(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-22
(45)【発行日】2025-05-01
(54)【発明の名称】ROCK阻害剤およびSyk阻害剤の利用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/519 20060101AFI20250423BHJP
A61K 31/5383 20060101ALI20250423BHJP
A61K 31/4409 20060101ALI20250423BHJP
A61K 31/47 20060101ALI20250423BHJP
A61K 31/551 20060101ALI20250423BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20250423BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20250423BHJP
A61K 45/06 20060101ALN20250423BHJP
【FI】
A61K31/519
A61K31/5383
A61K31/4409
A61K31/47
A61K31/551
A61P25/28
A61P43/00 121
A61P43/00 111
A61K45/06
(21)【出願番号】P 2020218869
(22)【出願日】2020-12-28
【審査請求日】2023-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】濱野 忠則
【審査官】星 浩臣
(56)【参考文献】
【文献】HAMANO, T. et al.,Rho-kinase ROCK inhibitors reduce oligomeric tau protein,Neurobiol Aging.,2020年05月,89:41-54,<doi: 10.1016/j.neurobiolaging.2019.12.009>
【文献】PARIS, D. et al.,The spleen tyrosine kinase (Syk) regulates Alzheimer amyloid-β production and Tau hyperphosphorylation,J Biol Chem.,2014年,289(49):33927-44,<doi: 10.1074/jbc.M114.608091>
【文献】SCHWEIG, J.E. et al.,Spleen tyrosine kinase (SYK) blocks autophagic Tau degradation in vitro and in vivo,J Biol Chem.,2019年,294(36):13378-13395,<doi: 10.1074/jbc.RA119.008033>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ROCK阻害剤およびSyk阻害剤を有効成分として含
み、
上記ROCK阻害剤は、Y-276732、H-1152、ファスジル、およびピタバスタチンから選択される1種類以上であり、
上記Syk阻害剤は、BAY61-3606、ホスタマチニブ、およびR406から選択される1種類以上である、
タウタンパク質の切断阻害剤。
【請求項2】
上記ROCK阻害剤と上記Syk阻害剤とのモル比(ROCK阻害剤/Syk阻害剤)が、1/0.5~1/1である、請求項1に記載のタウタンパク質の切断阻害剤。
【請求項3】
ROCK阻害剤およびSyk阻害剤を有効成分として含
み、
上記ROCK阻害剤は、Y-276732、H-1152、ファスジル、およびピタバスタチンから選択される1種類以上であり、
上記Syk阻害剤は、BAY61-3606、ホスタマチニブ、およびR406から選択される1種類以上である、
タウタンパク質のリン酸化阻害剤。
【請求項4】
上記ROCK阻害剤と上記Syk阻害剤とのモル比(ROCK阻害剤/Syk阻害剤)が、1/0.5~1/1である、請求項3に記載のタウタンパク質のリン酸化阻害剤。
【請求項5】
ROCK阻害剤およびSyk阻害剤を有効成分として含
み、
上記ROCK阻害剤は、Y-276732、H-1152、ファスジル、およびピタバスタチンから選択される1種類以上であり、
上記Syk阻害剤は、BAY61-3606、ホスタマチニブ、およびR406から選択される1種類以上である、
オートファジーの活性化剤。
【請求項6】
上記ROCK阻害剤と上記Syk阻害剤とのモル比(ROCK阻害剤/Syk阻害剤)が、1/0.5~1/1である、請求項5に記載のオートファジーの活性化剤。
【請求項7】
請求項1若しくは2に記載のタウタンパク質の切断阻害剤、請求項3若しくは4に記載のタウタンパク質のリン酸化阻害剤、または、請求項5若しくは6に記載のオートファジーの活性化剤を有効成分として含む、アルツハイマー病の治療薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ROCK阻害剤およびSyk阻害剤の利用に関する。
【背景技術】
【0002】
低分子Gタンパク質であるRhoキナーゼ(ROCK:Rho-associated coild coil protein kinase)は、分子量約160kDaのセリンスレオニンリン酸化酵素である。脳内のROCKは、加齢および/または喫煙によって増加することが知られている。ROCKの活性を阻害するROCK阻害剤は、血管痙攣後のバラクノイド出血の予防、および緑内障の治療に使用されている。それに加えて、ROCK阻害剤は、タウタンパク質のオリゴマーの形成を抑制すること、タウタンパク質のリン酸化を抑制すること、タウタンパク質の分解に対して影響を与えること、および、オートファジーを活性化させることが知られている(例えば、非特許文献1)。
【0003】
タウタンパク質は、アルツハイマー病に関係することが知られている。アルツハイマー病の病理所見として、老人斑(SP:senile plaque)および神経原繊維変化(NFT:neurofibrillary tangle)が挙げられる。NFTが発生する主な原因は、タウタンパク質である。タウタンパク質は、微小管に結合して、微小管を安定化させる働きを有する。タウタンパク質がリン酸化されると、当該タウタンパクは、微小管から遊離するとともに、重合してオリゴマーを形成し、当該オリゴマーがNFTを形成する。NFTが形成されると、神経細胞死が起こり、その結果、アルツハイマー病が発症する。タウタンパク質のリン酸化は、特定のリン酸化酵素によって行われる。また、タウタンパク質の重合は、タウタンパク質のC末端が切断されることによって促進される。
【0004】
脾臓由来チロシンキナーゼ(Syk:Spleen tyrosine kinase)は、非受容体型チロシンキナーゼである。Sykの活性を阻害するSyk阻害剤は、アレルギー性鼻炎、間接リウマチ、免疫性血小板減少症、IgA腎症、および自己免疫性溶血性貧血に対する治療効果が示唆されている。また、Sykは、タウタンパク質のリン酸化酵素を阻害するグリコーゲンシンターゼキナーゼ3βを活性化させることも示唆されている(例えば、非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Hamano et al. "Rho-kinase ROCK inhibitors reduce oligomeric tau protein" Neurobiology of Aging 89(2020) 41-54
【文献】Paris D., "The spleen tyrosine kinase(Syk) regulates Alzheimer amyloid-beta production and Tau hyperphosphorylation" J. Biol. Chem., 2014 Dec, 5;289(49), 33927-33944
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したROCK阻害剤は、タウタンパク質の切断阻害、タウタンパク質のリン酸化阻害、およびオートファジーの活性化といった作用効果を有するが、これらの作用効果が更に高い薬剤の開発が求められている。
【0007】
本発明の一態様は、上記を鑑みなされたものであり、新たな、タウタンパク質の切断阻害剤、タウタンパク質のリン酸化阻害剤、および、オートファジーの活性化剤、並びに、これらを用いたアルツハイマー病の治療薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討した結果、ROCK阻害剤とSyk阻害剤とを併用することで、各阻害剤を単独で用いた場合よりも、はるかに優れた上記治療効果を発揮することを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の構成を含む。
<1>ROCK阻害剤およびSyk阻害剤を有効成分として含む、タウタンパク質の切断阻害剤。
<2>上記ROCK阻害剤と上記Syk阻害剤とのモル比(ROCK阻害剤/Syk阻害剤)が、1/0.5~1/1である、<1>に記載のタウタンパク質の切断阻害剤。
<3>ROCK阻害剤およびSyk阻害剤を有効成分として含む、タウタンパク質のリン酸化阻害剤。
<4>上記ROCK阻害剤と上記Syk阻害剤とのモル比(ROCK阻害剤/Syk阻害剤)が、1/0.5~1/1である、<3>に記載のタウタンパク質のリン酸化阻害剤。
<5>ROCK阻害剤およびSyk阻害剤を有効成分として含む、オートファジーの活性化剤。
<6>上記ROCK阻害剤と上記Syk阻害剤とのモル比(ROCK阻害剤/Syk阻害剤)が、1/0.5~1/0.5である、<5>に記載のオートファジーの活性化剤。
<7><1>若しくは<2>に記載のタウタンパク質の切断阻害剤、<3>若しくは<4>に記載のタウタンパク質のリン酸化阻害剤、または、<5>若しくは<6>に記載のオートファジーの活性化剤を有効成分として含む、アルツハイマー病の治療薬。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、従来よりも優れた効果(タウタンパク質の切断阻害効果、タウタンパク質のリン酸化阻害効果、オートファジーの活性化効果、アルツハイマー病の治療効果)を有する薬剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】ROCK阻害剤、およびSyk阻害剤を使用した場合の、カスパーゼ切断タウタンパク質の発現量を示したウエスタンブロットの結果、およびその結果を数値化したグラフである。
【
図2】ROCK阻害剤、およびSyk阻害剤を使用した場合の、リン酸化タウタンパク質の発現量を示したウエスタンブロットの結果、およびその結果を数値化したグラフである。
【
図3】ROCK阻害剤、およびSyk阻害剤を使用した場合の、オートファジーの活性化のマーカータンパク質であるLC3IおよびLC3IIの発現量を示したウエスタンブロットの結果、およびその結果を数値化したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態について説明すると以下の通りであるが、本発明はこれに限定されない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態および実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態および実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。本明細書中、数値範囲に関して「A~B」と記載した場合、当該記載は「A以上B以下」を意図する。
【0012】
〔1.タウタンパク質の切断阻害剤〕
本発明の一実施形態に係るタウタンパク質の切断阻害剤(以下、本切断阻害剤とも称する。)は、ROCK阻害剤およびSyk阻害剤を有効成分として含む。
【0013】
上記構成であれば、ROCK阻害剤とSyk阻害剤とを併用することによって、後述する実施例に示すように、各々を単独で用いた場合よりも、タウタンパク質の切断を阻害する効果が著しく強くなる。
【0014】
上記ROCK阻害剤は、上記ROCKを阻害可能であれば特に限定されず、ROCK阻害剤として知られている公知の薬剤を用いることができる。上記ROCK阻害剤としては、例えば、Y-276732((R)-(+)-trans-N-(4-Pyridyl)-4-(1-aminoethyl)-cyclohexanecarboxamide.dihydrochloride)、H-1152(4-Methyl-5-[[(2S)-2-methyl-1,4-diazepan-1-yl]sulfonyl]isoquinoline dihydrochloride)、ファスジル(hexahydro-1-(5-isoquinolinesulfonyl)-1H-1,4-diazepinemonohydrochloride hemihydrate)、ピタバスタチンから選択される1種類以上を用いてもよい。上記ROCK阻害剤は、市販品を用いてもよい。
【0015】
上記Syk阻害剤は、Sykの活性を阻害可能であれば特に限定されず、Syk阻害剤として知られている公知の薬剤を用いることができる。上記Syk阻害剤としては、例えば、BAY61-3606(2-[[7-(3,4-Dimethoxyphenyl)imidazo[1,2-c]pyrimidin-5-yl]amino]pyridine-3-carboxamide hydrochloride)、ホスタマチニブ、R406(6-(5-fluoro-2-(3,4,5-trimethoxyphenylamino)pyrimidin-4-ylamino)-2,2-dimethyl-2H-pyrido[3,2-b][1,4]oxazin-3(4H)-one)から選択される1種類以上を用いてもよい。上記Syk阻害剤は、市販品を用いてもよい。
【0016】
上記ROCK阻害剤とSyk阻害剤との組み合わせは、特に限定されない。また、本切断阻害剤に含まれる「ROCK阻害剤」に該当する化合物の種類の数と、「Syk阻害剤」に該当する化合物の種類の数とは、同じであってもよいし、同じでなくてもよい。本切断阻害剤は、有効成分として、例えば、Y-276732と、H-1152と、ホスタマチニブとを含んでいてもよいし、Y-276732と、ホスタマチニブと、R406とを含んでいてもよい。カスパーゼ切断タウの減少、およびリン酸化タウの減少という有利な効果が得られるという観点から、ROCK阻害剤としてファスジルを用い、Syk阻害剤としてBAY61-3606を用いることが好ましい。
【0017】
本切断阻害剤が、タウタンパク質の切断を阻害する作用機序は特に限定されず、例えば、ROCKおよびSykの活性を阻害することによって、(i)タウタンパク質を切断する酵素の活性を阻害してもよいし、(ii)タウタンパク質の切断を阻害する酵素を活性化してもよい。
【0018】
上記タウタンパク質を切断する酵素は、タウタンパク質のC末端近傍のアミノ酸配列を切断することによって、タウタンパク質からC末端のアミノ酸配列を切除する酵素であることが好ましい。タウタンパク質のC末端近傍のアミノ酸配列にはタウタンパク質の凝集(タウタンパク質の重合、タウオリゴマーの形成)を抑制する効果がある。そのため、タウタンパク質からC末端のアミノ酸配列を切除すると、タウタンパク質の凝集が促進される。一方、タウタンパク質のC末端近傍のアミノ酸配列を切断する酵素の活性を阻害すれば、タウタンパク質の凝集が抑制され、その結果、NFTの形成を抑制することができる。
【0019】
上記タウタンパク質のC末端近傍のアミノ酸配列を切断する酵素としては、例えば、カスパーゼ等が挙げられる。一方、上記タウタンパク質のC末端近傍のアミノ酸配列を切断する酵素の活性を阻害するタンパク質としては、Z-VAD-FMKが挙げられる。本阻害剤が効果的にタウタンパク質の切断を阻害可能であるという観点から、タウタンパク質のC末端近傍のアミノ酸配列を切断する酵素は、カスパーゼであることが好ましい。
【0020】
上記カスパーゼは、タウタンパク質の切断を行うカスパーゼであれば特に限定されない。このようなカスパーゼとしては、例えば、カスパーゼ2、カスパーゼ3、カスパーゼ7等が挙げられる。本切断阻害剤が効果的にタウタンパク質の切断を阻害可能であるという観点から、上記カスパーゼは、カスパーゼ3であることが好ましい。
【0021】
本切断阻害剤に含まれる有効成分(具体的に、ROCK阻害剤およびSyk阻害剤)の量は、特に限定されないが、本切断阻害剤全体を100重量%とした場合に、0.001重量%~100重量%であってもよく、0.01重量%~100重量%であってもよく、0.1重量%~100重量%であってもよく、0.1重量%~95重量%であってもよく、0.1重量%~90重量%であってもよく、0.1重量%~80重量%であってもよく、0.1重量%~70重量%であってもよく、0.1重量%~60重量%であってもよく、0.1重量%~50重量%であってもよく、0.1重量%~40重量%であってもよく、0.1重量%~30重量%であってもよく、0.1重量%~20重量%であってもよく、0.1重量%~10重量%であってもよい。
【0022】
本切断阻害剤に含まれる上記ROCK阻害剤と上記Syk阻害剤とのモル比(ROCK阻害剤/Syk阻害剤)は、好ましくは1/0.5~1/1であり、より好ましくは1/0.7~1/1であり、さらに好ましくは1/0.8~1/1であり、最も好ましくは1/0.9~1/1である。当該構成であれば、本切断阻害剤が有する上記タウタンパク質の切断を阻害する効果がより向上する。
【0023】
本切断阻害剤は、有効成分以外の成分を含んでいてもよい。当該有効成分以外の成分は、薬学的に許容される成分であればよく、例えば、緩衝剤、pH調整剤、等張化剤、防腐剤、賦形剤、担体、希釈剤、溶媒、可溶化剤、安定剤、抗酸化剤、高分子量重合体、充填剤、結合剤、界面活性剤、および、安定化剤などを挙げることができる。
【0024】
上記緩衝剤としては、リン酸、リン酸塩、ホウ酸、ホウ酸塩、クエン酸、クエン酸塩、酢酸、酢酸塩、炭酸、炭酸塩、酒石酸、酒石酸塩、ε-アミノカプロン酸、および、トロメタモールなどが挙げられる。上記リン酸塩としては、リン酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸二水素カリウム、およびリン酸水素二カリウムなどが挙げられる。上記ホウ酸塩としては、ホウ砂、ホウ酸ナトリウム、および、ホウ酸カリウムなどが挙げられる。上記クエン酸塩としては、クエン酸ナトリウム、クエン酸二ナトリウム、およびクエン酸三ナトリウムなどが挙げられる。上記酢酸塩としては、酢酸ナトリウム、および、酢酸カリウムなどが挙げられる。上記炭酸塩としては、炭酸ナトリウム、および、炭酸水素ナトリウムなどが挙げられる。上記酒石酸塩としては、酒石酸ナトリウム、および、酒石酸カリウムなどが挙げられる。
【0025】
上記pH調整剤としては、塩酸、リン酸、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、および、水酸化カリウムなどが挙げられる。
【0026】
上記等張化剤としては、イオン性等張化剤(塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムなど)、および、非イオン性等張化剤(グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、マンニトールなど)が挙げられる。
【0027】
上記防腐剤としては、ベンザルコニウム塩化物、ベンザルコニウム臭化物、ベンゼトニウム塩化物、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル、および、クロロブタノールなどが挙げられる。
【0028】
上記抗酸化剤としては、アスコルビン酸、トコフェノール、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、エリソルビン酸ナトリウム、没食子酸プロピル、および、亜硫酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0029】
上記高分子量重合体としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、カルボキシメチルエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、および、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。
【0030】
上記担体、賦形剤および希釈剤としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、澱粉、アカシアゴム、アルジネート、ゼラチン、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、ステアリン酸マグネシウムおよび鉱物油等が挙げられる。
【0031】
上記溶媒、および可溶化剤としては、グリセリン、DMSO、DMA、N-メチルピロリドン、エタノール、ベンジルアルコール、イソプロピルアルコール、各種分子量のポリエチレングリコール(PEG300およびPEG400等)、およびプロピレングリコール等が挙げられる。
【0032】
上記界面活性剤としては、非イオン性、アニオン性、カチオン性、双性イオン性、ポリマー性、および両性の界面活性剤が挙げられる。
【0033】
上記安定化剤としては、脂肪酸、脂肪アルコール、アルコール、長鎖脂肪酸エステル、長鎖エーテル、脂肪酸の親水性の誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルエーテル、ポリビニルアルコール、炭化水素、疎水性のポリマー、吸湿性のポリマー、およびアミド類似物が挙げられる。
【0034】
本切断阻害剤に含まれる有効成分以外の成分の量は、特に限定されないが、好ましくは、本切断阻害剤全体を100重量%とした場合に、0重量%~99.999重量%であってもよく、0重量%~99.99重量%であってもよく、0重量%~99.9重量%であってもよく、5重量%~99.9重量%であってもよく、10重量%~99.9重量%であってもよく、20重量%~99.9重量%であってもよく、30重量%~99.9重量%であってもよく、40重量%~99.9重量%であってもよく、50重量%~99.9重量%であってもよく、60重量%~99.9重量%であってもよく、70重量%~99.9重量%であってもよく、80重量%~99.9重量%であってもよく、90重量%~99.9重量%であってもよい。
【0035】
本切断阻害剤は、被験体に対して投与され得る。上記被験体は、ヒトであってもよく、ヒト以外の被験体(例えば、動物)であってもよい。上記ヒト以外の動物の例としては、ヒト以外の哺乳類(ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、マウス、ラット等)が挙げられる。また、本切断阻害剤は非生物(例えば、人工的に構築されたタウタンパク質の発現システム)に対して投与されるものであってもよい。
【0036】
本切断阻害剤は、任意の投与経路によって被験体に投与され得る。上記投与経路の例としては、経口投与、非経口投与、経皮投与、経粘膜投与、経静脈投与が挙げられる。したがって、上記切断阻害剤の剤型は、内服薬、外用薬、注射剤、坐剤、吸入剤、点眼剤等であり得る。
【0037】
本切断阻害剤は、血管内に投与されてもよく、より具体的に静脈内へ投与されてもよい。血管内への投与の方法としては、点滴によって投与する方法、注射器によって投与する方法が挙げられる。
【0038】
本切断阻害剤を投与する場合、所望の効果が得られるならば、投与間隔に制限はない。上記投与間隔は、例えば、1時間~6ヶ月に1回、1時間~1ヶ月に1回、1時間~10日に1回、1時間~5日に1回、1時間~1日に1回、1時間~12時間に1回、1時間~6時間に1回、または、1時間~2時間に1回である。
【0039】
また、投与間隔を設けずに、継続的に投与してもよい。投与期間は、例えば、1時間~6ヶ月、1時間~1ヶ月、1時間~10日、1時間~5日、1時間~1日、1時間~12時間、1時間~6時間、または、1時間~2時間である。
【0040】
〔2.タウタンパク質のリン酸化阻害剤〕
本発明の一実施形態に係るタウタンパク質のリン酸化阻害剤(以下、本リン酸化阻害剤とも称する)は、有効成分としてROCK阻害剤およびSyk阻害剤を含有する。なお、ROCK阻害剤およびSyk阻害剤について、上記〔1.タウタンパク質の切断阻害剤〕において既に説明した事項については説明を省略する。
【0041】
上記構成であれば、ROCK阻害剤とSyk阻害剤とを併用することによって、後述する実施例に示すように、各々を単独で用いた場合よりも、タウタンパク質のリン酸化を阻害する効果が著しく強くなる。
【0042】
本リン酸化阻害剤が、タウタンパク質のリン酸化を阻害する作用機序は特に限定されず、例えば、ROCKおよびSykの活性を阻害することによって、(i)タウタンパク質をリン酸化する酵素を阻害してもよいし、(ii)タウタンパク質のリン酸化を阻害する酵素を活性化させてもよい。
【0043】
タウタンパク質がリン酸化されると、タウオリゴマーが形成されやすくなる。一方、タウタンパク質がリン酸化されなければ、タウオリゴマーは形成されにくい。したがって、タウタンパク質のリン酸化を阻害することで、タウタンパク質の凝集(タウタンパク質の重合、タウオリゴマーの形成)が抑制され、その結果、NFTの形成を抑制することができる。
【0044】
上記タウタンパク質をリン酸化する酵素としては、例えば、活性化主要タウキナーゼ等が挙げられる。上記活性化主要タウキナーゼとしては、例えば、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3β、サイクリン依存性キナーゼ5、P38 mitogen-activated protein kinase(P38MAPK)、およびStress-activated protein kinase (SAPK)/Jun amino terminal kinase (JNK)等が挙げられる。一方、タウタンパク質のリン酸化を阻害する酵素としては、例えば、不活性化タウホスファターゼが挙げられる。上記不活性化タウホスファターゼとしては、例えば、プロテインホスファターゼ2A(PP2A)、プロテインホスファターゼ2B(PP2B)、およびプロテインホスファターゼ1(PP1)等が挙げられる。
【0045】
本リン酸化阻害剤に含まれる有効成分(具体的に、ROCK阻害剤およびSyk阻害剤)の量については、〔1.タウタンパク質の切断阻害剤〕と同様の値を適用することができる。
【0046】
本リン酸化阻害剤に含まれる上記ROCK阻害剤と上記Syk阻害剤のモル比(ROCk阻害剤/Syk阻害剤)は、好ましくは1/0.5~1/1であり、より好ましくは1/0.7~1/1であり、さらに好ましくは1/0.8~1/1であり、最も好ましくは1/0.9~1/1である。当該構成であれば、本リン酸化阻害剤が有する上記タウタンパク質のリン酸化を阻害する効果がより向上する。
【0047】
本リン酸化阻害剤は、上記〔1.タウタンパク質の切断阻害剤〕において記載した有効成分以外の成分を、上記〔1.タウタンパク質の切断阻害剤〕にて記載した濃度にて含有してもよい。
【0048】
本リン酸化阻害剤の投与対象、投与経路、および、投与間隔は、上記〔1.タウタンパク質の切断阻害剤〕において記載した投与対象(被験体)、投与経路、および、投与間隔と同じであり得る。これらについては既に説明したので、ここではその説明を省略する。
【0049】
〔3.オートファジーの活性化剤〕
本発明の一実施形態に係るオートファジーの活性化剤(以下、本活性化剤とも称する)は、有効成分としてROCK阻害剤およびSyk阻害剤を含有する。なお、ROCK阻害剤およびSyk阻害剤について、上記〔1.タウタンパク質の切断阻害剤〕において既に説明した事項については説明を省略する。
【0050】
上記構成であれば、ROCK阻害剤とSyk阻害剤とを併用することで、各々を用いた場合よりもオートファジーを活性化させる効果が、著しく強くなる。
【0051】
オートファジー(自食作用とも称する)は、細胞が自らのタンパク質、細胞内小器官(例えば、ミトコンドリアまたは小胞体)などの構成要素を分解する過程である。オートファジーは、例えば、マクロファジー、ミクロオートファジーおよびシャペロン介在性オートファジーに分類され得る。本活性化剤が活性化するオートファジーは上記のうちいずれのオートファジーであってもよい。
【0052】
本活性化剤がオートファジーを活性化する作用機序は特に限定されず、例えば、ROCKおよびSykを阻害することで、(i)オートファジーを活性化させるタンパク質の活性を向上させてもよいし、(ii)オートファジーを不活性化させるタンパク質の活性を低下させてもよい。オートファジーを活性化することで、タウオリゴマーの形成が抑制され、その結果、NFTの形成を抑制することができる。
【0053】
上記オートファジーを活性化させる物質としては、例えば、リチウム、ラパマイシン、メトフォルミン、およびカルバマゼピン等が挙げられる。一方、上記オートファジーを不活性化させる物質としては、例えば、クロロキン、およびヒドロキシクロロキン等が挙げられる。
【0054】
本活性化剤に含まれる有効成分(具体的に、ROCK阻害剤およびSyk阻害剤)の量については、〔1.タウタンパク質の切断阻害剤〕と同様の値を適用することができる。
【0055】
本活性化剤に含まれる上記ROCK阻害剤と上記Syk阻害剤のモル比(ROCK阻害剤/Syk阻害剤)は、好ましくは1/0.5~1/1であり、より好ましくは1/0.7~1/1であり、さらに好ましくは1/0.8~1/1であり、最も好ましくは1/0.9~1/1である。当該構成であれば、本活性化剤が有するオートファジーを活性化させる効果がより向上する。
【0056】
本活性化剤は、上記〔1.タウタンパク質の切断阻害剤〕において記載した有効成分以外の成分を、上記〔1.タウタンパク質の切断阻害剤〕にて記載した濃度にて含有してもよい。
【0057】
本活性化剤の投与対象、投与経路、および、投与間隔は、上記〔1.タウタンパク質の切断阻害剤〕において記載した投与対象(被験体)、投与経路、および、投与間隔と同じであり得る。これらについては既に説明したので、ここではその説明を省略する。
【0058】
〔4.アルツハイマー病の治療薬〕
本発明の一実施形態に係るアルツハイマー病の治療薬(以下、本治療薬とも称する。)は、本切断阻害剤、本リン酸化阻害剤、または本活性化剤を有効成分として含む。ROCK阻害剤およびSyk阻害剤について、上記〔1.タウタンパク質の切断阻害剤〕において既に説明した事項については説明を省略する。
【0059】
上記構成であれば、ROCK阻害剤とSyk阻害剤とを併用することで、各々を用いた場合よりもアルツハイマー病に対する著しい治療効果を奏する。上記構成であれば、ROCK阻害剤またはSyk阻害剤を単独で使用する場合と比較して、ROCK阻害剤の使用量、および、Syk阻害剤の使用量を減少させることができる。ROCK阻害剤およびSyk阻害剤の使用量を減少させることで、これらによって生じる副作用を低減することができる。なお、当該副作用を低減する効果は、上述したタウタンパク質の切断阻害剤、タウタンパク質のリン酸化阻害剤、および、オートファジーの活性化剤でも、同様に得られる効果である。
【0060】
上述した通り、本切断阻害剤は、タウタンパク質の切断を阻害することで、アルツハイマー病の原因となるNFTの形成を抑制することができる。また、本リン酸化阻害剤は、タウタンパク質のリン酸化を阻害することで、アルツハイマー病の原因となるNFTの形成を抑制することができる。さらに、本活性化剤はオートファジーを活性化させることで、アルツハイマー病の原因となるNFTの形成を抑制することができる。本治療薬は、本切断阻害剤、本リン酸化阻害剤、または本活性化剤を含むことで、アルツハイマー病の原因物質であるNFTの形成を抑制することが可能となる。したがって、本治療薬は、アルツハイマー病の治療薬として使用し得る。
【0061】
上記アルツハイマー病としては、例えば、家族性アルツハイマー病、孤発性アルツハイマー病、若年性アルツハイマー病を挙げることができる。
【0062】
本明細書において「治療薬」とは、治療効果をもたらす薬剤を意図する。当該治療効果とは、以下に例示される効果を意図するが、これらに限定されるものではない。
【0063】
(1)治療薬を投与しなかった場合と比較して、治療薬を投与した場合には、アルツハイマー病に係る1つ以上の症状の重症度を低減する。
【0064】
(2)治療薬を投与しなかった場合と比較して、治療薬を投与した場合には、アルツハイマー病に係る1つ以上の症状の重症度の増加、または、重症度の進行を防止する。
【0065】
(3)治療薬を投与しなかった場合と比較して、治療薬を投与した場合には、アルツハイマー病に係る1つ以上の症状の重症度の増加速度、または、重症度の進行速度を低減する。
【0066】
なお、アルツハイマー病に係る1つ以上の症状は、全身的なものであってもよいし、局所的なものであってもよい。
【0067】
本治療薬はまた、アルツハイマー病を予防する予防薬として用いられてもよい。本明細書において「予防薬」とは、予防効果をもたらす薬剤を意図する。当該予防効果とは、以下に例示される効果を意図するが、これらに限定されるものではない。
【0068】
(1)予防薬を投与しなかった場合と比較して、予防薬を投与した場合には、アルツハイマー病に係る1つ以上の症状の発症を防止する、または、発症のリスクを低減する。
【0069】
(2)予防薬を投与しなかった場合と比較して、予防薬を投与した場合には、アルツハイマー病に係る1つ以上の症状の再発を防止する、または、再発のリスクを低減する。
【0070】
(3)予防薬を投与しなかった場合と比較して、予防薬を投与した場合には、アルツハイマー病に係る1つ以上の症状の兆候が生じることを防止する、または、兆候が生じるリスクを低減する。
【0071】
なお、アルツハイマー病に係る1つ以上の症状は、全身的なものであってもよいし、局所的なものであってもよい。
【0072】
本治療薬は、上記〔1.タウタンパク質の切断阻害剤〕において記載した有効成分以外の成分を、上記〔1.タウタンパク質の切断阻害剤〕にて記載した濃度にて含有してもよい。
【0073】
本治療薬の投与対象、投与経路、および、投与間隔は、上記〔1.タウタンパク質の切断阻害剤〕において記載した投与対象(被験体)、投与経路、および、投与間隔と同じであり得る。これらについては既に説明したので、ここではその説明を省略する。
【0074】
〔5.その他〕
本発明は、また、以下のように構成してもよい。
【0075】
<1>ROCK阻害剤およびSyk阻害剤を有効成分として含有するタウタンパク質の切断阻害剤を、被検体または非ヒト被検体(例えば、哺乳類、非ヒト哺乳類、霊長類、偶蹄類、奇蹄類、齧歯類、または、ウサギ目)に投与する工程を有する、タウタンパク質の切断阻害方法。
【0076】
<2>ROCK阻害剤およびSyk阻害剤を有効成分として含有するタウタンパク質のリン酸化阻害剤を、被検体または非ヒト被検体(例えば、哺乳類、非ヒト哺乳類、霊長類、偶蹄類、奇蹄類、齧歯類、または、ウサギ目)に投与する工程を有する、タウタンパク質のリン酸化阻害方法。
【0077】
<3>ROCK阻害剤およびSyk阻害剤を有効成分として含有するオートファジーの活性化剤を、被検体または非ヒト被検体(例えば、哺乳類、非ヒト哺乳類、霊長類、偶蹄類、奇蹄類、齧歯類、または、ウサギ目)に投与する工程を有する、オートファジーの活性化方法。
【0078】
<4>ROCK阻害剤およびSyk阻害剤を有効成分として含有するアルツハイマー病の治療薬を被検体または非ヒト被検体(例えば、哺乳類、非ヒト哺乳類、霊長類、偶蹄類、奇蹄類、齧歯類、または、ウサギ目)に投与する工程を有する、アルツハイマー病の治療方法。
【0079】
<5>タウタンパク質の切断阻害剤を製造するための、ROCK阻害剤およびSyk阻害剤の使用。
【0080】
<6>タウタンパク質のリン酸化阻害剤を製造するための、ROCK阻害剤およびSyk阻害剤の使用。
【0081】
<7>オートファジーの活性化剤を製造するための、ROCK阻害剤およびSyk阻害剤の使用。
【0082】
<8>アルツハイマー病の治療薬を製造するための、ROCK阻害剤およびSyk阻害剤の使用。
【実施例】
【0083】
本発明の一実施例について、以下に説明する。
【0084】
〔材料および方法〕
特に記載がない限り、実験に使用した材料および方法は以下の通りである。
【0085】
[実験材料]
ヒト神経芽細胞腫細胞株(M1C細胞)
[TetOff誘導系の導入]
ヒト神経芽細胞種細胞BE(2)-M17Dに対して、TetOff-Neo遺伝子(クロンテック社製)を、Tfx試薬(プロメガ社製)を用いて導入し、G418を用いて、TetOff-Neo遺伝子が導入された細胞のセレクションを行った。その後、得られた細胞に対して野生型タウpTRE/Tau(4R0N)と、pBABE-puroとをトランスフェクトし、ピューロマイシンを用いて、これらのプラスミドが導入された細胞のセレクションを行った。さらに、得られた細胞に対してBstETi-linealized pVgRXR(インビトロジェン製)をトランスフェクトし、ゼオシンを用いて、当該プラスミドが導入された細胞のセレクションを行った。さらに、得られた細胞に対してFspI-lineared pIND-Hydrogen/tau[IN+10(1N)]をトランスフェクトし、ハイグロマイシンを用いて、当該プラスミドが導入された細胞のセレクションを行い、M1C細胞を作製した。
【0086】
[野生型タウタンパク質発現細胞の作製]
上記のM1C細胞を、1.5×106~2×106細胞/培養皿の密度になるよう培養した。なお、培養液は、10%ウシ血清を含むダルベッコ改良イーグル培地に、G418(400μg/mL)、テトラサイクリン(2μg/mL)、ゼオシン(100μg/mL)、ハイグロマイシン(100μg/mL)、ピューロマイシン(1μg/mL)をそれぞれ添加したものを用いた。培養開始から約24時間後に、培養液を、テトラサイクリンを含まないこと以外は上記の培養液と同一の組成を有する培地に交換した。培地を交換することにより、TetOffインダクションを開始した。TetOFFインダクションが開始してから5日後に細胞を回収し、蛋白質を抽出した。
【0087】
〔試験1.カスパーゼ切断タウタンパク質の検出〕
野生型タウタンパク質(4R0N)を発現する神経系細胞(M1C細胞)を、テトラサイクリンを除去した培地中にて、5日間培養し、タウ蛋白を発現させた。培養が終了する24時間前に、(i)ROCK阻害剤として化合物ファスジルを1μM-培地、(ii)Syk阻害剤として化合物BAY61-3606を0.5μM-培地、または、(iii)ROCK阻害剤として化合物ファスジルを1μM-培地、および、Syk阻害剤として化合物BAY61-3606を1μM-培地にて、投与した。
【0088】
培養終了後、上記(i)~(iii)の各試験に対応する細胞を回収した。回収した細胞からタウタンパク質を抽出し、ウエスタンブロット法により、カスパーゼによって切断されたタウタンパク質を検出した。なお、ウエスタンブロット法の一次抗体としては、サンタクルズ社製のTauC3抗体を用いた。
【0089】
図1に、試験結果を示す。
図1中の「コントロール」は、培地にROCK阻害剤およびSyk阻害剤のいずれも添加しなかった試験に対応している。
図1の左は、ウエスタンブロット法により検出された結果である。また、
図1右は、ウエスタンブロット法により得られた結果を、デンシトメーターにより数値化したグラフである。
図1から明らかなように、ROCK阻害剤およびSyk阻害剤をそれぞれ単独で添加した細胞よりも、両者を併用した細胞の方が、カスパーゼ(例えば、カスパーゼ3)により切断されたタウタンパク質の量が顕著に少なかった。
【0090】
〔試験2.リン酸化タウタンパク質の検出〕
試験1と同様に、野生型タウタンパク質(4R0N)を発現する神経系細胞(M1C細胞)を培養した。培養終了後、上記(i)~(iii)の各試験に対応する細胞を回収した。回収した細胞からタウタンパク質を抽出し、ウエスタンブロット法により、リン酸化されたタウタンパク質を検出した。なお、ウエスタンブロット法の一次抗体としては、Gene Tex社製のTau(Phospho Ser199/Ser202)抗体を用いた。
【0091】
図2に、試験結果を示す。
図2中の「コントロール」は、培地にROCK阻害剤およびSyk阻害剤のいずれも添加しなかった試験に対応している。
図2の左は、ウエスタンブロット法により検出された結果である。また、
図2の右は、ウエスタンブロット法により得られた結果を、デンシトメーターにより数値化したグラフである。
図2から明らかなように、ROCK阻害剤およびSyk阻害剤をそれぞれ単独で添加した細胞よりも、両者を併用した細胞の方が、リン酸化されたタウタンパク質の量が顕著に少なかった。
【0092】
〔試験3.オートファジーの活性化の検出〕
試験1と同様に、野生型タウタンパク質(4R0N)を発現する神経系細胞(M1C細胞)を培養した。培養終了後、上記(i)~(iii)の各試験に対応する細胞を回収した。回収した細胞からタウタンパク質を抽出し、ウエスタンブロット法により、オートファジーの活性化の指標となるマーカータンパク質である、LC3I、およびLC3IIを検出した。なお、ウエスタンブロット法の一次抗体としては、Cell signaling社製の抗LC3抗体を用いた。
【0093】
図3に、試験結果を示す。
図3中の「-」は、培地にROCK阻害剤およびSyk阻害剤のいずれも添加しなかった試験に対応している。
図3の左は、ウエスタンブロット法により検出された結果である。また、
図3の右は、ウエスタンブロット法により得られた結果を、デンシトメーターにより数値化したグラフである。
図3から明らかなように、ROCK阻害剤およびSyk阻害剤をそれぞれ単独で添加した細胞よりも、両者を併用した細胞の方が、オートファジーの活性化マーカーであるLC3IIの量(具体的には、LC3Iの量に対するLC3IIの量の比)が顕著に多かった。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明は、タウタンパク質の切断阻害剤、タウタンパク質のリン酸化阻害剤、オートファジーの活性化剤、または、アルツハイマー病の治療薬等に利用することができる。