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特許7671035コンクリート内鉄筋腐食測定方法、導電性粘着ゲル、測定プローブ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-22
(45)【発行日】2025-05-01
(54)【発明の名称】コンクリート内鉄筋腐食測定方法、導電性粘着ゲル、測定プローブ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/26 20060101AFI20250423BHJP
【FI】
G01N27/26 351B
G01N27/26 351F
G01N27/26 351P
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2024104848
(22)【出願日】2024-06-28
【審査請求日】2024-06-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 公益社団法人日本コンクリート工学会「コンクリートテクノプラザ2023 技術紹介セッション」福岡国際会議場(福岡県福岡市博多区石城町2-1) 令和5年(2023年)7月6日開催
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 https://www.pari.go.jp/topics/2023/ https://www.pari.go.jp/PDF/Dr.CORR.pdf 令和5年(2023年)7月27日掲載
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 https://clearpulse.co.jp/ProductInfo_item_detail?index=109 https://clearpulse.co.jp/download/7755_catalog.pdf https://clearpulse.co.jp/download/7755_manual.pdf https://clearpulse.co.jp/download/7755_procedure.pdf 令和5年(2023年)7月27日掲載
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 https://www.youtube.com/watch?v=HafqXGCSWgc&list=TLGGYdS-0_WdaMcyOTExMjAyMw 令和5年(2023年)11月28日掲載
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 https://www.fts-web.jp/news/?p=2#n_1690415004-717467 https://www.fts-web.jp/product/?id=1689747301-479238 https://www.fts-web.jp/product/?id=1689747301-479238&bak_flg=1 令和5年(2023年)7月27日掲載
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 https://www.youtube.com/watch?v=edzuzPOiLcw&t=6s 令和5年(2023年)9月22日掲載
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 https://www.youtube.com/watch?v=71yJPEs5JjI&t=23s 令和5年(2023年)12月4日掲載
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 https://www.tus.ac.jp/ura/news_index/page/4/?fy=2023&cat=press https://www.tus.ac.jp/ura/dr-corr/ https://www.tus.ac.jp/ura/wp-content/uploads/2023/07/Dr.CORR_.pdf 令和5年(2023年)7月27日掲載
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 https://www.tobishima.co.jp/press_release/2023.html https://www.tobishima.co.jp/press_release/detail/20230713142204.html https://www.tobishima.co.jp/solution/civil_check/check_drcorr.html 令和5年(2023年)7月27日掲載
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 https://www.youtube.com/watch?v=HafqXGCSWgc&list=TLGGYdS-0_WdaMcxNzA1MjAyNA&t=46s 令和5年(2023年)11月28日掲載
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 オリエンタル白石株式会社(栃木県真岡市鬼怒ケ丘5)における実演による公開 令和5年(2023年)8月1日開催
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 Webミーティング(鉄筋腐食測定機のプレゼンテーション、開催 クリアパルス株式会社) 令和5年(2023年)8月7日開催
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 東京港埠頭株式会社(東京都江東区青海二丁目4番24号青海フロンティアビル)における実演による公開 令和5年(2023年)10月31日開催
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 長崎市高島町端島 70号棟における実演による公開 令和5年(2023年)11月6日開催
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 富士ピー・エス株式会社東北工場(福島県安達郡大玉村玉井字畑田37番地1 大玉第2工業団地)における実演による公開 令和5年(2023年)11月14日開催
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 Webミーティング(鉄筋腐食測定機のプレゼンテーション、開催 クリアパルス株式会社) 令和6年(2024年)1月22日開催
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 国立大学法人 香川大学 創造工学部(香川県高松市林町2217-20)に納品 令和6年(2024年)3月15日納品
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 エフティティーエス株式会社(東京都中央区日本橋小舟町8番1号 ヒューリック小舟町ビル7階)に納品 令和6年(2024年)2月29日納品
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ポゾリス ソリューションズ株式会社(神奈川県茅ヶ崎市萩園2722)における実演による公開 令和6年(2024年)5月23日開催
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 株式会社コンステック東京支店(東京都大田区平和島6-1-1 東京流通センターアネックス)における実演による公開 令和6年(2024年)5月30日開催
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】593136904
【氏名又は名称】クリアパルス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082658
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 儀一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100126893
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 哲男
(72)【発明者】
【氏名】橋本 永手
(72)【発明者】
【氏名】定本 真明
(72)【発明者】
【氏名】松浦 貢
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-062782(JP,A)
【文献】特開2021-012058(JP,A)
【文献】特開平07-286444(JP,A)
【文献】特許第7477676(JP,B1)
【文献】特開2020-153782(JP,A)
【文献】染谷望ほか,コンクリート中の鋼材腐食を対象としたセンサの開発,コンクリート工学年次論文集,2019年,Vol.41, No.1,pp.917-922
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26,
G01N 17/02,
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定プローブが有する電極に支持電解質水溶液と吸水性樹脂とを含みでんぷん糊状の流動性を有する導電性粘着ゲルを塗布し、
コンクリート構造物に凹部に導電性粘着ゲルを入り込ませて前記電極を前記コンクリート構造物に密着させるとともに測定プローブを前記コンクリート構造物に接着、保持させ、
前記電極から前記コンクリート構造物内の鉄筋に交流電流を通電することにより前記コンクリート構造物内の鉄筋の腐食状態を測定する、
ことを特徴とするコンクリート内鉄筋腐食測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載のコンクリート内鉄筋腐食測定方法に用いる導電性粘着ゲルの製造方法であって、
支持電解質水溶液にゲル化剤である吸水性樹脂を添加し、
吸水性樹脂を添加した支持電解質水溶液を撹拌、混錬することによりでんぷん糊状の流動性を有する導電性粘着ゲルを生成する、
ことを特徴とする導電性粘着ゲルの製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のコンクリート内鉄筋腐食測定方法に用いる導電性粘着ゲルであって、
前記吸水性樹脂は、変性アクリル系架橋重合体を含有しでんぷん糊状の流動性を有している、
ことを特徴とする導電性粘着ゲル。
【請求項4】
前記吸水性樹脂は、変性アクリル系架橋重合体を含有するアクアリックCS-8S(登録商標、株式会社日本触媒製)である、
ことを特徴とする請求項3に記載の導電性粘着ゲル。
【請求項5】
前記電極を備えた測定プローブの総重量がW(kg)、前記電極のコンクリート構造物との接続面積がS(mm)であるときに、
強度T(N/mm)≧9.8・(W(kg)/S(mm))
に設定されている、
ことを特徴とする請求項3に記載の導電性粘着ゲル。
【請求項6】
測定プローブの総重量が60×10-3kg、電極の接続面が直径50(mm)の円形であり、
強度T(N/mm)≧0.3×10-3(N/mm
に設定されている、
ことを特徴とする請求項5に記載の導電性粘着ゲル。
【請求項7】
コンクリート構造物に通電して前記コンクリート構造物内の鉄筋の腐食状態を測定するための測定プローブであって、
電極と、
請求項3~請求項6のいずれか一項に記載の導電性粘着ゲルと、
を備え、
前記導電性粘着ゲルは前記電極に塗布され、導電性粘着ゲルが前記コンクリート構造物の凹部に入り込んで密着するとともに前記電極が前記コンクリート構造物に接着、保持可能とされている、
ことを特徴とする測定プローブ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物内の鉄筋の腐食状態を測定するためのコンクリート内鉄筋腐食測定方法、導電性粘着ゲル、測定プローブに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、国内での社会基盤施設の老朽化が叫ばれている中、コンクリート構造物の維持管理においては、劣化が進行している構造物への対策が急務となっている。コンクリート構造物の維持管理にかかるコストを削減するためには、劣化による変状が顕在化する前に対策を講じる予防保全的な対策を取ることが有効であるという認識が広まっている。そこで、法令においても2014年から知識と技能を有する者が5年に1度、近接目視を基本とする点検を定めている。この近接目視は、ひび割れなどの変状が顕在化したコンクリート構造物の健全度を把握するのには有効であるが、変状が顕在化する前に対策を講じる必要がある場合には、近接目視の結果に基づいた診断では手遅れになる可能がある。
【0003】
一般に、コンクリート中の空隙水はpH12~13の強アルカリ性であり、鉄は表面に不動態皮膜を形成し、腐食しにくい状態にある。しかし、コンクリートの中性化や塩害で外部から侵入する塩化物イオンの影響によって鉄筋の腐食速度が増大すると、その鉄筋の腐食によってコンクリートにひび割れ(以下、腐食ひび割れ)が発生する。鉄筋の腐食が進行するほど、補修や補強に掛かる時間や費用が多くなるため、効率的な維持管理には、腐食ひび割れ発生前に鉄筋の腐食を把握することが重要である。
【0004】
そこで、コンクリート内部の鉄筋に交流電流を通電して、腐食ひび割れに頼らずにコンクリート構造物を破壊することなく内部の鉄筋の腐食状態を検査する種々の非破壊検査技術が開発されている(例えば、特許文献1参照。)。
このような非破壊検査では、作業者の手やセンサー支持脚により測定プローブ(電極やセンサ等)をコンクリート構造物外壁(表面)に接触させる必要がある(非特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許7113419号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】https://www.rex-rental.jp/large/030/middle/090/product/20569
【0007】
しかしながら、非破壊検査によりコンクリート構造物内部の鉄筋の腐食状況を検査する際には、検査が終了するまでの間、測定プローブ(電極やセンサ等)を安定してコンクリート構造物に接触させ続ける必要があり、測定プローブを人手により接触、保持させ続けるのは作業負担が大きい。
【0008】
また、センサー支持脚により測定プローブをコンクリート構造物の下面に支持して検査する場合には、センサー支持脚を安定した場所に設置する必要があるため、橋梁の下面を海面上の揺れる船舶から検査するような場合には、センサー支持脚により測定センサーを安定して保持することは困難である。
そこで、コンクリート構造物内部の鉄筋の腐食状況を測定する際に、測定プローブを安定して保持させるとともに測定作業における作業負担を軽減することが可能な技術が望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は前記従来の課題や提案に基づいて創案されたものであり、コンクリート構造物内部の鉄筋の腐食状況を測定するのに際して、測定プローブを安定してコンクリート構造物に保持させるとともに測定作業における作業負担が軽減することが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
コンクリート内鉄筋腐食測定方法であって、
測定プローブが有する電極に支持電解質水溶液と吸水性樹脂とを含みでんぷん糊状の流動性を有する導電性粘着ゲルを塗布し、
コンクリート構造物に凹部に導電性粘着ゲルを入り込ませて前記電極を前記コンクリート構造物に密着させるとともに測定プローブを前記コンクリート構造物に接着、保持させ、
前記電極から前記コンクリート構造物内の鉄筋に交流電流を通電することにより前記コンクリート構造物内の鉄筋の腐食状態を測定する、
ことを特徴とし、
または、
コンクリート内鉄筋腐食測定方法に用いる導電性粘着ゲルの製造方法であって、
支持電解質水溶液にゲル化剤である吸水性樹脂を添加し、
吸水性樹脂を添加した支持電解質水溶液を撹拌、混錬することによりでんぷん糊状の流動性を有する導電性粘着ゲルを生成する、
ことを特徴とし、
または、
コンクリート内鉄筋腐食測定方法に用いる導電性粘着ゲルであって、
前記吸水性樹脂は、変性アクリル系架橋重合体を含有しでんぷん糊状の流動性を有している、
ことを特徴とし、
または、
前記吸水性樹脂は、変性アクリル系架橋重合体を含有するアクアリックCS-8S(登録商標、株式会社日本触媒製)である、
ことを特徴とし、
または、
前記電極を備えた測定プローブの総重量がW(kg)、前記電極のコンクリート構造物との接続面積がS(mm)であるときに、
強度T(N/mm)≧9.8・(W(kg)/S(mm))
に設定されている、
ことを特徴とし、
または、
測定プローブの総重量が60×10-3kg、電極の接続面が直径50(mm)の円形であり、
強度T(N/mm)≧0.3×10-3(N/mm
に設定されている、
ことを特徴とし、
または、
コンクリート構造物に通電して前記コンクリート構造物内の鉄筋の腐食状態を測定するための測定プローブであって、
電極と、
変性アクリル系架橋重合体を含有しでんぷん糊状の流動性を有している導電性粘着ゲルと、
を備え、
前記導電性粘着ゲルは前記電極に塗布され、導電性粘着ゲルが前記コンクリート構造物の凹部に入り込んで密着するとともに前記電極が前記コンクリート構造物に接着、保持可能とされている、
ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るコンクリート内鉄筋腐食測定方法、導電性粘着ゲル、測定プローブによれば、導電性粘着ゲルによって測定プローブをコンクリート構造物に接着、保持させるので、コンクリート構造物に測定プローブを安定して保持させるとともに測定作業における作業負担を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1実施形態に係るコンクリート内鉄筋腐食測定方法の概略を説明する概念図である。
図2】第1実施形態に係るコンクリート内鉄筋腐食測定機の概略構成を説明する図である。
図3】第1実施形態に係る腐食測定機本体の概略構成を説明する図である。
図4】第1実施形態に係る測定プローブの概略構成を説明する図であり、(A)は上面図を、(B)は正面図を、(C)は側面図を、(D)は下面図を示している。
図5】第1実施形態に係る導電性粘着ゲルの生成方法を説明するフローチャートである。
図6】第1実施形態に係る導電性粘着ゲルの一例を説明する図である。
図7】第1実施形態に係る導電性粘着ゲルの性状を説明する図である。
図8】第1実施形態に係る導電性粘着ゲルの接着強度を説明する図である。
図9】第1実施形態に係るコンクリート内鉄筋腐食測定機をコンクリート内鉄筋腐食測定方法(交流インピーダンス法)に適用する例を説明する概念図である。
図10】第1実施形態に係る交流インピーダンス法における通電状態を説明する概念図である。
図11】第1実施形態に係るコンクリート内鉄筋腐食測定方法における測定プローブをコンクリート構造物に接着(装着)した状態を示す概念図であり、(A)は下面から、(B)は側面から測定する例を示す概念図である。
図12】第1実施形態に係る3電極法における接続状態を説明する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔第1実施形態〕
以下、図1図9を参照して、本発明の第1実施形態について説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係るコンクリート内鉄筋腐食測定方法の概略を説明する概念図であり、図2はコンクリート内鉄筋腐食測定機の概略構成を説明する図であり、図3は腐食測定機本体の概略構成を説明する図である。また、図4は測定プローブの概略構成を説明する図であり、図4(A)は上面図を、図4(B)は正面図を、図4(C)は側面図を、図4(D)は導電性粘着ゲルが塗布されていない状態の下面図を示している。
図において、符号1はコンクリート内鉄筋腐食測定機を、符号10は腐食測定機本体を、符号20は測定プローブを、符号22は電極を、符号26は導電性粘着ゲルを、符号Cはコンクリート構造物を示している。
第1実施形態に係るコンクリート内鉄筋腐食測定は、交流インピーダンス法による例を示している。
【0014】
第1実施形態に係るコンクリート内鉄筋腐食測定方法は、図1に示すように、コンクリート構造物Cの表面に測定プローブ20を導電性粘着ゲルの粘着性によって接着し、測定が終了するまでの間(例えば約15分間)、測定プローブ20をコンクリート構造物Cに保持させて交流電流を通電することで、コンクリート構造物Cに埋設された鉄筋の腐食状態を測定する。なお、交流インピーダンス法における測定、判定方法(交流電流の周波数、電流値、電流値の変化等)については種々の手法が適用可能である。
【0015】
以下、図2を参照して、コンクリート内鉄筋腐食測定機1の概略構成について説明する。
コンクリート内鉄筋腐食測定機1は、図2に示すように、例えば腐食測定機本体10と、3つの測定プローブ(電極)20と、腐食測定機本体10とそれぞれの測定プローブ(電極)20とを接続するケーブル(図1に示す符号30、図2において不図示)とを備えている。
そして、コンクリート内鉄筋腐食測定機1は、例えばコンクリート構造物Cの表面から内部に埋設された鉄筋に交流電流を印加して鉄筋表面のインピーダンスを算出することにより鉄筋の腐食状態を測定することが可能とされている。
【0016】
腐食測定機本体10は、図3に示すように、それぞれケーブルと接続可能とされる例えばCE端子11CE、RE端子11RE、WE(pot)端子11WEp、WE(cur)端子11WEcとを備えている。また、CE端子11CE、WE(cur)端子11WEcは例えば対極と接続され、RE端子11RE、WE(pot)端子11WEpは例えば照合電極が接続される。
また、腐食測定機本体10は、図3に示すように、交流電源10Pと、電流測定器(電流計)10Aと、電位差測定器(電位差計)10Vと、を備えている。
交流電源10P、電流測定器(電流計)10Aは、CE端子11CEとWE(cur)端子11WEcの間に直列に配置されていて、電位差測定器(電位差計)10Vは、RE端子11REとWE(pot)端子11WEpの間に配置されている。
交流電源10Pは、CE端子11CEとWE(cur)端子11WEcに様々な周波数の交流電流を印加することが可能とされ、電流測定器(電流計)10Aは、CE端子11CEとWE(cur)端子11WEcの間を通過する電流を測定する。
電位差測定器(電位差計)10Vは、RE端子11REとWE(pot)端子11WEpの間に配置され、RE端子11REとWE(pot)端子11WEpの電位差を測定する構成とされている。かかる構成により、RE端子11REとWE(pot)端子11WEpにコンクリート構造物の電位と対極近傍略下側の電位との電位差を計測する。
、また、腐食測定機本体10は、それぞれの交流電流通電時に測定された電流値と電位差値によりインピーダンスの程度を求めて、求めたインピーダンスの程度によりコンクリート構造物C内の鉄筋の腐食箇所を検出する検出手段(不図示)を備えていることが好適である。
【0017】
また、腐食測定機本体10は、例えばPC(パソコン)やモバイルバッテリー等から給電することが好適であり、かかる構成により大掛かりな電源装置が不要であるとともに電源ノイズを減少させることが可能である。
そして、独自の電圧制御システムによって構造物に適切な電圧を印加することにより高精度で分極抵抗を取得可能に構成されている。
腐食測定機本体10の演算形式等については任意に設定することが可能であり、例えば鉄筋の電位とコンクリート構造物Cにおける電位を求めて鉄筋の腐食状態を判断する周知の種々の鉄筋腐食方法に適用することが可能である。
【0018】
また、腐食測定機本体10は、測定結果の解析により等価回路によるフィッティングによって分極抵抗を算出し、既往の手法によって被測定面積を特定することで単位面積当たりの腐食速度が算出可能に構成されていることが好適である。
なお、腐食測定機本体10は、鉄筋と直接接続可能な場合には、WE(pot)端子11WEp、WE(cur)端子11WEcを鉄筋に接続して3電極法による測定に使用してもよい。
【0019】
測定プローブ(電極)20は、図4に示すように、例えば電極22と、ケーシング24と、導電性粘着ゲル26と、を備え、重量が例えば60g(60×10-3kg)に設定されている。
電極22は、例えばアルミニウムにより形成され、照合電極である内側電極部(照合電極)22Aと、対極である外側電極部(対極)22Bと、を備えている。
内側電極部(照合電極)22Aは、先端が平坦な略円柱状に形成されている。
外側電極部(対極)22Bは、略円板状とされ中央部に円形貫通穴が形成され、この円形貫通穴には内側電極部(照合電極)22Aが径方向に間隔を空けて配置されている。
また、内側電極部(照合電極)22Aの先端面と外側電極部(対極)22Bとは面一に形成されている。
この実施形態では、外側電極部(対極)22Bは例えば外径が直径50mmの円形に設定されている。
また、内側電極部(照合電極)22Aの先端面と、外側電極部(対極)22Bの平坦面には後述する導電性粘着ゲル26が塗布される。
【0020】
ケーシング24は、略直方体に形成されている。そして、長手方向の一方の端面には電極22が配置され、他方の端面にはケーブル30を接続するための端子25が配置されている。また、ケーシング24の内部には、電極22と端子25とを接続する配線が設けられている。
そして、は電極22、端子25が配置されていない筐体側面は、作業時に把持可能なサイズに形成されている。
【0021】
端子25は、第1端子部25Aと、第2端子部25Bと、を備えている。
そして、例えば第1端子部25Aは内側電極部(照合電極)22Aと接続され、第2端子部25Bは外側電極部(対極)22Bと接続されている。
また、第1端子部25A、第2端子部25Bには、対応するケーブル30の端子が接続される。
【0022】
導電性粘着ゲル26は、電極22とコンクリート構造物の表面の間に配置され、コンクリート構造物内部に埋設された鉄筋の腐食速度を測定するために電極22からコンクリート構造物に通電するためのものである。
また、導電性粘着ゲル26は、測定プローブ20をコンクリート構造物の表面に接着、保持する粘着性(粘着力)を有している。ここで、粘着性とは、長期的には固化又は硬化するものであっても測定時間の範囲で粘着性が維持されて、接着および取り外しが可能であればよい。
また、測定プローブ20が60g(60×10-3kg)であり、測定時間が例えば15分(余裕を含めて例えば20分)である場合に、導電性粘着ゲル26は、例えば電極20をコンクリート構造物に接着した後例えば20分経過時の引張強度Tは、
電極が直径50mmの円形であるので、機接続面積(接着面積)は(πx25x25)(mm)であるので、
強度T(N/mm)≧9.8・(W(kg)/S(mm))
9.8×60×10-3/(接続面積)=9.8×60×10-3/(πx25x25)=0.3×10-3(N/mm
に設定することが好適である。
【0023】
次に、図5図6を参照して、導電性粘着ゲル26について説明する。
図5は導電性粘着ゲルの生成(製造)方法の一例を説明するフローチャートであり、図6は第1実施形態に係る導電性粘着ゲルの一例を説明する図(写真)である。
導電性粘着ゲル26は、例えば支持電解質水溶液である3.3mol/L塩化カリウム(KCl)水溶液を吸水樹脂に吸収させて混錬して生成されている。
【0024】
以下、図5を参照して、導電性粘着ゲル26の生成(製造)方法について説明する。
導電性粘着ゲル26は、図5に示すように、例えば「塩化カリウム(KCl)水溶液(支持電解質水溶液)、ゲル化剤の準備」(S1)、「塩化カリウム(KCl)水溶液にゲル化剤を添加」(S2)、「ゲル化剤を添加した塩化カリウム(KCl)水溶液(支持電解質水溶液)を撹拌、混錬」(S3)を経ることにより「導電性粘着ゲルが生成」(S4)される。
【0025】
(1)塩化カリウム(KCl)水溶液(支持電解質水溶液)、ゲル化剤を準備(S1)
塩化カリウム(KCl)水溶液(支持電解質水溶液)およびゲル化剤を準備する。
支持電解質水溶液としては、例えば3.3mol/L塩化カリウム(KCl)水溶液が好適である。
ゲル化剤としては、実用的な接着力が確保可能な範囲で任意に適用してもよく、一般的に吸水性樹脂は塩分を含有する水溶液は吸水しにくくなるが、耐塩性を有していて塩化カリウム(KCl)水溶液(支持電解質水溶液)を充分に吸水でき、ダマ(ぶつぶつのかたまり、固形物)が形成されにくいことが望ましく、例えば変性アクリル系架橋重合体を含有する吸水剤を適用することが好適である。
なお、支持電解質水溶液に使用する電解質の種類および濃度については任意に設定してもよい。
【0026】
また、例えば耐塩性吸水樹脂(例えば、アクアリックCS-8S(登録商標、株式会社日本触媒製)を適用すると人工海水における吸水量が一般的な吸水剤に比較して約1.5倍と充分な吸水性が確保される点で好適である。
アクアリックCS-8Sは、例えば平均粒子径が約15μmに形成されていて平均粒子径が約100μmのアクアリックCS-8HMに比較するとダマは形成されやすいが強い接着力(粘着性)が確保可能であり、接着に関して有害な大きさのダマは形成されにくい。
【0027】
(2)塩化カリウム(KCl)(支持電解質水溶液)にゲル化剤を添加(S2)
次に、塩化カリウム(KCl)水溶液(支持電解質水溶液)にゲル化剤を添加する。
添加量については、必要な接着強度を確認したうえで任意に設定してもよく、この実施形態においては、例えば100gの3.3mol/Lの塩化カリウム(KCl)水溶液(支持電解質水溶液)に対してアクアリックCS-8S(登録商標))15gを添加した。
【0028】
(3)ゲル化剤を添加した塩化カリウム(KCl)水溶液(支持電解質水溶液)を撹拌、混錬する(S3)。
ゲル化剤を添加した電塩化カリウム(KCl)水溶液(支持電解質水溶液)を撹拌、混錬してダマが生じないように粘着性を生じさせる。
なお、撹拌は人手により行ってもよいし、ミキサーにより行ってもよい。
【0029】
(4)導電性粘着ゲルが生成(S4)
上記S1~S3を実施することで導電性粘着ゲルが生成される。
【0030】
上記製造方法により生成された導電性粘着ゲル26は、図6に示すように、例えば工作や事務作業で用いられるでんぷん糊のような流動性(粘性)を有していて、電極22がコンクリート構造物22の表面と密着するのに支障となるダマが含まれていないものとすることができる。
そして、例えばコンクリート構造物Cの表面に接着した後に少なくとも測定作業が終了するまで(例えば約15分)の間、粘着性が維持され測定プローブ20をコンクリート構造物Cの外壁面に粘着性によって接着、保持することが可能に設定されている。
【0031】
また、導電性粘着ゲル26は、測定する前に電極22の表面に略平坦に塗布される。なお、平坦とは、電極22がコンクリート構造物Cに押圧された際に導電性粘着ゲル26が圧縮され変形することで電極22が導電性粘着ゲル26を挟んでコンクリート構造物Cの表面と通電可能な程度に対向できればよい。
また、導電性粘着ゲル26の厚さは、コンクリート構造物Cの表面に凹凸がある場合には導電性粘着ゲル26が凹部に入り込んで電極22表面がコンクリート構造物Cと略平行に対向可能であることが好適である。
【0032】
次に、図7図8を参照して、アクアリックCS-8S(登録商標)を用いて導電性粘着ゲルを生成する際の好適な添加量について説明する。
添加量の確認においては、100gの3.3mol/Lの塩化カリウム(KCl)水溶液(支持電解質水溶液)にアクアリックCS-8S(登録商標))を添加し、アクアリックCS-8S(登録商標))に塩化カリウム(KCl)水溶液(支持電解質水溶液)を撹拌して吸水させて混練して導電性粘着ゲルを生成したものの性状を確認するとともに接着強度を測定した。
アクアリックCS-8S(登録商標))を添加量は、5g、10g、15g、20g、25gとした。
【0033】
また、接着強度は、導電性粘着ゲルを塗布した直径φ50mmの電極板をコンクリートの水平な平坦面に接着した後、電極板を接着面に対して垂直方向(鉛直方向)に引張って接着面に対して垂直な方向の引張に対する接着強度を測定した。測定はそれぞれの導電性粘着ゲルに関して3回実施した。その結果、図7図8に示すような結果が得られた。
【0034】
以下、図7図8を参照して、導電性粘着ゲルの性状及び接着強度について説明する。図7は第1実施形態に係る導電性粘着ゲルの性状を説明する図であり、図8は導電性粘着ゲルの接着強度を説明する図である。
添加量5gで生成した導電性粘着ゲルは、とろみがあり液体に近く、図8に示すように、接着強度は約0.4×10-3(N/mm)であった。
また、添加量10gで生成した導電性粘着ゲルは、塗布しやすく、接着強度は約1.30~1.79×10-3(N/mm)であった。
また、添加量15gで生成した導電性粘着ゲルは、塗布しやすく、接着強度は約1.34~1.68×10-3(N/mm)であった。
また、添加量20gで生成した導電性粘着ゲルは、塗布しやすく、接着強度は約1.34~1.60×10-3(N/mm)であった。
また、添加量25gで生成した導電性粘着ゲルは、塗布しにくいが、接着強度は約1.08~1.20×10-3(N/mm)であった。
【0035】
例えば測定プローブの総重量を60gとすると、必要な接着強度は前述のように0.3×10-3(N/mm)であるので、添加量10g、15g、20gとすると接着強度が充分であることが確認できた。
また、添加量25gとした場合も実用レベルの接着強度が確保可能であることが確認できた。
一方、添加量5gは適さないことが判明した。
【0036】
次に、図9図11を参照して、第1実施形態に係るコンクリート内鉄筋腐食測定機1をコンクリート内鉄筋腐食測定方法(交流インピーダンス法)に適用する例について説明する。図9は第1実施形態に係るコンクリート内鉄筋腐食測定機1および導電性粘着ゲル26をコンクリート内鉄筋腐食測定方法(交流インピーダンス法)におけるインピーダンスの計測に適用する場合の例を説明する概念図であり、図10は第1実施形態に係る交流インピーダンス法における通電状態を説明する概念図である。また、図11は測定プローブの接着(装着)例を示す概念図である。交流インピーダンス法は、鉄筋の腐食状態を把握するためのコンクリート内鉄筋腐食測定方法の一つであり、導電性粘着ゲル26はコンクリート構造物Cの表面に通電可能に接着され、その後交流電流を鉄筋に通電することで鉄筋の腐食状態を判断する電位やインピーダンス等を取得するのに用いられる。
【0037】
第1実施形態に係るコンクリート内鉄筋腐食測定方法(交流インピーダンス法)では、コンクリート内鉄筋腐食測定機1により例えばコンクリート構造物C内の鉄筋Rにコンクリート構造物Cの表面から交流電流を印加して分極抵抗(インピーダンス)を算出して鉄筋の腐食速度を測定する。
なお、導電性粘着ゲル26は、コンクリート構造物Cの表面に導電性粘着ゲル26により測定プローブ20を装着して交流電流を印加する種々の測定方法に適用してもよい。
【0038】
図9図11に示したコンクリート内鉄筋腐食測定方法(交流インピーダンス法)は、コンクリート内鉄筋腐食測定機1により例えば様々な周波数の交流電流を印加してインピーダンスを測定して得られるインピーダンススペクトルを解析し、鉄筋腐食の指標となる分極抵抗を算出する。
【0039】
コンクリート中の鉄筋のインピーダンススペクトルを得るための手法としては、例えば3電極法等種々の手法が適用可能である。
なお、3電極法では測定機器を直接鉄筋に接続するので印加電流が全て鉄筋に流れて測定結果を定量的に取り扱い可能であるが測定に際してコンクリート構造物の一部をはつり出して鉄筋を露出させることが必要である。一方、本手法に係るコンクリート内鉄筋腐食測定方法では、鉄筋に流れる電流が不明確となり測定結果の解釈が難しくなるが、鉄筋を露出させる必要がなく非破壊での測定が可能である。
【0040】
以下、図9図10を参照して、コンクリート内鉄筋腐食測定方法の一例について説明する。
〔測定プローブ設置〕
まず、図9に示すように、測定プローブ20A、測定プローブ20B、測定プローブ20Cを鉄筋Rと対応するコンクリート構造物Cの表面上に配置する。
このとき、測定プローブ20A、測定プローブ20B、測定プローブ20Cは、相互にコンクリート構造物Cを通じて通電しないように互いに適切な間隔(例えば130cm以上)離して配置する。
また、コンクリート構造物Cは、測定プローブ20(20A、20B、20C)を接着する前に例えば15分以上湿らせることが望ましい。
【0041】
また、測定プローブ20A、測定プローブ20B、測定プローブ20Cを、図9図10に示すように、コンクリート内鉄筋腐食測定機1の測定器本体10に接続する。
具体的には、測定プローブ20Aを、CE端子11CE及びRE端子11REに接続する。このとき、図10に示すように、外側電極部(対極)22BはCE端子11CEと接続され、内側電極部(照合電極)22AはRE端子11REと接続される。
【0042】
また、測定プローブ20Bを、図9図10に示すように、RE端子11REと対応するWE(pot)端子WEに接続する。これにより測定プローブ20Bの内側電極部(照合電極)22Aは照合電極である測定プローブ20Aの内側電極部(照合電極)22Aと電位差測定器10Aを介して接続される。
【0043】
また、測定プローブ20Cを、図9図10に示すように、CE端子11CEと対応するWE(cur)端子11WEに接続する。これにより測定プローブ20Cの外側電極部(対極)22Bは測定プローブ20Aの外側電極部(対極)22Bと交流電源10P及び電流測定器10Aを介して接続される。
【0044】
なお、図9においては、鉄筋Rがコンクリート構造物Cの上面側(上面近傍)に埋設されている例を示したが、測定対象の鉄筋Rが例えば橋梁等の下面側(下面近傍)に埋設されている場合は、図11(A)に示すように、測定プローブ20をコンクリート構造物Cの下面側に接着する。
また、測定対象の鉄筋Rが例えば橋脚や堤防等の縦壁側面部(側面近傍)に埋設されている場合は、図11(B)に示すように、測定プローブ20をコンクリート構造物Cの側面に接着する。
【0045】
〔測定方法〕
以下、図10を参照して、本手法による分極抵抗測定について説明する。
図10において、符号Z1、Z2、Z3はそれぞれ測定プローブ20A、20B、20Cから鉄筋に到達するまでのインピーダンスであり、インピーダンスZ1、Z2、Z3は、それぞれの位置における導電性粘着ゲル26の抵抗及びコンクリートによる抵抗(以下、コンクリート抵抗という)R11、R21、R31と、鉄筋Rの表面の電気抵抗R12、R22、R32及びコンクリートと鉄筋界面のコンデンサーC1、C2、C3とにより構成される。
また、それぞれの測定プローブ20(20A、20B、20C)を十分に離れた位置に設置することで、コンクリート構造物Cの表面及びコンクリート構造物Cのかぶりのみを通過して直接的に流れる電流はなく、コンクリート構造物内部を通過する電流は全て鉄筋Rを経由する。
具体的には、測定プローブ20Aと測定プローブCの間では、測定プローブ20Aの外側電極部(対極)22B、コンクリート構造物Cの内部、鉄筋R、コンクリート構造物Cの内部、測定プローブ20Cの外側電極部(対極)22Bの経路を交流電流が通過する。
【0046】
以下、具体的な手順を説明する。
(1)測定プローブ20Aの内側電極部(照合電極)22Aと、測定プローブ20Bの内側電極部(照合電極)22Aの間に様々な周波数の交流電流を印加する。プローブ同士が十分に離れている場合、周波数に関わらず測定プローブ20Aから測定プローブ20Bには電流は全く流れない。ここで図10に示した×を付した破線矢印は電流が流れないことを示している。
その結果、測定プローブ20Bの内側電極部(照合電極)22Aと測定プローブ20Aの内側電極部(照合電極)22Aの電位差の変化量はインピーダンスZ1に印加される電位差と等しくなる。このとき、測定プローブ20Aと測定プローブ20Bの電位差が正弦波となるように測定プローブ20Aから出力を行い、その際に発生した電流を測定プローブ20Cでモニターすることで、インピーダンスZ1を求めることができる。
(2)次に、インピーダンスZ1の等価回路の中で、コンクリート-鉄筋界面はコンデンサーC1が電気抵抗R12と並列に存在しているので、高周波数領域ではコンクリート抵抗R11のみが計測され、低周波数領域ではコンクリート抵抗R11+電気抵抗R12のインピーダンスが計測される。したがって、様々な周波数でZ1を計測し,等価回路でフィッティングすることで、電気抵抗R12を求めることができる。
(3)次に、例えば、図9に示すかぶりCL、鉄筋Rの径、鉄筋間隔等を入力して分極抵抗および腐食速度を推定する。
健全な鉄筋では電気抵抗R12が抵抗が大きく,腐食が進行した鉄筋では電気抵抗R12では抵抗が小さくなる。
【0047】
以上のことから、分極抵抗測定では、測定プローブ20Aの内側電極部(照合電極)22Aから導電性粘着ゲル26を介して照合電極における電圧値に基づいてZ1にかかる電位差を測定し、測定プローブ20Aの外側電極部(対極)22Bから導電性粘着ゲル26を介してコンクリート構造物Cに通電して対極における電流値に基づいてZ1に流れる電流を測定し,それらの比を取ることでインピーダンスZ1を算出し、Z1を解析することで電気抵抗R12を算出して鉄筋Rの腐食状況を判断する。
【0048】
なお、腐食状態の推定手法に関しては任意の手法を用いてもよく、電気抵抗R12を算出する際には、例えば測定対象鉄筋のコンクリートかぶり、測定対象鉄筋の径、鉄筋の間隔を参照して算出すると好適である。
い。
なお、上記(1)、(2)は通常,高周波数から測定される。
なお、測定プローブ20を移動させる(位置を変更する)ことで複数の測定箇所で鉄筋Rの腐食状況を測定してもよい。
【0049】
第1実施形態に係るコンクリート内鉄筋腐食測定方法、導電性粘着ゲル26、測定プローブ20によれば、導電性粘着ゲル26によって測定プローブ20をコンクリート構造物Cに接着、保持させるので、コンクリート構造物Cに測定プローブ20を安定して接着、保持させることができ、測定作業における人手による保持が必要なく作業負担を軽減することができる。
また、測定プローブ20が粘着性によってコンクリート構造物Cに接着されているので、測定作業終了後に測定プローブ20を容易に取り外すことができる。
【0050】
また、測定プローブ20が粘着性によりコンクリート構造物Cに接着、保持され測定プローブ20を支持部材(剛体)や人手によりコンクリート構造物Cに支持及び保持が必要なく、腐食測定機本体10とケーブル30により接続されて測定プローブ20の位置の自由度が向上するので、例えば海面や河川水面上で揺動する船舶からでも橋梁下面、側面近傍に埋設された鉄筋Rの腐食状況を安定して測定することができる。
【0051】
また、導電性粘着ゲル(導電性粘着ゲル)26がコンクリート構造物Cの凹凸に合わせて変形可能であるので、電極22がコンクリート構造物Cに密着されて電気抵抗が低下するので効率的に通電することができる。
また、測定プローブ20をコンクリート構造物Cに安定して保持可能であるので、測定精度を向上することができる。
【0052】
次に、図12を参照して、第1実施形態の変形例に係る3電極法によるコンクリート内鉄筋腐食測定方法について説明する。図12は、第1実施形態の変形例に係る3電極法に適用した接続状態を説明する概念図である。
3電極法によるコンクリート内鉄筋腐食測定は、図12に示すように、腐食測定機本体10のWE(pot)端子WEp及びWE(cur)端子WEcをコンクリート構造物Cから露出させた鉄筋Rに直接的に接続する。鉄筋Rはコンクリート構造物Cを予めはつる(除去する)等により露出させておく。
【0053】
腐食測定機本体10は、図12に示すように、RE端子11REとWE(pot)端子WEpは、電位差測定器を介して接続され、CE端子11CEとWE(cur)端子WEcは、交流電源器10P及び電流測定器10Aを介して接続されている。
そして、測定プローブ20A(20)を測定対象の鉄筋Rと対応する位置でコンクリート構造物Cの表面(測定面)に配置する。このとき、測定プローブ20Aの内側電極部(照合極)22A及び外側電極部(対極)22Bは、導電性粘着ゲル26を介してコンクリート構造物Cの表面に接続する。
また、測定プローブ20A(20)の内側電極部(照合電極)22AはRE端子11REに接続し、外側電極部(対極)22BがCE端子11CEと接続する。
【0054】
そして、CE端子11CEとWE(cur)端子WEcの間に、例えば0.01Hz~100Hz範囲の低周波領域の交流電流及び高周波領域の交流電流を連続的に印加して、それぞれの周波数の交流電流を取得する。
次いで、前記CE 端子とWE(cur)端子間に低周波電流あるいは高周波交流電流を通電している状態で、RE端子11REとWE(pot)端子WEp端子間の電位差を測定する。RE端子11REとWE(cur)端子間の電位差は、電位差測定器10Vによって測定され、測定された電位差は測定部である測定プローブ20A付近の電位データとなる。
ここで、電位データの測定であるが、鉄筋Rの電位を基準として、コンクリート構造物Cの測定部、すなわち測定プローブ20Aの内側電極部(照合極)22Aが接しているコンクリート構造物C表面の電位との電位差を測定することとなる。
【0055】
そして、測定により取得した電位差を印加交流電流で除することにより、(電位差/印加交流電流)で示されるインピーダンスを取得し、これを各周波数により行って、例えば横軸を実部(Ω)、縦軸を虚部(Ω)としたブロック図にプロットしてインピーダンススペクトルを取得する。このように作成したインピーダンススペクトルを解析することにより鉄筋の腐食速度を判定することができる。
【0056】
第1実施形態の変形例に係るコンクリート内鉄筋腐食測定方法によれば、コンクリート構造物Cに測定プローブ20を安定して密着・接着、保持させるので測定作業における作業負担を軽減することができる。
また、例えば海面や河川水面上の船舶からでも橋梁下面、側面近傍の鉄筋Rの腐食状況を安定して測定することができる。
【0057】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることなく種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態においては、導電性粘着ゲル26を生成するために、支持電解質水溶液として3.3mol/L塩化カリウム(KCl)水溶液を用いる場合について説明したが、3.3mol/L塩化カリウム(KCl)水溶液に限定されず、コンクリート内鉄筋腐食測定方法に適用可能な水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、硫酸ナトリウムなど任意の支持電解質水溶液を適用してもよく、濃度についても3.33.3mol/Lに限定されることなく任意に設定してもよい。
【0058】
また、上記実施形態においては、導電性粘着ゲル26を生成するための吸水剤として、変性アクリル系架橋重合体を含有するアクアリックCS-8S(登録商標、株式会社日本触媒製)を適用する場合について説明したが、アクアリックCS-8S(登録商標、株式会社日本触媒製)に限定されることなく、変性アクリル系架橋重合体を含有する他の吸水剤や変性アクリル系架橋重合体を含有しない他の吸水剤を用いてもよい。
【0059】
また、上記実施形態においては、導電性粘着ゲル26、測定用プローブ20を交流インピーダンス法であるコンクリート内鉄筋腐食測定方法に適用する場合について説明したが、これら測定法に限定されず導電性粘着ゲル26を介してコンクリート構造部Cに交流電流を印加して内部の鉄筋Rの腐食状態を測定する他のコンクリート内鉄筋腐食測定方法、例えば、鉄筋に直接端子を接続し、コンクリート表面に照合電極を配置して、鉄筋Rとコンクリート表面までの電位(自然電位)を測定して腐食の判定を行う手法における照合電極に導電性粘着ゲル26を適用してもよい。
【符号の説明】
【0060】
1 コンクリート内鉄筋腐食測定機
10 腐食測定機本体
20 測定プローブ
22 電極
22A 内側電極部(照合電極)
22B 外側電極部(対極)
24 ケーシング
26 導電性粘着ゲル
30 ケーブル
【要約】
【課題】本発明は、コンクリート構造物内部の鉄筋の腐食状況を測定するのに際して、測定プローブを安定して保持するとともに測定作業における作業負担が軽減可能な技術を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、電極を有する測定プローブ20を電極に塗布された導電性粘着ゲルによってコンクリート構造物Cに接着するとともに前記コンクリート構造物Cに保持させ、前記電極から前記コンクリート構造物C内の鉄筋に通電することにより前記コンクリート構造物C内の鉄筋の腐食状態を測定する、ことを特徴とするコンクリート内鉄筋腐食測定方法である。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12