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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-21
(45)【発行日】2025-04-30
(54)【発明の名称】ゴム金属積層体及びガスケット
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/06 20060101AFI20250422BHJP
   B32B 25/14 20060101ALI20250422BHJP
   F16J 15/10 20060101ALI20250422BHJP
   F16J 15/12 20060101ALI20250422BHJP
【FI】
B32B15/06 Z
B32B25/14
F16J15/10 Y
F16J15/12 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022508258
(86)(22)【出願日】2021-03-10
(86)【国際出願番号】 JP2021009584
(87)【国際公開番号】W WO2021187274
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2022-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2020046857
(32)【優先日】2020-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 勲
(72)【発明者】
【氏名】志村 亮太
(72)【発明者】
【氏名】武川 大起
【審査官】脇田 寛泰
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-216799(JP,A)
【文献】国際公開第2009/016922(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/093081(WO,A1)
【文献】特開2002-003648(JP,A)
【文献】国際公開第2019/102747(WO,A1)
【文献】特開平08-193153(JP,A)
【文献】国際公開第2018/105531(WO,A1)
【文献】特開2012-214542(JP,A)
【文献】特開2004-11576(JP,A)
【文献】特開2009-84453(JP,A)
【文献】特開2004-277435(JP,A)
【文献】国際公開第2020/261975(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
F16J15/00-15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材と、
前記金属部材上に設けられたゴム層と、を備え、
前記ゴム層は、JIS K6251に準拠した100%モジュラス値が6.0MPa以上であって、厚さが50μm以上65μm以下であり、
前記ゴム層は、ニトリルゴム及び1種のカーボンブラックを含有し、
前記カーボンブラックは、SRFカーボンであり、
前記カーボンブラックの配合量はゴム成分100質量部に対して56質量部以上であることを特徴とする、ゴム金属積層体。
【請求項2】
前記ゴム層は、JIS K6251に準拠した100%モジュラス値が8.0MPa以上である、請求項1に記載のゴム金属積層体。
【請求項3】
前記ゴム層は、JIS K6251に準拠した伸び値が100%以上である、請求項1又は請求項2に記載のゴム金属積層体。
【請求項4】
前記ゴム層は、当該ゴム層の全質量に対して、28質量%以上のカーボンブラックを含有する、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のゴム金属積層体。
【請求項5】
前記金属部材と前記ゴム層とが、フェノール樹脂及びエポキシ樹脂からなる群から選択された少なくとも1種の接着剤を介して接着されてなる、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のゴム金属積層体。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のゴム金属積層体を備えたことを特徴とする、ガスケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム金属積層体及びガスケットに関し、詳しくは、金属部材上にゴム層が設けられたゴム金属積層体及びガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関のシリンダヘッドとシリンダブロックなどの2つの部材間に狭持されてシールを行うメタルガスケットが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このメタルガスケットは、金属基板と、金属基板の両主面上に設けられたゴム層と備えたゴム金属積層体を備える。特許文献1に記載のメタルガスケットでは、シリンダヘッドとシリンダブロックとの間でゴム金属積層体が締め付けられることにより、シール対象部材となるシリンダヘッドとシリンダブロックとの間をシールする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-130224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載のメタルガスケットでは、シリンダヘッド及びシリンダブロックなどの金属部材の間にゴム金属積層体が締め付けられるので、使用時にゴム金属積層体に強い圧縮応力が印加される。このようなゴム金属積層体においては、使用時の圧縮応力の印加によってゴム層が変形してゴム金属積層体からゴムがはみ出すと所望の機能が得られない場合がある。
【0005】
ゴム層の変形によるゴムのハミダシ性の改善のためには、ゴム層にカーボンブラック及びシリカなどの充填材を配合してゴム層の硬度を上げることが有効である。しかしながら、ゴム層の硬度が上昇すると、ゴム層によるシール対象部材のシール性が低下することもある。また、ゴムのハミダシ性の改善のために、ゴム層組成物の架橋剤として用いられる硫黄の配合量を増やしてゴム層の架橋密度を挙げること検討されているが、ゴム層の架橋密度を上げてもゴムのハミダシ性の大きな改善効果は見込めていない。このように、従来のゴム金属積層体では、硬度を上げるだけではゴムのハミダシ性を十分に改善できない場合があり、ゴムの物性とハミダシ性との関係を見出せていない実情がある。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、圧縮応力印加時のゴム層のハミダシを防ぐことができ、シール対象部材のシール性に優れたゴム金属積層体及びガスケットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るゴム金属積層体は、金属部材と、前記金属部材上に設けられたゴム層と、を備え、前記ゴム層は、JIS K6251に準拠した100%モジュラス値が6.0MPa以上であって、厚さが80μm未満であることを特徴とする。
【0008】
本発明に係るゴム金属積層体によれば、ゴム層の100%モジュラス値が6.0MPa以上であると共に厚さが80μm未満であるので、ゴム層の弾性率が適度に向上する。これにより、ゴム金属積層体は、充填材によってゴム層の硬度を上げる場合と比較して、ゴム層のゴム組成物の混練時の加工性及びシール性の悪化を防ぐことができると共にゴム層に必要な弾性率を確保できる。この結果、ゴム金属積層体に圧縮応力が印加された場合であっても、ゴム金属積層体からのゴム層のハミダシをより防ぐことが可能となるので、シール対象部材のシール性に優れたゴム金属積層体を実現することが可能となる。
【0009】
上記ゴム金属積層体においては、前記ゴム層は、JIS K6251に準拠した100%モジュラス値が6.0MPa以上であることが好ましい。この構成により、ゴム金属積層体は、混練時の加工性及びシール性の悪化を防ぐことができると共にゴム層に必要な弾性率を十分に確保できる。この結果、ゴム金属積層体は、ゴム金属積層体に圧縮応力が印加された場合であっても、ゴム金属積層体からのゴム層のハミダシをより防ぐことが可能となるので、シール対象部材のシール性がより向上する。
【0010】
上記ゴム金属積層体においては、前記ゴム層は、JIS K6251に準拠した伸び値が100%以上であることが好ましい。この構成により、ゴム金属積層体は、ゴム層の伸び値が適度な範囲となるので、ゴム金属積層体に圧縮応力が作用した場合であっても、ゴム金属積層体からのゴム層のハミダシをより防ぐことが可能となり、シール対象部材のシール性がより向上する。
【0011】
上記ゴム金属積層体においては、前記ゴム層は、厚さが25μm以上であることが好ましい。この構成により、ゴム金属積層体は、ゴム層の100%モジュラス値と厚さとの関係が適度な範囲となり、ゴム層の弾性率がより向上する。この結果、ゴム金属積層体は、ゴム金属積層体に圧縮応力が作用した場合であっても、ゴム金属積層体からのゴム層のハミダシをより防ぐことが可能となり、シール対象部材のシール性がより向上する。
【0012】
上記ゴム金属積層体においては、前記ゴム層は、当該ゴム層の全質量に対して、28質量%以上のカーボンブラックを含有することが好ましい。この構成により、ゴム金属積層体は、シール性の悪化を防ぎつつ、ゴム層に必要な弾性率を確保できる。この結果、ゴム金属積層体は、ゴム金属積層体に圧縮応力が作用した場合であっても、ゴム金属積層体からのゴム層のハミダシをより防ぐことが可能となり、シール対象部材のシール性がより向上する。
【0013】
上記ゴム金属積層体においては、前記金属板と前記ゴム層とが、フェノール樹脂及びエポキシ樹脂からなる群から選択された少なくとも1種の接着剤を介して接着されてなることが好ましい。この構成により、金属板とゴム層との接着性が向上するので、ゴム金属積層体からのゴム層のハミダシをより防ぐことが可能となり、シール対象部材のシール性がより向上する。
【0014】
上記ゴム金属積層体においては、前記ゴム層が、ニトリルゴムを含有することが好ましい。この構成により、ゴム層に含まれるニトリルゴムが適度な弾性を有するので、ゴム金属積層体に圧縮応力が作用した場合であっても、ゴム金属積層体からのゴム層のハミダシをより防ぐことが可能となり、シール対象部材のシール性がより向上する。
【0015】
本発明に係るガスケットは、上記ゴム金属積層体を備えたことを特徴とする。
【0016】
本発明に係るガスケットによれば、ゴム層の100%モジュラス値が6.0MPa以上であると共に厚さが80μm未満であるので、ゴム層の弾性率が適度に向上する。これにより、ガスケットは、充填材によってゴム金属積層体のゴム層の硬度を挙げる場合と比較して、ゴム層のゴム組成物の混練時の加工性及びシール性の悪化を防ぐことができると共にゴム層に必要な弾性率を確保できる。この結果、ガスケットに圧縮応力が印加された場合であっても、ゴム金属積層体からのゴム層のハミダシをより防ぐことが可能となるので、シール対象部材のシール性に優れたガスケットを実現することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、圧縮応力印加時のゴム層のハミダシを防ぐことができ、シール対象部材のシール性に優れたゴム金属積層体及びガスケットを実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の実施の形態に係るゴム金属積層体は、ガスケットなどのシール部材として好適に用いられるものである。本実施の形態に係る金属積層体は、金属部材と、金属部材の少なくとも一方の主面上に設けられたゴム層と,を備える。ゴム層は、100%モジュラス値が6.0MPa以上であって、厚さが80μm未満である。以下、本実施の形態に係るゴム金属積層体の各種構成要素について詳細に説明する。
【0019】
(金属部材)
金属部材としては、例えば、鉄、ステンレス鋼、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛メッキ鋼及び銅などの金属板が用いられる。鉄としては、例えば、冷間圧延鋼板(SPCC:Steel Plate Cold Commercial)、高張力鋼板及び軟鋼板などが用いられる。また、ステンレス鋼としては、例えば、フェライト系、マルテンサイト系、オーステナイト系などのステンレス鋼板を用いることができる。ステンレス鋼の具体例としては、例えば、SUS304、SUS301、SUS301H及びSUS430などが挙げられる。アルミニウムとしては、アルミニウム板及びアルミニウムダイキャスト板などが用いられる。
【0020】
金属部材は、アルカリ脱脂処理などにより表面を脱脂した状態で用いることが好ましい。また、金属部材は、必要に応じて金属表面をショットブラスト、スコッチブライト(登録商標)、ヘアーライン及びダル仕上げなどで粗面化して用いられる。
【0021】
金属部材は、接着剤との接着面が下地処理(表面処理)されてなることが好ましい。下地処理としては、特に制限はなく、公知の下地処理を用いることができる。下地処理としては、金属部材として冷間圧延鋼板、高張力鋼板などの鉄材及びステンレス材を用いる際には、各種化成処理剤を用いた化成処理法、亜鉛などの金属による電気めっき、溶融めっきなどの各種めっき法が好ましい。金属部材の化成処理剤としては、例えば、リン酸亜鉛処理剤、リン酸鉄処理剤等のリン酸系処理剤、塗布型クロメート処理剤などが挙げられる。化成処理剤としては、環境保護の観点から、クロムを実質的に含まないクロムフリーの化成処理剤が好ましい。
【0022】
化成処理剤による金属部材の下地処理は、噴霧、スプレー、浸漬、刷毛塗り及びロールコーターなどの公知の接液方法によって化成処理剤を金属部材に接液することによって行われる。反応性の化成処理剤の場合には、反応に必要な時間及び温度を確保することが求められる。
【0023】
金属部材の厚さは、ゴム金属積層体の用途に応じて適宜設定される。金属部材の厚さは、ゴム金属積層体がガスケットなどのシール材用途に用いられる場合には、例えば、100μm以上2000μm以下であることが好ましく、150μm以上1000μm以下であることがより好ましく、200μm以上500μm以下であることが更に好ましい。
【0024】
ゴム金属積層体は、下地処理に加え、あるいは、下地処理に代えて、金属部材上にプライマー層が形成されていることが好ましい。下地処理を施したり、プライマー層を設けたりすることにより、ゴム金属積層体におけるゴム層と金属部材との接着性が向上し、ゴム金属積層体の耐熱性及び耐水性を大幅に向上することができる。また、ゴム金属積層体は、下地処理を施したり、プライマー層を形成したりすることにより、ゴム金属積層体と他の金属板などとを積層した積層複合金属であるガスケットとして好適に用いることができる。
【0025】
プライマー層は、シリコン化合物や、チタン、ジルコニウム、バナジウム、アルミニウム、モリブデン、タングステン、マンガン、亜鉛及びセリウムなどの金属の化合物、並びに、これらの酸化物などの無機系化合物、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂及びポリウレタンなどの有機系化合物、などにより設けることができる。プライマー層は、一般に市販されているプライマー溶液を用いてもよいし、その他、各種公知技術によるプライマー溶液を用いて、設けることが可能である。
【0026】
プライマー層は、上述した各種無機系化合物や有機系化合物を含む原料を有機溶剤や水系溶剤に溶解乃至分散させたプライマー溶液により設けられる。使用可能な有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール及びイソプロピルアルコールなどのアルコール類、アセトン及びメチルエチルケトンなどのケトン類などを挙げることができる。プライマー溶液は、液安定性が保たれる限りにおいては、水系溶剤を用いた水性溶液として調製してもよい。
【0027】
得られたプライマー溶液は、金属板上にスプレー、浸漬、刷毛及びロールコーターなどを用いて塗布する。そして、プライマー層は、金属板上に塗布したプライマー溶液を室温又は温風にて乾燥させたり、焼付け処理したりすることにより設けられる。
【0028】
(接着剤)
接着剤は、ゴム層と金属部材とを接着する。接着剤としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂及びシランなどの一般に市販されている接着剤が用いられる。これらの接着剤は、ゴム金属積層体の用途に応じて適宜選択することができる。
【0029】
ゴム金属積層体においては、金属板とゴム層とが、フェノール樹脂及びエポキシ樹脂からなる群から選択された少なくとも1種を介して接着されてなることが好ましい。これにより、ゴム金属積層体は、金属板とゴム層との接着性が向上するので、圧縮応力印加時のゴム金属積層体からのゴム層のハミダシをより防ぐことが可能となり、シール対象部材のシール性がより向上する。
【0030】
フェノール樹脂としては、例えば、ノボラック型フェノール樹脂及びレゾール型フェノール樹脂が用いられる。ノボラック型フェノール樹脂及びレゾール型フェノール樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、接着剤としては、ノボラック型フェノール樹脂及びレゾール型フェノール樹脂の2種類のフェノール樹脂並びに未加硫ニトリルゴムを含むものを用いてもよい。
【0031】
ノボラック型フェノール樹脂としては、フェノール類とホルムアルデヒドとを酸触媒の存在下において縮合反応させたものが用いられる。フェノール類としては、例えば、フェノール、p-クレゾール、m-クレゾール、p-第3ブチルフェノール、p-フェニルフェノール、ビスフェノールAなどのフェノール性水酸基に対してo-位及びp-位の少なくとも1つに2個又は3個の置換可能な水素原子を有するものが用いられる。これらのフェノール樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。酸触媒としては、例えば、シュウ酸、塩酸及びマレイン酸などが用いられる。これらの中でも、ノボラック型フェノール樹脂としては、金属板とゴム層との接着性を向上する観点から、融点80℃以上150℃以下のものが好ましく、m-クレゾールとホルムアルデヒドとを用いて得られた融点120以上のものがより好ましい。
【0032】
レゾール型フェノール樹脂としては、フェノール類とホルムアルデヒドとを塩基触媒の存在下において縮合反応させたものが用いられる。フェノール類としては、例えば、フェノール、p-クレゾール、m-クレゾール及び、p-第3ブチルフェノール、p-フェニルフェノール、ビスフェノールAなどのフェノール性水酸基に対してo-位及びp-位の少なくとも1つに2個又は3個の置換可能な水素原子を有するものが用いられる。これらのフェノール樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。塩基触媒としては、例えば、アンモニア、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物、水酸化マグネシウム、炭酸ナトリウムなどが用いられる。
【0033】
エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型、クレゾールノボラック型、ビフェニル型、臭素化エポキシ樹脂などが挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのエポキシ樹脂の中でも、市販品の入手が容易である観点及び耐熱性に優れる観点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂及びクレゾールノボラック型エポキシ樹脂が好ましい。ビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、例えば、DIC株式会社製の商品名「EPICLON 860」、「EPICLON 1055」、「EPICLON 2050」、「EPICLON 3050」、商品名「EPICLON 4050」、「EPICLON 7050」、「EPICLON HM-091」などの市販品を用いてもよい。また、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂の市販品としては、例えば、DIC株式会社製の商品名「EPICLON N-660」、「EPICLON N-670」、「EPICLON N-680」、「EPICLON N-690」などの市販品を用いてもよい。
【0034】
上述した各種接着剤は、有機溶剤に溶解させた溶液として用いられる。有機溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類などが用いられる。これらの有機溶剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0035】
接着剤は、例えば、ノボラック型フェノール樹脂100質量部に対して、レゾール型フェノール樹脂10質量部以上1000質量部以下の割合で配合することが好ましく、60質量部以上400質量部以下の割合で配合することがより好ましい。接着剤は、ノボラック型フェノール樹脂100質量部に対して、レゾール型フェノール樹脂を1000質量部以下とすることにより、ゴム層の接着性の低下を防ぐことができ、また10質量部以上とすることにより、金属部材の表面との接着性の低下を防ぐことが可能となる。
【0036】
接着剤は、金属部材とゴム層との接着性を向上する観点から、プライマー層を形成した金属板上に設けることが好ましい。また、接着剤層は、一層として設けてもよく、多層として設けてもよい。接着剤層は、金属部材上に設けられたプライマー層上に有機金属化合物を含むフェノール系接着剤層を形成した後、当該接着剤層上に更にフェノール系接着剤層を設けて接着剤を多段構造として設けてもよい。このような多段構造の接着剤層とすることにより、プライマー層とゴム層との接着性をより強固にすることが可能となる。
【0037】
接着剤は、アセトン、メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトンなどのケトン系有機溶剤及びこれらの混合溶媒を用いて固形分濃度が1質量%以上10質量%以下の接着剤溶液として調整される。接着剤の溶液は、金属部材上に塗布された後、100℃以上250℃以下の条件で1分間以上30分間程度の乾燥及び焼付け処理することにより、接着剤層となる。接着剤の塗工量は、塗布後の乾燥及び焼付け処理後に、50mg/m以上2000mg/m以下の範囲とすることが好ましい。また、接着剤は、乾燥後の接着剤層の厚さが0.5μm以上5μm以下となるように塗布することが好ましい。
【0038】
(ゴム層)
本実施の形態に係るゴム金属積層体においては、ゴム層は、JIS K6251に準拠した100%モジュラス値が6.0MPa以上である。これにより、ゴム金属積層体は、ゴム金属積層体に高い圧縮応力が印加された場合であっても、ゴム層が適度な弾性率となり、ゴム金属積層体からのゴム層のハミダシを抑制できるので、シール対象部材のシール性が向上する。また、ゴム金属積層体は、ゴム層の硬度を上げることなく適度な弾性率となるので、混練時の加工性及びシール性の悪化を防いでゴムの柔軟性を維持しつつ、シール対象部材のシール性が向上する。ゴム層の100%モジュラス値は、上述した効果がより一層向上する観点から、8.0MPa以上であることがより好ましく、10MPaであることが更に好ましく、また30MPa以下であることがより好ましく、25MPa以下であることがより好ましく、20MPa以下であることが更に好ましい。
【0039】
さらに、本実施の形態に係るゴム金属積層体においては、ゴム層のJIS K6251に準拠した伸び値が100%以上であることが好ましい。これにより、ゴム層の伸び値が適度な範囲となるので、ゴム金属積層体に圧縮応力が作用した場合であっても、ゴム金属積層体からのゴム層のハミダシをより防ぐことが可能となり、シール対象部材のシール性がより向上する。また、ゴム層の伸び値は、上述した効果がより一層向上する観点から、140%以上であることがより好ましく、170%以上であることが更に好ましく、また300%以下であることが好ましく、275%以下であることがより好ましく、250%以下であることが更に好ましい。
【0040】
また、本実施の形態に係るゴム金属積層体においては、ゴム層の硬度を過剰に上げずに適度な弾性率を得て、混練時の加工性及びシール性の悪化を防ぎつつシール対象部材のシール性が向上する観点から、JIS K6253に準拠したゴム層の硬度が65以上100以下であることが好ましく、70以上95以下であることがより好ましく、80以上90以下であることが更に好ましい。
【0041】
また、本実施の形態に係るゴム金属積層体においては、圧縮応力印加時のゴム層のハミダシを防ぎつつシール対象部材のシール性が向上する観点から、JIS K6251に準拠して測定した引張強さが7.5MPa以上30MPa以下であることが好ましく、10MPa以上27.5MPa以下であることがより好ましく、12MPa以上25MPa以下であることが更に好ましい。
【0042】
ゴム層は、本発明の効果を奏する範囲で各種ゴム材料を用いて得ることができる。ゴム材料としては、例えば、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体であるニトリルゴム(NBR:Nitrile Butadiene Rubber)、ニトリルゴムの不飽和結合部分を水素化した水素化ニトリルゴム(HNBR)、フッ素ゴムなどの各種ゴム材料が挙げられる。これらの中でも、ゴム金属積層体からのゴム層のハミダシを防いでシール性を向上する観点から、ニトリルゴム及び水素化ニトリルゴムが好ましく、ニトリルゴムがより好ましい。また、ゴム層としては、自動車用シリンダヘッドガスケットなどの各種ガスケットなどの用途に使用するときは、フッ素ゴム及びニトリルゴムからなる群から選択された少なくとも1種を含むことが好ましく、ニトリルゴムを含むことが好ましい。また、ゴム層は架橋させることによって、より優れた耐熱性及び密着性が得られる。
【0043】
ニトリルゴムとしては、ゴム層と接着剤との接着性を向上する観点及び耐寒性を向上する観点から、結合アクリロニトリル含量が18%以上48%以下のものが好ましく、31%以上42%以下のものがより好ましく、31%以上36%未満の中高ニトリルが更に好ましい。また、ニトリルゴムとしては、耐摩擦・磨耗特性を向上する観点及び混練加工性を向上する観点から、ムーニー粘度ML1+4(100℃)が30以上85以下のものが好ましく、40以上70以下のアクリロニトリル-ブタジエン共重合ゴムが用いられる。また、ニトリルゴムとしては、商品名「Nipol(登録商標) DN3350」(日本ゼオン株式会社製)などの市販品を用いてもよい。
【0044】
また、ゴム層は、ゴム層の硬度を向上してゴム金属積層体に圧縮応力が作用した際のゴム金属積層体からのゴム層のハミダシを防ぐ観点から、カーボンブラックを含有するゴム組成物を含有することが好ましい。
【0045】
カーボンブラックとしては、超耐摩耗性(SAF:Super Abrasion Furnace)カーボンブラック、準超耐摩耗性(ISAF:Intermediate Super Abrasion Furnace)カーボンブラック、高耐摩耗性(HAF:High Abrasion Furnace)カーボンブラック及び良加工性チャンネル(EPC:Easy Processing Channel)カーボンブラックなどのハードカーボン、並びに、導電性(XCF:eXtra Conductive Furnace)カーボンブラック、良押出性(FEF:Fast Extruding Furnace)カーボンブラック、汎用性(GPF:General Purpose Furnace)カーボンブラック、高応力(HMF:High Modulus Furnace)カーボンブラック、中補強性(SRF:Semi-Reinforcing Furnace)カーボンブラック、微粒熱分解(FT:Fine Thermal)カーボンブラック、及び中粒熱分解(MT:Medium Thermal)カーボンブラックなどのソフトカーボンなどが挙げられる。これらのカーボンブラックは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも。カーボンブラックとしては、ソフトカーボンが好ましく、ソフトカーボンの中でも、中補強性カーボンブラック及び中粒熱分解カーボンブラックがより好ましい。カーボンブラックとしては、商品名「THERMAX(登録商標) N990 LSR」(キャンカーブ社製)などの中粒熱分解カーボンブラックの市販品を用いてもよく、商品名「HTC♯SS」(日鉄カーボン株式会社製)及び商品名「ASAHI♯50HG」(旭カーボン株式会社製)などの中補強性カーボンブラックの市販品を用いてもよい。
【0046】
カーボンブラックの配合量としては、圧縮応力の印加時にゴム金属積層体からのゴム層のハミダシを防いでシール性を向上する観点から、ゴム成分100質量部に対して、50質量部以上300質量部以下であることが好ましく、70質量部以上250質量部以下であることがより好ましく、85質量部以上200質量部以下であることが更に好ましい。
【0047】
カーボンブラックの配合量としては、圧縮応力の印加時にゴム金属積層体からのゴム層のハミダシを防いでシール性を向上する観点から、ゴム組成物の全質量に対して、28質量%以上80質量%以下であることが好ましく、30質量%以上70質量%以下であることがより好ましく、40質量%以上60質量%以下であることが更に好ましい。
【0048】
また、カーボンブラックがMTカーボンである場合には、カーボンブラックの配合量は、圧縮応力の印加時にゴム金属積層体からのゴム層のハミダシを防いでシール性を向上する観点から、ゴム成分100質量部に対して、50質量部以上250質量部以下であることが好ましく、70質量部以上200質量部以下であることがより好ましく、85質量部以上175質量部以下であることが更に好ましい。
【0049】
カーボンブラックがMTカーボンである場合には、カーボンブラックの配合量は、圧縮応力の印加時にゴム金属積層体からのゴム層のハミダシを防いでシール性を向上する観点から、ゴム組成物の全質量に対して、28質量%以上80質量%以下であることが好ましく、30質量%以上70質量%以下であることがより好ましく、40質量%以上60質量%以下であることが更に好ましい。
【0050】
また、カーボンブラックがSRFカーボンである場合には、カーボンブラックの配合量は、圧縮応力の印加時にゴム金属積層体からのゴム層のハミダシを防いでシール性を向上する観点から、ゴム成分100質量部に対して、35質量部以上200質量部以下であることが好ましく、45質量部以上150質量部以下であることがより好ましく、50質量部以上125質量部以下であることが更に好ましい。
【0051】
カーボンブラックがSRFカーボンである場合には、カーボンブラックの配合量は、圧縮応力の印加時にゴム金属積層体からのゴム層のハミダシを防いでシール性を向上する観点から、ゴム組成物の全質量に対して、25質量%以上70質量%以下であることが好ましく、27.5質量%以上60質量%以下であることがより好ましく、30質量%以上50質量%以下であることが更に好ましい。
【0052】
ゴム組成物は、金属部材又はプライマー層上にゴム組成物を塗布した後、ゴム組成物を架橋することにより設けられる。ゴム組成物は、加硫剤及び加硫促進剤を含有することが好ましい。加硫剤としては、例えば、コロイド硫黄A(鶴見化学工業株式会社製)及び商品名「バルノック(登録商標) R」(4,4’-ジチオジモルホリン:大内新興化学工業株式会社製)などの市販品を用いてもよい。加硫剤の配合量は、例えば、ゴム成分100質量部に対して、0.1質量部以上10質量部以下である。
【0053】
加硫促進剤としては、グアニジン系、アルデヒド-アミン系、アルデヒド-アンモニア系、チアゾール系、スルフェンアミド系、チオ尿素系、チウラム系、ジチオカルバメート系及びキサンテート系などの各種含硫黄加硫促進剤が用いられる。これらの中でも、含硫黄加硫促進剤としては、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラベンジルチウラムジスルフィド及びN-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミドなどが好ましい。また、加硫促進剤としては、商品名「ノクセラー(登録商標)TBZTD」(テトラベンジルチウラムジスルフィド:大内新興化学工業株式会社製)、商品名「ノクセラー(登録商標)CZ-P」(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド:大内新興化学工業株式会社製)及び「ノクセラー(登録商標)TT-P」(テトラメチルチウラムジスルフィド:大内新興化学工業株式会社製)などの市販品を用いてもよい。加硫促進剤の配合量は、例えば、ゴム成分100質量部に対して、1質量部以上20質量部以下である。
【0054】
また、ゴム組成物は、必要に応じて、炭酸カルシウム及びシリカなどの充填剤を含んでいてもよい。炭酸カルシウムとしては、重質炭酸カルシウム及び合成炭酸カルシウムなどの各種炭酸カルシウムを用いることができる。また、炭酸カルシウムとしては、商品名「ホワイトンSB-赤」(重質炭酸カルシウム、備北粉化工業株式会社製)などの市販品を用いてもよい。炭酸カルシウムの配合量としては、ゴム成分100質量部に対して、例えば、10質量部以上100質量部以下が好ましい。
【0055】
シリカとしては、本発明の効果を奏する範囲で各種シリカを用いることができる。シリカとしては、例えば、ハロゲン化珪酸又は有機珪素化合物の熱分解法、けい砂を加熱還元して気化した酸化珪素(SiO)を空気酸化する方法などで製造される乾式法シリカ、及び珪酸ナトリウムの熱分解法などで製造される湿式法シリカなどの非晶質シリカを用いることができる。また、シリカとしては、例えば、商品名「Nipsil(ニップシール)E-74P」(東ソー・シリカ株式会社製)などの市販品を用いてもよい。シリカの配合量としては、ゴム成分100質量部に対して、例えば、5質量部以上50質量部以下が好ましい。
【0056】
ゴム組成物は、必要に応じて、可塑剤、酸化亜鉛などの受酸剤、ステアリン酸、老化防止剤及びワックスなどのゴム工業で一般的に用いられている助剤を含有してもよい。可塑剤としては、例えば、商品名「アデカサイザー(登録商標)RS107」(株式会社ADEKA製)などの市販品が挙げられる。可塑剤の配合量は、ゴム成分100質量部に対して、例えば、1質量部以上50質量部以下である。
【0057】
受酸剤としては、例えば、酸化亜鉛(正同化学工業株式会社製)などの市販品を用いてもよい。ステアリン酸としては、例えば、商品名「DTST」(ミヨシ油脂株式会社製)などの市販品を用いてもよい。また、老化防止剤としては、例えば、商品名「ノクラック(登録商標) 810-NA」(2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体:大内新興化学工業株式会社製)などの市販品を用いてもよい。また、ワックスとしては、例えば、商品名「サンタイト(登録商標) R」(マイクロクリスタリンワックス:精工化学株式会社製)などの市販品を用いてもよい。
【0058】
また、本実施の形態に係るゴム金属積層体においては、ゴム層は、厚さが80μm未満である。これにより、ゴム層の100%モジュラス値と厚さとの関係が適度な範囲となるので、ゴム金属積層体に圧縮応力が作用した場合であっても、ゴム金属積層体からのゴム層のハミダシをより防ぐことが可能となり、シール対象部材のシール性がより向上する。また、ゴム層の厚さは、上述した効果がより一層向上する観点から、30μm以上であることが好ましく、40μm以上75μm以下がより好ましく、45μm以上70μm以下が更に好ましい。
【0059】
<ゴム金属積層体の製造方法>
上記実施の形態に係るゴム金属積層体は、ステンレス鋼板などの金属部材と、ゴム成分及びカーボンブラックを配合し、必要に応じて加硫剤、加硫促進剤、炭酸カルシウム、シリカ、可塑剤及び各種助剤を配合したインタミックス、ニーダ、バンバリーミキサなどの混練機又はオープンロールにて混練したゴム組成物を用いて製造する。ゴム金属積層体は、必要に応じて表面処理した金属部材上に接着層を介して上記ゴム組成物を塗布した後、例えば、ゴム組成物160℃以上250℃以下で0.5分以上30分以下程度の条件で加硫してゴム層とすることにより製造される。ゴム組成物は、塗布後のゴム層の厚さが50μm以上200μm以下となるように塗布することが好ましい。なお、ゴム金属積層体は、ゴムの粘着防止の観点から、樹脂系及びグラファイト系などのコーティング剤をゴム層上に塗布してもよい。
【0060】
ゴム組成物の金属部材上への塗布方法は、金属部材上にゴム組成物を塗布できるものであれば特に制限はない。ゴム組成物の塗布方法は、スプレー法、ディッピング法、ロールコート法、ディスペンサー法などが挙げられる。
【0061】
ゴム組成物の製造時及び金属部材上への塗布時には、必要に応じてゴム組成物に有機溶剤を加えて粘度調整をしてもよい。有機溶剤としては、ゴム組成物の粘度を所望の粘度に調整できるものであれば特に制限はない。有機溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、トルエン及び酢酸エチルなどが挙げられる。これらの有機溶剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0062】
以上説明したように、上記実施の形態によれば、ゴム層の100%モジュラス値が6.0MPa以上であると共に厚さが80μm未満であるので、ゴム層の弾性率が適度に向上する。これにより、ゴム金属積層体は、充填材によってゴム層の硬度を挙げる場合と比較して、ゴム層のゴム組成物の混練時の加工性及びシール性の悪化を防ぐことができると共にゴム層に必要な弾性率を確保できる。この結果、ゴム金属積層体に圧縮応力が印加された場合であっても、ゴム金属積層体からのゴム層のハミダシをより防ぐことが可能となるので、シール対象部材のシール性に優れたゴム金属積層体を実現することが可能となる。また、ゴム金属積層体では、これまでは単純にゴムの硬度を挙げることでハミダシ性を改善してきたが、100%モジュラス値に着目して開発を行うことで、低硬度でもハミダシ性を確保でき、シール性の改善が期待できる。また、ゴム金属積層体を実際に作成しなくても100%モジュラス値によって圧縮応力印加時のゴム層のハミダシ性の予測ができるので、評価工程の削減につながる。
【0063】
また、上記実施の形態によれば、ゴム金属積層体を備えたガスケットが得られる。これにより、ゴム層の100%モジュラス値が6.0MPa以上であると共に厚さが80μm未満であるので、ゴム層の弾性率が適度に向上する。これにより、ガスケットは、充填材によってゴム層の硬度を挙げる場合と比較して、ゴム層のゴム組成物の混練時の加工性及びシール性の悪化を防ぐことができると共にゴム層に必要な弾性率を確保できる。この結果、ガスケットに圧縮応力が印加された場合であっても、ガスケットからのゴム層のハミダシをより防ぐことが可能となるので、シール対象部材のシール性に優れたガスケットを実現することが可能となる。
【実施例
【0064】
以下、本発明の効果を明確にするために行った実施例に基づいて本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例及び比較例によって何ら限定されるものではない。
【0065】
本発明者らは、上記実施の形態に係るゴム金属積層体を作製し、作製したゴム金属積層体について圧縮試験を実施して評価した。以下、本発明者らが調べた内容について説明する。
【0066】
(実施例1)
<ゴムの熱可塑性(TP:Thermo plastics)評価>
ニトリルブタジエンゴム(商品名「Nipol DN3350」、日本ゼオン株式会社製)100質量部、カーボンブラックA(中粒熱分解(MT:Medium Thermal)カーボンブラック、:商品名「THERMAX N990 LSR」、キャンカーブ社製)90質量部、酸化亜鉛(正同化学工業株式会社製)5質量部、ステアリン酸(商品名「DTST」、ミヨシ油脂株式会社製)1質量部、老化防止剤(2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体:商品名「ノクラック 810-NA」、大内新興化学工業株式会社製)2質量部、マイクロクリスタリンワックス(商品名「サンタイト R」、精工化学株式会社製)2質量部、加硫剤A(コロイド硫黄A、鶴見化学工業株式会社製)1.5質量部、加硫剤B(4,4’-ジチオジモルホリン:商品名「バルノック R」、大内新興化学工業株式会社製)1質量部、加硫促進剤A(テトラベンジルチウラムジスルフィド:商品名「ノクセラーTBZTD」、大内新興化学工業株式会社製)5質量部、及び加硫促進剤B(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド:商品名「ノクセラーCZ-P」、大内新興化学工業株式会社製)4質量部をニーダ及びオープンロール混練してゴム組成物を得た。次に、ゴム組成物を170℃にて8分間加圧して加硫して厚さ2mmのゴムシートを作製した。得られたゴムシートの硬度をJIS K6253に準拠して測定し、100%モジュラス値、引張強さ、及び伸びをJIS K6251に準拠して測定した。
【0067】
<圧縮試験評価用サンプルの作製>
リン酸亜鉛処理剤により表面処理した厚さ250μmの冷間圧延鋼板(SPCC:Steel Plate Cold Commercial)上に、フェノール樹脂(商品名「シクソン715A」97質量%、商品名「シクソン715N」3質量%、ともにローム・アンド・ハース社製」)100質量部をメチルエチルケトン440質量部及びメタノール110質量部の有機溶剤で希釈した接着剤を、厚さ3μmとなるように塗布して室温下で乾燥させた。次に、上記熱可塑性評価で用いた配合のゴム組成物を有機溶剤に溶解させて粘度を1000~10000mPa・s程度に調整し、さらに、フェノール樹脂を塗布した冷間圧延鋼板上に、硬化後のゴム層の厚さが65μmとなるように塗布した後、200℃のオーブンにて3分間加硫してゴム積層金属板の圧縮試験評価用サンプルを作製した。ここでは、必要に応じて粘着防止層を塗布してもよい。作製した圧縮試験評価用サンプルについて、下記評価方法により評価した。結果を下記表1に示す。
【0068】
<圧縮試験評価>
ゴム積層金属板の圧縮試験評価用サンプルのゴム層上に、ドーナツ状の凸型形状をした金具を150℃にて5分間、圧力150MPaの条件にて押し当てた後、ゴム層の状態を下記の基準に基づいて評価した。
5点:金属の露出がなく、ゴムの流れもほとんど認められない。
4点:金属の露出がなく、ゴムの流れも少量である。
3点:ゴムの流れは少なからず生じているが、金属露出には至っていない状態。
2点:ゴムの流れは大きいが金属の露出は少ない。
1点:ゴム流れ、金属露出共に大きい。
【0069】
(実施例2)
カーボンブラックAの配合量を151質量部としたこと以外は、実施例1と同様にしてゴム積層金属板の圧縮試験評価用サンプルを作製して評価した。結果を下記表1に示す。
【0070】
(実施例3)
カーボンブラックAに代えて、カーボンブラックB(SRFカーボンブラック:商品名「HTC♯SS」、日鉄カーボン株式会社製)65質量部を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてゴム積層金属板の圧縮試験評価用サンプルを作製して評価した。結果を下記表1に示す。
【0071】
(実施例4)
カーボンブラックBの配合量を104質量部としたこと以外は、実施例3と同様にしてゴム積層金属板の圧縮試験評価用サンプルを作製して評価した。結果を下記表1に示す。
【0072】
(実施例5)
ゴム層の厚さを50μmとしたこと以外は、実施例4と同様にしてゴム積層金属板の圧縮試験評価用サンプルを作製して評価した。結果を下記表1に示す。
【0073】
(実施例6)
カーボンブラックAに代えて、カーボンブラックC(中補強性(SRF:Semi―Reinforcing Furnace)カーボンブラック:商品名「ASAHI♯50HG」、旭カーボン株式会社製)を56質量部用いたこと以外は、実施例1と同様にしてゴム積層金属板の圧縮試験評価用サンプルを作製して評価した。結果を下記表1に示す。
【0074】
(実施例7)
カーボンブラックAに代えて、カーボンブラックCを90質量部用いたこと以外は、実施例1と同様にしてゴム積層金属板の圧縮試験評価用サンプルを作製して評価した。結果を下記表1に示す。
【0075】
(実施例8)
カーボンブラックAの配合量を181質量部としたこと、及び可塑剤(商品名「アデカサイザーRS107」、株式会社ADEKA製)10質量部を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてゴム積層金属板の圧縮試験評価用サンプルを作製して評価した。結果を下記表1に示す。
【0076】
(実施例9)
カーボンブラックAの配合量を40質量部としたこと、カーボンブラックB60質量部を用いたこと、炭酸カルシウム(商品名「ホワイトンSB-赤」、備北粉化工業株式会社製)60質量部を用いたこと、シリカ(商品名「ニップシール E-74P」、東ソー・シリカ株式会社製)30質量部を用いたこと、及び加硫剤Bを用いなかったこと以外は、実施例1と同様にしてゴム積層金属板の圧縮試験評価用サンプルを作製して評価した。結果を下記表1に示す。
【0077】
(比較例1)
カーボンブラックAの配合量を45質量部としたこと以外は、実施例1と同様にしてゴム積層金属板の圧縮試験評価用サンプルを作製して評価した。結果を下記表1に示す。
【0078】
(比較例2)
カーボンブラックBの配合量を31質量部としたこと以外は、実施例3と同様にしてゴム積層金属板の圧縮試験評価用サンプルを作製して評価した。結果を下記表1に示す。
【0079】
(比較例3)
カーボンブラックCの配合量を30質量部としたこと以外は、実施例6と同様にしてゴム積層金属板の圧縮試験評価用サンプルを作製して評価した。結果を下記表1に示す。
【0080】
(比較例4)
カーボンブラックAの配合量を65質量部としたこと、炭酸カルシウム(商品名「ホワイトンSB-赤」、備北粉化工業株式会社製)60質量部を用いたこと、及びシリカ(商品名「ニップシール E-74P」、東ソー・シリカ株式会社製)5質量部を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてゴム積層金属板の圧縮試験評価用サンプルを作製して評価した。結果を下記表1に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
上記表1における各成分の詳細は、下記の通りである。
NBR:ニトリルゴム(中高ニトリル(結合アクリロニトリル含量31%以上36%未満):商品名「Nipol DN3350」、日本ゼオン株式会社製)
カーボンブラックA:中粒熱分解(MT:Medium Thermal)カーボンブラック(商品名「THERMAX N990 LSR」、キャンカーブ社製)
カーボンブラックB:中補強性(SRF:Semi―Reinforcing Furnace)カーボンブラック(商品名「HTC♯SS」、日鉄カーボン株式会社製)
カーボンブラックC:SRFカーボンブラック(商品名「ASAHI♯50HG」、旭カーボン株式会社製)
炭酸カルシウム:商品名「ホワイトンSB-赤」(備北粉化工業株式会社製)
シリカ:商品名「ニップシール E-74P」(東ソー・シリカ株式会社製)
可塑剤:商品名「アデカサイザーRS107」(株式会社ADEKA製)
酸化亜鉛(正同化学工業株式会社製)
ステアリン酸:商品名「DTST」(ミヨシ油脂株式会社製)
老化防止剤:2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体(商品名「ノクラック810-NA」、大内新興化学工業株式会社製)
ワックス:ワックス(商品名「サンタイト R」、精工化学株式会社製)
加硫剤A:コロイド硫黄A(鶴見化学工業株式会社製)
加硫剤B:4,4’-ジチオジモルホリン(商品名「バルノックR」、大内新興化学工業株式会社製)
加硫促進剤A:テトラベンジルチウラムジスルフィド(商品名「ノクセラーTBZTD」、大内新興化学工業株式会社製)
加硫促進剤B:N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド(商品名「ノクセラーCZ-P」、大内新興化学工業株式会社製)
【0083】
表1から分かるように、上記実施の形態に係るゴム金属積層体によれば、ゴム層の100%モジュラス値が6.0MPa以上であるので、圧縮試験におけるゴム流れは比較的少なく、ハミダシ性評価の評点はいずれも4点以上となった(実施例1~実施例9)。また、カーボンブラックについては、中粒熱分解カーボンブラック及び中補強性カーボンブラックのいずれを用いてもハミダシ性評点は、いずれも4点以上であった(実施例1~実施例7)。また、ゴム層の厚さを50μmに変更しても、圧縮試験におけるゴムの流れは殆ど認められずハミダシ性評価の評点は5点となった(実施例5)。また、可塑剤を配合した場合にも、ゴム層の100%モジュラス値が6.0MPa以上であることにより、圧縮試験におけるゴムの流れはほとんど認められず、ハミダシ性評価の評点は5点となった(実施例8)。さらに、炭酸カルシウム及びシリカを配合した場合にも、ゴム層の100%モジュラス値が6.0MPa以上である場合には、圧縮試験におけるゴムの流れは比較的少なく、ハミダシ性評価の評点は5点となった(実施例9)。
【0084】
これに対して、ゴム層の100%モジュラス値が6.0MPa未満の場合には、いずれも圧縮試験におけるゴムの流れが大きく、ハミダシ性評価の評点が1点~3点となることが分かる(比較例1~比較例4)。
【0085】
以上の結果から、上記実施の形態によれば、ゴム層の100%モジュラス値を6.0MPa以上とすると共に、ゴム層の厚さを80μm未満とすることにより、ゴム金属積層体に圧縮応力が作用した場合であっても、ゴム層のハミダシを防ぐことができ、ゴム金属積層体のシール性が向上することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
以上説明したように、上記実施の形態によれば、圧縮応力印加時のゴム層のハミダシを防ぐことができ、シール対象部材のシール性に優れたゴム金属積層体及びガスケットを実現できるという効果を有し、特に、シリンダヘッドガスケットなどの各種ガスケットなどに好適に用いることができる。また、上記実施の形態によれば、コンプレッサー、ウォーターポンプ、モーター、電池、パワーコントロールユニット、インバーターケース等の他の用途にも適用することができる。
【0087】
以上、本発明の一実施の形態について説明したが、本実施の形態の内容により本発明の実施の形態が限定されるものではない。また、上述した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、前述した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。さらに、前述した実施の形態の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。