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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-25
(45)【発行日】2025-05-08
(54)【発明の名称】正浸透膜モジュール、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 61/00 20060101AFI20250428BHJP
   B01D 63/02 20060101ALI20250428BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20250428BHJP
   B01D 69/08 20060101ALI20250428BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20250428BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20250428BHJP
   B01D 71/56 20060101ALI20250428BHJP
   B01D 71/68 20060101ALI20250428BHJP
【FI】
B01D61/00 500
B01D63/02
B01D69/00
B01D69/08
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/56
B01D71/68
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2023531767
(86)(22)【出願日】2022-06-13
(86)【国際出願番号】 JP2022023659
(87)【国際公開番号】W WO2023276642
(87)【国際公開日】2023-01-05
【審査請求日】2023-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2021106841
(32)【優先日】2021-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】堀田 大輔
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/241860(WO,A1)
【文献】特開2019-115897(JP,A)
【文献】特開2005-329127(JP,A)
【文献】特開2011-194272(JP,A)
【文献】国際公開第2016/027869(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D53/22、61/00-71/82
C02F1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
(I)多孔質支持体を有する中空糸支持膜を複数本用いて、前記中空糸支持膜の表面に分離機能層を設けて、中空糸状正浸透膜を備える中空糸状正浸透膜モジュールを作製する、分離機能層形成工程と、
(II)前記中空糸状正浸透膜モジュールにおいて、少なくとも前記分離機能層形成表面側に液体を封入して保持する、液体封入工程と、
(III)前記中空糸状正浸透膜モジュールおよび前記液体を50℃以上に昇温する、加熱処理工程と、
を含み、
前記液体封入工程(II)において、前記正浸透膜モジュールが前記液体に浸漬されており、かつ
前記液体封入工程(II)において、前記液体が水である、正浸透膜モジュールの製造方法。
【請求項2】
前記正浸透膜モジュールの膜面積が、0.1m以上である、請求項に記載の正浸透膜モジュールの製造方法。
【請求項3】
前記分離機能層形成工程(I)において、前記中空糸支持膜は、前記多孔質支持体と前記分離機能層との界面から深さ方向に1.0μmまでの位置に緻密層を有し、前記緻密層の空隙率が40%以下である、請求項1又は2に記載の正浸透膜モジュールの製造方法。
【請求項4】
前記分離機能層形成工程(I)において、前記緻密層の空隙率が10~40%である、請求項に記載の正浸透膜モジュールの製造方法。
【請求項5】
前記分離機能層形成工程(I)において、前記多孔質支持体が、ポリスルホンまたはポリエーテルスルホンを主成分として含む、請求項1又は2に記載の正浸透膜モジュールの製造方法。
【請求項6】
前記分離機能層形成工程(I)において、
前記分離機能層が、多官能アミンから選択される少なくとも1種の第1モノマーと、多官能酸ハライドから選択される少なくとも1種の第2モノマーと、の高分子重合体を含む膜であり、かつ
前記中空糸支持膜の内表面に、前記第1モノマーおよび前記第2モノマーのうちの一方を含有する第1溶液の液膜を形成し、次いで、前記中空糸支持膜の内側と外側とが、(内側圧力)>(外側圧力)となるように圧力差を設けた後、前記第1モノマーおよび前記第2モノマーのうちの他方を含有する第2溶液を、前記第1溶液の液膜と接触させる、
請求項1又は2に記載の正浸透膜モジュールの製造方法。
【請求項7】
前記圧力差を、前記中空糸支持膜の外側を減圧することにより生じさせる、請求項に記載の正浸透膜モジュールの製造方法。
【請求項8】
前記圧力差を、前記中空糸支持膜の外側および内側の双方を異なる圧力で加圧することにより生じさせる、請求項に記載の正浸透膜モジュールの製造方法。
【請求項9】
前記圧力差が10~90kPaである、請求項に記載の正浸透膜モジュールの製造方法。
【請求項10】
前記液体封入工程(II)において、前記中空糸状正浸透膜の内外に前記液体を入れて保持する、請求項1又は2に記載の正浸透膜モジュールの製造方法。
【請求項11】
前記液体封入工程(II)において、前記液体を加圧することで前記中空糸状正浸透膜に前記液体を満たして保持する、請求項1又は2に記載の正浸透膜モジュールの製造方法。
【請求項12】
前記液体封入工程(II)において、前記正浸透膜モジュールに前記液体が封入されている、請求項1又は2に記載の正浸透膜モジュールの製造方法。
【請求項13】
前記加熱処理工程(III)において、前記正浸透膜モジュールおよび前記液体を100℃以上に昇温する、請求項1又は2に記載の正浸透膜モジュールの製造方法。
【請求項14】
前記加熱処理工程(III)において、前記正浸透膜モジュールおよび前記液体を121℃以上に昇温する、請求項1又は2に記載の正浸透膜モジュールの製造方法。
【請求項15】
前記加熱処理工程(III)において、前記正浸透膜モジュールおよび前記液体を145℃以下の範囲で昇温する、請求項1又は2に記載の正浸透膜モジュールの製造方法。
【請求項16】
前記加熱処理工程(III)は、前記液体の沸点以上の温度域において加圧下で昇温を継続することを含む、請求項1又は2に記載の正浸透膜モジュールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正浸透膜モジュール、及びその製造方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
原料液の濃縮方法として、正浸透法が知られている。正浸透法は、原料液と、原料液よりも高い浸透圧を有する誘導溶液とを、正浸透膜を介して隣接させることにより、原料液から誘導溶液へ溶媒を移動させる方法である。正浸透法の駆動力は、原料液と誘導溶液の浸透圧差である。そのため、既存の濃縮技術である蒸留法又は逆浸透法と異なり、加熱又は高圧を必要とせず、原料液中の有価成分を損失することなく原料液を濃縮できると期待されている。
【0003】
正浸透法は、半透膜を用いて溶質よりも溶媒を優先的に透過させる点で、逆浸透法と類似する。しかしながら、正浸透法は、浸透圧差を利用して溶媒を希薄溶液(原料液)側から濃厚溶液(誘導溶液)側に透過させており、この点で、浸透圧差に対抗して濃厚溶液側を加圧することにより水を濃厚溶液側から希薄溶液側に透過させる逆浸透法とは異なる。
【0004】
正浸透法に適した膜は、原料液から誘導溶液への溶媒の透過量(透水性)が大きく、かつ、誘導溶液中成分の原料液への拡散(塩逆拡散)が小さくなるように設計される。しかしながら、一般に高い透水量と低い塩逆拡散の実現は容易ではなく、どちらかの性能を高めればどちらかが犠牲になるという二律背反性があった。
【0005】
正浸透法と逆浸透法の相違点の観点、又は正浸透法に適した膜の設計の観点から、基材又は支持膜と、その上に設けられた分離機能層とを備える複合半透膜、及び複数の複合半透膜を備える複合半透膜モジュールが提案されている。
【0006】
例えば、特許文献1には、特定の平均細孔径、平均空隙率及びメタフェニレンジアミン拡散量を有するポリスルホン膜と、その上に設けられた分離機能膜とを有する複合膜によれば、主として逆浸透法において、経済的な負担又は廃液処理への負荷を軽減し、高い塩阻止率と高い水透過性能を併せ持つことができると記述されている。
【0007】
特許文献2には、基材と、基材上に設けられた多孔質支持体と、多孔質支持体上に設けられた分離機能層とを備える複合半透膜において、多孔質支持体は、分離機能層に接する緻密層、及び緻密層と基材との間に位置するマクロボイド層を備えるように設計され、緻密層の孔の長径及び厚みが制御され、かつマクロボイド層のマクロボイド割合が制御され、それにより複合半透膜の高圧付加運転時でさえも透水性を維持することができると記述されている。なお、特許文献2に記載の複合半透膜は、正浸透法又は逆浸透法に適するのかどうかについて明示されていないが、推奨操作圧及び実施例の記載からは逆浸透法に適するものと考えられる。
【0008】
特許文献3には、中空糸状多孔質支持膜と、多官能アミン化合物及び多官能酸ハライド化合物から形成される架橋ポリアミド重合体を含む半透膜層とを備える複合中空糸膜において、中空糸状多孔質支持膜の内表面および外表面の一方から他方に向かって気孔寸法に傾斜を付け、中空糸状多孔質支持膜の分画粒子径を調整し、中空糸状多孔質支持膜の内表面および外表面のうち少なくとも気孔が小さい緻密面に、架橋された親水性樹脂を含有させ、支持層の緻密面に半透膜層を接触させることによって、正浸透法において分離を好適に行い、さらに複合中空糸膜の耐久性に優れることが記述されている。
【0009】
特許文献4には、実際の濃縮運転における実用性と耐久姓の観点から、微細孔性支持膜の表面に高分子重合体の分離活性層を設けた正浸透膜について、特定の条件下における塩逆拡散量と透水量が検討されており、かつ正浸透膜が組み込まれた正浸透膜モジュールも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2011-194272号公報
【文献】特開2018-039003号公報
【文献】国際公開第2019/131304号
【文献】国際公開第2020/241860号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
正浸透処理においては、複合半透膜を含む正浸透処理装置の分離機能層側と多孔質支持膜側の両方に溶媒が存在する状態となるため、正浸透処理装置の運転時には、多孔質支持膜から分離機能層を剥離させるような方向、例えば、透水方向と略直交する方向、分離機能層と多孔質支持膜の界面に略平行な方向、または透水方向の対向などに、システム圧が不意に掛かり、分離機能層の剥離が起こることが考えられる。
【0012】
しかしながら、従来は、正浸透膜の透水性を向上させるために、多孔質支持膜内部の空隙率又は表面開口率を向上させる必要があると考えられてきたので、正浸透膜モジュールを備える正浸透処理装置の実用性を発揮するためには、多孔質支持膜側を正圧としたときの正浸透膜モジュールの耐圧性には課題が残っていた。
【0013】
また、従来は、一定の耐圧性を有すると信じられていた正浸透膜モジュールでさえも、その耐久性には未だ向上の余地がある。例えばシステムのヘッド又は誤操作により容易に掛かり得る圧力(例えば50kPa以上)に耐えながら、高い性能を発揮し続けられる正浸透膜、及びそれを含む正浸透膜モジュールが求められていた。
【0014】
さらに、支持膜として中空糸膜を用い、その表面に分離機能層を塗工することにより得られる複合正浸透膜については、複数の複合正浸透膜を組み込んだ正浸透膜モジュールとして用いられることが多く、各中空糸状正浸透膜の長さ方向のばらつきがあると、圧力が掛かった際に最弱部分から分離機能層の一部又は全部が剥離し、モジュール全体として高い性能を発揮できないという課題がある。
【0015】
本発明は、上記の背景に鑑みて、中空糸状正浸透膜の表面に分離機能層を有する正浸透膜から構成される正浸透膜モジュールであって、物理的耐久性に優れ、安定して高い性能を発揮する正浸透膜モジュール、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、複合正浸透膜を備える正浸透膜モジュールにおいて、中空糸支持膜の空隙率、分離機能層の平均厚み、及び分離機能層の平均厚みの変動係数を特定することにより上記の課題を解決し得ることを見出して、本発明を完成させた。したがって、本発明の態様の一例を以下に示す。
<1>
複数の中空糸状正浸透膜から構成される正浸透膜モジュールであって、
前記正浸透膜は、多孔質支持体を有する中空糸支持膜の表面に分離機能層が設けられており、
前記正浸透膜モジュールの膜面積が0.1m以上であり、
前記中空糸支持膜は、前記多孔質支持体と前記分離機能層との界面から深さ方向に1.0μmまでの位置に、空隙率が40%以下の緻密層を有し、
前記分離機能層の平均厚みが2.0μm以下であり、かつ
前記分離機能層は、前記正浸透膜モジュールの半径方向および長さ方向における前記分離機能層の平均厚みの変動係数が30%以下である、正浸透膜モジュール。
<2>
前記分離機能層の平均厚みの変動係数が、25%以下である、項目1に記載の正浸透膜モジュール。
<3>
前記分離機能層の平均厚みの変動係数が、20%以下である、項目1又は2に記載の正浸透膜モジュール。
<4>
前記分離機能層が、凹凸構造を有する、項目1~3のいずれか1項に記載の正浸透膜モジュール。
<5>
前記緻密層の空隙率が、5%以上である、項目1~4のいずれか1項に記載の正浸透膜モジュール。
<6>
前記緻密層の空隙率が、9%以上25%以下である、項目1~5のいずれか1項に記載の正浸透膜モジュール。
<7>
前記分離機能層の平均厚みが、0.05μm以上である、項目1~6のいずれか1項に記載の正浸透膜モジュール。
<8>
前記分離機能層の平均厚みが、0.2~0.8μmである、項目1~7のいずれか1項に記載の正浸透膜モジュール。
<9>
前記緻密層が、前記緻密層の細孔内に入り込んだ分離機能層成分を有する、項目1~8のいずれか1項に記載の正浸透膜モジュール。
<10>
前記中空糸支持膜の内表面に前記分離機能層が設けられている、項目1~9のいずれか1項に記載の正浸透膜モジュール。
<11>
前記中空糸支持膜は、前記多孔質支持体及び前記分離機能層のみから成る、項目1~10のいずれか1項に記載の正浸透膜モジュール。
<12>
前記多孔質支持体が、ポリスルホンまたはポリエーテルスルホンを主成分として含む、項目1~11のいずれか1項に記載の正浸透膜モジュール。
<13>
以下の工程:
(I)多孔質支持体を有する中空糸支持膜を複数本用いて、前記中空糸支持膜の表面に分離機能層を設けて、中空糸状正浸透膜を備える中空糸状正浸透膜モジュールを作製する、分離機能層形成工程と、
(II)前記中空糸状正浸透膜モジュールにおいて、少なくとも前記分離機能層形成表面側に液体を封入して保持する、液体封入工程と、
(III)前記中空糸状正浸透膜モジュールおよび前記液体を50℃以上に昇温する、加熱処理工程と、
を含む、正浸透膜モジュールの製造方法。
<14>
前記正浸透膜モジュールの膜面積が、0.1m以上である、項目13に記載の正浸透膜モジュールの製造方法。
<15>
前記分離機能層形成工程(I)において、前記中空糸支持膜は、前記多孔質支持体と前記分離機能層との界面から深さ方向に1.0μmまでの位置に緻密層を有し、前記緻密層の空隙率が40%以下である、項目13又は14に記載の正浸透膜モジュールの製造方法。
<16>
前記分離機能層形成工程(I)において、前記緻密層の空隙率が10~40%である、項目15に記載の正浸透膜モジュールの製造方法。
<17>
前記分離機能層形成工程(I)において、前記多孔質支持体が、ポリスルホンまたはポリエーテルスルホンを主成分として含む、項目13~16のいずれか1項に記載の正浸透膜モジュールの製造方法。
<18>
前記分離機能層形成工程(I)において、
前記分離機能層が、多官能アミンから選択される少なくとも1種の第1モノマーと、多官能酸ハライドから選択される少なくとも1種の第2モノマーと、の高分子重合体を含む膜であり、かつ
前記中空糸支持膜の内表面に、前記第1モノマーおよび前記第2モノマーのうちの一方を含有する第1溶液の液膜を形成し、次いで、前記中空糸支持膜の内側と外側とが、(内側圧力)>(外側圧力)となるように圧力差を設けた後、前記第1モノマーおよび前記第2モノマーのうちの他方を含有する第2溶液を、前記第1溶液の液膜と接触させる、
項目13~17のいずれか1項に記載の正浸透膜モジュールの製造方法。
<19>
前記圧力差を、前記中空糸支持膜の外側を減圧することにより生じさせる、項目18に記載の正浸透膜モジュールの製造方法。
<20>
前記圧力差を、前記中空糸支持膜の外側および内側の双方を異なる圧力で加圧することにより生じさせる、項目18に記載の正浸透膜モジュールの製造方法。
<21>
前記圧力差が10~90kPaである、項目18~20のいずれか1項に記載の正浸透膜モジュールの製造方法。
<22>
前記液体封入工程(II)において、前記中空糸状正浸透膜の内外に前記液体を入れて保持する、項目13~21のいずれか1項に記載の正浸透膜モジュールの製造方法。
<23>
前記液体封入工程(II)において、前記液体を加圧することで前記中空糸状正浸透膜に前記液体を満たして保持する、項目13~22のいずれか1項に記載の正浸透膜モジュールの製造方法。
<24>
前記液体封入工程(II)において、前記液体が水である、項目13~23のいずれか1項に記載の正浸透膜モジュールの製造方法。
<25>
前記液体封入工程(II)において、前記正浸透膜モジュールが前記液体に浸漬されている、項目13~24のいずれか1項に記載の正浸透膜モジュールの製造方法。
<26>
前記液体封入工程(II)において、前記正浸透膜モジュールに前記液体が封入されている、項目13~24のいずれか1項に記載の正浸透膜モジュールの製造方法。
<27>
前記加熱処理工程(III)において、前記正浸透膜モジュールおよび前記液体を100℃以上に昇温する、項目13~26のいずれか1項に記載の正浸透膜モジュールの製造方法。
<28>
前記加熱処理工程(III)において、前記正浸透膜モジュールおよび前記液体を121℃以上に昇温する、項目13~27のいずれか1項に記載の正浸透膜モジュールの製造方法。
<29>
前記加熱処理工程(III)において、前記正浸透膜モジュールおよび前記液体を145℃以下の範囲で昇温する、項目13~28のいずれか1項に記載の正浸透膜モジュールの製造方法。
<30>
前記加熱処理工程(III)は、前記液体の沸点以上の温度域において加圧下で昇温を継続することを含む、項目13~29のいずれか1項に記載の正浸透膜モジュールの製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、物理的耐久性に優れ、かつ安定して高い性能を発揮する正浸透膜モジュール、及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】正浸透膜モジュールの一態様の断面模式図である。
図2】多孔質支持膜モジュールに分離機能層を形成させる装置の構成の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」と称する)を、非限定的な例として、詳細に説明する。
【0020】
<正浸透膜モジュール>
本実施形態に係る正浸透膜モジュールは、例えば、液状食品又は医薬品溶液の濃縮に好適に利用できる。本実施形態の正浸透膜を用いれば、濃縮対象物を加熱することなく高倍率で濃縮することができ、さらに、溶質の流出又は流入を高度に抑制しつつ、成分の劣化又は異物の混入を防いだ、非加熱高濃度濃縮が可能となる。また、本実施形態に係る正浸透膜モジュールは、例えば、脱水等の用途に加え、海水淡水化、汽水淡水化、シェールガス等のガス田、若しくは油田から排出される随伴水の処理、肥料溶液の濃縮、又は所望の濃縮物を誘導溶液として用いた希釈用途等にも好適に利用可能である。
【0021】
本実施形態の正浸透膜は、多孔質支持体を有する中空糸支持膜の表面に分離機能層が設けられており、詳細には、特定の物質のみを透過する半透膜で構成された分離機能層と、分離機能層を中空糸支持膜の表面、具体的には内表面または外表面に物理的に支持する多孔質支持膜から構成される。
【0022】
本実施形態の正浸透膜モジュールは、複数の中空糸状正浸透膜から構成される。中空糸状正浸透膜は、多孔質支持体を有する中空糸支持膜の表面に分離機能層が設けられており、そして正浸透膜モジュールの膜面積は、0.1m以上であり、実用的な見地からは0.1m以上1,000m以下であることが好ましい。膜面積の詳細については後述する。
【0023】
本実施形態の正浸透膜モジュールは、中空糸支持膜の表面に形成した分離機能層が、ガイドロールとの接触、モジュール形成時のハンドリングなどの際に損傷されることを避けるため、先ず多孔質中空糸支持膜をモジュール化した後に、該中空糸支持膜の内側または外側に分離機能層を形成することによって作製することが好ましい。このような工程を経由することにより、形成された分離機能層が損傷を受けることを避けることができる。
【0024】
本実施形態の正浸透膜モジュールの透水量は、大きければ大きいほど好ましい。しかしながら、現在市販されている膜と同等の空間占有体積のモジュールにより、これと同程度またはそれ以上の透水量を確保するためには、4kg/(m×hr)以上の透水量が目安となる。また、処理すべき原水を、できるだけ圧損のない条件下で流す時に、原水が枯渇して沈殿が発生するおそれを回避するため、透水量は200kg/(m×hr)以下であることが好ましい。本実施形態において、正浸透膜の透水量は実施例に記載の方法で測定することができる。
【0025】
本明細書における中空糸膜モジュールの透水量とは、正浸透膜を挟んで処理する原水とこれより高濃度の誘導溶液を配置した時に、浸透圧によって原水から誘導溶液に移動する水の量を意味しており、下記数式(1):
F=L/(M×H)・・・(1)
{式中、Fは透水量(kg/(m×hr))、Lは透過した水の量(kg)、Mは膜の内表面積(m)、Hは時間(hr)である}
により定義される。
【0026】
本実施形態の正浸透膜モジュールの塩の逆拡散(塩逆拡散量)はできる限り小さいことが好ましい。塩の逆拡散が大きいと、原水の汚染を来たし、または誘導溶質のロスにつながる。このような観点から、本実施形態の正浸透膜モジュールの塩の逆拡散は、前記の透水量(kg/m/hr)の値に対して、0.1%以下が好ましく、0.05%以下がより好ましく、さらに好ましくは0.02%以下である。本実施形態において、正浸透膜の塩の逆拡散は実施例に記載の方法で測定することができる。
【0027】
本明細書における正浸透膜モジュールの塩の逆拡散とは、正浸透膜を挟んで処理する原水とこれより高濃度の誘導溶液とを配置した時に、誘導溶液から原水に移動する塩の量を意味しており、下記数式(2):
RSF=G/(M×H)・・・(2)
{式中、RSFは塩の逆拡散(g/(m×hr))、Gは透過した塩の量(g)、Mは膜の面積(m)、Hは時間(hr)である}
により定義される。
【0028】
前記誘導溶液とは、分離対象物質が含まれている原水と比較して高い浸透圧を示し、半透膜を介して原水から水を移動させる機能を有する溶液を指す。この誘導溶液は、誘導溶質を高濃度で含有することにより、高い浸透圧を発現する。
【0029】
前記誘導溶質としては、例えば:
塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウムなどの、水に易溶な塩類;
メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール等のアルコール類;
エチレングルコール、プロピレングリコールなどのグリコール類;
ポリエチレンオキシド、プロピレンオキシドなどの重合体;
上記の重合体を構成する単量体同士の共重合体;
などが挙げられる。
【0030】
本実施形態における中空糸支持膜は、多孔質支持体を有し、そして多孔質支持体は、上記分離機能層を支持するための膜でよく、これ自体は分離対象物に対して実質的に分離性能を示さないことが好ましい。この多孔質支持体としては、公知の微細孔性中空糸支持膜を含むどのようなものでも使用できる。
【0031】
正浸透膜モジュールに安定して高性能を発揮させ、かつ物理的耐久性に優れるという観点から、中空糸支持膜は、その内表面に上記分離機能層が設けられていることが好ましく、かつ/又は多孔質支持体及び分離機能層のみから成ることが好ましく、そして構成部材に不織布などの基材を含まないことがより好ましい。基材を含まない場合、高温負荷時に多孔質支持体と基材との界面において、密着性の不足や、温度による寸法変化の違い等により発生する多孔質支持体からの基材の剥離や亀裂が生じる懸念がない。この傾向は高温になるほど顕著である。一般に、基材は、多孔質支持体または分離機能層よりも孔径が大きい多孔質体であることが多く、さらに多孔質支持体と異なる素材を主成分として含有することが多い。基材の孔径は、一般に、0.1μm~100μm程度であり、より一般的には目付または通気量で評価され、目付は20g/m~150g/m程度であり、フラジール法で測定される通気量は0.5cc/(cm×sec)~30cc/(cm×sec)程度である。
【0032】
本実施形態における中空糸支持膜は、上記多孔質支持体と上記分離機能層との界面から深さ方向に1.0μmまでの位置に、空隙率が40%以下の緻密層を有する。正浸透膜モジュールは、このように空隙率を特定して位置決めされた緻密層によって、モジュール運転時に、正浸透膜の積層方向(一般には、膜厚方向を意味する)とは異なる方向にシステム圧が、または逆圧が掛かったとしても分離機能層の剥離を抑制する傾向にあり、ひいては安定して高性能を発揮しながら物理的耐久性に優れる。さらに、空隙率がこの範囲の緻密層を有すると、後述する分離機能層の平均厚みを薄くし易く、結果として正浸透性能を高くすることができる。圧力を均等分散しながら密着性も確保できる点や、後述する加熱処理工程の効果をより受け易くなる点から、緻密層の空隙率はより好ましくは25%以下であり、さらに好ましくは20%以下である。より詳細には、本実施形態に係る正浸透膜モジュールは、モジュール全体として、分離機能層を剥がす側の圧力(すなわち、逆圧)に耐えることができ、正浸透性能が高い(すなわち、透水性Fluxが高く、塩逆拡散RSFが低い)ので、実用性がある。正浸透性能、特に透水性を確保するという観点から、緻密層の空隙率は、5%以上であることが好ましく、5~40%であることがより好ましく、特に好ましくは9~25%である。緻密層の空隙率が、上記の数値範囲内であると、分離機能層が入り込んだ緻密層が形成され易くなるため、前述の密着性をより確保し易い。さらに、分離機能層が緻密層に入り込んだ状態の正浸透膜を、後述する液体存在下で加熱処理することで、緻密層の細孔内で分離機能層の反応(架橋反応など)が促進され、特に密着性が高められる。この効果は、加熱処理時の温度が高いほどより促進される傾向がある。
【0033】
上記空隙率は例えば顕微鏡で取得した画像を用いて算出することができる。
走査型電子顕微鏡を用いて得られる断面像の場合は、例えば、以下のようにして観察試料を調製して観察することができる。
膜試料を純水に浸漬して、液体窒素を用いて凍結させたものを、凍結乾燥法によって乾燥させる。乾燥後の試料を、割断又はBroad Ion Beam(BIB)加工法、好ましくはBIB加工法によって、膜面方向に垂直な断面を作製する。得られた断面に、白金、白金/パラジウム、四酸化オスミウム、又はオスミウム、好ましくはオスミウムを薄くコーティングして、これを観察試料とする。この観察試料について、1~6kVの加速電圧、好ましくは1kVの加速電圧で、断面を観察する。
観察倍率は、多孔質支持体と分離機能層との接触界面、又は支持膜の表面付近が観察できる倍率であればよい。例えば、5,000~100,000倍が好ましく、より好ましくは50,000倍である。
【0034】
本実施形態において、正浸透膜の多孔質支持体と分離機能層との接触界面は、具体的には例えば以下のようにして確認することができる。
走査型電子顕微鏡によって、正浸透膜の断面を撮影した画像を、適当な画像処理ソフトに取り込んで、画像処理する方法が挙げられる。画像処理ソフトとしては、例えば、ImageJ(開発元:アメリカ国立衛生研究所)が挙げられる。ImageJに取り込んだSEM画像を、得られた画像に基づいて適宜に選択される公知の二値化法、好ましくは大津法によって二値化する。得られた二値化画像全体において、膜表面から深さ方向に向かって、所定の距離(例えば1ピクセル)ごとに、膜表面と水平の方向の平均輝度を算出する。分離機能層の表面から支持膜側に向かって平均輝度を比較し、平均輝度が最も高くなる部分の水平方向を、正浸透膜の多孔質支持体と分離機能層との接触界面とすることができる。
なお、正浸透膜の多孔質支持体と分離機能層との接触界面が波打っている場合であっても、故意に正浸透膜を曲げて観察しない限り、上述の方法により、正浸透膜の多孔質支持体と分離機能層との接触界面を、一義的に判別することができる。
また、多孔質支持体の中には表層付近にマクロボイドを有するものが考えられる。マクロボイドとは、1.0μm以上の長径を有するボイド(大きな空隙)である。マクロボイドを有する断面像は、二値化時にボイド自体ではなく、ボイド中にみられる空孔構造(断面像のさらに奥に見える構造)が選択されることがある。本実施形態においては、多孔質支持体と分離機能層との界面から深さ方向に1.0μmまでの空隙構造が重要であることから、マクロボイドが存在する像においては、マクロボイドを黒く塗りつぶしてから二値化することが好ましい。
【0035】
一般的に、上記分離機能層が入り込んだ緻密層は、後述する界面重合法を用いて多孔質支持体に対して界面重合を行った場合に、分離機能層成分が多孔質支持体の細孔に入り込む形で自然に形成される。その領域の厚みとしては、例えば、多孔質支持体と分離機能層との接触界面から1~250nmなどの厚みを示すことができる。本実施形態においては、正浸透膜の厚み方向において、分離機能層成分は、1nm以上多孔質支持体の細孔に入り込んでいれば好ましく、より好ましくは10nm以上、さらに好ましくは30nm以上250nm以下、特に好ましくは40nm以上、200nm以下で多孔質支持体の細孔に入り込んでいる。また、厚み方向において分離機能層成分が多孔質支持体の細孔に250nmまでの範囲で入りこむのであれば、後述する界面重合法において、多孔質支持体に第1モノマー溶液を染み込ませた後に、第2モノマー溶液を塗布する方法で、分離機能層が細孔内に入り込んだ緻密層を形成することができる。特に後述する第1モノマー溶液を多孔質支持体に染み込ませた後に、減圧させて多孔質支持体にさらに染み込ませる方法によって、上記厚み方向の範囲に限らず、さらに染み込み範囲を拡大、制御することができる。
【0036】
より具体的には、上記分離機能層が細孔内に入り込んだ緻密層は、例えば前述の顕微鏡で取得した画像を用いて確認することができる。目視で分離機能層が確認できる場合は、正浸透膜の多孔質支持体と分離機能層との接触界面から、分離機能層の入り込みの末端までの長さを分離機能層が入り込んだ緻密層の厚みとすることができる。
【0037】
また、簡易的には、例えば、50,000倍で取得した走査型電子顕微鏡画像において、緻密層と分離機能層の接触界面から深さ方向に1.0μmまでを観察し、その深さ方向を0.05μmずつに20分割した際に、20分割した各緻密層(分割緻密層)の空隙率が、1.0μmまでの空隙率の0.25倍以上となるまでの分割緻密層において、その分割緻密層の深さ方向末端から多孔質支持体と分離機能層との接触界面までの長さを分離機能層が入り込んだ緻密層の領域の厚みとすることができる。
【0038】
上記と同様の観点から、中空糸支持膜の内表面に、孔径が好ましくは0.001μm以上0.1μm以下、より好ましくは0.003μm以上0.05μm以下、さらに好ましくは0.003μm以上0.01μm以下の微細孔を有することが好ましい。
【0039】
他方、多孔質支持体は、多孔質支持体と分離機能層との界面から深さ方向に1.0μmを超える位置では、例えば外表面までの位置では、透過する流体の透過抵抗を小さくするために、強度を保っていればできるだけ疎な構造であることが好ましい。この部分の疎な構造は、例えば網状、指状ボイドまたはそれらの混合構造のいずれかであることが好ましい。
【0040】
本実施形態における中空糸支持膜に対して一定圧力を掛けた時に一定時間に一定の有効膜面積(例えば、内表面積または外表面積)を透過する純水の量で表される透過性能は、好ましくは100kg/m/hr/100kPa以上、より好ましくは200kg/m/hr/100kPa以上である。支持膜の透過性能が小さすぎると、得られる中空糸状正浸透膜モジュールの透過性能も小さいものとなり易い。
【0041】
支持膜の透過性能は、支持膜の機械的強度を損ねない範囲で大きいほど好ましい。一般的には透過性能が大きくなると、機械的強度は小さくなる。そのため、本実施形態における中空糸支持膜の透過性能は、好ましくは50,000kg/m/hr/100kPa以下、より好ましくは10,000kg/m/hr/100kPa以下が目安となる。
【0042】
このような中空糸支持膜の素材としては、多孔質支持体として形成できるものであればどのようなものでも使用できる。ただし、本実施形態における好ましい製造方法によって複合膜を製造するに際して、使用されるモノマー溶液などによって化学的に損傷を受けないことが必要である。従って、耐薬品性、製膜性、耐久性などの観点から、中空糸支持膜の素材としては、例えばポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリフッ化ビニリデン、および酢酸セルロースから選ばれる少なくとも1種を主成分とすることが好ましく、そして支持膜または正浸透膜の孔径制御の観点から、ポリスルホンまたはポリエーテルスルホンを主成分として含有することがより好ましい。ここで、或る部材が特定材料を主成分として含むことは、部材の質量を基準として特定材料を50質量%以上で含むことを意味する。同様の観点から、多孔質支持体は、ポリスルホンまたはポリエーテルスルホンを主成分として含むことが好ましく、多孔質支持体の質量を基準として50質量%以上のポリスルホンまたはポリエーテルスルホンを含むことがより好ましい。
【0043】
本実施形態に用いられる中空糸支持膜の糸径サイズは特に限定されないが、製膜安定性、ハンドリングのし易さ、モジュールにした時の膜面積などを考慮すると、外径が100μm~3,000μmであって内径が30μm~2,500μmの範囲のものが好ましく、外径が200μm~1,500μmであって内径が50μm~1,000μmがより好ましい。このような中空糸支持膜は、上記素材から選択される材料を用いて、公知の乾湿式製膜法、溶融製膜法、湿式製膜法などにより製造することができる。
【0044】
本実施形態の正浸透膜は、複数の膜を有する膜モジュール(正浸透膜モジュール)として使用することができる。膜モジュールの形状は特に制限されないが、一般に、膜の一方の表面側とだけ液が接する区画と、膜のもう一方の表面側とだけ液が接する区画が、モジュールハウジングに膜を固定する接着樹脂により隔離されて存在する。中空糸膜を例にとれば、膜の内表面側とだけ液が接する区画と、膜の外表面側とだけ液が接する区画が、隔離されて存在する。モジュールハウジングの大きさは特に規定されないが、例えば、直径0.5インチ~20インチで、長さが4cm~10mの円筒状ハウジングなどを用いることができる。また、接着樹脂として例えばウレタン系、エポキシ系などの接着剤を用いてモジュールとすることができる。接着剤は、各中空糸の孔を閉塞しないように固化されることにより、中空糸の流通性を確保することができる。
【0045】
図1に示す正浸透膜モジュール(中空糸膜モジュール)1は、筒状体に中空糸4の複数から成る糸束を充填し、その中空糸糸束の両端を接着剤固定部5,6で筒に固定した構造を有している。筒状体は、その側面に外側導管2,3を有し、ヘッダー7,8により、密閉されている。ここで接着剤固定部5,6は、それぞれ、中空糸の孔を閉塞しないように固化されている。ヘッダー7,8は、それぞれ、中空糸4の内側(中空部)に連通し、外側には連通しない内側導管9,10を有する。これらの導管により、中空糸4の内側に、液を導入し、または液を取り出すことができる。外側導管2,3は、それぞれ、中空糸4の外側に連通し、内側には連通していない。
【0046】
この中空糸膜モジュール1は、内側を流れる液体と外側を流れる液体とは、中空糸4(正浸透膜)を介してのみ接する構造になっている。
【0047】
本明細書では、正浸透膜モジュール(中空糸膜モジュール)1の膜面積は、有効膜表面積を意味するので、内表面又は外表面のいずれかの有効膜表面積でよい。図1に示されるとおり、中空糸膜モジュール1は、分離機能を担う部分として有効膜面積部分20を有する。図1において有効膜面積部分20は、中空糸束が充填された部分のうち接着剤固定部5,6の部分を除く、実質的に分離機能を担う部分である。なお、分離機能層が内表面にある中空糸の場合(図示せず)には、有効膜面積は、中空糸の内表面積の合計に基づいて算出され、例えば、(中空糸の内円周)×(モジュールの接着層から接着層までの長さ)×(中空糸の膜本数)で表すことができる。また、分離機能層が外表面に配置された中空糸の場合(図示せず)には、有効膜面積は、中空糸の外表面積の合計に基づいて算出され、例えば、(中空糸の外円周)×(モジュールの接着層から接着層までの長さ)×(中空糸の膜本数)で表すことができる。正浸透膜モジュールの膜面積については、実施例に記載の方法により測定することができ、支持膜モジュールの有効膜面積と概ね等しいものとして見なすことができる。
【0048】
中空糸膜モジュール1は、中空糸束の内側(中空部)に連通し、外側には連通しない導管と、中空糸束の外側に連通し、内側には連通しない導管とを備えることが好ましい。このような構成とすることにより、中空糸束の内側と外側とを、相異なる圧力下に置くことが可能となり、本実施形態における分離機能層の形成(後述)に好適に使用することができる。
【0049】
分離機能層は、支持膜の多孔質支持体上に配置され、正浸透膜において実質的に溶質の分離機能を担い、より具体的には、原料液中の溶媒から、それに溶解しているイオン等の溶質を分離する機能を担う。
【0050】
本実施形態に係る分離機能層は、その平均厚みが2.0μm以下であり、かつ正浸透膜モジュールの半径方向および長さ方向における平均厚みの変動係数が30%以下であり、それにより性能安定性と物理的耐久性を両立することができる。分離機能層の平均厚みは、層に欠陥ができない程度の厚みを確保するという観点から、0.05μm以上であることが好ましく、欠陥が生じ難い厚みと透水性の両立という観点から、0.2~0.8μmであることがより好ましい。正浸透膜モジュールの物理的耐久性を更に向上させる観点から、分離機能層の平均厚みの変動係数が、25%以下であることが好ましく、より好ましくは20%以下である。分離機能層の平均厚みの変動係数が上記の数値範囲内にあると、正浸透膜モジュールに逆圧が印加された場合でも、その圧力を均等分散させることができ、結果として分離機能層の剥離または損傷を防ぐことができる。
【0051】
本明細書では、正浸透膜モジュール内の各中空糸状正浸透膜における分離機能層の平均厚みのばらつきを変動係数で表す。変動係数とは、平均厚みの標準偏差を、当該平均厚みの平均値で除した値であり、百分率(%)で表される。
【0052】
分離機能層の平均厚みは、顕微鏡観察によって測定される。具体的には、例えば、分離膜を、樹脂により包埋した後、切断して、超薄切片を作製する。得られた切片に、染色等の処理を行ったうえ、透過型電子顕微鏡(TEM)又は走査型電子顕微鏡(SEM)により観察する。好ましい膜厚測定法として、走査型電子顕微鏡によって、分離機能層の厚み方向の断面を撮影した画像を、適当な画像処理ソフトに取り込んで、画像処理する方法が挙げられる。画像処理ソフトとしては、例えば、ImageJ(開発元:アメリカ国立衛生研究所)が挙げられる。ImageJに取り込んだSEM画像から、分離機能層の輪郭を抽出し、その内部を塗りつぶして、分離機能層の面積を算出し、事前に作成しておいた検量線を用いて、1画像における分離機能層の平均厚みに換算することができる。
【0053】
本実施形態において、好ましい分離機能層の平均厚みの変動係数の測定法は、以下のとおりである。
中空糸膜を長手方向に3等分し、3個のサンプルを得る。これら3個のサンプルの任意の場所、好ましくは各サンプルの長手方向に2等分した部分において、膜面方向(長手方向)に垂直な断面を得て、顕微鏡観察を行って、当該1画像における分離機能層の平均厚みを測定する。
この操作を、3本の正浸透膜、又は1つの正浸透膜モジュールから切り出した3本の正浸透膜について行い、合計9画像における分離機能層の平均厚みを測定する。得られた9個の平均厚み値を用いて、平均厚みの平均値、及び平均厚みの標準偏差を算出し、これらの値から変動係数を算出する。
1つの正浸透膜モジュールから3本の正浸透膜を切り出す際、正浸透膜モジュールの半径方向の外周部、中間部、及び中心部の3箇所から切り出すことが好ましい。このような切り出し方法により、モジュール全体のばらつきを評価することができる。
平膜状の正浸透膜の場合は、膜を9分割して9サンプルを取得し、それぞれのサンプルの中心部から断面を得て、顕微鏡観察による方法を採用できる。
【0054】
分離機能層の平均厚み等を測定する際の顕微鏡画像の視野は、断面の幅(支持膜と分離機能層との界面の方向に平行な方向の長さ)として、5~100μm程度とすることが好ましく、より好ましくは5~50μmであり、更に好ましくは5~20μmであり、最も好ましくは13μmである。顕微鏡画像の倍率は、好ましくは5,000倍~30,000倍であり、より好ましくは10,000倍である。
【0055】
本実施形態の正浸透膜は、支持膜及び分離機能層の構造が、前述の範囲で均一であることが好ましい。分離機能層、及び分離機能層に近い位置の支持膜の構造が均一であれば、分離機能層の任意の部分において、期待する機能及び物理的耐久性を発現することができる。一般に、正浸透膜モジュール内の一部の正浸透膜が欠陥を生じた場合、モジュール全体の性能を著しく低下させることが多い。この点においても、モジュール全体で正浸透膜が均一であることが好ましい。
例えば、中空糸状の正浸透膜の場合、正浸透膜の構造は、円周方向及び長手方向の少なくとも一方により均一であることが好ましく、より好ましくは円周方向及び長手方向双方により均一であり、特に好ましくは、中空糸を束ねてモジュール化した際に、いずれの部分の膜もより均一なことである。
【0056】
本実施形態では、複数の中空糸状正浸透膜が複合化された正浸透膜モジュール内の中空糸の最外周部から中心部にわたる分離機能層の平均厚みの変動係数、およびモジュール内の中空糸の片末端からもう一方の片末端にわたる分離機能層の平均厚みの変動係数は、それぞれ、0~30%であることが好ましく、より好ましくは25%以下、さらに好ましくは0~20%である。
【0057】
より詳細には、分離機能層の厚み、平均厚み、及びそれらの変動係数は、実施例に記載の方法により得られることができる。本実施形態における複数の中空糸状正浸透膜が複合化された正浸透膜モジュールは、モジュール内の各箇所における分離機能層の平均厚みのばらつきが小さい。そのため、モジュール毎の性能のばらつきも小さくなり良好である。ここで言う性能とは、物理的耐久性、透水量および塩の逆拡散である。
【0058】
本実施形態に係る分離機能層は、実質的に分離性能を有し、高分子重合体から成ることができ、薄膜でよく、そして界面重合反応によって形成することができる。
【0059】
分離機能層が高分子重合体から成る膜の場合には、膜の厚みについては、ピンホールがなければ薄いほど好ましい。しかし、機械的強度および耐薬品性を維持するためには、適当な厚みを持たせなければならない。従って、製膜安定性、透過性能などを考慮すると、高分子重合体から成る膜の厚みは、0.2~2.0μmであることが好ましく、より好ましくは0.2~1.0μmであり、さらに好ましくは0.2~0.8μmである。
【0060】
前記高分子重合体としては、例えば:
多官能アミンから選択される少なくとも1種以上の第1モノマーと、
多官能酸ハライドから成る群より選択される少なくとも1種以上の第2モノマーと、
の高分子重合体であることが好ましい。より具体的には、例えば:
多官能性アミンと多官能性酸ハロゲン化物との界面重縮合反応により得られるポリアミドなどが挙げられる。分離機能層として、これらの高分子重合体を含む膜または高分子重合体から成る膜を用いる場合の分離性能とは、純水とそれに溶解しているイオンなどの溶質とを分離する性能を指す。
【0061】
前記第1モノマーおよび第2モノマーの種類、組合せ、および使用溶媒(後述)の種類は、両モノマーが、界面で直ちに重合反応を起こして高分子重合体を形成するものであればよく、それ以外は特に限定されない。しかしながら、前記第1モノマーおよび第2モノマーのうちの少なくとも一方には、3つ以上の反応性基を持つ反応性化合物を含むことが好ましい。このことにより、3次元構造を有する高分子重合体から成る薄膜が形成されるから、膜強度の観点でより好ましい。
【0062】
前記多官能アミンとしては、多官能性芳香族アミン、多官能性脂肪族アミン、複数の反応性アミノ基を有するモノマーなど、およびこれらのプレポリマーを挙げることができる。
【0063】
前記多官能性芳香族アミンとは、一分子中に2個以上のアミノ基を有する芳香族アミノ化合物であり、さらに具体的には、例えばm-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルアミン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルアミン、3,5-ジアミノ安息香酸、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、1,3,5,-トリアミノベンゼン、1,5-ジアミノナフタレンなどを挙げることができ、これらの単独または混合物を用いることができる。本発明においては、特に、m-フェニレンジアミンおよびp-フェニレンジアミンから選ばれる1種以上が好適に用いられる。
【0064】
前記多官能性脂肪族アミンとは、一分子中に2個以上のアミノ基を有する脂肪族アミノ化合物であり、さらに具体的には、例えば1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、4,4’-ビス(パラアミノシクロヘキシル)メタン、1,3-ビス-(アミノメチル)シクロヘキサン、2,4-ビス-(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3,5,-トリアミノシクロヘキサンなどの、シクロヘキサン環を持つ第1級アミン;
ピペラジン、2-メチルピペラジン、エチルピペラジン、2,5-ジメチルピペラジンなどの、ピペラジン環を持つ第2級アミン;
1,3-ビス(4-ピペリジル)メタン、1,3-ビス(4-ピペリジル)プロパン、4,4’-ビピペリジンなどの、ピペリジン環を持つ第2級アミン;
4-(アミノメチル)ピペリジンなどの、第1級および第2級の両方のアミノ基を持つアミンなどの他;
エチレンジアミン、プロピレンジアミン、1,2-プロパンジアミン、1,2-ジアミノ-2-メチルプロパン、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジアミン、トリス(2-アミノエチル)アミン、N,N’-ジメチルエチレンジアミン、N,N’-ジメチルプロパンジアミンなど;
を挙げることができ、これらの単独または混合物を用いることが可能である。これら多官能脂肪族アミンと、上記した多官能性芳香族アミンとの混合物も用いることができる。
【0065】
前記複数の反応性アミノ基を有するモノマーとしては、例えばポリエチレンイミン、アミン変性ポリエピクロロヒドリン、アミノ化ポリスチレンなどを挙げることができる。前記プレポリマーとしては、例えばピペラジン、4-(アミノメチル)ピペリジン、エチレンジアミン、および1,2-ジアミノ-2-メチルプロパンから選ばれる1種以上からなるプレポリマーが好適に用いられる。
【0066】
前記多官能ハライドとしては、例えば、多官能性芳香族酸ハライド、多官能性脂肪族酸ハライドなどを挙げることができる。これらは、前記多官能性アミンと反応して高分子重合体を形成し得るように、2官能以上であればよい。
【0067】
前記多官能性芳香族酸ハライドとは、一分子中に2個以上の酸ハライド基を有する芳香族酸ハライド化合物である。具体的には、例えばトリメシン酸ハライド、トリメリット酸ハライド、イソフタル酸ハライド、テレフタル酸ハライド、ピロメリット酸ハライド、ベンゾフェノンテトラカルボン酸ハライド、ビフェニルジカルボン酸ハライド、ナフタレンジカルボン酸ハライド、ピリジンジカルボン酸ハライド、ベンゼンジスルホン酸ハライドなどを挙げることができ、これらの単独または混合物を用いることができる。本実施形態においては、特にトリメシン酸クロリド単独、またはトリメシン酸クロリドとイソフタル酸クロリドとの混合物、もしくはトリメシン酸クロリドとテレフタル酸クロリドとの混合物が好ましく用いられる。
【0068】
前記多官能性脂肪族酸ハライドとは、一分子中に2個以上の酸ハライド基を有する脂肪族酸ハライド化合物である。具体的には、例えばシクロブタンジカルボン酸ハライド、シクロペンタンジカルボン酸ハライド、シクロペンタントリカルボン酸ハライド、シクロペンタンテトラカルボン酸ハライド、シクロヘキサンジカルボン酸ハライド、シクロヘキサントリカルボン酸ハライドなどの脂環式多官能性酸ハライド化合物などの他;
プロパントリカルボン酸ハライド、ブタントリカルボン酸ハライド、ペンタントリカルボン酸ハライド、こはく酸ハライド、グルタル酸ハライドなどを挙げることができる。これらは、単独または混合物も用いることが可能であり、これら多官能脂肪族ハライドと、上記した多官能性芳香族酸ハライドとの混合物を用いることができる。
【0069】
前記多官能性イソシアナートとしては、例えばエチレンジイソシアナート、プロピレンジイソシアナート、ベンゼンジイソシアナート、トルエンジイソシアナート、ナフタレンジイソシアナート、メチレンビス(4-フェニルイソシアナート)などを挙げることができる。
上記のような第1モノマーおよび第2モノマーは、それぞれ、これらを適当な溶媒に溶解した溶液として界面重合に供される。
【0070】
本明細書において、第1溶液とは、中空糸支持膜が先に接触するモノマーを含有する溶液を言い、第2溶液とは、第1溶液が接触した後の支持膜と接触し、第1溶液中のモノマーと反応して高分子重合体を形成するモノマーを含有する溶液を言う。第1モノマーおよび第2モノマーのうちの片方が第1溶液に含有され、他方が第2溶液に含有されることになる。どちらのモノマーがどちらの溶液に含有されていてもよいが、片方の溶液に両モノマーが含有されている態様は好ましくない。
【0071】
これら第1溶液の溶媒および第2溶液の溶媒としては、それぞれが含有するモノマーを溶解し、両溶液が接した場合に液-液界面を形成し微細孔性中空糸支持膜を損傷しないものであれば特に限定されない。かかる溶媒として例えば、第1溶液の溶媒としては水、アルコールの単独または混合物が挙げられ、そして第2溶液の溶媒としてはn-ヘキサン、シクロヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、n-ノナン、n-デカンなどの炭化水素系溶剤の単独または混合物を挙げることができる。上記のような溶媒を選択することにより、第1溶液と第2溶液とが非混和となり、界面重合が所期するとおりに進行することとなる。
【0072】
第1溶液に含有されるモノマーとしては第1モノマーを選択することが、第2容液に含有されるモノマーとしては第2モノマーを選択することが、それぞれ好ましい。第1溶液および第2溶液中に含まれるこれらの反応性化合物の濃度は、モノマーの種類、溶媒に対する分配係数などにより異なり、特に限定されるものではなく、当業者により適宜に設定されるべきである。
【0073】
例えば、m-フェニレンジアミン水溶液を前記第1溶液とし、トリメシン酸クロリドのn-ヘキサン溶液を前記第2溶液として用いる場合を例に示すと、以下のとおりである;
m-フェニレンジアミンの濃度は0.1~10質量%が好ましく、0.5~5質量%がより好ましい。トリメシン酸クロリドの濃度は、0.01~10質量%が好ましく、0.1 ~5質量%がより好ましい。これらの溶液の濃度が低すぎると、界面重合による薄膜の形成が不完全で欠点が生じ易くなり、分離性能の低下を招く。逆に高すぎると、形成される薄膜が厚くなりすぎて、透過性能の低下を来たすことの他、膜中の残留未反応物量が増加して膜性能へ悪影響を及ぼす可能性がある。
界面重合反応の進行中に酸が発生する場合には、上記第1溶液中または上記第2溶液中に、酸捕捉剤としてのアルカリを添加することもできる。また、微細孔性中空糸支持膜との濡れ性を向上させるなどのための界面活性剤、反応を促進するための触媒などを、必要に応じて添加してもよい。
【0074】
前記酸捕捉剤の例としては、例えば水酸化ナトリウムなどのカ性アルカリ;
リン酸三ナトリウムなどのリン酸ソーダ;
炭酸ナトリウムなどの炭酸ソーダ;
トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリエチレンジアミンなどの3級アミンなどが挙げられる。前記界面活性剤の例としては、例えばラウリルスルホン酸ナトリウム、ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。前記触媒の例としては、例えばジメチルホルムアミドなどが挙げられる。これらは予め上記第1溶液中または第2溶液中に含ませることが可能である。
【0075】
本明細書において、中空糸の内側を「内側」と略称し、中空糸の外側と筒との空間を「外側」と略称することがある。本実施形態における中空糸膜モジュールは、内側を流れる液体と外側を流れる液体とは、中空糸の膜を介してのみ接する構造になっている。また、図1に示されるとおり、外側導管2および3と、内側導管9および10とに、それぞれ異なる圧力を印加することにより、中空糸の内側と外側に圧力差を設けることができる。
【0076】
本実施形態においては、多孔質中空糸支持膜モジュールの内側に、上記第1モノマーおよび第2モノマーのうちの一方を含有する第1溶液を充填し、続いて内側と外側とに圧力差を設け、その後に、上記第1モノマーおよび第2モノマーのうちの他方を含有し、しかも上記第1溶液と非混和性の第2溶液を通すことにより、多孔質中空糸支持膜の内表面上で第1モノマーと第2モノマーとの反応を行って、高分子重合体から成る薄膜または高分子重合体を含む薄膜を形成させ、目的とする正浸透膜モジュールを製造することができる。
【0077】
内側と外側とに圧力差を設ける方法は、任意であり、例えば:
内側および外側の両方を減圧する方法;
外側を減圧し、内側は大気圧とする方法;
外側を大気圧として内側を加圧する方法;
内側および外側の両方を加圧する方法;
などを挙げることができ、どの方法も選択することが可能である。本実施形態では、内側に対して外側の圧力を低く設定することが好ましい。
【0078】
内側への第1溶液充填後に、前記のような圧力差を設ける(内側圧力>外側圧力)ことにより、余剰の第1溶液が支持膜の微細孔内に入り込み、支持膜内表面上にモジュール内全体にわたって比較的均一な厚みの第1溶液の薄膜が形成されると考えられる。
【0079】
本実施形態において、複合中空糸モジュールの微細孔性中空糸支持膜の内表面に形成される分離機能層としての高分子重合体から成る膜の厚みは、第1溶液の液膜の厚みに密接に関連している。この液膜の厚みは、モジュールに掛ける内側と外側との圧力差、圧力差を維持する時間、第1溶液に添加する界面活性剤の添加量、支持膜の構造などにより、調整することができる。これに関連して、分離機能層の厚み、平均厚み、及び平均厚みの変動係数は、上述のとおりに調整されることが好ましい。平均厚み及びそれらの変動係数が調整された分離機能層を形成させるためには、内側と外側との圧力差を、1~500kPaとすることが好ましく、より好ましくは5~300kPaであり、さらに好ましくは10~100kPaである。圧力差を維持する時間は、1~100分が好ましく、より好ましくは10~50分である。第1溶液に添加する界面活性剤の添加量は、第1溶液の全量に対して、0.01~1質量%が好ましく、0.05~0.5質量%がより好ましい。
【0080】
圧力差が大きいほど、また圧力差を維持する時間が長いほど、第1溶液の液膜の厚みは薄くなり、その逆では厚くなる。液膜の厚みが小さすぎると、わずかな膜厚むらで液膜が形成されない箇所が発生し、分離機能層の欠陥の原因になる。また、液膜の厚みが大きすぎると、十分な透過性能が得られない場合がある。
【0081】
本実施形態における正浸透複合中空糸膜モジュールの製造方法では、内側と外側とに設ける圧力差は、モジュール内の中空糸の最外周部から中心部にわたって均一であり、且つモジュール内の中空糸の片末端からもう一方の片末端にわたって均一である。このことによって、各々の箇所で形成される第1溶液の液膜の厚みは均一になり、これを基にして形成される高分子重合体から成る分離機能層の厚みも均一になる。従って、各々の箇所における液の透水量のばらつきは小さくなり、複合中空糸膜モジュールとして安定した高い性能を発揮できるようになる。
【0082】
高圧空気を通して中空糸内側に第1溶液の液膜を形成する従来技術の方法によると、モジュールの長さが長ければ長いほど、またモジュールの径が大きければ大きいほど、前記の各々の箇所における分離機能層の平均厚みのばらつきは大きくなる。これに対して、本実施形態に係る正浸透膜モジュールの製造方法では、各々の箇所において分離機能層の平均厚みが実質的に均一となる。また、モジュールのサイズが大きいほど、本発明の効果は顕著に表れ、限定されるものではないが、実用的には、モジュールの長さが50mm以上3000mm以下、モジュールの径が50mm以上500mm以下のサイズとすることが便利である。
【0083】
本実施形態の正浸透膜モジュールにおける分離機能層は、その表面に多数の微細な凹凸を有する。この分離機能層表面の凹凸の程度は、該分離機能層の厚み方向の断面を撮影した走査型電子顕微鏡画像において、分離機能層と中空糸支持膜との界面の長さL1、および該分離機能層表面の長さL2の比L2/L1によって見積もることができる。本実施形態の複合中空糸膜モジュールは、分離機能層の断面画像における比L2/L1が、好ましくは1.1以上5.0以下であり、より好ましくは1.15以下4.0以下であり、さらに好ましくは1.2以上3.0以下である。比L2/L1は、中空糸膜サンプルの断面の走査型電子顕微鏡画像を用いて評価することができる。
【0084】
本実施形態に係る分離機能層の表面が、このような微細凹凸形状となる機構につき、本発明者らは以下のように推察している。ただし本発明は、以下の理論に拘束されるものではない。
本実施形態の複合中空糸膜モジュールにおける分離機能層は、好ましくは界面重合によって形成される。界面重合においては、中空糸表面に形成された第1モノマー溶液の液膜が、第2モノマー溶液と接触した際、両者が相溶せずに界面において重合が進行して重合層を形成すると考えられる。その結果、形成された分離機能層は、表面に微細凹凸の多い形状となるものと考えられる。分離機能層の形成を界面重合以外の手法によると、表面微細凹凸の多い形状の分離機能層を形成することは困難になる。
【0085】
(分離機能層の凹凸構造)
本実施形態の正浸透膜において、分離機能層は、算術平均高さ(Sa)が40nm以上の凹凸構造を有することが好ましい。
分離機能層が「凹凸構造」を有するとは、分離機能層の最表面、すなわち、分離機能層の面のうちの支持膜に接しているのとは逆側の面が、複数の凸部及び凹部を有し、これらが繰り返されて存在していることをいう。この凹凸構造の算術平均高さ(Sa)が40nm以上であるとは、分離機能層の最表面の表面粗さを測定したときに、ISO 25178で定義される算術平均高さ(Sa)が40nm以上であることを意味する。
分離機能層の凹凸構造の算術平均高さ(Sa)は、多孔質支持体との密着性を高めながらも透水性を確保できる観点から、好ましくは60nm以上であり、より好ましくは100nm以上である。また、実使用において、正浸透膜を透過させる液体の性質によっては、分離機能層の凹凸構造にひっかかり、膜表面に付着し易い物質が混在する可能性もある。そのような場合に、付着物を低減する観点から、分離機能層の算術平均高さ(Sa)は、300nm以下であることが好ましく、より好ましくは200nm以下であり、さらに好ましくは150nm以下である。
【0086】
分離機能層の凹凸構造の算術平均高さ(Sa)は、原子間力顕微鏡(AFM)によって分析することができる。
具体的には、正浸透膜が乾かない条件下で、分離機能層表面を露出させたものを観察試料として、AFM観察を行う。測定条件は、例えば、以下の条件が例示される。
測定モード:QNM in fluid(純水中測定)
視野サイズ:3μm四方
使用プローブ:OLTESPA
例えば、上述の条件下において、分離機能層の最表面を走査して、算術平均高さ(Sa)を測定し、9試料の平均値として評価することが好適である。
【0087】
<正浸透膜モジュールの製造方法>
本実施形態に係る正浸透膜モジュールの製造方法は、例えば、以下の工程:
(I)多孔質支持体を有する中空糸支持膜を複数本用いて、中空糸支持膜の表面に分離機能層を設けて、中空糸状正浸透膜を備える中空糸状正浸透膜モジュールを作製する、分離機能層形成工程と、
(II)中空糸状正浸透膜モジュールにおいて、少なくとも分離機能層形成表面側に液体を封入して保持する、液体封入工程と、
(III)中空糸状正浸透膜モジュールおよび液体を50℃以上に昇温する、加熱処理工程と、
を含む。
【0088】
正浸透膜モジュールの製造方法に、分離機能層形成工程(I)、液体封入工程(II)、及び加熱処理工程(III)が含まれると、得られる正浸透膜モジュールは、安定して高性能を発揮し、かつ物理的耐久性に優れる傾向にあり、特に上記で説明された逆圧耐性が高まる。
【0089】
以下に図2を参照しつつ、本実施形態に係る正浸透膜モジュールの製造方法、及びそれに含まれる各工程について説明する。
【0090】
図2の装置において、中空糸支持膜の内側に第1溶液を充填させた多孔質中空糸支持膜モジュール11には、内側の入り口に第2溶液貯蔵タンク14からの配管が繋ぎ込まれ、途中に第2溶液を圧送するポンプ16が繋がれている。内側の出口には反応排液の貯槽タンク17からの配管18が繋ぎ込まれ、該タンクからは多孔質中空糸支持膜モジュール11の中空糸内側の圧力を制御する内側圧力調整装置12が繋ぎ込まれている。多孔質中空糸支持膜モジュール11の外側の下部導管にはエンドキャップ19がはめ込まれ、上部導管には外側圧を制御する外側圧力調整装置13が繋ぎ込まれている。
【0091】
多孔質中空糸支持膜モジュール11の膜面積は、得られる正浸透膜モジュールの膜面積を上記の数値範囲内に調整するという観点から、0.1m以上であることが好ましい。
【0092】
分離機能層形成工程(I)において、中空糸支持膜の表面に分離機能層が設けられ、そして中空糸支持膜は、多孔質支持体と分離機能層との界面から深さ方向に1.0μmまでの位置に、空隙率が40%以下の緻密層を有するように構成されることが好ましく、緻密層の空隙率は10~40%であることがより好ましい。このように中空糸支持膜と分離機能層を構成することによって、得られる正浸透膜モジュールの物理的耐久性と性能安定性を両立し得る。
【0093】
中空糸支持膜を構成する多孔質支持体の素材と、分離機能層の素材とは、上記で説明されたとおりである。中でも、分離機能層の平均厚みの変動係数を小さくし、モジュール全体構造を均一にし、正浸透性能、逆圧耐性及び実用性を高めるという観点から、多官能アミンから選択される少なくとも1種の第1モノマーと、多官能酸ハライドから選択される少なくとも1種の第2モノマーと、の高分子重合体として、分離機能層を形成することが好ましい。同様の観点から、中空糸支持膜の内表面に、第1モノマーおよび第2モノマーのうちの一方を含有する第1溶液の液膜を形成し、次いで、中空糸支持膜の内側と外側とが、(内側圧力)>(外側圧力)となるように圧力差を設けた後、第1モノマーおよび第2モノマーのうちの他方を含有する第2溶液を、第1溶液の液膜と接触させることがより好ましい。
【0094】
上記の圧力差は、実用性及び生産性の観点と膜またはモジュールの欠陥発生を抑制するという観点から、10~90kPaの範囲内であることが好ましく、かつ/又は圧力差を次のいずれかの手法により生じさせることが好ましい:
(Ia)中空糸支持膜の外側を減圧する;または
(Ib)中空糸支持膜の外側および内側の双方を異なる圧力で加圧する。
【0095】
液体封入工程(II)では、中空糸状正浸透膜モジュールにおいて、少なくとも分離機能層形成表面側に、液体を封入して保持し、好ましくは、均一な加温と冷却の観点から、中空糸状正浸透膜の内外に液体を入れて保持し、より好ましくは、均一な加温と冷却の観点と膜厚部での液体の充填の観点から、液体を加圧することで中空糸状正浸透膜に、その液体を満たして保持する。上記の液体としては、事後的な水洗工程と関連して、水が好ましく、例えば純水などを使用してよい。
【0096】
液体封入工程(II)では、中空糸状正浸透膜モジュールは、モジュール全体の加温によって、装置に設置した後の熱殺菌時にハウジング変形を防ぐという観点から、水などの液体に浸漬されていることが好ましく、又は液体の節約と経済性の観点から、水などの液体が封入されていることが好ましい。液体封入工程(II)は、例えば、液体タンクによる通液、液槽(例えば水槽)へのモジュールの浸漬などにより行われることができる。
【0097】
加熱処理工程(III)において、正浸透膜モジュール、および水などの液体を50℃以上に昇温し、好ましくは、正浸透性能の向上の観点から100℃以上に昇温し、より好ましくは、正浸透性能の更なる向上の観点から121℃以上に昇温する。モジュールおよび液体を昇温する温度の上限は、部材が溶解しない程度の温度でよく、例えば、145℃以下の範囲でよい。加熱処理工程(III)は、例えば、高圧蒸気滅菌器(オートクレーブ)内において行われることができる。液体を封入してから昇温することで、正浸透膜及び/又は正浸透膜モジュールの急激な変形を防ぎつつも、加熱処理による正浸透膜の性能向上の効果を受けることができる。
【0098】
加熱処理工程(III)は、突沸の抑制または防止の観点と膜欠陥の発生の抑制の観点から、水などの液体の沸点以上の温度域において、加圧下で、上記の昇温を継続することが好ましい。加熱処理工程(III)での加圧は、例えば、上記(Ib)に示される加圧を継続することにより行われることができる。
【0099】
さらに、上記液体封入工程(II)によって正浸透膜の一部が液体と接触した状態、好ましくは正浸透膜全体の表面積の40%以上または80%以上が液体と接触した状態、より好ましくは正浸透膜全体の表面積の80~100%が液体と接触した状態で、上記加熱処理工程(III)を経る場合、加熱処理工程(III)後の正浸透膜が冷却される時に、正浸透膜からの液体の過剰な蒸発を防ぐことができる。これによって、正浸透膜の支持膜及び/又は分離機能層の細孔の乾燥が防がれ、結果として正浸透膜の透水性を高く維持することができる。さらに、膜モジュールに液体が封入されていると、膜モジュール全体で均一な加温および降温が為され、結果として得られる分離機能層がより均一になり易い。
【0100】
上記工程(I)~(III)を含む正浸透膜モジュールの製造方法の一例としては、以下の手順を行うことができる。
【0101】
先ず、多孔質中空糸支持膜の内側に第1溶液を充填させた多孔質中空糸支持膜モジュール11に各配管を繋ぎ込む。次に、内側圧力調整装置12および外側圧力調整装置13により、内側と外側とに圧力差(すなわち、中空糸支持膜の内側と外側とに圧力差)を設ける(内側圧力>外側圧力)。このとき、内側の中空糸内の余分な第1溶液は、前記圧力差により微細孔に入り(外側にまで浸みだす場合もある)、中空糸内側に均一な厚みの液膜が形成される。
【0102】
次に、貯蔵タンク14内の第2溶液を、ポンプにより中空糸内側に送液し、第1溶液の液膜と接触させる。この接触により、両モノマーの界面重合が起こり、多孔質中空糸支持膜の内側に、分離機能層としての高分子重合体から成る薄膜が形成される。ここで、第2溶液を送液する際、内側の圧が変動するおそれがあるが、内側圧力制御装置12の機能により、この圧力変動は抑えられる。このように、界面重合を行う際には、事前に設定した内側と外側との圧力差を維持することが好ましい。
【0103】
上述のように、第1モノマーと第2モノマーとの界面重合によって多孔質中空糸支持膜の内側に高分子重合体から成る薄膜が形成され、本実施形態の正浸透膜モジュールが製造される。
【0104】
本実施形態の正浸透膜モジュールは、界面重合により高分子重合体を形成させるための第1モノマー溶液の液膜の厚みが、モジュールの外周部と中央部、およびモジュールの上部と下部とで均一になるため、モジュール全体にわたって均一な高分子重合体から成る層を有することになる。上記の界面重合は、第1モノマー溶液と第2モノマー溶液との界面において進行するから、高分子重合体から形成される層の表面は、微細凹凸の多い形状となる。
【0105】
さらに、正浸透膜モジュールは、少なくとも分離機能層形成表面側に液体を封入して保持され、液体封入工程(II)に供される。
【0106】
さらに、正浸透膜モジュールは、封入された液体とともに、50℃以上に昇温されて、加熱処理工程(IIII)に供される。
【0107】
上記の製造方法により得られる正浸透膜モジュールは、その膜面積が、上述のとおり0.1m以上に調整される。
【実施例
【0108】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。特段の記述がない限り、操作は25℃で行った。
【0109】
<電子顕微鏡観察、緻密層の空隙率の測定、分離機能層の平均厚み及び変動係数の測定、並びに多孔質中空糸支持膜モジュールの膜面積の測定>
多孔質中空糸支持膜モジュール、または中空糸正浸透膜モジュールを分解し、モジュールの半径方向の中心、半径の50%の位置、および最外周部の3箇所から、中空糸をそれぞれ1本ずつサンプリングした。各中空糸を長さ方向に3等分し、9つのサンプルを得た。これらの中空糸サンプルのそれぞれを下記の方法で処理して、中空糸断面サンプルを作成した。
平膜状正浸透膜については、正浸透膜の各辺を3等分するように9分割し、9箇所のサンプルから、同様に断面サンプルを作製した。
各サンプルについて、走査型電子顕微鏡を用いて、多孔質支持体と分離機能層が接触している界面付近を撮影し、得られた画像(断面像)を解析することによって、支持膜中の多孔質支持体の緻密層と、緻密層以外の部分とを識別し、緻密層の位置と空隙率を求めた。
多孔質支持膜の緻密層の厚み、並びに空隙率は、正浸透膜とした後の状態で測定した。なお、支持膜のみの状態で測定しても、これらの測定値は、誤差範囲内で同一であることが確認されている。
【0110】
各サンプルの断面像は、以下のように取得した。
専用のガラス容器内でサンプルを純水に浸漬し、液体窒素を用いて凍結させた後、凍結乾燥法によって乾燥させた。Broad Ion Beam(BIB)加工法(加工装置:E-3500、株式会社日立ハイテク製)によって、乾燥後のサンプルについて、膜面方向に垂直な断面を作製し、オスミウムを薄くコーティングして、観察試料とした。走査型電子顕微鏡(S-4800、株式会社日立ハイテク製)を用いて、以下の条件で観察試料の撮影を行った。
加速電圧:1.0kV
エミッション電流:10μA
プローブ電流:Normal
検出器:Upper
倍率:10,000倍(分離機能層の平均厚みや変動係数の算出)、または50,000倍(緻密層の空隙率の算出)
ピクセル数:1280×960
ワーキングディスタンス:5.0mm
画像処理ソフト:ImageJ(開発元:アメリカ国立衛生研究所)
【0111】
観察視野は、試料の膜面方向の幅13μm(分離機能層の平均厚みや変動係数の算出)、または2.5μm(緻密層の空隙率の算出)の領域が視野内に収まるように決定した。断面像は、輝度値が飽和せず、かつ、可能な限りコントラストが高くなるような条件で、8bitのグレースケール画像として取得した。
多孔質支持体の緻密層の空隙率の算出や分離機能層の平均厚みおよび変動係数の算出は、画像処理ソフト(ImageJ;開発元:アメリカ国立衛生研究所)によって行った。
【0112】
<分離機能層の平均厚みおよび変動係数>
断面像を画像処理ソフトに取り込み、大津法により二値化処理を行い、分離機能層の輪郭を抽出し、その内部を塗りつぶして、断面像における分離機能層の面積を算出した。得られた面積値を、事前に作成しておいた検量線を用いて1画像における分離機能層の平均厚みに換算した。そして、9つのサンプルの平均値を分離機能層の平均厚みとし、標準偏差および変動係数を算出した。
【0113】
<緻密層の空隙率の算出>
断面像を画像処理ソフトに取り込み、大津法により二値化処理を行い、多孔質支持体と前記分離機能層との界面から深さ方向に1.0μmまでの位置において、空隙部分の面積を残りの面積で除して百分率にすることで、空隙率(単位%)を算出した。なお、二値化の際の閾値の決定は自動で行ったが、マクロボイドが存在する部分が適切に二値化できなかった場合には、断面像のマクロボイド部分を黒く塗りつぶしてから、画像処理を行った。
そして、9つのサンプルの平均値を多孔質支持体と前記分離機能層との界面から深さ方向に1.0μmまでの空隙率とした。
【0114】
<分離機能層が入り込んだ緻密層の厚み>
上記緻密層の空隙率の算出で用いた画像を使用し、多孔質支持体と前記分離機能層との界面から深さ方向へ分離機能層が入り込んでいる厚みを見積もった。
【0115】
いずれの実施例および比較例においても、目視で分離機能層が確認できたため、正浸透膜の多孔質支持体と分離機能層との接触界面から、分離機能層の入り込みの末端までの長さを分離機能層が入り込んだ緻密層の厚みとした。その結果、実施例1~11、比較例1~6のいずれも50nm以上の分離機能層が入り込んだ緻密層の厚みが観測された。実施例1においては最大の前記厚みが120nmであった。
【0116】
また、走査型電子顕微鏡画像において、緻密層と分離機能層の接触界面から深さ方向に1.0μmまでを観察し、その深さ方向を0.05μmずつに20分割した際に、20分割した各緻密層(分割緻密層)の空隙率が、1.0μmまでの空隙率の0.25倍以上となるまでの分割緻密層において、その分割緻密層の深さ方向末端から多孔質支持体と分離機能層との接触界面までの長さを分離機能層が入り込んだ緻密層の領域の厚みとした場合においても、実施例1~11、比較例1~6のいずれも50nm以上の分離機能層が入り込んだ緻密層の厚みが観測された。
【0117】
[分離機能層の凹凸構造]
分離機能層の凹凸構造の算術平均高さ(Sa)は、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて以下の方法で分析した。
中空糸状の正浸透膜の場合は、膜が純水に濡れている条件下で、正浸透膜モジュールの半径方向の外周部、中間部、及び中心部の3箇所から、正浸透膜を1本ずつ(計3本)取り出し、それぞれを、長手方向に3等分し、9箇所のサンプルを得た。各サンプルの中心部において、斜めに切り開いて分離機能層表面を露出させ、得られた分離機能層表面を観察した。
平膜状の正浸透膜の場合は、正浸透膜の各辺を3等分するように9分割し、9箇所のサンプルを得た。そして、各サンプルの中心部において分離機能層表面を観察した。
中空糸状の正浸透膜及び平膜状の正浸透膜いずれの場合も、測定値は、9サンプルにおける平均値として算出した。原子間力顕微鏡を用いて、以下の条件で観察と算術平均高さの算出を行った。
測定モード:QNM in fluid(純水中測定)
視野サイズ:3μm四方
使用プローブ:OLTESPA
9個の試料の平均値として算出された算術平均高さ(Sa)が40nm以上であったとき、分離機能層が凹凸構造を有するとし、この算術平均高さ(Sa)が40nm未満であったとき、分離機能層が凹凸構造を有さないとした。以下の実施例、比較例の正浸透膜はいずれも凹凸構造を有していた。
【0118】
[支持膜の寸法]
支持膜の寸法として、中空糸支持膜については、内径、外径、及び膜厚を、平膜状支持膜については、膜厚を、それぞれ測定した。
中空糸支持膜の場合、膜面方向(長手方向)に垂直な面で切断して得られる断面の光学顕微鏡写真(断面像)を用いて測定した。この断面像の外径及び内径を、スケールにより測定した。また、外径と内径との差を2で除することにより、膜厚を算出した。ここでいう外径及び内径は、それぞれ、中空糸の外直径及び内直径である。
平膜状支持膜の場合、膜面方向に垂直な面で切断して得られる断面の光学顕微鏡写真(断面像)を用いて測定した。この断面像の膜厚を、スケールにより測定した。
本実施例において、支持膜の内径、外径、及び膜厚は、正浸透膜とした後の状態で測定した。なお、支持膜のみの状態で測定しても、誤差範囲内で同一であることが確認されている。
【0119】
<DS圧力変動試験後(0kPa←→100kPa)評価>
まず、原料液(FS:Feed Solution)タンクと、原料液タンクを正浸透膜モジュールに接続する原料液ラインを用意した。原料液ライン上に、原料液タンクから実施例及び比較例で作製した正浸透膜モジュールへと原料液を供給するための、上記ポンプを設置した。誘導溶液(DS:Draw Solution)タンクと、誘導溶液タンクを正浸透膜モジュールに接続する誘導溶液ラインを用意した。各タンクの下に天秤を設置した。誘導溶液ライン上に、誘導溶液タンクから正浸透膜モジュールへと誘導溶液を供給する上記ポンプを設置した。原料液及び誘導溶液ライン上に、原料液及び誘導溶液を物理的に加圧し、原料液と誘導溶液の物理的圧力差を調整するための上記背圧弁を設置した。また、原料液及び誘導溶液ライン上に、原料液及び誘導溶液の物理的圧力を測定する上記圧力センサを設置した。さらに、上記背圧弁を制御するために背圧弁を回転させるモーターを接続した。
【0120】
実施例及び比較例で作製した正浸透膜モジュールについて、以下の条件で正浸透処理を行いながら圧力変動試験を行った後に、正浸透膜性能を評価し、透水性(Flux)及び塩逆拡散量(RSF)を求め、塩透過性(RSF/Flux)を算出した。
【0121】
圧力変動試験
原料液:精製水、25℃、膜表面線速約3.0cm/sec
誘導溶液:3.5質量%の塩化ナトリウム水溶液、25℃、膜表面線速約3.0cm/sec
物理的圧力差:100kPa(0kPa←→100kPa)、5秒ごとに背圧弁の開閉を繰り返し、合計2,000回、多孔質支持体側を正とし100kPaの圧力負荷を行った。
温度:事前に二重管式熱交換器と温調用チラーを用いて調整した。
運転時間:上記2,000回の圧力負荷が終わるまで正浸透処理を実施した。
なお、正浸透運転は、誘導溶液に飽和塩化ナトリウム水溶液を添加して、誘導溶液の濃度を一定に維持しながら行った。
【0122】
正浸透膜性能の評価
上記の圧力変動試験後の正浸透膜モジュールを1時間以上水洗し、以下の条件で正浸透膜性能を評価し、透水性(Flux)及び塩逆拡散量(RSF)を求め、塩透過性(RSF/Flux)を算出した。
原料液:精製水、25℃、線速約3.0cm/sec
誘導溶液:3.5質量%の塩化ナトリウム水溶液、25℃、線速約3.0cm/sec
膜間差圧力:20kPa
運転時間:1時間
なお、正浸透運転は、誘導溶液に飽和塩化ナトリウム水溶液を添加して、誘導溶液の濃度を一定に維持ししながら行った。
膜間差圧力は、誘導溶液側の背圧弁を操作して、誘導溶液側(正浸透膜の支持膜側)が正(高圧)となるように設定した。
【0123】
染色箇所評価
上記の圧力変動試験後の各正浸透膜モジュールに対し、ブルーブラック(PILOT社)を純水(精製水)で5倍希釈した染色液を分離機能層が存在する側のみに通液し、100kPaに加圧(この時、分離機能層側が高圧)し、1時間の染色試験を行った。その後、正浸透膜モジュールを解体し、全ての膜の多孔質支持膜側(染色液を流した分離機能層と逆側)を観察し、2mm以上の染色箇所の数を以下の指標で評価した。
AA:なし
A:1~5箇所
B:6~10箇所
C:10箇所以上
染色箇所が少ないことは、分離機能層の機能が損なわれていないことを示す指標となる。
【0124】
<実施例1>
(多孔質中空糸支持膜の製造)
紡糸原液として、ポリスルホン(PSf;Solvay Specialty polymers製、Udel-P3500)19質量%、N-メチル-2-ピロリドン(富士フィルム和光純薬(株)製)61質量%、及びテトラエチレングリコール(東京化成(株)製)20質量%から成る均一なポリマー溶液を調製した。二重紡口を装備した湿式中空糸紡糸機に上記原液を充填した。二重紡口から、35℃の原液及び20℃の内部凝固液(水)を吐出させ、30℃に温調した相対湿度98%の空気中を250mm走行させた後、30℃の水を満たした凝固浴(外部凝固液)にて凝固させ、ターンロールとしてフリーロールを用いて張力25gにて巻き取って、中空糸支持膜を得た。
得られた中空糸支持膜の外径は1.02mm、内径は0.62mm、膜厚は0.20mmであった。
【0125】
(支持膜モジュールの作製)
多孔質中空糸支持膜1200本を、5cm径、50cm長の円筒型プラスチックハウジングに充填し、接着剤で固定後に開口し、有効長430mmで有効膜内表面積1.0m2の、図1に示すような支持膜モジュールを作製した。図1のモジュールにおいて、各中空糸の中空部が接着剤固定部5および6を貫通しており、該中空部が外側導管9および10と連通している。一方、内側導管2および3は、中空糸の外側が存在する空間と連通しているが、中空糸の中空部とは連通していない。従って、外側導管9および10と、内側導管2および3とに、異なる圧力または減圧を印加することにより、中空糸の内側と外側とに圧力差を設けることができる。
【0126】
(分離機能層の形成)
支持膜モジュールの中空糸内表面側に、m-フェニレンジアミン2質量%、ラウリル硫酸ナトリウム0.15質量%を含む水溶液(第1溶液)を20分通液した。その後、液を抜き、中空糸の内側が第1溶液で濡れた状態で、図2に示す装置に装着した。
内側圧力調整装置12と外側圧力調整装置13を用いて、減圧度(絶対圧)を調整して、内側圧力を101kPaAに、外側圧力を11kPaAに、内外差圧90kPaに設定し、重合中に外側が減圧されるようにした。
エアーを210cm/秒の流速で1分間流すことによって、余剰な第1溶液を除去した。その後、1,3,5-トリメシン酸クロリド0.23質量%を含有するn-ヘキサン溶液(第2溶液)を2分間通液することで、界面重合法により、中空糸の内表面上に分離機能層を形成して、窒素ガスを210cm/秒の流速で1分間流すことにより余剰なn-ヘキサン溶液を除去した。
さらに、中空糸の内側に5cm/秒の流速で45℃の温水を30分間流して、洗浄を行った。
次いで、モジュールが液体を保持した状態のままでモジュールを開放状態でオートクレーブ(表1中、方法「AC」として略記する)に入れて、キュア温度121℃およびキュア時間60分間の条件下でキュアリング(湿熱処理)を行なった。
さらに、湿熱処理されたモジュールを20℃の水で30分以上水洗することで、有効長430mmおよび膜面積1.0mの正浸透膜モジュールを得た。なお、実施例1で得られた正浸透膜では、分離機能層の算術平均高さ(Sa)は132nmであった。
【0127】
<実施例2~11,比較例1~6>
表1に示されるとおり、多孔質中空糸支持膜の素材、緻密層の物性、分離機能層の位置、重合条件、平均厚み及びその変動係数、キュアリング条件、モジュールの膜面積などを変更したこと以外は、実施例1と同一条件で評価を実施した。
【0128】
より詳細には、実施例4では、多孔質中空糸支持膜240本を円筒型プラスチックハウジングに充填し、有効膜内表面積0.2m2の支持膜モジュールを作製した。
実施例6では、19質量%のポリエーテルスルホン(PES;BASF製、Ultrason E2020P)と20質量%のテトラエチレングリコールを含む中空糸紡糸原液を調製した。
実施例7では、21質量%のPSfと20質量%のテトラエチレングリコールを含む中空糸紡糸原液を調製して使用し、かつ内部凝固液を5℃でモジュールに通液することで原液温度と内部凝固液温度の差(原液温度-内部凝固液温度)を30℃に設定した。
【0129】
実施例9では、20質量%のPSfと20質量%のテトラエチレングリコールを含む中空糸紡糸原液を調製して使用し、かつ内部凝固液を5℃でモジュールに通液することで原液温度と内部凝固液温度の差(原液温度-内部凝固液温度)を30℃に設定した。
【0130】
実施例10では、内部凝固液を15℃でモジュールに通液することで原液温度と内部凝固液温度の差(原液温度-内部凝固液温度)を20℃に設定し、かつ多孔質中空糸支持膜120本を円筒型プラスチックハウジングに充填し、有効膜内表面積0.1mの支持膜モジュールを作製した。
【0131】
実施例11では、19質量%のポリエーテルスルホン(PES;BASF製、Ultrason E2020P)と20質量%のテトラエチレングリコールを含む中空糸紡糸原液を調製し、かつ内部凝固液を30℃でモジュールに通液することで原液温度と内部凝固液温度の差(原液温度-内部凝固液温度)を5℃に設定した。
【0132】
比較例1では、18質量%の末端ヒドロキシド修飾されたポリエーテルスルホン(PES-OH;BASF製、Ultrason E2020PSR)と20質量%のテトラエチレングリコールをN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解させて中空糸紡糸原液を調製し、50質量%のテトラエチレングリコールを添加剤として内部凝固液にも加えた。
【0133】
比較例6では、ポリスルホン(PSf;Solvay Specialty polymers製、Udel-P3500)19質量%、およびN-メチル-2-ピロリドン(富士フィルム和光純薬(株)製)81質量%から成る中空糸紡糸原液を調製して使用し、かつ20質量%のテトラエチレングリコールを添加剤として内部凝固液にも加え、さらに内部凝固液を35℃でモジュールに通液することで原液温度と内部凝固液温度の差(原液温度-内部凝固液温度)を0℃に設定した。
【0134】
比較例5では、基材であるポリエステル不織布(通気量:3cc/(cm×sec)上にポリスルホンの20重量%N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)溶液を25℃で190μmの厚みでキャストし、25℃の凝固液中に浸漬して20分間放置することによって、ポリエステル不織布基材及びポリスルホン多孔質支持体の積層体からなる、厚み200μmの平膜状支持膜を作製した。
この支持膜の、ポリスルホン多孔質支持体側の面を、m-フェニレンジアミン2.0質量%及びラウリル硫酸ナトリウム0.15質量%を含む水溶液(第1溶液)に20分間接触させた。その後、第1溶液塗布面の表面にエアーを流して、余分な溶液を除去した。続いて、1,3,5-トリメシン酸クロリド0.23質量%を含有するn-ヘキサン溶液(第2溶液)を、第1溶液塗布面に2分間接触させ、界面重合法により、平膜状支持膜の表面上に分離機能層を形成して、多孔質支持体上に分離機能層を形成させた。
その後、分離機能層形成面に、窒素ガスを流して、余剰の第2溶液を除去した後、分離機能層像が形成された表面に、45℃の温水を30分間通液させた。次いで、得られた膜をオートクレーブ中に入れ、121℃の高温水蒸気を60分間流通させた後、20℃の水で30分水洗することにより、平膜状正浸透膜を得た。
得られた正浸透膜を所定の大きさにカットしてハウジング内に収容して、膜面積が1.0mの平膜セルを作製した。
平膜では中空糸と異なり、分離機能層の位置は表裏で表される。ここでいう裏とは支持膜作製時に不織布に接触していた面であり、表とは凝固液とより多く接していた面である。
【0135】
さらに、実施例2~7及び実施例9~11では、温水洗浄されたモジュールについて、モジュール全体を45℃以下の水槽に浸漬しながらオートクレーブに入れるか、又はモジュールに45℃以下の水が封入(少なくとも初期状態では分離機能層側の空間の70%以上が水で満たされて液体がこぼれないように密閉されている状態)されている状態のままでモジュールをオートクレーブに入れて、キュアリング(表1中、方法「水浸漬AC」として略記する)を行なった。
【0136】
なお、比較例3及び4では、AC又は水浸漬ACによるキュアリングを行なわず、窒素ガスで余剰なn-ヘキサン溶液を除去した後、それぞれ温度50℃及び125℃で20分間モジュールを乾燥させてキュアリングを行った。
【0137】
実施例1~11及び比較例1~6の測定結果及び評価結果を表1に示す。
【0138】
【表1】
【符号の説明】
【0139】
1 中空糸膜モジュール
2 外側導管
3 外側導管
4 中空糸
5 接着剤固定部
6 接着剤固定部
7 ヘッダー
8 ヘッダー
9 内側導管
10 内側導管
11 多孔質中空糸支持膜モジュール
12 内側圧力調整装置
13 外側圧力調整装置
14 第2溶液貯蔵タンク
15 第2溶液送液配管
16 第2溶液送液ポンプ
17 第2溶液排液タンク
18 第2溶液排液配管
19 エンドキャップ
20 有効膜面積部分
図1
図2