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特許7673062降伏比が向上したオーステナイト系ステンレス鋼及びその製造方法
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  • 特許-降伏比が向上したオーステナイト系ステンレス鋼及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-25
(45)【発行日】2025-05-08
(54)【発明の名称】降伏比が向上したオーステナイト系ステンレス鋼及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20250428BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20250428BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20250428BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C21D9/46 Q
C22C38/00 302A
C22C38/58
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022525254
(86)(22)【出願日】2020-07-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-11
(86)【国際出願番号】 KR2020008950
(87)【国際公開番号】W WO2021085800
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-04-28
【審判番号】
【審判請求日】2024-02-19
(31)【優先権主張番号】10-2019-0135211
(32)【優先日】2019-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ソン,ソクウォン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ハク
(72)【発明者】
【氏名】パク,ミ‐ナム
【合議体】
【審判長】粟野 正明
【審判官】佐藤 陽一
【審判官】池渕 立
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第3556892(EP,A1)
【文献】特公昭50-5968(JP,B1)
【文献】特公昭50-5971(JP,B1)
【文献】特表2015-508453(JP,A)
【文献】特開平06-179946(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0018908(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
C21D 8/00 - 8/04
C21D 9/46 - 9/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.1%以下(0は除く)、N:0.2%以下(0は除く)、Si:1.5~2.5%、Mn:6.0~10.0%、Cr:15.0~17.0%、Ni:0.3%以下(0は除く)、Cu:2.0~3.0%を含み、残りは、Fe及び不可避な不純物からなり、
下記式(1)及び式(2)を満たし、降伏比が0.6以上であることを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼。
式(1):3.2≦5.53+1.4Ni-0.16Cr+17.1(C+N)+0.722Mn+1.4Cu-5.59Si≦7
式(2):551-462(C+N)-9.2Si-8.1Mn-13.7Cr-29(Ni+Cu)≦110
(ここで、C、N、Si、Mn、Cr、Ni、Cuは、各元素の含量(重量%)を意味する。)
【請求項2】
下記式(3)を満たすことを特徴とする請求項1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
式(3):[4.4+23(C+N)+1.3Si+0.24(Cr+Ni+Cu)+0.1*Mn]+0.16*[((Cr+1.5Si+18)/(Ni+0.52Cu+30(C+N)+0.5Mn+36)+0.262)*161-161]≧17
(ここで、C、N、Si、Mn、Cr、Ni、Cuは、各元素の含量(重量%)を意味する。)
【請求項3】
降伏強度が600MPa以上であることを特徴とする請求項1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項4】
延伸率が35%以上であることを特徴とする請求項1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項5】
重量%で、C:0.1%以下(0は除く)、N:0.2%以下(0は除く)、Si:1.5~2.5%、Mn:6.0~10.0%、Cr:15.0~17.0%、Ni:0.3%以下(0は除く)、Cu:2.0~3.0%を含み、残りは、Fe及び不可避な不純物からなり、下記式(1)及び式(2)を満たすスラブを製造する段階と、
前記スラブを1,100~1,300℃で熱間圧延する段階と、
前記熱間圧延が行われた鋼板を1,000~1,100℃で10秒~10分間熱延焼鈍する段階と、
熱延鋼板を冷間圧延する段階と、
前記冷間圧延が行われた鋼板を1,050℃以上で冷延焼鈍する段階と、を含み、降伏比が0.6以上であることを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法。
式(1):3.2≦5.53+1.4Ni-0.16Cr+17.1(C+N)+0.722Mn+1.4Cu-5.59Si≦7
式(2):551-462(C+N)-9.2Si-8.1Mn-13.7Cr-29
(Ni+Cu)≦110
(ここで、C、N、Si、Mn、Cr、Ni、Cuは、各元素の含量(重量%)を意味する。)
【請求項6】
前記スラブは、下記式(3)を満たすことを特徴とする請求項5に記載のオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法。
式(3):[4.4+23(C+N)+1.3Si+0.24(Cr+Ni+Cu)+0.1*Mn]+0.16*[((Cr+1.5Si+18)/(Ni+0.52Cu+30(C+N)+0.5Mn+36)+0.262)*161-161]≧17
(ここで、C、N、Si、Mn、Cr、Ni、Cuは、各元素の含量(重量%)を意味する。)
【請求項7】
前記冷延焼鈍は、10秒~10分間行われることを特徴とする請求項5に記載のオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーステナイト系ステンレス鋼及びその製造方法に係り、より詳しくは、1,050℃以上の温度条件で最終焼鈍を行っても降伏比を確保できるオーステナイト系ステンレス鋼に関する。
【背景技術】
【0002】
最近の環境規制により、エネルギー効率を向上させるために自動車、鉄道などの構造部材に適した構造用鋼材の軽量化及び高強度化だけでなく、乗客の安全のための安全法規に対応するために構造用部材の安定性、衝突特性及び耐久性の向上が求められている。これとともに構造用材料の生産形態は、消費者のニーズ及び時代の流れに合わせて過去の小品種大量生産システムから多品種少量生産システムに変化した。
ステンレス鋼(Stainless Steel)は、強度及び成形性を確保することにより、環境規制及びエネルギー効率の問題に対する代案を提示できるだけでなく、耐食性向上のための別途の設備投資を必要としないので、多品種少量生産システムに適した素材である。特に、オーステナイト系ステンレス鋼の場合、延伸率に優れており、複雑な形状を作製するときにも問題がなく、外観が美麗であるので、成形が必要な分野に適用が可能である。
【0003】
ただし、オーステナイト系ステンレス鋼は、一般に構造用炭素鋼に比べて降伏強度及び降伏比に劣るという問題がある。また、オーステナイト系ステンレス鋼の場合、マルテンサイト変態により降伏強度は低く、引張強度は高いので、相対的に降伏比が低い。
低い降伏比は、構造用ステンレス鋼の衝突特性と耐久性を劣位させ、作製時に金型の寿命を短縮させるだけでなく、塑性不均一を引き起こすという問題がある。したがって、炭素鋼水準の降伏強度と高い降伏比を確保できるステンレス鋼の開発が求められていた。
【0004】
一方、オーステナイト系ステンレス鋼の場合、一般的な構造用炭素鋼に比べて鋼材を構成している合金成分が高価である。特に、オーステナイト系ステンレス鋼に含まれるNiは、高い素材価格により価格競争力の側面での問題があり、素材価格の極端な変動により原料需給が不安定であるだけでなく、供給価格の安定性の確保が困難であるため、自動車などの構造部材として適用するのに制約があった。
したがって、高価な合金元素であるNiの含量を低減するとともに、降伏強度及び延伸率を確保しながらも降伏比が向上し、自動車などの構造部材に適用可能なオーステナイト系ステンレス鋼の開発が求められる。
【0005】
このような問題点を解決するための方法として、特許文献1の発明が提案されている。特許文献1には、Al-Siメッキを実施した鋼板を850℃以上に加熱後、熱間プレス成形して、素材の組織をマルテンサイトで形成させるが、アルミニウムメッキ層が鋼板の表面に存在するので、加熱時に鋼板が酸化しない。アルミニウムメッキ鋼板を活用して熱間プレス成形時に、1,000MPa以上の超高強度製品を容易に得ることができるだけでなく、寸法精密度も非常に優れた成形製品を確保できるので、自動車軽量化や剛性の改善に非常に効果的な部品成形法として注目されている。
しかしながら、最近、アルミニウムメッキ鋼板を活用した熱間プレス成形法は、成形工程および以後に他部材間の接合/溶接工程時にいくつかの問題点が浮上している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的とするところは、降伏強度及び延伸率を確保するとともに、降伏比が向上したオーステナイト系ステンレス鋼を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の降伏比が向上したオーステナイト系ステンレス鋼は、重量%で、C:0.1%以下(0は除く)、N:0.2%以下(0は除く)、Si:1.5~2.5%、Mn:6.0~10.0%、Cr:15.0~17.0%、Ni:0.3%以下(0は除く)、Cu:2.0~3.0%を含み、残りは、Fe及び不可避な不純物からなり、下記式(1)及び式(2)を満たすことを特徴とする。
式(1):3.2≦5.53+1.4Ni-0.16Cr+17.1(C+N)+0.722Mn+1.4Cu-5.59Si≦7
式(2):551-462(C+N)-9.2Si-8.1Mn-13.7Cr-29(Ni+Cu)≦110
ここで、C、N、Si、Mn、Cr、Ni、Cuは、各元素の含量(重量%)を意味する。
【0008】
また、本発明の一実施例によれば、下記式(3)を満たすことができる。
式(3):[4.4+23(C+N)+1.3Si+0.24(Cr+Ni+Cu)+0.1*Mn]+0.16*[((Cr+1.5Si+18)/(Ni+0.52Cu+30(C+N)+0.5Mn+36)+0.262)*161-161]≧17
ここで、C、N、Si、Mn、Cr、Ni、Cuは、各元素の含量(重量%)を意味する.
【0009】
本発明の一実施例によれば、降伏比は、0.6以上であることがよい。
本発明の一実施例によれば、降伏強度は、600MPa以上であることができる。
本発明の一実施例によれば、延伸率は、35%以上でることが好ましい。
【0010】
本発明の他の一実施例による降伏比が向上したオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法は、重量%で、C:0.1%以下(0は除く)、N:0.2%以下(0は除く)、Si:1.5~2.5%、Mn:6.0~10.0%、Cr:15.0~17.0%、Ni:0.3%以下(0は除く)、Cu:2.0~3.0%を含み、残りは、Fe及び不可避な不純物からなり、下記式(1)及び式(2)を満たすスラブを製造する段階、前記スラブを熱間圧延する段階、前記熱間圧延が行われた鋼板を熱延焼鈍する段階、熱延鋼板を冷間圧延する段階、及び前記冷間圧延が行われた鋼板を1,050℃以上で冷延焼鈍する段階を含むことを特徴とする。
式(1):3.2≦5.53+1.4Ni-0.16Cr+17.1(C+N)+0.722Mn+1.4Cu-5.59Si≦7
式(2):551-462(C+N)-9.2Si-8.1Mn-13.7Cr-29(Ni+Cu)≦110
ここで、C、N、Si、Mn、Cr、Ni、Cuは、各元素の含量(重量%)を意味する。
【0011】
また、本発明の一実施例によれば、前記スラブは、下記式(3)を満たすことができる。
式(3):[4.4+23(C+N)+1.3Si+0.24(Cr+Ni+Cu)+0.1*Mn]+0.16*[((Cr+1.5Si+18)/(Ni+0.52Cu+30(C+N)+0.5Mn+36)+0.262)*161-161]≧17
ここで、C、N、Si、Mn、Cr、Ni、Cuは、各元素の含量(重量%)を意味する。
【0012】
本発明の一実施例によれば、前記冷延焼鈍は、10秒~10分間行われることがよい。
本発明の一実施例によれば、前記熱間圧延は、1,100~1,300℃で行うことができる。
本発明の一実施例によれば、前記熱延焼鈍は、1,000~1,100℃で10秒~10分間行われることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の実施例によれば、延伸率及び降伏強度を確保するとともに降伏比が向上した低コストのオーステナイト系ステンレス鋼を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の式(1)の値と式(2)の値の関係を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施例による降伏比が向上したオーステナイト系ステンレス鋼は、重量%で、C:0.1%以下(0は除く)、N:0.2%以下(0は除く)、Si:1.5~2.5%、Mn:6.0~10.0%、Cr:15.0~17.0%、Ni:0.3%以下(0は除く)、Cu:2.0~3.0%を含み、残りは、Fe及び不可避な不純物からなり、下記式(1)及び式(2)を満たす。
式(1):3.2≦5.53+1.4Ni-0.16Cr+17.1(C+N)+0.722Mn+1.4Cu-5.59Si≦7
式(2):551-462(C+N)-9.2Si-8.1Mn-13.7Cr-29(Ni+Cu)≦110
ここで、C、N、Si、Mn、Cr、Ni、Cuは、各元素の含量(重量%)を意味する。
【0016】
以下、本発明の実施例を添付図面を参照し、詳細に説明する。以下の実施例は、本発明の属する技術分野において、通常の知識を有する者に本発明の思想を十分に伝達するために提示するものである。本発明は、ここで提示した実施例に限定されず、他の形態で具体化されてもよい。図面は、本発明を明確にするために説明と関係のない部分の図示を省略し、理解を助けるために構成要素のサイズを多少誇張して表現することができる。
明細書全体において、ある部分がある構成要素を「含む」としたとき、これは、特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除外するのではなく、他の構成要素をさらに含み得ることを意味する。
単数の表現は、文脈上明らかに例外がない限り、複数の表現を含む。
以下、本発明による実施例を添付の図面を参照し、詳細に説明する。
【0017】
本発明の一側面による降伏比が向上したオーステナイト系ステンレス鋼は、重量%で、C:0.1%以下(0は除く)、N:0.2%以下(0は除く)、Si:1.5~2.5%、Mn:6.0~10.0%、Cr:15.0~17.0%、Ni:0.3%以下(0は除く)、Cu:2.0~3.0%を含み、残りは、Fe及び不可避な不純物からなる。
以下、本発明の実施例における含金成分含量の数値限定理由について説明する。以下では、特に言及のない限り、単位は、重量%である。
【0018】
Cの含量は、0.1%以下(0は除く)である。
炭素(C)は、オーステナイト相の安定化に効果的な元素であり、オーステナイト系ステンレス鋼の降伏強度を確保するために添加する。ただし、その含量が過剰である場合、固溶強化効果により冷間加工性を低下させるだけでなく、Cr炭化物の粒界析出を誘導して延性、靭性、耐食性などに悪影響を及ぼす虞があるので、その上限を0.1%に限定する。
【0019】
Nの含量は、0.2%以下(0は除く)である。
窒素(N)は、強力なオーステナイト安定化元素であり、オーステナイト系ステンレス鋼の耐食性及び降伏強度の向上に効果的な元素である。ただし、その含量が過剰である場合、固溶強化効果により冷間加工性を低下させる虞があるので、その上限を0.2%に限定する。
【0020】
Siの含量は1.5~2.5%である。
シリコーン(Si)は、製鋼工程中において脱酸剤の役割を果たすとともに、耐食性を向上させるのに効果的な元素であり、1.5%以上添加することが好ましい。しかし、Siは、フェライト相の安定化に効果的な元素として過剰添加時、鋳造スラブ内のデルタ(δ)フェライトの形成を助長して熱間加工性を低下させるだけでなく、固溶強化効果による鋼材の延性/靭性を低下させる虞があるので、その上限を2.5%に限定する。
【0021】
Mnの含量は、6.0~10.0%である。
マンガン(Mn)は、本発明においてニッケル(Ni)の代わりに添加されるオーステナイト相の安定化元素であり、加工誘起マルテンサイトの生成を抑制して冷間圧延性を向上させるために6.0%以上添加することがよい。ただし、その含量が過剰である場合、S系介在物(MnS)を過量形成してオーステナイト系ステンレス鋼の延性、靭性及び耐食性を低下させる虞があり、製鋼工程中にMnヒュームを発生させて製造上の危険性を伴うため、その上限を10.0%に限定する。
【0022】
Crの含量は、15.0~17.0%である。
クロム(Cr)は、フェライト安定化元素であるが、マルテンサイト相の生成抑制において効果的であり、ステンレス鋼に求められる耐食性を確保する基本元素であって15%以上添加することがよい。ただし、その含量が過剰である場合、製造コストが上昇し、スラブ内のデルタ(δ)フェライトを形成して熱間加工性の低下を招く虞があるため、その上限を17.0%に限定する。
【0023】
Niの含量は、0.3%以下(0は除く)である。
ニッケル(Ni)は、強力なオーステナイト相の安定化元素であり、良好な熱間加工性及び冷間加工性を確保するために、必須の元素である。しかし、Niは、高価な元素であるため、多量の添加時に原料コストの上昇を招く。そこで、鋼材のコスト及び効率性をすべて考慮し、その上限を0.3%に限定する。
【0024】
Cuの含量は、2.0~3.0%である。
銅(Cu)は、本発明においてニッケル(Ni)の代わりに添加されるオーステナイト相の安定化元素であり、還元環境における耐食性を向上させるために2.0%以上添加することがよい。ただし、その含量が過剰である場合、素材コストの上昇だけでなく、液状化及び低温脆性の問題がある。そこで、鋼材のコスト、効率性及び材質の特性を考慮し、その上限を3.0%に限定する。
【0025】
本発明の一実施例による強度が向上したオーステナイト系ステンレス鋼は、P:0.035%以下及びS:0.01%以下のうち1種以上をさらに含むことができる。
【0026】
Pの含量は、0.035%以下である。
リン(P)は、鋼中に不可避に含有される不純物であり、粒界腐食を起こすか、または熱間加工性を阻害する主な原因となる元素であるため、その含量をできるだけ低く制御することが好ましい。本発明では、前記P含量の上限を0.035%以下に管理する。
【0027】
Sの含量は、0.01%以下である。
硫黄(S)は、鋼中に不可避に含有される不純物であり、結晶粒界に偏析される熱間加工性を阻害する主な原因となる元素であるため、その含量をできるだけ低く制御することが好ましい。本発明では、前記S含量の上限を0.01%以下に管理する。
【0028】
本発明の残りの成分は、鉄(Fe)である。ただし、通常の製造過程では、原料または周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入されることがあるので、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の製造過程の技術者であれば誰でも知ることができるので、そのすべての内容を特に本明細書で言及しない。
【0029】
近年、構造用鋼材の軽量化だけでなく、安定性が主たる問題となっている。これにより、自動車部材、各種構造物部材及び荷重が付与される環境で使用される鋼材は、優れた強度だけでなく、高い降伏比が求められる。
降伏比は、降伏強度(Yield Strength)を引張強度(Tensile Strength)で割った値であり、作製と使用の側面から構造用鋼材として重要な物性値である。オーステナイト系ステンレス鋼は、一般的に降伏比が極端に低いという特性を有している。降伏比が低い場合、部品の形状を変更しなければならないなど、構造部材として使用するための制約事項が存在する。
【0030】
構造部材において、実際の荷重を支持するために求められる主な物性は、降伏強度である。荷重が構造部材の降伏強度を超える場合、構造部材の歪みが発生し、これにより応力ムラが発生し、極端な場合には構造部材の破壊が起こるという問題点がある。すなわち、構造部材の素材において、高い降伏強度は、構造材の安定性とユーザの信頼を確保するための必須要素である。
一方、引張強度が上昇することにより、素材の変形に大量のエネルギーを投入しなければならず、作製装置の寿命短縮を誘発するという問題がある。したがって、構造部材の安定した荷重支持とともに産業的な側面を考慮する場合、降伏比を向上させることが重要である。
また、オスナイト系ステンレス鋼の価格競争力を確保するためには、Niなどの高価なオスナイト安定化元素の含量を減らさなければならず、これを補償できるMn、N、Cu添加量を予測することが求められる。
【0031】
しかし、このように価格競争力を確保するためにNiを低減し、Mn、N、Cuなどを添加する場合には、加工硬化が急激に発生して降伏比を低下させるという問題がある。オーステナイト系ステンレス鋼の降伏比が低くなる場合には、製品の作製時、変形による急激な強度上昇により、成形具及び枠の寿命が短縮されるという問題がある。
これを解決するため、本発明では、Si、Nなどを添加し、Mn、Ni及びN間の成分関係式を調節することにより変形挙動を制御し、オーステナイト系ステンレス鋼の降伏比を向上させるため、下記式(1)を導き出した。
式(1):5.53+1.4Ni-0.16Cr+17.1(C+N)+0.722Mn+1.4Cu-5.59Si
ここで、C、N、Si、Mn、Cr、Ni、Cuは、各元素の含量(重量%)を意味する。
【0032】
本発明の一実施例による降伏比が向上したオーステナイト系ステンレス鋼は、前記式(1)で表される値が3.2以上7以下の範囲を満たす。
本発明者らは、式(1)の値が低いほど、外部応力によるオーステナイト相のクロススリップの発現が困難になることを確認した。具体的には、式(1)の値が3.2未満の場合、オーステナイト系ステンレス鋼は、変形に対してプラナー(planar)スリップ挙動のみを示し、外部応力による電位の蓄積が進行し、塑性不均一及び高い加工硬化を示す。これにより、オーステナイト系ステンレス鋼の延伸率及び降伏比が減少する問題があり、式(1)の値の下限を3.2に限定する。
一方、式(1)の値が高すぎると、クロススリップが頻繁に発現し、鋼材の脆弱部分に応力が集中する塑性不均一の発生が増加するという問題がある。このような脆性と塑性不均一は、鋼材の強度が高いほどその影響力が大きくなるところ、鋼材の延伸率を確保できないという問題があり、式(1)の上限を7に限定する。
また、本発明では、オーステナイト系ステンレス鋼の変形により発生する相変態を考慮し、下記式(2)を導き出した。
式(2):551-462(C+N)-9.2Si-8.1Mn-13.7Cr-29(Ni+Cu)
ここで、C、N、Si、Mn、Cr、Ni、Cuは、各元素の含量(重量%)を意味する。
【0033】
本発明の一実施例による降伏比が向上したオーステナイト系ステンレス鋼は、前記式(2)で表される値が110以下の範囲を満たす。
本発明者らは、式(2)の値が高いほど、外部の応力によってオーステナイト相がマルテンサイトに容易に変態することを確認した。具体的には、式(2)の値が110超過の場合、外部変形によりオーステナイト系ステンレス鋼は、急激な変形誘起マルテンサイト変態挙動を示し、塑性不均一が発生した。これにより、オーステナイト系ステンレス鋼の延伸率及び降伏比が減少するという問題があり、式(2)の値の上限を110に限定する。
【0034】
また、本発明では、オーステナイト系ステンレス鋼の降伏強度を確保するため、鋼材のストレスフィールドによる降伏強度影響を考慮して下記式(3)を導き出し、更に、オーステナイト系ステンレス鋼の残留フェライト含量を示す下記式(4)を導き出した。
式(3):4.4+23(C+N)+1.3Si+0.24(Cr+Ni+Cu)+0.1*Mn
式(4):((Cr+1.5Si+18)/(Ni+0.52Cu+30(C+N)+0.5Mn+36)+0.262)*161-161
ここで、C、N、Si、Mn、Cr、Ni、Cuは、各元素の含量(重量%)を意味する。
式(3)の値が高いほど、合金における元素間原子のサイズの差による格子間のストレスフィールドが増加し、外部応力に抗して塑性変形に耐える限界値が増加する。
式(4)は、高温におけるフェライト相の安定度を示すものであり、式(4)の値が高いほど高温で生成されるフェライト量が増加し、これにより常温で残留するフェライト分率が増加する。このため、オーステナイト系ステンレス鋼の降伏強度を向上させることができる。
【0035】
本願発明では、オーステナイト系ステンレス鋼の降伏強度を確保するため、ストレスフィールドによる降伏強度の影響とフェライト分率を同時に考慮し、前記式(3)と式(4)の関係を定め、下記式(5)を導き出した。
式(5):[4.4+23(C+N)+1.3Si+0.24(Cr+Ni+Cu)+0.1*Mn]+0.16*[((Cr+1.5Si+18)/(Ni+0.52Cu+30(C+N)+0.5Mn+36)+0.262)*161-161]
ここで、C、N、Si、Mn、Cr、Ni、Cuは、各元素の含量(重量%)を意味する。
前記式(5)において、0.16は、ストレスフィールドによる降伏強度の影響がより大きく作用したことを考慮した加重値である。当該加重値は、現在、商用化された素材と開発中の素材から実験的に導き出された定数である。
【0036】
本発明の一実施例による降伏比が向上したオーステナイト系ステンレス鋼は、前記式(5)で表される値が17以上の範囲を満たす。式(5)の値が17未満の場合、オーステナイト系ステンレス鋼の降伏強度を600MPa以上に確保できないという問題がある。
前記合金元素の組成範囲及び関係式を満たす本発明によるオーステナイト系ステンレス鋼は、0.6以上の降伏比(降伏強度/引張強度)、600MPa以上の降伏強度を確保できるだけでなく、35%以上の延伸率を確保できる。
上記のとおり、オーステナイト系ステンレス鋼であるにもかかわらず、高い降伏強度と降伏比を導き出すことができる。これにより、オーステナイト系ステンレス鋼の成形及び構造部材の作製が容易であるだけでなく、作製された構造部材の安定性とユーザの信頼を確保できる。
次に、本発明の他の一側面による強度が向上したオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法について説明する。
【0037】
本発明の一実施例による降伏比が向上したオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法は、重量%で、C:0.1%以下(0は除く)、N:0.2%以下(0は除く)、Si:1.5~2.5%、Mn:6.0~10.0%、Cr:15.0~17.0%、Ni:0.3%以下(0は除く)、Cu:2.0~3.0%を含み、残りは、Fe及び不可避な不純物からなり、下記式(1)及び式(2)を満たすスラブを製造する段階、前記スラブを熱間圧延する段階、前記熱間圧延が行われた鋼板を熱延焼鈍する段階、熱延鋼板を冷間圧延する段階、及び前記冷間圧延が行われた鋼板を1,050℃以上で冷延焼鈍する段階を含む。
合金元素含量の数値限定理由に対する説明は、上記のとおりである。
前記組成を含むステンレス鋼を連続鋳造または鋼塊鋳造により鋳片に作製し、一連の熱間圧延、熱延焼鈍を行った後、冷間圧延及び冷延焼鈍を行って最終製品を形成することができる。
【0038】
従来は、オーステナイト系ステンレス鋼の強度を向上させるための方法として調質圧延(skin pass rolling)を導入した。調質圧延は、冷間変形中にオーステナイト相が加工誘起マルテンサイトに変態することにより、高い加工硬化が現れる現象を用いるか、または鋼材の電位の蓄積を用いる方法である。しかし、このように調質圧延が適用されたオーステナイト系ステンレス鋼は、延伸率が急激に低下して後続加工が困難になり、表面欠陥が発生するという短所がある。
また、調質圧延を容易に行うために、一般に電位の蓄積と相変態が容易な合金成分系を活用することになるが、このとき、加工硬化は高く、降伏比は低く導き出されて鋼材の塑性不均一を誘発するという問題がある。
【0039】
一方、従来は、オーステナイト系ステンレス鋼の降伏強度を向上させるための方法として1,000℃以下の低温で最終の冷延焼鈍を行っていた。低温焼鈍は、再結晶を完了させずに冷間圧延中に素材に蓄積されたエネルギーを用いる方法である。しかし、このように低温焼鈍が適用されたオーステナイト系ステンレス鋼は、材質分布が不均一で、後続工程である酸洗工程において酸洗効果が十分に確保できないだけでなく、表面の形状が美麗でないという短所がある。
【0040】
本発明は、上記の調質圧延と低温焼鈍の短所を解決するための方法として、1,050℃以上の高温で冷延焼鈍してもオーステナイト系ステンレス鋼の降伏比を確保することを試みた。
例えば、スラブは、通常の圧延温度である1,100~1,300℃の温度で熱間圧延することがよく、熱延鋼板は、1,000~1,100℃の温度範囲で熱延焼鈍されることがよい。このとき、熱延焼鈍は、10秒~10分間行われることが好ましい。
以後、熱延鋼板を冷間圧延して薄物として製造することができる。
【0041】
本発明では、冷間圧延後、1,050℃以上の比較的高い温度で冷延焼鈍熱処理することにより、600Mpa以上の降伏強度、0.6以上の降伏比、35%以上の延伸率を確保することを試みた。
冷延焼鈍は、1,050℃以上の温度で行うことができる。また、本発明の一実施例による冷延焼鈍は、1,050℃以上の温度で10秒~10分間行うことがよい。
このように、合金成分及び成分関係式を制御する場合、追加的な調質圧延又は低温焼鈍を行わずに、一般的な冷間圧延及び冷延焼鈍を経て、最終冷延焼鈍材でも優れた降伏強度及び降伏比を確保できるので、価格競争力を確保できる。
本発明による強度が向上したオーステナイト系ステンレス鋼は、例えば、成形用の一般製品に使用されてもよく、スラブ(slab)、ブルーム(bloom)、ビレット(billet)、コイル(coil)、ストリップ(strip)、プレート(plate)、シート(sheet)、バー(bar)、ロッド(rod)、ワイヤ(wire)、形鋼(shape steel)、パイプ(pipe)、チューブ(tube)などの製品として製造されて用いられることができる。
【0042】
以下、実施例を通じて本発明をより詳細に説明する。
下記表1に示す多様な合金成分の範囲について、インゴット(Ingot)溶解を通じてスラブを製造し、1,250℃で2時間加熱した後、熱間圧延を行い、熱間圧延後1,100℃で90秒間熱延焼鈍を行った。以後、70%の圧下率で冷間圧延を行い、冷間圧延後、1,100℃で冷延焼鈍を行った。
各実験鋼種に対する合金組成(重量%)と式(1)の値、式(2)の値、式(3)の値、式(4)の値及び式(5)の値を下記表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
前記組成のように冷間圧延された素材に対し、1,100℃で10秒間冷延焼鈍を行った後、冷延焼鈍材の延伸率、降伏強度、引張強度及び降伏比を測定した。具体的には、常温引張り試験は、ASTM規格に基づいて行われ、それによって測定された降伏強度(Yield Strength、MPa)、引張強度(Tensile Strength、MPa)、延伸率(Elongation、%)及び降伏比(Yield Ratio)を下記表2に記載した。
【0045】
【表2】
【0046】
図1は、本発明の式(1)の値と式(2)の値の関係を説明するためのグラフである。図1に示したとおり、式(1)及び式(2)の範囲を満たすが、比較例として表記しているのは、式(5)の値が17に達しない比較例8に該当する。
表2に示したとおり、本発明が提示する合金組成と式(1)の値、式(2)の値及び式(5)の値の範囲を満たす実施例1~3の場合、600MPa以上の降伏強度、0.6以上の降伏比の確保が可能であるだけでなく、35%以上の優れた延伸率を確保できることを確認した。また、高価なオスナイト安定化元素であるNi含量を下げることができ、オーステナイト系ステンレス鋼の価格競争力を確保できる。
【0047】
比較例1及び2は、商用的に生産される規格オーステナイト系ステンレス鋼であるが、本発明で提案する合金成分の範囲から、特に7%以上のNiが添加されており、価格競争力を確保できないだけでなく、式(5)の値が17に達せず、目標とする600MPa以上の降伏強度を確保できなかった。
比較例3は、本発明で提案する式(1)、式(2)、式(5)の範囲を全て満たすことができず、低い降伏強度と急激な加工硬化による低い降伏比が導き出されたことが確認できる。
【0048】
比較例4は、式(1)の値が2.87で3.2に達しない場合であり、式(2)の値が110以下を満たして変形途中に急激なマルテンサイト変態が発生せず、式(5)の値が17以上を満たして非常に優れた降伏強度を確保できるが、式(1)の値が低く、外部応力による電位の蓄積が進み、これに伴い引張強度が急激に増加し、0.6以上の降伏比を確保できなかった。
比較例5は、式(1)の値が8.99で7を超える場合であり、塑性不均一が大きく発生して延伸率が非常に低いことが確認できる。
比較例6及び比較例7は、式(2)の値がそれぞれ113.0、165.4で110を超える場合であり、変形によるマルテンサイト相変態が急激に発生して引張強度が急激に増加し、0.6以上の降伏比を確保できなかった。特に比較例6は、本発明が提案した合金組成に属し、式(1)及び式(5)の範囲を満たすが、式(2)を満たしておらず、引張強度が急激に増加することにより、降伏比が0.28と低く導き出された。
【0049】
比較例8は、本発明が提案した合金組成に属する鋼種で、式(1)及び式(2)の範囲を満たし、変形による加工硬化の制御により降伏比は、0.6以上確保できたが、式(5)の値が17に達せず、目標とする600MPa以上の降伏強度を確保できなかった。
このように、開示された実施例によれば、合金成分と関係式を制御することにより、0.6以上の降伏比、600MPa以上の降伏強度、35%以上の延伸率を確保したオーステナイト系ステンレス鋼を製造することができる。
【0050】
以上、本発明の例示的な実施例を説明したが、本発明はこれに限定されず、当該技術分野において通常の知識を有する者であれば、以下に記載する特許請求の範囲の概念と範囲から逸脱しない範囲内で様々な変更及び変形が可能であることが理解できるであろう。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によるオーステナイト系ステンレス鋼は、降伏強度及び延伸率を確保するとともに降伏比を向上させることができるので、自動車などの構造部材に適用が可能である。
図1