(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-25
(45)【発行日】2025-05-08
(54)【発明の名称】高純度3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレート
(51)【国際特許分類】
C07D 303/16 20060101AFI20250428BHJP
C08F 20/32 20060101ALI20250428BHJP
C08G 59/20 20060101ALI20250428BHJP
C09D 4/02 20060101ALI20250428BHJP
C09D 163/00 20060101ALI20250428BHJP
C09J 4/02 20060101ALI20250428BHJP
C09J 163/00 20060101ALI20250428BHJP
【FI】
C07D303/16
C08F20/32
C08G59/20
C09D4/02
C09D163/00
C09J4/02
C09J163/00
(21)【出願番号】P 2018247154
(22)【出願日】2018-12-28
【審査請求日】2021-10-11
【審判番号】
【審判請求日】2023-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 弘世
(72)【発明者】
【氏名】仲井 義人
【合議体】
【審判長】井上 典之
【審判官】木村 敏康
【審判官】小石 真弓
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-154182号公報(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 303/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートの純度が
99.90~99.96重量%であり、下記式(a)で表される化合物及び下記式(b)で表される化合物の総含有量が
0.02~0.05重量%であり、ハーゼン色数が
5~7である脂環式エポキシ化合物製品。
【化1】
【請求項2】
前記式(a)で表される化合物、前記式(b)で表される化合物、及び下記式(c)で表される化合物の総含有量が
0.03~0.07重量%である請求項1記載の脂環式エポキシ化合物製品。
【化2】
【請求項3】
前記式(a)で表される化合物、前記式(b)で表される化合物、前記式(c)で表される化合物、及び下記式(d)で表される化合物の総含有量が
0.04~0.10重量%である請求項1又は2記載の脂環式エポキシ化合物製品。
【化3】
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の脂環式エポキシ化合物製品を含む硬化性組成物。
【請求項5】
さらに、硬化剤と硬化促進剤とを含む請求項4記載の硬化性組成物。
【請求項6】
さらに、硬化触媒を含む請求項4記載の硬化性組成物。
【請求項7】
請求項4~6のいずれか1項に記載の硬化性組成物の硬化物。
【請求項8】
請求項4~6のいずれか1項に記載の硬化性組成物を含む封止剤。
【請求項9】
請求項4~6のいずれか1項に記載の硬化性組成物を含む接着剤。
【請求項10】
請求項4~6のいずれか1項に記載の硬化性組成物を含むコーティング剤。
【請求項11】
請求項7記載の硬化物からなる部材を備えた光学部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレート、これを含む硬化性組成物とその硬化物、封止剤、接着剤、コーティング剤及び光学部材に関する。
【背景技術】
【0002】
3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートは、カチオン重合性のエポキシ基とラジカル重合性のメタクリロイル基という2つの異種の硬化性基を有する化合物であり、硬化することにより様々な物性や特性を有する硬化物を製造することができる。こうして得られた硬化物は機能材料、光学部材等として利用できる。すなわち、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートは、例えば、コーティング剤(塗料を含む)、封止剤、接着剤、光学材料の原料等として利用できる。しかしながら、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートを製造する場合、反応工程や反応粗液の脱溶媒工程で原料や生成物が重合しやすいという問題があった。また、工業的に製造された3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートは着色度が高く、経時的にも変色しやすいという問題があった。
【0003】
特許文献1には、シクロヘキセニルメチル(メタ)アクリレートを酸化剤でエポキシ化して3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレートを製造するプロセスにおける反応工程及び脱低沸及び/又は製品化工程において、重合禁止剤として、分子状酸素含有ガスとともに特定の重合防止剤を組み合わせて用いると、重合抑制効果が顕著に増大することが記載されている。
【0004】
特許文献2には、シクロヘキセニルメチル(メタ)アクリレートを有機過酸を用いてエポキシ化して得られる3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレートを含有する反応粗液を、(a)接触時間の短い装置を用いて水洗する工程、(b)アルカリ中和処理する工程、(c)加熱温度100℃以下、減圧下で脱低沸することにより、低沸成分含有量3~50重量%の液を得る工程、および(d)加熱温度100℃以下、前記(c)工程の1/2以下の減圧下で脱低沸することにより、低沸点成分含有量1重量%未満の液を得る工程で処理する3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレートの製造方法が開示されている。なお、特許文献1の実施例では、前記(c)及び(d)の脱低沸処理は薄膜蒸発器を用いて行われており、1段目の脱低沸の条件は、加熱温度60℃、圧力150mmHgであり、2段目の脱低沸の条件は、加熱温度60℃、圧力40mmHgである。この方法によれば、精製工程での有価物のロスを低減できるとともに、製品中の重合物含量を少なくでき、純度94~97%の製品が得られるとされている。
【0005】
特許文献3には、上記特許文献2の方法における工程(c)と工程(d)との間に、さらにアルカリ水洗工程を設けた3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレートの精製方法が開示されている。特許文献3の実施例では、工程(c)及び(d)の脱低沸処理はフラッシュ管を用いて行われている。1段目及び2段目の蒸発条件は特許文献2と同じである。この方法によれば、製品の着色を防止できるとともに、製品の経時的な着色も有効に防止できるとされている。
【0006】
特許文献4には、エポキシ化シクロヘキセニルメチルメタクリレートを含有する水洗後の粗液を脱溶媒するため、薄膜蒸発器を2基以上連結して連続精製する工程において、それぞれの薄膜蒸発器のボトムホールドタンクに分子状酸素を吹き込むことにより、重合物による配管内の閉塞を抑制できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平2-262574号公報
【文献】特開平6-25203号公報
【文献】特開平9-67308号公報
【文献】特開平8-245511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来の方法で得られる3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートは、昨今の高機能材料、高性能光学部材等の原料として用いるには、品質、特性の点で必ずしも十分とはいえない。より具体的には、従来の方法で製造された3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートを硬化して得られる硬化物は、透明性及び耐熱性に劣る。
【0009】
従って、本発明の目的は、透明性及び耐熱性に優れた機能材料、光学部材等の原料として有用な高純度の3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートを提供することにある。
本発明の他の目的は、硬化性に優れた高純度の3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートを提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、透明性及び耐熱性に優れた機能材料、光学部材等の原材料として有用な硬化性組成物とその硬化物、前記硬化性組成物を含む封止剤、接着剤、コーティング剤、及び前記硬化物からなる部材を備えた光学部材を提供することにある。
【0010】
なお、本明細書において「製品」とは、工業的に製造され、市場に流通しうる形態のものであって、化学物質それ自体ではないことを示す用語である。完全に純粋な工業製品は現実にはないという意味において、「製品」は組成物(目的物を主成分として、例えば100重量%近く含む組成物)といえる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、3-シクロヘキセニルメチルメタクリレートをエポキシ化して得られる3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートを含む反応粗液を脱低沸蒸留および脱高沸蒸留に付すと、特定不純物の含有量が極めて少なく、高純度で色相に優れるとともに、硬化性にも優れた3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートが得られること、及びこうして得られる3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートを硬化すると、透明性及び耐熱性に優れた硬化物が得られることを見出した。本発明はこれらの知見に基づき、さらに検討を重ねて完成されたものである。
【0012】
すなわち、本発明は、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートの純度が98.0重量%以上であり、下記式(a)で表される化合物及び下記式(b)で表される化合物の総含有量が1.3重量%以下である脂環式エポキシ化合物製品を提供する。
【化1】
【0013】
前記脂環式エポキシ化合物製品において、前記式(a)で表される化合物、前記式(b)で表される化合物、及び下記式(c)で表される化合物の総含有量は、1.6重量%以下であることが好ましい。
【化2】
【0014】
また、前記脂環式エポキシ化合物製品において、前記式(a)で表される化合物、前記式(b)で表される化合物、前記式(c)で表される化合物、及び下記式(d)で表される化合物の総含有量が2.0重量%以下であることが好ましい。
【化3】
【0015】
前記脂環式エポキシ化合物製品のハーゼン色数は、25以下であることが好ましい。
【0016】
本発明は、また、前記の脂環式エポキシ化合物製品を含む硬化性組成物を提供する。
【0017】
前記硬化性組成物は、さらに、硬化剤と硬化促進剤とを含んでいてもよい。
【0018】
前記硬化性組成物は、さらに、硬化触媒を含んでいてもよい。
【0019】
本発明は、さらに、前記硬化性組成物の硬化物を提供する。
【0020】
本発明は、さらにまた、前記硬化性組成物を含む封止剤を提供する。
【0021】
本発明は、また、前記硬化性組成物を含む接着剤を提供する。
【0022】
本発明は、さらに、前記硬化性組成物を含むコーティング剤を提供する。
【0023】
本発明は、さらにまた、前記硬化物からなる部材を備えた光学部材を提供する。
【発明の効果】
【0024】
本発明の脂環式エポキシ化合物製品は、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートを高純度で含み、且つ特定の不純物の含量が低いので、この脂環式エポキシ化合物製品を含む硬化性組成物を硬化することにより、透明性及び耐熱性に優れた硬化物を得ることができる。また、この脂環式エポキシ化合物製品を含む硬化性組成物は、硬化速度が従来品より速い。
本発明の製造方法によれば、上記のような優れた特性を有する脂環式エポキシ化合物製品を工業的に効率よく製造できる。
本発明の硬化物及び光学部材は、上記の硬化性組成物を硬化して製造するので、透明性及び耐熱性に優れる。
本発明の封止剤、接着剤、コーティング剤は、上記のような優れた特性を有する硬化性組成物を含むので、透明性や耐熱性等の物性に優れた硬化物を比較的短い時間で得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の光学部材(光半導体装置)の一例を示す概略図(断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[脂環式エポキシ化合物製品]
本発明の脂環式エポキシ化合物製品、すなわち高純度3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートは、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレート(=下記式(i)
【化4】
で表される化合物)を含有し、その純度(若しくは、含有量)が98.0重量%以上である。3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートの純度(若しくは、含有量)は、好ましくは98.5重量%以上、さらに好ましくは99.0重量%以上、特に好ましくは99.5重量%以上である。本発明の脂環式エポキシ化合物製品において、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートの純度が98.0重量%以上であることにより、当該脂環式エポキシ化合物製品を含む硬化性組成物の硬化性を向上できるとともに、前記硬化性組成物の硬化物の物性、特に耐熱性を向上させることができる。
【0027】
また、本発明の脂環式エポキシ化合物製品は、前記式(a)で表される化合物と前記式(b)で表される化合物の総含有量が1.3重量%以下である。式(a)で表される化合物と式(b)で表される化合物の総含有量は、好ましくは1.1重量%以下、さらに好ましくは0.09重量%以下、特に好ましくは0.07重量%以下である。本発明の脂環式エポキシ化合物製品において、式(a)で表される化合物と式(b)で表される化合物の総含有量を1.3重量%以下とすることにより、当該脂環式エポキシ化合物製品を含む硬化性組成物の硬化物の物性、特に、透明性及び耐熱性を向上させることができる。
【0028】
本発明の脂環式エポキシ化合物製品において、前記式(a)で表される化合物、前記式(b)で表される化合物、及び前記式(c)で表される化合物の総含有量は、好ましくは1.6重量%以下、より好ましくは1.4重量%以下、さらに好ましくは1.0重量%以下、特に好ましくは0.5重量%以下(例えば0.2重量%以下)である。式(a)で表される化合物、式(b)で表される化合物、及び式(c)で表される化合物の総含有量を上記範囲にすることにより、当該脂環式エポキシ化合物製品を含む硬化性組成物の硬化物の物性、特に、透明性及び耐熱性をより一層向上させることができる。
【0029】
本発明の脂環式エポキシ化合物製品において、前記式(a)で表される化合物、前記式(b)で表される化合物、前記式(c)で表される化合物、及び前記式(d)で表される化合物の総含有量は、好ましくは2.0重量%以下、より好ましくは1.5重量%以下、さらに好ましくは1.0重量%以下、特に好ましくは0.5重量%以下(例えば0.2重量%以下)である。式(a)で表される化合物、式(b)で表される化合物、式(c)で表される化合物、及び式(d)で表される化合物の総含有量を上記範囲にすることにより、当該脂環式エポキシ化合物製品を含む硬化性組成物の硬化物の物性、特に、透明性及び耐熱性をさらに向上させることができる。
【0030】
なお、式(b)で表される化合物(=3-シクロヘキセニルメチルメタクリレート)は、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートの原料であり、未反応原料が脂環式エポキシ化合物製品中に混入したものである。また、式(a)で表される化合物及び式(c)で表される化合物は、前記原料中に含まれる不純物であり、それが脂環式エポキシ化合物製品中に混入したものである。式(d)で表される化合物は、主に反応工程(エポキシ化工程)で副生する不純物であり、反応生成物を蒸発あるいは蒸留に付す際(脱溶媒工程、脱低沸工程、脱高沸工程)においても生成しうる。式(d)で表される化合物は、式(i)で表される目的化合物の有する二重結合がさらにエポキシ化されることにより生成する。
【0031】
式(a)で表される化合物、式(b)で表される化合物及び式(c)で表される化合物はカチオン重合性基を有さず、式(d)で表される化合物はラジカル重合性基を有しない。そのため、これらの化合物が脂環式エポキシ化合物製品に多く含まれていると、当該脂環式エポキシ化合物製品を硬化して得られる硬化物について、所望の物性(例えば、耐熱性、機械的強度など)が得られない場合が生じる。また、式(a)で表される化合物は芳香環を有し、式(b)で表される化合物は不飽和結合を有するため、これらの化合物が脂環式エポキシ化合物製品に多く含まれていると、硬化物の色相を悪化させる要因となる。
【0032】
式(a)で表される化合物及び式(c)で表される化合物は目的化合物[式(i)で表される化合物]よりも沸点は低いが、沸点差はさほど無いため、前記特許文献に記載の薄膜蒸発器等の蒸発器を用いた脱低沸処理(脱溶媒処理)では分離除去できない。一方、式(d)で表される化合物は目的化合物[式(i)で表される化合物]よりも沸点が高いため、前記特許文献に記載の薄膜蒸発器等の蒸発器を用いた脱低沸処理(脱溶媒処理)では分離除去することができず、缶出製品中に混入する。なお、反応工程において、有機過酸等のエポキシ化剤の使用量を原料である式(b)で表される化合物に対して過剰に用いて、未反応の式(b)で表される化合物の残存量を低下させようとすると、式(d)で表される化合物の副生量が増大する。逆に、式(d)で表される化合物の副生量を減らすため、有機過酸等のエポキシ化剤の使用量を減少させると、未反応の式(b)で表される化合物の残存量が増大する。前記特許文献にはこれらの不純物の存在について何ら注目しておらず、従って、このような不純物をいかにして除去するかについての開示や示唆は全くない。
【0033】
本発明の脂環式エポキシ化合物製品において、式(a)で表される化合物の含有量は、好ましくは0.3重量%以下、より好ましくは0.2重量%以下、さらに好ましくは0.1重量%以下、特に好ましくは0.05重量%以下(例えば0.02重量%以下)である。また、式(b)で表される化合物の含有量は、好ましくは1.0重量%以下、より好ましくは0.8重量%以下、さらに好ましくは0.5重量%以下、特に好ましくは0.2重量%以下(例えば0.1重量%以下)である。式(c)で表される化合物の含有量は、好ましくは0.3重量%以下、より好ましくは0.2重量%以下、さらに好ましくは0.1重量%以下、特に好ましくは0.05重量%以下(例えば0.03重量%以下)である。さらに、式(d)で表される化合物の含有量は、好ましくは0.6重量%以下、より好ましくは0.3重量%以下、さらに好ましくは0.2重量%以下、特に好ましくは0.1重量%以下(例えば0.05重量%以下)である。
【0034】
本発明の脂環式エポキシ化合物製品は着色度が低く、ハーゼン色数(APHA)は、例えば25以下、好ましくは20以下、特に好ましくは18以下である。また、本発明の脂環式エポキシ化合物製品は保存安定性にも優れ、当該脂環式エポキシ化合物製品を30℃で1ヶ月間保存した後のハーゼン色数(APHA)の増加率は200%未満である。
【0035】
(脂環式エポキシ化合物製品の製造方法)
本発明の脂環式エポキシ化合物製品は、下記工程を経て製造することができる。なお、工程Bと工程Cは何れを先に行ってもよい。
工程A:3-シクロヘキセニルメチルメタクリレートを有機過酸でエポキシ化して反応生成物(反応粗液)を得る工程(エポキシ化工程)
工程B:反応生成物(所定の工程を経たものであってもよい)を脱低沸蒸留に付す工程(脱低沸工程)
工程C:反応生成物(所定の工程を経たものであってもよい)を脱高沸蒸留を施す工程(脱高沸工程)
【0036】
また、工程A終了後、工程B(工程C-工程Bの順で行う場合には、工程C)の前に、得られた反応生成物を水洗する工程(水洗工程)や、反応生成物をアルカリで中和する工程(アルカリ中和処理工程)を設けてもよい。また、工程Bを多段階で行う場合には、各段階間に、アルカリ水溶液で洗浄する工程(アルカリ水洗工程)を設けてもよい。さらに、工程Bや工程Cの前に、反応生成物中の溶媒を除去するため、脱溶媒工程を設けてもよい。この脱溶媒工程は、前記特許文献中に記載の脱低沸工程に相当する。
【0037】
(エポキシ化工程)
エポキシ化工程は、下記式で示されるように、式(b)で表される3-シクロヘキセニルメチルメタクリレートを有機過酸と反応させて、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートを生成させる工程である。本工程において、式(i)で表される3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートを含む反応生成物(反応粗液)が得られる。
【化5】
【0038】
前記有機過酸としては、例えば、過ギ酸、過酢酸、過プロピオン酸、m-クロロ過安息香酸、トリフルオロ過酢酸、過安息香酸等が例示できる。これらは触媒と併用してもよい。触媒としては、炭酸ナトリウム等のアルカリ類や、硫酸等の酸類が使用できる。
【0039】
有機過酸の使用量は、3-シクロヘキセニルメチルメタクリレート1モルに対して、例えば0.5~3モルである。有機過酸の使用量が少なすぎると、原料や目的化合物の重合によるロス、未反応の3-シクロヘキセニルメチルメタクリレートを回収する場合に多大な費用を要する、などの問題が生じる。一方、有機過酸の使用量が多すぎると、過剰の有機過酸による副生物の増大などの問題が生じる。
【0040】
エポキシ化反応は溶媒の存在下で行うことができる。前記溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、ジエチルベンゼン、p-シメン等の芳香族炭化水素;シクロヘキサン、デカリン等の脂環式炭化水素;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等の脂肪族炭化水素;シクロヘキサノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、フルフリルアルコール等の一価アルコール;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン;酢酸エチル、酢酸n-アミル、酢酸シクロヘキシル、プロピオン酸イソアミル、安息香酸メチル等のエステル;エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコール及びその誘導体(モノエーテル体、モノエステル体、モノエーテルモノエステル体、ジエーテル体、ジエステル体等);クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素、クロルベンゼン等のハロゲン化炭化水素;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテルなどが挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0041】
溶媒の使用量は、例えば、原料である3-シクロヘキセニルメチルメタクリレートの0.2~10重量倍程度である。
【0042】
エポキシ化反応には、必要に応じて、有機過酸の安定剤(例えば、リン酸水素アンモニウム、ピロリン酸カリウム、ピロリン酸2-エチルヘキシル、ピロリン酸カリウム2-エチルヘキシル、トリポリリン酸カリウム、トリポリリン酸-2-エチルヘキシル等)や、重合禁止剤(例えば、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、p-ベンゾキノン、クレゾール、t-ブチルカテコール、2,4-ジメチル-6-t-ブチルフェノール、2-t-ブチル-4-メトキシフェノール、3-t-ブチル-4-メトキシフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、2,5-ジヒドロキシ-p-キノン、ピペリジン、エタノールアミン、α-ニトロソ-β-ナフトール、ジフェニルアミン、フェノチアジン、N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアンモニウム塩、N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩、N-ニトロソ-N,N-ジフェニルアミン、ジブチルヒドロキシトルエン、N,N-ジエチルヒドロキシルアミン、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル、4-アセトアミド-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル、4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル、セバシン酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)等)を使用することができる。
【0043】
エポキシ化反応の反応温度は、例えば0~70℃である。反応雰囲気としては反応を阻害しない限り特に限定されず、例えば、空気雰囲気、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気等の何れであってもよい。エポキシ化反応は、重合を抑制するため、反応系に分子状酸素含有ガスを吹き込みながら行ってもよい。
【0044】
反応は連続式(ピストンフロー等)、セミバッチ式、バッチ式のいずれの方式で行ってもよい。
【0045】
(水洗工程)
水洗工程は、エポキシ化工程を経て得られた反応生成物中に含まれる有機過酸やその分解物である有機酸を水洗により除去する工程である。
【0046】
水の使用量としては、例えば反応生成物の0.1~3倍(V/V)程度である。水洗には、ミキサーセトラ-タイプ等の平衡型抽出器や、抽出塔、遠心抽出器等を用いることができる。
【0047】
(アルカリ中和処理工程、アルカリ水洗工程)
アルカリ中和処理工程及びアルカリ水洗工程は、反応生成物中に含まれる有機過酸や有機酸等をアルカリで除去する工程である。使用するアルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液などが挙げられる。アルカリ水溶液の使用量としては、例えば処理に供する反応生成物(被処理液)の0.1~10重量倍程度である。
【0048】
アルカリ中和処理やアルカリ水洗は、ミキサーセトラ-タイプ等の平衡型抽出器や、抽出塔、遠心抽出器等を用いることができる。
【0049】
(脱溶媒工程)
脱溶媒工程は、反応生成物中に含まれる溶媒を留去する工程である。脱溶媒は、通常、薄膜蒸発器、フラッシュ缶などの蒸発器が用いられる。脱溶媒は、溶媒を完全に除去するため、2段で行うのが好ましい。一段目の脱溶媒は、加熱温度50~100℃、好ましくは50~70℃の範囲で行うのが好ましい。1段目の脱溶媒で、溶媒濃度3~50重量%(好ましくは10~20重量%)の缶出液が得られる。2段目の脱溶媒は、加熱温度50~100℃、好ましくは50~70℃の範囲で行うのが好ましい。2段目の脱溶媒で、溶媒濃度が例えば1重量%以下の缶出液が得られる。
【0050】
脱溶媒工程では、水洗、アルカリ中和処理、アルカリ水洗で失われた重合禁止剤あるいは有機過酸の安定剤を補うため、脱溶媒処理に付す被処理液に対してこれらを適当量補充することが好ましい。また、この工程では、重合防止効果のある分子状酸素含有ガスを蒸発器に導入することが好ましい。分子状酸素含有ガスを導入する場所は任意に選択できるが、缶出液の取り出しラインから分子状含有ガスを吹き込むことのが好ましい。
【0051】
脱溶媒工程を経ることにより、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートの純度が94~97重量%の粗製品を得ることができる。
【0052】
(脱低沸工程)
脱低沸工程は、反応生成物中に含まれる、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートよりも低沸点の成分(例えば、溶媒、水分、低沸点不純物)を留去する工程である。本工程により、脂環式エポキシ化合物製品中に混入する前記式(a)~(c)で表される化合物の含有量を極めて低く低減することができる。前記式(a)~(c)で表される化合物の含有量を低減することにより、得られる脂環式エポキシ化合物製品の着色や経時的な着色を抑制できるとともに、当該脂環式エポキシ化合物製品を含む硬化性組成物を硬化して得られる硬化物の物性、特に透明性及び耐熱性、機械的特性などを向上させることができる。
【0053】
脱低沸工程における蒸留塔としては、例えば、棚段塔、充填塔等を使用することができる。蒸留塔の実段数は、通常10段以上(例えば、10~100段)、好ましくは20段以上(例えば、20~50段)である。塔頂圧力は、通常1mmHg以下、好ましくは0.3mmHg、さらに好ましくは0.1mmHg以下である。塔頂温度は、通常100℃以下(例えば、40~100℃)、好ましくは85℃以下(例えば、50~85℃)、さらに好ましくは80℃以下(例えば、50~80℃)である。塔底温度は、通常140℃以下(例えば、60~140℃)、好ましくは130℃以下(例えば、70~130℃)、さらに好ましくは110℃以下(例えば、80~110℃)である。加熱温度は、通常150℃以下(例えば、70~150℃)、好ましくは130℃以下(例えば、90~130℃)である。還流比は、通常0.1~50、好ましくは1~10である。
【0054】
蒸留塔の実段数を多くしたり、還流比を大きくすることにより、前記式(a)~(c)で表される化合物の製品中への混入を低減できる。また、蒸留塔の塔底温度や加熱温度を低くすることにより、重合物や他の好ましくない副生物の生成を抑制できる。
【0055】
脱低沸蒸留に付す被処理液(蒸留塔供給液)には、蒸留中の目的化合物等の重合を抑制するため、重合禁止剤を添加することが好ましい。重合禁止剤としては、前記例示のものを使用できる。中でも好ましい重合禁止剤として、ハイドロキノン、p-ベンゾキノン、N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアンモニウム塩、N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩、N-ニトロソ-N,N-ジフェニルアミン、ジブチルヒドロキシトルエン、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル、4-アセトアミド-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル、4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル、セバシン酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)などが挙げられる。なお、蒸留塔に重合防止効果のある分子状酸素含有ガスを吹き込んでもよいが、高真空度を保持する観点からは、分子状酸素含有ガスを蒸留塔に吹き込むことは好ましくない。
【0056】
重合禁止剤の使用量は、被処理液(蒸留塔供給液)に対して、例えば0.005~1重量%、好ましくは0.005~0.5重量%、さらに好ましくは0.005~0.1重量%、特に好ましくは0.01~0.05重量%である。
【0057】
塔頂留出量と塔底缶出量の比(前者/後者)は、例えば2/98~20/80、好ましくは5/95~15/85、さらに好ましくは7/93~13/87である。
【0058】
脱低沸工程において、蒸留塔供給液から3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートよりも低沸点の成分を塔頂から留去することにより、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレート、又は、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートとそれよりも高沸点の成分の混合物が、例えば缶出液として得られる。
【0059】
(脱高沸工程)
脱高沸工程は、反応生成物中に含まれる3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートよりも高沸点の成分を、例えば塔底から分離除去する工程である。本工程により、脂環式エポキシ化合物製品に混入する前記式(d)で表される化合物や重合物を極めて低く低減できる。前記式(d)で表される化合物や重合物の含有量を低減することにより、得られる脂環式エポキシ化合物製品を含む硬化性組成物の硬化物の物性、特に透明性及び耐熱性、機械的特性などを向上させることができる。
【0060】
脱高沸工程における蒸留塔としては、例えば、棚段塔、充填塔等を使用することができる。蒸留塔の実段数は、通常10段以上(例えば、10~100段)、好ましくは20段以上(例えば、20~50段)である。塔頂圧力は、通常1mmHg以下、好ましくは0.3mmHg、さらに好ましくは0.1mmHg以下である。塔頂温度は、通常100℃以下(例えば、40~100℃)、好ましくは85℃以下(例えば、50~85℃)、さらに好ましくは80℃以下(例えば、50~80℃)である。塔底温度は、通常140℃以下(例えば、60~140℃)、好ましくは120℃以下(例えば、80~120℃)、さらに好ましくは110℃以下(例えば、80~110℃)である。加熱温度は、通常150℃以下(例えば、70~150℃)、好ましくは140℃以下(例えば、90~140℃)、さらに好ましくは130℃以下(例えば、90~130℃)である。還流比は、通常0.1~50、好ましくは1~10である。
【0061】
蒸留塔の実段数を多くしたり、還流比を大きくすることにより、前記式(d)で表される化合物や重合物の製品中への混入を低減できる。また、蒸留塔の塔底温度や加熱温度を低くすることにより、重合物や他の好ましくない副生物の生成を抑制できる。
【0062】
脱高沸蒸留に付す被処理液(蒸留塔供給液)には、蒸留中の目的化合物等の重合を抑制するため、重合禁止剤を添加してもよい。重合禁止剤としては、前記脱低沸蒸留の項で例示したものを使用できる。なお、蒸留塔に重合防止効果のある分子状酸素含有ガスを吹き込んでもよいが、高真空度を保持する観点からは、分子状酸素含有ガスを蒸留塔に吹き込むことは好ましくない。
【0063】
重合禁止剤の使用量は、被処理液(蒸留塔供給液)に対して、例えば0.005~1重量%、好ましくは0.005~0.5重量%、さらに好ましくは0.005~0.1重量%、特に好ましくは0.01~0.05重量%である。
【0064】
塔頂留出量と塔底缶出量の比(前者/後者)は、例えば80/20~98/2、好ましくは85/15~95/5、さらに好ましくは87/13~93/7である。
【0065】
脱高沸工程において、蒸留塔供給液から3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートよりも高沸点の成分を例えば塔底から排出することにより、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレート、又は、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートとそれよりも低沸点の成分の混合物が、例えば缶出液として得られる。
【0066】
このように、反応生成物を脱低沸処理及び脱高沸処理に付すことにより、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートの純度が高く、且つ特定不純物含量の少ない脂環式エポキシ化合物製品を得ることができる。
【0067】
[硬化性組成物]
本発明の硬化性組成物は、前記の脂環式エポキシ化合物製品(高純度3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレート)を含む。
【0068】
本発明の硬化性組成物は、硬化性化合物(A)として、前記の脂環式エポキシ化合物製品に含まれる3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートを含むが、それ以外にも他の硬化性化合物を1種又は2種以上含有していてもよい。
【0069】
他の硬化性化合物としては、例えば、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレート以外のカチオン重合性基及びラジカル重合性基を有する化合物(A1)、ラジカル重合性基を有しないカチオン重合性化合物(A2)、カチオン重合性基を有しないラジカル重合性化合物(A3)が挙げられる。
【0070】
3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレート以外のカチオン重合性基及びラジカル重合性基を有する化合物(A1)としては、例えば、3,4-エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルアクリレート、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル(メタ)アクリレート、2-(3,4-エポキシシクロヘキシルメチルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、3-(3,4-エポキシシクロヘキシルメチルオキシ)プロピル(メタ)アクリレートなどの3,4-エポキシシクロヘキサン環等のエポキシ基含有脂環式炭素環を含む重合性不飽和化合物((メタ)アクリル酸エステル誘導体など);5,6-エポキシ-2-ビシクロ[2.2.1]ヘプチル(メタ)アクリレート等の5,6-エポキシ-2-ビシクロ[2.2.1]ヘプタン環を含む重合性不飽和化合物((メタ)アクリル酸エステル誘導体など);エポキシ化ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート[3,4-エポキシトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン-9-イル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン-8-イル(メタ)アクリレート、又はこれらの混合物]、エポキシ化ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート[2-(3,4-エポキシトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン-9-イルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、2-(3,4-エポキシトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン-8-イルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、又はこれらの混合物]、エポキシ化ジシクロペンテニルオキシブチル(メタ)アクリレート、エポキシ化ジシクロペンテニルオキシヘキシル(メタ)アクリレートなどの3,4-エポキシトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環を含む重合性不飽和化合物((メタ)アクリル酸エステル誘導体など)などが挙げられる。
【0071】
3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレート以外のカチオン重合性基及びラジカル重合性基を有する化合物(A1)は単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0072】
前記ラジカル重合性基を有しないカチオン重合性化合物(A2)としては、エポキシ化合物、オキセタン化合物、ビニルエーテル化合物等が挙げられる。
【0073】
前記エポキシ化合物には、脂環式エポキシ化合物、芳香族エポキシ化合物、及び脂肪族エポキシ化合物等が含まれる。
【0074】
前記脂環式エポキシ化合物には、以下の化合物が含まれる。
(1)分子内に脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基(本明細書においては、「脂環エポキシ基」と称する場合がある。脂環エポキシ基には、例えば、シクロヘキセンオキシド基等が含まれる)を有する化合物(3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートを除く)
(2)脂環にエポキシ基が直接単結合で結合している化合物
(3)分子内に脂環及びグリシジルエーテル基を有する化合物(グリシジルエーテル型エポキシ化合物)
【0075】
前記脂環エポキシ基を有する化合物(1)としては、例えば、下記式(1)で表される化合物が挙げられる。
【化6】
(式中、Xは単結合又は連結基を示す)
【0076】
上記式(1)中、Xは単結合又は連結基(1以上の原子を有する二価の基)を示す。上記連結基としては、例えば、二価の炭化水素基、炭素-炭素二重結合の一部又は全部がエポキシ化されたアルケニレン基、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合、カーボネート基、アミド基、これらが複数個連結した基等が挙げられる。なお、式(1)中のシクロヘキセンオキシド基には、置換基(例えば、アルキル基等)が結合していてもよい。
【0077】
上記二価の炭化水素基としては、炭素数が1~18の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基、二価の脂環式炭化水素基等が挙げられる。炭素数が1~18の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基等が挙げられる。上記二価の脂環式炭化水素基としては、例えば、1,2-シクロペンチレン基、1,3-シクロペンチレン基、シクロペンチリデン基、1,2-シクロヘキシレン基、1,3-シクロヘキシレン基、1,4-シクロヘキシレン基、シクロヘキシリデン基等のシクロアルキレン基(シクロアルキリデン基を含む)等が挙げられる。
【0078】
上記炭素-炭素二重結合の一部又は全部がエポキシ化されたアルケニレン基(「エポキシ化アルケニレン基」と称する場合がある)におけるアルケニレン基としては、例えば、ビニレン基、プロペニレン基、1-ブテニレン基、2-ブテニレン基、ブタジエニレン基、ペンテニレン基、ヘキセニレン基、ヘプテニレン基、オクテニレン基等の炭素数2~8の直鎖状又は分岐鎖状のアルケニレン基等が挙げられる。特に、上記エポキシ化アルケニレン基としては、炭素-炭素二重結合の全部がエポキシ化されたアルケニレン基が好ましく、より好ましくは炭素-炭素二重結合の全部がエポキシ化された炭素数2~4のアルケニレン基である。
【0079】
上記式(1)で表される化合物の代表的な例としては、(3,4,3’,4’-ジエポキシ)ビシクロヘキシル、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル、1,2-エポキシ-1,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキサン-1-イル)エタン、2,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキサン-1-イル)プロパン、1,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキサン-1-イル)エタンや、下記式(1-1)~(1-7)で表される化合物等が挙げられる。下記式(1-4)中のLは炭素数1~8のアルキレン基であり、なかでも、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基等の炭素数1~3の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基が好ましい。下記式(1-4)、(1-6)中のn1、n2は、それぞれ1~30の整数を示す。
【0080】
【0081】
前記脂環エポキシ基を有する化合物(1)には、上記式(1)で表される化合物以外にも、例えば、下記式(1-8)、(1-9)で表される、分子中に脂環エポキシ基を3個以上有する化合物や、下記式(1-10)で表される、分子中に脂環エポキシ基を1個有する化合物も含まれる。下記式(1-8)、(1-9)中のn3~n8は、それぞれ1~30の整数を示す。
【0082】
【0083】
【0084】
前記脂環にエポキシ基が直接単結合で結合している化合物(2)としては、例えば、下記式(2)で表される化合物等が挙げられる。
【化10】
【0085】
式(2)中、R’は、p価のアルコールの構造式からp個の水酸基を除いた基(p価の有機基)であり、p、n9はそれぞれ自然数を表す。p価のアルコール[R’(OH)p]としては、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノール等の多価アルコール(炭素数1~15の多価アルコール等)等が挙げられる。pは1~6が好ましく、n9は1~30が好ましい。pが2以上の場合、それぞれの[ ]内(外側の角括弧内)の基におけるn9は同一でもよく異なっていてもよい。上記式(2)で表される化合物としては、具体的には、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノールの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロヘキサン付加物[例えば、商品名「EHPE3150」((株)ダイセル製)等]等が挙げられる。
【0086】
前記グリシジルエーテル型エポキシ化合物(3)としては、例えば、脂環式アルコール(特に、脂環式多価アルコール)のグリシジルエーテルが挙げられる。より詳しくは、例えば、水素化ビスフェノールA型エポキシ化合物、水素化ビスフェノールF型エポキシ化合物、水素化ビフェノール型エポキシ化合物、水素化フェノールノボラック型エポキシ化合物、水素化クレゾールノボラック型エポキシ化合物等が挙げられる。
【0087】
前記芳香族エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、ビフェノール型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物等が挙げられる。
【0088】
前記脂肪族エポキシ化合物としては、例えば、q価の環状構造を有しないアルコール(qは自然数である)のグリシジルエーテル;一価又は多価カルボン酸[例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ステアリン酸、アジピン酸、セバシン酸、マレイン酸、イタコン酸等]のグリシジルエステル;エポキシ化亜麻仁油、エポキシ化大豆油、エポキシ化ひまし油等の二重結合を有する油脂のエポキシ化物;エポキシ化ポリブタジエン等のポリオレフィン(ポリアルカジエンを含む)のエポキシ化物等が挙げられる。
【0089】
前記オキセタン化合物としては、例えば、3,3-ビス(ビニルオキシメチル)オキセタン、3-エチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン、3-エチル-3-(2-エチルヘキシルオキシメチル)オキセタン、3-エチル-3-(ヒドロキシメチル)オキセタン、3-エチル-3-[(フェノキシ)メチル]オキセタン、3-エチル-3-(ヘキシロキシメチル)オキセタン、3-エチル-3-(クロロメチル)オキセタン、3,3-ビス(クロロメチル)オキセタン、1,4-ビス[(3-エチル-3-オキセタニルメトキシ)メチル]ベンゼン、ビス([1-エチル(3-オキセタニル)]メチル)エーテル、4,4’-ビス[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシメチル]ビシクロヘキシル、4,4’-ビス[3-エチル-(3-オキセタニル)メトキシメチル]ビフェニル、1,4-ビス[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシメチル]シクロヘキサン、1,4-ビス([(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ]メチル)ベンゼン、3-エチル-3([(3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ]メチル)オキセタン、キシリレンビスオキセタン等を挙げることができる。
【0090】
前記ビニルエーテル化合物としては、例えば、フェニルビニルエーテル等のアリールビニルエーテル;n-ブチルビニルエーテル、n-オクチルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル;シクロヘキシルビニルエーテル等のシクロアルキルビニルエーテル;2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、2-ヒドロキシブチルビニルエーテル等のヒドロキシル基を有するビニルエーテル;ハイドロキノンジビニルエーテル、1,4-ブタンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル等の多官能ビニルエーテルなどが挙げられる。
【0091】
ラジカル重合性基を有しないカチオン重合性化合物(A2)は単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0092】
前記カチオン重合性基を有しないラジカル重合性化合物(A3)としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、などの(メタ)アクリル酸アルキルエステル[例えば、(メタ)アクリル酸C1-10アルキルエステル等];ベンジル(メタ)アクリレートなどの分子内に芳香族環状構造を有する(メタ)アクリル酸エステル;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、2-(シクロヘキシル)エチル(メタ)アクリレート、2-(シクロヘキシルメチルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、3-(シクロヘキシルメチルオキシ)プロピル(メタ)アクリレートなどのシクロヘキサン環を含む(メタ)アクリル酸エステル;2-ビシクロ[2.2.1]ヘプチル(メタ)アクリレート等の2-ビシクロ[2.2.1]ヘプタン環を含む(メタ)アクリル酸エステル;1-アダマンチル(メタ)アクリレート等のアダマンタン環を含む(メタ)アクリル酸エステル;ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート{トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン-9-イル(メタ)アクリレート、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン-8-イル(メタ)アクリレート、又はこれらの混合物}、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート{トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ-3-エン-9-イル(メタ)アクリレート、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ-3-エン-8-イル(メタ)アクリレート、又はこれらの混合物}、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート{2-(トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン-9-イルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、2-(トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン-8-イルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、又はこれらの混合物}、ジシクロペンテニルオキシブチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシヘキシル(メタ)アクリレートなどのトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環を含む(メタ)アクリル酸エステル等の脂環構造を有する(メタ)アクリル酸エステル;スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、ビニルナフタレンなどのスチレン系化合物;メチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、フェニルビニルエーテル等のビニルエーテル化合物;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどの水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステル;メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、イソオクチルオキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートなどのアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート;2-アミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基を有する(メタ)アクリル酸エステル;2-ビニルピロリドン等のビニル基を有する複素環式化合物(含窒素複素環式化合物等);アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸などのα,β-不飽和カルボン酸及びその酸無水物(無水マレイン酸、無水イタコン酸等);多官能(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。
【0093】
カチオン重合性基を有しないラジカル重合性化合物(A3)は単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0094】
前記硬化性組成物に含まれる硬化性化合物(A)全量(100重量%)に占める3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートの割合は、例えば10重量%以上(例えば10~100重量%)、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上である。
【0095】
本発明の硬化性組成物は、硬化性化合物(A)以外に、例えば、硬化剤(B)と硬化促進剤(C)、又は硬化触媒(D)を含有することが好ましい。
【0096】
本発明の硬化性組成物全量における、硬化性化合物(A)、硬化剤(B)、及び硬化促進剤(C)の合計含有量の占める割合は、例えば5重量%以上、好ましくは30重量%以上、より好ましくは60重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上、特に好ましくは90重量%以上、とりわけ好ましくは95重量%以上である。
【0097】
また、本発明の硬化性組成物全量における、硬化性化合物(A)及び硬化触媒(D)の合計含有量の占める割合は、例えば5重量%以上、好ましくは30重量%以上、より好ましくは60重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上、特に好ましくは90重量%以上、とりわけ好ましくは95重量%以上である。
【0098】
従って、本発明の硬化性組成物全量における、硬化性化合物(A)、硬化剤(B)、硬化促進剤(C)、及び硬化触媒(D)以外の化合物の含有量は、例えば95重量%以下、好ましくは50重量%以下、さらに好ましくは40重量%以下である。
【0099】
(硬化剤(B))
前記硬化剤(B)としては、例えば、酸無水物類(酸無水物系硬化剤)、アミン類(アミン系硬化剤)、ポリアミド樹脂、イミダゾール類(イミダゾール系硬化剤)、ポリメルカプタン類(ポリメルカプタン系硬化剤)、フェノール類(フェノール系硬化剤)、ポリカルボン酸類、ジシアンジアミド類、有機酸ヒドラジド等のエポキシ樹脂用硬化剤として公知乃至慣用の硬化剤を使用することができる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0100】
前記酸無水物類としては、例えば、メチルテトラヒドロ無水フタル酸(4-メチルテトラヒドロ無水フタル酸、3-メチルテトラヒドロ無水フタル酸等)、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸(4-メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、3-メチルヘキサヒドロ無水フタル酸等)、ドデセニル無水コハク酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、無水フタル酸、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルシクロヘキセンジカルボン酸無水物、無水ピロメリット酸、無水トリメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、無水ナジック酸、無水メチルナジック酸、水素化メチルナジック酸無水物、4-(4-メチル-3-ペンテニル)テトラヒドロ無水フタル酸、無水コハク酸、無水アジピン酸、無水セバシン酸、無水ドデカン二酸、メチルシクロヘキセンテトラカルボン酸無水物、ビニルエーテル無水マレイン酸共重合体、アルキルスチレン-無水マレイン酸共重合体等が挙げられる。なかでも、取り扱い性の観点から、25℃で液状の酸無水物[例えば、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、ドデセニル無水コハク酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸等]が好ましい。
【0101】
前記アミン類としては、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジプロピレンジアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ポリプロピレントリアミン等の脂肪族ポリアミン;メンセンジアミン、イソホロンジアミン、ビス(4-アミノ-3-メチルジシクロヘキシル)メタン、ジアミノジシクロヘキシルメタン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、N-アミノエチルピペラジン、3,9-ビス(3-アミノプロピル)-3,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン等の脂環式ポリアミン;m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、トリレン-2,4-ジアミン、トリレン-2,6-ジアミン、メシチレン-2,4-ジアミン、3,5-ジエチルトリレン-2,4-ジアミン、3,5-ジエチルトリレン-2,6-ジアミン等の単核ポリアミン;ビフェニレンジアミン、4,4-ジアミノジフェニルメタン、2,5-ナフチレンジアミン、2,6-ナフチレンジアミン等の芳香族ポリアミン等が挙げられる。
【0102】
前記ポリアミド樹脂としては、例えば、分子内に第一級アミノ基及び第二級アミノ基のいずれか一方又は両方を有するポリアミド樹脂等が挙げられる。
【0103】
前記イミダゾール類としては、例えば、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾリウムトリメリテート、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテート、2-メチルイミダゾリウムイソシアヌレート、2-フェニルイミダゾリウムイソシアヌレート、2,4-ジアミノ-6-[2-メチルイミダゾリル-(1)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2-エチル-4-メチルイミダゾリル-(1)]-エチル-s-トリアジン等が挙げられる。
【0104】
前記ポリメルカプタン類としては、例えば、液状のポリメルカプタン、ポリスルフィド樹脂等が挙げられる。
【0105】
前記フェノール類としては、例えば、ノボラック型フェノール樹脂、ノボラック型クレゾール樹脂、p-キシリレン変性フェノール樹脂、p-キシリレン・m-キシリレン変性フェノール樹脂等のアラルキル樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂、トリフェノールプロパン等が挙げられる。
【0106】
前記ポリカルボン酸類としては、例えば、アジピン酸、セバシン酸、テレフタル酸、トリメリット酸、カルボキシ基含有ポリエステル等が挙げられる。
【0107】
硬化剤(B)としては、なかでも、得られる硬化物の耐熱性、透明性の観点から、酸無水物類(酸無水物系硬化剤)が好ましく、例えば、商品名「リカシッド MH-700」、「リカシッド MH-700F」(以上、新日本理化(株)製)、商品名「HN-5500」(日立化成工業(株)製)等の市販品を使用することができる。
【0108】
硬化剤(B)の含有量(配合量)は、硬化性組成物に含まれるエポキシ基を有する化合物の全量100重量部に対して、50~200重量部が好ましく、より好ましくは80~150重量部である。より具体的には、硬化剤(B)として酸無水物類を使用する場合、本発明の硬化性組成物に含まれる全てのエポキシ基を有する化合物におけるエポキシ基1当量あたり、0.5~1.5当量となる割合で使用することが好ましい。硬化剤(B)の含有量を50重量部以上とすることにより、硬化を十分に進行させることができ、得られる硬化物の強靭性が向上する傾向がある。一方、硬化剤(B)の含有量を200重量部以下とすることにより、着色が抑制され、色相に優れた硬化物が得られる傾向がある。
【0109】
(硬化促進剤(C))
本発明の硬化性組成物が硬化剤(B)を含む場合には、さらに硬化促進剤(C)を含むことが好ましい。硬化促進剤(C)は、エポキシ基(オキシラニル基)を有する化合物が硬化剤(B)と反応する際に、その反応速度を促進する効果を有する。
【0110】
前記硬化促進剤(C)としては、例えば、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7(DBU)又はその塩(例えば、フェノール塩、オクチル酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、ギ酸塩、テトラフェニルボレート塩等)、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン-5(DBN)又はその塩(例えば、フェノール塩、オクチル酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、ギ酸塩、テトラフェニルボレート塩等);ベンジルジメチルアミン、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン等の三級アミン;2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール等のイミダゾール;リン酸エステル;トリフェニルホスフィン、トリス(ジメトキシ)ホスフィン等のホスフィン類;テトラフェニルホスホニウムテトラ(p-トリル)ボレート等のホスホニウム化合物;オクチル酸亜鉛、オクチル酸スズ、ステアリン酸亜鉛等の有機金属塩;アルミニウムアセチルアセトン錯体等の金属キレート等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0111】
前記硬化促進剤(C)としては、例えば、商品名「U-CAT SA 506」、「U-CAT SA 102」、「U-CAT 5003」、「U-CAT 18X」、「U-CAT 12XD」(開発品)(以上、サンアプロ(株)製);商品名「TPP-K」、「TPP-MK」(以上、北興化学工業(株)製);商品名「PX-4ET」(日本化学工業(株)製)等の市販品を使用することができる。
【0112】
前記硬化促進剤(C)の含有量(配合量)は、硬化剤(B)100重量部に対して、0.01~5重量部が好ましく、より好ましくは0.02~3重量部、さらに好ましくは0.03~3重量部である。硬化促進剤(C)の含有量を0.01重量部以上とすることにより、いっそう効率的な硬化促進効果が得られる傾向がある。一方、硬化促進剤(C)の含有量を5重量部以下とすることにより、着色が抑制され、色相に優れた硬化物が得られる傾向がある。
【0113】
(硬化触媒(D))
本発明の硬化性組成物は、硬化剤(B)に代えて、硬化触媒(D)を含んでいてもよい。硬化触媒(D)は、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレート等の硬化性(重合性)化合物の硬化反応(重合反応)を開始及び/又は促進させることにより、硬化性組成物を硬化させる働きを有する。硬化触媒(D)としては、例えば、光照射や加熱処理等を施すことによりカチオン種を発生して、重合を開始させるカチオン重合開始剤(光カチオン重合開始剤、熱カチオン重合開始剤等)や、ルイス酸・アミン錯体、ブレンステッド酸塩類、イミダゾール類、ラジカル重合開始剤(光ラジカル重合開始剤、熱ラジカル重合開始剤)等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0114】
前記光カチオン重合開始剤としては、例えば、ヘキサフルオロアンチモネート塩、ペンタフルオロヒドロキシアンチモネート塩、ヘキサフルオロホスフェート塩、ヘキサフルオロアルセネート塩等が挙げられ、より具体的には、例えば、トリアリールスルホニウムヘキサフルオロホスフェート(例えば、p-フェニルチオフェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート等)、トリアリールスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート等のスルホニウム塩(特に、トリアリールスルホニウム塩);ジアリールヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジアリールヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ヨードニウム[4-(4-メチルフェニル-2-メチルプロピル)フェニル]ヘキサフルオロホスフェート等のヨードニウム塩;テトラフルオロホスホニウムヘキサフルオロホスフェート等のホスホニウム塩;N-ヘキシルピリジニウムテトラフルオロボレート等のピリジニウム塩等が挙げられる。また、光カチオン重合開始剤としては、例えば、商品名「UVACURE1590」(ダイセル・サイテック(株)製);商品名「CD-1010」、「CD-1011」、「CD-1012」(以上、米国サートマー製);商品名「イルガキュア264」(BASF社製);商品名「CIT-1682」(日本曹達(株)製)等の市販品を好ましく使用することができる。
【0115】
前記熱カチオン重合開始剤としては、例えば、アリールジアゾニウム塩、アリールヨードニウム塩、アリールスルホニウム塩、アレン-イオン錯体等が挙げられ、商品名「PP-33」、「CP-66」、「CP-77」(以上(株)ADEKA製);商品名「FC-509」(スリーエム製);商品名「UVE1014」(G.E.製);商品名「サンエイドSI-60L」、「サンエイドSI-80L」、「サンエイドSI-100L」、「サンエイドSI-110L」、「サンエイドSI-150L」(以上、三新化学工業(株)製);商品名「CG-24-61」(BASF社製)等の市販品を好ましく使用することができる。
【0116】
前記ルイス酸・アミン錯体としては、例えば、BF3・n-ヘキシルアミン、BF3・モノエチルアミン、BF3・ベンジルアミン、BF3・ジエチルアミン、BF3・ピペリジン、BF3・トリエチルアミン、BF3・アニリン、BF4・n-ヘキシルアミン、BF4・モノエチルアミン、BF4・ベンジルアミン、BF4・ジエチルアミン、BF4・ピペリジン、BF4・トリエチルアミン、BF4・アニリン、PF5・エチルアミン、PF5・イソプロピルアミン、PF5・ブチルアミン、PF5・ラウリルアミン、PF5・ベンジルアミン、AsF5・ラウリルアミン等が挙げられる。
【0117】
前記ブレンステッド酸塩類としては、例えば、脂肪族スルホニウム塩、芳香族スルホニウム塩、ヨードニウム塩、ホスホニウム塩等が挙げられる。
【0118】
前記イミダゾール類としては、例えば、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾリウムトリメリテート、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテート、2-メチルイミダゾリウムイソシアヌレート、2-フェニルイミダゾリウムイソシアヌレート、2,4-ジアミノ-6-[2-メチルイミダゾリル-(1)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2-エチル-4-メチルイミダゾリル-(1)]-エチル-s-トリアジン等が挙げられる。
【0119】
前記ラジカル重合開始剤としては、熱ラジカル重合開始剤、光ラジカル重合開始剤を使用できる。熱ラジカル重合開始剤として、例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、ジメチル-2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、2,2’-アゾビス(イソ酪酸)ジメチル、ジエチル-2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、ジブチル-2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)等のアゾ化合物、ベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、t-ブチルペルオキシピバレート、1,1-ビス t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン等の有機過酸化物、過酸化水素などが挙げられる。過酸化物をラジカル重合開始剤として使用する場合、還元剤を組み合わせてレドックス型の開始剤としてもよい。また、ラジカル重合開始剤と連鎖移動剤を併用してもよい。
【0120】
また、光ラジカル重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン等のベンゾフェノン類;アセトフェノンベンジル、ベンジルジメチルケトン;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾイン類;ジメトキシアセトフェノン、ジメトキシフェニルアセトフェノン、ジエトキシアセトフェノン等のアセトフェノン類;ジフェニルジサルファイト、オルトベンゾイル安息香酸メチル、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル[日本化薬社製 カヤキュアEPA等]、2,4-ジエチルチオキサンソン[日本化薬社製 カヤキュアDETX等]、2-メチル-1-[4-(メチル)フェニル]-2-モルホリノプロパノン-1[チバガイギー社製 イルガキュア907等]、テトラ(t-ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、ベンジル、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、4,4-ビスジエチルアミノベンゾフェノン、2,2'-ビス(2-クロロフェニル)-4,5,4’,5’-テトラフェニル-1,2’-ビイミダゾ-ル[土谷化学社製B-CIM等]を単独、もしくは混合して使用することができ、必要に応じて光増感剤を加えることができる。
【0121】
前記硬化触媒(D)の含有量(配合量)は、硬化性組成物に含まれる硬化性(重合性)化合物100重量部に対して、0.01~10重量部が好ましく、より好ましくは0.02~7重量部、さらに好ましくは0.03~5重量部である。硬化触媒(D)を上記範囲内で使用することにより、硬化性組成物の硬化速度が速くなり、硬化物の耐熱性及び透明性がバランスよく向上する傾向がある。
【0122】
本発明の硬化性組成物は、上記以外にも、必要に応じて添加剤を1種又は2種以上含んでいてもよい。前記添加剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール;消泡剤、レベリング剤、シランカップリング剤、界面活性剤、無機充填剤、難燃剤、着色剤、イオン吸着体、顔料、蛍光体、離型剤等が挙げられる。
【0123】
本発明の硬化性組成物は、上記の各成分を、必要に応じて加熱した状態で撹拌・混合することにより調製することができる。上記撹拌・混合には、例えば、ディゾルバー、ホモジナイザー等の各種ミキサー、ニーダー、ロールミル、ビーズミル、自公転式撹拌装置等の公知乃至慣用の撹拌・混合手段を使用できる。また、撹拌・混合後、真空下にて脱泡してもよい。
【0124】
本発明の硬化性組成物の25℃における粘度は、例えば100~50000mPa・s、好ましくは200~45000mPa・s、特に好ましくは300~40000mPa・sである。25℃における粘度を上記範囲に制御することにより、注型や塗工する際の作業性が向上し、硬化物に注型不良や塗工不良に由来する不具合が生じにくくなる傾向がある。
【0125】
本発明の硬化性組成物は、カチオン重合性基及びラジカル重合性基をともに有する3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートを少なくとも含んでいる。そのため、本発明の硬化性組成物の硬化は、カチオン重合、ラジカル重合、又はこれらを組み合わせることにより行うことができる。カチオン重合とラジカル重合を組み合わせる場合、先にラジカル重合を行い、次いでカチオン重合を行ってもよく、先にカチオン重合を行い、次いでラジカル重合を行ってもよく、さらには、カチオン重合とラジカル重合とを同時に行ってもよい。
【0126】
本発明の硬化性組成物は速硬化性を有する。例えば、硬化剤を用いてカチオン重合(硬化)させる場合、120℃における硬化時間(ゲルタイム)は、例えば2500秒以下、好ましくは2400秒以下である。また、硬化触媒(熱カチオン重合開始剤)を用いてカチオン重合(硬化)させる場合、80℃における硬化時間(ゲルタイム)は、例えば2000秒以下である。さらに、硬化触媒として熱カチオン重合開始剤と熱ラジカル重合開始剤とを併用して、カチオン重合(硬化)及びラジカル重合を同時に行う場合、80℃における硬化時間(ゲルタイム)は、例えば900秒以下である。
【0127】
本発明の硬化性組成物を硬化させる際の加熱温度(硬化温度)は、硬化剤を用いる場合は、例えば60~200℃、好ましくは80~160℃であり、硬化触媒を用いる場合は、例えば45~160℃、好ましくは60~120℃である。また、加熱時間(硬化時間)は、例えば0.5~20時間、好ましくは1~10時間である。加熱温度や加熱時間が上記範囲を下回ると硬化が不十分となり、逆に上記範囲を上回ると樹脂成分の分解が起きる場合があるので、いずれも好ましくない。硬化条件は種々の条件に依存するが、例えば、加熱温度を高くした場合は加熱時間を短く、加熱温度を低くした場合は加熱時間を長くする等により、適宜調整することができる。
【0128】
本発明の硬化性組成物を硬化させる際、紫外線又は電子線等の活性エネルギー線を照射することにより極めて短時間で硬化させることができる。紫外線照射を行う時の光源としては、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、カーボンアーク灯、キセノン灯、メタルハライド灯等が用いられる。照射時間は、光源の種類、光源と基材との距離、その他の条件により異なるが、長くとも数十秒であり、通常は数秒である。通常、ランプ出力80~300W/cm程度の照射源が用いられる。電子線照射の場合は、50~1000keVの範囲のエネルギーを持つ電子線を用い、2~5Mradの照射量とすることが好ましい。活性エネルギー線照射後は、必要に応じて加熱(ポストキュア)を行って硬化の促進を図ってもよい。
【0129】
[硬化物]
本発明の硬化物は、上述の硬化性組成物を硬化させることにより得られる。本発明の硬化物には、本発明の硬化性組成物をカチオン重合して得られる硬化物、本発明の硬化性組成物をラジカル重合して得られる硬化物、及び本発明の硬化性組成物をカチオン重合及びラジカル重合して得られる硬化物が含まれる。本発明の硬化物(特に、カチオン重合して得られる硬化物、又は、カチオン重合及びラジカル重合して得られる硬化物)は、透明性及び耐熱性に優れる。
【0130】
前記硬化物は透明性に優れる。その波長400nmの光の光線透過率[厚み3mm]は、例えば70%以上、好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上である。本発明の硬化性組成物は、透明性に優れた硬化物を形成するため、光半導体装置における光半導体素子の封止剤やダイアタッチペースト剤等として使用した場合に、光半導体装置から発せられる光度がより高くなる傾向がある。
【0131】
前記硬化物は耐熱性に優れる。そのガラス転移温度(Tg)は、カチオン重合による硬化物では、例えば60℃以上、好ましくは70℃以上であり、カチオン重合及びラジカル重合による硬化物では、例えば140℃以上である。
【0132】
また、前記硬化物は耐熱性に優れ、高温環境下でも光線透過率を高く維持することができる。例えば、当該硬化物を120℃で300時間加熱した後の、400nmの光の光線透過率の維持率(下記式で求められる)は、例えば70%以上、好ましくは80%以上である。
光線透過率の維持率=(加熱後の硬化物の光線透過率)/(加熱前の硬化物の光線透過率)×100
【0133】
本発明の硬化性組成物は、例えば、封止剤、接着剤、コーティング剤、電気絶縁材、積層板、インク、シーラント、レジスト、複合材料、透明基材、透明シート、透明フィルム、光学素子、光学レンズ、光造形、電子ペーパー、タッチパネル、太陽電池基板、光導波路、導光板、ホログラフィックメモリ等の各種用途に使用することができる。
【0134】
<封止剤>
本発明の封止剤は、上記硬化性組成物を含むことを特徴とする。本発明の封止剤は、光半導体装置における光半導体(光半導体素子)を封止する用途に好ましく使用できる。本発明の封止剤を使用すれば、透明性及び耐熱性に優れた硬化物(=封止材)により光半導体素子を封止することができる。
【0135】
本発明の封止剤全量における、上記硬化性組成物の含有量の占める割合は、例えば50重量%以上、好ましくは60重量%以上、特に好ましくは70重量%以上である。本発明の封止剤は上記硬化性組成物のみから成るものであってもよい。
【0136】
<接着剤>
本発明の接着剤は、上記硬化性組成物を含むことを特徴とする。本発明の接着剤は、部材等を被着体に接着・固定する用途、詳細には、光半導体装置において光半導体素子を金属製の電極に接着及び固定するためのダイアタッチペースト剤;カメラ等のレンズを被着体に固定したり、レンズ同士を貼り合わせたりするためのレンズ用接着剤;光学フィルム(例えば、偏光子、偏光子保護フィルム、位相差フィルム等)を被着体に固定したり、光学フィルム同士又は光学フィルムとその他のフィルムとを貼り合わせたりするための光学フィルム用接着剤等の、優れた透明性及び耐熱性が要求される各種用途に使用することができる。
【0137】
本発明の接着剤は、特に、ダイアタッチペースト剤(若しくは、ダイボンド剤)として好ましく使用できる。本発明の接着剤をダイアタッチペースト剤として用いることにより、透明性及び耐熱性に優れた硬化物により光半導体素子が電極に接着された光半導体装置が得られる。
【0138】
本発明の接着剤全量における、上記硬化性組成物の含有量の占める割合は、例えば50重量%以上、好ましくは60重量%以上、特に好ましくは70重量%以上である。本発明の接着剤は上記硬化性組成物のみから成るものであってもよい。
【0139】
<コーティング剤>
本発明のコーティング剤は、上記硬化性組成物を含むことを特徴とする。本発明のコーティング剤は、特に、優れた透明性及び耐熱性が要求される各種用途に使用することができる。
【0140】
本発明のコーティング剤全量における、上記硬化性組成物の含有量の占める割合は、例えば5重量%以上、好ましくは30重量%以上、さらに好ましくは60重量%以上、特に好ましくは70重量%以上である。本発明のコーティング剤は上記硬化性組成物のみから成るものであってもよい。また、溶媒を含んでいてもよい。
【0141】
<光学部材>
本発明の光学部材は、上述の硬化性組成物の硬化物を備えることを特徴とする。前記光学部材としては、例えば、光半導体素子が上述の硬化性組成物の硬化物によって封止された光半導体装置、上述の硬化性組成物の硬化物によって光半導体素子が電極に接着された光半導体装置、及び上述の硬化性組成物の硬化物によって光半導体素子が電極に接着され、なおかつ、当該光半導体素子が上述の硬化性組成物の硬化物によって封止された光半導体装置等が挙げられる。本発明の光学部材は、上述の硬化性組成物の硬化物によって封止され、接着された構成を有するため、耐熱性に優れ、光取り出し効率が高い。
【0142】
本発明の光学部材は耐熱性に優れ、高温環境下でも光線透過率を高く維持することができる。例えば、当該光学部材を120℃で300時間加熱した後の光線透過率の維持率(下記式で求められる)は、例えば70%以上、好ましくは75%以上である。
光線透過率の維持率=(加熱後の光学部材の光線透過率)/(加熱前の光学部材の光線透過率)×100
【実施例】
【0143】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、特に言及しない場合、濃度を表す「%」は重量%を、濃度を表す「ppm」は重量ppmを表す。なお、実施例3、実施例6、実施例9、実施例12は比較例とする。
【0144】
実施例1
(エポキシ化工程)
攪拌機および冷却用ジャケットが付いた内容量20リットルのSUS316製反応器にシクロヘキセニルメチルメタクリレート(以後CHMAと略する)3000g、酢酸エチル11000g、ハイドロキノンモノメチルエーテル1.2g、トリポリリン酸ナトリウム9.0gを加え、かつ反応器に挿入管から酸素/チッ素(10/9 0容量%)の混合ガスを32Nリットル/Hrで吹込んだ。次いで反応温度を40℃に保ち、30%過酢酸溶液5166gを定量ポンプで3時間かけて仕込んだ。仕込み終了後、さらに5時間熟成後反応を終了させた。このようにして3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレート(以後METHBと略する)を含む反応粗液19167gを得た。
【0145】
(水洗工程)
ロータ外径46cm,ロータ内径25mmのロータを4000回転させている遠心抽出器に軽液入口よりMETHBを含む反応粗液を2108g/分の速度で仕込むと同時に、重液入口より水を3590g/分の速度で仕込むことにより、軽液出口より軽液を166 4g/分の速度で、重液出口より重液を4034g/分の速度で得た。得られた軽液を再度同じ遠心抽出器に2108g/分の速度で仕込むと同時に、重液入口より水を3590g/分の速度で仕込むことにより、軽液出口より軽液を1877g/分の速度で、重液出口より重液を3821g/分の速度で得た。軽液中の酢酸、過酢酸濃度はそれぞれ400ppm,150ppmであった。
【0146】
(アルカリ中和処理工程)
このようにして得られた軽液を攪拌機および冷却用ジャケットが付いた内容量15リットルのSUS316製処理槽に3000g仕込み、そこに1%NaOH水溶液を3000g仕込み、温度を10℃に保ちながら1時間攪拌をした。得られた粗液中の残存過酢酸濃度は100ppm以下であった。
【0147】
(脱溶媒工程)
次にこの軽液2790gにハイドロキノンモノメチルエーテル0.16gを加え、SUS製スミス式薄膜蒸発器で1段目の脱溶媒を行った。操作条件は加熱温度60℃、圧力150mmHgで、塔底液排出ラインから酸素/窒素の混合ガスを32リットル/Hrで吹き込んだ。この塔底液を加熱温度60℃、圧力40mmHgの条件で2段目の脱溶媒を行い、塔底液排出ラインから、酸素/窒素(10/90容量%)の混合ガスを32Nリットル/Hrで吹込んだ。得られた塔底液は538gであった。また、ガスクロマトグラフィー分析で塔底液の組成を調べたところMETHB96.4%であった。HT(ヘプタンテスト)を行なった結果、ポリマー含量は0.01%であった。
【0148】
(脱低沸工程)
上記の方法で得られたMETHB(純度96.4%)に重合禁止剤(N-ニトロソ-N,N-ジフェニルアミン)を0.03%添加した。これを、実段数20段の多孔板塔(塔径50mm)(脱低沸物蒸留塔)の下から10段目に100重量部/Hrの流量で連続的に供給し、塔頂圧力0.1mmHg、塔頂温度80℃、塔底温度100℃、加熱温度120℃、還流比3の条件で脱低沸蒸留を行った。塔底缶出液の流量は90重量部/Hr、塔頂留出液の流量は10重量部/Hrであった。
【0149】
(脱高沸工程)
脱低沸工程で得られた塔底缶出液を、実段数20段の多孔板塔(塔径50mm)(脱高沸物蒸留塔)の下から10段目に100重量部/Hrの流量で連続的に供給し、塔頂圧力0.1mmHg、塔頂温度80℃、塔底温度110℃、加熱温度130℃、還流比3の条件で脱高沸蒸留を行った。塔底缶出液の流量は10重量部/Hr、塔頂留出液の流量は90重量部/Hrであった。前記塔頂留出液を回収して脂環式エポキシ化合物製品1を得た。
【0150】
実施例2
脱低沸物蒸留塔の還流比を1、脱高沸物蒸留塔の還流比を1とした以外は、実施例1と同様にして、脂環式エポキシ化合物製品2を得た。
【0151】
実施例3
脱溶媒工程の塔底缶出液を、実段数10段の多孔板塔(塔径50mm)(脱低沸物蒸留塔)の下から5段目に仕込み、続いて、脱低沸物蒸留塔の缶出液を、実段数10段の多孔板塔(塔径50mm)(脱高沸物蒸留塔)の下から5段目に仕込んだ以外は、実施例1と同様にして、脂環式エポキシ化合物製品3を得た。
【0152】
比較例1
脱溶媒工程の塔底缶出液を、実段数5段の多孔板塔(塔径50mm)(脱低沸物蒸留塔)の下から2段目に仕込み、続いて、脱低沸物蒸留塔の缶出液を、実段数5段の多孔板塔(塔径50mm)(脱高沸物蒸留塔)の下から2段目に仕込んだ以外は、実施例1と同様にして、脂環式エポキシ化合物製品4を得た。
【0153】
比較例2
脱溶媒工程の塔底缶出液を、実段数10段の多孔板塔(塔径50mm)(脱低沸物蒸留塔)の下から5段目に仕込み、塔頂温度110℃、塔底温度140℃、加熱温度160℃の条件で脱低沸蒸留し、続いて、脱低沸物蒸留塔の缶出液を、実段数10段の多孔板塔(塔径50mm)(脱高沸物蒸留塔)の下から5段目に仕込み、塔頂温度110℃、塔底温度150℃、加熱温度170℃の条件で脱高沸蒸留した以外は、実施例1と同様にして、脂環式エポキシ化合物製品5を得た。
【0154】
(脂環式エポキシ化合物製品の評価)
(1)純度及び不純物含有量
実施例及び比較例で得られた各脂環式エポキシ化合物製品について、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレート[式(i)で表される化合物]の純度、式(a)で表される化合物[=化合物(a)]、式(b)で表される化合物[=化合物(b)]、式(c)で表される化合物[=化合物(c)]、及び式(d)で表される化合物[=化合物(d)]の各含有量を、下記の条件でガスクロマトグラフを用いて測定し、面積%で算出した。
<測定条件>
測定装置:商品名「GC-2014」、島津製作所社製
カラム充填剤:(15%PEG-20M)UniportHPS
カラムサイズ:長さ2.1m×内径3.2mmφ
カラム温度:100℃→(10℃/分で昇温)→210℃(29分保持)
検出器:TCD
【0155】
(2)着色度
実施例及び比較例で得られた各脂環式エポキシ化合物製品について、着色度をハーゼン色数(APHA)を求めることにより評価した。
【0156】
(3)保存安定性
実施例及び比較例で得られた各脂環式エポキシ化合物製品を30℃で1ヶ月間保存した後のハーゼン色数(APHA)を測定し、ハーゼン色数(APHA)の増加割合(1ヶ月保存後のハーゼン指数/製造直後のハーゼン指数)を求め、各脂環式エポキシ化合物製品の保存安定性を下記の基準で評価した。
○:2倍未満
×:2倍以上
【0157】
実施例及び比較例で得られた脂環式エポキシ化合物製品の評価結果を表1に示す。
【0158】
【0159】
実施例4~12、比較例3~8
下記表2~4に示す処方(単位:重量部)によって各成分を配合し、自公転式撹拌装置(商品名「あわとり練太郎AR-250」、(株)シンキー製)を使用して撹拌し、さらに脱泡して硬化性組成物を得た。
【0160】
(硬化性組成物の硬化物の評価)
各硬化性組成物を型に充填し、所定温度の樹脂硬化オーブンで所定時間加熱することで硬化物を得、得られた硬化物のガラス転移温度、透明性を下記方法で評価した。なお、硬化の際の硬化条件は以下の通りである。
実施例4~6、比較例3~4:120℃×5時間
実施例7~9、比較例5~6:80℃×2時間、さらに140℃×2時間
実施例10~12、比較例7~8:80℃×2時間、さらに110℃×3時間
【0161】
(1)硬化物のガラス転移温度(Tg)
硬化物のガラス転移温度を下記条件で求めた。
<測定条件>
サンプル:長さ4mm×幅5mm×厚み10mm
測定装置:熱機械測定装置(TMA)、商品名「TMA/SS6000」、セイコーインスツルメント(株)製
測定モード:圧縮(針入)、定荷重測定
測定温度:25℃から300℃まで
昇温速度:5℃/分
【0162】
(2)硬化物の透明性
硬化物(厚み:3mm)の波長400nmの光の光線透過率(厚み方向;%T)を、分光光度計(商品名「UV-2400」、(株)島津製作所製)を用いて測定した。
【0163】
(3)総合判定
実施例4~6、比較例3~4について
○:Tgが70℃以上、且つ透明性が70%以上である
×:Tgが70℃未満、又は透明性が70%未満である
実施例7~9、比較例5~6について
○:Tgが60℃以上、且つ透明性が70%以上である
×:Tgが60℃未満、又は透明性が70%未満である
実施例10~12、比較例7~8について
○:Tgが140℃以上、且つ透明性が90%以上である
×:Tgが140℃未満、又は透明性が90%未満である
【0164】
(光半導体装置の評価)
光半導体のリードフレーム(InGaN素子、3.5mm×2.8mm)に、各硬化性組成物を注型した後、120℃のオーブンで5時間加熱することで、前記硬化性組成物の硬化物により光半導体素子が封止された光半導体装置を得た(
図1参照)。得られた光半導体装置の明るさ、及び耐熱性を評価した。
【0165】
(1)明るさの評価
光半導体装置の明るさ(ルーメン:lm)は、光半導体装置の全光束を全光束測定機(商品名「マルチ分光放射測定システム OL771」、オプトロニックラボラトリーズ社製)を使用して測定した。
【0166】
(2)耐熱性評価
光半導体装置の耐熱性は、光半導体装置を120℃で300時間の加熱処理(エージング)に付して、光線透過率の保持率を下記式から算出し、これを耐熱性の指標とした。
光線透過率の保持率(%)=(加熱処理後の光半導体装置の光線透過率/加熱処理前の光半導体装置の光線透過率)×100
【0167】
(3)総合判定
実施例4~6、比較例3~4について
○:明るさが0.60lm以上、且つ耐熱性が70%以上である
×:明るさが0.60lm未満、又は耐熱性が70%未満である
実施例7~9、比較例5~6について
○:明るさが0.60lm以上、且つ耐熱性が70%以上である
×:明るさが0.60lm未満、又は耐熱性が70%未満である
実施例10~12、比較例7~8について
○:明るさが0.70lm以上、且つ耐熱性が80%以上である
×:明るさが0.70lm未満、又は耐熱性が80%未満である
【0168】
(コーティング剤の評価)
各硬化性組成物をコーティング剤として用いた。その反応性を下記の方法により評価した。
【0169】
(1)反応性(ゲルタイム)
各硬化性組成物(コーティング剤)の反応性を、ゲルタイム測定装置(商品名「No.153 ゲルタイムテスター(マグネット式)」、(株)安田精機製作所製)を用いて測定した。なお、実施例4~6及び比較例3~4では120℃で加熱した際の反応性(硬化性;ゲルタイム)を評価し、実施例7~12及び比較例5~8では80℃で加熱した際の反応性(硬化性;ゲルタイム)を評価した。
【0170】
(2)総合判定
実施例4~6、比較例3~4について
○:120℃ゲルタイムが2400秒以内である
×:120℃ゲルタイムが2400秒を超える
実施例7~9、比較例5~6について
○:80℃ゲルタイムが2000秒以内である
×:80℃ゲルタイムが2000秒を超える
実施例10~12、比較例7~8について
○:80℃ゲルタイムが900秒以内である
×:80℃ゲルタイムが900秒を超える
【0171】
上記各硬化性組成物の硬化物、上記各硬化性組成物を用いて得られた光半導体装置、及び上記各硬化性組成物を用いたコーティング剤の評価結果を表2~4に示す。
【0172】
【0173】
【0174】
【0175】
表中の略号を以下に説明する。
・MH-700:硬化剤、4-メチルヘキサヒドロ無水フタル酸/ヘキサヒドロ無水フタル酸=70/30、商品名「リカシッド MH-700」、新日本理化(株)製
・18X:硬化促進剤、特殊アミン、商品名「U-CAT 18X」、サンアプロ(株)製
・SI-100L:硬化触媒(熱カチオン重合開始剤)、商品名「サンエイドSI-100L」、三新化学工業(株)製
・パーブチルO:硬化触媒(ラジカル重合開始剤)
【符号の説明】
【0176】
1 リフレクター
2 光半導体素子の封止材
3 ボンディングワイヤ
4 光半導体素子
5 ダイボンディング材
6 金属配線