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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-21
(45)【発行日】2025-04-30
(54)【発明の名称】ポリカーボネート樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20250422BHJP
   C08K 5/29 20060101ALI20250422BHJP
   C08G 18/44 20060101ALI20250422BHJP
   C09D 11/102 20140101ALI20250422BHJP
【FI】
C08L69/00
C08K5/29
C08G18/44
C09D11/102
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021543766
(86)(22)【出願日】2020-09-01
(86)【国際出願番号】 JP2020032986
(87)【国際公開番号】W WO2021045027
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2023-07-03
(31)【優先権主張番号】P 2019163140
(32)【優先日】2019-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100131990
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 玲恵
(72)【発明者】
【氏名】吉谷 耕平
(72)【発明者】
【氏名】小川 典慶
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-095046(JP,A)
【文献】特開2008-101191(JP,A)
【文献】特開2018-051959(JP,A)
【文献】国際公開第2017/126432(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/007427(WO,A1)
【文献】特開平09-316060(JP,A)
【文献】国際公開第2017/047560(WO,A1)
【文献】特開2016-160291(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/00 - 64/42
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 -101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式(1)で表される末端構造と下記構成単位(2)とを有する末端変性ポリカーボネート樹脂(A)100質量部と、
ポリイソシアネート化合物0.1質量部以上と
を含有する、ポリカーボネート樹脂組成物、又は前記ポリカーボネート樹脂組成物の少なくとも一部が架橋されてなる架橋体組成物と、
非ハロゲン系有機溶媒と、
を含む、樹脂溶液:
【化1】
(式(1)中、
は、置換基を有してもよい、炭素数1~20のアルキレン又は炭素数2~20のアルケニレン基を表し、
およびRはそれぞれ独立に、水素、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数6~12のアリール基を表し、
Zはエーテル結合、カルボニル基、エステル結合を表すか、単結合を表し、
aは1~3の整数であり、
Yは、エーテル結合又はエステル基を表す。)
【化2】
(式(2)中、
~Rはそれぞれ独立に、水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素であるか、又は、それぞれ置換基を有してもよい、炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、炭素数2~12のアルケニル基、炭素数1~5のアルコキシ基、若しくは炭素数7~17のアラルキル基であり、
Xは、-O-、-S-、-SO-、-SO-、-CO-、又は下記一般式(3)~(8)のいずれかで表される二価の基である。)
【化3】
(一般式(3)中、
~R17はそれぞれ独立に、水素、又は炭素数1~3のアルキル基を表し、
~R17のうち少なくとも一つが炭素数1~3のアルキル基を表し;
一般式(4)~(8)中、
18及びR19はそれぞれ独立に、水素、ハロゲン、置換基を有してもよい炭素数1~20のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1~5のアルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6~12のアリール基、置換基を有してもよい炭素数7~17のアラルキル基、又は置換基を有してもよい炭素数2~15のアルケニル基を表すか、又は、
18及びR19は互いに結合して、炭素数3~20の炭素環又は炭素数1~20の複素環を形成し;
20は置換基を有してもよい1~9のアルキレン基であり、
cは0~20の整数を表し、
dは1~500の整数を表す。)
であって、但し、
構成単位(2)がビスフェノール化合物から誘導される場合、前記ビスフェノール化合物としてビスフェノールAが単独で用いられる場合を除き、
前記ポリイソシアネート化合物が4,4’-エチリデンジフェニルジイソシアネートである場合を除く、
樹脂溶液
【請求項2】
前記構造式(1)中、Zが単結合を表し、Rが炭素数1~2のアルキレンであり、R~Rが水素である、請求項1に記載の樹脂溶液
【請求項3】
前記構成単位(2)中、Xが、-O-、-S-、又は下記一般式(3)~(4)のいずれかで表される二価の基である、請求項1又は2に記載の樹脂溶液
【請求項4】
前記構成単位(2)が、下記式(9)~(22)からなる群より選ばれるいずれか1種以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂溶液
【化4】
【請求項5】
前記構成単位(2)が、ビスフェノール化合物から誘導される、請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂溶液
【請求項6】
前記ビスフェノール化合物が、ビスフェノールA、ビスフェノールAP、ビスフェノールZ、ビスフェノールCD、ビスフェノールC、ビスフェノールIOTD、ビスフェノールIBTD、ビスフェノールMIBK、及びビスフェノールAFからなる群より選択される、請求項5に記載の樹脂溶液
【請求項7】
前記構造式(1)で表される末端構造が、p-ヒドロキシフェネチルアルコール(PHEP)である、請求項1~6のいずれか一項に記載の樹脂溶液
【請求項8】
前記構成単位(2)に対し、前記構造式(1)で表される末端構造が0.5mol%以上で含まれる、請求項1~7のいずれか一項に記載の樹脂溶液
【請求項9】
前記ポリイソシアネート化合物が、1分子中にイソシアネート基を2個以上含有するイソシアネート化合物である、請求項1~8のいずれか一項に記載の樹脂溶液
【請求項10】
前記イソシアネート化合物が、ジイソシアネート化合物である、請求項9に記載の樹脂溶液
【請求項11】
前記ポリカーボネート樹脂組成物の粘度平均分子量が、10,000~60,000である、請求項1~10のいずれか一項に記載の樹脂溶液
【請求項12】
前記架橋体組成物と、非ハロゲン系有機溶媒とを含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の樹脂溶液
【請求項13】
前記ポリカーボネート樹脂組成物、非ハロゲン系有機溶媒を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の樹脂溶液。
【請求項14】
請求項請求項1~13のいずれか一項に記載の樹脂溶液をバインダー樹脂溶液として用いた、印刷インキ。
【請求項15】
請求項14に記載の印刷インキを塗工した基材フィルム。
【請求項16】
請求項1~13のいずれか一項に記載の樹脂溶液を含む、フィルム又は被膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂組成物に関し、より詳細には、基材との密着性に優れるポリカーボネートコーティング樹脂溶液に用いることができるポリカーボネート樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は透明性や成形性に優れ、また耐衝撃性等の優れた機械特性により、電気製品や自動車等機械製品に利用されている。その中で、機能性を有する薄膜を得るためや物品のコーティングを行うため、ポリカーボネート樹脂溶液が知られている。(特許文献1)
【0003】
ポリカーボネート樹脂溶液から得られた被膜は、耐衝撃性等の耐久性には優れるが、密着性が劣り、むしろその性質を利用した易剥離性のマニキュアへの応用が知られている。(特許文献2)故に、これらのコーティング被膜と基材との密着性には改善の余地があった。
【0004】
ポリカーボネート樹脂と他の樹脂とをブレンドした樹脂組成物としては、例えば、ポリカーボネート樹脂とポリフェニレンエーテル樹脂とのブレンド樹脂組成物が知られているが、このブレンド樹脂組成物は、密着性を改善するものではない(特許文献3)。よって、依然として、コーティング被膜と基材との密着性を改善することができる、ポリカーボネート樹脂と他の樹脂とのブレンド樹脂組成物の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平4-268365号公報
【文献】特開2014-024789号公報
【文献】特許第6340811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、コーティング被膜と基材との密着性を改善することができる、ポリカーボネート樹脂と他の樹脂とのブレンド樹脂組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、特定分子末端有するポリカーボネート樹脂とポリイソシアネート化合物とのブレンド樹脂組成物が、基材と強固な密着性を有する強固なコーティング被膜を形成する溶液に用いることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は下記の態様を含む。
【0009】
<1>
下記構造式(1)で表される末端構造と下記構成単位(2)とを有する末端変性ポリカーボネート樹脂(A)100質量部と、
ポリイソシアネート化合物0.1質量部以上と
を含有する、ポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】

(式(1)中、
は、置換基を有してもよい、炭素数1~20のアルキレン又は炭素数2~20のアルケニレン基を表し、
およびRはそれぞれ独立に、水素、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数6~12のアリール基を表し、
Zはエーテル結合、カルボニル基、エステル結合を表すか、単結合を表し、
aは1~3の整数であり、
Yは、エーテル結合又はエステル基を表す。)
【化2】

(式(2)中、
~Rはそれぞれ独立に、水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素であるか、又はそれぞれ置換基を有してもよい、炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、炭素数2~12のアルケニル基、炭素数1~5のアルコキシ基、若しくは炭素数7~17のアラルキル基であり、
Xは、-O-、-S-、-SO-、-SO-、-CO-、又は下記一般式(3)~(8)のいずれかで表される二価の基である。)
【化3】

(一般式(3)中、
~R17はそれぞれ独立に、水素、又は炭素数1~3のアルキル基を表し、
~R17のうち少なくとも一つが炭素数1~3のアルキル基を表し;
一般式(4)~(8)中、
18及びR19はそれぞれ独立に、水素、ハロゲン、置換基を有してもよい炭素数1~20のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1~5のアルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6~12のアリール基、置換基を有してもよい炭素数7~17のアラルキル基、又は置換基を有してもよい炭素数2~15のアルケニル基を表すか、又は、
18及びR19は互いに結合して、炭素数3~20の炭素環又は炭素数1~20の複素環を形成し;
20は置換基を有してもよい1~9のアルキレン基であり、
cは0~20の整数を表し、
dは1~500の整数を表す。)
【0010】
<2>
前記構造式(1)中、Zが単結合を表し、Rが炭素数1~2のアルキレンであり、R~Rが水素である、上記<1>に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0011】
<3>
前記構成単位(2)中、Xが、-O-、-S-、又は下記一般式(3)~(4)のいずれかで表される二価の基である、上記<1>又は<2>に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0012】
<4>
前記構成単位(2)が、下記式(9)~(22)からなる群より選ばれるいずれか1種以上である、上記<1>~<3>のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【化4】
【0013】
<5>
前記構成単位(2)が、ビスフェノール化合物から誘導される、上記<1>~<3>のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0014】
<6>
前記ビスフェノール化合物が、ビスフェノールA、ビスフェノールAP、ビスフェノールZ、ビスフェノールCD、ビスフェノールC、ビスフェノールIOTD、ビスフェノールIBTD、ビスフェノールMIBK、及びビスフェノールAFからなる群より選択される、上記<5>に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0015】
<7>
前記構造式(1)で表される末端構造が、p-ヒドロキシフェネチルアルコール(PHEP)である、上記<1>~<6>のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0016】
<8>
前記構成単位(2)に対し、前記構造式(1)で表される末端構造が0.5mol%以上で含まれる、上記<1>~<7>のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0017】
<9>
前記ポリイソシアネート化合物が、1分子中にイソシアネート基を2個以上含有するイソシアネート化合物である、上記<1>~<8>のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0018】
<10>
前記イソシアネート化合物が、ジイソシアネート化合物である、上記<9>に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0019】
<11>
前記ポリカーボネート樹脂組成物の粘度平均分子量が、10,000~60,000である、上記<1>~<10>のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0020】
<12>
上記<1>~<11>のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物の少なくとも一部が架橋されてなる架橋体組成物。
【0021】
<13>
上記<1>~<11>のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物又は上記<12>に記載の架橋体組成物、及び非ハロゲン系有機溶媒を含む、樹脂溶液。
【0022】
<14>
上記<13>に記載の樹脂溶液をバインダー樹脂溶液として用いた、印刷インキ。
【0023】
<15>
上記<14>に記載の印刷インキを塗工した基材フィルム。
【0024】
<16>
上記<1>~<11>のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物又は上記<12>に記載の架橋体組成物を含む、フィルム又は被膜。
【0025】
<17>
非ハロゲン系有機溶媒が、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、炭酸エステル系溶媒、及びケトン系溶媒からなる群より選択される1種以上の溶媒を含む、上記<13>に記載の樹脂溶液。
【発明の効果】
【0026】
本発明の樹脂組成物を含む樹脂溶液から得られる樹脂被膜は、従来のポリカーボネート樹脂被膜に比して、基材との密着性が強く、剥離しにくい利点を有する。
【発明を実施するための形態】
【0027】
1.ポリカーボネート樹脂組成物
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、下記構造式(1)で表される末端構造と下記構成単位(2)とを有する末端変性ポリカーボネート樹脂(A)と、ポリイソシアネート化合物とを含む。
【化5】

(式(1)中、
は、置換基を有してもよい、炭素数1~20のアルキレン又は炭素数2~20のアルケニレン基を表し、
およびRはそれぞれ独立に、水素、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数6~12のアリール基を表し、
Zはエーテル結合、カルボニル基、エステル結合を表すか、単結合を表し、
aは1~3の整数であり、
Yは、エーテル結合又はエステル基を表す。)
【化6】

(式(2)中、
~Rはそれぞれ独立に、水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素であるか、又は、それぞれ置換基を有してもよい、炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、炭素数2~12のアルケニル基、炭素数1~5のアルコキシ基、若しくは炭素数7~17のアラルキル基であり、
Xは、-O-、-S-、-SO-、-SO-、-CO-、又は下記一般式(3)~(8)のいずれかで表される二価の基である。)
【化7】

(一般式(3)中、
~R17はそれぞれ独立に、水素、又は炭素数1~3のアルキル基を表し、
~R17のうち少なくとも一つが炭素数1~3のアルキル基を表し;
一般式(4)~(8)中、
18及びR19はそれぞれ独立に、水素、ハロゲン、置換基を有してもよい炭素数1~20のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1~5のアルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6~12のアリール基、置換基を有してもよい炭素数7~17のアラルキル基、又は置換基を有してもよい炭素数2~15のアルケニル基を表すか、又は、
18及びR19は互いに結合して、炭素数3~20の炭素環又は炭素数1~20の複素環を形成し;
20は置換基を有してもよい1~9のアルキレン基であり、
cは0~20の整数を表し、
dは1~500の整数を表す。)
【0028】
本発明の一実施形態において、ポリカーボネート樹脂組成物は、上記構造式(1)で表される末端構造と上記構成単位(2)とを有する末端変性ポリカーボネート樹脂(A)100質量部と、ポリイソシアネート化合物0.1質量部以上とを含む。本発明の一実施形態において、ポリカーボネート樹脂組成物中に含まれるポリイソシアネート化合物の量は、末端変性ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、0.1質量部以上、好ましくは1.0質量部以上、より好ましくは3.0質量部以上、更により好ましくは5.0質量部以上、特に好ましくは8.0質量部以上、であってよい。
【0029】
ポリイソシアネート化合物(B)をポリカーボネート樹脂(A)に対して過剰に用いても、密着性の効果は得られるため、樹脂組成物におけるポリイソシアネート化合物(B)の含有量の上限値はさほど重要ではないものの、本発明の一実施形態において、ポリイソシアネート化合物(B)の量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、例えば、50質量部以下であり、好ましくは45質量部以下、より好ましくは40質量部以下、更により好ましくは35質量部以下、特に好ましくは30質量部以下、であってよい。
【0030】
2.末端変性ポリカーボネート樹脂(A)
本発明において、ポリカーボネート樹脂組成物中に含まれる末端変性ポリカーボネート樹脂(A)は、上述のように、下記構造式(1)で表される末端構造と下記構成単位(2)とを有する。
【化8】

(式(1)中、
は、置換基を有してもよい、炭素数1~20のアルキレン又は炭素数2~20のアルケニレン基を表し、
およびRはそれぞれ独立に、水素、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数6~12のアリール基を表し、
Zはエーテル結合、カルボニル基、エステル結合を表すか、単結合を表し、
aは1~3の整数であり、
Yは、エーテル結合又はエステル基を表す。)
【化9】

(式(2)中、
~Rはそれぞれ独立に、水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素であるか、又は、それぞれ置換基を有してもよい、炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、炭素数2~12のアルケニル基、炭素数1~5のアルコキシ基、若しくは炭素数7~17のアラルキル基であり、
Xは、-O-、-S-、-SO-、-SO-、-CO-、又は下記一般式(3)~(8)のいずれかで表される二価の基である。)
【化10】

(一般式(3)中、
~R17はそれぞれ独立に、水素、又は炭素数1~3のアルキル基を表し、
~R17のうち少なくとも一つが炭素数1~3のアルキル基を表し;
一般式(4)~(8)中、
18及びR19はそれぞれ独立に、水素、ハロゲン、置換基を有してもよい炭素数1~20のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1~5のアルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6~12のアリール基、置換基を有してもよい炭素数7~17のアラルキル基、又は置換基を有してもよい炭素数2~15のアルケニル基を表すか、又は、
18及びR19は互いに結合して、炭素数3~20の炭素環又は炭素数1~20の複素環を形成し;
20は置換基を有してもよい1~9のアルキレン基であり、
cは0~20の整数を表し、
dは1~500の整数を表す。)
【0031】
本発明の一実施形態において、前記構成単位(2)に対し、前記構造式(1)で表される末端構造は0.5mol%以上12mol%以下、好ましくは1.0mol%以上10mol%以下、より好ましくは1.5mol%以上8mol%以下で含まれてよい。
【0032】
(i)構造式(1)で表される末端構造
本発明の一実施形態において、構造式(1)中、Rは、置換基を有してもよい、炭素数1~20のアルキレン又は炭素数2~20のアルケニレン基を表す。本発明の一実施形態において、構造式(1)中、Rは、置換基を有してもよい、炭素数1~20のアルキレン、好ましくは、置換基を有してもよい、炭素数1~15のアルキレン、より好ましくは置換基を有してもよい、炭素数1~10のアルキレン、更により好ましくは置換基を有してもよい、炭素数1~5のアルキレン、更にまたより好ましくは置換基を有してもよい、炭素数1~2のアルキレンであってよい。本発明の好ましい実施形態において、構造式(1)中、Rは、炭素数1~2のアルキレンであってよい。
【0033】
本発明の一実施形態において、構造式(1)中、RおよびRはそれぞれ独立に、水素、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数6~12のアリール基を表す。本発明の一実施形態において、構造式(1)中、RおよびRはそれぞれ独立に、好ましくは、水素、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、炭素数6~10のアリール基であってよく、より好ましくは、水素、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~3のアルコキシ基、炭素数6~8のアリール基であってよい。本発明の好ましい実施形態において、構造式(1)中、RおよびRは水素であってよい。
【0034】
本発明の一実施形態において、構造式(1)中、Zはエーテル結合、カルボニル基、エステル結合を表すか、単結合を表す。本発明の一実施形態において、構造式(1)中、Zはエーテル結合であってよい。本発明の別の実施形態において、構造式(1)中、Zはカルボニル基であってよい。本発明の更に別の実施形態において、構造式(1)中、Zはエステル結合であってよい。本発明の更にまた別の実施形態において、構造式(1)中、Zは単結合であってよい。本発明の好ましい実施形態において、構造式(1)中、Zは単結合であってよい。
【0035】
本発明の一実施形態において、構造式(1)中、aは1~3の整数である。本発明の一実施形態において、構造式(1)中、aは1又は2又は3であってよい。
【0036】
本発明の一実施形態において、構造式(1)中、Yは、エーテル結合又はエステル基を表す。本発明の一実施形態において、構造式(1)中、Yは、エーテル結合であってよい。本発明の一実施形態において、構造式(1)中、Yは、エステル基であってよい。
【0037】
本発明の好ましい実施形態において、構造式(1)中、Zは単結合を表し、Rは炭素数1~2のアルキレンであり、R~Rは水素であってよい。
【0038】
本発明の一実施形態において、分子末端に構造式(1)を誘導する1価フェノールは、例えば、p-ヒドロキシフェネチルアルコール(=チロソール)、m-ヒドロキシフェネチルアルコール、o-ヒドロキシフェネチルアルコール、o-ヒドロキシベンジルアルコール(=サリチルアルコール)、p-ヒドロキシベンジルアルコール、m-ヒドロキシベンジルアルコール、バニリルアルコール、ホモバニリルアルコール、3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)―1―プロパノール、シナピルアルコール、コニフェリルアルコール、p-クマリルアルコール等が挙げられるが、これらに限定されない。中でも、反応性の観点からp-ヒドロキシフェネチルアルコール、p-ヒドロキシベンジルアルコールが好ましく、さらにはp-ヒドロキシフェネチルアルコールが好ましい。
【0039】
本発明の一実施形態において、構造式(1)で表される末端構造は、p-ヒドロキシフェネチルアルコール(PHEP)から誘導され得る。
【0040】
(ii)構成単位(2)
本発明の一実施形態において、構成単位(2)中、R~Rはそれぞれ独立に、水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素であるか、又は、それぞれ置換基を有してもよい、炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、炭素数2~12のアルケニル基、炭素数1~5のアルコキシ基、若しくは炭素数7~17のアラルキル基である。本発明の一実施形態において、構成単位(2)中、R~Rはそれぞれ独立に、好ましくは、水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素であるか、又は、それぞれ置換基を有してもよい、炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~10のアリール基、炭素数2~8のアルケニル基、炭素数1~5のアルコキシ基、若しくは炭素数7~15のアラルキル基であってよく、より好ましくは、水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素であるか、又は、それぞれ置換基を有してもよい、炭素数1~5のアルキル基、炭素数6~8のアリール基、炭素数2~5 のアルケニル基、炭素数1~2のアルコキシ基、若しくは炭素数7~12のアラルキル基であってよい。本発明の好ましい実施形態において、R~Rはそれぞれ独立に、水素、又はメチル基であってよい。
【0041】
本発明の一実施形態において、構成単位(2)中、Xは、-O-、-S-、-SO-、-SO-、-CO-、又は下記一般式(3)~(8)のいずれかで表される二価の基である。
【化11】

(一般式(3)中、
~R17はそれぞれ独立に、水素、又は炭素数1~3のアルキル基を表し、
~R17のうち少なくとも一つが炭素数1~3のアルキル基を表し;
一般式(4)~(8)中、
18及びR19はそれぞれ独立に、水素、ハロゲン、置換基を有してもよい炭素数1~20のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1~5のアルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6~12のアリール基、置換基を有してもよい炭素数7~17のアラルキル基、又は置換基を有してもよい炭素数2~15のアルケニル基を表すか、又は、
18及びR19は互いに結合して、炭素数3~20の炭素環又は炭素数1~20の複素環を形成し;
20は置換基を有してもよい1~9のアルキレン基であり、
cは0~20の整数を表し、
dは1~500の整数を表す。)
【0042】
本発明の一実施形態において、構成単位(2)中、Xが上記一般式(3)で表される二価の基である場合、R~R17はそれぞれ独立に、水素又は炭素数1~3のアルキル基を表し、好ましくは、水素又はメチル基を表し、かつ、R~R17のうち少なくとも一つが炭素数1~3のアルキル基を表す。本発明の一実施形態において、R~R17はそれぞれ独立に、水素、メチル、エチル、n-プロピル、又はイソプロピルであってよく、かつ、R~R17のうち少なくとも一つがメチル、エチル、n-プロピル、又はイソプロピルである。
【0043】
本発明の一実施形態において、構成単位(2)中、Xが上記一般式(4)~(8)で表される二価の基である場合、R18及びR19はそれぞれ独立に、水素、ハロゲン、置換基を有してもよい炭素数1~20のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1~5のアルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6~12のアリール基、置換基を有してもよい炭素数7~17のアラルキル基、又は置換基を有してもよい炭素数2~15のアルケニル基を表し、好ましくは、水素、ハロゲン、置換基を有してもよい炭素数1~10のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1~3のアルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6~8のアリール基、置換基を有してもよい炭素数7~12のアラルキル基、又は置換基を有してもよい炭素数2~5のアルケニル基を表してよい。本発明の別の実施形態において、R18及びR19は互いに結合して、炭素数3~20の炭素環又は炭素数1~20の複素環を形成してよく、好ましくは、炭素数3~12の炭素環又は炭素数1~12の複素環を形成してよい。本発明の好ましい実施形態において、R18及びR19は互いに結合して、炭素数3~12 の炭素環を形成してよい。本発明の一実施形態において、構成単位(2)中、Xが上記一般式(8)で表される二価の基である場合、R20は置換基を有してもよい1~9のアルキレン基であり、好ましくは、置換基を有してもよい1~5のアルキレン基であってよい。本発明の一実施形態において、構成単位(2)中、Xが上記一般式(4)~(8)で表される二価の基である場合、cは0~20の整数を表し、dは1~500の整数を表してよく、好ましくは、cは0~12の整数を表し、dは1~300の整数を表してよく、より好ましくは、cは0~6の整数を表し、dは1~100の整数を表してよい。
【0044】
本発明の一実施形態において、構成単位(2)中、Xは、-O-、-S-、又は上記一般式(3)~(4)のいずれかで表される二価の基であってよい。
【0045】
本発明の一実施形態において、構成単位(2)が由来するジオールとしては、例えば、4,4’-ビフェニルジオール、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノールF;BPF)、ビス(2-ヒドロキシフェニル)メタン、2,4’-ジヒドロキシジフェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(2-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)スルホン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルファイド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ケトン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン(ビスフェノールE;BPE)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン(ビスフェノールAP;BPAP)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン(ビスフェノールBP;BPBP)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)エタン、ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)メタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-t-ブチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン(ビスフェノールB;BPB)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(ビスフェノールZ;BPZ)、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロウンデカン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロドデカン(ビスフェノールCD)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-アリルフェニル)プロパン、3,3,5-トリメチル-1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-エチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、α,ω-ビス[3-(o-ヒドロキシフェニル)プロピル]ポリジメチルジフェニルランダム共重合シロキサン、α,ω-ビス[3-(o-ヒドロキシフェニル)プロピル]ポリジメチルシロキサン、4,4’-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスフェノール、4,4’-[1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスフェノール、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン(ビスフェノールC;BPC)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-イソプロピルフェニル)プロパン(ビスフェノールG)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-エチルヘキサン(ビスフェノールIOTD)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-メチルプロパン(ビスフェノールIBTD)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-メチルペンタン(ビスフェノールMIBK)、5,5’-(1-メチルエチリデン)-ビス[1,1’-(ビスフェニル)-2-オール]プロパン(ビスフェノールPH)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン(ビスフェノールTMC)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカン、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-5,7-ジメチルアダマンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン(ビスフェノールAF;BPAF)などが挙げられるが、これらに限定されない。これらは、1種類のみを用いてもよく、2種類以上併用することも可能である。また、これらの中でも特にビスフェノールA、ビスフェノールAP、ビスフェノールZ、ビスフェノールCD、ビスフェノールTMC、ビスフェノールC、ビスフェノールIOTD、ビスフェノールIBTD、ビスフェノールMIBK、及びビスフェノールAFが好ましい。さらには、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン(ビスフェノールC;BPC)、又は2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン(ビスフェノールAF;BPAF)を主成分として用いることが好ましい。なお、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA;BPA)を単独で使用した場合、非ハロゲン系有機溶媒への溶解性が低いため、本発明では2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンを単独では用いないのが好ましい。
【0046】
本発明の一実施形態において、構成単位(2)は、下記式(9)~(22)からなる群より選ばれるいずれか1種以上であってよいが、これらに限定されない。
【化12】
【0047】
本発明の一実施形態において、構成単位(2)は、ビスフェノール化合物から誘導されるものであってよい。本発明の一実施形態において、ビスフェノール化合物は、ビスフェノールA(2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン)、ビスフェノールAP(1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン)、ビスフェノールZ(1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン)、ビスフェノールCD(1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロドデカン)、ビスフェノールC(2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン)、ビスフェノールIOTD(1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-エチルヘキサン)、ビスフェノールIBTD(1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-メチルプロパン)、ビスフェノールMIBK(1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-メチルペンタン)、及びビスフェノールAF(2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン)からなる群より選択され得るが、これらに限定されない。
【0048】
(iii)末端変性ポリカーボネート樹脂(A)の製造
本発明の末端変性ポリカーボネート樹脂(A)は、常法により製造することができる。
【0049】
本発明のコーティング樹脂溶液に用いられるポリカーボネート樹脂は、分子末端に構造式(1)を誘導する1価フェノールと構成単位(2)を誘導するビスフェノール類と炭酸エステル形成化合物を反応させることによって、製造することができるものであり、ビスフェノールAから誘導されるポリカーボネートを製造する際に用いられている既知の方法、例えばビスフェノール類とホスゲンとの直接反応(ホスゲン法)、あるいはビスフェノール類とビスアリールカーボネートとのエステル交換反応(エステル交換法)などの方法を採用することができる。
【0050】
ホスゲン法においては、通常酸結合剤および溶媒の存在下において、ビスフェノールと構造式(1)を誘導する1価フェノールとホスゲンとを反応させる。酸結合剤としては、例えばピリジンや、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物などが用いられ、また溶媒としては、例えば塩化メチレン、クロロホルムなどが用いられる。さらに、縮重合反応を促進するために、トリエチルアミンのような第三級アミン又はベンジルトリエチルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩などの触媒を用いることが好ましい。構造式(1)を誘導する1価フェノールは重合度調節剤として機能するが、他にフェノール、p-t-ブチルフェノール、p-クミルフェノール、長鎖アルキル置換フェノール等1価フェノールを、構造式(1)を誘導する1価フェノールに対して50質量%未満併用することも可能である。また、所望に応じ亜硫酸ナトリウム、ハイドロサルファイトなどの酸化防止剤や、フロログルシン、イサチンビスフェノールなど分岐化剤を小量添加してもよい。反応は通常0~150℃、好ましくは5~40℃の範囲とするのが適当である。反応時間は反応温度によって左右されるが、通常0.5分~10時間、好ましくは1分~2時間である。また、反応中は、反応系のpHを10以上に保持することが望ましい。
【0051】
一方、エステル交換法においては、ビスフェノールと構造式(1)を誘導する1価フェノールとビスアリールカーボネートとを混合し、減圧下で高温において反応させる。ビスアリールカーボネートの例としては、ジフェニルカーボネート、ジ-p-トリルカーボネート、フェニル-p-トリルカーボネート、ジ-p-クロロフェニルカーボネート、ジナフチルカーボネートなどのビスアリルカーボネートが挙げられる。これらの化合物は2種類以上併用して使用することも可能である。反応は通常150~350℃、好ましくは200~300℃の範囲の温度において行われ、また減圧度は最終で好ましくは1mmHg以下にして、エステル交換反応により生成した該ビスアリールカーボネートから由来するフェノール類を系外へ留去させる。反応時間は反応温度や減圧度などによって左右されるが、通常1~24時間程度である。反応は窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましく。また、所望に応じ、構造式(1)を誘導する1価フェノール以外の分子量調節剤の少量併用や、酸化防止剤や分岐化剤を添加して反応を行ってもよい。
【0052】
本発明のポリカーボネート樹脂は、コーティング樹脂溶液用被膜形成樹脂としての必要な溶媒溶解性、コーティング性、密着性、耐傷性、耐衝撃性等をバランス良く保持することが好ましい。樹脂の極限粘度が低すぎると耐傷性や耐衝撃性強度が不足し、極限粘度が高すぎると溶媒溶解性の低下と溶液粘度上昇がありコーティング性が低下する。望ましい極限粘度範囲として極限粘度が0.3~2.0dl/gの範囲であることが好ましく、さらには0.35~1.5dl/gの範囲であることが好ましい。
【0053】
3.ポリイソシアネート化合物
本発明において、ポリカーボネート樹脂組成物は、上記の末端変性ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、ポリイソシアネート化合物を0.1質量部以上で含む。ポリカーボネート樹脂組成物中に含まれるポリイソシアネート化合物としては、1分子中にイソシアネート基を2個以上有する化合物が好ましい。分子中にイソシアネート基を2個以上有する化合物をポリイソシアネート化合物として用いることにより、ポリカーボネート樹脂組成物中で架橋構造を形成して、ポリカーボネート樹脂組成物を架橋体組成物とすることができる。
【0054】
本発明において用いることができるポリイソシアネート化合物としては、例えば、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0055】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、たとえば、1,3-トリメチレンジイソシアネート、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、1,9-ノナメチレンジイソシアネート、1,10-デカメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,2’-ジエチルエーテルジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0056】
脂環族ポリイソシアネートとしては、たとえば、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、3-イソシアネートメチル-3,3,5ートリメチルシクロヘキサン(IPDI、イソホロンジイソシアネート)、ビス-(4-イソシアネートシクロヘキシル)メタン(水添MDI)、水素化(1,3-又は1,4-)キシリレンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0057】
芳香族ポリイソシアネートとしては、たとえば、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアネートビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアネートジフェニルメタン、1,5-ナフチレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルエーテルジイソシアネート、テトラクロロフェニレンジイソシアネート等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0058】
芳香脂肪族ポリイソシアネートとしては、たとえば、1,3-キシリレンジイソシアネート、1,4-キシリレンジイソシアネート、(α,α,α’,α’-テトラメチルキシリレンジイソシアネート、3,3’-メチレンジトリレン-4,4’-ジイソシアネート等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0059】
これらのポリイソシアネート化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0060】
本発明の一実施形態において、ポリイソシアネート化合物は、例えば、1分子中にイソシアネート基を2個有するジイソシアネート化合物であってよく、ジイソシアネートとジオール、ジアミン等を反応させ、プレポリマー化したジイソシアネートであってもよい。また、ジイソシアネート化合物の一部を3官能以上のイソシアネート化合物にオリゴマー化したものも使用できる。ジイソシアネート化合物のオリゴマー化には既知の方法を用いることができ、ジイソシアネート化合物のオリゴマー化としては、例えば、イソシアヌレート化、アロファネート化、ビウレット化、多官能アルコール又は多官能アミンによるウレタン化又はウレア化が挙げられる。本発明の一実施形態において、ポリイソシアネート化合物は、トリフェニルメタントリイソシアネートのような、イソシアネート基を3個以上有するポリイソシアネートであってよい。
【0061】
本発明の一実施形態において、ポリイソシアネート化合物としては、例えば、1分子中にイソシアネート基を2個有するジイソシアネート化合物であってよい。本発明において用いることができるジイソシアネート化合物としては、例えば、
トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、フェニレンジイソシアネート、ナフチレンジイソシアネート(NDI)等の芳香族ジイソシアネート化合物;
1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、テトラメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート化合物;
2,4-ジイソシアネート-1-メチルシクロヘキサン、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、シクロヘキシルメタンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート(NBDI)、核水添されたXDI(H6-XDI)、核水添されたMDI(H12-MDI)等の脂環式ジイソシアネート化合物;
キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等の芳香脂肪族ジイソシアネート化合物;
等が挙げられる。本発明の好ましい実施形態において、ポリイソシアネート化合物は、市場流通性や価格の面から、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)であってよい。
【0062】
4.ポリカーボネート樹脂組成物を含む樹脂溶液
本発明のコーティング樹脂溶液は、上記のポリカーボネート樹脂組成物を、非ハロゲン系溶媒を含む溶媒に溶解した溶液であり、その状態では一般にクリアー色と呼ばれる被膜となる。さらに所望の染・顔料を溶解又は分散させて着色した被膜とすることができる。
【0063】
本発明のコーティング樹脂溶液の溶媒としては、前述した通り、非ハロゲン系溶媒を含む溶媒であり、好ましくは、非ハロゲン系有機溶媒を主溶媒として含む溶媒である。本発明のコーティング樹脂溶液の溶媒として用いることができる非ハロゲン系有機溶媒は、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、炭酸エステル系溶媒、及びケトン系溶媒からなる群より選択される1種以上の溶媒を含んでよい。本発明のコーティング樹脂溶液の溶媒は、即ち、一般に塗料等に用いられる溶媒を主成分とし、具体的には、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸2-エトキシエチル、酢酸2-メトキシ-1-メチルエチル、乳酸エチル等のエステル系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系溶媒、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチルなどの炭酸エステル系溶媒、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、ジエチルエーテル、ジメトキシメタン、エチルセルソルブ、アニソール等のエーテル系溶媒、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、プソイドキュメン、メシチレン等の芳香族炭化水素系溶媒が挙げられる。さらに、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系貧溶媒やn-ヘプタン、シクロヘキサン、ミネラルスピリット等の炭化水素系貧溶媒を少量併用してもよい。中でも、安価で作業性も良く、比較的安全性が高い酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、テトラヒドロフラン、ジメトキシメタン等のエーテル系溶媒に溶解することが好ましく、特に、メチルエチルケトン、酢酸プロピルが好ましい。
【0064】
また、ジクロロメタン等のハロゲン系溶媒はコーティング作業環境への影響が大きいため、本発明のコーティング樹脂溶液の主溶媒としては使用しない。
【0065】
本発明の一実施形態において、樹脂溶液は、上記のポリカーボネート樹脂組成物及び非ハロゲン系有機溶媒を含む。本発明の一実施形態において、上記のポリカーボネート樹脂組成物は、その少なくとも一部が架橋されてなる架橋体組成物であってもよい。
【0066】
本発明のコーティング樹脂溶液の粘度は、所望のコーティング方法により任意に設定可能であるが、10~20000mPa/sの範囲が好ましい。エアレススプレー、はけ塗り、ローラー塗りの場合400~20000mPa/s、エアースプレーの場合100~6000mPa・s、浸漬塗布、缶スプレーの場合10~500mPa・sが好ましい。
【0067】
本発明のコーティング樹脂溶液に、色彩効果を高めるために、顔料や染料、着色粒子、光干渉性を有する粒子を添加することができる。顔料や染料としては、有機顔料としては、アゾ顔料、フタロシアニン顔料等が挙げられ、具体的には、例えば、赤色104号、赤色106号、赤色201号、赤色202号、赤色204号、赤色215号、赤色220号、橙色203号、橙色204号、青色1号、青色404号、黄色205号、黄色401号、黄色405号等が挙げられる。また、白色、パール色、メタリック色、ラメ感を出すため、雲母チタン、酸化チタン、酸化鉄、酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化クロム、オキシ塩化ビスマス、シリカ、クロム、窒化チタン、チタン、フッ化マグネシウム、金、銀、ニッケル等を使用することも可能である。光干渉性を有する粒子とは、光の反射や散乱によって色彩効果を高める粒子であり、例としてガラスビーズや微小な貝殻、雲母などが挙げられる。これらは、所望に応じコーティング中0.0001~10.0質量%の範囲で添加されることが好ましい。
【0068】
さらに必要に応じて、防錆剤、酸化防止剤、分散剤、紫外線吸収剤、消泡剤、レベリング剤等を添加しても良い。
【0069】
本発明のコーティング樹脂溶液中のポリカーボネート樹脂の配合量は極限粘度や溶媒溶解性に左右されるが、1~50質量%が好ましく、4~30質量%がより好ましい。濃度がかかる範囲内であると、溶媒溶解性とコーティング性がバランスよく、作業性と外観が向上する。
【0070】
本発明のコーティング樹脂溶液をコーティングした後の被膜は、従来のポリカーボネートコーティング樹脂溶液の被膜に比べ、輸送や使用時の擦れ、衝撃等で傷や剥離が生じにくい。
【0071】
本発明のコーティング樹脂溶液をコーティングした後の被膜厚さは、5~200μm厚の範囲であることが好ましく、特に、10~120μm厚、さらには15~60μm厚の範囲が好ましい。5μm未満の薄い被膜では強度が足らず基材まで傷が到達しやすく、200μmを超え厚すぎると被膜の収縮による剥離が生じやすく、最終的に剥離・廃棄する被膜の用途を考慮すると経済的にも不利となる。
【0072】
本発明の一実施形態において、上記の樹脂溶液は、バインダー樹脂溶液として用いて印刷インキとすることができる。このような印刷インキは、例えば加飾印刷用の印刷インキとして用いることができる。一般に、加飾印刷用の印刷インキは、溶剤と染・顔料とバインダー樹脂を主成分に構成される。上記の印刷インキにおいて使用される染料・顔料としては、例えば、アントラキノン系、ナフトキノン系等の染料、酸化チタン、カーポンプラック、炭酸カルシウム、金属粒子等の無機顔料、アゾ顔料、フタロシアニン顔料等の有機顔料等が挙げられるが、これらに限定されない。これらの染料・顔料はインキ中に溶解あるいは分散した状態でバインダー樹脂と共に存在する。本発明の樹脂溶液をバインダー樹脂溶液として用いた印刷インキは、密着性に優れるものである。
【0073】
前記印刷インキにはバインダー樹脂及び染料・顔料の他に必要に応じて、有機微粒子及び無機微粒子、離型剤、酸化防止剤、可塑剤、分散剤、赤外線吸収剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤、レベリング剤等を添加してもよい。
【0074】
また、インキ中のバインダー樹脂の配合量は、極限粘度や溶剤溶解性に左右されるが、1~70質量%が好ましく、5~50質量%がより好ましい。バインダー樹脂の濃度がかかる範囲内であると、溶剤溶解性とインキ塗布性がバランスよく、作業性が向上する。
【0075】
本発明の一実施形態において、上記の印刷インキを基材フィルムに加飾印刷した後、乾燥することにより溶剤を除去し、染料・顔料をバインダー樹脂に固定すると同時にフィルムとバインダー樹脂が密着され、加飾印刷されたフィルム、すなわち、上記印刷インキを塗工した基材フィルムを得ることができる。印刷インキを基材に塗工する方法としては、常法を用いることができ、例えば、スクリーン印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0076】
本発明の一実施形態において、上記のポリカーボネート樹脂組成物又は上記ポリカーボネート樹脂組成物の少なくとも一部が架橋されてなる架橋体組成物を含む、フィルム又は被膜が提供される。
【0077】
本発明の一実施形態において、上記のフィルム又は被膜は、本発明のコーティング樹脂溶液又は印刷インキを基材に塗布した後、加熱あるいは乾燥して得ることができる。本発明の一実施形態において、上記のフィルム又は被膜は、単層であってもよく、多層であってもよい。
【0078】
5.ポリカーボネート樹脂組成物及びコーティング樹脂溶液の物性
(i)粘度平均分子量(Mv)
本発明の一実施形態において、ポリカーボネート樹脂組成物の粘度平均分子量(Mv)は、10,000~60,000であってよい。本発明において、ポリカーボネート樹脂組成物の粘度平均分子量(Mv)は、好ましくは14,000~55,000であり、より好ましくは16,000~50,000であり、更により好ましくは18,000~45,000であってよい。本発明の好ましい実施形態において、ポリカーボネート樹脂組成物の粘度平均分子量(Mv)は、18,000~45,000であってよい。
【0079】
<粘度平均分子量(Mv)測定方法>
本発明において、粘度平均分子量は下記の通り測定した。
測定機器:ウベローデ毛管粘度計
溶媒:ジクロロメタン
樹脂溶液濃度:0.5グラム/デシリットル
測定温度:25℃
上記条件で測定し、ハギンズ定数0.45で極限粘度[η]デシリットル/グラムを求め、次式により算出した。
η=1.23×10-4×Mv0.83
【0080】
(ii)質量平均分子量(Mw)
本発明者らは、ポリカーボネート樹脂組成物を含むコーティング樹脂溶液を作製し、塗工して風乾した後、加熱乾燥処理を施すと、質量平均分子量(Mw)が上昇していることを見出した。すなわち、上記のような処理を施すことにより、ポリカーボネート樹脂組成物の少なくとも一部が架橋された架橋体組成物が形成されていると思われる。上述のように、本発明においては、ポリイソシアネート化合物として、1分子中にイソシアネート基を2個以上有する化合物を用いており、このことが、架橋体組成物の形成に寄与していると思われる。
【0081】
<ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)分析測定条件>
本発明のポリカーボネート樹脂および硬化後のポリカーボネート樹脂組成物の質量平均分子量(Mw)は、以下に示す条件にて行うゲル浸透クロマトグラフ分析にて測定した。
使用機器:Waters社製アライアンスHPLCシステム
カラム:昭和電工株式会社製Shodex805Lカラム2本
溶離液:クロロホルム
流速:1.0ml/min
サンプル:0.25w/v%クロロホルム溶液サンプル
検出:254nmのUV検出
ポリスチレン(PS)換算の質量平均分子量(Mw)およびポリカーボネート(PC)換算の質量平均分子量(Mw)をそれぞれ求めた。換算式は以下の式を用いた。
Mw(PC換算)=0.4782×Mw(PS換算)1.014706
【0082】
<水酸基価の測定方法>
本発明で用いるポリカーボネート樹脂について、以下に示す条件にて水酸基価を測定した。
試験方法:JIS K0070準拠(電位差滴定法)
測定装置:電位差滴定装置
電極:複合ガラス電極
【0083】
(iii)剥離耐久性(密着性)
本発明のコーティング樹脂溶液を塗布し、風乾後、加熱乾燥処理を施した後、下記のクロスカット法により、剥離耐久性(密着性)を試験した。
【0084】
<クロスカット法>
JIS K5600-5-6準拠付着性クロスカット法(1mm間隔)で、ニチバン株式会社製クロスカット試験準拠 24mm幅セロテープ(粘着力4.01N/10mm)を使用して付着性テストを行い、JIS分類指標に基づき、0(剥がれ無し)~5(ほぼ全面剥がれ)の数値で分類し、剥離耐久性の指標とした。
【実施例
【0085】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示し、発明の内容を詳細に示すが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0086】
<実施例1>
9w/w%の水酸化ナトリウム水溶液600ml、純水200mlに1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン(以下「BPAP」と略称:本州化学工業株式会社製)108g(0.37mol)とp-ヒドロキシフェネチルアルコール(以下「PHEP」と略称:大塚化学株式会社製)2.88g(0.021mol、末端構造含有量5.6mol%)およびハイドロサルファイト0.3gを溶解した。
【0087】
これにメチレンクロライド200mlを加えて撹拌しつつ、15~20℃に保ちながらホスゲン51.6gを約30分かけて吹き込んだ。
【0088】
ホスゲン吹き込み終了後、9w/w%の水酸化ナトリウム水溶液100mlを追加し、激しく撹拌して反応液を乳化させた後、重合触媒として0.5mlのトリエチルアミンを加え、20~30℃にて約40分間撹拌し重合させた。
【0089】
重合終了後、反応液を水相と有機相に分離し、有機相をリン酸で中和し、洗液(水相)の導電率が10μS/cm以下になるまで水洗を繰り返した。得られた重合体溶液を、60℃に保った温水に滴下し、溶媒を蒸発除去して白色粉末状沈殿物を得た。得られた沈殿物を濾過し、105℃、24時間乾燥して重合体粉末を得た。
【0090】
得られたポリカーボネート樹脂(以下「PC-1」と略称)のMvは19,700、Mwは54,000(PS換算)、30,300(PC換算)、水酸基価は11mgKOH/gであった。
【0091】
PC-1(10質量部)とヘキサメチレンジイソシアネート(以下「HDI」と略称)1質量部(ポリカーボネート樹脂100質量部に対し10質量部)を含む樹脂組成物をトルエン55質量部に溶解し、塗工溶液(樹脂溶液)を作製した。ステンレス鋼板上に前記塗工溶液を塗布(塗工)し、風乾後、110℃に加熱、5時間乾燥して試験片を得た。乾燥後のポリカーボネート樹脂組成物(架橋体)のMwは58,900(PS換算)、33,100(PC換算)であった。JIS K5600-5-6に準拠し、試験片にクロスカット法を行ったところ判定は0であった。
【0092】
<実施例2>
BPAPの代わりに1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(以下「BPZ」と略称:本州化学工業株式会社製)103.8g(0.39mol)を用い、PHEPを1.53g(0.011mol、末端構造含有量2.9mol%)に変更した以外は実施例1と同様に重合を行いポリカーボネート樹脂(Mv:30,600、Mw:89,100(PS換算)、50,400(PC換算)、水酸基価:5mgKOH/g、以下「PC-2」と略称)を得た。PC-2(10質量部)とHDI1質量部(ポリカーボネート樹脂100質量部に対し10質量部)をトルエン55質量部に溶解して塗工溶液を作製し、実施例1と同様に評価を行った。乾燥後のポリカーボネート樹脂組成物のMwは95,900(PS換算)、54,300(PC換算)であった。
【0093】
<実施例3>
BPAPの代わりに2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタン(以下「MIBK」と略称:本州化学工業株式会社製)101.7g(0.38mol)を用い、PHEPを0.79g(0.006mol、末端構造含有量1.5mol%)に変更した以外は実施例1と同様に重合を行いポリカーボネート樹脂(Mv43,500、Mw:124,200(PS換算)、70,600(PC換算)、水酸基価:3mgKOH/g、以下「PC-3」と略称)を得た。PC-3(10質量部)とHDI1質量部(ポリカーボネート樹脂100質量部に対し10質量部)をトルエン55質量部に溶解して塗工溶液を作製し、実施例1と同様に評価を行った。乾燥後のポリカーボネート樹脂組成物のMwは130,300(PS換算)、74,100(PC換算)であった。
【0094】
<実施例4>
9w/w%の水酸化ナトリウム水溶液600ml、純水200mlに2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル-)プロパン(以下「BPC」と略称:本州化学工業株式会社製)48.0g(0.19mol)と2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(以下「BPA」と略称:三菱ケミカル株式会社製)32.0g(0.14mol)とPHEP2.25g(0.016mol、末端構造含有量4.7mol%)とハイドロサルファイト0.3gを溶解した。
【0095】
これにメチレンクロライド200mlを加えて撹拌しつつ、0.08gのベンジルトリエチルアンモニウムクロライド(以下「TEBAC」と略称)を加え、さらに15~20℃に保ちながら、ついでホスゲン46.9gを約30分かけて吹き込んだ。
【0096】
ホスゲン吹き込み終了後、9w/w%の水酸化ナトリウム水溶液100ml追加し、激しく撹拌して、反応液を乳化させ、乳化後、0.5mlのトリエチルアミンを加え、20~30℃にて約1時間撹拌し、重合させた。
【0097】
重合終了後、反応液を水相と有機相に分離し、有機相をリン酸で中和し、洗液(水相)の導電率が10μS/cm以下になるまで水洗を繰り返した。得られた重合体溶液を、60℃に保った温水に滴下し、溶媒を蒸発除去して白色粉末状沈殿物を得た。
【0098】
得られた沈殿物を濾過し、105℃、24時間乾燥して、重合体粉末を得た。
【0099】
得られたポリカーボネート樹脂(以下「PC-4」と略称)のMvは25,500、Mwは57,000(PS換算)、32,000(PC換算)、水酸基価は8mgKOH/gであった。PC-4(10質量部)とキシリレンジイソシアネート(XDI)1質量部(ポリカーボネート樹脂100質量部に対し10質量部)をトルエン55質量部に溶解して塗工溶液を作製し、実施例1と同様に評価を行った。乾燥後のポリカーボネート樹脂組成物のMwは65,700(PS換算)、37,000(PC換算)であった。
【0100】
<実施例5>
PC-4(10質量部)とHDI0.01質量部(ポリカーボネート樹脂100質量部に対し0.1質量部)をトルエン55質量部に溶解して塗工溶液を作製し、実施例1と同様に評価を行った。乾燥後のポリカーボネート樹脂組成物のMwは58,400(PS換算)、32,800(PC換算)であった。
【0101】
<実施例6>
PC-4(10質量部)とHDI1質量部(ポリカーボネート樹脂100質量部に対し10質量部)をトルエン55質量部に溶解して塗工溶液を作製し、実施例1と同様に評価を行った。乾燥後のポリカーボネート樹脂組成物のMwは69,900(PS換算)、39,400(PC換算)であった。
【0102】
<実施例7>
BPCの代わりに2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン(以下「BPAF」と略称:セントラル硝子株式会社製)71.4g(0.21mol)を用い、BPAを20.4g(0.09mol)およびPHEPを0.833g(0.006mol、末端構造含有量2.0mol%)に変更した以外は実施例4と同様に重合を行いポリカーボネート樹脂(Mv:27,300、Mw:84,200(PS換算)、47,600(PC換算)、水酸基価:6mgKOH/g、以下「PC-A」と略称)を得た。PC-A(10質量部)とHDI0.25質量部(ポリカーボネート樹脂100質量部に対し2.5質量部)をトルエン55質量部に溶解して塗工溶液を作製し、実施例1と同様に評価を行った。乾燥後のポリカーボネート樹脂組成物のMwは91,700(PS換算)、51,900(PC換算)であった。
【0103】
<比較例1>
PHEPの代わりにPTBP2.21g(0.015mol、末端構造含有量4.0mol%)に変更した以外は、実施例1と同様に重合を行いポリカーボネート樹脂(Mv20,000、Mw:56,600(PS換算)、31,800(PC換算)、水酸基価:0mgKOH/g、以下「PC-5」と略称)を得た。HDIを用いずに、PC-1の代わりにPC-5を用いた以外は実施例1と同様に塗工溶液を作製し評価を行った。乾燥後のポリカーボネート樹脂組成物のMwは56,600(PS換算)、31,800(PC換算)であった。
【0104】
<比較例2>
PC-1の代わりにPC-5を用いた以外は実施例1と同様に塗工溶液を作製し評価を行った。乾燥後のポリカーボネート樹脂組成物のMw56,600(PS換算)、は31,800(PC換算)であった。
【0105】
<比較例3>
PC-1の代わりにPC-5を用い、HDIを3質量部(ポリカーボネート樹脂100質量部に対し30質量部)に変更した以外は実施例1と同様に塗工溶液を作製し評価を行った。乾燥後のポリカーボネート樹脂組成物のMwは56,600(PS換算)、31,800(PC換算)であった。
【0106】
<比較例4>
PHEPの代わりにPTBP1.17g(0.008mol、末端構造含有量2.0mol%)に変更した以外は、実施例2と同様に重合を行いポリカーボネート樹脂(Mv32,500、Mw:98,900(PS換算)、56,000(PC換算)、水酸基価:0mgKOH/g、以下「PC-6」と略称)を得た。PC-2の代わりにPC-6を用いた以外は実施例2と同様に塗工溶液を作製し評価を行った。乾燥後のポリカーボネート樹脂組成物のMwは98,900(PS換算)、56,000(PC換算)であった。
【0107】
<比較例5>
PHEPの代わりにPTBP0.71g(0.005mol、末端構造含有量1.3mol%)に変更した以外は、実施例3と同様に重合を行いポリカーボネート樹脂(Mv50,000、Mw:149,900(PS換算)、85,400(PC換算)、水酸基価:0mgKOH/g、以下「PC-7」と略称)を得た。PC-3の代わりにPC-7を用いた以外は実施例3と同様に塗工溶液を作製し評価を行った。乾燥後のポリカーボネート樹脂組成物のMwは149,900(PS換算)、85,400(PC換算)であった。
【0108】
<比較例6>
PHEPの代わりにPTBP1.47g(0.013mol、末端構造含有量3.0mol%)に変更した以外は、実施例4と同様に重合を行いポリカーボネート樹脂(Mv26,000、Mw:61,500(PS換算)、34,600(PC換算)、水酸基価:0mgKOH/g、以下「PC-8」と略称)を得た。HDIを用いずに、PC-4の代わりにPC-8を用いた以外は実施例4と同様に塗工溶液を作製し評価を行った。乾燥後のポリカーボネート樹脂組成物のMwは61,500(PS換算)、34,600(PC換算)であった。
【0109】
<比較例7>
HDIを用いなかった以外は実施例1と同様に塗工溶液を作製し評価を行った。乾燥後のポリカーボネート樹脂組成物のMwは54,000(PS換算)、30,300(PC換算)であった。
【0110】
<比較例8>
HDIを用いなかった以外は実施例2と同様に塗工溶液を作製し評価を行った。乾燥後のポリカーボネート樹脂組成物のMwは89,100(PS換算)、50,400(PC換算)であった。
【0111】
<比較例9>
HDIを用いなかった以外は実施例4と同様に塗工溶液を作製し評価を行った。乾燥後のポリカーボネート樹脂組成物のMwは57,000(PS換算)、32,000(PC換算)であった。
【0112】
下記表に、上記実施例及び比較例の塗工溶液について測定した剥離耐久性の結果を示す。
【0113】
【表1】
【0114】
なお、上記実施例及び比較例で用いたポリカーボネート樹脂は下記の表に示すとおりである。
【0115】
【表2】
【0116】
上記の通り、本発明の樹脂組成物は、コーティング被膜と基材との密着性を改善することができる、ポリカーボネート樹脂と他の樹脂とのブレンド樹脂組成物として有用であることが示された。
【0117】
本発明の樹脂組成物は、物品を保護するコーティング樹脂溶液として用いることができる。特に、ICカードやセキュリティーカードのような日常生活における耐久性が求められる分野のコーティングに好適である。