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特許76713052型アンギオテンシンII受容体アゴニストの新規使用
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  • 特許-2型アンギオテンシンII受容体アゴニストの新規使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-22
(45)【発行日】2025-05-01
(54)【発明の名称】2型アンギオテンシンII受容体アゴニストの新規使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4178 20060101AFI20250423BHJP
   A61K 31/573 20060101ALI20250423BHJP
   A61K 31/675 20060101ALI20250423BHJP
   A61K 38/21 20060101ALI20250423BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20250423BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20250423BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20250423BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20250423BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20250423BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20250423BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20250423BHJP
   C07D 409/10 20060101ALN20250423BHJP
【FI】
A61K31/4178
A61K31/573
A61K31/675
A61K38/21
A61K45/00
A61P9/00
A61P11/00
A61P13/12
A61P31/12
A61P31/14
A61P31/16
C07D409/10
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2022557150
(86)(22)【出願日】2021-03-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-17
(86)【国際出願番号】 GB2021050699
(87)【国際公開番号】W WO2021191592
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2024-03-21
(31)【優先権主張番号】2004209.9
(32)【優先日】2020-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】2009574.1
(32)【優先日】2020-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】17/113,416
(32)【優先日】2020-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】522097843
【氏名又は名称】ヴィコール ファルマ アーベー
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】ダルスガード,カール-ヨハン
(72)【発明者】
【氏名】ラウド,ヨハン
(72)【発明者】
【氏名】バッタ,ロヒト
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-507244(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第01723962(EP,A1)
【文献】LIU, Cynthia et al.,Reasearch and Development on Therapeutic Agents and Vaccines for COVID-19 and Related Human Coronavirus Diseases,ACS Central Science,2020年03月12日,vol.6, no.3,pp.315-331
【文献】WANG, Di et al.,Renin-angiotensin-system, a potential pharmacological candidate, in acute respiratory distress syndrome during mechanisical ventilation,Pulmonary Pharmacology & Therapeutics,2019年,vo.58, 101833,pp.1-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 409/10
A61P 31/12
A61K 31/4178
A61P 11/00
A61P 31/14
A61P 31/16
A61P 13/12
A61P 9/00
A61K 45/00
A61K 31/573
A61K 31/675
A61K 38/21
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
呼吸器ウイルス誘発性気道組織及び/又は肺組織損傷の治療用医薬組成物であって、N-ブチルオキシカルボニル-3-(4-イミダゾール-1-イルメチルフェニル)-5-イソブチルチオフェン-2-スルホンアミド、又はその薬学的に許容される塩を含む医薬組成物
【請求項2】
前記気道組織及び/又は肺組織が、肺組織である、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項3】
前記気道組織が、気道上皮である、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項4】
前記気道組織が、肺胞上皮細胞を含む、請求項1または3に記載の医薬組成物
【請求項5】
前記肺胞上皮細胞が、肺胞上皮II型細胞を含む、請求項4に記載の医薬組成物
【請求項6】
前記損傷が、呼吸器ウイルスによって引き起こされる気道の粘膜組織の傷害及び/又は機能不全を含む、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項7】
前記呼吸器ウイルスが、コロナウイルスである、請求項6に記載の医薬組成物
【請求項8】
前記コロナウイルスが、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス又は重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2である、請求項7に記載の医薬組成物
【請求項9】
前記呼吸器ウイルスが、インフルエンザウイルスである、請求項6に記載の医薬組成物
【請求項10】
前記治療が、前記ウイルスによって引き起こされている、又は引き起こされた疾患の治療及び/又は進行の阻止を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項11】
前記疾患が、重症急性呼吸器症候群である、請求項10に記載の医薬組成物
【請求項12】
前記疾患が、コロナウイルス病2019である、請求項10に記載の医薬組成物
【請求項13】
前記疾患が、インフルエンザである、請求項10に記載の医薬組成物
【請求項14】
前記治療が、前記ウイルスによって引き起こされている、又は引き起こされた損傷又は疾患の症状の治療を含み、前記症状には、咳、呼吸困難、呼吸窮迫、呼吸不全、肺炎及び/又は肺の線維症のうちの1つ以上が含まれる、請求項1~13のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項15】
前記呼吸窮迫が、酸素補給及び/又は機械的人工換気の必要性によって顕在化する、請求項14に記載の医薬組成物
【請求項16】
前記症状が肺炎を含む、請求項14または請求項15に記載の医薬組成物
【請求項17】
前記治療が、呼吸器ウイルス誘発性の罹患及び/又は死亡の予防を含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項18】
前記塩が、ナトリウム塩である、請求項1~17のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項19】
前記N-ブチルオキシカルボニル-3-(4-イミダゾール-1-イルメチルフェニル)-5-イソブチル-チオフェン-2-スルホンアミド又はその薬学的に許容される塩が、経口投与される、請求項1~18のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項20】
呼吸器ウイルス誘発性気道組織及び/又は肺組織損傷の治療方法に用いる薬剤の製造のための、N-ブチルオキシカルボニル-3-(4-イミダゾール-1-イルメチルフェニル)-5-イソブチルチオフェン-2-スルホンアミド、又はその薬学的に許容される塩の使用。
【請求項21】
吸器ウイルス誘発性気道組織及び/又は肺組織損傷の治療用医薬製剤であって(i)N-ブチルオキシカルボニル-3-(4-イミダゾール-1-イルメチルフェニル)-5-イソブチルチオフェン-2-スルホンアミド、又はその薬学的に許容される塩;(ii)ウイルス感染症の治療に有用な治療薬;及び(iii)薬学的に許容されるアジュバント、希釈剤又は担体を含む、医薬製剤。
【請求項22】
構成要素:
(A)N-ブチルオキシカルボニル-3-(4-イミダゾール-1-イルメチルフェニル)-5-イソブチルチオフェン-2-スルホンアミド、又はその薬学的に許容される塩を、薬学的に許容されるアジュバント、希釈剤、又は担体と混合して含む医薬製剤、及び (B)ウイルス感染症の治療に有用な治療薬を、薬学的に許容されるアジュバント、希釈剤、又は担体と混合して含む医薬製剤、を含む、キットであって、
前記構成要素(A)及び(B)が、吸器ウイルス誘発性気道組織及び/又は肺組織損傷の治療方法における使用のため、各々、他方と組み合わせた投与に好適な形態で提供される、キット
【請求項23】
ウイルス感染症の前記治療に有用な前記治療薬が、抗ウイルス剤、抗炎症剤、非ステロイド性抗炎症剤、鎮痛薬、鎮咳薬、抗体、受動的抗体療法、抗線維化薬(antifibrotic)、ビタミン、粘液溶解薬、コルチコステロイド、H2受容体遮断薬、抗凝固薬、抗血小板薬、スタチン、抗菌剤、及び抗アレルギー/抗喘息薬の群から選択される、請求項21に記載の製剤、又は請求項22に記載のキット
【請求項24】
前記治療薬が、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、デキサメタゾン、レムデシビル、インターフェロンベータ及びインターフェロンベータ-1aから選択される、請求項23に記載の製剤、又はキット
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既知の化合物の新規使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルスは、生物有機体に感染できる遺伝物質(DNA又はRNA)を含む非常に小さな有機体である。
【0003】
まず、ウイルスが侵入し、生きている宿主細胞に、多くの場合、適切な接着受容体を介して付着する。次に、侵入受容体を介して細胞に侵入し、その後、増殖してより多くのウイルス粒子(ビリオン)を生成し、更に感染しやすい細胞に付着して侵入する。
【0004】
一般に、ウイルスは1種類の細胞にのみ感染するが、感染した個人やその体の分泌物、動物(節足動物など)、又は無生物との接触など、様々な方法で伝染する可能性がある。ウイルスは、吸入や飲み込みによっても感染する。
【0005】
細胞がウイルスに感染すると、細胞を死滅させたり、細胞の機能を変化させたりして、何らかの損傷や傷害が発生し、その結果、他の細胞への更なる感染、及び/又はより急速な感染が引き起こされる可能性がある。
【0006】
そのような損傷が十分に重大である場合、一般にウイルス性疾患と呼ばれるものにつながる。ウイルス性疾患には独自の認識された症状があり、対象によって異なる場合があるが、これはしばしばウイルス感染の存在の疑いにつながるものであり、その後適切な検査手順によって確認される可能性がある。
【0007】
ウイルス性疾患の症状は、ウイルス自体によって引き起こされる細胞及び/又は組織への損傷の直接的な結果である可能性があり、時には重篤な病気、場合によっては罹患及び/又は死に至る可能性がある。
【0008】
しかし、症状は、ウイルス感染後の生物の免疫防御システムの応答にも関連している可能性がある。リンパ球や単球などの白血球は、侵襲性ウイルスを攻撃して破壊しようとする。これは体の免疫応答の一部である。免疫反応により、患者は気分が悪くなったり、疲労感を感じたりすることがよくある。患者の免疫システムが損なわれている場合、又はウイルスの拡散を防ぐのに十分な効果がない場合、これは重篤な病気、罹患性、及び/又は死につながる可能性もある。
【0009】
実際、肺機能に深刻な影響を与え、呼吸器疾患を引き起こすウイルスには様々な種類がある。一般的な呼吸器系ウイルスには、コロナウイルス(corona virus)(以下、一般的な用法では「コロナウイルス(coronavirus)」と通常縮めて使用される)、インフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、パラインフルエンザウイルス、アデノウイルス、ライノウイルス、ヒトメタニューモウイルス、及びエンテロウイルスが含まれる。
【0010】
コロナウイルスは、哺乳類や鳥類に病気を引き起こす関連ウイルスのグループである。ヒトコロナウイルスには、現在7つの株が知られている:
・重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)、
・重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2、「2019-nCoV」又は「新型コロナウイルス2019」として以前から知られている)、多くの遺伝子バリアントが存在するコロナウイルス病2019(COVID-19)を引き起こすウイルス、
・ヒトコロナウイルス229E(HCoV-229E、ヒトコロナウイルスOC43(HCoV-OC43)、
・ヒトコロナウイルスNL63(HCoV-NL63又はニューヘイブンコロナウイルス)、
・ヒトコロナウイルスHKU1、
・中東呼吸器症候群関連コロナウイルス(MERS-CoV)、以前から新型コロナウイルス2012として知られている、
・ヒトコロナウイルスエラスムス医療センター/2012(HCoV-EMC/2012)。
【0011】
ヒトでは、コロナウイルスは通常軽度の気道感染症を引き起こすが、SARS-CoVやSARS-CoV-2などの一部の形態は致死的であり得、これは制御されていない攻撃的で有害な肺炎症と細胞アポトーシスが原因であると考えられている(Fu.et al,Virol.Sin.,35,266(2020))。
【0012】
アンギオテンシン変換酵素(ACE)は、アンギオテンシンIを血管収縮剤であるアンギオテンシンII(AngII)に変換するレニン-アンギオテンシン系(RAS)の中心的な成分であり、血圧を上昇させることが知られている。その結果、ACE阻害薬は心血管疾患、特に高血圧の治療に広く使用されている。
【0013】
アンギオテンシン変換酵素2(ACE2)は、アンギオテンシンIからノナペプチドアンギオテンシン[1-9]への変換、及びアンギオテンシンIIからヘプタペプチドアンギオテンシン[1-7]への変換を触媒するペプチダーゼである。
【0014】
肺胞上皮細胞は、肺におけるコロナウイルス感染の重要な標的である(Miura and Holmes,J.Leukoc.Biol.,86,1145(2009))。実際、ヒト肺組織では、ACE2発現細胞の83%が肺胞上皮細胞であることが報告されている(Zhao et al(2020),https://doi.org/10.1101/2020.01.26.919985及びZhang et al,Intensive Care Med.,46,586(2020))。ACE2は、高血圧症の治療に使用されるACE阻害剤に対して感受性がない(Tipnis et al.,J.Biol.Chem.,275,33238(2000))。
【0015】
アンギオテンシンII受容体1型受容体(AT1R)は、十分に特徴付けられたアンギオテンシン受容体である。それはAngIIによる血管収縮を媒介し、アルドステロン分泌を調節して血圧を制御する。AT1R遮断薬(ARB)は、高血圧症や糖尿病性腎症の治療に使用される薬である。
【0016】
SARS-CoV及びSARS-CoV-2ウイルスはいずれも、ACE2を介して標的細胞に結合し、侵入することが知られている(例えば、前掲のZhang et al及びZhou et al.,Nature,579,270(2020)を参照されたい)。
【0017】
Fang et alが、Lancet Respir.Med.,8,e21(2020)で最近概説したように、COVID-19患者の最も特徴的な合併症は、糖尿病と高血圧である。前述のように、後者の併存疾患は、多くの場合、ACE阻害剤やARBで治療される。
【0018】
ACE2の発現は、ACE阻害剤及び/又はARBで治療された患者で大幅に増加し、SARSウイルスへの感染を促進すると予想される。したがって、前掲のFang et alは、糖尿病患者や高血圧患者をACE2刺激薬で治療すると、COVID-19などの重篤で致命的なSARS感染症を発症するリスクが高まる可能性があることを示唆した。
【0019】
世界保健機関によって実施された利用可能な証拠の迅速なレビューである程度対処され、その結果、そのような患者はCOVID-19による転帰不良のリスクが高くない可能性が高いと結論付けられた(2020年5月7日)が、これらの懸念が引き続き表明されていることは注目に値する。例えば、Diaz,Journal of Travel Medicine,2020,1-2,doi:10.1093/jtm/taaa041、Hoffmann et al,Cell,181,1(2020)及びGnanenthiran et al,BMJ Open2021;11:e043625.doi:10.1136/bmjopen-2020-043625を参照されたい。後の方の出版物は、RASの専門家を含む世界中の専門家のプールによって最近書かれ、彼らは、COVID-19でACE阻害剤及び/又はARB療法を開始、継続、又は中止する必要があるかどうかに関する臨床的確実性と意思決定を改善する目的で臨床試験のメタアナリシスを実施することを提案した。
【0020】
2型アンギオテンシンII受容体(AT2R又はAGTR2)は、AT2Rアゴニストによって活性化されると、抗炎症性、抗線維化、抗増殖性及び血管拡張活性を媒介する(例えば、Verdonk et al,Expert Opin.Investig.Drugs21,501(2012)を参照されたい。
【0021】
AT2R受容体の活性化はまた、ACE阻害剤及び/又はARBと同様に、ACE2の発現及び活性を増強すると理解されている(Zhu et al,Am.J.Physiol.Heart Circ.Physiol.309,H827(2015)。また、Cui et al,Preprints(2020),https://doi:10.20944/preprints202002.0194.v1による論文では、AT2RがACE2と同様に、2019-nCoVのヒト細胞への侵入に寄与する可能性があることも報告されている。
【0022】
Imai et al(Nature,436,112(2005))は、AT2R遮断薬が肺損傷の非ウイルス性刺激後の疾患進行に影響を及ぼさないことを報告しており、AT2Rの明らかな保護的役割はAT2Rアゴニスト活性化とは無関係であることを示唆している。嚢胞性線維症(CF)のモデルでは、AT2Rを(刺激するのではなく)遮断することでCFの発現が防止されることも実証されており、すなわちATR2シグナル伝達の減少はCF肺機能に有益である(Darrah et al,Journal of Cystic Fibrosis,18,127(2019)。同様に、AT2Rの遮断は、化学的に誘発された肺の炎症を有意に軽減することも示されている(Waseda et al,Respiratory Research,9,43(2008))。
【0023】
国際特許出願第2002/096883号は、アンギオテンシンII受容体アゴニストとしてのイミダゾリル、トリアゾリル、及びテトラゾリルチオフェンスルホンアミド及びそれらの誘導体の調製を記載している。その文献に記載されている化合物(実施例1として)のうちの、化合物21(N-ブチルオキシカルボニル-3-(4-イミダゾール-1-イルメチルフェニル)-5-イソブチルチオフェン-2-スルホンアミド、以下「C21」)である。C21は、選択的AT2アゴニストとして約20の関連類似体のグループから臨床開発のために選択された。現在、特発性肺線維症(IPF)を含むAT2関連疾患の治療のために臨床開発中である(例えば、国際特許出願第2016/139475号を参照)。
【0024】
異なる選択されたAT2RアゴニストであるCGP42112に関して前掲のZhu et alが報告したように、C21は、AT2R自体とACE2の両方の発現を増加させることが示されている(炎症を起こした肺組織におけるC21の場合;Bruce et al,Br.J.Pharmacol.,172,2219(2015))。
【0025】
SARS-CoVやSARS-CoV-2を含む呼吸器ウイルスが重篤な疾患を引き起こし、時には致命的になるメカニズムはまだよくわかっていないが、前述のように、COVID-19は(少なくとも)制御されていない肺の炎症及び細胞アポトーシスを介して進行すると考えられている。(Fu et al、前掲)。C21と他のAT2RアゴニストであるCGP42112の両方がアポトーシスを誘導することが示されている(Chamoux et al,J Clin Endocrinol Metab,84,4722(1999)、Ito et al,Oncotarget,9,13859,(2018))。
【0026】
更に、C21は、肺のガス交換を改善しないか、又は急性肺損傷のモデルにおいて他の関連する有益な臨床効果を持たないことがわかっている(Menk et al,J.Inflamm.Res.,11,169(2018))。
【0027】
上記にもかかわらず、2020年初頭に急速に進行する世界的なCOVID-19パンデミックの過程において、C21に関連する以前に公開されていないデータを再検討し、再評価したところ、それは、C21がヒト小気道上皮細胞におけるE-カドヘリンの発現を用量依存的に減少させることを示した。E-カドヘリンは、宿主細胞結合及び細胞へのウイルス侵入のレベルでウイルス感染に重要な役割を果たすことが知られているカルシウム依存性上皮細胞接着分子である(Hu et al,Front.Cell.Infect.Microbiol.,10,Article74(2020))。
【0028】
本明細書で初めて報告されたこれらのデータは、ACE2レベルを上昇させる可能性と、これを行うことに関連する真の臨床的懸念にもかかわらず、C21によるそのようなE-カドヘリンのダウンレギュレーションが関連する細胞へのSARS-CoV-2の結合と侵入を阻害する可能性があるという結論に導いた。C21は、ウイルスが細胞に感染するメカニズムを破壊することにより、病気の進行を更に阻止し、深刻な症状を軽減する可能性がある。
【0029】
驚くべきことに、C21が実際にヒトの気道上皮に有益な効果をもたらし、臨床現場で患者におけるSARSウイルス誘発性肺上皮損傷及び機能不全から保護することを発見した。
【0030】
特に、本明細書で更に説明するように、COVID-19患者を対象に実施された二重盲検プラセボ対照臨床試験で、非常に驚くべきことに、C21は重度の呼吸器ウイルス性疾患の発症を抑止又は予防できるだけでなく、そのような疾患の迅速な解消を促進することができるようである。
【0031】
特に、C21を投与された患者では、プラセボと比較して、酸素治療の必要性が有意に低いことがわかった。人工換気を必要とする患者の数も、C21グループで減少することがわかった。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明によれば、呼吸器ウイルス誘発性組織損傷の治療方法における使用のためのC21又はその薬学的に許容される塩が提供される。
【0033】
組織損傷には、関連する組織及び/又はそれらを構成する細胞の傷害及び/又は機能不全が含まれる。関連する組織には、気道の(粘膜)組織、特に肺の組織が含まれる。したがって、関連する組織には、気道を湿らせ、ウイルスなどの病原体の侵入から保護する呼吸上皮が含まれる。
【0034】
挙げることができる呼吸器ウイルスには、インフルエンザウイルス、とりわけ、SARS-CoV、特にSARS-CoV-2などのSARSコロナウイルスを含む、前述のものなどのコロナウイルスが含まれる。
【0035】
組織損傷の「治療」とは、C21及びその塩が、そのようなウイルスによって引き起こされた気道の組織損傷に有益な効果をもたらすことだけでなく、関連するウイルスが、例えば、気道内の上皮細胞に侵入したときに発生する、気道内でそのウイルスによって引き起こされたであろう損傷を予防及び/又は軽減し得ることを含む。
【0036】
以下に記載されるデータは、C21及びその塩が、そのような呼吸器組織損傷及び/又は傷害の加速された解消を更に促進することを示し、したがって、C21及びその塩が肺機能及び/又は呼吸機能を回復させることができるため呼吸器疾患の加速された解消を促進し得ることを示す。
【0037】
したがって、疑いを避けるために、組織損傷の「治療」には、そのような損傷の治療的、対症療法的及び緩和的治療、並びに原則として、そのような損傷の予防、又はそのような損傷の診断上の精密検査中の処置(つまり、疑われる場合)が含まれる。更に重要なことに、C21及びその塩は、そのような組織損傷及び/又はそのような損傷若しくは疾患の症状によって引き起こされる疾患の発症を抑止又は予防し得る。
【0038】
この点で、C21及びその塩は、呼吸器ウイルスによって引き起こされている、又は引き起こされた疾患(すなわち、インフルエンザなどの疾患、並びに急性肺傷害(ALI)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、特にSARS、並びにとりわけCOVID-19)並びにその続発症を治療し得る及び/又はその進行を阻止し得る。
【0039】
C21及びその塩はまた、そのような呼吸器疾患の症状の治療及び/又は予防を含む、そのようなウイルスによって引き起こされている、又は引き起こされた損傷を治療及び/又は予防し得、これらの症状は、咳、呼吸困難、呼吸窮迫(例えば、酸素補給/酸素補充(フェイスマスク又は鼻カニューレ(高流量又はその逆)を介して投与され得る)、及び/又は機械的人工換気/体外膜型酸素供給の必要性によって顕在化する)、呼吸不全、並びに/又は直接的(ウイルス性肺炎)及び/若しくは間接的(インフルエンザで一般的な二次細菌感染に起因する細菌性肺炎)に発生する可能性のある肺炎を含む。
【0040】
このような症状には、肺並びに、心臓及び腎臓などの他の臓器における線維症も含まれる場合がある。このような線維症は、多くのCOVID-19患者に特有の問題であることが知られており、炎症を含む多くの要因の1つ以上が原因である可能性がある。
この点において、C21及びその塩は、呼吸器ウイルス誘発性の罹患及び/又は死亡の進行を予防又は阻止し得、C21は、上記で特定された慢性症状のいずれかの発症を治療及び/又は阻止し得る。
【0041】
以下に記載するデータは、C21及びその塩が、上記の症状及び/又はそれらの重症度を予防する目的で、呼吸器ウイルス感染の陽性診断後いつでも、その後できるだけ早く処方することができることを示唆している。
【0042】
言及され得るC21の塩には、酸付加塩及び塩基付加塩が含まれる。そのような塩は、従来の手段によって、例えば、遊離化合物と、1当量以上の好適な酸又は塩基とを、任意選択的に溶媒中で、又は塩が不溶である媒体中で反応させ、その後標準的な技術を使用して(例えば、真空下で、凍結乾燥によって、又は濾過によって)、当該溶媒又は当該媒体を除去することによって、形成されてもよい。塩はまた、例えば、好適なイオン交換樹脂を使用して、塩の形態の有効成分の対イオンを別の対イオンと交換することによって、調製されてもよい。C21の好ましい塩には、HCl塩のような酸付加塩、マグネシウム及びカルシウム塩などのアルカリ土類塩、並びにカリウム塩、又は、好ましくは、ナトリウム塩などのアルカリ金属塩が含まれる。
【0043】
C21及びその塩はそれ自体で生物学的活性を有し得るが、C21の特定の薬学的に許容される(例えば、「保護された」)誘導体が存在するか又は調製され得、これはそのような活性を有しない可能性があるが、投与され、その後体内で代謝されて、C21を形成し得る。したがって、そのような化合物(そのような活性がC21の活性よりもかなり低いという条件で、何らかの生物活性を有し得る)は、C21の「前駆体」又は「プロドラッグ」として記載され得る。
【0044】
本明細書で使用する場合、前駆体又はプロドラッグへの言及には、投与後の所定の時間内に、実験的に検出可能な量でC21を形成する化合物が含まれる。C21の全ての前駆体及びプロドラッグは、本発明の範囲内に含まれる。
【0045】
本発明の更なる態様によれば、上記で定義した呼吸器ウイルス誘発性組織損傷の医学的治療の方法が提供され、この方法は、C21又はその薬学的に許容される塩をそのような治療を必要とする対象に投与することを含む。
【0046】
「対象」(本明細書では「患者」と交換可能に使用することができる)には、鳥類、特に哺乳動物(特にヒト)の対象及び/又は患者が含まれる。ヒトの患者には、成人患者と小児患者の両方が含まれ、後者には、生後約24か月までの患者、約2~約12歳の患者、及び約12~約16歳の患者が含まれる。約16歳を超える患者は、本発明の目的のために成人とみなされ得る。これらの異なる患者集団には、異なる用量のC21、又はその塩が与えられ得る。
【0047】
本発明によれば、C21又はその薬学的に許容される塩が、成人患者/対照、より具体的には、約20歳を超える、例えば、約30歳を超える対象に、約40歳を超える、より好ましくは約50歳を超える、特に約60歳を超える、特に約70歳を超える、より具体的には約80歳を超える対象を含めて投与されることが好ましい。
【0048】
C21又はその薬学的に許容される塩は、以下の基礎疾患の1つ以上を有する患者/対象(対象が上記の年齢層の1つに属しているかどうかにかかわらず)に投与されることが更に好ましい:
・肺線維症、肺高血圧症、肺動脈性肺高血圧症、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺気腫又は気管支炎などの慢性(長期)呼吸器疾患
・心不全、心房細動又は高血圧などの慢性心血管(例えば、心臓)疾患
・慢性腎疾患
・肝炎などの慢性肝疾患
・パーキンソン病、運動ニューロン疾患、多発性硬化症、学習障害又は脳麻痺などの慢性神経疾患
・糖尿病
・患者の脾臓の問題-例えば、鎌状赤血球症又は脾臓が除去されているかどうか
・HIV及びAIDSなどの状態、又はステロイド錠剤などの医薬若しくは化学療法の結果としての、低下した免疫系
・肥満(例えば、ボディマス指数(BMI)が40以上)
・妊娠
【0049】
上述のように、以下に記載される結果は、C21が、呼吸器ウイルス感染、呼吸器ウイルス誘発性細胞及び/若しくは組織損傷、そのような損傷から生じ得る呼吸器ウイルス疾患(及びその症状)、並びに/又は、ウイルス感染によって直接的若しくは間接的に誘発される可能性がある、そのような重篤な疾患の長期的な生理学的影響に対して幅広い活性を有することを実証している。
【0050】
この点に関して、本発明のいくつかの更なる態様によれば、1つ以上の以下の状態の治療及び/又は予防の方法が提供される。
・「長期COVID」、「慢性COVID症候群」(CCS)及び/又は「長期COVID」などとして知られる、例えば、SARS-CoV-2感染の急性後遺症(PASC)、
・急性腎傷害及び/又は慢性腎疾患、
・肺線維症、肺高血圧症、肺動脈性肺高血圧症、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺気腫及び/又は気管支炎などの呼吸器疾患、並びに
・心筋梗塞、心不全、心房細動、高血圧又は血栓症などの心血管疾患、並びに/又は例えば心臓、肺及び/若しくは脳における塞栓症。
これらの全ては、呼吸器ウイルス(SARS-CoV-2など)によって直接的又は間接的に誘発され得、この方法は、C21又はその薬学的に許容される塩を、そのような治療及び/又は予防を必要とする対象に投与することを含む。
【0051】
本発明によれば、C21及びその薬学的に許容される塩は、局所的又は全身的に、例えば、経口、静脈内又は動脈内(血管内及び他の血管周囲装置/剤形(例えば、ステント)によるものを含む)、筋肉内、皮膚、皮下、経粘膜(例えば、舌下若しくは頬側)、直腸、膣内、経皮、経鼻(経鼻腔胃を含む)、例えば乾燥粉末吸入器を介する乾燥粉末として又は例えば吸入投与を介するエアロゾルとしての例えば吸入を介して肺(例えば、気管若しくは気管支)に、局所的に、又は薬学的に許容される剤形で化合物を含む医薬製剤の形態で任意の他の非経口経路により、投与することができる。
【0052】
したがって、治療は、C21及びその薬学的に許容される塩の全身投与によって、例えば、経口投与(例えば以下に説明する)、非経口経路(例えば、注射による)、又は肺内投与によって誘発され得、例えば国際特許出願第2020/095042号(PCT出願番号GB2019/053137)に記載されているとおりである。
【0053】
C21及びその薬学的に許容される塩の他の送達様式には、局所投与が含まれる。このような投与様式では、体循環への本発明の化合物の吸収が起こり得るか、又は本発明の化合物が投与部位(例えば呼吸器粘膜)で局所的に作用し得る。
【0054】
感染が予想される、又は疑われる場合(主に予防的な方法で)はもちろん、関連する呼吸器疾患の初期段階(例えば、発症前及び/又は軽度の症状のある患者)及び/又は後期段階(より重篤な症状を含む)を示す患者(経口投与の場合、そのような患者が人工換気を必要とする前を含む)において、吸入及び/又は特に経口によるC21/その塩の投与は、入院患者及び非入院患者(外来患者)の両方で簡便に行うことができる。
【0055】
C21及びその塩の経鼻胃投与又は吸入投与による投与は、呼吸器疾患の後期段階での、例えば、入院、酸素補充を必要とする患者、及び特に機械的人工換気及び/又は体外膜型酸素供給を含むクリティカルケアを必要とする患者における、C21の投与の場合においても有用であり得る。
【0056】
C21及びその薬学的に許容される塩は、一般に、意図する投与経路及び標準的な薬務を考慮して選択することができる(例えば、薬学的に許容される)アジュバント、希釈剤、又は担体と混合した1つ以上の製剤の形態で投与される。薬学的に許容される担体は、活性化合物に対して化学的に不活性であってもよく、使用条件下で有害な副作用又は毒性が制限されている(又は好ましくは全くない)。そのような担体はまた、有効成分の即時放出又は放出調節を付与し得る。
【0057】
好適な医薬製剤は、市販されているか、又はそうでなければ、文献、例えば、Remington The Science and Practice of Pharmacy,22nd edition,Pharmaceutical Press(2012)、及びMartindale-The Complete Drug Reference,38th Edition,Pharmaceutical Press(2014)、並びにそこで参照されている文書に記載の技術に従って調製することができ、これら全ての文書の関連する開示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0058】
そうでなければ、C21及びその薬学的に許容される塩を含む適切な製剤の調製は、常用技術を使用して当業者によって非発明的方法で達成され得る。
【0059】
本発明の更なる態様によれば、C21又はその薬学的に許容される塩を、アジュバント、希釈剤又は担体などの1つ以上の薬学的に許容される賦形剤とともに含む医薬組成物であって、呼吸器ウイルス誘発性組織損傷の治療方法における使用のために包装され提示される、組成物が提供される。
【0060】
有効成分の投与は、連続的又は断続的であり得る。
【0061】
投与の様式は、投与のタイミング及び頻度によっても決定され得るが、その状態の重症度、又は治療の必要性にも依存する。
【0062】
本発明の製剤中の有効成分の量は、呼吸器ウイルス誘発性組織損傷の重症度、又はそのような重症度の予測、並びに治療される患者に依存し、かつ/又はそれに依存して選択され得るが、当業者によって決定され得る。
【0063】
いずれにしても、実践医師又は他の熟練者は、個々の対象に最も好適な実際の投与量を日常的に決定することができるであろう。本明細書に言及される投与量は、平均的なケースの例示であり、当然のことながら、より高い又はより低い投与量範囲が妥当である個々の事例が存在する可能性があり、それらも本発明の範囲内である。
【0064】
(例えば)呼吸器ウイルス誘発性組織損傷の急性治療に関連して、C21又はその塩の用量は、例えば、最大3か月(例えば、2か月)間、1日1回~4回(例えば、1~3回)、最大3週間を含む1か月、例えば、4日又は3日などの最大1週間の間、投与され得る。そのような治療期間は、必要に応じて繰り返され得る。
【0065】
肺及び他の内臓の線維症など、前述の慢性症状の1つ以上が発症した場合、上記の急性投与に加えて、及び/又は上記急性投与レジメンの代わりに、C21又はその塩による治療は、継続的であるか及び/又は必要に応じて/要求に応じて行われ得る。
【0066】
成人対象(平均体重、例えば70kg)におけるC21の適切な経口1日用量(遊離塩基として計算)は、約400mg及び約200mg(例えば、約100mg)を含めて約600mgまでであり、約50mg以上であり得る。
【0067】
いずれにせよ、本発明の観点から、哺乳動物、特にヒトに投与される用量は、(例えば、本明細書に記載されるように)合理的な時間枠にわたって対象において応答をもたらすのに十分であるべきである。当業者は、正確な用量及び組成並びに最も適切な送達レジメンの選択が、とりわけ、製剤の薬理学的特性、治療対象の年齢、状態、体重、性別及び応答を含めたレシピエントの体調、並びにまた性質、疾患の病期/重症度、並びに患者間の遺伝的差異によっても影響されることを認識するであろう。
【0068】
本明細書に記載の使用及び方法において、C21及びその塩はまた、ウイルス感染症及び/又はそれによって引き起こされる疾患の症状を有する患者の治療に有用な1つ以上の治療薬と併用することができる。
【0069】
本発明に従ってC21と組み合わせて使用できる治療薬には、ウイルス感染症の種々に適用されたより多くの標準治療が含まれ、抗ウイルス薬(例えば、オセルタミビル、レムデシビル、ファビピラビル(favilavir)、シメプレビル、ダクラタスビル、ソホスブビル、リバビリン、ウミフェノビル、ロピナビル、リトナビル、ロピナビル/リトナビル(Kaletra;AbbVie Deutschland GmbH Co.KG)、テイコプラニン、バリシチニブ(Olumiant;Eli Lilly)、ルキソリチニブ(Jakavi;Novartis)、トファシチニブ(Xeljanz;Pfizer)、TMPRSS2阻害剤、カモスタット及びカモスタットメシル酸塩、アクテンブラ(Actembra)(Roche)、TZLS-501、AT-100(rhSP-D)、OYA1(OyaGen9)、BPI-002(BeyondSpring)、NP-120(Ifenprodil;Algernon Pharmaceuticals)、ガリデシビル(Galidesivir)(Biocryst Pharma)、REGN3048-3051及びKevzara(SNG001;Synairgen Research);抗炎症剤(例えば、NSAID、イブプロフェン、ケトロラック、ナプロキセンなど)、コルヒチン、並びにクロロキン、ヒドロキシクロロキン、インターフェロン(例えば、インターフェロンベータ、インターフェロンベータ-1a)、トシリズマブ(Actemra)、レナリドマイド、ポマリドマイド、及びサリドマイド)、鎮痛薬(例えば、パラセタモール又はオピオイド)、鎮咳薬(例えば、デキストロメトルファン)、ワクチン接種(例えば、Inovio Pharmaceuticals and Beijing Advaccine BiotechnologyのINO-4800(利用可能な場合))、抗体療法(例えば、LY-CoV555/LY-CoV016(バムラニビマブ及びエテセビマブ)、LY-CoV555(バムラニビマブ;Eli Lilly)、REGN-COV2(カシリビマブ及びイムデビマブ)、REGN3048-3051、TZLS-501、SNG001(Synairgen)、エクリズマブ(Soliris;Alexion Pharmaceuticals)、ラブリズマブ(Ultomiris;Alexion Pharmaceuticals)、レンジルマブ、レロンリマブ、トシリズマブ(Actemra;Roche)、サリルマブ(Kevzara;Regeneron Pharma)、及びオクタガム(Octapharma))並びに/又はCOVID-19回復期患者の血漿(CCP)を含む、SARS-CoV若しくはSARS-CoV-2の感染から回復した人々の血液由来の抗体による受動的抗体療法、が含まれる。
【0070】
言及され得る更なる治療薬には、抗線維化薬(例えば、ニンテダニブ、特に、ピルフェニドン)、ビタミン(例えば、ビタミンB、C、及びD)、並びにアセチルシステイン及びアンブロキソールなどの粘液溶解薬が含まれる。
【0071】
本発明に従ってC21又はその塩と組み合わせて使用され得る他の治療薬は、コルチコステロイドを含む。コルチコステロイドは、天然に存在するコルチコステロイド及び合成コルチコステロイドの両方を含む。
【0072】
言及され得る天然に存在するコルチコステロイドには、コルチゾール(ヒドロコルチゾン)、アルドステロン、コルチコステロン、コルチゾン、プレグネノロン、プロゲステロン、並びにコルチコステロイド生合成における天然に存在する前駆体及び中間体、並びに11-デオキシコルチゾール、21-デオキシコルチゾール、11-デヒドロコルチコステロン、11-デオキシコルチコステロン、18-ヒドロキシ-11-デオキシコルチコステロン、18-ヒドロキシコルチコステロン、21-デオキシコルチゾン、11β-ヒドロキシプレグネノロン、11β,17α,21-トリヒドロキシプレグネノロン、17α、21-ジヒドロキシプレグネノロン、17αヒドロキシプレグネノロン、21-ヒドロキシプレグネノロン、11-ケトプロゲステロン、11β-ヒドロキシプロゲステロン、17α-ヒドロキシプロゲステロン及び18-ヒドロキシプロゲステロン等の天然に存在するコルチコステロイドの他の誘導体が含まれる。
【0073】
言及され得る合成コルチコステロイドには、コルチゾンアセタート、ヒドロコルチゾンアセポナート、ヒドロコルチゾンアセタート、ヒドロコルチゾンブテプレート、ヒドロコルチゾンブチラート、ヒドロコルチゾンバレラート、チキソコルトール及びチキソコルトールピバレート、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾン、クロロプレドニゾン、クロプレドノール、ジフルプレドナート、フルドロコルチゾン、フルオシノロン、フルペロロン、フルプレドニゾロン、ロテプレドノール、プレドニカルベート及びトリアムシノロンなどのヒドロコルチゾンタイプ(グループA);アムシノニド、ブデソニド、デソニド、フルオシノロンセトニド、フルオシノニド、ハルシノニド、トリアムシノロンアセトニド、シクレソニド、デフラザコート、フォルモコルタル、フルドロキシコルチド、フルニソリド及びフルオシノロンアセトニドなどのアセトニド及び関連物質(グループB);ベクロメタゾン、ベタメタゾン、ベタメタゾンジプロピオナート及びベタメタゾンバレラート、デキサメタゾン、フルコルトロン、ハロメタゾン、モメタゾン及びモメタゾンフロエート、アルクロメタゾン及びアルクロメタゾンジプロピオナート、クロベタゾール及びクロベタゾールプロピオナート、クロベタゾン及びクロベタゾンブチラート、クロコルトロン、デスオキシメタゾン、ジフロラゾン、ジフルオコルトロン、フルクロロロン、フルメタゾン、フルオコルチン、フルプレドニデン及びフルプレドニデンアセタート、フルチカソン、フルチカゾンフロエート及びフルチカソンプロピオナート、メプレドニソン、パラメタゾン、プレドニリデン、リメキソロン及びウロベタゾール等の(β)メタゾンタイプ(グループC)のもの;フルゲストン、フルオロメトロン、メドリゾン及びプレベジオロンアセタートなどのプロゲステロンタイプのもの;及びクロルマジノンアセタート、シプロテロンアセタート、メドロゲストン、メドロキシプロゲステロンアセタート、メゲストロールアセタート及びセゲステロンアセタートなどのプロゲステロン誘導体(プロゲスチン);並びにコルチバゾール及び6-メチル-11β,17β-ジヒドロキシ-17α-(1-プロピニル)アンドロスタ-1,4,6-トリエン-3-オンなどの他のコルチコステロイドが含まれる。
【0074】
好ましいコルチコステロイドには、コルチゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、及び特にデキサメタゾンが含まれる。
【0075】
更に、C21又はその塩と組み合わせて使用され得る治療薬には、H2受容体遮断薬、抗凝固薬、抗血小板薬、並びにスタチン、抗菌剤、及び抗アレルギー/抗喘息薬を含む。
【0076】
言及され得るH2受容体遮断薬にはファモチジンが含まれる。言及され得る抗凝固剤には、ヘパリン及び低分子量ヘパリン(例えば、ベミパリン、ナドロパリン、レビパリン、エノキサパリン、パルナパリン、セルトパリン、ダルテパリン、チンザパリン)、直接作用型経口抗凝固薬(例えば、ダビガトラン、アルガトロバン、リバロキサバン、アピキサバン、エドキサバン、ベトリキサバン、ダレクサバン、オタミキサーバン、レタキサバン、エリバキサバン、ヒルジン、レピルジン及びビバリルジン)、クマリン型ビタミンK拮抗薬(例えば、クマリン、アセノクマロール、フェンプロクモン、アトロメンチン及びフェニンジオン)並びに第Xa因子の合成五糖阻害剤(例えば、フォンダパリヌクス、イドラパリヌクス及びイドラビオタパリヌクス)が含まれる。言及され得る抗血小板薬には、不可逆的シクロオキシゲナーゼ阻害剤(例えば、スピリン及びトリフルサル)、アデノシン二リン酸受容体阻害剤(例えば、カングレロル、クロピドグレル、プラスグレル、チカグレロル及びチクロピジン)、ホスホジエステラーゼ阻害剤(例えば、シロスタゾール)、プロテアーゼ活性化受容体1拮抗薬(例えば、ボラパキサル)、糖タンパク質IIB/IIIA阻害剤(例えば、アブシキシマブ、エプチフィバチド及びチロフィバン)、アデノシン再取り込み阻害薬(例えば、ジピリダモール)、並びにトロンボキサン阻害剤(例えば、テルトロバン、ラマトロバン、セラトロダスト及びピコタミド)が含まれる。言及され得るスタチンには、アトルバスタチン、シンバスタチン及びロスバスタチンが含まれる。言及され得る抗菌剤には、アジスロマイシン、セフトリアキソン、セフロキシム、ドキシサイクリン、フルコナゾール、ピペラシリン、タゾバクタム、及びテイコプラニンが含まれる。言及され得る抗アレルギー/抗喘息薬には、クロルフェニラミン、レボセチリジン、モンテルカストが含まれる。
【0077】
ウイルス感染症の標準的な治療法ではないが、前述のように、特定の治療薬がCOVID-19などの重篤で致命的なSARS感染症を発症するリスクを高める可能性があるという懸念がある(前掲のFang et alを参照されたい)。この点で、C21及びその塩はまた、ARB(例えば、アジルサルタン、カンデサルタン、エプロサルタン、イルベサルタン、ロサルタン、オルメサルタン、テルミサルタン及びバルサルタン)及びACE阻害剤(例えば、ベナゼプリル、カプトプリル、エナラプリル、フォシノプリル、リシノプリル、モエキシプリル、ペリンドプリル、キナプリル、ラミプリル及びトランドラプリル)などの降圧薬と組み合わせて使用できる。
【0078】
対象は、(及び/又はすでに)上記の他の治療薬のうちの1つ以上のいずれかを受けていてもよく、これによってC21/塩での治療の前、それに加えて、及び/又はその後に、それらの他の治療薬のうちの1つ以上の処方された用量を受けていることを意味する。
【0079】
C21/塩が、そのような他の治療薬と「併用される」場合、有効成分は同じ製剤で一緒に投与され得るか、又は異なる製剤で別々に(同時に又は連続して)投与され得る。
【0080】
そのような併用製品は、他の治療薬と組み合わせたC21/塩の投与を提供し、したがってこれらの製剤のうちの少なくとも1つがC21/塩を含み、少なくとも1つが他の治療薬を含む、別個の製剤として提示されても、複合調剤(combined preparation)として提示(すなわち、製剤化)(すなわち、C21/塩及び他の治療薬を含む単一製剤として提示)されてもよい。
【0081】
したがって、
(1)C21又はその薬学的に許容される塩;ウイルス感染症の治療に有用な治療薬;及び薬学的に許容されるアジュバント、希釈剤又は担体を含む医薬製剤(以下、この製剤を「複合調剤」と呼ぶ);と
(2)以下のコンポーネントを含むキット・オブ・パーツ:
(A)C21又はその薬学的に許容される塩を、薬学的に許容されるアジュバント、希釈剤、又は担体と混合して含む医薬製剤、及び
(B)ウイルス感染症の治療に有用な治療薬を、薬学的に許容されるアジュバント、希釈剤、又は担体と混合して含む医薬製剤、
構成要素(A)及び(B)が、各々、他方と組み合わせた投与に好適な形態で提供される、キット・オブ・パーツとが更に提供される。
【0082】
したがって、このような複合調剤及びキット・オブ・パーツは、呼吸器ウイルス誘発性組織損傷の治療に使用することができる。
【0083】
特定の例では、ウイルス感染症の治療に有用なもののいくつかを含む、そのような追加の治療薬は、特定の呼吸器ウイルス状態に関して「標準治療」と呼ばれることがある。「標準治療」という用語は、特定の種類の患者、病気、及び/又は臨床状況について、臨床医が従うべき、及び/又は期待される治療プロセスを含むと当業者に理解されるであろう。COVID-19のように、特定の新しい、又は十分に理解されていない状態では、標準治療は時間の経過とともに変化及び/又は発展する可能性がある。
【0084】
本発明の更なる態様によれば、上記で定義されたキット・オブ・パーツを作製する方法であって、上記で定義された構成要素(A)を、上記で定義された構成要素(B)と会合させ、したがって2つの構成要素を互いに組み合わせた投与に好適なものにすることを含む、方法が提供される。
【0085】
2つの構成要素を互いに「関連付ける」ことにより、我々は、キット・オブ・パーツの構成要素(A)及び(B)が、
(i)別個の製剤として(すなわち、互いに独立して)提供されてもよく、その後、併用療法において互いに組み合わせて使用するために一緒にされ得るか、又は
(ii)併用療法において互いに組み合わせて使用するための「併用パック」の別個の構成要素として一緒に包装及び提示され得ることを含む。
【0086】
したがって、
(I)本明細書に定義される構成要素(A)及び(B)のうちの1つを、
(II)2つの構成要素のうちの他方と組み合わせてその構成要素を使用するための指示書と一緒に含む、キット・オブ・パーツが更に提供される。
【0087】
本明細書に記載のキット・オブ・パーツは、反復投与を提供するために、適切な量/用量のC21/塩を含む2つ以上の製剤、及び/又は適切な量/用量の別の治療薬を含む2つ以上の製剤を含み得る。2つ以上の製剤(活性化合物のいずれかを含む)が存在する場合、そのような製剤は、いずれかの化合物の投与量、化学的組成、及び/又は物理的形態に関して、同じであっても、異なっていてもよい。
【0088】
本明細書に記載のキット・オブ・パーツに関して、「~と組み合わせた投与」によって、C21/塩及び他の治療薬を含むそれぞれの製剤が、状態の治療過程にわたって、順次、別個、及び/又は同時に投与されることを含む。
【0089】
したがって、本発明による併用製品に関して、「~と組み合わせた投与」という用語は、状態の治療過程にわたって、併用製品の2つの構成要素(C21及び他の薬剤)が、同じ治療過程にわたってC21/塩を含む製剤、又はウイルス感染症の治療に有用な他の治療薬を含む製剤のいずれかが単独で他方の構成要素を含まずに(任意で反復的に)投与される場合よりも、患者に対するより大きな有益な効果を可能にするように、一緒に、又は時間的に十分に近接して(任意で反復的に)のいずれかで投与されることを含む。併用が、治療に関して、かつその治療過程にわたって、より大きな有益な効果を提供するかの決定は、治療される状態又はその重症度に依存するが、当業者によって慣習的に達成され得る。
【0090】
更に、本発明によるキット・オブ・パーツの文脈では、「~と組み合わせた」という用語は、2つの製剤のうちの一方又は他方が、他方の構成要素の投与の前、その後、及び/又はそれと同時に(任意で反復)投与され得ることを含む。この文脈で使用される場合、「同時投与される」及び「~と同時に投与される」という用語は、C21及び他の治療薬の個々の用量が、互いに48時間(例えば、24時間)以内に投与されることを含む。
【0091】
本発明の更なる態様において、本明細書の上記に定義される複合調剤の調製のためのプロセスであって、C21又はその薬学的に許容される塩、ウイルス感染症の治療に有用な治療薬、及び少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤を会合させることを含む、プロセスが提供される。
【0092】
「約」という用語が、本明細書で、例えば有効成分の濃度及び/若しくは用量、年齢などの、数又は量の文脈において、そのような変数は、概算であり、したがって本明細書で指定された数値から±10%、例えば、±5%、及び好ましくは±2%(例えば、±1%)変動し得ることが理解されるであろう。この点において、「約10%」という用語は、例えば、数値10について±10%、すなわち9%~11%を意味する。
【0093】
C21は、呼吸器ウイルス感染症、及びそれによって引き起こされる、又は引き起こされる可能性のある(例えば重篤な)疾患の現在の治療、例えば上述のものよりも、より効果的であり、副作用がかなり少なく、及び/又ははるかに安全であるという利点を有する。
【0094】
本明細書に記載された使用と方法はまた、先行技術で知られている同様の方法(治療)よりも、呼吸器ウイルス誘発性組織損傷の治療において、それらは対象にとってより便利であり、より効果的であり、より毒性が低く、より広い範囲の活性を有し、より強力であり、副作用が少なく、あるいは、それらが、呼吸器ウイルス誘発性組織損傷、ウイルス感染及び/又はウイルス疾患全般の治療に使用するかどうかにかかわらず、先行技術で知られている同様の方法(治療)よりも他の有用な薬理学的特性を有する可能性があるという利点も有し得る。
【0095】
本発明は、以下の実施例によって説明され、図1は、プラセボ又は100mgのC21のいずれかを7日間にわたって経口で1日2回で投与を受けたCOVID-19患者で実施された臨床試験における経時的な酸素補充の必要性を示す。
【0096】
実施例1
インビトロでのヒト気道上皮細胞アッセイにおけるC21の効果
E-カドヘリン発現に対するC21の効果は、ヒト小気道上皮細胞プラス肺線維芽細胞(SAEMyoF)アッセイ(Eurofins DiscoverX Corporation、Fremont,CA,USAが提供するサービス)で、ELISAベースのタンパク質バイオマーカー検出を用いるヒト疾患モデルBioMAP(登録商標)プラットフォーム(線維症パネル)を使用して研究された。E-カドヘリンはカルシウム依存性上皮細胞接着分子であり、疾患の進行に寄与すること(Gabrowska and Day,Front.Biosci.(Landmark Ed.),17,1948(2014))、また、宿主細胞との結合及び細胞へのウイルス侵入のレベルで、ウイルス感染において重要な役割を果たすことが示唆されている(Hu et al,Front.Cell.Infect.Microbiol.,10,Article74(2020),https://doi.org/10.3389/fcimb.2020.00074)。
【0097】
C21は用量依存的にE-カドヘリンレベルを低下させることがわかった。E-カドヘリンの相対発現レベル(Log比C21/ビヒクル対照として表される)は、10μMのC21で-0.0476であった。低濃度のC21(0.37、1.1、及び3.3μM)では、E-カドヘリンは減少しなかった。
【0098】
実施例2
インビトロ細胞アッセイI
インビトロのSARSウイルスの細胞侵入及び/又は複製は、科学文献、例えばStruck et al,Antioviral Research,94,288(2012)、Walls et al,Cell,180,1(2020)及び/又はZhou et al,Nature,579,270(2020)に記載されている適切な方法を使用して、インビトロで研究される。他の関連する/同等の細胞型(肺胞上皮II型(ATII)細胞を含む)、及びウイルスの細胞侵入及び/又は複製を測定するための方法も使用することができる。細胞を異なる量のウイルスに曝露する前及び/又は曝露中に、細胞を異なる濃度(例えば、0.1nMから1mM)のC21とともに異なる期間インキュベートする。
【0099】
実施例3
インビトロヒトIPF肺組織アッセイ
実験は、FibroFind Limited、Gateshead,United Kingdomによって行われた。
【0100】
外植された(特発性肺線維症を伴う)ヒト肺組織からの精密カット肺スライス(PCLuS)を使用した。PCLuSは、肺移植時に収集された外植されたヒト肺組織から調製された。PCLuSを48時間休ませて、実験開始前にスライス後のストレス期間を経過させた。PCLuSは、10μMの、強力なアクチビン受容体様キナーゼ(ALK5)/I型TGFβ受容体キナーゼ阻害剤である、Alk5阻害剤SB-525334(Sigma、#S8822)の存在下又は非存在下で培養された。更に、別々のウェルで、PCLuSを異なる濃度(0.01、0.1、1及び/又は10μM)のC21の存在下で培養した。
【0101】
PCLuS培養上清(1群当たりn=4~6)を毎日収集し、R&D Duoset ELISAキット及び/又はサンドイッチELISA(例えば、Abcam及び/又はRayBioTechから)を使用して48、96、及び144時間でプロ線維化(pro-fibrotic)増殖因子トランスフォーミング増殖因子β1(TGF-β1))のレベルを定量化するためにスナップ凍結(snap frozen)した。
【0102】
C21は96時間と144時間の両方でPCLuSからのTGF-β1の放出を用量依存的に減少させ、C21の最大阻害効果は96時間で49%、144時間で61%であることがわかった。C21の阻害効果は、陽性対照として使用したAlk5阻害剤で処理した後の効果よりも大きかった。
【0103】
実施例4
SARS-CoV-2ウイルス感染患者におけるC21の安全性と有効性を評価する臨床試験(I)
これは、C21(200mgを含む100~400mg、1日当たり)の安全性と有効性を評価する臨床研究である。
【0104】
この研究の主な目的/評価項目は、SARS-CoV-2ウイルスに感染した参加者におけるC21の安全性と有効性を評価することである。
【0105】
C21の有効性の評価は、とりわけ以下を決定することによって決定される。
・発熱、肺及び/若しくは心機能、血中酸素圧/低酸素症、咳、息切れ、多臓器不全症候群(MODS)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、他の微生物による続発性肺炎、及び/若しくは患者及び/又は臨床医が報告した生活の質(QoL)アウトカム指標を含む、疾患に関連する徴候、症状、生活の質、症状発現及び/若しくは合併症の改善、
・入院期間、
・侵襲的及び/又は非侵襲的人工換気の必要性、
・X線撮影、超音波、磁気共鳴画像法(MRI)、コンピューター断層撮影法(CT)、及び/若しくは他の画像診断法を含む、炎症、免疫反応及び/若しくは感染症の代理マーカー、
・疾患の重症度を決定する複合尺度及び/又は順位尺度、例えば、臨床的回復までの時間及び/又は連続臓器不全評価スコア(SOFAスコア)、
・ウイルス力価及び/又はセロコンバージョン、
・罹患率及び/又は死亡率、
・並びに/又は上皮損傷/機能不全のバイオマーカーを含む関連バイオマーカーへの影響(MMP7、GDF15、CA125、CEA、CA19-9、サイトケラチン18 CCL18、サーファクタントプロテインD及び/又はCYFRA-21-1を含む)、及びC反応性タンパク質、インターロイキン6、腫瘍壊死因子、白血球及び/又は抗体を含む、全身性炎症、免疫応答及び/又は感染のバイオマーカーへの影響。
【0106】
試験に含める被験者は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査(又はこの目的のための関連する/同等の別の検査)によって確認されたSARS-CoV-2感染と診断された被験者、SARS-CoV-2に曝露された被験者、及び/又はSARS-CoV-2感染が疑われる症状のある被験者である。
【0107】
その他の選択基準は、治験依頼者と治験責任医師によって詳細に定義されている。同様に、除外基準は治験依頼者と治験責任医師によって詳細に定義され、特に以下の被験者が含まれる場合がある。
・SARS-CoV-2感染症又はCOVID19疾患の実験的治療の他の臨床試験に参加したことがある、
・スクリーニング時に機械的人工換気が必要である、
・BMIが>32又は<18である、
・喘息、COPD、間質性肺疾患などの呼吸器疾患を併発している、
・初回投与前30日以内に薬物の吸収又は排泄プロセスを慢性的に変化させることが知られている薬物を使用していた、
・過去3か月以内に治験薬又は市販薬の投与を伴う臨床試験に参加した患者、
・治験責任医師の意見では、結果の評価を妨げる、又は研究対象の健康リスクを構成する病気を持っている、
・血清肝炎を患っているか、B型肝炎表面抗原(HBsAg)又はC型肝炎抗体の保有者である、
・HIV抗原及び/又は抗体の検査で陽性の結果が得られた、
・現在又は以前(<6か月)の喫煙者である、
・重度のアレルギー反応を起こしやすい、
・最初の試験治療投与前の2か月以内に献血したか、又はかなりの量の血液を失っている、
・スクリーニング時又はその後無作為での尿中薬物スクリーニング結果が陽性であった、
・妊娠中の女性、又は通常の避妊薬を使用していない出産の可能な女性で、
・研究全体の間、及び最後のIMP摂取後少なくとも7日間、妊娠可能な女性と性交する際、避妊のためにコンドームを使用することを望まない男性。
【0108】
被験者はまた、スクリーニングの12時間前及び研究中は飲酒を控えるよう求められる。
【0109】
朝、食事の摂取の1時間前に絶食してIMPを服用するように指示されている。夕方の用量は、理想的には服用前2~4時間、薬を服用後1時間の絶食である。
【0110】
以下の薬剤は、C21治療との組み合わせが避けられる。
・CYP3A4誘導物質(例えば、リファンピシン、フェニトイン、セントジョーンズワート)
・CYP3A4阻害剤(例えば、クラリスロマイシン、ケトコナゾール、ネファゾドン、イトラコナゾール、リトナビルなど)
・CYP1A2、CYP3A4、CYP2C9の基質であり治療範囲の狭い医薬品
・BCRP感受性基質(例えば、スルファサラジン、ロスバスタチンなど)
・H2受容体拮抗薬、プロトンポンプ阻害薬
【0111】
実施例5
コンパッショネートユース
臨床試験の代替として、C21の安全性と有効性(上記の実施例4で述べたものと同様の基準を使用)は、指定された(個別の)患者プログラム及び/又はコホートベースでの早期アクセスプログラムなど、コンパッショネートユースベースでC21への早期アクセスを実施することによって決定される。
【0112】
実施例6
SARS-CoV-2ウイルス感染患者におけるC21の安全性と有効性を評価する臨床試験(II)
プロトコル
これは、インドの複数の施設で実施された無作為化二重盲検プラセボ対照第2相試験で、機械的人工換気を必要としないCOVID-19感染症の入院患者におけるC21の安全性と有効性を調査している。
【0113】
この試験の主目的は、機械的侵襲的又は非侵襲的人工換気を必要としないCOVID-19感染症に対するC21 200mgの1日用量(100mg 1日2回)の有効性を調査することであった。副次的目的は、同じ1日用量でのC21の炎症に対する効果と、安全性プロファイルを評価することであった。探索的目的には、その1日用量を経口投与した後、炎症及びウイルス量の潜在的なバイオマーカーとしての一連の実験パラメータの調査が含まれる。
【0114】
この試験の主要評価項目は、治療後のC反応性タンパク質(CRP)測定値のベースラインからの変化であった(初期症状は必ずしも疾患の重症度を予測するものではない)。
【0115】
副次的評価項目には、
・体温
・IL-6
・IL-10
・TNF
・CA125
・フェリチンにおけるベースラインからの変化
並びに
1)酸素供給を必要としない被験者の数
2)機械的侵襲的又は非侵襲的人工換気を必要としない被験者の数
3)被験者が機械的侵襲的又は非侵襲的人工換気を必要とするまでの時間
4)被験者が酸素供給を受けていた時間(機械的侵襲的又は非侵襲的人工換気を必要としない場合)
5)有害事象の数と重症度、が含まれていた。
【0116】
血液試料は、炎症と肺損傷を反映するバイオマーカーの潜在的な将来の分析のために保存された。
【0117】
この試験は、COVID-19に感染している複数の施設からの約100人の被験者に対して、地域の標準治療に加えて7日間実施された。被験者は、標準治療+C21(約N=50)又は標準治療+プラセボ(約N=55)のいずれかを受けるように1:1で無作為化された。
【0118】
全ての被験者は、最後の治験薬(IMP)の投与を受けてから7~10日間追跡調査された(自宅で回復している場合は、来院又は電話)。
【0119】
選択基準には以下が含まれていた。
1)ICH GCP R2及び現地の法律に準拠した書面によるインフォームドコンセントで、治験関連手順の開始前に取得されている。
2)コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染の診断、来院1から4日以内にポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査で確認され、急性呼吸器感染症の徴候がある。
3)18歳~70歳の年齢。
4)50~150mg/LのCRP。
5)病院又は管理施設に入院している(自宅隔離では十分とはみなされなかった)。
6)治験責任医師の意見では、被験者はプロトコルの要件を順守することができた。
【0120】
最初の除外基準には、次のうちの1つ以上が含まれる。
1)COVID-19に対する以前の実験的治療。
2)機械的侵襲的又は非侵襲的人工換気の必要性。
3)慢性閉塞性肺疾患、特発性肺疾患(IPF)及び/又は間欠性、持続性、又は毎日の治療を必要とするより重症の喘息などの呼吸器疾患の併発、又はCOVID-19診断前の4週間(28日)にコルチコステロイドを必要とする喘息フレアを起こした被験者。
4)来院1の前3か月以内に他の介入試験への参加。
5)来院1での次の所見のいずれか:
〇B型肝炎表面抗原(HBsAg)、C型肝炎ウイルス抗体(HCVAb)若しくはヒト免疫不全ウイルス1+2抗原/抗体(HIV1+2Ag/Ab)の陽性結果、又は
〇妊娠検査陽性。
6)治験責任医師の評価により治験に登録された場合に、来院1での被験者の潜在的なリスクを示す臨床的に有意な異常検査値。
7)心臓又は眼疾患に特に注意すべき重篤な病状を併発しており(例えば、白内障手術の禁忌)、治験責任医師の意見が被験者をこの試験に不適切とした場合。
8)基底細胞がんのインサイチュ除去及び子宮頸部上皮内腫瘍グレードIを除く、過去3年以内の悪性腫瘍。
9)来院1の前の1週間以内に以下にリストされた薬のいずれかによる治療:
〇強力なシトクロムp450(CYP)3A4インデューサー(例えば、リファンピシン、フェニトイン、セントジョーンズワート、フェノバルビタール、リファブチン、カルバマゼピン、抗HIV薬、バルビツエート)、又は
〇ワルファリン。
10)妊娠中又は授乳中の女性被験者。
11)所定の避妊法を使用する意思がない出産の可能性のある女性被験者。
12)所定の避妊法を使用する意思のない男性被験者。
13)治験プロトコルを順守できないことが知られている、又は疑われる被験者(例えば、アルコール依存症、薬物依存症又は精神障害のため)。
【0121】
次のいずれかが発生した場合、被験者はIMPから除外された。
・機械的侵襲的又は非侵襲的人工換気の必要性
・病院/管理施設からの退院
・治験依頼者によって定義された治験実施計画書からの重大な逸脱。
・治験依頼者の、被験者の治験への参加を中止するという決定。理由には、医学的、安全性、又は規制上の問題、又は適用される法律、規制、及びGCPと一致するその他の理由が含まれる。
・何らかの理由で対象者の希望であった
・治験責任医師が医学的理由により必要と判断した場合
・次のような有害事象:
〇治験責任医師によって評価された被験者の潜在的なリスクを示す、重度の末梢性浮腫又は重大な徐脈などの重篤な心血管合併症
〇治験責任医師が判断した中等度から重度の皮膚発疹、例えば、スティーブンス・ジョンソン症候群及び中毒性表皮壊死融解症
・妊娠
【0122】
次のいずれかが発生した場合、被験者は試験から除外された。
・治験薬を含む他の臨床研究への登録、又はこの試験と科学的又は医学的に適合性がないと判断された他の種類の臨床研究への登録。
・試験期間中の不許可処置
・何らかの理由で対象者の希望であった
・治験責任医師が医学的理由により必要と判断した場合
・有害事象
・追跡調査不能
【0123】
IMPは、以下の表1に示す最終組成を有する50mgカプセル(HPMCハードカプセル)として送達された。
【表1】
【0124】
カプセルは、それぞれ28個のカプセルが入ったプラスチック容器ユニットに詰められていた。各ユニットには、C21又は一致するプラセボのいずれかが含まれていた(C21がマンニトールに置き換えられた以外は同じ組成である。
【0125】
治験実施施設では、IMPを、通常の診療所在庫とは別に、権限のある治験担当者のみがアクセスできる安全に施錠されたエリアに保管した。IMPのラベリングは、関連する現地の言語(英語)で行われ、GMP(GMP2003)及び現地の規制要件に準拠して行われた。
【0126】
IMPは、次のように被験者に1日2回、7日間投与された。
・朝の服用量:50mgカプセル2個(100mgのC21又はプラセボ)を最低2時間の絶食後にコップ1杯の水で服用する
・午後/夕方の用量:50mgカプセル2個(100mgのC21又はプラセボ)を最低2時間の絶食後にコップ1杯の水で服用する
被験者は、IMP服用後1時間は何も食べないように求められた。
【0127】
現地の標準治療(COVID-19の病理について更に発見及び/又は理解されるにつれて、研究の過程で開発及び/又は変更された)に従っている場合は、併用薬が投与された。
【0128】
被験者は、来院1の少なくとも1週間前及び試験期間中、次の薬を服用することを許可されなかった。
・強力なCYP3A4インデューサー(例えば、リファンピシン、フェニトイン、セントジョーンズワート、フェノバルビタール、リファブチン、カルバマゼピン、抗HIV薬、バルビツエート)
・ワルファリン
・実験薬
【0129】
当業者が理解するように、COVID-19のような新しい疾患の性質を考慮して、その病理学の理解が急速かつ継続的に変化し、治療が緊急及び/又は集中治療ベースで行われることが多いため、上記のプロトコルは、全ての患者で厳密に遵守されていない可能性がある。以下に報告された結果の分析後、個別又はコホートの一部として考慮された場合、C21の安全性と有効性に関して参加した患者から収集されたそのようなデータは全て有効であることが確認された。
【0130】
結果
コロナウイルスSARS-CoV-2感染(ポリメラーゼ連鎖反応検査で確認)と診断され、急性呼吸器感染症の徴候があるが機械的人工換気を必要としない合計106人の入院患者が募集された。
【0131】
患者は標準治療に加えて、C21(100mg 1日2回、n=51)又はプラセボ(n=55)を7日間投与するように無作為に割り付けられた。治療群は、年齢、性別、併用薬に関してバランスが取れていた。
【0132】
図1に示すように、酸素療法の長期的な必要性はC21群よりもプラセボ群でより頻繁であった。14日目には、プラセボ群の11人の患者と比較して、C21群の1人の患者のみが酸素補給を必要とした。(p=0.003)。この違いは8日目にすでに明らかであった。
【0133】
試験では4人が死亡し、C21群で1人プラセボ群で3人であった。全ての死亡は進行性の呼吸不全と機械的人工換気を必要とする患者で発生した。プラセボ群のもう1人の患者が悪化し、機械的人工換気の必要が生じた(プラセボ群で4事象の機械的人工換気対C21群で1事象の機械的人工換気)。
【0134】
C21群の患者の60.8%から64件の治療に起因する有害事象が報告され、プラセボ群の患者の67.3%から90件の有害事象が報告された。ほとんどの事象は軽度で、どちらの群にも治験責任医師により試験治療に関連すると分類された事象はなかった。
【0135】
炎症CRP、IL-6、及びTNFの循環バイオマーカーのレベルに関して、プラセボ群とC21群の間に有意差はなかった。
【0136】
実施例7
以前にCOVID-19で入院し、実施例6に記載された試験に登録された被験者の肺病理学に対するC21の効果を評価する、非介入的、回顧的、多施設、追跡調査
この調査の目的は、上記の実施例6に記載された試験に登録された被験者において通常の臨床診療(入院及び追跡調査)の一部として実施された高解像度コンピューター断層撮影法(HRCT)によって評価される、肺の病理(肺線維症を含む)に対する標準治療(SoC)への追加としてのC21とプラセボの効果を評価することである。
【0137】
HRCTからのデータは、COVID-19を有する対象におけるC21の長期臨床効果(実施例6に記載の試験中の7日間の治療)に関する更なる特徴付けを提供し得る。
【0138】
収集される追加データについて書面によるインフォームドコンセントを提供する適格な被験者が、この研究に登録される。同意を超えて、これらの被験者は、この研究に関与した結果として追加の手順や治療を受けることはない。
【0139】
データは、被験者の医療記録を検討することによって遡及的に収集される。実施例6の試験のベースライン来院前の28日以内、試験の実施中、及び試験の完了後24週間までに記録された利用可能なHRCTを収集し、中央の盲検化HRCT読影者によって評価する。
【図面の簡単な説明】
【0140】
図1図1は、プラセボ又は100mgのC21のいずれかを7日間にわたって経口で1日2回で投与を受けたCOVID-19患者で実施された臨床試験における経時的な酸素補充の必要性を示す。
図1