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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-21
(45)【発行日】2025-04-30
(54)【発明の名称】表面性状測定システム
(51)【国際特許分類】
   B24B 49/04 20060101AFI20250422BHJP
   B24B 5/04 20060101ALI20250422BHJP
【FI】
B24B49/04 A
B24B5/04
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021129573
(22)【出願日】2021-08-06
(65)【公開番号】P2022115045
(43)【公開日】2022-08-08
【審査請求日】2024-02-16
(31)【優先権主張番号】P 2021011357
(32)【優先日】2021-01-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】増田 祐生
(72)【発明者】
【氏名】河原 徹
(72)【発明者】
【氏名】村上 慎二
【審査官】山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-504019(JP,A)
【文献】特開平06-348316(JP,A)
【文献】特開昭58-129336(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 49/00 - 49/18
B24B 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象物の凹凸面に沿って検出位置を移動させる際に前記検出位置における凹凸高さ方向の変位値に起因する変位起因要素を検出し、前記変位起因要素に関する変位起因データを出力する検出装置と、
既知の周期的な基準凹凸を有するマスタピースを前記検出対象物として前記検出装置により出力された前記基準凹凸に関する前記変位起因データを表すマスタピース変位起因データを取得し、前記マスタピース変位起因データの周波数応答特性を算出するマスタデータ生成部と、
研削装置にて砥石車により研削した工作物を前記検出対象物として前記検出装置により出力された前記工作物の表面における表面凹凸に関する前記変位起因データを表す測定変位起因データを取得し、前記マスタピース変位起因データの前記周波数応答特性を用いて前記測定変位起因データを補正することにより、前記表面凹凸の真の変位値を算出する補正部と、を備え
前記周波数応答特性は、前記基準凹凸の形状から導出された真の変位値に関する仮想時系列データを入力とし、前記検出装置により出力される変位値に関する時系列データを出力とした場合において、入出力の関係を表す伝達関数である、表面性状測定システム。
【請求項2】
前記検出装置は、回転体である前記検出対象物を回転軸線回りに回転させることによって、前記検出対象物における周方向の前記凹凸面に沿って前記検出位置を移動させる際に、前記変位起因要素を検出し、
前記マスタピースは、回転体であって、外周面または内周面に周方向に沿って前記基準凹凸を有し、
前記工作物は、回転体であって、外周面または内周面に周方向に沿って前記表面凹凸を有する、請求項1に記載の表面性状測定システム。
【請求項3】
前記マスタデータ生成部は、前記マスタピースの回転速度を変化させながら前記検出装置が前記基準凹凸に関する前記変位起因要素を検出した場合に前記検出装置が出力した前記基準凹凸に関する前記マスタピース変位起因データを取得し、前記マスタピース変位起因データの前記周波数応答特性を算出する、請求項2に記載の表面性状測定システム。
【請求項4】
前記マスタデータ生成部は、前記マスタピース変位起因データに対してフーリエ変換を行うことにより前記基準凹凸に関する前記周波数応答特性を表す周波数応答データを生成し、
前記補正部は、フーリエ変換を行った前記測定変位起因データを、前記基準凹凸に関する前記周波数応答データにより除することにより、前記表面凹凸の真の変位値を算出する、請求項1~3のいずれか1項に記載の表面性状測定システム。
【請求項5】
前記マスタデータ生成部は、前記マスタピース変位起因データに対してフーリエ変換を行うことで得られた前記周波数応答データにおける指定周波数範囲のデータを用いて、多項式関数によるフィッティング処理を行うことで、フィッティング処理後の前記周波数応答データを生成し、
前記補正部は、フーリエ変換を行った前記測定変位起因データを、フィッティング処理後の前記基準凹凸に関する前記周波数応答データにより除することにより、前記表面凹凸の真の変位値を算出する、請求項4に記載の表面性状測定システム。
【請求項6】
前記マスタデータ生成部は、ゲインおよび位相に関する前記周波数応答データにおける前記指定周波数範囲のデータを用いて、ゲインおよび位相を含む複素数値について多項式関数によるフィッティング処理を行うことで、ゲインおよび位相に関するフィッティング処理後の前記周波数応答データを生成し、
前記補正部は、ゲインおよび位相を含む複素数値において、フーリエ変換を行った前記測定変位起因データを、フィッティング処理後の前記基準凹凸に関する前記周波数応答データにより除することにより、前記表面凹凸の真の変位値を算出する、請求項5に記載の表面性状測定システム。
【請求項7】
前記マスタデータ生成部は、前記フィッティング処理後の前記周波数応答データを用いて、前記基準凹凸の形状から得られる真の変位起因要素で表される波形を入力とし前記フィッティング処理後の前記周波数応答データを出力とした場合において入出力の関係を表す伝達関数モデルを生成し、
前記補正部は、
前記伝達関数モデルを用いて、前記工作物が研削された際のサンプリング周波数に対応するように、前記基準凹凸に関する変換後の前記周波数応答データを生成し、
フーリエ変換を行った前記測定変位起因データを、前記基準凹凸に関する変換後の前記周波数応答データにより除することにより、前記表面凹凸の真の変位値を算出する、請求項5または6に記載の表面性状測定システム。
【請求項8】
前記検出装置は、前記検出対象物の凹凸面に沿って検出位置を移動させる際に前記検出位置における凹凸高さ方向の前記変位値を前記変位起因要素として検出し、前記変位値に関する時系列データを前記変位起因データとして出力する、請求項1~7のいずれか1項に記載の表面性状測定システム。
【請求項9】
前記検出装置は、前記検出対象物の凹凸面に接触する接触子を有し、前記接触子を前記検出対象物の凹凸面に沿って移動させる際に前記接触子の加速度を前記変位起因要素として検出し、前記加速度に関する時系列データを前記変位起因データとして出力する、請求項1~7のいずれか1項に記載の表面性状測定システム。
【請求項10】
前記検出装置は、
前記検出対象物の凹凸面に沿って検出位置を移動させる際に、前記検出位置における凹凸高さ方向の前記変位値を前記変位起因要素として検出し、前記変位値に関する時系列データを前記変位起因データとして出力する変位検出装置と、
前記検出対象物の凹凸面に接触する接触子を前記検出対象物の凹凸面に沿って移動させる際に、前記接触子の加速度を前記変位起因要素として検出し、前記加速度に関する時系列データを前記変位起因データとして出力する加速度検出装置と、
を備え、
前記マスタデータ生成部は、
前記マスタピースを前記検出対象物として前記変位検出装置により出力された前記変位値に関する時系列データを第一マスタピース変位データとして取得し、前記第一マスタピース変位データの第一周波数応答特性を算出し、
前記マスタピースを前記検出対象物として前記加速度検出装置により出力された前記加速度に関する時系列データをマスタピース加速度データとして取得し、前記マスタピース加速度データを変位化した第二マスタピース変位データを算出し、前記第二マスタピース変位データの第二周波数応答特性を算出し、
前記補正部は、
前記工作物を前記検出対象物として前記変位検出装置により出力された前記変位値に関する時系列データを第一測定変位データとして取得し、
前記工作物を前記検出対象物として前記加速度検出装置により出力された前記加速度に関する時系列データを測定加速度データとして取得し、
前記測定加速度データを変位化した第二測定変位データを算出し、
前記第一周波数応答特性を用いて前記第一測定変位データを補正し、
前記第二周波数応答特性を用いて前記第二測定変位データを補正し、
補正後の前記第一測定変位データおよび補正後の前記第二測定変位データに基づいて、前記表面凹凸の真の変位値を算出し、
前記第一周波数応答特性は、前記基準凹凸の形状から導出された真の変位値に関する仮想時系列データを入力とし、前記第一マスタピース変位データを出力とした場合において、入出力の関係を表す伝達関数であり、
前記第二周波数応答特性は、前記基準凹凸の形状から導出された真の変位値に関する仮想時系列データを入力とし、前記第二マスタピース変位データを出力とした場合において、入出力の関係を表す伝達関数である、請求項1~7のいずれか1項に記載の表面性状測定システム。
【請求項11】
前記補正部は、第一使用周波数範囲における補正後の前記第一測定変位データ、および、前記第一使用周波数範囲とは異なる第二使用周波数範囲における補正後の前記第二測定変位データに基づいて、前記表面凹凸の真の変位値を算出する、請求項10に記載の表面性状測定システム。
【請求項12】
前記マスタデータ生成部は、
前記第一マスタピース変位データに対してフーリエ変換を行うことで得られた前記第一周波数応答特性を表す第一周波数応答データを生成し、
前記第一周波数応答データにおける第一指定周波数範囲のデータを用いて、多項式関数によるフィッティング処理を行うことで、フィッティング処理後の前記第一周波数応答データを生成し、
前記マスタピース加速度データに対してフーリエ変換を行うと共に変位化することで得られた前記第二周波数応答特性を表す第二周波数応答データを生成し、
前記第二周波数応答データにおける第二指定周波数範囲のデータを用いて、多項式関数によるフィッティング処理を行うことで、フィッティング処理後の前記第二周波数応答データを生成し、
前記補正部は、
フーリエ変換を行った前記第一測定変位データを、フィッティング処理後の前記第一周波数応答データにより除することにより、補正後の前記第一測定変位データを算出し、
フーリエ変換を行った前記第二測定変位データを、フィッティング処理後の前記第二周波数応答データにより除することにより、補正後の前記第二測定変位データを算出し、
補正された前記第一測定変位データおよび補正された前記第二測定変位データに基づいて、前記表面凹凸の真の変位値を算出する、請求項11に記載の表面性状測定システム。
【請求項13】
前記第一使用周波数範囲と前記第一指定周波数範囲とは、異なり、
前記第二使用周波数範囲と前記第二指定周波数範囲とは、異なる、請求項12に記載の表面性状測定システム。
【請求項14】
前記検出装置は、前記研削装置において前記工作物の外径を測定する定寸装置に設けられる、請求項1~13のいずれか1項に記載の表面性状測定システム。
【請求項15】
前記補正部は、前記表面凹凸の真の変位値を画像出力データに変換して、前記画像出力データを画像出力装置に出力する、請求項1~14のいずれか1項に記載の表面性状測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面性状測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、特許文献1に開示された自動寸法計測装置が知られている。この自動寸法計測装置は、真円度解析処理を行う制御部を備える。そして、制御部は、測定ヘッドで測定した測定データに基づいて工作物を定寸加工するように研削装置を制御すると共に、測定ヘッドの測定データに基づいて工作物の真円度を解析するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-153897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の自動寸法計測装置が測定する場合、研削装置を構成する各部材の固有振動数等の固有値の影響を受け、特に、高周波領域における測定データの正確性が損なわれる虞がある。このため、一般に、測定データは、ローパスフィルタ等を用いたフィルタ処理が施されて出力される。しかしながら、測定データに対してフィルタ処理を施す場合には、フィルタ処理に起因して応答性が低下することが問題になる。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、研削加工のインプロセスにおいて、応答性を改善して工作物の表面性状を測定する表面性状測定システムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、
検出対象物の凹凸面に沿って検出位置を移動させる際に前記検出位置における凹凸高さ方向の変位値に起因する変位起因要素を検出し、前記変位起因要素に関する変位起因データを出力する検出装置と、
既知の周期的な基準凹凸を有するマスタピースを前記検出対象物として前記検出装置により出力された前記基準凹凸に関する前記変位起因データを表すマスタピース変位起因データを取得し、前記マスタピース変位起因データの周波数応答特性を算出するマスタデータ生成部と、
研削装置にて砥石車により研削した工作物を前記検出対象物として前記検出装置により出力された前記工作物の表面における表面凹凸に関する前記変位起因データを表す測定変位起因データを取得し、前記マスタピース変位起因データの前記周波数応答特性を用いて前記測定変位起因データを補正することにより、前記表面凹凸の真の変位値を算出する補正部と、を備え
前記周波数応答特性は、前記基準凹凸の形状から導出された真の変位値に関する仮想時系列データを入力とし、前記検出装置により出力される変位値に関する時系列データを出力とした場合において、入出力の関係を表す伝達関数である、表面性状測定システムにある。
【発明の効果】
【0007】
表面性状測定システムによれば、マスタデータ生成部が、マスタピースのマスタピース変位起因データの周波数応答特性を算出する。ここで、マスタピースは、既知の周期的な基準凹凸を有する。例えば、検出装置によりマスタピースの基準凹凸高さ方向の変位値を検出する場合、検出装置の出力データは、既知の周期的な基準凹凸に一致するデータであることが理想である。しかし、研削装置を構成する各部材の固有振動数等の固有値の影響により、実際には、検出装置の出力データは、基準凹凸に一致しないデータとなる。例えば、基準凹凸が正弦波である場合には、検出装置の実際の出力データは、正弦波とはならず、周波数に応じて振幅や位相が変化する波形となってしまう。
【0008】
そこで、上記のように、検出装置が出力するマスタピース変位起因データの周波数応答特性を算出することとした。つまり、当該周波数応答特性は、検出装置が出力する変位起因データが、どの周波数帯域で振幅や位相にどのような影響を受けたかを表す指標である。そして、補正部が、周波数応答特性を用いて測定変位起因データを補正することにより、工作物の表面凹凸の真の変位値を算出する。
【0009】
検出装置から出力された工作物を測定した際の測定変位起因データが、研削装置を構成する各部材の固有値の影響を受けているとしても、マスタピースの周波数応答特性を用いて測定変位起因データを補正するため、補正された測定変位起因データは固有値の影響を排除したデータにできる。従って、補正された測定変位起因データを用いて、工作物の表面凹凸の真の変位値を算出することができる。
【0010】
従来のようにローパスフィルタは遮断周波数より高い周波数の成分が減衰されるため、ローパスフィルタを適用した場合の変位値は高周波領域の成分を含まないものとなる。しかし、上記の表面性状測定システムによれば、高周波領域における測定変位起因データの正確性が損なわれることが抑制される。そして、表面性状測定システムによれば、測定変位起因データに対してフィルタ処理を行わずに高速演算によって補正が可能であるため、応答性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】研削装置の構成を示す平面図である。
図2】研削装置の検出装置を説明するための図である。
図3】研削装置の研削工程を示すフローチャートである。
図4】凹凸検出装置としての定寸装置によるマスタピースの測定を説明するための図である。
図5】表面性状測定システムの構成を示すブロック図である。
図6】実施形態1の表面性状補正装置の構成を示すブロック図である。
図7】周波数応答特性(伝達関数)を説明する図である。
図8】表面性状補正装置のマスタデータ生成部を構成する周波数応答特性算出部の処理を示す図である。
図9】周波数応答データDf1を示すグラフであって、(a)はゲイン、(b)は位相を示す。
図10】フィッティング処理後の周波数応答データDf2を示すグラフであって、(a)はゲイン、(b)は位相を示す。ただし、各点で表されるデータは、誇張して表現しているため、データ数を少なくしている。
図11】周波数応答データDf1および伝達関数モデルDmを示すグラフであって、(a)はゲイン、(b)は位相を示す。
図12】表面性状補正装置の補正部を構成する補正データ生成部の処理を示す図である。
図13】実施形態2の表面性状補正装置の構成を示すブロック図である。
図14】実施形態5における凹凸検出装置としての加速度センサを備える定寸装置を示す図である。
図15】実施形態6の表面性状測定システムの構成を示すブロック図である。
図16】表面性状補正装置のマスタデータ生成部を構成する周波数応答特性算出部の処理を示す図である。
図17】表面性状補正装置の補正部を構成する補正データ生成部の処理の一部を示す図である。
図18】表面性状補正装置の補正部を構成する補正データ生成部の処理の一部を示す図である。
図19】表面性状補正装置の補正部を構成する補正データ生成部の処理の一部を示す図である。
図20】第二周波数応答データDf12を示すグラフであって、(a)はゲイン、(b)は位相を示す。
図21】フィッティング処理後の第二周波数応答データDf22を示すグラフであって、(a)はゲイン、(b)は位相を示す。ただし、各点で表されるデータは、誇張して表現しているため、データ数を少なくしている。
図22】第二周波数応答データDf12および第二伝達関数モデルDm12を示すグラフであって、(a)はゲイン、(b)は位相を示す。
図23】第一周波数応答データDf11および第一伝達関数モデルDm11を示すグラフであって、(a)はゲイン、(b)は位相を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施形態1)
1.表面性状測定システムSの概要
以下、表面性状測定システムSについて図面を参照しながら説明する。表面性状測定システムSは、図1に示すように、研削装置10、表面性状補正装置20を備える。また、本実施形態の表面性状測定システムSは、画像出力装置30を備える。
【0013】
本実施形態の表面性状測定システムSは、後述する研削装置10に設けられた凹凸検出装置の1つとして機能する定寸装置17により、検出対象物の凹凸面に沿って検出位置を移動させる際に検出位置における凹凸高さ方向の変位値に起因する変位起因要素検出する。そして、定寸装置17は、変位起因要素に関する変位起因データを出力する。
【0014】
例えば、凹凸検出装置としての定寸装置17は、研削された後或いは研削中に検出可能な工作物Wを検出対象物として、工作物Wの表面性状である表面凹凸Waに関する変位値そのものを、変位起因要素として検出する。そして、定寸装置17は、変位値としての変位起因要素に関する変位起因データを出力する。
【0015】
研削装置10において定寸装置17によって出力された変位起因データは、定寸装置17や研削装置10を構成する後述の各機械要素の固有値(例えば、固有振動数等)の影響を受ける。特に、定寸装置17によって検出される変位値のうち、高周波領域においては、固有振動数等の固有値の影響を受けやすく、その結果、真の変位値を得られない。例えば、定寸装置17により工作物Wの表面凹凸Waの変位値を検出した場合において、定寸装置17により出力される変位起因データ(変位データに相当)は、真の変位値からずれた値を示す。
【0016】
そこで、本実施形態の表面性状測定システムSにおいては、表面性状補正装置20が、研削装置10の定寸装置17により出力された変位起因データを真の変位値となるように補正して出力する。
【0017】
表面性状補正装置20は、上記のように補正するために、予め、既知の周期的な基準凹凸MPbを有するマスタピースMP(図4に示す)を定寸装置17による検出対象物として、基準凹凸MPbに関する変位起因データを表すマスタピース変位起因データを取得する。例えば、定寸装置17が、基準凹凸MPbに関する変位値そのものを検出し、表面性状補正装置20が、定寸装置17により出力される基準凹凸MPbに関するマスタピース変位起因データ(マスタピース変位データに相当)を取得する。そして、表面性状補正装置20は、取得したマスタピース変位データの周波数応答特性を算出する。
【0018】
さらに、表面性状補正装置20は、算出したマスタピース変位データの周波数応答特性を用いて、定寸装置17によって出力された実際の工作物Wの表面凹凸Waに関する測定変位起因データを補正する。このようにして、表面性状補正装置20は、工作物Wの表面凹凸Waの真の変位値を算出する。尚、本実施形態においては、表面性状補正装置20は、測定変位起因データの振幅および位相を補正する。そして、本実施形態の表面性状補正装置20は、補正した測定変位起因データによって表される真の変位値を画像出力装置30に出力する。
【0019】
ここで、凹凸検出装置として機能する定寸装置17が検出する変位起因要素としては、例えば、工作物Wの表面における表面凹凸Waの変位値を例示することができる。この他に、凹凸検出装置は、例えば定寸装置17に設けられた加速度センサとすることもできる。凹凸検出装置として機能する加速度センサが検出する変位起因要素として、表面凹凸Waに対応して発生する振動の加速度等を例示することができる。
【0020】
また、定寸装置17は、工作物Wに直接的または間接的に接触して変位値を検出することが可能であると共に、工作物Wに接触することなく(非接触により)変位値を検出することが可能である。また、凹凸検出装置が、変位起因要素として表面凹凸Waに対応して発生する振動の加速度を検出する加速度センサである場合には、加速度センサが設けられた部材が工作物Wに接触した状態とするのが良い。尚、本実施形態においては、変位値として、定寸装置17が工作物Wの表面における表面凹凸Waの変位値を検出する場合を例示し、表面性状補正装置20が検出された変位値を表す測定変位起因データを補正する場合を説明する。
【0021】
2.研削装置10の構成
研削装置10の構成について図1および図2を参照して説明する。本実施形態においては、研削装置10は、テーブルトラバース型研削盤を例示するが、砥石台トラバース型研削盤を適用することもできる。
【0022】
図1および図2に示すように、研削装置10は、ベッド11、砥石車12、砥石台13、主軸台14、心押台15、主軸テーブル16、および、定寸装置17を主に備える。工作物Wは、回転体である場合を例示する。例えば、工作物Wは、研削対象部位としての円柱状または円筒状の部位を有する。また、工作物Wは、外周面または内周面に周方向に沿って表面凹凸Waを有する。工作物Wは、回転軸方向の両端を、主軸台14および心押台15に支持され、回転する。
【0023】
研削装置10は、工作物Wおよび砥石車12を回転させ、工作物Wの外周面に砥石車12を接触させて工作物を研削することにより工作物Wの形状を形成する。砥石車12は、Z軸に平行な軸線回りに回転可能に砥石台13に支持される。ベッド11上には、砥石台案内部11aが設けられ、砥石台13は、X軸方向に移動可能に砥石台案内部11aに支持される。砥石車12には、砥石回転モータ12aから回転駆動力が付与され、砥石車12が回転軸回りに回転する。砥石車12は、砥石台13がX軸方向に移動することにより、X軸方向に離間して設置された工作物Wに接近し、工作物Wを研削する。
【0024】
ベッド11上において、砥石台案内部11aからX軸方向に離間した位置に、主軸テーブル案内部11bが固定される。主軸テーブル案内部11bは、主軸テーブル16をZ軸方向に移動可能に支持する。主軸テーブル16の上には、主軸台14および心押台15がZ軸方向に対向配置される。工作物Wは、その両端が主軸台14および心押台15に回転可能に支持されており、主軸回転モータ14aから回転駆動力が付与され、回転する。
【0025】
定寸装置17は、図2に示すように、工作物Wの表面に接触する接触部である一対の接触子17aと、一対の接触子17aのそれぞれを支持する一対のフィンガー17bを備える。一対の接触子17aは、工作物Wの回転軸線である回転中心Oを挟んだ2点において工作物Wの外表面に接触するように設けられる。定寸装置17は、工作物Wを回転軸線回りに回転させた状態で一対の接触子17aの機械的変位量を検出することにより、工作物Wの外径を検出する外径検出装置として機能する。
【0026】
定寸装置17は、軸方向移動装置17cに支持され、工作物Wの軸方向、すなわち、Z軸方向に移動可能である。定寸装置17のZ軸方向の移動は、軸方向移動制御部17dによって制御される。尚、定寸装置17は、接触子17aが工作物Wの表面に接触することに限られず、例えば、非接触式のレーザセンサ、光学式センサ、渦電流型センサ等を用いることも可能である。
【0027】
3.研削方法
研削装置10による研削方法について図3を参照して説明する。研削装置10は、図3に示す工程により工作物Wを研削する。研削工程は、砥石送り速度の違いによって分けられ、粗研工程S1、精研工程S2、微研工程S3、スパークアウト工程S4の順で行われる。各工程の砥石送り速度は、粗研工程S1>精研工程S2>微研工程S3>スパークアウト工程S4となる。粗研工程S1では、工作物Wの大まかな形状を形成する。続く精研工程S2および微研工程S3では、砥石送り速度を小さくしながら、工作物Wの表面形状を整える。最後のスパークアウト工程S4では、工作物Wの表面の仕上げを行い、工作物Wを完成させる。
【0028】
ここで、表面性状測定システムSにおいては、研削工程において、工作物Wの表面性状を測定することが好ましい。尚、表面性状測定システムSは、インプロセスにおいて、工作物Wの表面性状を測定するものであるが、インプロセスとは、工作物Wが研削装置10に取り付けられてから研削装置10から取り外されるまでの期間であって、スパークアウト工程S4後も含む。表面性状測定システムSは、工作物Wの研削時の回転を維持した状態において、工作物Wの表面性状を測定する。
【0029】
4.マスタピースMP
表面性状測定システムSに用いられるマスタピースMPについて図4を参照して説明する。マスタピースMPは、例えば円盤状に形成された回転体であって、外周面に周方向に沿って基準凹凸MPbを有する。ただし、マスタピースMPは、内周面に基準凹凸MPbを有するようにしても良い。基準凹凸MPbは、既知の周期的な凹凸である。本実施形態においては、基準凹凸MPbは、一定周期であって、同一の凹凸高さを有する。例えば、基準凹凸MPbは、展開した場合において、サイン波形状などとする。
【0030】
5.凹凸検出装置としての機能
工作物Wの研削面には、研削により、図2の破線にて示すように、周方向の表面凹凸Waが生成される場合がある。そこで、本実施形態においては、定寸装置17は、上述した外径検出装置としての機能の他に、工作物Wの表面性状としての表面凹凸Waを検出する凹凸検出装置としても機能する。
【0031】
つまり、凹凸検出装置として機能する定寸装置17は、工作物WやマスタピースMPを検出対象物として、検出対象物の凹凸面に沿って検出位置を移動させる際に検出位置における凹凸高さ方向の変位値そのものを変位起因要素として検出する。そして、定寸装置17は、変位値に関する時系列データを、変位起因データとして出力する。
【0032】
図2に示すように、定寸装置17の少なくとも1つの接触子17aを回転体である工作物Wの外周面に接触させた状態で、工作物Wを回転軸線回りに回転させる。これにより、接触している1つの接触子17aによる検出位置を、工作物Wの外周面における周方向の表面凹凸Waに沿って移動させることができる。そして、定寸装置17は、工作物Wを回転させた状態で1つの接触子17aの機械的変位量を検出することにより、工作物Wの表面性状である表面凹凸Waの凹凸高さ方向の変位値を検出する。定寸装置17は、検出した表面凹凸Waの変位値に関する時系列データである測定変位データ(「測定変位起因データ」に相当)として出力する。
【0033】
また、図4に示すように、定寸装置17の少なくとも1つの接触子17aを回転体であるマスタピースMPの外周面に接触させた状態で、マスタピースMPを回転軸線回りに回転させる。これにより、接触している1つの接触子17aによる検出位置を、マスタピースMPの外周面における周方向の基準凹凸MPbに沿って移動させることができる。そして、定寸装置17は、マスタピースMPを回転させた状態で1つの接触子17aの機械的変位量を検出することにより、マスタピースMPの基準凹凸MPbの凹凸高さ方向の変位値を検出する。定寸装置17は、検出した基準凹凸MPbの変位値に関する時系列データであるマスタピース変位データ(「マスタピース変位起因データ」に相当)として出力する。
【0034】
6.表面性状補正装置20の構成
次に、表面性状補正装置20の構成について図5図12を参照して説明する。図5に示すように、表面性状補正装置20は、マスタデータ生成部21と補正部22とを主に備える。
【0035】
マスタデータ生成部21は、既知の周期的な基準凹凸MPbを有するマスタピースMPを検出対象物として定寸装置17により出力された基準凹凸MPbに関するマスタピース変位データの周波数応答特性を算出する。補正部22は、マスタデータ生成部21によって算出されたマスタピース変位データの周波数応答特性を用いて、定寸装置17によって測定された工作物Wの表面における変位値(測定変位データ)を補正することにより、表面凹凸Waの真の変位値を算出する。
【0036】
6-1.マスタデータ生成部21
マスタデータ生成部21は、図6に示すように、MPデータ取得部41、周波数応答特性算出部42、フィッティング処理部43、伝達関数モデル生成部44を主に備える。
【0037】
MPデータ取得部41は、研削装置10の主軸台14および心押台15に支持されて回転するマスタピースMPを検出対象物として、定寸装置17が周期的な基準凹凸MPbを所定のサンプリング周波数で測定した場合に出力されるマスタピース変位データをMPデータSmとして取得する。MPデータSmは、定寸装置17による検出位置をマスタピースMPの外周面における周方向の基準凹凸MPbに沿って移動させた際に、定寸装置17により出力されるマスタピースMPの周方向の基準凹凸MPbの変位値に関する時系列データである。ここで、マスタピースMPは、図4に示すように、振幅および山数が既知の周期的な基準凹凸MPbが周方向に形成されている。なお、図4には、凹凸を誇張して図示しており、実際の凹凸高さは小さい。
【0038】
MPデータSmは、工作物Wの研削において取得する必要のある周波数帯域において測定されたマスタピースMPの基準凹凸MPbの変位値を表す。このため、定寸装置17によるマスタピースMPの基準凹凸MPbの測定は、次のように行われる。
【0039】
まず、必要な周波数帯域をマスタピースMPの山数で除することにより、主軸台14における主軸回転速度範囲が算出される。続いて、主軸台14および心押台15に支持されたマスタピースMPの回転速度を、主軸回転速度範囲において一定の変化率で連続的に変化させる。すなわち、マスタピースMPの回転速度をスイープさせる。そして、マスタピースMPの回転速度をスイープさせながら、定寸装置17がマスタピースMPの周方向における基準凹凸MPbの凹凸高さ方向の変位値を変位起因要素として検出する。定寸装置17は、当該変位値に関する時系列データをマスタピース変位データとして出力する。
【0040】
そして、MPデータ取得部41が取得するMPデータSmは、定寸装置17が出力するマスタピース変位データである。つまり、マスタピースMPの周方向における既知の基準凹凸MPbの変位値を表すマスタピース変位データであるMPデータSmが定寸装置17により連続的に出力される。MPデータ取得部41は、定寸装置17から連続的に出力されるMPデータSmを取得する。そして、MPデータ取得部41は、定寸装置17から取得したMPデータSmを周波数応答特性算出部42に出力する。
【0041】
周波数応答特性算出部42は、MPデータ取得部41によって取得されたMPデータSmについて、周波数応答特性を算出する。算出される周波数応答特性は、図7に示すように、基準凹凸MPbの形状から導出された真の変位値に関する仮想時系列データを入力とし、定寸装置17により出力される変位値に関する時系列データを出力とした場合において、入出力の関係を表す伝達関数である。
【0042】
まず、図8に示すように、周波数応答特性算出部42は、図7における「出力」のデータに対応するMPデータSm(マスタピース変位データ)に対してフーリエ変換を行う(ステップ42a)。これにより、周波数応答特性算出部42は、MPデータSmの各周波数における変位振幅および変位位相に関するデータを生成する。生成されるデータは、周波数に対する変位振幅、および、周波数に対する変位位相を表すデータとなる。
【0043】
また、周波数応答特性算出部42は、マスタピースMPの回転速度をスイープさせた際のスイープ指令と、マスタピースMPの基準凹凸MPbの形状とにより定義された真の変位値に関する仮想時系列データを生成する。真の変位値に関する仮想時系列データが、図7における「入力」のデータに対応する。図8に示すように、周波数応答特性算出部42は、真の変位値に関する仮想時系列データ(真の変位データ)に対してフーリエ変換を行う(ステップ42b)。これにより、周波数応答特性算出部42は、真の変位値に関する仮想時系列データにおける仮想変位振幅および仮想変位位相に関するデータを生成する。生成されるデータは、周波数に対する変位振幅、および、周波数に対する変位位相を表すデータとなる。
【0044】
そして、周波数応答特性算出部42は、フーリエ変換を行ったMPデータSmにおける変位振幅および変位位相を、既知のマスタピースMPについての真の変位値に関する仮想時系列データに対してフーリエ変換を行った真の仮想変位振幅および真の仮想変位位相で除することにより、ゲインと位相とを含む周波数応答特性を表す周波数応答データDf1を生成する(ステップ42c)。生成される周波数応答データDf1は、周波数に対するゲイン、および、周波数に対する位相を表すデータとなる。ここで、周波数応答データDf1は、ゲインおよび位相を含むため、複素数値として表現することができる。
【0045】
図9の(a)に示すように、生成された周波数応答データDf1のゲインは、横軸の周波数に応じて変化するデータとなる。また、図9の(b)に示すように、生成された周波数応答データDf1の位相は、横軸の周波数に応じて変化するデータとなる。尚、図9に示すように、生成された周波数応答データDf1は、研削装置10の研削において工作物Wの表面性状の測定に必要となる加工時周波数範囲R1においては、概ねゲインおよび位相の振動が抑制されている。一方、加工時周波数範囲R1より大きな周波数範囲においては、研削装置10を構成する各構成要素の固有値(固有振動数等)の影響が大きく、ゲインおよび位相が大きく振動し、所謂、ノイズとなる。周波数応答特性算出部42は、生成した周波数応答データDf1をフィッティング処理部43に出力する。
【0046】
再び、図6に戻り、フィッティング処理部43は、周波数応答特性算出部42によって生成された周波数応答データDf1について、多項式関数によるフィッティング処理を行う。特に、フィッティング処理部43は、ゲインおよび位相に関する周波数応答データDf1を用いて、ゲインおよび位相を含む複素数値について多項式関数によるフィッティング処理を行う。
【0047】
図10の(a)(b)に示すように、フィッティング処理部43は、フィッティング処理を行うことにより、ゲインおよび位相に関するフィッティング処理後の周波数応答データDf2を生成する。フィッティング処理後の周波数応答データDf2は、周波数について離散的な点群データである。ここで、フィッティング処理後の周波数応答データDf2は、ゲインおよび位相を含む複素数値として表現される。従って、フィッティング処理後の周波数応答データDf2は、周波数に対するゲイン、および、周波数に対する位相を表すデータとして表現することも可能である。
【0048】
より詳細には、フィッティング処理部43は、まず、フィッティング処理を行う指定周波数範囲R2を設定する。ここで、指定周波数範囲R2は、図9の(a)(b)に示すように、加工時周波数範囲R1よりも狭い範囲に設定され、例えば、マスタピースMPをスイープさせた際の周波数の下限周波数F1から加工時周波数範囲R1の上限周波数F2までの周波数範囲として設定される。
【0049】
そして、フィッティング処理部43は、例えば、重回帰分析や多変量解析、或いは、機械学習等の周知の方法を用いて、指定周波数範囲R2内の周波数応答データDf1についての多項式関数によるフィッティング処理を行うことにより、フィッティング処理後の周波数応答データDf2を生成する。
【0050】
ここで、指定周波数範囲R2の上限周波数F2以上の周波数、換言すれば、研削装置10による研削において工作物Wの表面性状の測定に使用しない周波数範囲については、周波数応答データDf1が研削装置10の固有値(固有振動数等)の影響によって振動している。また、指定周波数範囲R2の下限周波数F1未満の周波数については、研削装置10の固有値(固有振動数等)の影響がない周波数範囲であるため、ゲインがほぼ1、位相がほぼ0°となる可能性が高いが、ノイズにより値が変動している。
【0051】
そこで、フィッティング処理部43は、指定周波数範囲R2内の周波数応答データDf1に対してフィッティング処理を行う。そうすると、図10の(a)(b)に示すように、指定周波数範囲R2内における周波数応答データDf2が生成される。そして、フィッティング処理部43は、指定周波数範囲R2におけるフィッティング処理後の周波数応答データDf2を伝達関数モデル生成部44に出力する。
【0052】
なお、指定周波数範囲R2の下限周波数F1未満の周波数については、ゲイン1、位相0°となるため、生成された周波数応答データDf2に、下限周波数F1未満のデータを追加することにより、加工時周波数範囲R1の周波数応答データDf2を生成しても良い。この場合、フィッティング処理部43は、加工時周波数範囲R1の周波数応答データDf2を伝達関数モデル生成部44に出力する。
【0053】
伝達関数モデル生成部44は、フィッティング処理後の周波数応答データDf2を用いて、図7に示すように、基準凹凸MPbの形状から得られる真の変位値で表される波形を入力としフィッティング処理後の周波数応答データDf2を出力とした場合において、入出力の関係を表す伝達関数モデルDmを生成する。伝達関数モデルDmは、ラプラス変換により表されたモデルである。伝達関数モデルDmは、ラプラス変換モデルであるため、ラプラス演算子「s」により表現された関数である。
【0054】
フィッティング処理後の周波数応答データDf2は、上述したように、周波数について離散的な点群データである。そこで、伝達関数モデル生成部44は、周波数について離散的な点群データであるフィッティング処理後の周波数応答データDf2を用いて、周波数について連続的な関係を有する伝達関数モデルDmを生成する。
【0055】
図11の(a)(b)の実線にて示すように、伝達関数モデルDmは、図10の(a)(b)のフィッティング処理後の周波数応答データDf2を連続線で接続したものに相当する。伝達関数モデルDmは、0Hzから例えば無限大までの周波数範囲について表されるモデルとなる。伝達関数モデルDmは、フィッティング処理後の周波数応答データDf2よりも高周波の範囲についても表現されている。伝達関数モデルDmは、任意の周波数を入力することにより、当該周波数におけるゲインおよび位相を得ることができる。
【0056】
6-2.補正部22
補正部22は、図6に示すように、伝達関数モデル再変換部51、測定データ取得部52、補正データ生成部53、出力部54を主に備える。
【0057】
伝達関数モデル再変換部51は、マスタデータ生成部21の伝達関数モデル生成部44から取得した伝達関数モデルDmを用いて、工作物Wが研削された際の周波数に対応する変換後周波数応答データDfcに再変換する。伝達関数モデル再変換部51は、工作物Wを研削する際の周波数、換言すれば、工作物Wの研削において定寸装置17が工作物Wの表面凹凸Waを測定する際のサンプリング周波数Fsを、定寸装置17から取得する。尚、サンプリング周波数Fsについては、定寸装置17から取得することに限られず、例えば、研削装置10の作動を制御する図示省略の制御装置等から取得することも可能である。
【0058】
そして、伝達関数モデル再変換部51は、伝達関数モデルDmを用いて、取得したサンプリング周波数Fsに対応するように、基準凹凸MPbに関する変換後周波数応答データDfcを生成する。つまり、伝達関数モデル再変換部51は、伝達関数モデルDmにサンプリング周波数Fsを入力することにより、サンプリング周波数Fsにおける変換後周波数応答データDfcを得る。生成された基準凹凸MPbに関する変換後周波数応答データDfcは、周波数に対するゲイン、および、周波数に対する位相を表すデータとなる。ここで、基準凹凸MPbに関する変換後周波数応答データDfcは、ゲインおよび位相を含むため、複素数値として表現することができる。伝達関数モデル再変換部51は、生成した基準凹凸MPbに関する変換後周波数応答データDfcを補正データ生成部53に出力する。
【0059】
測定データ取得部52は、研削装置10の主軸台14および心押台15に支持されて回転する工作物Wを検出対象物として、定寸装置17が工作物Wの表面における周期的な表面凹凸Waを測定した場合に出力される周方向における表面凹凸Waの変位値を表す測定変位データを測定データSdとして取得する。測定データSdは、定寸装置17による検出位置を工作物Wの外周面における周方向の表面凹凸Waに沿って移動させた際に、定寸装置17により出力される工作物Wの周方向の表面凹凸Waの変位値に関する時系列データである。
【0060】
そして、測定データ取得部52は、定寸装置17から取得した測定データSdを補正データ生成部53に出力する。ここで、測定データSdは、MPデータSmのサンプリング周波数と異なるサンプリング周波数Fsで測定されること以外、同じ条件で測定される。
【0061】
補正データ生成部53は、伝達関数モデル再変換部51から取得した基準凹凸MPbに関する変換後周波数応答データDfcと、測定データ取得部52から取得した測定データSdを用いて、測定データSd(測定変位データ)を補正することにより、表面凹凸Waの真の変位値を表す補正データSr2を算出する。
【0062】
具体的に、図12に示すように、補正データ生成部53は、取得した測定データSd(測定変位データ)に対してフーリエ変換を行う(ステップ53a)。これにより、補正データ生成部53は、測定データSd(測定変位データ)の各周波数における変位振幅および変位位相に関するデータを生成する。生成されるデータは、周波数に対する変位振幅、および、周波数に対する変位位相を表すデータとなる。
【0063】
補正データ生成部53は、伝達関数モデル再変換部51から基準凹凸MPbに関する変換後周波数応答データDfcを取得する(ステップ53b)。基準凹凸MPbに関する変換後周波数応答データDfcは、周波数に対するゲイン、および、周波数に対する位相を表すデータである。
【0064】
そして、補正データ生成部53は、フーリエ変換を行った測定データSd(測定変位データ)を基準凹凸MPbに関する変換後周波数応答データDfcで除することにより、測定データSdを補正した補正データSr1(補正後の測定データ)を生成する(ステップ53c)。補正データSr1は、周波数に対する変位振幅、および、周波数に対する変位位相を表すデータとなる。尚、上述した補正は、指定周波数範囲R2または加工時周波数範囲R1の範囲内でのみ実施し、指定周波数範囲R2または加工時周波数範囲R1の範囲外のデータを使用しない。
【0065】
ところで、マスタピースMPの測定時における所定のサンプリング周波数と工作物Wの測定時におけるサンプリング周波数Fsとは異なる場合がある。ここで、基準凹凸MPbに関する変換後周波数応答データDfcは、測定時におけるサンプリング周波数Fsを用いて、伝達関数モデルDmから再変換されたデータである。従って、フーリエ変換された測定データSdと基準凹凸MPbに関する変換後周波数応答データDfcとは、周波数が対応するデータとなる。フーリエ変換された測定データSdと基準凹凸MPbに関する変換後周波数応答データDfcとが、周波数が対応するデータであるため、フーリエ変換を行った測定データSdを基準凹凸MPbに関する変換後周波数応答データDfcで除することが可能となる。
【0066】
フーリエ変換を行った測定データSdを基準凹凸MPbに関する変換後周波数応答データDfcで除することにより算出された補正データSr1は、変位振幅および変位位相が補正されることになる。従って、生成された補正データSr1は、表面凹凸Waの真の変位値を表すデータとなる。
【0067】
補正データSr1は、周波数に対する変位振幅、および、周波数に対する変位位相を表す周波数応答データである。そこで、補正データ生成部53は、補正データSr1を逆フーリエ変換することによって時系列データに変換して、変換後の補正データSr2を生成する(ステップ53d)。変換された補正データSr2は、時間に対する変位値を表すデータとなる。この場合、補正データ生成部53は、加工時周波数範囲R1の範囲内のみの各周波数の振幅と位相を用い、補正データSr1を逆フーリエ変換することができる。
【0068】
出力部54は、補正データ生成部53により生成された表面凹凸Waの真の変位値を表す補正データSr2を、画像出力データに変換して画像出力装置30に出力する。
【0069】
画像出力装置30は、補正部22から出力された補正データSr2、すなわち表面凹凸Waの変位値を表す時系列データを取得する。そして、画像出力装置30は、例えば、ディスプレイ上にて、取得した補正データSr2によって表される表面凹凸Waの真の変位値を表示したり、表面凹凸Waの真の変位値と基準値とを比較することによる良否結果を表示したりすることができる。また、画像出力装置30は、円柱状または円筒状の工作物Wについて、表面凹凸Waを加味した真円度等の加工精度の良否結果を表示することも可能である。
【0070】
以上の説明からも理解できるように、本実施形態の表面性状測定システムSによれば、マスタデータ生成部21が、マスタピースMPのマスタピース変位データを表すMPデータSmを取得し、MPデータSmの周波数応答特性を表す基準凹凸MPbに関する周波数応答データDf1を算出する。
【0071】
ここで、マスタピースMPは、既知の周期的な基準凹凸MPbを有する。例えば、凹凸検出装置としての定寸装置17によりマスタピースMPの基準凹凸高さ方向の変位値を検出する場合、定寸装置17の出力データは、既知の周期的な基準凹凸MPbに一致するデータであることが理想である。しかし、研削装置10を構成する各部材の固有振動数等の固有値の影響により、実際には、定寸装置17の出力データは、基準凹凸MPbに一致しないデータとなる。例えば、基準凹凸MPbが正弦波である場合には、定寸装置17の実際の出力データは、正弦波とはならず、周波数に応じて振幅や位相が変化する波形となってしまう。
【0072】
そこで、上記のように、定寸装置17が出力するMPデータSmの周波数応答特性を表す基準凹凸MPbに関する周波数応答データDf1を算出することとした。つまり、当該周波数応答データDf1は、定寸装置17が出力する変位データが、どの周波数帯域で振幅や位相にどのような影響を受けたかを表す指標である。そして、補正部22が、周波数応答データDf1を用いて測定変位データを表す測定データSdを補正することにより、工作物Wの表面凹凸Waの真の変位値を表す補正データSr1または変換後の補正データSr2を出力することができる。
【0073】
定寸装置17から出力された工作物Wを測定した際の測定データSdが、研削装置10を構成する各部材の固有値の影響を受けているとしても、マスタピースMPの周波数応答データDf1を用いて測定データSdを補正するため、補正された真の変位値を表す補正データSr1,Sr2は固有値の影響を排除したデータにできる。従って、補正された真の変位値を表す補正データSr1,Sr2を用いて、工作物Wの表面凹凸Waの真の変位値を算出することができる。
【0074】
従来のようにローパスフィルタは遮断周波数より高い周波数の成分が減衰されるため、ローパスフィルタを適用した場合の変位値は高周波領域の成分を含まないものとなる。しかし、上記の表面性状測定システムSによれば、高周波領域における測定データSdの正確性が損なわれることが抑制される。そして、表面性状測定システムSによれば、測定データSdに対してフィルタ処理を行わずにフーリエ変換等の高速演算によって測定データSdの補正が可能であるため、応答性を改善することができる。
【0075】
また、周波数応答データDf1に対して多項式関数によるフィッティング処理を行うことにより、フィッティング処理後の周波数応答データDf2を生成し、補正部22による補正データSr1の生成は、フィッティング処理後の周波数応答データDf2を用いることとした。フィッティング処理後の周波数応答データDf2は、周波数応答データDf1に含まれているノイズを除去したデータとなる。従って、高精度に補正データSr1,Sr2を生成することができる。
【0076】
また、本実施形態においては、一旦、フィッティング処理後の周波数応答データDf2を伝達関数モデルDmとして表すこととした。そして、補正部22は、伝達関数モデルDmを用いて、測定データSdを測定する際のサンプリング周波数Fsに対応するように、基準凹凸MPbに関する変換後周波数応答データDfcを生成している。補正部22は、生成した変換後周波数応答データDfcを用いて、補正データSr1を生成している。これにより、マスタピースMPの測定時におけるサンプリング周波数と工作物Wの測定時におけるサンプリング周波数Fsとは異なる場合であっても、補正データSr1を生成することができる。
【0077】
(実施形態2)
実施形態2の表面性状補正装置20について図13を参照して説明する。表面性状補正装置20は、実施形態1と同様に、マスタデータ生成部21と補正部22とを備える。本実施形態においては、実施形態1に対して、マスタデータ生成部21が伝達関数モデル生成部44を有しない点、および、補正部22が、伝達関数モデル再変換部51に代えて周波数応答特性補間処理部55を有する点が異なる。
【0078】
本実施形態における他の構成は、実施形態1と同様である。なお、実施形態2以降において用いた符号のうち、既出の実施形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の実施形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0079】
本実施形態において、周波数応答特性補間処理部55は、フィッティング処理後の周波数応答データDf2を用いて補間処理を行うことにより、工作物Wが研削された際の周波数に対応する変換後周波数応答データDfcを生成する。
【0080】
周波数応答特性補間処理部55は、工作物Wを研削する際の周波数、換言すれば、工作物Wの研削において定寸装置17が工作物Wの表面凹凸Waを測定する際のサンプリング周波数Fsを、定寸装置17から取得する。ここで、マスタピースMPの測定時におけるサンプリング周波数と工作物Wの測定時におけるサンプリング周波数Fsとは異なるものとする。そのため、フィッティング処理後の周波数応答データDf2とフーリエ変換後の測定データSdとが、周波数が対応しない。従って、補正データ生成部53が、フーリエ変換後の測定データSdを、フィッティング処理後の周波数応答データDf2で除することができない。
【0081】
そこで、フィッティング処理後の周波数応答データDf2に対して補間処理を行うことにより、フーリエ変換後の測定データSdに対して周波数が対応するように、補間後の変換後周波数応答データDfcを生成する。補間処理は、隣接するデータを用いて、例えば直線近似を行う。従って、本実施形態においては、実施形態1と同様の作用効果を有する。
【0082】
(実施形態3)
マスタピースMPの基準凹凸MPbの測定時における所定のサンプリング周波数と工作物Wの測定時におけるサンプリング周波数Fsとが同一である場合には、実施形態1における伝達関数モデル生成部44および伝達関数モデル再変換部51が不要である。この場合、フィッティング処理部43により生成されたフィッティング処理後の周波数応答データDf2を、補正データ生成部53に出力することになる。従って、本実施形態においては、実施形態1と同様の作用効果を有する。
【0083】
(実施形態4)
マスタピースMPの基準凹凸MPbの測定時における所定のサンプリング周波数と工作物Wの測定時におけるサンプリング周波数Fsとが同一である場合には、実施形態1におけるフィッティング処理部43、伝達関数モデル生成部44および伝達関数モデル再変換部51を備えない構成とすることもできる。この場合、周波数応答特性算出部42により生成された周波数応答データDf1を、補正データ生成部53に出力することになる。本実施形態においても、実施形態1と同様の作用効果を有する。ただし、フィッティング処理を行う方が、高精度になる。
【0084】
(実施形態5)
上述した実施形態においては、凹凸検出装置として定寸装置17を用い、工作物Wの表面凹凸WaおよびマスタピースMPの基準凹凸MPbの凹凸高さ方向の変位値に起因する変位起因要素として、変位値を検出し、変位起因要素に関する変位起因データとして、変位値に関する時系列データを出力する場合を例示した。
【0085】
しかし、図14に示すように、凹凸検出装置は、変位起因要素として変位値を検出することに限定されず、工作物Wの表面凹凸WaおよびマスタピースMPの基準凹凸MPbの凹凸高さ方向の変位値に関する変位起因要素として、加速度を検出する加速度センサ17eとすることも可能である。
【0086】
この場合、凹凸検出装置としての加速度センサ17eは、検出対象物W,MPの凹凸面Wa,MPbに接触する接触子17aを有し、接触子17aを検出対象物W,MPの凹凸面Wa,MPbに沿って移動させる際に、接触子17aの加速度を、変位起因要素として検出する。そして、凹凸検出装置としての加速度センサ17eは、検出した加速度に関する時系列データを、変位起因データとして出力する。
【0087】
本実施形態においては、加速度に関するデータとなるため、処理の最終段階、または、処理の途中において、加速度を変位値に変換する処理が必要となる。例えば、補正データ生成部53が、加速度に関する補正データを生成した後に、積分処理を行うことにより、表面凹凸Waの変位値に関する補正データを生成する。
【0088】
また、マスタデータ生成部21の周波数応答特性算出部42において、加速度に関する時系列データであるMPデータSmに対して積分処理を行うことにより、変位値に関する時系列データに変換し、その後は、上記実施形態にて説明した処理を行う。さらに、補正部22の補正データ生成部53において、加速度に関する時系列データである測定データSdに対して積分処理を行うことにより、変位値に関する時系列データに変換し、その後は、上記実施形態にて説明した処理を行う。このようにして、表面性状補正装置20は、工作物Wの表面凹凸Waの真の変位値を得ることができる。
【0089】
(実施形態6)
実施形態6の表面性状測定システムSについて、図15図23を参照して説明する。図15に示すように、表面性状測定システムSは、変位検出装置としての定寸装置17、加速度検出装置としての加速度センサ17e、表面性状補正装置20、画像出力装置30を備える。
【0090】
定寸装置17は、上記実施形態1と同様の構成を有する。従って、定寸装置17は、検出対象物の凹凸面に沿って検出位置を移動させる際に、検出位置における凹凸高さ方向の変位値を変位起因要素として検出する。そして、定寸装置17は、検出した変位値に関する時系列データを、変位データ(変位起因データ)として出力する。
【0091】
定寸装置17による検出対象物は、マスタピースMPおよび工作物Wである。従って、定寸装置17は、マスタピースMPを検出対象物とした場合において、マスタピースMPの基準凹凸MPbの変位値に関する時系列データを、第一マスタピース変位データとして出力する。また、定寸装置17は、工作物Wを検出対象物とした場合において、工作物Wの表面凹凸Waの変位値に関する時系列データを、第一測定変位データとして出力する。定寸装置17による測定方法は、実施形態1と同様である。
【0092】
加速度センサ17eは、上記実施形態5と同様であって、図14に示したように、定寸装置17の接触子17aの加速度を変位起因要素として検出する。つまり、加速度センサ17eは、検出対象物の凹凸面に接触する接触子17aを検出対象物の凹凸面に沿って移動させる際に、接触子17aの加速度を変位起因要素として検出する。そして、加速度センサ17eは、検出した加速度に関する時系列データを、加速度データ(変位起因データ)として出力する。
【0093】
加速度センサ17eによる検出対象物は、変位検出装置としての定寸装置17による検出対象物と同様に、マスタピースMPおよび工作物Wである。従って、加速度センサ17eは、マスタピースMPを検出対象物とした場合において、マスタピースMPの基準凹凸MPbに接触する接触子17aの加速度に関する時系列データを、マスタピース加速度データとして出力する。また、加速度センサ17eは、工作物Wを検出対象物とした場合において、工作物Wの表面凹凸Waに接触する接触子17aの加速度に関する時系列データを、測定加速度データとして出力する。加速度センサ17eによる測定方法は、定寸装置17による上記測定と同時に行う。
【0094】
表面性状補正装置20は、実施形態1と同様に、マスタデータ生成部21と補正部22とを備える。表面性状補正装置20を構成するマスタデータ生成部21および補正部22は、それぞれ、定寸装置17の出力データを取得し、かつ、加速度センサ17eの出力データを取得する。
【0095】
マスタデータ生成部21は、図15に示すように、MPデータ取得部141、周波数応答特性算出部142、フィッティング処理部143、伝達関数モデル生成部144を主に備える。
【0096】
MPデータ取得部141は、マスタピースMPを検出対象物として、定寸装置17が周期的な基準凹凸MPbを所定のサンプリング周波数で測定した場合に出力される第一マスタピース変位データ(第一MP変位データ)Sm11を取得する。第一MP変位データSm11は、実施形態1におけるMPデータSmと同様である。さらに、MPデータ取得部141は、マスタピースMPを検出対象物として、加速度センサ17eから出力されるマスタピース加速度データ(MP加速度データ)Sm12を取得する。
【0097】
周波数応答特性算出部142は、第一MP変位データSm11の周波数応答特性、および、MP加速度データSm12の周波数応答特性を算出する。周波数応答特性算出部142の処理について、図16を参照して説明する。
【0098】
周波数応答特性算出部142は、第一MP変位データSm11に対してフーリエ変換を行う(ステップ142a)。これにより、周波数応答特性算出部142は、第一MP変位データSm11の各周波数における変位振幅および変位位相に関するデータを生成する。生成されるデータは、周波数に対する変位振幅、および、周波数に対する変位位相を表すデータとなる。
【0099】
また、周波数応答特性算出部142は、マスタピースMPの回転速度をスイープさせた際のスイープ指令と、マスタピースMPの基準凹凸MPbの形状とにより定義された真の変位値に関する仮想時系列データを生成する。周波数応答特性算出部142は、真の変位値に関する仮想時系列データ(真の変位データ)に対してフーリエ変換を行う(ステップ142b)。これにより、周波数応答特性算出部142は、真の変位値に関する仮想時系列データにおける仮想変位振幅および仮想変位位相に関するデータを生成する。生成されるデータは、周波数に対する変位振幅、および、周波数に対する変位位相を表すデータとなる。
【0100】
そして、周波数応答特性算出部142は、フーリエ変換を行った第一MP変位データSm11における変位振幅および変位位相を、既知のマスタピースMPについての真の変位値に関する仮想時系列データに対してフーリエ変換を行った真の仮想変位振幅および真の仮想変位位相で除することにより、ゲインと位相とを含む第一周波数応答特性を表す第一周波数応答データDf11を生成する(ステップ142c)。生成される第一周波数応答データDf11は、周波数に対するゲイン、および、周波数に対する位相を表すデータとなる。ここで、第一周波数応答データDf11は、ゲインおよび位相を含むため、複素数値として表現することができる。
【0101】
生成された第一周波数応答データDf11のゲインは、図9の(a)に示すように、横軸を周波数に応じて変化するデータとなる。また、生成された第一周波数応答データDf11の位相は、図9の(b)に示すように、横軸の周波数に応じて変化するデータとなる。
【0102】
周波数応答特性算出部142は、MP加速度データSm12に対してフーリエ変換を行う(ステップ142d)。これにより、周波数応答特性算出部142は、MP加速度データSm12の各周波数における加速度振幅および加速度位相に関するデータを生成する。生成されるデータは、周波数に対する加速度振幅、および、周波数に対する加速度位相を表すデータとなる。
【0103】
周波数応答特性算出部142は、フーリエ変換されたMP加速度データSm12に対して変位化処理を行うことにより、第二マスタピース変位データ(第二MP変位データ)Sm13を生成する(ステップ142e)。生成されるデータは、周波数に対する変位振幅、および、周波数に対する変位位相を表すデータとなる。
【0104】
そして、周波数応答特性算出部142は、第二MP変位データSm13における変位振幅および変位位相を、既知のマスタピースMPについての真の変位値に関する仮想時系列データに対してフーリエ変換を行った真の仮想変位振幅および真の仮想変位位相で除することにより、ゲインと位相とを含む第二周波数応答特性を表す第二周波数応答データDf12を生成する(ステップ142f)。生成される第二周波数応答データDf12は、周波数に対するゲイン、および、周波数に対する位相を表すデータとなる。ここで、第二周波数応答データDf12は、ゲインおよび位相を含むため、複素数値として表現することができる。
【0105】
図20の(a)に示すように、生成された第二周波数応答データDf12のゲインは、横軸の周波数に応じて変化するデータとなる。また、図20の(b)に示すように、生成された第二周波数応答データDf12の位相は、横軸の周波数に応じて変化するデータとなる。
【0106】
図20に示すように、生成された第二周波数応答データDf12は、第二指定周波数範囲R11においては、概ねゲインおよび位相の振動が抑制されている。一方、第二指定周波数範囲R11より大きな周波数範囲においては、研削装置10を構成する各構成要素の固有値(固有振動数等)の影響が大きく、ゲインおよび位相が大きく振動し、所謂、ノイズとなる。第二指定周波数範囲R11より小さな周波数範囲においては、研削装置10の固有値の影響がない周波数範囲であるため、ゲインがほぼ1、位相がほぼ0°となるが、ノイズにより値が変動している。
【0107】
図15および図16に示すように、フィッティング処理部143は、周波数応答特性算出部142によって生成された第一周波数応答データDf11および第二周波数応答データDf12について、多項式関数によるフィッティング処理を行う。
【0108】
図16に示すように、フィッティング処理部143は、ゲインおよび位相に関する第一周波数応答データDf11を用いて、ゲインおよび位相を含む複素数値について多項式関数によるフィッティング処理を行うことにより、ゲインおよび位相に関するフィッティング処理後の第一周波数応答データDf21を生成する(ステップ143a)。フィッティング処理後の第一周波数応答データDf21は、図10の(a)(b)に示すように、周波数について離散的な点群データである。フィッティング処理後の第一周波数応答データDf21の生成は、実施形態1におけるフィッティング処理後の周波数応答データDf2の生成と同様である。
【0109】
さらに、図16に示すように、フィッティング処理部143は、ゲインおよび位相に関する第二周波数応答データDf12を用いて、ゲインおよび位相を含む複素数値について多項式関数によるフィッティング処理を行うことにより、ゲインおよび位相に関するフィッティング処理後の第二周波数応答データDf22を生成する(ステップ143b)。フィッティング処理後の第二周波数応答データDf22は、図21の(a)(b)に示すように、周波数について離散的な点群データである。
【0110】
より詳細には、フィッティング処理部143は、まず、フィッティング処理を行う第二指定周波数範囲R11を設定する。そして、フィッティング処理部143は、第二指定周波数範囲R11内の第二周波数応答データDf12に対してフィッティング処理を行う。そうすると、図21の(a)(b)に示すように、第二指定周波数範囲R11内における第二周波数応答データDf22が生成される。
【0111】
図15および図16に示すように、伝達関数モデル生成部144は、フィッティング処理後の第一周波数応答データDf21を用いて、基準凹凸MPbの形状から得られる真の変位値で表される波形を入力としフィッティング処理後の第一周波数応答データDf21を出力とした場合において、入出力の関係を表す第一伝達関数モデルDm11を生成する(ステップ144a)。第一伝達関数モデルDm11は、ラプラス変換により表されたモデルである。第一伝達関数モデルDm11は、ラプラス変換モデルであるため、ラプラス演算子「s」により表現された関数である。
【0112】
フィッティング処理後の第一周波数応答データDf21は、上述したように、周波数について離散的な点群データである。そこで、伝達関数モデル生成部144は、周波数について離散的な点群データであるフィッティング処理後の第一周波数応答データDf21を用いて、周波数について連続的な関係を有する第一伝達関数モデルDm11を生成する。
【0113】
図23の(a)(b)の実線にて示すように、第一伝達関数モデルDm11は、フィッティング処理後の第一周波数応答データDf21を連続線で接続したものに相当する。第一伝達関数モデルDm11は、0Hzから例えば無限大までの周波数範囲について表されるモデルとなる。第一伝達関数モデルDm11は、フィッティング処理後の第一周波数応答データDf21よりも高周波の範囲についても表現されている。第一伝達関数モデルDm11は、任意の周波数を入力することにより、当該周波数におけるゲインおよび位相を得ることができる。
【0114】
伝達関数モデル生成部144は、さらに、フィッティング処理後の第二周波数応答データDf22を用いて、基準凹凸MPbの形状から得られる真の変位値で表される波形を入力としフィッティング処理後の第二周波数応答データDf22を出力とした場合において、入出力の関係を表す第二伝達関数モデルDm12を生成する(ステップ144b)。第二伝達関数モデルDm12は、ラプラス変換により表されたモデルである。第二伝達関数モデルDm12は、ラプラス変換モデルであるため、ラプラス演算子「s」により表現された関数である。
【0115】
フィッティング処理後の第二周波数応答データDf22は、上述したように、周波数について離散的な点群データである。そこで、伝達関数モデル生成部144は、周波数について離散的な点群データであるフィッティング処理後の第二周波数応答データDf22を用いて、周波数について連続的な関係を有する第二伝達関数モデルDm12を生成する。
【0116】
図22の(a)(b)の実線にて示すように、第二伝達関数モデルDm12は、図21の(a)(b)のフィッティング処理後の第二周波数応答データDf22を連続線で接続したものに相当する。第二伝達関数モデルDm12は、0Hzから例えば無限大までの周波数範囲について表されるモデルとなる。さらに、第二伝達関数モデルDm12は、フィッティング処理後の第二周波数応答データDf22よりも高周波の範囲についても表現されている。第二伝達関数モデルDm12は、任意の周波数を入力することにより、当該周波数におけるゲインおよび位相を得ることができる。
【0117】
補正部22は、図15に示すように、伝達関数モデル再変換部151、測定データ取得部152、補正データ生成部153、出力部154を主に備える。
【0118】
伝達関数モデル再変換部151は、マスタデータ生成部121の伝達関数モデル生成部144から取得した第一伝達関数モデルDm11を用いて、工作物Wが研削された際の周波数に対応する第一変換後周波数応答データDfc11に再変換する。さらに、伝達関数モデル再変換部151は、マスタデータ生成部121の伝達関数モデル生成部144から取得した第二伝達関数モデルDm12を用いて、工作物Wが研削された際の周波数に対応する第二変換後周波数応答データDfc12に再変換する。再変換の方法は、実施形態1と同様である。
【0119】
測定データ取得部152は、工作物Wを検出対象物として、定寸装置17が周期的な基準凹凸MPbを所定のサンプリング周波数で測定した場合に出力される第一測定変位データSd11を取得する。第一測定変位データSd11は、実施形態1における測定データSdと同様である。さらに、測定データ取得部152は、工作物Wを検出対象物として、加速度センサ17eから出力される測定加速度データSd12を取得する。
【0120】
補正データ生成部153は、図17に示すように、測定データ取得部152から第一測定変位データSd11を取得し、取得した第一測定変位データSd11に対してフーリエ変換を行う(ステップ153a)。これにより、補正データ生成部153は、第一測定変位データSd11の各周波数における変位振幅および変位位相に関するデータを生成する。生成されるデータは、周波数に対する変位振幅、および、周波数に対する変位位相を表すデータとなる。
【0121】
補正データ生成部153は、伝達関数モデル再変換部151から基準凹凸MPbに関する第一変換後周波数応答データDfc11を取得する(ステップ153b)。そして、補正データ生成部153は、フーリエ変換を行った第一測定変位データSd11を、基準凹凸MPbに関する第一変換後周波数応答データDfc11で除することにより、第一測定変位データSd11を補正した第一補正データSr11(補正後の第一測定変位データ)を生成する(ステップ153c)。
【0122】
第一補正データSr11は、表面凹凸Waの真の変位値を表すデータである。また、第一補正データSr11は、周波数に対する変位振幅、および、周波数に対する変位位相を表すデータとなる。上述した補正は、図23の(a)(b)に示すように、第一指定周波数範囲R2(F1~F2)内でのみ実施しても良いし、第一指定周波数範囲R2を含む周波数範囲R1(F3~F20)内でのみ実施しても良いし、第一使用周波数範囲R21(F3~F20)内でのみ実施しても良い。ここで、第一使用周波数範囲R21と第一指定周波数範囲R2とは異なる。本実施形態においては、第一使用周波数範囲R21は、周波数範囲R1の一部の範囲とされ、第一指定周波数範囲R2とは一部のみで共通する範囲とされる。
【0123】
また、補正データ生成部153は、図18に示すように、測定データ取得部152から測定加速度データSd12を取得し、取得した測定加速度データSd12に対してフーリエ変換を行う(ステップ153d)。これにより、補正データ生成部153は、測定加速度データSd12の各周波数における加速度振幅および加速度位相に関するデータを生成する。生成されるデータは、周波数に対する加速度振幅、および、周波数に対する加速度位相を表すデータとなる。
【0124】
補正データ生成部153は、フーリエ変換された測定加速度データSd12に対して変位化処理を行うことにより、第二測定変位データSd13を生成する(ステップ153e)。生成されるデータは、周波数に対する変位振幅、および、周波数に対する変位位相を表すデータとなる。
【0125】
補正データ生成部153は、伝達関数モデル再変換部151から基準凹凸MPbに関する第二変換後周波数応答データDfc12を取得する(ステップ153f)。そして、補正データ生成部153は、変位化された第二測定変位データSd13を、基準凹凸MPbに関する第二変換後周波数応答データDfc12で除することにより、第二測定変位データSd13を補正した第二補正データSr12(補正後の第二測定変位データ)を生成する(ステップ153g)。
【0126】
第二補正データSr12は、表面凹凸Waの真の変位値を表すデータである。また、第二補正データSr12は、周波数に対する変位振幅、および、周波数に対する変位位相を表すデータとなる。上述した補正は、図22の(a)(b)に示すように、第二指定周波数範囲R11(F11~F12)内でのみ実施しても良いし、第二使用周波数範囲R22(F20~F12)内でのみ実施する。ここで、第二使用周波数範囲R22と第二指定周波数範囲R11とは異なる。特に、第二使用周波数範囲R22は、第二指定周波数範囲R11の一部の範囲とされる。さらに、第二使用周波数範囲R22(F20~F12)は、第一使用周波数範囲R21(F3~F20)より高周波数の範囲である。
【0127】
補正データ生成部153は、図19に示すように、第一補正データSr11が周波数範囲R1(F3~F2)または第一指定周波数範囲R2(F1~F2)のデータである場合には、一部を抽出することにより、第一使用周波数範囲R21(F3~F20)の第一補正データSr11を生成する(ステップ153h)。補正データ生成部153は、第一補正データSr11が第一使用周波数範囲R21(F3~F20)のデータである場合には、第一補正データSr11そのものを取得する。
【0128】
また、補正データ生成部153は、第二補正データSr12が第二指定周波数範囲R11(F11~F12)のデータである場合には、一部を抽出することにより、第二使用周波数範囲R22(F20~F12)の第二補正データSr12を生成する(ステップ153i)。補正データ生成部153は、第二補正データSr12が第二使用周波数範囲R22(F20~F12)のデータである場合には、第二補正データSr12そのものを取得する。
【0129】
補正データ生成部153は、第一使用周波数範囲R21(F3~F20)の第一補正データSr11と第二使用周波数範囲R22(F20~F12)の第二補正データSr12とを合成して、合成補正データSr13の生成する(ステップ153j)。上述したように、第一使用周波数範囲R21(F3~F20)の第一補正データSr11と第二使用周波数範囲R22(F20~F12)の第二補正データSr12とは、周波数F20を境界として、低周波側のデータと高周波側のデータとに分けられたデータとなる。従って、合成補正データSr13は、周波数範囲F3~F12のデータとなる。合成補正データSr13は、周波数に対する変位振幅、および、周波数に対する変位位相を表す周波数応答データである。
【0130】
そして、補正データ生成部153は、合成補正データSr13を逆フーリエ変換することによって時系列データに変換し、変換後の合成補正データSr14の生成(ステップ153k)。変換された合成補正データSr14は、時間に対する変位値を表すデータとなる。
【0131】
出力部154は、補正データ生成部153により生成された表面凹凸Waの真の変位値を表す合成補正データSr14を、画像出力データに変換して画像出力装置30に出力する。
【0132】
本実施形態によれば、変位検出装置としての定寸装置17により検出される変位データと、加速度検出装置としての加速度センサ17eにより検出される加速度データとを用いることにより、広い周波数範囲についてのデータを用いることができる。
【0133】
特に、変位検出装置としての定寸装置17は、低周波側にて高精度な出力が可能であるのに対して、加速度検出装置としての加速度センサ17eは、高周波側にて高精度な出力が可能となる。このように、それぞれの検出装置は高精度に出力できる周波数範囲が異なることにより、広い周波数範囲についてのデータを用いることができる。従って、工作物Wの表面凹凸Waの真の変位値を高精度に得ることができる。
【0134】
(その他)
更に、定寸装置17に代えてリニアゲージを用いることも可能である。尚、リニアゲージは、工作物Wに接触する接触子と、接触子を支持するアームを備え、接触子を回転中の工作物Wに接触させた状態で工作物Wの表面の変位を検出するものである。また、リニアゲージは、定寸装置17と同様に、軸方向移動装置に支持されており、工作物Wの軸方向、すなわち、Z方向に移動可能とされる。
【符号の説明】
【0135】
17…定寸装置(検出装置、変位検出装置)、17a…接触子、17b…フィンガー、17e…加速度センサ(検出装置、加速度検出装置)、20…表面性状補正装置、21…マスタデータ生成部、22…補正部、MP…マスタピース、MPb…基準凹凸、W…工作物、Wa…表面凹凸、Sm…MPデータ(変位起因データ、マスタピース変位データ)、Sd…測定データ(変位起因データ、測定変位データ)、Sr11,Sr12…補正データ、S…表面性状測定システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
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図21
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