(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-23
(45)【発行日】2025-05-02
(54)【発明の名称】ホットメルト組成物
(51)【国際特許分類】
B65D 85/00 20060101AFI20250424BHJP
B65D 75/04 20060101ALI20250424BHJP
C08K 5/01 20060101ALI20250424BHJP
C08L 23/0853 20250101ALI20250424BHJP
C08L 25/08 20060101ALI20250424BHJP
C08L 31/04 20060101ALI20250424BHJP
C08L 91/06 20060101ALI20250424BHJP
C08L 101/12 20060101ALI20250424BHJP
【FI】
B65D85/00 L
B65D75/04
C08K5/01
C08L23/0853
C08L25/08
C08L31/04 B
C08L31/04 S
C08L91/06
C08L101/12
(21)【出願番号】P 2020163696
(22)【出願日】2020-09-29
【審査請求日】2023-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000100698
【氏名又は名称】アイカ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 和尊
【審査官】大塚 龍平
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-518851(JP,A)
【文献】特開2013-133472(JP,A)
【文献】特表2020-521013(JP,A)
【文献】特開2014-234399(JP,A)
【文献】特開2015-063588(JP,A)
【文献】特開2015-105345(JP,A)
【文献】特開2021-095443(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 85/00
B65D 75/04
C08K 5/01
C08L 23/0853
C08L 25/08
C08L 31/04
C08L 91/06
C08L 101/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系熱可塑性エラストマー(A)
100重量部に対して、エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)
1~100重量部と、フィッシャートロプシュワックス(C)
1~100重量部と、を含有
し、
スチレン系熱可塑性エラストマー(A)として、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-エチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)からなる群から選ばれる1種以上を含有し、
ホットメルト接着剤の小片を包装するフィルムに用いられることを特徴とするホットメルト組成物。
【請求項2】
さらに、粘着付与剤を含むことを特徴とする請求項1記載のホットメルト組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホットメルト組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ホットメルト組成物は、無溶剤で環境に優しく、短時間で硬化可能で、非常に扱いやすい材料であることから、製造現場における作業環境を改善することが可能である。そのため、ホットメルト組成物は、自動車・電機などの精密分野のほか、建築分野など幅広く用いられている。
【0003】
過去に、出願人は、水添パラフィン系プロセスオイル、高分子量スチレン系ブロックコポリマー、ポリフェニレンエーテル樹脂または変性ポリフェニレンエーテル樹脂、酸化防止剤並びに非晶性ポリアルファオレフィンが配合されていることを特徴とするホットメルト組成物を発明した(特許文献1)。このホットメルト組成物は、接着性、密着性が良好で、熱による劣化を抑制するとともに、解体性にも優れるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【0005】
従来から、ホットメルト接着剤は、生産設備にて製造された後、溶融状態のまま、吐出口を通してドラム缶等の大型の容器に充填され、常温にて冷却した後、顧客へ販売されている。そして、顧客が使用する際には、再加熱し溶融状態とした後、吸込口を通して、ホットメルト接着剤を被着体に塗布するという作業が行われてきた。
【0006】
しかし、ドラム缶に充填されたホットメルト接着剤の場合、ドラム缶の内側面付近と中心付近とでは冷却速度が異なるため、熱収縮の程度が異なることによりホットメルト接着剤が変形し、空隙が発生する可能性があった。また、顧客が再加熱してホットメルト接着剤を使用する際に、空隙部分の空気を吸い込まないように、予め変形箇所のホットメルト接着剤を目視で確認した後、除去する必要があり、改善の余地があった。
【0007】
そこで、ホットメルト接着剤の小片ごとに、耐久性に優れた別のホットメルト組成物からなるフィルムにより包装し、販売する手法が用いられている。この手法によれば、塗布機器を備えた大型の加熱装置の中に、包装されたままのホットメルト接着剤をそのまま投入することにより使用することができるという利点がある。そのため、ホットメルト接着剤を包装するために用いるホットメルト組成物についても、各種の物性向上が求められており、具体的には、フィルム状に加工した際の強度や柔軟性のほか、ホットメルト接着剤に含まれる低分子量のオイル成分が浸透し外部に染み出さないような性能が求められていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、強度や柔軟性に優れており、また低分子量のオイル成分と接触した際でもその浸透を抑制することができるホットメルト組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)と、エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)と、フィッシャートロプシュワックス(C)と、を含有することを特徴とするホットメルト組成物である。
【発明の効果】
【0010】
本発明にかかるホットメルト組成物は、強度や柔軟性に優れており、また低分子量のオイル成分と接触した際でもその浸透を抑制することができるという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<スチレン系熱可塑性エラストマー>
本発明では、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)を用いる。当該(A)成分は、本発明にかかるホットメルト組成物のベースポリマーとして用いられる。
【0012】
当該(A)成分の種類としては、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)などの未水添のブロック共重合体や、スチレン-ブタジエン/ブチレン-スチレンブロック共重合体(SBBS)、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-エチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)などの水添のブロック共重合体などが挙げられる。これらの中でも、水添のブロック共重合体を用いることが好ましい。
【0013】
当該(A)成分のスチレン含有割合としては、3重量%~60重量%であることが好ましく、5~50重量%であることがさらに好ましく、10~40重量%であることが特に好ましい。また、25℃における25%トルエン溶液粘度としては、50~30,000mPa・sであることが好ましく、100~20,000であることがさらに好ましく、150~10,000であることが特に好ましい。
【0014】
当該(A)成分の具体例としては、クレイトンG 1650(製品名、クレイトン社製、SEBS、スチレン含有割合:30重量%、25%トルエン溶液粘度(25℃):8,000mPa・s)、クレイトン G1652(製品名、クレイトン社製、SEBS、スチレン含有割合:30重量%、25%トルエン溶液粘度(25℃):1,800mPa・s)、クレイトン G1726(製品名、クレイトン社製、SEBS、スチレン含有割合:30重量%、25%トルエン溶液粘度(25℃):200mPa・s)、クレイトンG 1730(製品名、クレイトン社製、SEPS、スチレン含有割合:20重量%、25%トルエン溶液粘度(25℃):1,980mPa・s)などが挙げられる。
【0015】
<エチレン-酢酸ビニル共重合体>
本発明では、エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)を用いる。当該(B)成分を用いることにより、上記(A)成分に対して、強度や柔軟性を付与することができる。
【0016】
当該(B)成分の酢酸ビニル含有割合としては、1~50重量%であることが好ましく、2~40重量%であることがさらに好ましく、3~30重量%であることが特に好ましい。
【0017】
当該(B)成分の配合割合としては、上記(A)成分100重量部に対して、1~800重量部配合することが好ましく、5~500重量部配合することがより好ましく、10~100重量部配合することがさらに好ましく、15~60重量部配合することが特に好ましい。
【0018】
当該(B)成分の具体例としては、A-C 400(製品名、ハネウェル社製、酢酸ビニル含有割合:12~16重量%)、EVATHENE UE508(製品名、USI社製、酢酸ビニル含有割合:8重量%)、EVA 1519(製品名、ハンファ社製、酢酸ビニル含有割合:19重量%)などが挙げられる。
【0019】
本発明では、フィッシャートロプシュワックス(C)を用いる。一般的に、ワックスは可塑性を付与するために配合され、その種類としては、天然ワックスや合成ワックスがあり、天然ワックスとしてはパラフィンワックスやマイクロクリスタリンワックスなどが、合成ワックスとしてはポリエチレンワックスやフィッシャートロプシュワックスなどが挙げられる。
【0020】
本願の発明者は、これらの中でも、特に当該(C)成分を用いることにより、低分子量のオイル成分と接触した際でもその浸透を抑制することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0021】
当該(C)成分の軟化点としては、60~150℃であることが好ましく、65~140℃であることがさらに好ましく、70~130℃であることが特に好ましい。
【0022】
当該(C)成分の配合割合としては、上記(A)成分100重量部に対して、1~500重量部配合することが好ましく、3~300重量部配合することがより好ましく、10~100重量部配合することが特に好ましい。
【0023】
当該(C)成分の具体例としては、SERATION 1810(製品名、サゾール社製、軟化点:115~120℃)、SERATION 1820(製品名、サゾール社製、軟化点:110~115℃)、SERATION 1830(製品名、サゾール社製、軟化点:85~95℃)、Sasolwax H1(製品名、サゾール社製、軟化点:112℃)、Sasolwax C80(製品名、サゾール社製、軟化点:88℃)などが挙げられる。
【0024】
<その他の成分>
本発明では、その他の成分として、粘着付与剤を用いることができる。当該成分を用いることにより、被着体表面の濡れ性が高くなることから、層間の密着性を向上させることができる。
【0025】
当該成分の種類としては、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、脂環族系石油樹脂、ロジン系樹脂、及びその水添物又は変性物などが挙げられる。
【0026】
当該成分の軟化点としては、60~250℃であることが好ましく、70℃~200℃であることがさらに好ましく、80℃~180℃であることが特に好ましい。
【0027】
当該成分の配合割合としては、上記(A)成分100重量部に対して、1~1000重量部配合することが好ましく、10~800重量部配合することがより好ましく、30~500重量部配合することが特に好ましい。
【0028】
当該成分の具体例としては、YSレジン PX1250(製品名、ヤスハラケミカル社製、テルペン樹脂、軟化点:120℃~130℃)、タマノル 901(製品名、荒川化学工業社製、テルペンフェノール樹脂、軟化点:125~135℃)、パインクリスタル KR-85(製品名、荒川化学工業社製、ロジン系樹脂、軟化点:80~87℃)、Fuclear FM-100(製品名、United Performance Material社製、脂肪族系炭化水素、軟化点:97~103℃)、T-REZ HA125(製品名、JXTGエネルギー社製、脂環族系炭化水素、軟化点:120℃~130℃)、Eastotac C100R(製品名、イーストマン社製、脂肪族系石油樹脂、軟化点:100℃)、Escorez 5320(製品名、エクソンモービル社製、脂肪族系炭化水素、軟化点:124℃)、Endex 155(製品名、イーストマン社製、芳香族系石油樹脂、軟化点:152℃)などが挙げられる。
【0029】
さらに、本発明では、老化防止剤を用いることができる。当該成分の種類としては、例えば、亜リン酸塩系、ナフチルアミン系、p-フェニレンジアミン系、キノリン系、ヒドロキノン系、ビス・トリス・ポリフェノール系、チオビスフェノール系、ヒンダードフェノール系などが挙げられ、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。当該成分の具体例としては、Sumilizer GP(製品名、住友化学社製)、Songnox 1010(製品名、Songwon社製)などが挙げられる。
【0030】
当該成分の配合割合としては、上記(A)成分100重量部に対して、0.01~30重量部配合することが好ましく、0.1~20重量部配合することがより好ましく、0.5~10重量部配合することが特に好ましい。当該成分の種類及びその配合割合が、上記の範囲内であることにより、熱による劣化を効率的に抑制することができる傾向がある。
【0031】
なお、本発明においては、炭酸カルシウム、タルク、クレーなどの充填材や、防腐剤、水分吸収剤などの各種添加剤が含まれていても良い。
【実施例】
【0032】
<実施例及び比較例>
表1に示す配合において、180℃に設定したセパラブルフラスコにより十分に溶融混合し、実施例及び比較例のホットメルト組成物を得た。ここで、表1における数値は、重量部を表すものとする。以下に、使用した原材料を示す。
クレイトン G1652(製品名、クレイトン社製、スチレン系熱可塑性エラストマー(SEBS)、25%トルエン溶液粘度(25℃):1,800mPa・s)
EVA 1519(製品名、ハンファ社製、エチレン-酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル含有割合:19重量%)
Sasolwax C80(製品名、サゾール社製、フィッシャートロプシュワックス、軟化点:88℃)
HNP-51(製品名、日本精蠟社製、パラフィンワックス、融点:77℃)
Microwax 80(製品名、Changge Huading Wax Industry社製、マイクロクリスタリンワックス、軟化点:76~78℃)
Escorez 5320(製品名、エクソンモービル社製、粘着付与剤(脂肪族系炭化水素)、軟化点:124℃)
Eastotac C100R(製品名、イーストマン社製、粘着付与剤(脂肪族系石油樹脂)、軟化点:100℃)
Fuclear FM-100(製品名、United Performance Material社製、粘着付与剤(脂肪族系炭化水素)、軟化点:97~103℃)
Songnox 1010(製品名、Songwon社製、老化防止剤)
【0033】
【0034】
上記の実施例等にて得られたホットメルト組成物について、以下の物性評価を行なった。この結果を表2に示す。
【0035】
<溶融粘度>
ブルックフィールド粘度計により、ホットメルト組成物10gを180℃にて溶融させ、測定温度160℃、170℃、及び180℃において、10分間静置させた後、スピンドルNo.27、回転数5rpmにて回転を開始し、10分後の溶融粘度(mPa・s)を測定した。
【0036】
<軟化点>
JIS K 6883-1994に準じて、ホットメルト組成物の軟化点を測定した。
【0037】
<引張強度・引張伸び>
ホットメルト組成物を100℃にて溶融させ、厚みが1mmのシートを作成した後、JIS K 6251に準拠したダンベル3号形状の試験片を作製した。23℃にて試験片を24時間養生させた後、23℃、及び50℃雰囲気下において、100mm/minの引張速度により、試験片の引張強度(MPa)と引張伸び(%)を測定した。
【0038】
<ブリード性>
Taipol 3206(TSRC社製、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体)30重量部と、Nyflex 223(Nynas社製、ナフテンオイル)70重量部を、150℃にて溶融混合させ、試験用樹脂を作製した。次に、実施例等にて得られたホットメルト組成物を100℃にて溶融させ、厚みが150μmの試験用フィルムを作製した。そして、コピー用の印刷紙(60mm×60mm)に、試験用フィルムを積層し、その上に環状のアルミニウム製仕切り板(直径29mm、高さ20mm)を載せ固定して、その内部に試験用樹脂を注ぎ、常温にて冷却させることにより試験体を作製した。冷却後、60℃にて試験体を24時間静置させた後、印刷紙の重量の増加分(mg/cm2)を測定した。
【0039】
【0040】
実施例1にかかるホットメルト組成物は、強度や柔軟性に優れており、また低分子量のオイル成分と接触した際でもその浸透を抑制することができるという結果が得られた。その一方で、比較例1にかかるホットメルト組成物は、ブリード性の試験後の印刷紙表面を触ると、若干量のオイル成分が指に付着し、比較例2にかかるホットメルト組成物は、多量のオイル成分が指に付着した。