IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 凸版印刷株式会社の特許一覧

特許7673430包装体用積層体、包装体、及び、包装体用樹脂フィルム
<>
  • 特許-包装体用積層体、包装体、及び、包装体用樹脂フィルム 図1
  • 特許-包装体用積層体、包装体、及び、包装体用樹脂フィルム 図2
  • 特許-包装体用積層体、包装体、及び、包装体用樹脂フィルム 図3
  • 特許-包装体用積層体、包装体、及び、包装体用樹脂フィルム 図4
  • 特許-包装体用積層体、包装体、及び、包装体用樹脂フィルム 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-28
(45)【発行日】2025-05-09
(54)【発明の名称】包装体用積層体、包装体、及び、包装体用樹脂フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/36 20060101AFI20250430BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20250430BHJP
   B32B 7/02 20190101ALI20250430BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20250430BHJP
   B32B 15/09 20060101ALI20250430BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20250430BHJP
【FI】
B32B27/36
B32B27/00 H
B32B7/02
B32B9/00 A
B32B15/09 A
B65D65/40 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021036755
(22)【出願日】2021-03-08
(65)【公開番号】P2022136920
(43)【公開日】2022-09-21
【審査請求日】2024-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】宮本 隆司
(72)【発明者】
【氏名】本多 洋子
(72)【発明者】
【氏名】山川 秀之
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-209645(JP,A)
【文献】特開2020-049941(JP,A)
【文献】米国特許第04959421(US,A)
【文献】特開平02-003417(JP,A)
【文献】特開平02-269152(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C08G63/00-64/42
B65D65/00-65/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
包装体用積層体であって、
樹脂フィルムと、
前記樹脂フィルムに積層され且つ無機酸化物膜及び金属膜の少なくとも一方を有するガスバリア層と、を含み、
前記樹脂フィルムは、
分子量が1000以上100万以下であるポリエチレンテレフタレートを含み、
厚さが6μm以上50μm以下であり、
H-NMRで測定されるスペクトルにおいて、化学シフト値が7.40ppm以上8.15ppm以下でありテレフタル酸成分に由来するシグナルを積分した積分値(I)と、化学シフト値が7.11ppm以上7.25ppm以下でありイソフタル酸成分に由来するシグナルを積分した積分値(I)との比率(I/I)が、2×10 -3 以上4×10 -3 以下であり、
前記積分値(I)と、化学シフト値が8.34ppm以上8.36ppm以下でありナフタレンジカルボン酸成分に由来するシグナルを積分した積分値(I)との比率(I/I)が、2×10 -4 以上3×10 -4 以下であり、
前記樹脂フィルムの表面における面配向係数が0.17以上である、
包装体用積層体。
【請求項2】
前記ガスバリア層は前記無機酸化物膜であり、
前記無機酸化物膜は、
酸化アルミニウム、及び酸化ケイ素の少なくとも一方を含み、厚さが5nm以上300nm以下の気相堆積膜である、請求項に記載の包装体用積層体。
【請求項3】
前記ガスバリア層は、
前記無機酸化物膜及び前記金属膜の少なくとも一方を有する気相堆積膜と塗布膜とからなり、
前記気相堆積膜は前記樹脂フィルム上に位置し、
前記塗布膜は、
前記気相堆積膜上に位置し、
Si(OR、または、RSi(OR(OR及びORは加水分解性基であり、Rは有機官能基である)で表されるケイ素化合物、または、ケイ素化合物の加水分解物を1種類以上と、水酸基を有する水溶性高分子と、を含むとともに、
厚さが、0.05μm以上30μm以下である、請求項1又は2に記載の包装体用積層体。
【請求項4】
前記ガスバリア層は、アルミニウムからなる前記金属膜である、請求項1~3のいずれか1項に記載の包装体用積層体。
【請求項5】
積層体を備える包装体であって、
前記積層体は、
樹脂フィルムと、
前記樹脂フィルムに積層され且つ無機酸化物膜及び金属膜の少なくとも一方を有するガスバリア層と、を含み、
前記樹脂フィルムは、
分子量が1000以上100万以下であるポリエチレンテレフタレートを含み、
厚さが6μm以上50μm以下であり、
H-NMRで測定されるスペクトルにおいて、化学シフト値が7.40ppm以上8.15ppm以下でありテレフタル酸成分に由来するシグナルを積分した積分値(I)と、化学シフト値が7.11ppm以上7.25ppm以下でありイソフタル酸成分に由来するシグナルを積分した積分値(I)との比率(I/I)が、2×10 -3 以上4×10 -3 以下であり、
前記積分値(I)と、化学シフト値が8.34ppm以上8.36ppm以下でありナフタレンジカルボン酸成分に由来するシグナルを積分した積分値(I)との比率(I/I)が、2×10 -4 以上3×10 -4 以下であり、
前記樹脂フィルムの表面における面配向係数が0.17以上である、
包装体。
【請求項6】
無機酸化物膜及び金属膜の少なくとも一方を有するガスバリア層を積層されることによって積層体を構成する包装体用樹脂フィルムであって、
分子量が1000以上100万以下であるポリエチレンテレフタレートを含み、
厚さが6μm以上50μm以下であり、
H-NMRで測定されるスペクトルにおいて、化学シフト値が7.40ppm以上8.15ppm以下でありテレフタル酸成分に由来するシグナルを積分した積分値(I)と、化学シフト値が7.11ppm以上7.25ppm以下でありイソフタル酸成分に由来するシグナルを積分した積分値(I)との比率(I/I)が、2×10 -3 以上4×10 -3 以下であり、
前記積分値(I)と、化学シフト値が8.34ppm以上8.36ppm以下でありナフタレンジカルボン酸成分に由来するシグナルを積分した積分値(I)との比率(I/I)が、2×10 -4 以上3×10 -4 以下であり、
前記包装体用樹脂フィルムの表面における面配向係数が0.17以上である、
包装体用樹脂フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包装体用積層体、包装体、及び、包装体用樹脂フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートを含む樹脂フィルムは、食品、医薬品、化粧品などの内容物を包装するための包装体に広く用いられている。一般的に、この樹脂フィルムは、僅かに酸素や水素などの気体を透過させる性質を有する。そのため、包装体として、樹脂フィルムと、金属膜や金属酸化膜などを含むガスバリア層との積層体が使用されている(例えば、特許文献1参照)。また、樹脂フィルム自体も、樹脂フィルムの材料が気体を透過させにくい性質であるガスバリア性が高い材料からなることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-81607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、内容物を樹脂フィルムとガスバリア層との積層体からなる包装体で包装した商品の流通過程では、摩擦、屈曲などの変形を生じさせる外力が商品に対して繰り返し加わる。このように外力が包装体に繰り返し加わると、ガスバリア層にクラックが形成され、包装体の気密性が失われてしまう。そのため、積層体には、ガスバリア性を高めるだけでなく、変形に対する耐性も高めて、包装体の気密性を包括的に向上させることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する包装体用積層体は、樹脂フィルムと、前記樹脂フィルムに積層されたガスバリア層と、を含み、前記樹脂フィルムは、ポリエチレンテレフタレートを含み、H-NMRで測定されるスペクトルにおいて、化学シフト値が7.40ppm以上8.15ppm以下でありテレフタル酸成分に由来するシグナルを積分した積分値(I)と、化学シフト値が7.11ppm以上7.25ppm以下でありイソフタル酸成分に由来するシグナルを積分した積分値(I)との比率(I/I)が、1×10-3以上6×10-3以下であり、前記積分値(I)と、化学シフト値が8.34ppm以上8.36ppm以下でありナフタレンジカルボン酸成分に由来するシグナルを積分した積分値(I)との比率(I/I)が、1×10-4以上5×10-4以下である。
【0006】
上記課題を解決する包装体は、積層体を備える包装体であって、前記積層体は、樹脂フィルムと、前記樹脂フィルムに積層されたガスバリア層と、を含み、前記樹脂フィルムは、ポリエチレンテレフタレートを含み、H-NMRで測定されるスペクトルにおいて、化学シフト値が7.40ppm以上8.15ppm以下でありテレフタル酸成分に由来するシグナルを積分した積分値(I)と、化学シフト値が7.11ppm以上7.25ppm以下でありイソフタル酸成分に由来するシグナルを積分した積分値(I)との比率(I/I)が、1×10-3以上6×10-3以下であり、前記積分値(I)と、化学シフト値が8.34ppm以上8.36ppm以下でありナフタレンジカルボン酸成分に由来するシグナルを積分した積分値(I)との比率(I/I)が、1×10-4以上5×10-4以下である。
【0007】
上記課題を解決する樹脂フィルムは、ガスバリア性を有したガスバリア層を積層されることによって包装袋用の積層体を構成する樹脂フィルムであって、ポリエチレンテレフタレートを含み、H-NMRで測定されるスペクトルにおいて、化学シフト値が7.40ppm以上8.15ppm以下でありテレフタル酸成分に由来するシグナルを積分した積分値(I)と、化学シフト値が7.11ppm以上7.25ppm以下でありイソフタル酸成分に由来するシグナルを積分した積分値(I)との比率(I/I)が、1×10-3以上6×10-3以下であり、前記積分値(I)と、化学シフト値が8.34ppm以上8.36ppm以下でありナフタレンジカルボン酸成分に由来するシグナルを積分した積分値(I)との比率(I/I)が、1×10-4以上5×10-4以下である。
【0008】
上記各構成によれば、イソフタル酸成分に由来する7.11ppm以上7.25ppm以下におけるシグナルの積分値とテレフタル酸成分に由来する7.40ppm以上8.15ppm以下におけるシグナルの積分値との比率(I/I)が1×10-3以上6×10-3以下であるため、樹脂フィルムの柔軟性が高められる。樹脂フィルムの柔軟性を高めることで、積層体に対して加えられた荷重を樹脂フィルムが吸収しやすくなるため、ガスバリア層に加わる荷重が低減され、耐屈曲性等が高められる。また、ナフタレンジカルボン酸成分に由来する8.34ppm以上8.36ppm以下におけるシグナルの積分値の比率(I/I)が1×10-4以上5×10-4以下であるため、樹脂フィルムの面配向係数を大きくすることができる。面配向係数を大きくすることにより、樹脂フィルム自体のガスバリア性が高められる。よって、ガスバリア層を積層した積層体の気密性を包括的に高めることができる。
【0009】
上記包装体用積層体について、前記積分値(I)と前記積分値(I)との比率(I/I0)が、2×10-3以上4×10-3以下であり、前記積分値(I)と前記積分値(I)との比率(I/I0)が、2×10-4以上3×10-4以下である。
上記構成によれば、ガスバリア層を積層した積層体樹脂フィルムの気密性を包括的に高めることができる。
上記包装体用積層体について、前記ガスバリア層は、酸化アルミニウム、及び酸化ケイ素の少なくとも一方を含んでいてもよい。
上記構成によれば、樹脂フィルムに透明性を有する被膜を形成することができる。また、ガスバリア層の水蒸気透過性及び酸素透過性等を低くすることによって、積層体のガスバリア性を向上させることができる。また、上記の樹脂フィルムと、酸化アルミニウム、及び酸化ケイ素の少なくとも一方を含む第1被膜との密着性を確保できる。
【0010】
上記包装体用積層体について、前記ガスバリア層は、Si(OR、または、RSi(OR(OR及びORは加水分解性基であり、Rは有機官能基である)で表されるケイ素化合物、または、ケイ素化合物の加水分解物を1種類以上と、水酸基を有する水溶性高分子と、を含む被膜を備えていてもよい。
【0011】
上記構成によれば、ガスバリア層の水蒸気透過性及び酸素透過性等を低くすることによって、積層体のガスバリア性をさらに向上することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、樹脂フィルムを含む積層体を備える包装体の気密性を包括的に向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】一実施形態の樹脂フィルムの断面構造を示す図。
図2】一実施形態の積層体の断面構造を示す図。
図3】一実施形態の包装体の斜視構造を示す図。
図4】一実施例のH-NMRスペクトル。
図5図4H-NMRスペクトルの一部を拡大した図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図面を参照して、包装体用積層体、包装体、及び包装体用樹脂フィルムの一実施形態を説明する。
[樹脂フィルム]
図1を参照して、包装体用樹脂フィルムである樹脂フィルム10の構成を説明する。ポリエステルからなる樹脂フィルム10は、ポリエチレンテレフタレート(PET)を含む。PET樹脂は、石油などの原料から新規に合成されたバージンPET、及び、再生されたPET樹脂であるリサイクルPETの少なくとも一方である。リサイクルの対象であるPET製品は、使用済みペットボトルを含む。樹脂フィルム10を構成するリサイクルPETは、メカニカルリサイクルにより再生されたPET、及び、ケミカルリサイクルにより再生されたPETの少なくとも一方である。
【0015】
メカニカルリサイクルは、PET製品を粉砕して樹脂片とする工程、樹脂片を洗浄することによって表面の汚れや異物を取り除く工程、高温下に樹脂片を曝して樹脂内部に留まっている汚染物質を除去する工程を含む。ケミカルリサイクルは、PET製品を粉砕して樹脂片とする工程、樹脂片を洗浄し表面の汚れや異物を取り除く工程、解重合により樹脂を中間原料まで戻す工程、中間原料を精製して再重合する工程を含む。メカニカルリサイクルは、ケミカルリサイクルと比較して、化学反応のための大掛かりな設備を要しないため、リサイクルPETの製造に要するコストを軽減することができる。また、二酸化炭素の排出量を削減できるため、環境への負荷が小さい。コスト及び環境負荷を低くする場合、樹脂フィルム10の原料となるリサイクルPETは、メカニカルリサイクルにより再生されたPETであることが好ましい。
【0016】
樹脂フィルム10が、リサイクルPETに加えてバージンPETを含んでいる場合、コスト及び環境負荷を低くする観点では、リサイクルPETの割合は、樹脂フィルム10の60重量%以上100重量%以下であることが好ましい。
【0017】
また、樹脂フィルム10を構成するポリエステルは、繰り返し単位であるジカルボン酸成分として、テレフタル酸成分、イソフタル酸成分、及びナフタレンジカルボン酸成分を含む。ナフタレンジカルボン酸成分は、ナフタレン骨格を有する多価カルボン酸成分であって、例えば2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸等が挙げられる。なお、1,3-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸を含んでいてもよい。
【0018】
イソフタル酸成分及びナフタレンジカルボン酸成分は、リサイクルペット由来でもよく、バージンPET由来であってもよい。又は、製造工程のいずれかの工程で添加されてもよい。さらには、アジピン酸等のジカルボン酸成分、プロピレングリコール、1,4ブタンジオール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール等のグリコール成分を含ませることもできる。一般的に、PET樹脂は、ジカルボン酸であるテレフタル酸とジオールであるエチレングリコールとを重合させて作製されるが、樹脂フィルム10に用いられるPET樹脂は、テレフタル酸にイソフタル酸及びナフタレンジカルボン酸を共重合させて作った樹脂、又は、テレフタル酸とイソフタル酸を共重合させて作った樹脂にポリエチレンナフタレート樹脂を混合した樹脂からなるもの等である。つまり、イソフタル酸成分、及びナフタレンジカルボン酸成分は、ポリエチレンテレフタレートとの共重合成分として含まれていてもよく、ポリエチレンテレフタレートとは別のポリエステルとして含まれていてもよい。
【0019】
樹脂フィルム10が含むPET樹脂の平均分子量は、特に限定されないが、例えば、1,000~100万程度であることが好ましい。なお、樹脂フィルム10は、PET以外の樹脂や、可塑剤等の各種の添加剤を含んでいてもよい。
【0020】
樹脂フィルム10は、単一の層、あるいは、複数の層から構成される。なお、樹脂フィルム10が複数の層から構成される場合、各層を構成する材料は、同一、又は、互いに異なる。各層を構成する材料が互いに異なる構成の一例は、リサイクルPETから形成された層と、バージンPETから形成された層との積層体である。各層を構成する材料が互いに異なる構成の他の例は、バージンPETに対し第1の割合でリサイクルPETを含む層と、バージンPETに対し第1の割合とは異なる第2の割合でリサイクルPETを含む層との積層体である。
【0021】
樹脂フィルム10の厚さは、熱や水分などの各種の環境耐性、内容物の保存性、内容物の充填性、シール加工性、マーキングを含む印刷耐性など、包装体に求められる各種の特性に応じて選択される。樹脂フィルム10の加工性を高める観点では、例えば、樹脂フィルム10の厚さは、3μm以上100μm以下の範囲から選択されることが好ましく、6μm以上50μm以下の範囲から選択されることがさらに好ましい。
【0022】
樹脂フィルム10を形成する方法は、溶融押出成形法、あるいは、溶融共押出成形法である。樹脂フィルム10における流れ方向は、樹脂フィルム10の製造時においてPET樹脂の成形が進む方向である。流れ方向は、MD(Machine Direction)方向、又は、縦方向とも称される。流れ方向と直交する方向は、TD(Transverse Direction)方向、又は、横方向とも称される。樹脂フィルム10が複数の層から構成される場合、各層の流れ方向は、同一である。
【0023】
樹脂フィルム10は、無延伸フィルム、MD方向又はTD方向に所定倍率で延伸された一軸延伸フィルム、MD方向とTD方向とに逐次または同時に所定倍率で延伸される二軸延伸フィルムである。なお、樹脂フィルム10が複数の層から構成される場合、各層の延伸方向は、同一である。
【0024】
[積層体]
図2を参照して、包装体用積層体である積層体20を説明する。積層体20は、樹脂フィルム10と、ガスバリア層11とを備えている。ガスバリア層11は、積層体20におけるガスバリア性を高める機能を有する。なお、樹脂フィルム10の厚さ及びガスバリア層11の厚さの比は図2に示される比に限定されない。
【0025】
ガスバリア層11は、例えば化学気相成長又は物理気相成長により形成された気相堆積膜を含む。気相堆積膜は、無機酸化物膜または金属膜である。無機酸化物が含む無機物は、例えば、ケイ素、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、カリウム、スズ、ナトリウム、ホウ素、チタン、鉛、ジルコニウム、イットリウムなどの酸化物であってよい。金属は、例えば、アルミニウム、マグネシウム、スズ、ナトリウム、チタン、鉛、ジルコニウム、イットリウム、金、クロムなどであってよい。
【0026】
気相堆積膜の形成方法は、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、及び、プラズマ気相成長法(CVD)などであってよい。積層体の生産性を高める観点では、気相堆積膜の形成方法は真空蒸着法であることが好ましい。真空蒸着法において蒸着材料を加熱する方式には、電子線加熱方式、抵抗加熱方式、及び、誘導加熱方式のいずれかを用いることが好ましい。蒸着材料の選択性における自由度を高める観点では、電子線加熱方式を用いることが好ましい。気相堆積膜と樹脂フィルム10との密着性を高める観点、及び、気相堆積膜の緻密性を高める観点では、真空蒸着法において、プラズマアシスト法及びイオンビームアシスト法を用いることが可能である。蒸着層の透明性を高める観点では、反応性蒸着法を用いてガスバリア層11を形成してもよい。反応性蒸着法では、例えば酸素ガスなどの反応ガスを成膜空間に供給する。
【0027】
透明な包装体を形成するための積層体20は、無機酸化物から形成された気相堆積膜を備える。特に、酸化アルミニウム及び酸化ケイ素によって形成された気相堆積膜が好適である。遮光性を有した包装体を形成するための積層体20は、金属から形成された気相堆積膜を備える。特に、アルミニウムから形成された気相堆積膜が好適である。
【0028】
なお、ガスバリア層11は、複数のバリア層から形成されてもよい。この場合には、各バリア層は同一の材料から形成されてもよいし、複数のバリア層は、第1の材料から形成されたバリア層と、第1の材料とは異なる第2材料から形成されたバリア層とを含んでいてもよい。
【0029】
ガスバリア層11の厚さは特に限定されないが、気相堆積膜である場合には例えば5nm以上300nm以下である。ガスバリア層11の厚さが5nm以上であることによって、ガスバリア層11の均一性を高めること、及び、ガスバリア層11が十分な厚さを有することが可能である。そのため、ガスバリア層11は、ガスバリア機能を十分に発揮することができる。一方、厚さが300nm以下であることによって、ガスバリア層11が可撓性を保持することができる。これにより、成膜後の折り曲げ、及び、引っ張りなどの外的要因に起因したガスバリア層11の亀裂が抑えられる。なお、ガスバリア層11の厚さは、ガスバリア層11を形成する無機化合物の種類、及び、積層体20が有する構成に応じて適宜選択される。なお、ガスバリア層11の厚さにおける均一性を高める観点では、ガスバリア層11の厚さは10nm以上150nm以下の範囲に含まれることがより好ましい。
【0030】
ガスバリア層11は、上述した気相堆積膜に加えて、あるいは、上述した気相堆積膜に代えて、ガスバリア性を有する塗布膜を含んでいてもよい。塗布膜は、樹脂を含む材料によって形成される。塗布膜は、気相堆積膜を保護し、これによってガスバリア層のガスバリア性を高めることが可能である。
【0031】
塗布膜は、例えば、水溶性高分子と無機化合物とから形成される。水溶性高分子は、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デンプン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウムなどであってよい。ガスバリア層11のガスバリア性を高める観点では、水溶性高分子がポリビニルアルコール(PVA)であることが好ましい。
【0032】
塗布膜が含む無機化合物は、例えば、Si(ORまたは、RSi(ORによって表されるケイ素化合物、あるいは、当該ケイ素化合物の加水分解物であってよい。なお、ケイ素化合物を表す化学式において、OR及びORは加水分解性基であり、Rは有機官能基である。無機化合物は、1種以上のケイ素化合物、または、当該ケイ素化合物の加水分解物を含んでよい。
【0033】
Si(ORは、例えばテトラエトキシシラン(Si(OC)(TEOS)であってよい。TEOSは、加水分解後において、水系の溶媒中にて比較的安定である点で好ましい。また、RSi(ORが含むRは、ビニル基、エポキシ基、メタクリロキシ基、ウレイド基、及び、イソシアネート基から構成される群から選択されることが好ましい。
【0034】
塗布膜は、溶媒、水溶性高分子、及び、ケイ素化合物またはケイ素化合物の加水分解物の混合溶液を蒸着層上に塗布した後に、加熱及び乾燥を経ることによって形成される。溶媒は、水、または、水とアルコールとの混合溶媒であってよい。混合溶液を形成する際には、まず、水溶性高分子を溶媒に溶解させ、その後、ケイ素化合物またはケイ素化合物の加水分解物を混合する。なお、混合溶液は、混合溶液を用いて形成された塗布膜がガスバリア性を損なわない範囲において、添加剤を含んでよい。添加剤は、例えば、イソシアネート化合物、シランカップリング剤、分散剤、安定化剤、粘度調整剤、及び、着色剤などであってよい。
【0035】
水溶性高分子がPVAである場合には、混合溶液の全固形分における質量に対するPVAの質量の比は、20質量%以上50質量%以下であることが好ましく、25質量%以上40質量%以下であることがより好ましい。PVAが20質量%以上含まれることによって、塗布膜の柔軟性が維持される。そのため、塗布膜の形成が容易である。また、PVAが50質量%以下含まれることによって、ガスバリア層11が十分なバリア性を有することが可能である。
【0036】
塗布膜の厚さは、例えば、0.05μm以上30μm以下である。ガスバリア層11が、気相堆積膜と塗布膜とを備える場合には、積層体20において、気相堆積膜が樹脂フィルム10上に位置し、塗布膜が気相堆積膜上に位置してもよい。これにより、塗布膜が、気相堆積膜に接している。又は、塗布膜が樹脂フィルム10上に位置してもよい。
【0037】
樹脂フィルム10とガスバリア層11との密着を強化する観点では、樹脂フィルム10の表面であって、ガスバリア層11が形成される面に、プラズマ処理及びコロナ処理などの表面処理が行われてもよい。ガスバリア層11が無機酸化物から形成される場合には、樹脂フィルム10とガスバリア層11との間に、アンカーコート層が位置してもよい。表面処理及びアンカーコート層によれば、加熱殺菌後における樹脂フィルム10と蒸着層との間の密着性、及び、積層体20のバリア性などが高められる。
【0038】
なお、ガスバリア層11は、上述した気相堆積膜及び塗布膜に加えて、あるいは、上述した気相堆積膜及び塗布膜の少なくとも一方に代えて、金属箔、及び、金属窒化物から形成される層などを含んでいてもよい。ガスバリア層11が気相堆積膜及び塗布膜以外の層を1層以上備える場合には、気相堆積膜と塗布膜との間に他の層が位置してもよい。あるいは、気相堆積膜と樹脂フィルムとの間に、塗布膜以外の他の層が位置してもよい。
【0039】
積層体20は、樹脂フィルム10及びガスバリア層11に加えて、シール層、接着層、加飾層、及び、情報表示層などを備えてもよい。シール層は、熱可塑性樹脂を含んでいる。シール層は、積層体20を用いて包装体が形成される際に、ヒートシールにより融解される。これにより、2枚の積層体20において、一方の積層体20の端部が、他方の積層体20の端部に融着される。あるいは、1枚の積層体20において、当該積層体20の第1部分と第2部分とが融着される。接着層は、ガスバリア層11とガスバリア層11の上層との間の密着性、あるいは、ガスバリア層11とガスバリア層11の下層との間の密着性を高める。加飾層及び情報表示層は、印刷により形成された装飾及び情報などを表示する。
【0040】
積層体20の厚さは、積層体20を用いて形成される包装体に求められる各種の耐性、及び、積層体20に求められる加工性に応じて選択されればよい。積層体20の厚さは、例えば、30μm以上300μm以下であってよい。
【0041】
積層体20の形成には、上述した成膜法、各種の塗布法、ドライラミネート法、及び、押出ラミネート法などが用いられてよい。
[包装体]
図3を参照して、包装体を説明する。
【0042】
図3が示す包装体30は、積層体20から形成されている。包装体30は、当該包装体30の内部に包装対象を収容することが可能な空間を区画している。図3が示す例では、包装体30は袋状を有している。包装体30において、端部が全周にわたって接合されることによって、包装体30が密封されている。包装体30において、ガスバリア層11は、樹脂フィルム10に対して内側に位置する。包装体30の形状及び大きさは、特に限定されない。包装体30の形状及び大きさは、包装対象の形状及び大きさに応じて設計されていればよい。包装対象は、例えば、食品、医薬品、化粧品などであってよい。
【0043】
積層体20の端部を接合する方法は、特に限定されない。例えば、積層体20の端部は、上述したようにヒートシールを用いて接合されてもよいし、その他の方法によって接合されてもよい。なお、図3が示す例では、包装体30が、2枚の積層体20において、第積層体の端部と第2積層体の端部とが接合された封止部31を有している。
【0044】
なお、包装体30は図3が示す袋状に限られない。例えば、筒状、及び、一方の筒端が封止される一方で、他方の筒端が開放された袋状を有してもよい。又は、包装体30は、一部のみに積層体20を備えていてもよい。
【0045】
なお、積層体20を用いた包装体30が大量生産される場合には、ロールツーロール装置が用いられ、ロールツーロール装置によって積層体20が搬送されている間に、包装体30を形成するための処理が積層体20に施される。積層体20は、ロールツーロール装置によって樹脂フィルム10の流れ方向に沿って搬送される。この際に、積層体20は、樹脂フィルム10の流れ方向に沿って引っ張られた状態で、ロールツーロール装置によって搬送される。樹脂フィルム10には、積層体20の搬送を可能にする上で、また、積層体20を用いて形成された包装体30にしわなどが生じることを抑える上で、積層体20に弛み及び撓みなどが生じない程度の応力で流れ方向に沿って引っ張られる。
【0046】
[樹脂フィルムの物性]
図4及び図5を参照して、樹脂フィルム10が有する物性を説明する。
図4及び図5は、H-NMRで測定される樹脂フィルム10のスペクトルを示す。標準物質を1,4-ビス-トリメチルシリルベンゼン-d4とし、標準物質のシグナルの化学シフト値を0ppmとしたとき、7.11ppm~7.25ppmに、イソフタル酸骨格を有するイソフタル酸成分由来の3本のシグナル(ピーク)、7.40ppm~8.15ppmにテレフタル酸骨格を有するテレフタル酸成分由来のシグナル、8.34ppm~8.36ppmにナフタレンジカルボン酸骨格を有するナフタレンジカルボン酸成分由来のシグナルが現れる。
図5はスペクトルの拡大図である。本実施形態において7.11ppm~7.25ppmに現れるシグナルは、図5中「A」で示すシグナルであり、下記の一般式(1)で示すイソフタル酸骨格が有する芳香環に結合する水素のうち、矢印で示す位置「A」の水素に由来するシグナルである。
【化1】
本実施形態において7.40ppm~8.15ppmに現れるシグナルは、図5中「B」で示すシグナルであり、下記の一般式(2)で示すテレフタル酸骨格が有する芳香環に結合する4つの水素に由来するシグナルである。
【化2】
本実施形態において8.34ppm~8.36ppmに現れるシグナルは、図5中「C」で示すシグナルであり、下記の一般式(3)で示すナフタレンジカルボン酸骨格が有する芳香環が有する芳香環に結合する水素のうち、矢印で示す位置「C」の水素に由来する2つのピークである。
【化3】
【0047】
樹脂フィルム10は、樹脂フィルム10自体の柔軟性を高めるために、以下の条件1、及び、条件2を満たす。
・7.11ppm~7.25ppmにおけるイソフタル酸成分由来のシグナルの面積である積分値(I)と7.40ppm~8.15ppmにおけるテレフタル酸成分由来のシグナルの面積である積分値(I)の比率(I/I)が1×10-3以上6×10-3以下である(条件1)。
【0048】
H-NMRで測定される8.34ppm~8.36ppmにおけるナフタレンジカルボン酸成分由来のシグナルの面積である積分値(I)と7.40ppm~8.15ppmにおけるテレフタル酸成分由来のシグナルの面積である積分値(I)の比率(I/I)が1×10-4以上5×10-4以下である(条件2)。
【0049】
なお、シグナルの積分値は、化学シフトを0.01ずつ変化させたときの各化学シフトでのプロトンシグナルの相対強度を積分した値である。また、イソフタル酸成分に由来する7.11ppm~7.25ppmにおいては、積分値Iは3本のシグナルの積分値の合計である。
【0050】
条件1を満たすことにより、樹脂フィルム10におけるイソフタル酸成分の含有量が適切な範囲となる。その結果、樹脂フィルム10は、包装体30に用いられるフィルムに適した柔軟性を有する。これにより、包装体30に、摩擦、突き刺し、屈曲、又は衝撃等の外力が加わっても、樹脂フィルム10が外力に追従して変形することで荷重を吸収し、樹脂フィルム10に接するガスバリア層11にクラックが形成されにくくなる。積分値Iの比率(I/I)が1×10-3未満であると、イソフタル酸成分の含有量が十分でないため、樹脂フィルム10が高い柔軟性を得ることができず、耐屈曲性が低下する。樹脂フィルム10の柔軟性が低いと、ガスバリア層11にクラックが発生しやすくなり、クラックの数が多くなったり、クラックの幅及び長さが大きくなったりする。その結果、包装体30の内容物の品質を良好に保つことが困難となる。一方、積分値Iの比率(I/I)が6×10-3を超えると、樹脂フィルム10の融点や軟化温度が低下する等、耐熱性が低下し、樹脂フィルム10の上に均一で緻密な酸化アルミニウムや酸化ケイ素の気相堆積膜が形成されなくなる。よって、ガスバリア性の高い積層体20が得られにくくなる。
樹脂フィルム10のイソフタル酸成分の含有量を上記の条件1を満たすように調整するためには、樹脂フィルム10の製造時に、例えばPET全体に対するリサイクルPETの割合を調整すること、又はPETを重合する際にイソフタル酸成分を添加することが挙げられる。ペットボトルには加工性を向上させるためにイソフタル酸成分が含まれていることがあるため、リサイクルPETはバージンPETよりもイソフタル酸成分が多く含まれる傾向にある。このため、樹脂フィルム10のイソフタル酸成分の含有量を増加させる場合にはリサイクルPETの割合を増やすことが考えられる。
【0051】
条件2を満たすことにより、ナフタレンジカルボン酸成分の含有量が適切な範囲となり、樹脂フィルム10の表面における面配向係数が高くなる。面配向係数は、フィルムの配向や結晶性の目安となるものであり、以下の式(1)で表すことができる。なお、屈折率が最大となる方向における屈折率をn1、屈折率が最大となる方向と直交する方向の屈折率をn2、フィルムの厚さ方向の屈折率をn3とする。
【0052】
面配向係数Fn=(n1+n2)/2-n3 …(1)
樹脂フィルム10の面配向係数を高くすることにより、樹脂フィルム10そのものが高いガスバリア性を維持できるとともにガスバリア層11との密着性が良好となる。積分値Iの比率(I/I)が1×10-4未満であると、樹脂フィルム10のガスバリア性が低下するとともに、包装体30として用いられ、屈曲等の負荷が加わることによってガスバリア層11にクラックが形成されやすくなる。樹脂フィルム10とガスバリア層11との密着性が低くなると、ガスバリア層11に発生するクラックの数が多くなったり、幅及び長さが大きくなったりする。このようにクラックの数が多くなったり、幅や長さが大きくなった場合、包装体30の内容物の品質を良好に保つことが困難である。積分値Iの比率(I/I)が5×10-4を超えると、ガスバリア層11が樹脂フィルム10から剥離する程度まで、ガスバリア層11との密着性が低下する可能性がある。
樹脂フィルム10のナフタレンジカルボン酸成分の含有量を上記の条件2を満たすように調整するためには、樹脂フィルム10の製造時に、例えばPET全体に対するリサイクルPETの割合を調整すること、又はPETを重合する際にナフタレンジカルボン酸成分を添加することが挙げられる。リサイクルPETはバージンPETよりもナフタレンジカルボン酸成分が多く含まれる傾向にある。このため、樹脂フィルム10のナフタレンジカルボン酸成分の含有量を増加させる場合にはリサイクルPETの割合を増やすことが考えられる。そして、包装体30を作製する際には、予め樹脂フィルム10のイソフタル酸成分の含有比率及びナフタレンジカルボン酸成分の含有比率を測定し、それらの含有比率がそれぞれ条件1,2を満たす樹脂フィルムを選別することができる。
【0053】
7.11ppm~7.25ppmにおける積分値(I)の比率(I/I)と、8.34ppm~8.36ppmにおける積分値(I)の比率(I/I)とを上記範囲とした樹脂フィルム10を用いて包装体30を作製することによって、包装体30の耐屈曲性を高めるとともに、樹脂フィルム10とガスバリア層11との密着性を良好に維持することができる。
また、積分値(I)と前記積分値(I)との比率(I/I)が、2×10-3以上4×10-3以下であり、積分値(I)と前記積分値(I)との比率(I/I)が、2×10-4以上3×10-4以下であると、さらにガスバリア層11を積層した樹脂フィルム10の気密性を包括的に高めることができる。
【0054】
以上説明したように、包装体用樹脂フィルム、包装体用積層体、及び、包装体の一実施形態によれば、以下に記載の効果を得ることができる。
(1)イソフタル酸成分に由来する7.11ppm~7.25ppmにおけるシグナルの積分値とテレフタル酸に由来する7.40ppm~8.15ppmにおけるシグナルの積分値の比率(I/I)が1×10-3以上6×10-3以下であるため、樹脂フィルム10の柔軟性が高められる。樹脂フィルム10の柔軟性を高めることで、樹脂フィルム10が外力に追従して変形しやすくなり、包装体用の積層体20及び包装体30の耐屈曲性が高められる。また、ナフタレンジカルボン酸成分に由来する8.34ppm~8.36ppmにおけるシグナルの積分値の比率(I/I)が1×10-4以上5×10-4以下であるため、樹脂フィルム10の面配向係数を大きくしつつ、樹脂フィルム10とガスバリア層11との剥離を抑制することができる。面配向係数を大きくすることにより、樹脂フィルム10自体のガスバリア性が高められる。よって、ガスバリア層11を積層した樹脂フィルム10の気密性を包括的に高めることができる。
【0055】
(2)ガスバリア層11は、酸化アルミニウム、及び酸化ケイ素の少なくとも一方を含む構成によれば、樹脂フィルム10に透明性を有する被膜を形成することができる。また、ガスバリア層11の水蒸気透過性及び酸素透過性等を低くすることによって、積層体のガスバリア性を向上させることができる。また、樹脂フィルム10のナフタレンジカルボン酸成分に由来するシグナルの積分値の比率(I/I)が5×10-4以下であるため、酸化アルミニウム、及び酸化ケイ素の少なくとも一方を含む第1被膜との密着性を確保できる。
【0056】
(3)ガスバリア層11が、Si(OR、または、RSi(ORで表されるケイ素化合物、又は、ケイ素化合物の加水分解物を1種類以上と、水酸基を有する水溶性高分子とを含む構成によれば、ガスバリア層11の水蒸気透過性及び酸素透過性等が低くなる。これにより、積層体20のガスバリア性をさらに向上することができる。
【0057】
[実施例]
樹脂フィルムを備えた積層体の実施例1~4及び比較例1を説明する。なお、これらの実施例は本発明を限定するものではない。
【0058】
[実施例1]
共押出しにより三層の樹脂層が積層された12μmの厚さを有した樹脂フィルムを準備した。樹脂層を構成するPETは、メカニカルリサイクルによって再生されたリサイクルPETとバージンPETとが混合されたPETを用いた。リサイクルPETの質量の割合は、樹脂フィルムの80重量%であり、バージンPETの質量の割合は樹脂フィルムの20重量%であった。この樹脂層の一部を切断し、溶媒であるトリフルオロ酢酸に切断した樹脂片を溶解させて、NMR測定用のサンプルを作製した。
【0059】
このサンプルを、H-NMR(AVANCE NEO400、ブルカージャパン)で測定し、NMRスペクトルを得た。測定条件は、積算回数を256scan,フリップ角を30°、取り込み時間を4.19sec、待ち時間を2.00secとした。7.80ppm付近に現れたシグナルの積分値(I)に対する7.20ppm付近に現れたシグナルの積分値(I)の比率(I/I)は4×10-3であった。また、積分値(I)に対する8.35ppmにおける積分値(I)との比率(I/I)は2×10-4であった。
【0060】
この樹脂フィルムに、電子線加熱方式による真空蒸着装置を使用し、そこに酸素ガスを導入しながら金属アルミニウムの薄膜を蒸発させ、厚さ15nmの酸化アルミニウムからなる気相堆積膜を成膜した。
【0061】
さらに、テトラエトキシシラン17.9g、及びメタノール10gに、塩酸(0.1N)72.1gを加え、30分間撹拌し、加水分解させた加水分解溶液を、第1液とした。また、ポリビニルアルコール5質量%と、水/メタノール=95/5(質量比)95質量%とを混合した水溶液を、第2液とした。そして、第1液及び第2液を、固形分の重量比率で70:30の割合で混合した溶液を、気相堆積膜が形成された樹脂フィルムに、グラビアコートを用いて塗布し、乾燥させて積層体を得た。
【0062】
[実施例2]
樹脂フィルムのH-NMRスペクトルにおいて、7.80ppm付近に現れたシグナルの積分値(I)と7.20ppm付近に現れたシグナルの積分値(I)との比率(I/I)は4×10-3であった。また、積分値(I)と8.35ppmにおける積分値(I)との比率(I/I)は3×10-4であった。これ以外は、実施例1と同様にして樹脂フィルム及び樹脂フィルムを備えた積層体を作製した。
【0063】
[実施例3]
樹脂フィルムのH-NMRスペクトルにおいて、7.80ppm付近に現れたシグナルの積分値(I)と7.20ppm付近に現れたシグナルの積分値(I)との比率(I/I)は3×10-3であった。また、積分値(I)と8.35ppmにおける積分値(I)との比率(I/I)は3×10-4であった。これ以外は、実施例1と同様にして樹脂フィルム及び樹脂フィルムを備えた積層体を作製した。
【0064】
[実施例4]
樹脂フィルムのH-NMRスペクトルにおいて、7.80ppm付近に現れたシグナルの積分値(I)と7.20ppm付近に現れたシグナルの積分値(I)との比率(I/I)は2×10-3であった。また、積分値(I)と8.35ppmにおける積分値(I)との比率(I/I)は2×10-4であった。これ以外は、実施例1と同様にして樹脂フィルム及び樹脂フィルムを備えた積層体を作製した。
【0065】
[比較例1]
イソフタル酸成分、ナフタレンジカルボン酸成分を含有していないPET(PET P60、東レ株式会社製)を用いた以外は、実施例1と同様に樹脂フィルムを形成した。つまり、7.11ppm~7.25ppmにおけるシグナル、及び8.34~8.36ppmにおけるシグナルは検出されなかった。これ以外は、実施例1と同様にして樹脂フィルム及び樹脂フィルムを備えた積層体を作製した。
【0066】
[評価方法]
[面配向係数]
面配向係数ΔPは位相差測定装置(王子計測機器社製、KOBRA-WR)を用い、位相差測定法により測定した。具体的には、樹脂フィルムのTD方向における中央部と、TD方向における端部とにおいて40mm×40mmの領域を設定した。そしてこの領域に対し、0°~50°(10°ピッチ)の入射角で位相差を測定した。
【0067】
[ガスバリア性]
実施例1~4の積層体、及び、比較例1の積層体の各々から2つの試験片を作製し、ゲルボフレックス試験後におけるガスバリア性を評価した。
【0068】
(ゲルボフレックス試験)
フレキシリビリティ評価装置(テスター産業(株)製、ゲルボフレックステスター)を用いて各試験片のゲルボフレックス試験を行った。この際に、フレキシリビリティ評価装置の固定ヘッドに対して、円筒状を呈するように各試験片を取り付けた。詳しくは、各試験片の両端を固定ヘッドによって保持して、初期把持間隔を175mmに設定した。そして、ストロークを87.5mmに設定し、ひねりを440°に設定して、各試験片をひねることとひねりを解除することとの往復運動を40回/分の速度で100回行った。
【0069】
(酸素透過度)
実施例1~4及び比較例1の積層体について、酸素透過度測定装置(商品名:OX-TRAN-2/20、MOCON社製)を用いて、酸素透過度を測定した。測定条件を、温度30℃、相対湿度70%RHとした。この際に、JIS K 7126‐2:2006、及び、ASTM D3985‐81に準拠する方法を用いた。酸素透過度の測定値における単位を[cc/m・day・atm]に設定した。
【0070】
(水蒸気透過度)
実施例1~4及び比較例1の積層体について、水蒸気透過度測定装置(商品名:PERMATRAN-W-3/31、MOCON社製)を用いて、水蒸気透過度(g/(m・day))を測定した。測定条件を、温度40℃、相対湿度90%RHとした。測定方法は、JIS K 7129‐2:2019、及び、ASTM F1249‐90に準拠する方法を用いた。
【0071】
[評価結果]
実施例1~4の積層体、及び比較例1の積層体における面配向係数、酸素透過度及び水蒸気透過度は、以下の表1に示す通りであった。
【0072】
【表1】
表1が示すように、実施例1~4の面配向係数は、比較例1の面配向係数に比べ、樹脂フィルムの中央行及び端行の両方で大きくなった。ゲルボフレックス試験後における実施例1~4の樹脂フィルムの酸素透過度は、比較例1の樹脂層の酸化透過度に比べ小さくなった。同様に、ゲルボフレックス試験後における実施例1~4の樹脂フィルムの水蒸気透過度は、比較例1の樹脂層の水蒸気透過度に比べ小さくなった。すなわち、実施例1~4の樹脂フィルムは、比較例1の樹脂フィルムに比べ、外力が加わった後も高い気密性を維持していることが示唆された。よって、包装体用の樹脂フィルムとして、上記実施形態に記載された条件1及び条件2を満たす樹脂フィルムを採用することによって耐屈曲性に優れ、ガスバリア層との密着性に優れた包装体を作製することができる。
【符号の説明】
【0073】
10…樹脂フィルム
11…ガスバリア層
20…積層体
30…包装体
図1
図2
図3
図4
図5