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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-25
(45)【発行日】2025-05-08
(54)【発明の名称】エラスチン産生促進剤及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/60 20060101AFI20250428BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250428BHJP
   A61P 19/04 20060101ALI20250428BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20250428BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20250428BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20250428BHJP
   A23L 33/00 20160101ALN20250428BHJP
【FI】
A61K35/60 ZNA
A61P43/00 107
A61P19/04
A61P17/00
A61P7/00
A61P21/00
A23L33/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020112672
(22)【出願日】2020-06-30
(65)【公開番号】P2022011494
(43)【公開日】2022-01-17
【審査請求日】2023-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】315001213
【氏名又は名称】三生医薬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】奈良 未沙希
(72)【発明者】
【氏名】黒野 昌洋
(72)【発明者】
【氏名】又平 芳春
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 健司
(72)【発明者】
【氏名】江島 晃佳
【審査官】川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-278812(JP,A)
【文献】特開2004-73186(JP,A)
【文献】特開2017-195830(JP,A)
【文献】RJ Whitehead,World's only salmon placenta taps into Asia's halal anti-ageing market,Food Navigator ASIAウェブサイト, 最終更新日2014年10月11日,URL:https://www.foodnavigator-asia.com/Article/2014/10/08/World-s-only-salmon-placenta-taps-into-Asia-s-halal-anti-ageing-market
【文献】MPCマリンプラセンタの特許6件取得~日本バリアフリー(下),美容経済新聞ウェブサイト, インターネットアーカイブ閲覧, 2017年6月19日,URL:https://web.archive.org/web/20170619160744/https://bhn.jp/special/22309
【文献】Masaki Hirukawa et al.,Development of Tissue-Engineered Ligaments: Elastin Promotes Regeneration of the Rabbit Medial Collateral Ligament,Artificial Organs,2017年,Vol.42, No.6,Pages E102-E113
【文献】Yang Liu et al.,Protective Effect of Bovine Elastin Peptides against Photoaging in Mice and Identification of Novel Antiphotoaging Peptides,Journal of Agricultural and Food Chemistry,2018年,Vol.66, No.41,Pages 10760-10768
【文献】白土 絵理,健常な日本人女性を対象としたカツオ由来エラスチンペプチド摂取によるダイエット時のバスト下垂抑制及びバスト皮膚弾性改善作用,機能性食品と薬理栄養,2016年,Vol.10, No.3,Pages 131-138
【文献】Kumiko Takemori et al.,Prophylactic effects of elastin peptide derived from the bulbus arteriosus of fish on vascular dysfunction in spontaneously hypertensive rats,Life Sciences,2015年,Vol.120,Pages 48-53
【文献】Eri Shiratsuchi et al.,Elastin peptides prepared from piscine and mammalian elastic tissues inhibit collagen-induced platelet aggregation and stimulate migration and proliferation of human skin fibroblasts,Journal of Peptide Science,2010年,Vol.16, No.11,Pages 652-658
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/60
A61P 43/00
A61P 19/00
A61P 17/00
A61P 7/00
A61P 21/00
A23L 33/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鮭の卵巣膜のタンパク質分解酵素による分解物であって、前記タンパク質分解酵素として、アロアーゼ(登録商標、ヤクルト薬品工業株式会社製)、パパイン、及びパンチダーゼ(登録商標、ヤクルト薬品工業株式会社製)を用いた分解物を有効成分として含むことを特徴とするエラスチン産生促進剤。
【請求項2】
損傷した靭帯の再生、紫外線に対する表皮保護、血管内皮損傷抑制、血小板凝集阻害、抗血栓、血流改善、胸の下垂抑制から選ばれた少なくとも1つの用途に用いられる、請求項1に記載のエラスチン産生促進剤。
【請求項3】
鮭の卵巣膜に、アロアーゼ(登録商標、ヤクルト薬品工業株式会社製)、パパイン、及びパンチダーゼ(登録商標、ヤクルト薬品工業株式会社製)を添加して酵素分解を行い、当該酵素分解による分解物を採取し、該分解物を有効成分として含有させることを特徴とするエラスチン産生促進剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鮭の卵巣膜を原料とするエラスチン産生促進剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、肌荒れ改良剤として、鮭の卵巣膜をタンパク質分解酵素で処理することにより抽出された成分を含むものが特許文献1に開示されている。
【0003】
また、IGF-1値上昇剤として、鮭の卵巣膜をタンパク質分解酵素で処理することにより抽出された成分を含むものが特許文献2に開示されている。
【0004】
更に、アンチエイジング剤として、鮭の卵巣膜をタンパク質分解酵素で処理することにより抽出された成分と、食品に添加可能で薬理的に有効な成分として、コラーゲンと、核酸と、エラスチンと、ヒアルロン酸と、セラミドと、ガラクトオリゴ糖とを含むものが特許文献3に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3899116号
【文献】特許第3946238号
【文献】特許第6085137号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、鮭の卵巣膜から抽出された成分には、さらに多くの用途の開発が望まれる。
【0007】
本発明は上記した点に鑑みてなされたものであり、鮭の卵巣膜から抽出された成分の新たな用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の1つは、鮭の卵巣膜のタンパク質分解酵素による分解物を有効成分として含むことを特徴とするエラスチン産生促進剤を提供するものである。
【0009】
本発明のエラスチン産生促進剤によれば、例えば経口摂取することにより、当該エラスチン産生促進剤を経口摂取した者の体内においてエラスチンの産生を促進させることができる。その結果、エラスチンによる様々な生理活性効果が期待できる。
【0010】
本発明のエラスチン産生促進剤において、前記タンパク質分解酵素は、中性プロテアーゼであることが好ましい。
【0011】
また、前記タンパク質分解酵素は、アロアーゼ(登録商標、ヤクルト薬品工業株式会社製)、パパイン、パンチダーゼ(登録商標、ヤクルト薬品工業株式会社製)から選ばれた少なくとも1種であることがより好ましい。
【0012】
更に、前記タンパク質分解酵素は、アロアーゼ(登録商標、ヤクルト薬品工業株式会社製)、パパイン、及びパンチダーゼ(登録商標、ヤクルト薬品工業株式会社製)であることが更に好ましい。
【0013】
また、本発明のエラスチン産生促進剤は、損傷した靭帯の再生、紫外線に対する表皮保護、血管内皮損傷抑制、血小板凝集阻害、抗血栓、血流改善、胸の下垂抑制から選ばれた少なくとも1つの用途に用いられるものであることが好ましい。
【0014】
本発明のもう1つは、鮭の卵巣膜に、アロアーゼ(登録商標、ヤクルト薬品工業株式会社製)、パパイン、パンチダーゼ(登録商標、ヤクルト薬品工業株式会社製)から選ばれた少なくとも1種を添加して酵素分解を行い、当該酵素分解による分解物を採取することを特徴とするエラスチン産生促進剤の製造方法を提供するものである。
【0015】
本発明のエラスチン産生促進剤の製造方法によれば、エラスチン産生促進効果に優れたエラスチン産生促進剤を生産性よく得ることができる。
【0016】
本発明のエラスチン産生促進剤の製造方法においては、アロアーゼ(登録商標、ヤクルト薬品工業株式会社製)、パパイン、及びパンチダーゼ(登録商標、ヤクルト薬品工業株式会社製)を併用して前記酵素分解を行うことが好ましい。
【0017】
さらに本発明は、別の観点で鮭の卵巣膜のタンパク質分解酵素による分解物を経口摂取することにより、経口摂取した者の体内においてエラスチンの産生を促進するエラスチン産生促進方法を提供するものである。
【0018】
このエラスチン産生促進方法によれば、本発明に係る鮭の卵巣膜のタンパク質分解酵素による分解物を有効成分として、経口摂取することにより、当該エラスチン産生促進剤を経口摂取した者の体内においてエラスチンの産生を促進させることができる。その結果、エラスチンによる様々な生理活性効果を期待することができる。
【0019】
この方法において、前記タンパク質分解酵素は、中性プロテアーゼであることが望ましい。
【0020】
さらに、前記タンパク質分解酵素は、アロアーゼ(登録商標、ヤクルト薬品工業株式会社製)、パパイン、パンチダーゼ(登録商標、ヤクルト薬品工業株式会社製)から選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
【0021】
ここで、前記タンパク質分解酵素は、アロアーゼ(登録商標、ヤクルト薬品工業株式会社製)、パパイン、及びパンチダーゼ(登録商標、ヤクルト薬品工業株式会社製)とすることができる。
【0022】
また、このエラスチン産生促進方法は、前記損傷した靭帯の再生、紫外線に対する表皮保護、血管内皮損傷抑制、血小板凝集阻害、抗血栓、血流改善、胸の下垂抑制から選ばれた少なくとも1つの用途に用いることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、摂取者のエラスチンの産生を促進するエラスチン産生促進剤を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】エラスチン産生促進剤の製造方法を示すフローチャートである。
図2】実施例における血漿中のエラスチンペプチドの1種であるPro-Glyの濃度変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係るエラスチン産生促進剤の一実施形態について説明する。
【0026】
本発明のエラスチン産生促進剤は、鮭(サケ目サケ科)の卵巣膜をタンパク質分解酵素で処理することにより抽出された成分(鮭卵巣膜抽出成分とも称する)を含んでいる。
【0027】
鮭の卵巣膜としては、例えば、鮭の筋子からイクラに加工される際に残る膜状の筋(卵巣外皮)を用いることができる。鮭の卵巣膜は、加熱、乾燥等の加工がなされていない生のものを用いることが好ましい。
【0028】
また、タンパク質分解酵素としては、各種のプロテアーゼから選ばれた1種類又は2種類以上の酵素を用いることができる。好ましくは中性プロテアーゼが用いられる。その中でも、アロアーゼ(登録商標)、パパイン、パンチダーゼ(登録商標)が好ましく用いられ、これら3つの酵素を併用することが最も好ましい。
【0029】
パパインは、パパイアの果実乳液から抽出される蛋白質分解酵素の一種であり、蛋白質の分析用としてあるいは肉の軟化剤などに用いられている。中性前後でよく作用するが,至適pHは6.5~7.0である。
【0030】
アロアーゼ(登録商標)は、ヤクルト薬品工業株式会社から販売されている中性プロテアーゼである。アロアーゼ(登録商標)としては、例えば、「アロアーゼNP-10」(商品名、ヤクルト薬品工業株式会社製)を用いることができる。
【0031】
パンチダーゼ(登録商標)は、ヤクルト薬品工業株式会社から販売されている別の中性プロテアーゼである。パンチダーゼ(登録商標)としては、例えば、「パンチダーゼNP-2」(商品名、ヤクルト薬品工業株式会社製)を用いることができる。
【0032】
鮭卵巣膜抽出成分は、例えば、図1に示すような方法で得ることができる。すなわち、鮭の魚卵から分離された卵巣膜をタンパク質分解酵素で処理して溶液を抽出する、すなわち、酵素分解による卵巣膜の分解物を採取する(ステップS01)。ステップS01で得られた溶液を濾過する(ステップS02)。ステップS02で得られた濾液を乾燥させる(ステップS03)。
【0033】
具体的には、ステップS01においては、まず原料である鮭の卵巣膜を十分に水で洗浄した後、加水する。水は、例えば、生の卵巣膜:水=1:1~5の質量比となるように加えられるとよい。
【0034】
次いで、タンパク質分解酵素の酵素反応に適した温度、好ましくは40~60℃まで混合溶液を加熱した後、タンパク質分解酵素が添加される。タンパク質分解酵素は、例えば、卵巣膜の全量を100質量部としたとき、好ましくは0.1~5.0重量部、より好ましくは0.2~2.0質量部で添加されるとよい。
【0035】
タンパク質分解酵素として、アロアーゼ(登録商標)、パパイン、パンチダーゼ(登録商標)を用いる場合は、生の卵巣膜の全量100重量部に対して、アロアーゼ(登録商標)は、0.05~0.50質量部で添加されるとよく、パンチダーゼ(登録商標)は、0.10~1.00質量部で添加されるとよく、パパインは、0.05~0.50質量部で添加されるとよい。また、アロアーゼ(登録商標)、パパイン、パンチダーゼ(登録商標)の質量比は、1:1:1~1:1:4とすることが好ましい。
【0036】
そして、タンパク質分解酵素による混合液の酵素分解反応を開始させる。この酵素分解反応は、例えば、タンパク質分解酵素にアロアーゼ(登録商標)、パパイン、パンチダーゼ(登録商標)が含まれる場合、45~50℃の温度範囲で2~6時間行うことが好ましい。この酵素分解反応によって卵巣膜は分解される。
【0037】
次に、酵素分解反応によって得られた懸濁液に含まれているタンパク質分解酵素を失活させる。タンパク質分解酵素の失活は、例えば、懸濁液の温度を上昇させ、かつ上昇させた温度を維持することによって行う。例えば、懸濁液の温度を95℃まで上昇させ、この温度を30分程度維持するとよい。
【0038】
タンパク質分解酵素を失活させた懸濁液に活性炭が添加され、当該懸濁液の脱臭、脱色、脱脂がなされる。活性炭は、例えば、生の卵巣膜に対して1~10質量%程度添加することが好ましく、活性炭が添加された後は、1~3時間攪拌するのが好ましい。
【0039】
ステップS02において、活性炭を添加した懸濁液を遠心分離させる。当該懸濁液の遠心分離には、例えばデカンターを用いるとよい。次いで、遠心分離によって得られた上澄み液が珪藻土ろ過され、当該懸濁液中の固形物が取り除かれた抽出液が得られる。
【0040】
ステップS03において、ステップS02で得られた抽出液が濃縮される。当該抽出液の濃縮には、例えば、遠心薄膜蒸発器を用いるとよい。遠心薄膜蒸発器には、例えば、コントロを用いることができる。濃縮された抽出液は、加熱殺菌を行うことが好ましい。加熱殺菌は、例えば60~100℃において20~60分間行うことが好ましい。
【0041】
加熱殺菌が行われた抽出液を乾燥させる。抽出液の乾燥方法は、特に限定されないが、例えば、噴霧乾燥、減圧乾燥、凍結乾燥、ドラム乾燥、熱風乾燥などで行うことができる。乾燥によって得られた粉末は、必要に応じて賦形剤を混合できる。例えば、デキストリンやデンプン等を挙げることができる。また、粉末が所望の粒径以下となるように、例えば、16~250メッシュの篩に当該粉末を通してもよい。このように、粉末を篩にかけることによって、所定の粒径の粉末を得るとともに、例えば、当該粉末に混在する目的外のものを除去することができる。
【0042】
尚、エラスチン産生促進剤は、鮭卵巣膜抽出成分以外に、本発明の奏する効果を阻害しない範囲で、他の成分を含むことができる。このような成分としては、例えば、セラミド、プラズマローゲン、オキアミ油、α-リポ酸、コエンザイムQ10、アスタキサンチン、β-カロテン、フコキサンチン、ヒアルロン酸、フコイダン、プロテオグリカン、グルコサミン、コラーゲン、プラセンタ、肝臓末、L-カルニチン、オルニチン、GABA、テアニン、シスチン、ポリアミン、ローヤルゼリー、大豆イソフラボン、レスベラトロール、ヘスペリジン、メロン抽出物、黒胡椒抽出物、ヒハツエキス、高麗人参エキス、アーティチョーク葉エキス、アムラエキス、ドクダミエキス、ショウガエキス、桜の花エキス、カミツレ抽出物、レモンバーム抽出物、エキナケアエキス、ネムノキ樹皮抽出物、ビタミンB群、ビタミンC等を挙げることができる。
【0043】
また、本発明のエラスチン産生促進剤の形態は、特に限定されず、例えば、錠剤、チュアブル錠、粉剤、カプセル、顆粒、ドリンク、ゲル、シロップ、経管経腸栄養用流動食等の各種形態等を採用することができる。また、例えば、健康食品、機能性表示食品、特定保健用飲食品、病者用飲食品等の飲食品、そのための食品添加物、医薬品、サプリメント、家畜、競走馬、鑑賞動物、ペット等のための動物飼料等の形態であってもよい。これらの製品中の鮭卵巣膜抽出物の含有量は0.33~100質量%が好ましく、0.50~100質量%がより好ましい。
【0044】
本発明によるエラスチン産生促進剤の投与量は、適用する個体の種、年齢、性別などに応じて適宜変更することができる。例えば、ヒトを対象とする場合の投与量は、成人1人1日当たり、鮭卵巣膜抽出物を0.1~10g摂取できる量が好ましく、0.2~1.0g摂取できる量がより好ましい。当該1日投与量は、1回で投与されてもよいが、数回に分けて投与されてもよい。また、経口的に投与されることが、より好ましい。なお、適用対象はヒトに限られず、例えば、犬、猫等の動物に適用することも可能である。
【0045】
本発明のエラスチン産生促進剤は、摂取者の体内でのエラスチンの産生を促進させる作用を有している。具体的には、摂取者がエラスチン促進剤を摂取すると、摂取者の血中のエラスチンペプチドの1種であるPro-Glyの血中濃度が上昇することが確認された。Pro-Glyは、プロリンとグリシンより構成されるジペプチドであり、エラスチンの産生作用を促進することが知られている。
【0046】
エラスチンは、(1)損傷した靭帯の再生、(2)紫外線に対する表皮保護作用、(3)血管内皮損傷抑制、(4)血小板凝集阻害、抗血栓作用及び血流改善(5)胸の下垂抑制作用などに有用であることが報告されている。
【0047】
具体的には、(1)損傷した靭帯の再生については、例えば、「Development of Tissue‐Engineered Ligaments Elastin Promotes Regeneration of the Rabbit Medial Collateral Ligament.」(Artif. Organs, 42(6):E102-E113, 2017)に記載されている。当該文献によると、内側側副靭帯を破裂したウサギにブタ由来のエラスチンを6週間注入すると、コラーゲンおよびエラスチンの遺伝子発現が確認され、細胞内のタンパク質含有量が増加し、内側副靱帯の弾性率も増加した。このことからエラスチンは、スポーツ活動やケガにより損傷した靭帯の治癒ができると期待できる。
【0048】
(2)紫外線に対する表皮保護作用については、例えば、「Protective Effect of Bovine Elastin Peptides against Photoaging in Mice and Identification of Novel Antiphotoaging Peptides」(J. Agric. Food Chem., 66 (41), 2018)に記載されている。当該文献によると、UVによる皮膚の損傷を受けたマウスに牛由来のエラスチン加水分解物を経口投与すると、皮膚の表皮の過形成及び線維芽細胞のアポトーシスが抑制された。さらに、経口投与されたマウスは、エラスターゼ阻害活性を持つことも明らかになった。このことより、エラスチン加水分解物はUVによって損傷を受けた皮膚を保護することが期待できる。
【0049】
(3)血管内皮損傷抑制については、例えば、「Prophylactic effects of elastin peptide derived from the bulbus arteriosus of fish on vascular dysfunction in spontaneously hypertensive rats」(Life Sciences 120, pp.48-53, 2014)に記載されている。当該文献によると、自然発症高血圧ラットにカツオ由来エラスチンペプチドを5週間摂取させると、エラスチンペプチド未摂取群と比較して大動脈内皮の損傷が抑制された。このことから、エラスチンペプチドが高血圧関連の血管機能障害を予防することが期待できる。
【0050】
(4)血小板凝集阻害、抗血栓作用及び血流改善については、例えば、「Elastin peptides prepared from piscine and mammalian elastic tissues inhibit and mammalian elastic tissues inhibit collagen-induced platelet aggregation and stimulate migration and proliferation of human skin fibroblasts」(J. Pept. Sci., 16(11):652-8, 2010)に記載されている。当該文献によると、牛靭帯由来のエラスチンペプチド、豚大動脈由来のエラスチンペプチド、及びカツオ動脈球由来のエラスチンペプチドを抗凝固した血液に供すると、血小板の凝集が抑制された。このことから、エラスチンペプチドは血栓形成が原因となって起こる脳梗塞や心筋梗塞の予防や、血流改善が期待できる。
【0051】
(5)胸の下垂抑制作用については、例えば、「健常な日本人女性を対象としたカツオ由来エラスチンペプチドによるダイエット時のバスト下垂抑制及びバスト皮膚弾性改善作用(機能性食品と薬理栄養, 3(10), pp.131-138, 2016)」に記載されている。当該文献によると、ヒトがカツオ動脈球由来エラスチンペプチドを8週間摂取すると、床からバストトップまでの高さ及びバストアンダーからトップまでの角度、バストの皮膚弾性率が摂取前に比べ有意に上昇した。このことから、ヒトがエラスチンペプチドを摂取すると、下垂していない綺麗なバストラインを維持することが期待できる。
【0052】
したがって、本発明のエラスチン産生促進剤は、上記のような様々な用途に使用することができる。
【実施例
【0053】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を何ら限定するものではない。
【0054】
[実施例](鮭卵巣膜抽出物からなるエラスチン産生促進剤の製造)
鮭の魚卵から分離され、十分洗浄された生の卵巣膜100質量部に対して、水を200質量部添加した。この混合液に、原料とした生の卵巣膜100質量部に対して、パパイン0.1質量部、「アロアーゼNP-10」(商品名、ヤクルト薬品工業株式会社製)0.1質量部、「パンチダーゼNP-2」(商品名、ヤクルト薬品工業株式会社製)0.4質量部を添加して、45~50℃の温度で4時間酵素分解を行った。次いで、混合液の温度を95℃まで上昇させて30分間維持することにより、酵素を失活させた。
【0055】
次いで、上記混合液に活性炭を3質量部添加して、脱臭、脱色、脱脂を行い、遠心分離して上澄液を採取し、この上澄液を珪藻土ろ過して固形分を取り除いた。
【0056】
得られたろ液を遠心薄膜蒸発器(コントロ)を用いて濃縮し、90℃にて30分間殺菌した後、噴霧乾燥して粉末を得た。この粉末を16メッシュの篩に通して粗い粒子を除いて、鮭卵巣膜抽出物を得た。この鮭卵巣膜抽出物を以下の試験例において、エラスチン産生促進剤として使用した。なお、鮭卵巣膜抽出物はSOP(サーモン・オバリー・ペプチド)、サーモンプラセンタ(共に登録商標)として日本食菌工業株式会社で販売されている。
【0057】
[試験例](エラスチン産生促進剤の単回摂取試験)
(1)試験方法
被験者
被験者に関する情報は、以下の通りである。尚、下記する(b)の条件に該当し、かつ(c)の条件に該当しない者を被験者として選出した。
(a)被験者数 : 2人
(b)被験者の選択基準 : 健常な成人男女
(c)被験者の除外基準 : 疾病の治療中あるいは必要がある者及び妊娠又は授乳中の者
【0058】
(2) 試験食品
試験食品として粉末のエラスチン産生促進剤2gを被験者に提供した。
【0059】
(3) 試験デザイン
試験は、以下の態様で実施された。
3-1) 被験者2人による試験食品の単回摂取試験を行った。
3-2) 試験は、摂取前日の21時以降からの絶飲食下(水道、ミネラルウォータ等は可)の条件の下、摂取当日の午前9時に開始した。なお、被験者は、試験食品を経口摂取(オブラートに試験食品を包んで摂取)した。
3-3) 採血 : 採血は、試験食品摂取前、摂取30分後、1時間後、4時間後、6時間後の計5回行った。
3-4) 採血量 : 5mL/回
【0060】
(4) 評価方法
試験による評価は、LC/MS(Liquid Chromatography-Mass spectrometry)(液体クロマトグラフィー-質量分析法)による血漿中ジペプチド(エラスチンペプチド Pro-Gly)の濃度を測定し、摂取前後の濃度変化を評価した。
【0061】
図2は、被験者の血漿中のPro-Glyの濃度変化を示している。図2に示すように、被験者がエラスチン産生促進剤を経口摂取すると、30分後に血中のPro-Glyの濃度が最も高くなった。
【0062】
経口摂取から1時間が経過すると、血中のPro-Glyの濃度は減少した。すなわち、経口摂取から1時間が経過した際の血中のPro-Glyの濃度は、経口摂取から30分が経過した際の濃度よりも低く、経口摂取前の濃度よりも高い。
【0063】
経口摂取から4時間が経過すると、血中のPro-Glyの濃度はわずかに減少した。すなわち、経口摂取から4時間が経過した際の血中のPro-Glyの濃度は、経口摂取から1時間が経過した際の濃度よりもわずかに低く、経口摂取前の濃度よりも高い。
【0064】
経口摂取から6時間が経過すると、血中のPro-Glyの濃度はわずかに減少した。すなわち、経口摂取から6時間が経過した際の血中のPro-Glyの濃度は、経口摂取から4時間が経過した際の濃度よりもわずかに低く、経口摂取前の濃度よりも高い。
【0065】
このように、エラスチン産生促進剤は、摂取者のエラスチンの産生を促進させる。その結果、被験者の血中のPro-Glyの濃度を上昇させることが可能となる。
図1
図2