。
図10】比較例における受信アンテナが受信する電波を説明するための説明図である。
図11】比較例における受信信号の周波数特性を説明するための説明図である。
図12】第2実施形態に係る反射部材を説明するための説明図である。
図13】反射部材の模式的な拡大図である
図14】反射部材における電波の変化を説明するための説明図である。
図15】第3実施形態に係る生体情報検出装置の概略構成図である。
図16】送信アンテナが放射する第1電波を説明するための説明図である。
図17】反射部材における電波の変化を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の実施形態において、先行する実施形態で説明した事項と同一もしくは均等である部分には、同一の参照符号を付し、その説明を省略する場合がある。また、実施形態において、構成要素の一部だけを説明している場合、構成要素の他の部分に関しては、先行する実施形態において説明した構成要素を適用することができる。以下の実施形態は、特に組み合わせに支障が生じない範囲であれば、特に明示していない場合であっても、各実施形態同士を部分的に組み合わせることができる。
【0012】
(第1実施形態)
本実施形態について、図1図11を参照して説明する。本実施形態では、本開示の生体情報検出装置1を用いて、車両の座席Sに着座した乗員Pの一人の心拍数を生体情報として算出する例について説明する。なお、図面に図示した前後、左右、上下を付した各矢印は、車両に乗員Pが搭乗した際の前後方向DR1、左右方向DR2、上下方向DR3を示している。
【0013】
車両は、例えば、自動運転システムが搭載された自動運転車両である。自動運転システムは、所定の指標レベル以下(例えば、NHTSAの指標レベル3以下)では、運転手の監視下で作動し、運転責任は運転手が負うものとされている。一方、自動運転システムにより運転手を含む乗員Pの心理的負荷が減り、乗員Pの覚醒度が低下することが多くの学会で報告されている。そのため、近年、乗員Pの覚醒度を検出し、その結果に応じて警告表示等を行うシステムの開発が進められている。乗員Pの覚醒度を検出するために、乗員Pの心拍数や呼吸数といった生体情報を計測する場合、「運転の妨げとならないこと」および「常時計測が必要であること」といった制約から、乗員Pの身体に対して非接触、且つ、非拘束の手法による計測が望まれている。
【0014】
これらを加味して、生体情報検出装置1は、乗員Pを透過した電波信号に基づいて、乗員Pの生体情報を検出する電波透過式の装置として構成されている。生体情報検出装置1は、車両の座席Sに着座した乗員Pを対象者とし、当該対象者の心拍数を生体情報として算出する。
【0015】
ここで、座席Sは、図1に示すように、乗員Pの下半身を支持するシートクッションSC、乗員Pの上半身を背後から支持するシートバックSB、乗員Pの頭部を支持するヘッドレストHRを有している。車両の走行時等のように乗員PがシートベルトBを装着した状態では、乗員Pの背中がシートバックSBに接する。
【0016】
シートベルトBは、図2に示すように、乗員Pの胸部を肩から腰にかけて斜めに固定する肩ベルトBS、乗員Pの腰部を横切る腰ベルトBRを有する3点式のものが採用されている。乗員PがシートベルトBを装着した状態では、乗員Pの胸部が肩ベルトBSに密着し、乗員Pの腰部が腰ベルトBRに密着する。
【0017】
図1に示すように、生体情報検出装置1は、発信機11、送信アンテナ12、反射部材13、受信アンテナ14、受信機15、および情報制御部20を備えている。生体情報検出装置1の各種構成は、基本的に車両に搭載されるが、一部が車両の外部に設置されるようになっていてもよい。
【0018】
発信機11は、所定の周波数(例えば、900MHz帯の周波数)の送信信号を送信アンテナ12に出力する。送信アンテナ12は、座席Sのうち、シートバックSBの内部に配置されている。送信アンテナ12は、発信機11からの送信信号に応じた電波を第1電波として座席Sに着座した乗員Pの上半身に向けて放射する。
【0019】
反射部材13は、乗員Pに対して送信アンテナ12とは反対側に配置されている。反射部材13は、座席Sに着座した乗員Pを挟んで送信アンテナ12と対向して配置されている。反射部材13は、外部から放射された電波を、当該電波の入射方向に反射する反射アンテナで構成されている。本実施形態の反射部材13は、送信アンテナ12から放射されて乗員Pを透過した電波を、乗員Pに向けて反射する。具体的には、反射部材13は、図2に示すように、シートベルトBの肩ベルトBSに配置されている。これにより、乗員PがシートベルトBを装着すると、乗員Pの衣服等を介して乗員Pの身体に反射部材13が密着する。
【0020】
受信アンテナ14は、反射部材13で反射された電波を第2電波として受信する。第2電波は、反射部材13にて乗員Pに向けて反射された反射波である。受信アンテナ14は、送信アンテナ12と同様に、座席Sのうち、シートバックSBの内部に配置されている。すなわち、受信アンテナ14および送信アンテナ12は、乗員Pに対して反射部材13とは反対側に配置されている。受信アンテナ14は、送信アンテナ12から放射されて乗員Pを透過した電波のうち、反射部材13で反射されて再び乗員Pを透過した電波を受信する。図1では、受信アンテナ14と送信アンテナ12とが離間して配置されているが、受信アンテナ14と送信アンテナ12は、近接して配置されていてもよい。
【0021】
受信機15は、受信アンテナ14が受信した電波信号を増幅して出力する。具体的には、受信機15は、受信アンテナ14が受信した電波信号を増幅して生体信号P1として情報制御部20に出力する。
【0022】
情報制御部20は、受信機15から取得した生体信号P1に基づいて、乗員Pの心拍数を算出する。情報制御部20は、入力部21、記憶部22、出力部23、処理部24を含んでいる。
【0023】
入力部21は、送信アンテナ12から電波が放射されている際に受信アンテナ14が受けた電波に応じた受信信号を取得する信号取得部である。入力部21は、受信機15から入力されたアナログ信号である生体信号P1をデジタル信号として処理部24に出力する。
【0024】
記憶部22は、RAM、ROM、書き込み可能な不揮発性記憶媒体等を含む。記憶部22を構成するRAM、ROM、書き込み可能な不揮発性記憶媒体は、いずれも非遷移的実体的記憶媒体である。
【0025】
出力部23は、処理部24から入力された信号を情報制御部20の外部の装置に出力する。出力先の外部の装置は、例えば、経路案内等を行う車載ナビゲーション装置でもよいし、車両の外部と通信を行う車載データ通信モジュールでもよいし、乗員Pが携帯する携帯通信端末でもよい。
【0026】
処理部24は、記憶部22のROMまたは書き込み可能な不揮発性記憶媒体に記録されたプログラムに従った処理を実行する装置である。本実施形態の処理部24は、記憶部22のRAMを作業領域として使用する。処理部24は、入力部21が取得した受信信号に基づいて生体情報を算出する演算部として機能する。
【0027】
ここで、乗員Pの身体を透過した透過波には、乗員Pの心拍の変動に対応する心拍成分が含まれるが、乗員Pの身体を透過していない電波には、心拍成分が含まれない。すなわち、乗員Pの身体を透過していない電波は、透過波と異なり、生体情報の検出精度を低下させるノイズ成分となる。なお、乗員Pの身体を透過していない電波としては、送信アンテナ12から受信アンテナ14に向かう直接波W1と乗員Pの身体の表面を回折して受信アンテナ14に向かう体表面反射波W2等が含まれる。
【0028】
例えば、送信アンテナ12が放射する第1電波の強度を“E0”とし、第1電波の偏波面と第2電波の偏波面とのなす角度を“θ”としたとき、受信アンテナ14が受信する第1電波の受信強度Eは、以下の数式F1で表すことができる。
【0029】
E=E0×cosθ ・・・(F1)
数式F1に示すように、第1電波の受信強度Eは、が“θ=0”のときに“E0”となり、“θ=π/2”のときに“0”となる。このため、送信アンテナ12が放射する第1電波の偏波を反射部材13によって“π/2”を回転させることができれば、受信アンテナ14における第1電波の受信強度Eを“0”にすることができる。すなわち、送信アンテナ12が放射する第1電波の偏波を反射部材13によって“π/2”を回転させることができれば、受信アンテナ14では、ノイズとなる第1電波を受信することなく、乗員Pの身体を透過した電波を受信することが可能となる。
【0030】
上記事項を加味して、生体情報検出装置1は、送信アンテナ12が放射する第1電波と受信アンテナ14が受信する第2電波とが、互いに異なる方向の偏波を持つ電波になっている。そして、受信アンテナ14は、第2電波の偏波の受信感度が第1電波の偏波に比べて高くなっている。以下、本実施形態の送信アンテナ12、反射部材13、受信アンテナ14について、図2図6を参照しつつ説明する。
【0031】
図3に示すように、送信アンテナ12は、第1電波として平面状の偏波面を有する電波を乗員Pに向けて放射する。具体的には、送信アンテナ12は、電波を発するエレメントを上下方向DR3に沿って垂直に配設されたダイポール型のアンテナで構成されている。送信アンテナ12は、垂直面内で振動する垂直偏波VPを乗員Pに向けて放射する。
【0032】
ここで、本明細書における“平面状の偏波面を有する電波”とは、電波の偏波面が実質的に一平面内にあるものをいう。“平面状の偏波面を有する電波”としては、例えば、水平偏波HP、垂直偏波VP等の直線偏波を有するものが挙げられる。なお、水平偏波HPは、電場の振動方向が地面に対して略水平な直線偏波である。垂直偏波VPは、電場の振動方向が地面に対して略垂直な直線偏波である。
【0033】
反射部材13は、送信アンテナ12から放射されて乗員Pを透過した第1電波を反射するだけでなく、第1電波を反射する際に第1電波の偏波面を回転させる。具体的には、反射部材13は、第1電波の偏波面と反射波となる第2電波の偏波面とが直交または平行よりも直交に近い態様で交差するように、送信アンテナ12から放射される第1電波を反射する際に第1電波の偏波方向を回転させる。送信アンテナ12から放射される第1電波を反射する際に回転させることができるように、反射部材13は、送信アンテナ12に対して傾いた姿勢で配設されている。
【0034】
図2および図4に示すように、反射部材13は、送信アンテナ12の延在方向である上下方向DR3に対し所定の傾斜角度αを有する姿勢で配設されたダイポール型の反射アンテナで構成されている。本実施形態の反射部材13は、肩ベルトBSに対して固定されている。反射部材13は、肩ベルトBSとともに、肩から腰に向かって斜めに延びている。
【0035】
ここで、傾斜角度αは、第1電波の偏波方向を回転可能なように“0”よりも大きい角度に設定される。傾斜角度αは、第1電波を反射可能なように“π/2”未満の角度に設定される。例えば、傾斜角度αは、“π/6”から“π/3”の角度の範囲内に設定される。傾斜角度αは、反射後の偏波の向きおよび反射に伴う損失を考慮して、“π/4”±“π/18”の角度の範囲内に設定されていることが望ましい。なお、前記の傾斜角度αは、反射部材13を設置する際の目安であり、実際には生体情報の検出精度を加味して最適な角度に調整することが望ましい。
【0036】
このように構成される反射部材13は、第1電波を反射する際に、第1電波の偏波面と反射波の偏波面とが直交または平行よりも直交に近い態様となるように、偏波面を第1電波の偏波方向を回転させる。例えば、図5に示すように、反射部材13は、反射波が垂直偏波VPよりも水平偏波HPに近くなるように、第1電波の偏波方向を回転させる。なお、平行よりも直交に近い態様は、例えば、第1電波の偏波面と反射波である第2電波の偏波面とのなす角度が“π/4”から“π/2”の範囲内となる態様として解釈することができる。
【0037】
受信アンテナ14は、反射部材13で反射された電波を第2電波として受信する。受信アンテナ14は、送信アンテナ12と同様に、座席Sのうち、シートバックSBの内部に配置されている。受信アンテナ14は、送信アンテナ12から放射されて乗員Pを透過した電波のうち、反射部材13で反射されて再び乗員Pを透過した電波を受信する。
【0038】
受信アンテナ14は、第1電波とは異なる方向の偏波を有する第2電波を受信可能に構成され、当該第2電波の偏波の受信感度が第1電波の偏波に比べて高くなっている。すなわち、受信アンテナ14は、例えば、垂直偏波VPの受信が抑制され、且つ、水平偏波HPの受信が促進される構造になっている。受信アンテナ14は、例えば、受信アンテナ14は、図6に示すように水平面内で振動する水平偏波HPを受信可能なダイポール型のアンテナで構成される。
【0039】
次に、生体情報検出装置1の作動について説明する。発信機11は、所定の周波数の送信信号を送信アンテナ12に出力する。送信アンテナ12は、発信機11からの送信信号に応じた電波を座席Sに乗車した乗員Pに向けて放射する。具体的には、送信アンテナ12は、垂直偏波VPを第1電波として乗員Pに向けて放射する。送信アンテナ12から送信された第1電波の一部は、座席Sに乗車した乗員Pを透過する。
【0040】
電波に対して乗員Pの身体は誘電体として機能する。このため、乗員Pの身体を電波が通過する際に、電波の電界強度に誘電体損失が生じる。乗員Pの身体のうち、心臓Hは、拡張、収縮に伴ってその形状が変化する。このため、心臓Hを透過して反射部材13に至る電波において、電界強度に生じる誘電体損失は、心臓Hの心拍に応じて変化する。
【0041】
乗員Pを透過した第1電波は、反射部材13で反射される。この際、反射部材13は、第1電波の偏波方向を回転させる。反射部材13で反射された電波は、乗員Pの身体を透過した後、そのうちの水平偏波HPの成分が第2電波として受信アンテナ14で受信される。このようにして受信アンテナ14が受信する受信信号の強度は、心臓Hの心拍に応じて周期的に変化する成分を含む。したがって、送信アンテナ12からの電波を受信アンテナ14が受信した際に受信アンテナ14から受信機15に出力される電気信号のレベルは、心臓Hの心拍に応じて変動する成分が含まれる。
【0042】
以下、情報制御部20の処理部24が実行する処理の流れについて図7図8図9を参照しつつ説明する。図7に示す処理は、車両の座席Sに乗員Pが着座した状態において、情報制御部20によって定期的または不定期に実行される。
【0043】
図7に示すように、処理部24は、ステップS100にて、送信アンテナ12から電波が送信された際に、受信アンテナ14で受信される受信信号の時間波形を、受信機15を介して取得する。受信信号の時間波形は、受信信号の信号強度の時間変化である。時間波形は、例えば、図8の上段に示すような波形となる。この時間波形には、心拍に相関性を有する成分だけでなく心拍とは無関係な成分が含まれる。
【0044】
続いて、処理部24は、ステップS110にて、受信信号に含まれるノイズ成分を除去するフィルタ処理を行う。例えば、処理部24は、心拍に相関性を有する成分の周波数帯を通すフィルタを用いて、受信信号に含まれるノイズ成分を除去する。これにより、例えば、図8の中段に示す時間波形が得られる。
【0045】
続いて、処理部24は、ステップS120にて、ステップS110で得られた時間波形をフーリエ変換して受信信号の周波数特性を算出する。周波数特性は、周波数と強度と関係を示す特性である。これにより、例えば、図8の下段に示す周波数特性が得られる。なお、図8の下段では、横軸が周波数を示し、縦軸が信号の強度を示している。
【0046】
続いて、処理部24は、ステップS130に移行して、周波数特性において、心拍に相関性を有するピーク強度SPを特定する。例えば、図9に示すように、周波数特性において強度が最も大きくなるピーク強度SPを心拍に相関性を有する強度として特定する。そして、処理部24は、特定したピーク強度SPおよびピーク強度SPに対応する周波数を、心拍に相関性を有する成分として抽出する。
【0047】
続いて、処理部24は、ステップS140に移行し、ステップS130で抽出した心拍に相関性を有する成分から心拍数を算出する。具体的には、処理部24は、受信信号の周波数特性においてピーク強度SPに対応する周波数をHz単位で表した値に60を乗算することで、bmp単位で表した心拍数を得る。bpmは、beat per minuteの略称であり、1分間当たりの心拍数を表す単位である。例えば、ピーク強度SPに対応する周波数Hzが1Hzであった場合、心拍数はそれに60を乗じた60bpmとなる。
【0048】
続いて、処理部24は、ステップS150にて、ステップS140で算出した心拍数を出力部23から生体情報検出装置1の外部の装置に出力する。処理部24は、例えば、乗員Pの心拍数に基づいて乗員Pの覚醒度等を検出するドライバステータスモニタDSMに対して心拍数を出力するようになっていてもよい。
【0049】
ここで、受信アンテナ14が第1電波の偏波を受信可能に構成されている場合、図10に示すように、受信アンテナ14で受信する成分に、送信アンテナ12から直接受信する直接波W1や乗員Pの身体の表面で回折して受信する体表面反射波W2が含まれる。この場合、直接波W1および体表面反射波W2によって、受信信号の周波数特性が変化する。例えば、図11に示すように、受信信号の周波数特性は、心拍に相関性を有するピーク強度SP以外に、直接波W1および体表面反射波W2に起因するピークNPが現れる。このように、受信信号の周波数特性に対して、心拍に相関性を有するピーク強度SP以外の他のピークが現れると、当該他のピークを心拍に相関性を有する強度として誤検出してしまう虞がある。
【0050】
これに対して、本実施形態の生体情報検出装置1は、送信アンテナ12が放射する第1電波と受信アンテナ14が受信する第2電波とが、互いに異なる方向の偏波を持つ電波になっている。そして、受信アンテナ14は、第2電波の偏波の受信感度が第1電波の偏波に比べて高くなっている。
【0051】
これによれば、第2電波の偏波に対する受信アンテナ14の受信感度が高いので、乗員Pを透過して乗員Pの生体情報に対応する成分が含まれる第2電波を受信アンテナ14で適切に受信することができる。加えて、第1電波の偏波に対する受信アンテナ14の受信感度が低いので、ノイズ成分となる第1電波の受信アンテナ14での受信(すなわち、自己干渉)が抑制される。
【0052】
したがって、本実施形態の生体情報検出装置1によれば、受信アンテナ14が第1電波および第2電波それぞれを区別せずに受信するものに比べて、生体情報の検出精度の向上を図ることができる。
【0053】
また、本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
【0054】
(1)送信アンテナ12は、第1電波として平面状の偏波面を有する電波を乗員Pに向けて放射する。そして、反射部材13は、第1電波の偏波面と第2電波の偏波面とが直交または平行よりも直交に近い態様で交差するように、送信アンテナ12から放射される第1電波を反射する際に第1電波の偏波方向を回転させる。このように、反射部材13によって第1電波の偏波方向を“π/2”または“π/2”に近い態様で回転させる構成であれば、受信アンテナ14側にて第1電波および第2電波それぞれを適切に区別し易くなるので、生体情報の検出精度の向上を図ることができる。
【0055】
(2)ここで、本実施形態とは異なり、送信アンテナ12および受信アンテナ14が対象者を挟んで対向する位置に配置されている場合、乗員Pの身体を透過した電波だけでなく、乗員Pの体表で回折した電波を受信アンテナ14で受信してしまう虞がある。
【0056】
これに対して、本実施形態の生体情報検出装置1では、送信アンテナ12および受信アンテナ14が乗員Pに対して反射部材13とは反対側に配置されている。このような配置態様によれば、乗員Pの体表を回折した電波が反射部材13で反射されない限り、受信アンテナ14で受信しに難くなる。したがって、乗員Pの体表で回折した電波の受信アンテナ14での受信を抑制して、生体情報の検出精度の向上を図ることができる。
【0057】
(第1実施形態の変形例)
第1実施形態の如く、垂直偏波VPを反射部材13によって完全に水平偏波HPに回転させることができればよいが、現実的に難しい場合がある。この場合、単に水平偏波HPを受信する受信アンテナ14を用いると、効率の低下が懸念される。このため、送信アンテナ12から受信アンテナ14に直に入力される電波の強度と反射部材13で反射されて入力される電波の強度とを比較考慮して、最も効率の良い角度の偏波面を有する電波を受信可能なアンテナを受信アンテナ14に採用することが望ましい。このことは、以降の実施形態でも同様である。
【0058】
第1実施形態では、送信アンテナ12および受信アンテナ14としてダイポール型のアンテナを例示したが、送信アンテナ12および受信アンテナ14は、ダイポール型のアンテナ以外のものが採用されていてもよい。このことは、以降の実施形態でも同様である。
【0059】
また、第1実施形態では、送信アンテナ12として、垂直面内で振動する垂直偏波VPを乗員Pに向けて放射するものを例示したが、送信アンテナ12は、これに限定されない。送信アンテナ12は、例えば、水平面内で振動する水平偏波HPを乗員Pに向けて放射するようになっていてもよい。この場合、受信アンテナ14は、例えば、水平偏波HPの受信が抑制され、且つ、垂直偏波VPの受信が促進される構造になっているものを採用すればよい。このことは、以降の実施形態でも同様である。
【0060】
反射部材13は、シートベルトBの肩ベルトBSに固定されたものを例示したが、これに限定されない。反射部材13は、例えば、乗員Pの前方のインストルメントパネルに固定されていてもよい。このことは、以降の実施形態でも同様である。
【0061】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について、図12図14を参照して説明する。本実施形態では、第1実施形態と異なる部分について主に説明する。本実施形態では、メタマテリアル構造を有する反射アンテナで反射部材13Aを構成した例について説明する。
【0062】
図12に示すように、反射部材13Aは、金属製の複数の微細素子131を周期的に配列された構造を有し、複数の微細素子131によって入射される電波の偏波方向を回転して反射する。反射部材13Aは、図13に示す微細素子131を周期的に配列して板状に形成したものである。微細素子131の各々は、上下方向DR3および左右方向DR2に対して傾きを有する四角形状の格子枠を有する。
【0063】
このように構成される反射部材13Aは、微細素子131の格子枠の縦寸法Lu、横寸法Lv、幅寸法Ld、傾き角βを調整することで、共振特性を変化させて、入力される電波の偏波面を回転させることができる。本発明者らの実験によれば、本実施形態の反射部材13Aを用いる場合、90%以上の高効率で偏波を回転させることが判っている。例えば、図14に示すように、送信アンテナ12から送信される垂直偏波VPを高効率で水平偏波HPに回転させることができる。なお、第1実施形態の反射部材13を用いる場合は25%程度の効率で偏波を回転させることができる。
【0064】
その他については、第1実施形態と同様である。本実施形態の生体情報検出装置1は、第1実施形態と共通の構成または均等な構成から奏される効果を第1実施形態と同様に得ることができる。
【0065】
また、本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
【0066】
(1)反射部材13Aは、金属製の複数の微細素子131を周期的に配列された構造を有し、複数の微細素子131によって入射される電波の偏波方向を回転して反射する。このように、反射部材13Aが複数の微細素子131によって電波の偏波方向を回転させて反射するものであれば、高い効率で偏波方向を回転させることができる。
【0067】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について、図15図17を参照して説明する。本実施形態では、第1実施形態と異なる部分について主に説明する。
【0068】
図15に示す送信アンテナ12Aは、第1電波として所定旋回方向の円偏波または惰円偏波の電波を乗員Pに向けて放射する。“円偏波”および“楕円偏波”は、電波の進行方向とその電場の振動方向を含む面が回転する偏波である。本実施形態の送信アンテナ12Aは、図16に示すように、右旋回の円偏波RPを放射する。なお、送信アンテナ12Aは、右旋回の楕円偏波を放射するようになっていてもよい。
【0069】
反射部材13Bは、受信アンテナ14に入力される第2電波の旋回方向が第1電波の所定旋回方向と逆向きとなるように、送信アンテナ12から放射される第1電波を反射する際に第1電波の偏波方向を回転させる。
【0070】
ここで、円偏波および楕円偏波は、金属の表面で反射する際に旋回方向が逆転する特性がある。このため、本実施形態では、少なくとも乗員Pを挟んで送信アンテナ12に対向する表面部位が金属で構成された金属部材を反射部材13Bとして採用している。このような反射部材13Bは、例えば、シートベルトBに対して金属板を取り付けることによって実現可能である。
【0071】
受信アンテナ14Aは、第1電波の所定旋回方向と逆向きとなる円偏波または惰円偏波の電波を受信する。受信アンテナ14Aは、図17に示すように、左旋回の円偏波LPを受信する。なお、受信アンテナ14Aは、左旋回の楕円偏波を受信するようになっていてもよい。
【0072】
その他については、第1実施形態と同様である。本実施形態の生体情報検出装置1は、第1実施形態と共通の構成または均等な構成から奏される効果を第1実施形態と同様に得ることができる。
【0073】
また、本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
【0074】
(1)本実施形態の生体情報検出装置1は、送信アンテナ12Aから放射される第1電波の旋回方向を反射部材13Bによって逆向きに回転させるように構成されている。このように、反射部材13Bによって第1電波の旋回方向を逆向きに回転させる構成であれば、受信アンテナ14A側にて第1電波および第2電波それぞれを適切に区別し易くなるので、生体情報の検出精度の向上を図ることができる。
【0075】
(第3実施形態の変形例)
生体情報検出装置1は、送信アンテナ12Aが左旋回の円偏波LPまたは惰円偏波を放射し、受信アンテナ14Aが右旋回の円偏波RPまたは惰円偏波を受信するように構成されていてもよい。また、反射部材13Bは、金属板の表面での反射ではなく、電波の反転を行うようなアンテナで構成されていてもよい。
【0076】
(他の実施形態)
以上、本開示の代表的な実施形態について説明したが、本開示は、上述の実施形態に限定されることなく、例えば、以下のように種々変形可能である。
【0077】
送信アンテナ12および受信アンテナ14が乗員Pに対して反射部材13とは反対側に配置されているものを例示したが、生体情報検出装置1は、これに限定されない。生体情報検出装置1は、受信アンテナ14にて第2電波を検出可能であれば、受信アンテナ14が反射部材13と同様に乗員Pに対して送信アンテナ12とは反対側に配置されていてもよい。
【0078】
上述の実施形態では、生体情報として心拍数を算出するものを例示したが、生体情報検出装置1は、心拍数以外の生体情報(例えば、呼吸数、脈拍数)を算出するようになっていてもよい。
【0079】
上述の実施形態では、本開示の生体情報検出装置1を自動運転システムが搭載された車両に適用した例を説明したが、生体情報検出装置1の適用対象は、これに限定されない。生体情報検出装置1は、例えば、自動運転システムが搭載されていない車両にも適用可能である。生体情報検出装置1は、例えば、送信アンテナ12および受信アンテナ14と反射部材13とが乗員Pを挟んで左右方向DR2に並ぶように配置されていてもよい。生体情報検出装置1は、運転手だけでなく、他の乗員Pの生体情報を算出するように構成されていてもよい。また、生体情報検出装置1は、車両の乗員Pの生体情報を算出する用途だけでなく、車両の外部(例えば、建造物の内部)にいる人の生体情報を算出する用途に用いられていてもよい。
【0080】
上述の実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。
【0081】
上述の実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されない。
【0082】
上述の実施形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、位置関係等に限定されない。
【0083】
本開示の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリーを構成することによって提供された専用コンピュータで、実現されてもよい。本開示の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウエア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータで、実現されてもよい。本開示の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリーと一つ以上のハードウエア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせで構成された一つ以上の専用コンピュータで、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0084】
1 生体情報検出装置
12、12A 送信アンテナ
13、13A、13B 反射部材
14、14A 受信アンテナ
21 入力部(信号取得部)
24 処理部(演算部)
図1
図2
図3
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図5
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