(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-28
(45)【発行日】2025-05-09
(54)【発明の名称】ココア含有顆粒の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23G 1/56 20060101AFI20250430BHJP
A23G 1/32 20060101ALI20250430BHJP
A23G 1/50 20060101ALI20250430BHJP
【FI】
A23G1/56
A23G1/32
A23G1/50
(21)【出願番号】P 2021001116
(22)【出願日】2021-01-06
【審査請求日】2023-10-02
(31)【優先権主張番号】P 2020000711
(32)【優先日】2020-01-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】吉川 翔太
(72)【発明者】
【氏名】藤本 和雄
(72)【発明者】
【氏名】根本 裕太
【審査官】千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-104344(JP,A)
【文献】特開2019-180247(JP,A)
【文献】特開2006-055042(JP,A)
【文献】特開2019-170292(JP,A)
【文献】特開2017-029041(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23G、A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ココア粉末とその他の粉末原料とを含有する粉末混合物を調製し、
前記粉末混合物を、乳化剤を水性溶媒に混合したバインダー液を用いて造粒
し、
前記乳化剤が、HLB値が11以上であるショ糖脂肪酸エステルを含むことを特徴とする、ココア含有顆粒の製造方法。
【請求項2】
前記乳化剤が、
さらに、ポリグリセリン脂肪酸エステル、及びソルビタン脂肪酸エステルからなる群より選択される1種以上の脂肪酸エステルを含む、請求項1に記載のココア含有顆粒の製造方法。
【請求項3】
前記乳化剤が、ラウリン酸エステル及びオレイン酸エステルからなる群より選択される1種以上の脂肪酸エステルを含む、請求項1又は2に記載のココア含有顆粒の製造方法。
【請求項4】
前記乳化剤が、ショ糖脂肪酸エステルとポリグリセリン脂肪酸エステルを含む、請求項1
~3のいずれか一項に記載のココア含有顆粒の製造方法。
【請求項5】
前記その他の粉末原料が、クリーミングパウダーを含む、請求項1~
4のいずれか一項に記載のココア含有顆粒の製造方法。
【請求項6】
前記その他の粉末原料が、結晶調整剤を含む、請求項1~
5のいずれか一項に記載のココア含有顆粒の製造方法。
【請求項7】
前記その他の粉末原料が、でん粉分解物及び甘味料からなる群より選択される1種以上を含む、請求項1~
6のいずれか一項に記載のココア含有顆粒の製造方法。
【請求項8】
前記造粒を、流動層造粒により行う、請求項1~
7のいずれか一項に記載のココア含有顆粒の製造方法。
【請求項9】
ココア粉末とクリーミングパウダーとを含有する粉末混合物を調製し、
前記粉末混合物を、乳化剤を水性溶媒に混合したバインダー液を用いて造粒
し、
前記乳化剤が、HLB値が11以上であるショ糖脂肪酸エステルを含むことを特徴とする、ココア粉末の冷水分散性を改善する方法。
【請求項10】
ココア粉末とクリーミングパウダーとを含有する粉末混合物を調製し、
前記粉末混合物を、乳化剤を水性溶媒に混合したバインダー液を用いて造粒
し、
前記乳化剤が、HLB値が11以上であるショ糖脂肪酸エステルを含むことを特徴とする、ココア粉末の白色化を抑制する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷水への分散性が良好であり、かつブルーミングが抑制されているココア含有顆粒、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ココアは、カカオ(Theobroma cacao L.)の種子であるカカオ豆から一部の脂肪分を除去したものである。カカオ豆の胚乳を発酵させた後、焙煎して磨砕したものをカカオマスと言い、カカオマスを圧搾してココアバターを除いたものをココアという。ココアは粉砕して粉末化したココア粉末として、飲食品の原料として広く用いられている。中でも、ココア粉末を少量の湯と練ってペースト状にし、このペーストを湯で延ばしたココア飲料は、子供から大人まで広く親しまれている嗜好性飲料である。ココアは単独では苦味が強いため、砂糖を加えたり、湯ではなく牛乳で延ばすことで、より飲み易いココア飲料となる。
【0003】
ココア粉末を主要原料とし、水や牛乳等の液体に溶解させることによりココア飲料を調製できるココア飲料用粉末組成物は、近年、その手軽さから非常に人気が高い。一方で、ココアは、脂肪分が10~25%程度と多く、水濡れ性が低い。このため、ココア粉末を直接湯に投入して攪拌しても、ダマになりやすい。そこで、ココア粉末の水馴染みを改善するために、様々な方法が試みられている。
【0004】
例えば、特許文献1には、ココア粉末を顆粒とし、これに油脂に溶解分散した親油性ポリグリセリン脂肪酸エステルと親水性ポリグリセリン脂肪酸エステルを噴霧し、ココア粉末を顆粒とし、これに油脂に溶解分散した親油性ポリグリセリン脂肪酸エステルと親水性ポリグリセリン脂肪酸エステルを噴霧し、表面及び空隙内面が親油性ポリグリセリン脂肪酸エステル及び親水性ポリグリセリン脂肪酸エステルで覆われた顆粒とすることにより、水への溶解性を改善する方法が開示されている。また、特許文献2には、ココア粉末の水への溶解・分散性を改善するために、ココア粉末を中鎖脂肪酸トリグリセライド(MCT)、ジグリセリン脂肪酸エステル、及び特定の粘度を有するプロピレングリコール脂肪酸エステルを含有する油脂組成物で表面を被覆する方法が開示されている。
【0005】
その他、特許文献3には、ココア粉末、粉乳類及び粉末状の糖類を含む混合物を、ジグリセリン脂肪酸エステル水溶液を用いて顆粒化する方法が開示されている。当該方法によって得られた顆粒中では、粉末状の糖類等の比較的可溶性の高い粉体がバインダーのように機能する。加えて、ココア粉末とその他の粉体との境界部分にジグリセリン脂肪酸エステルが存在しており、このジグリセリン脂肪酸エステルにより一層良好な分散溶解性が得られ、かつ保存安定性も良好であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平7-87892号公報
【文献】特開2005-168366号公報
【文献】特開2015-104344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1~3に記載の方法により、ココア粉末の水濡れ性は改善されるものの、冷水への分散性は未だ不十分である。また、ココア粉末やこれを含むココア飲料用粉末組成物では、長期保存時に白色化する、いわゆるブルーミング現象の抑制も十分ではない。
【0008】
本発明は、冷水分散性が良好であり、かつ長期保存時の白色化が抑制されたココア飲料用粉末組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、ココア粉末とクリーミングパウダーとを含む粉末混合物を、乳化剤を水性溶媒に混合したバインダー液を用いて造粒すると、得られた顆粒は、冷水分散性が良好であり、かつ長期保存時に白色化し難いことを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
[1] 本発明の第一の態様に係るココア含有顆粒の製造方法は、ココア粉末とその他の粉末原料とを含有する粉末混合物を調製し、前記粉末混合物を、乳化剤を水性溶媒に混合したバインダー液を用いて造粒し、
前記乳化剤が、HLB値が11以上であるショ糖脂肪酸エステルを含むことを特徴とする。
[2] 前記乳化剤が、さらに、ポリグリセリン脂肪酸エステル、及びソルビタン脂肪酸エステルからなる群より選択される1種以上の脂肪酸エステルを含む、前記[1]のココア含有顆粒の製造方法。
[3] 前記乳化剤が、ラウリン酸エステル及びオレイン酸エステルからなる群より選択される1種以上の脂肪酸エステルを含む、前記[1]又は[2]のココア含有顆粒の製造方法。
[4] 前記乳化剤が、ショ糖脂肪酸エステルとポリグリセリン脂肪酸エステルを含む、前記[1]~[3]のいずれかのココア含有顆粒の製造方法。
[5] 前記その他の粉末原料が、クリーミングパウダーを含む、前記[1]~[4]のいずれかのココア含有顆粒の製造方法。
[6] 前記その他の粉末原料が、結晶調整剤を含む、前記[1]~[5]のいずれかのココア含有顆粒の製造方法。
[7] 前記その他の粉末原料が、でん粉分解物及び甘味料からなる群より選択される1種以上を含む、前記[1]~[6]のいずれかのココア含有顆粒の製造方法。
[8] 前記造粒を、流動層造粒により行う、前記[1]~[7]のいずれかのココア含有顆粒の製造方法。
[9] 本発明の第二の態様に係るココア粉末の冷水分散性を改善する方法は、ココア粉末とクリーミングパウダーとを含有する粉末混合物を調製し、前記粉末混合物を、乳化剤を水性溶媒に混合したバインダー液を用いて造粒し、前記乳化剤が、HLB値が11以上であるショ糖脂肪酸エステルを含むことを特徴とする。
[10] 本発明の第三の態様に係るココア粉末の白色化を抑制する方法は、ココア粉末とクリーミングパウダーとを含有する粉末混合物を調製し、前記粉末混合物を、乳化剤を水性溶媒に混合したバインダー液を用いて造粒し、前記乳化剤が、HLB値が11以上であるショ糖脂肪酸エステルを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、冷水への分散性が良好であり、かつ長期保存時に白色化し難く、保存安定性が良好なココア含有顆粒が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明及び本願明細書において、「ココア飲料用粉末組成物」とは、水や牛乳等の液体に溶解又は希釈させることによってココア飲料を調製し得る組成物を意味する。
【0013】
本発明及び本願明細書において、「粉末」とは粉粒体(異なる大きさの分布をもつ多くの固体粒子からなり,個々の粒子間に,何らかの相互作用が働いているもの)を意味する。また、「顆粒」は粉末から造粒された粒子(顆粒状造粒物)の集合体である。粉末には、顆粒も含まれる。
【0014】
本発明及び本願明細書において、「冷水」とは、10℃以下の水を意味する。また、粉末が「冷水分散性」であるとは、粉末を冷水に投入して、スプーン等を用いて人力で攪拌するだけで、投入された粉末が溶解又は安定して分散していることにより、沈殿しないことを意味する。粉末が「冷水可溶性」であるとは、粉末を冷水に投入して、スプーン等を用いて人力で攪拌するだけで、投入された粉末が溶解していることにより、沈殿しないことを意味する。
【0015】
本発明及び本願明細書において、ココア粉末における「白色化」とは、ココア粉末中の脂質(ココアバター)が粗大結晶化(針状)することによって表面が白く観察される現象であり、いわゆるブルーミング現象を意味する。ココア粉末とその他の粉末原料とを単に混合して調製される従来のココア飲料用粉末組成物は、保存期間が長くなると、ブルーミング現象により粉末が白色化する。白色化は、見た目が損なわれるだけではなく、冷水分散性も低下させる。
【0016】
本発明に係るココア含有顆粒の製造方法(以下、「本発明に係る製造方法」ということがある。)は、ココア粉末とその他の粉末原料とを含有する粉末混合物を調製し、当該粉末混合物を、乳化剤を水性溶媒に混合したバインダー液を用いて造粒することを特徴とする。ココア粉末を他の粉末と一体化して顆粒とすることにより、ココア粉末の水馴染みの低さが希釈され、より水への分散性が改善される。さらに、顆粒化の際の造粒を、乳化剤を水性溶媒に溶解したバインダー液を用いて行うことにより、特に冷水分散性が改善される。
【0017】
本発明に係る製造方法において用いられるバインダー液は、水性溶媒に乳化剤を溶解させたものである。水性溶媒としては、可食性の水性溶媒であればよく、水、又は各種の緩衝液を用いることができ、一般的には水が用いられる。また、当該乳化剤としては、水に溶解しやすいものが好ましく、例えば、食品用乳化剤のうち親水性乳化剤の中から適宜選択して用いることができる。親水性乳化剤としては、例えば、ポリグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、酵素分解レシチン、有機酸モノグリセリド等の中から適宜選択して用いることができる。当該バインダー液に溶解させる親水性乳化剤としては、より親水性が高いことから、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、酵素分解レシチンの中から1種類又は2種類以上を組み合わせて用いることが好ましく、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、及びソルビタン脂肪酸エステルの中から1種類又は2種類以上を組み合わせて用いることがより好ましく、ポリグリセリン脂肪酸エステルとショ糖脂肪酸エステルの少なくとも一方を用いることがさらに好ましく、1種類又は2種類以上のショ糖脂肪酸エステルを用いることや、1種類又は2種類以上のショ糖脂肪酸エステルと1種類又は2種類以上のポリグリセリン脂肪酸エステルとを併用することが特に好ましい。
【0018】
当該バインダー液に溶解させる親水性乳化剤として用いられるショ糖脂肪酸エステルやポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル等の脂肪酸エステルを構成する脂肪酸残基としては、可食性の親水性乳化剤となるものであれば等に限定されるものではなく、例えば、炭素原子数6~24の飽和又は不飽和脂肪酸の脂肪酸残基が挙げられる。なかでも、冷水分散性の改善効果が発揮されやすいことから、ラウリン酸エステル及びオレイン酸エステルからなる群より選択される1種以上の脂肪酸エステルであることが特に好ましい。また、同種の乳化剤同士では、HLBが大きい乳化剤ほど、親水性が高くなる傾向にある。このため、本発明において用いられる親水性乳化剤としては、HLB値が4.5以上のものが好ましく、7以上のものがより好ましく、8以上のものがさらに好ましく、11以上のものがよりさらに好ましい。その他、バインダー液の粘度は高すぎないほうが、造粒が容易になるため、本発明において用いられる親水性乳化剤としては、水に溶解させた際に、粘度が高すぎないものが好ましく用いられる。
【0019】
当該バインダー液中の親水性乳化剤の含有量は、バインダー液として使用可能な程度の粘度となり、かつ造粒されたココア含有顆粒における含有量が、呈味等の製品品質を損なわない程度となる量であれば特に限定されるものではない。例えば、バインダー液中の親水性乳化剤の含有量を、0.1~5質量%、好ましくは0.1~3質量%、より好ましくは0.1~1質量%とすることができる。2種類以上の親水性乳化剤を用いる場合、親水性乳化剤の総含有量が0.1~5質量%とすることができる。
【0020】
当該バインダー液中の親水性乳化剤が、1種類又は2種類以上のショ糖脂肪酸エステルと1種類又は2種類以上のポリグリセリン脂肪酸エステルである場合、ショ糖脂肪酸エステルの総含有量が、ポリグリセリン脂肪酸エステルの総含有量よりも多いことが好ましく、ショ糖脂肪酸エステルの総含有量:ポリグリセリン脂肪酸エステルの総含有量(質量比)が、5000:1~100:1が好ましく、2500:1~500:1がより好ましい。
【0021】
前記粉末混合物に含まれるココア粉末の含有量は、特に限定されるものではない。例えば、得られるココア含有顆粒が十分量のココア粉末を含有しやすいことから、前記粉末混合物に含まれるココア粉末の含有量は、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましい。また、ココア粉末以外の粉末原料を、本発明の効果が奏されるのに十分量を含有させやすいことから、前記粉末混合物に含まれるココア粉末の含有量は、80質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましく、60質量%以下がさらに好ましい。
【0022】
当該バインダー液には、親水性乳化剤の他に、本発明の効果を損なわない範囲において、各種の水溶性の成分を1種類又は2種類以上含有していてもよい。当該他の水溶性成分としては、塩類(ミネラル)、pH調整剤、甘味料、賦形剤等が挙げられる。
【0023】
本発明において、造粒のための原料である粉末混合物に含まれているココア粉末以外の粉末原料は、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。ココア粉末と一体化した顆粒を形成するためのココア粉末以外の粉末原料としては、粉末であれば特に限定されるものではない。例えば、ココア粉末とその他の粉末原料とを単に混合して調製される従来のココア飲料用粉末組成物において、粉末原料とされる甘味料、クリーミングパウダー、乳原料、pH調整剤、ミネラル、賦形剤、結合剤、流動性改良剤、香料、乳化剤等を適宜用いることができる。
【0024】
本発明に係る製造方法において、ココア粉末と混合するその他の粉末原料としては、より冷水分散性が優れており、かつ白色化抑制効果も高いココア含有顆粒を製造できることから、クリーミングパウダーが特に好ましい。ここで、クリーミングパウダーとは、コーヒーや紅茶などの嗜好性飲料に添加するクリームの代用として、植物油脂とカゼインタンパク質等の乳タンパク質と粉末化基材とを含む水中油型乳化物を乾燥粉末化したものである。
【0025】
本発明においてココア粉末とクリーミングパウダーとを一体造粒することにより、冷水分散性や白色化抑制作用に優れたココア含有顆粒が得られる理由は明らかではないが、ココア粉末中のココアバターの粗大結晶化がクリーミングパウダーによって抑制されるためではないかと推察される。白色化が抑制されると、冷水分散性が損なわれることも抑制できる。すなわち、ココア粉末とクリーミングパウダーとを一体造粒したココア含有顆粒は、長期保存後も白色化せず、また冷水分散性も良好であり、長期保存安定性に優れている。
【0026】
クリーミングパウダーは、ヤシ油、パーム油、パーム核油、大豆油、コーン油、綿実油、ナタネ油、乳脂、牛脂、豚脂等の食用油脂;シヨ糖、グルコース、コーンシロップ等の澱粉加水分解物等の糖質;カゼインナトリウム等のタンパク質;全粉乳、脱脂粉乳、ホエイパウダー等の乳原料;第二リン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、乳化剤等のその他の原料等を、望まれる品質特性に応じて選択し、水に分散し、均質化し、乾燥することによって製造できる。本発明に係るクリーミングパウダーの原料となるクリーミングパウダーとしては、植物性油脂と、コーンシロップ等の澱粉加水分解物と、乳タンパク質とを少なくとも含むものが好ましく、乳脂肪分と乳タンパク質とを少なくとも含むものであってもよい。
【0027】
クリーミングパウダーは、例えば、食用油脂をはじめとする原料を水中で混合し、次いで高圧式ホモゲナイザー等の乳化機等を用いて水中油型乳化液(O/Wエマルション)とした後、水分を除去することによって製造することができる。水分を除去する方法としては、噴霧乾燥、噴霧凍結、凍結乾燥、凍結粉砕、押し出し造粒法等、任意の方法を選択して行うことができる。得られたクリーミングパウダーは、必要に応じて、分級、造粒及び粉砕等を行ってもよい。
【0028】
本発明においてココア粉末と一体造粒されるクリーミングパウダーとしては、冷水可溶性のクリーミングパウダーがより好ましい。冷水可溶性のクリーミングパウダーを用いることにより、製造されたココア含有顆粒の冷水可溶性や白色化抑制作用をより優れたものとすることができる。冷水可溶性のクリーミングパウダーとしては、冷水可溶性を改善する各種の工夫がなされた公知のクリーミングパウダーの中から適宜選択して用いることができる。
【0029】
前記粉末混合物に含まれるクリーミングパウダーの含有量は、特に限定されるものではない。例えば、得られるココア含有顆粒において、冷水分散性の改善や白色化抑制の効果が発揮されやすいことから、前記粉末混合物に含まれるクリーミングパウダーの含有量は、5~50質量%が好ましく、10~40質量%がより好ましい。
【0030】
造粒のための原料である粉末混合物に含まれる甘味料としては、砂糖、ショ糖型液糖、オリゴ糖、ブドウ糖果糖液糖等の糖類;エリスリトール、トレハロース、ソルビトール等の糖アルコール;アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、ステビア等の高甘味度甘味料等が挙げられる。砂糖としては、グラニュー糖、上白糖であってもよく粉糖であってもよい。
【0031】
前記粉末混合物に含まれる乳原料としては、クリーミングパウダー以外であって、全粉乳、脱脂粉乳、ホエイパウダー、牛乳、低脂肪乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖練乳、加糖練乳、無糖脱脂練乳、加糖脱脂練乳、乳糖、生クリーム、バター等が挙げられる。なお、全粉乳及び脱脂粉乳は、それぞれ、牛乳(全脂乳)又は脱脂乳を、スプレードライ等により水分を除去して乾燥し粉末化したものである。
【0032】
前記粉末混合物に含まれるpH調整剤としては、有機酸のナトリウム塩、有機酸のカリウム塩、無機酸のナトリウム塩、無機酸のカリウム塩等を用いることができる。中でも、クエン酸、グルコン酸、コハク酸、酢酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、リン酸、炭酸のナトリウム塩及びカリウム塩が好ましい。
【0033】
前記粉末混合物に含まれる賦形剤としては、例えば、でん粉、でん粉分解物、糖類、食物繊維等が挙げられる。でん粉としては、タピオカでん粉、モチゴメでん粉、コメでん粉、馬鈴薯でん粉、小麦でん粉、コーンでん粉、ワキシーコーンでん粉、サトイモでん粉、サゴでん粉等の可食性のでん粉が挙げられ、これらのでん粉をヒドロキシプロピル化、アセチル化、リン酸モノエステル化等の加工処理や架橋処理を施したものであってもよい。でん粉分解物としては、粉あめ、水あめ、デキストリン、マルトデキストリン等が挙げられる。糖類としては、乳糖、麦芽糖、ショ糖、トレハロース、オリゴ糖等が挙げられる。食物繊維としては、難消化性デキストリン、セルロース等が挙げられる。
【0034】
前記粉末混合物に含まれる酸化防止剤としては、例えば、ビタミンC(アスコルビン酸)、ビタミンE(トコフェロール)、BHT(ジブチルヒドロキシトルエン)、BHA(ブチルヒドロキシアニソール)、エリソルビン酸ナトリウム、没食子酸プロピル、亜硫酸ナトリウム、二酸化硫黄、クロロゲン酸、カテキン等が挙げられる。
【0035】
前記粉末混合物に含まれる流動性改良剤としては、微粒酸化ケイ素、第三リン酸カルシウム等の加工用製剤が挙げられる。
【0036】
前記粉末混合物に含まれる香料としては、ミルク香料、ココア香料、シナモン、キャラメル、チョコレート、ハチミツ等の、一般的にココア飲料やチョコレートに添加される香料等が挙げられる。
【0037】
前記粉末混合物には、従来、ココア粉末の白色化を抑制するために用いられている結晶調整剤を含有させることも好ましい。結晶調整剤としては、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0038】
前記粉末混合物を、前記バインダー液を用いて造粒することにより、ココア含有顆粒が得られる。当該造粒は、流動層造粒、転動造粒、押出造粒する等公知の湿式造粒法を使用することができるが、顆粒内部に十分な空隙があり、より水への濡れ性の高い顆粒が得られることから、流動層造粒により行うことが好ましい。流動層造粒は、市販されている流動層造粒装置を使用して常法により行うことができる。
【0039】
本発明に係る製造方法により製造されたココア含有顆粒は、それ自体をそのままココア飲料用粉末組成物としてもよく、その他の粉末と混合してココア飲料用粉末組成物としてもよい。こうして得られたココア飲料用粉末組成物は、冷水分散性が良好であり、かつ白色化が抑制されており、長期保存安定性に優れている。
【0040】
ココア含有顆粒と混合してココア飲料用粉末組成物を製造するためのその他の粉末としては、甘味料、クリーミングパウダー、乳原料、pH調整剤、ミネラル、賦形剤、結合剤、流動性改良剤、香料、乳化剤等が挙げられる。これらの粉末は、本発明に係る製造方法で用いられる粉末原料として前記で列挙されたものを用いることができる。
【0041】
本発明に係る製造方法により製造されたココア含有顆粒を含むココア飲料用粉末組成物は、飲用1杯分を小パウチなどに個包装したり、使用時に容器から振り出したりスプーンで取り出したりして使用するように瓶などの容器に数杯分をまとめて包装して商品として供給することもできる。
【0042】
個包装タイプとは、スティック状アルミパウチ、ワンポーションカップなどにココア飲料1杯分の中身を充填包装するものである。個包装タイプは、1杯分が密閉包装されているので取り扱いも簡単で、衛生的であるという利点を有する。
【実施例】
【0043】
次に実施例等を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例等に限定されるものではない。なお、以下の実施例等において、特に記載がない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0044】
[実施例1]
表1の処方にて、ココア含有顆粒を製造し、その冷水分散性と白色化への影響を調べた。
表1中、「結晶調整剤」は、ソルビタン脂肪酸エステルを用いた。また、表中の「その他」は、食塩や砂糖以外の甘味料等である。表中の(A)の成分を混合した粉末混合物を調製し、これに、表中の成分(B)を、括弧内の濃度となるように水に溶解させて調製したバインダー液を用いて、表中のバインダー加水率(粉末混合物に対して添加するバインダー液の割合(%))となるような条件で流動層造粒を行った。流動層造粒装置は、「FLO-1」(フロイント産業社製)を用いた。
【0045】
【0046】
得られたココア含有顆粒を、ココア飲料1杯分ずつ(試験区1~2の場合は約4.58g、試験区3~4の場合は約10.5g、試験区5~6の場合は約9.7g、試験区7の場合は約11.0g)、スティック状アルミパウチに収容して密封し、常温(22℃環境下)で10か月保存した。試験区1及び2については、さらに、製造されたココア含有顆粒に、クリーミングパウダーB、デキストリン、及び甘味料を添加し、試験区3の配合(10.5g分)とおおよそ同一配合になるよう混合した粉末組成物も、それぞれスティック状アルミパウチに収容して密封し、同様に保存した。各試験区の粉末組成物について、常温(約22℃)環境下で保存開始前(0日目)と保存開始から1週間目、2週間目、1か月目、3か月目、5か月目、及び10か月目に、冷水分散性と色の変化を評価した。
【0047】
各試験区の粉末組成物のブルーミングによる色の変化は、色差計(SE6000、日本電色工業社製)を用いて、色差(L、a、b)を測定して行った。ブルーミングにより白色化すると、L*が高くなる。測定結果を表2に示す。表中、「ΔL*」は、保存0日目のL*値との差を示し、「―」は未測定を意味する。
【0048】
【0049】
この結果、クリーミングパウダーと共に一体的に造粒した試験区3~7のココア含有顆粒は、クリーミングパウダーとは別個に顆粒化した試験区1のココア含有顆粒よりも、経時的なL*の変化が小さく、白色化が抑えられていた。結晶調整剤と共に顆粒化した試験区2のココア含有顆粒は、試験区1のココア含有顆粒よりも、経時的なL*の変化が小さく、白色化が抑えられていた。すなわち、試験区3~7のココア含有顆粒は、結晶調整剤と共に顆粒化した試験区2のココア含有顆粒と同様に、ブルーミングが抑えられていた。また、結晶調整剤無添加の試験区3のココア含有顆粒は、結晶調整剤を添加した試験区4のココア含有顆粒よりも、経時的なL*の変化が小さかった。このことから、クリーミングパウダーと共に一体的に造粒することで、結晶調整剤を使用せずとも同程度に優れたブルーミング抑制効果が得られることが示唆された。
【0050】
冷水分散性は、以下の通りにして評価した。まず、各試験区のココア含有顆粒をビーカーに入れ、重量(g)を測定した(表3及び4中、「測定量(g)」)。その後、当該ビーカーに5℃の冷水180mL又は5~7℃の冷牛乳150mLを注入し、薬さじで25回攪拌してココア飲料を調製した。その後、各ココア飲料を目開きが355μmのメッシュに流し込んだ後、メッシュの水分をふき取り、メッシュ上に残った固体(分散せず、ダマになった粉末の塊)の重量(g)(表3及び4中、「溶け残り量(g)」)を測定した。また、ココア飲料の調製に使用したココア含有顆粒の全量に対する、メッシュ上に残った固体の量の割合を分散率([溶け残り量(g)]/[測定量(g)」])とした。また、冷水分散性の定性的評価として、分散した顆粒の割合が85%超100%以下を「優(〇)」、70%超85%以下を「良(△)」、70%以下を「不良(×)」とした。測定結果を表3及び4に示す。表中、「―」は未測定を意味する。
【0051】
【0052】
【0053】
全ての試験区のココア含有顆粒は、製造後保存前には、冷水分散性は良好であった。試験区1のココア含有顆粒のみからなるココア飲料は、1週間保存後でも既に冷水分散性が悪化していた。試験区1のココア含有顆粒にクリーミングパウダーを混合した粉末組成物からなるココア飲料は、クリーミングパウダー無しのココア飲料よりも冷水分散安定性が改善されていた。
【0054】
一方で、ブルーミングが抑えられていた試験区2~7のココア含有顆粒は、1週間保存後には、試験区1のココア含有顆粒よりも冷水分散性が良好であった。試験区3~6のココア含有顆粒は、冷牛乳に対する分散性も良好であった。これらの結果から、クリーミングパウダーとココア粉末とを一体的に顆粒化することにより、冷水分散性を改善できることがわかった。
【0055】
[実施例2]
表5の処方にて、ココア含有顆粒を製造し、その冷水分散性と白色化への影響を調べた。乳化剤としては、ショ糖脂肪酸エステルとして、「L-1695」、「S-1170」、「S-570」、「O-1570」(いずれも、三菱化学フーズ社製)、ポリグリセリン脂肪酸エステルとして、「L-10D」、「SWA-10D」(いずれも、三菱化学フーズ社製)、「ポエムDO-100V」(理研ビタミン社製)、ソルビタン脂肪酸エステルとして、「ポエムP-10V」、「ポエムS-60V」、「ポエムO-80V」(いずれも、理研ビタミン社製)、「エマゾールL-10V」(花王社製)、有機酸モノグリセリドとしては、「ポエムW-60」(理研ビタミン社製)、「サンソフトNo.621B」(太陽化学社製)を、それぞれ用いた。
【0056】
【0057】
表1中、「結晶調整剤」は、ソルビタン脂肪酸エステルを用いた。また、表中の「その他」は、食塩や砂糖以外の甘味料等である。表中の(A)の成分を混合した粉末混合物を調製し、これに、表中の成分(B)を、括弧内の濃度となるように水に溶解させて調製したバインダー液を用いて、表中のバインダー加水率(粉末混合物に対して添加するバインダー液の割合(%))となるような条件で流動層造粒を行った。流動層造粒装置は、「FLO-1」(フロイント産業社製)を用いた。
【0058】
得られたココア含有顆粒を、ココア飲料1杯分(10.5g)ずつ、スティック状アルミパウチに収容して密封し、40℃又は常温(22℃環境下)で2週間保存した。その後、各試験区の粉末組成物について、冷水分散性と耐白色性を評価した。
【0059】
冷水分散性は、以下の通りにして評価した。まず、各試験区のココア含有顆粒をビーカーに入れ、当該ビーカーに5℃の冷水180mL又は5~7℃の冷牛乳150mLを注入し、薬さじで25回攪拌してココア飲料を調製した。その後、各ココア飲料を目開きが355μmのメッシュに流し込んだ後、メッシュの水分をふき取り、メッシュ上に残った固体(分散せず、ダマになった粉末の塊)の重量(g)(表6~9中、「溶け残り量(g)」)を測定した。冷水分散性の評価は、溶け残り量が5.25g(50%)未満の場合に「良(〇)」、5.25g(50%)以上の場合に「不良(×)」とした。
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
この結果、40℃で2週間保存したものと、22℃で2週間保存したものでは、冷水分散性に差がなかった。また、脂肪酸がラウリン酸又はオレイン酸である脂肪酸エステルを乳化剤とした試験区は、いずれも、脂肪酸がステアリン酸やパルミチン酸である脂肪酸エステルを乳化剤とした試験区よりも、冷水分散性が良好であった。
【0065】
各試験区の粉末組成物の色の測定を、色差計(SE6000、日本電色工業社製)を用いて、色差(L、a、b)を測定して行った。測定結果を表6~9に示す。表中、「ΔL」は、22℃保存2週間目のL値から、40℃保存2週間目のL値の差を示す。ΔLが大きいほど、保存時に色が変化しやすいことを意味する。