(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-23
(45)【発行日】2025-05-02
(54)【発明の名称】透明積層部材およびそれを用いたフェイスシールド
(51)【国際特許分類】
B32B 7/023 20190101AFI20250424BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20250424BHJP
C08F 290/06 20060101ALI20250424BHJP
【FI】
B32B7/023
B32B27/36
C08F290/06
(21)【出願番号】P 2021120221
(22)【出願日】2021-07-21
【審査請求日】2024-06-12
(31)【優先権主張番号】P 2020125681
(32)【優先日】2020-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】593135125
【氏名又は名称】日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100088801
【氏名又は名称】山本 宗雄
(72)【発明者】
【氏名】小林 和人
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 仁志
(72)【発明者】
【氏名】鋒山 翔太
(72)【発明者】
【氏名】岡田 拓磨
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/047568(WO,A1)
【文献】特開2005-330439(JP,A)
【文献】特開2019-142196(JP,A)
【文献】特開2006-249220(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C09D 1/00-201/10
C08F 283/01-299/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明樹脂基材層および透明硬化樹脂層が積層された透明積層部材であって、
前記透明積層部材の全光線透過率をTt1、濁度をHz1、反射率をR1とした場合に、
90%<Tt1<98%、
0.01%≦Hz1<2.0%、および
0.5%≦R1<5.0%
の関係を満足し、かつ
直径5cmの開口部を持つガラス容器に、蒸留水を水面から容器表面の高さが5cmとなるように入れた後、その温度を60℃に保ち、前記透明積層部材の硬化樹脂層側が水蒸気に触れる向きでそのガラス容器に蓋をした際、3秒間曇りが発生しないことを特徴とし、
前記透明硬化樹脂層を、6%次亜塩素酸溶液を染み込ませたコットンで単位面積当たり50gの加重条件下100往復の拭き取り試験を実施した後の透明積層部材の全光線透過率をTt2、濁度をHz2、反射率をR2とした場合に、
0≦|Tt1-Tt2|<1、
0≦|Hz1-Hz2|<2、および
0≦|R1-R2|<0.5
の関係を満たし、かつ直径5cmの開口部を持つガラス容器に、蒸留水を水面から容器表面の高さが5cmとなるように入れた後、その温度を60℃に保ち、前記透明積層部材の硬化樹脂層側が水蒸気に触れる向きでそのガラス容器に蓋をした際、3秒間曇りが発生しないことを特徴とする透明積層部材。
【請求項2】
前記
6%次亜塩素酸溶液を、3%過酸化水素溶液、70%エタノール溶液またはイソプロピルアルコール溶液に置き換えても同じく全光線透過率、濁度および反射率の関係を示す請求項1記載の透明積層部材。
【請求項3】
前記透明硬化樹脂層が2層からなり、
前記透明樹脂基材層に積層される第1層が2~10μmの厚さを有しかつその屈折率が
1.48~1.54を有し、
前記第1層に積層される第2層が70~130nmの厚さを有しかつその屈折率が1.36~1.42であることを特徴とする請求項1または2に記載の透明積層部材。
【請求項4】
前記透明樹脂基材が、ポリエステル系樹脂からなりかつその厚さが75~250μmであることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の透明積層部材。
【請求項5】
前記透明硬化樹脂層に、化学式:
【化1】
(化学式中、n、mおよびoは独立して整数を表し、n+m+o=12~24である。)
を有するアクリル変性イソシアヌレート(I)が含まれることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の透明積層部材。
【請求項6】
前記アクリル変性イソシアヌレート(I)が、透明硬化樹脂層を形成する樹脂中に樹脂固形分重量の65~95重量%の量で含有する請求項5記載の透明積層部材。
【請求項7】
請求項5または6記載の透明積層部材であって、当該硬化樹脂層に、水酸基または不飽和2重結合基のいずれか一方と、2官能以上の不飽和2重結合基と、を有する不飽和化合物(II)が樹脂成分の重量に基づいて5~35重量%の量で含まれ、かつ
前記不飽和化合物(II)が、以下の化学式:
【化2】
【化3】
【化4】
(化学式中、R、R
1およびR
2は、独立して水酸基または-OCO-CH=CH
2を表す。)
のいずれか一つを含有することを特徴とする透明積層部材。
【請求項8】
請求項3記載の透明積層部材であって、その第2層を成す硬化樹脂層に平均粒径35~70nmの中空シリカを固形分重量で35~65重量%の量で含有することを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載の透明積層部材。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の透明積層部材が用いられたフェイスシールド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明積層部材およびそれを用いたフェイスシールドに関する。
【背景技術】
【0002】
COVID19と呼ばれる新型コロナウイルスによる感染症は、地球規模で広がり、多くの人が感染している。この感染を避けるために、マスクの他に、フェイスシールドが着目されている。フェイスシールドは、
図1に記載するように、透明なプラスチック板の端部にスポンジを付けて、バンドによりスポンジ部分が頭部に当たって固定できるようにしたものである。透明なプラスチック板は通常PET板が用いられている。
【0003】
現在フェイスシールドは、値段も安く一日使用したら廃棄するタイプのものが用いられているが、プラスチックを廃棄することは地球環境によくなく、再利用することが求められている。しかし、PET板だけものは、繰り返し使用するために拭くと、傷がついて白くなり、視認性が悪くなる。また、アルコールや次亜塩素酸ナトリウムなどの薬品での拭き取り処理やそれらを触れた手で着脱する時に触れることがあるため、厳しい耐薬品性も要求される。更に、フェイスシールドは、呼気で曇らない防曇性が要求される。
【0004】
フェイスシールドの長期使用を達成するために、いわゆるハードコートと呼ばれる膜をPET板の上に形成することが行なわれるが、ハードコート層に防曇性を付与するには界面活性剤をハードコートに含ませればよい。しかし、界面活性剤の分子はハードコート層のマトリックス網目よりも小さくて、界面活性剤がブリードアウトしたり、ブルーミングと呼ばれる表面に析出する現象が生じたりする。従って、界面活性剤のブリードアウトやブルーミングが生じない防曇性を有するハードコートを有するPET板が望まれている。また、ハードコート層自体もある程度の親水性を有すると、曇りが発生しにくくなる。
【0005】
特許5985100号公報(特許文献1)には、低反射で透明性に優れた視認性、防曇性および払拭性に優れた透明積層体が記載されているが、低反射性は表面に形成した凹凸により達成されるものである。しかし、表面の凹凸はもろく、消毒やアルコールによるラビングで傷が発生する。
【0006】
特開2010-106282号公報(特許文献2)には、無機金属酸化物とシロキサンポリマーからなる反射防止特性および防曇特性を有するコーティング組成物が開示されている。この塗膜も、やはりアルコールや消毒薬剤によるラビングに十分な耐久性を有していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許5985100号公報
【文献】特開2010-106282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、フェイスシールドに用いるPET板に耐久性、耐薬品性および防曇性を付与することを可能にする透明性層部材を提供する。本発明の透明積層部材は、反射防止層を設けることも可能であり、フェイスシールドの長期使用を可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、本発明は以下の態様を提供する:
[1]透明樹脂基材層および透明硬化樹脂層が積層された透明積層部材であって、
前記透明積層部材の全光線透過率をTt1、濁度をHz1、反射率をR1とした場合に、
90%<Tt1<98%、
0.01%≦Hz1<2.0%、および
0.5%≦R1<5.0%
の関係を満足し、かつ
直径5cmの開口部を持つガラス容器に、蒸留水を水面から容器表面の高さが5cmとなるように入れた後、その温度を60℃に保ち、前記透明積層部材の硬化樹脂層側が水蒸気に触れる向きでそのガラス容器に蓋をした際、3秒間曇りが発生しないことを特徴とし、
前記透明硬化樹脂層を、6%次亜塩素酸溶液を染み込ませたコットンで単位面積当たり50gの加重条件下100往復の拭き取り試験を実施した後の透明積層部材の全光線透過率をTt2、濁度をHz2、反射率をR2とした場合に、
0≦|Tt1-Tt2|<1、
0≦|Hz1-Hz2|<2、および
0≦|R1-R2|<0.5
の関係を満たし、かつ直径5cmの開口部を持つガラス容器に、蒸留水を水面から容器表面の高さが5cmとなるように入れた後、その温度を60℃に保ち、前記透明積層部材の硬化樹脂層側が水蒸気に触れる向きでそのガラス容器に蓋をした際、3秒間曇りが発生しないことを特徴とする透明積層部材。
[2]前記
6%次亜塩素酸溶液を、3%過酸化水素溶液、70%エタノール溶液またはイソプロピルアルコール溶液に置き換えても同じく全光線透過率、濁度および反射率の関係を示す上記[1]の透明積層部材。
[3]前記透明硬化樹脂層が2層からなり、
前記透明樹脂基材層に積層される第1層が2~10μmの厚さを有しかつその屈折率が
1.48~1.54を有し、
前記第1層に積層される第2層が70~130nmの厚さを有しかつその屈折率が1.36~1.42であることを特徴とする[1]または[2]に記載の透明積層部材。
[4]前記透明樹脂基材が、ポリエステル系樹脂からなりかつその厚さが75~250μmであることを特徴とする[1]~[3]のいずれかに記載の透明積層部材。
[5]前記透明硬化樹脂層に、化学式:
【化1】
(化学式中、n、mおよびoは独立して整数を表し、n+m+o=12~24である。)
を有するアクリル変性イソシアヌレート(I)が含まれることを特徴とする[1]~[4]のいずれかの透明積層部材。
[6]前記アクリル変性イソシアヌレート(I)が、透明硬化樹脂層を形成する樹脂中に樹脂固形分重量の65~95重量%の量で含有する[5]の透明積層部材。
[7]上記[5]または[6]の透明積層部材であって、当該硬化樹脂層に、水酸基または不飽和2重結合基のいずれか一方と、2官能以上の不飽和2重結合基と、を有する不飽和化合物(II)が樹脂成分の重量に基づいて5~35重量%の量で含まれ、かつ
前記不飽和化合物(II)が、以下の化学式:
【化2】
【化3】
【化4】
(化学式中、R、R
1およびR
2は、独立して水酸基または-OCO-CH=CH
2を表す。)
のいずれか一つを含有することを特徴とする透明積層部材。
[8]上記[3]の透明積層部材であって、その第2層を成す硬化樹脂層に平均粒径35~70nmの中空シリカを固形分重量で35~65重量%の量で含有することを特徴とする[1]~[7]のいずれかに記載の透明積層部材。
[9]上記[1]~[8]のいずれかに記載の透明積層部材が用いられたフェイスシールド。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、透明積層部材が、透明樹脂基材と、その上に積層された透明硬化樹脂層とからなり、その透明積層部材の全光線透過率、濁度および反射率を測定したときに、それぞれが満たす数値範囲を特定し、しかもその透明硬化樹脂層を、6%次亜塩素酸溶液をはじめ、3%過酸化水素水溶液、70%エタノール溶液、70%IPA溶液を染み込ませたコットンで拭き取り試験をしたのちの透明積層部材の全光線透過率、濁度および反射率との差が特定の範囲内にあることを規定した。透明積層部材が上記規定の範囲内の特性を有していると、透明積層部材がフェイスシールドに使用可能な透明性、耐久性および耐薬品性を有する。しかも、上記透明硬化樹脂層が防曇性を付与する界面活性剤(以下、「防曇剤」という。)を含むと、それを積層した透明積層部材が防曇性を有する。この透明積層部材をフェイスシールドに用いると、耐久性、耐薬品性および防曇性を満足するものが得られる。
【0011】
上記透明硬化樹脂層に反射防止機能を持たせるために、2層構造とし、透明樹脂基材に接触する層を第1層、透明樹脂基材に接触しない層を第2層として、その第2層の表面で反射する光と、第2層を通過して第1層表面で反射する光との位相差を逆にして打ち消し合うようにすることができ、反射防止機能も付与することができる。
【0012】
本発明の透明硬化樹脂層(または反射防止層)は、アクリル変性の脂肪族ジイソシアネートのイソシアヌレートの架橋ポリマーから形成されると、それ自体にポリエチレングリコール鎖を有しているので、親水性を有しているので、曇りを発生しにくい機能を有している。また、本発明の透明硬化樹脂層は、防曇剤を透明硬化樹脂層(または反射防止層)のマトリックス内に保持する能力が高く、ブリードアウトやブルーミングが起こらないで、長期間防曇作用が発揮され、かつ耐久性の高い透明積層部材が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】本発明の透明積層部材の2層構造の場合の模式断面図である。
【
図3】本発明の透明積層部材の3層構造の場合の模式断面図である。
【
図4】実施例および比較例の耐擦傷性の5段階の評価基準を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の透明積層部材Aは、
図2に示すように、透明樹脂基材層1と、その上に形成された透明硬化樹脂層2との2層からなるもの、および第3図に記載するように透明硬化樹脂層2の上に更に反射防止層3を設けたものの2種類からなる。反射防止層3は、必要に応じて設けられる層であるが、例えばフェイスシールドに用いる場合には手で仕事をするときに反射像が存在すると手元が狂うことがあるので、反射防止層3を設ける方が好ましい。
【0015】
本明細書においては、数値の範囲を「a~b」と表すときには、特に指示しない限り「a以上でb以下」を表している。もちろん、後述するように、≦や<で数値範囲を表すときは、一般的に数学で用いている表記として扱う。
【0016】
本発明の透明積層部材Aは、透明積層部材Aの全光線透過率をTt1、濁度をHz1および反射率をR1とした場合、
90%<Tt1<98%、
0.01%≦Hz1<2.0%、および
0.5%≦R1<5.0%
の関係を満足し、かつ
透明硬化樹脂層2を、6%次亜塩素酸ナトリウム溶液を染み込ませたコットンで単位面積当たり50gの加重条件下100往復の拭き取り試験を実施した後の透明積層部材Aの全光線透過率をTt2、濁度をHz2、反射率をR2とした場合に、
0≦|Tt1-Tt2|<2、
0≦|Hz1-Hz2|<2、および
0≦|R1-R2|<0.5
の関係を満たすことを必要とする。
【0017】
本明細書において、「全光線透過率」とは、光が透過する割合を100分率で表したものであり、「濁度」とは、曇り度を示す指標である。測定には、日本電色工業社製のNDH4000を用い、D65光源および方法JISに設定の上、塗膜面を受光機側へ設置し全光線透過率及び平行光透過率を計測する。
ここで、拡散光透過率=全光線透過率 - 平行光透過率
濁度(Hz)=拡散光透過率/全光線透過率より算出される。
【0018】
本明細書において、「反射率」とは、規定の波長域において求めた分光反射率から算出され、塗膜表面に入射する日射に対する塗膜からの反射光束の比率を指す。反射率は、JIS K 5602に従い、全波長域(波長:380nm~780nm)において求められる。反射率は具体的に、日本電色工業社製のSD7000を用いて、実施例に示す条件で行われる。
【0019】
本発明では、上記全光線透過率とTt1%と表し、濁度をHz1%と表し、反射率をR1%と表すときに、その値が
90%<Tt1<98%、
0.01%≦Hz1<2.0%、および
0.5%≦R1<5.0%
の関係を満足しうる必要がある。全光線透過率は、高い方が透明性が優れているので、90%を超える値が必要であり、一方、100%に近い方が特性は優れるが、反射防止設計を取り入れても、98%を超える設計は現実的ではない。濁度Hz1は、通常少ない方が透明性が高いので、0.01%以上で、2.0%未満が必要であるが、好ましくは0.01~1.50%、より好ましく0.01~1.00%である。反射率R1は、高くない方が好ましく、0.5%以上で5.0%未満が必要であるが、好ましくは0.5~3.5%であり、より好ましくは0.5~2.5%である。
【0020】
本発明の透明積層部材Aは、更に、透明硬化樹脂層2を、6%次亜塩素酸溶液を染み込ませたコットンで単位面積当たり50gの加重条件下100往復の拭き取り試験を実施した後の透明積層部材Aの全光線透過率をTt2、濁度をHz2、接触角をC2、反射率をR2とした場合に、
0%≦|Tt1-Tt2|<1%、
0%≦|Hz1-Hz2|<2%、および
0%≦|R1-R2|<0.5%
の関係を満たすことを必要とする。この試験は、耐薬品性を測定するための試験であり、いろいろな薬品を用いて測定することができ、使用可能性の高い薬剤を選んで試験されるものであるが、本発明では次亜塩素酸ナトリウムを用いればフェイスシールドとして用いる時に好適であると判断した。6%次亜塩素酸ナトリウム溶液をコットンに染み込ませ、単位面積当たり50gの加重条件下100往復の拭き取り試験を行って、評価する。この次亜塩素酸ナトリウムでの拭き取り試験後の透明積層部材Aの全光線透過率をTt2、濁度をHz2および反射率をR2とした時に、この拭き取り試験前の値との差の絶対値を求めて、その値が上記範囲にあると、耐久性および耐薬品が高いと判断した。
【0021】
全光線透過率Ttの拭き取り試験前後の値の差の絶対値は、少ない方がよく、0%より高く、1%未満が必要で、好ましくは0~0.6%、より好ましくは0~0.3%である。濁度Hzの拭き取り試験前後の値の差の絶対値は、少ない方がよく、0%より高く、2%未満が必要で、好ましくは0~0.8%、より好ましくは0~0.3%である。また、反射率Rの拭き取り試験前後の値の差の絶対値は、少ない方がよく、0%より高く、0.5%未満が必要で、好ましくは0~0.4%、より好ましくは0~0.3%である。
【0022】
本発明の透明積層部材Aは、また防曇性を必要とする。防曇性は、直径5cmの開口部を持つガラス容器に、蒸留水を水面から容器表面の高さが5cmとなるように入れた後、その温度を60℃に保ち、前記透明積層部材Aの透明硬化樹脂層2側が水蒸気に触れる向きでそのガラス容器に蓋をした際、曇りが発生するかどうかで測定し、本発明の透明積層部材Aはその条件下で3秒間曇りが発生しないことを必要とする。防曇性は、曇りが発生しない時間が長い方が優れているのであるが、通常3秒間曇りが発生しなければ高い防錆性を有するものと判断される。
【0023】
本発明では、前述の6%次亜塩素酸溶液を用いる拭き取り試験の後も、前述の高い防錆性を保持しているのが好ましい。
【0024】
本発明では、更に、前記の6%次亜塩素酸溶液での拭き取り試験を、70%イソプロピルアルコール溶液、3%過酸化水素水溶液または70%エタノール溶液に置き換えて、拭き取り試験を行ってもよく、それらの溶液を用いた試験でも、上記同じ範囲内の全光線透過率、濁度および反射率の関係を示す必要がある。ここで「溶液」とは、全て水溶液であり、例えば3%過酸化水素水溶液は、過酸化水素水を3重量%含む水溶液である。
【0025】
本発明では、
図3に示すように、透明硬化樹脂層2の上に反射防止層3を設けてもよい。反射防止層3は、透明樹脂基材1に接触する層(透明硬化樹脂層2)を第1層、接触しない層(反射防止層3)を第2層として、その第2層の表面で反射する光と、第2層を通過して第1層表面で反射する光との位相差を逆にして打ち消し合うようにすると反射が防止される。要するに反射防止機能は、透明硬化樹脂層2(第1層)の厚さと屈折率、反射防止層3(第2層)の厚さと屈折率に依存するものであり、本発明では第1層が2~10μmの厚さを有しかつその屈折率が1.48~1.54を有し、第1層に積層される第2層が70~130nmの厚さを有しかつその屈折率が1.36~1.42であることを必要とする。
【0026】
反射防止層3は、前述ように、厚さと屈折率で決定するもので、使用する樹脂で屈折率は決定するので、その屈折率を変更するために樹脂層の透明性に影響を与えないで、屈折率を変更する材料を添加して屈折率を変更することが行なわれる。本発明の好ましい態様では、上記透明硬化樹脂層2と反射防止層3は後述する同じ材料で形成されるので、反射防止層3に屈折率を変更するための透明性の高い無機粒子、例えば平均粒径35~70nmの中空シリカを配合することが一般的である。本発明では、反射防止層3に平均粒径35~70nmの中空シリカが固形分重量比35~65重量%の量で配合されるのが好ましい。
【0027】
本発明の透明積層部材は、
図2および
図3に記載するように、透明樹脂基材1、透明硬化樹脂層2および必要に応じて反射防止層3からなり、透明樹脂基材1は一般的にポリエステル樹脂、特にいわゆるPET樹脂(ポリエチレンテレフタレート樹脂)が用いられる。ポリエステル樹脂以外の樹脂、例えばポリオレフィン樹脂(例えば、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂)、ポリアミド樹脂等を用いてもよいが、透明性や汎用性等を考慮してポリエステル樹脂、特にPET樹脂が好適に用いられる。透明樹脂基材1は、厚さ75~250μm、好ましくは75~188μm、より好ましくは100~125μmである。250μmより厚くても構わないが、フェイスシールドのように多少を曲げて使用する場合には、厚すぎると曲げて使用することができなくなる。また、厚さが薄すぎると、逆に強度が不足する。
【0028】
本発明の透明硬化樹脂層2と反射防止層3とは、同じ材料で構成するのが好ましく、いわゆるハードコートに用いられる樹脂を使用することができるが、防曇性を付与するために防曇剤を樹脂層に含ませることから、ブリードアウトやブルーミングが生じないポリマー材料を用いるのが好ましく、本発明ではアクリル変性の脂肪族ジイソシアネートのイソシアヌレートをモノマーと使用して、透明硬化樹脂層2または反射防止層3を得ている。以下、透明硬化樹脂層というときは、反射防止層が同じ材料から形成されている場合を含む。
【0029】
アクリル変性の脂肪族ジイソシアネートのイソシアヌレートは、化学式的には以下のように表すことができる:
【化5】
(化学式中、n、mおよびoは独立して整数を表し、n+m+o=12~24である。)
【0030】
このモノマーは、ヘキサメチレンジイソシアネートの片方のイソシアネート基を、エチレングリコールと反応し、更に水酸基を有する末端をアクリル酸で封止したものを形成し、残るもう一方のイソシアネート基の部分をイソシアヌレート化して形成したものである。このモノマーを通常の不飽和二重結合の重合に用いる重合開始剤、特に光重合開始剤と共に上記透明樹脂基材上に塗布して硬化すると、3次元架橋した透明のフィルム、特にハードコート層が形成される。この透明硬化樹脂層は後述する防曇剤をポリマーマトリックスで保持することが可能であり、防曇性の材料を形成するのに優れている。
【0031】
上記、アクリル変性イソシアヌレート(I)の化学式中、n、mまたはoは、エチレングリコールの付加数を意味し、n+m+oは、12~24の整数を表す。n+m+oは、好ましくは16~24、より好ましくは18~24である。12より低いエチレングリコールの付加数では、高い防曇性が難しくなる。
【0032】
本発明で使用するアクリル変性イソシアヌレート(I)は、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート3量体と、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートとを反応することにより、製造することができる。ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートは、ポリエチレングリコールの結合数によって種々の分子量のものが存在し、日本油脂株式会社からブレンマーの商標で種々の物が市販されているので、アクリル変性イソシアヌレート(I)のn、mおよびoの合計数(n+m+o)は使用するポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートの種類によって調整することが可能である。
【0033】
本発明の透明硬化樹脂層は、上記アクリル変性イソシアヌレート(I)のみを構成成分として、硬化して樹脂成分としてもよいが、通常、水酸基または不飽和2重結合基のいずれか一方と、2官能以上の不飽和2重結合基と、を有する不飽和化合物(II)が樹脂成分の重量に基づいて0~35重量%の量で含まれるのが好ましい。この不飽和化合物(II)は、水酸基を一つと、不飽和2重結合基を二つ以上の化合物あるいは、全て不飽和2重結合基である場合には3つ以上存在するものを使用することができる。水酸基は、親水性を保つ目的で、少しは必要であり、不飽和2重結合基は架橋のために必要であり、その両方を有しているものと、不飽和2重結合基だけの場合は3官能以上有しているものが使用できる。その使用量は、樹脂成分の重量に基づいて、0~35重量%であるが、好ましくは5~25重量%、より好ましくは5~20重量%である。
【0034】
<不飽和化合物(II)>
上記不飽和化合物(II)は、水酸基または不飽和2重結合基のいずれか一方と、2官能以上の不飽和2重結合基と、を有するものであるが、具体的には以下の化学式:
【化6】
【化7】
【化8】
(化学式中、R、R
1およびR
2は、独立して水酸基または-OCO-CH=CH
2を表す。)
を有するモノマー化合物(II-a)~(II-c)である。
【0035】
このモノマー化合物(II-a)は、エチレンジイソシアネートのイソシアヌレートで、エチレンジイソシアネートの片末端をアクリル酸で全部封止したもの、あるいは3つの内一つのOH基をそのまま残したものである。このようなモノマー化合物(II-a)は、市販されていて、Rが水酸基のものと、Rがアクリル末端のものと、の混合物で存在する。この混合物としてのモノマー化合物(II-a)を用いると、得られた透明硬化樹脂層が適度な親水性と、耐久性、耐薬品性、防曇性および反射防止性を有するものが得られる。本発明では、モノマー化合物(II-a)のように、イソシアヌレート環を有する化合物が耐久性等の性能の為に必要なのではないかと思われる。従って、水酸基または不飽和2重結合基のいずれか一方と、2官能以上の不飽和2重結合基を、と有する不飽和化合物(II)としては、現時点では、上記モノマー化合物(II-a)が最も好適である。
【0036】
上記モノマー化合物(II-b)および(II-c)は、同じく、不飽和化合物(II)に該当するモノマーであり、特に有用なものである。これらは、多価アルコール化合物のアルコール末端をアクリル酸で全部封したもの、または水酸基を一つ残したものであり、R1やR2が水酸基または-OCO-CH=CH2のいずれかを表す。モノマー化合物(II-b)や(II-c)は、共に市販されているものがあり、共にR1やR2が水酸基のものと、Rがアクリル末端のものと、の混合物で存在する。これらも有効に使用し得る。
【0037】
前述のように、不飽和化合物(II)として使用するモノマー化合物(II-a)~(II-c)は、通常2種類のモノマーの混合物として提供され、そのモノマー種はR(R1およびR2を含む。)が水酸基のものとRがアクリル末端のものが含まれていて、Rが水酸基のものの比率が、モノマー化合物(II)の全量の1~50重量%、好ましくは3~40重量%である。Rが水酸基のものが無くてもよいが、親水性が不足する傾向にある。
【0038】
透明硬化樹脂層を形成する際には、上記アクリル変性イソシアヌレート(I)を全モノマーの固形分重量の65~100重量%の量で含有し、上記不飽和化合物(II)を、組成物中の樹脂成分の重量に基づいて0~35重量%の量で、含まれるのが好ましい。好ましくは、上記アクリル変性イソシアヌレート(I)が樹脂成分の重量に基づいて75~95重量%、より好ましくは80~95重量%である。上記不飽和化合物(II)は、100重量%からアクリル変性イソシアヌレート(I)を除いた量で配合する。上記アクリル変性イソシアヌレート(I)が樹脂成分の重量に基づいて65重量%より少ないと、硬化膜を形成した時に防曇性が不足する。アクリル変性イソシアヌレート(I)が樹脂成分の重量に基づいて100重量%でも使用可能であるが、耐薬品性等のより優れた性能を得るときには、不飽和化合物(II)を含めて、性能の制御をした方がよい。
【0039】
<光重合開始剤>
上記アクリル変性イソシアヌレート(I)と必要に応じて不飽和化合物(II)との組合せは、光重合開始剤と組み合わせることにより紫外線硬化性とする。光重合開始剤としては、光照射により活性種としてラジカルを発生することができるものであればよく、公知のラジカル光重合開始剤を、何ら制限なく用いることができる。具体例としては、例えば、ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、ベンジルジメチルケタール、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-メチル-2-モルホリノ(4-チオメチルフェニル)プロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)ブタノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパノンオリゴマー、2-ヒロドキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン等のアセトフェノン類;1,2-オクタンジオン、1-[4-(フェニルチオ)-,2-(O-ベンゾイルオキシム)]、エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(0-アセチルオキシム)等のオキシムエステル類;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾイン類;ベンゾフェノン、o-ベンゾイル安息香酸メチル、4-フェニルベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4′-メチル-ジフェニルサルファイド、3,3′,4,4′-テトラ(t-ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、2,4,6-トリメチルベンゾフェノン、4-ベンゾイル-N,N-ジメチル-N-[2-(1-オキソ-2-プロペニルオキシ)エチル]ベンゼンメタナミニウムブロミド、(4-ベンゾイルベンジル)トリメチルアンモニウムクロリド等のベンゾフェノン類;2-イソプロピルチオキサントン、4-イソプロピルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン、1-クロロ-4-プロポキシチオキサントン、2-(3-ジメチルアミノ-2-ヒドロキシ)-3,4-ジメチル-9H-チオキサントン-9-オンメソクロリド等のチオキサントン類;2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチル-ペンチルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド等のアシルフォスフォンオキサイド類;等が挙げられる。また、光重合開始剤の助剤として、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、4,4′-ジメチルアミノベンゾフェノン(ミヒラーケトン)、4,4′-ジエチルアミノベンゾフェノン、2-ジメチルアミノエチル安息香酸、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸(n-ブトキシ)エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、4-ジメチルアミノ安息香酸2-エチルヘキシル、2,4-ジエチルチオキサンソン、2,4-ジイソプロピルチオキサンソン等を併用してもよい。以上の光重合開始剤および助剤は、公知の方法で合成可能であり、市販品として入手も可能である。
【0040】
光重合開始剤の含有量は、ラジカル重合性化合物の重合反応(ラジカル重合)を良好に進行させる範囲で適宜調整すればよく、特に限定されるものではない。上記組成物に含まれる重合性化合物(上記アクリル変性イソシアヌレート(I)および必要に応じて上記不飽和化合物(II)との組合せ)100重量部に対して、例えば0.1~20重量部の範囲であり、好ましくは0.5~10重量部、より好ましくは1~10重量部の範囲である。
【0041】
上記アクリル変性イソシアヌレート(I)と必要に応じて不飽和化合物(II)との組合せは、溶剤と共に基材上に塗布して、紫外線を照射すると紫外線硬化して、透明硬化樹脂層を形成する。厚さは、特に限定的ではないが、使用用途に応じて変更することができ、透明硬化樹脂層の場合、厚さ2~10μm、好ましくは4~8μmであり、反射防止層として使用する時には、厚さは70~130nm、好ましくは80~120nmである。
【0042】
<その他>
本発明の透明硬化樹脂層は、防曇剤(防曇性を付与する界面活性剤)を含んでも良い。防曇剤を含むと、透明硬化樹脂層が高い防曇性を有する。防曇剤は、通常透明硬化樹脂層のポリマーマトリックスよりも分子的に小さく、ブリードアウトやブルーミングという現象を起こしやすい。上記のアクリル変性イソシアヌレート(I)を用いると、防曇剤のブリードアウトやブルーミングが発生してもベースのマトリックス自体が防曇性を有する長期間使用しても防曇性を消失しない。
【0043】
防曇剤としては、アニオン性、カチオン性、非イオン性、または両性の界面活性剤が使用でき、例えば、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノミリステート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノベヘネート、ソルビタンとアルキレングリコールの縮合物と脂肪酸とのエステルなどのソルビタン系界面活性剤;グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノラウレート、ジグリセリンモノパルミテート、グリセリンジパルミテート、グリセリンジステアレート、ジグリセリンモノパルミテート/モノステアレート、トリグリセリンモノステアレート、トリグリセリンジステアレート、またはこれらのアルキレンオキシド付加物などのグリセリン系界面活性剤;ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリエチレングリコールモノパルミテート、ポリエチレングリコールアルキルフェニルエーテルなどのポリエチレングリコール系界面活性剤;トリメチロールプロパンモノステアレートなどのトリメチロールプロパン系界面活性剤;ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレートなどのペンタエリスリトール系界面活性剤;アルキルフェノールのアルキレンオキシド付加物;ソルビタン/グリセリンの縮合物と脂肪酸とのエステル、ソルビタン/アルキレングリコールの縮合物と脂肪酸とのエステル;ジグリセリンジオレートナトリウムラウリルスルフェート、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、ドデシルアミン塩酸塩、ラウリン酸ラウリルアミドエチルリン酸塩、ヨウ化トリエチルセチルアンモニウム、オレイルアミノジエチルアミン塩酸塩、ドデシルピリジニウム塩など、およびそれらの異性体が挙げられる。防曇剤が硬化性モノマーまたは硬化性オリゴマーと反応する官能基を有してもよい。
【0044】
防曇剤の添加量として、例えば、光重合開始剤や硬化性モノマー(アクリル変性イソシアヌレート(I)および必要に応じて不飽和化合物(II)の組合せ)の合計100重量部に対して0.01重量部~20重量部(いくつかの実施形態では、0.1重量部~15重量部、または0.2重量部~10重量部)の範囲が挙げられる。
【0045】
本発明の透明硬化樹脂層には、塗工作業性を補完する為の添加剤を配合しても良い。本発明では、親水性だけでなく吸水性も発揮する為、シリコン系の表面調整剤を含んでもその防曇性を損なうことがない。但し、ブリードアウト等を考慮すると、不飽和二重結合を含有する表面調整剤を選定することが好ましく、その配合量も少ないことが好ましい。具体的にはBYK-UV3570を樹脂固形分比にて0.01~0.03重量部配合することで、塗工作業性を大きく向上させながら、防曇性、またその耐久性に影響を与えない硬化膜を得ることができる。
【0046】
本発明の反射防止層(第2層)3は、上述のように、70~130nmの厚さを有しかつその屈折率が1.36~1.42であることを必要とする。反射防止層3は、上記透明硬化樹脂層2と同じ材料で形成され、防曇性を付与するために防曇剤を含むものである。その場合、膜厚は塗布時に変更することができるが、屈折率は既に述べたように、透明性の高い無機粒子、例えば平均粒径35~70nmの中空シリカを配合することが一般的である。中空シリカの平均粒径は、製膜する膜厚より小さいことが好ましく、更に好ましくは製膜する膜厚の75%以下である。反射防止層3への配合量は、添加量が多い程屈折率が低下し反射防止性を高めるが、樹脂物性を損なう為に、70%以上の充填量は好ましくない。
【0047】
本発明の透明積層部材は、
図2に記載するように、2層構造あるいは
図3に記載するように3層構造を有してもよいが、本発明の透明積層部材を
図1のフェイスシールドとして用いる時には、
図3のように、透明硬化樹脂層2の上に反射防止層3を設けた態様が好ましく、この態様でフェイスシールドを形成すれば、長期間繰り返して使用可能であり、その際には布に溶剤や薬剤を染み込ませて拭き取って、或いは6%次亜塩素酸溶液や3%過酸化水素水溶液でウイルス除去(除菌)をして何度も使用可能であり、防曇性も長期間保持し続ける機能を有し、現状1回使用で廃棄しているフェイスシールドの欠点を大きく改善することができる。また、反射防止層3も耐久性および耐薬品性の高いので、長期間反射防止機能が継続し、手作業もやり易いフェイスシールドとして使用できる。
【実施例】
【0048】
本発明を実施例により更に詳細に説明する。本発明はこれら実施例に限定されるものと解してはならない。
【0049】
合成例1(エチレングリコールユニット24モル:ブレンマーPE350使用)
攪拌装置および空気の吹き込み管を備えた3Lセパラブルフラスコに、下記の3つの原料を仕込む。
・ヘキサメチレンジイソシアネートのヌレート型三量体を主成分とするイソシアネート化合物〔旭化成ケミカルズ(株)製デュラネートTPA-100、NCO含有量23%。〕1369.5g(NCO7.5モル)
・2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール(以下、「BHT」という。)2.30g
・ジブチルスズジラウレート(以下、「DBTL」という。)1.35g
液温を50~70℃で攪拌しながら、ブレンマーPE-350を3180g(7.5モル)滴下した。滴下終了後、80℃で4時間攪拌し、反応生成物のIR(赤外吸収)分析でイソシアネート基が消失していることを確認して反応を終了し、イソシアヌル環含有ウレタン(メタ)アクリレート化合物(本発明のアクリル変性イソシアヌレート(I)に相当)を得た。
【0050】
合成例2(エチレングリコールユニット13~14モル:ブレンマーPE200を使用)
攪拌装置および空気の吹き込み管を備えた3Lセパラブルフラスコに、下記の3つの原料を仕込む。
・ヘキサメチレンジイソシアネートのヌレート型三量体を主成分とするイソシアネート化合物〔旭化成ケミカルズ(株)製デュラネートTPA-100、NCO含有量23%。〕1369.5g(NCO7.5モル)
・BHT 1.70g
・DBTL 1.03g
液温を50~70℃で攪拌しながら、ブレンマーPE-200を2025g(7.5モル)滴下した。滴下終了後、80℃で4時間攪拌し、反応生成物のIR(赤外吸収)分析でイソシアネート基が消失していることを確認して反応を終了し、イソシアヌル環含有ウレタン(メタ)アクリレート化合物(本発明のアクリル変性イソシアヌレート(I)に相当)を得た。
【0051】
合成例3(エチレングリコールユニット6モル:ブレンマーPE90を使用)
攪拌装置および空気の吹き込み管を備えた3Lセパラブルフラスコに、下記の3つの原料を仕込む。
・ヘキサメチレンジイソシアネートのヌレート型三量体を主成分とするイソシアネート化合物〔旭化成ケミカルズ(株)製デュラネートTPA-100、NCO含有量23%。〕1369.5g(NCO7.5モル)
・BHT 1.30g
・DBTL 0.81g
液温を50~70℃で攪拌しながら、ブレンマーPE-90を1200g(7.5モル)滴下した。滴下終了後、80℃で4時間攪拌し、反応生成物のIR(赤外吸収)分析でイソシアネート基が消失していることを確認して反応を終了し、イソシアヌル環含有ウレタン(メタ)アクリレート化合物(本発明のアクリル変性イソシアヌレート(I)には相当しない)を得た。
【0052】
実施例1
合成例1で準備したアクリル変性イソシアヌレート(I)を65重量部、アロニックスM-313(東亜合成製)を35重量部、光重合開始剤としてOMNIRAD 184Dを4重量部、溶媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテルを240重量部秤り取り、容器内で攪拌し、固形分濃度約30%のハードコート溶液1を作成した。ハードコート溶液1をバーコーター#9を用いてPETフィルム(125μm/東レ製U-34)に塗工した後、80℃のオーブンで1分間乾燥し、その後紫外線照射機(アイグラフィックス製/高圧水銀灯)にて350mJ照射し、膜厚5μmのハードコートフィルムを得た。表1には、樹脂の組成比、PETフィルム(基材)の膜厚、得られたハードコートフィルムの膜厚等を記載した。尚、表中のM-313は商品名「アロニックス」の記載を省いたものだが、下記に使用したM-313に含まれる化合物の化学式等を記載する。
【0053】
M-313の化学式
【化9】
(上記式中、Rは水酸基または-OCO-CH=CH
2を表す。)
M-313は、Rが水酸基の化合物を30~40%含み、Rが-OCO-CH=CH
2の化合物を60~70%含む混合物で提供される。
【0054】
他の実施例や比較例に使用した不飽和化合物(II)の種類をここに例示する。
M-315の化学式
【化10】
(上記式中、Rは水酸基または-OCO-CH=CH
2を表す。)
M-315は、Rが水酸基の化合物を3~13%含み、Rが-OCO-CH=CH
2の化合物を87~97%含む混合物で提供される。
【0055】
M-402の化学式
【化11】
(式中、R
1は水酸基または-OCO-CH=CH
2を表す。)
【0056】
M-305の化学式
【化12】
(式中、R
2は水酸基または-OCO-CH=CH
2を表す。)
【0057】
UN3320-HS
アートレジン UN3320-HS(根上工業(株)製)
UN3320-HA
アートレジン UN3320-HA(根上工業(株)製)
M-220
アロニックス M-220(東亜合成製)
M-240
アロニックス M-240(東亜合成製)
M-350
アロニックス M-350(東亜合成製)
M-360
アロニックス M-360(東亜合成製)
M-309
アロニックス M-309
【化13】
【0058】
得られたハードコートフィルムの防曇性評価(3秒曇り評価)、濁度(Hz)および全光線透過率(Tt)、最表層塗膜屈折率および反射率(R)を以下に記載の方法で測定し、初期特性として、表3に記載した。これらはHz1、Tt1、R1に相当する。
【0059】
防曇性評価(3秒曇り評価)
直径5mmの開口部をもった高さ10cmのガラス容器にイオン交換水を高さ5cmとなるように加え、ホットマグネットスターラーにて100rpmでの攪拌しつつ60℃に温度を保持する。得られたフィルムのハードコートフィルムの面がガラス容器に設置する方向で蓋をし、その瞬間から3秒後に蒸気による曇りがないかを観察し、以下基準にそって判定した。
○ : まったく曇りがない。
○△: 極めて軽微な曇りが視認される
△ : 僅かに曇りが視認される。
△×: 曇りが視認される
× : はっきりと曇る。
【0060】
濁度(Hz)および全光線透過率(Tt)の測定
測定には、日本電色工業社製のNDH4000を用い、D65光源および方法JISに設定の上、ハードコートフィルム面を受光機側へ設置し、全光線透過率および平行光透過率を計測した。
拡散光透過率 = 全光線透過率(Tt) - 平行光透過率
濁度(Hz) = 拡散光透過率/全光線透過率
より算出される。
【0061】
屈折率
アタゴ社製のアッペ屈折計DR-M2を用い、D線589nmでの屈折率を測定した。試験フィルムはプリズム面の上にセットし、中間液は1-ブロモナフタレンを使用した。
【0062】
反射率の評価
(測定の準備)
評価サンプルのハードコートフィルム面反対側に帝国インキ製黒色インキを、バーコーターを用いて塗布し、80℃にて30分乾燥させ、15μmの黒色印刷層を設ける。
(反射率の測定)
評価サンプルのハードコートフィルム面側から、SCI方式にて反射率を測定した。
測定には、日本電色工業社製のSD7000を用い、測定波長領域を380nm以上780nm以下とし、550nmの値を反射率とした。
【0063】
実施例1で得られたハードコートフィルムについて、6%次亜塩素酸、3%過酸化水素水溶液、70%エタノール溶液および70%IPAによる耐久性試験後に、上記の3秒後曇り評価、濁度、全光線透過率、擦り傷性および反射率を測定し、結果を表3に示す。耐久性試験は以下のように行った。
【0064】
耐久性の評価
(消毒液の準備)
6%次亜塩素酸溶液(市販品)、
3%過酸化水素水溶液(市販品/オキシドール)、
70%エタノール溶液(エタノールをイオン交換水にて70%の濃度になるように希釈)、
70%IPA溶液(イソプロパノール(IPA)をイオン交換水にて70%の濃度になるように希釈)
(ラビング試験機)
大栄科学精機製作所製 平面摩耗試験機 PA-300A
(ラビング試験)
2cm角となるように摩耗試験機端子にベンコットンを設置し、消毒液を4ml染み込ませ、15cm/secの速さで摩耗試験を実施した。荷重は200gであり、単位面積当たり50g荷重とした。
摩耗試験20往復毎にベンコットンを取り換え、また消毒液を再度4ml染み込ませ、再度摩耗試験を実施する手順にて合計100往復の摩耗試験を行った。
【0065】
(試験後の評価)
耐擦傷性:試験後のサンプルについた傷の尺度を
図4に記載の評点基準に応じて5段階判定で評価し、結果を表3に記載する。
また、ラビング試験後の防曇性、反射率、全光線透過率および濁度を上記手順で測定して、Hz2、Tt2およびR2として得て、初期特性との差を計算して、表3に記載する。
【0066】
実施例2~9
表1に記載するアクリル変性イソシアヌレート(I)、不飽和化合物(II)を用いる以外は、実施例1と同様に、ハードコートフィルムを得た。その後、実施例1と同様に、上記各評価を行い、結果を表3に記載する。
【0067】
実施例10
合成例1で準備したアクリル変性イソシアヌレート(I)を1.80重量部、アロニックスM-313(東亜合成製)を0.45重量部、光重合開始剤としてOMNIRAD 184Dを0.10重量部、屈折率調整剤としてスルーリア4320(日揮触媒化成製/固形分濃度20%)を13.75重量部、溶媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテルを154重量部秤り取り容器内で攪拌し、固形分濃度約3%の低屈ハードコート溶液13を作成した。低屈ハードコート溶液13の配合を表1の実施例13の2層目の欄に記載した。表1には同時に、屈折率調整剤や2層目の膜厚についても記載した。
【0068】
実施例1のハードコート溶液4をバーコーター#9を用いてPETフィルム(125μm/東レ製U-34)に塗工した後、80℃のオーブンで1分間乾燥し、その後紫外線照射機(アイグラフィックス製/高圧水銀灯)にて200mJ照射し、膜厚5μmのハードコートフィルム4を得た。
【0069】
そのハードコートフィルム4上に、バーコーター#4を用いて、低屈ハードコート溶液13を塗工した後、80℃のオーブンで1分間乾燥し、その後紫外線照射機(アイグラフィックス製/高圧水銀灯)にて350mJ照射し、膜厚5μmのハードコートフィルム上に膜厚100nmの低屈層が積層されたハードコートフィルム13を得た。
【0070】
得られた低屈折層が積層されたハードコートフィルム13について、実施例1と同様に、各評価を行い、結果を表3に記載する。
【0071】
実施例11~17
表1に記載した内容で、上記実施例10と同様に、低屈折層が積層されたハードコートフィルムを得た。実施例1と同様に各評価を行い、結果を表3に記載する。
【0072】
比較例1~13
表2に記載の1層目または2層目の組成を用いて、実施例1と同様に、ハードコートフィルムを形成した。実施例1と同様に、各評価を行い、結果を表4に記載する。
【0073】
比較例1および2では、アクリル変性イソシアヌレート(I)の使用量が、所定範囲から外れていて、防曇性が不足している。比較例3は、使用しているアクリル変性イソシアヌレート(I)のポリエチレングリコールの量が不足しているもの(合成例3)を使用しているので、やはり、吸水性が少なく、防曇性が不足している。比較例4~8は、不飽和化合物(II)以外の不飽和化合物を使用しているので、防曇性が不足している。比較例9~12は、アクリル変性イソシアヌレート(I)を用いていない例で、硬化しないので、性能評価も出来なかった。比較例13は、本発明の透明硬化樹脂層ではない、一般的に用いられているハードコート層と防曇剤との組合せで、初期特性は満足するが、連続使用に耐えるものではない。
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】