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特許7673406樹脂組成物、積層体およびその製造方法、電極、二次電池ならびに電気二重層キャパシタ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-28
(45)【発行日】2025-05-09
(54)【発明の名称】樹脂組成物、積層体およびその製造方法、電極、二次電池ならびに電気二重層キャパシタ
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/06 20060101AFI20250430BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20250430BHJP
   C08G 69/26 20060101ALI20250430BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20250430BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20250430BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20250430BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20250430BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20250430BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20250430BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20250430BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20250430BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20250430BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20250430BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20250430BHJP
   H01G 11/38 20130101ALI20250430BHJP
   H01G 11/30 20130101ALI20250430BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20250430BHJP
【FI】
C08L77/06
C08K3/013
C08G69/26
B32B27/34
H01M4/62 Z
H01M4/38 Z
H01M4/48
H01M4/485
H01M4/36 E
H01M4/587
H01M4/36 C
H01M4/134
H01M4/131
H01M4/133
H01M4/66 A
H01G11/38
H01G11/30
H01G11/86
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020573464
(86)(22)【出願日】2020-12-28
(86)【国際出願番号】 JP2020049150
(87)【国際公開番号】W WO2021153147
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2023-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2020013248
(32)【優先日】2020-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】弓場 智之
(72)【発明者】
【氏名】茶山 奈津子
(72)【発明者】
【氏名】田邉 脩平
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】特開昭50-121168(JP,A)
【文献】特開2005-206786(JP,A)
【文献】特開昭58-040378(JP,A)
【文献】特開昭57-012801(JP,A)
【文献】特表2000-503701(JP,A)
【文献】特開2005-197603(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 77/06
C08K 3/013
C08G 69/26
B32B 27/34
H01M 4/62
H01M 4/38
H01M 4/48
H01M 4/485
H01M 4/36
H01M 4/587
H01M 4/134
H01M 4/131
H01M 4/133
H01M 4/66
H01G 11/38
H01G 11/30
H01G 11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリアミド樹脂及び(b)溶媒を含む樹脂組成物であって、前記(a)ポリアミド樹脂が、アミド基の窒素原子に結合した水素原子が別の基に置換された構造を主鎖に有し、かつ、フェノキシドアニオン、カルボキシラートアニオンおよびスルホン酸アニオンからなる群より選ばれる少なくとも1種のアニオンと、前記アニオンに対する対カチオンとを側鎖に含む樹脂であり、
前記(a)ポリアミド樹脂が下記一般式(1)で表される構造を繰り返し単位として含み、
【化1】
(Rは炭素数2~30の有機基を示す。Rは炭素数3~50の有機基を示す。RおよびRは、それぞれ独立に、ハロゲン原子または炭素数1~10の有機基を示す。RおよびRの少なくとも一方はRの一部と連結して環状の構造を形成しても良い。また、RとRが直接結合して環状の構造を形成しても良い。R5-およびR6-は、それぞれ独立に、フェノキシドアニオン、カルボキシラートアニオンおよびスルホン酸アニオンからなる群より選ばれる少なくとも1種のアニオンを表す。Mは前記アニオンに対する対カチオンを表す。aおよびaは0~4の整数であり、a+a>0である。)
前記一般式(1)中、a=2であり、かつ、-R(R6-)a-のR部分が下記構造から選ばれる少なくとも1つであり、
【化2】
前記溶媒の80質量%以上は水である、樹脂組成物。
【請求項2】
(a)ポリアミド樹脂及び(b)溶媒を含む樹脂組成物であって、前記(a)ポリアミド樹脂が、アミド基の窒素原子に結合した水素原子が別の基に置換された構造を主鎖に有し、かつ、フェノキシドアニオン、カルボキシラートアニオンおよびスルホン酸アニオンからなる群より選ばれる少なくとも1種のアニオンと、前記アニオンに対する対カチオンとを側鎖に含む樹脂であり、
前記(a)ポリアミド樹脂が下記一般式(1)で表される構造を繰り返し単位として含み、
【化3】
(Rは炭素数2~30の有機基を示す。Rは炭素数3~50の有機基を示す。RおよびRは、それぞれ独立に、ハロゲン原子または炭素数1~10の有機基を示す。RおよびRの少なくとも一方はRの一部と連結して環状の構造を形成しても良い。また、RとRが直接結合して環状の構造を形成しても良い。R5-およびR6-は、それぞれ独立に、フェノキシドアニオン、カルボキシラートアニオンおよびスルホン酸アニオンからなる群より選ばれる少なくとも1種のアニオンを表す。Mは前記アニオンに対する対カチオンを表す。aおよびaは0~4の整数であり、a+a>0である。)
前記一般式(1)中、-R(R6-)a-のR部分が下記構造から選ばれる少なくとも1つであり、
【化4】
(上記はa=0である場合の構造である。a53は1~10の整数を表す。)
【化5】
(上記はa=1である場合の構造である。)
【化6】
(上記はa=2である場合の構造である。)
前記溶媒の80質量%以上は水である、樹脂組成物。
【請求項3】
一般式(1)中、-N(R)-R(R5-)a-N(R)-が下記構造から選ばれる少なくとも1つである、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【化7】
(R~R10は、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基またはt-ブチル基である。R11-、R13-、R15-、R17-、R19-およびR21-は、それぞれ独立に、カルボキシラートアニオン、スルホン酸アニオンの少なくとも1種を表す。Mは前記アニオンに対する対カチオンを表す。R12、R14、R16、R18、R20およびR22は、それぞれ独立に、炭素数1~4の炭化水素基を表す。aは1~6の整数を表す。a、a、a、a10、a12およびa14は、それぞれ独立に、0~4の整数を表し、a=0のときは1~4の整数を表す。a、a、a、a11、a13およびa15は、それぞれ独立に、0~4の整数を表す。a+a、a+a、a12+a13およびa14+a15は、それぞれ独立に、0~4の整数を表す。a+aは0~5の整数を表す。a10+a11は0~6の整数を表す。)
【請求項4】
以下の結合条件Aおよび結合条件Bのうち少なくとも一方を満たす、請求項1~3のいずれかに記載の樹脂組成物;
結合条件A:一般式(1)中、Rにおいて、前記-R5-が結合している炭素原子とアミド基が結合している炭素原子とが隣接していること;
結合条件B:一般式(1)中、Rにおいて、前記-R6-が結合している炭素原子とアミド基が結合している炭素原子とが隣接していること。
【請求項5】
前記Mがアルカリ金属カチオンである、請求項1~4のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項6】
さらに(c)フィラーを含有する、請求項1~のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項7】
(c)フィラーが、炭素、マンガン、アルミニウム、バリウム、コバルト、ニッケル、鉄、ケイ素、チタン、スズ、コバルト、ニッケルおよびゲルマニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種類の原子を含む、請求項記載の樹脂組成物。
【請求項8】
(c)フィラーが、シリコン単体、酸化シリコン、チタン酸リチウム、シリコンカーバイド、それらのうち2つ以上の混合体、それらのうち1つないしは2つ以上の混合体と炭素との混合体、およびそれらのうち1つないしは2つ以上の混合体の表面がカーボンコートされたもの、からなる群より選ばれる少なくとも1種類である、請求項またはに記載の樹脂組成物。
【請求項9】
基材の少なくとも片面に、請求項1~のいずれかに記載の樹脂組成物から製膜された層を有する、積層体。
【請求項10】
請求項1~のいずれかに記載の樹脂組成物を、基材の片面または両面に塗布し塗布膜を形成する工程、および前記塗布膜を乾燥する工程を含む、積層体の製造方法。
【請求項11】
基材の少なくとも片面に、(a)ポリアミド樹脂を含む樹脂組成物から製膜された層を有する積層体を含む電極であって、前記(a)ポリアミド樹脂が、アミド基の窒素原子に結合した水素原子が別の基に置換された構造を主鎖に有し、かつ、フェノキシドアニオン、カルボキシラートアニオンおよびスルホン酸アニオンからなる群より選ばれる少なくとも1種のアニオンと、前記アニオンに対する対カチオンとを側鎖に含む樹脂である、電極。
【請求項12】
請求項11に記載の電極を含む、蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、積層体およびその製造方法、電極、二次電池ならびに電気二重層キャパシタに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、充電可能な高容量電池として、電子機器の高機能化や長時間動作を可能にした。さらに、リチウムイオン電池は自動車などに搭載され、ハイブリッド車、電気自動車の電池として有力視されている。
【0003】
現在広く使われているリチウムイオン電池は、正極としては、コバルト酸リチウムなどの活物質と、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのバインダーとを含むスラリーを、アルミ箔上に塗布して形成されるものを有する。また、負極としては、炭素系の活物質と、PVDFやスチレン・ブタジエン・ゴム(SBR)などのバインダーとを含むスラリーを、銅箔上に塗布して形成されるものを有する。
【0004】
リチウムイオン電池の容量をさらに大きくするために、負極活物質として、シリコン、ゲルマニウムまたはスズを用いることが検討されている。シリコン、ゲルマニウム、スズなどを用いた負極活物質は、リチウムイオンを大量に受け取ることができるために、十分に充電が行われたときと十分に放電が行われた時の体積の変化が大きい。一方で、上述のPVDF、SBRなどのバインダーでは、活物質の体積変化に追従できない。
【0005】
そこで、より高強度、高弾性率のポリイミド樹脂を負極のバインダーとする検討がなされている。しかし、ポリイミド樹脂は、一般的に、N-メチルピロリドンやN,N’-ジメチルアセトアミドなどの有機溶剤にしか溶解せず、環境負荷が高いという問題がある。このため、樹脂を水系の溶媒に混和し、水系バインダーとして用いる検討が進められている。
【0006】
ポリイミド系の樹脂の水溶液に関しては、ポリイミド前駆体に水溶性有機アミンやイミダゾール系化合物を付加させたものの水溶液や(例えば、特許文献1参照)、側鎖に水酸基、カルボキシル基またはスルホン酸基を導入したポリイミド、ポリアミドイミド、ポリベンゾオキサゾールと、アルカリ金属の水酸化物等とを混合した水溶液が知られている(例えば、特許文献2~3、非特許文献1参照)。
【0007】
ポリアミド系の樹脂に関しても、側鎖に水酸基、カルボキシル基またはスルホン酸基を導入したポリアミド系の樹脂と、塩基性化合物とを混合した水溶液が知られている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Macromol Symposia,1996,106,p.345-351
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2014-078416号公報
【文献】特開2011-137063号公報
【文献】国際公開第2019/009135号
【文献】国際公開第2017/110710号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載のようなポリイミド前駆体の水溶液には、ポリマー主鎖が加水分解して水溶液が劣化するため保存安定性に課題があった。また、特許文献2、4および非特許文献1に記載のようなポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド樹脂等の水溶液は、厚膜形成時にクラックが発生するという問題があった。特許文献3に記載のポリイミドはこういった収縮を抑える目的があるが、電池の高容量化に伴う電極のさらなる厚膜化に対して十分とは言えず、耐クラック性に課題があった。さらに、特許文献1~4に記載のポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド樹脂を負極バインダーとして用いた場合、充放電を繰り返した際の1サイクル目の効率(充電容量に対する放電容量の効率)である初回効率が、PVDF、SBRなどのバインダーを用いた場合と比較して小さいという問題や、長期の充放電サイクルにおける特性劣化の問題があった。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑み、保存安定性が良好で、厚膜形成時の耐クラック性を向上させ、負極バインダーとして用いた場合の初回効率、長期サイクル特性が向上する樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、(a)ポリアミド樹脂及び(b)溶媒を含む樹脂組成物であって、前記(a)ポリアミド樹脂が、アミド基の窒素原子に結合した水素原子が別の基に置換された構造を主鎖に有し、かつ、フェノキシドアニオン、カルボキシラートアニオンおよびスルホン酸アニオンからなる群より選ばれる少なくとも1種のアニオンと、前記アニオンに対する対カチオンとを側鎖に含む樹脂であり、
前記(a)ポリアミド樹脂が下記一般式(1)で表される構造を繰り返し単位として含み、
【化8】
(R は炭素数2~30の有機基を示す。R は炭素数3~50の有機基を示す。R およびR は、それぞれ独立に、ハロゲン原子または炭素数1~10の有機基を示す。R およびR の少なくとも一方はR の一部と連結して環状の構造を形成しても良い。また、R とR が直接結合して環状の構造を形成しても良い。R 5- およびR 6- は、それぞれ独立に、フェノキシドアニオン、カルボキシラートアニオンおよびスルホン酸アニオンからなる群より選ばれる少なくとも1種のアニオンを表す。M は前記アニオンに対する対カチオンを表す。a およびa は0~4の整数であり、a +a >0である。)
前記溶媒の80質量%以上は水である、樹脂組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、保存安定性が良好で、厚膜形成時の耐クラック性を向上させ、負極バインダーとして用いた場合の初回効率、長期サイクル特性が向上する樹脂組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る樹脂組成物、積層体およびその製造方法、電極、二次電池ならびに電気二重層キャパシタの好適な実施形態を詳細に説明する。なお、本発明は、これらの実施形態により限定されるものではない。
【0015】
<樹脂組成物>
本発明の実施の形態に係る樹脂組成物は、(a)ポリアミド樹脂を含む樹脂組成物であって、上記(a)ポリアミド樹脂が、アミド基の窒素原子に結合した水素原子が別の基に置換された構造を主鎖に有し、かつ、フェノキシドアニオン、カルボキシラートアニオンおよびスルホン酸アニオンからなる群より選ばれる少なくとも1種のアニオンと、上記アニオンに対する対カチオンとを側鎖に含む樹脂である、樹脂組成物である。
【0016】
((a)ポリアミド樹脂)
本発明に用いられる(a)ポリアミド樹脂は、アミド基の窒素原子に結合した水素原子が別の基に置換された構造を主鎖に有し、かつ、フェノキシドアニオン、カルボキシラートアニオンおよびスルホン酸アニオンからなる群より選ばれる少なくとも1種のアニオンと、上記アニオンに対する対カチオンとを側鎖に含む。(a)ポリアミド樹脂は、フェノキシドアニオン、カルボキシラートアニオン、スルホン酸アニオンからなる群より選ばれる少なくとも1種のアニオンと、上記アニオンに対する対カチオンとを側鎖に有することで、水への溶解性に優れる。
【0017】
上記アニオンとそれに対する対カチオンとを側鎖に有するとは、換言すれば、フェノール塩、カルボン酸塩およびスルホン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つの塩の構造を側鎖に有する、ということができる。
【0018】
ここで主鎖とは、樹脂を構成するポリマーにおいて幹となる線状分子鎖であり、主として炭素原子の連なる鎖を指す。また、側鎖とは主鎖以外の部分を指す。ポリマー構造中にベンゼン環が含まれる場合、そのベンゼン環の中で主鎖に含まれるのは最短距離で上記線状分子鎖を構成する部分であり、そのたの部分は側鎖である。
【0019】
アミド基の窒素原子に結合した水素原子が別の基に置換された構造を主鎖に有するとは、以下のように言い換えられる。通常、ポリアミド樹脂における繰り返し構造としてのアミド基は-CO-NH-で表されるものであるが、本発明に用いられる(a)ポリアミド樹脂は、上記構造における水素原子(H)が他の任意の基に置換されたものを含む。
【0020】
(a)ポリアミド樹脂は、アミド基の窒素原子に結合した水素原子が別の基に置換された構造を主鎖に有することにより、通常のポリアミド樹脂に比べ水素結合する部位が少なくなる。そのため、ポリアミド樹脂同士の分子間相互作用が小さくなり、溶媒、特に水への溶解性が向上すると考えられる。また、分子間相互作用が小さいので、本発明に係る樹脂組成物を塗布して厚膜を形成しようとした際、プリベークで溶媒が揮発しても樹脂成分が急激に収縮することがなく、クラックが発生しにくいと考えられる。
【0021】
また、詳細なメカニズムは不明であるが、(a)ポリアミド樹脂は電気化学的な劣化が小さいため、これをリチウムイオン電池の電極用バインダーとして用いたとき、電池の初回効率、長期サイクル特性が向上する。
【0022】
本発明に用いられる(a)ポリアミド樹脂は、好ましくは下記一般式(1)で表される構造を繰り返し単位として含む樹脂である。
【0023】
【化1】
【0024】
は炭素数2~30の有機基を示す。Rは炭素数3~50の有機基を示す。RおよびRは、それぞれ独立に、ハロゲン原子または炭素数1~10の有機基を示す。RおよびRの少なくとも一方はRの一部と連結して環状の構造を形成しても良い。また、RとRが直接結合して環状の構造を形成しても良い。R5-およびR6-は、それぞれ独立に、フェノキシドアニオン、カルボキシラートアニオンおよびスルホン酸アニオンからなる群より選ばれる少なくとも1種のアニオンを表す。Mは上記アニオンに対する対カチオンを表す。aおよびaは0~4の整数であり、a+a>0である。
【0025】
-R(-R5-)a-はジアミンの残基である。水に対する溶解性の観点から、Rは炭化水素基であることが好ましく、炭素数2~20の炭化水素基であることがより好ましく、炭素数2~15の炭化水素基であることがさらに好ましく、炭素数2~10の炭化水素基であることが最も好ましい。また、負極バインダーとして用いた時の電池の初期効率の観点より、Rは脂肪族基であることが好ましい。
【0026】
5-は、基材との接着性の観点より、カルボキシラートアニオンが好ましい。aは、0~2であることが好ましい。
【0027】
-R(-R5-)a-を与えるジアミンのR部分の具体例としては、ベンジジン、ジアミノジフェニルエーテル、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノジフェニルスルフィド、ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、フェニレンジアミン、ナフタレンジアミン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ジエチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジエチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’,3,3’-テトラメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ジ(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニルおよびそれらの芳香環が水添化された化合物の残基、エチレンジアミン、プロパンジアミン、ブタンジアミン、シクロブタンジアミン、シクロペンタンジアミン、デカンジアミン、シクロノナンジミン、ヘキサメチレンジアミンの残基などが挙げられる。
【0028】
さらに、基材との密着性向上のため、-R(-R5-)a-の1~10モル%が、シロキサン結合を含んだジアミンの残基であってもよい。シロキサン結合を含んだジアミンの残基を与える具体的なジアミンとしては、1,3-ビス(3-アミノプロピル)テトラメチルジシロキサンなどが挙げられる。
【0029】
およびRの具体例としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、イソブチル基、t-ブチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、シクロブチル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。
【0030】
また、RおよびRの少なくとも一方はRの一部と連結して環状の構造を形成しても良い。その場合の-N(R)-R(-R5-)a-N(R)-の具体例としては、aが0である場合はビピペリジンの残基などが挙げられる。aが1~4の整数である場合は3,3’-ビピペリジン-4,4’-ジカルボン酸2ナトリウムの残基などが挙げられる。
【0031】
また、RとRが直接結合して環状の構造を形成しても良い。その場合の-N(R)-R(-R5-)a-N(R)-の具体例としては、aが0である場合は、ピペラジン、ホモピペラジン、メチルピペラジン、ジメチルピペラジンの残基などが挙げられる。aが1~4の整数である場合は、ピペラジン-2-カルボン酸ナトリウム、ホモピペラジン-2-カルボン酸ナトリウムの残基などが挙げられる。
【0032】
耐クラック性、および、負極バインダーとして用いた時の電池の初期効率の観点より、より好ましい-N(R)-R(-R5-)a-N(R)-の例としては、下記構造のものが挙げられる。
【0033】
【化2】
【0034】
~R10は、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基またはt-ブチル基である。R11-、R13-、R15-、R17-、R19-およびR21-は、それぞれ独立に、カルボキシラートアニオンおよびスルホン酸アニオンからなる群より選ばれる少なくとも1種のアニオンを表す。Mは上記アニオンに対する対カチオンを表す。R12、R14、R16、R18、R20およびR22は、それぞれ独立に、炭素数1~4の炭化水素基を表す。aは1~6の整数を表す。a、a、a、a10、a12およびa14は、それぞれ独立に、0~4の整数を表し、a=0のときは1~4の整数を表す。a、a、a、a11、a13およびa15は、それぞれ独立に、0~4の整数を表す。a+a、a+a、a12+a13およびa14+a15は、それぞれ独立に、0~4の整数を表す。a+aは0~5の整数を表す。a10+a11は0~6の整数を表す。
【0035】
-N(R)-R(-R5-)a-N(R)-は、より高い耐クラック性の観点より、下記構造のものがさらに好ましい
【0036】
【化3】
【0037】
-R(-R6-)a-はジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸等の残基である。Rは炭素数3~30の有機基であることが好ましい。水溶液の溶解性の観点から、Rは炭化水素基であることが好ましく、炭素数3~30の炭化水素基であることがより好ましく、炭素数3~15の炭化水素基であることがさらに好ましく、炭素数3~10の炭化水素基であることが最も好ましい。また、負極バインダーとして用いた時の電池の初期効率の観点より、Rは脂肪族基であることが好ましい。
【0038】
6-は、基材との接着性の観点より、カルボキシラートアニオンが好ましい。aは、耐クラック性の観点から0~2の整数であることが好ましい。
【0039】
が0のときのRとしては、ジカルボン酸の残基が挙げられる。好ましくは、テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェニルメタンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、2,2’-ビス(カルボキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス(カルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、アジピン酸、フマル酸、コハク酸、シュウ酸、シクロヘキサン時カルボン酸、シクロペンタンジカルボン酸の残基などが挙げられる。
【0040】
が1のときの-R(-R6-)-の具体例としては、ジカルボン酸の残基のほか、R6-がカルボキシラートアニオンの場合は、トリメリット酸、トリメシン酸、ジフェニルエーテルトリカルボン酸、ビフェニルトリカルボン酸などのトリカルボン酸の残基などが挙げられる。
【0041】
が2のときの-R(-R6--の具体例としては、ジカルボン酸の残基のほか、R6-の一方がカルボキシラートアニオンの場合は、前述したトリカルボン酸の残基が挙げられ、R6-が2つともカルボキシラートアニオンの場合は、テトラカルボン酸の残基が挙げられる。より好ましくは、ピロメリット酸、ビフェニルテトラカルボン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、2,2-ビス(ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,1-ビス(ジカルボキシフェニル)エタン、ビス(ジカルボキシフェニル)メタン、ビス(ジカルボキシフェニル)スルホン、ビス(ジカルボキシフェニル)エーテル、ナフタレンテトラカルボン酸、4,4’-(4,4’-イソプロピリデンジフェノキシ)ジフタル酸、ピリジンテトラカルボン酸、ペリレンテトラカルボン酸などの芳香族テトラカルボン酸の残基や、4-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-1,2-ジカルボン酸などの半芳香族テトラカルボン酸の残基や、シクロブタンテトラカルボン酸、シクロペンタンテトラカルボン酸、シクロヘキサンテトラカルボン酸、ビシクロヘプタンテトラカルボン酸、アダマタンテトラカルボン酸、ブタンテトラカルボン酸などの脂肪族テトラカルボン酸の残基などが挙げられる。
【0042】
耐クラック性、負極バインダーとして用いた時の電池の初期効率の観点より、-R(R6-)a-のR部分のより好ましい具体例として以下の構造が挙げられる。
【0043】
【化4】
【0044】
上記はa=0である場合の構造である。R23~R32は、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基またはt-ブチル基である。耐クラック性の観点から、好ましくはメチル基またはエチル基である。
【0045】
16、a17およびa20~a26は0~4の整数を表す。耐クラック性の観点から、好ましくは0である。a18は1~10の整数を表す。耐クラック性の観点から、好ましくは1~4である。a19は0~3の整数を表す。耐クラック性の観点から、好ましくは0である。
【0046】
~Xは、それぞれ独立に、単結合、-O-、-S-、-CH-、-C(CH-、-C(CF-、-CO-または-SO-で示される基である。
【0047】
【化5】
【0048】
上記はa=1である場合の構造である。R33~R42は、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基またはt-ブチル基である。耐クラック性の観点から、好ましくはメチル基、エチル基である。
【0049】
27、a28、a31、a33およびa35は、それぞれ独立に、0~3の整数を表す。耐クラック性の観点から、好ましくは0である。
【0050】
32、a34、a36およびa37は、それぞれ独立に、0~4の整数を表す。耐クラック性の観点から、好ましくは0である。
【0051】
29は1~10の整数を表す。耐クラック性の観点から、好ましくは1~4である。a30は0~3の整数を表す。耐クラック性の観点から、好ましくは0である。
【0052】
~Xは、それぞれ独立に、単結合、-O-、-S-、-CH-、-C(CH―、-C(CF―、-CO-または-SO-で示される基である。
【0053】
【化6】
【0054】
上記はa=2である場合の構造である。R43~R52は、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基またはt-ブチル基である。耐クラック性の観点から、好ましくはメチル基、エチル基である。
【0055】
38およびa39は、それぞれ独立に、0~2の整数を表す。耐クラック性の観点から、好ましくは0である。
【0056】
40~a44およびa46は、それぞれ独立に、0~3の整数を表す。耐クラック性の観点から、好ましくは0である。
【0057】
45およびa47は、それぞれ独立に、0~4の整数を表す。耐クラック性の観点から、好ましくは0である。
【0058】
~X12は、それぞれ独立に、単結合、-O-、-S-、-CH-、-C(CH-、-C(CF-、-CO-または-SO-で示される基である。
【0059】
53~R62は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子または炭素数1~6の有機基を示す。R53~R62の好ましい具体例としては、水素原子、塩素原子、フッ素原子、炭素数1~4の飽和炭化水素基、炭素数4~6の環状飽和炭化水素基、トリフルオロメチル基などが挙げられる。耐クラック性の観点から、R53~R62はメチル基、エチル基であることがより好ましい。
【0060】
48およびa49は、それぞれ独立に、0~4の整数であって、a48+a49<5である。a51は0~6の整数である。a50およびa52は、それぞれ独立に、0~2の整数である。
【0061】
耐クラック性の観点から、a48+a49<2であることが好ましく、a51は0~2であることが好ましく、0であることがより好ましく、a50およびa52は0~1であることが好ましく、0であることがより好ましい。
【0062】
耐クラック性、長期サイクル特性の観点より、一般式(1)中、a=2であり、かつ、Rが下記構造から選ばれる少なくとも1つであることがさらに好ましい。
【0063】
【化7】
【0064】
負極バインダーとして用いた時の電池の初期効率の観点より、一般式(1)中、Rが下記構造から選ばれる少なくとも1つであることがさらに好ましい。
【0065】
【化8】
【0066】
上記はa=0である場合の構造である。a53は1~10の整数を表す。耐クラック性の観点から、好ましくは1~4である。
【0067】
【化9】
【0068】
上記はa=1である場合の構造である。
【0069】
【化10】
【0070】
上記はa=2である場合の構造である。
【0071】
耐クラック性向上の観点から、一般式(1)中、Rにおいて、上記-R5-が結合している炭素原子とアミド基が結合している炭素原子とが隣接していること(これを「結合条件A」という)が好ましい。また、Rにおいて、上記-R6-が結合している炭素原子とアミド基が結合している炭素原子とが隣接していること(これを「結合条件B」という)が好ましい。そして、結合条件Aと結合条件Bとをともに満たすことが特に好ましい。結合条件Aおよび結合条件Bの少なくとも一方を満たすことにより、分子間の相互作用が弱くなって、溶媒蒸発時の急激な収縮が抑えられる。
【0072】
一般式(1)で表される単位構造は、例えば、[1]2官能基とも2級アミンからなるジアミンと、酸性官能基を有するジカルボン酸またはその誘導体とを反応させて得られる構造、[2]2官能基とも2級アミンからなるジアミンとテトラカルボン酸またはその誘導体とを反応させて得られる構造、[3]2官能基とも2級アミンからなるジアミンとトリカルボン酸またはその誘導体とを反応させて得られる構造、[4]2官能基とも2級アミンからなり、かつ、酸性官能基を有するジアミンとジカルボン酸またはその誘導体とを反応させて得られる構造、[5]2官能基とも2級アミンからなり、かつ、酸性官能基を有するジアミンと酸性官能基を有するジカルボン酸またはその誘導体とを反応させて得られる構造、[6]2官能基とも2級アミンからなり、かつ、酸性官能基を有するジアミンとテトラカルボン酸またはその誘導体とを反応させて得られる構造、[7]2官能基とも2級アミンからなり、かつ、酸性官能基を有するジアミンとトリカルボン酸またはその誘導体とを反応させて得られる構造であることが好ましいが、これらに限定されない。
【0073】
耐クラック性の向上の観点から、一般式(1)で表される単位構造は、(a)ポリアミド樹脂に含まれる全繰り返し単位構造中、50モル%以上含まれることが好ましく、70モル%以上含まれることがより好ましく、90モル%以上含まれることがさらに好ましい。
【0074】
樹脂中の一般式(1)で表される単位構造の含有量は、以下の方法で見積もることができる。一つは、樹脂を赤外分光法(FT-IR)、核磁気共鳴(NMR)、熱重量測定-質量分析(TG-MS)、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF―SIMS)などで分析する方法である。別の方法は、樹脂を各構成成分に分解してから、ガスクロマトグラフィー(GC)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、質量分析(MS)、FT-IR、NMRなどで分析する方法である。さらに別の方法は、高温で樹脂を灰化したあとに、元素分析などで分析する方法である。
【0075】
特に、本発明においては、樹脂を各構成成分に分解してから、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)と質量分析(MS)を組み合わせて分析する。
【0076】
(a)ポリアミド樹脂に含まれていてもよい、一般式(1)で表される単位構造以外の単位構造としては、下記一般式(2)~(4)で表される単位構造が好ましい。
【0077】
【化11】
【0078】
【化12】
【0079】
【化13】
【0080】
63、R67およびR70は、それぞれ独立に、炭素数2~30の有機基を示す。水に対する溶解性の観点から、炭化水素基であることが好ましく、炭素数2~20の炭化水素基であることがより好ましく、炭素数2~15の炭化水素基であることがさらに好ましく、炭素数2~10の炭化水素基であることが最も好ましい。また、負極バインダーとして用いた時の電池の初期効率の観点より、R63、R67およびR70は脂肪族基であることが好ましい。
【0081】
65-、R69-およびR72-は、それぞれ独立に、フェノキシドアニオン、カルボキシラートアニオンおよびスルホン酸アニオンからなる群より選ばれる少なくとも1種のアニオンを表す。Mは上記アニオンに対する対カチオンを表す。
【0082】
54、a56およびa57は、それぞれ独立に、0~4の整数である。a54+a55は>0のため、a55が0のときa54は1~4の整数である。水に対する溶解性の観点から、a54、a56およびa57は、それぞれ独立に、0~4の整数であることが好ましい。
【0083】
63、R67およびR70の具体例としては、Rに挙げたものと同じものが挙げられる。
【0084】
さらに、基材との密着性向上のため、-R63(-R65-)a54-、-R67(-R69-)a56-および-R70(-R72-)a57-の1~10モル%が、それぞれ独立に、シロキサン結合を含んだジアミン残基であってもよい。
【0085】
64、R68およびR71は、それぞれ独立に、炭素数3~50の有機基を示し、炭素数3~30の有機基が好ましい。水に対する溶解性の観点から、R64、R68およびR71は炭化水素基であることが好ましく、炭素数3~30の炭化水素基であることがより好ましく、炭素数3~15の炭化水素基であることがさらに好ましく、炭素数3~10の炭化水素基であることが最も好ましい。また、負極バインダーとして用いた時の電池の初期効率の観点より、R64、R68およびR71は、それぞれ独立に、脂肪族骨格であることが好ましい。
【0086】
66-は、フェノキシドアニオン、カルボキシラートアニオンおよびスルホン酸アニオンからなる群より選ばれる少なくとも1種のアニオンを表す。Mは上記アニオンに対する対カチオンを表す。a55は0~4の整数である。a54+a55は>0のため、a54が0のときa55は1~4の整数である。耐クラック性の観点から、a55は0~2の整数であることが好ましい。
【0087】
64の具体例としては、aが0~1である場合のRに挙げたものと同じものが挙げられる。
【0088】
68の具体例としては、aが2である場合のRに挙げたものと同じものが挙げられる。
【0089】
71の具体例としては、トリメリット酸、トリメシン酸、ジフェニルエーテルトリカルボン酸、ビフェニルトリカルボン酸の残基などが挙げられる。
【0090】
また、本発明の実施の形態に係る樹脂組成物は、(a)ポリアミド樹脂以外の樹脂(以下、「他の樹脂」という)と混合して用いられても良い。他の樹脂の好ましい具体例としては、ポリイミド、(a)ポリアミド樹脂に該当しないポリアミド、ポリアミドイミド、ポリベンゾオキサゾール、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ビニル樹脂、フェノール樹脂およびセルロース樹脂などが挙げられる。特に好ましい例としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンおよびカルボキシメチルセルロースが挙げられる。
【0091】
このとき、樹脂組成物の強度および弾性率の観点から、(a)ポリアミド樹脂は、樹脂全体の80モル%以上含まれることが好ましく、より好ましくは85モル%以上含まれ、さらに好ましくは90モル%以上含まれ、最も好ましくは95モル%以上含まれる。
【0092】
(末端封止剤)
水溶液の安定性、フィラーの分散性の観点で、一般式(1)で表される構造を繰り返し単位として含む樹脂の末端骨格は、下記一般式(5)、(6)および(7)で表される構造から選ばれた少なくとも1つを含むことが好ましい。これらの構造は、(a)ポリアミド樹脂を重合する際に、酸無水物、モノカルボン酸、およびモノアミン化合物などの末端封止剤を用いることで、(a)ポリアミド樹脂に導入される。
【0093】
【化14】
【0094】
73、R76およびR78は、それぞれ独立に、炭素数3~30の有機基を示す。水に対する溶解性の観点から、炭化水素基であることが好ましく、炭素数2~15の炭化水素基であることがより好ましく、炭素数2~10の炭化水素基であることがさらに好ましい。また、負極バインダーとして用いた時の初期効率の観点より、脂肪族基であることが好ましい。
【0095】
75-、R77-およびR79-は、それぞれ独立に、フェノキシドアニオン、カルボキシラートアニオンおよびスルホン酸アニオンからなる群より選ばれる少なくとも1種のアニオンを表す。Mは上記アニオンに対する対カチオンを表す。
【0096】
58~a60は、それぞれ独立に、0~3の整数である。水に対する溶解性の観点から、a58~a60は、それぞれ独立に、1~3の整数であることが好ましい。
【0097】
74はハロゲン原子または炭素数1~10の有機基を示す。R74の好ましい具体例としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、イソブチル基、t-ブチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、シクロブチル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。また、R74はR73の一部と連結して環状の構造を形成しても良い。
【0098】
一般式(5)に示される末端構造を与えるアミンの具体例としては、3,3’-イミノジプロピオン酸2ナトリウム、3-ピペリジンカルボン酸ナトリウム、アゼチジン-3―カルボン酸ナトリウム、4-ピペリジンカルボン酸ナトリウム、2-ピペリジンカルボン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0099】
一般式(6)に示される末端構造を与える酸の具体例としては、コハク酸ナトリウム、マレイン酸ナトリウム、フマル酸ナトリウム、アジピン酸ナトリウム、安息香酸-4-ナトリウムヒドロキシド、ナジック酸ナトリウム、シクロヘキサンジカルボン酸ナトリウム、フタル酸-3-カルボン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0100】
一般式(7)に示される末端構造を与える酸の具体例としては、フタル酸-3-カルボン酸ナトリウム、フタル酸-3-ナトリウムヒドロキシドなどが挙げられる。
【0101】
末端封止剤は、単独又は2種以上を組み合わせて使用できる。また、これら以外の末端封止剤を併用してもよい。
【0102】
(a)ポリアミド樹脂における、上記した末端封止剤の含有量は、カルボン酸残基およびアミン残基を構成する成分モノマーの仕込みモル数の0.1~60モル%の範囲が好ましく、5~50モル%がより好ましい。このような範囲とすることで、塗布する際の溶液の粘性が適度で、かつ優れた膜物性を有した樹脂組成物を得ることができる。
【0103】
アニオンとカチオンを含んだ構造の形成方法として好ましくは、ポリアミドに含まれるフェノール性水酸基、カルボン酸および/またはスルホン酸に、塩基性化合物を作用させる方法が挙げられる。
【0104】
塩基性化合物としては、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の水酸化物や炭酸塩、有機アミン類などが挙げられる。これらの塩基性化合物を用いた場合、本発明における対カチオンは、それぞれ、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、アンモニウムカチオンとなる。
【0105】
特に、樹脂組成物から作製した塗膜の強度、耐薬品性をより向上させる観点、および、長期サイクル特性の観点から、アルカリ金属元素を含む化合物が好ましい。この場合、一般式(1)におけるMはアルカリ金属カチオンとなる。
【0106】
耐クラック性向上、水溶液の長期保存安定性の観点より、一般式(1)中、a=2で樹脂のRがテトラカルボン酸残基であり、かつ、塩基化合物がアルカリ金属元素を含む化合物であるためR6-がカルボキシラートアニオンでMがアルカリ金属カチオンであることがより好ましい。このようなテトラカルボン酸残基であることで、主鎖に含まれるアミド基が結合した炭素と側鎖のR6-とが隣接することとなり、耐クラック性が向上する。また、アルカリ金属との塩とすることで、イミド化や架橋等の副反応がさらに抑制される可能性があり、水溶液の長期保存安定性の向上に寄与する。
【0107】
アルカリ金属の水酸化物の例としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウムおよび水酸化セシウムなどが挙げられる。これらを2種類以上含有しても良い。樹脂組成物の水に対する溶解性および分散安定性を向上させるという観点から、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムが好ましい。
【0108】
アルカリ金属の炭酸塩の例としては、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ルビジウム、炭酸セシウム、炭酸水素セシウムおよび炭酸ナトリウムカリウムなどを挙げることができる。これらを2種類以上含有しても良い。樹脂組成物の水に対する溶解性および分散安定性などの観点から、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウムおよび炭酸ナトリウムカリウムが好ましく、炭酸ナトリウムおよび炭酸水素ナトリウムがより好ましく、炭酸ナトリウムがさらに好ましい。
【0109】
有機アミン類としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、N-メチルエタノールアミンなどの脂肪族3級アミンや、ピリジン、N,N-ジメチルアミノピリジン、ルチジンなどの芳香族アミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシドなどの4級アンモニウム塩などが挙げられる。これらを2種類以上用いても良い。
【0110】
上記の中でも、塩基性化合物としては、炭酸ナトリウムが最も好ましい。すなわち、MがNaであることが好ましい。
【0111】
塩基性化合物の配合量は、それに含まれるアルカリ金属カチオンやアンモニウムカチオンの量が、(a)ポリアミド樹脂中のフェノキシドアニオン、カルボキシラートアニオンおよびスルホン酸アニオンの合計量100モル%に対して、樹脂を十分に溶解できる点、および、長期サイクル特性の観点で、20モル%以上になるよう配合されていることが好ましく、50モル%以上になるよう配合されていることがより好ましく、80モル%以上になるよう配合されていることがさらに好ましい。また、樹脂の分解や塗膜にした際のクラックの発生を防止できる点、および、長期サイクル特性の観点で、450モル%以下になるよう配合されていることが好ましく、300モル%以下になるよう配合されていることがより好ましく、250モル%以下になるよう配合されていることがさらに好ましく、150モル%以下が最も好ましい。
【0112】
上記重縮合反応に用いられる溶媒としては、生成した樹脂が溶解するものであれば特に限定されるものではないが、N-メチル-2-ピロリドン、N-メチルカプロラクタム、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、ジメチルイミダゾリン等の非プロトン性極性溶媒、フェノール、m-クレゾール、クロロフェノール、ニトロフェノールなどのフェノール系溶媒、ポリリン酸、リン酸に5酸化リンを加えたリン系溶媒などを好ましく用いることができる。
【0113】
一般には、これらの溶媒中で、酸無水物またはジカルボン酸ジエステル体とジアミンまたはジイソシアナートとを150℃以上の温度で反応させることにより、ポリイミド重合体を得る。また、反応促進のため、トリエチルアミン、ピリジンなどの塩基類を触媒として添加することができる。その後、水などに投入して樹脂を析出させ、乾燥させることで重合体を固体として得た後、塩基性化合物と混合することによって側鎖に塩を形成させることができる。
【0114】
工程中での不純物混入を避けるためには、好ましくは塩基性化合物の存在下、水中で反応させるのが好ましい。より好ましくは、塩基性化合物、ジアミンが投入された水中にジカルボン酸またはその誘導体、トリカルボン酸またはその誘導体、テトラカルボン酸またはその誘導体を投入して重合することである。
【0115】
((b)水)
本発明の実施の形態に係る樹脂組成物は溶媒として(b)水を含むことが好ましい。水溶液の安定性の観点から、溶媒中の(b)水は、樹脂組成物に含まれる溶媒のうちの80質量%以上を占めることが好ましい。より好ましくは90質量%以上であり、最も好ましくは99質量%以上である。
【0116】
本発明の実施の形態に係る樹脂組成物は、(a)ポリアミド樹脂100質量部に対して、(b)水を50~1,000,000質量部含有することが好ましい。一般に、塗布性の観点からは、(a)の樹脂100質量部に対して、ゲル化を抑制できる点で、(b)水が50質量部以上であることが好ましく、100質量部以上であることがより好ましい。また、分解を抑制できる点で、(a)の樹脂100質量部に対して、(b)水が100,000質量部以下であることが好ましく、3,000質量部以下であることがより好ましい。
【0117】
また、本発明の実施の形態に係る樹脂組成物の粘度は、作業性の観点から、25℃で、1mPa・s~100Pa・sの範囲内であることが好ましい。
【0118】
本発明の実施の形態に係る樹脂組成物は、塗布性をより向上させる観点から、界面活性剤などを含有してもよい。また、エタノールやイソプロピルアルコール等の低級アルコール、エチレングリコールやプロピレングリコール等の多価アルコールといった、有機溶媒を含有してもよい。樹脂組成物中の有機溶媒の含有量は、樹脂組成物全体の50質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。
【0119】
本発明の実施の形態に係る樹脂組成物を作成する際の方法に特に制限はないが、所定量の塩基性化合物を水に溶解させた後に、樹脂粉末を少しずつ溶解させるのが、安全性の観点から好ましい。中和反応が遅い場合は、30~110℃程度の水浴や油浴で加温してもよいし、超音波処理してもよい。溶解した後に、さらに水を加えたり、濃縮したりして所定の粘度に調整してもよい。
【0120】
前述したように、工程中での不純物混入を避けるためには、塩基性化合物の存在下、水中で樹脂の重合反応させるのが好ましい。より好ましくは、塩基性化合物、ジアミンが投入された水中にジカルボン酸またはその誘導体、トリカルボン酸またはその誘導体、テトラカルボン酸またはその誘導体を投入して重合することである。
【0121】
((c)フィラー)
本発明の実施の形態に係る樹脂組成物は、(c)フィラーを含有していてもよい。樹脂組成物が(c)フィラーを含有することにより、樹脂組成物から作製した膜の機械強度や耐熱性が向上する。さらに、(c)フィラーとして、導電性の粒子や、高屈折フィラーまたは低屈折フィラーを用いることにより、樹脂組成物を電子材料や光学材料に利用することも可能である。(c)フィラーを含有する樹脂組成物は、スラリー状であってもよい。
【0122】
(c)フィラーの好ましい例としては、炭素、マンガン、アルミニウム、バリウム、コバルト、ニッケル、鉄、ケイ素、チタン、スズ、およびゲルマニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種類の原子を含む化合物が挙げられる。これらの化合物は、電極活物質、強度補強材、熱伝導物質または高誘電物質としての役割を果たす。このため、本発明の実施の形態に係る樹脂組成物がフィラーを含有し、スラリー状とすることで、電子部品、二次電池、電気二重層キャパシタなどの機能部材用スラリーとして使用できる。
【0123】
二次電池や電気二重層キャパシタにおける正極用のフィラーの例としては、リン酸鉄リチウム、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、活性炭およびカーボンナノチューブなどが挙げられる。
【0124】
二次電池や電気二重層キャパシタにおける負極用のフィラーの例としては、ケイ素単体、酸化ケイ素、炭化ケイ素、スズ、酸化スズ、ゲルマニウム、チタン酸リチウム、ハードカーボン、ソフトカーボン、活性炭およびカーボンナノチューブなどが挙げられる。特に、ケイ素、スズ、またはゲルマニウムを活物質として用いた蓄電池は、充電時に活物質の体積膨張が大きいため、(a)ポリアミド樹脂のような機械強度の高い樹脂をバインダーとして用いることが、活物質の微粉化を防ぐ上で好ましい。また、フィラーがチタン酸リチウムの場合は、レート特性に優れた二次電池や電気二重層キャパシタを得ることができる。
【0125】
負極用のフィラーの例として特に好ましいのは、シリコン単体、酸化シリコン、チタン酸リチウム、シリコンカーバイド、それらのうち2つ以上の混合体、それらのうち1つないしは2つ以上の混合体と炭素との混合体、およびそれらのうち1つないしは2つ以上の混合体の表面がカーボンコートされたもの、からなる群より選ばれる少なくとも1種類である。シリコン単体とは、ケイ素(シリコン)のみからなる物質であり、樹脂組成物の成分となりうるものである。これらの活物質は(a)ポリアミド樹脂による結着性が特に強く、容量維持率の高い二次電池や電気二重層キャパシタを得ることができる。
【0126】
本発明の実施の形態に係る樹脂組成物における(d)フィラーの含有量は、(a)ポリアミド樹脂100質量部に対し、樹脂組成物から得られる膜の機械強度や耐熱性を向上できる点で、0.01質量部以上が好ましく、0.1質量部以上がより好ましい。また、樹脂組成物の塗膜強度を維持できる点で、100,000質量部以下が好ましく、10,000質量部以下がより好ましい。
【0127】
スラリーは、例えば、樹脂を水または溶剤に溶解あるいは分散させたものに、フィラーと、必要によりその他の成分とを添加して、均一に混合することで得ることができる。混合には、プラネタリーミキサー、自転公転式ミキサー、三本ロール、ボールミル、メカニカルスターラー、薄膜旋回型ミキサーなどを用いる方法が挙げられる。
【0128】
<積層体>
本発明の実施の形態に係る積層体は、基材の少なくとも片面に、上述の樹脂組成物から製膜された層を有する。この積層体は、例えば、樹脂組成物を基材の片面または両面に塗布し、乾燥させることで得ることができる。
【0129】
基材としては、銅箔、アルミニウム箔、ステンレス箔などの金属箔や、シリコン基板、ガラス基板、プラスチックフィルムなどが好ましく用いられる。塗布方法としては、ロールコーター、スリットダイコーター、バーコーター、コンマコーター、スピンコーターなどを用いる方法が挙げられる。乾燥温度は、水を完全に除去する上で30℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましい。また、電極のクラックを防ぐ観点から、500℃以下が好ましく、200℃以下がより好ましい。
【0130】
また、本発明の実施の形態に係る樹脂組成物は、電極用スラリーとして用いられる場合においては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブなどの導電助剤を含有しても良い。導電助剤を含有することで、充放電レートを向上させることができる。導電助剤の含有量は、導電性と容量を両立する上で、活物質100質量部に対して0.1~20質量部が好ましい。
【0131】
また、本発明の実施の形態に係る樹脂組成物は、粘度調整のために、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩を含有しても良い。その含有量は、二次電池や電気二重層キャパシタにおいて高い容量維持率を有するという観点で、活物質100質量部に対して50質量部以下が好ましい。
【0132】
積層体の製造方法は、例えば以下の通りである。樹脂組成物、またはフィラーを含有する樹脂組成物を、基材片面または両面に塗布し塗布膜を形成する。そしてその塗布膜を乾燥することで、積層体とする。
【0133】
基材としては、絶縁性基材、導電性基材などが挙げられるが、電子デバイスとして使用する場合に好ましいのは、導電性基材または導電性の配線を有する絶縁基材である。特に、二次電池や電気二重層キャパシタなどに用いられるような電極は、フィラーとして電極活物質を含有する樹脂組成物を、銅箔、アルミ箔、ステンレス箔などの集電体の片面または両面に塗布し、乾燥させることで、得ることができる。
【0134】
このようにして得た正極および負極について、セパレータを介して複数を積層させたものを、電解液と共に金属ケースなどの外装材に入れ、密封することで、二次電池や電気二重層キャパシタといった蓄電デバイスを得ることができる。
【0135】
セパレータの例としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、セルロース、ポリフェニレンスルフィド、アラミド、またはポリイミドなどの素材による、微多孔フィルムや不織布などが挙げられる。
【0136】
電解液の溶剤としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ビニレンカーボネートなどのカーボネート系化合物や、アセトニトリル、スルホラン、γ-ブチロラクトンなどを用いることができる。これらを2種類以上用いてもよい。
【0137】
電解質の例としては、ヘキサフルオロリン酸リチウム、ホウフッ化リチウム、過塩素酸リチウムなどのリチウム塩、テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート、トリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレートなどのアンモニウム塩などが挙げられる。
【実施例
【0138】
本発明を更に詳細に説明するために実施例を以下に挙げるが、本発明はこれらの実施例によってなんら制限されるものではない。各実施例および比較例における樹脂の水溶液安定性、それらを用いた膜の特性評価、および電池特性評価は以下の方法で行った。
【0139】
<水溶液の安定性評価>
水溶液A~Uを冷蔵(3℃)で1ヶ月および6ヶ月、それぞれ放置後、目視観察し、水溶液の安定性を確認した。析出、ゲル化、白濁のいずれも認められないものを良、いずれかの変化があったものは起こった変化を記載した。冷蔵6ヶ月放置で良のものを合格、冷蔵6ヶ月放置でいずれかの変化があったものは不合格とした。
【0140】
<耐クラック性評価(1):樹脂単膜評価>
水溶液A~Uを、アルミ箔上に、バーコーターで幅10cmで塗布した。塗布後、50℃で30分間乾燥し、その後150℃まで30分かけて昇温し、150℃で1時間熱処理後、50℃以下に冷却した。冷却後、膜を目視で観察し、クラックの有無を確認した。この際、クラックがなく形成できる最大の膜厚を評価の指標とした。最大の膜厚が30μm以上のものを合格、30μm未満のものを不合格、40μm以上のものをより好ましい結果とした。
【0141】
<耐クラック性評価(2):スラリー膜の評価>
フィラーの分散性、バインダーとしての結着性を見るために、フィラーを有する樹脂組成物の膜特性評価を行った。フィラーの分散性、バインダーとしての結着性が悪いと、フィラーの凝集による膜厚の均一性の悪化が起こったり、膜にクラックが発生したりする。
【0142】
合成例1~14および16~22で得られた水溶液A~U(固形分濃度30質量%)の各々50質量部に対し、合成例15で得たリチウムイオン電池用負極活物質80質量部と、導電助剤としてアセチレンブラック5質量部と、水65質量部とを混合分散し、固形分50質量%のスラリーを得た。
【0143】
このスラリーを、アルミ箔上に、バーコーターで、熱処理後の膜厚の平均値が50μmになるように厚みを調整し、幅10cmで塗布した。塗布後、50℃で30分間乾燥し、その後150℃まで30分かけて昇温し、150℃で1時間熱処理後、50℃以下に冷却した。冷却後、この膜を直径16mmの円形に5枚切り取り、ジエチルカーボネートとエチレンカーボネートが重量比で50%ずつ混合された溶液に浸漬し、40℃および60℃でそれぞれ1週間放置した。放置後、膜を溶液から取り出して水洗し、50℃で1時間乾燥後、目視で観察し、膜の溶解の有無、クラックの有無を確認した。膜の溶解が認められたものを「溶解」、クラック発生したものを「クラック」、膜の溶解もクラックもないものを「良好」とした。
【0144】
<電池特性評価>
(1)負極の作製
<膜の特性評価(分散性、結着性の評価)>で作製した固形分50質量%のスラリーを用い、電解銅箔上に、バーコーターを用いて、150℃での熱処理後の膜厚が25μmになるように厚みを調整して塗布し、塗布後、110℃で30分間乾燥した。乾燥後、塗布部を直径16mmの円形に打ち抜き、150℃で、24時間の真空乾燥を行い、負極とした。
【0145】
(2)電池特性評価
充放電特性を測定する上で、HSセル(宝泉(株)製)を用い、リチウムイオン電池の組み立てを窒素雰囲気下でおこなった。セパレータには、ポリエチレン多孔質フィルム(宝泉(株)製)を直径24mmに打ち抜いたものを用いた。正極には、コバルト酸リチウム製の活物質をアルミ箔に焼成したもの(宝泉(株)製)を直径16mmに打ち抜いたものを用いた。負極、セパレータおよび正極を順に重ね、電解液としてMIRET1(三井化学(株)製)1mLを注入した上で封入して、リチウムイオン電池を得た。
【0146】
上記のようにして作製したリチウムイオン電池に対し充放電をおこなった。充放電は、6mAの定電流で電池電圧が4.2Vになるまで充電し、さらに4.2Vの定電圧で充電開始から計2時間30分に達するまで充電させた後、30分間休止させ、6mAの定電流で電池電圧が2.7Vになるまで放電させることを、1サイクルとした。
【0147】
(2-1)初回効率の評価
最初のサイクルの充電容量および放電容量を測定し、以下の式に従って、初回効率を算出した。
初回効率(%)=(1サイクル目の放電容量/1サイクル目の充電容量)×100
【0148】
(2-2)長期サイクル特性の評価
上記した充放電条件でさらに299回同様の条件で充放電を繰り返し、計300サイクルについて、各サイクルの充電容量および放電容量を測定した。
以下の式に従って、容量維持率を算出した。
50サイクル後の容量維持率(%)=(50サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100
300サイクル後の容量維持率(%)=(300サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100。
【0149】
合成例1:樹脂Aの合成
よく乾燥させた四ツ口フラスコの中で、水119.48gにN,N’-ジメチルエチレンジアミン(東京化成工業(株)製、以下、DMEDA)8.815g(100mmol)、炭酸ナトリウム10.60g(100mmol)を窒素雰囲気下で撹拌しながら室温で溶解させた。その後、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物(東京化成工業(株)製、以下、6FDA)44.42g(100mmol)、水15.00gを添加し、途中、二酸化炭素の発生に注意しながら、80℃で6時間重合反応させた。反応終了後室温に降温し、濃度30質量%の側鎖にナトリウムカルボキシレートを有するポリアミド樹脂Aの水溶液Aを得た。
【0150】
合成例2:樹脂Bの合成
水119.48g、DMEDA8.815g(100mmol)の代わりに、水119.01g、ピペラジン(東京化成工業(株)製)8.614g(100mmol)を用いた以外は合成例1と同様にして濃度30質量%の側鎖にナトリウムカルボキシレートを有するポリアミド樹脂Bの水溶液Bを得た。
【0151】
合成例3:樹脂Cの合成
水119.01g、6FDA44.42g(100mmol)の代わりに、水87.75g、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物(東京化成工業(株)製、以下、ODPA)31.02g(100mmol)を用いた以外は合成例2と同様にして濃度30質量%の側鎖にナトリウムカルボキシレートを有するポリアミド樹脂Cの水溶液Cを得た。
【0152】
合成例4:樹脂Dの合成
水119.01g、6FDA44.42g(100mmol)の代わりに、水66.26g、無水ピロメリット酸(東京化成工業(株)製、以下、PMDA)21.81g(100mmol)を用いた以外は合成例2と同様にして濃度30質量%の側鎖にナトリウムカルボキシレートを有するポリアミド樹脂Dの水溶液Dを得た。
【0153】
合成例5:樹脂Eの合成
水119.01g、6FDA44.42g(100mmol)の代わりに、水84.01g、3,3’、4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(東京化成工業(株)製、以下、BPDA)29.42g(100mmol)を用いた以外は合成例2と同様にして濃度30質量%の側鎖にナトリウムカルボキシレートを有するポリアミド樹脂Eの水溶液Eを得た。
【0154】
合成例6:樹脂Fの合成
水119.01g、6FDA44.42g(100mmol)の代わりに、水101.75g、3,3’、4,4’-ターフェニルテトラカルボン酸二無水物(東京化成工業(株)製、以下、TPDA)37.02g(100mmol)を用いた以外は合成例2と同様にして濃度30質量%の側鎖にナトリウムカルボキシレートを有するポリアミド樹脂Fの水溶液Fを得た。
【0155】
合成例7:樹脂Gの合成
水119.48g、DMEDA8.815g(100mmol)、6FDA44.42g(100mmol)の代わりに、水103.18g、4,4’-ビピペリジン(東京化成工業(株)製)16.83g(100mmol)、BPDA29.42g(100mmol)を用いた以外は合成例1と同様にして濃度30質量%の側鎖にナトリウムカルボキシレートを有するポリアミド樹脂Gの水溶液Gを得た。
【0156】
合成例8:樹脂Hの合成
水119.01g、6FDA44.42g(100mmol)の代わりに、水64.39g、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物(東京化成工業(株)製、以下、CPDA)21.01g(100mmol)を用いた以外は合成例2と同様にして濃度30質量%の側鎖にナトリウムカルボキシレートを有するポリアミド樹脂Hの水溶液Hを得た。
【0157】
合成例9:樹脂Iの合成
水119.01g、6FDA44.42g(100mmol)の代わりに、水61.59g、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物((株)ワコーケミカル製、以下、BTA)19.81g(100mmol)を用いた以外は合成例2と同様にして濃度30質量%の側鎖にナトリウムカルボキシレートを有するポリアミド樹脂Iの水溶液Iを得た。
【0158】
合成例10:樹脂Jの合成
よく乾燥させた四ツ口フラスコの中で、水100gに2-ピペラジンカルボン酸二塩酸塩(東京化成工業(株)製、以下、2PC)20.31g(100mmol)、炭酸ナトリウム26.50g(250mmol)を窒素雰囲気下で撹拌しながら室温で溶解させた。そこに塩化メチレン30gに溶解させたコハク酸ジクロリド(東京化成工業(株)製)15.50g(100mmol)を、反応槽の温度が10℃を超えないように滴下した。滴下終了後、水層と油層を分離し、水槽に1Nの塩酸を滴下した。滴下によって得られた沈殿物を炉別し、繰り返し純水で洗浄して80℃の真空オーブンで50時間乾燥し、樹脂Jの粉体を得た。
【0159】
水27.30gに炭酸ナトリウム2.65g(25mmol)を窒素雰囲気下で撹拌しながら室温で溶解させた。そこに、先の樹脂Jの粉体10.60gを添加して濃度30質量%の側鎖にナトリウムカルボキシレートを有するポリアミド樹脂Jの水溶液Jを得た。
【0160】
合成例11:樹脂Kの合成
よく乾燥させた四ツ口フラスコの中で、水100gに2-ピペラジンカルボン酸二塩酸塩(東京化成工業(株)製、以下、2PC)20.31g(100mmol)、炭酸ナトリウム26.50g(250mmol)を窒素雰囲気下で撹拌しながら室温で溶解させた。そこに塩化メチレン30gに溶解させたアジピン酸ジクロリド(東京化成工業(株)製)18.30g(100mmol)を、反応槽の温度が10℃を超えないように滴下した。滴下終了後、水層と油層を分離し、水槽に1Nの塩酸を滴下した。滴下によって得られた沈殿物を炉別し、繰り返し純水で洗浄して80℃の真空オーブンで50時間乾燥し、樹脂Kの粉体を得た。
【0161】
水30.58gに炭酸ナトリウム2.65g(25mmol)を窒素雰囲気下で撹拌しながら室温で溶解させた。そこに、先の樹脂Kの粉体12.00gを添加して濃度30質量%の側鎖にナトリウムカルボキシレートを有するポリアミド樹脂Kの水溶液Kを得た。
【0162】
合成例12:樹脂Lの合成
よく乾燥させた四ツ口フラスコの中で、NMP131.79gに3,3’-ジカルボキシ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン(和歌山精化工業(株)製、商品名「MBAA」)27.20g(95mmol)、パラフェニレンジアミン(東京化成工業(株)製、以下、PDA)0.54g(5mmol)を窒素雰囲気下で撹拌しながら室温で溶解させた。その後、BTA19.81g(100mmol)、NMP15.00gを添加し、40℃で2時間反応させた。ついで、反応中に発生する水を留去しながら200℃で6時間重合反応させた。反応終了後室温に降温し、この溶液を水3Lに投入し、得られた沈殿を濾別し、水1.5Lで3回洗浄した。洗浄後の固体を50℃の通風オーブンで3日間乾燥させ、樹脂Lの固体を得た。
【0163】
水56.37gに炭酸ナトリウム5.3g(50mmol)を窒素雰囲気下で撹拌しながら室温で溶解させた。そこに、先の樹脂Lの粉体21.98gを添加して濃度30質量%の側鎖にナトリウムカルボキシレートを有するポリイミド樹脂Lの水溶液Lを得た。
【0164】
合成例13:樹脂Mの合成
よく乾燥させた四ツ口フラスコの中で、NMP131.79gにMBAA28.63g(100mmol)を窒素雰囲気下で撹拌しながら溶解させた。その後、フラスコを氷冷し、NMP15.00gに溶解させたイソフタロイルクロリド(東京化成工業(株)製、以下、IPC)20.30g(100mmol)を溶液の温度を30℃以下に保ちながら滴下した。全量を仕込んだ後30℃で4時間反応させた。この溶液を水3Lに投入し、得られた沈殿を濾別し、水1.5Lで3回洗浄した。洗浄後の固体を50℃の通風オーブンで3日間乾燥させ、樹脂Mの固体を得た。
【0165】
水53.69gに炭酸ナトリウム5.3g(50mmol)を窒素雰囲気下で撹拌しながら室温で溶解させた。そこに、先の樹脂Mの粉体20.82gを添加して濃度30質量%の側鎖にナトリウムカルボキシレートを有するポリアミド樹脂Mの水溶液Mを得た。
【0166】
合成例14:樹脂Nの合成
よく乾燥させた四ツ口フラスコの中で、NMP280.0gに3,5-ジアミノ安息香酸(東京化成(株)製、以下、DAB)14.44g(95mmol)、1,3-ビス-3-アミノプロピルテトラメチルジシロキサン(東レダウコーニングシリコーン(株)製、以下、APDS)1.240g(5mmol)を窒素雰囲気下で撹拌しながら溶解させた。その後、ODPA31.02g(100mmol)、NMP15.00gを添加し、50~60℃で1時間反応させ、その後、イソキノリン0.1gとトルエン30mLを加え、溶液の温度を180℃に上昇し、留出する水を除去しながら反応させた。反応終了後、溶液温度を室温に低下した後、この溶液を水5Lに投入し、黄白色の固体を得た。これをろ過で集め、さらに水1Lで洗浄を繰り返し、ろ過し、50℃の通風オーブンで72時間乾燥し、樹脂Nの固体を得た。
【0167】
水55.42gに炭酸ナトリウム5.3g(50mmol)を窒素雰囲気下で撹拌しながら室温で溶解させた。そこに、先の樹脂Nの粉体21.55gを添加して濃度30質量%の側鎖にナトリウムカルボキシレートを有するポリイミド樹脂Nの水溶液Nを得た。
【0168】
合成例15:リチウムイオン電池用負極活物質の合成
粒径約10μmの天然黒鉛50g(富士黒鉛(株)製、CBF1)と、ナノシリコン粉末60g(アルドリッチ社製)と、カーボンブラック10g(三菱化学(株)製、3050)とを混合し、ボールミル中600回転で12時間よく分散させ、その後、80℃で12時間真空乾燥して、シリコン-炭素の混合負極活物質を得た。
【0169】
合成例16:樹脂Oの合成
水119.48g、6FDA44.42g(100mmol)の代わりに、水136.82g、4,4’-(4,4’-イソプロピリデンジフェノキシ)ジフタル酸無水物(東京化成工業(株)製、以下、BISDA)52.05g(100mmol)を用いた以外は合成例2と同様にして濃度30質量%の側鎖にナトリウムカルボキシレートを有するポリアミド樹脂Oの水溶液Oを得た。
【0170】
合成例17:樹脂Pの合成
水119.01g、炭酸ナトリウム10.60g(100mmol)の代わりに、水116.40g、炭酸ナトリウム7.42g(70mmol)を用いた以外は合成例1と同様にして濃度30質量%の側鎖にナトリウムカルボキシレートを有するポリアミド樹脂Pの水溶液Pを得た。
【0171】
合成例18:樹脂Qの合成
水119.01g、炭酸ナトリウム10.60g(100mmol)の代わりに、水118.46g、炭酸ナトリウム9.54g(90mmol)を用いた以外は合成例1と同様にして濃度30質量%の側鎖にナトリウムカルボキシレートを有するポリアミド樹脂Qの水溶液Qを得た。
【0172】
合成例19:樹脂Rの合成
水119.01g、炭酸ナトリウム10.60g(100mmol)の代わりに、水151.64g、炭酸ナトリウム24.38g(230mmol)を用いた以外は合成例1と同様にして濃度30質量%の側鎖にナトリウムカルボキシレートを有するポリアミド樹脂Rの水溶液Rを得た。
【0173】
合成例20:樹脂Sの合成
水119.01g、炭酸ナトリウム10.60g(100mmol)の代わりに、水136.80g、炭酸ナトリウム18.02g(170mmol)を用いた以外は合成例1と同様にして濃度30質量%の側鎖にナトリウムカルボキシレートを有するポリアミド樹脂Sの水溶液Sを得た。
【0174】
合成例21:樹脂Tの合成
水119.01g、炭酸ナトリウム10.60g(100mmol)の代わりに、水126.95g、水酸化カリウム11.22g(200mmol)を用いた以外は合成例1と同様にして濃度30質量%の側鎖にカリウムカルボキシレートを有するポリアミド樹脂Tの水溶液Tを得た。
【0175】
合成例22:樹脂Uの合成
水119.01g、炭酸ナトリウム10.60g(100mmol)の代わりに、水217.83g、トリエチルルアミン46.55g(460mmol)を用いた以外は合成例1と同様にして濃度30質量%の側鎖にカルボン酸トリエチルアミン塩を有するポリアミド樹脂Uの水溶液Uを得た。
【0176】
実施例1~18、比較例1~3
水溶液A~Uの安定性評価、および、それら水溶液から作製した膜、スラリーを用いて得られた膜の耐クラック性評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0177】
【表1】
【0178】
実施例19~36、比較例4~6
水溶液A~Uから作製した固形分50%のスラリーを用いて得られた膜の電池特性を評価した。評価結果を表2に示す。
【0179】
【表2】