(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-22
(45)【発行日】2025-05-01
(54)【発明の名称】Fmoc骨格を有する保護基で保護されたアミノ基含有化合物の定量法
(51)【国際特許分類】
G01N 30/88 20060101AFI20250423BHJP
G01N 30/06 20060101ALI20250423BHJP
G01N 30/86 20060101ALI20250423BHJP
G01N 30/04 20060101ALI20250423BHJP
【FI】
G01N30/88 J
G01N30/06 E
G01N30/86 J
G01N30/04 P
G01N30/88 F
(21)【出願番号】P 2021552421
(86)(22)【出願日】2020-10-15
(86)【国際出願番号】 JP2020038852
(87)【国際公開番号】W WO2021075478
(87)【国際公開日】2021-04-22
【審査請求日】2023-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2019188647
(32)【優先日】2019-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003311
【氏名又は名称】中外製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(72)【発明者】
【氏名】篠倉 潔
(72)【発明者】
【氏名】新居 啓司
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0022228(US,A1)
【文献】特表2008-529035(JP,A)
【文献】CARPINO, L. A. et al.,The 9-Fluorenylmethoxycarbonyl Function, a New Base-Sensitive Amino-Protecting Group,Journal of the American Chemical Society,Vol.92, No.19,1970年,p.5748-5749
【文献】MUSAIMI, O. A. et al.,Calculating Resin Functionalization in Solid-Phase Peptide Synthesis Using a Standardized Method based on Fmoc Determination,ACS Combinatorial Science,2019年10月14日,Vol.21,p.717-721
【文献】FREEMAN, C. E. et al.,Measurement of the FMOC loading of protected amine-functionalised polymer beads,Talanta,2005年,Vol.65,p.574-577
【文献】VARADY, L. et al.,Fast and quantitative high-performance liquid chromatography method for the determination of 9-fluorenylmethoxycarbonyl release from solid-phase synthesis resins,Journal of Chromatography A,2000年,Vol.869,p.171-179
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/88
G01N 30/06
G01N 30/86
G01N 30/04
C07C 13/54
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗生成物中に含まれる、Fmoc骨格を有する保護基で保護されたアミノ基含有化合物(以下、第一のFmoc化合物という)の含量を定量する方法であって、
溶液(以下、第一の溶液という)中、第一のFmoc化合物から保護基を塩基で脱保護し、それにより生成したジベンゾフルベンまたはその誘導体の含量を定量することを含
み、
前記アミノ基含有化合物が、β-アミノ酸、γ-アミノ酸、D型アミノ酸、N置換アミノ酸、α,α-二置換アミノ酸、非天然型アミノ酸、およびペプチドからなる群より選ばれる、前記方法。
【請求項2】
ジベンゾフルベンまたはその誘導体のピーク面積を測定することによって、ジベンゾフルベンまたはその誘導体の含量を定量する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
各ピーク面積をクロマトグラフ法により測定する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
各ピーク面積を同じ測定条件で測定する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
溶液(以下、第二の溶液という)中、標品として用いるFmoc骨格を有する保護基を有するアミノ基含有化合物(以下、第二のFmoc化合物という)から保護基を塩基で脱保護し、それにより生成したジベンゾフルベンまたはその誘導体の含量を定量することをさらに含み、
第一の溶液中のジベンゾフルベンまたはその誘導体の含量と第二の溶液中のジベンゾフルベンまたはその誘導体の含量とを対比することによって、第二のFmoc化合物に対する、第一のFmoc化合物の含有率(重量%)を算出する、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
第一のFmoc化合物および/または第二のFmoc化合物が、Fmoc骨格を有する保護基で保護された、アミノ酸、ペプチド、または低分子有機化合物である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
第一の溶液および第二の溶液において、脱保護反応が定量的に進行する、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
粗生成物のFmoc純度により、含有率を補正することをさらに含み、
ここで「Fmoc純度」とは、粗生成物に含まれる全ての種類のFmoc骨格を有する保護基で保護された化合物の含量の合計に対する第一のFmoc化合物の含量の割合である、請求項5~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
(i) 第一のFmoc化合物のピーク面積と(ii) 粗生成物中の第一のFmoc化合物以外のFmoc骨格を有する保護基で保護された化合物の各ピーク面積に基づいて、Fmoc純度を算出する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
内標準物質により、含有率を補正することをさらに含む、請求項5~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
第一の溶液中に含まれる内標準物質(以下、第一の内標準物質という)の含量と、第二の溶液中に含まれる内標準物質(以下、第二の内標準物質という)の含量とを対比することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
第一の内標準物質のピーク面積と第二の内標準物質のピーク面積を測定することによって、第一および第二の内標準物質の含量をそれぞれ定量する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
Fmoc骨格を有する保護基が下記式(1):
【化1】
(式中、
R
1~R
8は、独立して、水素、C
1-C
8アルキル、C
1-C
8フルオロアルキル、ハロゲン、スルホ、およびトリメチルシリルからなる群より選択され、
R
9~R
10は、独立して、水素、またはメチルである。)
で表される、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記塩基が有機塩基である、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
Fmoc骨格を有する保護基の除去後に、第一のおよび/または第二の溶液に酸を加えることをさらに含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Fmoc骨格を有する保護基で保護されたアミノ基含有化合物の定量法に関する。
【背景技術】
【0002】
分子ペプチド化合物(分子量500~2000)を用いて、タンパク-タンパク相互作用阻害、アゴニスト、分子シャペロンに代表されるtough targetへの創薬を可能とする創薬技術開発が近年注目を集めている。これらの化合物は一般的に固相上でN末端をFmoc基で保護したアミノ酸を伸長させることで合成される。医薬品の製造において、品質管理の観点で原材料の含量を評価することは非常に重要であり、ICHQ11において、GMP上の出発物質と設定された原材料については適切な品質管理項目を設けることが求められている。Fmoc-アミノ酸を出発物質とした場合、その含量は滴定で評価することが一般的であり、それ以外にも定量NMRが用いられる。試験の簡便性から滴定法が最も使用されているが、その測定物にカルボン酸などの酸が不純物として含まれている場合、含量測定の正確性が失われる欠点がある。また、定量NMRは官能基レベルで水素原子の核数を直接かつ正確に量ることができるという長所がある一方で、HPLCやGCといったクロマトグラフ法とは異なり多成分を分離できない。
【0003】
Fmoc基はアミノ基を含有する化合物の保護基として多用されている保護基である。このFmoc基は、紫外部(UV)吸収があるため、クロマトグラフ法での定量が可能である。またFmoc基を除去する際に生じるジベンゾフルベン(DBF)を利用して、ポリマービーズ上のFmoc基のローディング量を定量する方法が知られている(非特許文献1、2、3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】William S. N. et al. Biotechnol. Bioeng. 1998, 61, 55-60.
【文献】Laszlo V. et al. J. Chromatogr. A 2000, 869, 171-179.
【文献】Freeman C. E. et al. Talanta 2005, 65, 574-577.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の通り、Fmoc基は、紫外部(UV)吸収があるため、クロマトグラフ法での定量が可能である。しかしながら、化合物ごとに同一波長におけるモル吸光係数は異なり、また、ある条件下でモル吸光係数が同一化合物でもクロマトグラフ法における溶出時の溶媒組成が変化すると、モル吸光係数が異なることもあるため、定量する化合物ごとに、含量が確認されたその化合物の標品を用意する必要がある。例えば、天然アミノ酸からなるFmoc-アミノ酸の定量をクロマトグラフ法で実施する場合、そのFmoc-アミノ酸の標品はすでに多くのメーカーから販売されているため、クロマトグラフ法で標品とFmoc-アミノ酸を比較することにより定量することが可能である。一方で、近年使用されつつある非天然アミノ酸やFmoc基で保護されたペプチドの場合は、そのアミノ酸やペプチドの標品の入手が困難であるため、クロマトグラフ法で測定する場合、それらの標品を一つ一つ合成の上、含量を確認する必要がある。
【0006】
また、上記の先行技術文献は、ポリマービーズ上のFmoc基のローディング量を評価しているが、これはFmoc基を有する別の不純物も含めた定量評価である。さらに、Fmoc基を除去して生成するジベンゾフルベンは不安定な分子であり、時間が経過するにつれて分解していくため、Fmoc骨格を有する保護基で保護されたアミノ基含有化合物の定量精度の低下の原因となり得る。
【0007】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、Fmoc骨格を有する保護基で保護されたアミノ基含有化合物の一つの標品さえあれば、Fmoc骨格を有する保護基で保護されたアミノ基含有化合物を、医薬品を製造する上で必要な少数点第1位まで定量できる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題の解決手段として、以下を見出し、本発明を完成するに至った。
1)Fmoc骨格を有する保護基で保護されたアミノ基含有化合物自体を定量するのではなく、該化合物からFmoc骨格を有する保護基を除去し、それにより生成したジベンゾフルベンまたはその誘導体の含量を定量する間接的な手法により、該化合物を定量する新規な方法を見出した。
2)粗生成物中のFmoc骨格を有する保護基で保護されたアミノ基含有化合物の純度と、Fmoc骨格を有する保護基の除去後に生成されるジベンゾフルベンまたはその誘導体の含量に基づいて、Fmoc骨格を有する保護基で保護されたアミノ基含有化合物の含量を医薬品の原料品質管理に求められる小数点第1位まで算出できることを見出した。
3)純度の測定条件を、ジベンゾフルベンまたはその誘導体の測定条件と同様にすることで、誤差の少ない、正確な含量の算出を可能とした。
4)Fmoc骨格を有する保護基の脱保護反応の反応率が100%であり、副反応がほとんど0%である反応条件を見出し、より正確な定量を可能とした。
5)Fmoc骨格を有する保護基の除去後に生成するジベンゾフルベンまたはその誘導体を酸と混合することにより、ジベンゾフルベンまたはその誘導体の安定性を向上させ、より真値に近い値を算出できることを見出した。
すなわち、本発明は以下を含む。
【0009】
本発明は、以下のFmoc骨格を有する保護基で保護されたアミノ基含有化合物の定量法に関する。
(A1)粗生成物中に含まれる、Fmoc骨格を有する保護基で保護されたアミノ基含有化合物(以下、第一のFmoc化合物ということがある)の含量を定量する方法であって、
溶液(以下、第一の溶液ということがある)中、第一のFmoc化合物から保護基を塩基で脱保護し、それにより生成したジベンゾフルベンまたはその誘導体の含量を定量することを含む、方法。
(A2)溶液(以下、第二の溶液ということがある)中、標品として用いるFmoc骨格を有する保護基を有するアミノ基含有化合物(以下、第二のFmoc化合物ということがある)から保護基を塩基で脱保護し、それにより生成したジベンゾフルベンまたはその誘導体の含量を定量することをさらに含み、
第一の溶液中のジベンゾフルベンまたはその誘導体の含量と第二の溶液中のジベンゾフルベンまたはその誘導体の含量とを対比することによって、第二のFmoc化合物に対する、第一のFmoc化合物の含有率(重量%)を算出する、(A1)に記載の方法。
(A3)第一の溶液および第二の溶液において、脱保護反応が定量的に進行する、(A2)に記載の方法。
(A4)ジベンゾフルベンまたはその誘導体のピーク面積を測定することによって、ジベンゾフルベンまたはその誘導体の含量を定量する、(A1)から(A3)のいずれかに記載の方法。
(A5)粗生成物のFmoc純度により、含有率を補正することをさらに含み、
ここで「Fmoc純度」とは、粗生成物に含まれる全ての種類のFmoc骨格を有する保護基で保護された化合物の含量の合計に対する第一のFmoc化合物の含量の割合である、(A2)から(A4)のいずれかに記載の方法。
(A6)(i) 第一のFmoc化合物のピーク面積と(ii) 粗生成物中の第一のFmoc化合物以外のFmoc骨格を有する保護基で保護された化合物の各ピーク面積に基づいて、Fmoc純度を算出する、(A5)に記載の方法。
(A7)内標準物質により、含有率を補正することをさらに含む、(A2)から(A6)のいずれかに記載の方法。
(A8)第一の溶液中に含まれる内標準物質(以下、第一の内標準物質ということがある)の含量と、第二の溶液中に含まれる内標準物質(以下、第二の内標準物質ということがある)の含量とを対比することを含む、(A7)に記載の方法。
(A9)第一の内標準物質のピーク面積と第二の内標準物質のピーク面積を測定することによって、第一および第二の内標準物質の含量をそれぞれ定量する、(A8)に記載の方法。
(A10)第一および第二の内標準物質が、アントラセン、フェナントレン、ナフタレン、ベンゼン、トルエン、トリフェニレン、およびナフタセンからなる群から独立して選択される、(A8)~(A9)のいずれかに記載の方法。
(A11)第一および第二の内標準物質がアントラセンである、(A8)~(A10)のいずれかに記載の方法。
(A12)各ピーク面積をクロマトグラフ法により測定する、(A4)、(A6)、(A9)のいずれかに記載の方法。
(A13)クロマトグラフ法が液体クロマトグラフ法又はガスクロマトグラフ法である、(A12)に記載の方法。
(A14)各ピーク面積を同じ測定条件で測定する、(A12)または(A13)に記載の方法。
(A15)Fmoc骨格を有する保護基が下記式(1)で表される、(A1)から(A14)のいずれかに記載の方法:
(式中、
R
1~R
8は、独立して、水素、C
1-C
8アルキル、C
1-C
8フルオロアルキル、ハロゲン、スルホ、およびトリメチルシリルからなる群より選択され、
R
9~R
10は、独立して、水素、またはメチルである。)
(A16)前記Fmoc骨格を有する保護基がFmoc基、Fmoc(2,7tb)基、Fmoc(1Me)基、Fmoc(2F)基、Fmoc(2,7Br)基、mio-Fmoc基、dio-Fmoc基、tdf-Fmoc基、Fmoc(2TMS)基、Fmoc(2so3h)基、sm-Fmoc基、またはrm-Fmoc基である、(A1)から(A15)のいずれかに記載の方法。
(A17)前記Fmoc骨格を有する保護基がFmoc基である、(A1)から(A16)のいずれかに記載の方法。
(A18)第一のFmoc化合物および/または第二のFmoc化合物が、固相に担持されていない、(A1)から(A17)のいずれかに記載の方法。
(A19)第一のFmoc化合物および/または第二のFmoc化合物が、Fmoc骨格を有する保護基で保護された、アミノ酸、ペプチド、または低分子有機化合物である、(A1)から(A18)のいずれかに記載の方法。
(A20)第一のFmoc化合物および/または第二のFmoc化合物が、Fmoc骨格を有する保護基で保護された、アミノ酸またはペプチドである、(A1)から(A19)のいずれかに記載の方法。
(A21)前記アミノ酸がα-アミノ酸またはβ-アミノ酸である、(A19)または(A20)に記載の方法。
(A22)前記アミノ酸の主鎖のカルボキシ基が遊離のカルボキシ基である、(A19)から(A21)のいずれかに記載の方法。
(A23)前記ペプチドがα-アミノ酸および/またはβ-アミノ酸を含むか、またはα-アミノ酸および/またはβ-アミノ酸からなる、(A19)または(A20)に記載の方法。
(A24)前記塩基が有機塩基である、(A1)から(A23)のいずれかに記載の方法。
(A25)前記塩基が、アミン、アミジン骨格を有する塩基、およびグアニジン骨格を有する塩基からなる群より選択される、少なくとも1種である、(A1)から(A24)のいずれかに記載の方法。
(A26)前記有機塩基が、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(DBU)、2,3,6,7-テトラヒドロ-1H,5H-9-アザベンゾ[ij]キノリジン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン、7-メチル-1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン、1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、2-tert-ブチル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、1,8-ビス(テトラメチルグアニジノ)ナフタレン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、1-メチルピぺリジン、N,N’-ジメチルピペラジン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、p-ジメチルアミノピリジン、ピぺリジン、モルホリン、ジシクロヘキシルアミン、p-ジメチルアミノピリジン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、ピペラジン、およびテトラブチルアンモニウムフルオリドからなる群から選択される、(A24)に記載の方法。
(A27)前記塩基が3級アミンを1つまたは複数含み、1級および2級アミンを含まない有機塩基である、(A1)から(A26)のいずれかに記載の方法。
(A28)前記3級アミンを1つまたは複数含み、1級および2級アミンを含まない有機塩基が、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(DBU)、2,3,6,7-テトラヒドロ-1H,5H,-9-アザベンゾ[ij]キノリジン、1,4-ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン(DABCO)、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン、7-メチル-1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン、2-tert-ブチル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、1,8-ビス(テトラメチルグアニジノ)ナフタレン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、1-メチルピぺリジン、N,N’-ジメチルピペラジン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、およびp-ジメチルアミノピリジンからなる群から選択される、(A27)に記載の方法。
(A29)前記3級アミンを1つまたは複数含み、1級および2級アミンを含まない有機塩基が、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセンである、(A27)に記載の方法。
(A30)Fmoc骨格を有する保護基の除去後に、第一のおよび/または第二の溶液に酸を加えることをさらに含む、(A1)から(A29)のいずれかに記載の方法。
(A31)前記酸が有機酸および/または無機酸である、(A30)に記載の方法。
(A32)前記有機酸が、クエン酸、シュウ酸、マレイン酸、硫酸水素テトラメチルアンモニウム、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、モノフルオロ酢酸、ジフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、モノクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、(A31)に記載の方法。
(A33)前記無機酸が、リン酸、ホウ酸、塩酸、硝酸、硫酸、臭化水素酸、ホスホン酸、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、(A31)または(A32)に記載の方法。
(A34)第一のおよび/または第二の溶液の溶媒が、非プロトン性極性溶媒である、(A1)~(A33)のいずれかに記載の方法。
(A35)前記非プロトン性極性溶媒が、DMF、DMA、NMP、DMSO、またはアセトニトリルである、(A34)に記載の方法。
(A36)0℃~50℃の反応温度で保護基を脱保護する、(A1)から(A35)のいずれかに記載の方法。
(A37)含有率(重量%)が、下記式:
(式中、
C
sは、第二のFmoc化合物のモル濃度であり、
C
Tは、粗生成物が第一のFmoc化合物のみからなると仮定した場合の該粗生成物のモル濃度であり、
A
Sは、第二の溶液のジベンゾフルベンまたはその誘導体のピーク面積であり、
A
Tは、第一の溶液のジベンゾフルベンまたはその誘導体のピーク面積である。)
または、下記式:
(式中、
C
sは、第二のFmoc化合物のモル濃度であり、
C
Tは、粗生成物が第一のFmoc化合物のみからなると仮定した場合の該粗生成物のモル濃度であり、
IS
Sは、第二の溶液の内標準物質のピーク面積であり、
IS
Tは、第一の溶液の内標準物質のピーク面積であり、
A
Sは、第二の溶液のジベンゾフルベンまたはその誘導体のピーク面積であり、
A
Tは、第一の溶液のジベンゾフルベンまたはその誘導体のピーク面積である。)
または下記式:
(式中、
C
sは、第二のFmoc化合物のモル濃度であり、
C
Tは、粗生成物が第一のFmoc化合物のみからなると仮定した場合の該粗生成物のモル濃度であり、
A
Sは、第二の溶液のジベンゾフルベンまたはその誘導体のピーク面積であり、
A
Tは、第一の溶液のジベンゾフルベンまたはその誘導体のピーク面積であり、
P
Sは、Fmoc純度である。)
または、下記式:
(式中、
C
sは、第二のFmoc化合物のモル濃度であり、
C
Tは、粗生成物が第一のFmoc化合物のみからなると仮定した場合の該粗生成物のモル濃度であり、
IS
Sは、第二の溶液の内標準物質のピーク面積であり、
IS
Tは、第一の溶液の内標準物質のピーク面積であり、
A
Sは、第二の溶液のジベンゾフルベンまたはその誘導体のピーク面積であり、
A
Tは、第一の溶液のジベンゾフルベンまたはその誘導体のピーク面積であり、
P
Sは、Fmoc純度である。)
から算出される、(A2)から(A36)のいずれかに記載の方法。
【0010】
また本発明は、以下のジベンゾフルベンまたはその誘導体を安定化する方法にも関する。
(B1)粗生成物に含まれるジベンゾフルベンまたはその誘導体を安定化する方法であって、ジベンゾフルベンまたはその誘導体と酸とを混合することを含む、方法。
(B2)Fmoc骨格を有する保護基で保護されたアミノ基含有化合物(以下、Fmoc化合物ということがある)から該Fmoc骨格を有する保護基を除去することにより生成したジベンゾフルベンまたはその誘導体と酸とを混合することを含む、(B1)に記載の方法。
(B3)前記Fmoc骨格を有する保護基が下記式(1)で表される、(B2)に記載の方法:
(式中、
R
1~R
8は、独立して、水素、C
1-C
8アルキル、C
1-C
8フルオロアルキル、ハロゲン、スルホ、およびトリメチルシリルからなる群より選択され、
R
9~R
10は、独立して、水素、またはメチルである。)
(B4)前記Fmoc骨格を有する保護基がFmoc基、Fmoc(2,7tb)基、Fmoc(1Me)基、Fmoc(2F)基、Fmoc(2,7Br)基、mio-Fmoc基、dio-Fmoc基、tdf-Fmoc基、Fmoc(2TMS)基、Fmoc(2so3h)基、sm-Fmoc基、またはrm-Fmoc基である、(B2)または(B3)に記載の方法。
(B5)前記Fmoc骨格を有する保護基がFmoc基である、(B2)から(B4)のいずれかに記載の方法。
(B6)前記Fmoc化合物が固相に担持されていないFmoc骨格を有する保護基で保護された低分子有機化合物である、(B2)から(B5)のいずれかに記載の方法。
(B7)前記Fmoc化合物がFmoc骨格を有する保護基で保護された、アミノ酸、ペプチド、又は低分子有機化合物である、(B2)から(B6)のいずれかに記載の方法。
(B8)前記Fmoc化合物が、Fmoc骨格を有する保護基で保護された、アミノ酸又はペプチドである、(B2)から(B7)のいずれかに記載の方法。
(B9)前記アミノ酸がα-アミノ酸又はβ-アミノ酸である、(B7)または(B8)に記載の方法。
(B10)前記ペプチドがα-アミノ酸及び/又はβ-アミノ酸を含むか、またはα-アミノ酸および/またはβ-アミノ酸からなる、(B7)または(B8)に記載の方法。
(B11)前記酸が有機酸及び/又は無機酸である、(B2)に記載の方法。
(B12)前記有機酸が、クエン酸、シュウ酸、マレイン酸、硫酸水素テトラメチルアンモニウム、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、モノフルオロ酢酸、ジフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、モノクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、(B11)に記載の方法。
(B13)前記無機酸が、リン酸、ホウ酸、塩酸、硝酸、硫酸、臭化水素酸、ホスホン酸、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、(B11)に記載の方法。
【0011】
また本開示は、以下の安定化剤にも関する。
(C1)ジベンゾフルベンまたはその誘導体を安定化するための安定化剤。
(C2)酸である、(C1)に記載の安定化剤。
(C3)前記酸が有機酸及び/又は無機酸である、(C2)に記載の安定化剤。
(C4)前記有機酸が、クエン酸、シュウ酸、マレイン酸、硫酸水素テトラメチルアンモニウム、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、モノフルオロ酢酸、ジフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、モノクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、(C3)に記載の安定化剤。
(C5)前記無機酸が、リン酸、ホウ酸、塩酸、硝酸、硫酸、臭化水素酸、ホスホン酸、及び、それらの組み合わせからなる群から選択される、(C3)に記載の安定化剤。
【0012】
あるいは、本開示は、以下のアミノ基含有化合物の定量法にも関する。
(D1)粗生成物中に含まれるFmoc骨格を有する保護基で保護されたアミノ基含有化合物(以下、Fmoc化合物ということがある)から生成したアミノ基含有化合物の含量を定量する方法であって、
Fmoc化合物からFmoc骨格を有する保護基を除去することにより生成したアミノ基含有化合物の含量を定量することを含む、方法。
(D2)前記アミノ基含有化合物の含量をクロマトグラフ法により測定する、(D1)に記載の方法。
(D3)前記クロマトグラフ法が親水性相互作用クロマトグラフ法(HILIC)である、(D2)に記載の方法。
(D4)前記クロマトグラフ法による検出器が荷電化粒子検出器(CAD)及び/又は質量分析計である、(D2)から(D3)のいずれかに記載の方法。
(D5)前記Fmoc骨格を有する保護基が下記式(1)で表される、(D1)から(D4)のいずれかに記載の方法:
(式中、
R
1~R
8は、独立して、水素、C
1-C
8アルキル、C
1-C
8フルオロアルキル、ハロゲン、スルホ、およびトリメチルシリルからなる群より選択され、
R
9~R
10は、独立して、水素、またはメチルである。)
(D6)前記Fmoc骨格を有する保護基がFmoc基、Fmoc(2,7tb)基、Fmoc(1Me)基、Fmoc(2F)基、Fmoc(2,7Br)基、mio-Fmoc基、dio-Fmoc基、tdf-Fmoc基、Fmoc(2TMS)基、Fmoc(2so3h)基、sm-Fmoc基、またはrm-Fmoc基である、(D1)から(D5)のいずれかに記載の方法。
(D7)前記Fmoc骨格を有する保護基がFmoc基である、(D1)から(D6)のいずれかに記載の方法。
(D8)前記Fmoc化合物が、固相に担持されていない、(D1)から(D7)のいずれかに記載の方法。
(D9)前記Fmoc化合物が、Fmoc骨格を有する保護基で保護された、アミノ酸、ペプチド、又は低分子有機化合物である、(D1)から(D8)のいずれかに記載の方法。
(D10)前記Fmoc化合物が、Fmoc骨格を有する保護基で保護された、アミノ酸又はペプチドである、(D1)から(D9)のいずれかに記載の方法。
(D11)前記アミノ酸がα-アミノ酸又はβ-アミノ酸である、(D9)または(D10)に記載の方法。
(D12)前記ペプチドがα-アミノ酸及び/又はβ-アミノ酸を含むか、またはα-アミノ酸および/またはβ-アミノ酸からなる、(D9)または(D10)に記載の方法。
(D13)前記アミノ酸の主鎖のカルボキシ基が遊離のカルボキシ基である、(D9)から(D12)のいずれかに記載の方法。
(D14)前記Fmoc骨格を有する保護基が塩基で除去される、(D1)から(D13)のいずれかに記載の方法。
(D15)前記塩基が有機塩基である、(D14)に記載の方法。
(D16)前記塩基が、アミン、アミジン骨格を有する塩基、及びグアニジン骨格を有する塩基からなる群より選択される、少なくとも1種の塩基である、(D14)または(D15)に記載の方法。
(D17)前記有機塩基が1,8-ジアザビシクロ[5.4.0〕-7-ウンデセン(DBU)、2,3,6,7-テトラヒドロ-1H,5H-9-アザベンゾ[ij]キノリジン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン、7-メチル-1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン、1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、2-tert-ブチル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、1,8-ビス(テトラメチルグアニジノ)ナフタレン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、1-メチルピぺリジン、N,N’-ジメチルピペラジン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、p-ジメチルアミノピリジン、ピぺリジン、モルホリン、ジシクロヘキシルアミン、p-ジメチルアミノピリジン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、ピペラジン、およびテトラブチルアンモニウムフルオリドからなる群から選択される、(D15)に記載の方法。
(D18)前記塩基が3級アミンを1つまたは複数含み、1級および2級アミンを含まない有機塩基である、(D14)から(D17)のいずれかに記載の方法。
(D19)前記3級アミンを1つまたは複数含み、1級および2級アミンを含まない有機塩基が1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(DBU)、2,3,6,7-テトラヒドロ-1H,5H,-9-アザベンゾ[ij]キノリジン、1,4-ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン(DABCO)、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン、7-メチル-1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン、2-tert-ブチル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、1,8-ビス(テトラメチルグアニジノ)ナフタレン、1,8-ビス(テトラメチルグアニジノ)ナフタレン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、1-メチルピぺリジン、N,N’-ジメチルピペラジン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、およびp-ジメチルアミノピリジンからなる群から選択される、(D18)に記載の方法。
(D20)前記3級アミンを1つまたは複数を含み、1級および2級アミンを含まない有機塩基が1,8-ジアザビシクロ〔5.4.0〕-7-ウンデセンである、(D18)または(D19)に記載の方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の方法によれば、分析試料中に含まれる、Fmoc骨格を有する保護基で保護されたアミノ基含有化合物の含量を、高精度で簡便に定量することが可能である。よって、本発明は、医薬品を製造する上で必要な品質レベルで前記化合物を定量するための極めて有用な手法となり得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、実施例1における標準溶液(Fmoc-Gly-OHをDBU処理した溶液)のクロマトグラムを表した図である。
【
図2】
図2は、実施例1において粗Fmoc-NMe-Val-OHを含む試料溶液をDBUで処理した後の該試料溶液のクロマトグラムを表した図である。
【
図3】
図3は、実施例1において粗Fmoc-Pro-OHを含む試料溶液をDBUで処理した後の該試料溶液のクロマトグラムを表した図である。
【
図4】
図4は、実施例1において粗Fmoc-NMe-Ala-OHを含む試料溶液をDBUで処理した後の該試料溶液のクロマトグラムを表した図である。
【
図5】
図5は、実施例1において粗Fmoc-Ile-OHを含む試料溶液をDBUで処理した後の該試料溶液のクロマトグラムを表した図である。
【
図6】
図6は、実施例1において粗Fmoc-NMe-Leu-OHを含む試料溶液をDBUで処理した後の該試料溶液のクロマトグラムを表した図である。
【
図7】
図7は、実施例1において粗Fmoc-NMe-Gly-OHを含む試料溶液をDBUで処理した後の該試料溶液のクロマトグラムを表した図である。
【
図8】
図8は、実施例2における標準溶液(Fmoc-Gly-OHをDBU処理した溶液)のクロマトグラムを表した図である。
【
図9】
図9は、実施例2において粗Fmoc-Val-OHを含む試料溶液をDBUで処理した後の該試料溶液のクロマトグラムを表した図である。
【
図10】
図10は、実施例2において粗Fmoc-Phe-OHを含む試料溶液をDBUで処理した後の該試料溶液のクロマトグラムを表した図である。
【
図11】
図11は、実施例2において粗Fmoc-NMe-Val-OHを含む試料溶液をDBUで処理した後の該試料溶液のクロマトグラムを表した図である。
【
図12-1】
図12-1は、実施例3における粗Fmoc-Val-OHを含む試料溶液について、DBUでの処理前と処理後の各試料溶液のクロマトグラムを比較した図である。
【
図13】
図13は、実施例3における粗Fmoc-Val-OHを含む試料溶液について、DBUで処理する前の該試料溶液のクロマトグラムを表した図である。
【
図14】
図14は、実施例3における粗Fmoc-Val-OHを含む試料溶液について、DBUで処理した後の該試料溶液のクロマトグラムを表した図である。
【
図15-1】
図15-1は、実施例3における粗Fmoc-Phe-OHを含む試料溶液について、DBUでの処理前と処理後の各試料溶液のクロマトグラムを比較した図である。
【
図16】
図16は、実施例3における粗Fmoc-Phe-OHを含む試料溶液について、DBUで処理する前の該試料溶液のクロマトグラムを表した図である。
【
図17】
図17は、実施例3における粗Fmoc-Phe-OHを含む試料溶液について、DBUで処理した後の該試料溶液のクロマトグラムを表した図である。
【
図18-1】
図18-1は、実施例3における粗Fmoc-NMe-Val-OHを含む試料溶液について、DBUでの処理前と処理後の各試料溶液のクロマトグラムを比較した図である。
【
図19】
図19は、実施例3における粗Fmoc-NMe-Val-OHを含む試料溶液について、DBUで処理する前の該試料溶液のクロマトグラムを表した図である。
【
図20】
図20は、実施例3における粗Fmoc-NMe-Val-OHを含む試料溶液について、DBUで処理した後の該試料溶液のクロマトグラムを表した図である。
【
図21】
図21は、実施例5における本発明のDBFによる定量法を用いて算出した各Fmoc-アミノ酸の含有率と、定量NMRによって算出した各Fmoc-アミノ酸の含有率との比較を示した図である。
【
図22】
図22は、実施例6におけるH-NMe-Gly-OHの標準溶液のクロマトグラムを表した図である。
【
図23】
図23は、実施例6における粗Fmoc-NMe-Gly-OHを含む試料溶液について、DBUで処理した後の該試料溶液のクロマトグラムを表した図である。
【
図24】
図24は、実施例6におけるH-NMe-Gly-OHの標準溶液のクロマトグラムと、DBUでの処理後の粗Fmoc-NMe-Gly-OHを含む試料溶液のクロマトグラムとを比較した図である。
【
図25】
図25は、実施例7における標準溶液(Fmoc-Gly-OHをDBU処理した溶液)のクロマトグラムを表した図である。
【
図26】
図26は、実施例7における粗Fmoc-Phe-Phe-OHを含む試料溶液をDBU処理した溶液のクロマトグラムを表した図である。
【
図27】
図27は、実施例7における粗Fmoc-Gly-Gly-OHを含む試料溶液をDBU処理した溶液のクロマトグラムを表した図である。
【
図28】
図28は、実施例7における粗Fmoc-Gly-Leu-OHを含む試料溶液をDBU処理した溶液のクロマトグラムを表した図である。
【
図29】
図29は、実施例7における粗Fmoc-Gly-bAla-OHを含む試料溶液をDBU処理した溶液のクロマトグラムを表した図である。
【
図30】
図30は、実施例7における粗Fmoc-Phe-Phe-OHを含む試料溶液について、DBUでの処理前と処理後の各試料溶液のクロマトグラムを比較した図である。
【
図31】
図31は、実施例7における粗Fmoc-Gly-Gly-OHを含む試料溶液について、DBUでの処理前と処理後の各試料溶液のクロマトグラムを比較した図である。
【
図32】
図32は、実施例7における粗Fmoc-Gly-Leu-OHを含む試料溶液について、DBUでの処理前と処理後の各試料溶液のクロマトグラムを比較した図である。
【
図33】
図33は、実施例7における粗Fmoc-Gly-bAla-OHを含む試料溶液について、DBUでの処理前と処理後の各試料溶液のクロマトグラムを比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(略号)
本明細書において使用される記号、略号の意味を以下に示す。
Fmoc:9-フルオレニルメトキシカルボニル
DBF:ジベンゾフルベン
DBU:1,8-ジアザビシクロ〔5.4.0〕-7-ウンデセン
DMF:N,N-ジメチルホルムアミド
DMA:N,N-ジメチルアセトアミド
NMP:N-メチルピロリドン
DMSO:ジメチルスルホキシド
TFA:トリフルオロ酢酸
TFE:2,2,2-トリフルオロエタノール
TMS:トリメチルシリル
CH3CN:アセトニトリル
Na2SO4:硫酸ナトリウム
Pip:ピペリジン
HILIC:親水性相互作用クロマトグラフィー
CAD:Charged Aerosol Detector
HPLC:高速液体クロマトグラフィー
GC:ガスクロマトグラフィー
PDA:Photodiode Array
Gly:グリシン
Ala:アラニン
Val:バリン
Leu:ロイシン
Ile:イソロイシン
Met:メチオニン
Phe:フェニルアラニン
Tyr:チロシン
Trp:トリプトファン
His:ヒスチジン
Lys:リジン
Arg:アルギニン
Ser:セリン
Thr:トレオニン
Asp:アスパラギン酸
Glu:グルタミン酸
Asn:アスパラギン
Gln:グルタミン
Cys:システイン
Pro:プロリン
Cha:シクロヘキシルアラニン
cLeu: シクロロイシン
NMe:N-メチル
bAla:β-アラニン
【0016】
ある態様において、本発明は、粗生成物中または分析試料中のFmoc骨格を有する保護基で保護されたアミノ基含有化合物(以下において、第一のFmoc化合物ということがある)の含量を定量する方法に関する。
【0017】
ある態様において、前記方法は、溶液(以下、第一の溶液ということがある)中、第一のFmoc化合物から保護基を塩基で脱保護し、それにより生成したジベンゾフルベンまたはその誘導体の含量を定量することを含む。
【0018】
ある態様において、前記方法は、第一の溶液とは別個の溶液(以下、第二の溶液ということがある)中、標品として用いるFmoc骨格を有する保護基を有するアミノ基含有化合物(以下、第二のFmoc化合物という)から保護基を塩基で脱保護し、それにより生成したジベンゾフルベンまたはその誘導体の含量を定量することをさらに含む。この場合、第一の溶液中のジベンゾフルベンまたはその誘導体の含量と第二の溶液中のジベンゾフルベンまたはその誘導体の含量とを対比することによって、第二のFmoc化合物に対する、第一のFmoc化合物の含有率(重量%)を算出することができる。
【0019】
本発明における「分析試料」はFmoc骨格を有する保護基で保護されたアミノ基含有化合物を含む試料のことを言う。分析試料としては、ろ過や吸着、再結晶、蒸留、抽出、クロマトグラフィーなどを利用することにより、分析試料由来の不純物や、水分、有機塩、無機塩、残留溶媒などの不純物が除去された粗生成物を用いることが好ましい。
【0020】
本発明における「含量」は、分析試料(粗生成物)中あるいは溶液中に含まれている、任意の物質の量、例えば、Fmoc骨格を有する保護基で保護されたアミノ基含有化合物、アミノ基含有化合物(脱保護体)、ジベンゾフルベンまたはその誘導体、内標準物質などの量を意味する。
【0021】
本発明における「アミノ基含有化合物」は、第1級アミノ基および/または第2級アミノ基を有する任意の化合物を意味する。アミノ基含有化合物に含まれるアミノ基の数は特に限定されないが、好ましくは1~2個、さらに好ましくは1個である。アミノ基含有化合物としては、例えば、アミノ酸、ペプチド、低分子有機化合物等が挙げられる。アミノ基含有化合物は、固相(例えば、固相合成用樹脂)に担持されていても、担持されていなくてもよい。
【0022】
本明細書において「固相合成用樹脂」は、固相法によるペプチド化合物の合成に用いることができるものであれば、特に限定されない。このような固相合成用樹脂として、具体的には、例えば、CTC樹脂、Wang樹脂、SASRIN樹脂、トリチルクロリド樹脂(Trt樹脂)、4-メチルトリチルクロリド樹脂(Mtt樹脂)、4-メトキシトリチルクロリド樹脂(Mmt)などの酸性条件で除去可能なものが挙げられる。樹脂は、用いられるアミノ酸側の官能基に合わせて適宜選択することができる。例えば、アミノ酸側の官能基としてカルボン酸(主鎖カルボン酸、もしくは、AspやGluに代表される側鎖カルボン酸)、又は、芳香環上のヒドロキシ基(Tyrに代表されるフェノール基)を用いる場合には、樹脂として、トリチルクロリド樹脂(Trt樹脂)もしくは2-クロロトリチルクロリド樹脂(CTC樹脂)を用いることが好ましい。アミノ酸側の官能基として脂肪族ヒドロキシ基(SerやThrに代表される脂肪族アルコール基)を用いる場合には、樹脂として、トリチルクロリド樹脂(Trt樹脂)、2-クロロトリチルクロリド樹脂(CTC樹脂)もしくは4-メチルトリチルクロリド樹脂(Mtt樹脂)を用いることが好ましい。なお、本明細書中にて、樹脂をレジンと記載する場合もある。
【0023】
樹脂を構成するポリマーの種類についても特に限定されない。ポリスチレンで構成される樹脂の場合には、100-200meshもしくは200-400meshのいずれを用いても良い。また、架橋率についても特に限定されないが、1%DVB(ジビニルベンゼン)架橋のものが好ましい。また、樹脂を構成するポリマーの種類として、TentagelまたはChemmatrixが挙げられる。
【0024】
本明細書における「アミノ酸」は、「天然アミノ酸」でも「アミノ酸類縁体」でもよい。本明細書において「アミノ酸」、「天然アミノ酸」、「アミノ酸類縁体」を、それぞれ、「アミノ酸残基」、「天然アミノ酸残基」、「アミノ酸類縁体残基」ということがある。
【0025】
「天然アミノ酸」とは、α-アミノカルボン酸(α-アミノ酸)であり、タンパク質に含まれる20種類のアミノ酸を指す。具体的には、Gly、Ala、Ser、Thr、Val、Leu、Ile、Phe、Tyr、Trp、His、Glu、Asp、Gln、Asn、Cys、Met、Lys、Arg、Proを指す。
【0026】
「アミノ酸類縁体」は、特に限定されないが、β-アミノ酸、γ-アミノ酸、D型アミノ酸、N置換アミノ酸、α,α-二置換アミノ酸、ヒドロキシカルボン酸、非天然型アミノ酸(側鎖が天然と異なるアミノ酸;例えば、非天然型のα-アミノ酸、β-アミノ酸、γ-アミノ酸)を含む。α-アミノ酸の場合、D型アミノ酸でもよく、α,α-ジアルキルアミノ酸でもよい。β-アミノ酸やγ-アミノ酸の場合も、α-アミノ酸と同様に、任意の立体配置が許容される。アミノ酸側鎖の選択は特に制限を設けないが、水素原子の他にも例えばアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アラルキル基、シクロアルキル基から自由に選択される。それぞれには置換基が付与されていてもよく、それら置換基も例えば、N原子、O原子、S原子、B原子、Si原子、P原子を含む任意の官能基の中から自由に選択される(すなわち、置換されていてもよいアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アラルキル基、シクロアルキル基など)。
【0027】
アミノ酸の主鎖アミノ基は、非置換(NH2基)でもよく、置換されていてもよい(即ち、-NHR基:Rは、例えば、置換基を有していてもよいアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル、またはシクロアルキルであり、またプロリンのようにN原子に結合した炭素鎖とα位の炭素原子とが環を形成していてもよい)。このような主鎖アミノ基が置換されているアミノ酸を、本明細書において「N置換アミノ酸」と称する。本明細書における「N置換アミノ酸」としては、好ましくはN-アルキルアミノ酸(例えば、N-C1-C6アルキルアミノ酸、N-C1-C4アルキルアミノ酸、N-メチルアミノ酸など)、N-シクロアルキルアミノ酸、N-シクロアルキルアルキルアミノ酸、N-アリールアミノ酸、N-アラルキルアミノ酸などが例示されるが、これらに限定されない。
【0028】
アミノ酸の主鎖カルボキシ基は、非置換(カルボキシ基:COOH基)でもよく、またエステル基を形成していてもよい(即ち、-COOR基:Rは、例えば、置換されていてもよいアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル、またはシクロアルキルである)。このような主鎖カルボキシ基がエステル基を形成しているアミノ酸を、本明細書において「アミノ酸エステル」と称する。本明細書における「アミノ酸エステル」としては、アミノ酸C1-10アルキルエステル、アミノ酸ベンジルエステル、アミノ酸〔2,4-ジ(C1-C25アルコキシ)フェニル〕メチルエステル、アミノ酸(3,4,5-トリC1-C25アルコキシフェニル)メチルエステル、アミノ酸メチルエステル、アミノ酸エチルエステル、アミノ酸tert-ブチルエステル、アミノ酸トリチルエステル、アミノ酸 (3,4,5-トリオクタデコキシフェニル)メチルエステル、アミノ酸〔2-(12-ドコソキシドデコキシ)-9-(3-フルオロフェニル)フルオレン-9-イル〕エステル、〔2,4-ジ(ドコソキシ)フェニル〕メチルエステルなどが例示されるが、これらに限定されない。
【0029】
アミノ酸の主鎖カルボキシ基は、アミド基を形成していてもよい(即ち、-CONR1R2基:R1およびR2は、例えば、水素、置換されていてもよいアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル、およびシクロアルキルからなる群より独立して選択される)。このような主鎖カルボキシ基がアミド基に置換されているアミノ酸を、本明細書において「アミノ酸アミド」と称する。本明細書における「アミノ酸アミド」としては、アミノ酸C1-C10アルキルアミド、アミノ酸ベンジルアミド、アミノ酸ビス〔4-(ドコソキシ)フェニル〕メチルアミド(AJIPHASE(登録商標))などが例示されるが、これらに限定されない。
【0030】
本明細書において「側鎖」とは、アミノ酸の側鎖、又は環状ペプチドの環状部の側鎖などの文脈で使用され、それぞれの主鎖構造に含まれない部分を意味する。
【0031】
本明細書において、「ペプチド」には、2以上のアミノ酸が連結された直鎖状または環状のペプチドが含まれ、アミノ酸は、「天然アミノ酸」でも「アミノ酸類縁体」でもよい。
【0032】
ペプチドを構成する「天然アミノ酸」、「アミノ酸類縁体」にはそれぞれに対応する全ての同位体を含む。「天然アミノ酸」、「アミノ酸類縁体」の同位体は、少なくとも1つの原子が、原子番号(陽子数)が同じで、質量数(陽子と中性子の数の和)が異なる原子で置換されたものである。本発明のペプチドを構成する「天然アミノ酸」、「アミノ酸類縁体」に含まれる同位体の例としては、水素原子、炭素原子、窒素原子、酸素原子、リン原子、硫黄原子、フッ素原子、塩素原子などがあり、それぞれ、2H、3H、13C、14C、15N、17O、18O、32P、35S、18F、36Cl等が含まれる。
【0033】
本発明において、「有機化合物」とは、炭素を含む化合物のことを意味する。
【0034】
本発明において「低分子有機化合物」とは、分子量の小さい炭素を含む化合物のことを意味し、その分子量は1500ダルトン以下が好ましい。
【0035】
本発明において「Fmoc骨格を有する保護基」とは、Fmoc基またはFmoc基の構成骨格の任意の位置に任意の置換基が導入された基を意味する。このようなFmoc骨格を有する保護基として、具体的には下記式(1)で表される保護基が挙げられる
(式中、
R
1~R
8は、独立して、水素、C
1-C
8アルキル、C
1-C
8フルオロアルキル、ハロゲン、スルホ、およびトリメチルシリルからなる群より選択され、
R
9~R
10は、独立して、水素またはメチルである。)。
【0036】
Fmoc骨格を有する保護基としてより具体的には、例えば、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)基、2,7-ジ-tert-ブチル-Fmoc (Fmoc(2,7tb))基、1-メチル-Fmoc (Fmoc(1Me))基、2-フルオロ-Fmoc (Fmoc(2F))基、2,7-ジブロモ-Fmoc (Fmoc(2,7Br))基、2-モノイソオクチル-Fmoc (mio-Fmoc)基、2,7-ジイソオクチル-Fmoc (dio-Fmoc)基、2,7-(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロオクチル)-Fmoc (tdf-Fmoc)基、2,7-ビス(トリメチルシリル)-Fmoc(Fmoc(2TMS))基、(2-スルホ-9H-フルオレン-9-イル)メトキシカルボニル基(Fmoc(2so3h))、[(1S)-1-(9H-フルオレン-9-イル)エトキシ]カルボニル基(sm-Fmoc)、[(1R)-1-(9H-フルオレン-9-イル)エトキシ]カルボニル基(rm-Fmoc)などが挙げられる。これらFmoc骨格を有する保護基を導入するための試薬は、購入することができるか、あるいは既知の方法によって合成することができる。
【0037】
本発明において「Fmoc骨格を有する保護基で保護されたアミノ基含有化合物」とは、アミノ基含有化合物が有する第1級アミノ基および/または第2級アミノ基の少なくとも一つが、Fmoc骨格を有する保護基で保護された化合物を意味する。
【0038】
本発明において「Fmoc骨格を有する保護基で保護されたアミノ酸」とは、主鎖及び/又は側鎖のアミノ基の少なくとも一つが、Fmoc骨格を有する保護基で保護されている、天然アミノ酸またはアミノ酸類縁体である。
【0039】
本発明において「Fmoc基で保護されたアミノ基含有化合物」とは、アミノ基含有化合物が有する第1級アミノ基および/または第2級アミノ基の少なくとも一つが、Fmoc基で保護された化合物を意味する。
【0040】
本発明において「Fmoc基で保護されたアミノ酸」とは、主鎖及び/又は側鎖のアミノ基の少なくとも一つが、Fmoc基で保護された、天然アミノ酸またはアミノ酸類縁体である。Fmoc基で保護されたアミノ酸、Fmoc基で保護された天然アミノ酸、Fmoc基で保護されたアミノ酸類縁体を、「Fmoc-アミノ酸」、「Fmoc-天然アミノ酸」、「Fmoc-アミノ酸類縁体」とそれぞれいう場合がある。
【0041】
本発明において利用できるFmoc基で保護されたアミノ酸を以下に例示するが、それらに限定されない。これらのFmoc基で保護されたアミノ酸の多くは側鎖が保護あるいは無保護、アミン部位が保護あるいは無保護の状態で購入することができる。購入できないものは、既知の方法によって合成することができる。
【0042】
本発明において「Fmoc骨格を有する保護基で保護されたペプチド」とは前記「Fmoc骨格を有する保護基で保護されたアミノ酸」を含むペプチドを意味する。このようなペプチドとして、例えば、上述のFmoc骨格を有する保護基で保護された天然アミノ酸とFmoc骨格を有する保護基で保護されたアミノ酸類縁体のいずれか又は両方を含めて、2つ以上のアミノ酸を有しているジペプチドやオリゴペプチドが挙げられる。
【0043】
本発明において「Fmoc基で保護されたペプチド」とは前記「Fmoc基で保護されたアミノ酸」を含むペプチドを意味する。このようなペプチドとして、例えば、上述のFmoc基で保護された天然アミノ酸とFmoc基で保護されたアミノ酸類縁体のいずれか又は両方を含めて、2つ以上のアミノ酸を有しているジペプチドやオリゴペプチドが挙げられる。
【0044】
本明細書において「アルキル」とは、脂肪族炭化水素から任意の水素原子を1個除いて誘導される1価の基であり、骨格中にヘテロ原子(炭素及び水素原子以外の原子をいう。)または不飽和の炭素-炭素結合を含有せず、水素及び炭素原子を含有するヒドロカルビルまたは炭化水素基構造の部分集合を有する。該アルキルは直鎖状、又は分枝鎖状のものを含む。アルキルとしては、炭素原子数1~20(C1-C20、以下「Cp-Cq」とは炭素原子数がp~q個であることを意味する。)のアルキルであり、好ましくはC1-C10アルキル、C1-C8アルキル、C1-C6アルキル、C1-C4アルキルなどが挙げられる。アルキルとしては、具体的には、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、イソプロピル、tert-ブチル、sec-ブチル、1-メチルプロピル、1,1-ジメチルプロピル、2,2-ジメチルプロピル、1,2-ジメチルプロピル、1,1,2-トリメチルプロピル、1,2,2-トリメチルプロピル、1,1,2,2-テトラメチルプロピル、1-メチルブチル、2-メチルブチル、3-メチルブチル、1,1-ジメチルブチル、1,2-ジメチルブチル、1,1-ジメチルブチル、1,2-ジメチルブチル、1,3-ジメチルブチル、2,2-ジメチルブチル、2,3-ジメチルブチル、3,3-ジメチルブチル、1-エチルブチル、2-エチルブチル、イソペンチル、ネオペンチル等が挙げられる。
【0045】
本明細書における「フルオロアルキル」は、前記「アルキル」の1つまたは複数の水素原子がフッ素原子で置換された基を意味し、好ましくはC1-C8フルオロアルキル、C1-C6フルオロアルキル、C1-C4フルオロアルキル、C1-C2フルオロアルキルなどが挙げられる。フルオロアルキルとして具体的には、トリフルオロメチル、2,2,2-トリフルオロエチル、ペンタフルオロエチル、2,2,3,3-テトラフルオロプロピル、ヘプタフルオロプロピル、トリフルオロメトキシ、2,2,2-トリフルオロエトキシ、ペンタフルオロエトキシ、2,2,3,3-テトラフルオロプロポキシ、ヘプタフルオロプロポキシ、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロオクチルなどが挙げられる。
【0046】
本明細書における「シクロアルキル」とは、飽和または部分的に飽和した環状の1価の脂肪族炭化水素基を意味し、単環、ビシクロ環、スピロ環を含む。好ましくはC3-C8シクロアルキルが挙げられる。シクロアルキルは、部分的に不飽和であってもよい。シクロアルキルとしては具体的には、たとえば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルなどが挙げられる。
【0047】
本明細書における「シクロアルキルアルキル」とは、前記定義「アルキル」中の任意の水素原子を、前記定義「シクロアルキル」で置換した基を意味する。シクロアルキルアルキルとしては、好ましくはC3-C8シクロアルキルC1-C6アルキル、C3-C6シクロアルキルC1-C4アルキルなどが挙げられる。具体的には、たとえば、シクロプロピルメチル、シクロプロピルエチル、シクロブチルメチル、シクロペンチルメチル、シクロへキシルメチルなどが挙げられる。
【0048】
本明細書における「アリール」とは、1価の芳香族炭化水素環を意味し、好ましくはC6-C10アリールが挙げられる。アリールとしては具体的には、たとえば、フェニル、ナフチル(たとえば、1-ナフチル、2-ナフチル)などが挙げられる。
【0049】
本明細書における「ヘテロアリール」とは、環を構成する原子中(本明細書において「環内」ともいう。)に好ましくは1~4個のヘテロ原子を含有する芳香族性の環の1価の基を意味し、部分的に飽和されていてもよい。環は単環、または2個の縮合環(たとえば、ベンゼンまたは単環へテロアリールと縮合した2環式ヘテロアリール)であってもよい。環を構成する原子の数は好ましくは5~10である(5~10員環ヘテロアリール)。ヘテロアリールとしては具体的には、たとえば、フリル、チエニル、ピロリル、イミダゾリル、ピラゾリル、チアゾリル、ピリジル、ピリミジル、ピリダジニル、ピラジニル、ベンゾフラニル、ベンゾチエニル、キノリル、イソキノリル、キナゾリニル、キノキサリニルなどが挙げられる。
【0050】
本明細書における「アラルキル(アリールアルキル)」とは、アリールとアルキルを共に含む基であり、例えば、前記アルキルの少なくとも一つの水素原子がアリールで置換された基を意味し、好ましくは、「C6-C10アリールC1-C6アルキル」が挙げられる。たとえば、ベンジル、フェネチルなどが挙げられる。
【0051】
本明細書における「アルケニル」とは、少なくとも1個の二重結合(2個の隣接sp2炭素原子)を有する1価の基である。二重結合および置換分(存在する場合)の配置によって、二重結合の幾何学的形態は、エントゲーゲン(E)またはツザンメン(Z)、シスまたはトランス配置をとることができる。アルケニルとしては、直鎖状または分枝鎖状のものが挙げられ、内部オレフィンを含む直鎖などを含む。好ましくはC2-C10アルケニル、さらに好ましくはC2-C6アルケニルが挙げられる。このようなアルケニルは、具体的には、たとえば、ビニル、アリル、1-プロペニル、2-プロペニル、1-ブテニル、2-ブテニル(シス、トランスを含む)、3-ブテニル、ペンテニル、ヘキセニルなどが挙げられる。
【0052】
本明細書における「アルキニル」とは、少なくとも1個の三重結合(2個の隣接SP炭素原子)を有する、1価の基である。直鎖状または分枝鎖状のアルキニルが挙げられ、内部アルキレンを含む。好ましくはC2-C10アルキニル、さらに好ましくはC2-C6アルキニルが挙げられる。アルキニルとしては具体的には、たとえば、エチニル、1-プロピニル、プロパルギル、3-ブチニル、ペンチニル、ヘキシニルなどが挙げられる。
【0053】
本明細書における「アルコキシ」は、前記定義の「アルキル」が結合したオキシ基であることを意味し、たとえば、炭素原子数1~20(C1-C20)のアルコキシが挙げられる。アルコキシとして、具体的には、たとえば、メトキシ、エトキシ、1-プロポキシ、2-プロポキシ、n-ブトキシ、i-ブトキシ、sec-ブトキシ、tert-ブトキシ、(3,7,11,15-テトラメチルヘキサデシル)オキシなどが挙げられる。
【0054】
ハロゲンとしては、フルオロ(-F)、クロロ(-Cl)、ブロモ(-Br)、ヨウド(-I)などが挙げられる。
【0055】
本明細書における「スルホ」は、-SO3Hで表される基である。
【0056】
本明細書における「トリメチルシリル」は-Si(CH3)3又はTMSで表される基である。
【0057】
ある態様において、第一の溶液には含量を算出したいFmoc骨格を有する保護基で保護されたアミノ基含有化合物(第一のFmoc化合物)を含む粗生成物、溶媒、塩基が含まれる。第一の溶液には内標準物質が含まれていてもよい。第一の溶液では、Fmoc骨格を有する保護基を脱保護する反応が起こる。固相法によってFmoc骨格を有する保護基で保護されたペプチドを合成する場合、脱保護工程に先立って、固相合成用樹脂に担持されたペプチド化合物を樹脂から切り出して、前記ペプチドを得る工程を本発明の方法に含めることができる。本明細書において、第一の溶液のことを「試料溶液」ということがある。また、本明細書においては、脱保護反応前の試料溶液を“未反応”試料溶液ということがあり、この用語と共に用いる場合、“試料溶液”なる用語は脱保護反応後の溶液を意味することがある。第一の溶液において脱保護反応は、定量的に進行することが好ましい。
【0058】
ある態様において、第二の溶液には、標品として用いられるFmoc骨格を有する保護基で保護されたアミノ基含有化合物(第二のFmoc化合物)、溶媒、および塩基が含まれる。第二の溶液には内標準物質が含まれていてもよい。第二のFmoc化合物は、その正確な含量が把握できるものであれば限定されず、例えば、純度及び/又は含量が100%若しくは100%に近いものが用いられる。第二のFmoc化合物として具体的には、数多くのベンダーから販売されている、アミノ基がFmoc基で保護されたグリシン(Fmoc-Gly-OH)が挙げられるが、これに限定されない。第一の溶液と同様、第二の溶液でも、Fmoc骨格を有する保護基を脱保護する反応が起こる。本明細書では、第二の溶液のことを「標準溶液」ということがある。また、本明細書においては、脱保護反応前の標準溶液を“未反応”標準溶液ということがあり、この用語と共に用いる場合、“標準溶液”なる用語は脱保護反応後の溶液を意味することがある。第二の溶液において脱保護反応は、定量的に進行することが好ましい。
【0059】
第一の溶液、及び/または第二の溶液には、分析試料および標品として用いる第二のFmoc化合物が溶解する任意の溶媒を用いることができ、例えば、アセトニトリル、DMF、DMA、NMP、DMSOなどの非プロトン性極性溶媒を好ましく用いることができる。第一の溶液及び/または第二の溶液に用いる溶媒は、同一でも異なってもよいが、同一の溶媒を用いることが好ましい。
【0060】
本明細書において「除去」および「脱保護」とは、Fmoc骨格を有する保護基で保護された第1級アミノ基および/または第2級アミノ基を該保護基によって保護されていない状態にすることをいう。
【0061】
ある態様において、Fmoc骨格を有する保護基は、固相反応によっても、液相反応によっても除去することができ、液相反応が好ましい。また、Fmoc骨格を有する保護基で保護されたアミノ基含有化合物は、固相に担持されていても、固相に担持されていなくてもよく、固相に担持されていないものが好ましい。
【0062】
ある態様において、Fmoc骨格を有する保護基は、塩基存在下、0℃~溶媒沸点付近の温度で、好ましくは0℃~80℃の温度で、さらに好ましくは0~50℃の温度で、反応混合物を1分~5日間撹拌及び/又は静置することによって除去することができる。本反応には、除去反応に関与しない内標準物質を加えてもよいし、加えなくてもよい。
【0063】
ある態様において、Fmoc骨格を有する保護基の除去には、保護基を除去できる任意の塩基を用いることができる。このような塩基としては、有機塩基または無機塩基が挙げられ、有機塩基が好ましい。
【0064】
ある態様において、有機塩基としては、1,8-ジアザビシクロ〔5.4.0〕-7-ウンデセン(DBU)、2,3,6,7-テトラヒドロ-1H,5H-9-アザベンゾ[ij]キノリジン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン、7-メチル-1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン、1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、1,8-ビス(テトラメチルグアニジノ)ナフタレン、2-tert-ブチル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、1-メチルピぺリジン、N,N’-ジメチルピペラジン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、p-ジメチルアミノピリジンなどの3級アミンを含む塩基が挙げられ、これらに加えて他に、ピぺリジン、モルホリン、ジシクロヘキシルアミン、p-ジメチルアミノピリジン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、ピペラジン、テトラブチルアンモニウムフルオリドなどが挙げられるが、これらに限定されない。これらのうちでは、3級アミンを1つまたは複数含み、1級および2級アミンを含まない有機塩基が好ましく、1,8-ジアザビシクロ〔5.4.0〕-7-ウンデセン(DBU)がより好ましい。
【0065】
ある態様において、本発明では、Fmoc骨格を有する保護基を完全に除去できる任意の等量の塩基を用いることができる。具体的には、溶液中0.1~20v/v%、好ましくは1~10v/v%、さらに好ましくは1~4v/v%の塩基を用いることができる。
【0066】
本明細書における「ジベンゾフルベンまたはその誘導体」とは、Fmoc骨格を有する保護基を除去した際に生成する、下記式(2):
(式中、R
1~R
10は、式(1)で表されるFmoc骨格を有する保護基のR
1~R
10とそれぞれ同義である。)で表される化合物を意味する。R
1~R
10がすべて水素である下記式(3):
で表される化合物が「ジベンゾフルベン」である。
【0067】
ある態様において、本発明では、第一の溶液中のジベンゾフルベンまたはその誘導体の含量と第二の溶液中のジベンゾフルベンまたはその誘導体の含量とを対比することによって、第二のFmoc化合物に対する、第一のFmoc化合物の含有率(重量%)を算出することができる。
【0068】
ある態様において、第一の溶液中および/または第二の溶液中のジベンゾフルベンまたはその誘導体は、クロマトグラフ法により第一の溶液中および/または第二の溶液中の他の成分から分離することができ、同法によりその含量を定量することができる。
【0069】
クロマトグラフ法は、Fmoc骨格を有する保護基で保護されたアミノ基含有化合物、アミノ基含有化合物(脱保護体)、ジベンゾフルベン(DBF)またはその誘導体、及び内標準物質を分離できる任意の方法を用いることができる。このようなクロマトグラフ法としては、例えば、液体クロマトグラフ法、超臨界流体クロマトグラフ法、ガスクロマトグラフ法、薄層クロマトグラフ法、親水性相互作用クロマトグラフ法(HILIC)、イオン交換クロマトグラフ法(IEX)、サイズ排除クロマトグラフ法(SEC)等のクロマトグラフ法、電気泳動法、イオン移動度分光法(例、イオンモビリティー)などが挙げられ、液体クロマトグラフ法、ガスクロマトグラフ法、電気泳動法、またはイオン移動度分光法が好ましい。また、液体クロマトグラフ法としては、高速液体クロマトグラフ法(HPLC)、超高速高分離液体クロマトグラフ法(UPLC)が好ましい。これらの方法は、公知であり得る。
【0070】
順相液体クロマトグラフ法は、例えば、シリカ、アルミナ等の固定相、ならびにヘキサン、酢酸エチル、塩化メチレン、イソプロピルアルコール、エタノール、メタノール、テトラヒドロフランおよびこれらの混合溶媒などの移動相を用いて、公知の方法により行うことができる。
【0071】
逆相液体クロマトグラフ法は、公知の方法により行うことができる。逆相液体クロマトグラフの固定相としては、例えば、疎水性化合物で修飾された充填剤、具体的には、例えば疎水性化合物で修飾されたシリカゲルを用いることができる。逆相液体クロマトグラフ法の移動相としては、例えば、有機溶媒、水溶液およびこれらの混合溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、例えば、アセトニトリル、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。有機溶媒には、ギ酸、トリフルオロ酢酸、酢酸などの酸が含まれていてもよい。水溶液としては、例えば、水、ギ酸水溶液、ギ酸アンモニウム水溶液、トリフルオロ酢酸水溶液、酢酸水溶液、酢酸アンモニウム水溶液、重炭酸アンモニウム水溶液、アンモニア水、緩衝液等が挙げられる。また、アルキルスルホン酸ナトリウムおよびその塩や、テトラアルキルアンモニウムまたはトリアルキルアミンおよびその塩などのイオンペア試薬を溶媒に追加してもよい。これによりピーク分離が悪い場合、分析カラムの分離能を向上させることができる。液体クロマトグラフ法において、移動相を混合溶媒とする場合、混合比を段階的に変化させてもよく、連続的に変化させてもよい。液体クロマトグラフ法の温度条件、移動相流量は、ジベンゾフルベンまたはその誘導体、内標準物質の性質等に応じて適宜設定され得る。
【0072】
Fmoc骨格を有する保護基で保護されたアミノ基含有化合物、ジベンゾフルベン(DBF)またはその誘導体、及び内標準物質の同定及び定量には、任意の方法を使用することができる。このような方法としては、例えば、紫外可視光吸収検出器、ダイオードアレイ検出器(PDA)、蛍光検出器、示差屈折率検出器、蒸発光散乱検出器、荷電化粒子検出器(CAD)、質量分析計等を用いる方法が挙げられる。高感度かつ高選択的検出の観点から、紫外可視光吸収検出器を用いるのが好ましい。したがって、本発明の方法を含む分離定量方法は、液体クロマトグラフィー(LC)と紫外可視光吸収検出器を組み合わせたLC-UV、LC-PDA等を用いて行うのがより好ましい。
【0073】
第一の溶液(試料溶液)または第二の溶液(標準溶液)中のジベンゾフルベンまたはその誘導体は、そのピーク面積を前記クロマトグラフ法よって測定し、定量することができる。
【0074】
ある態様において、内標準(内部標準)に基づいて、第二のFmoc化合物に対する、第一のFmoc化合物の含有率を補正することができる。すなわち、第一の溶液(試料溶液)、および第二の溶液(標準溶液)の、クロマトグラフへの注入量を補正するための内標準として、内標準物質をこれらの溶液に含ませることにより、第一および第二のFmoc化合物をより正確に定量することができる。内標準に基づく補正は、例えば、第一の溶液(試料溶液)及び/または第二の溶液(標準溶液)の調製時に内標準物質を加えて静置し、保護基の除去後に生成されるジベンゾフルベンまたはその誘導体の定量結果(実測値)に内標準物質の含量を加味することにより実施される。より具体的には、例えば、第一の溶液中に含まれる内標準物質(第一の内標準物質ということがある)の含量と、第二の溶液中に含まれる内標準物質(第二の内標準物質ということがある)の含量とを対比することによって、含有率を補正することができる。内標準物質を加えるタイミングは、第一の溶液(試料溶液)及び/又は第二の溶液(標準溶液)の調製時に限定されず、保護基の除去後でもよい。
【0075】
内標準物質は、クロマトグラフ法によってジベンゾフルベン(DBF)またはその誘導体と分離できれば、任意の物質を用いることができる。このような内標準物質としては、例えば、市販のものを利用することができ、具体的には、例えば、アントラセン、フェナントレン、ナフタレン、ベンゼン、トルエン、トリフェニレン、ナフタセンなどが挙げられ、これらのうちではアントラセンが好ましい。
【0076】
第一の溶液(試料溶液)または第二の溶液(標準溶液)中の内標準物質の含量は、そのピーク面積をクロマトグラフ法よって測定することによって、定量することができる。内標準物質のピーク面積は、ジベンゾフルベン(DBF)またはその誘導体のピーク面積と同一の測定条件下で測定することが好ましい。
【0077】
ある態様において、第二のFmoc化合物に対する、第一のFmoc化合物の含有率(重量%)は、
1)第一の溶液(試料溶液)と第二の溶液(標準溶液)の、ジベンゾフルベンまたはその誘導体のピーク面積(A
T及びA
S)と、
2)第一の溶液(試料溶液)中の、粗生成物が第一のFmoc化合物のみからなると仮定した場合の粗生成物の濃度(C
T)およびと第二の溶液(標準溶液)中の第二のFmoc化合物の濃度(C
s)を用いて、以下の計算式から算出することができる。
(式中、
C
sは、第二のFmoc化合物のモル濃度であり、
C
Tは、粗生成物が第一のFmoc化合物のみからなると仮定した場合の該粗生成物のモル濃度であり、
A
Sは、第二の溶液のジベンゾフルベンまたはその誘導体のピーク面積であり、
A
Tは、第一の溶液のジベンゾフルベンまたはその誘導体のピーク面積である。)
【0078】
具体的には、CTは、粗生成物の秤量値と、第一のFmoc化合物の分子量に基づいて算出することができる。
【0079】
また、第一のFmoc化合物が固相法によって合成されたFmoc-ペプチドである場合には、固相合成用樹脂に担持されたFmocペプチド化合物を第一のFmoc化合物であるとみなして、CTを求めることができる。具体的には、例えば、固相合成用樹脂に担持されたFmocペプチド化合物の秤量値、およびFmocペプチドの分子量に基づいてCTを算出することができる。
【0080】
また、ある態様において、第二のFmoc化合物に対する、第一のFmoc化合物の含有率(重量%)は、内標準物質による補正を行う場合には、第一の溶液(試料溶液)および第二の溶液(標準溶液)の、内標準物質のピーク面積(IS
T及びIS
S)をさらに用いて、以下の計算式から算出することができる。
(式中、
C
sは、第二のFmoc化合物のモル濃度であり、
C
Tは、粗生成物が第一のFmoc化合物のみからなると仮定した場合の該粗生成物のモル濃度であり、
IS
Sは、第二の溶液の内標準物質のピーク面積であり、
IS
Tは、第一の溶液の内標準物質のピーク面積であり、
A
Sは、第二の溶液のジベンゾフルベンまたはその誘導体のピーク面積であり、
A
Tは、第一の溶液のジベンゾフルベンまたはその誘導体のピーク面積である。)
【0081】
ある態様において、粗生成物のFmoc純度によって、前記含有率を補正することができる。ここで「Fmoc純度」とは、粗生成物に含まれる全ての種類のFmoc骨格を有する保護基で保護された化合物の含量の合計に対する、第一のFmoc化合物の含量の割合(%)である。本補正を実施することにより、粗生成物(分析試料)中のFmoc骨格を有する保護基で保護されたアミノ基含有化合物以外の、Fmoc骨格を有する保護基を有する化合物(不純物)による、誤差を解消し、含有率をより正確に算出できる。
【0082】
具体的には、Fmoc純度は、(i) 第一のFmoc化合物のピーク面積と、(ii) 粗生成物中の第一のFmoc化合物以外のFmoc骨格を有する保護基で保護された化合物(他のFmoc化合物、あるいはFmoc関連不純物ということがある)の各ピーク面積に基づいて算出することができる。粗生成物中にFmoc関連不純物が複数存在する場合には、検出可能な全てのFmoc関連不純物のピーク面積をFmoc純度の算出に用いることが好ましい。
【0083】
より具体的には、例えば、Fmoc純度は、
(i) クロマトグラフ法で第一のFmoc化合物およびFmoc関連不純物に対応するピークを同定すること
(ii) 第一のFmoc化合物およびFmoc関連不純物のピーク面積を求め、その値を合算すること、および
(iii) 第一のFmoc化合物のピーク面積を、(ii)で求めた合算値で除すること、によって求めることができる。
【0084】
Fmoc関連不純物のピークかどうかは、クロマトグラフ分析のUVクロマトグラム(254 nm)からFmoc骨格を有する保護基の有無を判断することで同定することができる。
【0085】
固相法によって第一のFmoc化合物(例えば、Fmocペプチド)を製造する場合には、固相合成用樹脂からの第一のFmoc化合物の切り出しに用いた溶液(切り出し溶液)を利用して、第一のFmoc化合物およびFmoc関連不純物のピーク面積を求めることを通じて、Fmoc純度を求めてもよい。
【0086】
ジベンゾフルベンまたはその誘導体や内標準物質の定量と同一の測定条件で第一のFmoc化合物およびFmoc関連不純物のピーク面積を測定することを通じて、Fmoc純度を求めることで、誤差の少ない、正確な含有率の算出が可能となる。ある態様において、純度を求めるのに用いる測定機器及び測定条件と、ジベンゾフルベンまたはその誘導体の定量に用いる測定機器及び測定条件とを同一にすることで、より誤差の少ない、正確な含有率の算出が可能となる。
【0087】
Fmoc純度による補正を行う場合、含有率は、例えば以下の計算式によって求めることができる。
(内標準物質による補正がない場合)
(式中、
C
sは、第二のFmoc化合物のモル濃度であり、
C
Tは、粗生成物が第一のFmoc化合物のみからなると仮定した場合の該粗生成物のモル濃度であり、
A
Sは、第二の溶液のジベンゾフルベンまたはその誘導体のピーク面積であり、
A
Tは、第一の溶液のジベンゾフルベンまたはその誘導体のピーク面積であり、
P
Sは、Fmoc純度である。)
【0088】
(内標準物質による補正がある場合)
(式中、
C
sは、第二のFmoc化合物のモル濃度であり、
C
Tは、粗生成物が第一のFmoc化合物のみからなると仮定した場合の該粗生成物のモル濃度であり、
IS
Sは、第二の溶液の内標準物質のピーク面積であり、
IS
Tは、第一の溶液の内標準物質のピーク面積であり、
A
Sは、第二の溶液のジベンゾフルベンまたはその誘導体のピーク面積であり、
A
Tは、第一の溶液のジベンゾフルベンまたはその誘導体のピーク面積であり、
P
Sは、Fmoc純度である。)
【0089】
ある態様において、ジベンゾフルベンまたはその誘導体の分解を防ぐために、酸を用いることができる。ジベンゾフルベンまたはその誘導体の分解抑制(安定化)は、生成したジベンゾフルベンまたはその誘導体と酸を接触させることにより達成される。酸としては、好ましくは有機酸、無機酸を挙げることができ、有機酸、無機酸およびこれらの組み合わせが用いられる。
【0090】
酸を加える場合、酸はFmoc骨格を有する保護基の除去後に分析試料(例えば、第一および/または第二の溶液)に加えることができる。ジベンゾフルベンの分解を防ぐために、除去後速やかに酸を加えることが好ましい。酸の量は、標準溶液あるいは試料溶液が中性より酸性に偏っていれば、任意の量を用いることができ、例えば、保護基の除去のために加えた塩基と同じか、それよりも多い等量の酸を加えることでこれを達成することができる。酸はそのまま分析試料に加えてもよいし、有機溶媒などに溶解させてから分析試料に加えてもよい。
【0091】
有機酸としては、クエン酸、シュウ酸、マレイン酸、硫酸水素テトラメチルアンモニウム、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、モノフルオロ酢酸、ジフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、モノクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、またはこれらの組み合わせが用いられ、クエン酸が好ましく用いられる。
【0092】
無機酸としては、リン酸、ホウ酸、塩酸、硝酸、硫酸、臭化水素酸、ホスホン酸、またはこれらの組み合わせが用いられ、リン酸が好ましく用いられる。
【0093】
ある態様において、本発明は、脱保護後のアミノ基含有化合物を定量することによって、Fmoc骨格を有する保護基で保護されたアミノ基含有化合物を定量する方法に関する。
【0094】
ある態様において、本発明は、Fmoc骨格を有する保護基で保護されたアミノ基含有化合物からFmoc骨格を有する保護基を除去し、それにより生成したアミノ基含有化合物を定量する方法に関する。
【0095】
ある態様において、前記方法は、クロマトグラフ法により他の成分からアミノ基含有化合物を分離し、そのピーク面積を測定することで、その含量を定量することができる。
【0096】
ある態様において、アミノ基含有化合物のクロマトグラフ法による分離には、Fmoc骨格を有する保護基で保護されたアミノ基含有化合物、ジベンゾフルベン(DBF)またはその誘導体およびアミノ基含有化合物を分離できる任意の方法を用いることができる。このようなクロマトグラフ法として、例えば、液体クロマトグラフ法、超臨界流体クロマトグラフ法、ガスクロマトグラフ法、薄層クロマトグラフ法、親水性相互作用クロマトグラフ法(HILIC)、イオン交換クロマトグラフ法(IEX)、サイズ排除クロマトグラフ法(SEC)等のクロマトグラフ法、電気泳動法、イオン移動度分光法(例、イオンモビリティー)が挙げられ、親水性相互作用クロマトグラフ法(HILIC)が好ましい。これらの方法は、公知であり得る。
【0097】
アミノ基含有化合物の同定及び定量手法には、任意の方法を使用することができる。このような方法としては、例えば、紫外可視光吸収検出器、ダイオードアレイ検出器、蛍光検出器、示差屈折率検出器、蒸発光散乱検出器、荷電化粒子検出器(CAD)、質量分析計等を用いる方法が挙げられ、紫外可視光可視光波長に吸収を有しなくても検出できる荷電化粒子検出器(CAD)及び/又は質量分析計を用いるのが好ましい。したがって、本発明の方法を含む分離定量方法は、親水性相互作用クロマトグラフ法(HILIC)と荷電化粒子検出器(CAD)を組み合わせたHILIC-CAD等を用いて行うのがより好ましい。
【0098】
第一の溶液(試料溶液)または第二の溶液(標準溶液)のアミノ基含有化合物の含量は、前記クロマトグラフ法より得られたアミノ基含有化合物のピーク面積を測定することにより、定量することができる。
【0099】
なお、本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0100】
以下に、実施例で本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の内容は必ずしも以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0101】
本実施例に記載する定量において、以下のFmoc-アミノ酸を用いた。
Fmoc-Gly-OH、Fmoc-Ile-OH、Fmoc-Pro-OH、Fmoc-Val-OH、Fmoc-Phe-OH、Fmoc-cLeu-OH、Fmoc-NMe-Gly-OH、Fmoc-NMe-Ala-OH、Fmoc-NMe-Leu-OH、Fmoc-NMe-Val-OH、Fmoc-NMe-Cha-OH、Fmoc-Aze-OH。これらは渡辺化学工業などの原材料メーカーから購入した。特に言及しなければ、同じFmoc-アミノ酸でも原材料メーカーの違いやロット違いも含まれる。
【0102】
実施例1 (Fmoc-アミノ酸のDBFによる定量-1)
標準溶液の調製
Fmoc-Gly-OH(約10 mg)を日本薬局方に沿って精密に秤量し、アセトニトリル(20 mL)に溶解させ調製したFmoc-Gly-OH溶液(500 ug/mLの濃度でFmoc-Gly-OHを含むアセトニトリル溶液)に、内部標準溶液(250 ug/mLの濃度でアントラセンを含むアセトニトリル溶液)、DBU溶液(10 v/v%の濃度でDBUを含むアセトニトリル溶液)、およびアセトニトリルを添加して、Fmoc-Gly-OHを100 ug/mLの濃度で、アントラセンを50 ug/mLの濃度で、DBUを4 v/v%の濃度でそれぞれ含むアセトニトリル溶液を調製した。次いで、該溶液をボルテックスで撹拌した後、室温で10分以上静置してFmoc基を脱保護した。HPLCで取得したUVクロマトグラムにより脱保護反応が定量的に進行したことを確認した。本実施例において、脱保護反応開始前の前記溶液を「未反応標準溶液」といい、脱保護反応後の前記溶液を単に「標準溶液」ということがある。なお、標準溶液の調製に用いたFmoc-Gly-OH(純度99.8%、水分含量0.10%未満)は渡辺化学工業から購入した。
【0103】
試料溶液の調製
定量対象のFmoc-アミノ酸を含む粗Fmoc-アミノ酸(約10 mg)を日本薬局方に沿って精密に秤量し、アセトニトリル(20 mL)に溶解させ調製した粗Fmoc-アミノ酸溶液(500 ug/mLの濃度で粗Fmoc-アミノ酸を含むアセトニトリル溶液)に、内部標準溶液(250 ug/mLの濃度でアントラセンを含むアセトニトリル溶液)、DBU溶液(10 v/v%の濃度でDBUを含むアセトニトリル溶液)、およびアセトニトリルを添加して、粗Fmoc-アミノ酸を100 ug/mLの濃度で、アントラセンを50 ug/mLの濃度で、DBUを4v/v%の濃度でそれぞれ含む、アセトニトリル溶液を調製した。次いで、該溶液をボルテックスで撹拌した後、室温で10分以上静置してFmoc基を脱保護した。HPLCで取得したUVクロマトグラムにより脱保護反応が定量的に進行したことを確認した。本実施例において、脱保護反応開始前の前記溶液を「未反応試料溶液」ということがあり、脱保護反応後の前記溶液を単に「試料溶液」ということがある。
【0104】
分析装置および分析条件は以下のとおりである。
(分析装置)
HPLCシステム:H-class (Waters)
・紫外可視光吸収検出器:ACQ-TUV
・ポンプ:ACQ-QSM
・オートサンプラー:ACQ-FTN
【0105】
(分析条件)
カラム:大阪ソーダ CAPCELL CORE ADME(2.1 x 150 mm, 2.7 um)
移動相A:0.05% TFA / 水
移動相B:0.05% TFA / アセトニトリル
流速:0.3 mL/min
カラム温度:40℃
サンプル注入量:2 uL
測定波長:254 nm
グラジエント条件:表1に示す
【0106】
【0107】
標準溶液のクロマトグラムを
図1に、各試料溶液のクロマトグラムを
図2~
図7に示す。
また、以下の数式を用いてFmoc-Gly-OHに対する各Fmoc-アミノ酸の含有率(w/w%)を算出できる。その結果を表2(アントラセンによる注入量の補正なし)と、表3(アントラセンによる注入量の補正あり)に示す。
【0108】
算出式(アントラセンによる注入量の補正がない場合)
C
s: 未反応標準溶液中のFmoc-Gly-OHの濃度 (umol/L)
C
T: 各未反応試料溶液中の各粗Fmoc-アミノ酸の濃度 (umol/L)
A
S: 標準溶液のDBFピーク面積
A
T: 各試料溶液のDBFピーク面積
【0109】
算出式(アントラセンによる注入量の補正がある場合)
C
s: 未反応標準溶液中のFmoc-Gly-OHの濃度 (umol/L)
C
T: 各未反応試料溶液中の各粗Fmoc-アミノ酸の濃度 (umol/L)
IS
S: 標準溶液のアントラセンピーク面積
IS
T: 各試料溶液のアントラセンピーク面積
A
S: 標準溶液のDBFピーク面積
A
T: 各試料溶液のDBFピーク面積
【0110】
【0111】
【0112】
上記の結果、Fmoc-Ile-OHやFmoc-NMe-Leu-OHのように、含有率がほぼ100%であるFmoc-アミノ酸がある一方、含有率が100%に届かないFmoc-アミノ酸もあることが判った。含有率が100%に届かないFmoc-アミノ酸は、水分や無機塩、残留溶媒などUVでは検出できない不純物が含まれていることが考えられる。また、内部標準物質のピーク面積で補正することで、標準溶液と各試料溶液の注入量に差が生じた際にも定量的に算出可能である。
【0113】
実施例2 (Fmoc-アミノ酸のDBFによる定量-2)
標準溶液の調製
Fmoc-Gly-OH(約10 mg)を日本薬局方に沿って精密に秤量し、アセトニトリル(10 mL)に溶解させ調製したFmoc-Gly-OH溶液(1 mg/mLの濃度でFmoc-Gly-OHを含むアセトニトリル溶液)に、内部標準溶液(500 ug/mLの濃度でアントラセンを含むアセトニトリル溶液)、DBU溶液(10 v/v%の濃度でDBUを含むアセトニトリル溶液)、およびアセトニトリルを添加して、Fmoc-Gly-OHを100 ug/mLの濃度で、アントラセンを50 ug/mLの濃度で、DBUを4 v/v%の濃度でそれぞれ含むアセトニトリル溶液を調製した。次いで、該溶液をボルテックスで撹拌した後、室温で10分以上静置してFmoc基を脱保護した。HPLCで取得したUVクロマトグラムにより脱保護反応が定量的に進行したことを確認した。本実施例において、脱保護反応開始前の前記溶液を「未反応標準溶液」ということがあり、脱保護反応後の前記溶液を単に「標準溶液」ということがある。なお、標準溶液の調製に用いたFmoc-Gly-OHは渡辺化学工業(純度99.8%、水分含量0.10%未満)から購入した。
【0114】
試料溶液の調製
定量対象のFmoc-アミノ酸を含む粗Fmoc-アミノ酸(約10 mg)を日本薬局方に沿って精密に秤量し、アセトニトリル(10 mL)に溶解させ調製した粗Fmoc-アミノ酸溶液(1 mg/mLの濃度で粗Fmoc-アミノ酸を含むアセトニトリル溶液)に、内部標準溶液(500 ug/mLの濃度でアントラセンを含むアセトニトリル溶液)、DBU溶液(10 v/v%の濃度でDBUを含むアセトニトリル溶液)、およびアセトニトリルを添加して、粗Fmoc-アミノ酸を100 ug/mLの濃度で、アントラセンを50 ug/mLの濃度で、DBUを4v/v%の濃度でそれぞれ含む、アセトニトリル溶液を調製した。次いで、該溶液をボルテックスで撹拌した後、室温で10分以上静置してFmoc基を脱保護した。HPLCで取得したUVクロマトグラムにより脱保護反応が定量的に進行したことを確認した。本実施例において、脱保護反応開始前の前記溶液を「未反応試料溶液」ということがあり、脱保護反応後の前記溶液を単に「試料溶液」ということがある。
【0115】
分析装置および分析条件は以下のとおりである。
(分析装置)
HPLCシステム:H-class (Waters)
・紫外可視光吸収検出器:ACQ-TUV
・ポンプ:ACQ-QSM
・オートサンプラー:ACQ-FTN
【0116】
(分析条件)
カラム:大阪ソーダ CAPCELL CORE ADME(3.0 x 150 mm, 2.7 um)
移動相A:0.05% TFA / 水
移動相B:0.05% TFA / アセトニトリル
流速:0.6 mL/min
カラム温度:40℃
サンプル注入量:2 uL
測定波長:254 nm
グラジエント条件:表4に示す
【0117】
【0118】
標準溶液のクロマトグラムを
図8に、各試料溶液のクロマトグラムを
図9~
図11に示す。
【0119】
また、実施例1に記載の数式を用いてFmoc-Gly-OHに対する各Fmoc-アミノ酸の含有率(w/w%)を算出できる。その結果を表5(アントラセンによる注入量の補正なし)と、表6(アントラセンによる注入量の補正あり)に示す。
【0120】
【0121】
【0122】
上記の結果、上記3種のFmoc-アミノ酸の含有率はほぼ100%であった。また、アントラセンによる注入量の補正の有無により、含有率は殆ど変わらなかったことから、本実施例においては標準溶液と各試料溶液の注入量に差は無かったことが推察される。
【0123】
実施例3(Fmoc-アミノ酸の純度で補正した含量分析)
試料溶液の調製
1 mg/mL 粗Fmoc-アミノ酸溶液を希釈して試料溶液(100 ug/mLの濃度で粗Fmoc-アミノ酸を含むアセトニトリル溶液)とした。なお、試料溶液に用いた各種の粗Fmoc-アミノ酸は、渡辺化学工業から購入した。
【0124】
分析装置および分析条件は以下のとおりである。
(分析装置)
HPLCシステム:H-class (Waters)
・紫外可視光吸収検出器:ACQ-TUV
・ポンプ:ACQ-QSM
・オートサンプラー:ACQ-FTN
【0125】
(分析条件)
カラム:大阪ソーダ CAPCELL CORE ADME(3.0 x 150 mm, 2.7 um)
移動相A:0.05% TFA / 水
移動相B:0.05% TFA / アセトニトリル
流速:0.6 mL/min
カラム温度:40℃
サンプル注入量:2 uL
測定波長:254 nm
グラジエント条件:表7に示す
【0126】
【0127】
図12~
図20に示すように、実施例2のクロマトグラムとの比較から、DBU処理により消失したFmoc-アミノ酸のピークが確認できる。本ピークはFmoc基を有する化合物由来のピークとして考えられ、これらのピークのみを積分して算出した各Fmoc-アミノ酸の純度を表8に示す。これらの純度とアントラセンによる注入量で補正して、含有率を算出できる。その結果を表9に示す。
【0128】
算出式
DBF assay
sample: 純度による補正前の各Fmoc-アミノ酸の含有率
P
S: Fmoc基を有する化合物中の各Fmoc-アミノ酸純度
【0129】
【0130】
【0131】
実施例4 (DBFの安定性の検討)
試料溶液の調製
Fmoc-Gly-OHを表10に示す各溶媒に溶解し、試料溶液(100 ug/mLの濃度でFmoc-Gly-OHを含む)を調製した。また、試料溶液を10℃で保管し分析を実施した。
【0132】
【0133】
分析装置および分析条件は以下のとおりである。
(分析装置)
HPLCシステム:H-class (Waters)
・紫外可視光吸収検出器:ACQ-PDA
・ポンプ:ACQ-QSM
・オートサンプラー:ACQ-FTN
【0134】
(分析条件)
カラム:大阪ソーダ CAPCELL CORE ADME(2.1 x 150 mm, 2.7 um)
移動相A:0.05% TFA / 水
移動相B:0.05% TFA / アセトニトリル
流速:0.3 mL/min
カラム温度:40℃
サンプル注入量:2 uL
測定波長:254 nm
グラジエント条件:表11に示す
【0135】
【0136】
初日の試料溶液中の、及び1日、2日、5日の各期間保管した後の試料溶液中のDBFとその分解物の各ピーク面積の割合を表12に示す。また、初日の試料溶液中、および5日間保管した後の試料溶液中のDBFのピーク面積を比較(5日間保管/初日)した結果を表13に示す。このことから、クエン酸で処理することでDBFの分解が抑制できることが分かった。
【0137】
【0138】
注)DBF-Pipは以下の構造である。
注)DBF分解物は以下の構造である。
【0139】
【0140】
実施例5 (定量NMRとの比較)
本発明による定量法(DBF assay)の妥当性を評価するため、様々な粗Fmoc-アミノ酸について、DBUで処理して生じたDBFを、実施例1又は2と同様に定量し(内標準物質による補正無し、及び純度による補正あり)、前記粗Fmoc-アミノ酸の定量NMRによる定量値と比較した。なお、標準溶液の調製に用いる標品のアミノ酸として、Fmoc-Ile-OH(定量NMRで含有率99.18%)を用いた。
図21と表14に示すとおり、本発明による定量値と定量NMRによる定量値の間には相関係数0.95という良好な正の相関関係が認められ、本発明の妥当性が裏付けられた。
【0141】
分析装置および試薬は以下のとおりである。
(分析装置)
NMR: JEOL 500MHz Royal HFX Probe
試薬: Fmoc-アミノ酸
Solvent: DMSO-d6
Standard: 3,5-bis(trifluoromethyl)-benzoic acid (99.96% ±0.06%、定量NMR用試薬)
【0142】
【0143】
qNMRとの相関から、本定量法がqNMRと同様、有効な定量法であることが示された。
【0144】
実施例6 (Fmoc-アミノ酸のDBU処理後のアミノ酸定量)
DBUでFmoc-アミノ酸を脱保護した際に、DBFとアミノ酸が生じる。実施例1~4ではDBFを定量しているが、本実施例ではアミノ酸を定量した。DBUでFmoc-NMe-Gly-OHを脱保護して生じたH-NMe-Gly-OHのピーク面積と、内標準物質としてH-NMe-Gly-OHを用いたアミノ酸標準溶液のピーク面積を比較した結果、脱保護によって生じたH-NMeGly-OHを97.2%の収率で得た(
図22~24)。これにより、DBU添加による脱保護反応は定量的に進行していることが裏付けられた。
なお、本実施例では、親水性相互作用クロマトグラフィー (Hydrophilic Interaction Chromatography, HILIC)で測定を実施しており、疎水性が高い化合物(例えばDBF)のピークが早い溶出位置に、親水性が高い化合物(例えばアミノ酸)のピークが遅い溶出位置に出ている。また、H-NMe-Gly-OHは紫外可視光波長に吸収を殆ど有しないため、CADで検出している。
【0145】
アミノ酸標準溶液の調製
H-NMeGly-OH(N-メチルグリシン)を100 ug/mLの濃度で含む溶液を調製した。H-NMe-Gly-OH(純度99.7%(非水法))は東京化成工業から購入した。
【0146】
試料溶液の調製
Fmoc-NMeGly-OHに2%DBU溶液(2 v/v%の濃度でDBUを含むアセトニトリル溶液)を添加後,CH3CN/H2O (4:1)で希釈して、試料溶液(Fmoc-アミノ酸を300 ug/mLの濃度で含む溶液)を調製した。Fmoc-MeGly-OHは原材料メーカーから購入した。
【0147】
分析装置および分析条件は以下のとおりである。
(分析装置)
HPLCシステム:1200 series (Agilent)
・紫外可視光吸収検出器:Agilemt 1200 MWD
・ポンプ:Agilent 1200 Binary pump-1, -2
・オートサンプラー:Agilent 1200 Auto sampler
【0148】
(分析条件)
カラム:Imtakt Intrada Amino Acid(3 x 100 mm, 3 um)
移動相A:0.1% ギ酸 / アセトニトリル
移動相B:100 mM ギ酸アンモニウム / 水
流速:1.0 mL/min
カラム温度:35℃
サンプル注入量:2 uL
検出器:Charged Aerosol Detector (CAD) (Corona ULTRA)
グラジエント条件:表15に示す
【0149】
【0150】
本条件とは別に逆グラジエント設定を実施し,検出器には常にA : B = 50 :50で導入されるようにした。
逆グラジエント条件:表16に示す
【0151】
【0152】
実施例7 (Fmoc-ペプチドのDBFによる定量)
標準溶液の調製
Fmoc-Gly-OH(約10 mg)を日本薬局方に沿って精密に秤量し、アセトニトリル(20 mL)に溶解させ調製したFmoc-Gly-OH溶液(500 ug/mLの濃度でFmoc-Gly-OHを含むアセトニトリル溶液)に、内部標準溶液(250 ug/mLの濃度でアントラセンを含むアセトニトリル溶液)、DBU溶液(10 v/v%の濃度でDBUを含むアセトニトリル溶液)、およびアセトニトリルを添加して、Fmoc-Gly-OHを50 ug/mLの濃度で、アントラセンを25 ug/mLの濃度で、DBUを2 v/v%の濃度でそれぞれ含むアセトニトリル溶液を調製した。次いで、該溶液をボルテックスで撹拌した後、室温で10分以上静置してFmoc基を脱保護した。HPLCで取得したUVクロマトグラムにより脱保護反応が定量的に進行したことを確認した。本実施例において、脱保護反応開始前の前記溶液を「未反応標準溶液」といい、脱保護反応後の前記溶液を単に「標準溶液」ということがある。なお、標準溶液の調製に用いたFmoc-Gly-OH(純度98.6%)は東京化成工業から購入した。
【0153】
試料溶液の調製-1
定量対象の粗Fmoc-Phe-Phe-OH(約10 mg)を日本薬局方に沿って精密に秤量し、アセトニトリル(20 mL)に溶解させ調製した粗Fmoc-Phe-Phe-OH溶液(500 ug/mLの濃度でFmoc-Phe-Phe-OHを含むアセトニトリル溶液)に、内部標準溶液(250 ug/mLの濃度でアントラセンを含むアセトニトリル溶液)、DBU溶液(10 v/v%の濃度でDBUを含むアセトニトリル溶液)、およびアセトニトリルを添加して、粗Fmoc-Phe-Phe-OHを50 ug/mLの濃度で、アントラセンを25 ug/mLの濃度で、DBUを2v/v%の濃度でそれぞれ含む、アセトニトリル溶液を調製した。次いで、該溶液をボルテックスで撹拌した後、室温で10分以上静置してFmoc基を脱保護した。HPLCで取得したUVクロマトグラムにより脱保護反応が定量的に進行したことを確認した。溶液の調製に用いた粗Fmoc-Phe-Phe-OH(純度99.8%)は渡辺化学工業社から購入した。本実施例において、脱保護反応開始前の前記溶液を「未反応試料溶液」ということがあり、脱保護反応後の前記溶液を単に「試料溶液」ということがある。
【0154】
試料溶液の調製-2(固相反応で合成し樹脂に担持された粗Fmoc-ペプチド化合物)
定量対象の、固相反応で合成し樹脂に担持された粗Fmoc-ペプチド化合物(以下、単に「樹脂に担持された粗Fmoc-ペプチド化合物」という場合がある)(約30 mg)を日本薬局方に沿って精密に秤量し、ジクロロメタン(3 mL)を加えて15分以上静置し、膨潤させた。なお、本実施例および実施例8では、固相合成用樹脂としてCTC樹脂を利用した。ジクロロメタンを排出した後、樹脂をジクロロメタン(3 mL)で2度洗浄した。樹脂にTFA溶液(1 v/v%の濃度でTFAを含むジクロロメタン溶液)を0.6 mL加えて室温で振盪し、樹脂からの粗Fmoc-ペプチドの切り出しを行った。これに、内部標準溶液(250 ug/mLの濃度でアントラセンを含むアセトニトリル溶液)、DBU溶液(10 v/v%の濃度でDBUを含むアセトニトリル溶液)、およびアセトニトリルを添加して、樹脂に担持された粗Fmoc-ペプチド化合物として粗Fmoc-ペプチドを1 mg/mLの濃度で、アントラセンを25 ug/mLの濃度で、DBUを2v/v%の濃度でそれぞれ含む、粗Fmoc-ペプチドを含んだアセトニトリル溶液を調製した。次いで、該溶液をボルテックスで撹拌した後、室温で10分以上静置してFmoc基を脱保護した。HPLCで取得したUVクロマトグラムにより脱保護反応が定量的に進行したことを確認した。本実施例において、脱保護反応開始前の前記溶液を「未反応試料溶液」ということがあり、脱保護反応後の前記溶液を単に「試料溶液」ということがある。
【0155】
分析装置および分析条件は以下のとおりである。
(分析装置)
HPLCシステム:H-class (Waters)
・紫外可視光吸収検出器:ACQ-TUV
・ポンプ:ACQ-QSM
・オートサンプラー:ACQ-FTN
【0156】
(分析条件)
カラム:大阪ソーダ CAPCELL CORE ADME(2.1 x 150 mm, 2.7 um)
移動相A:0.05% TFA / 水
移動相B:0.05% TFA / アセトニトリル
流速:0.3 mL/min
カラム温度:40℃
サンプル注入量:2 uL
測定波長:254 nm
グラジエント条件:表17に示す
【0157】
【0158】
標準溶液のクロマトグラムを
図25に、各試料溶液のクロマトグラムを
図26~
図29に示す。
また、以下の数式を用いてFmoc-Gly-OHに対する各Fmoc-ペプチドの含有率(w/w%)を算出できる。その結果を表18(アントラセンによる注入量の補正なし)と、表19(アントラセンによる注入量の補正あり)に示す。なお、試料溶液に含まれるFmoc-ペプチドの分子量は、末端にカルボキシル基を有するカルボン酸体として算出している。
【0159】
算出式(アントラセンによる注入量の補正がない場合)
C
s: 未反応標準溶液中のFmoc-Gly-OHの濃度 (umol/L)
C
T: 各未反応試料溶液中の各粗Fmoc-ペプチドの濃度 (umol/L)
A
S: 標準溶液のDBFピーク面積
A
T: 各試料溶液のDBFピーク面積
【0160】
算出式(アントラセンによる注入量の補正がある場合)
C
s: 未反応標準溶液中のFmoc-Gly-OHの濃度 (umol/L)
C
T: 各未反応試料溶液中の各粗Fmoc-ペプチドの濃度 (umol/L)
IS
S: 標準溶液のアントラセンピーク面積
IS
T: 各試料溶液のアントラセンピーク面積
A
S: 標準溶液のDBFピーク面積
A
T: 各試料溶液のDBFピーク面積
【0161】
【0162】
【0163】
実施例8(Fmoc-ペプチドの純度で補正した含量分析)
試料溶液の調製-1
500 ug/mLの粗Fmoc-Phe-Phe-OH溶液を希釈して試料溶液(50 ug/mLの濃度で粗Fmoc-Phe-Phe-OHを含むアセトニトリル溶液)とした。
【0164】
試料溶液の調製-2
実施例7の「試料溶液の調製-2」と同様に、樹脂に担持された粗Fmoc-ペプチド化合物として粗Fmoc-ペプチドを1 mg/mLの濃度で含むように切り出し溶液をアセトニトリルで希釈して、試料溶液とした。
【0165】
分析装置および分析条件は以下のとおりである。
(分析装置)
HPLCシステム:H-class (Waters)
・紫外可視光吸収検出器:ACQ-TUV
・ポンプ:ACQ-QSM
・オートサンプラー:ACQ-FTN
【0166】
(分析条件)
カラム:大阪ソーダ CAPCELL CORE ADME(2.1 x 150 mm, 2.7 um)
移動相A:0.05% TFA / 水
移動相B:0.05% TFA / アセトニトリル
流速:0.3 mL/min
カラム温度:40℃
サンプル注入量:2 uL
測定波長:254 nm
グラジエント条件:表20に示す
【0167】
【0168】
各試料溶液について総Fmoc化合物に対する粗Fmoc-ペプチドの純度をそれぞれ算出した。その結果を表21に示す。算出した純度とアントラセンによる補正を行い、Fmoc-ペプチドの含有率を算出した。その結果を表22に示す。測定したサンプルの保管中にメチルエステル体が生じたサンプルに関しては、メチルエステル体も目的とするFmoc-ペプチドであるとして純度を算出した。
【0169】
算出式
DBF assay
sample: 純度による補正前の各Fmoc-ペプチドの含有率
P
S: Fmoc基を有する化合物中の各Fmoc-ペプチド純度
【0170】
【0171】
【0172】
上記の結果、本発明による定量法は、Fmoc-ペプチドの含量分析、および固相反応で合成し樹脂に担持されたFmoc-ペプチド化合物からのFmoc-ペプチドの含量分析にも利用可能であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0173】
本発明は、Fmoc骨格を有する保護基で保護されたアミノ基含有化合物の新規な定量方法を提供するものである。本発明により、分析試料中に含まれるFmoc骨格を有する保護基で保護されたアミノ基含有化合物の含量を、高精度で簡便に定量することが可能となる。