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特許7673312N-アシルアミノ酸又はその塩を含む界面活性剤組成物およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-25
(45)【発行日】2025-05-08
(54)【発明の名称】N-アシルアミノ酸又はその塩を含む界面活性剤組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 23/28 20220101AFI20250428BHJP
   C07C 231/02 20060101ALI20250428BHJP
   C07C 231/24 20060101ALI20250428BHJP
   C07C 233/47 20060101ALI20250428BHJP
   C07C 233/49 20060101ALI20250428BHJP
   C09K 23/24 20220101ALI20250428BHJP
【FI】
C09K23/28
C07C231/02
C07C231/24
C07C233/47
C07C233/49
C09K23/24
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2024149908
(22)【出願日】2024-08-30
【審査請求日】2024-09-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390003001
【氏名又は名称】川研ファインケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(74)【代理人】
【識別番号】100192603
【弁理士】
【氏名又は名称】網盛 俊
(72)【発明者】
【氏名】山本 義昭
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特開2024-012130(JP,A)
【文献】特開2003-221371(JP,A)
【文献】特開2003-096038(JP,A)
【文献】特開2018-058785(JP,A)
【文献】特開2020-083848(JP,A)
【文献】特開2004-002221(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
C11D 1/00-19/00
C09K 23/00-23/56
C07C231/22
C07C233/47
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】
(式(1)中、RCOは炭素数8~22の脂肪族アシル基を示し、R -COOHを示し、nは1又は2をし、nが1の場合にR はメチル基を示し、nが2の場合にR は水素原子、メチル基又はヒドロキシエチル基を示す。
で示されるN-アシルアミノ酸又はその塩を含み、
一般式(2)
【化2】

(式(2)中、R 、R 及びnは上述の定義と同一である。)
で示されるアミノ酸及びその塩の含有割合が1重量%以下である、界面活性剤組成物の製造方法であって、
アルカリの存在下、水のみを溶媒とする反応液中で脂肪酸クロライドと前記一般式(2)で示されるアミノ酸とを反応させて前記一般式(1)で示されるN-アシルアミノ酸を生成させ、
前記一般式(1)で示されるN-アシルアミノ酸を含む反応液のpHを2以下とし、
pHを2以下とした前記反応液を80℃以上で分液し、
前記一般式(1)で示されるN-アシルアミノ酸を含む相を水洗することを含む、前記製造方法。
【請求項2】
前記一般式(1)で示されるN-アシルアミノ酸を含む相を、当該相に対し1倍量以上、30倍量以下の水で水洗する、請求項に記載の製造方法。
【請求項3】
一般式(1)
【化3】
(式(1)中、RCOは炭素数8~22の脂肪族アシル基を示し、R -COOHを示し、nは1又は2をし、nが1の場合にR はメチル基を示し、nが2の場合にR は水素原子、メチル基又はヒドロキシエチル基を示す。
で示されるN-アシルアミノ酸又はその塩を含む界面活性剤組成物の臭気抑制及び色相安定性の向上方法であって、
アルカリの存在下、水のみを溶媒とする反応液中で脂肪酸クロライドと一般式(2)
【化4】
(式(2)中、R、Rおよびnは上述の定義と同一である。)
で示されるアミノ酸とを反応させて前記一般式(1)で示されるN-アシルアミノ酸を生成させ、
前記一般式(1)で示されるN-アシルアミノ酸を含む反応液のpHを2以下とし、
pHを2以下とした前記反応液を80℃以上で分液し、
前記一般式(1)で示されるN-アシルアミノ酸又はその塩を含む相を水洗することを含む、前記方法。
【請求項4】
前記一般式(1)で示されるN-アシルアミノ酸を含む相を、当該相に対し1倍量以上、30倍量以下の水で水洗する、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N-アシルアミノ酸又はその塩を含む界面活性剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アミノ酸型界面活性剤であるN-アシルアミノ酸及びその塩は、従来のアルキルベンゼンスルホン酸及びその塩等に比べて刺激が少ないため安全性が高く、泡立ちや泡の触感が良好である。そのため、N-アシルアミノ酸及びその塩は、洗顔料、ボディソープ、ハンドソープ、シャンプーなど液体洗浄剤や化粧料の基剤として、または使用感を改善する目的で広く用いられている。
【0003】
N-アシルアミノ酸及びその塩の製造方法としては、アミノ酸のアルカリ水溶液に脂肪酸クロライドを反応させるショッテン・バウマン法や、その改良発明である特許文献1、特許文献2に例示される、親水性溶媒を含むアミノ酸水浴液にアルカリの存在下で脂肪酸クロライドを反応させる方法が広く用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特公昭46-8685号公報
【文献】特公昭51-38681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、N-アシルアミノ酸又はその塩を含む界面活性剤組成物について、臭気を抑制でき、色相安定性をより高めることができる新規な技術を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
N-アシルアミノ酸界面活性剤は、従来の界面活性剤に比べて経時的に着色しやすく、また、特有の臭気を有する場合がある。そのため、経時的な着色を防止するための酸化防止剤等の保存料の添加や、特有の臭気をマスキングするために化粧品等に多量の香料の添加を行うことも考えられる。しかしながら、近年需要が高まっている高付加価値な毛髪洗浄剤や身体洗浄剤に求められる、液状であって透明性が高く保存料等を使用しないエシカルな化粧品設計などを行う上では、臭気が少なく、保存料の添加をせずとも色相安定性の高いことが好ましい。
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を行ったところ、驚くべきことに上述の臭気および色相安定性が原料として用いたアミノ酸の微量の残留に強い相関性が有ることを見いだした。そして、本発明者は原料であるアミノ酸の残留量を低減できる技術を開発し本発明をなすに至った。
【0007】
本発明の要旨は以下のとおりである。
(A) 一般式(1)
【化1】

(式(1)中、RCOは炭素数8~22の脂肪族アシル基を示し、Rは水素原子又は1つの水酸基を有していてもよい炭素数1~4の直鎖又は分岐鎖であるアルキル基を示し、Rは-COOH又は-SOHを示し、nは1、2又は3を示す。)
で示されるN-アシルアミノ酸又はその塩を含み、
一般式(2)
【化2】

(式(2)中、R、R及びnは上述の定義と同一である。)
で示されるアミノ酸及びその塩の含有割合が1重量%以下である、界面活性剤組成物。
(B) 一般式(1)
【化3】

(式(1)中、RCOは炭素数8~22の脂肪族アシル基を示し、Rは水素原子又は1つの水酸基を有していてもよい炭素数1~4の直鎖又は分岐鎖であるアルキル基を示し、Rは-COOH又は-SOHを示し、nは1、2又は3を示す。)
で示されるN-アシルアミノ酸又はその塩を含む界面活性剤組成物の製造方法であって、
アルカリの存在下、水を溶媒として含む反応液中で脂肪酸クロライドと一般式(2)
【化4】

(式(2)中、R、Rおよびnは上述の定義と同一である。)
で示されるアミノ酸とを反応させて前記一般式(1)で示されるN-アシルアミノ酸を生成させ、
前記一般式(1)で示されるN-アシルアミノ酸を含む反応液のpHを2以下とし、
pHを2以下とした前記反応液を80℃以上で分液し、
前記一般式(1)で示されるN-アシルアミノ酸を含む相を水洗することを含む、前記製造方法。
(C) 前記一般式(1)で示されるN-アシルアミノ酸を含む相を、当該相に対し1倍量以上、30倍量以下の水で水洗する、(B)に記載の製造方法。
(D) 一般式(1)
【化5】

(式(1)中、RCOは炭素数8~22の脂肪族アシル基を示し、Rは水素原子又は1つの水酸基を有していてもよい炭素数1~4の直鎖又は分岐鎖であるアルキル基を示し、Rは-COOH又は-SOHを示し、nは1、2又は3を示す。)
で示されるN-アシルアミノ酸又はその塩を含む界面活性剤組成物の臭気抑制及び色相安定性の向上方法であって、
アルカリの存在下、水を溶媒として含む反応液中で脂肪酸クロライドと一般式(2)
【化6】

(式(2)中、R、Rおよびnは上述の定義と同一である。)
で示されるアミノ酸とを反応させて前記一般式(1)で示されるN-アシルアミノ酸を生成させ、
前記一般式(1)で示されるN-アシルアミノ酸を含む反応液のpHを2以下とし、
pHを2以下とした前記反応液を80℃以上で分液し、
前記一般式(1)で示されるN-アシルアミノ酸又はその塩を含む相を水洗することを含む、前記方法。
(E) 前記一般式(1)で示されるN-アシルアミノ酸を含む相を、当該相に対し1倍量以上、30倍量以下の水で水洗する、(D)に記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、N-アシルアミノ酸又はその塩を含む界面活性剤組成物について、臭気を抑制でき、色相安定性をより高めることができる新規な技術を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一つの実施形態について説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。
本実施形態は界面活性剤組成物に関し、一般式(1)で示されるN-アシルアミノ酸又はその塩を含有する。
【0010】
【化7】
【0011】
式(1)中、RCOは炭素数8~22の脂肪族アシル基を示し、Rは水素原子、又は1つの水酸基を有していてもよい炭素数1~4の直鎖又は分岐鎖であるアルキル基を示し、Rは―COOH又は―SOHを示し、nは1、2または3を示す。
COである炭素数8~22の脂肪族アシル基は、炭素数8~22の飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸を由来とするアシル基や、これら脂肪酸の2種以上を含む混合脂肪酸由来のアシル基であってもよい。例えば、炭素数8~22の脂肪族アシル基として、カプリロイル基、カプロイル基、ラウロイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、オレイル基、ベヘノイル基、ヤシ油脂肪酸アシル基、パーム核油脂肪酸アシル基などが挙げられ、ラウロイル基、ミリストイル基、オレイル基、ヤシ油脂肪酸、パーム核油脂肪酸が好ましい。
【0012】
また、本実施形態の界面活性剤組成物は、一般式(2)で示されるアミノ酸又はその塩が含まれ得る。含有する一般式(2)で示されるアミノ酸及びその塩としては、例えば、一般式(1)で示されるN-アシルアミノ酸の前駆体及びそれが塩となったものが挙げられる。
【0013】
【化8】
【0014】
式(2)中、Rは水素原子、又は1つの水酸基を有していてもよい炭素数1~4の直鎖又は分岐鎖であるアルキル基を示し、Rは―COOH又は―SOHを示し、nは1、2または3を示す。
【0015】
1つの水酸基を有していてもよい炭素数1~4の直鎖または分岐鎖であるアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、イソブチル基、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシイソプロピル基、ヒドロキシブチル基、ヒドロキシイソブチル基などを例示することができる。
また、Rとしては、水素原子、メチル基、ヒドロキシエチル基が、起泡性が高く刺激性が低いため好ましい。
【0016】
一般式(2)で示されるアミノ酸の具体的な化合物としては、サルコシン、β-アラニン、N-メチル-β-アラニン、N-ヒドロキシエチル-β-アラニン、N-メチル-タウリンを例示することができる。また、一般式(1)で示されるN-アシルアミノ酸の具体的な化合物としては、アシルサルコシン、アシル-β-アラニン、アシル-N-メチル-β-アラニン、アシル-N-ヒドロキシエチル-β-アラニン、アシル-N-メチル-タウリンを例示することができる。
【0017】
上述のとおり、本実施形態の界面活性剤組成物は一般式(1)で示されるN-アシルアミノ酸の塩及び/又は一般式(2)で示されるアミノ酸の塩を含有していてもよい。具体的には、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニア、または有機アンモニウムとの塩を挙げることができる。アルカリ金属としては、カリウム、ナトリウムを例示することができる。アルカリ土類金属としては、カルシウム、マグネシウムを例示することができる。有機アンモニウムとしては、アルカノールアミン、アルキルアミンを例示することができる。2価のアルカリ金属やアルカリ土塁金属との塩の場合には、1/2塩を形成するようにすることができる。
このうち、アルカリ金属塩であるカリウムおよび/またはナトリウムとの塩や、有機アンモニウムであるアルカノールアミンとの塩を選択することで、起泡性が高く刺激性が低く透明な組成物となることから好ましい。
【0018】
本実施形態の界面活性剤組成物においては、一般式(2)で示されるアミノ酸及びその塩の含有量が低減されており、その結果、臭気が抑制され、色相安定性も向上している。
本実施形態の界面活性剤組成物中にアミノ酸である一般式(2)の化合物及びその塩の含有割合は、臭気抑制及び色相安定性向上の観点から、好ましくは1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下、さらにより好ましくは0.3重量%以下である。
なお、特に限定されないが、本実施形態の界面活性剤組成物における一般式(1)で示されるN-アシルアミノ酸又はその塩の含有割合は例えば、15重量%以上100重量%以下とすることができ、25重量%以上100重量%以下が好ましい。また、本実施形態の界面活性剤組成物が水溶液であれば、一般式(1)で示されるN-アシルアミノ酸又はその塩の含有割合は25重量%以上35重量%以下がより好ましい。水溶液の濃度を25%以上とすることで配合時に使用できる水の量等との関係で操作性を改善しやすく、また、35%以下とすることでゲル化や冬期の低温環境での固化を抑制することができる。本実施形態の界面活性剤組成物は、公知のスプレードライ、凍結乾燥等の手法を用いて、溶媒を含まない粉末又は、塊とすることもできる。
【0019】
本実施形態の界面活性剤組成物は本発明の目的を達成できる範囲で一般式(1)で示されるN-アシルアミノ酸又はその塩、及び一般式(2)で示されるアミノ酸又はその塩に加えて他の成分を含んでいてもよく、特に限定されない。
例えば本実施形態の界面活性剤組成物は遊離脂肪酸を含有していてもよい。本実施形態の界面活性剤組成物中に含まれる遊離脂肪酸の量に特に制限はないが、含まれることにより洗浄時にさっぱりとした使用感となり、泡密度の向上に寄与する。また、遊離脂肪酸の含有割合を10重量%以下とすることで、臭気の抑制、ゲル化の抑制による安定性の改善、および界面活性剤組成物が透明である場合の低温時の透明性を改善することができ、好ましい。
【0020】
本実施形態の界面活性剤組成物は保存料を使用せずとも色相の経時安定性がより高い。一方、本実施形態の界面活性剤組成物は保存料を含有するようにしてもよい。当該保存料としては、酸化防止剤やキレート剤であって、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、N-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸(ADA)、N-(2-ヒドロキシエチル)イミノ二酢酸(HIDA)、エチドロン酸(HEDP)、ピロリン酸、ネリドロン酸、アレンドロン酸、2-ピリジノール-1-オキシド(HPNO)、ヒノキチオールなどを例示することができる。
【0021】
本実施形態の界面活性剤組成物は、例えば、
アルカリの存在下、水を溶媒として含む反応液中で脂肪酸クロライドと一般式(2)で示されるアミノ酸とを反応させて一般式(1)で示されるN-アシルアミノ酸を生成させ、
一般式(1)で示されるN-アシルアミノ酸を含む反応液のpHを2以下とし、
pHを2以下とした反応液を80℃以上で分液し、
一般式(1)で示されるN-アシルアミノ酸を含む相を水洗することを含む方法で製造することができる。
【0022】
具体的には、例えば以下のようにして本実施形態の界面活性剤組成物を製造することができる。
まず、一般式(2)のアミノ酸から脂肪酸誘導体とのアシル化により誘導されるアシル化物として一般式(1)で示されるN-アシルアミノ酸を生成させる。この工程は、一般式(2)に該当するアミノ酸と脂肪酸クロライドをアルカリ存在下に縮合させる、いわゆるショッテン・バウマン反応による工程とすることができ、反応溶媒として例えば水を用いることができる。一方、一般式(2)で示されるアミノ酸の水への分散性が低く反応が進行しない場合には、脂肪酸クロライドに対して不活性な親水性有機溶媒を添加し、水との混合溶媒とすることができる。当該不活性な親水性有機溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフランを例示することができる。一般式(2)で示されるアミノ酸及びその塩の含有割合をより小さくすることができるため、親水性有機溶媒の添加量は、使用する溶媒の水に対して50重量%以下とすることが好ましく、より好ましくは10重量%以下、さらにより好ましくは0重量%である。
一般式(1)中のRCOの由来となる脂肪酸としては、植物性天然油脂由来の脂肪酸が環境負荷の少ない再生可能原料であることから枯渇の可能性が低く、安定的に使用することができ、好ましい。混合脂肪酸である場合は脂肪酸を1種または2種以上を混合して用いることができ、所望の使用感を発現させる目的で任意の混合比率の脂肪酸を用いることができる。
【0023】
ショッテン・バウマン反応における一般式(2)に該当するアミノ酸に対する脂肪酸クロライドは、0.9当量以上、1当量未満とすることが好ましい。0.9当量以上とすることで経済的優位性を維持でき、1当量未満とすることで組成物が透明である場合の遊離脂肪酸増加による透明性の低下を抑えることができる。反応時に用いるアルカリは、使用する酸クロライドに対して1当量以上、1.2当量以下の量であれば、あらかじめ全量を添加しても、酸クロライドの添加に合わせて添加することもできる。アルカリの添加量が1当量以上とすることで反応の進行が遅いことによる遊離脂肪酸の増加を抑えることができる。また、1.2当量以下での添加とすることで、次工程の中和時に多量の酸を必要とするのを避けることができる。使用するアルカリは、ショッテン・バウマン反応で生成した塩素を中和出来るものであれば特に限定は無く、容易に入手可能な水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを用いることができる。
【0024】
反応温度は、10℃から60℃以下の範囲で任意に選択することができ、好ましい。10℃以上とすることで反応の進行が遅くなることを理由とする脂肪酸クロライドの加水分解の進行による遊離脂肪酸の増加を抑えることができる。また、60℃以下とすることで、脂肪酸クロライドの加水分解の急速な進行による遊離脂肪酸の増加を抑えることができる。アシル化反応後の遊離脂肪酸の生成量抑制の観点から反応温度は、20℃以上50℃以下が好ましく、30℃以上45℃以下がさらに好ましい。反応時間は、発熱制御が可能な範囲であれば特に限定されず、反応終了後に必要に応じて熟成時間を設けることができる。
【0025】
アシル化反応後、酸を用いて反応液のpHを2以下とし、80℃以上で分液し、その後に一般式(1)で示すアシルアミノ酸を含む相を水洗する。これらの工程をアシル化反応後に行うことで、一般式(2)で示すアミノ酸の含有割合を低減することができる。
pH調整に用いる酸は硫酸および/または塩酸が好ましく、分層する排水量を最小とすることができ、酸に由来する臭気が少ない2価の酸である硫酸が特に好ましい。
分液は上述のとおり反応液を80℃以上の温度として行うことができる。
水洗に用いる水量は当業者が適宜設定でき特に制限はないが、一般式(2)で示されるアミノ酸及びその塩の含有割合をより小さくすることができるとともに収量増加の観点から、一般式(1)で示されるアシルアミノ酸を含む相に対し1倍量以上、30倍量以下が好ましい。また、水洗における温度は特に限定されないが、例えば分液工程と同温度とすることができる。
【0026】
水洗終了後に目的に応じて一般式(1)で示されるアシルアミノ酸をアルカリ金属、アルカリ土類金属、または有機アンモニウムなどで中和するようにしてもよい。
【0027】
以上、本実施形態によれば、N-アシルアミノ酸を含有する界面活性剤組成物の臭気を抑制でき、色相安定性を高めることができる。
本実施形態の界面活性剤組成物においては、例えば、マスキングのための香料の添加がされておらず、一般消費者の関心の高い保存料無添加のエシカルなシャンプー、ボディソープ、洗顔料等のトイレタリー製品の提供に寄与することが可能となる。
【実施例
【0028】
以下、本発明を実施例および比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。また、以下の実施例または比較例にて使用した原料は、特段の記載のない限り関東化学株式会社製又は、Sigma-Aldrich Co. LLC製の試薬を用いた。
【0029】
界面活性剤組成物中の一般式(2)で示されるアミノ酸含量の測定方法
密栓付きフラスコ中で、N-アシルアミノ酸を含む界面活性剤組成物1.0gに蒸留水30gおよび苛性ソーダ(48%、1.1g(塩化ベンゾイルに対して1.8当量))を混合し、塩化ベンゾイル1.0gを加え、30~45℃の温浴で1hr以上攪拌した。その後、高速液体クロマトグラフィー(日本分光製、Inertsil ODS-2 (4.6mmφ×150mm)、カラム温度:40℃、0.1M NaHPO (pH 2.1)/CHOH=65/35、流速:1.0mL/min、サンプル量20μL、UV波長:220nm)で分析した。一般式(2)で示されるアミノ酸を、一般式(1)で示されるN-アシルアミノ酸と同様の操作で塩化ベンゾイルで誘導体化し、酢酸エチルで抽出、濃縮乾固し、ヘキサン/酢酸エチルでカラムクロマト精製(富士シリシア化学製 MB-4B)したものを標品として絶対検量線法で定量して界面活性剤組成物中に残留する一般式(2)で示されるアミノ酸の含量を以下の計算式に従い求めた。特に記載のない測定法については、第十八改正日本薬局方第一追補 一般試験法 2.01液体クロマトグラフィーの規定に従って測定を行った。
一般式(2)で示されるアミノ酸の含量(重量%)=一般式(2)で示されるアミノ酸の含有量(g)/(一般式(2)で示されるアミノ酸の含有量(g)+一般式(1)で示されるN-アシルアミノ酸の含量(g))×100
【0030】
界面活性剤組成物の臭いの評価
界面活性剤組成物の臭いを、臭いが弱いほうから順に「臭いがほぼない」、「やっと感知できる臭いがする」、「何の匂いか分かる弱い匂いがする」、「楽に感知できる匂いがする」の4段階で評価した。
対照として後述の比較例5を用いた。当該対照よりも匂いが弱い段階の評価であったものについて、臭いが抑えられていると評価した。また、評価が「臭いがほぼない」である場合および「やっと感知できる臭いがする」である場合を、例えば処方配合で一般式(2)で示されるアミノ酸に由来する匂いのマスキングのための香料を要しないといえる程度の臭いであることから好ましい結果と評価した。
【0031】
界面活性剤組成物の色相安定性の評価
界面活性剤組成物100gを、ガラス製バイアル瓶(東洋ガラス株式会社製 S-112)に密封し80℃の恒温槽で18hr静置した後にSpectrometerSE7700(日本電色工業株式会社)を用いてハーゼン単位色数(APHA)を測定した。
対照として後述の比較例5を用いた。当該対照よりもAPHAの値が小さい場合を色相安定性が向上していると評価した。
【0032】
実施例1
撹拌装置を備えた1L四つ口フラスコに、N-メチル-β-アラニンナトリウム27重量%水溶液を156g、市水210g、48重量%水酸化ナトリウム13gを仕込み、水浴で30℃に調整した。ラウリン酸クロライド72g及び、48重量%水酸化ナトリウム13gをそれぞれ別の滴下ロートより30~40℃の範囲で1hrかけて滴下し、滴下後0.5hr同温度範囲で熟成を行った。熟成終了後、75重量%硫酸50gを加えpHを1.5に調整し80℃まで加温した後に1hr静置して分液した。上層に水を120g加え80℃まで加温した後に1hr静置して分液する操作を2回行った。その後、水200g、48%水酸化ナトリウム26gを加え、界面活性剤組成物としてN-ラウロイル-N-メチル-β-アラニンナトリウム30重量%水溶液を310g得た。得られたN-ラウロイル-N-メチル-β-アラニンナトリウム30重量%水溶液中のN-メチル-β-アラニンナトリウム残量は0.02重量%であり、匂いはほぼ無く、色相安定性試験後のAPHAは10であった。
【0033】
実施例2
実施例1のラウリン酸クロライドをヤシ油脂肪酸クロライドに変更した以外は実施例1と同様に反応を行い、界面活性剤組成物としてN-ココイル-N-メチル-β-アラニンナトリウム25重量%水溶液を330g得た。得られたN-ココイル-N-メチル-β-アラニンナトリウム25重量%水溶液中のN-メチル-β-アラニンナトリウム残量は0.1重量%であり、匂いはほぼ無く、色相安定性試験後のAPHAは10であった。
【0034】
実施例3
実施例1の中和時の硫酸使用量を35gとしてpHを2に調整した以外は実施例1と同様に反応を行い、界面活性剤組成物としてN-ラウロイル-N-メチル-β-アラニンナトリウム30重量%水溶液を310g得た。得られたN-ラウロイル-N-メチル-β-アラニンナトリウム30重量%水溶液中のN-メチル-β-アラニンナトリウム残量は1重量%であり、やっと感知できる匂いがし、色相安定性試験後のAPHAは20であった。
【0035】
実施例4
実施例1の水洗時の水を175gとした以外は実施例1と同様に反応を行い、界面活性剤組成物としてN-ラウロイル-N-メチル-β-アラニンナトリウム30重量%水溶液を310g得た。得られたN-ラウロイル-N-メチル-β-アラニンナトリウム30重量%水溶液中のN-メチル-β-アラニンナトリウム残量は0.2重量%であり、匂いはほぼ無く、色相安定性試験後のAPHAは15であった。
【0036】
実施例5
実施例2のN-メチル-β-アラニンナトリウムをβ-アラニンナトリウム30重量%水溶液123g、水洗後に塩形成に用いた48重量%水酸化ナトリウムを48重量%水酸化カリウム34g、N-アシルアミノ酸濃度を25重量%に変更した以外は実施例2と同様に反応を行い、界面活性剤組成物としてN-ココイル-β-アラニンカリウム25%水溶液を370g得た。得られたN-ココイル-β-アラニンカリウム25重量%水溶液中のβ-アラニンカリウム残量は0.1重量%であり、匂いはほぼ無く、色相安定性試験後のAPHAは20であった。
【0037】
実施例6
実施例1のN-メチル-β-アラニンナトリウムをN-ヒドロキシエチル-β-アラニンナトリウム30重量%水溶液150gに変更し、有機溶媒としてテトラヒドロフラン100g添加し反応を行い、水洗後脱ゾルし、実施例1の通り中和をすることで、界面活性剤組成物としてN-ラウロイル-N-ヒドロキシエチル-β-アラニンナトリウム30重量%水溶液を300g得た。得られたN-ラウロイル-N-ヒドロキシエチル-β-アラニンナトリウム30重量%水溶液中のN-ヒドロキシエチル-β-アラニンナトリウム残量は1.0重量%であり、匂いはほぼ無く、色相安定性試験後のAPHAは10であった。
【0038】
実施例7
実施例1のN-メチル-β-アラニンナトリウムをサルコシンナトリウム30重量%水溶液90gに変更した以外は同様に反応を行い、界面活性剤組成物としてN-ラウロイルサルコシンナトリウム30重量%水溶液を350g得た。得られたN-ラウロイルサルコシンナトリウム30重量%水溶液中のサルコシンナトリウム残量は0.05重量%であり、匂いはほぼ無く、色相安定性試験後のAPHAは10であった。
【0039】
比較例1
実施例1の75%硫酸使用量を、28gとしpHを3に調整した以外は、実施例1と同様に操作を行い、界面活性剤組成物としてN-ラウロイル-N-メチル-β-アラニンナトリウム30重量%水溶液を220g得た。得られたN-ラウロイル-N-メチル-β-アラニンナトリウム30重量%水溶液中のN-メチル-β-アラニンナトリウム残量は1.5重量%であり、何の匂いか分かる弱い匂いがし、色相安定性試験後のAPHAは15であった。
【0040】
比較例2
実施例1の75%硫酸を氷酢酸に変え使用量を20gとしpHを4に調整した以外は、実施例1と同様に操作を行い、界面活性剤組成物としてN-ラウロイル-N-メチル-β-アラニンナトリウム30重量%水溶液を250g得た。得られたN-ラウロイル-N-メチル-β-アラニンナトリウム30重量%水溶液中のN-メチル-β-アラニンナトリウム残量は5重量%であり、楽に感知できる匂いがし、色相安定性試験後のAPHAは30であった。
【0041】
比較例3
実施例1の分液温度を60℃とした以外は実施例1と同様に操作を行ったが、多量の中間層が生成し分液を行うことができず、室温まで冷却したところ多量の塩が析出したことから分析を断念した。
【0042】
比較例4
実施例6の75重量%硫酸使用量を、28gとしpHを3に調整した以外は、実施例6と同様に操作を行い、界面活性剤組成物としてN-ラウロイル-N-ヒドロキシエチル-β-アラニンナトリウム30%水溶液を220g得た。得られたN-ラウロイル-N-ヒドロキシエチル-β-アラニンナトリウム30重量%水溶液中のN-ヒドロキシエチル-β-アラニンナトリウム残量は3重量%であり、楽に感知できる匂いがし、色相安定性試験後のAPHAは50であった。
【0043】
比較例5
実施例1と1回目の分液工程までは同操作を行い、水洗工程を実施せず、中和工程に移行した。界面活性剤組成物としてN-ラウロイル-N-メチル-β-アラニンナトリウム30重量%水溶液を320g得た。得られたN-ラウロイル-N-メチル-β-アラニンナトリウム30重量%水溶液中のN-メチル-β-アラニンナトリウム残量は1.5重量%であり、何の匂いか分かる弱い匂いがし、色相安定性試験後のAPHAは25であった。
【0044】
参考例
比較例2で製造したN-ラウロイル-N-メチル-β-アラニンナトリウム30重量%水溶液に、エチドロン酸を100ppm添加して色相安定性試験を行ったところ、色相安定性試験後のAPHAは10であった。
【0045】
実施例及び比較例に対する上述の試験結果から、界面活性剤組成物中に含まれる一般式(2)のアミノ酸の含有割合が低下することにより、臭いが抑制され、色相安定性も向上することが理解できる。また、一般式(2)のアミノ酸の含有割合が1%以下であれば、臭いがより少なく、色相安定性のより高いN-アシルアミノ酸またはその塩含有の界面活性剤組成物を得ることができた。
【0046】
毛髪洗浄料組成物処方例
下記に示す無香料のヘアシャンプーを調製した。このヘアシャンプー組成物は、いずれも臭気が少なく、安定性試験で色相に変化が無かった。
【0047】
(処方例1)
実施例1の界面活性剤組成物 6.0
ココイルメチルタウリンナトリウム 4.5
コカミドプロピルベタイン 5.0
ラウロイルプロピルベタイン 2.0
PPG2-コカミド 1.0
ポリクオタニウム-10 0.5
クエン酸 pHを6.0に調整
水 残部(上記合計が100となるように調整)
【0048】
(処方例2)
実施例7の界面活性剤組成物 7.0
実施例6の界面活性剤組成物 3.5
ラウロイルプロピルベタイン 6.5
コカミドDEA 0.5
PPG2-コカミド 0.7
ポリクオタニウム-10 0.3
クエン酸 pHを6.0に調整
水 残部(上記合計が100となるように調整)
【0049】
下記に示す無香料のヘアシャンプーを調製した。このヘアシャンプー組成物は、いずれも原料アミノ酸に由来する臭気があり、安定性試験で色相が変色した。
【0050】
(処方比較例1)
比較例1の界面活性剤組成物 6.0
ココイルメチルタウリンナトリウム 4.5
コカミドプロピルベタイン 5.0
ラウロイルプロピルベタイン 2.0
PPG2-コカミド 1.0
ポリクオタニウム-10 0.5
クエン酸 pHを6.0に調整
水 残部(上記合計が100となるように調整)
【0051】
(処方比較例2)
実施例7の界面活性剤組成物 7.0
比較例4の界面活性剤組成物 3.5
ラウロイルプロピルベタイン 6.5
コカミドDEA 0.5
PPG2-コカミド 0.7
ポリクオタニウム-10 0.3
クエン酸 pHを6.0に調整
水 残部(上記合計が100となるように調整)
【要約】      (修正有)
【課題】N-アシルアミノ酸又はその塩を含む界面活性剤組成物について、臭気を抑制でき、色相安定性をより高めることができる新規な技術の提供。
【解決手段】一般式(1)で示されるN-アシルアミノ酸又はその塩を含み、一般式(2)で示されるアミノ酸及びその塩の含有割合が1重量%以下である、界面活性剤組成物。


(式中、RCOは炭素数8~22の脂肪族アシル基を示し、Rは水素原子又は1つの水酸基を有していてもよい炭素数1~4の直鎖又は分岐鎖であるアルキル基を示し、Rは-COOH又は-SOHを示し、nは1、2又は3を示す。)
【選択図】なし