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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-23
(45)【発行日】2025-05-02
(54)【発明の名称】調理器
(51)【国際特許分類】
   A47J 27/16 20060101AFI20250424BHJP
   A47J 27/12 20060101ALI20250424BHJP
【FI】
A47J27/16 Z
A47J27/12
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021074153
(22)【出願日】2021-04-26
(65)【公開番号】P2022168587
(43)【公開日】2022-11-08
【審査請求日】2024-01-22
(73)【特許権者】
【識別番号】399048917
【氏名又は名称】日立グローバルライフソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】網野 梓
(72)【発明者】
【氏名】林 正二
(72)【発明者】
【氏名】伊奈 深雪
(72)【発明者】
【氏名】梅澤 功一
【審査官】西村 賢
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-277921(JP,A)
【文献】特開2016-087388(JP,A)
【文献】特開2018-089352(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0121578(US,A1)
【文献】特開2010-011951(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107550232(CN,A)
【文献】国際公開第2018/225859(WO,A1)
【文献】中国実用新案第209863515(CN,U)
【文献】米国特許第5543166(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47J 27/00-37/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
食材を調理する調理器であって、
蓋と下カバーにより箱状に形成された外箱の内部に収納される容器と、前記容器内に収納され食材を乗せるトレイと、前記トレイを上下に昇降させる昇降手段と、前記蓋または下カバーの少なくとも一方にヒータを備え、
前記昇降手段は、前記容器の側壁の外側であって前記外箱に位置する駆動用モータと、前記容器の側壁の外側であって前記外箱に位置し、前記駆動用モータの駆動力によって回転する昇降用ギヤと、前記容器の側壁の内側であって前記容器に形成された半円くぼみに位置し、前記容器の対向する側壁を挟んで前記昇降用ギヤと磁気結合され、前記昇降用ギヤの回転に応じて回転し、前記トレイを上下に昇降させる昇降ディスクと、から構成され、
前記トレイを下に位置付けして食材に調味液を含侵させ、前記トレイを上に位置付けして食材を調味液から引き上げるとともに、
前記トレイを下に位置付けして食材に調味液を含侵させる状態に置いて、調味液を攪拌させることを特徴とする調理器。
【請求項2】
請求項1に記載の調理器であって、
調味液を攪拌させるために、前記トレイを上下動させることを特徴とする調理器。
【請求項3】
請求項2に記載の調理器であって、
前記トレイを調味液中で上下動させるときの、上昇速度は下降速度よりも遅いものとされることを特徴とする調理器。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の調理器であって、
前記トレイの床面に開口部を有することを特徴とする調理器。
【請求項5】
請求項4に記載の調理器であって、
前記トレイの床面の開口部は、トレイ端部に配置されていることを特徴とする調理器。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の調理器であって、
前記容器の高さ方向温度を測定できる温度センサを備えていることを特徴とする調理器。
【請求項7】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の調理器であって、
溶液中の温度を測定できる温度センサを備えていることを特徴とする調理器。
【請求項8】
請求項7に記載の調理器であって、
前記温度センサは、前記トレイに備えられており、通信手段により計測した温度情報を伝送することを特徴とする調理器。
【請求項9】
請求項7に記載の調理器であって、
前記温度センサは、前記昇降手段に備えられており、通信手段により計測した温度情報を伝送することを特徴とする調理器。
【請求項10】
請求項7に記載の調理器であって、
前記温度センサは、前記容器上部に備えられた非接触式の温度センサであり、調味液表面の温度と、食材を持ち上げたときの食材表面温度を計測することを特徴とする調理器。
【請求項11】
請求項8から請求項10のいずれか1項に記載の調理器であって、
前記温度センサで計測した温度の情報を用いて、調味液を攪拌するときの攪拌速度或は攪拌時間を調整することを特徴とする調理器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は調理器に係り、特に食材に調味液を含侵させ低圧状態で焼成するに好適な調理器に関する。
【背景技術】
【0002】
食材を焼成する調理器として、従来から種々のものが知られている。例えば特許文献1では、動作時の汚れを軽減できるとともに、掃除・点検を行いやすく、そしてエネルギー効率の良い加熱焼成装置を提供することを目的として、「過熱蒸気を用いて被加熱物を加熱する加熱焼成装置であって、過熱蒸気を生成する過熱蒸気生成装置と、前記過熱蒸気によって被加熱物が焼成される焼成室とを備え、前記焼成室の内部には、前記被加熱物を移動させる搬送装置が設けられており、前記焼成室の内部における前記搬送装置の上方には、上部電熱ヒータが設けられており、前記搬送装置の下方には、前記過熱蒸気生成装置が配置されており、前記搬送装置の側部の下方には、ドリップ受け部が配置されており、前記焼成室の少なくとも一部は、前記焼成室の内部を開放可能な構造を有している、加熱焼成装置」のように構成している。
【0003】
また特許文献2では、調理室での発煙を抑制し、また調理室内の高さを確保しつつ効率よく加熱することのできる加熱調理器を得ることを目的として、「吸込口及び前記吸込口よりも下側に設けられた吹出口が形成され、前面側を開口した調理室と、前記調理室の前面側の開口を開閉自在に覆う調理室扉と、前記調理室の対向する一対の側壁のそれぞれに設けられ、前記調理室扉をスライドさせる一対の扉開閉手段と、前記調理室内を上方から加熱する上方加熱手段と、前記調理室内に設けられ、被加熱物が載置される調理皿と、前記調理室内の空気を前記吸込口から吸込み、吸い込んだ空気を前記吹出口から前記調理室内に送る送風手段と、前記送風手段が前記吸込口から吸い込んだ空気を加熱する循環風加熱手段と、前記上方加熱手段、前記送風手段、及び前記循環風加熱手段の動作を制御する制御手段とを備え、前記調理皿の幅寸法は、前記調理室の対向する前記一対の側壁の間の寸法よりも小さく、かつ、前記一対の扉開閉手段の間の寸法よりも大きいことを特徴とする加熱調理器」のように構成している。
【0004】
さらに特許文献3では、食材加工のための酵素を自動的に調製することのできる調理機器を提供することを目的として、「筺体を備える調理機器であって、食材を収容する収容室と、収容室内の圧力を制御する圧力制御手段と、前記収容室内の温度を制御する温度制御手段と、食材を加工するための酵素を収容する酵素収容手段と、前記酵素収容手段から送出された酵素を受けて、当該酵素を含んだ酵素水溶液を調製する調製手段と、調製された前記酵素水溶液を前記収容室内に導入するための酵素導入手段と、前記筺体の内部に設けられて、且つ前記収容室内の前記酵素水溶液を食材から分離するための分離手段と、を備える、調理機器」のように構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-192237号公報
【文献】特許06214739号
【文献】特許06084752号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した特許文献によれば、それぞれの課題とした事項を満足する調理器とすることができる。然しながら、特許文献1はコンベア上の食品を加熱水蒸気によって調理するものであって、装置が大型化するとともに、低圧調理(真空調理)を行うものではない。特許文献2はIHクッキングヒータの魚焼きグリルのコンベクションオーブンであって、装置は小型化できるものの低圧調理(真空調理)を行うものではない。特許文献3は、酵素を用いて低圧調理を行うものであるが、装置が大型化するとともに、酵素切り替えのためにチューブ、電磁弁、廃液容器を備えており、洗い物が多くなり、かつ清潔性の課題が生じる場合がある。さらに、焼き目をつけることはできない。
【0007】
これに対し、本発明においては食材に調味液を含侵させ焼成する処理を小型の調理器内部で完結するとともに取り外しが容易なことから清潔性を確保可能な調理器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上のことから本発明においては、「食材を調理する調理器であって、蓋と下カバーにより箱状に形成された外箱の内部に収納される容器と、前記容器内に収納され食材を乗せるトレイと、前記トレイを上下に昇降させる昇降手段と、前記蓋または下カバーの少なくとも一方にヒータを備え、前記昇降手段は、前記容器の側壁の外側であって前記外箱に位置する駆動用モータと、前記容器の側壁の外側であって前記外箱に位置し、前記駆動用モータの駆動力によって回転する昇降用ギヤと、前記容器の側壁の内側であって前記容器に形成された半円くぼみに位置し、前記容器の対向する側壁を挟んで前記昇降用ギヤと磁気結合され、前記昇降用ギヤの回転に応じて回転し、前記トレイを上下に昇降させる昇降ディスクと、から構成され、前記トレイを下に位置付けして食材に調味液を含侵させ、前記トレイを上に位置付けして食材を調味液から引き上げるとともに、前記トレイを下に位置付けして食材に調味液を含侵させる状態に置いて、調味液を攪拌させることを特徴とする調理器。」のように構成する。

【発明の効果】
【0009】
本発明の調理器によれば、食材に調味液を含侵させ焼成する処理を小型の調理器内部で完結するとともに取り外しが容易なことから清潔性を確保可能な調理器及びその制御方法を提供することができる。さらに、食材に調味液を含侵させ低圧状態で焼成する処理を行う際も本発明の小型の調理器内部で完結できる。
【0010】
特に本発明によれば、調理器の器1つの中で完結するため、洗い物が少なく、また容器の数が少ないため、装置の体積を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施例に係る調理器の全体構成例を示す図。
図2】外箱内に収納される機器の組み立て構成例を示す図。
図3】組み立て後の構成を示す図。
図4】容器内に収納されるトレイ6の拡大図。
図5】トレイ6が上下動されることを示す図。
図6】本発明の実施例に係る調理器の構成機器を示す図。
図7】制御器13における処理フローを示す図。
図8】処理の流れを示すタイムチャート。
図9】実施例1で説明した調理器1を利用する調理器の制御方法における一連の処理の流れを示す図。
図10】調味液含侵段階(第2段階)における調味液攪拌処理例を示す図。
図11】実施例3での処理の流れを示すタイムチャートを示す図。
図12図11の各段階においてトレイ位置を示したタイムチャートを示す図。
図13】調味液攪拌に適したトレイ6の例を示す図。
図14a】トレイ6の開口部6dの分布を端部方向に偏らせた例を示す図。
図14b】トレイ6の開口部6dの分布を端部方向に偏らせた例を示す図。
図15a】沈殿した調味料を用いた調理の様子を示す図。
図15b】沈殿した調味料を用いた調理の様子を示す図。
図16】トレイ6に温度センサを設けた構成例を示す図。
図17】昇降ディスクに温度センサを設けた構成例を示す図。
図18】本体の蓋内面に非接触の温度センサを搭載した構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下,本発明の実施例について、図面を用いて説明する。
【0013】
以下の実施例においては、調味料や酵素のような添加剤を含む調味液を、食材が入っている容器ごと低圧とすることにより、食材に含侵させ、酵素を反応させるための適した温度に保つことができ、食材が載せられているトレイを上昇させることにより調味液切を行い、上面のヒータにより焼成を行うことができる本発明の調理器及びその制御方法について具体的に説明する。具体的には、実施例1において調理器の構成を説明し、実施例2において調理器の制御方法を説明する。さらに、容器内の特に調味溶液の温度勾配解消の観点から実施例3において調味液の温度むらを改善することについて、実施例4において実施例3を実行するのに適したトレイ構造について、実施例5について調理器の容器内温度管理について、実施例6では高さ方向温度を用いた制御について説明する。
【実施例1】
【0014】
実施例1では、本発明に係る調理器の構成について説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施例に係る調理器の全体構成例を示している。この図に示すように、調理器1は、蓋2aと下カバー2bが回転結合部2cで回転可能に接続された外箱2と、箱状に形成された外箱2の内部に収納される容器4(真空容器)と、容器4内に収納されるトレイ6と、トレイ6を上下に昇降させる昇降手段5と、例えば蓋2aに取り付けられたヒータ3を、主な構成要素として構成されている。
【0016】
なおヒータ3に関して、図示の例ではヒータ3は蓋2aにだけ設置されているが、バリエーションとしては下カバー2b側に下ヒータを追加するものであってもよい。また蓋2a側の上面ヒータ3は蓋2aの内側に備えられることが望ましいが、蓋2aの外側に備えられ伝熱させる構造にしても良い。
【0017】
また調理器1を構成する空間内には、外箱2の内部に真空部を形成し、また本発明の制御方法の手順を実行させる制御器などの機能を収納している。このため、図2には示されていないが、調理器1の全体の機能としては図6の構成部品を備えることになる。図1に示す機器以外では、真空ポンプ11、制御器13、温度センサ14、インターフェイス機体側15を有しているが、これらの多くは蓋2aにより形成される空間内に収納される。
【0018】
なお、調理器1のインターフェイス機体側15は、スマホ本体やwifiルータなどの無線LANなどのインターフェイス16と無線接続されて、スマホなどの外部からスタートを制御し、あるいはスマホ本体への設定温度の表示確認、残り時間及び調理終了の情報提示などを通じて外部における監視可能とすることができる。なお、図示の例でのインターフェイス16の制御監視の機能は、調理器1の本体で行われるものであってもよい。
【0019】
図2は、外箱内に収納される機器の組み立て構成例を示す図である。外箱2内には、主要な構成部品である容器4(真空容器)と、トレイ6と、昇降手段5が収納されている。ここでは容器4の対向する両側壁にそれぞれ昇降手段5が配置され、容器4の内部にトレイ6を収納するとともに容器4内のトレイ6を昇降させる。
【0020】
このうち両側壁側の2組の昇降手段5のそれぞれは、昇降用モータ5aと、昇降用ギヤ5bと、昇降ディスク5cにより構成されている。このうち昇降用モータ5aと、昇降用ギヤ5bは容器4の対向する両側壁の外側に外箱2に固定する形で位置付けられ、機械的な結合により昇降用モータ5aの駆動力によって昇降用ギヤ5bが回転する。これに対し、昇降ディスク5cは容器4の対向する両側壁の内側に位置付けられ、昇降用ギヤ5bとの間で磁気結合による吸着力Fにより結合する。このため、昇降ディスク5cには磁石m2が、昇降用ギヤ5bには磁石m1が、同数の複数個ずつ備えられており、容器4の対向する側壁を挟んで磁気結合され、昇降用ギヤ5bの回転に応じて昇降ディスク5cも非接触で回転する。なお両側壁の内外の昇降ディスク5cと昇降用ギヤ5bは2個ずつ配置されている。
【0021】
容器4の対向する側壁の各内側には、2組の半円くぼみ40が形成されており、半円くぼみ40内に昇降ディスク5cがそれぞれ篏合されるようになっている。このため、半円くぼみ40内に昇降ディスク5cを当接すると、昇降用ギヤ5bに取り付けられた磁石m1と昇降ディスク5cに取り付けられた磁石m2との間の吸引力Fによりその位置に固定されて、回転可能となる。なお昇降ディスク5cにはタブtが設けられている。タブtは、円形の昇降ディスク5cの中心から離れた位置に形成されている。このためタブtの位置は、昇降ディスク5cの回転に伴い昇降ディスク5cの中心に対する円形軌道上に位置付けられることになる。
【0022】
なおここでは昇降用ギヤ5bと昇降ディスク5cの双方に磁石を配置する構成としているが、これはいずれか一方が磁石であり、他方は鉄などであってもよい、要は、磁力を利用して昇降用ギヤ5b側の回転を昇降ディスク5c側に非接触で伝達できるものであればよい。
【0023】
容器4内に収納されるトレイ6の拡大図が図4に例示されている。トレイ6は、昇降手段5が配置される容器4の対向する両側壁に平行な、複数のかまぼこ部6aと複数の谷型部6bを交互に配置した構成を備えており、容器4の対向する両側壁に直交する方向であるA方向から見たときに、かまぼこ部6aと谷型部6bは、図示のような形状とされている。またトレイ6の端部には、タブひっかけ部6cが形成されており、タブひっかけ部6cとタブtが係止されており、タブtの位置は昇降ディスク5cの中心から離れた位置に設定されているので、昇降ディスク5cの回転によりタブ位置が円形軌道上を上下移動するのに応じて、トレイ6自体が上下動されることになる。
【0024】
係るトレイ6の構造とすることにより、トレイ6は複数の谷型部6bにより食材を落とさず、かまぼこ部6aにより液体は切れやすい構造であり、図示の左右端は昇降ディスク5cのタブtに引っ掛かる構造である。これにより、かまぼこ型により液体が左右に落ちやすく、谷型により食材が安定することを交互に組み合わせた形状で、ある程度の面も確保できるため、食材崩れの防止、グリルのような焼き目を実現できる。
【0025】
図3は、組み立て後の構成を示す図であり、図2などから明らかなように、各部品のセットの順序として、まず容器4を外箱2の内部空間内にセットし、次に昇降ディスク5cを容器4の半円くぼみ40に当接し、トレイ6を容器4内にセットすることで図3の形状への組み立てが完了する。
【0026】
この構造によれば、分解、組み立てを簡単に行えることが理解でき、このことはこれら部品の掃除、清掃が簡便に行い得、清潔度を向上させることができることを意味している。かつ小型化することができる。
【0027】
図5は、タブひっかけ部6cとタブtが係止され、かつ昇降ディスク5cの回転によりタブ位置が回転しながら上下するのに応じて、トレイ6自体が上下動されることを示す図である。最初の状態を上部に示すように、この図示の状態は昇降ディスク5cが半円くぼみ40にタブtを当接篏合された状態からトレイ6を容器4内に収納した図3の組み立て状態である。この時タブtはタブひっかけ部6cの下側に配置されている。
【0028】
図5の中段は、回転途中段階を示しており、昇降用モータ5aの駆動力によって昇降用ギヤ5bが回転するとき、磁石m1、m2による磁気結合による吸引力Fが作用して昇降ディスク5cは、互いに反対方向に回転する。この時、昇降ディスク5cに取り付けられたタブtの位置も回転しながら上昇し、係止関係にあるタブひっかけ部6cを持ち上げ、結果としてトレイ6を持ち上げる。図5の下段は、回転後のトレイ6の最上位位置における関係を示している。
【0029】
以上述べた実施例1の調理器1によれば、調味液を食材に含侵し低圧状態で焼成する処理を小型の調理器内部で完結するとともに、取り外しが容易なことから清潔性を確保可能な調理器とすることができる。
【0030】
なお上記の例では、2組の昇降手段5、従って4組の昇降ディスク5cを用いて、トレイ6の水平を保った状態で昇降させることを示しているが、これは左右の昇降量に差をつけてトレイを傾かせるようにすることもできる。あるいは照り焼きを行う場合などには、調味液への含侵と持ち上げた状態での焼成を複数回繰り返すようにすることもできる。
【実施例2】
【0031】
実施例2では、本発明の実施例1で説明した調理器1を利用する調理器の制御方法について説明する。
【0032】
図9は、実施例1で説明した調理器1を利用する調理器の制御方法における一連の流れを示す図であり、調理器1における固有の構造であるトレイ6の昇降手段5を用いた一連の処理の流れを例示している。なおトレイの昇降手段5を用いた調理は、「焼き」と「蒸し」に利用可能である。図9では焼くことを例示している。
【0033】
なお、実施例2ではヒータ3として、蓋2aに取り付けた上ヒータ3aの他に、下カバー2bに取り付けた下ヒータ3bを備え、かつ調味液には酵素を含んで食材を柔らかく調理する機能を実現する場合の一連の流れを示している。なお温度センサ14は、下カバー2bの内部に取り付けられており、容器収納時に容器に接触して容器温度を計測する。
【0034】
この処理の段階Aでは、容器4とトレイ6を下カバー2b内にセットする。段階Bでは、食材(例えば肉)30と、酵素や調味液を容器内に投入する。段階Cでは器内圧力を例えば真空(0.6気圧)とし、酵素を食材に含侵させる。酵素を用いた調理によれば、食材30の組織の分解を速やかに行うことで、食材30を柔らかくすることができる。たとえば、たんぱく質の分解酵素であるプロテアーゼを用いれば、肉魚などの食材30を柔らかくすることができる。また段階Dでは、下ヒータ3bに通電しこれを用いて、低温(例えば40度~60度)に維持し、酵素反応が進行しやすい環境とする。なお、この時の温度は下カバー2bの内側に取り付けた温度センサ14により、例えば容器4の温度を検知する。またこの時の温度は使用する酵素が反応しやすい温度であり、酵素の種類により適宜設定可能とされるのがよい。例えば、食材30として肉魚を用い、酵素としてプロテアーゼを使用する場合は、40度~60度が酵素の活性が最適となる条件であるため、下ヒータの制御によって容器4内が40度~60度に維持するように設定する。なお、酵素は高温になると失活して食材30の分解を促進できないため、容器4内が高温にならないよう一定の温度帯を維持するように制御する。
【0035】
段階Eでは、調理器1における固有の構造であるトレイの昇降手段5を用いてトレイ6の位置を容器4内で上昇させ、調味液切りを行い、焼く処理の場合には蓋2aに取り付けた上ヒータ3aに通電しこれを用いて焼成処理を行う。なお、段階Eで蒸す処理を行うときには、調理器1における固有の構造であるトレイの昇降手段5を用いてトレイ6の位置を容器4内で上昇させ、調味液切りを行うところまでは焼成処理と同じであるが、蒸す処理の場合には下カバー2bに取り付けた下ヒータ3bに通電して、調味液の蒸発温度、圧力を利用して蒸す処理とする。その後所定の処理時間経過をもって、段階Fでは調理完了とする。
【0036】
図7は、上記処理を図6の制御器13において実行する場合の処理フローである。図7の処理は計算機の演算部を用いて行われるが、ここでの最初の処理ステップSt1では容器4とトレイ6を外箱2内に収納した状態でトレイ6に食材をセットし、調味液をかける。
【0037】
処理ステップSt2では、蓋2aを閉じて調理スタートし、トレイ下降状態において真空ポンプ11を起動し、真空引きを開始する。処理ステップSt3では、容器4内が設定圧力になったことを確認し、達していない場合には処理ステップSt4で真空引きを継続し、達した時には処理ステップSt5の処理に移る。なお、真空度が設定圧力に達したことの確認は、圧力センサの出力で確認することができるが、より簡便には真空引きを行っている時間が設定時間に到達したことでもって、真空に達したと推定して進めることもできる。
【0038】
処理ステップSt5では、真空引き終了をもって容器4内を常圧に復帰し、下ヒータ3bを通電し、温度センサ14が検知する温度が設定温度に達したことをもって、この設定温度での保温を開始する。処理ステップSt6では、保温時間が設定時間になったことを確認し、達していない場合には処理ステップSt5に戻って保温を継続し、達した時には処理ステップSt7の処理に移る。なおこの場合の保温時間は、食材30の厚さ、食材の量、あるいは酵素の種別などに応じて可変に設定できることが望ましい。
【0039】
処理ステップSt8では、設定時間経過するまで焼成処理を実行し、時間経過をもって処理ステップSt9における調理の完成と判断する。
【0040】
図8は、上記処理の流れを示すタイムチャートであり、4段階の処理に分けて記述している。第1段階S0は、トレイに食材をセットし、上から調味液をかけて予熱する状態であり、トレイ位置を上にした状態で圧力低下作業、下ヒータ予熱などの準備段階を表している。第2段階では温度センサが検知する容器温度をT1に保持し、食材を調味液に含侵させる。第3段階では、トレイを持ち上げ、焼き上げのために容器内を加熱する状態であり、第4段階では焼き上げを行う。
【実施例3】
【0041】
実施例3では、本発明の実施例1、実施例2で説明した調理器1を利用して、調味液の温度むらを改善することができる調理器について説明する。この実施例3では、咀嚼力が低下した人も食事を楽しめる調理器を提供するものである。
【0042】
咀嚼力が低下した人を考慮すると、食材全体が均一の柔らかさになるようにする必要があり、課題として、調味液内に温度勾配が有ると、食材の上方と下方で加熱履歴が異なり、仕上がりが変わってしまうという点、ならびに、酵素の効果が最大限発揮される温度帯は決まっていることを考慮する必要がある。
【0043】
このため実施例3では、図8の一連の焼成手順のうち、温度センサが検知する容器温度をT1に保持し、食材を調味液に含侵させる第2段階(図9の段階D)において、調味液の攪拌を行うものである。
【0044】
この場合に攪拌の手段としては種々のものが考えられる。これらの具体的な攪拌手段は、容器に振動を与えるものであり、超音波を利用するものであり、ここではその手段を限定するものではない。ただし、実際的な工夫としては、トレイ6が上下動できるものであることから、トレイ6の動きを利用した攪拌とするのが実際的である。なおトレイ6の動きは、全体を一様に上下動させるものであっても、また一部が動くとき、他の部分の動きとは相違する、いわばおみこしのような動かし方をさせるものであってもよい。
【0045】
図10は、調味液含侵段階(第2段階)における調味液攪拌処理例を示す図である。図10は、第2段階において加熱および保温する際に、容器内の調味液の温度むらを解消するためトレイ6を間欠的に昇降する制御を行う様子を示している。
【0046】
ここでヒータ3bは容器の下面に接して熱を伝えるため、溶液は下部から温められることになり、対流が発生して容器内の温度は均一に近づいていくが、トレイ6や食材30が溶液内に存在しているため、対流が起こりづらい場合がある。そのため、調味液及び食材に温度むらが発生するおそれがあり、調理の仕上がりのばらつき、熱の通りすぎ、部分的な過熱が発生する恐れがある。そのため、容器の加熱中および保温中に、トレイ6の昇降を繰り返し、調味液の攪拌を行う制御を行うことにより温度むらを軽減する。なお、トレイ6の昇降に、図5の機構を利用できることは言うまでもない。
【0047】
図11は、処理の流れを示すタイムチャートであり、図8のように4段階の処理に分けて記述しているが、第2段階S1以外は実施例1と同様である。第1段階S0は、トレイ6に食材をセットし、上から調味液をかけて予熱する状態であり、トレイ位置を上にした状態で圧力低下作業、下ヒータ予熱などの準備段階を表している。第2段階では温度センサが検知する容器温度をT1に保持し、食材を調味液に含侵させる。このとき、トレイの昇降を繰り返し、調味液の攪拌を行い容器内の温度むらを軽減する。第3段階では、トレイを持ち上げ、焼き上げのために容器内を加熱する状態であり、第4段階では焼き上げを行う。
【0048】
図12は、図11の各段階においてトレイ位置のみを拡大して示したタイムチャートである。第1段階S0では、トレイ6に食材をセットし、上から調味液をかけて予熱する状態であり、トレイ位置を上にした状態で圧力低下作業、下ヒータ予熱などの準備段階を表している。
【0049】
第2段階では温度センサが検知する容器温度をT1に保持し、食材を調味液に含侵させる。この時、トレイ位置を一定の幅B1で昇降を繰り返す。この例では、食材およびトレイが気中に露出せず、調味液中の中で昇降を繰り返すように幅B1を設定している。また、トレイ動作が上昇から下降に切り替わる時に調味液の跳ねを軽減するため、上昇速度と下降速度を比較すると上昇速度を遅く設定している。調味液の粘性が高い場合は、跳ねが起こりにくいが攪拌も起きにくいため、昇降幅B1を大きくし、またトレイ動作速度も速い設定が必要である。
【0050】
また、調味液の密度に近い密度の食材の場合、トレイの昇降に伴う水流によりトレイ上で動き回ってしまうことが考えられるため、トレイの動作速度を遅く設定する。トレイ速度の決定は、ユーザが調理コースを選択した後に調理コースに従って決定しても良いし、容器の重量を測定するセンサを搭載し、重量に従って決定しても良い。また、重量や調味液の粘性の検出に関しては、昇降を行う際の昇降モータ5aの負荷から検出してもよい。
第3段階では、トレイを持ち上げ、焼き上げのために容器内を加熱する状態であり、第4段階では焼き上げを行う。
【実施例4】
【0051】
実施例4では、実施例3を実行するのに適したトレイ構造について説明する。実施例1で説明した図3図4に例示のトレイ6に対し、攪拌を考慮すると実施例3の構造が有利である。なお、トレイ昇降に関する機構の適用については実施例1と全く同じものである。
【0052】
図13は、調味液攪拌に適したトレイ6の例を示す図である。ここでは、溶液をより良く攪拌するため、トレイ6に多数の穴6dを形成している。実施例1のトレイであっても攪拌は可能であるが、溶液がトレイ6と容器の隙間のみを通ることになるため、トレイ6の上下の溶液の入れ替わりが起こりづらく、また溶液の粘性によってはトレイ姿勢が不安定になり食材の偏りやトレイと容器すきまへの挟まりといった問題が起こる可能性がある。そのため、この例ではトレイ6に均一に開口部6dを配置し、水流がトレイ6を通過しやすい形状としている。
【0053】
図14a,図14bは、トレイ6の開口部6dの分布を端部方向に偏らせた例である。図14aによれば、中央部分に対し端部方向(図示では上下方向)に開口部6dを集中させると、トレイ6を調味液に沈める際に、トレイ6の開口部6dからの水流MIは、図14bに示すように端部の開口部6dを通過したあとに中央に集合するような挙動となる。この作用により、図14bのようにトレイ6上で端部方向(図示では左右方向)のいずれかに食材30が偏って配置されていた場合、水流MIに従って食材30が移動し、トレイ6上の食材の偏りをなくすことができる。
【0054】
図15a,図15bは、沈殿した調味料を用いた調理の様子を示している。沈殿系の調味料c1は水流が弱いと図15aのように容器6の底に沈殿する。これに対し、トレイを昇降させ調味液を攪拌することにより、図15bのように沈殿系の調味料c1を水底から巻き上げ、良くからませて仕上げることも可能である。沈殿系の調味料c1を食材の上に多くからませたい場合は、水底付近で小刻みに動かし、一定時間静止した後に低速にて上昇させ仕上げステップにはいることで沈殿系の調味料c1を食材30の上に沈殿させ、より多くの調味料c1を食材30に絡ませ仕上げることが可能である。
【実施例5】
【0055】
実施例5では、容器内温度管理をすることについて説明する。ここで述べる容器内温度とは、庫内の温度を高さ方向温度として検知するものである。具体的には、調味液温度の高さ方向分布であり、食材と調味液表面の温度差といった、庫内の熱が均等にいきわたり、食材のむらが生じない庫内環境になっていることを推定可能な温度管理を行うに好適なものである。
【0056】
この場合に、高さ方向温度を測定する手法としてはいくつかのものがあり、その一つの考え方は、高さ方向に移動する部分に温度センサを設置することである。図16はトレイ6に温度センサと温度センサ情報無線送信部を温度検知部S101として一体化して形成した例である。温度検知部S101は、温度センサS101と、温度センサ情報無線送信部として温度センサの情報を取得し適切なノイズ処理等を行うマイクロプロセッサ、無線送信部、マイクロプロセッサや無線送信部の電源であるバッテリとから構成されている。
【0057】
さらに、図6の容器1本体内にトレイ6で計測した温度情報を制御器13に伝達するための温度センサ情報無線受信部を追加し、トレイ6の温度を測定した後に無線で温度情報を送信する。溶液中に温度センサを浸らせることができるため、高精度な温度の測定ができ、温度むらの少ない温度管理が可能になる。
【0058】
図17もまた高さ方向に移動する部分に温度センサを設置したものである。図17では、昇降ディスク5cに温度センサと温度センサ情報無線送信部を温度検知部S102として一体化して形成した例である。温度検知部S101は、温度センサS101と、温度センサ情報無線送信部として温度センサの情報を取得し適切なノイズ処理等を行うマイクロプロセッサ、無線送信部、マイクロプロセッサや無線送信部の電源であるバッテリとから構成されている。
【0059】
さらに、図6の容器1本体内にトレイ6で計測した温度情報を制御器13に伝達するための温度センサ情報無線受信部を追加し、トレイ6の温度を測定した後に無線で温度情報を送信する。溶液中に温度センサを浸らせることができるため、高精度な温度の測定ができ、温度むらの少ない温度管理が可能になる。
【0060】
高さ方向温度を測定する他の考え方は、温度センサ自体は固定とし、非測定対象側を上下動させて、結果として高さ方向の情報として利用可能とするものである。図18は本体の蓋内面に非接触の温度センサを搭載した様子を示している。より高精度に食材の温度制御を行うため、非接触温度センサS103をフタの内面に搭載し、直接食材の温度を測定し制御にもちいることで、温度の精度を向上させることができる。
【0061】
非接触温度計は、例えば放射温度計用のようなものを用い、食材の温度のみを測定したい場合はトレイを上昇させ調味液から食材を露出させ測定を行う。また調味液の温度を測定したい場合は、トレイを下降させ、非接触温度センサが溶液表面のみの温度を検知可能なようにして測定する。冷凍した食材を解凍しつつ調理したい場合、調味液の温度と食材の温度を交互に測定しながら行うことで、食材表面のみ熱が通ってしまうことを防ぐことができる。
【実施例6】
【0062】
実施例6では、実施例5において温度センサにより測定した高さ方向温度を用いた制御について説明する。例えば調味液中における高さ方向の温度差が大きいときには、温度差により食材の過熱程度が相違することによる温度のむらが生じる恐れがあることから、図11の昇降速度或は昇降の繰り返し回数を可変とすることで改善を図ることができる。
【0063】
なお図18の場合に、調味液表面での温度と食材を上昇させてその表面温度を測定した時の温度差もまた高さ方向の温度差を測定したに等価なものであり、この場合にも温度差に応じた図11の昇降速度或は昇降の繰り返し回数を可変とすることで改善を図ることができる。
【符号の説明】
【0064】
1:調理器
2:外箱
2a:蓋
2b:下カバー
2c:回転結合部
3:ヒータ
4:容器
40:半円くぼみ
5:昇降手段
5a:昇降用モータ
5b:昇降用ギヤ
5c:昇降ディスク
6:トレイ
6a:かまぼこ部
6b:谷型部
6c:タブひっかけ部
6d:開口部
11:真空ポンプ
12:真空容器
13:制御器
14:温度センサ
15:インターフェイス機体側
16:インターフェイス
F:吸引力
m1、m2:磁石
t:タブ
S101,S102,S103:温度センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14a
図14b
図15a
図15b
図16
図17
図18