(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-25
(45)【発行日】2025-05-08
(54)【発明の名称】巻線形誘導電動機用制御装置および該方法ならびに巻線形誘導電動機システム
(51)【国際特許分類】
H02P 23/07 20160101AFI20250428BHJP
【FI】
H02P23/07
(21)【出願番号】P 2022048090
(22)【出願日】2022-03-24
【審査請求日】2024-09-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100111453
【氏名又は名称】櫻井 智
(72)【発明者】
【氏名】河合 宏明
(72)【発明者】
【氏名】西田 吉晴
(72)【発明者】
【氏名】山下 俊郎
(72)【発明者】
【氏名】前田 知幸
(72)【発明者】
【氏名】山田 崇
(72)【発明者】
【氏名】前川 智史
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-064599(JP,A)
【文献】実開昭49-007410(JP,U)
【文献】特開2019-201545(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P21/00-25/03
25/04
25/10-27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1次巻線と2次巻線とを備える巻線形誘導電動機を制御する巻線形誘導電動機用制御装置であって、
前記2次巻線に接続され、可変な抵抗値を持つ2次抵抗部と、
前記2次抵抗部における時系列な抵抗値パターンを、互いに異なるように複数、生成するパターン生成部と、
前記パターン生成部で生成した複数の時系列な抵抗値パターンそれぞれについて、当該時系列な抵抗値パターンで前記2次抵抗部の抵抗値が変更された場合における前記巻線形誘導電動機の制御目的に関する所定の物理量の値を予測値として予測する予測部と、
前記パターン生成部で生成した複数の時系列な抵抗値パターンの中から、前記予測部で予測された前記巻線形誘導電動機の各予測値の中で最も高い評価の予測値に対応する時系列な抵抗値パターンを選択するパターン選択部と、
前記パターン選択部で選択された時系列な抵抗値パターンに基づいて、前記2次抵抗部を制御する2次抵抗制御部とを備える、
巻線形誘導電動機用制御装置。
【請求項2】
前記2次抵抗部は、抵抗素子と、前記抵抗素子を前記2次巻線に接続するか否かを切り換える切換えスイッチとを備える抵抗素子ユニットを少なくとも1個、備える、
請求項1に記載の巻線形誘導電動機用制御装置。
【請求項3】
前記巻線形誘導電動機の制御目的に関する所定の物理量は、回転速度である、
請求項1または請求項2に記載の巻線形誘導電動機用制御装置。
【請求項4】
前記巻線形誘導電動機の制御目的に関する所定の物理量は、トルクである、
請求項1または請求項2に記載の巻線形誘導電動機用制御装置。
【請求項5】
前記パターン選択部は、制御目標値と前記予測値との偏差に基づく評価値を用いることによって前記最も高い評価の予測値を選定する、
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の巻線形誘導電動機用制御装置。
【請求項6】
前記パターン生成部は、前記複数の時系列な抵抗値パターンを生成する場合に、時系列で前後に並ぶ2個の抵抗値の中の後の抵抗値を、前記2次抵抗部における可変で生成し得る複数の抵抗値を大小順に並べた場合に、前の抵抗値、前記前の抵抗値より1つだけ大きい抵抗値および前記前の抵抗値より1つだけ小さい抵抗値の中から選択する、
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の巻線形誘導電動機用制御装置。
【請求項7】
1次巻線と、可変な抵抗値を持つ2次抵抗部に接続される2次巻線とを備える巻線形誘導電動機を制御する巻線形誘導電動機用制御方法であって、
前記2次抵抗部における時系列な抵抗値パターンを、互いに異なるように複数、生成するパターン生成工程と、
前記パターン生成工程で生成した複数の時系列な抵抗値パターンそれぞれについて、当該時系列な抵抗値パターンで前記2次抵抗部の抵抗値が変更された場合における前記巻線形誘導電動機の制御目的に関する所定の物理量の値を予測値として予測する予測工程と、
前記パターン生成工程で生成した複数の時系列な抵抗値パターンの中から、前記予測工程で予測された前記巻線形誘導電動機の各予測値の中で最も高い評価の予測値に対応する時系列な抵抗値パターンを選択するパターン選択工程と、
前記パターン選択工程で選択された時系列な抵抗値パターンに基づいて、前記2次抵抗部を制御する2次抵抗制御工程とを備える、
巻線形誘導電動機用制御方法。
【請求項8】
1次巻線と2次巻線とを備える巻線形誘導電動機と、
前記巻線形誘導電動機を制御する巻線形誘導電動機用制御部とを備え、
前記巻線形誘導電動機用制御部は、請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の巻線形誘導電動機用制御装置である、
巻線形誘導電動機システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1次巻線と2次巻線とを備える巻線形誘導電動機を制御する巻線形誘導電動機用制御装置および巻線形誘導電動機用制御方法、ならびに、前記巻線形誘導電動機用制御装置を備えた巻線形誘導電動機システムに関する。
【背景技術】
【0002】
誘導電動機は、巻線形誘導電動機とかご形誘導電動機とに大別される。この巻線形誘導電動機は、2次抵抗制御により、トルク制御や回転速度制御を実施できることから、例えば、ポンプや電車やクレーン等の比較的大容量が要求される機器に採用されている。この2次抵抗制御に関し、例えば、特許文献1がある。
【0003】
この特許文献1には、巻線形誘導電動機と、速度検出器と、ダイオード整流器と、2次抵抗器と、前記速度検出器で検出した前記巻線形誘導電動機の回転速度が定格回転速度の50[%]~70[%]以上の場合には、前記ダイオード整流器に、コンダクタを介して前記巻線形誘導電動機の2次巻線を接続し、前記値未満の場合には、前記2次抵抗器に、他のコンダクタを介して前記巻線形誘導電動機の2次巻線を接続する2次切換制御回路とを備えるシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記特許文献1の2次抵抗器は、その抵抗値を可変できることがその
図1ないし
図3に図示されているが、その可変方法は、開示されていない。一般的には、手動で、例えば所望の回転速度になるように2次抵抗器の抵抗値が変更されている。
【0006】
本発明は、上述の事情に鑑みて為された発明であり、その目的は、自動的に2次抵抗値を変更できる巻線形誘導電動機用制御装置および巻線形誘導電動機用制御方法、ならびに、前記巻線形誘導電動機用制御装置を備えた巻線形誘導電動機システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、種々検討した結果、上記目的は、以下の本発明により達成されることを見出した。すなわち、本発明の一態様にかかる巻線形誘導電動機用制御装置は、1次巻線と2次巻線とを備える巻線形誘導電動機を制御する装置であって、前記2次巻線に接続され、可変な抵抗値を持つ2次抵抗部と、前記2次抵抗部における時系列な抵抗値パターンを、互いに異なるように複数、生成するパターン生成部と、前記パターン生成部で生成した複数の時系列な抵抗値パターンそれぞれについて、当該時系列な抵抗値パターンで前記2次抵抗部の抵抗値が変更された場合における前記巻線形誘導電動機の制御目的に関する所定の物理量の値を予測値として予測する予測部と、前記パターン生成部で生成した複数の時系列な抵抗値パターンの中から、前記予測部で予測した前記巻線形誘導電動機の各予測値の中で最も高い評価の予測値に対応する時系列な抵抗値パターンを選択するパターン選択部と、前記パターン選択部で選択した時系列な抵抗値パターンに基づいて、前記2次抵抗部を制御する2次抵抗制御部とを備える。
【0008】
このような巻線形誘導電動機用制御装置は、予測制御によって2次抵抗部の抵抗値を決定できるから、自動的に2次抵抗値を変更できる。
【0009】
他の一態様では、上述の巻線形誘導電動機用制御装置において、前記2次抵抗部は、抵抗素子と、前記抵抗素子を前記2次巻線に接続するか否かを切り換える切換えスイッチとを備える抵抗素子ユニットを少なくとも1個、備える。好ましくは、上述の巻線形誘導電動機用制御装置において、前記2次抵抗部は、縦続接続された複数の抵抗素子ユニットを備える。
【0010】
このような巻線形誘導電動機用制御装置は、抵抗素子ユニットを縦続接続で増やすという簡単な手法で抵抗値パターンを増やすことができる。抵抗素子ユニットを増やすことで、巻線形誘導電動機の制御目的に関する所定の物理量が細かく設定できるから(高い分解能で設定できるから)、巻線形誘導電動機を細かく制御できる(高い分解能で制御できる)。
【0011】
他の一態様では、これら上述の巻線形誘導電動機用制御装置において、前記巻線形誘導電動機の制御目的に関する所定の物理量は、回転速度である。
【0012】
これによれば、回転速度制御できる巻線形誘導電動機用制御装置が提供できる。
【0013】
他の一態様では、これら上述の巻線形誘導電動機用制御装置において、前記巻線形誘導電動機の制御目的に関する所定の物理量は、トルクである。
【0014】
これによれば、トルク制御できる巻線形誘導電動機用制御装置が提供できる。
【0015】
他の一態様では、これら上述の巻線形誘導電動機用制御装置において、前記パターン選択部は、制御目標値と前記予測値との偏差に基づく評価値を用いることによって前記最も高い評価の予測値を選定する。
【0016】
このような巻線形誘導電動機用制御装置は、制御目標値と予測値との偏差に基づく評価値で予測値を評価するので、制御目標値に対する追従性の高い予測値を選定できる。
【0017】
他の一態様では、これら上述の巻線形誘導電動機用制御装置において、前記パターン生成部は、前記複数の時系列な抵抗値パターンを生成する場合に、時系列で前後に並ぶ2個の抵抗値の中の後の抵抗値を、前記2次抵抗部における可変で生成し得る複数の抵抗値を大小順に並べた場合に、前の抵抗値、前記前の抵抗値より1つだけ大きい抵抗値および前記前の抵抗値より1つだけ小さい抵抗値の中から選択する。
【0018】
このような巻線形誘導電動機用制御装置は、時系列で前後に並ぶ2個の抵抗値を1個ずつずらした抵抗値となるように2次抵抗部を制御するので、スムーズに駆動するように巻線形誘導電動機を制御できる。
【0019】
本発明の他の一態様にかかる巻線形誘導電動機用制御方法は、1次巻線と、可変な抵抗値を持つ2次抵抗部に接続される2次巻線とを備える巻線形誘導電動機を制御する方法であって、前記2次抵抗部における時系列な抵抗値パターンを、互いに異なるように複数、生成するパターン生成工程と、前記パターン生成工程で生成した複数の時系列な抵抗値パターンそれぞれについて、当該時系列な抵抗値パターンで前記2次抵抗部の抵抗値が変更された場合における前記巻線形誘導電動機の制御目的に関する所定の物理量の値を予測値として予測する予測工程と、前記パターン生成工程で生成した複数の時系列な抵抗値パターンの中から、前記予測工程で予測した前記巻線形誘導電動機の各予測値の中で最も高い評価の予測値に対応する時系列な抵抗値パターンを選択するパターン選択工程と、前記パターン選択工程で選択した時系列な抵抗値パターンに基づいて、前記2次抵抗部を制御する2次抵抗制御工程とを備える。
【0020】
このような巻線形誘導電動機用制御方法は、予測制御によって2次抵抗部の抵抗値を決定できるから、自動的に2次抵抗値を変更できる。
【0021】
本発明の他の一態様にかかる巻線形誘導電動機システムは、1次巻線と2次巻線とを備える巻線形誘導電動機と、前記巻線形誘導電動機を制御する巻線形誘導電動機用制御部とを備え、前記巻線形誘導電動機用制御部は、これら上述のいずれかの巻線形誘導電動機用制御装置である。
【0022】
これによれば、これら上述のいずれかの巻線形誘導電動機用制御装置を備えた巻線形誘導電動機システムが提供できる。上記巻線形誘導電動機システムは、これら上述のいずれかの巻線形誘導電動機用制御装置を備えるので、予測制御によって2次抵抗部の抵抗値を決定できるから、自動的に2次抵抗値を変更できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明にかかる巻線形誘導電動機用制御装置および巻線形誘導電動機用制御方法は、自動的に2次抵抗値を変更できる。本発明によれば、前記巻線形誘導電動機用制御装置を備えた巻線形誘導電動機システムが提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】実施形態における巻線形誘導電動機システムの構成を示す図である。
【
図2】前記巻線形誘導電動機システムの2次抵抗部で実現可能な時系列な抵抗値パターンの一例を説明するための図である。
【
図3】前記巻線形誘導電動システムにおける動作を示すフローチャートである。
【
図4】制約を設けた場合における、時系列な抵抗値パターンの一例を説明するための図である。
【
図5】無負荷の場合におけるシミュレーション結果を示す図である。
【
図6】負荷トルクを与えた場合におけるシミュレーション結果を示す図である。
【
図7】前記巻線形誘導電動システムをトロリー台車に適用した場合における概略構成を示す図である。
【
図8】
図7に示す前記巻線形誘導電動システムをトロリー台車に適用した場合におけるミュレーション結果を示す図である。
【
図9】比較例のミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して、本発明の1または複数の実施形態が説明される。しかしながら、発明の範囲は、開示された実施形態に限定されない。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、適宜、その説明を省略する。本明細書において、総称する場合には添え字を省略した参照符号で示し、個別の構成を指す場合には添え字を付した参照符号で示す。
【0026】
実施形態における巻線形誘導電動機システムは、1次巻線と2次巻線とを備える巻線形誘導電動機と、前記巻線形誘導電動機を制御する巻線形誘導電動機用制御部とを備える。前記巻線形誘導電動機用制御部は、前記2次巻線に接続され、可変な抵抗値を持つ2次抵抗部と、前記2次抵抗部における時系列な抵抗値パターンを、互いに異なるように複数、生成するパターン生成部と、前記パターン生成部で生成した複数の時系列な抵抗値パターンそれぞれについて、当該時系列な抵抗値パターンで前記2次抵抗部の抵抗値が変更された場合における前記巻線形誘導電動機の制御目的に関する所定の物理量の値を予測値として予測する予測部と、前記パターン生成部で生成した複数の時系列な抵抗値パターンの中から、前記予測部で予測した前記巻線形誘導電動機の各予測値の中で最も高い評価の予測値に対応する時系列な抵抗値パターンを選択するパターン選択部と、前記パターン選択部で選択した時系列な抵抗値パターンに基づいて、前記2次抵抗部を制御する2次抵抗制御部とを備える。以下、このような巻線形誘導電動機用制御部を備える巻線形誘導電動機システムについて、より具体的に説明する。
【0027】
図1は、実施形態における巻線形誘導電動機システムの構成を示す図である。
図1Aは、全体を示し、
図1Bは、MPC制御部の構成を示すブロック図である。
図2は、前記巻線形誘導電動機システムの2次抵抗部で実現可能な時系列な抵抗値パターンの一例を説明するための図である。
【0028】
実施形態における巻線形誘導電動機システムSMは、例えば、
図1Aに示すように、1次巻線と2次巻線とを備える巻線形誘導電動機IMと、予測制御制御部(MPC制御部)CLと、2次抵抗部RUとを備える。本実施形態では、後述から分かるように、これら2次抵抗部RUおよびMPC制御部CLは、前記巻線形誘導電動機を制御する巻線形誘導電動機用制御部、すなわち、線形誘導電動機用制御装置の一例に相当する。
【0029】
巻線形誘導電動機IMには、図略の電源より、3相の交流電力が給電され、その2次巻線には、2次抵抗部RUが接続される。
【0030】
2次抵抗部RUは、可変な抵抗値を持つ抵抗器である。2次抵抗部RUは、MPC制御部CLに接続され、MPC制御部CLの制御に従ってその抵抗値を変更する。2次抵抗部RUは、スライダ位置や回転位置等を電動で制御できるスライダ式や回転式等の可変抵抗器であってよいが、例えば、本実施形態では、2次抵抗部RUは、抵抗素子Rと、前記抵抗素子Rを前記2次巻線に接続するか否かを切り換える切換えスイッチSとを備える抵抗素子ユニットUTを少なくとも1個、備え、階段状に抵抗値を変更する(離散的に抵抗値を変更する)。
図1Aに示す例では、2次抵抗部RUは、4個の第1ないし第4抵抗素子ユニットUT
1~UT
4を備え、巻線形誘導電動機IMにおける前記2次巻線の抵抗値R
rmを含め、次表1に示すように、5段階で2次側(2次回路、2次巻線側)の抵抗値を変更できる。
【0031】
より具体的には、第4抵抗素子ユニットUT4は、第1相の抵抗素子R4と、第2相の抵抗素子R4と、第3相の抵抗素子R4と、第1相と第2相との接続をオンオフするスイッチS4と、第2相と第3相との接続をオンオフするスイッチS4と、第3相と第1相との接続をオンオフするスイッチS4とを備え、2次巻線に接続される。第3抵抗素子ユニットUT3は、第1相の抵抗素子R3と、第2相の抵抗素子R3と、第3相の抵抗素子R3と、第1相と第2相との接続をオンオフするスイッチS3と、第2相と第3相との接続をオンオフするスイッチS3と、第3相と第1相との接続をオンオフするスイッチS3とを備え、第4抵抗素子ユニットUT4に縦続接続される。同様に、第2抵抗素子ユニットUT2は、第1相の抵抗素子R2と、第2相の抵抗素子R2と、第3相の抵抗素子R2と、第1相と第2相との接続をオンオフするスイッチS2と、第2相と第3相との接続をオンオフするスイッチS2と、第3相と第1相との接続をオンオフするスイッチS2とを備え、第3抵抗素子ユニットUT3に縦続接続される。第1抵抗素子ユニットUT1は、第1相の抵抗素子R1と、第2相の抵抗素子R1と、第3相の抵抗素子R1と、第1相と第2相との接続をオンオフするスイッチS1と、第2相と第3相との接続をオンオフするスイッチS1と、第3相と第1相との接続をオンオフするスイッチS1とを備え、第1相、第2相および第3相は、互いに結線される。言い換えれば、第1相のラインには、前記2次巻線から、第4抵抗素子ユニットUT4における第1相の抵抗素子R4、第3抵抗素子ユニットUT3における第1相の抵抗素子R3、第2抵抗素子ユニットUT2における第1相の抵抗素子R2および第1抵抗素子ユニットUT1における第1相の抵抗素子R1がこの順で順次に直列接続され、第2相のラインには、前記2次巻線から、第4抵抗素子ユニットUT4における第2相の抵抗素子R4、第3抵抗素子ユニットUT3における第2相の抵抗素子R3、第2抵抗素子ユニットUT2における第2相の抵抗素子R2および第1抵抗素子ユニットUT1における第2相の抵抗素子R1がこの順で順次に直列接続され、第3相のラインには、前記2次巻線から、第4抵抗素子ユニットUT4における第3相の抵抗素子R4、第3抵抗素子ユニットUT3における第3相の抵抗素子R3、第2抵抗素子ユニットUT2における第3相の抵抗素子R2および第1抵抗素子ユニットUT1における第3相の抵抗素子R1がこの順で順次に直列接続され、各相の抵抗素子R1、R1、R1が互いに結線される。前記2次巻線と第4抵抗素子ユニットUT4における各相の抵抗素子R4、R4、R4との間に第4抵抗素子ユニットUT4における各スイッチS4、S4、S4が配置され、第4抵抗素子ユニットUT4における各相の抵抗素子R4、R4、R4と第3抵抗素子ユニットUT3における各相の抵抗素子R3、R3、R3との間に第3抵抗素子ユニットUT3における各スイッチS3、S3、S3が配置され、第3抵抗素子ユニットUT3における各相の抵抗素子R3、R3、R3と第2抵抗素子ユニットUT2における各相の抵抗素子R2、R2、R2との間に第2抵抗素子ユニットUT2における各スイッチS2、S2、S2が配置され、第2抵抗素子ユニットUT2における各相の抵抗素子R2、R2、R2と第1抵抗素子ユニットUT1における各相の抵抗素子R1、R1、R1との間に第1抵抗素子ユニットUT1における各スイッチS1、S1、S1が配置される。これら各スイッチS4、S4、S4、S3、S3、S3、S2、S2、S2、S1、S1、S1は、MPC制御部CLに接続され、そのオンオフがMPC制御部CLによって制御される。これら各スイッチS4、S4、S4、S3、S3、S3、S2、S2、S2、S1、S1、S1は、それぞれ、例えば、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)等の、いわゆるパワー電力用のスイッチング素子を備えて構成される。なお、抵抗素子の符号Rは、説明の都合上、その抵抗値も表すものとする。
【0032】
このような構成の2次抵抗部RUにおいて、第1抵抗値に変更する場合では、ノッチ段数n=1とされ、次表2に示すように、全ての各スイッチS4、S4、S4、S3、S3、S3、S2、S2、S2、S1、S1、S1がオフ(OFF)に制御され、この第1抵抗値Rr
1は、表1に示すように、Rrm+R4+R3+R2+R1となる(Rr
1=Rrm+R4+R3+R2+R1)。第2抵抗値に変更する場合では、ノッチ段数n=2とされ、表2に示すように、第1抵抗素子ユニットTU1の各スイッチS1、S1、S1のみがオン(ON)に制御され、残余の各スイッチS3、S3、S3、S2、S2、S2、S1、S1、S1がオフに制御され、この第2抵抗値Rr
2は、表1に示すように、Rrm+R4+R3+R2となる(Rr
2=Rrm+R4+R3+R2)。第3抵抗値に変更する場合では、ノッチ段数n=3とされ、表2に示すように、第1および第2抵抗素子ユニットTU1、TU2の各スイッチS1、S1、S1、S2、S2、S2がオンに制御され、残余の各スイッチS4、S4、S4、S3、S3、S3がオフに制御され、この第3抵抗値Rr
3は、表1に示すように、Rrm+R4+R3となる(Rr
3=Rrm+R4+R3)。第4抵抗値に変更する場合では、ノッチ段数n=4とされ、表2に示すように、第1ないし第3抵抗素子ユニットTU1、TU2、TU3の各スイッチS1、S1、S1、S2、S2、S2、S2、S2、S2がオンに制御され、残余の各スイッチS4、S4、S4のみがオフに制御され、この第4抵抗値Rr
4は、表1に示すように、Rrm+R4となる(Rr
4=Rrm+R4)。第5抵抗値に変更する場合では、ノッチ段数n=5とされ、表2に示すように、全ての各スイッチS4、S4、S4、S3、S3、S3、S2、S2、S2、S1、S1、S1がオンに制御され、この第5抵抗値Rr
5は、表1に示すように、Rrmとなる(Rr
5=Rrm、すなわち、2次抵抗部RUの抵抗値は0である)。
【0033】
なお、
図1Aに示す例における2次抵抗部RUの抵抗値の個数を増やす場合には、増やす抵抗値の個数に応じた個数の抵抗素子ユニットUTを、第1抵抗素子ユニットTU
1に順次に縦続接続させ、末端の抵抗素子ユニットUTにおける各相を互いに結線すればよい。すなわち、本実施形態では、2次側の抵抗値の1つに、巻線形誘導電動機IMにおける前記2次巻線の抵抗値R
rmを含むので(2次抵抗部RUの抵抗値0を含むので)、2次側の抵抗値の個数をα個とする場合、2次抵抗部RUは、前記個数αから1を減算した個数(α-1)の第1抵抗素子ユニットTUを順次に縦続接続することで構成できる。
【0034】
【0035】
【0036】
MPC制御部CLは、2次抵抗部RUの抵抗値を制御することによって、予測制御によって巻線形誘導電動機IMを制御するための装置である。MPC制御部CLは、例えば、CPU(Central Processing Unit)、メモリおよびその周辺回路を備えて構成されるマイクロコンピュータで構成される。MPC制御部CLには、所定のプログラムの実行により、制御部11、パターン生成部12、予測部13、パターン選択部14および2次抵抗制御部15が機能的に構成される。
【0037】
制御部11は、巻線形誘導電動機システムSMの各部を当該各部の機能に応じて制御し、巻線形誘導電動機システムSM全体の制御を司るものである。
【0038】
パターン生成部12は、2次抵抗部RUにおける時系列な抵抗値パターンを、互いに異なるように複数、生成するものである。すなわち、パターン生成部12は、2次抵抗部RUにおける時系列な抵抗値パターンを、互いに異なるように複数、生成するパターン生成処理を実施する。2次抵抗部RUは、本実施形態では、上述のように、5通りの抵抗値R
r
iに可変できる(i=1、2、3、4、5)。前記時系列な電圧パターンは、予測する制御周期数である予測ホライズン、および、制御入力である抵抗値を可変とする制御周期数である制御ホライズンによって決定される。このため、MPC制御部CLには、予め予測ホライズンの数値および制御ホライズンの数値が、巻線形誘導電動機システムSの仕様等に応じて適宜に予め設定され、パターン生成部12は、2次抵抗部RUで可変できる抵抗値(上述では5通り)、予測ホライズンの数値および制御ホライズンの数値に応じて互いに異なる複数の時系列な電圧パターンを生成する。
図2には、一例として、予測ホライズンが2であり、制御ホライズンが1である場合の2次抵抗部RUで実現可能な全ての時系列な抵抗値パターンが樹形図で図示されている。
図2では、現在(Current)のk番目の制御における抵抗値に対し、予測ホライズンが2であるので、次の(k+1)番目の制御における抵抗値と、さらに次の(k+2)番目の制御における抵抗値とが予測され、制御ホライズンが1であるので、2次抵抗部RUで実現可能な全ての時系列な電圧パターンは、現在のk番目の制御における抵抗値から、次の(k+1)番目の制御では、5通りの第1ないし第5抵抗値R
r
1~R
r
5に分岐し、さらに次の(k+2)番目の制御では、各抵抗値R
r
1~R
r
5から、それぞれ当該抵抗値R
r
1~R
r
5に維持された5組の時系列な抵抗値パターンである。なお、他の一例として、予測ホライズンが2であり、制御ホライズンが2である場合、現在のk番目の制御における抵抗値に対し、予測ホライズンが2であるので、次の(k+1)番目の制御における抵抗値と、さらに次の(k+2)番目の制御における抵抗値とが予測され、制御ホライズンが2であるので、2次抵抗部RUで実現可能な全ての時系列な抵抗値パターンは、(k+1)番目の制御および(k+2)番目の制御それぞれで5通りの第1ないし第5抵抗値R
r
1~R
r
5に分岐し、25(=5×5)組の時系列な抵抗値パターンである。
【0039】
予測部13は、パターン生成部12で生成した複数の時系列な抵抗値パターンそれぞれについて、当該時系列な抵抗値パターンで2次抵抗部RUの抵抗値が変更された場合における巻線形誘導電動機IMの制御目的に関する所定の物理量の値を予測値として予測するものである。すなわち、予測部13は、パターン生成部12で生成した複数の時系列な抵抗値パターンそれぞれについて、当該時系列な抵抗値パターンで2次抵抗部RUの抵抗値が変更された場合における巻線形誘導電動機IMの制御目的に関する所定の物理量の値を予測値として予測する予測処理を実施する。より具体的には、本実施形態では、前記巻線形誘導電動機IMの制御目的に関する所定の物理量は、回転速度であり、このため、予測部13は、パターン生成部12で生成した複数の時系列な抵抗値パターンそれぞれについて、次式1によって出力トルクTeを求め(予測し)、次式2によって、回転速度ωmを求める(予測する)。nは、ノッチ段数を表し、したがって、出力トルクTe
n(k+1)は、(k+1)番目の制御におけるノッチ段数nでの出力トルクTであり、回転速度ωm
n(k+1)は、(k+1)番目の制御におけるノッチ段数nでの回転速度ωである。
【0040】
【0041】
【数2】
ここで、n
phは、誘導機の極対数であり、V
1-1は、1次側(1次回路、1次巻線側)の線間電圧実効値であり、R
sは、1次側の抵抗値であり、ω
mは、巻線形誘導電動機IMの実測された回転速度であり、f
0は、1次側の電圧の周波数であり(f
0=ω
0/2π)、l
sは、1次側の漏れインダクタンスであり、l
rは、2次側の漏れインダクタンスである。回転速度ω
mは、例えばロータリエンコーダ(パルスジェネレータ)や、ホールIC等を備えて構成される、巻線形誘導電動機IMの回転速度を測定する図略の回転速度センサで実測される。Jは、巻線形誘導電動機IMにおける回転子(ロータ)の慣性モーメントであり、Dは、巻線形誘導電動機IMにおける回転子の動摩擦トルクであり、T
sは、制御周期である。なお、現在、k番目の制御の場合、(k+1)、(k+2)、(k+3)、・・・は、予測値であることを表している。
【0042】
式2のTlは、負荷トルクであり、例えば、次式3によって推定される推定値である。
【0043】
【数3】
ここで、文字変数の上に付された“^”は、その推定値であることを表す。したがって、T
l^(k-1)は、前回の制御で推定した(k-1)番目の制御での負荷トルクであり、ω
m^(k)は、前回の制御で推定した(k)番目の制御での回転速度である。なお、文字変数の上に付された“^”は、記載の都合上、前記文字変数に続けて“^”を記載している。K
LTは、ゲインであり、例えば複数のサンプルから予め適宜に設定される。
【0044】
上述の例では、現在のk番目の制御において、2次抵抗部RUで実現可能な5通りの第1ないし第5抵抗値Rr
1~Rr
5に対し、予測部13によって、5組の2制御周期先までの[Te
i(k+1)、Te
i(k+2)]および2制御周期先までの[ωm
i(k+1)、ωm
i(k+2)]が各予測値として求められる(i=1、2、3、4、5)。
【0045】
パターン選択部14は、パターン生成部12で生成した複数の時系列な抵抗値パターンの中から、予測部13で予測した巻線形誘導電動機IMの各予測値の中で最も高い評価の予測値に対応する時系列な抵抗値パターンを選択するものである。すなわち、パターン選択部14は、パターン生成部12で生成した複数の時系列な抵抗値パターンの中から、予測部13で予測した巻線形誘導電動機IMの各予測値の中で最も高い評価の予測値に対応する時系列な抵抗値パターンを選択するパターン選択処理を実施する。パターン選択部14は、制御目標値と前記予測値との偏差に基づく評価値を用いることによって前記最も高い評価の予測値を選定する。より具体的には、パターン選択部14は、パターン生成部12で生成した複数の時系列な抵抗値パターンそれぞれについて、上述の例では、前記巻線形誘導電動機IMの制御目的に関する所定の物理量が回転速度であるので、予測部13で予測した巻線形誘導電動機IMの回転速度の予測値[ωm
i(k+1)、ωm
i(k+2)]を、例えば次式4の評価式gnに用いることによって、前記時系列な抵抗値パターンを定量的に評価し、前記複数の時系列な抵抗値パターンの中から、最も高い評価の回転速度の予測値[ωm
i(k+1)、ωm
i(k+2)]に対応する時系列な抵抗値パターンを選択する。この式4では、小さい数値ほど、評価が高い。
【0046】
【数4】
ここで、ω
m
*(k+i)は、(k+i)番目の制御における回転速度の制御目標値であり、N
pは、前記予測ホライズンである。なお、MPC制御部CLには、外部から回転速度の制御目標値ω
m
*が入力され、設定される。
【0047】
2次抵抗制御部15は、パターン選択部14で選択した時系列な抵抗値パターンに基づいて、前記2次抵抗部RUを制御するものである。すなわち、2次抵抗制御部15は、パターン選択部14で選択した時系列な抵抗値パターンに基づいて、前記2次抵抗部RUを制御する2次抵抗制御処理を実施する。より具体的には、本実施形態では、2次抵抗制御部15は、現在、k番目の制御である場合に、パターン選択部1で選択した時系列な抵抗値パターンにおける次回の(k+1)番目の制御での抵抗値Rr
iとなるように、各スイッチS4、S4、S4、S3、S3、S3、S2、S2、S2、S1、S1、S1に、そのオンオフを切り換える制御信号を出力する。
【0048】
そして、制御部11は、前記パターン生成処理、前記予測処理、前記パターン選択処理および前記2次抵抗制御処理を、パターン生成部12、予測部13、パターン選択部14および2次抵抗制御部15に、所定の制御周期で繰り返し実施させる。
【0049】
次に、本実施形態の動作について説明する。
図3は、前記巻線形誘導電動システムにおける動作を示すフローチャートである。
【0050】
このような巻線形誘導電動機システムSMでは、電源が投入されると、必要な各部の初期化を実行し、その稼働を始める。そして、例えば、プログラムの実行によって、前記CPUには、制御部11、パターン生成部12、予測部13、パターン選択部14および2次抵抗制御部15が機能的に構成される。
【0051】
そして、
図3に示す処理S11ないし処理S15の各処理が、巻線形誘導電動機IMの駆動が停止されるまで、制御部11によって所定の制御周期ごとに繰り返し実行される。
【0052】
図3において、まず、今回(k番目)において、MPC制御部CLは、制御部11によって、前記図略の回転速度センサから、巻線形誘導電動機IMの回転速度ω
m(k)を取得する(S11)。
【0053】
次に、MPC制御部CLは、パターン生成部12によって、2次抵抗部RUにおける時系列な抵抗値パターンを、互いに異なるように複数、生成する(S12、パターン生成処理)。本実施形態では、予め設定された予測ホライズンの値および制御ホライズンの値に応じて、複数の時系列な抵抗値パターンが生成される。
【0054】
次に、MPC制御部CLは、予測部13によって、処理S12によってパターン生成部12で生成した複数の時系列な抵抗値パターンそれぞれについて、当該時系列な抵抗値パターンで2次抵抗部RUの抵抗値が変更された場合における巻線形誘導電動機IMの制御目的に関する所定の物理量の値を予測値として予測する(S13、予測処理)。本実施形態では、前記所定の物理量は、回転速度であり、処理S12によってパターン生成部12で生成した複数の時系列な抵抗値パターンそれぞれについて、式1によって出力トルクTeが求められ、式2および式3によって、回転速度ωmが求められる。
【0055】
次に、MPC制御部CLは、パターン選択部14によって、処理S12によってパターン生成部12で生成した複数の時系列な抵抗値パターンの中から、処理S13によって予測部13で予測した巻線形誘導電動機IMの各予測値の中で最も高い評価の予測値に対応する時系列な抵抗値パターンを選択する(S14、パターン選択処理)。本実施形態では、処理S12によってパターン生成部12で生成した複数の時系列な抵抗値パターンそれぞれについて、式4によってその評価値が求められ、最小の評価値を与える時系列な抵抗値パターンが選択される。
【0056】
そして、MPC制御部CLは、2次抵抗制御部15によって、処理S14によってパターン選択部14で選択した時系列な抵抗値パターンに基づいて、2次抵抗部RUを制御し、今回の制御タイミングでの本処理を終了する(S15、2次抵抗制御処理)。本実施形態では、次回の(k+1)番目の制御での抵抗値Rr
iとなるように、2次抵抗部RUが制御される。
【0057】
このように巻線形誘導電動機IMが、制御目的の目標値の回転速度ωm
*となるように、予測制御で制御され、駆動される。
【0058】
以上説明したように、実施形態における巻線形誘導電動機用制御装置(2次抵抗部RUおよびMPC制御部CL)およびこれに実装された巻線形誘導電動機用制御方法、ならびに、巻線形誘導電動機システムSMは、予測制御によって2次抵抗部RUの抵抗値を決定できるから、自動的に2次抵抗値を変更できる。
【0059】
上記巻線形誘導電動機用制御装置、巻線形誘導電動機用制御方法および巻線形誘導電動機システムSMは、抵抗素子ユニットUTを縦続接続で増やすという簡単な手法で抵抗値パターンを増やすことができる。抵抗素子ユニットUTを増やすことで、巻線形誘導電動機IMの制御目的に関する所定の物理量(上述の例では回転速度)が細かく設定できるから(高い分解能で設定できるから)、巻線形誘導電動機IMを細かく制御できる(高い分解能で制御できる)。
【0060】
上記巻線形誘導電動機用制御装置、巻線形誘導電動機用制御方法および巻線形誘導電動機システムSMは、制御目標値と予測値との偏差に基づく評価値で予測値を評価するので、制御目標値に対する追従性の高い予測値を選定できる。
【0061】
本実施形態によれば、回転速度制御できる巻線形誘導電動機用制御装置、巻線形誘導電動機用制御方法および巻線形誘導電動機システムSMが提供でき、前記巻線形誘導電動機用制御装置を備えた巻線形誘導電動機システムSMが提供できる。
【0062】
なお、上述の実施形態では、パターン選択部14は、最も高い評価値であれば、複数の時系列な抵抗値パターンの中からいずれでも選択できたが、選択肢に制約が設けられてもよい。より具体的には、例えば、複数の時系列な抵抗値パターンを生成する際に制約を設けることによって、選択肢が制約される。例えば、パターン生成部12は、前記複数の時系列な抵抗値パターンを生成する場合に、時系列で前後に並ぶ2個の抵抗値の中の後の抵抗値を、前記2次抵抗部RUにおける可変で生成し得る複数の抵抗値を大小順に並べた場合に、前の抵抗値、前記前の抵抗値より1つだけ大きい抵抗値および前記前の抵抗値より1つだけ小さい抵抗値の中から選択する。このような巻線形誘導電動機用制御装置、巻線形誘導電動機用制御方法および巻線形誘導電動機システムSMは、前後に並ぶ2個の抵抗値を1個ずつずらした抵抗値となるように2次抵抗部RUを制御するので、スムーズに駆動するように巻線形誘導電動機IMを制御できる。
【0063】
図4は、制約を設けた場合における、時系列な抵抗値パターンの一例を説明するための図である。例えば、
図2に示す5組の時系列な抵抗値パターンは、
図4に示す3組の時系列な抵抗値パターンとなり、パターン選択部14は、これら3組の時系列な抵抗値パターンの中から、最も高い評価値を与える抵抗値パターンを選択する。
【0064】
この変形形態におけるシミュレーション結果が
図5および
図6それぞれに示されている。
図5は、無負荷の場合におけるシミュレーション結果を示す図である。
図6は、負荷トルクを与えた場合におけるシミュレーション結果を示す図である。
図5Aおよび
図6Aは、それぞれ、回転速度の時間変化を示し、
図5Bおよび
図6Bは、その際のノッチ段数の時間変化を示す。
図5Aおよび
図6Aそれぞれの各横軸は、始動開始(速度制御開始)からの経過時間であり、これら各縦軸は、回転速度である。
図5Bおよび
図6Bそれぞれの各横軸は、始動開始からの経過時間であり、これら各縦軸は、ノッチ段数である。
【0065】
図5Aから、無負荷で加速を伴う速度制御を実行した場合、目標速度に遅れや大きな偏差を伴わずに追従できていることが分かる。そして、
図5Bから、この際に、ノッチ段数も1ずつ変化させて速度制御が実行できていることが分かる。一方、
図6は、一定速度で巻線形誘導電動機を駆動中に、負荷トルクを与えた場合のシミュレーション結果であるが、
図6Aから、
図5Aの場合と同様に、目標速度に追従できていることが分かる。そして、この場合でも、
図6Bから、この際に、ノッチ段数も1ずつ変化させて速度制御が実行できていることが分かる。なお、
図5および
図6において、実測結果は、実線で表され、シミュレーション結果は、破線で表されているが、これらは、略重なっているので、これらを区別して視認できない。
【0066】
これらシミュレーションでは、制御周期は、30[Hz]であり、したがって、ノッチ段数の切換え周期も最大で30[Hz]となる。一般的に、電動機の制御にインバータを用いる場合、前記インバータのスイッチング周期は、数kHzのオーダとなる。このため、二次回路にインバータを用いた場合、大きなサージ電圧が発生する可能性が高く、この結果、スリップリング等の周辺機器の劣化を早める等の影響が生じる可能性がある。本実施形態における巻線形誘導電動機システムでは、その1/100未満の30[Hz]で、上述の通り、良好な制御が実現できており、かつ、その切換え周期が小さいので、インバータを用いる場合に想定される上述の影響も大幅に低減できる。
【0067】
また、実施形態における巻線形誘導電動機システムSMをトロリー台車に適用した場合におけるシミュレーション結果およびその比較例のシミュレーション結果について説明する。
【0068】
図7は、前記巻線形誘導電動システムをトロリー台車に適用した場合における概略構成を示す図である。
図8は、
図7に示す前記巻線形誘導電動システムをトロリー台車に適用した場合におけるミュレーション結果を示す図である。
図9は、比較例のミュレーション結果を示す図である。
図8Aおよび
図9Aは、それぞれ、トロリー台車の位置の時間変化を示し、
図8Bおよび
図9Bは、それぞれ、その際の回転速度の時間変化を示し、
図8Cおよび
図9Cは、その際のノッチ段数の時間変化を示す。
図8Aおよび
図9Aそれぞれの各横軸は、始動開始(速度制御開始)からの経過時間であり、これら各縦軸は、トロリー台車の位置(Position)である。
図8Bおよび
図9Bそれぞれの各横軸は、始動開始からの経過時間であり、これら各縦軸は、回転速度(Speed)である。
図8Cおよび
図9Cそれぞれの各横軸は、始動開始からの経過時間であり、これら各縦軸は、ノッチ段数である。
図8および
図9において、実測結果は、実線で表され、シミュレーション結果は、破線で表されている。
【0069】
実施形態における巻線形誘導電動機システムSMは、トロリー台車VCの位置制御に用いられる。その巻線形誘導電動機IMは、
図7に示すように、トロリー台車VCの動力源として用いられ、巻線形誘導電動機IMの出力軸は、減速機GAを介してトロリー台車VCの駆動輪DTに接続される。これにより、巻線形誘導電動機IMの出力トルクは、減速機GAを介して駆動輪DTに伝達され、駆動輪DTが回転し、トロリー台車VCが移動する。トロリー台車VCの現在の位置xと位置の制御目標値x
*とが差分器SBで差分され、その差分がP制御器PCLでP制御(比例制御)され、回転速度の制御目標値ω
m
*となってMPC制御部CLに入力される。MPC制御部CLは、制御周期20[Hz]、予測ホライズン5および制御ホライズン1で上述のように予測制御で2次抵抗部RUの抵抗値を制御し、これにより巻線形誘導電動機IMが回転速度制御される。
【0070】
このような巻線形誘導電動機システムSMは、
図8に示すように、差分器SBおよびP制御器PCLを備えて構成される位置制御コントローラにより生成された回転速度の制御目標値ω
m
*に追従することができ、位置の制御目標値x
*に対し、僅かに偏差が生じているものの、トロリー台車VCの位置xを精度良く位置決めできる。
【0071】
一方、比較例では、上述のMPC制御部CLに代え、一般的な速度フィードバック制御を行う速度フィードバック制御部が用いられている。この比較例では、
図9に示すように、位置の偏差の大きさに応じて、ノッチ段数が決定されることから、入力ノッチ段数の変化量が大きく、回転速度にも比較的大きな脈動が発生している。特に、25[s]付近のシミュレーション結果において、これ以上大きなノッチ段数を選択すると位置の制御目標値x
*を越えてしまう状況でも、ノッチ段数を上げる制御が行われ、結果として位置の偏差が生じてしまっている。スイッチング周期、制御周期を高くすることによって、位置の偏差が低減されるが、大きなサージ電圧が発生する可能性がある。
【0072】
2次抵抗を切り換えて回転速度制御を行う場合、細かな回転速度の調整が困難であり、スイッチング周期や制御周期を高くすることで制御精度を確保する必要があるが、本実施形態における巻線形誘導電動機システムSMを用いることで、スイッチング周期を数十[Hz]に抑えつつ、従来手法と比較して精度の良い制御が実現できる。
【0073】
また、上述の実施形態では、前記巻線形誘導電動機の制御目的に関する所定の物理量は、回転速度であったが、前記巻線形誘導電動機の制御目的に関する所定の物理量は、トルクであってもよい。これによれば、トルク制御できる巻線形誘導電動機用制御装置、巻線形誘導電動機用制御方法および巻線形誘導電動機システムSMが提供できる。この場合では、評価値を求める式4に代え、例えば、評価値の演算に次式5が用いられる。あるいは、例えば、トルク制御に回転速度制限ωm_limを設ける場合には、次式6が用いられる。
【0074】
【0075】
【数6】
ここで、T
e
*(k+i)は、(k+i)番目の制御における出力トルクの制御目標値である。
【0076】
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【符号の説明】
【0077】
SM 巻線形誘導電動機システム
IM 巻線形誘導電動機
CL 予測制御制御部(MPC制御部)
RU 2次抵抗部
UT 抵抗素子ユニット
S スイッチ
R 抵抗素子
11 制御部
12 パターン生成部
13 予測部
14 パターン選択部
15 2次抵抗制御部