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特許7672579蓄電池の昇温制御装置、および蓄電池の昇温システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-24
(45)【発行日】2025-05-07
(54)【発明の名称】蓄電池の昇温制御装置、および蓄電池の昇温システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/615 20140101AFI20250425BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20250425BHJP
   H01M 10/625 20140101ALI20250425BHJP
   H01M 10/633 20140101ALI20250425BHJP
   H02J 7/04 20060101ALI20250425BHJP
   H02J 7/10 20060101ALI20250425BHJP
【FI】
H01M10/615
H01M10/48 301
H01M10/625
H01M10/633
H02J7/04 F
H02J7/04 L
H02J7/10 L
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2024530190
(86)(22)【出願日】2022-06-30
(86)【国際出願番号】 JP2022026158
(87)【国際公開番号】W WO2024004118
(87)【国際公開日】2024-01-04
【審査請求日】2024-06-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平井 勢児
(72)【発明者】
【氏名】田渕 朗子
【審査官】辻丸 詔
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-176821(JP,A)
【文献】特開2020-177840(JP,A)
【文献】特開2010-093871(JP,A)
【文献】特開2019-160502(JP,A)
【文献】国際公開第2012/060016(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/615
H01M 10/48
H01M 10/625
H01M 10/633
H02J 7/04
H02J 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電池に電流を流して、前記蓄電池を昇温させるための蓄電池の昇温制御装置であって、
前記蓄電池に流入する方向への間欠的なパルス電流である正方向電流を流す正方向電流モードと、前記蓄電池から流出する方向への間欠的なパルス電流である負方向電流を流す負方向電流モードと、前記正方向電流の1パルスと前記負方向電流の1パルスとが交互に流れる両方向電流を流す両方向電流モードとを有し、前記蓄電池の温度および前記蓄電池の電圧に対応して、前記正方向電流モード、前記負方向電流モード、および前記両方向電流モードのうち前記蓄電池の発熱量が最も多い電流モードを選択して前記蓄電池に電流を流すよう制御する蓄電池の昇温制御装置。
【請求項2】
前記蓄電池へ前記正方向電流と前記負方向電流とを出力可能な充放電回路と、前記蓄電池の電圧を計測する電圧計測部と、前記蓄電池に流れる電流により前記蓄電池が発熱する発熱量を演算により求める発熱量演算部を備え、
前記発熱量演算部は、前記電圧計測部からの前記蓄電池の電圧に対して、
前記蓄電池の予め定められた上限電圧により電流の振幅が制限される前記正方向電流により前記蓄電池を発熱させる前記正方向電流モードによる前記蓄電池の発熱量、
前記蓄電池の予め定められた下限電圧により電流の振幅が制限される前記負方向電流により前記蓄電池を発熱させる前記負方向電流モードによる前記蓄電池の発熱量、および
前記上限電圧と前記下限電圧により電流の振幅が制限される前記両方向電流により前記蓄電池を発熱させる前記両方向電流モードによる前記蓄電池の発熱量、
を演算により求め、発熱量が最も多い電流モードにより前記充放電回路が電流を出力する請求項1に記載の蓄電池の昇温制御装置。
【請求項3】
前記蓄電池へ前記正方向電流と前記負方向電流とを出力可能な充放電回路と、前記蓄電池の電圧を計測する電圧計測部と、前記蓄電池に流れる電流により前記蓄電池が発熱する発熱量を演算により求める発熱量演算部を備え、
前記発熱量演算部は、前記電圧計測部からの前記蓄電池の電圧と、前記蓄電池の予め定められた上限電圧と前記蓄電池の予め定められた下限電圧の中央値とを比較し、
前記蓄電池の電圧が、前記中央値よりも低い場合は、前記上限電圧により電流の振幅が制限される前記正方向電流により前記蓄電池を発熱させる前記正方向電流モードによる前記蓄電池の発熱量と、前記上限電圧と前記下限電圧により電流の振幅が制限される前記両方向電流により前記蓄電池を発熱させる前記両方向電流モードによる前記蓄電池の発熱量とを演算により求め、発熱量が多い方の電流モードにより前記充放電回路が電流を出力し、
前記蓄電池の電圧が、前記中央値以上の場合は、前記下限電圧により電流の振幅が制限される前記負方向電流により前記蓄電池を発熱させる前記負方向電流モードによる前記蓄電池の発熱量と、前記上限電圧と前記下限電圧により電流の振幅が制限される前記両方向電流により前記蓄電池を発熱させる前記両方向電流モードにおける前記蓄電池の発熱量とを演算により求め、発熱量が多い方の電流モードにより前記充放電回路が電流を出力する請求項1に記載の蓄電池の昇温制御装置。
【請求項4】
前記蓄電池は、複数の蓄電池が直並列接続された組電池である請求項1に記載の蓄電池の昇温制御装置。
【請求項5】
前記蓄電池が、複数の蓄電池が直並列接続された組電池であり、
前記発熱量演算部は、前記予め定められた上限電圧を、前記組電池の複数の蓄電池のうち最も高い電圧の蓄電池の上限電圧とし、
前記予め定められた下限電圧を、前記組電池の複数の蓄電池のうち最も低い電圧の蓄電池の下限電圧とし、
前記正方向電流は、前記最も高い電圧の蓄電池が当該蓄電池の上限電圧を超過しないよう、振幅が制限され、
前記負方向電流は、前記最も低い電圧の蓄電池が当該蓄電池の下限電圧を超過しないよう、振幅が制限され、
前記両方向電流は、前記最も高い電圧の蓄電池が当該蓄電池の上限電圧を超過せず、前記最も低い電圧の蓄電池が当該蓄電池の下限電圧を超過しないよう、振幅が制限されるとして、前記蓄電池の発熱量を演算により求める
請求項2に記載の蓄電池の昇温制御装置。
【請求項6】
前記正方向電流、前記負方向電流、および前記両方向電流の周波数は、前記各電流により、前記蓄電池への充放電が生じる周波数よりも高い周波数である請求項1から5のいずれか1項に記載の蓄電池の昇温制御装置。
【請求項7】
前記正方向電流および前記負方向電流の、間欠的なパルス電流のパルス間である電流の休止期間は、前記蓄電池の充放電反応の時定数以上である請求項1からのいずれか1項に記載の蓄電池の昇温制御装置。
【請求項8】
前記両方向電流は、前記両方向電流における前記正方向電流の1パルスにおける電流積分値と、前記両方向電流における前記負方向電流の1パルスにおける電流積分値が等しい請求項1からのいずれか1項に記載の蓄電池の昇温制御装置。
【請求項9】
前記蓄電池の使用履歴を記憶し、記憶した前記使用履歴に基づいて、次回の使用開始時刻を予想し、予想した前記次回の使用開始時刻までに所定の温度まで前記蓄電池が昇温するように前記蓄電池に電流を流す請求項1からのいずれか1項に記載の蓄電池の昇温制御装置。
【請求項10】
前記蓄電池が、予め決められた温度に昇温した後、予め決められた振幅以下の振幅の前記両方向電流モードの電流を前記蓄電池に流して、前記蓄電池の温度を予め決められた温度範囲の温度に保つ、請求項1からのいずれか1項に記載の蓄電池の昇温制御装置。
【請求項11】
蓄電池に電流を流して、前記蓄電池を昇温させる蓄電池の昇温システムであって、
前記蓄電池に接続され、前記蓄電池に流入する方向への間欠的なパルス電流である正方向電流を流す正方向電流モード、前記蓄電池から流出する方向への間欠的なパルス電流である負方向電流を流す負方向電流モード、および前記正方向電流の1パルスと前記負方向電流の1パルスとが交互に流れる両方向電流を流す両方向電流モードの少なくとも一の電流モードの電流を前記蓄電池に流すことができる一または複数の装置を備え、これら一または複数の装置により、前記蓄電池に前記正方向電流モード、前記負方向電流モード、および前記両方向電流モードの電流を流すことが可能な構成であり、
さらに、前記蓄電池の温度および前記蓄電池の電圧に対応して、前記正方向電流モード、前記負方向電流モード、および前記両方向電流モードのうち前記蓄電池の発熱量が最も多い電流モードを選択して前記蓄電池に電流を流すよう、前記一または複数の装置を制御する蓄電池の昇温制御装置を備えた蓄電池の昇温システム。
【請求項12】
前記蓄電池の昇温制御装置は、前記蓄電池の電圧を計測する電圧計測部と、前記蓄電池に流れる電流により前記蓄電池が発熱する発熱量を演算により求める発熱量演算部を備え、
前記発熱量演算部は、前記電圧計測部からの前記蓄電池の電圧に対して、
前記蓄電池の予め定められた上限電圧により電流の振幅が制限される前記正方向電流により前記蓄電池を発熱させる前記正方向電流モードによる前記蓄電池の発熱量、
前記蓄電池の予め定められた下限電圧により電流の振幅が制限される前記負方向電流により前記蓄電池を発熱させる前記負方向電流モードによる前記蓄電池の発熱量、および
前記上限電圧と前記下限電圧により電流の振幅が制限される前記両方向電流により前記蓄電池を発熱させる前記両方向電流モードによる前記蓄電池の発熱量、
を演算により求め、発熱量が最も多い電流モードにより前記蓄電池に電流を流すように前記一または複数の装置を制御する請求項11に記載の蓄電池の昇温システム。
【請求項13】
前記蓄電池の昇温制御装置は、前記蓄電池の電圧を計測する電圧計測部と、前記蓄電池に流れる電流により前記蓄電池が発熱する発熱量を演算により求める発熱量演算部を備え、
前記発熱量演算部は、前記電圧計測部からの前記蓄電池の電圧と、前記蓄電池の予め定められた上限電圧と前記蓄電池の予め定められた下限電圧の中央値とを比較し、
前記蓄電池の電圧が、前記中央値よりも低い場合は、前記上限電圧により電流の振幅が制限される前記正方向電流により前記蓄電池を発熱させる前記正方向電流モードによる前記蓄電池の発熱量と、前記上限電圧と前記下限電圧により電流の振幅が制限される前記両方向電流により前記蓄電池を発熱させる前記両方向電流モードによる前記蓄電池の発熱量とを演算により求め、発熱量が多い方の電流モードにより前記蓄電池に電流を流すように前記一または複数の装置を制御し、
前記蓄電池の電圧が、前記中央値以上の場合は、前記下限電圧により電流の振幅が制限される前記負方向電流により前記蓄電池を発熱させる前記負方向電流モードによる前記蓄電池の発熱量と、前記上限電圧と前記下限電圧により電流の振幅が制限される前記両方向電流により前記蓄電池を発熱させる前記両方向電流モードにおける前記蓄電池の発熱量とを演算により求め、発熱量が多い方の電流モードにより前記蓄電池に電流を流すように前記一または複数の装置を制御する請求項11に記載の蓄電池の昇温システム。
【請求項14】
蓄電池に電流を流して、前記蓄電池を昇温させる蓄電池の昇温システムであって、
前記蓄電池に接続され、前記蓄電池から流出する方向への間欠的なパルス電流である負方向電流を流す負方向電流モード、および前記蓄電池に流入する方向への間欠的なパルス電流である正方向電流の1パルスと前記負方向電流の1パルスとが交互に流れる両方向電流を流す両方向電流モードの少なくとも一の電流モードの電流を前記蓄電池に流すことができる一または複数の装置を備え、前記一または複数の装置により、前記負方向電流モード、および前記両方向電流モードを流すことが可能な構成であり、
さらに、前記蓄電池の温度および前記蓄電池の電圧に対応して、前記負方向電流モード、および前記両方向電流モードのうち前記蓄電池の発熱量が多い方の電流モードを選択して前記蓄電池に電流を流すよう、前記一または複数の装置を制御する蓄電池の昇温制御装置を備えており、
前記蓄電池の昇温制御装置は、前記蓄電池の電圧を計測する電圧計測部と、前記蓄電池に流れる電流により前記蓄電池が発熱する発熱量を演算により求める発熱量演算部を備え、
前記発熱量演算部は、前記電圧計測部からの前記蓄電池の電圧と、前記蓄電池の予め定められた上限電圧との差異が予め定められた値以下の場合に、
前記蓄電池の予め定められた下限電圧により電流の振幅が制限される前記負方向電流により前記蓄電池を発熱させる前記負方向電流モードによる前記蓄電池の発熱量と、前記上限電圧と前記下限電圧により電流の振幅が制限される前記両方向電流により前記蓄電池を発熱させる前記両方向電流モードにおける前記蓄電池の発熱量とを演算により求め、発熱量が多い方の電流モードにより前記蓄電池に電流を流すように前記一または複数の装置を制御する蓄電池の昇温システム。
【請求項15】
前記蓄電池は、複数の蓄電池が直並列接続された組電池である請求項11に記載の蓄電池の昇温システム。
【請求項16】
前記蓄電池は、複数の蓄電池が直並列接続された組電池であり、
前記発熱量演算部は、前記予め定められた上限電圧を、前記組電池の複数の蓄電池のうち最も高い電圧の蓄電池の上限電圧とし、
前記予め定められた下限電圧を、前記組電池の複数の蓄電池のうち最も低い電圧の蓄電池の下限電圧とし、
前記正方向電流は、前記最も高い電圧の蓄電池が当該蓄電池の上限電圧を超過しないよう、振幅が制限され、
前記負方向電流は、前記最も低い電圧の蓄電池が当該蓄電池の下限電圧を超過しないよう、振幅が制限され、
前記両方向電流は、前記最も高い電圧の蓄電池が当該蓄電池の上限電圧を超過せず、前記最も低い電圧の蓄電池が当該蓄電池の下限電圧を超過しないよう、振幅が制限される、
として、前記蓄電池の発熱量を演算により求める、
請求項12に記載の蓄電池の昇温システム。
【請求項17】
前記蓄電池が、複数の蓄電池が直並列接続された組電池であり、
前記発熱量演算部は、前記予め定められた上限電圧を、前記組電池の複数の蓄電池のうち最も高い電圧の蓄電池の上限電圧とし、
前記予め定められた下限電圧を、前記組電池の複数の蓄電池のうち最も低い電圧の蓄電池の下限電圧とし、
前記負方向電流は、前記最も低い電圧の蓄電池が当該蓄電池の下限電圧を超過しないよう、振幅が制限され、
前記両方向電流は、前記最も高い電圧の蓄電池が当該蓄電池の上限電圧を超過せず、前記最も低い電圧の蓄電池が当該蓄電池の下限線圧を超過しないよう、振幅が制限される、
として、前記発熱量を求める
請求項14に記載の蓄電池の昇温システム。
【請求項18】
前記正方向電流、前記負方向電流、および前記両方向電流の周波数は、前記各電流により、前記蓄電池への充放電が生じる周波数よりも高い周波数である請求項11から17のいずれか1項に記載の蓄電池の昇温システム。
【請求項19】
前記正方向電流および前記負方向電流の、間欠的なパルス電流のパルス間である電流の休止期間は、前記蓄電池の充放電反応の時定数以上である請求項11から17のいずれか1項に記載の蓄電池の昇温システム。
【請求項20】
前記両方向電流は、前記両方向電流における前記正方向電流の1パルスにおける電流積分値と、前記両方向電流における前記負方向電流の1パルスにおける電流積分値が等しい請求項11から17のいずれか1項に記載の蓄電池の昇温システム。
【請求項21】
前記蓄電池の使用履歴を記憶し、記憶した前記使用履歴に基づいて、次回の使用開始時刻を予想し、予想した前記次回の使用開始時刻までに所定の温度まで前記蓄電池が昇温するように前記蓄電池に電流を流す請求項11から17のいずれか1項に記載の蓄電池の昇温システム。
【請求項22】
前記蓄電池が、予め決められた温度に昇温した後、予め決められた振幅以下の振幅の前記両方向電流モードの電流を前記蓄電池に流して。前記蓄電池の温度を予め決められた温度範囲の温度に保つ、請求項11から17のいずれか1項に記載の蓄電池の昇温システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、蓄電池の昇温制御装置および蓄電池の昇温システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷低減のため、電気自動車、ハイブリッド電気自動車などの電動車両が実用化されている。また、再生可能エネルギーを活用するための定置用蓄電池システムも普及している。これらの機器には、リチウムイオン電池などの蓄電池が用いられている。蓄電池は、温度が低下すると、内部抵抗が上昇し、入出力特性が低下することはよく知られている。そこで、蓄電池にリプル電流を流すことにより、ジュール熱によって内部から加熱し、昇温する技術がある。
【0003】
例えば特許文献1では、通常使用するリアクトルの他にインダクタンスの異なるリアクトルを備えることで、リプル電流の振幅を増加させ、蓄電池の発熱量を増加し、蓄電池を温める処理を効率よく行うことができる蓄電システムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014―087081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に、蓄電池は安全性および耐久性の観点より、蓄電池の上下限電圧を守ることが要求される。しかしながら、リプル電流による蓄電池の昇温において、蓄電池が満充電状態で蓄電池の電圧が上限電圧に近い状態、あるいは満放電状態で蓄電池の電圧が下限電圧に近い状態では、上下限電圧を超過しないようにするため、昇温に必要なための十分なリプル電流を蓄電池に流すことはできないという事態が発生し得る。
【0006】
本願は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、満充電状態あるいは満放電状態でも、昇温に必要なための十分な電流を蓄電池に流すことができ、速やかに蓄電池を昇温させることができる蓄電池の昇温制御装置、および蓄電池の昇温システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願に開示される蓄電池の昇温制御装置は、蓄電池に電流を流して、前記蓄電池を昇温させるための蓄電池の昇温制御装置であって、前記蓄電池に流入する方向への間欠的なパルス電流である正方向電流を流す正方向電流モードと、前記蓄電池から流出する方向への間欠的なパルス電流である負方向電流を流す負方向電流モードと、前記正方向電流の1パルスと前記負方向電流の1パルスとが交互に流れる両方向電流を流す両方向電流モードとを有し、前記蓄電池の温度および前記蓄電池の電圧に対応して、前記正方向電流モード、前記負方向電流モード、および前記両方向電流モードのうち前記蓄電池の発熱量が最も多い電流モードを選択して前記蓄電池に電流を流すよう制御するものである。
【0008】
また、本願に開示される蓄電池の昇温システムは、蓄電池に電流を流して、前記蓄電池を昇温させる蓄電池の昇温システムであって、前記蓄電池に接続され、前記蓄電池に流入する方向への間欠的なパルス電流である正方向電流を流す正方向電流モード、前記蓄電池から流出する方向への間欠的なパルス電流である負方向電流を流す負方向電流モード、および前記正方向電流の1パルスと前記負方向電流の1パルスとが交互に流れる両方向電流を流す両方向電流モードの少なくとも一の電流モードの電流を前記蓄電池に流すことができる一または複数の装置を備え、これら一または複数の装置により、前記蓄電池に前記正方向電流モード、前記負方向電流モード、および前記両方向電流モードの電流を流すことが可能な構成であり、さらに、前記蓄電池の温度および前記蓄電池の電圧に対応して、前記正方向電流モード、前記負方向電流モード、および前記両方向電流モードのうち前記蓄電池の発熱量が最も多い電流モードを選択して前記蓄電池に電流を流すよう、前記一または複数の装置を制御する蓄電池の昇温制御装置を備えたものである。
【発明の効果】
【0009】
本願によれば、蓄電池が満充電もしくは満放電状態であっても、速やかに蓄電池を昇温させることができる蓄電池の昇温制御装置、および蓄電池の昇温システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態1による蓄電池の昇温制御装置の構成を示すブロック図である。
図2】実施の形態1による蓄電池の昇温制御装置の蓄電池情報取得部の構成を示すブロック図である。
図3】実施の形態1による蓄電池の昇温制御装置の充放電回路制御器の内部構成を示すブロック図である。
図4】実施の形態1による蓄電池の昇温制御装置の発熱量演算部における処理を示すフローチャートである。
図5】実施の形態1による蓄電池の昇温制御装置の正方向電流モードにおける動作を説明する線図である。
図6】実施の形態1による蓄電池の昇温制御装置の負方向電流モードにおける動作を説明する線図である。
図7】実施の形態1による蓄電池の昇温制御装置の両方向電流モードにおける動作を説明する線図である。
図8】蓄電池のインピーダンスの周波数特性の一例を示す線図である。
図9】蓄電池のナイキストプロットの一例を示す線図である。
図10】一般的な蓄電池の等価回路モデルの一例を示す回路図である。
図11】実施の形態2による蓄電池の昇温制御装置の両方向電流モードの電流波形を示す線図である。
図12】実施の形態4による蓄電池の昇温制御装置の充放電回路制御器の構成を示すブロック図である。
図13】実施の形態5による蓄電池の昇温システムの構成を示すブロック図である。
図14】本願の充放電回路制御器のハード構成の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1による蓄電池の昇温制御装置10の構成を示すブロック図である。図1に示すように、蓄電池の昇温制御装置は、蓄電池情報取得部2、充放電回路制御器3、周波数成分を含む電流を生成する充放電回路4を備える。
【0012】
昇温の対象となる蓄電池1は、例えばリチウムイオン電池、ニッケル水素電池等の二次電池から構成される。また、本実施の形態に適用される二次電池の形状としては、円筒型、角型、ラミネート型等、各種形状を採用することができる。また、蓄電池1は、定格の電圧が同一など、同じ仕様の蓄電池が複数直列接続または並列接続、あるいは直並列接続された組電池でもよい。
【0013】
図2は蓄電池情報取得部2の構成を示すブロック図である。図2に示すように、蓄電池情報取得部2は、電圧計測部21、電流計測部22、温度計測部23、出力部24から構成される。電圧計測部21は、蓄電池1の電圧を計測する電圧センサで構成される。電流計測部22は、蓄電池1に流れる電流を計測する電流センサで構成される。温度計測部23は、例えばサーミスタ等を用いた温度センサから構成され、蓄電池1の温度を測定する。計測した蓄電池1の電圧、電流、温度は出力部24によって例えばディジタル信号に変換されてデータとして充放電回路制御器3へ出力される。
【0014】
図3は充放電回路制御器3の内部構成を示すブロック図である。図3に示すように、充放電回路制御器3は、入力部31、発熱量演算部32、出力部33から構成される。入力部31には、蓄電池情報取得部2より出力された蓄電池1の電圧、電流、温度のデータが入力される。入力部31のデータをもとに、発熱量演算部32にて、蓄電池1の発熱量を計算する。発熱量演算部32では、蓄電池1の現在の電圧をもとに、正方向のみの電流波形(これを正方向電流モードと称する)、負方向のみの電流波形(これを負方向電流モードと称する)、両方向の電流波形の各電流波形(これを両方向電流モードと称する)から最も発熱量が多い電流モードを選択し、出力部33を介して、充放電回路4を制御して蓄電池1に最も発熱量が多い電流モードの電流を流して、蓄電池を昇温させる。
【0015】
ここで、本実施の形態1における蓄電池1の昇温方法について説明する。図4は、蓄電池1の昇温動作時のフローチャートを示す図である。まずステップS1において、蓄電池の温度Tを計測する。次にステップS2において、Tが蓄電池の昇温処理を必要とする閾値T1以下か否かを判断する。Tが閾値T1よりも高ければステップS9へ移行し、昇温処理は行わず、終了とする。一方、ステップS2において、蓄電池の温度が閾値T1以下の場合、ステップS3へ移行する。
【0016】
ステップS3では、蓄電池の電圧を計測する。そしてステップS4において、S3で計測した蓄電池の電圧と上限電圧、下限電圧との差分を計算する。ここで、蓄電池の上限電圧および下限電圧は、蓄電池の仕様として予め設定されている。なお、蓄電池1が、定格の電圧などが同一仕様の蓄電池が複数接続されている組電池の場合、組電池の上限電圧および下限電圧と蓄電池の直列数から各蓄電池における上限電圧および下限電圧を設定する。次のステップS5では、上下限電圧に収まる電圧変動となる正方向のみの電流波形(正方向電流モード)、負方向のみの電流波形(負方向電流モード)、および正方向と負方向を交互に流す両方向の電流波形(両方向電流モード)、の電流を流した場合でのそれぞれの蓄電池の発熱量を計算する。発熱量は電流波形の実効値の二乗と蓄電池の内部抵抗を掛けることで計算する。ステップS6にて、発熱量が最も多い電流モードを選択し、ステップS7にて、選択した電流モードで充放電回路4が蓄電池1に電流を通流する。一定時間経過後、ステップS8にて蓄電池の温度Tを計測し、昇温処理を終了する温度閾値T2以上にあるか否かを判断し、T2以下の場合は昇温処理を継続し、T2以上であればステップS9へ移行し、昇温処理を終了とする。
【0017】
ここで、T1について、蓄電池の充放電が禁止されている、例えば-20℃以下の極低温を想定しているが、低温においても若干蓄電池の性能は低下するため例えば5℃付近に設定してもよい。また、T2について、室温程度(25℃付近)を想定しているが、昇温時間を短くするために例えば10℃程度であってもよい。
【0018】
次に、ステップS5における電流波形について説明する。図5は正方向電流モードにおける電流波形と蓄電池の端子間の電圧変動の一例を示す図である。電流を流したときの蓄電池の端子間の電圧は、蓄電池の電圧に、電流を流したときに蓄電池の内部抵抗などのインピーダンスによって生じる電圧降下分がプラスされた電圧となる。図5の上段に示す波形のように、正方向電流モードにおける電流波形は、正方向の間欠的なパルスの電流波形である。図5の下段は、上段に示す正方向電流モードの電流波形の電流を流した時の蓄電池の電圧変動を示している。ここでは、蓄電池に流入する方向の電流を正方向の電流、蓄電池から流出する方向の電流を負方向の電流としている。正方向電流モードの電流を蓄電池に流すと、蓄電池の電圧は現在の電圧Vtより高い値で変動する。この時、電流の振幅は、蓄電池の端子間の電圧が上限電圧Vmaxを超過しないように、上限電圧Vmaxで制限された振幅に設定される。したがって、上限電圧Vmaxと現在の電圧Vtとの差分(Vmax-Vt)の振幅となるよう正方向電流モードの電流を流すと、蓄電池の発熱量が最も大きくなり、昇温時間が短くなる。蓄電池1が組電池の場合は、組電池内の各蓄電池の電圧にばらつきが生じる場合があるため、各蓄電池のうち最も電圧が高い蓄電池の電圧がその蓄電池の上限電圧を超過しないように、同様の手順で決定される。ここでは、組電池内の各蓄電池の電圧が検知できるものとする。
【0019】
図6は負方向電流モードにおける電流波形と蓄電池の端子間の電圧変動の一例を示す図である。図6の上段に示す波形のように、負方向電流モードの電流波形は、負方向の間欠的なパルスの電流波形である。図6の下段は、上段の負方向電流モードの電流波形の電流を流した時の蓄電池の電圧変動を示している。負方向電流モードの電流を流すと、現在の電圧Vtより低い値で変動する。この時、電流の振幅は、蓄電池の端子間の電圧が下限電圧Vminを超過しないように、下限電圧Vminで制限された振幅に設定される。したがって、下限電圧Vminと現在の電圧Vtとの差分(Vt-Vmin)の振幅となるよう負方向の電流を流すと、蓄電池の発熱量が最も大きくなり、昇温時間が短くなる。蓄電池1が組電池の場合は、組電池内の各蓄電池のうち、最も電圧が低い蓄電池の電圧がその蓄電池の下限電圧を超過しないように同様の手順で決定される。
【0020】
図7は両方向電流モードにおける電流波形と蓄電池の端子間の電圧変動の一例を示す図である。両方向電流モードの電流波形の場合、電流の振幅は、蓄電池の端子間の電圧が上限電圧Vmaxおよび下限電圧Vminを超過しないように、上限電圧Vmaxと下限電圧Vminとで制限された振幅に設定される。したがって、現在の電圧Vtと上限電圧Vmaxの差分であるVmax-Vtと下限電圧Vminとの差分であるVt-Vminのうち、小さい値となるような電流振幅が最大の振幅となり、昇温時間が最も短くなる。なお、図7では上限電圧Vmaxに制限される場合を図示しているが、勿論下限電圧Vminに制限される場合もある。蓄電池1が組電池の場合は、組電池内の各蓄電池のうち、最も電圧が高い蓄電池の電圧がその蓄電池の上限電圧を超過せず、最も電圧が低い蓄電池の電圧がその蓄電池の下限電圧を超過しないように、同様の手順で決定される。
【0021】
発熱量演算部32では、現在の電圧Vtから、正方向電流モードの電流を流した時、負方向電流モードの電流を流した時、および両方向電流モードの電流を流した時の、それぞれの発熱量(例えば単位時間当たりの)を、蓄電池の抵抗を用いて計算し、昇温時間が最も短くなる、すなわち発熱量が最も多い電流モードを選択する。また、この時の電流振幅は最大である必要はなく、使用する充放電回路において流すことのできる電流振幅でよく、また電流波形も矩形波、正弦波等特に制限を設けるものではない。
【0022】
なお、ステップS3で蓄電池の電圧を計測した段階で、正方向電流モードまたは負方向電流モードの電流波形を選択することが可能である。例えば、上限電圧と下限電圧の中央値より蓄電池の電圧が高い場合、蓄電池に流せる電流波形の振幅は、負方向電流モードの電流波形の方が正方向電流モードの電流波形よりも大きいことは明らかである。逆に、上限電圧と下限電圧の中央値より蓄電池の電圧が低い場合、蓄電池に流せる電流波形の振幅は、正方向電流モードの電流波形の方が負方向電流モードの電流波形よりも大きいことは明らかである。従って、ステップS3において蓄電池の電圧を計測後、正方向電流モードまたは負方向電流モードが選択され、ステップS4にて上下限電圧との差分を計算後、ステップS5にて、電圧に応じて選択した正方向電流モードまたは負方向電流モードと、両方向電流モードおける発熱量を計算すればよい。
【0023】
続いて、電流波形の周波数について説明する。図8は蓄電池のインピーダンスの周波数特性の一例を示す図である。図8のように、蓄電池のインピーダンス特性は1kHz付近で最もインピーダンスが小さくなり、それ以上の周波数では、高周波数ほどインピーダンスが大きくなる傾向にある。つまり、高周波数の電流程、蓄電池の発熱量が多く、蓄電池の昇温に要する時間が短くなる。そのため、電流波形の周波数はより高周波であることが望ましい。また、蓄電池の特性上、1kHz以下の電流であれば充放電反応が進行する。そのため、昇温処理時に蓄電池の使用温度範囲外での充放電を実施してしまう可能性があることから、電流波形の周波数は1kHz以上が望ましい。ここで、正方向電流モードあるいは負方向電流モードの場合は、間欠パルスの1秒当たりの繰り返し回数、両方向電流モードの場合は正負それぞれ1パルスを1周期とした、1秒当たりの周期数、となる。ただし、それぞれ、波形によって、高調波の周波数成分が含まれるため、それらを考慮して発熱量を計算してもよい。
【0024】
以上、従来のように、正負両方向に電流が流れるリプル電流での昇温しか実施できない場合、蓄電池が上限電圧または下限電圧の時は、リプル電流によって瞬間的に上限電圧または下限電圧を超えてしまい、蓄電池の劣化に影響を及ぼす可能性がある。そのため、リプル電流による昇温処理を実施することはできない。しかしながら、本実施の形態によると、蓄電池1の現在の電圧に応じて、正方向電流モード、負方向電流モード、および両方向電流モードのうち、発熱量が最も大きくなる電流モードを選択して蓄電池に電流を流すことで、蓄電池の電圧が上限電圧に近い満充電状態、あるいは蓄電池の電圧が下限電圧に近い満放電状態においても蓄電池の昇温を短時間で実施することができる。
【0025】
実施の形態2
実施の形態2による蓄電池の昇温制御装置について、まず、正方向電流モードの電流波形、負方向電流モードの電流波形について説明する。図9は、蓄電池のナイキストプロットの一例を示す図である。横軸のZ’は蓄電池のインピーダンスの実数成分、縦軸のZ”は蓄電池のインピーダンスの虚数成分を示している。図9によると、蓄電池の充放電反応を示す半円部分の周波数は一般的に1kHzから1Hzの範囲である。この半円は蓄電池の充放電反応を示している。図10は一般的な蓄電池の等価回路モデルの一例を示す図である。等価回路モデルは、蓄電池の開回路電圧、蓄電池の電極構造に由来する寄生インダクタンスLと電解液および集電箔の抵抗を表すRsol、蓄電池の充放電反応を示す抵抗R1とコンデンサC1の並列回路、イオンの拡散に由来する抵抗R2とコンデンサC2で構成されている。等価回路としては、蓄電池の充放電反応を示す抵抗R1、コンデンサC1を含む等価回路であればよく、その他のコンポーネントは図10の回路以外の成分で表されていてもよい。
【0026】
図10に示す等価回路のコンポーネントの内、蓄電池の充放電を示すR1とC1の積から充放電反応の時定数τを計算することができる。図5および図6のように正方向電流モードあるいは負方向電流モードの電流波形を流す場合、電流を流さない時間が短い場合、電気二重層への充電、放電が休止なく行われ、蓄電池の劣化への影響が懸念される。そのため、電流を流さない休止時間を前述した時定数τ以上とすることで、電気二重層に電荷が蓄積され続けることを防止することができる。休止時間において、電気二重層から正極、負極への充放電反応が進行する。しかし、実施の形態1で説明したように、電流波形の周波数は1kHz以上とするため、周波数が1kHz以上の電流波形で流入流出する電荷量であることを考慮すると、蓄電池の充電状態が大きく変化することは考え難く、問題はない。なお、休止時間が長すぎると、蓄電池から周囲の大気へ放熱し温度が低下するため、温度が低下しない程度の休止時間が最大となる。
【0027】
次に、両方向電流モードの電流波形について説明する。図11は両方向電流モードの電流波形の一例を示す線図である。図7に示した両方向電流モードの電流波形は、正方向と負方向で対称となっている。この電流波形は、例えば、電力変換器由来のリプル電流等の電流波形が挙げられる。両方向電流モードの電流波形は、正方向と負方向で非対称でもよく、正方向の1パルスでの電流積分値と負方向の1パルスでの電流積分値が等しいような波形であれば、どのような波形でもよい。図11に示す電流波形は、正方向の振幅を小さくし、その分時間を長くした波形と負方向の振幅を大きくし、その分時間を短くした波形を組み合わせた波形である。また、正方向と負方向の間に電流を流さない時間を設けてもよい。なお、ここでは蓄電池の充放電ができない極低温下を想定しているため、正方向と負方向の電流積分値が等しい波形としたが、充放電可能な低温下であれば正方向と負方向の電流積分値は必ずしも等しくなくてもよい。つまり、両方向の電流波形に直流オフセットをもたせてもよい。
【0028】
以上のように、本実施の形態2によると、蓄電池に流す正方向電流モードおよび負方向電流モードの電流波形において、電流を流さない休止時間を蓄電池の充放電反応の時定数以上とすることで、電気二重層への電荷の蓄積を防止することができる。これにより、適切な休止時間を設けた正方向電流モードまたは負方向電流モードの電流を蓄電池に流し続けることができ、蓄電池の昇温を、電荷を蓄積させずに行うことができる。また、両方向電流モードの電流波形は正方向と負方向の電流積分値、すなわち電気量が等しい波形にすることで、充放電を起こさずに昇温することが可能である。
【0029】
実施の形態3
実施の形態3について説明する。これまでの実施の形態1および2で説明した蓄電池の昇温制御装置は、両方向電流モード、すなわちリプル電流を蓄電池に流すことが可能である、本実施の形態3では、このリプル電流の利用方法を説明する。本実施の形態3では、両方向電流モードの電流波形であるリプル電流として、微小なリプル電流を流し続けることにより、充放電ができないような極低温まで温度が低下することを防ぎ、常に室温付近の所定の温度を保つように制御する。リプル電流であれば、正方向と負方向の電荷は等しく電荷の偏りは生じないため、長時間蓄電池に通流しても問題はない。また使用温度範囲内でもあるため、電流の周波数に制限はない。ここで、蓄電池の上限電圧と運用時の上限電圧に差異がある(蓄電池の上限電圧>運用時の上限電圧)場合は、運用時の上限電圧を超過しても蓄電池の上限電圧を超過しなければ蓄電池の性能に影響しないため、リプル電流を流し続けることが可能である。蓄電池の上限電圧と運用時の上限電圧に差異がない場合は、リプル電流を流せるように、運用後に蓄電池を放電して電圧を調整してもよい。
【0030】
以上のように、本実施の形態3によると、蓄電池が予め決められた温度に昇温した後、電流振幅が予め定めた振幅以下の微小なリプル電流(両方向電流モードの電流)を流し続けて、蓄電池の温度を予め決められた温度範囲に保つことにより、蓄電池の温度低下を防止し、蓄電池が再び極低温になるのを避けることが可能である。
【0031】
実施の形態4
図12は実施の形態4による充放電回路制御器3の構成を示すブロック図である。蓄電池の昇温制御装置の全体構成は図1に示す構成と同じである。実施の形態1による蓄電池の昇温制御装置の構成とは、充放電回路制御器3に、使用履歴記憶部5と使用予測部6を備える点が異なる。使用履歴記憶部5では蓄電池情報取得部2からの主に蓄電池の電流の測定データから使用履歴を抽出して記憶する。使用履歴予測部6では、使用履歴記憶部に記憶されている使用履歴に基づいて、次回の蓄電池使用時刻を予測する。充放電回路制御器3では、予測された次回の蓄電池使用時刻に基づいて、使用に間に合うよう蓄電池を昇温するように充放電回路4を制御して蓄電池1を昇温させる。
【0032】
以上のように、本実施の形態4によると、使用履歴から次回使用時刻を予測することで、次回使用時までに昇温処理を完了しておくことができる。
【0033】
実施の形態5
図13は実施の形態5による蓄電池の昇温システムの構成を示すブロック図である。本実施の形態5による昇温システムを構成する蓄電池の昇温制御装置100は実施の形態1で説明した蓄電池情報取得部2、充放電回路制御器3を備えている。充放電回路は蓄電池の昇温制御装置100の外部の充電回路41と放電回路42に分かれており、さらにバランサ回路43を含んだ構成となっている。蓄電池は、同一仕様の蓄電池が複数直列、並列接続された組電池11となっている。充電回路41は蓄電池を充電することができる回路であれば何でもよく、主にはコンバータを含む、蓄電池を充電するための充電装置の内部の回路を想定している。すなわち装置410は充電回路41を含む装置410である。放電回路42は、インバータあるいはコンバータを含む回路で、負荷への電力供給するための電力変換装置の電力変換回路を放電回路42として動作させることを想定している。すなわち装置420は、放電回路42を含む装置420である。バランサ回路43は蓄電池の電圧を調整する回路で、例えば蓄電池が複数直列接続されている場合、各蓄電池の電圧を調整する場合に使用され、やはり蓄電池の昇温制御装置100の外部の装置430に備えられている。すなわち装置430は蓄電池の電圧を調整するバランサ回路を含む装置430である。バランサ回路43は、充電回路を含む装置410あるいは放電回路を含む装置420に備えられていることもある。このバランサ回路を充電回路あるいは放電回路として動作させることを想定している。
【0034】
蓄電池の昇温制御装置100に備えられている充放電回路制御器3は、これら外部の装置を制御して、実施の形態1から4で説明したのと同じような方法で、正方向電流モードあるいは負方向電流モード、あるいは両方向電流モードの電流を組電池11に流すことにより、組電池11に備えられている蓄電池を昇温制御する。
【0035】
正方向電流モードの電流波形について、本実施の形態5の構成では、充電回路41での電流制御により蓄電池に通流することができる。正方向電流モードの電流波形の大きさは、組電池11内の各蓄電池のうち、最も電圧が高い蓄電池の電圧がその蓄電池の上限電圧を超過しないように決定される。負方向電流モードの電流波形について、放電回路42内に蓄電池のパルス放電等が可能な回路を備えていれば、実施の形態1で説明した1kHz以上の間欠パルス状の負方向電流モードの電流波形で蓄電池の放電が可能である。そのような回路が備わっていない場合、バランサ回路43を備えていれば、バランサ回路43のスイッチング制御を用いて、蓄電池に負方向電流モードの電流波形の電流を流すことが可能である。バランサ回路43は、蓄電池の放電のみが可能なパッシブ方式が好ましい。負方向電流モードの電流波形の振幅は、組電池内の各蓄電池のうち、最も電圧が低い蓄電池の電圧がその蓄電池の下限電圧を超過しないように決定される。両方向電流モードの電流波形について、放電回路としての電力変換回路のスイッチングによって生じるリプル電流等により蓄電池に通流することができる。両方向電流モードの電流波形の振幅は、組電池内の各蓄電池のうち、最も電圧が高い蓄電池の電圧がその蓄電池の上限電圧を超過せず、最も電圧が低い蓄電池の電圧がその蓄電池の下限電圧を超過しないように、決定される。
【0036】
なお、上記では、蓄電池が組電池11である場合について説明したが、組電池ではなく通常の蓄電池であっても適用可能であるのは言うまでもない。
【0037】
以上、実施の形態5による蓄電池の昇温システムは、蓄電池に接続され、正方向電流モード、負方向電流モード、および両方向電流モードの電流の少なくとも一の電流モードの電流を蓄電池に流すことができる一または複数の装置(装置410、装置420、装置430のうちの一または複数の装置)を備え、これら一または複数の装置により、蓄電池に正方向電流モード、負方向電流モード、および両方向電流モードの電流を流すことが可能な構成であり、蓄電池の昇温制御装置100が正方向電流モード、負方向電流モード、および両方向電流モードのうち蓄電池11の発熱量が最も多い電流モードを選択して蓄電池11に電流を流すよう、一または複数の装置を制御するよう構成されている。
【0038】
図13では、外部の充電回路、放電回路、バランサ回路のすべてを制御して、正方向電流モードの電流、負方向電流モードの電流、および両方向電流モードの電流、を組電池11に流す構成を図示しているが、すべての回路を備える必要はない。蓄電池は一般的には満充電状態に近い電圧で放置されるため、正方向電流モードの電流を流せない構成でも問題はない。したがって、少なくとも負方向電流モードと両方向電流モードの電流を流せる構成であることが望ましい。
【0039】
この構成の蓄電池の昇温システムは、蓄電池に接続され、負方向電流モード、および両方向電流モードの電流の少なくとも一の電流モードの電流を蓄電池に流すことができる一または複数の装置(装置410、装置420、装置430のうちの一または複数の装置)を備え、これら一または複数の装置により、蓄電池に負方向電流モード、および両方向電流モードの電流を流すことが可能な構成であり、蓄電池の昇温制御装置100が負方向電流モード、および両方向電流モードのうち蓄電池の発熱量が多い方の電流モードを選択して蓄電池11に電流を流すよう、一または複数の装置を制御するよう構成される。
【0040】
以上の各実施の形態における充放電回路制御器3は、具体的には、図14に示すように、CPU(Central Processing Unit)等の演算処理装置301、演算処理装置301とデータをやり取りする記憶装置302、演算処理装置301と外部の間で信号を入出力する入出力インターフェース303などを備えている。演算処理装置301としてASIC(Application Specific Integrated Circuit)、IC(Integrated Circuit)、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、および各種の信号処理回路等が備えられても良い。記憶装置302として、演算処理装置301からデータを読み出しおよび書き込みが可能に構成されたRAM(Random Access Memory)、演算処理装置301からデータを読み出し可能に構成されたROM(Read Only Memory)等が備えられている。発熱量演算部32は、例えば演算処理装置301とプログラムおよびデータが記憶されている記憶装置302で構成される。入出力インターフェース303のうち入力インターフェースとして、例えば蓄電池情報取得部2が相当し、また出力インターフェースは、演算処理装置301から充放電回路4あるいは実施の形態5で説明した外部の装置へ信号を出力するための回路などから構成される。
【0041】
本願には、様々な例示的な実施の形態及び実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。従って、例示されていない無数の変形例が、本願明細書に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【符号の説明】
【0042】
1 蓄電池、2 蓄電池情報取得部、3 充放電回路制御器、4 充放電回路、10、100 蓄電池の昇温制御装置、11 組電池、21 電圧計測部、32 発熱量演算部、41 充電回路、42 放電回路、43 バランサ回路、410 充電回路を含む装置、420 放電回路を含む装置、430 バランサ回路を含む装置、Vmax 上限電圧、Vmin 下限電圧
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14