(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-23
(45)【発行日】2025-05-02
(54)【発明の名称】積層電子部品
(51)【国際特許分類】
H01G 4/30 20060101AFI20250424BHJP
【FI】
H01G4/30 201K
H01G4/30 512
(21)【出願番号】P 2021145969
(22)【出願日】2021-09-08
【審査請求日】2024-04-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】井口 俊宏
(72)【発明者】
【氏名】永島 義崇
(72)【発明者】
【氏名】奥井 保弘
(72)【発明者】
【氏名】石津谷 正英
(72)【発明者】
【氏名】日高 優貴
【審査官】小南 奈都子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-107413(JP,A)
【文献】特開2006-137073(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の誘電体層と、
前記複数の誘電体層と交互に積層された複数の電極層と、を備え、
前記複数の誘電体層についての任意の複数の箇所における前記誘電体層の厚さの分布の歪度は、0.2以上である、積層電子部品。
【請求項2】
前記分布の歪度は、0.6以下である、請求項1に記載の積層電子部品。
【請求項3】
前記分布の尖度は、3.2以上である、請求項1又は2に記載の積層電子部品。
【請求項4】
前記分布の尖度は、5.0以下である、請求項3に記載の積層電子部品。
【請求項5】
前記複数の誘電体層の厚さの平均値は、0.4μm以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の積層電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、積層電子部品の一種である積層セラミックコンデンサが記載されている。特許文献1に記載された積層セラミックコンデンサは、誘電体層と内部電極層とが交互に積層されて構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような積層電子部品には、信頼性を高めるために、高温負荷寿命を向上することが求められる。また、クラックの発生を抑制することが併せて求められる。
【0005】
そこで、本発明は、高温負荷寿命を向上することができると共に、クラックの発生を抑制することができる積層電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の積層電子部品は、複数の誘電体層と、複数の誘電体層と交互に積層された複数の電極層と、を備え、複数の誘電体層についての任意の複数の箇所における誘電体層の厚さの分布の歪度は、0.2以上である。
【0007】
この積層電子部品では、複数の誘電体層についての任意の複数の箇所における誘電体層の厚さの分布の歪度が、0.2以上となっている。これにより、厚さの分布が左側(薄い側)に偏った分布となり、薄い側における厚さのばらつきが小さくなる。その結果、誘電体層において薄い部分を少なくすることができ、高温負荷寿命を向上することができる。また、歪度が0.2以上であることで、厚さの分布の右側(厚い側)の裾が長くなり、誘電体層に厚い部分を含ませることができる。その結果、誘電体層と電極層との間の接触面積を増加させて接合強度を確保することができ、クラックの発生を抑制することができる。よって、この積層電子部品によれば、高温負荷寿命を向上することができると共に、クラックの発生を抑制することができる。
【0008】
分布の歪度は、0.6以下であってもよい。この場合、歪度が過剰に大きいことで誘電体層により形成される静電容量のばらつきが増加してしまう事態の発生を抑制することができる。
【0009】
分布の尖度は、3.2以上であってもよい。この場合、厚さの分布の裾を厚くすることができ、誘電体層に厚い部分を多く含ませることができる。その結果、クラックの発生を一層抑制することができる。
【0010】
分布の尖度は、5.0以下であってもよい。この場合、尖度が過剰に大きいことで誘電体層により形成される静電容量のばらつきが増加してしまう事態の発生を抑制することができる。
【0011】
複数の誘電体層の厚さの平均値は、0.4μm以下であってもよい。このように誘電体層が薄い場合、誘電体層に高い電界強度が作用するため、高温負荷寿命が低下し易い。また、積層電子部品中における電極層の割合が相対的に増加するため、クラックが発生し易くなる。対して、この積層電子部品によれば、そのような場合でも、高温負荷寿命を向上することができると共に、クラックの発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高温負荷寿命を向上することができると共に、クラックの発生を抑制することができる積層電子部品を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図4】実施形態の積層電子部品における誘電体層の厚さの分布の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を用い、重複する説明を省略する。
[積層電子部品の構成]
【0015】
図1には、積層セラミックコンデンサである積層電子部品1が示されている。積層電子部品1は、素体2を備えている。素体2は、例えば略直方体状に形成されている。素体2は、一対の主面2aと、第1側面2b及び第2側面2cと、を有する。一対の主面2aは、第1方向D1において互いに対向する。第1側面2b及び第2側面2cは、第1方向D1に垂直な第2方向D2において互いに対向する。一方の主面2aは、実装面を構成する。積層電子部品1は、例えば、一方の主面2aにおいて実装対象(例えば電子部品又は基板等)に半田付けにより実装される。積層電子部品1は、例えば、車両に搭載されて用いられる車載用の積層電子部品である。この場合、積層電子部品1には、高い高温負荷寿命が求められる。
【0016】
素体2は、複数の誘電体層3と、複数の電極層4と、を有する。複数の電極層4は、第1電極層10と、複数の第2電極層20と、を含む。各誘電体層3は、例えば誘電体材料(BaTiO3系、Ba(Ti,Zr)O3系、(Ba,Ca)TiO3系、CaZrO3系、又は(Ca,Sr)(Zr,Ti)O3系等の誘電体セラミック)を含むセラミックグリーンシート(誘電体シート)の焼結体からなる。実際の素体2においては、隣り合う誘電体層3は、互いの間の境界を視認することができない程度に一体化されている。複数の誘電体層3の厚さの平均値は、例えば10μm以下であり、この例では0.4μm以下である。素体2は、例えば、少なくとも10層又は20層以上の誘電体層3を含んでいる。
【0017】
複数の誘電体層3と複数の電極層4とは、第1方向D1に沿って交互に積層されている。この例では、複数の第1電極層10と複数の第2電極層20とが、第1方向D1において誘電体層3を介して互いに向かい合うように交互に配置されている。第1電極層10は、素体2の第1側面2bに至るように延在しており、第2電極層20は、素体2の第2側面2cに至るように延在している。
【0018】
電極層4は、例えばNi、Cu、Ag、Pd、又はこれらの合金等の導電性材料により形成されている。電極層4は、例えば、当該導電性材料を含む導電性ペースト(導電層)の焼結体からなる。電極層4は、素体2内に配置された内部電極として機能する。第1電極層10及び第2電極層20は、互いに異なる極性を有する。積層電子部品1においては、第1電極層10と第2電極層20とが互いに向かい合うことによって静電容量が形成される。
【0019】
積層電子部品1は、実装対象と電気的に接続される一対の外部電極5を更に備えている。一対の外部電極5は、素体2の第1側面2b及び第2側面2c上にそれぞれ形成されている。一方の外部電極5は、第1側面2bにおいて第1電極層10に電気的に接続されており、他方の外部電極5は、第2側面2cにおいて第2電極層20に電気的に接続されている。
[積層電子部品の製造方法]
【0020】
積層電子部品1の製造時には、まず、複数の誘電体シートが用意される(用意工程)。誘電体シートは、焼成後に誘電体層3となるセラミック部材である。続いて、複数の誘電体シートと複数の導電層とが交互に積層される(積層工程)。導電層は、焼成後に電極層4となる層であり、例えば導電性ペーストである。
【0021】
続いて、積層工程により得られた積層体が第1方向D1に加圧される(加圧工程)。この加圧工程により隣接する層同士が一体化され、所定の大きさを有するチップが得られる。なお、切断後に各々がチップとなる複数の部分を有する積層体を加圧工程において加圧し、その後に積層体を切断することで所定の大きさを有する複数のチップを得てもよい。続いて、チップが焼成されることで、素体2が得られる。その後、素体2の外面に外部電極5を設ける工程等を経て、積層電子部品1が得られる。
[誘電体層の厚さの分布の歪度及び尖度]
【0022】
積層電子部品1では、複数の誘電体層3についての任意の複数の箇所における誘電体層3の厚さの分布の歪度が0.2以上0.6以下となっており、当該分布の尖度が3.2以上5.0以下となっている。以下、この点について説明する。
【0023】
図2は、歪度を説明するためのグラフであり、
図3は、尖度を説明するためのグラフである(参考文献:Cain, Meghan K., Zhiyong Zhang, and Ke-Hai Yuan, "Univariateand multivariate skewness and kurtosis for measuring nonnormality: Prevalence,influence and estimation." Behavior research methods 49.5 (2017), 1716-1735)。確率変数Xが従う確率分布の歪度Aは式(1)により定義され、尖度Bは式(2)により定義される。
【数1】
【数2】
【0024】
式(1)及び式(2)において、E(X)は確率変数Xの期待値、μは確率変数Xの平均値、σは確率変数Xの標準偏差である。歪度は非対称性の指標であり、確率分布が正規分布である場合にはゼロとなる。尖度は尖りの程度を表す指標であり、確率分布が正規分布である場合に3となる。すなわち、本明細書では、尖度は、確率分布が正規分布である場合にゼロとなる過剰尖度とは異なり、確率分布が正規分布である場合に3となるように定義される。
【0025】
図2には、歪度がそれぞれ0.95,0,-0.3である3つの確率分布が示されている。
図2に示されるように、歪度が正の値である場合、分布が左側(確率変数が小さい側)に偏った分布となり、分布の右側(確率変数が大きい側)の裾が長くなる。そのため、分布の右側に対応する、確率変数が大きな事象が発生し易くなる。一方、歪度が負の値である場合、分布が右側に偏った分布となり、分布の左側の裾が長くなる。そのため、分布の左側に対応する、確率変数が小さな事象が発生し易くなる。
【0026】
図3には、尖度がそれぞれ3,0,-1である3つの確率分布が示されている。いずれの確率分布においても分散は1である。
図3に示されるように、尖度が3よりも大きい場合、分布の裾が厚くなる。すなわち、分布の両端部に対応する、確率変数が極端に大きな事象が発生し易くなる。
【0027】
上述したとおり、積層電子部品1では、複数の誘電体層3についての任意の複数の箇所における誘電体層3の厚さの分布の歪度が0.2以上0.6以下となっており、当該分布の尖度が3.2以上5.0以下となっている。当該分布は、例えば、次のように算出される。積層電子部品1について、積層方向(第1方向D1)に沿った断面の画像を1枚取得する。当該画像は、例えばレーザ顕微鏡を用いて取得される。当該画像に含まれる複数の誘電体層3について、任意の複数の箇所(例えば3000箇所)において誘電体層3の厚さを測定する。誘電体層3の厚さを測定する位置は、例えばランダムに選択されるが、所定の間隔を空けて並ぶ複数の位置において誘電体層3の厚さが測定されてもよい。測定された厚さに基づいて、確率変数を誘電体層3の厚さとする確率分布を算出することができる。
【0028】
図4は、積層電子部品1における誘電体層3の厚さの分布の例を示すグラフである。この分布は、3000箇所において測定された誘電体層3の厚さ(μm)に基づいて算出されている。この例では、分布の歪度は0.42であり、尖度は3.29であった。誘電体層3の厚さの平均値は0.38μmであり、標準偏差は0.05であった。このように、積層電子部品1では、誘電体層3の厚さの分布の歪度が、0.2以上0.6以下となっている。また、分布の尖度が、3.2以上5.0以下となっている。
【0029】
歪度及び尖度の調整方法について説明する。概略的には、上述した製造工程中の用意工程において、複数の誘電体シートについての任意の複数の箇所における誘電体シートの厚さの分布の歪度が0.2以上0.6以下となり、且つ当該分布の尖度が3.2以上5.0以下となるように、複数の誘電体シートを用意する。これにより、積層工程により得られる積層体において、誘電体シートの厚さの分布の歪度が0.2以上0.6以下となり、且つ当該分布の尖度が3.2以上5.0以下となる。また、最終的に得られる積層電子部品1において、誘電体層3の厚さの分布の歪度が0.2以上0.6以下となり、且つ当該分布の尖度が3.2以上5.0以下となる。
【0030】
より具体的には、用意工程では、例えば、誘電体シートの厚さを測定し、厚さが所定の閾値よりも小さい誘電体シートを除外する一方で、厚さが当該閾値以上である誘電体シートを除外しない(使用する)ことにより、誘電体シートの厚さの分布の歪度が0.2以上となるように複数の誘電体シートを用意する。誘電体シートの厚さは、例えばX線等を用いて測定される。閾値としては、例えば、100枚の誘電体シートの厚さを測定し、それらの厚さの平均値に所定の係数(例えば、0.2)を乗算した値を用いることができる。このように厚さが閾値よりも小さい誘電体シートを使用しないことで、歪度を0.2以上に制御することができる。
【0031】
また、用意工程では、例えば、分散剤の含有量が所定値よりも小さい誘電体シートを使用することにより、誘電体シートの厚さの分布の尖度が3.2以上となるように誘電体シートを用意する。このように、分散剤の含有量を減少させることにより、厚さのばらつきの大きな誘電体シートを作製することができる。
【0032】
或いは、用意工程では、誘電体シートの厚さの分布の尖度が3.2以上となるように、厚さの平均値が第1値である第1誘電体シートと、厚さの平均値が第1値とは異なる第2値である第2誘電体シートとを用意してもよい。この場合、積層工程では、第1誘電体シート及び第2誘電体シートが誘電体シートとして使用されて積層される。このように厚さが異なる誘電体シートを混在させて積層することによっても、尖度を制御することができる。例えば、第1誘電体シートよりも厚い(すなわち、第2値が第1値よりも大きい)第2誘電体シートを第1誘電体シートよりも少ない数だけ用意し、大部分が第1誘電体シートにより構成された積層体中に第2誘電体シートを混在させることで、すべての誘電体シートを第1誘電体シートにより構成する場合と比べて、尖度を大きくすることができる。
[作用及び効果]
【0033】
積層電子部品1では、複数の誘電体層3についての任意の複数の箇所における誘電体層3の厚さの分布の歪度が、0.2以上となっている。これにより、厚さの分布が左側(薄い側)に偏った分布となり、薄い側における厚さのばらつきが小さくなる。その結果、誘電体層3において薄い部分を少なくすることができ、高温負荷寿命を向上することができる。すなわち、誘電体層3に基準値よりも薄い部分が多く含まれていると、高温負荷寿命が低下するおそれがあるが、積層電子部品1では、誘電体層3に含まれる薄い部分が少ないため、高温負荷寿命を向上することができる。上述したとおり、高温負荷寿命は、積層電子部品1が車載用であり高温環境下で用いられる場合に特に重要となる。また、歪度が0.2以上であることで、厚さの分布の右側(厚い側)の裾が長くなり、誘電体層3に厚い部分を含ませることができる。その結果、誘電体層3と電極層4との間の接触面積を増加させて接合強度を確保することができ、クラックの発生を抑制することができる。よって、積層電子部品1によれば、高温負荷寿命を向上することができると共に、クラックの発生を抑制することができる。
【0034】
すなわち、通常、積層セラミックコンデンサにおける誘電体層の厚さの分布は、正規分布に近いと考えられる。そのような積層セラミックコンデンサにおいて、例えば、単に誘電体層3の厚さのばらつきを小さくすると、薄い部分を少なくして高温負荷寿命を向上することができるが、誘電体層と電極層との間の接合強度が低下してクラックが発生しやすくなってしまう。これに対して、積層電子部品1では、誘電体層3の厚さの分布の歪度を0.2以上とすることにより、誘電体層3において薄い部分を少なくして高温負荷寿命を向上しながら、誘電体層3に厚い部分を含ませて誘電体層3と電極層4との間の接合強度を確保し、クラックの発生を抑制することができる。このように、積層電子部品1によれば、高温負荷寿命の向上と、クラックの発生の抑制とを両立することができる。
【0035】
誘電体層3の厚さの分布の歪度が、0.6以下である。これにより、歪度が過剰に大きいことで誘電体層3により形成される静電容量のばらつきが増加してしまう事態の発生を抑制することができる。
【0036】
誘電体層3の厚さの分布の尖度が、3.2以上である。これにより、厚さの分布の裾を厚くすることができ、誘電体層3に厚い部分を多く含ませることができる。その結果、クラックの発生を一層抑制することができる。すなわち、誘電体層3の厚さの分布の尖度が、3.2以上であり、且つ歪度が0.2以上であることで、誘電体層3に厚い部分を多く含ませてクラックの発生を抑制しながら、薄い部分の増加を抑制して高温負荷寿命の低下を抑制することができる。
【0037】
誘電体層3の厚さの分布の尖度が、5.0以下である。これにより、尖度が過剰に大きいことで誘電体層3により形成される静電容量のばらつきが増加してしまう事態の発生を抑制することができる。
【0038】
複数の誘電体層3の厚さの平均値が、0.4μm以下である。このように誘電体層3が薄い場合、誘電体層3に高い電界強度が作用するため、高温負荷寿命が低下し易い。また、積層電子部品1中における電極層4の割合が相対的に増加するため、クラックが発生し易くなる。対して、積層電子部品1によれば、そのような場合でも、高温負荷寿命を向上することができると共に、クラックの発生を抑制することができる。
【0039】
本発明は、上記実施形態に限られない。例えば、各構成の材料及び形状には、上述した材料及び形状に限らず、様々な材料及び形状を採用することができる。積層電子部品1は、積層圧電アクチュエータ、積層バリスタ、積層サーミスタ、又は積層複合部品等であってもよい。
【符号の説明】
【0040】
1…積層電子部品、3…誘電体層、4…電極層。