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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-24
(45)【発行日】2025-05-07
(54)【発明の名称】共硬化済みフィルム層の再活性化
(51)【国際特許分類】
   B05D 1/38 20060101AFI20250425BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20250425BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20250425BHJP
   B32B 38/00 20060101ALI20250425BHJP
【FI】
B05D1/38
B05D7/00 K
B05D7/24 303E
B32B38/00
【請求項の数】 10
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021008004
(22)【出願日】2021-01-21
(65)【公開番号】P2021121426
(43)【公開日】2021-08-26
【審査請求日】2023-12-21
(31)【優先権主張番号】16/751,843
(32)【優先日】2020-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500520743
【氏名又は名称】ザ・ボーイング・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】The Boeing Company
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100086380
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100103078
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 達也
(74)【代理人】
【識別番号】100130650
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 泰光
(74)【代理人】
【識別番号】100168099
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 伸太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100168044
【弁理士】
【氏名又は名称】小淵 景太
(74)【代理人】
【識別番号】100200609
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 智和
(74)【代理人】
【識別番号】100217467
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴崎 一磨
(72)【発明者】
【氏名】マーク アール.ブレイ
(72)【発明者】
【氏名】ケビン ディー.ゴードン
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー ガーニアー
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-528247(JP,A)
【文献】国際公開第2018/158673(WO,A1)
【文献】特開2014-069565(JP,A)
【文献】特開2017-226206(JP,A)
【文献】特開2004-306607(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00-7/26
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合構造に配置された共硬化済みフィルム層を再活性化するための方法であって、
少なくとも2つの溶媒と、金属アルコキシド又はそのキレートを含む表面交換剤と、を含む再活性化処理剤を前記共硬化済みフィルム層に塗布することと、
前記再活性化処理剤を作用させて、再活性化された共硬化済みフィルム層を形成することと、を含み、
前記共硬化済みフィルム層は、50℃より高い硬化温度で先に硬化されたものである、方法。
【請求項2】
前記再活性化された共硬化済みフィルム層に追加コーティング層を塗布することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記硬化は、少なくとも121℃の硬化温度で施されたものである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記再活性化処理剤を塗布する前に、前記共硬化済みフィルム層をサンディングすることを含まない、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記共硬化済みフィルム層は、硬化時に、ポリウレタン、ポリイミド、ポリエステル、又はエポキシを含む、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記表面交換剤は、ジルコニウムプロポキシドである、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記追加コーティング層は、クリアコートである、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記追加コーティング層は、回転アーム雨食試験後のコート間接着レベルとして、6~10の範囲のレベルを有する、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
複合構造に配置された共硬化済みフィルム層と、
金属アルコキシド又はそのキレートを含む表面交換剤を含む再活性化処理剤層であって、再活性化された共硬化済みフィルム層を形成すべく、前記共硬化済みフィルム層に配置された再活性化処理剤層と、を備え、
前記共硬化済みフィルム層は、少なくとも50℃の温度で先に硬化されたものである、再活性化された共硬化済みフィルム層。
【請求項10】
共硬化済みフィルム層が配置された航空機部品であって、
複合構造と、
前記複合構造の表面に硬化された、請求項9に記載の再活性化された共硬化済みフィルム層と、を備える航空機部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複合構造に先に共硬化済みのフィルム層を再活性化するための方法に関する。共硬化済みフィルム層を再活性化すると、サンディング(sanding)などの中間工程を要することなく、当該フィルム層にトップコート又は追加のペイント層を塗布することが可能になる。このようにして得られた複合構造における共硬化済みフィルム層は、複合構造と追加コーティング層との両方に対して良好な接着性を示すとともに、紫外線、雨食、湿気、及び/又は、燃料などの化学物質を含む環境条件や環境要素への暴露に対する保護を提供する。複合構造に共硬化済みのフィルム層を再活性化する本開示の方法は、航空機部品などの航空宇宙用部品の作製に特に有用である。
【背景技術】
【0002】
例えば、ビークル用部品、航空宇宙用(例えば、航空機などの)部品の他、多くの部品は、例えば航空機などの構造の総重量を軽減すべく、高強度で軽量な複合材料を用いて作製される。そのような複合材料の多くは、ポリマー母材に炭素繊維が分散されて強化されたものである。
【0003】
民間航空機やビークルの製造業者は、製造する航空機及びビークルに、なんらかの情報又は標識(例えば、型番、会社名、会社のロゴ、又は、単語、数字、文字、図柄などを含む装飾又は情報提示のためのマーク)を付けたり、刻印したりすることを望む場合が多い。しかしながら、複合材料から成る部品にそのような表示マークを設けることは困難である旨が認識されている。複合構造に塗装又は印刷を施すと、塗装処理のフロー時間など製造プロセス時間が長くなり、よって、部品製造にかかるコスト及び時間が増加することが多い。また、部品によっては、複雑な三次元曲面など、印刷を施すことが困難な形状を含むものもある。
【0004】
加えて、コーティング又は塗装を施した航空機表面、例えば、航空機の翼又は尾部などにおいて望ましい流れ特性を維持することは困難なことが多い。飛行中の望ましい境界層特性への影響を避けるために、許容可能な塗装エッジ及び塗装うねりには基準が設けられている。また、デブリ、塵、スプレーしぶきが乾燥したもの(dry coating overspray)などが入り込むことに起因して、また、複数色でデザインや文字をペイントするために複数のペイント層が設けられることに起因して生じうる三次元表面が不連続となる欠陥についても規制がある。
【0005】
公知の技術においても、航空機の外表面に航空会社の意匠を施す方法及びシステムが提供されている。例えば、公知の方法及びシステムとしては、テープ及び/又はマスキングを用いて、プライマー層又はベースのカラー層にコーティング層又はペイント層を積層する技術がある。このような公知技術による航空機の外表面に航空会社の意匠を施す方法及びシステムでは、コーティングやペイントにおけるエッジ角度やエッジ頂部に要求される空力性能要件など、適切な空力性能を促進するための空力性能要件を充足し、維持することは困難である。
【0006】
したがって、処理時間及び/又は費用を低減しつつ、適切なカラーリング及びデザインを施し、加えて滑らかな空力表面を形成できるマーキング処理が採用される。そのようなマーキング処理としては、例えば、米国特許出願公開第2018/0345646号(同文献は、参照により本願に組み込まれるものとする)に公開されているような共硬化性フィルムを用いるものがある。しかしながら、共硬化性フィルムを用いる場合でも、様々な種類の製造処理は依然として困難である。例えば、通常、複合構造に先に硬化された共硬化フィルム層の表面に対してコーティング層を追加しても、適切な接着は得られない。したがって、従来の処理では、共硬化済みのフィルムにさらにコーティング層を追加するために、共硬化フィルム層の表面をサンディングして再活性化する処理を行う。これにより、ペイント層やトップコートを追加することが可能になる。しかしながら、手作業でサンディングを行う方法は、労力を要し、人間工学的な懸念を生じさせ、研磨デブリを発生させ、サンディング用消耗材を使用し、工場における時間を長引かせることになる。よって、共硬化済みの表面に処理を施して、追加のコーティング層を塗布可能な状態にするための既存の方法には、経済効率及び製造効率が欠如していると言えよう。
【0007】
したがって、共硬化済みのフィルム層に追加される層の接着性を高めるとともに、経済的な実効性の問題、健康上の問題、及び安全性の問題を極力抑えることができるように、共硬化済みのフィルム層の表面処理技術を発展させることが必要とされている。
【発明の概要】
【0008】
一態様において、本開示は、複合構造に共硬化済みのフィルム層を再活性化するための方法に関する。本方法は、少なくとも2つの溶媒と、金属アルコキシド又はそのキレートを含む表面交換剤と、を含む再活性化処理剤を前記共硬化済みフィルム層に塗布することと、前記再活性化処理剤を作用させて、再活性化された共硬化済みフィルム層を形成することと、を含む。前記共硬化済みフィルム層は、前記複合構造に対して、約50℃超の硬化温度で、例えば、少なくとも約121℃の硬化温度で、又は、オートクレーブにおいて、先に硬化されたものである。
【0009】
特定の実施形態において、本方法は、前記共硬化済みフィルム層に対して、クリアコートなどの追加コーティング層を塗布することをさらに含む。特定の実施形態において、本方法は、前記再活性化処理剤を塗布する前に、前記共硬化済みフィルム層をサンディングすることを含まない。本開示の方法の特定の実施形態において、前記共硬化済みフィルム層は、硬化時に、ポリウレタン、ポリイミド、ポリエステル、又はエポキシを含み、特定の実施形態において、前記共硬化済みフィルム層は、硬化時に、ポリウレタンを含む。
【0010】
本開示の様々な実施形態において、前記表面交換剤は、ジルコニウムプロポキシドであり、特定の実施形態において、前記少なくとも2つの溶剤は、ジプロピレングリコールジメチルエーテル及びn-プロパノールである。
【0011】
特定の実施形態において、本開示の方法は、前記再活性化処理剤を塗布する前に、又は、塗布と同時に、洗浄溶剤を塗布することをさらに含む。
【0012】
特定の実施形態において、本開示の方法は、追加コーティング層を塗布することをさらに含み、前記追加コーティング層は、雨食試験後のコート間接着レベルとして、6~10の範囲のレベル、例えば、8~10の範囲のレベルを有する。
【0013】
別の態様において、本開示は、再活性化された共硬化済みフィルム層に関する。前記再活性化された共硬化済みフィルム層は、複合構造に配置された共硬化済みフィルム層と、金属アルコキシド又はそのキレートを含む表面交換剤を含む再活性化処理剤層であって、再活性化された共硬化済みフィルム層を形成すべく、前記共硬化済みフィルム層に配置された再活性化処理剤層と、を備える。前記共硬化済みフィルム層は、前記複合構造に対して、少なくとも約50℃の硬化温度で、例えば、少なくとも約121℃の硬化温度で、又は、オートクレーブにおいて、先に硬化されたものである。
【0014】
本開示における前記再活性化された共硬化済みフィルム層の特定の態様において、前記共硬化済みフィルム層は、サンディングが施されていないものである。特定の実施形態において、前記再活性化された共硬化済みフィルム層は、さらに、前記再活性化処理剤層に配置された追加のコーティング層を含み、特定の実施形態において、前記追加コーティング層は、雨食試験後のコート間接着レベルとして、6~10の範囲のレベル、例えば、8~10の範囲のレベルを有する。
【0015】
前記再活性化された共硬化済みフィルム層の特定の実施形態において、前記表面交換剤は、ジルコニウムプロポキシドであり、特定の実施形態において、前記共硬化済みフィルム層は、硬化時に、ポリウレタン、ポリイミド、ポリエステル、又はエポキシを含む。
【0016】
さらに他の実施形態において、本開示は、硬化済みフィルム層が配置された航空機部品に関し、当該航空機部品は、複合構造と、前記複合構造の表面に硬化されたフィルム層であって、本開示の実施形態にしたがって再活性化された共硬化済みフィルム層と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】共硬化済みフィルム層が配置された複合構造のパネル部分を示す概略図である。前記共硬化済みフィルム層は、その完全性を損なうことなく、当該共硬化済みフィルム層に追加されるコーティング層との接着を促進すべく表面特性の再活性化処理が施されたものである。
図2】雨食試験による最大引裂き長さ及び剥離面積パーセントに対応する1~10までのスケールを視覚的に表した図である。
図3A】共硬化済みフィルム層にコーティング層を追加して被覆した3つの複合構造に対して雨食試験を行った状態を示す図である。前記共硬化済みフィルム層は、コーティング層を追加する前に、紫外(UV)光には暴露されていないが、サンディングされたものである。
図3B】共硬化済みフィルム層にコーティング層を追加して被覆した3つの複合構造に対して雨食試験を行った状態を示す図である。当該共硬化済みフィルム層は、コーティング層を追加する前に、200kJ/m2の紫外光に暴露され、且つサンディングされたものである。
図3C】共硬化済みフィルム層にコーティング層を追加して被覆した3つの複合構造に対して雨食試験を行った状態を示す図である。当該共硬化済みフィルム層は、コーティング層を追加する前に、1,000kJ/m2の紫外光に暴露され、且つサンディングされたものである。
図4A】共硬化済みフィルム層にコーティング層を追加して被覆した3つの複合構造に対して雨食試験を行った状態を示す図である。前記共硬化済みフィルム層は、コーティング層を追加する前に、サンディングも、紫外光への暴露もされておらず、再活性化処理剤であるSur-Prep(登録商標)AP-1で処理されたものである。
図4B】共硬化済みフィルム層にコーティング層を追加して被覆した3つの複合構造に対して雨食試験を行った状態を示す図である。前記共硬化済みフィルム層は、コーティング層を追加する前に、200kJ/m2の紫外光に暴露された後に再活性化処理剤であるSur-Prep(登録商標)AP-1で処理されたものである。
図4C】共硬化済みフィルム層にコーティング層を追加して被覆した3つの複合構造に対して雨食試験を行った状態を示す図である。前記共硬化済みフィルム層は、コーティング層を追加する前に、1,000kJ/m2の紫外光に暴露された後に再活性化処理剤であるSur-Prep(登録商標)AP-1で処理されたものである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
添付図面は、本開示の教示の理解の促進を優先しており、構造的な正確さ、詳細、及び縮尺を厳密に維持するのではなく、一部の詳細を簡易化して描かれている。
【0019】
以下の説明は、あくまでも例示的な性質のものに過ぎず、本開示或いはその応用又は使用態様を限定することを意図するものではない。
【0020】
本明細書の全体において、数値範囲の記載は、当該範囲に含まれるすべての値を示す簡略表現として用いられている。記載の範囲に含まれる値は、いずれも当該範囲の終端の値として選択可能である。加えて、本明細書において引用されている文献は、参照によりその内容のすべてが本明細書に組み込まれるものとする。本開示の定義と引用文献の定義とが矛盾するような場合には、本願の定義が採用される。特段の記載がない限り、本明細書において示されているパーセント及び量は、重量パーセントであると理解されるべきである。記載の量は、有効材料の重量に基づくものである。
【0021】
本開示における方法は、基板、或いは、基板に設けられた中間層に既に共硬化済みのフィルム層の再活性化を可能にし、これにより、コーティングの完全性を損なうことなく、追加のコーティング層に対する接着特性(adhesive properties)を向上させるものである。
【0022】
共硬化済みのフィルム層に新たにコーティング層を追加する場合、一般的に、機械的研磨(例えばサンディング)又は(例えばレーザーによる)アブレージョンなど、粗面を剥離する工程が必要であり、この工程を行うことにより、追加コーティング層の塗布が可能な状態になる。本開示で提供される方法によれば、共硬化済みのフィルム層に対してコーティング及び/又は他の要素を塗布する前に、従来のように共硬化済みフィルム層の機械的研磨を行う必要がなく、有利である。例えば、本開示の再活性化方法によれば、共硬化済みフィルム層の表面を再活性化して、追加するコーティング及び/又は他の要素に対する接着特性を向上させることができる。
【0023】
オートクレーブで硬化された、或いはエージングされた(aged)フィルム層に対して新たなコーティング層を塗布する場合、当該コーティング層の接着性が、航空機の運用性能要件を充足しない可能性があることは、よく知られている。これは、硬化又はエージングされた後の共硬化性フィルム層は、新たなコーティング層に対して適切に接着するための塗布時間窓(application window)を既に経過した状態にあるからである。例えば、ポリウレタンを含む共硬化性フィルム層の場合、硬化処理によってポリマー単位が架橋結合して、硬化ポリウレタンフィルム層における剛性を形成する。架橋結合の量は、ポリウレタンフィルムの硬化時間及び/又は硬化温度に比例する。したがって、オートクレーブで(例えば、少なくとも約121℃の温度で)硬化された共硬化性フィルム層は、より低い温度(例えば、周囲温度又は50℃未満の温度)など、その他の手段で硬化された同等のフィルム層に比べて、架橋密度がかなり高くなると予測される。さらに、共硬化済みフィルム層における架橋密度が高いほど、追加するコーティング層の接着が悪くなると予測される。
【0024】
これに対し、本開示は、オートクレーブなどにおいて高温で既に硬化が施された共硬化済みフィルム層を再活性化するための方法を提供するものである。本方法は、溶媒と表面再活性化剤(surface reactivation agent)とを含む表面再活性化処理剤(surface reactivation treatment composition)を塗布することを含む。本開示の方法によれば、共硬化済みフィルム層をサンディングする工程を追加する必要はない。再活性化処理剤を塗布することによって、高温にて硬化済みであって架橋密度の高いフィルム層を効果的に再活性化でき、サンディング工程が不要であることは、予期せぬ驚くべき効果である。
【0025】
本明細書において使用される「再活性化」なる用語は、共硬化済みフィルム層などのコーティング層の接着特性を改善することを示す。本明細書においては、活性化と再活性化とは、区別なく使用される。接着特性は、当業界で知られている任意の手段により測定することができ、例えば、コーティングのコート間接着レベル(coating's intercoat adhesion level)として測定することができる。本明細書において使用される「コート間接着レベル」は、2つのコーティング間の接着度のレベルを意味し、例えば、共硬化済みフィルム層と、当該共硬化済みフィルム層の上に直接に配置された追加ペイント層との間の接着度のレベルを意味する。本開示において、コート間接着レベルは、例えば、雨食試験後の追加ペイント層の引裂き長さ及び剥離度合に基づいて、1~10のスケールで定量化される。
【0026】
特定の態様において、本開示の方法は、共硬化済みフィルム層に対して、溶媒と、表面交換剤と、任意の添加物と、を含む表面再活性化処理剤を塗布することを含み、前記表面交換剤は、金属アルコキシド又はそのキレートから選択され、例えば、チタン又はジルコニウムのアルコキシド、或いは、それらのキレートから選択される。
【0027】
特定の実施形態において、本開示は、基板に配置された共硬化済みフィルム層に対する追加のコーティング層の接着を促進する方法を開示し、本方法は、前記共硬化済みフィルム層に対して、溶媒と、表面交換剤と、任意の添加物と、を含む再活性化処理剤を塗布することを含み、前記表面交換剤は、金属アルコキシド又はそのキレートから選択され、例えば、チタンアルコキシド又はジルコニウムアルコキシド、或いは、それらのキレートから選択される。
【0028】
本開示の方法は、共硬化済みフィルム層に対して機械的研磨又は化学的剥離などのステップを行う必要なく、追加コーティング層に対する接着特性を改善することができる。
【0029】
図1に示す様に、例えば、航空機の複合部品などの剛性の基板(1)に先に硬化済みのフィルム層(2)の接着性を再活性化して、前記硬化済みのフィルム層(2)に配置する新たなコーティング層(4)に対して効果的な接着結合(5)を形成させるには、前記新たなコーティング層(4)に対する前記硬化済みのフィルム層(2)の接着性を再活性化するだけでなく、前記基板(1)と前記硬化済みフィルム層(2)との間に先に形成されていた接着結合(3)に影響を与えないこと、また、前記基板における(コーティングされていない)露出表面(6)の完全性に影響を与えないことが要求される。
<複合構造>
【0030】
本開示の方法において、少なくとも1つの共硬化済みフィルム層が基板に設けられており、当該共硬化済みフィルム層は、例えばオートクレーブにおいて、例えば50℃より高い温度で、基板又は中間層に対して先に硬化されたものである。基板は、建物、ビークル、又は航空機の支持構造部として構成されたパネルなどの支持構造である。例えば、基板は、航空機の本体又は翼のパネル部分である。一態様において、基板は、複合材料を含む、或いは、本質的に複合材料から成る。
【0031】
複合材料は、例えば、炭素繊維強化エポキシ材料又はガラス繊維強化エポキシ材料である。複合材料は、ガラス、木材、又はファブリックを含みうる。基板は、実質的に非弾性又は剛性のプラスチックでもよく、ポリイミド又はポリカーボネートを含みうる。一態様において、実質的に非弾性若しくは剛性のプラスチックには、伸縮可能な若しくは加工が容易なプラスチックフィルムやプラスチック包装材料は含まれず、及び/又は、構造的な剛性を備えない若しくは弾性変形が不可能なプラスチックフィルムやプラスチック包装材料は含まれない。
【0032】
いくつかの実施形態において、複合構造は、有機マトリックス及び繊維、例えば、エポキシ樹脂及び炭素繊維強化ポリマー(CFRP)から形成されたものである。いくつかの実施形態において、複合構造は、プリプレグの形態をとる。本明細書で使用される「プリプレグ」なる用語は、マトリックス材料を含侵させた、1つ又は複数のシート状又は層状の繊維をいう。マトリックス材料は、例えば、所定の付着性又は粘着性を発揮するように半硬化された状態で含まれていてもよい。
【0033】
いくつかの実施形態において、プリプレグ層は、互いに隣接して配置されている。特定の実施形態において、プリプレグ層は、互いに所定の配向で積層されたレイアップでもよい。例えば、プリプレグのレイアップは、一方向性繊維で構成されたプリプレグ層が、当該レイアップにおける最大寸法、例えば長さに対して、0°、90°、任意の角度θ、及びそれらの組み合わせの繊維配向で積層されたものでもよい。さらに、特定の実施形態において、プリプレグのレイアップは、例えば、一方向性繊維及び多方向性繊維など、任意の繊維構成のプリプレグの組み合わせにより構成されうることは理解されよう。
【0034】
いくつかの実施形態において、複合構造は、1つ以上のサンドイッチパネル(例えば、ハニカムパネル)で形成されており、当該サンドイッチパネルのうちの1つ以上の複合材パネルであってもよい。各サンドイッチパネルは、一般的に、相対的に軽量な材料から成るコアを2つのパネル外板で挟んで構成される。複合構造は、下側に配置されたパネル又は材料層に塗布された1つ以上のコーティング又は層を含みうる。複合構造は、1つ以上のサンドイッチパネル、2つ以上のサンドイッチパネルの間に形成されたジョイント、及び/又は、1つ以上のサンドイッチパネルを用いて構成された三次元構造を含みうる。
【0035】
図示のとおり、非限定的な実施例では、複合構造は、航空機の翼、胴体部、水平安定板、垂直安定板、及びエンジン筐体などの航空機構造に用いられているが、これに加えて、或いは、これに代えて、他の航空機部品も、サンドイッチパネル、及び/又は、2つ以上のサンドイッチパネルの間に形成されたジョイントなどの複合構造を含みうる。航空機における複合構造用途には、他にも、頭上収納棚、フロアパネル、内壁、調理室、操縦翼面、乗客用手荷物棚、推力ディフレクタ、カプセルパネル、ノーズコーン用アブレーティブシールド、計器類の容器及び棚、並びに隔壁パネルが含まれる。他の産業分野において用いられる複合構造としては、宇宙衛星又は航空宇宙機の部品、輸送機、輸送用コンテナ、シェルタ、大型アンテナ又は反射板、冷凍用パネル、高速輸送機用フロアパネル、船舶用電子デッキ・シェルタ、貨物用パレット、自動車の車体、ボート及び他の海上船舶、建築用カーテンウォール、パーティション、分割パネル、伸張式病院シェルタ、及び/又は、組立体における内部構造が含まれる。
【0036】
本開示の複合構造及び共硬化性フィルム層は、いくつかの実施形態においては、1つの型に一緒に配置され、共硬化されるものであり、特定の実施形態においては、この共硬化により、共硬化性フィルム層を複合材料に一体化することができる。
<共硬化済みフィルム層>
【0037】
上述のように、共硬化済みフィルム層は、基板の表面、例えば複合構造、又は複合構造と共硬化済みフィルム層との間の中間層などの表面に既に硬化されており、硬化の結果として、追加のコーティング層などの他の要素に対して接着結合しにくい性質を帯びている。共硬化済みフィルム層の表面特性は、個々の成分の化学的性質及び硬化条件に基づいて予測されるよりも、活性が低くなりうる。理論によって制約されることを望むものではないが、この現象は、架橋密度が硬化時間、硬化温度、及び/又はエージングの関数として増加するのに伴って、フィルム表面のエネルギー及び反応性官能基の量が減少し、このために、他の要素との化学的相互作用及び/又は強い接着結合の形成が少なくなることに起因すると考えられる。
【0038】
本開示の方法によって再活性化される共硬化済みフィルム層は、限定するものではないが、完全又は部分的に架橋されたフィルム層を含む。いくつかの実施形態において、本開示の共硬化済みフィルム層は、熱硬化性樹脂を含む共硬化性フィルム組成物から形成される。熱硬化性樹脂は、一般的に、室温(約20℃~約25℃)で柔らかな固形状又は粘性の液状を呈するプレポリマーであって、典型的には、硬化すると固くなるものを含む。
【0039】
「硬化」は、共硬化性フィルム組成物などの硬化性物質における多くのポリマー鎖に架橋が生じて、不溶性ポリマー網状組織が生成される化学反応を含む。硬化は、例えば、加熱及び/又は紫外光への暴露を含むプロセスによって実施することができる。いくつかの実施形態において、高圧によって、及び/又は、硬化剤又は触媒を混合することによって、硬化を促進することができる。本明細書で使用される「硬化された」なる表現は、重合性組成物を硬化条件におき、これにより、当該組成物における反応基の少なくとも過半数を反応させて、固相の重合体を形成することをいう。当業者に理解されるように、重合性組成物をオートクレーブなどの硬化条件におくことで、より多くの反応基が反応した硬化組成物が得られるので、同じ重合性組成物であっても、硬化条件におかれていないもの、或いは、硬化温度が例えば約20℃~約25℃である周囲温度などのように低かったり、硬化時間が短かったりするなどして硬化が少ないものに比べて、硬化度合いが高い。
【0040】
いくつかの実施形態において、硬化は、1つ又は複数の共硬化性フィルム層と複合構造を一緒に、約50℃超の温度で、例えば、約65℃~約200℃までの範囲、又は、約121℃~約185℃までの範囲の温度で焼成することを含む。いくつかの実施形態において、硬化は、1つ又は複数の共硬化性フィルム層と複合構造を48時間未満の時間をかけて、例えば、24時間未満、又は、約2時間~約12時間の範囲の時間をかけて焼成することを含む。
【0041】
いくつかの実施形態において、共硬化は、オートクレーブ、オーブン硬化、又は、脱オートクレーブ硬化(out-of-the-autoclave curing)を用いて行うことができる。本明細書で使用される「脱オートクレーブ」とは、例えば、本開示の共硬化性フィルム層などを含むプリプレグのレイアップを密閉型に封入することを含むプロセスをいう。次いで、オートクレーブ以外の既存の手法、例えば樹脂トランスファー成形プレスを用いて、真空圧、圧力、及び熱を加える。他の特定の実施形態において、共硬化は、オートクレーブを用いて少なくとも121℃の温度で行われる。
【0042】
本開示の共硬化性フィルム組成物に用いられる適切な熱硬化性樹脂の例には、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、並びに、例えば、ビスマレイミド(BMI)及び/又はポリエーテルイミドなどのポリイミド樹脂が含まれる。特定の実施形態において、本開示の共硬化性フィルム組成物に用いられる適切な熱硬化性樹脂の例には、硬化するとポリウレタンを形成する、少なくとも1種のポリイソシアネート及び少なくとも1種のポリオールが含まれる。本明細書において使用される「ポリウレタン」なる用語は、ウレタン(カルバミン酸塩)結合、尿素結合、又は、例えばポリウレタン尿素などのように、その両方の組み合わせを含有するポリマーをいう。したがって、本開示のポリウレタンは、少なくともウレタン結合を含み、また、任意の要素として尿素結合を含みうる。
【0043】
いくつかの実施形態において、本開示の共硬化性フィルム組成物は熱硬化性樹脂を含み、その含有量は、共硬化性フィルム組成物の総重量に対して約5~約100重量パーセント(wt%)であり、例えば、約15~約75wt%、又は、約25~約60wt%の範囲である。
【0044】
いくつかの実施形態において、本開示の共硬化性フィルム組成物は、非導電性の添加物をさらに含み、例えば、フィラー、流れ調整剤(flow control agent)、強化剤、安定剤(例えば、酸化防止剤、熱安定剤、及び紫外線(UV)安定剤)、硬化剤、及び/又は触媒などを含む。
【0045】
本開示の共硬化性フィルム組成物に用いられる適切な非導電性のフィラーの例には、粉砕又は沈降チョーク(ground or precipitated chalks)、石英粉末、アルミナ、ドロマイト、炭素繊維、ガラス繊維、ポリマー繊維、二酸化チタン、溶融シリカ、カーボンブラック、酸化カルシウム、炭酸カルシウムマグネシウム、バライト、及び、特に、ケイ酸塩系マグネシウムアルミニウム(aluminum magnesium calcium silicate type)のケイ酸塩類似フィラー(silicate-like fillers)が含まれる。他の適切な非導電性フィラーとし
ては、セラミックス及びヒュームドシリカがある。これらのフィラーは、例えばフレーク状、粉末状、繊維状、マイクロスフェア状、又はガラスバルーン状であり、これらは中実構造であっても、中空構造体であってもよい。フィラーについてのより詳しい説明は、例えば、米国特許第4,980,234号に開示されている。なお、同特許は、参照によりその内容すべてが本願に組み込まれるものとする。
【0046】
いくつかの実施形態において、本開示の共硬化性フィルム組成物におけるフィラーの含有量は、共硬化性フィルム組成物の総重量に対して約0wt%~約40wt%の範囲、例えば、約5wt%~約30wt%の範囲でもよい。
【0047】
共硬化性フィルム組成物のレオロジー特性(rheological properties)を調整するために、流れ調整剤を用いることができる。適切な流れ調整剤の例には、ヒュームドシリカ及び金属粉末が含まれる。流れ調整剤の含有量は、組成物の総重量に対して約0wt%~約40wt%の範囲、例えば、約0.1wt%~約10wt%の範囲でもよい。
【0048】
いくつかの実施形態において、共硬化性フィルム組成物に強化剤を添加して、硬化後のフィルムにおける剛性及び表面硬度を調整することができる。特定の実施形態において、強化剤は、ポリマーでも、オリゴマーでもよく、ガラス転移温度が約20℃未満(例えば、約0℃未満、約-30℃未満、又は約-50℃未満)であり、及び/又は、加熱によって硬化する際に、共硬化性フィルム組成物の他の成分と反応しうるカルボン酸基、アミノ基、及び/又はヒドロキシル基などの官能基を含みうる。
【0049】
適切な強化剤の例には、エラストマー系強化剤があり、例えば、カルボキシル化ニトリル(例えば、Nipol(登録商標)1472、ZeonChemical,Inc.)、カルボキシル基末端ブタジエンアクリロニトリル(CTBN)、カルボキシル末端基ポリブタジエン(CTB)、ポリ(エーテルエーテルケトン)(PEEK)、及びポリエーテルケトンケトン(PEKK)などがある。適切な強化剤の他の例は、例えば米国特許第4,980,234号、米国特許出願公開第2008/0188609号、国際特許公開第WO2008/087467号に記載されている。なお、これら各文献は、参照により、その内容すべてが本願に組み込まれるものとする。特定の実施形態において、強化剤の濃度は、組成物の総重量に対して約5wt%~約40wt%の範囲、例えば、約1wt%~約30wt%の間でもよい。
【0050】
共硬化性フィルム組成物は、任意の添加剤としてUV安定剤を含みうる。いくつかの実施形態において、UV安定剤は、紫外線吸収剤、酸化防止剤、顔料、遮断剤、及びフィラーを含む。いくつかの実施形態において、UV安定剤としては、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン(UV-9)、2,4-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-6-(2-ヒドロキシ-4-オクチルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ安息香酸、n-ヘキサデシルエステル、二酸化チタン、及びカーボンブラックが含まれる。いくつかの実施形態において、各UV安定剤の含有量は、組成物の総重量に対して約0.1wt%~約5wt%の範囲、例えば、約0.5wt%~約3wt%でもよい。
【0051】
本開示の共硬化性フィルム組成物に添加できる適切な硬化剤及び/又は触媒の例には、脂肪族及び芳香族の第1級アミン、並びに、脂肪族及び芳香族の第3級アミンが含まれる。例えば、アミン系の硬化剤及び/又は触媒には、ジシアンジアミド、ビス尿素(例えば、2,4-トルエンビス-(ジメチル尿素)、4,4’-メチレンビス-(フェニルジメチル尿素)、及び、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン(4,4-DDS)が含まれる。適切な硬化剤及び/又は触媒には、他にも、三フッ化ホウ素錯体、グアニジン、及びジシアンジアミドがある。適切な硬化剤及び/又は触媒の他の例は、例えば米国特許第4,980,234号、及び米国特許出願公開第2008/0188609号に記載されている。なお、これら各文献は、参照により、その内容すべてが本願に組み込まれるものとする。特定の実施形態において、本開示の共硬化性フィルム組成物に含まれうる1種以上の硬化剤及び/又は触媒の含有量は、共硬化性フィルム組成物の総重量に対して約0.1wt%~約40wt%の範囲、例えば、約0.5wt%~約10wt%でもよい。
【0052】
共硬化性フィルム組成物に含まれうる任意の適切な添加物には、他にも、例えば、架橋剤(例えば、アルミニウム又はメラミン架橋剤)、結合剤、腐蝕防止剤、可塑剤、及び/又は、当業者に従来から知られているその他の添加剤がある。いくつかの実施形態において、本開示の共硬化性フィルム組成物は、さらに導電性材料を含みうる。
【0053】
いくつかの実施形態において、本開示の共硬化済みフィルム層の厚みは、複合構造の表面に硬化された状態で約1ミル~約15ミルの範囲であり、例えば、約2ミル~約10ミルの範囲、約3ミル~約7ミルの範囲、又は、約3ミル~約4ミルの範囲である。なお、1ミルは、25ミクロンと略等しい。
【0054】
本開示の共硬化性フィルム層は、さらに、例えば顔料又は色素など、少なくとも1種類の着色剤を含んでもよいし、或いは、着色されたマーキング素材が表面に印刷されていてもよい。特定の実施形態においては、少なくとも1種類の着色されたマーキング素材が共硬化性フィルム層に印刷され、特定の実施形態においては、少なくとも1種類の着色剤が共硬化性フィルム組成物に混合される。少なくとも1つの着色剤は、共硬化性フィルム層の色及び外観を変えるために用いられる。本明細書で使用される「着色剤」なる用語は、共硬化性フィルム層に色をつける任意の物質を指し、着色剤(当業界で知られている)と顔料の両方を含みうる用語である。適切な着色剤としては、例えば、二酸化チタン、カーボンブラック、黒色顔料、及びその他の色素があり、無機顔料と有機顔料の両方が含まれる。着色剤は、フレーク状、粉末状、繊維状、又は、濃縮着色液(color concentrate liquid)の形態をとりうる。1つの共硬化性フィルムに複数の着色剤を添加することができる。特定の実施形態において、着色剤は、溶媒又は水をベースとする着色剤である。特定の実施形態において、着色剤は、例えば、反射率を高める、真珠光沢を付加する、艶出しをするなどの特殊な効果を共硬化性フィルム層に付与するものである。
【0055】
なお、再活性化の対象である共硬化済みフィルム層は、基板に共硬化済みのフィルム層であることは理解されよう。ただし、共硬化済みフィルム層の下に、例えば、他の装飾用のコーティング層又は共硬化済みフィルム層、プライマー層、中間層、及び、化成又は耐食コーティング層などの様々なコーティング層が設けられていてもよい。
<表面再活性化処理剤>
【0056】
本開示は、複合構造に設けられた共硬化済みフィルムの表面に塗布することができる表面再活性化処理剤を開示する。本開示の表面再活性化処理剤は、少なくとも2つの溶剤と、表面交換剤と、を含み、加えて、任意の要素として1つ以上の添加剤を含みうる。本開示の方法によれば、少なくとも2つの溶剤、表面交換剤、及び任意の添加剤は、再活性化処理剤として混合した形態で、共硬化済みフィルム層に塗布することができる。本開示の再活性化処理剤は、様々な物理的形態をとることができ、例えば、溶液、懸濁液、混合物、エアロゾル、エマルジョン、ペースト、又はそれらの組み合わせなどの形態をとることができる。一態様において、再活性化処理剤は、溶液、懸濁液、又はエアロゾルの形態をとる。
【0057】
再活性化処理剤は、限定するものではないが例えば、攪拌機、シェーカ、高速ミキサ、内部ミキサ、スタティックミキサなどのインラインミキサ、押出機、ミル、超音波及びガス分散機などの当業者に知られている任意の混合装置によって、又は、完全手作業の振とうによって、各種成分を混合して調製することができる。再活性化処理剤が溶液の形態である場合は、当該溶液を濃縮物として調製し、使用前に希釈するようにしてもよいし、そのまま使用できるように調製してもよい。
【0058】
特定の実施形態において、再活性化処理剤は、スプレー調合物として調製されうる。また、特定の実施形態において、再活性化処理剤は、共硬化済みフィルム層に塗装可能な状態に調製されうる。そのような調合物の成分は、例えば、スプレー塗り又はハケ塗り用の調合物など、特定の環境における使用に適した特定のレオロジー又は粘度を有する調合物が得られるように選択可能であることは理解されよう。スプレー調合物であれば、特定のスプレーガン及び系(例えば、圧力、流量、及びノズル直径など)での使用に合わせて調製することが可能である。前記調合物は、例えば、湿潤膜を提供するものであって、乾燥すると、厚み約0ミクロン~約15ミクロンの粉末、例えば、厚み約0.1ミクロン~約5ミクロン、約0.5ミクロン~約2ミクロン、又は約0.1ミクロン~約1ミクロンの粉末を形成するものでもよい。前記調合物は、約1m2/L~約50m2/Lの被覆率、例えば、約15m2/L~約30m2/Lの被覆率を提供するものでもよい。
【0059】
溶媒:本開示の再活性化処理剤は、溶媒を含み、この溶媒は、単一の溶媒であってもよいし、2種類以上の溶媒を組み合わせたものでもよい。特定の実施形態において、表面再活性化処理剤は、少なくとも2種類の溶媒を含む。これら少なくとも2種類の溶媒は、産業利用に適した有機溶媒から選択可能である。例えば、少なくとも2種類の溶媒は、エステル、ケトン、エーテル、及びアルコールから選択することができ、これにより、再活性化処理剤がさらなる効果を発揮するようにでき、例えば、いくつかの態様では、基板に設けられた共硬化済みフィルム層の表面の分断(disruption)を促進するように、或いは、表面交換剤及び/又は任意の追加の添加物など、再活性化処理剤における他の成分に有効な担持体を提供するようにできる。特定の実施形態において、前記溶媒は、基板に設けられた共硬化済みフィルム層の表面に対して、噴霧によって有効に塗布可能な液体調合物を提供するものでもよい。また、特定の実施形態において、前記溶媒は、基板に設けられた共硬化済みフィルム層の表面に対して、例えば、ブラシ塗装によって効果的に塗装可能な液体調合物を提供するものでもよい。前記溶媒は、ヒドロキシル、エーテル、ケトン、及びエステルから選択される1つ以上(例えば1~4個)の官能基を有するC1-12アルキルから選択される1種以上の有機溶媒でもよい。アルキル基は、1つ以上の官能基で中断及び/又は置換されていてもよいことは、理解されよう。本明細書で使用される「C1-12アルキル」とは、1~12個の炭素原子を有する直鎖又は分岐鎖飽和炭化水素を指し、1つ以上の官能基で置換及び/又は中断されていてもよい。特定の実施形態において、前記溶媒は、上述のように中断及び/又は置換されたC3-10アルキルから選択される1つ以上の有機溶媒であってもよい。
【0060】
好適な有機溶媒又は溶媒の組み合わせは、再活性化処理剤に含まれる表面交換剤及び任意の添加物にもよるが、さらなる効果を奏することができ、そのような溶媒又は溶媒の組み合わせには、限定するものではないが例えば、以下のものが含まれる。即ち、(a)ケトン類、例えばメチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルアミルケトン、メチルイソアミルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン、及びアセトンなど;(b)アルコール類、すなわち、芳香族アルコール、例えばベンジルアルコール;C1-6又はC1-4アルコールを例とする脂肪族アルコール、例えば、第3級ブタノール、n-ブノール、第2級ブタノール、イソプロピルアルコール、n-プロパノール、エタノール、及びメタノール;環式アルコール、例えば、シクロヘキサノール;及び、グリコール、例えば、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、及びポリプロピレングリコール;(c)エーテル類、すなわち、グリコールエーテル、例えば、グリコールのジC1-6アルキルエーテルな
どのグリコールジエーテルであって、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、及びポリプロピレングリコールなどのアルキレングリコールのジエーテルを含み、限定するものではないが、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、又はジエチレングリコールのメチルブチルエーテル、及びテトラヒドロフランなどの環式エーテルを含む;及び、(d)エステル類、例えばエチルアセテート、プロピルアセテート、イソプロピルアセテート、ブチルアセテート、イソブチルアセテート、第3級ブチルアセテート、及びグリコールエーテルアセテートなど;又は、それらの任意の組み合わせ、が含まれる。
【0061】
特定の実施形態において、少なくとも1種類の溶媒は、以下のうちから選択されうる。即ち、アルコール類、例えばエタノール、メタノール、エトキシエタノール、プロパノール、イソプロパノール又はn-プロパノール、ブタノール、第3級ブタノール、及び第2級ブタノールなど;及び、エーテル溶媒、例えば、エチレングリコール及びプロピレングリコールのC1-6アルキルエーテル又はその組み合わせ(即ち混合エーテル)であって、
限定するものではないが例えば、グリム(ジメトキシエタン)、ジグリム、トリグリム、テトラグリム、及びジプロピレングリコールジメチルエーテルなど、並びに、例えばテトラヒドロフランなどの環式エーテルなどを含むもの、から選択されうる。
【0062】
溶媒の組み合わせとしては、グリコールエーテル:ジプロピレングリコールジメチルエーテルなどのアルコールの組み合わせ:イソプロパノール又はn-プロパノール;エーテル:ジプロピレングリコールジメチルエーテルなどのアルコールの組み合わせ:イソプロパノール又はn-プロパノール、メタノール、イソブタノール、第2級ブタノール、第3級ブタノール、エトキシエタノール及び/又はエチルヘキサノール;エチレングリコールモノメチルエーテル:エタノール、メタノール、エトキシエタノール及び/又はイソプロパノール;ジプロピレングリコール-モノメチルエーテル、ジプロピレングリコール-モノブチルエーテル、及び/又はジプロピレングリコールなどのグリコール及びモノエーテルの組み合わせ;テトラヒドロフランなどのエーテルの組み合わせ:トリグリム及びテトラヒドロフラン:ジプロピレングリコールジメチルエーテル;メチルエチルケトン、メチルアミルケトン、メチルプロピルケトンなどのケトン類を含む溶媒の組み合わせ、がある。典型的な溶媒の組み合わせとしては、高沸点の溶媒と低沸点の溶媒との組み合わせがある。
【0063】
そのような溶媒の組み合わせとしては、エーテル:アルコールの組合せ、例えばグリコールエーテル、例えばグリコールジエーテル、例えばジプロピレングリコールジエーテルを含むアルキレングリコールのジエーテル、例えばジプロピレングリコールジメチルエーテル、及び脂肪族アルコールなどのアルコール類、例えばイソプロパノール又はn-プロパノールなどのC1-6又はC1-4アルコールがある。
【0064】
特定の実施形態において、本開示の溶媒は、表面交換剤の析出を低減又は防止すべく、約800ppm未満の水、例えば、約700ppm未満、600ppm未満、500ppm未満、400ppm未満、300ppm未満、200ppm未満、又は100ppm未満の水を含みうる。特定の実施形態において、再活性化処理剤は、無水形態の溶媒を含む。特定の実施形態においては、再活性化処理剤に水を加えないことが要求され、特定の実施形態においては、再活性化処理剤は、水を含まない。
【0065】
少なくとも2種類の溶媒の含有量は、(再活性化処理剤の総重量に対して)約99.5%未満であり、例えば、約99%、98%、97%、96%、95%、94%、93%、92%、91%、90%、89%、88%、87%、86%、又は85%未満である。特定の実施形態において、少なくとも2種類の溶媒の含有量は、(再活性化処理剤の総重量に対して)約85%超であり、例えば、約86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%超である。特定の実施形態において、少なくとも2種類の溶媒の含有量は、これらの値のうちの任意の2つの値の間の範囲でもよい。例えば、再活性化処理剤に含まれる少なくとも2種類の溶媒の含有量は、約86%~約99.5%の間であり、例えば、約90%~約99.5%の間、約92%~約99%の間、又は、約94%~約98%の間の範囲でもよい。一態様において、少なくとも2種類の溶媒の含有量は、再活性化処理剤の総重量に対して約90%超であり、例えば、約95%~約98%の間の範囲である。
【0066】
再活性化処理剤は、上述の少なくとも2種類の溶媒に加えて、追加溶媒をさらに含みうる。本明細書において、上述の少なくとも2種類の溶媒であって、追加の溶媒を含んでいないものを、「組成溶媒(composition solvent)」ともいう。したがって、前記少なくとも2種類の溶媒は、「組成溶媒」から成り、任意の要素として「追加溶媒」を含むことができ、任意の要素として、偶発的不純物を含む場合があり、任意の要素として、本明細書に記載したように少量の水を含みうる。特定の実施形態において、前記「追加溶媒」の含有量は、(再活性化処理剤の総重量に対して)約10%未満であり、例えば、約9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、又は1%未満である。一態様において、追加溶媒は、組成溶媒についての選択肢と同じものであってもよい。例えば、特定の実施形態において、追加溶媒は、例えば、アセテート及びアルコールのうちの少なくとも一種、例えばメトキシプロピルアセテート、メトキシプロパノール、及びイソプロパノールの少なくとも1種から選択されうる。
【0067】
表面交換剤:本開示の再活性化処理剤は、少なくとも2種類の溶媒に加えて、少なくとも1種類の表面交換剤を含む。適切な表面交換剤としては、共硬化済みフィルム層の表面交換を促進するものが含まれる。表面交換を促進する適切な表面交換剤は、エステル交換剤を含みうる。例示的なエステル交換剤は、チタネート及びジルコネート又はそのキレートから、例えばC1-10アルキルチタネート、C1-10アルキルチタネートキレート、C1-10アルキルジルコネート、及びC1-10アルキルジルコネートキレートなどから選択されうる。具体例としては、テトライソプロピルチタネート、テトラ-n-プロピルチタネート、テトラ-n-ブチルチタネート、テトラ-2-エチルヘキシルチタネート、テトラエチルチタネート、テトラ-n-プロピルジルコネート、テトラ-n-ブチルジルコネート、及びそれらの組み合わせが含まれる。特定の実施形態において、少なくとも1種類の表面交換剤は、テトラ-n-プロピルジルコネート、テトラ-n-ブチルジルコネート、ジルコニウム-n-プロポキシド、テトラ-n-プロピルチタネート、テトラ-イソプロピルアルコール、及びテトラ-n-ブチルチタネートのうちの少なくとも1種類から選択される。
【0068】
再活性化処理剤に含まれうる少なくとも1種類の表面交換剤の含有量は、(再活性化処理剤の総重量に対して)約0.001%超であり、例えば、約0.01%、0.05%、0.1%、0.5%、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、又は10%超である。特定の実施形態において、含まれうる少なくとも1種類の表面交換剤の含有量は、(再活性化組成物の総重量に対して)約10%未満であり、例えば、約9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.1%、0.05%、又は0.01%未満である。特定の実施形態において、少なくとも1つの表面交換剤の含有量は、(再活性化組成物の総重量に対して)これらの値のうちの任意の2つの値の間の範囲でもよい。例えば、少なくとも1種類の表面交換剤の含有量は、約0.05%~約10%の間であり、例えば、約1%~約8%の間、又は、約2%~約6%の間の範囲でもよい。一態様において、少なくとも1種類の表面交換剤種類の含有量は、再活性化組成物の総重量に対して約1%~約8%の間の範囲である。
【0069】
任意の添加物:本開示の再活性化処理剤は、例えば、乾燥時間を変更したり、腐食を低減したりするための少なくとも1種類の任意の添加剤を含みうる。そのような添加剤には、限定するものではないが例えば、耐食添加剤、及び、色素や顔料などの着色剤が含まれる。上述の少なくとも1種類の任意の添加剤は、例えば、再活性化剤が噴霧又は塗装された箇所を示すUV蛍光色素などの着色剤でもよい。
【0070】
特定の実施形態において、本開示の再活性化処理剤に含まれる、上述の少なくとも1種類の任意の添加剤は、ナノ粒子から成るものでもよい。本明細書で使用される「ナノ粒子」なる用語は、約500nm未満の粒径、例えば約450nm、400nm、350nm、300nm、250nm、200nm、150nm、100nm、90nm、80nm、70nm、60nm、50nm、40nm、30nm、20nm、10nm、又は5nm未満の粒径を有する粒子を意味する。これらのナノ粒子は、有機ナノ粒子でも、無機ナノ粒子でもよい。有機ナノ粒子の例には、カーボンブラックなどのカーボン系ナノ粒子が含まれる。無機ナノ粒子の例には、アルミニウム、ジルコニウム、ケイ素、アンチモン、セリウム、ガドリニウム、コバルトインジウム、モリブデン、ネオジム、テルル、イットリウム、ユーロピウム、バリウム、銅、リチウム、チタン、タングステンの金属酸化物、炭化ケイ素などの炭化物、BaSO4などの硫酸塩、CaCO3などの炭酸塩、Ca3(PO42及びFePO4などのリン酸塩、BiOCl、及びイットリア安定化ジルコニアが含まれる。
【0071】
後述するように、すべての添加剤は任意であり、再活性化処理剤の塗布をさらに改善すべく、又は、最終的に形成されるコーティング系の性能特性をさらに向上させるべく、再活性化処理剤に添加することができる。適切な添加剤としては、例えば、以下のものが含まれる。即ち、(a)レオロジー調節剤、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(例えばMethocel(登録商標)311)、変性尿素(例えばByk(登録商標)411、Byk(登録商標)410)、セルロースアセテートブチレート(例えばEastmanCAB-551-0.01、CAB-381-0.5、CAB-381-20)、及びポリヒドロキシカルボン酸アミド(例えばByk(登録商標)405)など;(b)湿潤剤,例えば、フルオロケミカル界面活性剤(例えば3MFluorad(登録商標))など;(c)界面活性剤、例えば、脂肪酸誘導体(例えば、AkzoNobel(登録商標)、BermodolSPS 2543)、第4級アンモニウム塩、イオン性界面活性剤、及び非イオン性界面活性剤など;(d)分散剤、例えば、第1級アルコール系の非イオン性界面活性剤(例えば、Merpol(登録商標)4481、DuPont)及びアルキルフェノール-ホルムアルデヒド-ビスルフィド縮合物(例えばClariant(登録商標)Dispersogen(登録商標)1494)など;(e)消泡剤;(f)レベリング剤、例えば、フルオロカーボン変性ポリマー(例えばEFKA(登録商標)3777)など;(g)顔料、例えば、航空宇宙用塗料組成物で使用される顔料であって、これには、有機フタロシアニン、キナリドン、ジケトピロロピロール(DPP)、及びジアリド誘導体、並びに(例えば再活性化処理剤、及びその塗布箇所の視認性を高めるための)無機酸化物顔料が含まれうる;(h)例えば、蛍光剤(RoyalePi
gment and Chemicals)(例えば再活性化処理剤及びその塗布箇所の視認性を高めるために用る)、フルオレセイン、及びフタロシアニンなどの有機及び無機色素を含む色素;(i)耐食添加剤、例えば、リン酸エステル(例えばADDAPT、Anticor(登録商標)C6)、(2-ベンゾチアゾリチオ)コハク酸のアルキルアンモニウム塩(例えばIrgacor(登録商標)153)、トリアジンジチオール、及びチアジアゾールなど、が含まれる。
【0072】
本開示の特定の実施形態において、少なくとも1種類の任意の添加剤は、シラン及びシロキサンから成る、或いは、含有するものではなく、よって、特定の実施形態における再活性化処理剤は、シラン又はシロキサンを含有しない。
【0073】
再活性化処理剤に少なくとも1種類の任意の添加剤が含まれる場合、当該1種類の任意の添加剤の含有量は、再活性化処理剤の総重量に対して例えば約10%未満である。例えば、任意の添加剤が含まれる場合、すべての添加剤を合わせた含有量は、約10%未満であり、例えば、約9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.1%、又は0.05%未満である。特定の実施形態において、任意の添加剤が含まれる場合、すべての添加剤を合わせた含有量は、約0.01%超であり、例えば、約0.05%、0.1%、0.5%、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、又は9%超である。特定の実施形態において、任意の添加剤が含まれる場合、すべての添加剤を合わせた含有量は、上述の値のうちの任意の2つの値の間の範囲、例えば、約0.01%~約10%の範囲でもよく。例えば、約0.05%~約5%の間、例えば、約0.1%~約3%の間、或いは、約0.5%~約2%の間の範囲でもよい。
<追加コーティング層>
【0074】
本開示の再活性化処理方法によれば、基板に共硬化済みのフィルム層に対して再活性化処理剤を塗布した後に、少なくとも1つの追加コーティング層が塗布される。本明細書で使用される「追加コーティング層」なる表現は、その最も広い意味で用いられており、装飾用のトップコート;アンダーコート;中間コーティング;プライマー;シーラー;ラッカー;着色されたコーティング又は透明コーティング(例えば、クリアコート)、防食、耐熱性若しくはカモフラージュなどの特定の目的のために設計されたコーティング;高光沢、つや消し、テクスチャー仕上げ若しくは平滑仕上げ用コーティング;及び/又は、金属、雲母若しくはガラスのフレークなどの特殊添加剤を含有するコーティングをいう。特定の実施形態において、少なくとも1つの追加のコーティング層は、クリアコート又は透明被覆である。
【0075】
いくつかの実施形態において、本開示の再活性化処理方法によって共硬化済みフィルム層に塗布される少なくとも1種類の追加のコーティング層は、共硬化済みフィルム層のサンディングを伴うような従来の再活性化方法によって塗布される追加のコーティング層に比べて、化学物質、又は紫外線(UV)などの太陽放射線といった環境条件の影響を緩和することができる。例えば、複合構造の表面は、太陽放射線など、複合構造を劣化させる特定の環境条件に暴露されうる。これに対し、本開示の再活性化方法に追加されるコーティング層は、本開示の再活性化処理剤の塗布によらない追加コーティング層に比べて、そのような環境条件に対する耐性が高い。いくつかの例示的な実施形態において、複合構造は、共硬化済みフィルム層と、本開示の再活性化方法によって当該層に追加された少なくとも1種類の層と、を含むものであり、例えば、約200ナノメートル~約800ナノメートル、例えば、約200ナノメートル~約400ナノメートルの紫外線に対する耐紫外線性を有する。
【0076】
特定の実施形態において、本開示の再活性化処理方法によって共硬化済みフィルム層に塗布される少なくとも1種類の追加コーティング層は、共硬化済みフィルム層のサンディングを伴うような従来の再活性化方法によって塗布される追加コーティング層に比べて、共硬化済みフィルム層に対して高い接着力を発揮する。詳細は後述するが、共硬化済みフィルム層に対する少なくとも1つの追加コーティング層の接着力(例えば、コート間接着力)は、当業界で知られている手法により測定することができる。
<表面再活性化処理の方法>
【0077】
本開示の再活性化処理方法は、基板又は基板上の中間層に先に硬化された共硬化済みフィルム層の表面に対して、再活性化処理剤又は当該再活性化処理剤の各成分を塗布することを含む。例えば、本開示の再活性化処理方法は、先に基板に付着させた共硬化済みのフィルムに対して、接着力を再活性化する処理(例えば、機械的研磨などの粗面処理)なしでも、新たに塗布するコーティング層又は要素が適切に付着する塗布時間窓を経過する状態まで硬化又はエージングが進行した状態の部位に利用することができる。
【0078】
上述の塗布時間窓は、当業者には理解されるように、環境的な時間枠を定義するものであって、新たに塗布した任意のフィルム層は、その上にさらに塗布するコーティングに対して適切な接着が得られる時間窓を超えてエージング又は硬化が進行すると、運航性能要件を満たす接着が得られなくなる。例えば、基板に設けられた共硬化済みのフィルム層の硬化において、当該時間枠を経過した後は、新たなコーティングに対する接着が性能要件を満たさなくなる。理論によって制約されることを望むものではないが、共硬化済みフィルム層の表面に再活性化処理剤を塗布することで、共硬化済みフィルム層をある程度膨潤させることができ、これにより再活性化処理剤におけるポリマー鎖の網状構造の絡み合いを拡げることができると考えられる。このような共硬化済みフィルム層の膨潤により、ポリマー間に空間が形成され、新たに塗布される追加コーティング層が入り込むことができる。さらに、理論によって制約されることを望むものではないが、本開示の方法における再活性化処理剤は、新たに塗布する追加コーティング層における反応部位と、共硬化済みフィルム層における反応部位との間に化学的な「橋」を形成することによって、共硬化済みフィルム層を再活性化させると考えられる。
【0079】
特定の実施形態において、共硬化済みフィルム層は、高温にて硬化を施されたものである。例えば、特定の実施形態において、共硬化済みフィルム層は、約50℃超の温度で、例えば、少なくとも約65℃、約100℃、少なくとも約121℃、少なくとも約150℃、少なくとも約175℃、少なくとも約185℃、又は少なくとも約200℃で硬化を施されたものである。特定の実施形態において、共硬化済みフィルム層は、約65℃~約200℃の温度範囲で、例えば、約100℃~約185℃、又は約121℃~約175の温度範囲で硬化を施されたものである。さらなる実施形態において、共硬化済みフィルム層は、約48時間未満の時間長で、例えば約24時間未満、約12時間未満、約8時間未満、又は少なくとも約2時間の時間長で硬化を施されたものである。特定の実施形態において、共硬化済みフィルム層は、約2時間~約24時間の範囲の時間長で、例えば、約2時間~約12時間、又は約2時間~約4時間の範囲の時間長で硬化を施されたものである。さらなる実施形態において、共硬化済みフィルム層は、約65℃~約200℃の温度範囲で、例えば、約100℃~約185℃、又は約121℃~約175℃の温度範囲で、且つ、約2時間~約24時間の範囲の時間長で、例えば、約2時間~約12時間、又は約2時間~約4時間の範囲の時間長で硬化を施されたものである。特定の実施形態において、共硬化済みフィルム層は、50℃超の温度で硬化を施されたものである。特定の実施形態において、共硬化済みフィルム層は、オートクレーブにおいて約185の温度及び約2時間~約12時間の時間長で硬化を施されたものである。
【0080】
基板に既に設けられた共硬化済みフィルム層は、事後硬化された、エージングを施された、及び/又は使用中のコーティングであってもよい。使用中のコーティングとは、先に塗布及び硬化済みであって、運航に適したコーティングであるか、或いは、例えば、既に少なくとも一度飛行した航空機の航空機パネルなどで実際に運航に使用されたコーティングをいう。塗布時間窓は、共硬化済みフィルム層の種類及び/又は基板の種類に依存するもので、また、硬化プロセスに関する他の要因、例えば時間、湿度、温度、圧力、UV照射の種類なども考慮すべき場合がある。
【0081】
本開示の再活性化処理方法は、共硬化済みフィルム層の表面を改質して、追加コーティングに対する接着を形成する相互作用を促進する化学的方法であることは理解されよう。理論によって制約されることを望むものではないが、溶媒及び表面交換剤が共硬化済みフィルム層改質剤と相互作用することによって、コーティング表面の化学的性質及び/又は表面構造が改質され、これにより、当該表面が、限定するものではないが例えば、少なくとも1つの追加コーティング層などの他の要素に対して、より受容性の高い表面になると考えられる。これらの溶媒、表面交換剤、及び任意の添加剤は、共硬化済みフィルム層と、その下層コーティング及び基板構造全体の完全性が維持されるように選択されうる。加えて、コーティングされていない基板表面に再活性化処理剤が偶発的に接触する場合に備えて、基板との適合性についても考慮して選択されうる。
【0082】
再活性化処理剤又はその1つ以上の成分の塗布は、当業者に知られている任意の液体塗布方法を用いて行うことができ、例えば、スプレー、ブラシ、浸漬、ナイフ、ブレード、ホース、ローラ、ワイプ、カーテン、フラッド、フロー、ミスト、ピペット、エアロゾル、又はそれらの組み合わせを用いることができる。一態様において、塗布は、例えば噴霧によって行われるものであり、再活性化処理剤は、スプレー用に調合された再活性化調合物でもよい。
【0083】
本開示の再活性化方法は、例えば、約10℃~約35℃の範囲の周囲温度で、例えば、約15℃~約30℃、又は約20℃~約25℃で実行されうる。また、本再活性化方法は、概ね典型的な大気圧(例えば、約90kPa~約105kPaの範囲、例えば約101kPa)近傍の圧力で実施されうる。後から塗布される追加コーティングも、同じく周囲温度で、例えば約10℃~35℃の範囲の温度で硬化されうる。あるいは、後から塗布される追加コーティング又は追加層は、例えば、本明細書に記載の共硬化済みフィルム層の硬化条件(例えば、オートクレーブ)などのように、高温で硬化させることも可能である。特定の実施形態において、再活性化処理剤の塗布に際し、共硬化済みフィルム層及び基板を予熱する工程は不要である。
【0084】
再活性化処理剤又はその1つ以上の個々の成分は、小さな面積又は大きな面積に対して、大型部材や部品の一部に対して、或いは、インフラ構造全体に対して塗布することができる。そのようなインフラ構造には、例えば航空宇宙に関連したもの(例えば航空機)、自動車に関連したもの(例えば車両)、船舶に関連したもの(例えば船)、輸送関連のもの(例えば列車)、軍事関連のもの(例えばヘリコプター、ミサイル)、又は建設産業に関連したもの(例えば、建物、工場、フロア)がある。再活性化処理剤が塗布される表面は、単純な幾何形状でも複雑な幾何形状でもよく、二次元形状のものも、三次元形状のものも含まれる。再活性化処理剤は、1つ又は複数の追加コーティング層と相互作用する前に、一度のみ塗布されてもよいし、複数回塗布されてもよい。再活性化処理剤に共硬化済みフィルム層を晒す時間は、特に限定されない。例えば、暴露時間は、例えば、約5分、約10分、又は約15分など短時間でも、或いは、例えば、約12時間、約18時間、又は約24時間など長時間でもよく、いずれにせよ、最外層の共硬化済みフィルム層、及び、下層の共硬化済みフィルム層又はコーティング構造及び基板の完全性は損われない。一態様において、暴露時間は、再活性化処理剤における溶剤のすべて又は一部が蒸発し、共硬化済みフィルム層の表面が目視で乾燥した状態になるように、十分な時間とする必要がある。この時間は、例えば、再活性化処理剤の塗布環境における空気流及び温度に依存しうる。相対湿度が100%に近づくのにともなって、追加のコーティングを塗布可能な塗布時間窓は狭くなる。
【0085】
共硬化済みフィルム層が再活性化された後、1つ又は複数のコーティング層を即座に追加してもよいし、或いは、再活性化された共硬化済みフィルム層の表面の大部分を非汚染状態に維持できれば、一定時間おいてから追加することもできる。追加のコーティング層には、接着剤、シーラント、ピンホール充填剤、ステンシル、標示板、感圧デカール、又はロゴなどの要素が含まれうる。
【0086】
再活性化された共硬化済みフィルム層と追加コーティング層との間の接着、又は、再活性化された共硬化済みフィルム層と基板(又は、その中間にあるコーティング)との間の接着の質が所与の目的に適合しているか否は、当業界で知られている任意の適切な方法を用いて評価することができる。そのような試験としては、例えば、ASTM、ISO、又はSAE(ASTMG-73)などの標準規格、運航時性能をシミュレートする組織内試験方法、運航時性能そのもの、及び実耐久性試験又は加速耐久試験があるが、これに限定されない。
【0087】
航空宇宙用コーティングの場合、水衝撃に基づく試験方法を採用することができ、例えば回転アーム雨食試験、及び、16時間~24時間の浸漬時間で行うシングル・インパクト・ジェット装置(SUA)(MIJA Limited、Cambridge、UK)などを採用することができる。特定の実施形態において、民間航空機における雨食の影響をシミュレーションする回転アーム雨食試験を用いて、航空宇宙用コーティングにおけるコート間接着力を評価することができる。これらの場合、オーバーコートの剥離の度合いが、コート間接着力のレベルに関連しており、オーバーコートの剥離度合いが大きければ、コート間接着力のレベルが低いことを意味し、ここでのオーバーコートとは、再活性化された共硬化済みフィルム層の上に塗布された任意の追加コーティング層のことである。これらの方法については、参考文献であるBerry D. H. and Seebergh J. E., "Adhesion Test Measurement Comparison for Exterior Decorative Aerospace Coatings: Two Case
Studies," Proceedings 26th Annual Adhesion Society Meeting, Myrtle Beach, SC, pp. 228-230 (2003)に記載されている。
【0088】
特定の実施形態において、雨食試験では、模擬的な降雨に30分間暴露した後のオーバーコートの剥離面積%又は最長引裂き長さに基づいて、オーバーコートとその下層コーティングとの間、例えば、本開示の方法によって再活性化された共硬化済みフィルム層と、そこに塗布された追加コーティング層との間のコート間接着度を特定することができる。コート間接着力は、目視による検査又は測定を含む画像分析によって定量化することができる。図2は、上述の雨食試験におけるコーティングの最大引裂き長さ及び剥離面積%に対応する1~10のスケールを視覚的に示している。例えば、図2において、レベル10のコート間接着力は、最大引裂き長さが0.02インチ(0.508mm)の場合に相当し、レベル9のコート間接着力は、最大引裂き長さが0.02~0.06インチ(0.508~1.524mm)且つ除去面積が1%以下の場合に相当し、レベル8のコート間接着力は、最大引裂き長さが0.06~0.12インチ(1.524~3.048mm)且つ剥離面積が5%以下である場合に相当する。同様に、レベル7のコート間接着力は、最大引裂き長さが0.12~0.25インチ(0.508~6.35mm)且つ剥離面積が10%以下である場合に相当し、レベル6のコート間接着力は、最大引裂き長さが0.25~0.5インチ(6.35~12.7mm)且つ剥離面積が25%以下の場合に相当し、レベル5のコート間接着力は、コーティングの剥離面積が25%又は最大引裂き長さが0.75インチ(19.05mm)である場合に相当する。レベル4のコート間接着力は、コーティングの剥離面積が40%又は最大引裂き長さが0.75インチ(19.05mm)を超える箇所がある場合に相当する。レベル3のコート間接着力は、コーティングの剥離面積が50%である場合に相当する。レベル2のコート間接着力は、コーティングの剥離面積が75%である場合に相当し、レベル1のコート間接着力は、コーティングの剥離面積が100%である場合に相当する。本開示の方法によれば、使用されるコーティングの種類を含む様々な要因に依存するものの、再活性化された共硬化済みフィルム層に追加コーティング層を塗布して、例えば、レベル10、9、8、7、6、5、4、3、又は2に相当するコート間接着力を有する追加コーティング層を形成することができる。一態様において、前記レベルは、少なくとも7であり、例えば、少なくとも8又は少なくとも9である。本開示の方法によれば、使用されるコーティングの種類を含む様々な要因にも依存するものの、雨食試験による剥離面積パーセントを約0%に抑えることが可能であり、例えば、約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、又は90%未満、或いは、これらの間の任意の範囲に抑えることが可能である。さらに、本開示の方法によれば、雨食試験による引裂き長さを約1インチ(25.4mm)未満に抑えることが可能であり、例えば、約0.5インチ(12.7mm)未満の引裂き長さ、約0.25インチ(6.35mm)未満の引裂き長さ、約0.12インチ(3.048mm)未満の引裂き長さ、約0.06インチ(1.524mm)未満の引裂き長さ、又は約0.02インチ(0.508mm)未満の引裂き長さに抑えることが可能である。オーバーコートの剥離度合いが大きいほど、弱いコート間接着力を意味することは、理解されよう。
【0089】
特定の実施形態において、シングル・インパクト・ジェット装置(SUA、Cambridge)による試験は、0.8mmのノズルと0.22口径5.5mmのCrosmanAccupell Pointed Pellets(#11246)とを用いるように構成された機器を用いて実施することができる。試験では、水に約16~18時間浸漬し、また、液滴の幾何形状を変化させるために45°の試験片を用いる。また、単一の水ジェットを約600+25m/sの打撃速度で用いる。
【0090】
特定の実施形態において、雨食試験は、1.32m(52インチ)のゼロリフトヘリコプター状プロペラを3,600rpmで回転させる回転アーム雨食試験機を使用して実施することができる。オーバーコート(例えば、再活性化された共硬化済みフィルム層に設けられた追加コーティング層)は、先端エッジを生成するようにマスキングを用いて、80から120ミクロンのペイント厚みに塗布することができる。試験サンプルの中点には、約170ms-1の打撃速度を加える。有効降雨密度は、約2mmの雨滴で2.54×10-5kmh-1(1時間あたり1インチ)に相当する密度とする。特定の実施形態において、雨食の影響は、試験30分後に判定してもよく、試験サンプルのコート間接着力は、上述したようにコーティングの剥離量又は引裂き長さによって評価することができる。
【0091】
共硬化済みフィルム層と基板(又は、その間の層)との接着結合、又は、共硬化済みフィルム層と追加コーティング層との間の付着結合の評価は、例えば、湿式及び乾式クロスハッチけがき試験(wet and dry cross-hatch scribe test)などの、当業界で知られている任意の他の方法を用いて行ってもよい。コーティングの乾燥接着力(dry adhesion)の評価は、ASTM D3359標準規格にしたがった、テープテスト方法Bによる付着力測定方法(ASTM D3359,Standard Test Methods for Measuring Adhesion by Tape Test, Test method B)を用いて行ってもよい。特定の実施形態において、クロスハッチパターンは、各コーティング組成物を貫通して基板まで達するようにけがくことができる。次いで、3M(登録商標)250などの、幅1インチ(25.4mm)のマスキングテープを貼り付ける。次いで、例えば4.5ポンド(約2Kg)のゴム被覆ローラでテープ上を2回通過させて、テープを押し付ける。次いで、テープを、パネルに対して垂直な方向に一気に剥がす。次いで、クロスハッチ領域における塗装を目視で観察してコーティングの剥離面積パーセントを判定して、上述のように接着力を評価する。
【0092】
航空宇宙用途では、本開示の再活性化方法は、再活性化プロセスのフロー時間を改善し、大きな面積全体における、またオペレータ間における再現性及び一貫性を高め、プロセスの人間工学を改善するという利点を提供することができる。これらの利点及び他の利点によって、正味のコストを節約することができる。
【0093】
本開示の方法は、基板に設けられた共硬化済みフィルム層に追加された1つ又は複数のコーティング層の接着を促進するものであって、少なくとも2種類の溶媒と表面交換剤とを含む再活性化処理剤であって、任意の要素として少なくとも1つの添加剤を含みうる再活性化処理剤を共硬化済みフィルム層に塗布することを含み、これにより、共硬化済みフィルム層の表面を再活性化して、追加のコーティング層に対する当該表面の接着力を向上させるものである。これらの溶媒と表面交換剤との組み合わせによって、共硬化済みフィルム層の表面を分断させて接着力を再活性化し、例えば追加コーティングに付着させることができる。これにより、本明細書に記載した航空宇宙ASTMインターコート接着特性などのように、運航性能に適合した有効な接着を実現することができる。
【0094】
本開示の方法は、さらに、1つ又は複数の任意のステップを含んでもよく、例えば、共硬化済みフィルム層の表面に再活性化処理剤を塗布する前に、共硬化済みフィルム層を洗浄するステップ、拭き取るステップ、乾燥させるステップのうちの少なくとも1つを含んでもよい。特定の実施形態において、本開示の方法は、さらに、共硬化済みフィルム層の表面に再活性化処理剤を塗布する前に、共硬化済みフィルム層に洗浄溶剤を塗布することで、この共硬化済みフィルム層を洗浄するステップを含みうる。洗浄溶剤は、再活性化の前に共硬化済みフィルム層の表面を洗浄するように、所望の成分を選択的に追加した任意の溶媒でもよい。洗浄溶剤は、例えば、共硬化済みフィルム層を洗浄溶剤で拭き取ったり、洗浄溶剤を噴霧したりするなど、当業界で知られている任意の手段によって共硬化済みフィルム層に塗布することができる。特定の実施形態において、洗浄溶剤は、例えば、メチルエチルケトン、トルエン、イソプロピルアルコール、及びメチルイソブチルケトンなどの揮発性の有機溶媒を含みうる。共硬化済みフィルム層の表面に洗浄溶剤を塗布することで、汚染物質やデブリを含まない洗浄された状態の共硬化済みフィルム層を確保することができる。再活性化処理剤を共硬化済みフィルム層に塗布する前に行う前処理ステップは、他にも考えられる。例えば、再活性化処理剤を塗布する前に、機械的研磨によって表面の汚染物質を除去するステップ又は洗浄ステップなど、再活性化を伴わないステップを行ってもよい。なお、前処理ステップは、本開示の方法から除外可能であることは理解されよう。例えば、本開示の方法の特定の実施形態において、共硬化済みフィルム層には、当該フィルム層が硬化された後から再活性化剤が塗布される前までの間に、サンディングも機械的研磨も行われない。
【0095】
本開示の方法は、共硬化済みフィルム層の表面に対して再活性化処理剤を塗布した後に、1つ又は複数の任意のステップを含んでもよく、例えば、再活性化された共硬化済みフィルム層の表面を乾燥させるステップ、洗浄するステップ、及び拭き取るステップのうち少なくとも1つを含みうる。一態様において、本方法は、追加コーティング層の塗布に先立って、再活性化された共硬化済みフィルム層の表面を乾燥させるステップを含む。特定の実施形態において、当該乾燥ステップは、少なくとも約15分間、例えば、少なくとも約30分かけて、少なくとも約45分、少なくとも約1時間、少なくとも約2時間、少なくとも約4時間、少なくとも約8時間、少なくとも約1日かけて行われ、或いは、これらの時間長の任意の範囲で、例えば、約15分~約1日、約30分~約8時間、又は、約45分~約4時間などの範囲で行われうる。
【0096】
特定の実施形態において、追加コーティング層は、乾燥状態での膜厚(dft)が平均で少なくとも約1ミルdft(約25ミクロン)になるように、例えば、平均dftが約1ミル~約3ミルの範囲になるように塗布されうる。1つ又は複数の追加コーティング層は、共硬化済みフィルム層の光沢の復元又は改善など、当該追加コーティング層の使用目的に十分な厚みに塗布することができる。少なくとも1つの追加コーティング層は、例えば、少なくとも1ミルの厚みで、例えば、約2ミル~約25ミルの範囲の厚みで塗布される。
【0097】
本プロセスにおける1つ以上のステップは繰り返し行ってもよく、これにより先にコーティングした共硬化済みフィルム層及び基板に対して追加のコーティング層を設けることができることは理解されよう。また、本開示に記載のさらなる態様も、上述の方法に適用可能であることは理解されよう。
【0098】
本教示において、1つ又は複数の例示的な実施形態について説明したが、本開示の請求の範囲又は概念から逸脱することなく、記載した例に変更及び/又は変形を施すことが可能である。さらに、本明細書で使用される「約」なる用語は、説明した実施形態に実質的な影響がない限りにおいて、記載した値をある程度変更可能であることを示す。
【0099】
本開示の方法を航空機のコーティングに関連して説明したが、本開示の方法は、任意の種類の表面にコーティングを施すために実施可能であって、限定されるものではない。この点に関し、当該表面は、例えば、トラクタートレーラを含む自動車の表面、ビルの表面、バナーの表面、或いは、なんらかの絵柄や像が配置される表面を有する任意の種類の可動又は固定の構造体、物体、物品、素材などの表面であってもよい。また、当該表面は、平らな面、単純な曲面、及び/又は、複雑な曲面であってもよい。
[実施例]
【0100】
以下の実施例は、本開示の様々な種をさらに定義するために提示される。本実施例は、あくまでも例示のためのものであり、本開示の範囲を限定することを意図するものではない。特段の記載がない限り、量を示す部数やパーセントは、重量部及び重量パーセントである。
【0101】
先ず、9個のサンプルが準備された。各サンプルは、ポリウレタンを含む共硬化性フィルム層を複合構造の上に設けて、オートクレーブにおいて(圧力を100psi(689.476KPa)まで高め、温度を121℃まで高めた状態を少なくとも1時間維持して)硬化し、サンディングし、その上にコーティング層を塗布することで準備されたものである。第1の追加コーティング層は、ポリアミドのペイントコーティングであり、その上に、ポリウレタンベースコート及びポリウレタンクリアコートを塗布された。これらの追加コーティング層を塗布した後に、各複合構造は、室温で少なくとも14日間かけて硬化させるか、或いは、昇温下(38℃~55℃の間)で少なくとも3日間かけて硬化させるか、のいずれかにより硬化された。次いで、これらサンプルに対して、参考文献であるBerry D. H. and Seebergh J. E., "Adhesion Test Measurement Comparison for Exterior Decorative Aerospace Coatings: Two Case Studies," Proceedings 26th Annual Adhesion Society Meeting, Myrtle Beach, SC, pp. 228-230 (2003)に説明されており、ASTM G-73に類似する回転アーム雨食試験を実施した。複合構造に共硬化したフィルム層にサンディングを施す前に、3つのサンプルについては、紫外(UV)光を照射せず(図3Aを参照)、3つのサンプルについては、200kJ/m2の紫外光を照射し(図3Bを参照)、3つのサンプ
ルについては、1000kJ/m2の紫外光を照射した(図3Cを参照)。
【0102】
図3Aに示す3つのサンプルは、サンディングにより再活性化された共硬化済みフィルム層であって、紫外光が照射されなかったものである。図3Aに示す様に、これら3つのサンプルのうちの少なくとも1つにおいて、フィルム層の劣化が生じていた。例えば、図3Aの上段に示すパネルのコート間接着力(31)は、レベル4相当(即ち、コーティングの剥離が面積の約40%である、或いは、0.75インチ(19.05mm)を超える箇所がある状態)であり、中段に示すパネルのコート間接着力(32)は、レベル6相当であり、下段に示すパネルのコート間接着力(33)は、レベル9相当であった。
【0103】
図3Bに示す3つのサンプルは、サンディングにより再活性化された共硬化済みフィルム層であって、200kJ/m2の紫外光が照射されたものである。また、図3Cに示す3つのサンプルは、サンディングにより再活性化された共硬化済みフィルム層であって、1,000kJ/m2の紫外光が照射されたものである。図3Bに示す様に、200kJ/m2の紫外光が照射されたサンプルにおいてもフィルム層の劣化が生じていた。また、1,000kJ/m2の紫外光が照射されたサンプル(図3Cを参照)においても、同様であった。例えば、図3Bの上段に示すパネルのコート間接着力(34)は、レベル7相当であり、図3Bの中段に示すパネルのコート間接着力(35)は、レベル4相当であり、図3Bの下段に示すパネルのコート間接着力(36)は、レベル6相当であった。加えて、図3Cの上段と下段に示すパネルのコート間接着力(37、39)は、レベル5相当であり、中段に示すパネルのコート間接着力(38)は、レベル4相当であった。これらのコーティング層に劣化が生じたという結果は、サンディングされた共硬化済みフィルム層に塗布して設けたコーティング層が共硬化済みフィルム層に十分に接着されなかったことを示す。
【0104】
次に、別の9個のサンプルが準備された。各サンプルは、共硬化性フィルム層を複合構造の上に設けて、最初の9個のサンプルについて記載したように硬化し(つまり、圧力を100psiまで高め、温度を121℃まで高めたオートクレーブに少なくとも1時間維持して硬化し)、その後、Zip-Chemより入手可能なSur-PrepAP-1で拭き取り処理を施して準備されたものである。このSur-Prep AP-1は、テトラ-n-プロピルジルコネートをジプロピレングリコールジメチルエーテル/n-プロパノール溶媒に含んで成る再活性化処理剤である。次いで、その上に追加コーティング層を塗布した。第1の追加コーティング層は、ポリアミドのペイントコーティングであり、その上に、ポリウレタンベースコート及びポリウレタンクリアコートが塗布された。これら追加コーティング層を塗布した後に、各複合構造は、室温で少なくとも14日間かけて硬化させるか、或いは、昇温下(38℃~55℃の間)で少なくとも3日間かけて硬化させるか、のいずれかにより硬化された。複合構造に共硬化したフィルム層にSur-PrepAP-1を塗布する前に、最初の9個のサンプルと同様に、3つのサンプルについては、紫外(UV)光を照射せず(図4Aを参照)、3つのサンプルについては、200kJ/m2の紫外光を照射し(図4Bを参照)、3つのサンプルについては、1000kJ/m2の紫外光を照射した(図4Cを参照)。最終的に、これらサンプルに対して、(BSS7393にしたがって)回転アーム雨食試験を実施した。
【0105】
図4A~4Cに示す様に、9個のサンプルでは、いずれにおいても、コーティングは劣化しなかったか、劣化したとしても僅かであった。各パネルのコート間接着力は、レベル6相当からレベル10相当の範囲であった。具体的には、紫外光が照射されなかったサンプルを示す図4Aでは、上段に示すパネルのコート間接着力(41)は、レベル8相当であり、中段に示すパネルのコート間接着力(42)は、レベル9相当であり、下段に示すパネルのコート間接着力(43)は、レベル8相当であった。200kJ/m2の紫外光が照射されたサンプルを示す図4Bでは、上段に示すパネルのコート間接着力(44)は、レベル9相当であり、中段に示すパネルのコート間接着力(45)は、レベル8相当であり、下段に示すパネルのコート間接着力(46)は、レベル9相当であった。また、200kJ/m2の紫外光が照射されたサンプルを示す図4Cでは、上段に示すパネルのコート間接着力(47)は、レベル8相当であり、中段に示すパネルのコート間接着力(48)は、レベル7相当であり、下段に示すパネルのコート間接着力(49)は、レベル7相当であった。これらのコーティング層が劣化しなかったという結果は、共硬化済みフィルム層を再活性化処理剤で拭き取った上で塗布して設けたコーティング層は、200kJ/m2の紫外光が照射された後でも、また1,000kJ/m2までの紫外光が照射された後でも、共硬化済みフィルム層に適切に接着していることが確認された。
<付記>
【0106】
さらに、本開示は、以下の付記による実施形態も包含する。
【0107】
1. 複合構造に配置された共硬化済みフィルム層(2)を再活性化するための方法であって、
少なくとも2つの溶媒と、金属アルコキシド又はそのキレートを含む表面交換剤と、を含む再活性化処理剤を前記共硬化済みフィルム層(2)に塗布することと、
前記再活性化処理剤を作用させて、再活性化された共硬化済みフィルム層(2)を形成することと、を含み、
前記共硬化済みフィルム層(2)は、約50℃より高い硬化温度で先に硬化されたものである、方法。
【0108】
2. 前記再活性化された共硬化済みフィルム層(2)に追加コーティング層(4)を塗布することをさらに含む、付記1に記載の方法。
【0109】
3. 前記硬化は、少なくとも約121℃の硬化温度で施されたものである、付記1又は2に記載の方法。
【0110】
4. 前記再活性化処理剤を塗布する前に、前記共硬化済みフィルム層(2)をサンディングすることを含まない、付記1~3のいずれかに記載の方法。
【0111】
5. 前記共硬化済みのフィルム層(2)は、オートクレーブにおいて硬化されたものである、付記1~4のいずれかに記載の方法。
【0112】
6. 前記共硬化済みフィルム層(2)は、硬化時に、ポリウレタン、ポリイミド、ポリエステル、又はエポキシを含む、付記1~5のいずれかに記載の方法。
【0113】
7. 前記共硬化済みのフィルム層(2)は、硬化時に、ポリウレタンを含む、付記1~6のいずれかに記載の方法。
【0114】
8. 前記表面交換剤は、ジルコニウムプロポキシドである、付記1~7のいずれかに記載の方法。
【0115】
9. 前記少なくとも2つの溶媒は、ジプロピレングリコールジメチルエーテル及びn-プロパノールである、付記1~8のいずれかに記載の方法。
【0116】
10. 前記再活性化処理剤を塗布する前に、又は、塗布と同時に、洗浄溶剤を塗布することをさらに含む、付記1から9のいずれかに記載の方法。
【0117】
11. 前記追加コーティング層(4)は、クリアコートである、付記2に記載の方法。
【0118】
12. 前記追加コーティング層(4)は、回転アーム雨食試験後のコート間接着レベル(31、32、33、34、35、36、37、38、39、41、42、43、44、45、46、47、48、49)として、6~10の範囲のレベルを有する、付記2に記載の方法。
【0119】
13. 前記追加コーティング層(4)は、回転アーム雨食試験後のコート間接着レベル(31、32、33、34、35、36、37、38、39、41、42、43、44、45、46、47、48、49)として、8~10の範囲のレベルを有する、付記2に記載の方法。
【0120】
14. 複合構造に配置された共硬化済みフィルム層(2)と、
金属アルコキシド又はそのキレートを含む表面交換剤を含む再活性化処理剤層であって、再活性化された共硬化済みフィルム層(2)を形成すべく、前記共硬化済みフィルム層(2)に配置された再活性化処理剤層と、を備え、
前記共硬化済みフィルム層(2)は、少なくとも約50℃の温度で先に硬化されたものである、再活性化された共硬化済みフィルム層(2)。
【0121】
15. 前記共硬化済みフィルム層(2)は、サンディングが施されていないものである、付記14に記載の再活性化された共硬化済みフィルム層(2)。
【0122】
16. 前記再活性化された共硬化済みフィルム層(2)に配置された追加コーティン
グ層(4)をさらに含む、付記14又は15に記載の再活性化された共硬化済みフィルム層(2)。
【0123】
17. 前記追加コーティング層(4)は、回転アーム雨食試験後のコート間接着レベル(31、32、33、34、35、36、37、38、39、41、42、43、44、45、46、47、48、49)として、6~10の範囲のレベルを有する、付記16に記載の再活性化された共硬化済みフィルム層(2)。
【0124】
18. 前記表面交換剤は、ジルコニウムプロポキシドである、付記14~17のいずれかに記載の再活性化された共硬化済みフィルム層(2)。
【0125】
19. 前記共硬化済みフィルム層(2)は、硬化時に、ポリウレタン、ポリイミド、ポリエステル、又はエポキシを含む、付記14~18のいずれかに記載の再活性化された共硬化済みフィルム層(2)。
【0126】
20. 共硬化済みフィルム層(2)が配置された航空機部品であって、
複合構造と、
前記複合構造の表面に硬化された、付記14~19のいずれかに記載の再活性化された共硬化済みフィルム層(2)と、を備える航空機部品。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C