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特許7671061構造物の落下挙動の解析方法、落下挙動の解析プログラム、及び落下挙動解析システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-22
(45)【発行日】2025-05-01
(54)【発明の名称】構造物の落下挙動の解析方法、落下挙動の解析プログラム、及び落下挙動解析システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/303 20060101AFI20250423BHJP
   G01P 15/00 20060101ALI20250423BHJP
【FI】
G01N3/303 A
G01P15/00 C
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2021108764
(22)【出願日】2021-06-30
(65)【公開番号】P2023006256
(43)【公開日】2023-01-18
【審査請求日】2024-06-19
(73)【特許権者】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】箱崎 健一
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-372485(JP,A)
【文献】特開昭60-027840(JP,A)
【文献】特開2019-063387(JP,A)
【文献】特開2016-200550(JP,A)
【文献】特開2016-085127(JP,A)
【文献】特開2003-215007(JP,A)
【文献】米国特許第04531400(US,A)
【文献】中国特許出願公開第1869341(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/00-3/62
G01P 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の落下試験における落下挙動を解析する方法であって、
前記落下試験で計測した前記構造物に取り付けた加速度センサによる加速度の時系列データを含む計測データを取得する計測データ取得ステップと、
ノイズの乗った前記加速度の時系列データに対して台形公式を含む積分処理を行い未補正の速度を算出する未補正速度算出ステップと、
前記加速度の時系列データ、又は前記計測データとして取得した前記構造物の通過時刻に基づいて前記落下試験における前記構造物の剛体床面への衝突時刻と反跳時刻を判定する時刻判定ステップと、
前記衝突時刻と前記反跳時刻に基づき前記未補正の速度に対して補正を行い、補正した速度の時系列データを算出する補正速度算出ステップと、
前記補正した速度の時系列データに対して最小二乗法を含む多項式近似を行い速度の近似多項式を導出する速度近似多項式導出ステップと、
前記速度の近似多項式に基づいて加速度の近似多項式を導出する加速度近似多項式導出ステップと、
前記加速度の時系列データに基づいた解析結果を提供する解析結果提供ステップとを有したことを特徴とする構造物の落下挙動の解析方法。
【請求項2】
前記時刻判定ステップにおける前記衝突時刻の判定は、前記加速度の時系列データのベースラインを近似し、前記ベースラインを近似した近似加速度時系列データを用いて有意に加速度が増加している点を検出して判定することを特徴とする請求項1に記載の構造物の落下挙動の解析方法。
【請求項3】
前記近似加速度時系列データにより算出した前記構造物の変位に基づいて前記反跳時刻を判定する、又は反跳速度を求めることを特徴とする請求項2に記載の構造物の落下挙動の解析方法。
【請求項4】
前記加速度近似多項式導出ステップで導出した前記加速度の近似多項式に基づいて、前記落下試験における前記構造物の加速度を再現する加速度再現ステップを有したことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の構造物の落下挙動の解析方法。
【請求項5】
ノイズの乗った前記加速度の時系列データに対してローパスフィルタのカットオフ値を設定し、フィルタ処理して得られたフィルタ処理加速度データと、前記落下試験における前記構造物の再現された前記加速度とを比較する加速度比較ステップを有し、比較した結果に基づいて前記カットオフ値を最適化することを特徴とする請求項4に記載の構造物の落下挙動の解析方法。
【請求項6】
前記速度近似多項式導出ステップで導出した前記速度の近似多項式に基づいて、前記落下試験における前記構造物の速度を再現する速度再現ステップを有したことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の構造物の落下挙動の解析方法。
【請求項7】
前記補正速度算出ステップで算出した前記補正した速度の時系列データに基づき、前記衝突時刻を起点とした積分処理を行い、補正した変位の時系列データを算出する補正変位算出ステップを有したことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の構造物の落下挙動の解析方法。
【請求項8】
前記落下試験における前記構造物の変位の実測データを取得し、前記変位の実測データと前記補正した変位の時系列データとを比較する変位比較ステップを有したことを特徴とする請求項7に記載の構造物の落下挙動の解析方法。
【請求項9】
前記計測データとして前記構造物の前記落下試験における反跳高さの記録値を取得し、前記反跳速度から求められる反跳高さの計算値と前記反跳高さの記録値とを比較する反跳高さ比較ステップを有したことを特徴とする請求項3、又は請求項3を引用する請求項4から請求項8のいずれか1項に記載の構造物の落下挙動の解析方法。
【請求項10】
計測した前記加速度の時系列データ、前記補正した速度の時系列データと前記速度の近似多項式より求めた速度の時系列データ、及び前記加速度の近似多項式より求めた加速度の時系列データと計測した前記加速度の時系列データの少なくともいずれかを作図する作図ステップを有したことを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の構造物の落下挙動の解析方法。
【請求項11】
前記作図ステップにおける作図は、前記補正変位算出ステップで算出した前記補正した変位の時系列データを作図することを特徴とする請求項7又は請求項8を引用する請求項10における構造物の落下挙動の解析方法。
【請求項12】
構造物の落下試験における落下挙動を解析するプログラムであって、
コンピュータに、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の構造物の落下挙動の解析方法における前記計測データ取得ステップ、前記未補正速度算出ステップ、前記時刻判定ステップ、前記補正速度算出ステップ、前記速度近似多項式導出ステップ、前記加速度近似多項式導出ステップ、及び解析結果提供ステップを実行させることを特徴とする構造物の落下挙動の解析プログラム。
【請求項13】
前記コンピュータに、請求項4に記載の前記加速度再現ステップ、又は請求項6に記載の前記速度再現ステップをさらに実行させることを特徴とする請求項12に記載の構造物の落下挙動の解析プログラム。
【請求項14】
前記コンピュータに、請求項5に記載の前記加速度比較ステップをさらに実行させることを特徴とする請求項13に記載の構造物の落下挙動の解析プログラム。
【請求項15】
前記コンピュータに、請求項7に記載の前記補正変位算出ステップをさらに実行させることを特徴とする請求項12から請求項14のいずれか1項に記載の構造物の落下挙動の解析プログラム。
【請求項16】
前記コンピュータに、請求項8に記載の前記変位比較ステップ、又は請求項9に記載の反跳高さ比較ステップをさらに実行させることを特徴とする請求項15に記載の構造物の落下挙動の解析プログラム。
【請求項17】
前記コンピュータに、請求項10又は請求項11に記載の前記作図ステップをさらに実行させることを特徴とする請求項12から請求項16のいずれか1項に記載の構造物の落下挙動の解析プログラム。
【請求項18】
構造物の落下試験における落下挙動を解析するシステムであって、
コンピュータと、
前記構造物に取り付けた加速度センサによる加速度の時系列データを含む計測データを前記コンピュータに入力する入力手段と、
前記コンピュータを利用した解析結果を提供する解析結果提供手段とを備え、
前記コンピュータに請求項12から請求項17のいずれか1項に記載の構造物の落下挙動の解析プログラムを実行させることを特徴とする構造物の落下挙動の解析システム。
【請求項19】
前記計測データとして、前記構造物の落下挙動を高速度カメラで撮像した撮像データ、及び前記構造物の落下時の通過時刻を計測する通過時刻検出手段による通過時刻データの少なくとも一方を取得することを特徴とする請求項18に記載の構造物の落下挙動の解析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の落下試験における落下挙動を解析する構造物の落下挙動の解析方法、落下挙動の解析プログラム、及び落下挙動解析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
IAEA(国際原子力機関)輸送規則に準拠したB型輸送物に係る9m落下試験では、輸送容器に収納された放射性物質が試験後に漏洩のないことが求められている。放射性物質の漏洩の有無を評価するため、一般には、落下衝撃を受けた際の輸送容器の構造解析が実施される。
構造解析では、落下時に輸送容器に作用した衝撃力を求める必要があり、これを決定するために、供試体に取付けた加速度センサを用いて、輸送物の減速度(負の加速度)が測定される。
この時、加速度測定で求めたい値は、供試体に作用する制動力に対応する減速度(落下している物体を止める力)である。しかし、加速度センサは、供試体を減速させる力(加速度)ばかりでなく、供試体に伝わる様々な振動ノイズをも検出するため、生の加速度データは、ノイズの影響を受けた波形となっている。
さらに、振動ノイズの強度は、しばしば、検出対象である減速度の強度を大きく上回っている。
このため、従来の加速度測定では、高周波のノイズ成分を除去する目的で、フーリエ変換に基づくローパス・フィルタ処理が行われている。
ローパス・フィルタ処理を行う場合、信号波形とノイズを分離するためのカットオフ値を設定する必要である。しかし、9m落下試験時に、供試体に作用する振動ノイズを特定することは困難であり、供試体の特性に応じた適切なカットオフ値を設定するのは容易ではない。
【0003】
ここで、特許文献1には、環状の試験金属ガスケットを所定の締付力で第1および第2金属フランジ部材間に挟持し、所定の締付力で締付けられた金属ガスケットおよび試験金属フランジ部材を加熱炉内で所定時間、所定の温度で加熱して試験金属ガスケットを加熱劣化させた後、第2金属フランジ部材を固定した状態で、金属ガスケットの中心軸と直交する方向に沿って第1金属フランジ部材に荷重を負荷し、荷重を負荷した際の第1金属フランジ部材の変位量を測定するとともに金属ガスケットの漏洩検査を行い、第1金属フランジ部材の変位量に対する漏洩率を求める、金属ガスケットの評価試験方法および評価試験装置が開示されている。また、請求項6に錘の加速度を2回積分することにより第1金属フランジ部材の変位量を求めることが開示されている。
また、特許文献2には、キャスクの設計データと落下姿勢と落下面剛性に基づいてキャスク落下状態をモデル解析すると共に、キャスクを燃料単体とした試験モデルの設計データと落下姿勢と落下面剛性に基づいて試験モデル落下状態をモデル解析し、このキャスクモデル解析処理データと試験モデル解析処理データとを比較して試験モデルの設計データを策定し、この試験モデルの設計データに基づいて製作された試験モデルの落下評価試験を行い、この落下評価試験データと試験モデル解析処理データとを比較してキャスク落下試験の評価モデルを構築する、キャスクの落下評価モデルの構築システム及びキャスクの落下評価システムが開示されている。また、請求項2に、本体加速度、燃料ひずみ分布、バスケット変位、バスケット加速度、燃料荷重とを比較して試験モデルの設計データを策定することが記載されている。
また、特許文献3には、機器の加速度を検出する段階、検出された加速度を時間に対して積分する段階、検出された加速度が周期的であるか否かを判断する段階、検出された加速度が非周期的である場合、積分値と、自由落下と判断する基準になる第1臨界値とを比較し、自由落下であるか否かを判断する段階、及び検出された加速度が周期的である場合、積分値と第2臨界値とを比較し、自由落下であるか否かを判断する段階を含み、第2臨界値は、第1臨界値と相異なる値であることで、検出された加速度が周期的であるか否かを判断し、真の自由落下のみを検出することにより、機器の自由落下誤動作を防止し、ハードディスクドライブの不要な動作を減少できる、自由落下検出方法及び自由落下検出装置が開示されている。また、請求項9に加速度の周期別の1周期に該当する時間を測定し、時間の間の差が所定の誤差範囲内にある場合、周期的であると判断することが記載されている。
また、特許文献4には、原波形に基づいて強制振動区間を特定すると共に、自由振動に対応した加速度波形を算出し、自由振動に対応した加速度波形に基づいて積分区間を特定し、自由振動に対応した加速度波形を特定した積分区間において積分することによって、速度の境界条件および変位の境界条件を算出し、原波形より強制振動区間を含む区間の速度波形を算出して、速度の境界条件を満たす補正速度波形に補正し、補正速度波形より強制振動区間を含む区間の変位波形を算出して、変位の境界条件を満たす補正変位波形を得る、加速度記録を用いた変位応答算出法が開示されている。
また、非特許文献1には、使用済燃料輸送貯蔵キャスクの開発に関し、IAEA輸送規則に基づく落下試験での実証と、キャスク構造をそのままモデル化し現実の挙動をシミュレートする三次元動的構造解析によりキャスク落下時の挙動の評価を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-4140号公報
【文献】特開2007-17205号公報
【文献】特開2009-156871号公報
【文献】特開2017-3556号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】山本知史,外5名,“使用済燃料輸送貯蔵キャスクの開発”,三菱重工技報,三菱重工業株式会社,VOL.43 No.4:2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、従来のノイズ除去に用いられているフィルタ処理の場合、信号とノイズを分離するためのカットオフ値を設定する必要があるが、落下衝撃時に発生する高周波ノイズの発生原因は複雑であり、この原因を明確に特定することは困難であるため、カットオフ値の設定は、人の経験による所が多く、定量的な検証も容易ではない。
また、従来の9m落下試験では、ローパス・フィルタ処理に用いるカットオフ値を、IAEA規則の推奨値に基づき設定することも多いが、IAEA規則のカットオフ値は、100~200Hzと幅を持たせた経験的に決定された値であり、個々の供試体の特性を考慮する方法が示されていない。安全評価に用いる場合、保守的に加速度の最大値が大きくなる高めのカットオフ値が用いられる傾向があるが、この場合、ノイズ成分が適切に除去されず、本来の測定対象である減速度の波形が得られない可能性がある。
ここで、特許文献1~4及び非特許文献1は、落下試験で得られた加速度のデータを人の経験に依存せずに合理的に処理しようとするものではない。
そこで本発明は、落下試験で得られた加速度のデータを、人の経験に依存せずに合理的に処理できる構造物の落下挙動の解析方法、落下挙動の解析プログラム、及び落下挙動解析システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載に対応した構造物の落下挙動の解析方法においては、構造物の落下試験における落下挙動を解析する方法であって、落下試験で計測した構造物に取り付けた加速度センサによる加速度の時系列データを含む計測データを取得する計測データ取得ステップと、ノイズの乗った加速度の時系列データに対して台形公式を含む積分処理を行い未補正の速度を算出する未補正速度算出ステップと、加速度の時系列データ、又は計測データとして取得した構造物の通過時刻に基づいて落下試験における構造物の剛体床面への衝突時刻と反跳時刻を判定する時刻判定ステップと、衝突時刻と反跳時刻に基づき未補正の速度に対して補正を行い、補正した速度の時系列データを算出する補正速度算出ステップと、補正した速度の時系列データに対して最小二乗法を含む多項式近似を行い速度の近似多項式を導出する速度近似多項式導出ステップと、速度の近似多項式に基づいて加速度の近似多項式を導出する加速度近似多項式導出ステップと、加速度の時系列データに基づいた解析結果を提供する解析結果提供ステップとを有したことを特徴とする。
請求項1に記載の本発明によれば、計測した加速度の時系列データを積分して未補正の速度を求め、多項式近似を用いて速度の近似多項式を求め、速度の近似多項式に基づいて導出した加速度の近似多項式からノイズを除去した加速度を求めることができるため、人の経験に依存せずに合理的にデータ処理を行える。
【0008】
請求項2記載の本発明は、時刻判定ステップにおける衝突時刻の判定は、加速度の時系列データのベースラインを近似し、ベースラインを近似した近似加速度時系列データを用いて有意に加速度が増加している点を検出して判定することを特徴とする。
請求項2に記載の本発明によれば、衝突時刻をより正確に判定できるため、衝突時刻を用いて算出する補正した速度の時系列データの精度を向上させることができる。
【0009】
請求項3記載の本発明は、近似加速度時系列データにより算出した構造物の変位に基づいて反跳時刻を判定する、又は反跳速度を求めることを特徴とする。
請求項3に記載の本発明によれば、反跳時刻をより正確に判定できるため、反跳時刻を用いて算出する補正した速度の時系列データの精度を向上させることができる。また、反跳速度から反跳高さを求めることができる。
【0010】
請求項4記載の本発明は、加速度近似多項式導出ステップで導出した加速度の近似多項式に基づいて、落下試験における構造物の加速度を再現する加速度再現ステップを有したことを特徴とする。
請求項4に記載の本発明によれば、計測した時系列の加速度データに含まれるノイズを除去した構造物の加速度を再現することができる。
【0011】
請求項5記載の本発明は、ノイズの乗った加速度の時系列データに対してローパスフィルタのカットオフ値を設定し、フィルタ処理して得られたフィルタ処理加速度データと、落下試験における構造物の再現された加速度とを比較する加速度比較ステップを有し、比較した結果に基づいてカットオフ値を最適化することを特徴とする。
請求項5に記載の本発明によれば、従来のフィルタ処理におけるカットオフ値を最適化することにより、個々の経験に依らずに合理的に適切なカットオフ値を得ることができる。
【0012】
請求項6記載の本発明は、速度近似多項式導出ステップで導出した速度の近似多項式に基づいて、落下試験における構造物の速度を再現する速度再現ステップを有したことを特徴とする。
請求項6に記載の本発明によれば、計測した時系列の加速度データからノイズを除いた、再現性の高い落下試験における構造物の速度の時系列データを得ることができる。
【0013】
請求項7記載の本発明は、補正速度算出ステップで算出した補正した速度の時系列データに基づき、衝突時刻を起点とした積分処理を行い、補正した変位の時系列データを算出する補正変位算出ステップを有したことを特徴とする。
請求項7に記載の本発明によれば、構造物の変形量と関係付けられる補正した変位の時系列データを得ることができる。
【0014】
請求項8記載の本発明は、落下試験における構造物の変位の実測データを取得し、変位の実測データと補正した変位の時系列データとを比較する変位比較ステップを有したことを特徴とする。
請求項8に記載の本発明によれば、変位の実測データと算出した変位の時系列データとを比較することにより、加速度測定の妥当性を評価することができる。
【0015】
請求項9記載の本発明は、計測データとして構造物の落下試験における反跳高さの記録値を取得し、反跳速度から求められる反跳高さの計算値と反跳高さの記録値とを比較する反跳高さ比較ステップを有したことを特徴とする。
請求項9に記載の本発明によれば、積分で求めた反跳高さとリバウンド時に観測された反跳高さの記録値との比較によって、加速度より求めた速度の妥当性を検討することができる。
【0016】
請求項10記載の本発明は、計測した加速度の時系列データ、補正した速度の時系列データと速度の近似多項式より求めた速度の時系列データ、及び加速度の近似多項式より求めた加速度の時系列データと計測した加速度の時系列データの少なくともいずれかを作図する作図ステップを有したことを特徴とする。
請求項10に記載の本発明によれば、作図された図により、取得又は算出した時系列データの傾向把握や比較等をしやすくなる。
【0017】
請求項11記載の本発明は、作図ステップにおける作図は、補正変位算出ステップで算出した補正した変位の時系列データを作図することを特徴とする。
請求項11に記載の本発明によれば、構造物の変形量と関係付けられる算出した変位の傾向を把握しやすくなる。
【0018】
請求項12記載に対応した構造物の落下挙動の解析プログラムにおいては、構造物の落下試験における落下挙動を解析するプログラムであって、コンピュータに、構造物の落下挙動の解析方法における計測データ取得ステップ、未補正速度算出ステップ、時刻判定ステップ、補正速度算出ステップ、速度近似多項式導出ステップ、加速度近似多項式導出ステップ、及び解析結果提供ステップを実行させることを特徴とする。
請求項12に記載の本発明によれば、落下挙動の解析のために測定された加速度の時系列データに含まれる高周波ノイズの除去を、経験に依存してカットオフ値を決定する必要のあった従来のフィルタ処理とは異なり、経験に依存する手順を加えることなく機械的な一連の操作により実現することができる。
【0019】
請求項13記載の本発明は、加速度再現ステップ、又は速度再現ステップをさらに実行させることを特徴とする。
請求項13に記載の本発明によれば、計測した時系列の加速度データに含まれるノイズを除去した構造物の加速度を再現することができる。また、計測した時系列の加速度データからノイズを除いた、再現性の高い速度の時系列データを得ることができる。
【0020】
請求項14記載の本発明は、加速度比較ステップをさらに実行させることを特徴とする。
請求項14に記載の本発明によれば、従来のフィルタ処理におけるカットオフ値を最適化することにより、個々の経験に依らずに合理的に適切なカットオフ値を得ることができる。
【0021】
請求項15記載の本発明は、補正変位算出ステップをさらに実行させることを特徴とする。
請求項15に記載の本発明によれば、構造物の変形量と関係づけられる補正した変位の時系列データを得ることができる。
【0022】
請求項16記載の本発明は、変位比較ステップ、又は反跳高さ比較ステップをさらに実行させることを特徴とする。
請求項16に記載の本発明によれば、変位の実測データと算出した変位の時系列データとを比較することにより、加速度測定の妥当性を評価することができる。又は、積分で求めた反跳高さとリバウンド時に観測された反跳高さの記録値との比較によって、加速度より求めた速度の妥当性を検討することができる。
【0023】
請求項17記載の本発明は、作図ステップをさらに実行させることを特徴とする。
請求項17に記載の本発明によれば、作図された図により、取得又は算出した時系列データの傾向把握や比較等をしやすくなる。
【0024】
請求項18記載に対応した構造物の落下挙動の解析システムにおいては、構造物の落下試験における落下挙動を解析するシステムであって、コンピュータと、構造物に取り付けた加速度センサによる加速度の時系列データを含む計測データをコンピュータに入力する入力手段と、コンピュータを利用した解析結果を提供する解析結果提供手段とを備え、コンピュータに構造物の落下挙動の解析プログラムを実行させることを特徴とする。
請求項18に記載の本発明によれば、落下挙動の解析のために測定された加速度の時系列データに含まれる高周波ノイズの除去を、経験に依存してカットオフ値を決定する必要のあった従来のフィルタ処理とは異なり、経験に依存する手順を加えることなく機械的な一連の操作により実現することができる。
【0025】
請求項19記載の本発明は、計測データとして、構造物の落下挙動を高速度カメラで撮像した撮像データ、及び構造物の落下時の通過時刻を計測する通過時刻検出手段による通過時刻データの少なくとも一方を取得することを特徴とする。
請求項19に記載の本発明によれば、撮像データに基づいて構造物の速度変化や反跳高さを得たり、通過時刻データに基づいて剛体床面への構造物の衝突時刻と反跳時刻を判定したりすることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の構造物の落下挙動の解析方法によれば、計測した加速度の時系列データを積分して未補正の速度を求め、多項式近似を用いて速度の近似多項式を求め、速度の近似多項式に基づいて導出した加速度の近似多項式からノイズを除去した加速度を求めることができるため、人の経験に依存せずに合理的にデータ処理を行える。
【0027】
また、時刻判定ステップにおける衝突時刻の判定は、加速度の時系列データのベースラインを近似し、ベースラインを近似した近似加速度時系列データを用いて有意に加速度が増加している点を検出して判定する場合には、衝突時刻をより正確に判定できるため、衝突時刻を用いて算出する補正した速度の時系列データの精度を向上させることができる。
【0028】
また、近似加速度時系列データにより算出した構造物の変位に基づいて反跳時刻を判定する、又は反跳速度を求める場合には、反跳時刻をより正確に判定できるため、反跳時刻を用いて算出する補正した速度の時系列データの精度を向上させることができる。また、反跳速度から反跳高さを求めることができる。
【0029】
また、加速度近似多項式導出ステップで導出した加速度の近似多項式に基づいて、落下試験における構造物の加速度を再現する加速度再現ステップを有した場合には、計測した時系列の加速度データに含まれるノイズを除去した構造物の加速度を再現することができる。
【0030】
また、ノイズの乗った加速度の時系列データに対してローパスフィルタのカットオフ値を設定し、フィルタ処理して得られたフィルタ処理加速度データと、落下試験における構造物の再現された加速度とを比較する加速度比較ステップを有し、比較した結果に基づいてカットオフ値を最適化する場合には、従来のフィルタ処理におけるカットオフ値を最適化することにより、個々の経験に依らずに合理的に適切なカットオフ値を得ることができる。
【0031】
また、速度近似多項式導出ステップで導出した速度の近似多項式に基づいて、落下試験における構造物の速度を再現する速度再現ステップを有した場合には、計測した時系列の加速度データからノイズを除いた、再現性の高い落下試験における構造物の速度の時系列データを得ることができる。
【0032】
また、補正速度算出ステップで算出した補正した速度の時系列データに基づき、衝突時刻を起点とした積分処理を行い、補正した変位の時系列データを算出する補正変位算出ステップを有した場合には、構造物の変形量と関係付けられる補正した変位の時系列データを得ることができる。
【0033】
また、落下試験における構造物の変位の実測データを取得し、変位の実測データと補正した変位の時系列データとを比較する変位比較ステップを有した場合には、変位の実測データと算出した変位の時系列データとを比較することにより、加速度測定の妥当性を評価することができる。
【0034】
また、計測データとして構造物の落下試験における反跳高さの記録値を取得し、反跳速度から求められる反跳高さの計算値と反跳高さの記録値とを比較する反跳高さ比較ステップを有した場合には、積分で求めた反跳高さとリバウンド時に観測された反跳高さの記録値との比較によって、加速度より求めた速度の妥当性を検討することができる。
【0035】
また、計測した加速度の時系列データ、補正した速度の時系列データと速度の近似多項式より求めた速度の時系列データ、及び加速度の近似多項式より求めた加速度の時系列データと計測した加速度の時系列データの少なくともいずれかを作図する作図ステップを有した場合には、作図された図により、取得又は算出した時系列データの傾向把握や比較等をしやすくなる。
【0036】
また、作図ステップにおける作図は、補正変位算出ステップで算出した補正した変位の時系列データを作図する場合には、構造物の変形量と関係付けられる算出した変位の傾向を把握しやすくなる。
【0037】
また、本発明の構造物の落下挙動の解析プログラムによれば、落下挙動の解析のために測定された加速度の時系列データに含まれる高周波ノイズの除去を、経験に依存してカットオフ値を決定する必要のあった従来のフィルタ処理とは異なり、経験に依存する手順を加えることなく機械的な一連の操作により実現することができる。
【0038】
また、加速度再現ステップ、又は速度再現ステップをさらに実行させる場合には、計測した時系列の加速度データに含まれるノイズを除去した構造物の加速度を再現することができる。また、計測した時系列の加速度データからノイズを除いた、再現性の高い速度の時系列データを得ることができる。
【0039】
また、加速度比較ステップをさらに実行させる場合には、従来のフィルタ処理におけるカットオフ値を最適化することにより、個々の経験に依らずに合理的に適切なカットオフ値を得ることができる。
【0040】
また、補正変位算出ステップをさらに実行させる場合には、構造物の変形量と関係づけられる補正した変位の時系列データを得ることができる。
【0041】
また、変位比較ステップ、又は反跳高さ比較ステップをさらに実行させる場合には、変位の実測データと算出した変位の時系列データとを比較することにより、加速度測定の妥当性を評価することができる。又は、積分で求めた反跳高さとリバウンド時に観測された反跳高さの記録値との比較によって、加速度より求めた速度の妥当性を検討することができる。
【0042】
また、作図ステップをさらに実行させる場合には、作図された図により、取得又は算出した時系列データの傾向把握や比較等をしやすくなる。
【0043】
また、本発明の構造物の落下挙動の解析システムによれば、落下挙動の解析のために測定された加速度の時系列データに含まれる高周波ノイズの除去を、経験に依存してカットオフ値を決定する必要のあった従来のフィルタ処理とは異なり、経験に依存する手順を加えることなく機械的な一連の操作により実現することができる。
【0044】
また、計測データとして、構造物の落下挙動を高速度カメラで撮像した撮像データ、及び構造物の落下時の通過時刻を計測する通過時刻検出手段による通過時刻データの少なくとも一方を取得する場合には、撮像データに基づいて構造物の速度変化や反跳高さを得たり、通過時刻データに基づいて剛体床面への構造物の衝突時刻と反跳時刻を判定したりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1】本発明の実施形態による構造物の落下挙動の解析方法のフローチャート
図2】同IAEA輸送規則に準拠したキャスク落下試験の概略を示す図
図3】同落下試験で取得した加速度の時系列データを表形式とした例を示す図
図4】同9m落下試験で取得した加速度の時系列データをグラフ化した例を示す図
図5】同衝突時刻の判定に通過時刻検出手段としてレーザーセンサを利用した例を示す図
図6】同積分による高周波の成分の相対強度を示すグラフ
図7】同図4に示される加速度より求めた速度の再現曲線
図8】同フィルタ処理ステップにより得た加速度と加速度再現ステップで再現した加速度との比較を示す図
図9】同補正した変位の時系列データを示すグラフ
図10】本発明の実施形態による構造物の落下挙動の解析システムの構成図
【発明を実施するための形態】
【0046】
本発明の実施形態による構造物の落下挙動の解析方法、落下挙動の解析プログラム、及び落下挙動解析システムについて説明する。
図1は構造物の落下挙動の解析方法のフローチャートである。図2はIAEA輸送規則に準拠したキャスク落下試験の概略を示す図であり、図2(a)には落下試験に用いる主な機器類を示し、図2(b)に落下方法を示している。また、図3は落下試験で取得した加速度の時系列データを表形式とした例を示す図、図4は9m落下試験で取得した加速度の時系列データをグラフ化した例を示す図である。
図1に示すように、落下挙動の解析方法においては、落下試験で計測した構造物10の加速度の時系列データ等を取得し(S1:計測データ取得ステップ)、加速度の時系列データに基づいた解析結果を構造物10の設計者や評価者等に提供する(S14:解析結果提供ステップ)
落下挙動の解析方法の対象とする構造物10は、例えば、原子力発電所からの輸送貯蔵に用いられる使用済燃料用輸送容器(キャスク)であるが、輸送時の落下があり得る各種機器や使用時の落下があり得るタブレットパソコン、スマートフォン等の携帯端末などであってもよい。本実施形態においては、落下挙動の解析方法の対象とする構造物10を、キャスクのスケールモデルの供試体として説明する。
【0047】
図2に示すように、所定の高さから落下させる構造物10(キャスク供試体)は、円筒形のキャスク本体11と、キャスク本体11の両端部に設けられた緩衝体12等から構成されている。
キャスク本体11には、接地時の衝撃加速度を測定するための複数の加速度センサ20を予め貼付けておく。なお、場合によっては歪ゲージを予め貼付けておくこともある。また、貼付け以外に埋め込んだり治具により取り付ける等、各種の装着方法が採用し得る。
加速度センサ20の計測ライン(計測線)21はデータロガー30に接続されている。なお、加速度センサ20の計測ライン21は、落下時に構造物10の下敷きになり断線することを避けるため、吊下げに用いるワイヤー40等に沿う形で纏めておくなどする。
9m落下試験においては、構造物10をクレーン等により9mの高さまで吊上げ、吊下げに用いたワイヤー40等を切断する、又はフックからワイヤー40を外す等の方法で、構造物10を剛体床50である落下試験ベッドに落下させる。
剛体床50の背面には、格子模様(市松模様)を描いた背景60を設置し、正面から高速度カメラ70を用いた撮影を行う。なお、通常のカメラを用いたビデオ撮影を行う場合もある。
【0048】
図1に示す計測データ取得ステップS1においては、加速度センサ20を取り付けた構造物10を所定の高度から剛体床面に向けて自由落下させる落下試験を行い、計測データを取得する。取得する計測データは、加速度センサ20により計測された加速度の時系列データや、落下する構造物10が所定ポイントを通過したときの通過時刻等である。
加速度の時系列データを取得するに際し、複数の加速度データを同時に測定するには、多チャンネルのデータロガー30を使用する。データロガー30は、信号変換に必要なアンプ類を有し、加速度データ等を記録するための装置である。多チャンネルのデータロガー30は、指定されたサンプリングレート(例えば、0.1msec刻み)で複数のデータを同時に、時系列で記録する。キャスクの落下試験の場合、通常は、9m吊上げた構造物10を切離すと同時に測定を開始し、数秒間測定する。構造物10は、9m自由落下して接地すると、1次衝撃で緩衝体12が潰れ、リバウンド(跳び上がり)が起こる。接地からリバウンドまでに要する時間は、落下姿勢にもよるが、数十msecである。仮に、0.0001sec(0.1msec)間隔で3秒間測定したとすれば、1チャンネル当たり三万個の巨大データが記録されることになる。通常、加速度データは、測定開始時刻をゼロ点とした時刻データと対で測定チャンネル毎に記録され、図3に示すような表形式で出力される。
図3に示すような加速度の時系列データを、表計算ソフトに読み込んで、作図処理等のデータ処理を行う。これにより、図4に示すようなグラフが得られる。また、フィルタ処理等、専用のソフトを用いた特殊な処理が必要な場合には、図3に示すような表形式の加速度の時系列データを、専用ソフトが読み込めるフォーマットに変換するプログラム等を使用する。
なお、加速度センサ20による測定データは、時刻・X方向加速度・Y方向加速度・Z方向加速度のセットとして出力される。図3中のch1、ch2、ch3が、夫々、X、Y、Z方向の加速度に相当する。データ処理は、時刻と加速度を1セットとして、X、Y、Z方向夫々について実施する。したがって加速度センサ20は、3個の1軸型センサを直交させて束ねた3軸型であることが好ましいが、1軸型であってもよい。
【0049】
9m落下試験の場合、構造物10が剛体床50に衝突するときの衝突速度は約13.3m/sであり、図4に示すケースでは、1次衝撃が作用した時間は15msec程度であるため、仮に、1次衝撃の間の制動力が一定の値で構造物10(供試体)に作用したとすれば、平均の減速度は887m/s(=13.3÷0.015)と推定される。
一方、図4に示す生の加速度データの最大値は3328 m/sであり、上記で推定した平均減速度の4倍程度の値を示している。このため、測定されたままの生の加速度には、構造物10を制動する減速度よりも大きな振動ノイズが加わっていると推定される。
また、1次衝撃の範囲(3~18msec)には、負の加速度(最小値:-598m/s)が観測されている。負の加速度は構造物10を下向きに加速する力が作用したことを意味するが、当該の落下事象では想定され得ない力である。
【0050】
計測データ取得ステップS1で取得したノイズの乗った加速度の時系列データに対して台形公式等を用いて積分処理を行い、未補正の速度を算出する(S2:未補正速度算出ステップ)。
加速度センサ20は、構造物10の表面に貼付けられており、構造物10への制動力だけでなく、構造物10の表面に伝わる振動や、加速度センサ20自体の振動により生じた振動を、加速度として検出していると考えられる。
振動ノイズの振幅が、測定対象の減速度よりも大きい周期関数と考えれば、上記の負の加速度は、構造物10の制動に無関係な信号(高周波ノイズ)と位置づけられる。
一方、構造物10を制動する力は、緩衝体12の変形力に対応する力と考えられ、その減速度(f(t))は非周期関数と考えられる。
これにより、本実施形態では、測定で得られた加速度の時系列データを、下式(1)に示すように、ノイズ成分を周期関数の和と仮定し、信号成分(試験に用いた構造物10を制動する加速度)を非周期関数と仮定して、一連の操作を実施する。
【数1】
台形公式を用いて加速度の時系列データを積分すると、下式(2)で表される速度v(t)の時系列データが得られる。式(1)の加速度を順次時間積分すると式(2)で示される速度となる。この速度は、1次衝撃を受けている間の、構造物10の代表点(重心)の速度と解釈できる。式(2)では、周期関数で表現されるノイズ成分の強度が1/(2π・f)となっており、周波数が高いほど、振幅が小さくなることが判る。
【数2】
従って、積分により得られる速度の時系列データは、加速度データよりもノイズ成分(周期関数)が減少し、ノイズが削減されることが期待できる。
【0051】
キャスクの9m落下試験など、構造物10の落下試験では、一般的に、1次衝撃後に構造物10が跳ね上がる現象(リバウンド)が観察される。
リバウンドは、構造物10がバネのように作用し、1次衝撃中に蓄えられた弾性エネルギーの開放により生じると考えられる。すなわち、接地時刻には下向きであった速度(負の速度)が、1次衝撃が作用している間に、上向きの速度(正の速度)に変化し、上向きの速度が最大となった時点で、反跳すると考える。
計測データ取得ステップS1において計測データとして取得した、加速度の時系列データ、又は構造物10の通過時刻に基づいて、落下試験における構造物10の剛体床50への衝突時刻と反跳時刻を判定する(S3:時刻判定ステップ)。
なお、反跳時刻(trc)とは、上向きの速度が最大となる時刻である。1次衝撃は、下式(3)の時間範囲で構造物10に作用していると考えられる。
【数3】
【0052】
時刻判定ステップS3における衝突時刻の判定は、加速度の時系列データのベースライン(基線)を、1~3次方程式により近似し、ベースラインを近似した近似加速度時系列データを用いて有意に加速度が増加している点を検出して判定する。これにより、衝突時刻をより正確に判定できる。
この際、測定開始から1次衝撃に至る加速度の時系列データの拡大表示することと、近似したベースラインの変動による加速度データの補正を行うことが好ましい。
また、衝突時刻の判定は、加速度を積分した速度が有意に増加している時刻の検出により行うこともできる。また、ベースラインを近似した近似加速度時系列データにより加速度が急激に立ち上がる点を明瞭化し、更に、速度の変化も加味するなど他の手法と組み合わせて判定することで、より客観的に衝突時刻を決定することができる。
【0053】
また、衝突時刻の判定に際しては、落下試験時の測定手法も組み合わせることができる。
ここで、図5は衝突時刻の判定に通過時刻検出手段としてレーザーセンサを利用した例を示す図である。例えば、図5に示すように、剛体床50の上方近傍に配置した通過時刻検出手段(レーザーセンサ)80の信号をデータロガー30に接続し、加速度データと並行して信号のオン・オフを検出することで、レーザーセンサ80が配置されている箇所(高さ)を構造物10が通過した時刻を検出する。そして、その通過時刻データを、ベースラインを近似した近似加速度時系列データを用いて有意に加速度が増加している点の検出と組み合わせることで、構造物10体が接地した時刻をより正確に決定することができる。
【0054】
反跳時刻は、近似加速度時系列データにより算出した構造物10の変位に基づいて判定する。これにより、反跳時刻をより正確に判定できる。
構造物10の変位(x(t))は、下式(4)のように、式(1)の加速度を順次時間積分することで得られる。この変位は、1次衝撃を受けている間の、構造物10の代表点(重心)の変位(移動量)と解釈できる。
【数4】
このように、加速度の時系列データを、台形公式を用いて積分する。この時、起点における変位をゼロ(衝撃前は無変形)と仮定し、変位の時系列データを作成する。
変位(上向きの変位を正)は、最小値となった後、増加に転じるため、増加後の変位の傾きの最大値を決定する。これは、速度データでは、ノイズにより最大値の決定が困難なためである。
そして、構造物10は上向きの速度が最大となった時点で剛体床面から反跳するとの仮定のもと、変位の傾きが最大に達した時刻を反跳時刻に設定する。
【0055】
ここで図6は積分による高周波の成分の相対強度を示すグラフであり、上側のデータは1回積分のもの、下側のデータは2回積分のものである。
式(2)及び式(4)の右辺の第2項(周期関数の和)に着目すると、積分した値の高周波成分の振幅(N)は、速度の場合、周波数に反比例して減少し、変位の場合、周波数の二乗に反比例して減少することが判る。
したがって、積分により得られた速度及び変位の時系列データは、高周波ノイズが減衰したデータとなることが期待できる。
【0056】
また、近似加速度時系列データにより算出した構造物10の変位に基づいて、反跳速度(vrc)を求める。
例えば、キャスクの9m落下試験の場合、9mの高さから自由落下することが定められているため、構造物10が剛体床面に接地する際の速度は一定(13.3m/s)である。よって、これを初期条件とすれば、1次衝撃後に生じる構造物10のリバウンド時の上向きの速度(反跳速度)を求めることができる。
【0057】
未補正速度算出ステップS2で算出した未補正の速度を、時刻判定ステップS3で判定した衝突時刻と反跳時刻に基づいて補正を行い、補正した速度の時系列データを算出する(S4:補正速度算出ステップ)。
補正速度算出ステップS4においては、時刻判定ステップS3で決定した起点(衝突時刻)を入力する。例えば、9m落下試験においては、起点の速度を13.3m/s(9m自由落下した際の速度)に補正した速度の時系列データを作成する。上記のように時刻判定ステップS3における衝突時刻を正確に判定することにより、衝突時刻を用いて算出する補正した速度の時系列データの精度を向上させることができる。また、反跳時刻を正確に判定することにより、補正した速度の時系列データの精度をさらに向上させることができる。
【0058】
補正した速度の時系列データに対して、最小二乗法による多項式近似、又はその他の方法による多項式近似を行い速度の近似多項式を導出する(S5:速度近似多項式導出ステップ)。
図6に示すように、積分により得られる速度は、高周波成分が減衰するため、ノイズの少ない時系列データとなる。そこで、速度近似多項式導出ステップS5においては、積分により得られた速度データを基に、最小二乗法による速度の近似を行う。ノイズ成分は周期関数の和であるため、最小二乗法の適用により、振幅を相殺することができる。
測定データに基づく速度の時系列データ{v(t)}は、下式(5)の台形公式より求める。
【数5】
ここで、Vは初期速度である。
【0059】
9m落下試験の場合、接地した瞬間(t=t)の速度が13.3m/sであるため、構造物10が床面に衝突(接地)した瞬間の時刻(t:接地時刻)を決定すれば、式(5)の初期速度を求めることができる。
落下加速度を測定するために用いる加速度センサ20の測定レンジは、通常、重力加速度の数千倍に設定されているため、剛体床面に衝突する以前の落下途上の重力加速度は検出されず、接地時点で急激に加速度が増加する特徴がある。
通常の9m落下試験では、複数の加速度センサ20が用いられることから、複数のセンサの加速度データが急激な増加を開始し、かつ積分で求めた速度が有意に増加を開始する時点を、総合的に判断して、衝突時刻を決定することができる。
上述のように、上向きの速度が最大となる時刻を反跳時刻(trc)、上向きの最大速度を反跳速度(vrc)とし、1次衝撃は、式(3)の時間範囲で構造物10に作用していると考えられる。
ここでは、式(5)で求めた速度データを用い、1次衝撃が作用している時刻内(式(3))における速度の時間関数(「速度の再現曲線」と呼称)を、最小二乗法により求める。
【0060】
速度の再現曲線(f(t))は、上述の始点(t=tの時、13.3m/s)と終点(t=trcの時、vrcm/s)を通る関数であることから、下式(6)の多項式で表現する。
【数6】
ここで、関数F(t)を下式(7)のように定義する。
【数7】
加速度を積分して得られた速度データ{v(t)}より、下式(8)のデータセット{w(t)}を作る。
【数8】
最小二乗法により、{w(t)}(j=1~N :Nは近似対象区間のデータ数)に対して残差平方和が最小となるF(t)を求める。
【数9】
ここで、k(t)=(t-t)・(t-trc
微分対象のCについて整理する。
【数10】
∂S/∂C=0より、
【数11】
よって、
【数12】
このように、マトリックス計算を用いて、n次方程式の係数(C)を決定する。
【0061】
速度近似多項式導出ステップS5で導出した速度の近似多項式に基づいて、落下試験における構造物10の速度を再現する(S6:速度再現ステップ)これにより、計測した時系列の加速度データからノイズを除いた、再現性の高い落下試験における構造物10の速度の時系列データを得ることができる。
図7図4に示される加速度より求めた速度の再現曲線である。図7中の点線は補正した速度の時系列データを示し、実線は最小二乗法による近似を行い再現した速度の時系列データを示している。
例えば、落下させる構造物10の重心近傍に加速度センサ20を取り付けた場合、加速度を積分すると、重心の速度になる。しかし、積分しただけの速度には、比較的低周波の周期的な変動が見られる。速度が周期的に変化するということは、重心を減速させる上向きの力と、加速させる下向きの力が交互に作用することを意味する。
構造物10がキャスクの場合、緩衝体12が潰れることで上向きの力が生じる。物が潰れる場合、物は変形と供に硬くなり、圧壊応力は増加してゆくことが想定される。この場合、速度を下向きに加速する力が生じることは考え難いため、速度に現れる低周波の周期成分はノイズの可能性が高い。
最小二乗法を用いて近似多項式を作ることで、比較的低周波のノイズを除くことができる。すなわち、速度の近似多項式に基づいて再現した速度は、低周波ノイズを除いた、より再現性の高い速度の時系列データになる。
例えば、構造物10の重心付近にマーカーを付け、高速度カメラ70の映像を分析すれば、マーカーの速度変化(時系列データ)を得ることができる。速度の近似多項式により再現した速度は、実験的に求めた速度の時系列データとの比較検討が可能である。
また、FEM(有限要素法)で求めた速度の時系列データと、速度の近似多項式により再現した速度とを比較することで、FEMの計算モデルの妥当性を検討することも可能である。これにより、FEM解析の妥当性評価に多様性を持たせることができる。
なお、多項式近似の方法は、最小二乗法以外の各種のカーブフィッティング方法であってもよい。
【0062】
速度の近似多項式に基づいて加速度の近似多項式を導出する(S7:加速度近似多項式導出ステップ)
加速度の再現曲線(fα(t))は、下式(13)のように速度の再現曲線を時間微分して得られる。得られる加速度からは、周期関数の和と仮定された高周波ノイズが除去されている。
【数13】
【0063】
加速度近似多項式導出ステップS7で導出した加速度の近似多項式である式(13)に基づいて、落下試験における構造物10の加速度を再現する(S8:加速度再現ステップ)。これにより、計測した時系列の加速度データに含まれるノイズを除去した構造物10の加速度を再現することができる。
一方、計測データ取得ステップS1で取得したノイズの乗った加速度の時系列データに対してローパスフィルタのカットオフ値を設定して入力し、フィルタ処理を行う。これにより、加速度波形であるフィルタ処理加速度データが得られる。
【0064】
図8はフィルタ処理により得た加速度と加速度再現ステップS8で再現した加速度との比較を示す図である。比較的滑らかな曲線は測定された加速度をフィルタ処理して得られたフィルタ処理加速度データを示し、他方の曲線は式(13)より求めた加速度の再現曲線である。なお、点線はダミーデータ(図4に示す計測した加速度の時系列データ)である。
図8より、加速度の再現曲線は、フィルタ処理により得られた加速度と整合していることが判る。
フィルタ処理して得られたフィルタ処理加速度データと、落下試験における構造物10の再現された加速度とを比較し(S9:加速度比較ステップ)、比較した結果に基づいてカットオフ値を最適化する。加速度比較ステップS9においては、フィルタ処理加速度データを参照値として、多項式近似した加速度との標準偏差(残差平方和)を計算する。また、カットオフ値を変化させて、標準偏差との相関を表示する。カットオフ値の最適化においては、標準偏差との相関により、例えば標準偏差が最小となるカットオフ値を選択するなど、カットオフ値を最適化する。従来のフィルタ処理におけるカットオフ値を最適化することにより、個々の経験に依らずに合理的に適切なカットオフ値を得ることができる。
キャスク設計においては、落下試験で測定された加速度から、キャスクの密封境界部(蓋部等)に作用する応力を求め、設計情報としている。従来は、フィルタ処理により得られた加速度(力)から、キャスクに作用した最大の加速度(力)を求めて、設計条件としているが、安全側に設定するためにカットオフ値を高めに設定することが通例であり、この場合、最大加速度は高くなり、過剰な設計条件となる可能性がある。一方、本発明では、上記のようにカットオフ値を最適化することで、設計条件をより適切に設定できることから、設計の最適化を図ることができる。
また、キャスクの許認可(設計承認)では、設計に用いる衝撃時の負荷(最大加速度)の設定が、審査上の重要な課題となる。上記のように、最大加速度はカットオフ値により変化するため、従来は、フィルタ処理に係る妥当性の評価(審査)のため、FEM解析の結果との比較検討等、多大の労力を要している。一方、本発明では、最適化したカットオフ値を設定するための参照値として使用することが可能となり、安全解析(安全審査)の合理化を図ることができる。
【0065】
加速度の再現曲線は、変位による評価や反跳高さによる評価により、定量的な検証を行うことができる。
まず、変位による評価について説明する。図9は補正した変位の時系列データを示すグラフである。
補正速度算出ステップS4で算出した補正した速度の時系列データに基づき、衝突時刻を起点とした積分処理を行い、補正した変位の時系列データを算出する(S10:補正変位算出ステップ)
1次衝撃時における加速度センサ20の位置の変化(変位:x)は、下式(14)の台形公式より求められる。
【数14】
構造物10が通常の100トン級のキャスクの場合、本体の両端(蓋及び底部)に緩衝体12を有し、キャスクは緩衝体12の変形により減速されるとともに、リバウンドが生じることから、キャスクには弾性変形が生じていると考えられる。
したがって、式(14)で求めた変位(加速度センサ20の位置情報)は、加速度センサ20の取り付け位置で観測された緩衝体12の変形量と弾性変形の和を表していると考えられる。よって、補正変位算出ステップS10を実行することにより、構造物10の変形量と関係付けられる補正した変位の時系列データを得ることができる。
接地の瞬間に、構造物10には変形がないと考えられるため、式(14)の積分定数(C)は、t=tの時、x=0となる初期条件により決定される。
なお、図9に示した変位は、最小(変形量最大)となった後、増加に転じて反跳することから、落下試験後に塑性変形量を求めて比較することにより、推定した弾性変形の影響を評価することが可能である。
【0066】
落下試験における構造物10の変位の実測データを取得し、取得した変位の実測データと、補正変位算出ステップS10で算出した補正した変位の時系列データとを比較する(S11:変位比較ステップ)。
上述のように加速度センサ20の変位は構造物10の変形量と関係付けることができる。9m落下試験の場合、落下後の塑性変形量(例えば、緩衝体12のつぶれ量)が測定されることから、補正した変位の時系列データと実測データ(実測された変形量)を比較すること、すなわち算出した変位の時系列データと変位の実測データとを比較することにより、加速度測定の妥当性を評価することができる。また、変位は、積分処理により求めた未補正の速度や、近似多項式の妥当性確認に利用することができる。
なお、落下試験における構造物10の速度の実測データを取得し、取得した速度の実測データと、算出した補正した速度の時系列データとを比較し、加速度測定の妥当性を評価することもできる。
【0067】
次に、反跳高さによる評価について説明する。加速度の積分により求めた速度からは、上述のように反跳時の速度が求まり、反跳時の速度が判れば、リバウンドして跳ね上がった高さを推定することができる。反跳高さ(hrc)は、反跳速度(vrc)に基づき、下式(15)で求められる。
【数15】
上記の例では、反跳速度は、2.75m/sであり、当該の9m落下試験における反跳高さは、式(15)より、38.6cmと推定される。このように、反跳高さを正確に検出できれば、構造物10の反跳速度を決定できる。
一方で、反跳高さは落下試験時に計測可能な量であり、計測データとして構造物10の落下試験における反跳高さの記録を取得する。反跳高さ(構造物10の跳ね上がった高さ)の記録値は、例えば、9m落下試験において高速度カメラ70で撮影した1次衝撃時の反跳高さの記録である映像を分析して取得する。あるいは、反跳高さの記録としてレーザー等を用いて直接、構造物10の反跳高さを記録値として取得することも可能である。
そして、式(15)に基づき反跳速度から求めた反跳高さの計算値と、取得した反跳高さの記録値とを比較する(S12:反跳高さ比較ステップ)。
このように積分で求めた反跳高さとリバウンド時に観測された反跳高さの記録値との比較によって、加速度より求めた速度(近似した速度)の妥当性を検証することができる。
【0068】
解析結果提供ステップS14において解析結果をユーザー等に提供するにあたっては、データの作図を行う(S13:作図ステップ)。これにより、作図された図の提供を受けた人は取得又は算出した時系列データの傾向把握や比較等をしやすくなる。
作図ステップS13においては、計測データ取得ステップS1における加速度の時系列データの作図(図4参照)、補正速度算出ステップS4における補正した速度の時系列データと、速度近似多項式導出ステップS5における速度の近似多項式より求めた速度の時系列データを合わせての作図(図7参照)、又は加速度近似多項式導出ステップS7における加速度の近似多項式より求めた加速度の時系列データと、測定等で求めた加速度の時系列データを合わせての作図(図8参照)、の少なくともいずれか一つを行う。
また、作図ステップS13においては、補正変位算出ステップS10における補正した変位の時系列データを作図してもよい(図9参照)。これにより、提供を受けた人は構造物10の変形量と関係付けられる算出した変位の傾向を把握しやすくなる。
【0069】
以上説明したように、本発明の構造物の落下挙動の解析方法によれば、計測した加速度の時系列データを積分して未補正の速度を求め、多項式近似を用いて速度の近似多項式を求め、速度の近似多項式に基づいて導出した加速度の近似多項式からノイズを除去した加速度を求めることができるため、人の経験に依存せずに合理的にデータ処理を行える。
なお、上記説明において、未補正速度算出ステップS2における積分処理には台形公式を用いたが、離散型データを積分する積分処理としては、台形公式に限らず、例えば下式(16)の計算方法を用いるなど、近似計算をする他の数値積分方法であっ
てもよい。
【数16】
【0070】
図10は構造物の落下挙動の解析システムの構成図である。
落下挙動の解析システムは、CPU91及びメモリ92を有するコンピュータ90と、落下試験の計測データをコンピュータ90に入力する入力手段100と、コンピュータ90を利用した解析結果を提供する解析結果提供手段110を備える。解析結果提供手段110は、例えば、モニタやプリンタ等である。
入力手段100は、データロガー30及び高速度カメラ70と接続されている。上述のようにデータロガー30は、加速度の時系列データや、構造物10が落下時に所定ポイントを通過した通過時刻を記録するものである。加速度の時系列データは構造物10に取り付けた加速度センサ20により計測され、通過時刻はレーザセンサ等の通過時刻検出手段80により計測される。また、高速度カメラ70は、構造物10の落下挙動を撮影する。入力手段100は、データロガー30に記録された加速度の時系列データ及び通過時刻データ、並びに高速度カメラ70の撮像データを、自動的に又は人の操作によりコンピュータ90に伝送する。入力手段100からコンピュータ90に入力される計測データには、加速度の時系列データが少なくとも含まれることが好ましい。
また、入力手段100からコンピュータ90に入力される計測データには、高速度カメラ70の撮像データや、通過時刻検出手段80の通過時刻データが含まれることが好ましい。これにより、撮像データに基づいて構造物10の速度変化や反跳高さを得たり、通過時刻データに基づいて剛体床50への構造物10の衝突時刻と反跳時刻を判定したりすることができる。
【0071】
コンピュータ90は、構造物の落下挙動の解析方法における計測データ取得ステップS1、未補正速度算出ステップS2、時刻判定ステップS3、補正速度算出ステップS4、速度近似多項式導出ステップS5、加速度近似多項式導出ステップS7、及び解析結果提供ステップS14を実行する。これにより、落下挙動の解析のために測定された加速度の時系列データに含まれる高周波ノイズの除去を、経験に依存してカットオフ値を決定する必要のあった従来のフィルタ処理とは異なり、経験に依存する手順を加えることなく機械的な一連の操作により実現することができる。
【0072】
また、コンピュータ90は、加速度再現ステップS8、又は速度再現ステップS6をさらに実行する。これにより、計測した時系列の加速度データに含まれるノイズを除去して構造物10の加速度を再現することができる。また、計測した時系列の加速度データからノイズを除いた、再現性の高い速度の時系列データを得ることができる。
【0073】
また、コンピュータ90は、加速度比較ステップS9をさらに実行する。従来のフィルタ処理におけるカットオフ値を最適化することにより、個々の経験に依らずに合理的に適切なカットオフ値を得ることができる。
【0074】
また、コンピュータ90は、補正変位算出ステップS10をさらに実行する。これにより、構造物10の変形量と関係づけられる補正した変位の時系列データを得ることができる。
【0075】
また、コンピュータ90は、変位比較ステップS11、又は反跳高さ比較ステップS12をさらに実行する。変位の実測データと算出した変位の時系列データとを比較することにより、加速度測定の妥当性を評価することができる。又は、積分で求めた反跳高さとリバウンド時に観測された反跳高さの記録値との比較によって、加速度より求めた速度の妥当性を検討することができる。
【0076】
また、コンピュータ90は、作図ステップS13をさらに実行する。これにより、作図された図により、取得又は算出した時系列データの傾向把握や比較等をしやすくなる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、従来のフィルタ処理と組み合わせて、又は単独で落下試験における評価に利用することもできる。
また、キャスク(使用済燃料用輸送容器)の落下試験等で測定される加速度データの処理に応用することができ、供試体に作用した衝撃力をより適切に決定できることから、キャスク設計の最適化や許認可ツール等として利用することができる。
また、各種機器やタブレットパソコンやスマートフォンなどの携帯端末等について行われる加速度センサを用いて衝撃力を求める落下試験等に利用することができる。
【符号の説明】
【0078】
10 構造物
20 加速度センサ
50 剛体床
70 高速度カメラ
80 通過時刻検出手段
90 コンピュータ
100 入力手段
110 解析結果提供手段
S1 計測データ取得ステップ
S2 未補正速度算出ステップ
S3 時刻判定ステップ
S4 補正速度算出ステップ
S5 速度近似多項式導出ステップ
S6 速度再現ステップ
S7 加速度近似多項式導出ステップ
S8 加速度再現ステップ
S9 加速度比較ステップ
S10 補正変位算出ステップ
S11 変位比較ステップ
S12 反跳高さ比較ステップ
S13 作図ステップ
S14 解析結果提供ステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10