(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-25
(45)【発行日】2025-05-08
(54)【発明の名称】炭素繊維前駆体繊維、炭素繊維前駆体繊維用繊維、炭素繊維前駆体繊維の製造方法、耐炎化繊維の製造方法及び炭素繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
D06M 15/643 20060101AFI20250428BHJP
D01F 9/21 20060101ALI20250428BHJP
D06M 10/00 20060101ALI20250428BHJP
D06M 101/26 20060101ALN20250428BHJP
【FI】
D06M15/643
D01F9/21
D06M10/00 J
D06M101:26
(21)【出願番号】P 2022132729
(22)【出願日】2022-08-23
【審査請求日】2023-12-18
(31)【優先権主張番号】P 2021174717
(32)【優先日】2021-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】成田 麻美子
(72)【発明者】
【氏名】松下 光正
(72)【発明者】
【氏名】森下 卓也
(72)【発明者】
【氏名】坂倉 夏
(72)【発明者】
【氏名】國友 晃
(72)【発明者】
【氏名】重光 望
【審査官】山下 航永
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-046629(JP,A)
【文献】特公平03-040152(JP,B2)
【文献】特開2003-027378(JP,A)
【文献】特開平09-143824(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 10/00 - 23/18
D01F 9/08 - 9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリルアミド系ポリマー繊維と、前記アクリルアミド系ポリマー繊維の表面に有する自己架橋性シリコーンオイルの自己架橋物と、
を含み、
前記自己架橋性シリコーンオイルが、自己架橋性基を有し、
前記自己架橋性基が、一置換エチレン基、1,1-二置換エチレン基、及び1,2-二置換エチレン基を少なくとも1つを含む、炭素繊維前駆体繊維。
【請求項2】
前記自己架橋物の含有量が、前記アクリルアミド系ポリマー繊維100質量部に対して、0.1質量部以上20質量部以下である、請求項1に記載の炭素繊維前駆体繊維。
【請求項3】
前記アクリルアミド系ポリマー繊維が、アクリルアミド系ポリマーからなり、
前記アクリルアミド系ポリマーが、前記アクリルアミド系ポリマーを構成する全モノマー単位に対して、30モル%以上のアクリルアミド系モノマー単位を含む、請求項1又は請求項2の炭素繊維前駆体繊維。
【請求項4】
前記アクリルアミド系ポリマーが、前記アクリルアミド系ポリマーを構成する全モノマー単位に対して、40モル%以上99.8モル%以下のアクリルアミド系モノマー単位と、0.1モル%以上50モル%以下のシアン化ビニル系モノマー単位と、0.1モル%以上30モル%以下の不飽和カルボン酸系モノマ一単位と、を含む、請求項3に記載の炭素繊維前駆体繊維。
【請求項5】
前記自己架橋性基が、アクリル基又はメタクリル基を有する、請求項1又は請求項2に記載の炭素繊維前駆体繊維。
【請求項6】
前記自己架橋性シリコーンオイルの25℃における粘度が、9mm
2/s以上である、請求項1又は請求項2に記載の炭素繊維前駆体繊維。
【請求項7】
アクリルアミド系ポリマー繊維と、前記アクリルアミド系ポリマー繊維の表面に有する自己架橋性シリコーンオイルの未架橋物と、
を含み、
前記自己架橋性シリコーンオイルが、自己架橋性基を有し、
前記自己架橋性基が、一置換エチレン基、1,1-二置換エチレン基、及び1,2-二置換エチレン基を少なくとも1つを含む、炭素繊維前駆体繊維用繊維。
【請求項8】
請求項7に記載の炭素繊維前駆体繊維用繊維に架橋処理を施す工程を含む、炭素繊維前駆体繊維の製造方法。
【請求項9】
前記架橋処理が、電子線処理である、請求項8に記載の炭素繊維前駆体繊維の製造方法。
【請求項10】
請求項1又は請求項2に記載の炭素繊維前駆体繊維に耐炎化処理を施す工程を含む、耐炎化繊維の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の耐炎化繊維の製造方法により耐炎化繊維を得る工程と、
前記耐炎化繊維に炭化処理を施す工程と、
を含む、炭素繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、炭素繊維前駆体繊維、炭素繊維前駆体繊維用繊維、炭素繊維前駆体繊維の製造方法、耐炎化繊維の製造方法及び炭素繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は、軽量で、機械的強度に優れ、腐食しにくい等の特性から、金属材料を置き換える素材として注目されている。
炭素繊維の製造方法としては、ポリアクリロニトリルを紡糸して得られる化学繊維にシリコーン系油剤を付与し、熱処理して炭素繊維前駆体繊維を得、単繊維である炭素繊維前駆体繊維を数百本から数万本束ねた繊維束に耐炎化処理を施した後、炭化処理を施す方法が知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2)。特許文献1及び特許文献2には、シリコーン系油剤として、アミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、エチレンオキサイド変性シリコーン、及び乳化剤からなる油剤を水で希釈して調製されたシリコーン油剤が具体的に記載されている。
【0003】
一方、アクリルアミド系モノマーを含有するアクリルアミド系ポリマーは、水溶性のポリマーであり、重合、紡糸等を行う際に、安価であり、且つ環境負荷の小さい水を溶媒として使用することができるため、炭素繊維の製造コストの削減が期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-183159号公報
【文献】特開2008-202208号公報
【文献】特開2018-90791号公報
【文献】特開2019-26827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、アクリルアミド系ポリマーの単繊維に従来のシリコーン系油剤を付与した炭素繊維前駆体繊維の繊維束に耐炎化処理を施すと、炭素繊維前駆体繊維の表面が軟化して炭素繊維前駆体繊維(単繊維)同士が融着した耐炎化繊維が得られるおそれがある。このような耐炎化繊維に炭化処理を施すと、炭素繊維前駆体繊維同士が融着している部位は燃えて欠陥が生じ、得られる炭素繊維の力学物性が低下するおそれがある。そのため、耐炎化処理において単繊維同士の融着を抑制することができる炭素繊維前駆体繊維が求められている。
更に、炭素繊維の製造コストを低減する等の観点から、高い炭化収率とすることができる炭素繊維前駆体繊維が求められている。
炭化収率とは、炭素繊維の質量を耐炎化繊維の質量で除した値の百分率を示す。
【0006】
本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、高い炭化収率を維持しつつ、耐炎化処理において単繊維同士の融着を抑制することができる炭素繊維前駆体繊維、炭素繊維前駆体繊維用繊維、炭素繊維前駆体繊維の製造方法、耐炎化繊維の製造方法及び炭素繊維の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、鋭意検討した結果、従来のシリコーン系油剤を付与したアクリルアミド系ポリマーの単繊維からなる炭素繊維前駆体繊維の繊維束に対して耐炎化処理を施すと、炭素繊維前駆体繊維の表面が軟化して炭素繊維前駆体繊維同士の融着が発生するおそれがある。これを抑制するために、単繊維の表面に自己架橋性のシリコーンオイルを付与し、シリコーンオイルを架橋(硬化)させることにより、高い炭化収率を維持しつつ、耐炎化処理において単繊維同士の融着を抑制することができることを見出し、本開示を完成するに至った。
【0008】
課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> アクリルアミド系ポリマー繊維と、前記アクリルアミド系ポリマー繊維の表面に有する自己架橋性シリコーンオイルの自己架橋物と、を含む、炭素繊維前駆体繊維。
<2> 前記自己架橋物の含有量が、前記アクリルアミド系ポリマー繊維100質量部に対して、0.1質量部以上20質量部以下である、前記<1>に記載の炭素繊維前駆体繊維。
<3> 前記アクリルアミド系ポリマー繊維が、アクリルアミド系ポリマーからなり、
前記アクリルアミド系ポリマーが、前記アクリルアミド系ポリマーを構成する全モノマー単位に対して、30モル%以上のアクリルアミド系モノマー単位を含む、前記<1>又は<2>の炭素繊維前駆体繊維。
<4> 前記アクリルアミド系ポリマーが、前記アクリルアミド系ポリマーを構成する全モノマー単位に対して、40モル%以上99.8モル%以下のアクリルアミド系モノマー単位と、0.1モル%以上50モル%以下のシアン化ビニル系モノマー単位と、0.1モル%以上30モル%以下の不飽和カルボン酸系モノマ一単位と、を含む、前記<3>に記載の炭素繊維前駆体繊維。
<5> 前記自己架橋性シリコーンオイルが、アクリル基又はメタクリル基を有する、前記<1>~<4>のいずれか1つに記載の炭素繊維前駆体繊維。
<6> 前記自己架橋性シリコーンオイルの25℃における粘度が、9mm2/s以上である、前記<1>~<5>のいずれか1つに記載の炭素繊維前駆体繊維。
<7> アクリルアミド系ポリマー繊維と、前記アクリルアミド系ポリマー繊維の表面に有する自己架橋性シリコーンオイルの未架橋物と、を含む、炭素繊維前駆体繊維用繊維。<8> 前記<7>に記載の炭素繊維前駆体繊維用繊維に架橋処理を施す工程を含む、炭素繊維前駆体繊維の製造方法。
<9> 前記架橋処理が、電子線処理である、前記<8>に記載の炭素繊維前駆体繊維の製造方法。
<10> 前記<1>~<6>のいずれか1つに記載の炭素繊維前駆体繊維に耐炎化処理を施す工程を含む、耐炎化繊維の製造方法。
<11> 前記<10>に記載の耐炎化繊維の製造方法により耐炎化繊維を得る工程と、
前記耐炎化繊維に炭化処理を施す工程と、
を含む、炭素繊維の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、高い炭化収率を維持しつつ、耐炎化処理において単繊維同士の融着を抑制することができる炭素繊維前駆体繊維、炭素繊維前駆体繊維用繊維、炭素繊維前駆体繊維の製造方法、耐炎化繊維の製造方法及び炭素繊維の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、合成例に示されている値に置き換えてもよい。
【0011】
本明細書中の「工程」の用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その工程の所期の目的が達成されれば本用語に含まれる。
【0012】
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。炭素繊維前駆体繊維中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の含有率又は含有量は、特に断らない限り、炭素繊維前駆体繊維中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
【0013】
(1)炭素繊維前駆体繊維
本開示の炭素繊維前駆体繊維は、アクリルアミド系ポリマー繊維と、前記アクリルアミド系ポリマー繊維の表面に有する自己架橋性シリコーンオイルの自己架橋物と、を含む。
【0014】
本開示において、「炭素繊維前駆体繊維」とは、架橋処理が施されており、かつ耐炎化処理及び炭化処理のいずれも施されていない状態の炭素繊維製造用の繊維を示す。
【0015】
本開示において、「アクリルアミド系ポリマー繊維」とは、アクリルアミド系ポリマー組成物からなる単繊維を示す。アクリルアミド系ポリマー組成物は、アクリルアミド系ポリマーを含有し、必要に応じて、後述する添加成分を含有してもよい。
【0016】
本開示において、「アクリルアミド系ポリマー」とは、アクリルアミド系モノマーの単独重合体又はアクリルアミド系モノマーとアクリルアミド系モノマー以外のモノマー(以下、他の重合性モノマーという。)との共重合体を意味する。
【0017】
本開示において、「自己架橋性シリコーンオイル」とは、自己架橋性基を有するシリコーンオイルを示す。詳しくは、「自己架橋性シリコーンオイル」は、ポリシロキサンを基本構造とし、ポリシロキサンの側鎖及び末端の少なくとも一部の置換基が自己架橋性基に置換された構造を有する。自己架橋性基とは、電子線、紫外線、熱などの外部刺激によって、他の成分が存在しなくても、それ自体単独で分子内に架橋構造を形成し得る官能基を指す。ポリシロキサンとしては、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリジフェニルシロキサン、ポリメチルハイドロジェンシロキサン、及びこれらの混合物等が挙げられる。置換基については後述する。
本開示において、「自己架橋性シリコーンオイルの自己架橋物」とは、自己架橋性シリコーンオイルの自己架橋性基が分子内で架橋反応することで架橋構造を有している状態の化合物を指す。架橋構造を有することの確認は、アクリルアミド系ポリマーを塗布した自己架橋性シリコーンオイルを自己架橋させた後の自己架橋性シリコーンオイルの自己架橋物を、テトラヒドロフランに浸漬させた際の溶解の有無で行える。即ち、溶解した場合は、化合物が架橋構造を有していないとして区別される。
【0018】
本開示において、「表面に有する」とは、表面に付着した状態でもよい。「付着」とは、自己架橋性シリコーンオイルの自己架橋物がアクリルアミド系ポリマー繊維の表面に存在していればよく、共有結合やイオン結合等の結合状態、ファンデルワールス力で互いに引き合った状態などのいずれでもよい。また、自己架橋性シリコーンオイルの自己架橋物は、アクリルアミド系ポリマー繊維の内部に存在していてもよい。
【0019】
本開示の炭素繊維前駆体繊維は、上記構成を有するので、高い炭化収率を維持しつつ、耐炎化処理において単繊維同士の融着を抑制することができる。
【0020】
上記効果が奏される理由は以下のように推測されるが、これに限定されない。
自己架橋性シリコーンオイルが自己架橋すると、アクリルアミド系ポリマー繊維の表面に、高い耐熱性を有する自己架橋物(被膜)が形成される。これにより、耐炎化処理において、単繊維同士は融着しにくいと推測される。
また、自己架橋物は、自己架橋性基が結合した化学構造を含み、自己架橋性基が結合した化学構造は、炭素繊維前駆体繊維の化学構造と類似している。そのため、耐炎化処理中に、自己架橋物は、酸化性気体の透過を抑制せず、耐炎化反応(環化、部分酸化)の進行を阻害しにくい。更に、炭素繊維前駆体繊維同士の融着の発生が抑制されているため、耐炎化処理時に、熱及び酸化性気体(酸化)は、各炭素繊維前駆体繊維の内部まで伝わりやすい。これにより、耐炎化反応(環化、部分酸化)は進行しやすい。その結果、炭化収率は、高くなると推測される。
以上により、本開示の炭素繊維前駆体繊維は、高い炭化収率を維持しつつ、耐炎化処理において単繊維同士の融着を抑制することができる。それ故、本開示の炭素繊維前駆体繊維は、炭素繊維の製造コストを低減することができるとともに、本開示の炭素繊維前駆体繊維から、品質の高い炭素繊維が得られる。
【0021】
これに対し、従来のアミノ基を有するシリコーン系油剤とエポキシ基を有するシリコーン系油剤との組合せを架橋させた場合、得られる架橋物は水酸基及びアミノ基の少なくとも一方を含む。そのため、従来の架橋物は酸素の透過を阻害する可能性が高い。その結果、耐炎化反応の進行は不十分となり、炭化収率は低い場合が多い。
従来のシリコーン系油剤は、ポリアクリロニトリル繊維又はポリアクリロニトリル繊維由来の耐炎化繊維の単繊維同士の融着を抑制するために用いられ、架橋反応を進行させるために高温で加熱処理される。そのため、従来のシリコーン系油剤としては、アミノ基変性シリコーン油剤、又はアミノ基変性シリコーン油剤等の2種類以上のシリコーン系油剤の混合物が用いられる。しかしながら、従来のシリコーン系油剤をそのままポリアクリルアミド繊維やポリアクリルアミド系耐炎化繊維に展開しても単繊維の融着を抑制する効果は低い。一方、本開示の炭素繊維前駆耐繊維は、自己架橋性シリコーンオイルの自己架橋物を備えるので、耐炎化処理において単繊維同士の融着を抑制することができる。
また、従来のポリアクリロニトリル繊維は親油性であるため、従来のシリコーン油剤は水溶液に分散させて、ポリアクリロニトリル繊維に塗布する必要がある。そのためには、界面活性剤を利用したシリコーン油剤の粘度調整が必須であった。一方、本開示におけるアクリルアミド系ポリマー繊維は水溶性であるため、界面活性剤を利用した自己架橋性シリコーンオイルの粘度調整は必須ではない。界面活性剤が異物となって炭素繊維前駆耐繊維に残存し、力学特性の低下に繋がる傾向になることから、自己架橋性シリコーンオイルの粘度調整は行われないことが好ましい。
【0022】
(1.1)炭素繊維前駆体繊維の繊度等
(1.1.1)繊度
炭素繊維前駆体繊維の繊度は、特に限定されるものではないが、1×10-8tex/本~100tex/本であることが好ましく、1×10-6tex/本~60tex/本であることがより好ましく、1×10-3tex/本~40tex/本であることがさらに好ましく、1×10-2tex/本~10tex/本であることが特に好ましく、2×10-2tex/本~5tex/本であることがより一層好ましく、3×10-2tex/本~1tex/本であることが最も好ましい。
炭素繊維前駆体繊維の繊度を1×10-8tex/本以上とすることにより、糸切れの発生は抑制され、これにより炭素繊維前駆体繊維の巻き取りの容易性及び耐炎化処理の安定性を向上させることができる傾向にある。
炭素繊維前駆体繊維の繊度を100tex/本以下とすることにより、耐炎化処理により得られる炭素繊維の表層付近の構造を中心付近の構造との構造の差を低減することができ、炭素繊維の引張強度及び引張弾性率を向上することができる傾向にある。
【0023】
本開示において、単繊維の繊度(tex/本)の測定は、炭素繊維前駆体繊維100本を束ねて、繊維束を作製し、この繊維束の質量を測定して、下記式により単繊維の繊度をを求める。
単繊維の繊度(tex)=繊維束の質量(g)/繊維長(m)×1000/100(本)
【0024】
(1.1.2)平均繊維径
炭素繊維前駆体繊維の平均繊維径は、特に限定されるものではないが、3nm~300μmであることが好ましく、30nm~250μmであることがより好ましく、1μm~200μmであることがさらに好ましく、3μm~100μmであることが特に好ましく、4μm~50μmであることがより一層好ましく、5μm~30μmであることが最も好ましい。
炭素繊維前駆体繊維の平均繊維径を3nm以上とすることにより、耐炎化処理の安定性を向上させることができる傾向にある。炭素繊維前駆体繊維の平均繊維径を3nm以上とすることにより、糸切れの発生を抑制することができ、これにより炭素繊維前駆体繊維の巻き取りの容易性及び耐炎化処理の安定性を向上させることができる傾向にある。
炭素繊維前駆体繊維の平均繊維径を300μm以下とすることにより、耐炎化処理により得られる炭素繊維の表層付近の構造と、中心付近の構造との差を低減することができ、炭素繊維の引張強度及び引張弾性率を向上することができる傾向にある。
【0025】
本開示において、平均繊維径は、炭素繊維前駆体繊維100本を束ねて繊維束を作製し、乾式自動密度計を用いて繊維束の密度を測定し、下記式により繊維束を構成する単繊維の平均繊維径を求める。なお、乾式自動密度計としては、マイクロメリティックス社製のアキュピックII 1340又はこれと同程度の装置を使用することができる。
D={(Dt×4×1000)/(ρ×π×n)}1/2
〔式中、
Dは繊維束を構成する単繊維の平均繊維径(μm)を表し、
Dtは繊維束の繊度(tex)を表し、
ρは繊維束の密度(g/cm3)を表し、
nは繊維束を構成する単繊維の本数(本)を表す。
なお、πは3.14である。〕
【0026】
炭素繊維前駆体繊維は、繊維束(以下、「炭素繊維前駆体繊維束」という。)の形態であってもよく、炭素繊維前駆体繊維束の形態で耐炎化処理が施されることが好ましい。炭素繊維前駆体繊維束は、複数の炭素繊維前駆体繊維を1つに束ねて得られる。
炭素繊維前駆体繊維束では、1束あたりのフィラメント数は、特に限定されるものではないが、耐炎化繊維及び炭素繊維の生産性及び機械特性の観点から、50本~96000本であることが好ましく、100本~48000本であることがより好ましく、500本~36000本であることがさらに好ましく、1000本~24000本であることが特に好ましい。
1束あたりのフィラメント数を96000本以下とすることにより、耐炎化処理時における焼成ムラの発生を抑制することができる。
【0027】
(1.2)自己架橋物
本開示の炭素繊維前駆体繊維は、自己架橋性シリコーンオイルの自己架橋物を含む。自己架橋物は、アクリルアミド系ポリマー繊維の表面に有する。
これにより、繊維の集束性及びハンドリングを向上することができ、且つ耐炎化処理において、単繊維同士の融着を抑制することができる。
【0028】
自己架橋性シリコーンオイルの自己架橋物は、アクリルアミド系ポリマー繊維の表面の少なくとも一部に存在してればよく、より高い炭化収率を維持しつつ、耐炎化処理において単繊維同士の融着をより抑制する炭素繊維前駆体繊維とする等の観点から、アクリルアミド系ポリマー繊維の表面の全面に、被膜として付着していることが好ましい。
【0029】
自己架橋物の含有量は、特に限定されるものではなく、アクリルアミド系ポリマー繊維100質量部に対して、0.1質量部~20質量部であることが好ましく、0.2質量部~15質量部であることがより好ましく、0.3質量部~10質量部であることがさらに好ましい。
自己架橋物の含有量を0.1質量部以上にすることにより、シリコーンオイルの自己架橋物が単繊維同士の融着を抑制する効果をより発揮することができる。
自己架橋物の含有量を20質量部以下にすることにより、炭素繊維前駆体繊維間でのシリコーンオイルの架橋を抑制し、単繊維同士の融着を抑制することができる。
自己架橋物の含有量は、熱重量分析や元素分析などにより測定できる。熱重量分析では、重量減少量から自己架橋物含有量を測定することができる。
【0030】
(1.2.1)自己架橋性シリコーンオイル
自己架橋性シリコーンオイルは、自己架橋性基を含む。自己架橋性基は、外部刺激によってラジカルを生成する基を指す。本発明において、外部刺激とは、電子線、紫外線、熱等が好ましく、より好ましくは電子線である。自己架橋性基は、具体的に、一置換エチレン基、1,1-二置換エチレン基、1,2-二置換エチレン基を少なくとも1つ含むことが好ましい。
一置換エチレン基としては、例えば、ビニル基、ビニルカルボニル基、ビニルエステル基、アクリル基、アクリルアミド基、アリル基、アリルエーテル基、4-ビニルベンゼン基、4-アリルベンゼン基等が挙げられる。
1,1-二置換エチレン基としては、例えば、イソプロペニル基、メタクリル基、メタクリルアミド基、4-イソプロペニルベンゼン基等が挙げられる。
1,2-二置換エチレン基としては、例えば、マレイミド基、フマル酸エステル基、フマルアミド基、等が挙げられる。
これらの自己架橋性基の中でも、自己架橋性基は、アクリルアミド系ポリマーとの親和性との観点から、アクリル基、メタクリル基、アクリルアミド基、又はメタクリルアミド基であることが好ましく、重合性の観点から、アクリル基又はメタクリル基であることがより好ましい。
【0031】
自己架橋性シリコーンオイルは、ポリシロキサンの側鎖及び末端の少なくとも一部の置換基が自己架橋性基に置換された構造であればよい。置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、フェニル基、メチルフェニル基等のアリール基等を挙げられる。この中でも、置換基は、メチル基、又はフェニル基であることがより好ましく、メチル基であることがさらに好ましい。
【0032】
自己架橋性シリコーンオイルは、市販品であってもよい。
【0033】
自己架橋性シリコーンオイルの25℃における粘度は、特に限定されない。
自己架橋性シリコーンオイルの25℃における粘度の下限は、架橋処理時に揮発が生じず架橋反応を効率よく進行させる観点から、9mm2/s以上であることが好ましく、20mm2/s以上であることがより好ましい。
自己架橋性シリコーンオイルの25℃における粘度の上限は、アクリルアミド系ポリマー繊維の表面に自己架橋性シリコーンオイルをより均一な膜厚で付着させる観点から、100000mm2/s以下であることが好ましく、10000mm2/s以下であることがより好ましい。
自己架橋性シリコーンオイルの25℃における粘度は、ウベローデ粘度計による25℃の値を示す。自己架橋性シリコーンオイルが市販品であり、カタログ値である場合、自己架橋性シリコーンオイルの25℃における粘度は、メーカーのカタログ値とする。
【0034】
自己架橋性シリコーンオイルの例としては、信越化学工業社の製品、SILTECH社の製品等が挙げられる。信越化学工業社の製品としては、「X-22-164C」、「X-22-164」、「X-22-164AS」、「X-22-164A」、「X-22-164B」、「X-22-164E」、「X-22-2445」、「X-22-174ASX」、「X-22-174BX」、「KF-2012」、「X-22-2426」、「X-22-2404」等が挙げられる。SILTECH社の製品としては、「Silmer ACR D2」、「Silmer ACR Di-10」、「Silmer ACR Di-50」、「Silmer ACR Di-400」、「Silmer ACR Di-1508」、「Silmer OH ACR Di-10」、「Silmer OH ACR Di-50」、「Silmer OH ACR Di-100」、「Silmer OH ACR Di-400」、「Silmer OH ACR C50」、「Silmer OH ACR C7-F」、「Silmer VIN C50」、「Silmer VIN J10」、「Silmer VIN 70」、「Silmer VIN 100」、「Silmer VIN 200」、「Silmer VIN 1000」等が挙げられる。
【0035】
(1.3)アクリルアミド系ポリマー繊維
本開示の炭素繊維前駆体繊維は、アクリルアミド系ポリマー繊維を含み、2種以上のアクリルアミド系ポリマー繊維を含んでいてもよい。
【0036】
アクリルアミド系ポリマー繊維は、アクリルアミド系ポリマー組成物を用いて形成されたものであることが好ましい。アクリルアミド系ポリマー組成物の樹脂成分は、アクリルアミド系ポリマーを含む。
【0037】
(1.3.1)アクリルアミド系ポリマー
アクリルアミド系ポリマーは、アクリルアミド系モノマーの単独重合体であってもよく、アクリルアミド系モノマーとアクリルアミド系モノマー以外のモノマー(以下、他の重合性モノマーという。)との共重合体であってもよい。
融着抑制性、炭化収率、形状安定性及び耐炎化繊維の引張強度等の観点からは、アクリルアミド系ポリマーは、アクリルアミド系モノマーと他の重合性モノマーとの共重合体であることが好ましい。
【0038】
(1.3.1.1)アクリルアミド系モノマー単位
アクリルアミド系ポリマーにおけるアクリルアミド系モノマー単位の含有率は、共重合体を構成する全モノマー単位に対して、30モル%以上であることが好ましく、40モル%以上であることがより好ましく、50モル%以上であることがさらに好ましく、55モル%以上であることが特に好ましく、60モル%以上であることが最も好ましい。
アクリルアミド系モノマー単位の含有率が30モル%以上であることにより、架橋前のアクリルアミド系ポリマーの水性溶媒又は水系混合溶媒に対する溶解性を向上させることができる傾向にある。
アクリルアミド系モノマー単位の含有率の上限は、特に限定されるものではないが、融着抑制性、炭化収率及び形状安定性の観点からは、99.9モル%以下であることが好ましく、99.8モル%以下であることがより好ましく、95モル%以下であることがさらに好ましく、90モル%以下であることが特に好ましく、85モル%以下であることが最も好ましい。
【0039】
アクリルアミド系モノマーとしては、アクリルアミド;エタクリルアミド;クロトンアミド;イタコン酸ジアミド;ケイ皮酸アミド;マレイン酸ジアミド;N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N-n-プロピルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-n-ブチルアクリルアミド、N-tert-ブチルアクリルアミド等のN-アルキルアクリルアミド;N-シクロヘキシルアクリルアミド等のN-シクロアルキルアクリルアミド;N,N’-ジメチルアクリルアミド等のジアルキルアクリルアミド;ジメチルアミノエチルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド等のジアルキルアミノアルキルアクリルアミド;N-(ヒドロキシメチル)アクリルアミド、N-(ヒドロキシエチル)アクリルアミド等のヒドロキシアルキルアクリルアミド;N-フェニルアクリルアミド等のN-アリールアクリルアミド;ジアセトンアクリルアミド;N,N’-メチレンビスアクリルアミド等のN,N’-アルキレンビスアクリルアミド;メタクリルアミド;N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、N-n-プロピルメタクリルアミド、N-イソプロピルメタクリルアミド、N-n-ブチルメタクリルアミド、N-tert-ブチルメタクリルアミド等のN-アルキルメタクリルアミド;N-シクロヘキシルメタクリルアミド等のN-シクロアルキルメタクリルアミド;N,N’-ジメチルメタクリルアミド等のジアルキルメタクリルアミド;ジメチルアミノエチルメタクリルアミド、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド等のジアルキルアミノアルキルメタクリルアミド;N-(ヒドロキシメチル)メタクリルアミド、N-(ヒドロキシエチル)メタクリルアミド等のヒドロキシアルキルメタクリルアミド;N-フェニルメタクリルアミド等のN-アリールメタクリルアミド、ジアセトンメタクリノレアミド;N,N’-メチレンビスメタクリルアミード等のN,N’-アルキレンビスメタクリルアミドなどが挙げられる。
アクリルアミド系ポリマーの水性溶媒又は水系混合溶媒に対する溶解性の観点から、上記したアクリルアミド系モノマーの中でも、アクリルアミド、N-アルキルアクリルアミド、ジアルキルアクリルアミド、メタクリルアミド、N-アルキルメタクリルアミド又はジアルキルメタクリルアミドが好ましく、アクリルアミドがより好ましい。
アクリルアミド系モノマーは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0040】
(1.3.1.2)他の重合性モノマー単位
アクリルアミド系ポリマーがアクリルアミド系モノマーと他の重合性モノマーとの共重合体である場合、上記共重合体における他の重合性モノマー単位の含有量は、融着抑制性、炭化収率及び形状安定性の観点から、共重合体を構成する全モノマー単位に対して、0.1モル%以上であることが好ましく、1モル%以上であることがより好ましく、5モル%以上であることがさらに好ましく、10モル%以上であることが特に好ましく、15モル%以上であることが最も好ましい。
アクリルアミド系ポリマーの水性溶媒又は水系混合溶媒に対する溶解性の向上という観点から、他の重合性モノマー単位の含有率の上限は、70モル%以下であることが好ましく、60モル%以下であることがより好ましく、50モル%以下であることがさらに好ましく、45モル%以下であることが特に好ましく、40モル%以下であることが最も好ましい。
【0041】
他の重合性モノマーとしては、シアン化ビニル系モノマー、不飽和カルボン酸及びその塩、不飽和カルボン酸無水物、不飽和カルボン酸エステル、ビニルアルコール系モノマー、カルボン酸ビニル系モノマー、オレフィン系モノマー等が挙げられる。
【0042】
シアン化ビニル系モノマーとしては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、2-ヒドロキシエチルアクリロニトリル、クロロアクリロニトリル、クロロメチルアクリロニトリル、エトキシアクリロニトリル、シアン化ビニリデン等が挙げられる。
不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸等が挙げられる。
不飽和カルボン酸の塩としては、不飽和カルボン酸の金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等)、アンモニウム塩、アミン塩などが挙げられる。
【0043】
不飽和カルボン酸無水物としては、マレイン酸無水物、イタコン酸無水物等が挙げられる。
不飽和カルボン酸エステルとしては、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル等が挙げられる。
ビニル系モノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニル系モノマー、塩化ビニル、ビニルアルコールなどが挙げられる。
オレフィン系モノマーとしては、エチレン、プロピレン、イソプロピレン、ブタジエン等が挙げられる。
【0044】
上記した他の重合性モノマーの中でも、アクリルアミド系ポリマーの紡糸性、融着抑制性、炭化収率及び形状安定性の観点からは、他の重合性モノマーは、シアン化ビニル系モノマーであることが好ましく、アクリロニトリルであることがより好ましい。
上記した他の重合性モノマーの中でも、架橋前の上記共重合体の水性溶媒又は水系混合溶媒に対する溶解性の観点からは、他の重合性モノマーは、不飽和カルボン酸及びその塩であることが好ましく、アクリル酸、マレイン酸、フマル酸又はイタコン酸であることがより好ましい。
上記した他の重合性モノマーの中でも、融着抑制性、炭化収率及び形状安定性の観点からは、他の重合性モノマーは、不飽和カルボン酸又は不飽和カルボン酸無水物であることが好ましく、アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸又はマレイン酸無水物であることがより好ましい。
上記した他の重合性モノマーは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0045】
上記共重合体の水性溶媒又は水系混合溶媒に対する溶解性、紡糸性、融着抑制性、炭化収率及び形状安定性の観点から、アクリルアミド系ポリマーは、アクリルアミド系モノマーと、シアン化ビニル系モノマーと、不飽和カルボン酸との共重合体であることが特に好ましく、アクリルアミドと、アクリロニトリルと、アクリル酸との共重合体であることが最も好ましい。
紡糸性、融着抑制性、炭化収率及び形状安定性の観点から、上記共重合体におけるシアン化ビニル系モノマー単位の含有率は、0.1モル%~50モル%であることが好ましく、1モル%~45モル%であることがより好ましく、5モル%~40モル%であることがさらに好ましい。
上記共重合体の水性溶媒又は水系混合溶媒に対する溶解性、融着抑制性、炭化収率及び形状安定性の観点から、上記共重合体における不飽和カルボン酸モノマー単位の含有率は、0.1モル%~50モル%であることが好ましく、0.1モル%~40モル%であることがより好ましく、0.1モル%~30モル%であることがさらに好ましく、1モル%~30モル%であることが特に好ましく、2モル%~20モル%であることが最も好ましい。
【0046】
なかでも、アクリルアミド系ポリマー繊維は、共重合体を含み、
共重合体は、共重合体を構成する全モノマー単位に対して、40モル%以上99.8モル%以下のアクリルアミド系モノマー単位と、0.1モル%以上50モル%以下のシアン化ビニル系モノマー単位と、0.1モル%以上30モル%以下の不飽和カルボン酸モノマ一単位とからなることが好ましい。
【0047】
融着抑制性、炭化収率及び形状安定性の観点から、本開示の炭素繊維前駆体繊維の質量に対するアクリルアミド系ポリマーの含有率は、80質量%~99.9質量%であることが好ましく、85質量%~99.7質量%であることがより好ましい。
【0048】
アクリルアミド系ポリマーは、赤外吸収スペクトルにおいて、約1644cm-1~1653cm-1の範囲に赤外吸収ピークが観察されることが好ましい。
上記赤外吸収ピークは、アクリルアミド系モノマー単位中のカルボニル基の伸縮運動に由来する吸収ピークである。
なお、赤外吸収スペクトルは、赤外分光法を用いて測定する。
具体的には、測定範囲を400cm-1~4000cm-1、分解能を193m-1、積算回数を32回とするATR(Attenuated Total Reflection)法により赤外吸収スペクトルを測定する。
測定装置としては、例えば、Thermo Scientific社製のフーリエ変換赤外分光装置「Nicolet iS20」又はこれと同程度の装置を使用することができる。
【0049】
(1.4)添加成分
本開示の炭素繊維前駆体繊維は、酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種の添加成分を含むことができる。
炭素繊維前駆体繊維は、融着抑制性、炭化収率及び形状安定性に優れるため、酸等の添加成分を含有しなくともよいが、炭素繊維前駆体繊維(すなわち、アクリルアミド系ポリマー組成物)は、アクリルアミド系ポリマーに加えて、酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種の添加成分が含有しいてもよい。上記添加成分を含む炭素繊維前駆体繊維に耐炎化処理を施すことによって、脱水反応、脱アンモニア反応等による環状構造の形成が加速し、融着抑制性、炭化収率及び形状安定性がさらに改善される傾向にある。
耐炎化繊維においては、添加成分及びその残渣の少なくとも一部が残存していてもよい。さらに、耐炎化繊維に添加成分を加えて炭化処理を行ってもよい。
【0050】
酸としては、リン酸、ポリリン酸、ホウ酸、硫酸、硝酸、炭酸等の無機酸、シュウ酸、クエン酸、スルホン酸等の有機酸が挙げられる。
上記酸の塩としては、金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)、アンモニウム塩、アミン塩、グアニジン塩、尿素塩、メラミン塩、イミダゾール塩などが挙げられ、アンモニウム塩、アミン塩が好ましく、アンモニウム塩がより好ましい。
上記した添加成分の中でも、融着抑制性、炭化収率及び形状安定性の観点から、リン酸、ポリリン酸、ホウ酸、ポリホウ酸、硫酸又はこれらのアンモニウム塩が好ましく、リン酸、ポリリン酸、ホウ酸又はこれらのアンモニウム塩がより好ましく、リン酸、ポリリン酸、リン酸のアンモニウム塩又はポリリン酸のアンモニウム塩がさらに好ましい。
【0051】
添加成分の含有量は、炭化収率、融着抑制性及び形状安定性の観点から、炭素繊維前駆体繊維に含まれるアクリルアミド系ポリマー100質量部に対して、0.1質量部~100質量部であることが好ましく、0.2質量部~50質量部であることがより好ましく、0.5質量部~30質量部であることがさらに好ましく、1質量部~20質量部であることが特に好ましい。
【0052】
(2)炭素繊維前駆体繊維用繊維
本開示の炭素繊維前駆体繊維用繊維は、アクリルアミド系ポリマー繊維と、前記アクリルアミド系ポリマー繊維の表面に有する自己架橋性シリコーンオイルの未架橋物とを含む。
【0053】
未架橋物の含有量は、特に限定されるものではなく、アクリルアミド系ポリマー繊維100質量部に対して、0.1質量部~20質量部であることが好ましく、0.2質量部~15質量部であることがより好ましく、0.3質量部~10質量部であることがさらに好ましい。
未架橋物の含有量が0.1質量部以上にすることにより、自己架橋後のシリコーンオイルが単繊維同士の融着を抑制する効果をより発揮することができる。
未架橋物の含有量を20質量部以下にすることにより、自己架橋時に炭素繊維前駆体繊維間でのシリコーンオイルの架橋を抑制し、単繊維同士の融着を抑制することができる。
未架橋物の含有量の測定方法は、実施例に記載の方法と同様である。
【0054】
本開示において、「炭素繊維前駆体繊維用繊維」とは、架橋処理、耐炎化処理及び炭化処理のいずれも施されていない状態の炭素繊維前駆体繊維の前駆体繊維を示す。炭素繊維前駆体繊維用繊維は、架橋処理が施されると、炭素繊維前駆体繊維となる。炭素繊維前駆体繊維用繊維自体には、耐炎化処理及び炭化処理のいずれも直接的に施されない。
本開示において、「自己架橋性シリコーンオイルの未架橋物」とは、自己架橋性シリコーンオイルが架橋していない状態の自己架橋性シリコーンオイルを示す。
【0055】
本開示の炭素繊維前駆体繊維用繊維は、上記構成を有するので、自己架橋性シリコーンオイルが自己架橋した場合、高い炭化収率を維持しつつ、耐炎化処理において単繊維同士の融着を抑制することができる。
【0056】
本開示の炭素繊維前駆体繊維用繊維は、自己架橋性シリコーンオイルが自己架橋していない状態であることの他は、本開示の炭素繊維前駆体繊維と同様の構成である。
【0057】
(3)炭素繊維前駆体繊維の製造方法
本開示の炭素繊維前駆体繊維の製造方法は、後述する炭素繊維前駆体繊維用繊維に架橋処理を施す工程(以下、「架橋処理工程」という。)を含む。
これにより、本開示の炭素繊維前駆体繊維が得られる。
【0058】
炭素繊維前駆体繊維の製造方法は、架橋処理工程に加えて、炭素繊維前駆体繊維用繊維を準備する工程(以下、「準備工程」)を含んでいてもよい。準備工程は、架橋処理工程の前に行われる。
以下、炭素繊維前駆体繊維の製造方法が、準備工程、及び架橋処理工程を含む場合について説明する。
【0059】
(3.1)準備工程
準備工程では、炭素繊維前駆体繊維用繊維を準備する。これにより、本開示の炭素繊維前駆体繊維用繊維が得られる。
【0060】
炭素繊維前駆体繊維用繊維を準備する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、アクリルアミド系ポリマー組成物を紡糸し、得られるアクリルアミド系ポリマー繊維に自己架橋性シリコーンオイルを付与し、自己架橋性シリコーンオイルを自己架橋させる方法が挙げられる。
【0061】
(3.1.1)アクリルアミド系ポリマー組成物
アクリルアミド系ポリマー組成物は、アクリルアミド系ポリマー繊維の原料である。
アクリルアミド系ポリマー組成物は、アクリルアミド系ポリマーを含有し、必要に応じて、上記添加成分等を含有する。
【0062】
アクリルアミド系ポリマーは、市販されているものを使用してもよく、従来公知の方法により合成したものを使用してもよい。
アクリルアミド系ポリマーの合成は、ラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合、リビングラジカル重合等の公知の重合反応を利用することにより行うことができる。上記重合反応の中でも、合成コスト低減の観点から、ラジカル重合が好ましい。
アクリルアミド系ポリマーの合成は、溶液重合、懸濁重合、沈殿重合、分散重合、乳化重合(例えば、逆相乳化重合)等の重合方法を利用することにより行うことができる。
溶液重合によりアクリルアミド系ポリマーの合成を行う場合、溶媒としては、原料のモノマー及び得られるアクリルアミド系ポリマーが溶解する溶媒を使用することが好ましく、低コストで安全に合成できるという観点から、水性溶媒又は水系混合溶媒を使用することがより好ましく、水性溶媒を使用することがさらに好ましい。
水性溶媒としては、水、アルコール、これらの混合溶媒等が挙げられるが水が特に好ましい。
水系混合溶媒は、上記水性溶媒と有機溶媒との混合溶媒を意味し、有機溶媒としては、テトラヒドロフラン等が挙げられる。
【0063】
ラジカル重合によるアクリルアミド系ポリマーの合成において、重合開始剤を使用することが好ましい。
重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイル、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の従来公知のラジカル重合開始剤を使用することができる。
溶媒として水性溶媒又は水系混合溶媒を使用する場合には、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の水性溶媒又は水系混合溶媒に可溶なラジカル重合開始剤が好ましい。
アクリルアミド系ポリマーを低分子量化し、アクリルアミド系ポリマーの紡糸性を向上させるという観点から、重合開始剤に代えて、又は重合開始剤と共に、重合促進剤及び分子量調節剤の少なくとも一方を使用することが好ましく、重合開始剤及び重合促進剤を併用することがより好ましい。
重合促進剤として、テトラメチルエチレンジアミン等が挙げられる。
分子量調節剤としては、n-ドデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン化合物などが挙げられる。
重合開始剤である過硫酸アンモニウムと、重合促進剤であるテトラメチルエチレンジアミンとを併用することが特に好ましい。
【0064】
上記重合反応の温度は、特に制限されるものではなく、アクリルアミド系ポリマーの紡糸性を向上させるという観点から、35℃以上であることが好ましく、40℃以上であることがより好ましく、50℃以上であることがさらに好ましく、70℃以上であることが特に好ましい。
【0065】
アクリルアミド系ポリマーは、アクリルアミド系モノマーの単独重合体であってもよく、アクリルアミド系モノマーと他の重合性モノマーとの共重合体であってもよい。アクリルアミド系モノマー及び他の重合性モノマーの好ましい態様については上記したため、ここでは記載を省略する。
【0066】
アクリルアミド系ポリマーにおけるアクリルアミド系モノマー単位の含有率は、30モル%以上であることが好ましく、40モル%以上であることがより好ましく、50モル%以上であることがさらに好ましく、55モル%以上であることが特に好ましく、60モル%以上であることが最も好ましい。
アクリルアミド系モノマー単位の含有率が30モル%以上であることにより、水性溶媒又は水系混合溶媒に対する溶解性を向上させることができる傾向にある。
アクリルアミド系モノマー単位の含有率の上限は、特に限定されるものではないが、融着抑制性、炭化収率及び形状安定性の観点からは、99.9モル%以下であることが好ましく、99.8モル%以下であることがより好ましく、95モル%以下であることがさらに好ましく、90モル%以下であることが特に好ましく、85モル%以下であることが最も好ましい。
【0067】
アクリルアミド系ポリマーがアクリルアミド系モノマーと他の重合性モノマーとの共重合体である場合、上記共重合体における他の重合性モノマー単位の含有量は、融着抑制性、炭化収率及び形状安定性の観点から、0.1モル%以上であることが好ましく、1モル%以上であることがより好ましく、5モル%以上であることがさらに好ましく、10モル%以上であることが特に好ましく、15モル%以上であることが最も好ましい。
アクリルアミド系ポリマーの水性溶媒又は水系混合溶媒に対する溶解性の向上という観点から、他の重合性モノマー単位の含有率の上限は、70モル%以下であることが好ましく、60モル%以下であることがより好ましく、50モル%であることがさらに好ましく、45モル%以下であることが特に好ましく、40モル%以下であることが最も好ましい。
【0068】
アクリルアミド系ポリマー組成物の製造方法は、溶融状態のアクリルアミド系ポリマーに添加成分を直接混合する方法(溶融混合)、アクリルアミド系ポリマーと添加成分とをドライブレンドする方法(乾式混合)、添加成分を含有する水性溶液若しくは水系混合溶液、又はアクリルアミド系ポリマーは完全溶解していないが、添加成分は溶解している溶液又は添加成分が分散している分散液に繊維状に成形したアクリルアミド系ポリマーを浸漬又は通過させる方法等が挙げられる。
アクリルアミド系ポリマー及び添加成分が水性溶媒又は水系混合溶媒に可溶である場合には、アクリルアミド系ポリマーと添加成分とを均一に混合することができるという観点から、アクリルアミド系ポリマーと添加成分とを水性溶媒又は水系混合溶媒中で混合する方法(湿式混合)が好ましい。
アクリルアミド系ポリマーの合成を行った水性溶媒中又は水系混合溶媒中に、添加成分を混合することにより、湿式混合を行ってもよい。
【0069】
湿式混合においては、より低コストで安全にアクリルアミド系ポリマー組成物を製造できるという観点から、溶媒として水性溶媒を使用することが好ましく、水を使用することがより好ましい。
【0070】
なお、湿式混合によりアクリルアミド系ポリマー組成物の製造を行う場合、溶媒は除去してもよく、除去しなくともよい。溶媒の除去方法は、特に制限はなく、減圧留去、再沈殿、熱風乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等の公知の方法のうちの少なくとも1つの方法を利用することができる。
【0071】
(3.1.2)紡糸
アクリルアミド系ポリマー組成物を紡糸する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、アクリルアミド系ポリマー組成物の溶融物を溶融紡糸、スパンボンド、メルトブローン又は遠心紡糸することにより行ってもよい。
アクリルアミド系ポリマー組成物が水性溶媒又は水系混合溶媒に可溶な場合には、紡糸性、環境負荷低減性、コスト及び安全性の観点から、アクリルアミド系ポリマー組成物を水性溶媒又は水系混合溶媒に溶解させ、得られた水性溶液又は水系混合溶液を用いて紡糸して、アクリルアミド系ポリマー繊維を製造することが好ましい。
アクリルアミド系ポリマーの合成を溶液重合により行う場合、アクリルアミド系ポリマーの溶液を、必要に応じて所望の濃度に調整した後、紡糸し、アクリルアミド系ポリマー繊維を製造することが好ましい。
アクリルアミド系ポリマー組成物を湿式混合により製造する場合、アクリルアミド系ポリマー組成物の溶液を、必要に応じて所望の濃度に調整した後、紡糸し、アクリルアミド系ポリマー繊維を製造することが好ましい。
【0072】
紡糸は、乾式紡糸法、湿式紡糸法、乾湿式紡糸法、ゲル紡糸法、フラッシュ紡糸法又はエレクトロスピニング法により行われることが好ましい。上記紡糸方法によれば、所望の繊度及び平均繊維径を有するアクリルアミド系ポリマー繊維を低コストで安全に製造することができる。
より低コストで安全にアクリルアミド系ポリマー繊維を製造することができるという観点から、溶媒として水性溶媒を使用することが好ましく、水を使用することがより好ましい。
【0073】
(3.1.3)付着
アクリルアミド系ポリマー繊維に自己架橋性シリコーンオイルを付着させる方法は、特に限定されるものではなく、自己架橋性シリコーン系油剤(以下、「油剤」という場合がある。)を用いた、塗布法、浸漬法、噴霧法、タッチロール法、ガイド給油法等が挙げられる。
【0074】
(3.1.3.1)自己架橋性シリコーン系油剤
油剤は、自己架橋性シリコーンオイルを含有する。油剤は、自己架橋性シリコーンオイル単独であってもよいし、自己架橋性シリコーンオイルと、自己架橋性シリコーンオイルを希釈する有機溶剤とを含有してもよい。有機溶剤は、自己架橋性シリコーンオイルの良溶媒であり、かつ、アクリルアミド系ポリマーの貧溶媒である。また、本発明の効果を損なわない範囲で、自己架橋性基を含まない油剤や自己架橋性基以外の官能基を含む油剤を含有してもよい。
【0075】
油剤の25℃における粘度は、特に限定されるものではなく、自己架橋性シリコーンオイルの25℃における粘度として例示した範囲と同様の範囲と同様である。
自己架橋性シリコーン系油剤の25℃における粘度は、ウベローデ粘度計による25℃の値を示す。自己架橋性シリコーン系油剤が自己架橋性シリコーンオイルの市販品である場合、自己架橋性シリコーンオイルの25℃における粘度は、メーカーのカタログ値であってもよい。
【0076】
油剤は、有機溶剤の他に、必要に応じて、平滑剤、吸湿剤、界面活性剤、粘度調整剤、離型剤、展着剤、抗菌剤、防腐剤等を含有してもよい。
【0077】
(3.2)架橋処理工程
架橋処理工程では、炭素繊維前駆体繊維用繊維に架橋処理を施す。これにより、炭素繊維前駆体繊維が得られる。
炭素繊維前駆体繊維用繊維は、繊維束の形態で架橋処理が施されてもよい。
【0078】
(3.2.1)架橋処理
架橋処理は、アクリルアミド系ポリマー繊維に有する自己架橋性シリコーンオイルを自己架橋させることができれば特に限定されるものではなく、アクリルアミド系ポリマー繊維の表面に有する油剤に電子線を照射する方法(以下、「電子線処理」という。)、アクリルアミド系ポリマー繊維の表面に有する油剤に紫外線を照射する方法、アクリルアミド系ポリマー繊維の表面に有する油剤を加熱乾燥する方法等が挙げられる。なかでも、架橋処理は、エネルギー効率や処理速度の観点から、電子線処理であることが好ましい。
【0079】
(3.2.1.1)電子線処理
融着抑制性、炭化収率及び形状安定性の観点から、アクリルアミド系ポリマー繊維に対して照射する電子線の線量は、50kGy~10000kGyであることが好ましく、100kGy~5000kGyであることがより好ましく、150kGy~1000kGyであることがさらに好ましい。
なお、上記した線量の好ましい数値範囲は、一方向から、アクリルアミド系ポリマー繊維に対して電子線を照射した場合における線量の好ましい数値範囲であり、2方向以上から照射する場合は、上記の限りではなく、適宜調整することが好ましい。
【0080】
活性光線として電子線を使用した場合、その線量は、フィルム線量計等を使用することにより測定する。フィルム線量計としては、例えば、富士フイルム社製のFTR-125や東洋メディック社製のFWT-60型又はこれと同程度の装置等を使用することができる。
【0081】
融着抑制性、炭化収率及び形状安定性の観点から、アクリルアミド系ポリマー繊維に対して照射する電子線の加速電圧は、照射した活性光線の好ましくは20%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましく80%以上がアクリルアミド系ポリマー繊維を透過する加速電圧に調製することが好ましい。
活性光線として電子線を使用した場合、電子線の透過率は、試料の表面(透過前)と裏面(透過後)の線量の差から算出できる。また、一般に開示されている透過深さと、相対線量との関係図から算出してもよい。
具体的には、加速電圧は、10kV~10MVであることが好ましく、100kV~3MVであることがより好ましく、150kV~1MVであることがさらに好ましい。
なお、上記した加速電圧の好ましい数値範囲は、一方向から、アクリルアミド系ポリマー繊維に対して活性光線を照射した場合における加速電圧の好ましい数値範囲であり、2方向以上から照射する場合は、上記の限りではなく、適宜調整することが好ましい。
【0082】
電子線の照射は、バッチ式により行ってもよく、連続式に行ってもよい。
活性光線照射に使用する装置は、特に限定されるものではないが、バッチ式による活性光線の照射を行う場合には、岩崎電気社製のCB250/30/20mA又はこれと同程度の装置を使用することができる。連続式による活性光線の照射を行う場合には、NHVコーポレーション社製の電子線照射装置EBC800-35又はこれと同程度の装置を使用することができる。
【0083】
(4)耐炎化繊維の製造方法
本開示の耐炎化繊維の製造方法は、炭素繊維前駆体繊維に耐炎化処理を施す工程(以下、「耐炎化処理工程」という。)を含む。
これにより、高い炭化収率を維持することができ、単繊維同士の融着が抑制された耐炎化繊維が得られる。
アクリルアミド系ポリマー繊維は、耐炎化処理によって熱分解されにくい。更に、アクリルアミド/シアン化ビニル/不飽和カルボン酸系共重合体の構造は、耐炎化処理によって耐熱性の高い構造に変換される。そのため、炭化収率は高い。
特に、添加成分を含有するアクリルアミド系ポリマー繊維では、添加成分である酸やその塩の触媒作用により、アクリルアミド/シアン化ビニル/不飽和カルボン酸系共重合体の脱アンモニア反応や脱水反応が促進される。そのため、アクリルアミド系ポリマー繊維の分子内に環状構造(イミド環構造)や2環以上の多環が連続した構造が形成されやすい。これにより、アクリルアミド/シアン化ビニル/不飽和カルボン酸系共重合体の構造は耐熱性の高い構造に変換されやすい。その結果、炭化収率は更に高い。
【0084】
本開示において、「耐炎化処理」とは、炭素繊維前駆体繊維に対して酸化性気体雰囲気下、加熱処理を施すことを示す。
【0085】
(4.1)耐炎化処理
耐炎化処理の温度は、特に限定されるものではないが、150℃~500℃であることが好ましく、200℃~450℃であることがより好ましく、250℃~420℃であることがさらに好ましい。
なお、上記温度には、後述する耐炎化処理時の最高温度(耐炎化処理温度)だけでなく、耐炎化処理温度までの昇温過程等における温度も包含される。
【0086】
耐炎化処理時の最高温度(耐炎化処理温度)は、200℃~500℃であることが好ましく、250℃~450℃であることがより好ましく、305℃~440℃であることがさらに好ましく、310℃~430℃であることが特に好ましく、315℃~420℃であることが最も好ましい。
耐炎化処理温度を200℃以上とすることにより、アクリルアミド/シアン化ビニル/不飽和カルボン酸系共重合体の脱アンモニア反応や脱水反応は促進しやすく、分子内に環状構造(イミド環構造)が形成されやすい。そのため、耐炎化繊維の耐熱性及び炭化収率を向上することができる傾向にある。
耐炎化処理温度を500℃以下とすることにより、耐炎化繊維が熱分解されにくく、製造コストを低減することができる傾向にある。
【0087】
耐炎化処理時間(耐炎化処理温度での加熱時間)は、特に限定されるものではないが、炭化収率及び製造コストの観点から、1分間~120分間であることが好ましく、2分間~60分間であることがより好ましく、3分間~50分間であることがさらに好ましく、4分間~40分間が特に好ましい。
耐炎化処理時間を1分以上とすることにより、炭化収率を向上させることができる。
耐炎化処理時間を120分以内にすることにより、製造コストを低減することができる。
【0088】
(4.2)延伸処理
炭素繊維前駆体繊維の耐炎化処理時において、炭素繊維前駆体繊維に対し延伸処理を施すことが好ましい。炭素繊維前駆体繊維に対し延伸処理を施すことにより、炭素繊維前駆体繊維に含まれるアクリルアミド系ポリマーが配向し、耐炎化繊維の引張強度を向上する傾向にある。
延伸処理は、耐炎化処理温度での加熱時に少なくとも実施されることが好ましい。
耐炎化繊維の引張強度向上という観点からは、耐炎化処理温度までの昇温過程においても延伸処理が実施されることが好ましい。
【0089】
延伸処理時において、炭素繊維前駆体繊維に付与する張力は、0.03mN/tex~500mN/texであることが好ましく、0.05mN/tex~400mN/texであることがより好ましく、0.07mN/tex~200mN/texであることがさらに好ましく、0.1mN/tex~100mN/texであることが特に好ましい。
炭素繊維前駆体繊維に付与する張力が0.03mN/tex未満になると、単繊維同士の融着が十分に抑制されず、耐炎化繊維の高温での耐荷重性、強度及び炭化収率が低下する傾向にある。
炭素繊維前駆体繊維に付与する張力が500mN/texを超えると、耐炎化処理時に炭素繊維前駆体繊維の切断が生じる場合がある。
なお、本開示において、炭素繊維前駆体繊維に付与する張力(単位:mN/tex)は、耐炎化処理時に炭素繊維前駆体繊維に付与する張力(単位:mN)を、炭素繊維前駆体繊維の絶乾状態での繊度(単位:tex)で除した値、すなわち、炭素繊維前駆体繊維の単位繊度当たりの張力を示す。
上記張力は、耐炎化炉等の加熱装置の入口及び出口における速度調整を実施したり、ロードセル、バネ、重り、エアシリンダー等を使用することによって調整することができる。
【0090】
耐炎化処理温度(耐炎化処理時の最高温度)において、アクリルアミド系ポリマー繊維に所定の張力が付与されていれば、耐炎化処理温度までの昇温過程等において所定の張力が付与されていても、施されていなくてもよいが、張力の付与による効果が十分に得られるという観点から、昇温過程等においても所定の張力が付与されていることが好ましい。また、張力は、昇温過程等の初期段階から付与されていてもよいし、途中の段階から付与されていてもよい。
また、本発明の耐炎化繊維の製造方法においては、前記耐炎化処理温度(耐炎化処理時の最高温度)で所定の張力を付与しながら加熱処理を施した後に、前記耐炎化処理温度より高い温度で所定の張力以外の張力を付与しながら又は張力を付与せずに加熱処理を施してもよい。
【0091】
(4.3)耐炎化繊維
耐炎化繊維の密度は、特に限定されるものではないが、1.30g/cm3~1.75g/cm3であることが好ましく、1.35g/cm3~1.70g/cm3であることがより好ましく、1.37g/cm3~1.65g/cm3であることがさらに好ましく、1.39g/cm3~1.60g/cm3であることが特に好ましく、1.44g/cm3~1.55g/cm3であることが最も好ましい。
耐炎化繊維の密度が1.30g/cm3以上であることにより、耐炎化繊維の耐熱性と構造の緻密性とが十分となる。そのため、炭化収率は向上する傾向にある
耐炎化繊維の密度が1.75g/cm3以下であることにより、耐炎化繊維の生産性は優れる。
【0092】
耐炎化繊維の平均繊維径は、特に限定されるものではないが、得られる炭素繊維の引張強度の観点からは、3nm~300μmであることが好ましく、30nm~150μmであることがより好ましく、1μm~60μmであることがさらに好ましく、2μm~30μmがよりさらに好ましく、3μm~20μmであることがより特に好ましく、4μm~15μmであることが最も好ましい。
【0093】
炭化収率の観点から、耐炎化繊維の平均繊維径は、炭素繊維前駆体繊維の平均繊維径に比べて、5%以上小さいことが好ましく、10%以上小さいことがより好ましく、15%以上小さいことがさらに好ましく、20%以上小さいことがよりさらに好ましく、25%以上小さいことが特に好ましく、30%以上小さいことが最も好ましい。
【0094】
(5)炭素繊維の製造方法
本開示の炭素繊維の製造方法は、耐炎化繊維の製造方法により耐炎化繊維を得る工程と、耐炎化繊維に炭化処理を施す工程(以下、「炭化処理工程」という。)を含む。これにより、炭素繊維が得られる。
【0095】
本開示において、「炭化処理」とは、炭素繊維前駆体繊維を炭化する処理を示し、詳しくは、低酸素雰囲気(好ましくは酸素を遮断した環境)下、炭素繊維前駆体繊維に加熱処理を施すことを示す。
【0096】
(5.1)耐炎化繊維を得る工程
耐炎化繊維を得る工程は、上記耐炎化繊維の製造方法として例示した方法と同様である。
【0097】
(5.2)炭化処理工程
(5.2.1)炭化処理
炭化処理としては、不活性ガス(窒素、アルゴン、ヘリウム等)雰囲気下、耐炎化繊維に対し、耐炎化処理における温度よりも高い温度で加熱処理を施す方法等が挙げられる。「炭化処理」は、一般的に、不活性ガス雰囲気下、2000~3000℃で加熱することによって行われる「黒鉛化」を含んでいてもよい。耐炎化繊維に炭化処理を施すことにより、耐炎化繊維が炭化し、炭素繊維が得られる。
炭化処理の加熱温度の下限は、500℃以上であることが好ましく、1000℃以上であることがより好ましく、1100℃以上であることがさらに好ましく、1200℃以上であることが特に好ましく、1300℃以上であることが最も好ましい。
炭化処理の加熱温度の上限は、3000℃以下が好ましく、2500℃以下がより好ましい。
炭化処理の加熱時間は、特に限定されるものではないが、30秒~60分間であることが好ましく、1分間~30分間であることがより好ましい。
なお、本開示において「炭化処理」には、一般的に、不活性ガス雰囲気下、2000℃~3000℃の温度で加熱することによって行われる「黒鉛化」を含んでいてもよい。
炭化処理は、複数回の加熱処理を含むものであってもよい。
炭化処理では、複数の加熱処理が行われてもよい。例えば、先に1000℃未満の温度で加熱処理(予備炭化処理)を行い、次いで1000℃以上の温度で加熱処理(炭化処理)を行い、さらに、2000℃以上の温度で加熱処理(黒鉛化処理)を行うことができる。
【0098】
(5.3)炭素繊維
炭素繊維の平均繊維径は、特に限定されるものではないが、引張強度の観点から、3nm~300μmであることが好ましく、30nm~150μmであることがより好ましく、1μm~60μmであることがさらに好ましく、3μm~20μmが特に好ましく、4μm~15μmであることがより一層好ましく、5μm~10μmであることが最も好ましい。
炭素繊維の平均繊維径が3nm以上であることにより、樹脂等をマトリックスとして複合材料を作製する場合に、マトリックスの粘度が高いと炭素繊維束中への樹脂等の含浸不足が生じにくく、複合材料の引張強度は向上する。
炭素繊維の平均繊維径が300μm以下であることにより、炭素繊維の引張強度は低下しにくい傾向にある。
【実施例】
【0099】
以下、上記実施形態を実施例により具体的に説明するが、上記実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0100】
<アクリルアミド系ポリマー繊維の単繊維の繊度>
本実施例において、アクリルアミド系ポリマー繊維の単繊維の繊度は、得られたアクリルアミド系ポリマー繊維100本を束ねて繊維束を作製し、この繊維束の質量を測定して、下記式により単繊維の繊度(tex)を算出した。
単繊維の繊度(tex)=繊維束の質量(g)/繊維長(m)×1000/100(本)
【0101】
<アクリルアミド系ポリマー繊維の平均繊維径>
本実施例において、アクリルアミド系ポリマー繊維の平均繊維径は、得られたアクリルアミド系ポリマー繊維100本を束ねて繊維束を作製し、乾式自動密度計(マイクロメリティックス社製「アキュピックII 1340」)を用いて繊維束の密度(g/cm3)を測定し、下記式により繊維束を構成する単繊維の平均繊維径(μm)を求めた。
D={(Dt×4×1000)/(ρ×π×n)}1/2
〔式中、
Dは繊維束を構成する単繊維の平均繊維径(μm)を表し、
Dtは繊維束の繊度(tex)を表し、
ρは繊維束の密度(g/cm3)を表し、
nは繊維束を構成する単繊維の本数(本)を表す。〕
【0102】
(実施例1)
アクリルアミド(AM)63モル%、アクリロニトリル(AN)35モル%及びアクリル酸(AA)2モル%からなるモノマー組成物を調製した。モノマー組成物100質量部と、テトラメチルエチレンジアミン4質量部とを、蒸留水567質量部に溶解し、水溶液を得た。
窒素雰囲気下、得られた水溶液を撹拌しながら、水溶液に過硫酸アンモニウム3質量部を添加して、70℃で150分間加熱した後、30分かけて90℃まで昇温し、90℃で1時間保持して、重合反応を行った。
得られた水溶液をメタノール中に滴下して、AM/AN/AA共重合体を析出させ、これを回収して100℃で12時間真空乾燥を行うことで、AM/AN/AA共重合体(AM/AN/AA=63モル%/35モル%/2モル%)を得た。
【0103】
得られたAM/AN/AA共重合体をイオン交換水に溶解して水溶液とした後、0.4tex/本、平均繊維径が約20μmとなるように乾式紡糸を行って、アクリルアミド系ポリマー繊維を得た。次いで、自己架橋性シリコーンオイル(信越化学工業社製の「X-22-164C」、自己架橋性基:メタクリル基)(温度:25℃)をアクリルアミド系ポリマー繊維の表面の全面に塗布して、単繊維を得た。得られた単繊維を800本束ねて、繊維束(800本/束)を得た。
【0104】
NHVコーポレーション社製の電子線照射装置「EBC800-35」を用い、搬送速度10m/分、送りテンション75g、巻き取りテンション400g、大気中で加速電圧800kV、電子線の線量1100kGyの条件で、連続式の電子線処理を繊維束に施した。これにより、炭素繊維前駆体繊維束を得た。
【0105】
(実施例2)
電子線処理の処理条件として、加速電圧を400kVに変更し、電子線の線量を300kGyに変更したことの他は、実施例1と同様にして、炭素繊維前駆体繊維束を得た。
【0106】
(比較例1)
繊維束に電子線処理を施さなかったことの他は、実施例1と同様にして、炭素繊維前駆体繊維束を得た。
【0107】
(比較例2)
アクリルアミド系ポリマー繊維に自己架橋性シリコーンオイルを塗布しなかったことの他は、実施例1と同様にして、炭素繊維前駆体繊維束を得た。
【0108】
(比較例3)
自己架橋性シリコーンオイルを非自己架橋性シリコーンオイルA(ポリジメチルシロキサン、自己架橋性基:なし、非自己架橋性基:なし)に変更したこと、繊維束に電子線処理を施さなかったことの他は、実施例1と同様にして、炭素繊維前駆体繊維束を得た。
【0109】
本開示において、非自己架橋性基とは、ポリジメチルシロキサンの側鎖及び末端の少なくとも一部のメチル基が置換された基であって、自己架橋性基ではない有機基を示す。
【0110】
(比較例4)
自己架橋性シリコーンオイルを非自己架橋性シリコーンオイルAに変更したことの他は、実施例1と同様にして、炭素繊維前駆体繊維束を得た。
【0111】
(比較例5)
自己架橋性シリコーンオイルを非自己架橋性シリコーンオイルB(信越化学工業株式会社製の「X-22-164C」、自己架橋性基:なし、非自己架橋性基:アミノ基)に変更したこと、及び繊維束に電子線処理を施さなかったことの他は、実施例1と同様にして、炭素繊維前駆体繊維束を得た。
【0112】
<<油剤付着量の測定>>
実施例1、2、比較例1~5で得られた炭素繊維前駆体繊維束の各々を一定量切り出して、試験片を得た。試験片を溶解せずシリコーンオイルを溶解する溶剤(例えば、テトラヒドロフラン)に浸漬した。溶剤から試験片を取出し、溶剤を減圧下完全に除去し残渣を得た。下記式より、炭素繊維前駆体繊維の各々の油剤付着量を算出した。
油剤付着量(質量部)=[残渣の質量(g)/油剤除去後の乾燥した試験片の質量(g)]×100
【0113】
(耐炎化処理)
空気雰囲気下、実施例1、2、比較例1~5で得られた炭素繊維前駆体繊維束に0.4mN/texの張力をかけながら、室温から350℃まで10℃/分で昇温した後、350℃で30分保持することで耐炎化処理を施した。これにより、耐炎化繊維束を得た。
【0114】
<<融着率の測定>>
耐炎化繊維束をカッターでカットし、その断面をデジタルマイクロスコープ(株式会社キーエンス社製、「デジタルマイクロスコープVHX-7000」)で観察した。
炭素繊維前駆体繊維束から予想される繊維径の繊維を単繊維、2本以上の単繊維が融着し予想される繊維径よりも太くなった繊維を融着繊維とし、観察した繊維の本数(単繊維換算で200本)に対して、融着繊維に含まれる単繊維の本数の割合の100分率を融着率とした。融着率の測定結果を表1に示す。融着率の許容できる範囲は、20%以下である。
【0115】
<<炭化収率の測定>>
耐炎化繊維束を窒素雰囲気下、室温から1000℃まで20℃/分で昇温し、炭素束を得た。炭素繊維束の質量を、炭化処理前の耐炎化繊維束の質量で除した値の100分率を炭化収率とした。炭化収率の測定結果を表1に示す。炭化収率の許容できる範囲は、70%以上である。
【0116】
【0117】
比較例1の炭素繊維前駆体繊維は、アクリルアミド系ポリマー繊維と、自己架橋性シリコーンオイルの未架橋物とを備える。
比較例2の炭素繊維前駆体繊維は、電子線処理が施されたアクリルアミド系ポリマー繊維を備える。
比較例3の炭素繊維前駆体繊維は、アクリルアミド系ポリマー繊維と、電子線処理が施されていない非自己架橋性シリコーンオイルAの塗布膜とを備える。
比較例4の炭素繊維前駆体繊維は、アクリルアミド系ポリマー繊維と、電子線処理が施された非自己架橋性シリコーンオイルAの塗布膜とを備える。
比較例5の炭素繊維前駆体繊維は、アクリルアミド系ポリマー繊維と、非自己架橋性シリコーンオイルBの塗布膜とを備える。
しかしながら、比較例1~比較例5の炭素繊維前駆体繊維は、自己架橋性シリコーンオイルの自己架橋物を備えていなかった。そのため、比較例1~比較例5では、融着率は20%超で、炭化収率は70%未満であった。これらの結果から、比較例1~比較例5の炭素繊維前駆体繊維は、高い炭化収率を維持しつつ、耐炎化処理において単繊維同士の融着を抑制することができないことがわかった。
【0118】
比較例1及び比較例2の測定結果から、自己架橋性シリコーンオイルが塗布されたアクリルアミド系ポリマー繊維に電子線処理を施さない場合、又は自己架橋性シリコーンオイルが塗布されていないアクリルアミド系ポリマー繊維に電子線処理を施した場合、融着率は30%以上であり、融着率を十分に低減できなかった。
比較例4の測定結果から、非自己架橋性シリコーンオイルが塗布されたアクリルアミド系ポリマー繊維に電子線処理を施した場合、融着率は26%以上であり、十分な単繊維は得られなかった。
比較例3及び比較例5の測定結果から、非自己架橋性シリコーンオイルが塗布されたアクリルアミド系ポリマー繊維に電子線処理が施されていない場合、融着率は78%以上であり、十分な単繊維は得られなかった。
【0119】
実施例1及び実施例2の炭素繊維前駆体繊維は、アクリルアミド系ポリマー繊維と、自己架橋性シリコーンオイルの自己架橋物とを備える。そのため、実施例1及び実施例2では、融着率は20%以下で、炭化収率は70%以上であった。これらの結果から、実施例1及び実施例2の炭素繊維前駆体繊維は、高い炭化収率を維持しつつ、耐炎化処理において単繊維同士の融着を抑制することができることがわかった。