(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-23
(45)【発行日】2025-05-02
(54)【発明の名称】波長変換部材、その製造方法、および発光装置
(51)【国際特許分類】
G02B 5/20 20060101AFI20250424BHJP
C09K 11/64 20060101ALN20250424BHJP
C09K 11/80 20060101ALN20250424BHJP
【FI】
G02B5/20
C09K11/64
C09K11/80
(21)【出願番号】P 2021053166
(22)【出願日】2021-03-26
【審査請求日】2024-02-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【氏名又は名称】田邊 淳也
(72)【発明者】
【氏名】菊地 俊光
(72)【発明者】
【氏名】傳井 美史
(72)【発明者】
【氏名】阿部 誉史
【審査官】藤岡 善行
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-100485(JP,A)
【文献】特開2013-203822(JP,A)
【文献】特開2022-052552(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20
C09K 11/64
C09K 11/80
H10H 20/851
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長変換部材であって、
基材と、
前記基材に設けられ、蛍光体粒子と、前記蛍光体粒子同士および前記基材と前記蛍光体粒子とを結合する透光性セラミックスと、を含む蛍光体層と、
前記蛍光体層の表面に設けられた保護層と、を備え、
前記透光性セラミックスは無機バインダにより形成され、
前記保護層は少なくとも前記透光性セラミックスの表面に設けられ、
前記保護層は、平均厚さが10nm以上500nm以下であり、
前記保護層の厚さは、略均一であり、
前記蛍光体層は、前記基材に垂直な任意の断面のSEM画像において前記基材の前記蛍光体層側の主面と平行な線を引いたとき、前記蛍光体粒子の最大粒子間距離が25μm以上100μm以下であることを特徴とする波長変換部材。
【請求項2】
前記蛍光体層は、前記基材に垂直な任意の断面のSEM画像において前記基材の前記蛍光体層側の主面と平行な線を引いたとき、前記蛍光体粒子の存在率が50%以上80%以下であることを特徴とする請求項1記載の波長変換部材。
【請求項3】
前記保護層は、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛の何れかにより形成されることを特徴とする請求項1または請求項2記載の波長変換部材。
【請求項4】
発光装置であって、
特定範囲の波長の光を発する発光素子と、
請求項1から請求項3のいずれかに記載の波長変換部材と、を備えることを特徴とする発光装置。
【請求項5】
波長変換部材の製造方法であって、
基材と、前記基材に設けられ、蛍光体粒子と、前記蛍光体粒子同士および前記基材と前記蛍光体粒子とを結合する透光性セラミックスと、により形成された蛍光体層と、を備える波長変換部材前駆体を準備する工程と、
前記波長変換部材前駆体の前記蛍光体層上に原子層堆積法(ALD法)により保護層を10nm以上500nm以下形成する工程と、を含み、
前記透光性セラミックスは無機バインダにより形成され、
前記保護層は少なくとも前記透光性セラミックスの表面に設けられ、
前記波長変換部材の前記蛍光体層は、前記基材に垂直な任意の断面のSEM画像において前記基材の前記蛍光体層側の主面と平行な線を引いたとき、前記蛍光体粒子の最大粒子間距離が25μm以上100μm以下であることを特徴とする波長変換部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長変換部材、その製造方法、および発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発光素子であるLED(Light Emitting Diode)やLD(Laser Diode)等の光源から照射された光を、蛍光体層により異なる波長の変換光として放出する波長変換部材を用いた発光装置が知られている。近年では、エネルギー効率が高く、小型化、高出力化に対応しやすいLDを光源として用いたアプリケーションが増えている。
【0003】
蛍光体層としてエポキシやシリコーンなどに代表される樹脂に蛍光体を分散させた従来の構造では、光源の高出力化に伴い樹脂の焼け焦げや変色が発生し、特性の低下が早まってしまう。このような課題に対し、樹脂に代えて無機バインダを用いた無機材料のみからなる波長変換部材が考案され、高エネルギーの光源とした場合であっても耐熱性の課題が解決されてきた。
【0004】
また、蛍光体層に使用される蛍光体粒子は、求められる色調や特性により様々な蛍光体が使用される。蛍光体層に使用される蛍光体粒子のなかには、外因によって特性を低下しやすい材料もあり、蛍光体粒子の特性低下を抑制する技術が求められている。
【0005】
特許文献1には、基材上に形成された蛍光体層の表面に、被覆層がさらに形成された波長変換部材が開示されている。被覆層によって表面硬度が向上され、蛍光体層の内部に含まれる気孔を起点として発生するクラック等によって、発光体粒子が脱粒することを防止している。
【0006】
特許文献2には、粒状の蛍光体粒子と被覆層とを含む蛍光体層が基材上に形成される色変換用無機成形体が開示されている。蛍光体層は、セラミックスからなる被覆層が、蛍光体粒子の表面を被覆し、蛍光体粒子同士を互いに固着させることで形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2018-165757号公報
【文献】特開2013-203822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の波長変換部材では、スクリーン印刷法によって、Si-Bi-B系の低融点ガラスからなる被覆層が、厚さ7μm以上25μm以下の厚さとなるように、蛍光体層の表面に形成されている。
【0009】
これにより、表面硬度が向上し、蛍光体粒子の脱粒が防止される一方、被覆層の厚みが厚いことから蛍光体層が蓄熱しやすくなり、発光特性が低下する虞がある。また、蛍光体層の表面は、蛍光体粒子の粒子径の違いによって凹凸を有しているが、スクリーン印刷による成膜では、効率的に蛍光体層表面の凹凸を埋めることができず、被覆層と蛍光体層との間に気孔が含まれてしまう。これにより、被覆層と蛍光体との密着性の低下や蛍光体層表面における不要な光の散乱が発生する虞がある。
【0010】
特許文献2に記載の色変換用無機成形体では、電着法によって形成された蛍光体粒子の凝集体である粒子層の上に、原子層体積法(ALD:Atomic Layer Deposition)によって、薄く緻密な被覆層が形成される。被膜層は、蛍光体粒子同士を固着させる、いわゆるバインダとしても機能している。しかしながら、特許文献2の蛍光体層では、蛍光体粒子が凝集体として存在していることから、隣り合う粒子同士の間隔が狭くなりすぎる虞がある。これにより、光源光から目的の色に変換することが難しくなる虞がある。例えば、青色の光源光の一部を透過させるとともに、残りの光源光を波長変換部材で黄色や緑、赤色に変換させることで白色を得ようとした場合において、光源光である青色光の透過が抑制されすぎてしまう虞がある。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、外因への耐性を保持させるとともに、発光特性に優れる波長変換部材、その製造方法、および発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の波長変換部材は、波長変換部材であって、基材と、前記基材に設けられ、蛍光体粒子と、前記蛍光体粒子同士および前記基材と前記蛍光体粒子とを結合する透光性セラミックスと、を含む蛍光体層と、前記蛍光体層の表面に設けられた保護層と、を備え、前記保護層は、平均厚さが10nm以上500nm以下であり、前記保護層の厚さは、略均一であることを特徴としている。
【0013】
このように、蛍光体層の表面に設けられた保護層を備え、保護層は、平均厚さが10nm以上500nm以下であり、保護層の厚さは、略均一であるから、外因から蛍光体層を保護すると共に、保護層での光の散乱などが生じにくいこと、および蛍光体層の蓄熱が起こりにくいことにより、発光効率の低下が抑制される。
【0014】
(2)また、本発明の波長変換部材において、前記蛍光体層は、前記基材に垂直な任意の断面のSEM画像において前記基材の前記蛍光体層側の主面と平行な線を引いたとき、前記蛍光体粒子の存在率が50%以上80%以下であり、前記蛍光体粒子の最大粒子間距離が100μm以下であることを特徴としている。
【0015】
このように、蛍光体粒子の存在率が50%以上80%以下であるから、発光素子より照射される光源光(励起光)の透過が一定量許容されることとなり、例えば、青色を光源とする光源光が照射された波長変換部材は、青色光を透過させつつ、蛍光体粒子により変換された変換光と光源光とを合わせて色バランスの良い白色光の放射光が得られる。また、蛍光体粒子の最大粒子間距離が100μm以下であるから、光源光が蛍光体層の一部において透過しすぎてしまうことを抑制できる。
【0016】
(3)また、本発明の波長変換部材において、前記保護層は、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛の何れかにより形成されることを特徴としている。本発明における保護層は透光性を有していることが必要であるが、これらの材料は透光性を有しているため、いずれも保護層として好適に使用できる。
【0017】
(4)また、本発明の発光装置は、発光装置であって、特定範囲の波長の光を発する発光素子と、上記(1)から(3)のいずれかに記載の波長変換部材と、を備えることを特徴としている。
【0018】
このように、波長変換部材の蛍光体層の表面に設けられた保護層の平均厚さが10nm以上500nm以下であり、保護層の厚みは略均一であるから、波長変換部材の発熱や発光効率の低下を抑制し、発光素子の高出力化に対応することができる発光装置とすることができる。このような発光装置の用途として、レーザ照明、レーザプロジェクタなどに用いることができる。
【0019】
(5)また、本発明の波長変換部材の製造方法は、波長変換部材の製造方法であって、基材と、前記基材に設けられ、蛍光体粒子と、前記蛍光体粒子同士および前記基材と前記蛍光体粒子とを結合する透光性セラミックスと、により形成された蛍光体層と、を備える波長変換部材前駆体を準備する工程と、前記波長変換部材前駆体の前記蛍光体層上に原子層堆積法(ALD法)により保護層を10nm以上500nm以下形成する工程と、を含むことを特徴としている。
【0020】
本発明の製造方法は、波長変換部材前駆体の蛍光体層上に原子層堆積法(ALD法)により保護層を10nm以上500nm以下形成するから、平均厚さが10nm以上500nm以下であり、厚みが略均一である保護層を有する波長変換部材を製造できる。その結果、略均一な厚さでピンホールなどの不具合が生じにくい薄膜の保護層を形成することができ、外因から蛍光体層を保護することができる。また、保護層での光の散乱などが生じにくいこと、および蛍光体層の蓄熱が起こりにくいことにより、発光効率の低下が抑制される。また、保護層の厚みはこれらの効果や生産性を考慮して、50nm以上300nm以下であることがより好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、外因から蛍光体層を保護すると共に、保護層での光の散乱などが生じにくいこと、および蛍光体層の蓄熱が起こりにくいことにより、発光効率の低下を抑制可能な波長変換部材およびそれを用いた発光装置を構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施形態に係る波長変換部材の断面構造の一例を示す断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る波長変換部材の断面構造の変形例を示す断面図である。
【
図3】(a)、(b)、それぞれ本発明の実施形態に係る発光装置の一例の一部を示す概念図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る波長変換部材の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図5】本発明の実施形態に係る保護層形成工程の詳細な工程の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。なお、構成図において、各構成要素の大きさは概念的に表したものであり、必ずしも実際の寸法比率を表すものではない。
【0024】
[波長変換部材の構成]
図1は、本実施形態に係る波長変換部材10の断面構造の一例を示す断面図である。本実施形態の波長変換部材10は、基材12上に蛍光体層14が形成され、蛍光体層14の表面に保護層19が形成されている。波長変換部材10は、光源から照射された入射光を透過または反射させつつ、入射光により励起して波長の異なる光を発生させる。例えば、青色光の入射光を透過または反射させつつ、蛍光体層14で変換された緑と赤や黄色の変換光を放射させて、変換光と入射光を合わせて、または、変換光のみを利用し、様々な色の光に変換できる。
【0025】
基材12の形状は、発光装置40に適用可能な形状であればよく、円形状、矩形状、楕円形状、多角形状など様々な形状であってよい。また、
図2に示すように、基材12が上部開口した凹状であり、凹部に蛍光体層14および保護層19が設けられていてもよい。
【0026】
基材12の材料は使用用途に合わせて適宜選択される。発光素子からの励起光を透過させる用途で使用する場合には、サファイアやガラス等の無機材料を用いることができる。高い熱伝導率を有するサファイアを用いることが特に好ましく、蛍光体層14の蓄熱を抑えることで温度上昇による蛍光体粒子16の特性低下を抑制できる。また、発光素子からの励起光を反射させる用途で使用する場合は、アルミニウム、鉄、銅等やセラミックスを用いることができる。特に、高い熱伝導率を有するとともに可視光の全領域において高い反射率を有するアルミニウムを用いることが好ましく、蛍光体層14の蓄熱を抑えることで温度上昇による蛍光体粒子16の特性低下を抑制できる。また、蛍光体層14側の基材12表面である主面13に、銀などの光を反射する材料をメッキや蒸着等により設けることで反射層を形成してもよく、TiO2などの増反射膜を形成してもよい。
【0027】
蛍光体層14は、基材12上に膜として設けられ、蛍光体粒子16および透光性セラミックス18により形成されている。透光性セラミックス18は、蛍光体粒子16同士を結合するとともに蛍光体粒子16と基材12とを結合している。これにより、高エネルギー密度の光の照射に対して、放熱材として機能する基材12と接合しているため効率よく放熱でき、蛍光体の温度消光を抑制できる。蛍光体層14の厚さは、15μm以上300μm以下であることが好ましく、50μm以上200μm以下であることがより好ましい。
【0028】
蛍光体層14は、蛍光体粒子16および透光性セラミックス18の他に無機粒子を含んでもよい。無機粒子を混合する場合には、様々な目的にかなった無機粒子を混合できる。例えば、蛍光体ペーストの粘度を調整する目的、蛍光体ペーストの蛍光体粒子の密度を調整する目的、蛍光体層で光を散乱させる目的、蛍光体層の熱伝導率をよくする目的、蛍光体層の空隙を減少させる目的等が挙げられる。無機粒子の平均粒子径は、蛍光体層14に含まれる蛍光体粒子の平均粒子径と同等または小さいことが好ましい。
【0029】
また、基材12に垂直な任意の断面のSEM画像において基材12の蛍光体層14側の主面13と平行な線を引いたとき、蛍光体粒子16の存在率が50%以上80%であることが好ましい。また、蛍光体粒子16の最大粒子間距離が100μm以下であることが好ましい。なお、蛍光体粒子16の存在率は、バインダの添加量を減らしたり、混合時間を短く調整したりすることによって、大きくなる傾向にあり、最大粒子間距離は、混合時間の調整によって、蛍光体粒子16が蛍光体層14内に適度に分散することで100μm以下に抑えられる。
【0030】
以下に、SEM画像による蛍光体粒子16の存在率や最大粒子間距離の確認方法について詳述する。まず、基材12の平面方向と垂直な方向における断面について、例えば、1000倍にて断面のSEM画像の取得を行なう。次に、得られたSEM画像に対して、2値化などの画像解析を行ない、画像から蛍光体層14と認められる画像の範囲を定める。そして、蛍光体層14を厚み方向に等分する位置に、基材12の主面13と平行な仮想線を複数(例えば、3本)引き、それぞれの仮想線において蛍光体粒子16の存在率と最大粒子間距離を算出する。また、その平均値から蛍光体粒子16の存在率の平均値を求めることができる。蛍光体粒子16の存在率は、仮想線上において蛍光体粒子16が存在する割合から算出される。すなわち、仮想線を横切る蛍光体粒子16の長さの仮想線の長さに対する割合をパーセント(%)で表したものとする。最大粒子間距離は、仮想線上に存在する隣り合う蛍光体粒子16間の仮想線上での距離のうち、最大値のものとする。なお、蛍光体粒子16の存在率の平均値と最大粒子間距離を算出するときに用いる画像は、全体的な値となるように、蛍光体層14における複数個所の断面画像(例えば3枚以上)を取得することとする。
【0031】
蛍光体粒子16は、例えばイットリウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体(YAG系蛍光体)およびルテチウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体(LAG系蛍光体)を用いることができる。その他、蛍光体粒子16は、発光させる色の設計に応じて以下のような材料から選択できる。例えば、BaMgAl10O17:Eu、ZnS:Ag,Cl、BaAl2S4:EuあるいはCaMgSi2O6:Euなどの青色系蛍光体、Zn2SiO4:Mn、(Y,Gd)BO3:Tb、ZnS:Cu,Al、(M1)2SiO4:Eu、(M1)(M2)2S:Eu、(M3)3Al5O12:Ce、SiAlON:Eu、CaSiAlON:Eu、(M1)Si2O2N:Euあるいは(Ba,Sr,Mg)2SiO4:Eu,Mnなどの黄色または緑色系蛍光体、(M1)3SiO5:Euあるいは(M1)S:Euなどの黄色、橙色または赤色系蛍光体、(Y,Gd)BO3:Eu,Y2O2S:Eu、(M1)2Si5N8:Eu、(M1)AlSiN3:EuあるいはYPVO4:Euなどの赤色系蛍光体が挙げられる。なお、上記化学式において、M1は、Ba,Ca,SrおよびMgからなる群のうちの少なくとも1つが含まれ、M2は、GaおよびAlのうちの少なくとも1つが含まれ、M3は、Y,Gd,LuおよびTeからなる群のうち少なくとも1つが含まれる。なお、上記の蛍光体粒子16は一例であり、波長変換部材10に用いられる蛍光体粒子16が必ずしも上記に限られるわけではない。
【0032】
蛍光体粒子16の平均粒子径は、5μm以上50μm以下であることが好ましく、7μm以上30μm以下であることがより好ましい。5μm以上である場合、変換光の発光強度が大きくなり、ひいては波長変換部材10の発光強度が大きくなる。また、50μm以下である場合、蛍光体層14の厚みの調整が容易となり、蛍光体粒子16の脱粒のリスクを低減できる。また、個々の蛍光体粒子16の温度を低く維持でき、温度消光を抑制できる。なお、本明細書において平均粒子径とは、メジアン径(D50)である。平均粒子径は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置の乾式測定または湿式測定を用いて計測することができる。
【0033】
透光性セラミックス18は、無機バインダが加水分解または酸化されて形成されたものであり、透光性を有する無機材料により構成されている。透光性セラミックス18は、例えば、シリカ(SiO2)、リン酸アルミニウムから構成される。また、透光性セラミックス18は透光性を有するので、光源光(入射光)や変換光を透過させることができる。透光性セラミックス18は無機材料からなるので、耐熱性が向上し、LDなどの高エネルギー光を照射する用途であっても変質が起こりにくい。
【0034】
無機バインダとしては、例えば、エチルシリケート、リン酸アルミニウム水溶液等を用いることができる。
【0035】
なお、透光性を有する物質とは、0.5mmの対象物質に対して、可視光の波長領域(λ=380~780nm)で光を垂直に入射したとき、反対側から抜けた光の放射束が入射光の80%を超える特性を有する物質をいう。
【0036】
保護層19は、外因の影響によって引き起こされる、蛍光体粒子16の発光特性の低下を抑制することを目的として設けられる層であって、外因から蛍光体層14を保護するとともに、蛍光体粒子16の発光効率に与える影響を抑えるように形成される。発光特性は、蛍光体粒子16の発光強度や所望の色を発する特性のことを指す。保護層19は、蛍光体層14を外因から保護できればよく、少なくとも蛍光体層14の表面を被覆するように形成される。なお、
図2に示すように、基材12が凹状で、蛍光体層14が基材12の凹部に収まっている場合には、上面のみ被覆されてもよい。また、蛍光体層14が形成されていない基材12に保護層19が形成されてもよい。
【0037】
保護層19は、透光性を有する無機材料により構成され、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛の何れかにより形成されることが好ましい。これらの材料はいずれも透光性を有しており、保護層19として好適に使用できる。これにより、レーザダイオード等の高エネルギーの光が照射されても変質せず、吸収光や変換光を透過させることができる。
【0038】
また、保護層19は、ALD法により成膜されることで形成される。ALD法は、対象物表面に原子レベルで一層ずつ成膜していく成膜方法であり、平滑で非常に薄い成膜が可能である。また、ALD法により成膜された保護層19は、膜の付き回り性に優れ、均一な厚さで緻密な膜となり、ピンホールなどの不具合の発生を抑制できる。すなわち、ALD法により成膜された保護層19は、成膜対象の表面から保護層19の外表面までの垂直方向の距離が略均一となるように形成される。そのため、蛍光体粒子16による凹凸を有する蛍光体層14の上に形成される保護層19は、蛍光体層14の表面の形状に沿うように形成される。
【0039】
保護層19の表面粗さRaは、0.1μm以上2.0μm以下であることが好ましい。反射型の波長変換部材の場合、表面粗さRaが0.1μm以上であるから、蛍光体層14の表面における正反射成分を抑えられ、波長変換部材10から照射される光の色ムラやスポットが生じにくくなる。一方、2.0μm以下であるから、表面の粗さに起因した不均一な反射を抑制でき、色ムラの発生を抑制できる。また、透過型の波長変換部材の場合、表面粗さRaが0.1μm以上であるから、基材12内における光の内面反射が抑えられる。一方、2.0μm以下であるから、基材12の光透過率を可視光全域で高く保つことができる。
【0040】
ALD法により形成される保護層19の原料には、有機金属材料、金属ハロゲン化合物等が用いられる。保護層19は、上述した通り、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛の何れかにより形成されることが好ましく、保護層19の原料は保護層19を構成する材料に合わせて選択される。例えば、酸化アルミニウムからなる保護層19を形成する際には、TMA(トリメチルアルミニウム)と水などが原料として用いられる。
【0041】
保護層19の平均厚さは、10nm以上500nm以下である。保護層19の平均厚さが10nm以上であるから、蛍光体層14を保護するために十分な厚さとなる。500nm以下であるから、発光強度の低下を抑制できる。
【0042】
保護層19の平均厚さについては、SEM画像の解析で計測することもできる。SEM画像の解析における保護層19の厚さは、基材12の主面13の平面方向と垂直な方向における断面について、例えば、1000倍にて断面のSEM画像の取得を行なう。次に、得られたSEM画像に対して、2値化などの画像解析を行ない、画像から保護層19と認められる画像の範囲、蛍光体層14と認められる画像の範囲、および基材12と認められる画像の範囲を定める。次に、基材12の主面13に垂直方向に等間隔(例えば、20μm)に直線を引き、直線と蛍光体層14の表面との交点を求める。そして、その交点の蛍光体層14の表面に垂直な方向にさらに直線を引き、その直線と保護層19の表面との交点を求め、2つの交点(蛍光体層14の表面の交点および保護層19の表面の交点)の距離をその位置における保護層19の厚みの値とする。このようにして算出したある位置における保護層19の厚さを複数算出し、その平均値から保護層19の平均厚さを求めることができる。なお、保護層19の平均厚さを算出するときに用いる画像は、全体的な平均値となるように、保護層19における複数個所の断面画像(例えば3枚以上)を取得することとする。
【0043】
保護層19の厚さの最大値および最小値と保護層19の平均厚さの差が保護層19の平均厚さに対して20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。このように、保護層19の厚さの最大値および最小値と平均厚さとの差が、それぞれ平均厚さの20%以下となるように保護層19が形成されることにより、保護層19の厚さのバラつきが抑制されるため、保護層19における光の散乱が生じにくくなる。保護層19の厚みの最大値および最小値は、保護層19の厚みを算出する際に使用した各断面の複数の厚さの値の最大値および最小値とする。なお、保護層19の厚さが略均一であるとは、保護層19の厚さの最大値および最小値と平均厚さとの差が20%以下であることとする。ALD法で形成された保護層19は、この条件を充足する。
【0044】
[発光装置の構成]
図3(a)、(b)は、それぞれ本発明の透過型および反射型の発光装置を表す模式図である。発光装置40は、光源50と波長変換部材10を備える。光源50は、特定範囲の波長の光源光を発生させる発光素子であり、例えば、LEDや、LDなどを用いることができる。波長変換部材10はハイパワーでも効率よく波長変換させることができるので、光源50はLDであることが好ましい。
【0045】
[波長変換部材の製造方法]
波長変換部材の製造方法の一例を説明する。
図4は、本発明の波長変換部材の製造方法を示すフローチャートである。波長変換部材の製造方法は、基材12と蛍光体層14とを備える波長変換部材前駆体を準備する工程(ステップS1~ステップS4)と、波長変換部材前駆体の蛍光体層14上に保護層19を形成する工程(ステップS5)とを含む。以下に波長変換部材前駆体を準備する工程(ステップS1~ステップS4)から順に説明していく。
【0046】
最初に、原料を加工し、所定の形状に形成された基材12を作成する(ステップS1)。基材12とは別に、蛍光体粒子16と無機バインダとを混合して蛍光体ペーストを作製する(ステップS2)。蛍光体ペーストの作製は、まず、所定の平均粒子径を有する蛍光体粒子を準備する。蛍光体粒子16は、波長変換部材10の設計に応じて、様々なものを用いることができる。2種類以上を使用してもよい。次に、準備した蛍光体粒子16を秤量し、溶剤に分散させ、無機バインダと混合し、印刷用の蛍光体ペーストを作製する。混合にはボールミルやプロペラ撹拌などを用いることができる。混合時間は、ボールミルの場合、3分以上30分以下であることが好ましい。プロペラ撹拌の場合、5分以上120分以下であることが好ましい。これにより、蛍光体層の厚みのバラつきを低減できる。溶剤は、α-テルピネオール、ブタノール、イソホロン、グリセリン等の高沸点溶剤を用いることができる。
【0047】
次に、基材作製工程(ステップS1)において作製された基材12の表面に蛍光体ペーストを塗布してペースト層を形成する(ステップS3)。蛍光体ペーストの塗布は、スクリーン印刷法、スプレー法、ディスペンサーによる描画法、インクジェット法を用いることができる。スクリーン印刷法を用いると、厚みの均一なペースト層を安定的に形成できるので好ましい。また、ペースト層の厚みは、熱処理後に所定の厚みになるように調整する。ペースト層は、基材12の形状に沿って形成されることが好ましい。
【0048】
そして、塗布した蛍光体ペーストを、300℃以下の温度で熱処理することで蛍光体層を形成する(ステップS4)。熱処理温度は、150℃以上300℃以下であることが好ましく、熱処理時間は、0.5時間以上2.0時間以下であることが好ましい。また、昇温速度は、50℃/h以上200℃/h以下であることが好ましい。また、熱処理前に乾燥工程を設けてもよい。乾燥温度は100℃以上150℃以下が好ましく、乾燥時間は20分以上60分以下であることが好ましい。
【0049】
次に、熱処理工程に経て作製された波長変換部材前駆体の表面に保護層を形成する(ステップS5)。保護層19は、原子層体積法(ALD法)によって、厚さが10nm以上500nm以下となるように形成される。
【0050】
図5を参照して、保護層19の形成について、より具体的に説明する。
図5は、本発明における保護層形成工程(ステップS5)の詳細な工程を示すフローチャートである。以下に、原料ガスをTMA(トリメチルアルミニウム)とし、反応性ガスをH
2O(水)とし、酸化アルミニウム膜を保護層19として形成する場合について説明する。
【0051】
最初に、波長変換部材前駆体を成膜チャンバーに設置し、波長変換部材前駆体を100℃~400℃に加温する(ステップS5-1)。次に、原料ガスとして気化させたTMAをチャンバー内へ導入し、蛍光体層14表面に吸着させる(ステップS5-2)。
【0052】
蛍光体層14表面に原料ガスが一層のみ吸着したところで、吸着しなかった原料ガスを成膜チャンバーから排気させる(ステップS5-3)。吸着しなかった原料ガスは、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスをパージガスとして成膜チャンバー内に導入することで、排気される。
【0053】
次に、成膜チャンバー内に反応性ガスとして気化させた水蒸気を導入し、蛍光体層14上に吸着したTMAと反応させる(ステップS5-4)。TMAと水蒸気とは反応して、酸化アルミニウム膜を形成するとともに、メタンガスを副生する。
【0054】
蛍光体層14表面に吸着された原料ガスが反応性ガスと十分反応したところで、未反応の反応性ガスと副生されたガスを成膜チャンバーから排気する(ステップS5-5)。排気方法については、原料ガスの排気の同様の方法であってよい。
【0055】
以上の工程により、保護層19が一層形成される。本実施形態における保護層形成工程は、原料ガス導入工程(ステップS5-2)から排気工程(ステップS5-5)を基本サイクルとして、保護層19が10nm以上500nm以下になるまで繰り返される。ここで、保護層19の材料から1サイクルに成膜される保護層19の厚さを算出し、目的の厚さに要するサイクル数を算出しておく。そして、排気工程(ステップS5-5)終了後に、現在のサイクル数が算出された所定回数以上であるか否かを判定し(ステップS5-6)、サイクル数が所定回数より少ない場合(ステップS5-6でNo)、原料ガス導入工程(ステップS5-5)に戻り、保護膜形成工程を繰り返す。一方、サイクル数が所定回数以上であった場合(ステップS5-6でYes)には、保護膜形成工程を終了する。
【0056】
なお、ALD法は、原料ガスと反応性ガスとの反応を促進させるために、熱やプラズマ、光、電圧等のエネルギーを印加させる。例えば、被成膜体を加熱する熱ALD法、原料ガスと反応性ガスとの反応の際に直接プラズマを印加する方式や、反応室外でプラズマを使用し活性化された反応基を反応室に導入する方式等のプラズマALD法等が挙げられ、いずれのALD法であってもよい。
【0057】
[実施例および比較例]
(波長変換部材の作製)
(実施例1―1~1-5)
【0058】
基材12として直径φ30mm、厚みt1.0mmの円板状のサファイア製の基材を準備した。
【0059】
蛍光体層として、平均粒子径15μmの窒化物蛍光体((Sr,Ca)AlSiN3:Eu)と、溶媒としてα‐テルピネオール、無機バインダとしてエチルシリケートを秤量し、プロペラ撹拌で30分間混合することで蛍光体ペーストを作製した。得られた原料ペーストを熱処理後の層の平均厚みが100μmとなるようにスクリーン印刷により基材上に塗布し、塗布後の基材を100℃で20分乾燥した後、電気炉を用いて非酸化性雰囲気で150℃/hで150℃まで昇温し、60分熱処理をすることにより実施例1の波長変換部材前駆体を作製した。
【0060】
次に、それぞれの波長変換部材前駆体前駆体にALD法により保護層19を形成した。このとき、原料ガスをTMA(トリメチルアルミニウム)とし、反応性ガスをH2O(水)とし、パージガスをN2とし、それぞれを成膜チャンバーへ供給した。処理圧力は、10Pa以上50Pa以下とした。このときの成膜時の温度は200℃とした。
【0061】
上記の条件によって1サイクルずつ酸化アルミニウム膜を保護層19として成膜し、実施例1―1~1-5の波長変換部材を作製した。成膜速度としては、単位成膜速度が約0.1nm/サイクルであった。保護層19の厚みが以下の表1に示す厚みとなるように、所定サイクルの保護層形成工程を実施して、酸化アルミニウム膜を形成した。
【0062】
また、高温高湿環境暴露試験後に実施例1-1の波長変換部材を切断し、SEM画像で解析した結果、蛍光体層における蛍光体粒子の存在比は70%であり、最大粒子間距離は30μmであった。
【0063】
(比較例1)
保護層19として、プラズマCVD法によって、厚さ1μmの酸化アルミニウム膜を形成したことを除き、実施例1と同様の水準で比較例1の波長変換部材を作製した。
【0064】
(比較例2)
平均粒子径20nmである酸化アルミニウム微粒子を、溶媒であるアルコール系溶剤に分散させたスラリーを作製し、厚さ100nmとなるように蛍光体粒子にスプレーで塗布したことを除き、実施例1と同様の水準で比較例2の波長変換部材を作製した。
【0065】
(比較例3)
保護層19を形成しなかったことを除き、実施例1と同様の水準で比較例3の波長変換部材を作製した。
【0066】
[波長変換部材の評価]
(高温高湿環境暴露試験)
上記で得られた波長変換部材に、波長465nm、2Wの青色LD光を照射した。そして、レーザーパワーメーターを用いて発光強度を測定し、このとき測定された発光強度を0時間時の発光強度とした。
【0067】
次に、波長変換部材を85℃、相対湿度85%の環境下の密閉容器(恒温恒湿槽)に投入して静置させた。このとき、波長変換部材と水とが直接触れないようにした。そして、一定時間経過する毎に発光強度を測定し、比較例3の0時間時に測定された発光強度を100%としたとき、各波長変換部材の発光強度が90%以下となったときの時間を計測した。
【0068】
以下の表1にて、比較例3の0時間時の発光強度を100%としたときにおける、各試料の各時間における発光強度を示す。
【表1】
【0069】
表1に示すように、実施例1-1~実施例1-5の何れの試験においても、発光強度が90%以下となるまでに1000時間以上かかっている。保護層の厚みが増加することにより、初期の発光強度が低くなる傾向にあったことから、製造時間・コスト等を考慮すると50nm以上300nm以下の範囲がより好ましい結果であった。これに対して、比較例1~3では、500時間より短い時間で発光強度が90%以下にまで低下している。比較例1および比較例2では、蛍光体層の複雑な表面凹凸形状に沿って成膜ができていない部分やピンホールが存在していたため、その部分から経時的な発光強度の低下が起こったものと思われる。また、厚みが他の例よりも厚い比較例1では、初期の発光強度が最も低かった。これにより、本発明の波長変換部材は、高温高湿環境下での発光強度の低下を抑制できることが確かめられた。なお、窒化物蛍光体は蛍光体粒子のなかでも特に外因の影響を受けやすいことから、本発明の波長変換部材は、他の蛍光体粒子16を使用した場合であっても高温高湿環境下での発光強度の低下を抑制できる。
【0070】
(波長変換部材の作製)
(実施例2)
蛍光体粒子として、YAG蛍光体を使用したことを除き、実施例1と同様の水準で実施例2の波長変換部材を作製した。また、発光特性試験後に波長変換部材を切断し、SEM画像で解析した結果、蛍光体層における蛍光体粒子の存在比は70%であり、最大粒子間距離は30μmであった。
【0071】
(実施例3)
混合時間、蛍光体の粒子径、バインダ量等を調整し、蛍光体層における蛍光体粒子の存在比を50%、最大粒子間距離を70μmに変化させたことを除き、実施例2と同様の水準で実施例3の波長変換部材を作製した。
【0072】
(実施例4)
混合時間、蛍光体の粒子径、バインダ量等を調整し、蛍光体層における蛍光体粒子の存在比を80%、最大粒子間距離を25μmに変化させたことを除き、実施例2と同様の水準で実施例4の波長変換部材を作製した。
【0073】
(実施例5)
蛍光体粒子として、LuAG蛍光体を使用したことを除き、実施例2と同様の水準で実施例5の波長変換部材を作製した。また、SEM画像で解析した結果、蛍光体層における蛍光体粒子の存在比は70%であり、最大粒子間距離は35μmであった。
【0074】
(比較例4)
混合時間、蛍光体の粒子径、バインダ量等を調整し、蛍光体層における蛍光体粒子の存在比を40%、最大粒子間距離を120μmに変化させたことを除き、実施例2と同様の水準で比較例4の波長変換部材を作製した。
【0075】
(比較例5)
混合時間、蛍光体の粒子径、バインダ量等を調整し、蛍光体層における蛍光体粒子の存在比を85%、最大粒子間距離を20μmに変化させたことを除き、実施例2と同様の水準で比較例5の波長変換部材を作製した。
【0076】
[波長変換部材の評価]
(発光特性試験)
波長465nmの青色LD光をレーザ入力2Wのレーザ光として、波長変換部材10に照射した。照射面の反対側に透過した光を、分光放射照度計(コニカミノルタ製CL-500A)によって色度を測定した。
【0077】
色度とは、色の性質の色相、彩度、明度のうち、明度を除いたものを数値を用いて表したものである。本明細書では、国際照明委員会(CIE)が1931年に策定した国際表示法で、CIE-XYZ表色系のxy色度図に対応した数値の組(x、y)を用いて表す。xy色度図では、x軸は数値が大きくなるほど「赤み」の比率が増し、数値が小さくなるほど「青み」の比率が増す。y軸は数値が大きくなるほど「緑み」の比率が増し、数値が小さくなるほど「青み」の比率が増す。
【0078】
発光特性の確認としては、測定した色度について、CIE色度図における黒体軌跡からの色偏差(duv)を算出し、色偏差が±0.02の範囲内に含まれたものについて、良好な発光特性を有すると評価した。
【表2】
【0079】
表2に示すように、実施例2~4は、色偏差が±0.02の範囲内に収まっていた。これに対し、比較例4では、色偏差が±0.02の範囲外となった。これは、青色光が透過しすぎたためであると考えられる。比較例5では、色偏差が±0.02の範囲外となった。これは、青色光の透過が制限されすぎて、十分な青色光の透過できなかったことが考えられる。
【0080】
以上の結果によって、本発明の波長変換部材は、外因から蛍光体層を保護するとともに、保護層での光の散乱などが生じにくいこと、および蛍光体層の蓄熱が起こりにくいことにより、発光強度の低下を抑制することが確かめられた。また、発光素子より照射される光源光(励起光)の透過が一定量許容されることから、例えば、青色を光源とする光源光が照射された波長変換部材は、青色光を透過させつつ、蛍光体粒子により変換された変換光と光源光とを合わせて色バランスの良い白色光の放射光が得られることが確かめられた。また、本発明の波長変換部材の製造方法は、上記のような波長変換部材を製造できることが確かめられた。
【0081】
本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形および均等物に及ぶことはいうまでもない。また、各図面に示された構成要素の構造、形状、数、位置、大きさ等は説明の便宜上のものであり、適宜変更しうる。
【符号の説明】
【0082】
10 波長変換部材
12 基材
13 主面
14 蛍光体層
16 蛍光体粒子
18 透光性セラミックス
19 保護層
40 発光装置
50 光源