(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-21
(45)【発行日】2025-04-30
(54)【発明の名称】車両用サスペンション装置
(51)【国際特許分類】
B60G 7/00 20060101AFI20250422BHJP
B62D 21/00 20060101ALI20250422BHJP
B62D 25/20 20060101ALI20250422BHJP
B62D 25/08 20060101ALI20250422BHJP
【FI】
B60G7/00
B62D21/00 A
B62D25/20 C
B62D25/08 C
(21)【出願番号】P 2021133397
(22)【出願日】2021-08-18
【審査請求日】2024-06-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100176304
【氏名又は名称】福成 勉
(72)【発明者】
【氏名】黒原 史博
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 浩之
(72)【発明者】
【氏名】浅野 宜良
(72)【発明者】
【氏名】岡野 航汰
【審査官】上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-153269(JP,A)
【文献】特表2013-530838(JP,A)
【文献】特開2014-069792(JP,A)
【文献】特開2019-064362(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 7/00
B62D 21/00
B62D 25/20
B62D 25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれが車両の前後方向に延び、互いに車幅方向に間隔をあけて配された一対のサイドフレームと、
前記一対のサイドフレームのそれぞれに取り付けられ、車輪を支持する一対のアームと、
を備え、
前記一対のアームのそれぞれは、
車幅方向に延び、内側の部分で前記サイドフレームに取り付けられ、外側の部分で前記車輪を支持する前側部材と、
前記車両の前後方向に延び、前側の部分が前記前側部材に接続され、後側の部分で前記サイドフレームに取り付けられた後側部材と、
を有し、
前記前側部材と前記後側部材とは、前記後側部材が前記前側部材よりも高い強度の材料から構成されているとともに、前記車両の前方からの所定の衝突荷重に対して、前記前側部材の破断荷重が当該所定の衝撃荷重以下、前記後側部材の破断荷重が前記所定の衝撃荷重よりも高くなるように形成されている、
車両用サスペンション装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用サスペンション装置において、
前記一対のサイドフレームのそれぞれは、前記後側部材が取り付けられる部分において、車幅方向の外側に向けて張り出すように設けられた張出部を有し、
前記後側部材は、前記張出部に対して前記車両の前後方向に施行して取り付けられる取付け部を備え、前記後側部材には、前記張出部に対向して前記取付け部より車幅方向の内側に向けて突設された凸部を有する、
車両用サスペンション装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の車両用サスペンション装置において、
前記一対のサイドフレーム同士の間に架設された少なくとも1つのクロスメンバをさらに備える、
車両用サスペンション装置。
【請求項4】
請求項3に記載の車両用サスペンション装置において、
前記少なくとも1つのクロスメンバは、
前記一対のサイドフレームにおける前記前側部材が取り付けられた箇所同士の間に架設された前側クロスメンバと、
前記一対のサイドフレームにおける前記後側部材が取り付けられた箇所同士の間に架設された後側クロスメンバと、
を含む、
車両用サスペンション装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4の何れかに記載の車両用サスペンション装置において、
前記前側部材は、前記後側部材との接続箇所よりも車幅方向の外側の部分に溝部を有する、
車両用サスペンション装置。
【請求項6】
請求項5に記載の車両用サスペンション装置において、
前記一対のアームは、サスペンションの下端を支持するロアアームであって、
前記一対のアームのそれぞれは、前記サスペンションの下端を支持する部分において、前記車両の前後方向に貫通する孔を有し、
前記溝部は、前記アームにおける前記車両の前後方向の少なくとも一方の主面において、前記孔の縁から前記車両の上方および下方の少なくとも一方に向けて延びるように形成されている、
車両用サスペンション装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6の何れかに記載の車両用サスペンション装置において、
前記前側部材は、軽合金で形成され、
前記後側部材は、鉄鋼で形成されている、
車両用サスペンション装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7の何れかに記載の車両用サスペンション装置において、
前記前側部材と前記後側部材とは、互いに車幅方向に間隔を空けた複数の箇所で接続されている、
車両用サスペンション装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用サスペンション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両においては、オフセット衝突時における車室への衝撃を緩和するための構造が採用されている。特に、近年では、車幅方向における外側の1/4の領域に前方から障害物が衝突する微小ラップ衝突時においても、車室への衝撃を十分に緩和できる構造が求められるようになっている。特許文献1には、微小ラップ衝突時においても車室への衝撃を緩和するための構造が開示されている。
【0003】
特許文献1には、車両の前後方向に延びるサスペンションサイドフレームと、車幅方向の内側でサスペンションサイドフレームに連結され、車幅方向の外端部で車輪を支持するロアアームと、サスペンションサイドフレームの前方部分で連結され、車両の前後方向に延びるサイドメンバと、を備える車両前部構造が開示されている。ロアアームは、車幅方向に延び、外端部で車輪を支持する前アーム部と、前アーム部の後端部分で連続し、車両の前後方向に延びる後アーム部とを有する。ロアアームは、前アーム部の車幅方向内側部分と、後アーム部の車幅方向内側部分でサスペンションサイドフレームに取り付けられている。そして、サイドメンバには、車両の前後方向に延び、後端が前アーム部におけるサスペンションサイドフレームへの取付部分よりも少し車幅方向外側となる部分に前方に位置するように突起部が設けられている。
【0004】
特許文献1に開示の車両では、微小ラップ衝突を含むオフセット衝突時において、前突荷重により後ろ向きに変位するサイドメンバとともに突起部も後ろに変位し、突起部の後端により前アーム部におけるサスペンションサイドフレームとの取付部と他の部分とが破断される。これにより、後アーム部におけるサスペンションサイドフレームとの取付部を回転中心としてロアアームが車幅方向外側に向けて回動し、衝撃が車輪を介しての車室へ直に伝達されるのが緩和される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示の車両においては、オフセット衝突時における衝突初期の段階で前アーム部が上記のように破断してしまうことになるため、ロアアームを衝突初期における衝撃伝達経路(ロードパス)として利用することができない。即ち、オフセット衝突時においては、衝突初期においては車両を車幅方向における衝突バリアとは反対側に向けて導くことが車室への衝撃の緩和という観点から望ましい。しかしながら、特許文献1に開示の車両では、オフセット衝突時の衝突初期においてロアアームが破断してしまうように構成されているので、衝突初期に車幅方向における衝突バリアとは反対側へと車両に対して衝突荷重を入力させることができない。
【0007】
なお、衝突初期における衝撃伝達経路を確保するためには、例えばサイドフレームなどの車両前部の他の部分を補強することが考えられるが、このように他の部材を補強するなどした場合には、車体重量の増加を招いてしまうこととなる。
【0008】
本発明は、上記のような問題の解決を図ろうとなされたものであって、車体重量の増加を抑制しながら、オフセット衝突時における衝突初期から衝突後期に至るまで、車室への衝撃を緩和することができる車両用サスペンション装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る車両用サスペンション装置は、一対のサイドフレームと、一対のアームとを備える。前記一対のサイドフレームは、それぞれが車両の前後方向に延び、互いに車幅方向に間隔をあけて配されている。前記一対のアームは、前記一対のサイドフレームのそれぞれに取り付けられ、車輪を支持する。そして、前記一対のアームのそれぞれは、前側部材と後側部材とを有する。前記前側部材は、車幅方向に延び、内側の部分で前記サイドフレームに取り付けられ、外側の部分で前記車輪を支持する。前記後側部材は、前記車両の前後方向に延び、前側の部分が前記前側部材に接続され、後側の部分で前記サイドフレームに取り付けられている。
【0010】
本態様に係る車両用サスペンション装置において、前記前側部材と前記後側部材とは、前記後側部材が前記前側部材よりも高い強度の材料から構成されているとともに、前記車両の前方からの所定の衝突荷重に対して、前記前側部材の破断荷重が当該所定の衝撃荷重以下、前記後側部材の破断荷重が前記所定の衝撃荷重よりも高くなるように形成されている。
【0011】
上記態様に係る車両用サスペンション装置では、所定の衝撃荷重よりも小さい荷重が前方から入力された場合において、前側部材も後側部材も破断しないようにアームが構成されている。このため、オフセット衝突の衝突初期(所定の衝撃荷重よりも小さい荷重が入力されている期間)には、前側部材も破断することなく後側部材とともに変形することによって、前側部材および後側部材を介して衝撃荷重を衝突バリアとは反対側に向けて入力させることができる。よって、上記態様に係る車両用サスペンション装置では、例えばサイドフレームなどの車両前部の他の部分を補強しなくても、衝突初期における衝撃伝達経路(ロードパス)を確保することができる。
【0012】
一方、上記態様に係る車両用サスペンション装置では、オフセット衝突の衝突後期において、所定の衝撃荷重以上の荷重がアームに作用した場合には、前側部材は破断するとともに後側部材は破断しない。このため、上記態様に係る車両用サスペンション装置では、オフセット衝突の衝突後期において、前側部材を破断させることによって車輪の挙動を制御することができる。
【0013】
上記態様に係る車両用サスペンション装置において、前記一対のサイドフレームのそれぞれは、前記後側部材が取り付けられる部分において、車幅方向の外側に向けて張り出すように設けられた張出部を有し、前記後側部材は、前記張出部に対して前記車両の前後方向に施行して取り付けられる取付け部を備え、前記後側部材には、前記張出部に対向して前記取付け部より車幅方向の内側に向けて突設された凸部を有する、としてもよい。
【0014】
上記態様に係る車両用サスペンション装置では、後側部材が凸部を有するので、前方からの衝突荷重が入力された場合にも、アームが車両後方に向けて真直ぐに移動することが防がれ、車幅方向の内側に向けて荷重を伝達するためのモーメントを発生させることができる。これより、オフセット衝突時における車室への衝撃を緩和するのに優位である。
【0015】
上記態様に係る車両用サスペンション装置において、前記一対のサイドフレーム同士の間に架設された少なくとも1つのクロスメンバをさらに備える、としてもよい。
【0016】
上記態様に係る車両用サスペンション装置では、少なくとも1つのクロスメンバを備えるので、オフセット衝突時にアームに入力された衝撃荷重を車幅方向の内側へと伝達することができる。これより、オフセット衝突時における車室への衝撃を緩和するのに優位である。
【0017】
上記態様に係る車両用サスペンション装置において、前記少なくとも1つのクロスメンバは、前記一対のサイドフレームにおける前記前側部材が取り付けられた箇所同士の間に架設された前側クロスメンバと、前記一対のサイドフレームにおける前記後側部材が取り付けられた箇所同士の間に架設された後側クロスメンバと、を含む、としてもよい。
【0018】
上記態様に係る車両用サスペンション装置では、前側クロスメンバと後側クロスメンバを備えるので、オフセット衝突時にアームに入力された衝撃荷重を両クロスメンバを介して車幅方向の内側へと伝達することができる。これより、オフセット衝突時における車室への衝撃を緩和するのに優位である。
【0019】
上記態様に係る車両用サスペンション装置において、前記前側部材は、前記後側部材との接続箇所よりも車幅方向の外側の部分に溝部を有する、としてもよい。
【0020】
上記態様に係る車両用サスペンション装置では、前側部材が溝部を有するので、オフセット衝突の衝突後期において、所定の衝撃荷重以上の荷重が入力されることで、溝部を起点に前側部材を破断させることができ、車輪の挙動をより確実に制御することができる。
【0021】
上記態様に係る車両用サスペンション装置において、前記一対のアームは、サスペンションの下端を支持するロアアームであって、前記一対のアームのそれぞれは、前記サスペンションの下端を支持する部分において、前記車両の前後方向に貫通する孔を有し、前記溝部は、前記アームにおける前記車両の前後方向の少なくとも一方の主面において、前記孔の縁から前記車両の上方および下方の少なくとも一方に向けて延びるように形成されている、としてもよい。
【0022】
上記態様に係る車両用サスペンション装置では、溝部がサスペンションを支持するために設けられた孔の縁から延びるように形成されているので、オフセット衝突の衝突後期に前側部材が破断した際にサスペンションの支持も解除され、車輪の挙動をより確実に制御することができる。
【0023】
上記態様に係る車両用サスペンション装置において、前記前側部材は、軽合金で形成され、前記後側部材は、鉄鋼で形成されている、としてもよい。
【0024】
上記態様に係る車両用サスペンション装置では、前側部材が軽合金(アルミニウム合金、マグネシウム合金、チタン合金など)で形成され、後側部材が鉄鋼(Feを主成分として含む金属材料)で形成されているので、アーム全体を鉄鋼で形成する場合に比べて軽量化を図ることができる。また、前側部材を軽合金で形成することで、当該前側部材を後側部材に比べて相対的に低い強度に設定することが容易に可能となり、オフセット衝突の衝突後期に前側部材を確実に破断させるのにさらに優位である。
【0025】
上記態様に係る車両用サスペンション装置において、前記前側部材と前記後側部材とは、互いに車幅方向に間隔を空けた複数の箇所で接続されている、としてもよい。
【0026】
上記態様に係る車両用サスペンション装置では、前側部材と後側部材とが車幅方向に間隔を空けた複数の箇所で接続されているので、オフセット衝突の衝突初期において、接続箇所を中心に前側部材と後側部材とが相対的に回転するような変位が抑制される。よって、上記態様に係る車両用サスペンション装置では、衝突初期における衝撃伝達経路を確保するのに優位である。
【発明の効果】
【0027】
上記の各態様に係る車両用サスペンション装置では、車体重量の増加を抑制しながら、オフセット衝突時における衝突初期から衝突後期に至るまで、車室への衝撃を緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】実施形態に係る車両用サスペンション装置が適用される車両前部を示す平面図である。
【
図4】ロアアームにおける後側部材とブラケットとの連結部分を示す平面図である。
【
図5】前側部材を車両の前方側より見た正面図である。
【
図6】
図1のVI-VI線断面を示す断面図である。
【
図7】微小ラップ衝突の初期におけるロアアームの形状変化を示す平面図である。
【
図8】衝突中期におけるロアアームの形状変化を示す平面図である。
【
図9】衝突後期においてロアアームが溝部で破断した状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下では、本発明の実施形態について、図面を参酌しながら説明する。なお、以下で説明の形態は、本発明の一例であって、本発明は、その本質的な構成を除き何ら以下の形態に限定を受けるものではない。
【0030】
以下の説明で用いる図において、「Fr」は車両前方、「Re」は車両後方、「Le」は車両左方、「Ri」は車両右方、「Up」は車両上方、「Lo」は車両下方をそれぞれ示す。
【0031】
1.車両前部1aの構成
実施形態に係るサスペンション装置2が適用された車両1の車両前部1aの構成について、
図1を用いて説明する。なお、
図1では、車両前部1aの構成の内の一部を抜き出して図示している。
【0032】
図1に示すように、車両前部1aは、フロアパネル14の前方において、互いに車幅方向に間隔を空け、それぞれが車両前後方向に延びるように形成された一対のサスペンションサイドフレーム(サイドフレーム)11を備える。一対のサスペンションサイドフレーム11のそれぞれの前端には、メンバ10が接合されている。一対のメンバ10の前端には、車幅方向に延びるフロントビーム20が接合されている。
【0033】
一対のサスペンションサイドフレーム11同士の間には、前方側から前側クロスメンバ12と後側クロスメンバ13とが架設されている。前側クロスメンバ12と後側クロスメンバ13とは、車両前後方向に互いに間隔を空けて配設されている。
【0034】
フロアパネル14には、車幅方向の両側部において、それぞれが車両前後方向に延びる一対のサイドシル15が設けられている。また、フロアパネル14には、車両前方側から後方側に向けて互いの間隔が漸次拡がるように配置された一対のフロアレインフォースメント16が設けられている。
【0035】
一対のサスペンションサイドフレーム11のそれぞれには、車幅方向の外側部分に一対のロアアーム(アーム)17が取り付けられている。一対のロアアーム17のそれぞれは、車幅方向の外側で前輪(車輪)18を支持する。なお、詳細な説明は省略するが、前輪18は、ロアアーム17に対してナックル(図示を省略。)を介して支持されている。
【0036】
一対のロアアーム17には、前方側にスタビライザバー19が接続されている。また、一対のロアアーム17のそれぞれは、その後方部分において、ブラケット(張出部)21を介してサスペンションサイドフレーム11に取り付けられている。
【0037】
なお、本実施形態に係るサスペンション装置2は、一対のサスペンションサイドフレーム11と、一対のロアアーム17とを構成要素として含んでいる。
【0038】
2.ロアアーム17の構成
ロアアーム17の詳細構成と、サスペンションサイドフレーム11へのロアアーム17の取付形態について、
図2および
図3を用いて説明する。
【0039】
図2に示すように、一対のロアアーム17のそれぞれは、車両前後方向の前方側に配置された前側部材171と、後側に配置された後側部材172とを有する。前側部材171は、車幅方向に延び、車幅方向の内側の部分でサスペンションサイドフレーム11に取り付けられ、外端部(外側の部分)で前輪18を支持する。また、前側部材171は、サスペンション22の下端を支持する。
【0040】
後側部材172は、車両前後方向に延び、前部(前側の部分)が前側部材171に接続され、後部(後側の部分)でブラケット21を介してサスペンションサイドフレーム11に取り付けられている。
【0041】
図3に示すように、後側部材172には、互いに車幅方向に間隔を空けて設けられた2つの固定部172a,172bを有する。前側部材171と後側部材172とは、車両前後方向の前方側から前側部材171に開けられた通し孔を挿通するボルトBLTが後側部材172の固定部172a,172bに形成された雌ネジに螺合することで接続されている(矢印C1,C2)。
【0042】
前側部材171は、ボルトBLTが挿通するための通し孔とは別に、3つの孔部171a,171c,171dを有する。車幅方向の最も内側に設けられた孔171aは、サスペンションサイドフレーム11に前側部材171を取り付けるのに用いられる孔である。車幅方向の外側に設けられた孔171cは、サスペンション22の下端を支持するのに用いられる孔である。車幅方向において孔171aと孔171cとの間の位置に設けられた孔171dは、スタビライザバー19を取り付けるのに用いられる孔である。
【0043】
前側部材171における車幅方向の最も外側の部分には、ナックルに取り付けるのに用いられるボールジョイント171bが設けられている。前側部材171は、ボールジョイント171bを用いて取り付けられるナックルを介して前輪18を支持する。
【0044】
後側部材172は、車両上下方向からの平面視において、車幅方向の外側の縁部が、前方から後方に行くのに従って外側から内側へと変位する弧状に形成されている。後側部材172の後端には、ブラケット21への取り付けに用いられる取付け軸部(取付け部)172cと、取付け軸部172の前端部分において車幅方向内側に向けて突設された凸部172dとを有する。後側部材172の軸部172cは、「サイドフレームの張出部との取付け部」に該当する。取付け軸部172cは、車両1の前後方向に指向している。
【0045】
ここで、本実施形態に係るサスペンション装置2において、前側部材171は、軽合金の一種であるアルミニウム合金を用いて形成されており、後側部材172は、鉄鋼を用いて形成されている。即ち、本実施形態に係るサスペンション装置2では、後側部材172が前側部材171よりも高い強度の材料から構成されている。
【0046】
なお、
図2および
図3に示すように、本実施形態に係るサスペンション装置2では、サスペンションサイドフレーム11への前側部材171の取り付け位置が、車両前後方向におけるサスペンションフレーム11への前側クロスメンバ12の接合位置と略同一である。また、本実施形態に係るサスペンション装置2では、サスペンションサイドフレーム11への後側部材172の取り付け位置(ブラケット21の位置)が、車両前後方向におけるサスペンションフレーム11への後側クロスメンバ13の接合位置と略同一である。
【0047】
3.後側部材172に設けられた凸部172dの果たす役割
後側部材172に設けられた凸部172dの果たす役割について、
図4を用いて説明する。
【0048】
図4に示すように、ロアアーム17の後側部材172は、後端に設けられた取付け軸部172cがブラケット21に嵌入されることでサスペンションサイドフレーム11に取り付けられている。そして、後側部材172の凸部172dは、取付け軸部172cの軸心Ax172に対して車幅方向の内側でブラケット21に当接または近接する(矢印D4)。
【0049】
車両1に対してオフセット衝突によりロアアーム17に前方から衝撃荷重が入力された場合には(矢印D1)、凸部172dがブラケット21から前方への反力を受ける(矢印D2)。この結果、取付け軸部172cの軸心172cとブラケット21の前端縁との交点を中心として、後側部材172の取付け軸部172cからブラケット21を介してサスペンションサイドフレーム11に対して車幅方向内向きの力が生じる(矢印D3)。これにより、オフセット衝突時において、サスペンション装置2では、車幅方向内側に荷重を伝達するためのモーメントが発生する。
【0050】
4.前側部材171の構成
前側部材171の構成について、
図5を用いて説明する。なお、
図5は、前側部材171を車両1の前方側から見た正面図である。
【0051】
図5に示すように、前側部材171は、車幅方向の最も内側となる部分に孔171aを有し、最も外側となる部分にボールジョイント171bを有する。そして、前側部材171は、車幅方向における孔171aとボールジョイント171bとの間に、車幅方向の内側から順に、孔171e、孔171d、孔171f、孔171eを有する。この内、孔171eおよび孔171fは、後側部材172との接続に用いられるボルトBLTを挿通する通し孔である。
【0052】
前側部材171は、さらに溝部171gを有する。溝部171gは、オフセット衝突の際に、サスペンション装置2に対して所定の衝突荷重以上の荷重が入力された場合に、前側部材171の破断の起点となる部位である。溝部171gは、サスペンション22の下端を支持するのに用いられる孔171cの縁から斜め上向きに延びるように形成されている。前側部材171において、溝部171gの溝底では、その周囲の部位よりも車両前後方向の肉厚が薄く形成されている。
【0053】
なお、本実施形態では、溝部171gは、車両1の上方側へと行くのに従って、車幅方向の内側となるように傾斜した状態で形成されている。
【0054】
5.フロアレインフォースメント16の構造
フロアレインフォースメント16の構造について、
図6を用いて説明する。
【0055】
図6に示すように、フロアレインフォースメント16は、フロアパネル部材161とハット状部材162,163とにより構成されている。ハット状部材162,163は、それぞれがハット状断面を有する部材であり、フロアパネル161を上下方向に挟み込むように向かい合わせに配設されている。フロアレインフォースメント16は、フロアパネル部材161とハット状部材162,163との組み合わせにより閉断面構造を有する。
【0056】
図6に示す閉断面構造をもって構成されたフロアレインフォースメント16は、車両1の前方から衝突荷重が入力された場合に当該衝突荷重をサイドシル15が設けられた両サイドへとにガスための衝撃伝達経路(ロードパス)となる。
【0057】
6.微小ラップ衝突時におけるロアアーム17の形状変化
車両1が微小ラップ衝突した場合のロアアーム17の形状変化について、
図7から
図9を用いて説明する。なお、
図7および
図8では、前輪18やサスペンション22などの図示を省略し、
図9では、ロアアーム17の一部を抜き出して図示している。
【0058】
図7に示すように、車両1が微小ラップ衝突した初期においては、衝突バリア500からの荷重E1を受けてロアアーム17の前側部材171が主に変形し始める。前側部材171は、後側部材172に比べて低い強度の軽合金から構成されているので、ボールジョイント171bが設けられた車幅方向外側が後方側に変位するように変形し、鉄鋼から形成された後側部材172は、
図7に示す衝突初期では殆ど変形しない。
【0059】
前側部材171の変形に伴って、固定部172a,172bを介して後側部材172に矢印E2で示すような車幅方向内側に向けた荷重が作用する。そして、サスペンションサイドフレーム11に対しては、矢印E3で示すようにブラケット21を介して車幅方向内側に向けた荷重が作用する。このように、本実施形態に係るサスペンション装置2では、微小ラップ衝突の初期において、後側部材172を介して衝突荷重を車幅方向内側(衝突バリア500と反対側)に作用させることができる。
【0060】
図8に示すように、車両1が微小ラップ衝突した中期においても、前側部材171に入力される衝突荷重が前側部材171の破断荷重以上とならない限りにおいて、衝突バリア500から入力された荷重F1に応じてサスペンションサイドフレーム11を車幅方向内側((衝突バリア500と反対側)に作用させることができる(矢印F2,F3)。
【0061】
図9に示すように、微小ラップ衝突の衝突後期において、前側部材171に入力される衝突荷重が前側部材171の破断荷重以上となった場合には、前側部材171が溝部171gを起点に破断し、外端部171hが分離する(矢印G)。この場合に、溝部171gは孔171cの縁から延びるように形成されているので、外端部171hの分離によってサスペンション22の下端の支持も解除される。
【0062】
7.効果
本実施形態に係るサスペンション装置2では、所定の衝撃荷重よりも小さい荷重が前方から入力された場合において、前側部材171も後側部材172も破断しないようにロアアーム17が構成されている。このため、オフセット衝突(微小ラップ衝突を含む。)の衝突初期(所定の衝撃荷重よりも小さい荷重が入力されている期間)には、前側部材171も破断することなく後側部材172とともに変形することによって、前側部材171および後側部材172を介して衝撃荷重を衝突バリア500とは反対側(車幅方向における内側)に向けて入力させることができる。よって、サスペンション装置2では、例えばサイドフレームなどの車両前部の他の部分を補強しなくても、衝突初期における衝撃伝達経路(ロードパス)を確保することができる。
【0063】
サスペンション装置2では、オフセット衝突(微小ラップ衝突を含む。)の衝突後期において、所定の衝撃荷重以上の荷重がロアアーム17の前側部材171に作用した場合には、前側部材171は破断する。このため、サスペンション装置2では、オフセット衝突の衝突後期において、前側部材171だけを破断させることによって前輪18の挙動を制御することができる。
【0064】
また、本実施形態に係るサスペンション装置2では、後側部材172が凸部172dを有するので、前方からの衝突荷重が入力された場合にも、ロアアーム17の後側部材172の後端部が車両後方に向けて真直ぐに移動することが防がれ、車幅方向の内側に向けて荷重を伝達するためのモーメントを発生させることができる。これより、オフセット衝突時における車室への衝撃を緩和するのに優位である。
【0065】
また、本実施形態に係るサスペンション装置2では、クロスメンバ12,13を備えるので、オフセット衝突時(微小ラップ衝突時を含む。)にロアアーム17に入力された衝撃荷重を車幅方向の内側へと伝達することができる。これより、オフセット衝突時における車室への衝撃を緩和するのに優位である。
【0066】
また、本実施形態に係るサスペンション装置2では、前側クロスメンバ12と後側クロスメンバ13を備えるので、オフセット衝突時(微小ラップ衝突時を含む。)にロアアーム17に入力された衝撃荷重を両クロスメンバ12,13を介して車幅方向の内側へと伝達することができる。これより、オフセット衝突時における車室への衝撃を緩和するのに優位である。
【0067】
また、本実施形態に係るサスペンション装置2では、ロアアーム17の前側部材171が溝部171gを有するので、オフセット衝突の衝突後期において、所定の衝撃荷重以上の荷重が入力されることで、溝部171gを起点に前側部材171を破断させることができ、前輪18の挙動をより確実に制御することができる。
【0068】
また、本実施形態に係るサスペンション装置2では、溝部171gがサスペンション22の下端を支持するために設けられた孔171cの縁から延びるように形成されているので、オフセット衝突の衝突後期に前側部材171が破断した際にサスペンション22の支持も解除され、前輪18の挙動をより確実に制御することができる。
【0069】
また、本実施形態に係るサスペンション装置2では、前側部材171が軽合金(一例として、アルミニウム合金)で形成され、後側部材172が鉄鋼(Feを主成分として含む金属材料)で形成されているので、ロアアーム17の全体を鉄鋼で形成する場合に比べて軽量化を図ることができる。また、前側部材171をアルミニウム合金で形成することで、当該前側部材171を後側部材172に比べて相対的に低い強度に設定することが容易に可能となり、オフセット衝突の衝突後期に前側部材171を確実に破断させるのにさらに優位である。
【0070】
また、本実施形態に係るサスペンション装置2では、前側部材171と後側部材172とが車幅方向に間隔を空けた2箇所でボルトBLTにより接続されているので、オフセット衝突の衝突初期において、接続箇所を中心に前側部材171と後側部材172とが相対的に回転するような変位が抑制される。よって、サスペンション装置2では、衝突初期における衝撃伝達経路を確保するのに優位である。
【0071】
以上のように、本実施形態に係るサスペンション装置2では、車体重量の増加を抑制しながら、オフセット衝突時(微小ラップ衝突時を含む。)における衝突初期から衝突後期に至るまで、車室への衝撃を緩和することができる。
【0072】
[変形例]
上記実施形態に係るサスペンション装置2では、前側部材171をアルミニウム合金で形成することとしたが、本発明では、これに限定を受けるものではない。後側部材172との関係を考慮して、当該後側部材172よりも低い強度の材料を用いて前側部材171を形成すればよい。
【0073】
上記実施形態に係るサスペンション装置2では、後側部材172が凸部172dを有する構成としたが、本発明では、必ずしも凸部172dを有することを要しない。
【0074】
上記実施形態に係るサスペンション装置2では、一対のサスペンションサイドフレーム11同士の間に2つのクロスメンバ12,13が架設された構成を採用したが、本発明では、1つのクロスメンバがサスペンションサイドフレーム11同士の間に架設された構成とすることも可能である。
【0075】
上記実施形態に係るサスペンション装置2では、ロアアーム17について前側部材171と後側部材172とを備える構成を採用したが、本発明では、アッパアームについて上記実施形態と同様の前側部材と後側部材とを備える構成を採用することも可能である。
【0076】
上記実施形態に係るサスペンション装置2では、前側部材171における孔171cの縁から延びるように溝部171gを形成することとしたが、本発明では、必ずしも孔171cの縁から延びるように溝部171gを形成することを要しない。即ち、前方からの衝突荷重が入力された場合であって、前側部材171が破断する直前に最も大きな応力が作用する箇所に溝部を設けておけばよい。
【0077】
上記実施形態に係るサスペンション装置2では、前側部材171と後側部材172とを2本のボルトBLTによって取り付けることとしたが、前側部材171と後側部材172との取付けに関して、1本のボルトで取り付けることとしてもよいし、3本以上のボルトで取り付けることとしてもよい。また、前側部材171と後側部材172との取付けについては、ボルトBLTによる形態に限定されず、リベットや溶接などを用いた取付け形態を採用することも可能である。
【符号の説明】
【0078】
1 車両
1a 車両前部
2 サスペンション装置
11 サスペンションサイドフレーム(サイドフレーム)
12 前側クロスメンバ
13 後側クロスメンバ
17 ロアアーム(アーム)
18 前輪(車輪)
21 ブラケット(張出部)
171 前側部材
171g 溝部
172 後側部材
172c 取付け軸部(取付け部)
172d 凸部