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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-21
(45)【発行日】2025-04-30
(54)【発明の名称】組電池用熱制御シート及び組電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/6555 20140101AFI20250422BHJP
   H01M 10/613 20140101ALI20250422BHJP
   H01M 10/651 20140101ALI20250422BHJP
   H01M 10/625 20140101ALI20250422BHJP
   H01M 10/658 20140101ALI20250422BHJP
   H01M 10/6557 20140101ALI20250422BHJP
   H01M 10/6563 20140101ALI20250422BHJP
   H01M 50/204 20210101ALI20250422BHJP
   H01M 10/653 20140101ALI20250422BHJP
   H01M 50/293 20210101ALI20250422BHJP
   H01M 50/209 20210101ALI20250422BHJP
   H01M 10/643 20140101ALI20250422BHJP
   H01M 10/647 20140101ALI20250422BHJP
【FI】
H01M10/6555
H01M10/613
H01M10/651
H01M10/625
H01M10/658
H01M10/6557
H01M10/6563
H01M50/204 401H
H01M10/653
H01M50/293
H01M50/209
H01M10/643
H01M10/647
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021051564
(22)【出願日】2021-03-25
(65)【公開番号】P2022149419
(43)【公開日】2022-10-06
【審査請求日】2024-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 康隆
(72)【発明者】
【氏名】石川 翔汰
【審査官】木村 励
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-7355(JP,A)
【文献】特開2019-204636(JP,A)
【文献】特開2019-204637(JP,A)
【文献】特開2020-72004(JP,A)
【文献】特開2020-72005(JP,A)
【文献】特開2012-124319(JP,A)
【文献】特開2015-211013(JP,A)
【文献】特表2021-507483(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/6555
H01M 10/613
H01M 10/651
H01M 10/625
H01M 10/658
H01M 10/6557
H01M 10/6563
H01M 50/204
H01M 10/653
H01M 50/293
H01M 50/209
H01M 10/643
H01M 10/647
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電池セルが直列又は並列に接続される組電池に使用され、前記電池セル間に介在される組電池用熱制御シートであって、
複数の放熱層と、
隣り合う前記複数の放熱層の間に配設されたスペーサと、を有し
隣り合う前記複数の放熱層の間における前記スペーサを除く領域に、気体の流路が形成されており、
前記放熱層は、熱伝導率が5~450(W/m・K)である熱伝導層を有し、
前記スペーサは、二酸化ケイ素、シリカゾル、セラミックファイバ、ガラス及びマイカから選択された少なくとも1種を含有することを特徴とする組電池用熱制御シート。
【請求項2】
複数の電池セルが直列又は並列に接続される組電池に使用され、前記電池セル間に介在される組電池用熱制御シートであって、
複数の放熱層と、
隣り合う前記複数の放熱層の間に配設されたスペーサと、を有し
隣り合う前記複数の放熱層の間における前記スペーサを除く領域に、気体の流路が形成されており、
前記放熱層は、熱伝導率が5~450(W/m・K)である熱伝導層を有し、
前記スペーサは、隣り合う前記放熱層の間に固着された接着剤であることを特徴とする組電池用熱制御シート。
【請求項3】
複数の電池セルが直列又は並列に接続される組電池に使用され、前記電池セル間に介在される組電池用熱制御シートであって、
複数の放熱層と、
隣り合う前記複数の放熱層の間に配設されたスペーサと、を有し
隣り合う前記複数の放熱層の間における前記スペーサを除く領域に、気体の流路が形成されており、
前記放熱層は、熱伝導率が5~450(W/m・K)である熱伝導層を有し、
前記放熱層は、前記熱伝導層と、金属、セラミック及びグラファイトから選択された材料からなる層とが積層された複合層であることを特徴とする組電池用熱制御シート。
【請求項4】
複数の電池セルが直列又は並列に接続される組電池に使用され、前記電池セル間に介在される組電池用熱制御シートであって、
複数の放熱層と、
隣り合う前記複数の放熱層の間に配設されたスペーサと、を有し
隣り合う前記複数の放熱層の間における前記スペーサを除く領域に、気体の流路が形成されており、
前記放熱層は、熱伝導率が5~450(W/m・K)である熱伝導層を有し、
前記電池セルに接する位置に、断熱材が配設されていることを特徴とする組電池用熱制御シート。
【請求項5】
前記断熱材は、無機繊維、有機繊維、無機粒子及び有機粒子から選択された少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項に記載の組電池用熱制御シート。
【請求項6】
前記断熱材は、アルミナファイバ、カーボンファイバ、マイカ、バサルトファイバ、ソルブルファイバ、リフラクトリーセラミックファイバ、グラスファイバ、エアロゲル複合材、マイクロポーラス粒子、中空シリカ粒子、熱膨張性無機材料及びエアロゲルから選択された少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項に記載の組電池用熱制御シート。
【請求項7】
前記熱伝導層は、金属、窒化チタン及びグラファイトから選択された少なくとも1種により構成されることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の組電池用熱制御シート。
【請求項8】
前記熱伝導層は、アルミニウム又はアルミニウム合金、ステンレス鋼、銅又は銅合金、銀又は銀合金、ニッケル又はニッケル合金、チタン又はチタン合金、窒化チタン及びグラファイトから選択された少なくとも1種により構成されることを特徴とする請求項に記載の組電池用熱制御シート。
【請求項9】
前記放熱層の放射率は、0.5以下であることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の組電池用熱制御シート。
【請求項10】
電池ケースと、
前記電池ケースの内部に格納され、直列または並列に接続された複数の電池セルと、
前記複数の電池セル間に介在される請求項1~のいずれか1項に記載の組電池用熱制御シートと、を有することを特徴とする組電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、電気自動車又はハイブリッド車などを駆動する電動モータの電源となる組電池に好適に用いられる組電池用熱制御シート及び該組電池用熱制御シートを用いた組電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護の観点から電動モータで駆動する電気自動車又はハイブリッド車などの開発が盛んに進められている。この電気自動車又はハイブリッド車などには、駆動用電動モータの電源となるための、複数の電池セルが直列又は並列に接続された組電池が搭載されている。
【0003】
この電池セルには、鉛蓄電池やニッケル水素電池などに比べて、高容量かつ高出力が可能なリチウムイオン二次電池が主に用いられているが、電池の内部短絡や過充電などが原因で1つの電池セルに熱暴走が生じた場合(すなわち「異常時」の場合)、隣接する他の電池セルへ熱の伝播が起こることで、他の電池セルの熱暴走を引き起こすおそれがある。
【0004】
例えば、特許文献1には、リチウムイオン二次電池のような複数の蓄電素子間において、効果的な断熱を実現することができる蓄電装置が開示されている。上記特許文献1に記載の蓄電装置は、互いに隣り合う第一蓄電素子と第二蓄電素子との間に、断熱性を有する第一板材及び第二板材が配置されたものである。また、第一板材と第二板材との間には、これら第一板材及び第二板材よりも熱伝導率が低い、例えば空気の層である低熱伝導層が形成されている。
【0005】
このように構成された特許文献1に係る蓄電装置において、第一蓄電素子から第二蓄電素子に向かう輻射熱、又は、第二蓄電素子から第一蓄電素子に向かう輻射熱の一部は、第一板材及び第二板材によって遮断される。また、これら2枚の板材の一方から他方への熱の移動は、低熱伝導層によって抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-211013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、組電池化した電池セルに対し充放電サイクルを行う場合(すなわち「通常使用時」の場合)において、電池セルの充放電性能を十分に発揮させるためには、電池セル表面の温度を所定値以下(例えば、150℃以下)に維持する必要がある。
また、電池セルが、例えば200℃以上の温度となるような異常事態が発生した場合に、電池セルを効果的に冷却するとともに、隣接する電池セルへの熱の伝播を抑制し、熱暴走を阻止する必要がある。
【0008】
しかしながら、上記蓄電装置は、第一蓄電素子と第二蓄電素子との間に低熱伝導層が設けられているのみであるため、充放電サイクル時に発生した熱を効率的に外部に拡散することができない。また、1つの電池セルに熱暴走が生じた場合に、上記断熱材のみでは、熱暴走の連鎖を効果的に抑制することが困難である。
このように、発生した熱を効率的に外部に拡散することができるとともに、熱暴走の連鎖を抑制することができる熱制御の手段については、近時、更なる改良が要求されている。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、複数の電池セルが直列又は並列に接続される組電池に使用され、通常使用時において発生した熱を外部に拡散し、熱の伝播を抑制することができるとともに、異常時における各電池セル間の熱の伝播を抑制し、効率的に電池セルを冷却することができ、熱暴走の連鎖を防止することができる、組電池用熱制御シート及び組電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的は、組電池用熱制御シートに係る下記[1]の構成により達成される。
【0011】
[1] 複数の電池セルが直列又は並列に接続される組電池に使用され、前記電池セル間に介在される組電池用熱制御シートであって、
複数の放熱層と、
隣り合う前記複数の放熱層の間に配設されたスペーサと、を有し
隣り合う前記複数の放熱層の間における前記スペーサを除く領域に、気体の流路が形成されており、
前記放熱層は、熱伝導率が5(W/m・K)以上である熱伝導層を有することを特徴とする組電池用熱制御シート。
【0012】
また、組電池用熱制御シートに係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[2]~[10]に関する。
【0013】
[2] 前記熱伝導層は、金属、窒化チタン及びグラファイトから選択された少なくとも1種により構成されることを特徴とする[1]に記載の組電池用熱制御シート。
【0014】
[3] 前記熱伝導層は、アルミニウム又はアルミニウム合金、ステンレス鋼、銅又は銅合金、銀又は銀合金、ニッケル又はニッケル合金、チタン又はチタン合金、窒化チタン及びグラファイトから選択された少なくとも1種により構成されることを特徴とする[2]に記載の組電池用熱制御シート。
【0015】
[4] 前記スペーサは、二酸化ケイ素、シリカゾル、セラミックファイバ、ガラス及びマイカから選択された少なくとも1種を含有することを特徴とする[1]~[3]のいずれか1つに記載の組電池用熱制御シート。
【0016】
[5] 前記スペーサは、隣り合う前記放熱層の間に固着された接着剤であることを特徴とする[1]~[3]のいずれか1つに記載の組電池用熱制御シート。
【0017】
[6] 前記放熱層の放射率は、0.5以下であることを特徴とする[1]~[5]のいずれか1つに記載の組電池用熱制御シート。
【0018】
[7] 前記放熱層は、前記熱伝導層と、金属、セラミック及びグラファイトから選択された材料からなる層とが積層された複合層であることを特徴とする[1]~[6]のいずれか1つに記載の組電池用熱制御シート。
【0019】
[8] 前記電池セルに接する位置に、断熱材が配設されていることを特徴とする[1]~[7]のいずれか1つに記載の組電池用熱制御シート。
【0020】
[9] 前記断熱材は、無機繊維、有機繊維、無機粒子及び有機粒子から選択された少なくとも1種を含有することを特徴とする[8]に記載の組電池用熱制御シート。
【0021】
[10] 前記断熱材は、アルミナファイバ、カーボンファイバ、マイカ、バサルトファイバ、ソルブルファイバ、リフラクトリーセラミックファイバ、グラスファイバ、エアロゲル複合材、マイクロポーラス粒子、中空シリカ粒子、熱膨張性無機材料及びエアロゲルから選択された少なくとも1種を含有することを特徴とする[9]に記載の組電池用熱制御シート。
【0022】
また、本発明の上記目的は、組電池に係る下記[11]の構成により達成される。
【0023】
[11] 電池ケースと、
前記電池ケースの内部に格納され、直列または並列に接続された複数の電池セルと、
前記複数の電池セル間に介在される[1]~[10]のいずれか1つに記載の組電池用熱制御シートと、を有することを特徴とする組電池。
【発明の効果】
【0024】
本発明の組電池用熱制御シートは、複数の電池セルが直列又は並列に接続された組電池に使用される熱制御シートであって、放熱層により、電池セルからの放射伝熱を抑制することができるとともに、放熱層に到達した熱を伝導伝熱により拡散させる効果を有する。また、放熱層間には気体の流路が形成されており、熱せられた気体が流路を介して熱制御シートの外部に移動し、放熱が促されるため、電池セルから電池セルに向かう対流伝熱が抑制される。さらにこのとき、低温の気体が流路に流入するため、電池セルを効率的に冷却することができる。その結果、一方の電池セルから発生した熱が、隣接する電池セルに伝播することを抑制することができ、熱暴走の連鎖を防止することができる。
【0025】
本発明の組電池は、上記熱制御シートを複数の電池セル間に介在させているため、通常使用時及び異常時において、効率的に熱拡散することができるとともに、電池セル間の熱の伝播を抑制することができ、熱暴走の連鎖を阻止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、本発明の第1の実施形態に係る組電池用熱制御シートを模式的に示す断面図である。
図2図2は、第1の実施形態に係る組電池用熱制御シートを適用した組電池を模式的に示す断面図である。
図3図3は、本発明の第2の実施形態に係る組電池用熱制御シートを模式的に示す断面図である。
図4図4は、本発明の第3の実施形態に係る組電池用熱制御シートを模式的に示す断面図である。
図5図5は、熱制御の影響の評価方法を模式的に示す断面図である。
図6図6は、本実施例において使用した熱制御シートのサイズを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明者らは、高温の熱が発生する異常時における各電池セル間の熱の伝播を抑制しつつ、比較的低温の熱が発生する通常使用時においても、電池セルから発生した熱を効率的に外部に拡散することができる組電池用熱制御シートを提供するため、鋭意検討を行った。
【0028】
その結果、本発明者らは、複数の電池セル間に介在させる組電池用熱制御シートにおいて、隣り合う複数の放熱層の間に配設されたスペーサにより、隣り合う複数の放熱層の間に、気体の流路を形成することにより上記課題を解決できることを見出した。
【0029】
すなわち、比較的低温の熱が発生する通常使用時においては、放熱層により、電池セルからの放射伝熱を抑制する効果を得ることができるとともに、放熱層が熱伝導層を有することにより、熱伝導層に到達した熱を伝導伝熱により拡散させる効果を得ることができる。また、隣り合う放熱層の間が断熱層として働き、断熱性を得ることができる。
また、異常時に、ある電池セルの温度が上昇した場合には、通常使用時と同様に、放熱層により、電池セルからの放射伝熱を抑制する効果と、熱伝導層に到達した熱を伝導伝熱により拡散させる効果とを得ることができる。さらに、隣り合う複数の放熱層の間には、スペーサが配設され、スペーサを除く領域に気体の流路が形成されているため、放熱層が高温になって放熱層間の気体の温度が上昇すると、この気体が流路を介して熱制御シートの外部に移動し、放熱が促される。したがって、一方の放熱層から他方の放熱層に向かう対流伝熱が抑制される。また、これと同時に、熱制御シートの外部に存在する低温の気体が流路を介して電池セルの表面に流入するため、電池セルを効率的に冷却することができる。
【0030】
このようにして、複数の放熱層と、これら複数の放熱層の間に形成された気体の流路を利用して、放射伝熱と、熱制御シートの厚さ方向への対流伝熱を抑制するとともに、伝導伝熱によって熱を拡散することにより、ある電池セルが高温になった場合に、隣接する電池セルに到達するまでに熱伝達が抑制され、また、熱を外部に拡散することができるため、熱暴走の連鎖を抑制することができる。
【0031】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、本発明は、以下で説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
【0032】
[1.組電池用熱制御シート]
以下、本発明の実施形態に係る組電池用熱制御シートについて、第1~第3の実施形態を順に説明する。その後、本実施形態に係る組電池用熱制御シートを構成する放熱層、スペーサ等について説明する。さらに、本実施形態に係る組電池用熱制御シートの製造方法について説明する。
【0033】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態に係る組電池用熱制御シートを模式的に示す断面図である。以下、組電池用熱制御シートを、単に「熱制御シート」ということがある。
第1の実施形態に係る組電池用熱制御シート10は、一対の放熱層11a、11bと、放熱層11aと放熱層11bとの間に配設されたスペーサ12とを有する。したがって、放熱層11aと放熱層11bとの間には、スペーサ12を除く領域に気体の流路18が形成されている。
なお、第1の実施形態において、放熱層11a、11bは、例えばステンレス鋼板であり、熱伝導層として機能する。
【0034】
図2は、第1の実施形態に係る組電池用熱制御シートを適用した組電池を模式的に示す断面図である。組電池100は、電池ケース30と、電池ケース30の内部に格納された複数の電池セル20a、20b、20cと、電池セル20aと電池セル20bとの間、及び電池セル20bと電池セル20cとの間に介在された熱制御シート10と、を有する。複数の電池セル20a、20b、20cは、不図示のバスバー等により、直列又は並列に接続されている。
なお、電池セル20a、20b、20cは、例えば、リチウムイオン二次電池が好適に用いられるが、特にこれに限定されず、その他の二次電池にも適用され得る。
【0035】
ここで、従来の一般的な組電池において、複数の電池セルの間に配置されるシートは、電池セルに最も近い面に断熱材が配置されている。
これに対して、第1の実施形態に係る熱制御シート10においては、ステンレス鋼からなる放熱層11a、11bは、電池セル20a、20b、20cに接するように配置されており、ステンレス鋼の放射率は、一般的に使用される断熱材の放射率(例えば0.8)と比較して低いものとなっている。
【0036】
このように構成された第1の実施形態において、例えば、電池セル20aの温度が上昇した場合に、電池セル20aに接する位置に設けられた放熱層11aはステンレス鋼からなり、放射率が例えば0.2であって低いため、放熱層11b側への放射伝熱を抑制することができる。また、放熱層11aは、熱伝導率が例えば16(W/m・K)であるため、放熱層11aに伝播された熱の一部は、放熱層11aの面方向に伝播され、熱制御シート10の外部に拡散される。このようにして、電池セル20aから発生した熱量は、放熱層11aを介することにより低減され、放熱層11b側への熱伝達が抑制される。
なお、放熱層11a、11bの面方向とは、放熱層11a、11bの厚さ方向に直交する面の方向をいう。
【0037】
また、比較的低温の熱が発生する通常使用時において、電池セル20aの温度が上昇すると、放熱層11aの温度も上昇するが、放熱層11aと放熱層11bとの間の流路18には、例えば空気が存在し、空気の熱伝導率は例えば0.02(W/m・K)程度であって極めて低いため、放熱層11aと放熱層11bとの間は断熱層15として機能する。
また、異常時に、電池セル20aの温度がさらに上昇すると、放熱層11aの温度も上昇し、流路18内の気体が加熱されるが、熱せられた気体は流路18を介して、熱制御シート10の外部に放出されるため、放熱層11aから放熱層11bに向かう対流伝熱が抑制される。
さらに、熱せられた気体が移動することにより、他の領域に存在していた低温の気体が、流路18内に流入するため、放熱層11aを冷却することができ、その結果、電池セル20aを効率的に冷却することができる。
【0038】
その後、一部の熱は放熱層11bに到達するが、放熱層11bによっても、放熱層11aと同様に、電池セル20b側への放射伝熱を抑制することができる。また、伝導伝熱により放熱層11bの面方向に熱が伝播されるため、放熱層11bに到達した熱は熱制御シート10の外部に拡散される。
【0039】
このように、電池セル20aと電池セル20bとが、熱制御シート10を介して配置されることにより、通常使用時においては、放熱層11a、11bの存在により、電池セル20b側への伝導伝熱が抑制され、熱を拡散することができるとともに、放射伝熱が抑制される。また、熱制御シート10の流路18が断熱層として機能し、良好な断熱性を得ることができる。さらに、異常時に、電池セル20aから高い熱が発生した場合には、通常使用時と同様に、放熱層による効果を得ることができるとともに、放熱層11aから放熱層11bに向かう対流伝熱が抑制されるため、電池セル間の熱の伝播を抑制することができ、熱暴走の連鎖を阻止することができる。
【0040】
なお、熱制御シート10は、断熱層15(スペーサ12及び気体の流路18により構成される層)を中心として、厚さ方向に対称に構成されている。したがって、電池セル20bから熱が発生した場合であっても、この熱は電池セル20a側に向かって、放熱層11b、断熱層15及び放熱層11aをこの順に介することにより段階的に低減され、電池セル20aへの熱の伝播を抑制することができる。
同様に、電池セル20bから発生した熱は電池セル20c側に向かって、放熱層11a、断熱層15及び放熱層11bをこの順に介することにより段階的に低減されるため、電池セル20cへの熱の伝播を抑制することができる。
【0041】
<第2の実施形態>
上記第1の実施形態では、組電池用熱制御シート10は、放熱層11a、断熱層15及び放熱層11bがこの順に配列された3層の構造を有するものとしたが、本発明の組電池用熱制御シートは3層に限定されない。
例えば、3層の放熱層と、隣り合う放熱層の間にそれぞれ配設された断熱層と、を有するものでもよい。
【0042】
図3は、本発明の第2の実施形態に係る組電池用熱制御シートを模式的に示す断面図である。以下、図3及び図4に示す第2及び第3の実施形態において、上記第1の実施形態と同一又は同等部分については、図面に同一符号を付してその説明を省略又は簡略化する。また、第2及び第3の実施形態は、図2に示す組電池100に記載の熱制御シート10に代えて使用することができるため、第2の実施形態に係る熱制御シートを組電池100に適用したものとして、その効果等を説明する。
【0043】
第2の実施形態に係る組電池用熱制御シート40は、3枚の放熱層11a、11b、11cと、放熱層11aと放熱層11bとの間に配設された複数のスペーサ12aと、放熱層11bと放熱層11cとの間に配設された複数のスペーサ12bとを有する。また、放熱層11aと放熱層11bとの間におけるスペーサ12aを除く領域には、気体の流路18aが形成され、これらにより断熱層15aが構成されている。同様に、放熱層11bと放熱層11cとの間におけるスペーサ12bを除く領域には、気体の流路18bが形成され、これらにより断熱層15bが構成されている。
第2の実施形態においても、第1の実施形態と同様に、放熱層11a、11b、11cは、例えばステンレス鋼からなるものである。
【0044】
このように構成された第2の実施形態においても、通常使用時に、比較的低い温度範囲で電池セル20aの温度が上昇した場合に、放熱層11aの存在により、電池セル20b側への伝導伝熱が抑制され、熱を拡散することができるとともに、放射伝熱が抑制される。また、断熱層15aに到達した熱は、気体(空気)による断熱効果により低減される。
また、異常時において、電池セル20aの温度がさらに上昇した場合に、電池セル20aに接する位置に設けられた放熱層11aの効果により、断熱層15a側への放射伝熱を抑制することができる。また、放熱層11aに伝播された熱の一部は、放熱層11aの面方向に伝播され、熱制御シート40の外部に拡散される。
【0045】
さらに、熱せられた気体は、流路18aを介して、熱制御シート40の外部に放出されるとともに、他の領域に存在していた気体が流路18a内に流入するため、放熱層11a及び電池セル20aを冷却することができる。
【0046】
その後、同様にして、電池セル20aから発生した熱は、放熱層11b、断熱層15b及び放熱層11cをこの順に介することにより、電池セル20b側への伝導伝熱が抑制され、熱を拡散することができる。また、放射伝熱が抑制されるとともに、放熱層11bから放熱層11cへの対流伝熱が抑制されるため、電池セル間の熱の伝播を抑制することができ、熱暴走の連鎖を阻止することができる。
【0047】
なお、放熱層を、例えば4層以上とし、隣り合うそれぞれの放熱層の間に、スペーサを配設した構成であっても、本発明の効果を得ることができる。ただし、層を増加させることにより、熱制御シートの全体としての厚さが増加したり、放熱層の厚さを減少させる必要が生じたりするため、要求される性能に応じて、放熱層の層数及びスペーサの厚さ等を適切に選択することが好ましい。
【0048】
<第3の実施形態>
図4は、本発明の第3の実施形態に係る組電池用熱制御シートを模式的に示す断面図である。第3の実施形態に係る組電池用熱制御シート50は、第1の実施形態に係る熱制御シート10の最外面、すなわち、放熱層11aと電池セル20aとの間、及び放熱層11bと電池セル20bとの間に、それぞれ、断熱材13a、13bが配設されている。
【0049】
このように構成された第3の実施形態においては、電池セル20a、20b、20cに接する位置に断熱材13a、13bが配置されている。したがって、電池セル20aから発生した熱は、断熱材13aを介して放熱層11aに到達するため、放熱層11aに到達する熱を低減することができる。
その後、第1の実施形態と同様に、放熱層11a、断熱層15及び放熱層11bを介することにより、熱は段階的に低減され、断熱材13bを介することにより、さらに熱の伝達が抑制される。したがって、電池セルの間の熱の伝播を抑制することができ、熱暴走の連鎖を阻止することができる。
【0050】
次に、本発明に係る組電池用熱制御シートを構成する放熱層、スペーサ、断熱材等について、詳細に説明する。
【0051】
(放熱層)
本実施形態に係る組電池用熱制御シートに用いられる放熱層は、放熱層に到達した熱を伝導伝熱により拡散させる効果を有する。したがって、放熱層は熱を効率的に面方向に伝導させる熱伝導層を有するものとし、熱伝導層の熱伝導率は、5(W/m・K)以上であるものとする。熱伝導層の熱伝導率は、15(W/m・K)以上であることが好ましい。
また、放熱層は、電池セルからの放射伝熱を抑制する効果も有する。したがって、放熱層の放射率の具体的な値としては、0.5未満であることが好ましく、0.2未満であることがより好ましい。
【0052】
熱伝導層として、具体的には、金属、窒化チタン及びグラファイトから選択された少なくとも1種により構成されたものであることが好ましく、アルミニウム又はアルミニウム合金、ステンレス鋼、銅又は銅合金、銀又は銀合金、ニッケル又はニッケル合金、チタン又はチタン合金、窒化チタン及びグラファイトから選択された少なくとも1種により構成されたものであることがより好ましい。
熱伝導層として例示した上記材料の熱伝導率は、5~450(W/m・K)であり、放熱層に到達した熱を、熱伝導層を介して効率的に拡散することができる。
【0053】
なお、放熱層の熱伝導率は、下記(1)~(3)に示すように、レーザフラッシュ法及び示差走査熱量測定(DSC:Differential Scanning Calorimetry)法により算出することができる。
(1)JIS H 7801に記載の「金属のレーザフラッシュ法による熱拡散率の測定方法」に準拠し、熱拡散率を測定する。
(2)JIS R 1672に記載の「長繊維強化セラミックス複合材料の示差走査熱量法による比熱容量測定方法」に準拠し、比熱容量を測定する。
(3)(1)及び(2)で得られた値に基づいて、熱伝導率を算出する。
また、放熱層の放射率は、JIS R 1693に記載の「ファインセラミックス及びセラミックス複合材料の放射率測定方法」に準拠して、測定することができる。
【0054】
なお、放熱層は、上記熱伝導層と、金属、セラミック及びグラファイトから選択された材料からなる層とが積層された複合層であってもよい。放熱層として、上記熱伝導層と金属とによる複合層を採用する場合は、ステンレス鋼、銅又は銅合金、銀又は銀合金、ニッケル又はニッケル合金、チタン又はチタン合金及び窒化チタンから選択された2種以上の金属を選択することができる。このような放熱層としては、例えば、[銀/銅/銀]複合層、[ニッケル/銅/ニッケル]複合層、[ニッケル/ステンレス鋼/ニッケル]複合層、[銀/ステンレス鋼/銀]複合層等が挙げられる。上記複合層における銀、銅、ニッケルは、それぞれ合金の形であってもよい。
また、放熱層として、上記熱伝導層とセラミックとによる複合層を採用する場合は、セラミックとして、AlN、SiC、TiN等を選択することができる。
上記複合層は、中心となる基層の表面に、湿式めっき又は蒸着等により金属層を形成する方法や、異なる材料からなる層を積層する方法により得ることができる。
【0055】
上記第1及び第2の実施形態に示すように、放熱層が電池セルに接触するように熱制御シートを配置する場合は、電池セルが高温になった場合であっても、放熱層が溶融等によって損傷することを防止できるように放熱層の材料を選択することが好ましい。放熱層を構成する材料として、具体的には、融点が600℃以上である金属又はセラミックにより構成されていることがより好ましい。また、融点が900℃以上である金属又はセラミックにより放熱層が構成されていることがさらに好ましい。
【0056】
熱伝導層として具体的に例示した上記材料のうち、ステンレス鋼、銀、窒化チタンは、それぞれ融点が約1400℃、約960℃、2930℃である。また、ステンレス鋼及び銀は、他の金属と比較して酸化しにくく、高温に晒されても放射率の上昇が少ない。窒化チタンについても、高温に晒された場合に、変質がほとんど発生しない。したがって、放熱層が電池セルに接触している場合には、放熱層を構成する材料として、ステンレス鋼、銀もしくは銀合金、又は窒化チタンを使用することがより好ましい。
【0057】
一方、第3の実施形態に示すように、電池セルと放熱層との間に断熱材が介在している場合には、熱による酸化及び溶融の影響が低下するため、放熱層の材料として、熱伝導率が優れたアルミニウム又はアルミニウム合金、銅又は銅合金、銀又は銀合金及び窒化チタンから選択された1種を好適に使用することができる。
【0058】
また、放熱層による放射伝熱の抑制効果及び伝導伝熱による熱の拡散効果を十分に得るためには、放熱層の厚さは、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることがさらに好ましく、30μm以上であることがさらにより好ましく、50μm以上であることが特に好ましい。一方、熱制御シートとしての全体の厚さを考慮し、放熱層の厚さは300μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましい。
【0059】
さらに、放熱層は、上記のように1種の材料からなるものや、2種以上の材料を積層したものの他、同一の材料からなる薄膜が複数層積層されたものでもよい。同一の材料からなる薄膜が積層されて放熱層を構成する場合に、複数層の合計の厚さは、一層からなる放熱層の厚さと同じであれば、同様の効果が得られる。したがって、放熱層が複数層からなる場合であっても、その合計の厚さは上記範囲であることが好ましい。
【0060】
(スペーサ)
本実施形態に係る組電池用熱制御シートに用いられるスペーサは、隣り合う複数の放熱層の間に空間を確保し、気体の流路を形成するために配設される。スペーサとして、仮に、放熱層と同等以上の熱伝導率を有する材料を使用した場合には、熱せられた一方の放熱層から、スペーサを介して他方の放熱層に熱が伝導するおそれがある。したがって、スペーサとしては、断熱性を有する材料で形成することが好ましく、例えば、二酸化ケイ素、シリカゾル、セラミックファイバ、ガラス及びマイカから選択された少なくとも1種を含有するものであることが好ましい。二酸化ケイ素を含有する材料としては、二酸化ケイ素を主原料とした混合物が挙げられる。また、セラミックファイバを含有する材料としては、セラミックファイバの粉砕物が挙げられる。
【0061】
また、スペーサとして、放熱層の表面に固着された接着剤を使用することもできる。接着剤としては、例えば、耐熱温度が高い無機系(ケイ素系、カルシウム系等)の接着剤を使用することができ、例えば、二酸化ケイ素を主原料とした混合物を使用することができる。なお、接着剤を用いる場合には、液状の接着材料を、放熱層の表面の複数箇所に滴下し、乾燥させて固化させることにより、スペーサを形成することができる。
【0062】
なお、スペーサの熱伝導率は、1(W/m・K)未満であることが好ましく、0.5(W/m・K)未満であることがより好ましく、0.2(W/m・K)未満であることがより好ましい。
【0063】
さらに、スペーサの厚さ、すなわち隣り合う放熱層間の距離は、気体の流路を確保するという目的から、0.1mm以上であることが好ましく、0.3mm以上であることがより好ましく、0.5mm以上であることがさらに好ましい。一方、熱制御シートとしての全体の厚さを考慮し、スペーサの厚さは6.0mm以下であることが好ましく、1.5mm以下であることがより好ましい。
【0064】
なお、隣り合う複数の放熱層の間に空間を確保し、気体の流路を形成することができれば、スペーサの数は特に限定されない。放熱層同士が接触することを防止する目的で、隣り合う放熱層間のスペーサの数は4以上であることが好ましい。
また、スペーサの形状も特に限定されず、円柱状、角柱状、球状の他、一方向に長く延びた形状等、種々の形状のスペーサを使用することができる。
【0065】
(断熱材)
上記第3の実施形態で示すように、本実施形態に係る組電池用熱制御シートは断熱材を有していてもよい。断熱材としては、断熱効果を有するものであれば、特に限定されない。断熱効果を表す指標として、熱伝導率を挙げることができるが、本実施形態においては、断熱材の熱伝導率は1(W/m・K)未満であることが好ましく、0.5(W/m・K)未満であることがより好ましく、0.2(W/m・K)未満であることがより好ましい。さらに、断熱材の熱伝導率は0.1(W/m・K)未満であることがより好ましく、0.05(W/m・K)未満であることがより好ましく、0.02(W/m・K)未満であることが特に好ましい。
このような断熱材として、例えば、無機繊維、有機繊維、無機粒子及び有機粒子から選択された少なくとも1種を含有するものを用いることができる。
【0066】
なお、断熱材の熱伝導率は、JIS R 2251に記載の「耐火物の熱伝導率の試験方法」に準拠して、測定することができる。
【0067】
無機繊維としては、アルミナファイバ、カーボンファイバ、バサルトファイバ、ソルブルファイバ、リフラクトリーセラミックファイバ、グラスファイバ、エアロゲル複合材等を使用することができる。
有機繊維としては、セルロースファイバ等を使用することができる。
なお、これらの繊維については、単一の繊維を使用してもよいし、2種以上の繊維を組み合わせて使用してもよい。
【0068】
無機粒子としては、マイカ、マイクロポーラス粒子、中空シリカ粒子、熱膨張性無機材料及びエアロゲルを使用することができる。
熱膨張性無機材料としては、バーミキュライト、ベントナイト、雲母、パーライト等を挙げることができる。
有機粒子としては、中空ポリスチレン粒子等を使用することができる。
【0069】
これらの断熱材としての材料のうち、アルミナファイバ、グラスファイバ、エアロゲル複合材等を、好適に使用することができる。
【0070】
<熱制御シートの厚さ>
本実施形態において、熱制御シートの厚さは特に限定されないが、0.05~6mmの範囲にあることが好ましい。熱制御シートの厚さが0.05mm以上であると、充分な機械的強度を熱制御シートに付与することができる。一方、熱制御シートの厚さが6mm以下であると、良好な組付け性を得ることができる。
【0071】
続いて、本実施形態に係る組電池用熱制御シートの製造方法について説明する。
【0072】
<熱制御シートの製造方法>
本実施形態に係る熱制御シートは、例えば、一対の放熱層を準備し、一方の放熱層の表面に接着剤を滴下して固化させることにより、スペーサを形成し、スペーサを介して他方の放熱層を重ねることにより、得ることができる。
また、断熱材料からなるスペーサを作成し、一方又は両方の放熱層に接着させることにより、熱制御シートを作製してもよい。
【0073】
[2.組電池]
本実施形態に係る組電池は、複数の電池セルが直列又は並列に接続される組電池であって、本実施形態に係る組電池用熱制御シートが、電池セル間に介在されたものである。具体的には、例えば、図3に示すように、組電池100は、複数個の電池セル20a、20b、20cが並設され、直列又は並列に接続されて電池ケース30に格納されたものであり、電池セル20a、20b、20c間に、熱制御シート10が介在されている。
【0074】
このような組電池100では、各電池セル20a、20b、20cの間に、熱制御シート10が介在されているため、通常使用時において、各電池セル20a、20b、20c間の熱の伝播を抑制することができる。
また、複数の電池セル20a、20b、20cのうち、一つの電池セルが熱暴走して高温になり、膨張したり発火したりした場合でも、本実施形態に係る熱制御シート10が存在することにより、電池セル20a、20b、20c間の熱の伝播を抑制することができる。したがって、熱暴走の連鎖を阻止することができ、他の電池セルへの悪影響を最小限に抑えることができる。
【0075】
なお、本実施形態に係る熱制御シートは、放熱層の種類及び厚さの選択によっては、容易に屈曲可能なものとなる。したがって、電池セル20a、20b、20c及び電池ケース30の形状に影響されず、どのような形状のものにも対応させることができる。具体的には、角型電池の他、円筒形電池、平板型電池等にも適用することができる。
【実施例
【0076】
以下、本実施形態に係る組電池用熱制御シートの発明例及び比較例について説明する。
【0077】
ステンレス鋼からなる複数の放熱層を準備し、隣り合う放熱層の間に無機系接着剤を固着させることによりスペーサを形成し、各放熱層を重ねることにより、発明例となる熱制御シートを作製した。なお、発明例としては、放熱層を2層~5層として、隣り合う各放熱層の間にスペーサを配設した熱制御シートを作製した。
また、比較例として、発明例と同一の層数の放熱層を積層したシートを作製した。その後、得られたシートに対して、スペーサ及び気体の流路からなる断熱層の有無による熱制御の影響を評価した。
【0078】
図5は、熱制御の影響の評価方法を模式的に示す断面図である。また、図6は、本実施例において使用した熱制御シートのサイズを示す斜視図である。
図5に示すように、作製した熱制御シート40の一方の面(放熱層11aの表面)上に、異常時を模して、電気炉により800℃に加熱したFe治具16を、電気炉からの移動が5秒以内となるように載置した。その後、熱制御シート10の他方の面(放熱層11cの表面)に配置した熱電対17により、載置から90秒後の温度を測定し、異常時における熱制御の影響を評価した。なお、発明例及び比較例の熱制御の評価においては、図5に示す熱制御シート40を、放熱層の数を変化させた発明例の試験片、及び放熱層のみを積層した比較例の試験片に変えて、熱制御の影響を評価した。
【0079】
また、図5に示すように、発明例として使用した熱制御シート40は、1辺が50mmの正方形とした。また、熱制御シート40の一方の面において、Fe治具16との接触領域Aの幅は25mmであり、幅方向に直交する方向の長さは、熱制御シート40の1辺から対向する辺までの50mmとした。
【0080】
詳細な測定条件を下記表1に示し、積層条件及び測定結果を下記表2に示す。なお、以下に示す表において、発明例と比較例のNo.が同じである試験片は、層の数が同じであることを示している。また、「SUS」はステンレス鋼を表し、「-」は、その層が存在していないことを表す。
さらに、放熱層としてのステンレス鋼板の放射率は、約0.2であり、スペーサの熱伝導率は、0.80(W/m・K)であった。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
上記表2に示すように、発明例No.1は、2層の放熱層とその間の断熱層からなる本発明の実施形態に係る熱制御シートであるため、2層の放熱層のみからなる比較例No.1と比較して、異常時における放射伝熱の抑制効果と、伝導伝熱による拡散効果とを得ることができた。同様に、発明例No.2は、3層の放熱層とその間の断熱層からなる本発明の実施形態に係る熱制御シートであるため、3層の放熱層のみからなる比較例No.2と比較して、異常時における断熱効果が優れたものとなった。
また、発明例No.3は、4層の放熱層とその間の断熱層からなる本発明の実施形態に係る熱制御シートであるため、4層の放熱層のみからなる比較例No.3と比較して、異常時における断熱効果が優れたものとなった。発明例No.4は、5層の放熱層とその間の断熱層からなる本発明の実施形態に係る熱制御シートであるため、5層の放熱層のみからなる比較例No.4と比較して、異常時における断熱効果が優れたものとなった。
なお、比較例No.1~4は、気体による断熱層が存在しないため、発明例No.1~4と比較して、比較的低温での通常時の発熱に対して、断熱効果を十分に得ることができなかった。
【符号の説明】
【0084】
10,40,50 組電池用熱制御シート
11a,11b,11c 放熱層
12,12a,12b スペーサ
13a,13b 断熱材
15,15a,15b 断熱層
17 熱電対
18 流路
20a,20b,20c 電池セル
30 電池ケース
100 組電池
図1
図2
図3
図4
図5
図6