(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-24
(45)【発行日】2025-05-07
(54)【発明の名称】オキシフッ化イットリウムの焼結体および半導体製造装置用部材
(51)【国際特許分類】
C04B 35/553 20060101AFI20250425BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20250425BHJP
【FI】
C04B35/553
H01L21/302 101G
(21)【出願番号】P 2021027543
(22)【出願日】2021-02-24
【審査請求日】2023-12-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 絵美子
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 康隆
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/179296(WO,A1)
【文献】特開2016-098143(JP,A)
【文献】特開2016-153369(JP,A)
【文献】国際公開第2018/116688(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/553
H01L 21/3065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Y
5O
4F
7とYF
3とを主成分とし、
中心部と、
前記中心部の周囲に存在し、前記中心部よりYF
3の含有量の少ない表層部と、を有
し、
前記中心部と前記表層部の境界ではYF
3
濃度が急激に変化している、又は、YF
3
含有量のカーブが変曲点を有しており、
前記中心部におけるYF
3
の含有量は5~40wt%であり、
前記表層部におけるYF
3
の含有量は、前記中心部におけるYF
3
の含有量の1/10以下である、ことを特徴とするオキシフッ化イットリウムの焼結体。
【請求項2】
前記表層部の厚さは、2~200μmであることを特徴とする請求項
1に記載のオキシフッ化イットリウムの焼結体。
【請求項3】
前記表層部は、前記中心部よりも気孔率が小さいことを特徴とする請求項
1又は2に記載のオキシフッ化イットリウムの焼結体。
【請求項4】
前記中心部の気孔率は、1~4%であることを特徴とする請求項1~
3のいずれか1項に記載のオキシフッ化イットリウムの焼結体。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載のオキシフッ化イットリウムの焼結体を備えることを特徴とする半導体製造装置用部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オキシフッ化イットリウムの焼結体および半導体製造装置用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の製造における各工程、特に、ドライエッチング、プラズマエッチング及びクリーニングの工程ではフッ素系腐食性ガスや塩素系腐食性ガス及びこれらを用いたプラズマが使用される。
【0003】
これらの腐食性ガスやプラズマを使用すると、半導体製造装置の構成部材が腐食されたり、上記構成部材の表面からはく離した微細粒子(パーティクル)が半導体の表面に付着し、製品不良の原因となりやすい。そのため、半導体製造装置の構成部材には、ハロゲン系プラズマに対して耐食性の高いセラミックスがバルク材料として使用される必要がある。
【0004】
このようなバルク材料として、アルミニウム酸化物、イットリウム酸化物、アルミニウムイットリウム複合酸化物や、イットリウムフッ化物が提案されている(特許文献1及び特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-136877号公報
【文献】特開2013-144622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、最近では、レジストを酸化除去するために、酸素プラズマも使用されており、種々の腐食性ガスやプラズマに対してより耐食性に優れた焼結体が求められているが、上記の材料では充分な耐食性を有さず、未だ、種々の腐食性のガスやプラズマに対する耐食性に優れ、かつ、緻密で機械的特性にも優れた焼結体が得られていないという課題がある。
【0007】
本発明では、上記課題を鑑み、耐食性に優れ、かつ、緻密で機械的特性にも優れたオキシフッ化イットリウムの焼結体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明のオキシフッ化イットリウムの焼結体は、Y5O4F7とYF3とを主成分とし、中心部と、上記中心部の周囲に存在し、上記中心部よりYF3の含有量の少ない表層部を有する。
本発明のオキシフッ化イットリウムの焼結体は、Y5O4F7とYF3とが主成分であるので、ハロゲンや酸素プラズマに対し耐食性が強い。また、Y5O4F7とYF3との2相を含む焼結体であり、それぞれの熱膨張係数はY5O4F7が6×10-6/K、YF3が14×10-6/Kであるので、YF3の含有量が多い領域では、YF3の含有量が少ない領域に対して熱膨張係数が高くなる。このため、YF3の含有量が少ない表層部では中心部との相互作用により圧縮応力が加わり、緻密で強固な表面が得られ、機械的特性に優れたオキシフッ化イットリウムの焼結体を得ることができる。
【0009】
本発明のオキシフッ化イットリウムの焼結体において、上記中心部におけるYF3の含有量は5~40wt%であることが好ましい。
中心部におけるYF3の含有量が5wt%以上であると表層部に相互作用による強い圧縮応力を加えやすくすることができる。中心部におけるYF3の含有量が、40wt%以下であると、オキシフッ化イットリウムとしての基本的な材料特性を維持でき、オキシフッ化イットリウムの焼結体として好適に利用できる。
【0010】
本発明のオキシフッ化イットリウムの焼結体において、上記表層部におけるYF3の含有量は、上記中心部におけるYF3の含有量の1/10以下であることが好ましい。
上記表層部のYF3の含有量が、上記中心部におけるYF3の含有量の1/10以下であると、熱膨張率差を大きくすることができるので、焼結体の表面に大きな圧縮応力を加えることができる。また、上記表層部におけるYF3の含有量が少ないので、種々の腐食性のガスやプラズマに対する高い耐食性を得ることができる。
【0011】
本発明のオキシフッ化イットリウムの焼結体において、上記表層部の厚さは、2~200μmであることが好ましい。
表層部の厚さが2μm以上であると、中心部と表層部の熱膨張ミスマッチによる歪みが厚み方向に働きにくく、剥離しにくい焼結体を提供することができる。
表層部の厚さが200μm以下であると、中心部と表層部の熱膨張ミスマッチを受ける断面積比を小さくすることができるので、大きな圧縮応力を得やすくすることができる。
【0012】
本発明のオキシフッ化イットリウムの焼結体において、上記表層部は、上記中心部よりも気孔率が小さいことが好ましい。
表層部の気孔率が中心部の気孔率より小さいことによって、表層部では、緻密になるので、種々の腐食性のガスやプラズマに対する高い耐食性や、機械的特性に優れたオキシフッ化イットリウムの焼結体を得ることができる。また、逆に相対的に中心部の気孔率が表層部の気孔率より大きいので中心部と表層部の熱膨張率差によって生じる応力を緩和し、中心部と表層部の境界領域にかかる応力を抑制し、効果的に表層部に圧縮応力を加えることができる。
【0013】
本発明のオキシフッ化イットリウムの焼結体において、上記中心部の気孔率は、1~4%であることが好ましい。
中心部の気孔率が上記範囲であると、効果的に表層部に圧縮応力を加えることができる。
【0014】
また、本発明の半導体製造装置用部材は、上記オキシフッ化イットリウムの焼結体を備える。
上記オキシフッ化イットリウムの焼結体は、Y5O4F7とYF3とが主成分であるので、ハロゲンや酸素プラズマに対し耐食性が強い。また、Y5O4F7とYF3との2相を含む焼結体であり、それぞれ熱膨張係数はY5O4F7が6×10-6/K、YF3が14×10-6/Kであるので、YF3の含有量が多い領域では、YF3の含有量が少ない領域に対して熱膨張係数が高くなる。このため、YF3の含有量が少ない表層部では中心部との相互作用により焼結後の冷却時に圧縮応力が加わり、緻密で強固な表面が得られ、機械的特性に優れたオキシフッ化イットリウムの焼結体を得ることができる。このような焼結体を備えることにより、緻密で強固な表面を有する、機械的特性に優れた半導体製造装置用部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、オキシフッ化イットリウムの焼結体の断面構造を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図3は、本発明に係るオキシフッ化イットリウムの焼結体のX線回折の結果を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(オキシフッ化イットリウムの焼結体)
本発明のオキシフッ化イットリウムの焼結体は、Y5O4F7とYF3とを主成分とし、中心部と、上記中心部の周囲に存在し、上記中心部よりYF3の含有量の少ない表層部と、を有することを特徴とするオキシフッ化イットリウムの焼結体である。
以下、本明細書においてオキシフッ化イットリウムの焼結体を単に焼結体と記載することがある。
【0017】
図1は、オキシフッ化イットリウムの焼結体の断面構造を模式的に示す断面図である。
図1に示すオキシフッ化イットリウムの焼結体1は、中心部10と、中心部10の周囲に存在する表層部20を有する。
【0018】
オキシフッ化イットリウムの焼結体は、Y5O4F7とYF3とを主成分とする。Y5O4F7とYF3とを主成分とするとは、Y5O4F7とYF3との熱膨張係数の相互作用に影響を与えない限りにおいて、焼結体を構成する成分のうちY5O4F7とYF3以外の成分が15wt%未満であることが望ましく、5wt%未満であることがさらに望ましい。
オキシフッ化イットリウムの焼結体において、Y5O4F7とYF3とが主成分であるので、ハロゲンや酸素プラズマに対し耐食性が強い。
【0019】
表層部20は、YF3の含有量が中心部より少ない領域である。
表層部20と、中心部10との境界では、YF3の含有量が急激に変化しているので、表面からの深さに対するYF3の含有量において、YF3の含有量が急激に変化している場合にはその深さを中心部と表層部の境界とし、YF3の含有量がブロードに変化している場合には、含有量のカーブにおける変曲点を中心部と表層部の境界とする。
【0020】
オキシフッ化イットリウムの焼結体は、Y5O4F7とYF3との2相を含む焼結体であり、それぞれの熱膨張係数はY5O4F7が6×10-6/K、YF3が14×10-6/Kであるので、YF3の含有量が多い領域では、YF3の含有量が少ない領域に対して熱膨張係数が高くなる。このため、YF3の含有量が少ない表層部では中心部との相互作用により圧縮応力が加わり、緻密で強固な表面が得られる。そのため、機械的特性に優れたオキシフッ化イットリウムの焼結体を得ることができる。
【0021】
表層部及び中心部におけるYF
3の含有量は、EPMAで定量分析を行うことにより求めることができる。すなわち、Y
5O
4F
7とYF
3との2相を含む焼結体の表層部(
図1で点Bで示す地点)及び中心部(
図1で点Aで示す地点)でそれぞれEPMAを用いて分析し、酸素の含有量分析からYF
3の含有量を求めることができる。
【0022】
表層部におけるYF3の含有量は、中心部におけるYF3の含有量の1/10以下であることが好ましい。
表層部のYF3の含有量が、中心部におけるYF3の含有量の1/10以下であると、熱膨張率差を大きくすることができるので、焼結体の表面に大きな圧縮応力を加えることができる。
【0023】
中心部におけるYF3の含有量は5~40wt%であることが好ましい。
中心部におけるYF3の含有量が5wt%以上であると表層部に相互作用による強い圧縮応力を加えやすくすることができる。中心部におけるYF3の含有量が、40wt%以下であると、オキシフッ化イットリウムとしての基本的な材料特性を維持でき、オキシフッ化イットリウムの焼結体として好適に利用できる。
【0024】
表層部の厚さは、2~200μmであることが好ましい。
表層部の厚さが2μm以上であると、中心部と表層部の熱膨張ミスマッチによる歪みが厚み方向に働きにくく、剥離しにくい焼結体を提供することができる。
表層部の厚さが200μm以下であると、中心部と表層部の熱膨張ミスマッチを受ける断面積比を小さくすることができるので、大きな圧縮応力を得やすくすることができる。
【0025】
表層部は、中心部よりも気孔率が小さいことが好ましい。
表層部の気孔率が中心部の気孔率より小さいことによって、表層部では、緻密になるので、種々の腐食性のガスやプラズマに対する高い耐食性や、機械的特性に優れたオキシフッ化イットリウムの焼結体を得ることができる。また、逆に相対的に中心部の気孔率が表層部の気孔率より大きいので中心部と表層部の熱膨張率差によって生じる応力を緩和し、中心部と表層部の境界領域にかかる応力を抑制し、効果的に表層部に圧縮応力を加えることができる。
【0026】
中心部の気孔率は、1~4%であることが好ましい。
中心部の気孔率が上記範囲であると、効果的に表層部に圧縮応力を加えることができる。
また、表層部の気孔率は、中心部の気孔率より小さいことが好ましい。
表層部の気孔率が中心部の気孔率より小さいことによって、表層部では、緻密になるので、種々の腐食性のガスやプラズマに対する高い耐食性や、機械的特性に優れたオキシフッ化イットリウムの焼結体を得ることができる。
【0027】
中心部及び表層部の気孔率は、オキシフッ化イットリウムの焼結体の断面において気孔部分の断面積比から求めることができ、実際には1000倍で撮影した走査電子顕微鏡写真の気孔部分の面積を算出することで得ることができる。
【0028】
(オキシフッ化イットリウムの焼結体の製造方法)
本発明のオキシフッ化イットリウムの焼結体は、次のような製造方法により製造することができる。
【0029】
本発明のオキシフッ化イットリウムの焼結体は、例えば中心部と、表層部とをそれぞれ構成する原材料として、組成比の異なる原材料を用いることにより製造することができる。
【0030】
中心部となる原材料として、中心部用原材料組成物の粉末を使用し、表層部となる原材料として、表層部用原材料組成物の粉末を使用する。
中心部用原材料組成物の粉末及び表層部用原材料組成物の粉末は、焼結後の焼結体においてY5O4F7とYF3が主成分となるように調合する。原料として、Y5O4F7とYF3とを組み合わせて用いてもよいし、YOFとYF3とを組み合わせてもよく、Y5O4F7とYOFとYF3とを組み合わせてよい。
上記のような原料を組み合わせることにより、Y5O4F7とYF3を主成分とするオキシフッ化イットリウムを得ることができる。
【0031】
中心部用原材料組成物の粉末において、Y5O4F7とYF3とを組み合わせる際には、Y5O4F7とYF3とのモル比は、Y5O4F7:YF3=10:2~30が好ましい。YOFとYF3とを組み合わせる際には、YOFとYF3とのモル比は、YOF:YF3=10:5~40が好ましい。
【0032】
表層部用原材料組成物の粉末においては、焼結後の表層部のYF3の含有量(含有割合)が焼結後の中心部のYF3の含有量(含有割合)よりも少なくするように調整する。とくに、表層部用原材料組成物の粉末には、YF3を含まないようにすることが好ましい。
表層部用原材料組成物の粉末において、Y5O4F7とYF3とを組み合わせる際には、Y5O4F7とYF3とのモル比は、Y5O4F7:YF3=10:0~1が好ましい。YOFとYF3とを組み合わせる際には、YOFとYF3とのモル比は、YOF:YF3=10:2~4が好ましい。
表層部用原材料組成物の粉末において、Y5O4F7とYOFとYF3のうち、Y5O4F7のみを含むようにしてもよい。
【0033】
また、中心部用原材料組成物及び表層部用原材料組成物には、上記したY5O4F7、YOF、YF3などのフッ化物のほか、有機バインダ、潤滑剤、分散媒液、成形助剤等の添加物を適宜加えてもよい。
有機バインダとしては特に限定されず、例えば、ポリアクリルニトリル(PAN)、アクリル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、イミド樹脂、フラン樹脂等が挙げられる。
上記潤滑剤としては特に限定されず、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル等のポリオキシアルキレン系化合物等が挙げられる。
分散媒液としては特に限定されず、例えば、水、ベンゼン等の有機溶媒、メタノール等のアルコール等が挙げられる。
成形助剤としては特に限定されず、例えば、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸、脂肪酸石鹸、ポリアルコール等が挙げられる。
【0034】
中心部用原材料組成物及び表層部用原材料組成物は、使用する原材料の偏析や、取扱性を改善するため、分散媒液中に原料粒子等を分散させ、造粒することにより粉末として使用することが好ましい。造粒方法は特に限定されないが、例えば、スプレードライ、転動造粒など利用することができる。
【0035】
造粒して得られる粉末の粒子の大きさ(平均粒子径)は、例えば、10~200μmが好ましい。
【0036】
図2A、
図2B、
図2C、
図2D、
図2E、
図2F及び
図2Gは、オキシフッ化イットリウムの焼結体の製造工程の一例を模式的に示す工程図である。
以下に、この工程図に沿って、中心部用原材料組成物の粉末及び表層部用原材料組成物の粉末を使用してオキシフッ化イットリウムの焼結体を製造する工程を説明する。
【0037】
図2Aには、中心部用原材料組成物の粉末100を示している。
そして、
図2Bに示すように、中心部用原材料組成物の粉末を仮成形して所定の形状に整え、中心部用仮成形体110を作製する。仮成形の方法は、特に限定されるものではないが、型押し成形、CIP成形などを適用することができる。
【0038】
図2Cには、表層部用原材料組成物の粉末120を示している。
【0039】
図2Dには、所定の形状の型130の内部に、表層部用原材料組成物の粉末120と中心部用仮成形体110を配置した状態を示している。
型130に表層部用原材料組成物の粉末120を所定の深さだけ入れて、表層部用原材料組成物の粉末120の中に中心部用仮成形体110を埋める。そして中心部用仮成形体110が隠れるように表層部用原材料組成物の粉末120を加えて、
図2Dに示すように表層部用原材料組成物の粉末120と中心部用仮成形体110を配置する。
【0040】
図2Eに示すように、型130の形状に対応した蓋140を配置し、型130の中に配置された表層部用原材料組成物の粉末120と中心部用仮成形体110を加圧する。
加圧後に型130と蓋140を外すことにより、
図2Fに示すように、中心部用仮成形体110周囲に表層部用原材料組成物の粉末120からなる層が設けられた成形体150が得られる。
このときの成形圧は、例えば、50~500MPaが好ましい。
ここまでの過程で、成形体を表層部用原材料組成物の粉末120と中心部用仮成形体110が混ざらないように静かに取り扱うようにする。
【0041】
得られた成形体を脱脂し、焼結して粒子同士を結合させ、焼結させることによって、本発明のオキシフッ化イットリウムの焼結体を得ることができる(
図2G参照)。
焼結の温度、雰囲気は特に限定されないが、雰囲気は例えば、アルゴンなどの不活性雰囲気が好ましく、焼結温度は800~1100℃が好ましい。
また焼結時の圧力は常圧でもよいし、成形体を加圧しながら粒子を焼結させる熱間等方圧加圧法(HIP)や、機械的圧力とパルス通電加熱により粒子を焼結させる放電プラズマ焼結法(SPS)等を採用してもよい。HIP等で加圧する場合、例えば、その圧力は10~200MPaが好ましい。
【0042】
上記のように、中心部用仮成形体を作製し、型内で表層部用原材料組成物の粉末に埋めて再度成形する手順を経ることにより、一定の厚さの表層部を形成することができる。
また、中心部用仮成形体を作製せずに、中心部用原材料組成物の粉末と表層部用原材料組成物の粉末を分けて充填し、粉末同士が混ざらないように成形することで所定の形状に成形された成形体を得るようにしてもよい。
【0043】
図3は、本発明に係るオキシフッ化イットリウムの焼結体のX線回折の結果を示すチャートである。
脱脂温度を600℃、焼結の温度を950℃又は1000℃、焼結時間は2時間として得たオキシフッ化イットリウムの焼結体のチャートであり、表層部におけるチャートと中心部におけるチャートを対比して示している。
いずれも2θ=28~29°付近にY
5O
4F
7の立方晶のピークを確認することができる。2θ=24~26°付近にYF
3のピークが現れるが、このピークは中心部においては存在が確認できるが、表層部では存在が確認できるか判断が難しい程度にしか観察されない。
すなわち、焼結体の中心部に比べて表層部ではYF
3の含有量が少なくなっていることが分かる。
【0044】
本発明の半導体製造装置用部材は、上記のオキシフッ化イットリウムの焼結体を備えることを特徴とする。
オキシフッ化イットリウムの焼結体は、Y5O4F7とYF3とが主成分であるので、ハロゲンや酸素プラズマに対し耐食性が強い。また、Y5O4F7とYF3との2相を含む焼結体であり、それぞれ熱膨張係数はY5O4F7が6×10-6/K、YF3が14×10-6/Kであるので、YF3の含有量が多い領域では、YF3の含有量が少ない領域に対して熱膨張係数が高くなる。このため、YF3の含有量が少ない表層部では中心部との相互作用により圧縮応力が加わり、緻密で強固な表面が得られ、機械的特性に優れたオキシフッ化イットリウムの焼結体を得ることができる。このような焼結体を備えることにより、緻密で強固な表面を有する、機械的特性に優れた半導体製造装置用部材を提供することができる。
【0045】
また、本発明の半導体製造装置用部材によれば、半導体製造装置用部材として、オキシフッ化イットリウムの焼結体を用いており、主成分がY5O4F7とYF3からなるため、ハロゲン系プラズマに対して、腐食されにくく、優れた耐性を有し、長期に渡って使用することができる。
【0046】
具体的な本発明の半導体製造装置用部材は、特に限定されるものではないが、例えば、ウェハ等の半導体用部材の載置台、静電チャック、ガス供給部、冷却材供給部、搬送アーム、チャンバ内壁材、上部電極、シャワープレート、フォーカスリング、エッジプレート等が挙げられる。
【符号の説明】
【0047】
1 オキシフッ化イットリウムの焼結体
10 中心部
20 表層部
100 中心部用原材料組成物の粉末
110 中心部用仮成形体
120 表層部用原材料組成物の粉末
130 型
140 蓋
150 成形体