(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-22
(45)【発行日】2025-05-01
(54)【発明の名称】CA-IXアプタマー並びにその診断的および治療的使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/115 20100101AFI20250423BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20250423BHJP
A61K 47/54 20170101ALI20250423BHJP
A61K 49/00 20060101ALI20250423BHJP
A61K 49/06 20060101ALI20250423BHJP
A61K 49/04 20060101ALI20250423BHJP
A61K 49/10 20060101ALI20250423BHJP
A61K 49/22 20060101ALI20250423BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20250423BHJP
A61B 10/00 20060101ALI20250423BHJP
G01T 1/161 20060101ALI20250423BHJP
A61B 5/055 20060101ALI20250423BHJP
【FI】
C12N15/115 Z ZNA
A61K45/00
A61K47/54
A61K49/00
A61K49/06
A61K49/04
A61K49/10
A61K49/22
A61P35/00
A61B10/00 E
A61B10/00 T
G01T1/161 A
G01T1/161 B
A61B5/055 383
(21)【出願番号】P 2022516737
(86)(22)【出願日】2020-09-16
(86)【国際出願番号】 EP2020075806
(87)【国際公開番号】W WO2021052982
(87)【国際公開日】2021-03-25
【審査請求日】2023-09-15
(32)【優先日】2019-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504448162
【氏名又は名称】ブラッコ・イメージング・ソシエタ・ペル・アチオニ
【氏名又は名称原語表記】BRACCO IMAGING S.P.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】デ フランチシス,ヴィットリオ
(72)【発明者】
【氏名】エスポージト,カルラ ルチア
(72)【発明者】
【氏名】カトゥオーニョ,シルヴィア
(72)【発明者】
【氏名】ヌッツォ,シルヴィア
(72)【発明者】
【氏名】マイオッキ,アレッサンドロ
(72)【発明者】
【氏名】イアボーニ,マルゲリータ
(72)【発明者】
【氏名】ディ ヴィート,アルド
(72)【発明者】
【氏名】レイターノ,エリカ
(72)【発明者】
【氏名】ポッジ,ルイーザ
【審査官】山内 達人
(56)【参考文献】
【文献】RNA,2008年,14,pp.1154-1163
【文献】JOURNAL OF PHARMACEUTICAL SCIENCES,2012年,VOL. 101, NO. 5,pp. 1672-1677
【文献】Cytometry Part A,2004年,59A,pp.220-231
【文献】アプタマーの多価化による結合能の向上,2017年,p.10
【文献】International Journal of Nanomedicine,2018年,13,pp.6481-6495
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/115
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1および配列番号2から選択される配列を含
み、すべてのピリミジン残基が2’-フルオロピリミジンに修飾されている、炭酸脱水酵素IX(CA-IX)に特異的に結合するRNAアプタマー。
【請求項2】
最大で100ヌクレオチドの長さを有することを特徴とする、請求項1に記載のアプタマー。
【請求項3】
配列番号1からなる
配列を含み、すべてのピリミジン残基が2’-フルオロピリミジンに修飾されている、請求項1に記載のアプタマー。
【請求項4】
配列番号2からなる
配列を含み、すべてのピリミジン残基が2’-フルオロピリミジンに修飾されている、請求項1に記載のアプタマー。
【請求項5】
3’末端でビオチン
化されている、
請求項1~4のいずれかに記載のアプタマー。
【請求項6】
CA-IXの発現と相関する癌疾患の診
断または視覚化に使用するための、請求項1~
5のいずれかに記載のアプタマー。
【請求項7】
前記癌疾患が、腎臓癌、子宮頸癌、結腸癌、前立腺癌、乳癌および頭頸部癌から選択される、請求項
6に記載のアプタマー。
【請求項8】
前記診断または視覚化が、CA-IXを発現する体組織または器官のイメージングを含んでなる、請求項
6に記載のアプタマー。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれかに定義されるアプタマーと、薬学的に許容される担体および賦形剤とを含んでなる、診
断またはイメージング用組成物。
【請求項10】
CA-IXを発現する器官および組織のイメージングに
使用するための、請求項
9に記載の組成物。
【請求項11】
前記イメージングが、磁気共鳴イメージング、ポジトロン放出断層撮影(PET)、コンピューター断層撮影(CT)、超音波、光音響イメージング(PAI)、近赤外蛍光(NIRF)、または単一光子放射型コンピューター断層撮影(SPECT)に基づくものである、請求項
10に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸脱水酵素IX(CA-IX)に結合する核酸アプタマー、その誘導体およびコンジュゲート、ならびに診断ツール(特にCA-IXを発現する器官および組織のイメージングのための)としての、またはCA-IX関連疾患の予防または処置のための治療薬としての、その使用を提供する。
【背景技術】
【0002】
アプタマー
最近、アプタマーと呼ばれる機能的なオリゴヌクレオチドベースの生体分子が、抗体の潜在的な代替物として大きな関心を集めている。アプタマー選択の技術は、病気の診断と治療に適用できるため、科学界の注目を集めている。
【0003】
オリゴヌクレオチドアプタマーのサイズは約20~約80塩基(8~25kDa)であり、それらの構造は分子内相互作用に関与している(Levy-Nissenbaum E. et al., Trends Biotechnol. 2008, 26(8), 442-449)。アプタマーは、芳香族化合物間の相互作用、水素ライゲーションによる塩基対形成、ファンデルワールス相互作用、および荷電基または水素結合間の静電相互作用によって標的に結合する。結果として、アプタマーは、標的認識と生体分子の相互作用の後にコンフォメーション変化を受ける。
【0004】
これらの生物学的、物理的および化学的特性により、これらのオリゴヌクレオチドは診断および治療のための効果的な認識ツールとなる。生物学分野でのアプタマーの適用は主に、リボザイムによる分解のために制限されている。ヌクレアーゼからそれらを保護し、それらの熱安定性およびそれらの薬物動態学的特性を改善するために、化学修飾が必要である。
【0005】
修飾として、リボースの2’位のOHを2’-Fまたは2’-NH2基に交換して、細胞環境でのアプタマーの安定性を向上させることができる。アプタマーの他の変更としては、アミン、リン酸基、またはチミジンや他の非天然塩基の残基などの小分子による末端のキャッピングが挙げられる(Gao S. et al、Anal. Bioanal. Chem. 2016, 408(17), 4567-4573)。
【0006】
アプタマーは、SELEX(Systematic Evolution of Ligands by EXponential enrichment)法による試験管内の方法によって選択される。この方法は、Tuerk and Gold(Science, 1990, 249, 505-510)およびEllington and Szostak(Nature, 1990, 346, 818-822)により同時に記述された。SELEX法は、結合サイクル、溶出、およびランダムな核酸ライブラリーからのリガンドの増幅の繰り返しによってアプタマーを漸進的に選択し、選択された標的に対してより高い結合親和性を有する配列を選択するというものである。
【0007】
「cell-SELEX」と呼ばれるこの技術の新しい応用法が開発され、特定の標的細胞に結合するアプタマーを選択できるようになった(de Franciscis V. et al., Methods Mol Biol., 2016, 1380, 33-46)。選択パラメーターは、様々な条件(例えば、pH、温度、バッファー組成など)に対しより効率的なアプタマーを取得するために簡単に操作できる(Radom F. et al, Biotechnol. Adv. 2013, 31(8), 1260-1274)。従来のSELEXメソッドには、アフィニティークロマトグラフィー、キャピラリー電気泳動、ろ過膜など、アフィニティーと特異性を最大化し特定のアプタマーの選択速度と成功率を上げるためのいくつかの修正が含まれている(Stoltenburg R et al, Biomol. Eng. 2007, 24(4), 381-403)。選択されたオリゴヌクレオチドの特性は、さまざまな物理的、化学的、生物学的アッセイを使用して識別される(Song KM et al, Sensors, 2012, 12(1), 612-631)。一旦選択すれば、化学反応により高精度かつ再現性のある大量合成が可能である。これらの化学的方法は、抗体の生産よりも費用効果が高い。
【0008】
抗体と比較した場合、アプタマーのサイズは比較的小さいため、化学合成と可能な修飾が容易になる。それらは生体適合性があり、in vivoでの免疫原性が低い。それらは高い選択性と特定の標的に結合して認識する能力を持ち、親和定数(Kd)はナノモル濃度のレベルであり、一般にミリ/マイクロモル濃度のKdを有する抗体よりも低い。また、分子量が非常に小さいため、組織にすばやく効率的に浸透し、抗体では区別できないタンパク質の細胞外ドメインまたは細胞内ドメインを区別できる(Gopinath S.C. et al, J. Gen. Virol., 2006, 87(3), 479-487)。
【0009】
アプタマーの高い標的親和性/選択性、費用対効果、化学的多様性および安全性は、従来のペプチドまたはタンパク質ベースのリガンドよりも優れているため、分子イメージングに特に適している。実際、アプタマーは、長期の安定性のための化学修飾やさまざまな部分へのバイオコンジュゲーションに対する修正が可能であり、したがって、特定の造影剤(例えば、光学、磁気共鳴、核、コンピューター断層撮影、超音波およびマルチモダリティイメージング)として、ならびに治療剤として非常に有用であると考えられている。
【0010】
CA-IX
炭酸脱水酵素IX(CA-IX)は、細胞の表面に存在する亜鉛金属酵素である。これは、二酸化炭素からプロトンと重炭酸イオン(bicarbonate)への可逆的変換を触媒してpHの低下をもたらす酵素の、炭酸脱水酵素(CA)の大きなファミリーのメンバーである。
【0011】
これまで、16個のCAアイソフォームが哺乳動物で特徴づけられており、それらは、細胞内局在、触媒活性、種々の阻害剤に対する感受性、および組織特異的分布において異なる。このうち、CA-IXは、その遺伝子発現が、低酸素細胞の酸性環境の維持に関与していると考えられている、低酸素誘導因子1(HIF-1)と呼ばれる、低酸素のマスターレギュレーターによって促進されるので、腫瘍の低酸素応答のマーカーである(Wykoff et al., Cancer Res. 2000, 60, 7075-7083)。主に灌流不良と貧血に起因する腫瘍低酸素状態は、いくつかの種類の癌において急速な進行と予後不良につながる攻撃的で治療抵抗性の表現型を持つ細胞クローンの発生を誘発する重要な因子の1つである。事実、癌細胞は、それらの遺伝子発現(特にpH制御に関与する遺伝子の)が変化する厳しい環境で生き残る。
【0012】
CA-IXは、その触媒活性が、癌細胞の増殖と浸潤を増大させる酸性微小環境を生じる細胞外pH(pHe)の低下に寄与するため、多くの腫瘍(腎臓がん、子宮頸がん、結腸がん、前立腺がん、乳がん、頭頸部がんなど)の増殖および転移において重要な役割を果たしている。
【0013】
多くの研究によって、CA-IXは、他のCAと異なり、正常組織では少数(即ち、腸および胃の粘膜、胆嚢、精巣)でのみ発現し、多くの種類の癌細胞で過剰発現することが示されている。したがって、特定のツールを用いたCA-IXターゲティングによって、悪性腫瘍の従来の治療法と早期診断および予後を改善するための新しい重要な分野が開かれる。
【0014】
CA-IXターゲティング部分、特に抗CA-IXアプタマーの選択で直面する主な問題は、活性な状態でCA-IXをどのように特異的にターゲティングするかに関する。
イメージングおよび/または治療用途でこれまでに開発されたCA-IXターゲティング剤のクラスには、モノクローナル抗体(例えば、G250、M75など)またはミニ抗体(例えば、A3およびCC7など)および無機イオン、スルホンアミドベースの化合物、フェノールおよびクマリンなどの小さな化合物が含まれる。これらの薬剤のいくつかは現在臨床開発中である。
【0015】
特に、モノクローナル抗体(mab)M75およびG250は、CA-IX酵素を標的とするために開発された最初の解決手段である。Mab M75は標的のN末端にあるCA-IXのプロテオグリカン様(PG様)ドメインに結合するが、mab G250はCA-IXの触媒ドメインと相互作用する。放射性核種124Iで標識されたG250のキメラバージョン(cG250と称する)は、淡明細胞型腎細胞癌(ccRCC)の検出のために開発された。
【0016】
通常、モノクローナル抗体はほとんどの腫瘍標的化の用途に最適なリガンドと考えられてきたが、それらが多くの不利な点にさらされていることが明らかになってきている。実際、抗体は、腫瘍への浸透が遅く非効率的で、血液中に長く滞留し、長寿命の放射性同位元素の使用と遅い時点でのイメージングが必要となり、患者は高い放射線負荷にさらされる。実際、124I-cG250は、患者への注射から2~7日経たないとイメージングに適した腫瘍/血液比に達しない。さらに、モノクローナル抗体は免疫原性であり得、日常的な診断手順のために反復投与することを妨げる。
【0017】
これらの問題は、小分子を使用することで回避できる。大きな分子とは異なり、小さな分子は血液循環から急速に除去され、初期の時点でイメージングに適した腫瘍/血液比に達する。これにより、医師は抗体ベースの造影剤よりもはるかに迅速に診断情報を取得できる。
【0018】
CA-IXを標的とする小さな化合物の中で、最もよく研究され、最も堅牢なクラスの阻害剤はスルホンアミドであり、その高い親和性、アベイラビリティー、および化学的操作の容易さに起因している。しかし、それらのいくつかは有望な薬剤であるにもかかわらず、細胞内CAや他の細胞外CA(腫瘍だけでなく正常組織でも発現するCA-XIIなど)との相互作用による標的外毒性についての懸念が残っている。
【0019】
WO2014/128258は、癌の治療に使用するためのCA-IX標的化合物(例えば抗体cG250)、およびCA-IX発現の定量化およびCA-IXスコアの決定を含む癌疾患の診断、予測および/または分類のための方法を記載している。
WO2011/139375は、CA-IXに結合し、低酸素状態および/またはCA-IX活性の上昇に関連する癌疾患の診断および治療に有用な、新規な抗体およびその断片を開示している。
CN107648620およびZhu L. et al, Int. J. Nanomedicine, 2018, 13, 6481-6495は、ナノ粒子の脂質単層の外殻に固定化されたCA-IXアプタマーを運ぶ標的化超音波ナノバブルを開示しており;このような化合物は腫瘍血管系に浸透し、腫瘍実質細胞の超音波分子イメージングに使用できる。
WO2012/027493は、CA-IX、CA-XIIなどから選択される標的に特異的に結合する1つまたは複数の標的化イメージングプローブを対象に投与することによって、インビボで癌細胞を検出するための非侵襲的方法を記載している。可能な標的化プローブとしてアプタマーが言及されているが、特定の単離されたオリゴヌクレオチドの例は報告されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
これらの努力にもかかわらず、診断および/または治療に使用される、標的に対する高いそして特異的な親和性によって特徴付けられるCA-IX結合剤を開発する必要が依然としてある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、高い親和性で炭酸脱水酵素IX(CA-IX)酵素を特異的に標的化するRNAアプタマー配列の同定に基づく。
低酸素状態のマーカーとして多くの種類の癌におけるCA-IXのアップレギュレーションを考慮すると、本発明の抗CA-IXアプタマーは、より効果的な治療的処置の観点から、迅速な癌の診断とステージングに有用であり、播種性転移性疾患の全身や標的化した治療に対する応答の検出および追跡に有用である。
【0022】
特に、本発明のアプタマーは、それが生理学的に存在する部位、すなわちCA-IXが発現される細胞表面上で、標的を特異的に認識することで問題を解決し、インビボでのそれらの使用に適していることを実証する。実際に、本明細書に記載のアプタマーは、それらの表面上でCA-IXを過剰発現している細胞に直接結合することができることが見出された。
その目的のため、細胞-SELEX法を、細胞表面に発現するCA-IXに結合するアプタマーの特異的選択に適用した。
【0023】
2’-フルオロピリミジンで修飾されたRNA分子のライブラリーを、ヒトCA-IX(COS7-CAIX)で一過性トランスフェクションしたCOS7細胞に対する結合についてアッセイした。選択方法は、以下のサイクルの反復である:1.カウンター選択ステップのためのCOS7細胞でのアプタマーライブラリーのインキュベーション;2.非結合配列の回収と、選択ステップのためのCOS7-CAIX細胞でのインキュベーション;3.結合した配列の回収と増幅。選択ステップを繰り返した後、RNA分子の最終プールをクローニングし、最も高いCOS7-CA-IX結合を示す配列を分離し、それらの配列と標的に対する親和性を決定した。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】ELONAアッセイによるCA-IX精製タンパク質の結合評価。SAM-1.T1とSAM-2.T1(左のパネル)および抗HSAポリクローナル抗体(右のパネル)の450nmでの吸光度。
【
図2】ヒト血清中のSAM-1.T1およびSAM-2.T1アプタマーの安定性:種々の時間で回収したa)SAM-1.T1およびb)SAM-2.T1サンプルを変性ゲルにロードした(上のパネル)、c)バンドはImageJプログラム(下のパネル)により定量化した。両方のゲルの最初のラインは、サンプルのサイズを正しく評価するための、ヒト血清で処理していない配列を示している。
【
図3】ELONAアッセイによるHSAのK
d評価。(a)SAM-1.T1、(b)SAM-2.T1、および(c)抗HSAポリクローナル抗体の450nmでの吸光度。
【発明を実施するための形態】
【0025】
第1の態様において、本発明は、炭酸脱水酵素IX(CA-IX)に結合することができ、UCGAAUGAACCAAGGUUCCUCGGC(配列番号1)およびUUCGUGCCGCUGAGUGCGUACGGGC(配列番号2)から選択されるRNA配列を含む2つのアプタマーまたはそれらの誘導体を提供する。
【0026】
一実施形態では、上記のアプタマーは、最大で100ヌクレオチドの長さを有する。
それぞれ24ヌクレオチド、25ヌクレオチドの、配列番号1、配列番号2に対応する特定のRNA配列は、イメージングおよび治療に有用な小さな配列を得るために、最初に選択された2つの84merアプタマーを短くすることによって得られた。
【0027】
好ましい実施形態において、上で定義されたRNAアプタマーは、ヌクレアーゼに耐性であることを特徴とする。より好ましい実施形態において、上で定義されたRNAアプタマーは、すべてのピリミジン残基が2’-F(フルオロピリミジン)で修飾されていることを特徴とする。
【0028】
別のより好ましい実施形態では、上で定義されたRNAアプタマーは、ビオチンなどの結合部分に結合することができる。
【0029】
本発明の好ましいアプタマーは、配列番号1または配列番号2からなる。より好ましいのは、配列番号1からなるアプタマーである。
【0030】
アプタマー修飾
本発明のアプタマーは、例えば、ヌクレアーゼに対する耐性を高めるため、薬物動態を調節するため、または診断または治療部分とコンジュゲートさせるために、修飾することができる。
好ましくは、本発明のRNAアプタマーは、ピリミジン残基の少なくとも1つまたはすべてが2’-フルオロで修飾されている。さらに、その修飾は、核酸の糖、リン酸および塩基からなる群から好ましく選択される位置で化学置換を含み得る。いくつかの実施形態では、修飾は以下からなる群から選択される:ビオチン化、蛍光標識の組み込み、修飾ヌクレオチドの組み込み、2’-ピリミジン修飾、3’-位キャッピング、リンカーとのコンジュゲーション、化合物又は薬物とのコンジュゲーション、細胞毒性部分とのコンジュゲーション、およびフルオロフォア、放射性同位体、超音波造影剤またはレポーター部分による標識。修飾の位置は、アプタマーに結合する部分のタイプに応じて変更することができる。例えば、アプタマー配列は、3’末端および/または5’末端で修飾することができる。
【0031】
好ましい実施形態において、アプタマーはビオチンに連結される、例えば、次式(I)に示すように、3’末端でビオチン化されている。
【化1】
【0032】
レポーターまたは治療部分と適切に標識またはコンジュゲートされた本発明のアプタマーは、CA-IX関連状態、障害、機能不全、状態または疾患、特に癌疾患、の診断、治療または視覚化に使用することができる。例示的な用途としては、例えば腎臓癌、子宮頸癌、結腸癌、前立腺癌、乳癌および頭頸部癌などのCA-IXの発現に関連する癌疾患、ならびに心不全の診断または治療が挙げられる。
【0033】
本発明の特定の実施形態において、レポーター部分で標識されたアプタマーは、CA-IXを発現する身体の組織または器官、特に腫瘍実質組織、のイメージングに使用することができる。
【0034】
適切なイメージング技術としては、磁気共鳴イメージング、ポジトロン放出断層撮影(PET)、コンピューター断層撮影(CT)、超音波、光音響イメージング(PAI)、近赤外蛍光(NIRF)、単一光子放射型コンピューター断層撮影(SPECT)が挙げられる。
【0035】
イメージングに適用する場合、アプタマーに連結するレポーター部分は、一般的に以下から選択される:フルオレセインなどの蛍光シグナルを生成できる分子;FITC;アレクサ色素;Cy色素;DyLight色素;IRDye色素またはVivoTag色素;光学イメージングを使用してコントラストまたは信号を生成するのに使用できる薬剤を含む光学部分;常磁性金属イオンと安定な錯体を形成することができる磁気共鳴剤用のキレート剤を含む磁性部分;放射性標識部分;ヨウ素化有機分子または重金属イオンのキレートなどの、X線イメージングを使用してコントラストまたは信号を生成するのに使用できるX線部分;超音波標的化マイクロバブルを使用してコントラストまたは信号を生成するのに使用できる超音波イメージング部分;および光音響イメージングと互換性のある薬剤を含む、光音響イメージング部分。
【0036】
アプタマーと、レポーター部分または標識は、共有結合または非共有結合のいずれかで、場合により、ペプチド、アミノ酸または核酸を含む適切なリンカーまたはスペーサーを介して連結することができる。さらに、アプタマーと、レポーター部分または標識は、ビオチン/アビジン、ビオチン/ストレプトアビジン、ビオチン/ニュートラアビジン、またはジゴキシゲニン(DIG)系を含む標識系を用いて連結することができる。
【0037】
さらなる態様では、本発明は、本明細書で定義される少なくとも1つのアプタマーと、1つまたは複数の適切な薬学的に許容される担体、賦形剤、希釈剤および/または添加剤を含んでなる組成物を提供する。組成物の成分は使用目的、診断、治療、またはイメージングの用途かによって変更することができる。例えば、組成物は、1つ以上の治療用化合物および/または1つ以上の造影剤をさらに含むことができる。
【0038】
一実施形態では、組成物は、CA-IXを有する標的組織のイメージングに使用され、上記で定義されたレポーター部分でコンジュゲーションまたは標識されたアプタマーを含む。組成物は、例えば、リポソームまたはナノ粒子の形態であり、さまざまな種類の投与に適している。一実施形態では、組成物は、非経口投与、好ましくは静脈内または皮下投与に適している。この組成物は、腫瘍実質組織などのCA-IX発現組織または器官を視覚化するために使用することができる。
【0039】
さらに、好ましくはレポーターまたは治療部分で標識またはコンジュゲーションされている、本発明の少なくとも1つのアプタマーを1つまたは複数の容器内に含むキットも提供される。
【0040】
配列表の簡単な説明
配列番号1は、SAM-2.T1と称する24ヌクレオチドの短いアプタマー配列:
5’-UCGAAUGAACCAAGGUUCCUCGGC-3’;
配列番号2は、SAM-1.T1と称する25ヌクレオチドの短いアプタマー配列:
5’-UUCGUGCCGCUGAGUGCGUACGGGC-3’
を示す。
【実施例】
【0041】
装置
RT-qPCRは、StepOne(登録商標)PlusリアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems)により実行した。ゲルの視覚化は、Gel Doc EZ System(Bio-Rad)を用いて実行した。ELONAデータは、Multiskan(登録商標)FCマイクロプレート光度計(ThermoFisher Scientific)により得た。
【0042】
【0043】
実施例1:抗CA-IXアプタマーの選択と調製
選択:CA-IXに対するRNA配列は、cell-SELEXアプローチに従って、84ntフラグメントの非ナイーブライブラリーからスクリーニングした。この方法には、事前に豊富化したアプタマープールを、それぞれCOS7-WTおよび一過性トランスフェクトしたCOS7-CA-IX細胞上で、CAに対する親和性でカウンター選択/選択するステップのサイクルが含まれ、各ラウンドで選択圧を生じさせた。
濃縮したプールを、CA-IXによって維持される細胞外pH(約6.8)にするため酸性条件(60mM MESバッファーの存在下)にて細胞上でインキュベートした。細胞SELEXの各ラウンドの前に、RNA配列に2’-フルオロピリミジンを組み込むことができる変異型のT7RNAポリメラーゼを使用してプールを転写した。カウンター選択ステップをCOS7-WT細胞に対して実行し、COS7細胞上に通常発現するタンパク質を認識するアプタマーの選択を回避した。選択ステップは、標的に特異的なアプタマーを選択するために、一過性トランスフェクトしたCOS7-CA-IX細胞に対して実行した。各サイクルで、2’-フルオロピリミジンRNA配列のプールを最初にCOS7-WT細胞上で37℃にてインキュベートし、次いで結合しなかった2’-フルオロピリミジンRNA配列をCOS7-CA-IX細胞上でインキュベートした。数回洗浄した後、全RNA抽出により配列を回収した。cell-SELEXプロトコルの最後に、最終サイクルのクローンを作成し、サンプルの配列を決定した。得られた配列を豊富化について分析し、COS7-CA-IX細胞に結合できる配列を選択するためにRT-qPCRによる結合アッセイを実施した。基本的に、DNA配列を増幅および転写した後、RNA配列を、酵母tRNA 200μg/mLで前処理した後、酸性条件下、最終濃度として100nM、37℃にて、COS7-WT細胞およびCOS7-CA-IX細胞上で15分間インキュベートした。インキュベーション後、細胞をPBSで3回洗浄し、TRIsure試薬中に回収した。参照対照として使用するRNA配列を、正規化のために各ポイントにスポットした。倍率は、COS7-WT細胞に対しCOS7-CA-IXの結合値を比較して計算した。同一配列のカップルまたはグループを表す6つの配列をスクリーニングした。さらなる分析のため、実験を3回繰り返して倍率が高いものを選択した。イメージングへの適用に有用なより短い配列を得るため、より構造化された領域を単離し、短い配列の各々が長いアプタマーの対応する部分の折り畳みを維持していることを確認することにより、84merの元の分子をトランケートし、配列番号1(SAM-2.T1)および配列番号2(SAM-1.T1)に対応するより短い配列を選択した。以下の実施例2で、トランケートされた配列における結合能力の保持について評価した。
【0044】
調製:次に、本発明の選択されたアプタマーを人工合成によって得た。例えば、それらを、当技術分野で周知の方法に従って、RNAシンセサイザーを用いた固相合成によって合成した。次いで、それらを配列の3’末端でビオチンに結合させた。
RNA配列は、C6-アミノリンカー(3’-C6-NH2)を挿入した後、3’末端で市販のビオチンに結合させた。リンカーは、塩基性触媒作用にて、C6脂肪族ジアミンとの縮合により3’末端のリン酸に挿入した。生じたフリーのNH2部分をビオチン-NHSエステルと結合させ、アミド共有結合を形成した。ビオチン-NHSエステルを高品質の無水DMFまたはDMSOに溶解し、0.1~0.2Mの重炭酸ナトリウム緩衝液(pH8.3)中、室温にて反応を行った。PAGE次いでHPLCにより、精製を行った。
【0045】
実施例2:CA-IX陽性細胞に対するアプタマーSAM-1.T1およびSAM-2.T1の結合と親和性
短いアプタマーSAM-1.T1(配列番号2)およびSAM-2.T1(配列番号1)が元の分子の活性部位を含み、COS7-CA-IX細胞に対する高い結合性と親和性を維持していることを確認する目的で、結合アッセイを重複して行い、COS7-WT細胞に対するCOS7-CA-IXの配列結合能力を比較した。COS7細胞を播種し、ヒトCA-IXcDNAでトランスフェクトした。24時間後、RNA配列を最終濃度100nMで、酸性条件下、37℃にて、COS7-WTおよびCOS7-CA-IX上で15分間インキュベートした。結合したアプタマーの量を定量するためサンプルをRT-qPCRで分析し、COS7-WT細胞に対する倍率を計算した。
アプタマーSAM-1.T1およびSAM-2.T1について、倍率はそれぞれ1.3および2.4であった。この結果から、それらが細胞表面の膜上で生理学的コンフォメーションにて標的CA-IXに結合する能力が確認された。
【0046】
実施例3:ヒトCA-IX精製タンパク質に対するアプタマーSAM-1.T1およびSAM-2.T1の結合アッセイ
さらに別の実験で、アプタマーSAM-1.T1(配列番号2)およびSAM-2.T1(配列番号1)の結合について調べた。ビオチン化アプタマーSAM-1.T1およびSAM-2.T1を、ヒトCA-IX精製タンパク質に対して試験して、標的を認識する能力を確認した。
配列SAM-1.T1およびSAM-2.T1 200nMを、3’末端でビオチン化し、50nMのヒトCA-IX精製タンパク質を事前にコーティングしたまたはコーティングしていない(ブランク)96ウェルマイクロタイター高結合プレートでインキュベートした。各実験では、抗CA-IX抗体を陽性対照として使用した。
次いで、サンプルをELONAアッセイで分析した。
図1に示す結果は、アプタマーはいずれも抗CA-IX抗体と同様にCA-IXヒトタンパク質に結合することを示している。
【0047】
実施例4:ヒト血清中のアプタマーSAM-1.T1およびSAM-2.T1の安定性
酵素分解に対する耐性を評価するため、アプタマーSAM-1.T1およびSAM-2.T1を、ヒト血清中での安定性について試験した。それらを87%ヒト血清中で37℃にてインキュベートした。実験は3回行った。種々の時間(T0、1、2、4、8、12、24、48、72時間)でサンプルを回収し、血清タンパク質を分解するためにプロテイナーゼKと37℃にて1時間インキュベートし、変性ゲルにロードした。
図2に報告されている結果は、SAM-1.T1およびSAM-2.T1アプタマーがヒト血清中で非常に安定していることを示している。特に、SAM-1.T1アプタマーは24時間まで安定しており、SAM-2.T1アプタマーは72時間を超えても安定していた。
【0048】
実施例5:HSAに対するアプタマーSAM-1.T1およびSAM-2.T1の結合親和性
SAM-1.T1およびSAM-2.T1アプタマーのヒト血清アルブミン(HSA)に対する結合を評価するためELONAアッセイを実施した。ビオチン化SAM-1.T1およびSAM-2.T1アプタマーを、25nM HSAで事前にコーティングしたまたはコーティングされていない(ブランク)96ウェルマイクロタイター高結合プレート上にて、濃度を上げて(10-100-1000nM)インキュベートした。使用したどの条件でもアプタマーの結合は検出されず、SAM-1.T1およびSAM-2.T1アプタマーが1000nMまでHSAと反応しないことを示した。各実験では、抗HSAビオチン化ポリクローナル抗体を陽性対照として使用した。結果を
図3に示す。
【配列表】