(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-22
(45)【発行日】2025-05-01
(54)【発明の名称】高湿度および高温大気に対する耐食性を有する海洋工学用鋼ならびにその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20250423BHJP
C22C 38/54 20060101ALI20250423BHJP
C21D 8/02 20060101ALI20250423BHJP
C21C 5/28 20060101ALI20250423BHJP
C21C 7/064 20060101ALI20250423BHJP
C21C 7/10 20060101ALI20250423BHJP
【FI】
C22C38/00 301F
C22C38/00 301W
C22C38/54
C21D8/02 A
C21C5/28 Z
C21C7/064 A
C21C7/064 Z
C21C7/10 A
(21)【出願番号】P 2023541637
(86)(22)【出願日】2022-01-11
(86)【国際出願番号】 CN2022071240
(87)【国際公開番号】W WO2022152106
(87)【国際公開日】2022-07-21
【審査請求日】2023-09-05
(31)【優先権主張番号】202110035304.1
(32)【優先日】2021-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】514216801
【氏名又は名称】バオシャン アイアン アンド スティール カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】ルー, シャオフイ
(72)【発明者】
【氏名】ガオ, シャン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン, ツァイイー
(72)【発明者】
【氏名】シェン, イェン
【審査官】河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-129392(JP,A)
【文献】特開2004-360064(JP,A)
【文献】特開2006-089789(JP,A)
【文献】国際公開第2010/038470(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量百分率で以下の化学元素:
C:0.01~0.05%、Si:0.05~0.60%、Mn:0.50~1.30%、Cr:0.6~1.20%、Ni:2.0~2.85%、Al:0.01~0.06%、Ti:0.005~0.012%
、Mg:0.0005~0.0015%;0<Ca≦0.0045%、0<Cu≦0.5%
、0<Mo≦0.40%
、P≦0.015%、および、S≦0.0040%を含み、残部がFeおよび
他の不可避不純物である
海洋工学用鋼。
【請求項2】
上記化学元素の質量百分率が、以下の通り:
C:0.015~0.04%、Si:0.15~0.60%、Mn:0.50~1.30%、Cr:0.6~0.90%、Ni:2.0~2.85%、Al:0.01~0.06%、Ti:0.005~0.012%
、Mg:0.0005~0.0015%;0<Ca≦0.0045%、0<Cu≦0.5%
、0<Mo≦0.40%
、P≦0.015%、および、S≦0.0040%であり、残部がFeおよび
他の不可避不純物である、
請求項1に記載の海洋工学用鋼。
【請求項3】
上記鋼が、以下の化学元素:0<Nb≦0.04%、0<V≦0.05%、および0<B≦0.0005%のうちの少なくとも1つをさらに含む、
請求項1または2に記載の海洋工学用鋼。
【請求項4】
上記化学元素の質量百分率が、以下の関係式:
1.8≦α≦2.0(式中、α=1.2Cr+5Ni-Cr
2-Ni
2-4.61);および
35≦γ≦65(式中、
【数1】
)
のうちの少なくとも1つをさらに満たす、
請求項1または2に記載の海洋工学用鋼。
【請求項5】
上記鋼が、95%以上の相比の焼戻しベイナイトの微細組織を有する、
請求項1または2に記載の海洋工学用鋼。
【請求項6】
上記化学元素の質量百分率が、
4.2≦β≦7.9(式中、
【数2】
)をさらに満たす、
請求項3に記載の海洋工学用鋼。
【請求項7】
上記鋼が、355MPa以上の降伏強度、500~650MPaの引張強度、22%以上の延伸率、-60℃における100J以上の衝撃エネルギー、-60℃における0.8mm以上のCTOD、-65℃以下のNDTT、ならびに高湿度および高温大気環境での0.85g/(m
2*時)以下の腐食速度を有する、
請求項1または2に記載の海洋工学用鋼。
【請求項8】
請求項1に記載の海洋工学用鋼の製造方法であって、以下の工程:
(1)製錬および連続鋳造工程と;
(2)加熱工程と;
(3)圧延後の元のオーステナイト粒径が20~25μmである制御圧延工程と;
(4)空冷工程と;
(5)焼入れ後のオーステナイト粒径が20~25μmである焼入れおよび焼戻し工程と
を含む製造方法。
【請求項9】
工程(1)において、溶銑予備処理、転炉製錬、LF精錬、RH精錬、介在物の有益な処理および連続鋳造を逐次的に行い、上記介在物の有益な処理の段階で、サイズが0.2~2.5μmである複合介在物が形成され、上記複合介在物が、CaSおよびMnSでコーティングされたコアとしてMgO+Al
2O
3を含み、上記サイズ範囲内の上記複合介在物の数が、介在物総数の95%以上を占める、
請求項
8に記載の製造方法。
【請求項10】
工程(1)において、上記転炉製錬の段階で、スラグカット出鋼が実施されて、スラグ層の厚さが30mm未満に制御され;上記LF精錬の段階で、スラグ中のFeOおよびMnOの質量百分率の合計が1%未満に制御され、(CaO+MgO+MnO)/(SiO
2+P
2O
5)>9(式中、各物質はそれらの対応する質量百分率を表す)が満たされ;上記介在物の有益な処理の段階で、Mg処理またはMgとCaの複合処理が実施されるが;MgとCaの複合処理が実施される場合、150~250m/分のワイヤ供給速度でCaとMgが同時に供給される、
請求項
9に記載の製造方法。
【請求項11】
工程(2)において、スラブ加熱温度T
hが、℃を単位として、
【数3】
を満たす、
請求項
9に記載の製造方法。
【請求項12】
工程(3)において、℃を単位として、初期圧延温度T
srが、T
sr=0.92T
h-0.96T
hを満たし;最終圧延温度T
frが、
【数4】
を満たす、
請求項
11に記載の製造方法。
【請求項13】
工程(3)において、シングルパスでの圧下率が8~12%であり、累積圧下率が60%以上である、
請求項
11に記載の製造方法。
【請求項14】
工程(5)において、℃を単位として、焼入れ温度T
qが、
【数5】
を満たし、および/または焼戻し温度T
tが、
【数6】
を満たす、
請求項
11に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鋼およびその製造方法に関し、詳細には海洋工学用鋼およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知の通り、南シナ海には大量のエネルギーと資源が存在する。現在、南シナ海の資源を開発し利用するために、多大な人的および物的資源が投入されている。
【0003】
南シナ海の環境は特殊である。その強い放射線および高塩素を伴う高湿度および高温の環境は、鋼材の深刻な腐食を引き起こしやすく、塗膜の鹸化および老化に至って深刻な腐食を引き起こしやすい。Cl-は、金属表面に容易に吸着され、アノード溶解および孔食の発生につながり、これらは割れの原因にさえなり得、水素の結合作用のもとで応力腐食割れをもたらし得る。これらの問題は、海洋プラットホーム用鋼の機械的特性と耐用年数を低下させる。さらに、海洋プラットホームはサービス周期が長く、海岸から離れているため、定期的な修理およびメンテナンスが非常に困難であることから、海洋プラットホーム用鋼にはかなり高い耐食性が要求される。
【0004】
近年、中国が徐々に南シナ海の主権を行使し、南シナ海における資源の開発および利用を開始するにつれ、南シナ海の過酷な環境を克服するために、高湿度および高温海洋環境に適した耐食鋼を開発して、海洋工学設備の建設需要を満たすことが急務となっている。
【0005】
現在、世界の多くの鉄鋼会社が大気腐食耐性を有する耐候性鋼および海水腐食耐性を有する耐海水腐食鋼を開発している。しかし、これらの鋼の用途は理想的ではなく、高湿度および高温海洋環境にはうまく適用できない。
【0006】
既存の海洋工学用鋼の生産および開発プロセスでは、鋼板の海洋大気腐食耐性は十分に考慮されず、鋼の強度および衝撃特性が主な考慮事項であった。南シナ海などの高湿度および高温地域では、既存の海洋工学用鋼の海洋大気腐食耐性が十分優れたものではないため、鋼板の耐用年数は長くない。
【0007】
例えば、2017年5月31日に公開された「High-Strength Weathering Steel for Highly Humid and Hot Marine Atmospheric Environment and Manufacturing Method Therefor」と題された中国特許公開第106756476(A)号は、Ni含有量を増加させ、極少量のCr元素を添加し、Mo、Sn、Sb、REおよび他の微量合金元素を複合添加し、Nb微量元素によって結晶粒組織を微細化することで、耐食性を向上させるという目標を達成する高湿および高温海洋大気環境向け高強度耐候性鋼を開示している。この特許の最重要点は、鋼板の耐食性を向上させるためにSnおよびSbを使用することである。しかし、SnおよびSbは、構造用鋼において厳密に制御される不純物元素であり、明らかに鋼の総合的な機械的特性に悪影響を及ぼし、海洋工学プラットホームの安全性に悪影響を及ぼす。
【0008】
別の例では、2015年12月9日に公開された「Steel Plate Having corrosion resistance to highly humid and hot marine atmosphere,and Manufacturing Method Therefor」と題された中国特許公開第105132832(A)号は、高湿度および高温海洋大気に対する耐食性を有する鋼板およびその製造方法を開示しており、該鋼板は、0.5~0.6%のSi、0.5~0.7%のMn、0.5~0.6%のCu、0.5~0.6%のNi、0.3~0.5%のMo、および高含量のCr(3.00~3.50%)が添加され、Sn(0.20~0.30%)およびSb(0.06~0.10%)が複合添加される。この特許は、南シナ海の高湿度および高温の厳しい大気腐食環境における耐候性鋼の耐食性を大幅に向上させ、製造コストが比較的低く、経済的で実用的であるという利点を有する。
【0009】
別の例では、2014年4月23日に公開された「Corrosion-Resistant Steel Plate for Marine Environment in the South China Sea and Manufacturing Process Therefor」と題された中国特許公開第103741056(A)号は、低炭素組成を採用し、多くのSi、Mn、Cu、CrおよびNiならびにいくらかのSn元素が添加された南シナ海の海洋環境向けの耐食性鋼板を開示する。該鋼板は、単相ポリゴナルフェライト組織、10.17μmの平均粒径、355MPaの鋼等級降伏強度、490~630MPaの引張強度、34Jを超える-40℃でのシャルピー衝撃エネルギーを有する。
【0010】
上記の既存技術の欠点を考慮すると、優れた強靭性を有するだけでなく、優れた耐破壊および耐割れ特性ならびに高湿度および高温海洋大気に対する耐食性を有する新しい海洋工学用鋼を得ることが期待される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本開示の目的の1つは、優れた強靭性を有するだけでなく、優れた耐破壊および耐割れ特性ならびに高湿度および高温海洋大気に対する耐食性を有する海洋工学用鋼を提供することである。本開示の海洋工学用鋼は、船および海洋工学構造物、特に海洋工学構造物の海洋大気構造部材に用いることができ、各種の海域での供用が可能であり、特に南シナ海などの高湿度および高温海域に適しており、幅広い用途が見込まれる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本開示は、質量百分率で以下の化学元素:
C:0.01~0.05%、Si:0.05~0.60%、Mn:0.50~1.30%、Cr:0.6~1.20%、Ni:2.0~3.0%、Al:0.01~0.06%、Ti:0.005~0.012%、およびMg:0.0005~0.0015%、0<Ca≦0.0045%、0<Cu≦0.5%、および0<Mo≦0.40%を含み、残部がFeおよび不可避不純物である海洋工学用鋼を提供する。
【0013】
一実施形態では、本開示の海洋工学用鋼中の化学元素の質量百分率は、以下の通り:
C:0.015~0.04%、Si:0.15~0.60%、Mn:0.50~1.30%、Cr:0.6~0.90%、Ni:2.0~2.85%、Al:0.01~0.06%、Ti:0.005~0.012%、およびMg:0.0005~0.0015%、0<Ca≦0.0045%、0<Cu≦0.5%、および0<Mo≦0.40%であり、残部がFeおよび不可避不純物である。
【0014】
本開示の海洋工学用鋼は、超低Cを有し、Mn、Nb、V、およびTi微量合金化ならびにCr-Ni-Mo-Cu合金化組成系を用いて設計されている。本開示の海洋工学用鋼において、化学元素の設計原理は以下の通り具体的に説明される。
【0015】
C:本開示の海洋工学用鋼は、超低炭素設計を採用し、炭素の格子間強化作用を利用して本発明鋼板の好適な強度を確保するだけでなく、過剰な炭化物の析出を効果的に防止し、母相と炭化物相の電位差を小さくして良好な耐食性を得ると同時に、該鋼板は低温靭性および溶接性能も良好である。したがって、本開示の海洋工学用鋼では、Cの質量百分率は、0.01~0.05%に制御される。
【0016】
Si:本開示の海洋工学用鋼において、Si元素は、製鋼における一般的な弱脱酸元素であり、一定の固溶強化作用を有する。Cl-条件下では、Si元素は鋼の錆層中でFeAlSiOの複合酸化物を形成し、空隙および割れを塞ぎ、それによって鋼を保護する役割を果たすことに留意すべきである。このことから、本開示の海洋工学用鋼では、Siの質量百分率は、0.05~0.60%に制御される。
【0017】
Mn:本開示の海洋工学用鋼において、Mnは、低合金高強度鋼種の最も基本的な合金元素であり、固溶強化により鋼の強度を向上させ、鋼中のC元素含量の減少による強度低下を補うことができる。ただし、鋼中のMn元素含量は高すぎてはならないことに留意すべきである。鋼中のMn元素含量が高すぎると、鋼板の中心部に偏析が生じやすくなり、鋼の低温靭性が低下する。このことから、本開示の海洋工学用鋼では、Mnの質量百分率は、0.50~1.30%に制御される。
【0018】
Cr:本開示の海洋工学用鋼において、Cr元素は、鋼の不動態化性能を向上させて、鋼表面の緻密な酸化膜の形成を促進することができ、内部錆層中で富化されて、αオキシ水酸化鉄を微細化しやすい。しかし、鋼中のCr元素含量が高すぎてはならないことに留意するべきである。Cl-環境下でCrを添加しすぎると、鋼の耐食性が腐食後期に深刻に悪化する。したがって、Cr元素の有益な効果と悪影響を総合的に考慮して、本開示の海洋工学用鋼では、Cr元素の質量百分率は、0.6~1.20%に制御される。
【0019】
Ni:本開示の海洋工学用鋼において、Ni元素は、鉄母材と無限に固溶することができ、鋼の低温靭性、特に厚鋼板の中央部の衝撃靭性を向上させることができ、鋼板の耐破壊および耐割れ特性を向上させることができる。さらに、鋼中のNi元素含量の増加は、海洋環境における鋼の耐食性を向上させるうえでも大きな役割を果たす。Niは経時的な材料の腐食進行動向を遅らせ、腐食の逆効果および孔食傾向を抑制することができる。しかし、鋼中のNi元素含量は高すぎてはならないことに留意すべきである。鋼中のNi元素含量が高すぎると、スラブ表面に、除去が困難な粘性の高い酸化鉄スケールが生成されやすくなるため、鋼板の表面品質および疲労性能に影響を及ぼす。このことから、本開示の海洋工学用鋼では、Niの質量百分率は、2.0~3.0%に制御される。
【0020】
Al:本開示の海洋工学用鋼において、Alは結晶粒微細化元素に属する。Al元素は脱酸のために鋼に添加される。脱酸完了後、材料中のO含量が低減して、時効特性が向上する。さらに、鋼に適量のAlを添加することは、結晶粒の微細化、および鋼の強靭性の向上に有益でもあることに留意すべきである。したがって、本開示の海洋工学用鋼では、Al元素の質量百分率は、0.01~0.06%に制御される。
【0021】
Ti:本開示の海洋工学用鋼において、Ti元素は強力なN固定元素であり、鋼中のN元素含量を効果的に抑制し、過剰に高いN含量による鋼の特性への悪影響を防止することができる。さらに、TiおよびN元素によって形成されるTiN析出相は、加熱時のスラブおよび鋼板中の結晶粒の過剰な成長を抑制することができる。したがって、本開示の海洋工学用鋼では、添加するTi元素の質量百分率は、0.005~0.012%に制御される。
【0022】
Mg:本開示の海洋工学用鋼において、Mg元素は、硫化物の形態を効果的に向上させ、介在物を微細化し、鋼板の耐食性を強化することができる。Mg元素は、本開示における介在物の有益な改質技術を実現するために重要な元素である。鋼中のMg元素含量が低すぎると、介在物の改質を実現することができなくなる。鋼中のMg元素含量が高すぎると、MgOおよびMgSが形成されやすくなり、タンデッシュノズルを詰まらせ得る。したがって、本発明に記載の海洋工学用鋼では、添加するMg元素の質量百分率は、0.0005~0.0015%に制御される。
【0023】
Ca:本開示の海洋工学用鋼において、Ca処理により、鋼中の硫化物の形態を制御し、鋼板の異方性を改善し、低温靭性を向上させることができる。また、Ca元素は、本開示における介在物の有益な改質技術を実現するために重要な元素でもあり、その含量はMg含量と一致する必要がある。したがって、本開示の海洋工学用鋼では、添加するCa元素の質量百分率は、0<Ca≦0.0045%に制御される。
【0024】
Cu:本開示の海洋工学用鋼において、Cu元素は、鋼の焼入れ性を適切に向上させることができ、鋼の大気腐食耐性を向上させることができる。しかし、鋼中のCu元素含量は高すぎてはならない。鋼中のCu含量が高すぎると、鋼の溶接性能が劣化する。したがって、本開示の海洋工学用鋼では、Cuの質量百分率は、0<Cu≦0.5%に制御することが好ましい。
【0025】
Mo:本開示の海洋工学用鋼において、Mo元素は、鋼の耐孔食性を効果的に向上させることができるが、Mo含量が高すぎると鋼板の低温割れ傾向が増大する。したがって、本開示の海洋工学用鋼において、Mo元素の質量百分率は、0<Mo≦0.40%に制御することができる。
【0026】
一実施形態において、本開示の海洋工学用鋼は、以下の化学元素:0<Nb≦0.04%、0<V≦0.05%、および0<B≦0.0005%のうちの少なくとも1つをさらに含む。
【0027】
本開示の上記技術的解決手段において、Cu、Mo、Nb、V、およびB元素はすべて、本開示の海洋工学用鋼の性能をさらに向上させることができる。
【0028】
Nb:本開示の海洋工学用鋼において、Nbは強い結晶粒微細化作用を有する強い炭窒化物形成元素である。鋼に適量のNbを添加して均一な結晶粒径を得ることによって、加熱時の結晶粒の一部の過剰な成長、混晶組織の形成、強靭性および耐食性の劣化を効果的に防止することができる。したがって、本開示の海洋工学用鋼において、Nb元素の質量百分率は、0<Nb≦0.04%に制御することができる。
【0029】
V:本開示の海洋工学用鋼において、V元素は、CおよびNとともにVNまたはV(CN)微細析出粒子を形成することで、鋼の強化に寄与することができる。さらに、V元素は、焼入れおよび焼戻し後の硬度の安定性を向上させるうえでも有益である。しかし、鋼中のV元素含量は高すぎてはならないことに留意すべきである。鋼中のV元素含量が高すぎると、コストが著しく上昇する。したがって、本開示の海洋工学用鋼では、V元素の質量百分率は、0<V≦0.05%に制御することができる。
【0030】
B:本開示の海洋工学用鋼において、B元素は、鋼の焼入れ性を向上させ、鋼の低温割れ特性に影響を及ぼすことができる。したがって、本開示の海洋工学用鋼では、B元素の質量百分率は、0<B≦0.0005%に制御することができる。
【0031】
上述したCu、Mo、Nb、V、およびB元素の添加は、材料のコストを増加させることに留意すべきである。したがって、性能およびコスト抑制を総合的に考慮すると、本開示の技術的解決手段においては、上記元素の少なくとも1つを添加することが好ましい。
【0032】
一実施形態では、本開示の海洋工学用鋼において、不可避の不純物中、P≦0.015%、および/またはS≦0.0040%である。
【0033】
上記技術的解決手段では、PおよびSは、いずれも鋼中の不純物元素である。したがって、鋼のより優れた性能およびより優れた品質を得るためには、技術的条件が許す限り、鋼中の不純物元素含量をできるだけ低減すべきである。鋼中のPおよびS元素含量が高すぎると、偏析および介在などの欠陥が発生しやすくなり、鋼板の溶接性能、衝撃靭性および耐HIC性が劣化する。
【0034】
したがって、本開示の海洋プラットホーム用鋼において、P≦0.015%、S≦0.0040%に制御されることが好ましい。介在物の有益な改質技術を使用して、介在物の形状を球状にし、サイズを微細化し、均一な分布を達成し、それによって介在物の靭性および腐食への影響を低減することがより好ましい。
【0035】
一実施形態では、本開示の海洋工学用鋼中の化学元素の質量百分率は、
1.8≦α≦2.0(式中、α=1.2Cr+5Ni-Cr2-Ni2-4.61);
4.2≦β≦7.9(式中、
【0036】
【0037】
【数2】
);
のうちの少なくとも1つをさらに満たす。
【0038】
各化学元素について、化学元素の質量百分率のパーセント記号の前の値が上記式に代入される。
【0039】
上記技術的解決手段において、本開示の海洋工学用鋼中の個々の元素の質量百分率を制御する一方で、鋼中の化学元素の質量百分率を、1.8≦α≦2.0、4.2≦β≦7.9、および35≦γ≦65のうちの少なくとも1つを満たすように制御して、合金元素含量間のバランスを確保し、鋼において高湿度および高温に対する良好な耐食性、ならびにバランスよく向上した強度および靭性が得られるようにすることも好ましい。
【0040】
一実施形態において、本開示の海洋工学用鋼の微細組織は、95%以上の相比の焼戻しベイナイトである。
【0041】
上記技術的解決手段において、本開示の海洋工学用鋼の微細組織は、焼戻しベイナイト組織であり、焼戻しベイナイトの相比は95%以上であるため、鋼はよりバランスよく向上した強度および靭性を有する。
【0042】
一実施形態において、本開示の海洋工学用鋼は、355MPa以上の降伏強度、500~650MPaの引張強度、22%以上の延伸率、-60℃における100J以上の衝撃エネルギー、-60℃における0.8mm以上の亀裂先端開口変位(CTOD)、-65℃以下の無延性遷移温度(NDTT)、ならびに高湿度および高温大気環境での0.85g/(m2*時)以下の腐食速度を有する。
【0043】
これに対応して、本開示の別の目的は、海洋工学用鋼の製造方法を提供することである。該製造方法は実行が簡単なものである。該方法によって製造される海洋工学用鋼は、優れた強靭性を有するだけでなく、優れた耐破壊および耐割れ特性ならびに高湿度および高温海洋大気に対する耐食性を有する。
【0044】
一実施形態において、本開示の製造方法によって調製される海洋工学用鋼は、355MPa以上の降伏強度、500~650MPaの引張強度、22%以上の延伸率、-60℃における100J以上の衝撃エネルギー、-60℃における0.8mm以上のCTOD、-65℃以上のNDTT、ならびに高湿度および高温大気環境での0.85g/(m2*時)以下の腐食速度を有する。本開示の方法により製造された海洋工学用鋼は、船および海洋工学構造物に使用することができ、幅広い用途が見込まれる。
【0045】
上記目的を達成するために、本開示は、海洋工学用鋼の製造方法であって、以下の工程:
(1)製錬および鋳造工程と;
(2)加熱工程と;
(3)圧延後の元のオーステナイト粒径が20~25μmである制御圧延工程と;
(4)空冷工程と;
(5)焼入れ後のオーステナイト粒径が20~25μmである焼入れおよび焼戻し工程と
を含む製造方法を提供する。
【0046】
一実施形態において、本開示の製造方法では、工程(1)において、溶銑予備処理、転炉製錬、LF精錬、RH精錬、介在物の有益な処理および連続鋳造を逐次的に行い、介在物の有益な処理の段階で、CaSおよびMnSでコーティングされたコアとしてMgO+Al2O3を含む複合介在物が形成され、複合介在物のサイズが0.2~2.5μmであり、上記サイズ範囲内の複合介在物の数が、介在物総数の95%以上を占める。
【0047】
一実施形態において、本開示の製造方法では、工程(1)において、転炉製錬の段階で、スラグカット出鋼(slag cutoff tapping)が実施されて、スラグ層の厚さが30mm未満に制御され;LF精錬の段階で、スラグ中のFeOおよびMnOの質量百分率の合計が1%未満に制御され、(CaO+MgO+MnO)/(SiO2+P2O5)>9(式中、各物質にはそれらの質量百分率が代入される)が満たされ;介在物の有益な処理の段階で、Mg処理またはMgとCaの複合処理が実施されるが;MgとCaの複合処理が実施される場合、150~250m/分のワイヤ供給速度でCaとMgが同時に供給される必要がある。
【0048】
上記技術的解決手段において、本開示の製造方法の工程(1)では、転炉製錬段階で、スラグカット出鋼が実施されて、スラグ層の厚さが30mm未満に制御されることで、取鍋内のスラグの酸化を低減させ、酸素活量の増加および溶鋼の復リンを防止することができ、その後の白色スラグの生成および介在物改質処理に資する。
【0049】
上記技術的解決手段において、LF精錬段階で(CaO+MgO+MnO)/(SiO2+P2O5)が9を超えるように制御することで、スラグの良好な脱燐および脱硫能力を確保することができる。取鍋から白色スラグを製造するプロセスでは、スラグ中のFeOとMnOの質量百分率の合計は1%未満に制御されて、スラグの還元、十分な脱硫、溶鋼中の介在物含量の低減、ならびに鋼の強靭性および耐食性の向上が確保される。
【0050】
一実施形態において、本開示の製造方法において、工程(2)では、℃を単位として、スラブ加熱温度
【0051】
【数3】
となるように制御され、各化学元素について、化学元素の質量百分率のパーセント記号の前の値が式に代入される。
【0052】
上記技術的解決手段において、本開示の製造方法の工程(2)では、スラブ加熱温度を上記値に制御する目的は、微量合金化された炭窒化物の十分な固溶を確保し、合金元素の均質化を促進し、鋼中のマクロ偏析およびミクロ偏析を緩和し、異なる相および成分間の電位差による腐食一次電池の形成を減少させ、鋼板の耐食性を向上させることである。
【0053】
一実施形態において、本開示の製造方法において、工程(3)では、初期圧延温度Tsr=0.92Th-0.96Thとなるように制御され;最終圧延温度
【0054】
【数4】
となるように制御され;初期圧延温度および最終圧延温度の単位は共に℃であり;各化学元素について、化学元素の質量百分率のパーセント記号の前の値が式に代入される。
【0055】
上記技術的解決手段において、初期圧延温度Tsr=0.92Th-0.96Thとなるように制御する目的は主に、鋼板が再結晶帯で比較的高い温度で圧延されて、十分に再結晶化され、均一で等軸なオーステナイト粒が形成されることを確保することである。
【0056】
上記技術的解決手段において、最終圧延温度が
【0057】
【数5】
を満たすように制御することで、鋼板が非静的再結晶温度を超える温度で圧延されて、混晶および不均一な結晶粒の発生を防止することを確保することができ;第二に、圧延プロセスにおける温度降下のための十分な空間を確保することができる。
【0058】
一実施形態において、本開示の製造方法では、工程(3)において、シングルパスでの圧下率は8~12%であり、累積圧下率は60%以上である。
【0059】
本開示の上記技術的解決手段において、シングルパスでの圧下率を8~12%に制御する目的は主に、鋼板が各パスにおいて十分な再結晶駆動力を有することを確保し、同時に、圧延後の元のオーステナイト粒径が20~25μmに維持されるように鋼板の結晶粒均質化を達成するのに十分な圧延パス数とすることを確保することである。さらに、本開示の工程(3)において、累積圧下率を60%以上に制御する目的は主に、鋼板のコアでの十分な再結晶および十分な均質化を達成して、コアの強靭性ならびに耐破壊および耐割れ特性を確保することである。
【0060】
さらに、本開示の製造方法において、工程(5)では、焼入れ温度
【0061】
【数6】
となるように制御され;および/または焼戻し温度
【0062】
【数7】
となるように制御され;焼入れ温度および焼戻し温度の単位は共に℃であり;各化学元素について、化学元素の質量百分率のパーセント記号の前の値が式に代入される。
【0063】
本開示の上記技術的解決手段において、上記の焼入れ温度を設定する目的は、第一に、鋼板が完全にオーステナイト化されることを確保することであり、第二に、比較的高い温度でオーステナイト化することにより、炭窒化物の十分な固溶を達成することができ、鋼中の合金の均一な分布を促進することができ、偏析により生じる微視的な電気化学腐食を緩和することができることである。さらに、焼入れ温度が高すぎることはなく、オーステナイト粒の一部が急速に成長して混晶が生じることもない。その後、水焼入れを実施することができるが、この目的は、高い冷却速度とし、単一マルテンサイト組織を形成して、焼入れ後のオーステナイト粒径が20~25μmに維持されることを確保することである。
【0064】
本開示の上記技術的解決手段において、本開示の工程(5)では、上記の焼戻し温度を設定する目的は、第一に、鋼板が良好な機械的特性ならびに耐破壊および耐割れ特性を有することを確保することであり、第二に、焼戻しによって鋼板内の焼入れ応力を除去して、鋼板内部の各位置で異なる力によって引き起こされる腐食を防止することであり、最後に、鋼板が焼戻し後に焼戻しベイナイト組織を得ることによって、多相により引き起こされる微視的な腐食一次電池を低減することである。
【0065】
本開示において、焼戻し温度が高すぎる場合、鋼中にフェライト組織が形成され、鋼板の強度および衝撃特性が低下し;焼戻し温度が低すぎる場合、鋼板の強度が高くなりすぎ、衝撃靭性が比較的低くなることに留意すべきである。
【0066】
先行技術と比較して、本開示の海洋工学用鋼およびその製造方法は、以下の利点および有益な効果を有する。
組成設計、組織調整および製造プロセス等の条件制御により、本開示の鋼板は、好適な強度特性、優れた衝撃靭性、良好な耐破壊および耐割れ特性、ならびに優れた高湿度および高温海洋大気に対する耐食性を同時に達成する。
【0067】
先行技術と比較して、本開示の製造方法は、独自の組成設計技術、純鋼製錬技術、介在物の有益な制御技術、鋼均質化技術、粒径制御および微細組織調整技術を使用して、355MPaレベルの強度要件、良好な低温衝撃靭性、良好な耐破壊および耐割れ特性、ならびに優れた高湿度および高温大気に対する耐食性を有する鋼種を製造する。本開示の方法によって製造される鋼板は、組織、組成およびプロセス設計の点で既存の鋼板と大きく異なる。
【0068】
本開示の海洋工学用鋼は、355MPa以上の降伏強度、500~650MPaの引張強度、22%以上の延伸率、-60℃における100J以上の衝撃エネルギー、-60℃における0.8mm以上のCTOD、-65℃以下のNDTT、ならびに高湿度および高温大気環境での0.85g/(m2*時)以下の腐食速度を達成することができる。
【0069】
本開示の海洋工学用鋼は、船および海洋工学構造物の重要部品に使用することができ、中国の船および海洋工学設備用の鋼に対する現在の開発需要を満たし、幅広い用途が見込まれる。
【発明を実施するための形態】
【0070】
以下、本発明の具体的な実施方式について、具体的な実施形態を挙げてさらに説明し記載する。ただし、説明および記載は、本開示の技術的解決手段を限定するものではない。
【0071】
実施例1~6および比較例1
実施例1~6の海洋工学用鋼と比較例1の比較鋼の両方を以下の工程で調製する。
【0072】
(1)下記表1-1および表1-2に示す化学組成に従って製錬および鋳造を行う。溶銑予備処理、転炉製錬、LF精錬、RH精錬、介在物の有益な処理および連続鋳造を逐次的に行い、介在物の有益な処理の段階で、CaSおよびMnSでコーティングされたコアとしてMgO+Al2O3を含む複合介在物を形成する。複合介在物のサイズは0.2~2.5μmであり、上記サイズ範囲内の複合介在物の数は、介在物総数の95%以上を占める。
【0073】
転炉製錬の段階で、スラグカット出鋼が実施されて、スラグ層の厚さが30mm未満に制御され;LF精錬の段階で、スラグ中のFeOおよびMnOの質量百分率の合計が1%未満に制御され、(CaO+MgO+MnO)/(SiO2+P2O5)が9を超えるように制御され(式中、各物質にはそれらの質量百分率が代入される)、介在物の有益な処理の段階で、Mg処理またはMgとCaの複合処理が実施されるが、MgとCaの複合処理が実施される場合、150~250m/分のワイヤ供給速度でCaとMgが同時に供給される必要がある。
【0074】
(2)加熱:℃を単位として、スラブ加熱温度
【0075】
【0076】
(3)制御圧延:圧延後の元のオーステナイト粒径を20~25μmに維持し、初期圧延温度Tsr=0.92Th-0.96Thとなるように制御し、最終圧延温度
【0077】
【数9】
となるように制御し、初期圧延温度および最終圧延温度の単位は共に℃であり、シングルパスでの圧下率は8~12%であり、累積圧下率は60%以上である。
【0078】
(4)空冷
【0079】
(5)焼入れ+焼戻し:焼入れ温度
【0080】
【0081】
【数11】
となるように制御し、焼入れ後のオーステナイト粒径を20~25μmに維持する。
【0082】
本開示の実施例1~6では、6つの異なる化学組成を設計し、好適な製造プロセスと組み合わせて、異なる厚さ仕様を有する鋼板を製造することに留意すべきである。実施例1~6の海洋工学用鋼の化学組成設計および関連プロセスはすべて、本開示の設計仕様要件を満たす。
【0083】
表1-1および表1-2に、実施例1~6の海洋工学用鋼および比較例1の比較鋼の化学元素の質量百分率を示す。
【0084】
【0085】
【0086】
表2は、実施例1~6の海洋工学用鋼および比較例1の比較鋼を製造するための具体的なプロセスパラメータを示す。
【0087】
【0088】
実施例1~6において得られた海洋工学用鋼および比較例1において得られた比較鋼をそれぞれサンプリングし、実施例および比較例の完成板についてそれぞれ、引張試験、シャルピーVノッチ衝撃試験、CTOD試験(鋼板の破壊靭性を調べる指標)、NDTT性能検査試験(鋼板の耐割れ特性を測定する重要な指標)、ならびに高湿度および高温条件下での腐食試験を実施する。実施例および比較例の試験結果をそれぞれ表3に示す。
【0089】
試験方法を以下に記載する。
【0090】
引張試験:GB/T228.1に従い、厚さ50mm未満の鋼板には全厚板状引張試験片を使用し、厚さ50mm超の鋼板には棒状引張試験片を使用し、次に鋼板の室温引張特性を測定する。
【0091】
シャルピーVノッチ衝撃試験:GB/T229に従い、シャルピーVノッチ衝撃試験片を使用して、-60℃にて材料の板厚t/4の位置の衝撃特性を測定する。
【0092】
CTOD試験:BS7448-1に従い、全厚CTOD試験片を使用して、-60℃で材料の破壊靭性を測定する。
【0093】
NDTT性能検査試験:GB/T6803-2008に従い、P3試験片を使用して、材料の無延性遷移温度を測定する。
【0094】
高湿度および高温条件下での腐食試験:試験プロセスにおいて、35℃の温度、6.5~7.2のpHで5%NaCl溶液を使用するように制御し、塩水噴霧の平均沈降量を1.5mL/(80cm2・時)に制御し、RH(相対湿度)を95%~100%に制御する。
【0095】
表3は、実施例1~6の海洋工学用鋼および比較例1の比較鋼の試験結果を示す。
【0096】
【0097】
表3からわかるように、実施例1~6の海洋工学用鋼の総合性能は、比較例1の比較鋼よりも著しく優れている。高湿度および高温大気環境では、実施例1~6の海洋工学用鋼の腐食速度は、比較例1の鋼の腐食速度よりも著しく低い。わかるように、実施例1~6の海洋工学用鋼は、比較例1の比較鋼に比べて、高湿度および高温に対してより良好な耐食性を有している。
【0098】
表3に示すように、実施例1~6の海洋工学用鋼は、比較例1の比較鋼に比べて、優れた強靭性、耐破壊および耐割れ特性ならびに高湿度および高温に対する耐食性を有している。実施例1~6の海洋工学用鋼はすべて、423MPa以上の降伏強度、532~595MPaの引張強度、-60℃における270J以上の衝撃エネルギー、22%以上の延伸率、-60℃における0.8mm以上のCTOD、-65℃以下のNDTT、ならびに高湿度および高温大気環境での0.83g/(m2*時)以下の腐食速度を有している。
【0099】
要約すると、わかるように、最適化されたプロセスと組み合わされた合理的な化学組成設計により、本開示の海洋工学用鋼は、好適な強度特性、優れた衝撃靭性、良好な耐破壊および耐割れ特性ならびに優れた高湿度および高温海洋大気に対する耐食性を同時に達成する。本開示の海洋工学用鋼は、船および海洋工学構造物、洋上風力発電プラットホーム、島嶼建造物等の重要部品の製造に効果的に使用することができる。該鋼は、中国における船および海洋工学設備用の鋼に対する現在の開発需要を満たし、幅広い用途が見込まれる。
【0100】
加えて、本開示における種々の技術的特徴の組み合わせは、特許請求の範囲または実施形態に記載された組み合わせに限定されない。本開示におけるすべての技術的特徴は、互いに矛盾しない限り、あらゆる態様で自由に組み合わせるかまたは組み込むことができる。
【0101】
また、上述した実施形態は、本開示の具体的な実施態様に過ぎないことに留意すべきである。当然のことながら、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、上記実施形態と同様な変更物または変形物は、当業者によって本開示の内容から直接取得されるかまたは容易に想到され得るものであり、すべて本開示の保護範囲内に含まれるべきである。